日本人英語学習者による英語文学作品読 解プロセスの特徴に関す...
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研究の動機
英語文学作品読解時の言語形式への注意の高まりへの関心
外国語で英語文学作品を読解すると言語形式への注意が高まるのか
辞書使用回数を指標として、このことが調査できるのではないか
英語文学作品読解時の辞書使用への関心
英語文学作品読解と英語説明文読解では読解方法が違うので、その読解の中に埋め込まれた辞書使用にも何らかの違いがあるのではないか
読むテクストのジャンルに応じて、辞書使用を変える必要はないのだろうか
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研究の目的
英語文学作品(英語詩)読解と英語説明文(TOEIC の問題文)読解で辞書使用回数に違いがあるか
→英語文学作品読解時の言語形式への注意の高まりへの関心からの問い
違いがあるとすればそれは学習者の未知語と既知語どちらの辞書使用に関係しているか
→英語文学作品読解時の辞書使用への関心からの問い
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研究の背景(1)
母国語での文学作品読解における言語形式への注意の高まりについての研究
ロシア・フォルマリズム:文学作品の言語は、読者に驚きを与え、自動化した言語処理を一時中断、省察させることで、概念にリアリティを取り戻させる(異化作用)(Shklovsky, 1917/1965; ヤーコブソン, 1921/1988)
プラーグ学派:文学の言語は読者の注意を言語形式そのものに引き付ける(言語の詩的機能)(Jakobson, 1960; Mukarovsky, 1932/1964, 1938/1977; ムカジョフスキー, 1936/1982)
文学の経験的研究:母国語で文学作品を読解する際に、実際に読者は言語形式にかなり注意を払っている(Hanauer, 1998; Miall, 2006; van Peer, 1986; Zwaan, 1993)
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研究の背景(2)
外国語での文学作品読解における言語形式への注意の高まりについての研究
・Hanauer (2001):上級外国語学習者が英語詩読解時に言語形式への気づきを多く生起させていることを報告
・西原(2006):日本人英語学習者は、英語説明文読解時よりも英語詩読解時の方が言語形式への気づきを多く生起させていることを報告
・西原(2011):日本人英語学習者は、英語詩読解時に脚韻や同一文の反復などに注意を払いながら読解を試みることを報告
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研究の背景(3)
外国語での文学作品読解中の辞書使用の研究
・Nishihara(2012):トピックが共通し、語彙レベルとテクストの長さも統計的に有意差がない英語詩と説明文を上級英語学習者が読解した際の辞書使用を調査
→辞書使用回数は両方のテクストで違いはなかったが、英語詩読解時には英語説明文読解時よりも既知語に対する辞書使用が多くなり、英語説明文読解時には未知語に対する辞書使用が多くなった
本研究は、Nishihara(2012)とは別のテクストと別の
調査方法を用いた再調査である
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調査方法(1):調査参加者
国際文化学を学ぶ日本人英語学習者42 名
英語力にはかなりのばらつきがある
→調査実施前4ヵ月半の間にTOEIC を受験した30 名に関して言えば、リーディングで85 点から330 点までの学習者が含まれており、そのセクションの平均点は221 点標準偏差は55.65 であった
英語詩読解について指導を受けている者はいない
英語詩はこれまでほとんど読んだことがない
英語説明文(TOEIC形式の英文)は読み慣れている
日本語学、日本文学、英語学、英語文学、中国語学、中国文学、韓国語学、韓国文学、社会学、に関心をもつ学生が混在
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調査方法(2):調査材料
英語詩
Robert Frost 作“Dust of snow”(「詩①」)
Christina Rossetti作“Who has seen the wind?”(「詩②」)
英語説明文(出版社の許可を得た上で使用)
西谷・吉塚・フィリップス(2008)所収のホテルの宣伝文(「説明文①」)
山下・宮川・フィリップス・オラー・ウェイド・マッキー(2007)所収のクーポン券の説明文(「説明文②」)
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調査方法(2):調査材料
テクスト間で語彙の難しさに統計的な違いがないかどうかを確認
→4 つのテクストをJACET 8000 の語彙使用頻度レベルに照らし合わせ、使用されている語彙のレベルに統計的な違いがないかどうかを確認(固有名詞は除いた上で、1語あたりの平均レベルを比較)
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調査方法(2):調査材料
各テクストの記述統計
