幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。...

16
【原  著】 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割 山下 世史佳 虫明 眞砂子 Yoshika YAMASHITA,Masako MUSHIAKI A Role of Singing in Expressive Activities of Music during Early Childhood 2019 岡山大学教師教育開発センター紀要 第9号 別冊 Reprinted from Bulletin of Center for Teacher Education and Development, Okayama University, Vol.9, March 2019

Upload: others

Post on 24-May-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

【原  著】

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

山下 世史佳 虫明 眞砂子

Yoshika YAMASHITA,Masako MUSHIAKI

A Role of Singing in Expressive Activities of Music during Early Childhood

2019岡山大学教師教育開発センター紀要 第9号 別冊

Reprinted from Bulletin of Center for Teacher Educationand Development, Okayama University, Vol.9, March 2019

Page 2: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

原  著【研究論文】

岡山大学教師教育開発センター紀要,第9号(2019),pp.109−123

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

山下 世史佳※1  虫明 眞砂子※2

 幼児にとって「歌うこと」は日常と密着し,幼児の生活に彩りを加えるものである。では,具体

的に保育者は,歌を提供する際にどのようなことに注意して歌の選曲や歌の活動を支援するべきな

のであろうか。これらを検討するために,現在,幼児期に扱われる曲種の調査,幼児への歌の実践

指導,保育関係者へのインタビューを行った。その結果,幼児向けの歌は曲名が「あ」行で始まる

歌が多く,生活習慣を学ぶ歌,おとぎ話の歌,架空の生き物の歌等,多様に分類できることが解認

できた。また,幼児への歌唱指導では,きっかけの言葉に即時反応する幼児から影響を受けて,他

の幼児も反応する等の相互作用がみられた。インタビューからは「大きい声」「小さい声」の出し

方の声掛けや歌の活動の工夫が示され,幼児期の歌活動には,年齢に応じた歌の導入,幼児の特性

に応じた声掛け等,柔軟で細部まで配慮された指導や援助が必要とされることが明らかになった。

キーワード:幼児期,歌,歌の活動,保育,歌唱指導

※1 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科修了生

※2 岡山大学大学院教育学研究科

Ⅰ はじめに 幼児期は,生きていくうえで必要な基盤となる物事を吸収し学んでいく重要な時

期である。個人差はあるが,幼児は何事においても吸収が早く,歌もすぐに覚えて

口ずさむことができる。筆者は《チェッチェッコリ》という曲を3歳時に覚えたと

記憶しているが,歌詞の意味は知らずとも言葉の響きや旋律の面白さによって今で

も覚えている。幼児期には,生活の中でいつの間にか口ずさむ歌,生活習慣の中で

物事を切り替える時に歌う歌,メディアから聞こえてくる歌等のように歌が身近に

あり,幼稚園や保育園等の教育現場だけでなく生活全般の中から歌うことを体得で

きるのである。ここで,幼稚園教育要領の第2章表現の項目を抜粋して取り上げる(表

1)(1)。

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

山下 世史佳※1 虫明 眞砂子※2

幼児にとって「歌うこと」は日常と密着し,幼児の生活に彩りを加えるものである。では,

具体的に保育者は,歌を提供する際にどのようなことに注意して歌の選曲や歌の活動を支

援するべきなのだろうか。これらを検討するために,現在幼児期に扱われる曲種の調査,幼

児への歌の実践指導,保育関係者へのインタビューを行った。その結果,幼児向けの歌は曲

名が「あ」行で始まる歌が多く,生活習慣を学ぶ歌,おとぎ話の歌,架空の生き物の歌等,

多様に分類できることがわかった。また,幼児への歌唱指導では,きっかけの言葉に即時反

応する幼児から影響を受けて,他の幼児も反応する等の相互作用がみられた。インタビュ

ーからは「大きい声」「小さい声」の出し方の声掛けや歌の活動の工夫が示され,幼児期の

歌活動には,年齢に応じた歌の導入,幼児の特性に応じた声掛け等,柔軟で細部まで配慮さ

れた指導や援助が必要とされることが明らかになった。

キーワード:幼児期,歌,歌の活動,保育,歌唱指導

※1 兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科修了生

※2 岡山大学大学院教育学研究科

Ⅰ はじめに

幼児期は,生きていく上で必要な基盤となる物事を吸収し学んでいく重要な

時期である。個人差はあるが,幼児は何事においても吸収が早く,歌もすぐに

覚えて口ずさむことができる。筆者は『チェッチェッコリ』という曲を3歳児

に覚えたと記憶しているが,歌詞の意味は知らずとも言葉の響きや旋律の面白

さによって今でも覚えている。幼児期には,生活の中でいつの間にか口ずさむ

歌,生活習慣の中で物事を切り替える時に歌う歌,メディアから聞こえてくる

歌等のように歌が身近にあり,幼稚園や保育園等の教育現場だけでなく生活全

般の中から歌うことを体得できるのである。ここで,幼稚園教育要領の第2章

表現の項目を抜粋して取り上げる(表1)(1)。

表1.幼稚園教育要領第2章抜粋 1 ねらい (2)感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ。 (3)生活の中でイメージを豊かにし,様々な表現を楽しむ。 2 内容 (4)感じたこと,考えたことなどを音や動きなどで表現したり,自由にかいたり,つくったりなどする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。 3 内容の取扱い (2)幼児の自己表現は素朴な形で行われることが多いので,教師はそのような表現を受容し,幼児自身の表現しようとする意欲を受け止めて,幼児が生活の中で幼児らしい様々な表現を楽しむことができるようにすること。

*下線は筆者による

― 109 ―

Page 3: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

 上記のように,生活の中で幼児がイメージを豊かにし,幼児らしい表現を楽しむ

一表現活動として歌が挙げられている。「歌うことは,幼児にとって身近に楽しむ音

楽表現であり,毎日の生活には欠かせないもの」(2)である。幼児の音楽表現活動には,

「『歌う』『奏でる』『つくる』『聴く』の四つ」(3)の分野があり,幼児期の歌の種類には,「生

活のうた,季節のうた,子どものうた,手あそびうた,わらべうたなど」(4)がある。

このような歌の活動から,生活の中にある多様な経験がイメージとして幼児の記憶

に残り,表現することに対する楽しみが生まれるのではないかと思われる。

 前述した筆者の例のように,幼児期に覚えた歌を高齢者になっても鮮明に覚えて

いることがある。筆者は約8年間,高齢者施設等で音楽療法を行ってきた。軽度か

ら中等度の認知症高齢者は,短期記憶が失われつつあっても,幼児,児童期に覚え

た歌を口ずさめることがある(山下・市村・松本,2018)(5)。彼らは懐かしい歌を

歌うことで,当時の情景を思い浮かべている。童謡やわらべ歌は,幼児期に覚える

曲として歌いやすく,身の回りにある物の名前や生活習慣等を歌から知らず知らず

のうちに学び身に付けられる内容となっている。幼児期に関わる歌が,幼児の今後

の生活において一生耳に残り続ける可能性があることを鑑みると,その歌を提供す

る側の意識も変わってくる。

 さて,幼児期に扱う歌や歌の活動についての先行研究には,幼児の発声法に着目

したもの(ガハプカ,2008)(6)や,幼児の美しい歌声の指導実践例(長川, 2018)(7)がある。ガハプカは,「元気に歌いましょう」という指導者の声掛けによって怒

鳴り声で歌い始めた子ども達に対して,指導者の声掛けの表現を変えたり呼吸を意

識させたりしながら,より自然な表現や発声へと導いた過程を示している。長川は,

幼児への歌唱指導実践の中で,頭声発声の基本の導入として声を使用した遊びを取

り入れ,例えば,「サイレンのようにグリッサンドで声を上下して声の高低を意識さ

せ,楽しみながら裏声を出すことができる」と述べている。つまり,幼児は,言葉

の理解が難しくても,声掛けの工夫で伸びやかに歌うことができ,多くの曲を覚え

られるものと考えられる。また,木村と蔵田は,「うたをたくさん聞いて楽しんだ子

どもは2歳すぎになるとひとりうたが盛んに出てくる」と述べている(2009)(8)。

このことから,できるだけ早い段階で,多くの歌を聴く機会を与えることがいかに

重要であるかが明確になる。河北と坂本は,子どもがどのような時にどのような思

いで歌うかについて,「保育者や友だちと一緒に声を合わせて,歌う活動を楽しみま

す。その他に,自然にメロディがついたおしゃべりやお話,替え歌や鼻歌など,遊

びながら歌う姿も見られます。子どもたちにとって『歌うこと』は生活の一部であり,

遊びの中から自然に発生する自己表現でもあります」と述べている。このことから

も歌が生活や自己表現に通じていることが明らかである。幼児にとって歌うことは

日常と密着し,幼児の生活に彩りを加えるものとなる。では,保育者は歌を提供す

る際にどのようなことに注意して歌の選曲や歌の活動を支援するべきなのであろう

か。

 本研究では,まず,現在幼児期に扱われている歌の種類や特徴を考察し,その傾

向を見出す。次に,筆者が行っている幼児への歌唱指導の活動実践記録を考察し,

その特徴や指導法を示す。さらに,保育関係者へのインタビューから,保育士によ

― 110 ―

Page 4: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

る幼児の歌の活動に関する考え方を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ 倫理的配慮 本論文内で取り扱う実践例及びインタビューでは,個人の特定,園や外部への漏

洩の懸念は一切ないこと,データ保存は厳重に行うこと,研究終了後はデータを速

やかに破棄することを研究協力者に文面で説明した。

Ⅲ 幼児期に扱う歌について 近年,急速なメディアの発達により,幼児期からスマートフォンやタブレット,

PCを手にしている様子が多く見受けられ,それと共にテレビやラジオ,CDだけでな

く,多様な情報網によって歌が無条件に耳に入ってくる状況にある。大人向けの歌

を子どもが好んで歌う状況もあり,意図的に子どもに歌を聴かせたり教えたりする

時代から,子どもが豊富な歌資源の中から自ら好きな歌,歌いたい歌を選択する時

代へと移行してきている。今後,時代によって歌の流行は変化していくと予想され

る。それでは,現在幼児向けとされている歌にはどのようなものがあるのであろうか。

幼児期に扱われる歌について概観してみる。ここでは幼児向けの歌の種類や曲名に

ついて,発売されているCDや楽譜から,傾向を調査し,日本の幼児向けの既存曲を

アイウエオ順にまとめる(表2)。

 なお,幼児対象の現場では手遊び歌に用いられる歌でも保育士や幼稚園教諭によ

る即興の振り付きで歌われること等があるので,ここでは手遊び歌,あそび歌,絵

描き歌,楽器を用いる歌,振り付きの歌等に分類しない。

考察し,その特徴や指導法を示す。さらに,保育関係者へのインタビューから,

保育士による幼児の歌の活動に関する考え方を明らかにすることを目的とする。

Ⅱ 倫理的配慮

本論文内で取り扱う実践例及びインタビューでは,個人の特定,園や外部へ

の漏洩の懸念は一切ないこと,データ保存は厳重に行うこと,研究終了後はデ

ータを速やかに破棄することを研究協力者に文面で説明した。

Ⅲ 幼児期に扱う歌について

近年,急速なメディアの発達により,幼児期からスマートフォンやタブレッ

ト,PC を手にしている様子が多く見受けられ,それと共にテレビやラジオ,CD

だけでなく,多様な情報網によって歌が無条件に耳に入ってくる状況にある。

大人向けの歌を子どもが好んで歌う状況もあり,意図的に子どもに歌を聴かせ

たり教えたりする時代から,子どもが豊富な歌資源の中から自ら好きな歌,歌

いたい歌を選択する時代へと移行してきている。今後,時代によって歌の流行

は変化していくと予想される。それでは,現在幼児向けとされている歌にはど

のようなものがあるのだろうか。幼児期に扱われる歌について概観してみる。

ここでは幼児向けの歌の種類や曲名について,発売されている CD や楽譜から,

傾向を調査し,日本の幼児向けの既存曲をアイウエオ順にまとめる(表2)。

なお,幼児対象の現場では手遊び歌に用いられる歌でも保育士や幼稚園教諭

による即興の振り付きで歌われること等があるので,ここでは手遊び歌,あそ

び歌,絵描き歌,楽器を用いる歌,振り付きの歌等に分類しない。

表2.幼児期に扱う代表的な歌(2018 年 12 月現在)(9)~(28)

あ行 アイアイ,あ・い・うー,あいさつのうた,アイスクリーム,アイスクリームのうた,あおいそらにえをかこう,あおいめのにんぎょう,あかいとりことり,あかいくつ,あかいぼうししろいぼうし,あかいやねのいえ,あかおにとあおおにのタンゴ,あかちゃん,あかちゃんのおみみ,あかとんぼ,あかはなのトナカイ,あがりめさがりめ,あきがあんまりおいしくて,あきのこびとオータムタム,あきのバイオリン,あくしゅでこんにちは,あこがれのなつ,あさいちばんはやいのは,あさがおこりゃこりゃ,あさのあいさつ,あしあしあひる,あした,あしたてんきになーれ,あしたのあしたのまたあした,あしたははれる,あしたもげんきで,あしたわらおう,あしぶみたんたん,あすというひが,あそびたいそう,あたまかたひざポン,あたまであくしゅ,あっちのみず,あのあおいそらのように,あのまちこのまち,あぶくたった,アビニョンのはしで,あひるのぎょうれつ,あひるのせんたく,アブラハムのしちにんのこ,あまだれポッタン,あめ,アメチョコさん,あめのゆうえんち,あめふり,あめふりおつきさん,あめふりくまのこ,あらどこだ,あららのじゅもん,あられ,ありがとうおかあさん,ありがとうさようなら,ありがとうのはな,ありさんのおはなし,あるこう,あるいてかえろう,アルゴリズムこうしん,アルゴリズムたいそう,アルプスいちまんじゃく,アローラ!!,あわてどこや,あわてんぼうのサンタクロース,あんたがたどこさ,アンパンマンたいそう,アンパンマンのマーチ,いきてこそ,いけのこい,いしやきいも,いたずラッコ,いたずらでこぼう,いちえんだまのたびがらす,いちがついちじつ,いちご,いちご(同名),いちごケーキ,いちごにんじんみかん,いちじくにんじん,いちねんせいになったら,いちのゆびとうさん,いちばんぼしみつけた,いちもんめのいすけさん,いちり,いっしゅうかん,いっすんぼうし,いっちゃんがろくちゃんが,いつつのメロンパン,いっぽんでもにんじん,いっぽんばしコチョコチョ,いっぽんばしにほんばし,いとまきのうた,いないいないばあっ!もりのくに,いぬのおまわりさん,いもほりのうた,いもほりほいほい,いもむしごろごろ,イルカはザンブラコ,いわしのひらき,インディアンがとおる,うぐいす,うさぎ,うさぎとかめ,うさぎのダンス,うさぎのでんぽう,うしわかまる,うたいましょう,うたえてのひら,うたえバンバン,うちゅうじん,うちゅうせんのうた,うちゅうのうた,ウマウマラーメン,うまさん,うまはとしとし,うまれてはじめて,うみ,うみ(同名),うみのそこはあおいうち,うらしまたろう,うれしいひなまつり,うんどうかい,うんぱっぱ,えいじん,エーデルワイス,ABC のうた,エキサイト,X かいきょう Y けしき,エビカニクス,エビバデオフロスキー,えんそくのうた,えんやらもものき,おうま,オオカミなんかこわくない,おおきいぞうさんちいさいぞうさん,おおきくなっても,おおきなうた,おおきなくりのきのしたで,おおきなぞうさんが,おおきなたいこ,おおきなちょうちん,おおきなトンネルちいさなトンネル,おおきなふるどけい,オー!ことわざソング,おおさかうまいもんのうた,おおさむこさむ,おおなみこなみ,おおブレネリ,おおまきばはみどり,オーロラプリンセス,おかあさん,おかあさん(同名),おかえりのうた,おかたづけ,おきゃくさま,おくることば,おけしょうバタバタ,おこりんぼ,おさかなてんごく,おざしきはいて,おさるがふねをかきました,おさるのかごや,おしくらまんじゅう,おしゃべりすずめ,おしょうがつ,おじょうさん,おしりフリフリ,おすもう,おすもうくまちゃん,おせんべいやけたかな,おそうじ,おたまじゃくし,おちたおちた,おちばのおどり,