データの正規性の検定(シャピロ=ウィルクの検定)
語数(固有除く) 平均 標準偏差
詩① 26 1.78 1.95
詩② 22 1.23 0.53
説明文① 29 2.38 2.37
説明文② 44 2.00 1.88
W 自由度 p詩① .46 26 .00詩② .50 22 .00説明文① .65 29 .00説明文② .61 44 .00
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調査方法(2):調査材料
テクスト間の語彙レベルの統計的違い(クラスカル=ウォリスの検定)
χ2(3) = 4.26, p = .24
効果量(r)
→以上の結果から、4つのテクストの語彙レベルに統計的に有意な差はないと判断
詩① 詩② 説明文① 説明文②
詩① 0.08(小) 0.17(小) 0.11(小)
詩② 0.25(小) 0.19(小)
説明文① 0.06(小)
説明文②
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調査方法(3):手順
実施方法
調査参加者42 名に対して一斉に実施
辞書使用は自由
各参加者に調査用冊子を配布し、終わった者から提出して終了(制限時間なし)
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調査方法(3):手順
冊子の構成(配布資料参照)
1 ページ目:4 つのテクストに出てくる語彙の一覧表(配列はアルファベット順)
→各語彙の横にチェックボックスを設けておき、知っている語は無記入、知らない語にはチェックを入れるように指示
2 ~5 ページ目:4 つの各テクスト
→どのテクストを何番目に読むかは各調査参加者で異る(合計で24 通りの順序)
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調査方法(3):手順
各テクストのページ
テクスト本文
2 つの内容理解の設問(多肢選択式で1問1点の2点満点)
→英語説明文は基本的に付属の設問を和訳したものとし(必要に応じて選択肢の加筆修正を行った)、英語詩の設問は本発表者が作成。英語説明文の設問に合わせて、英語詩の設問はテクストの表層的な情報を問うものとした。
辞書使用を調査するための指示文
→内容理解の設問を解く過程で辞書で調べた語を丸で囲むように指示
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結果(1):未知語数
※回答に1部不備があった2 名を除いた40名で分析
学習者の実際の未知語数(冊子1ページのデータから)
各テクストの未知語数
データの正規性の検定(シャピロ=ウィルクの検定)
平均 標準偏差 最小値 最大値
詩① 3.13 0.97 0 5
詩② 2.50 1.43 0 6
説明文① 2.23 1.31 0 5
説明文② 4.70 2.57 1 11
W 自由度 p
詩① .88 40 .00
詩② .94 40 .04
説明文① .93 40 .01
説明文② .93 40 .0115
結果(1):未知語数
学習者の実際の未知語数(冊子1ページのデータから)
テクスト間の未知語数の統計的違い(フリードマン検定)
χ2(3) = 42.93, p = .00
下位検定(ウィルコクスンの符号付き順位和検定をペアごとに実施し、ボンフェローニの方法で有意水準をα=.0083に調整)
詩① 詩② 説明文① 説明文②
z p z p z p z p
詩① 2.59 .01 3.76 .00 3.83 .00
詩② 1.25 .21 4.84 .00
説明文① 4.91 .00
説明文②
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結果(1):未知語数
学習者の実際の未知語数(冊子1ページのデータから)
効果量(r)
テクスト間の未知語数の関係
説明文②>詩①≧詩②≧説明文①
(中)(小)(小)
詩① 詩② 説明文① 説明文②詩① 0.29(小) 0.42(中) 0.43(中)詩② 0.14(小) 0.54(大)説明文① 0.55(大)説明文②
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結果(2):内容理解
※回答に1部不備があった2 名を除いた40名で分析
内容理解の得点(冊子2~5ページのデータから)
各テクストの内容理解の得点
データの正規性の検定(シャピロ=ウィルクの検定)
平均 標準偏差 最小値 最大値詩① 1.30 .65 0 2詩② 1.48 .55 0 2説明文① 1.93 .27 1 2説明文② 1.89 .33 1 2
W 自由度 p詩① .77 40 .00詩② .70 40 .00説明文① .29 40 .00説明文② .39 40 .00
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結果(2):内容理解
内容理解の得点(冊子2~5ページのデータから)
テクスト間の内容理解用設問の得点の統計的違い(フリードマン検定)
χ2(3) = 38.18, p = .00
下位検定(ウィルコクスンの符号付き順位和検定をペアごとに実施し、ボンフェローニの方法で有意水準をα=.0083に調整)
詩① 詩② 説明文① 説明文②z p z p z p z p