― 111 ―

Page 5: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

おちゃらか,おちゃをのみに,おつかいありさん,おつめをきりましょう,おでこくちゅくちゅ,おててをあらいましょう,おててをあらって,おてらのおしょうさん,おとうさん,おどるポンポコリン,おどろうたのしいポーレチケ,オナカのおおきなおうじさま,おなかのへるうた,おにぎり,おにのパンツ,オニヤンマ,おはぎのよめいり,おばけなんてないさ,おばけになろう,おはながわらった,おはなし,おはなしゆびさん,おはようクレヨン,おはようのうた,おひさまきらきら,おひるね,おふねはぎっちらこ,おふろじゃぶじゃぶ,オフロッケ!,おふろっていいな,おふろでチャプチャプ,おふろのうた,おへそ,おへんじ,おべんとう,おべんとうばこのうた,おほしがひかる,おほしさま,おぼろづきよ,おむねをはりましょ,おめでとうクリスマス,おめでとうたんじょうび,おめでとうのうた,おめでとうを 100 かい,おもいで,おもいでのアルバム,おもちつき,おもちのうた,おもちゃのチャチャチャ,おもちゃのマーチ,おやこどんぶり,おやまのおさる,おやまのすぎのこ,おやまのたいしょう,おやまのほそみち,おやゆびせんせいやってきて,およげ!たいやきくん,おろかもののうた,オンブサンタ,おんまはみんな(237 件) か行 ガーララプイ,かいぶつだぞ,カエデのきのうた,かえるのうた,かえるのがっしょう,かえるのこ,かおかお,かかし,かぞえうた,かくれよばー,かくれんぼ,かけっこファイト,がけのうえのポニョ,かごかご,かごめかごめ,かぜさんだって,かぜもゆきもともだちだ,がたがたバス,かたたたき,かたづけチャオ,かたづけましょう,かたつむり,かっこう,かっこうのごあいさつ,かっぱなにさま?かっぱさま!,かなづちトントン,かなりや,かにさん,「か」のつくもの,カミナリドン!ドン!,かもつれっしゃ,かもめのグライダー,かもめのすいへいさん,かめのえんそく,からすのあかちゃん,からだあそびのうた,かりうどさん,カレーライスのうた,かれっこやいて,カレンダーマーチ,かわいいあのこ,かわいいオーガスチン,かわいいかくれんぼ,かわいいさかなやさん,かわいいペンギンさん,かわずのよまわり,かわはよんでいる,ガンバリマンのうた,きくのはな,きたかぜこぞうのかんたろう,きってのないおくりもの,きのいいあひる,きのこ,きみがよ,きみたちきょうからともだちだ,きみとぼくのラララ,きみにあえてうれしい,きみに 100パーセント,きみのこえ,きみをのせて,キャベツのなかから,キャベツはキャッ,キャベツ UFO,キャンプだホイ,キューピーさん,ぎゅうにゅう,きゅっきゅっきゅう,きょうからおともだち,きょうのひはさようなら,きよしこのよる,キラキラがいっぱい,キラキラぼし,きりんさん,きれいですか,きんぎょちゃんとメダカちゃん,きんぎょのひるね,きんたろう,くじらのとけい,くじらのバス,ぐーちょきぱーでなにつくろう,ぐーチョコランタン,クスグリマンのうた,くつがなる,くっつきもち,グッドバイ,くまさんくまさん,くまのプーさん,グラスホッパーものがたり,クラリネットをこわしちゃった,グリーングリーン,ぐるぐるどっかーん!,ぐるぐるまわれ,グローイングアップップ,くろねこのタンゴ,ゲラゲラポーのうた,ケンカのあとは,げんこつやまのたぬきさん,ケンパであそぼう,ごあいさつ,こいするにわとり,こいのぼり,こうえんにいきましょう,こーじゃーまぐわー,こうま,こうまがないた,こおろぎ,こがねむし,こぎつね,こげよマイケル,ここはとうちゃんにんどころ,こころのねっこ,ごさいだイエイー!!,こじかのバンビ,ごちゃごちゃ,ことしのぼたん,こどもかいのうた①はっぴょうかいのうた,こどもかいのうた②,こどもとこどもがけんかして,こどものおうさま,こどものがくたい,こどものひ,こどもはかぜのこ,ことりのうた,ことりのけっこんしき,こなゆきこんこ,5にんのかぞく,5にんのこびと,このは,ごはんをもぐもぐ,こぶたぬきつねこ,ごひきのこぶたチャールストン,ごむのわのびろ,ゴムふうせん,こめこめ,ごめんくださいうどんやさん,こもりうた,ゴリラのうた,これくらいのべんとうばこに,コロコロたまご,コロはやねのうえ,コンコンクシャンのうた,こんなこいるかな,こんにちは!ったらラッタンタン,こんぺいとう,ごんべえさんのあかちゃん(145 件) さ行 さあぼうけんだ,さかながはねて,さくらのきになろう,さくらのしおり,サッちゃん,さとのあき,さみしくなんかないってば,サモアとうのうた,さよなら,さよならぼくたちのほいくえん(ようちえん),さよならマーチ,サラスポンダ,さんぞくのうた,サンタがまちにやってくる,サンタクロース,サンタとトナカイ,サンタはいまごろ,Sunday, Monday, Tuesday-ようびのうた,サンドイッチ,サンド1!2!3!,さんびきのこぶた,さんびきのやぎのガラガラドン,365 にちのかみひこうき,さんぽ,しあわせならてをたたこう,じーじーばー,ジェンカ,しかられて,ジグザグおさんぽ,じごくごくらく,しずかなこはん,しっぽのきもち,じてんしゃくるくる,ジャガイモジャガー,しゃくとりむし,ジャバ・ジャバ・ビバ・ドゥー,シャベルでホイ,しゃぼんだま,しゃりしゃりしゃーべっと,ジャンケンダンス,10 えんいれてくださいな,じゅうごやおつきさん,じゅうごやさんのもちつき,じゅうにしのうた,10 にんのインディアン,じゅうべえさんとはちべえさん,しょうじょうじのたぬきばやし,しろくまのジェンカ,しんかんせんでゴー!ゴ・ゴー!,ジングルベル,じんこうえいせいとんだ,すいかのめいさんち,ずいずいずっころばし,すいしゃ,すうじのうた,スキー,すきすきおかあさん,スキップキップ,すずめがサンバ,すずめのおやど,すずめのがっこう,すなやま,スプラッピ・スプラッパ,スマイル,せいくらべ,せかいがひとつになるまで,せかいじゅうのこどもたちが,せかいにひとつだけのはな,せっけんさん,せんせいとおともだち,せんどうさん,せんろはつづくよどこまでも,ぞうさん,そうだったらいいのにな,ぞうのたまごのたまごやき,そつえんしきのうた,そつぎょうのうた,そらでえんそくしてみたい,そらにらくがきかきたいな,そらもとべるはず,そらよりたかく,そりすべり,ソレ!はくしゅ(83 件) た行 だいこくさま,たいこをたたきましょう,たいせつなたからもの,だいというじ,たきび,たけのこいっぽんおくれ,たけんこがはえた,タコのうた,たこやきなんぼマンボ,だせだせてをだせ,ただいまのあとは,たなばたさま,たのしいね,たびだちのひに,たまげたこまげた,たまごまごまご,だるまさん,だれかがほしをみていた,だれにだっておたんじょうび,たわらはごろごろ,だんごさんきょうだい,たんじょうび,たんたんたんぽぽ,たんぼのなかのいっけんや,たんぽぽ,タンポポだんにはいろう!!,ちいさいあきみつけた,ちいさいこうま,ちいさいひつじが,ちいさなきのみ,ちいさなせかい,ちいさなにわ,チーズのうた,チェケマッチョ!,チェッチェッコリ,ちかてつ,チキチキバンバン,ちきゅうともだち,ちきゅうはみんなのだいがっしょう,ちきゅうはみんなのものなんだ,ちきゅうをくすぐっチャオ!,ちびっか・ぶーん,ちゃちゃつぼ,チャップリコザンブリコ,チャンマリチャン,ちゅうごくのうた,チューしちゃおう,ちゅうちゅうねずみ,チューリップ,ちょーちっちゃいはなし,ちょうしをそろえてクリッククリッククリック,ちょうちょう,ちょちちょちあわわ,チム・チム・チェリー,ちんからとうげ,つき,つきのさばく,ツッピンとびうお,つばめ,つばめになって,D103 のうた,ティッシュできゅ!ティッシュでふーん!,ティニクリン,できるかな,でたらめなうた,てってのねずみ,てつどうしょうかやまのてせん,ててて,てとてとてと,テトペッテンソン,てのひらをたいように,でぶいもちゃんちびいもちゃん,てまりうた,てるてるぼうず,てをあらいましょう,てをたたきましょう,てをつなごう,てんしのはねのマーチ,でんしゃがはしる,でんしゃごっこ,でんしゃをつなごう,でんでんむし,でんでんむしどこだ,てんとうむしのたび,toi toi toi!!,とうきょうとにほんばし,とうさんゆびどこです,とうさんゆびねむれ,どうしてしらんぷり,どうぶつえんへいこう,どうぶつせんたいジュウオウジャー,とおしゃせん,とおめがね,とおりゃんせ,ドキドキドン!いちねんせい,とけいのうた,どこかではるが,どこかゆこう,どこでしょう,どこでねるの,ドコノコノキノコ,トッキヤうさぎ,どっとんかっちん,トットトコ,トトトのうた,ドナドナ,となりのトトロ,どのたけのこがせいたかか,とびらあけて,トマト,トマト(同名),ともだちがいっぱい,ともだちさんか,ともだちになるために,トモダチのわお!,ともだちはいいもんだ,トムピリピ,ドラキュラのうた,ドレミのうた,ドレミファどーなっつ,トロイカ,ドロップスのうた,どんぐり,どんぐりころころ,どんぐりころちゃん,ドンスカパンパンおうえんだん,とんでったバナナ,トントコトンかみなりちゃんおどり,とんとんともだち,とんとんとんとんひげじいさん,どんないろがすき,どんなかお,とんぼのめがね,とんぼやとんぼ(134件)

― 112 ―

Page 6: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

 表2に示すように,幼児向けの歌には,戦前から歌われている童謡曲やわらべ歌

の他,アニメ曲,NHKテレビ番組「おかあさんといっしょ」「ピタゴラスイッチ」「み

んなのうた」,ディズニー曲,人気アニメーションの主題歌や挿入歌,CMソング,世

界の歌と,多岐に渡っていた。また,曲の表題や歌詞の内容は,季節を表す歌,物

語性のある歌,生活習慣を学ぶ歌,おとぎ話の歌,架空の生き物の歌,語呂合わせ

や言葉並びのユニークな歌,「つき」や「にじ」等の色合いを想像しやすい物の歌,

身体に関する歌,身体の動きを促す歌,擬人化された動物や果物が登場する歌,家

族に関する歌,数字や野菜,果物,食べ物等の物の名前を覚えるための歌等,多様

に分類できた。表2の曲の題名の頭文字を五十音順に整理してみる(表3)。「あ」

行237件,「か」行145件,「さ」行83件,「た」行134件,「な」行31件,「は」行115件,

「ま」行65件,「や」行42件,「ら」行17件,「わ」行13件となっている。

な行 ないしょばなし,ながぐつマーチ,なかなかほいほい,なかよしこみち,なつはきぬ,なつまつり,ななつのこ,なにがなんだか,なべなべそこぬけ,なまえじゅうしょでんわばんごう,なみとかいがら,なんでもたべるこ,にぎりぱっちり,にんぎょう,にじ,にじ・そら・ほし・せかい,にじのむこうに,に・て・る,ニャニュニョのてんきよほう,にんげんっていいな,にんにんにんじゃ,「ね」,ねえしってる?,ねこのこ,ねこふんじゃった,ねずみねずみ,ねむねむのひつじ,のぎく,のびろのびろだいすきなき,のぼるよコアラ,のんびり・のびのびハーイ・グラスホッパー!(31 件) は行 ハイ パチリ,ハイ・ホー,はじまるよ,はじめてのさよなら,はじめのいっぽ,パジャマでおじゃま,はしるのだいすき,はしるよきしゃぽっぽ,はしれちょうとっきゅう,バスごっこ,バスにのって,バスははしる,はたけのポルカ,はたらくくるま,パチパチレロレロアワワワワ,ハッピーチルドレン,ハッピーバースデートゥーユー,パッペッポ,はと,はないちもんめ,はなかげ,はなちゃん,バナナのおやこ,はなのおくにのきしゃぽっぽ,はなび,はなびらとまった,はなまつり,はなよめにんぎょう,パパはママがすき,パポプペポーン,はみがきじょうずかな,ハムたろうとっとこうた,はやおきとけい,はらへったはらへった,はる,はるがきた,はるですよ,はるのおがわ,はるよこい,パレード,ハロウィンごっこ,ハロートゥモロー,ハローマイフレンズ,バロック・ホーダウン,ぱわわぷたいそう,はをみがきましょう,ハンカチのうた,パンダうさぎコアラ,パンダ・ダ・パ・ヤッ,パンダのうた,はんぶんこ,パンやさんにあるもの,ピースマイル!,ひかれよおほし,ピクニック,ピコットさん,ひとりのて,ひのまるのはた,ひばり,ひび,ビビディ・バビディ・ブー,ビュンビュン!トッキュウジャー,ひょうたんぼっくりこ,ひよこ,ひょっこりひょうたんじま,ひまわりさん,ひらいたひらいた,ひらひらひら, BELIEVE,びわ,ふうせん,ふうせん(同名),ブーブーじどうしゃ,ふうりん,ぶらんこ,ふしぎなポケット,ふじさん,ふたあつ,フニクリフニクラ,ふゆのよる,ふゆのよるのおはなし,ぶらんこ,フリーダム,ふるさと,ブルブルブルドッグ,プレゼントはどこだ?,ブンバボーン!,フレ!フレ!だいじょうぶ!,ぶんぶんぶん,Best Friend,ベコのこうしのこ,ぼうがいっぽんあったとさ,ぼうずぼうず,ぽかぽかてくてく,ボキボキおどり,ぼくがさかせるはな,ぼくたぬき,ぼくのクラスはさいせんたん,ぼくのバレンタインデー,ぼくのミックスジュース,ぼくはくま,ボクラのほしのミラクル,ぼくらのマーチ,ぼくらはみらいのたんけんたい,ほしにねがいを,ほたる,ほたるこい,ほたるのひかり,ほっぺのもっちゃ,ボトンベベッアングサキャンプのうた,ホ!ホ!ホ!,ボヨヨンこうしんきょく,ホルディリアクック,ポンポコたぬき(114 件) ま行 マーチングマーチ,まあるいたまご,まがりかど,まきばのあさ,マクドナルドじいさんかっている,まちいちばんのやおやさん,まっかなあき,まっくらもりのうた,まっててね,まつぼっくり,まほうのつえ,まほうのゆび,まねきねこダックのうた,まめまき,まりととのさま,マル・マル・モリ・モリ!,まんまるスマイル,みかんのはなさくおか,みぎから2ばんめのほし,みぎみてハイ!,ミシンカタカタ,みずあそび,みずたまり,みちくさ,ミッキーマウスマーチ,みつばちぶんぶん,みなと,みなみのしまのハメハメハだいおう,みみずがさんびき,ミルクはげんきタマゴもげんき,みんなおおきくなった,みんなだれかがすきになる,みんなでつくろう,みんなではみがき,みんなともだち,みんななかよし,みんなのなまえ,みんなのひろば,むこうよこちょう,むしのがくたい,むしのこえ,むしばのトンカチ,むすんでひらいて,むっくりくまさん,むらのかじや,むらまつり,めえめえこやぎ,めざせ!たからじま,めだかのがっこう,メトロポリタンミュージアム,メリーさんのひつじ,もうじゅうがりにいこう,もうすぐようちえん,もぐらどん,もしもコックさんだったなら,もちつき,もみじ,ももたろう,ももやももや,もりのくまさん,もりのこびと,もりのファミリーレストラン,もりへいきましょう,もりもりぱくぱく,もんしろちょうちょのゆうびんやさん(65 件) や行 やおやのおみせ,やきいもグーチーパー,やきいもぽかぽか,やぎさんゆうびん,やさいのうた,やせる!チャールスとんさんせい,ヤッホッホなつやすみ,やまぐちさんちのツトムくん,やまごやいっけん,やまのおんがくか,やまのワルツ,やまびこごっこ,ヤンチャリカ,ゆうがたクインテット,ゆうがたのおかあさん,ゆうき 100 パーセント,ゆうきりんりん,ゆうひ,ゆうひがせなかをおしてくる,ゆうびんやさん,ゆうやけこやけ,ゆうらんバス,ゆかいなまきば,ゆかいにあるけば,ゆき,ゆきだるまつくろう,ゆきってながぐつすきだって,ゆきのこぼうず,ゆきのプレゼント,ゆきのペンキやさん,ゆきまつり,ゆげのあさ,ゆびのうた,ゆびのはくしゅ,ゆめのなか,ゆめをかなえてドラえもん,ゆらゆらボート,ゆりかごのうた,よいこのあいさつ,よいこのなつやすみ,ようかいたいそうだいいち,よがあけた(42 件) ら行 ライオンのうた,らかんさん,ラ・クラカチャ,ラジャマハラジャ,ランドセルしょって,リズムでタッチ!,りんごのうた,りんごのひとりごと,リンリンなるよ,れっしゃせんたいトッキュウジャー,Let’s go! いいことあるさ,レッツ!ジュウオウダンス,レット・イット・ゴー~ありのままで,ロケットばびゅーん,ロックンオムレツ,ロックンロールけんちょうしょざいち,ロンドンばし(17 件) わ行 わ~お!,わすれないさきみのこと,わたしのこびと,わたしはポットです,わたしをやきゅうにつれてって,WA になっておどろう,わにのうた,ワハハ,わらいごえっていいな,わらいんぼコスモス,わらのなかのしちめんちょう,われはうみのこ,ワンダフル・ワールド~がんめんしんたいそう(13 件)

表2に示すように,幼児向けの歌には,戦前から歌われている童謡曲やわら

べ歌の他,アニメ曲,NHK テレビ番組「おかあさんといっしょ」「ピタゴラスイ

ッチ」「みんなのうた」,ディズニー曲,人気アニメーションの主題歌や挿入歌,

CM ソング,世界の歌と,多岐に渡っていた。また,曲の表題や歌詞の内容は,

季節を表す歌,物語性のある歌,生活習慣を学ぶ歌,おとぎ話の歌,架空の生

き物の歌,語呂合わせや言葉並びのユニークな歌,「つき」や「にじ」等の色合

いを想像しやすい物の歌,身体に関する歌,身体の動きを促す歌,擬人化され

た動物や果物が登場する歌,家族に関する歌,数字や野菜,果物,食べ物等の

物の名前を覚えるための歌等,多様に分類できた。表2の曲の題名の頭文字を

五十音順に整理してみる(表3)。「あ」行 237 件,「か」行 145 件,「さ」行 83

件,「た」行 134 件,「な」行 31 件,「は」行 115 件,「ま」行 65 件,「や」行 42

件,「ら」行 17 件,「わ」行 13 件となっている。

― 113 ―

Page 7: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

表3.五十音別の幼児期に扱う代表的な歌 あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行 あ段 70 48 24 26 12 52 17 13 5 13 い段 33 29 27 29 9 18 21 - 4 - う段 23 17 13 5 - 19 8 25 - - え段 9 4 8 24 6 2 5 - 4 - お段 102 47 11 50 4 23 14 4 4 - 計 237 145 83 134 31 114 65 42 17 13

「あ」行,「か」行,「た」行,「は」行で始まる曲が多く,今回調査した曲の

総数 882 件の中で,「あ」行は約 27%,「か」行は約 16%,「た」行は約 15%,

「は」行は約 13%を占めた。また,頭文字では,「お」(102 件)や「あ」(70 件)

に続いて,「は」(53 件)「と」(50 件)「か」(48 件)「こ」(47 件)となってい

る。「あ」行の「あ」「い」「う」「え」「お」は,日本語の基礎となる母音である

ため,上手に発音し,歌唱する上で重要である。「お」や「あ」で始まる曲が多

い点については,表2に見られるように,子どもにとって覚えやすい,「あかい」

「あさ」「ありがとう」や「おおきな」「おはよう」「おふろ」等のなじみ深い言

葉が多く用いられていることが理由として推察できる。また,幼児の成長に応

じて発声器官も徐々に変化するため,発声や滑舌との関連も考えられる。この

点は,今後さらに調査,検討し,別の機会に論じたいと考えている。

表2に挙げた曲は,現在,幼児向けとされる歌であるが,今後も時代の流れ

によって歌われなくなる歌,歌い継がれる歌,新たに加わる歌が生々流転する

ことが考えられる。今後の動向も着目すべき点である。

Ⅳ 歌の活動実践

1 保育園における歌の活動プログラム

筆者は,県内の A 保育園で,音楽指導講師として定期的に指導を行っている。

ここでは,2018 年 12 月7日と 18 日に実施した歌唱指導観察記録を検討する。

保育園では,4,5歳児2クラス,他2歳児1クラス,3歳児1クラスの計4

クラス,30 分間ずつ歌の活動を実施した(表4)。各担任は,集団行動が苦手

な幼児や活動をスムーズに行えない幼児への補助的指導を行った。

表4.歌の活動プログラム 1 体操 体ほぐしの目的で肩回し,首回し,深呼吸,肩甲骨伸ばし,脱力と伸び,動

物になろう(へび,うさぎ,ぞう【ぞうは3歳児のみ】) 2 発声練習 あくびの時の口,ドミソミドーに合わせてワッハッハー,筆者編曲の『あ

くびのうた』(前半は『かえるのうた』の旋律) 3 手遊び歌 『とんとんとんとんひげじいさん』4 2 人組で歌う歌 『なべなべそこぬけ』5 全員で歌う歌 『あわてんぼうのサンタクロース』『にじ【4~5歳児】』『こぶたぬきつね

こ【2歳児】』

プログラムを作成する際,参加幼児によく知られている曲を選ぶように心掛

けた。1の体操では,深呼吸や首回し等の一般的なウォーミングアップの活動

を取り入れ,「動物になろう」の振り遊びは,幼児が楽しみながら講師と触れ合

う時間にし,初対面の緊張を緩めるために行った。園側は歌に特化した指導を

 「あ」行,「か」行,「た」行,「は」行で始まる曲が多く,今回調査した曲の総数

881件の中で,「あ」行は約27%,「か」行は約16%,「た」行は約15%,「は」行は約

13%を占めた。また,頭文字では,「お」(102件)や「あ」(70件)に続いて,「は」(52件)

「と」(50件)「か」(48件)「こ」(47件)となっている。「あ」行の「あ」「い」「う」「え」

「お」は,日本語の基礎となる母音であるため,歌唱する上で重要である。「お」や「あ」

で始まる曲が多い点については,表2に見られるように,子どもにとって覚えやすい,

「あかい」「あさ」「ありがとう」や「おおきな」「おはよう」「おふろ」等のなじみ深

い言葉が多く用いられていることが理由として推察できる。また,幼児の成長に応

じて発声器官も徐々に変化するため,発声や滑舌との関連も考えられる。この点は,

今後さらに調査,検討し,別の機会に論じたいと考えている。

 表2に挙げた曲は,現在,幼児向けとされる歌であるが,今後も時代の流れによっ

て歌われなくなる歌,歌い継がれる歌,新たに加わる歌が生々流転することが考え

られる。今後の動向も着目すべき点である。

Ⅳ 歌の活動実践1 保育園における歌の活動プログラム

 筆者は,県内のA保育園で,音楽指導講師として定期的に指導を行っている。ここ

では,2018年12月7日と18日に実施した歌唱指導観察記録を検討する。保育園では,

4,5歳児2クラス,他2歳児1クラス,3歳児1クラスの計4クラス,30分間ずつ

歌の活動を実施した(表4)。各担任は,集団行動が苦手な幼児や活動をスムーズに

行えない幼児への補助的指導を行った。

表3.五十音別の幼児期に扱う代表的な歌 あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行 あ段 70 48 24 26 12 52 17 13 5 13 い段 33 29 27 29 9 18 21 - 4 - う段 23 17 13 5 - 19 8 25 - - え段 9 4 8 24 6 2 5 - 4 - お段 102 47 11 50 4 23 14 4 4 - 計 237 145 83 134 31 114 65 42 17 13