詩① 1.29 .20 4.29 .00 4.10 .00詩② 3.84 .00 3.27 .00説明文① 0.71 .48説明文②
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結果(2):内容理解
内容理解の得点(冊子2~5ページのデータから)
効果量(r)
内容理解の得点(難→易)
詩①≦詩②<説明文②≦説明文①
(小)(中) (小)
詩① 詩② 説明文① 説明文②詩① 0.14(小) 0.48(中) 0.46(中)詩② 0.43(中) 0.37(中)説明文① 0.08(小)説明文②
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結果(3):辞書使用回数総数
※回答に1部不備があった2 名を除いた40名で分析
学習者の辞書使用回数(冊子2~5ページのデータから)
各テクストでの辞書使用回数
データの正規性の検定(シャピロ=ウィルクの検定)
平均 標準偏差 最小値 最大値詩① 2.28 1.04 0 4
詩② 1.33 0.86 0 3説明文① 1.02 1.12 0 4説明文② 1.23 1.29 0 4
W 自由度 p
詩① .91 40 .00
詩② .87 40 .00
説明文① .83 40 .00
説明文② .82 40 .00 21
結果(3):辞書使用回数総数
学習者の辞書使用回数(冊子2~5ページのデータから)
テクスト間の辞書使用回数の統計的違い(フリードマン検定)
χ2(3) = 28.14, p = .00
下位検定(ウィルコクスンの符号付き順位和検定をペアごとに実施し、ボンフェローニの方法で有意水準をα=.0083に調整)
詩① 詩② 説明文① 説明文②
z p z p z p z p詩① 3.86 .00 4.54 .00 3.42 .001
詩② 1.30 .20 0.59 .56
説明文① 0.80 .43
説明文②
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結果(3):辞書使用回数総数
学習者の辞書使用回数(冊子2~5ページのデータから)
効果量(r)
テクスト間の辞書使用回数の関係
詩①>詩②≧説明文②≧説明文①
(中)(小) (小)
詩① 詩② 説明文① 説明文②詩① 0.43(中) 0.51(大) 0.38(中)詩② 0.14(小) 0.07(小)説明文① 0.09(小)説明文②
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結果(4):未知語辞書使用率
学習者の未知語辞書使用率
調査参加者によって未知語数が異なるため、未知語の辞書使用率に違いがあるかどうかを分析
未知語の辞書使用率は、各調査参加者でテクストごとに算出
各テクストにおいて、冊子1ページ目で未知語と回答した語のうち、実際にそのテクストを読んだ際にいくつの未知語が辞書で調べられたか、その割合を計算
この過程で少なくとも1 つのテクストに対して全く未知語がない参加者が5 名は分析対象から外し、合計35 名のデータをもとに分析
未知語に対する辞書使用率の高さが、4つのテクストで統計学的に異なるかどうかを分析
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結果(4):未知語辞書使用率
※35名のデータで分析
学習者の未知語辞書使用率
各テクストでの未知語辞書使用率
データの正規性の検定(シャピロ=ウィルクの検定)
平均 標準偏差 最小値 最大値詩① 65.10 23.44 25 100詩② 46.19 36.51 0 100説明文① 27.52 34.71 0 100説明文② 24.47 27.67 0 100
W 自由度 p詩① .90 35 .00詩② .88 35 .00説明文① .77 35 .00説明文② .82 35 .00
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結果(4):未知語辞書使用率
学習者の未知語辞書使用率
テクスト間の未知語辞書使用率の統計的違い(フリードマン検定)
χ2(3) = 29.11, p = .00
下位検定(ウィルコクスンの符号付き順位和検定をペアごとに実施し、ボンフェローニの方法で有意水準をα=.0083に調整)
詩① 詩② 説明文① 説明文②z p z p z p z p
詩① 2.19 .03 4.23 .00 4.49 .00詩② 2.32 .02 2.54 .01説明文① 0.33 .75説明文②
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結果(4):未知語辞書使用率
学習者の未知語辞書使用率
効果量(r)
テクスト間の未知語辞書使用率の関係
詩①≧詩②≧説明文①≧説明文②
(小)(小) (小)
詩① 詩② 説明文① 説明文②詩① 0.26(小) 0.51(大) 0.54(大)詩② 0.28(小) 0.30(中)説明文① 0.04(小)説明文②
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結果(5):既知語辞書使用回数
※回答に1部不備があった2 名を除いた40名で分析
学習者の既知語辞書使用回数
各テクストでの既知語辞書使用回数
データの正規性の検定(シャピロ=ウィルクの検定)
平均 標準偏差 最小値 最大値詩① 0.28 0.51 0 2詩② 0.18 0.45 0 2説明文① 0.40 0.71 0 3説明文② 0.18 0.45 0 2
W 自由度 p詩① .57 40 .00詩② .44 40 .00説明文① .62 40 .00説明文② .44 40 .00
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結果(5):既知語辞書使用回数
学習者の既知語辞書使用回数
テクスト間の既知語辞書使用回数の統計的違い(フリードマン検定)
χ2(3) = 3.45, p = .33
効果量(r)
詩① 詩② 説明文① 説明文②詩① 0.10(小) 0.09(小) 0.11(小)詩② 0.17(小) 0.00(小)説明文① 0.19(小)説明文②
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結果のまとめ
英語文学作品(英語詩)読解と英語説明文(TOEIC の問題文)読解で辞書使用回数に違いがあるか
→英語詩読解時の方が英語説明文読解時よりも辞書使用が多くなる傾向がある
→英語詩読解時に学習者の言語形式への注意が高まったことを示唆しているとも言える
→両方のジャンルで辞書使用回数に違いはなかったという先行研究とは異なる結果
違いがあるとすればそれは学習者の未知語と既知語どちらの辞書使用に関係しているか
→特に未知語への使用が関係している可能性がある
→未知語と既知語両方が関係しているという結果を報告した先行研究とは異なる結果
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考察
辞書使用回数の違いを引き起こした要因は何か(原因を読解処理の違いと考えて本当によいか)
先行研究との結果の違いが生じたのはなぜか
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考察(1):辞書使用回数の違いをもたらしたのは、読解処理の様式の違いか?
テクスト内の未知語数が原因では?
内容理解の設問で問われている箇所に多くの調査参加者が未知語と回答した語が含まれていた結果では?
テクストの内容理解の難しさに起因するのでは?
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考察(1):辞書使用回数の違いを引き起こした要因は何か?
テクスト内の未知語数が原因では?
テクスト間の未知語数の関係
説明文②>詩①≧詩②≧説明文①
(中)(小)(小)
テクスト間の辞書使用回数の関係
詩①>詩②≧説明文②≧説明文①
(中)(小) (小)
→必ずしも未知語が多いテクストが辞書使用回数が多いわけではない。したがって、これが今回の調査結果の主要因であるとは考え難い。
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考察(1):辞書使用回数の違いを引き起こした要因は何か?
内容理解の設問で問われている箇所に多くの調査参加者が未知語と回答した語が含まれていた結果では?
→詩の設問が学習者の多くが未知語と答えていた語を知らないと解答できないものとなっていなかったかどうかを検討したが、この可能性は低いようであった
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考察(1):辞書使用回数の違いを引き起こした要因は何か?
テクストの内容理解の難しさに起因するのでは?
テクスト間の辞書使用回数の関係
詩①>詩②≧説明文②≧説明文①
(中)(小) (小)
テクスト間の未知語辞書使用率の関係
詩①≧詩②≧説明文①≧説明文②
(小)(小) (小)
内容理解の得点(難→易)
詩①≦詩②<説明文②≦説明文①
(小)(中) (小)
→確かに内容理解の成績と辞書使用の順序がかなり一致している
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考察(1):辞書使用回数の違いを引き起こした要因は何か?
テクストの内容理解の難しさに起因するのでは?
→内容理解のスコアがほぼ同じ英語詩と英語説明文で比較する必要がある
→ただし、「難しさ」の質が英語詩と英語説明文で異なっていることには注意する必要がある
→結局、内容理解のスコアは同じだとしても、まったく別のものを比較している可能性がある
→その違いを考慮せずに、「難しさ」と抽象化して議論することにどれほどの意味があるのか…
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考察(2):先行研究との結果の違いが生じたのはなぜか? 先行研究の結果
→辞書使用回数は両方のテクストで違いはなかったが、英語詩読解時には英語説明文読解時よりも既知語に対する辞書使用が多くなり、英語説明文読解時には未知語に対する辞書使用が多くなった。
今回の調査結果
→英語詩読解時の方が英語説明文読解時よりも辞書使用が多く、特に未知語への辞書使用が多くなった。既知語の辞書使用には違いがなかった。
今回の調査結果と先行研究の結果との相違点
→辞書使用回数全体に違いが見られたこと
→既知語の辞書使用に違いが見られなかったこと
→英語詩読解時の方が未知語の辞書使用回数が多かったこと
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考察(2):先行研究との結果の違いが生じたのはなぜか?
辞書使用回数全体に違いが生じたのはなぜか?