「あ」行,「か」行,「た」行,「は」行で始まる曲が多く,今回調査した曲の

総数 882 件の中で,「あ」行は約 27%,「か」行は約 16%,「た」行は約 15%,

「は」行は約 13%を占めた。また,頭文字では,「お」(102 件)や「あ」(70 件)

に続いて,「は」(53 件)「と」(50 件)「か」(48 件)「こ」(47 件)となってい

る。「あ」行の「あ」「い」「う」「え」「お」は,日本語の基礎となる母音である

ため,上手に発音し,歌唱する上で重要である。「お」や「あ」で始まる曲が多

い点については,表2に見られるように,子どもにとって覚えやすい,「あかい」

「あさ」「ありがとう」や「おおきな」「おはよう」「おふろ」等のなじみ深い言

葉が多く用いられていることが理由として推察できる。また,幼児の成長に応

じて発声器官も徐々に変化するため,発声や滑舌との関連も考えられる。この

点は,今後さらに調査,検討し,別の機会に論じたいと考えている。

表2に挙げた曲は,現在,幼児向けとされる歌であるが,今後も時代の流れ

によって歌われなくなる歌,歌い継がれる歌,新たに加わる歌が生々流転する

ことが考えられる。今後の動向も着目すべき点である。

Ⅳ 歌の活動実践

1 保育園における歌の活動プログラム

筆者は,県内の A 保育園で,音楽指導講師として定期的に指導を行っている。

ここでは,2018 年 12 月7日と 18 日に実施した歌唱指導観察記録を検討する。

保育園では,4,5歳児2クラス,他2歳児1クラス,3歳児1クラスの計4

クラス,30 分間ずつ歌の活動を実施した(表4)。各担任は,集団行動が苦手

な幼児や活動をスムーズに行えない幼児への補助的指導を行った。

表4.歌の活動プログラム 1 体操 体ほぐしの目的で肩回し,首回し,深呼吸,肩甲骨伸ばし,脱力と伸び,動

物になろう(へび,うさぎ,ぞう【ぞうは3歳児のみ】) 2 発声練習 あくびの時の口,ドミソミドーに合わせてワッハッハー,筆者編曲の《あ

くびのうた》(前半は《かえるのうた》の旋律) 3 手遊び歌 《とんとんとんとんひげじいさん》4 2 人組で歌う歌 《なべなべそこぬけ》5 全員で歌う歌 《あわてんぼうのサンタクロース》《にじ【4~5歳児】》《こぶたぬきつね

こ【2歳児】》

プログラムを作成する際,参加幼児によく知られている曲を選ぶように心掛

けた。1の体操では,深呼吸や首回し等の一般的なウォーミングアップの活動

を取り入れ,「動物になろう」の振り遊びは,幼児が楽しみながら講師と触れ合

う時間にし,初対面の緊張を緩めるために行った。園側は歌に特化した指導を

 プログラムを作成する際,参加幼児によく知られている曲を選ぶように心掛けた。

1の体操では,深呼吸や首回し等の一般的なウォーミングアップの活動を取り入れ,

「動物になろう」の振り遊びは,幼児が楽しみながら講師と触れ合う時間にし,初対

面の緊張を緩めるために行った。園側は歌に特化した指導を希望し,2019年2月の

発表会曲の選曲をしたいということであった。そのため,2の発声練習では呼吸と

喉の開きやお腹から出す声等を意識した活動を,よりよい発声を目指して行った。3,

― 114 ―

Page 8: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

4に手遊び等の活動を入れた理由には,楽しく歌いながら参加でき,中だるみを避

ける意図があった。5の全員で歌う歌は,発表会曲用に各クラス担任が事前に選曲

したものを中心に歌った。曲を初めて歌う幼児がいたので,歌詞を覚えてもらうこ

とを優先させた。

2 歌指導内容と考察

 ここでは,2018年12月7日(金)に実施した4,5歳児クラス初回の歌唱指導内容

を一例として取り上げる(表5)。

希望し,2019 年2月の発表会曲の選曲をしたいということであった。そのため,

2の発声練習では呼吸と喉の開きやお腹から出す声等を意識した活動を,より

よい発声を目指して行った。3,4に手遊び等の活動を入れた理由には,楽し

く歌いながらでき,中だるみを避ける意図があった。5の全員で歌う歌は,発

表会曲用に各クラス担任が事前に選曲したものを中心に歌った。曲を初めて歌

う幼児がいたので,歌詞を覚えてもらうことを優先させた。

2 歌指導内容と考察

ここでは,2018 年 12 月7日(金)に実施した4,5歳児クラス初回の歌唱

指導内容を一例として取り上げる(表5)。

表5.歌唱指導内容(4,5歳児クラスの例) 流れ

講師の働きかけ (指導内容)

幼児の反応 留意点/準備物

導入

あいさつ,自己紹介 「私は○○です。○○先生と呼んでください。今日はみんなと音楽を一緒にするために来ました。よろしくお願いします。」

講師を観察していた。初めて見る人でどんな人なのかという様子で少し緊張しながらも笑顔になる。

※座位 幼児一人一人と目を合わせる。 声の大きさは明るくはっきりと。

展開1

1.体操 「お友達に手が届かないくらい手を伸ばそう」 「肩をぐるぐるやさしく前回し」 「首はもっとやさしく」 「手を前で組んで,グーっと前に推そう」 「息を鼻から吸って,口から吐くよ。これを深呼吸っていうよ」 「体の力を抜いて前に」「芽が出て花が咲くように,上に伸びるよ」 「蛇さんになれるかな?」 -「蛇年さんが多いから上手に蛇さんになれるね。」 蛇が口を大きく開けて餌を食べる(子どもの顔を挟む)動作。 「次はぴょんぴょんうさぎさん」(耳に両手をつけて,飛び跳ねて見せる。) -幼児の息が上がっているのに気づく。

友達に手がぶつかり,うまく間隔を取れない。 「やさしく」という言葉を添えたことで,極端にぐるぐる回す幼児はいない。 全員ができる。 「知ってる」と口々にいいながら行う。大げさに手を広げながら息を吸う幼児がいた。講師を真似て,全員が参加。身体は脱力できていない幼児も見受けられた。 「ぼくは蛇年だから」 「私も」「私も」 幼児同士で互いの間をにょろにょろと動き回ったり,互いを食べ合う振りをしたりして,盛り上がる。 「ぴょんぴょん」と言いながら,講師を見て,小刻みに飛び跳ねる。手を耳に見立てている者とただ飛び跳ねて,遊びになっている者がいた。

※立位 実際にやってみせる。 ぐるぐる回す音等の効果音をピアノでつける。 吸う時に両手広げ,吐く時に両手を下に下ろす。 上半身を前方に倒し,両手を上に伸ばし,最後はジャンプする。 にょろにょろと言いながら,幼児の間に入っていき,幼児同士も自由に動くことを誘導。

展開2

2.発声練習「あくびをしよう」 (手を伸ばして実際にあくびをして見せる) 「今のあくびの時のお口で,いくよ」「ワッハッハッハッハー」 -(音をいったん止めて注目させ)「叫ばないよ。きれいな声でね。」 「あくびのうたを歌おう。よく聞いておいてね」(実際に歌って聴かせる)「じゃあ,先生の真似をして歌ってみよう。いくよ。」 -「すごい!もう覚えたね」

手を口にあてて「あ~あ」と言いながら大きくあくびをする。 音の高低が取れている者とそうでない者にわかれる。 高音になるにつれて叫び声が出現する。講師の助言により,叫び声は消える。 講師の「よく聴いてね」の声でどのように歌うのかと静かに耳を傾けた。 講師の歌を1フレーズ聴いただけで,クラス担任が続いて歌い出し,それにつられるように歌う。 褒められ嬉しそうに笑う。

※立位 歌声をどこまで届けるか,目印を決めて歌わせる。 ドミソミドの形。 ピアノで即興的に和音を順次進行しながら,低い音から高い音へと移行させる。 《あくびの歌》の伴奏。

展開3

3.手遊び歌「次は,これ知ってる?」と言いながら《トントントントンひげじいさん》のフレーズを手の振り付きで歌い出す。(2回繰り返す) 「上手にできたね。」

「 知 っ て る ! 」「 知 っ て るー!」と口々に言い,手の振りを付けながら歌に加わる。 2 回目には,全員ができ始める。 -褒められて得意げな様子。

※座位 旋律と振りは,事前に覚えておき,幼児の方を向いて,目線を合わせて行う。

4.2人組で歌う歌 ※立位

― 115 ―

Page 9: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

 歌指導の配置は,以前の指導者が行ってい

た形を引き継いだ(図1)。指導時間は30分

間なので,集中力を途切れささずに気持ちを

切り替えられるよう,中間部に手遊び等を入

れて計画したプログラムから,幼児の反応に

合わせて少しずつ声掛けや進行を変更させて

いった。幼児が講師と初対面だったこともあ

り,全く知らない曲ではなく,幼児の聞き覚

えのある曲や今までに歌ったことのある手遊びを入れた。手遊びはすぐにできた。《な

べなべそこぬけ》の背中合わせになるところでうまくいかない2人組がいたが,時

展開4

「今度は隣りのお友達と2人組になろう」 「お友達と向かい合って手をつないで,なーべーなーべーそーこぬけーそーこがぬけたらかえりましょでくるっとこんな風に(体を背中合わせにする仕草)」(2~3回繰り返す)

―最初はどのように2人組になるのか迷っている幼児もおり,「私はだれもいない」と言ったがすぐに相手が見つかり,安心していた。 「あ,これ,けんかした時に仲良しになる時の曲だ。」 講師の歌に合わせて真似をする者が出る。うまく背中合わせになれない幼児に,担任が方法を教える。 繰り返し行うことで,できるようになる。

2人組になれない場合,少し離れて座っている子と組みになってもらうように補助する。

展開5

5.全員で歌う歌 「ところで,12 月といえば,何がある?」 -そう,クリスマスが来るね。 「ある時,クリスマス前にやってきたサンタさんがいました。あわてんぼうのサンタクロースだね。」 -(幼児の歌声に合わせて)「急いでリンリンリン急いでリンリンリン,鳴らしておくれよ鐘をー♪」 「よーし,じゃあその調子で,みんなでピアノに合わせて歌ってみよう。いくよ」(前奏から完璧に弾く)(隠していた鈴を鳴らす) 「何か聴こえてきたね」 「じゃあ,鈴を鳴らしながら歌ってみようか。リンリンリンのところで。」「今日,鈴を鳴らしてくれる人!」 -「一番姿勢の良い人に頼もう。」(歌い終わって,鈴をやってくれた幼児への拍手を促す。)「歌も鈴もみんな上手にできた!すごいね。」 「よし,じゃあ今度は違う歌を歌おう。これからある曲とある曲を2曲弾きます。いいなと思う方を後で聴くから,どちらかに手を挙げてね。よく聴いていないと分からないよ。」「1 曲目」(前奏から1番をピアノ演奏)「2曲目」(1番をピアノ演奏) 「それでは聞きます。最初のがよかった人!」 「では,2曲目がよかった人!」 では,今日は《にじ》を歌ってみよう。―知っているんだね。 (手話つきで歌詞を教える。「しゃべるって何?等」) (《にじ》の最初の8小節のみ4回歌い), 「続きはまた今度歌おうね」

「サンタさん」「プレゼントもらえる」等口々にいう。 講師の話を聞いて,歌い出す。「あわてんぼうのサンタクロース♪クリスマス前にやってきた♪」 「リンリンリン リンリンリン リンリンリン」声を合わせて歌う。 ノリノリで歌い始める。 -「サンタさんの鈴!」 「はい!」と6名程,手が挙がる。 -背筋を伸ばして座り出す。当てられた幼児は,少し誇らしげに鈴をもつ 講師の言葉を聴いて,聴く態度になる。話をする幼児は一人もいない。 -「はい!」と手を耳にあてて真っ直ぐ挙手。9名手が挙がる。 「はい!」と4名手が挙がる。-曲名を聴き,歌い出す幼児あり。 -「スコップみたいなの」

※座位 情景を思い浮かべられるように,ゆっくりと話す。 ピアノが背を向ける形で置いてあるので,後ろにいる幼児に語りかけるように歌う。 鈴を用意する。 鈴の鳴らし方の指導 幼児に曲を選ばせ,自主性や歌ってみたい気持ちを促す。 発表会曲の楽譜を準備。クラス担任の選曲したもの等。 《にじ》の手話を覚えておく。 ピアノの弾き歌い。歌詞のイメージが湧きやすくなるように手話も用いる。

まとめ

終わりのあいさつ 「今日はみんなと会えて音楽を一緒にできてとっても嬉しかったです。また会おうね。ではさようなら」

「ありがとうございました。さようなら。」

※座位 一人一人とハイタッチ。

歌指導の配置は,以前の指導者が行って

いた形を引き継いだ(図1)。指導時間は

30 分間なので,集中力を途切れささずに

気持ちを切り替えられるよう,中間部に手

遊び等を入れて計画したプログラムから,

幼児の反応に合わせて少しずつ声掛けや

進行を変更させていった。幼児が講師と初

対面だったこともあり,全く知らない曲で

はなく,幼児の聞き覚えのある曲や今までに歌ったことのある手遊びを入れた。

手遊びはすぐにできた。『なべなべそこぬけ』の背中合わせになるところでうま

図1.歌指導の配置図

幼児

園長

クラス担任

ピアノ

講師

展開4

「今度は隣りのお友達と2人組になろう」 「お友達と向かい合って手をつないで,なーべーなーべーそーこぬけーそーこがぬけたらかえりましょでくるっとこんな風に(体を背中合わせにする仕草)」(2~3回繰り返す)

―最初はどのように2人組になるのか迷っている幼児もおり,「私はだれもいない」と言ったがすぐに相手が見つかり,安心していた。 「あ,これ,けんかした時に仲良しになる時の曲だ。」 講師の歌に合わせて真似をする者が出る。うまく背中合わせになれない幼児に,担任が方法を教える。 繰り返し行うことで,できるようになる。

2人組になれない場合,少し離れて座っている子と組みになってもらうように補助する。

展開5

5.全員で歌う歌 「ところで,12 月といえば,何がある?」 -そう,クリスマスが来るね。 「ある時,クリスマス前にやってきたサンタさんがいました。あわてんぼうのサンタクロースだね。」 -(幼児の歌声に合わせて)「急いでリンリンリン急いでリンリンリン,鳴らしておくれよ鐘をー♪」 「よーし,じゃあその調子で,みんなでピアノに合わせて歌ってみよう。いくよ」(前奏から完璧に弾く)(隠していた鈴を鳴らす) 「何か聴こえてきたね」 「じゃあ,鈴を鳴らしながら歌ってみようか。リンリンリンのところで。」「今日,鈴を鳴らしてくれる人!」 -「一番姿勢の良い人に頼もう。」(歌い終わって,鈴をやってくれた幼児への拍手を促す。)「歌も鈴もみんな上手にできた!すごいね。」 「よし,じゃあ今度は違う歌を歌おう。これからある曲とある曲を2曲弾きます。いいなと思う方を後で聴くから,どちらかに手を挙げてね。よく聴いていないと分からないよ。」「1 曲目」(前奏から1番をピアノ演奏)「2曲目」(1番をピアノ演奏) 「それでは聞きます。最初のがよかった人!」 「では,2曲目がよかった人!」 では,今日は『にじ』を歌ってみよう。―知っているんだね。 (手話つきで歌詞を教える。「しゃべるって何?等」) (『にじ』の最初の8小節のみ4回歌い), 「続きはまた今度歌おうね」

「サンタさん」「プレゼントもらえる」等口々にいう。 講師の話を聞いて,歌い出す。「あわてんぼうのサンタクロース♪クリスマス前にやってきた♪」 「リンリンリン リンリンリン リンリンリン」声を合わせて歌う。 ノリノリで歌い始める。 -「サンタさんの鈴!」 「はい!」と6名程,手が挙がる。 -背筋を伸ばして座り出す。当てられた幼児は,少し誇らしげに鈴をもつ 講師の言葉を聴いて,聴く態度になる。話をする幼児は一人もいない。 -「はい!」と手を耳にあてて真っ直ぐ挙手。9名手が挙がる。 「はい!」と4名手が挙がる。-曲名を聴き,歌い出す幼児あり。 -「スコップみたいなの」

※座位 情景を思い浮かべられるように,ゆっくりと話す。 ピアノが背を向ける形で置いてあるので,後ろにいる幼児に語りかけるように歌う。 鈴を用意する。 鈴の鳴らし方の指導 幼児に曲を選ばせ,自主性や歌ってみたい気持ちを促す。 発表会曲の楽譜を準備。クラス担任の選曲したもの等。 『にじ』の手話を覚えておく。 ピアノの弾き歌い。歌詞のイメージが湧きやすくなるように手話も用いる。

まとめ

終わりのあいさつ 「今日はみんなと会えて音楽を一緒にできてとっても嬉しかったです。また会おうね。ではさようなら」

「ありがとうございました。さようなら。」

※座位 一人一人とハイタッチ。

歌指導の配置は,以前の指導者が行って

いた形を引き継いだ(図1)。指導時間は

30 分間なので,集中力を途切れささずに

気持ちを切り替えられるよう,中間部に手

遊び等を入れて計画したプログラムから,

幼児の反応に合わせて少しずつ声掛けや

進行を変更させていった。幼児が講師と初

対面だったこともあり,全く知らない曲で

はなく,幼児の聞き覚えのある曲や今までに歌ったことのある手遊びを入れた。

手遊びはすぐにできた。『なべなべそこぬけ』の背中合わせになるところでうま

図1.歌指導の配置図

幼児

園長

クラス担任

ピアノ

講師

― 116 ―

Page 10: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

間の関係を考慮し数回だけの練習で終えた。ここで時間を取って全員ができるよう

に促していれば,達成感を味わわせることが可能となったであろう。幼児は講師の

想像以上に反応がよく,講師の話をよく聞いて返答することができた。きっかけの

言葉を投げかけると即時反応する幼児がおり,その幼児に影響されて他の幼児も反

応した。他者とともに活動に参加することで,幼児同士の相互作用が生み出された。

このような幼児と講師,幼児同士の相互作用で生じた会話や掛け合いは,コミュニ

ケーション能力につながる。この保育園では日頃から「座って先生のお話を聞く」「先

生が話している間はおしゃべりしない」等,切り替えや聞く力を身に付ける指導が

なされていたため,初回の指導でもスムーズに進行できたと考えられる。また,幼

児にとって信頼のおける担任が一緒に参加し,見守られ補助されることで,安心し

て活動に取り組めたといえる。「歌唱を上達させる」という目的で指導を依頼されて

いたが,初回なのでコミュニケーションを重視した活動を優先させた。今後も幼児

がよりよい歌声で歌えるように,楽しく学べる発声法等を検討していく必要がある。

Ⅵ 保育関係者へのインタビュー調査 次に,保育関係者へのインタビュー調査を取り上げる。方法は歌に関する語りを

引き出すという大枠のみ設け,自在に語りを展開できる非構造化インタビューで行っ

た。インタビュアーは筆者(筆者の語りは-で記載)である。

1 調査の詳細

2 語りと考察

(1)元保育園長C

語り1:保護者,子ども,先生が一緒の舞台に立つ発表会の実施

くいかない2人組がいたが,時間の関係を考慮し数回だけの練習で終えた。こ

こで時間を取って全員ができるように促していれば,達成感を味わわせること

ができただろう。幼児は講師の想像以上に反応がよく,講師の話をよく聞いて

返答することができた。きっかけの言葉を投げかけると即時反応する幼児がお

り,その幼児に影響されて他の幼児も反応した。他者とともに活動に参加する

ことで,幼児同士の相互作用が生み出された。このような幼児と講師,幼児同

士の相互作用で生じた会話や掛け合いは,コミュニケーション能力につながる。

この保育園では日頃から「座って先生のお話を聞く」「先生が話している間はお

しゃべりしない」等,切り替えや聞く力を身に付ける指導がなされていたため,

初回の指導でもスムーズに進行できたと考えられる。また,幼児にとって信頼

のおける担任が一緒に参加し,見守られ補助されることで,安心して活動に取

り組めたといえる。「歌唱を上達させる」という目的で指導を依頼されていたが,

初回なのでコミュニケーションを重視した活動を優先させた。今後も幼児がよ

りよい歌声で歌えるように楽しく学べる発声法等を検討していく必要がある。

Ⅵ 保育関係者へのインタビュー調査

次に,保育関係者へのインタビュー調査を取り上げる。方法は歌に関する語

りを引き出すという大枠のみ設け,自在に語りを展開できる非構造化インタビ

ューで行った。インタビュアーは筆者(筆者の語りは-で記載)である。

1 調査の詳細 元保育園長 C 元保育士 D 現保育士 E

私立保育園 A に勤続約50 年の実績をもつ。初任時から A に勤務し,2年前に退職後も週に1~2回,同保育園の管理と指導に携わる。約 10 年前から歌唱指導を専門家にお願いしている。その理由として,子ども達や指導する側の保育士の歌が,より豊かな表現へと変わり,情操教育へ発展できると考えたからである。