テクストの未知語
→先行研究では、説明文テクストは未知語数の平均が2.8であったのに対して、英語詩では0.7であった。結果として、Nishihara(2012)では、英語詩読解において未知語への辞書使用が不要となったため、全体としての辞書使用回数が少なくなったのではないか。
→つまり、もう少し未知語の数が英語詩で多ければ、 Nishihara(2012)でも今回の調査結果と同様に、英語詩の方が辞書使用回数の総数が増加していたのではないか。
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考察(2):先行研究との結果の違いが生じたのはなぜか?
既知語の辞書使用に違いが見られなかったのはなぜか?
テクストの内容と未知語数
→先行研究では、英語詩のテクストとしてW.S.Merwin(1967)の“The Hydra”という作品を使用した。このテクストは調査参加者にとっての既知語でほぼ構成されているが、かなり曖昧な書き方がされており、内容を理解するためには既知語に何かヒントがないか確かめざるを得ない状況であった。それに比べて今回の調査では、状況が把握しやすい作品であったため、調査参加者は未知語の意味さえ分かれば作品を理解できると判断したのかもしれない。
→つまり、今回の調査で使用した作品では、Merwinの作品に比べて既知語に理解のヒントを求める必要性が低かったのかもしれない。
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考察(2):先行研究との結果の違いが生じたのはなぜか?
既知語の辞書使用に違いが見られなかったのはなぜか?
読解後のタスクの違い
→先行研究では、英語詩のテクスト読解後に作者がその作品を通して何を伝えようとしたのか考えを書くように指示し、英語説明文のテクスト読解後には内容の要約を書くように調査参加者に指示していた。今回は、いずれのテクストにおいてもテクストの表層的な情報を問う多肢選択式の設問に答えるように指示した。
→このことが原因で、今回の調査では英語詩読解において、作品の状況さえ理解できればよいということになり(深い理解の必要性がなくなり)、既知語を辞書で調べる必要性が低くなったのかもしれない。
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考察(2):先行研究との結果の違いが生じたのはなぜか?
英語詩での未知語に対する辞書使用が多かったのはなぜか?
→Nishihara(2012)では、未知語がほとんどない状況であったが、今回はテクスト内にある程度未知語が含まれていた
→(今回の調査)英語詩では、作品世界の状況を理解するために、調査参加者にとっての未知語を辞書で調べる必要性が高まったのかもしれない。
→(今回の調査)英語説明文では、未知語数が多い一方で、その意味を知らなくても、スキーマなどによりその内容理解が可能であり、結果としてその辞書使用が抑えられたのかもしれない。
→(前回の調査)先行研究では、英語詩の未知語がなかったため、その結果として、英語説明文の辞書使用が多いように見えただけなのかもしれない。
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これまでの研究に基づく(大胆な)考え
未知語がある状況では、英語詩読解の方が英語説明文読解よりも辞書使用が多くなる傾向があるのではないだろうか
英語説明文読解ではテクストの表層的な意味を理解すれば事足りることが多いのに対して、英語詩では行間を読むことが多く求められ、結果として、英語詩では未知語と既知語両方を辞書で調べる必要性が高まると予想される
英語説明文読解では、テクストの内容に支障が出ない限りは、未知語または既知語が辞書で調べられることはあまりないのではないだろうか
読解後にテクストの表層的な情報を答えさせるようなことを行えば、英語詩であったとしても、テクストの行間を読む必要性がなくなり、結果として未知語と既知語を辞書で調べる必要性が低くなってしまうのではないだろうか
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英語文学読解の辞書使用調査は英語教育に何をもたらしうるか
ジャンルに応じた辞書指導?
文学作品読解中の未知語は辞書で調べるべきか、意味を推測させるのか
英語文学を使えば、より強いインパクトをもって既知語を辞書で調べる重要性を理解させることができる?
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残された課題
読解後に、英語詩と英語説明文両方において、テクストの表層的な情報を読み取るタスクを課したが、このことが学習者の読解プロセスを同一のもの、または英語詩読解が英語説明文読解の様式に接近してしまった可能性がある
英語詩読解と英語説明文読解では、求められる意味のレベルが異なっているため、同一のタスクで両者を比較するということは矛盾しているのかもしれない。英語文学読解と英語説明文読解は異なるプロセスであるという認識を高める必要性があり、それぞれの読解プロセスについて個別に研究していくことが必要かもしれない。
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参考文献
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山下光洋・宮川清・W.I.フィリップス・B.オラー・D.ウェイド・D.マッキー(編) (2007) 『徹底対策TOEIC Testリーディング』(改訂新版) 東京: 音羽書房鶴見書店.
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