短大卒業後,公立の保育士試験に一発合格して保育士となった。O 県の公立保育園に 11 年間勤務した。保育士として 20 代を全力で駆け抜け,30 代になってやり切ったという気持ちと能力の限界を感じて退職したが,その後も子育て等で保育士時代に培った技術は生かされている。復帰の予定は今のところはない。

O 県の私立幼稚園に6年間勤務後,現在は病児保育所勤務4年目である。私立幼稚園では新任時から1人担任制であり,年中を3年間,年少を3年間受け持った。病児保育所は病院併設で,病気の幼児を臨時に預かる場所であり,ピアノを弾く機会はないが,保育所内で流されるテレビに合わせて幼児と歌っている。3歳からピアノを習い,中高は吹奏楽部でサックスを担当,ピアノとサックスは現在まで続けている程音楽好きで幼稚園勤務時もピアノ伴奏や歌を得意とした。

日時は 2018 年 12 月 21日 10:00~11:00 の1時間,場所は O 県内の喫茶店で実施した。語りの内容は,元保育園長として,歌の活動を園にどのように取り入れたかを中心に展開していった。

日時は 2018 年 12 月 22 日14:00~16:00 の2時間,場所は O 県内の喫茶店で実施した。語りが雑談へと展開したためインタビュー時間は2時間となった。語りの内容は保育士時代にどのように歌を取り入れたかの話題から展開していった。

日時は 2018 年 12 月 27 日 13:30~15:00 の1時間半,場所は O 県内の喫茶店で実施した。語りの内容は,幼児園教諭時代,歌の活動をどのような場面で取り入れていたか,また,県内の私立幼稚園全体で研究していたリトミックの話へと展開していった。

2 語りと考察

(1)元保育園長 C

語り1:保護者,子ども,先生が一緒の舞台に立つ発表会の実施 C:発表会で B ホールを借りてたから,そこで保護者も 10 人ぐらい出て,職員が 10 人で,一緒に20 人くらいで歌って最後にはそれ(合唱)を必ずしようといってずっとしてたんです。お父さんにも貼ってもらったりしてね。お父さんも入られるとやっぱりいいですね。それで音楽ってこんなに

くいかない2人組がいたが,時間の関係を考慮し数回だけの練習で終えた。こ

こで時間を取って全員ができるように促していれば,達成感を味わわせること

ができただろう。幼児は講師の想像以上に反応がよく,講師の話をよく聞いて

返答することができた。きっかけの言葉を投げかけると即時反応する幼児がお

り,その幼児に影響されて他の幼児も反応した。他者とともに活動に参加する

ことで,幼児同士の相互作用が生み出された。このような幼児と講師,幼児同

士の相互作用で生じた会話や掛け合いは,コミュニケーション能力につながる。

この保育園では日頃から「座って先生のお話を聞く」「先生が話している間はお

しゃべりしない」等,切り替えや聞く力を身に付ける指導がなされていたため,

初回の指導でもスムーズに進行できたと考えられる。また,幼児にとって信頼

のおける担任が一緒に参加し,見守られ補助されることで,安心して活動に取

り組めたといえる。「歌唱を上達させる」という目的で指導を依頼されていたが,

初回なのでコミュニケーションを重視した活動を優先させた。今後も幼児がよ

りよい歌声で歌えるように楽しく学べる発声法等を検討していく必要がある。

Ⅵ 保育関係者へのインタビュー調査

次に,保育関係者へのインタビュー調査を取り上げる。方法は歌に関する語

りを引き出すという大枠のみ設け,自在に語りを展開できる非構造化インタビ

ューで行った。インタビュアーは筆者(筆者の語りは-で記載)である。

1 調査の詳細 元保育園長 C 元保育士 D 現保育士 E

私立保育園 A に勤続約50 年の実績をもつ。初任時から A に勤務し,2年前に退職後も週に1~2回,同保育園の管理と指導に携わる。約 10 年前から歌唱指導を専門家にお願いしている。その理由として,子ども達や指導する側の保育士の歌が,より豊かな表現へと変わり,情操教育へ発展できると考えたからである。

短大卒業後,公立の保育士試験に一発合格して保育士となった。O 県の公立保育園に 11 年間勤務した。保育士として 20 代を全力で駆け抜け,30 代になってやり切ったという気持ちと能力の限界を感じて退職したが,その後も子育て等で保育士時代に培った技術は生かされている。復帰の予定は今のところはない。

O 県の私立幼稚園に6年間勤務後,現在は病児保育所勤務4年目である。私立幼稚園では新任時から1人担任制であり,年中を3年間,年少を3年間受け持った。病児保育所は病院併設で,病気の幼児を臨時に預かる場所であり,ピアノを弾く機会はないが,保育所内で流されるテレビに合わせて幼児と歌っている。3歳からピアノを習い,中高は吹奏楽部でサックスを担当,ピアノとサックスは現在まで続けている程音楽好きで幼稚園勤務時もピアノ伴奏や歌を得意とした。

日時は 2018 年 12 月 21日 10:00~11:00 の1時間,場所は O 県内の喫茶店で実施した。語りの内容は,元保育園長として,歌の活動を園にどのように取り入れたかを中心に展開していった。

日時は 2018 年 12 月 22 日14:00~16:00 の2時間,場所は O 県内の喫茶店で実施した。語りが雑談へと展開したためインタビュー時間は2時間となった。語りの内容は保育士時代にどのように歌を取り入れたかの話題から展開していった。

日時は 2018 年 12 月 27 日 13:30~15:00 の1時間半,場所は O 県内の喫茶店で実施した。語りの内容は,幼児園教諭時代,歌の活動をどのような場面で取り入れていたか,また,県内の私立幼稚園全体で研究していたリトミックの話へと展開していった。

2 語りと考察

(1)元保育園長 C

語り1:保護者,子ども,先生が一緒の舞台に立つ発表会の実施 C:発表会で B ホールを借りてたから,そこで保護者も 10 人ぐらい出て,職員が 10 人で,一緒に20 人くらいで歌って最後にはそれ(合唱)を必ずしようといってずっとしてたんです。お父さんにも入ってもらったりしてね。お父さんも入られるとやっぱりいいですね。それで音楽ってこんなに

― 117 ―

Page 11: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

考察1:発表会では,子どもと保育士だけでなく保護者も参加し,全員で作り上げ

ることで思い出の1ページ作りになったと考えられる。保護者も一体となって発表

会の準備や音楽を行い,音楽の楽しさを実感している。皆で共有できる音楽の醍醐

味や,日頃の音楽指導の成果として,保護者や保育士,子どもの皆が発表会を通し

て達成感や満足感を得たとCが感じ取ったこと,C自身がそのことで音楽の良さを痛

感したこと等があったのであろう。その後,Cが退職するまで,保護者と合同の発表

会は続けられたので,準備等の大変さよりも成果の大きさが上回っていたと考えら

れる。

語り2:歌に興味を示す0歳児

考察2:歌の活動を行っても,幼児によって興味を示す者とそうでない者に分かれる。

歌が嫌な幼児は動き回って落ち着かない様子がみられる。障害の度合いによっては,

歩き回りながら楽しむ者がいることを伝えると,Cは,ある幼児の動きを思い出し,

同意した。また,Cは,0歳児から先生の歌声を聴いて興奮したり手を挙げたりする

様子がみられたことから,O歳児でも歌を聴く力があると主張している。これらの例

からも,0歳児は歌えないが先生の方を見て歌を聴き,歌に興味を示す等,歌う人

の姿を物珍しく見ていることが明らかである。声を聴くだけで0歳児には十分な刺

激になり,そこで歌を聴く機会を多くもった幼児は,次第に歌に興味をもつように

なる。「先生が小さいからってバカにしないという私の信念」とあるが,0歳から一

人間としてよい歌声や音程で歌い掛けることは,乳児への音楽教育で重要な点であ

る。人間の始まり時によりよい音楽を聴いて音感を身に付けることは,音楽の原点

として望ましい形といえる。

語り3:毎月の歌

楽しいんじゃと。最後にね。子ども達もお母さんから見える方に舞台から降ろしてお母さんに見せてやって。それをずっと継続してたんです。それがそのホールを借りられなくなってね。それでやめたんだけど。最後の年は子どもも一緒にお母さんと歌ったりして思い出を作ったんですけど。 -それはなんか,コンサートみたいな形ですか。 いや,発表会で使ったんですよ。そこで私音楽っていいなあって,だから続けてほしかったから。 ―それは何年くらい前からですか。 C:保護者と一緒にするのは5年間くらいやっている。それから退職するまでだから一昨年まで親子と先生と一緒に。(中略)

考察1:発表会では,子どもと保育士だけでなく保護者も参加し,全員で作り

上げることで思い出の1ページ作りになったと考えられる。保護者も一体とな

って発表会の準備や音楽を行い,音楽の楽しさを実感している。皆で共有でき

る音楽の醍醐味や,日頃の音楽指導の成果として,保護者や保育士,子どもの

皆が発表会を通して達成感や満足感をもったと C が感じ取ったこと,C 自身が

そのことで音楽の良さを痛感したこと等があったのだろう。その後,C が退職

するまで,保護者と合同の発表会は続けられたので,準備等の大変さよりも成

果の大きさが上回っていたと考えられる。

語り2:歌に興味を示す0歳児 -今まで先生が歌を活動で取り入れられてこれはよかったみたいなのはありますか。この曲がよかったでも良いし,この子の歌が光るものがあったでもいいですし。 C:子どもって歌を歌ったら落ち着くじゃないですか。それは感じますね。逆に発達障害をもつ子等は一見歌が大嫌いなようにもみえる。あの差が激しいなと感じていました。歌が好きな子はそれで良くなるんだけど,歌が全く嫌な子はその時間いつもうろうろして落ち着かない。ああいう場合はどうすればいいのかというのは常々感じていましたね。 -喜びの表現が違って,歩き回りながら楽しんでいたりというのはあるかもしれませんよね。あっちに行ったりこっちに行ったりしながら耳はちゃんと傾けていたり。 C:そういわれたらそう。その辺を感じましたね。だから,歌は癒してくれるだけではなくて,子どもの発達にものすごく影響するっていうんかな。だから,良いように伸びる子ともう嫌という子がいるんかなとか。でもそれでも癒すんかなってね。それで0歳児でも歌は好きじゃが。 -0歳児は反応はどんな感じですか。 C:歌を聴いたら,身体を揺らしてますよ。 -へー身体を揺らして? C:0歳児クラスも必ず朝歌を歌うんですけど,8か月くらいから座れるようになったら座って。先生の声を聴くだけですよ。歌えるわけじゃないから。先生の声を聴くと興奮したり,時々先生が表現したりするとちょっとこの辺まで手が挙がったり(手を挙げるジェスチャー)。ということは,わかってるっていう訳でしょ。歌えないのにじーっと聞いてますよ。先生の方をじーっと聴いて。それで手遊びなんかが入るとなおさらね。だからやっぱり0(歳)から大事なんですよ。そのために先生がよい声を出すのは必要だと思っている。先生が小さいからってバカにしないという私の信念。わかります?子どもが小さいからって先生がいい加減な音程を取ったらいけんという。そういうところが自分がうるさかったところ。

考察2:歌の活動を行っても,幼児によって興味を示す者とそうでない者に分

かれる。歌が嫌な幼児は動き回って落ち着かない様子がみられる。障害の度合

いによっては,歩き回りながら楽しむ者がいることを伝えると,C は,ある幼

児の動きを思い出し,同意した。また,C は,0歳児から先生の歌声を聴いて

興奮したり手を挙げたりする様子がみられたことから,O 歳児でも歌を聴く力

があると主張している。これらの例からも,0歳児は歌えないが先生の方を見

て歌を聴き,歌に興味を示し,歌う人の姿を物珍しくみていることがわかる。

声を聴くだけ0歳児には十分な刺激になり,そこで歌を聴く機会を多くもった

幼児は,次第に歌に興味をもつようになる。「先生が小さいからってバカにしな

いという私の信念」とあるが,0歳から一人間としてよい歌声や音程で歌い掛

けることは,乳児への音楽教育で重要な点である。人間の始まり時によりよい

音楽を聴いて音感を身に付けることは,音楽の原点として望ましい形といえる。

語り3:毎月の歌 -1日の中で,朝の歌とかあるんですか。D:必ず歌うようにしている。歌を毎月,前はどのクラスも同じ歌にしてたんです。だけど,年齢

楽しいんじゃと。最後にね。子ども達もお母さんから見える方に舞台から降ろしてお母さんに見せてやって。それをずっと継続してたんです。それがそのホールを借りられなくなってね。それでやめたんだけど。最後の年は子どもも一緒にお母さんと歌ったりして思い出を作ったんですけど。 -それはなんか,コンサートみたいな形ですか。 いや,発表会で使ったんですよ。そこで私音楽っていいなあって,だから続けてほしかったから。 ―それは何年くらい前からですか。 C:保護者と一緒にするのは5年間くらいやっている。それから退職するまでだから一昨年まで親子と先生と一緒に。(中略)

考察1:発表会では,子どもと保育士だけでなく保護者も参加し,全員で作り

上げることで思い出の1ページ作りになったと考えられる。保護者も一体とな

って発表会の準備や音楽を行い,音楽の楽しさを実感している。皆で共有でき

る音楽の醍醐味や,日頃の音楽指導の成果として,保護者や保育士,子どもの

皆が発表会を通して達成感や満足感をもったと C が感じ取ったこと,C 自身が

そのことで音楽の良さを痛感したこと等があったのだろう。その後,C が退職

するまで,保護者と合同の発表会は続けられたので,準備等の大変さよりも成

果の大きさが上回っていたと考えられる。

語り2:歌に興味を示す0歳児 -今まで先生が歌を活動で取り入れられてこれはよかったみたいなのはありますか。この曲がよかったでも良いし,この子の歌が光るものがあったでもいいですし。 C:子どもって歌を歌ったら落ち着くじゃないですか。それは感じますね。逆に発達障害をもつ子等は一見歌が大嫌いなようにもみえる。あの差が激しいなと感じていました。歌が好きな子はそれで良くなるんだけど,歌が全く嫌な子はその時間いつもうろうろして落ち着かない。ああいう場合はどうすればいいのかというのは常々感じていましたね。 -喜びの表現が違って,歩き回りながら楽しんでいたりというのはあるかもしれませんよね。あっちに行ったりこっちに行ったりしながら耳はちゃんと傾けていたり。 C:そういわれたらそう。その辺を感じましたね。だから,歌は癒してくれるだけではなくて,子どもの発達にものすごく影響するっていうんかな。だから,良いように伸びる子ともう嫌という子がいるんかなとか。でもそれでも癒すんかなってね。それで0歳児でも歌は好きじゃが。 -0歳児は反応はどんな感じですか。 C:歌を聴いたら,身体を揺らしてますよ。 -へー身体を揺らして? C:0歳児クラスも必ず朝歌を歌うんですけど,8か月くらいから座れるようになったら座って。先生の声を聴くだけですよ。歌えるわけじゃないから。先生の声を聴くと興奮したり,時々先生が表現したりするとちょっとこの辺まで手が挙がったり(手を挙げるジェスチャー)。ということは,わかってるっていう訳でしょ。歌えないのにじーっと聞いてますよ。先生の方をじーっと聴いて。それで手遊びなんかが入るとなおさらね。だからやっぱり0(歳)から大事なんですよ。そのために先生がよい声を出すのは必要だと思っている。先生が小さいからってバカにしないという私の信念。わかります?子どもが小さいからって先生がいい加減な音程を取ったらいけんという。そういうところが自分がうるさかったところ。

考察2:歌の活動を行っても,幼児によって興味を示す者とそうでない者に分

かれる。歌が嫌な幼児は動き回って落ち着かない様子がみられる。障害の度合

いによっては,歩き回りながら楽しむ者がいることを伝えると,C は,ある幼

児の動きを思い出し,同意した。また,C は,0歳児から先生の歌声を聴いて

興奮したり手を挙げたりする様子がみられたことから,O 歳児でも歌を聴く力

があると主張している。これらの例からも,0歳児は歌えないが先生の方を見

て歌を聴き,歌に興味を示し,歌う人の姿を物珍しくみていることがわかる。

声を聴くだけ0歳児には十分な刺激になり,そこで歌を聴く機会を多くもった

幼児は,次第に歌に興味をもつようになる。「先生が小さいからってバカにしな

いという私の信念」とあるが,0歳から一人間としてよい歌声や音程で歌い掛

けることは,乳児への音楽教育で重要な点である。人間の始まり時によりよい

音楽を聴いて音感を身に付けることは,音楽の原点として望ましい形といえる。

語り3:毎月の歌 -1日の中で,朝の歌とかあるんですか。D:必ず歌うようにしている。歌を毎月,前はどのクラスも同じ歌にしてたんです。だけど,年齢

楽しいんじゃと。最後にね。子ども達もお母さんから見える方に舞台から降ろしてお母さんに見せてやって。それをずっと継続してたんです。それがそのホールを借りられなくなってね。それでやめたんだけど。最後の年は子どもも一緒にお母さんと歌ったりして思い出を作ったんですけど。 -それはなんか,コンサートみたいな形ですか。 いや,発表会で使ったんですよ。そこで私音楽っていいなあって,だから続けてほしかったから。 ―それは何年くらい前からですか。 C:保護者と一緒にするのは5年間くらいやっている。それから退職するまでだから一昨年まで親子と先生と一緒に。(中略)

考察1:発表会では,子どもと保育士だけでなく保護者も参加し,全員で作り

上げることで思い出の1ページ作りになったと考えられる。保護者も一体とな

って発表会の準備や音楽を行い,音楽の楽しさを実感している。皆で共有でき

る音楽の醍醐味や,日頃の音楽指導の成果として,保護者や保育士,子どもの

皆が発表会を通して達成感や満足感をもったと C が感じ取ったこと,C 自身が

そのことで音楽の良さを痛感したこと等があったのだろう。その後,C が退職

するまで,保護者と合同の発表会は続けられたので,準備等の大変さよりも成

果の大きさが上回っていたと考えられる。

語り2:歌に興味を示す0歳児 -今まで先生が歌を活動で取り入れられてこれはよかったみたいなのはありますか。この曲がよかったでも良いし,この子の歌が光るものがあったでもいいですし。 C:子どもって歌を歌ったら落ち着くじゃないですか。それは感じますね。逆に発達障害をもつ子等は一見歌が大嫌いなようにもみえる。あの差が激しいなと感じていました。歌が好きな子はそれで良くなるんだけど,歌が全く嫌な子はその時間いつもうろうろして落ち着かない。ああいう場合はどうすればいいのかというのは常々感じていましたね。 -喜びの表現が違って,歩き回りながら楽しんでいたりというのはあるかもしれませんよね。あっちに行ったりこっちに行ったりしながら耳はちゃんと傾けていたり。 C:そういわれたらそう。その辺を感じましたね。だから,歌は癒してくれるだけではなくて,子どもの発達にものすごく影響するっていうんかな。だから,良いように伸びる子ともう嫌という子がいるんかなとか。でもそれでも癒すんかなってね。それで0歳児でも歌は好きじゃが。 -0歳児は反応はどんな感じですか。 C:歌を聴いたら,身体を揺らしてますよ。 -へー身体を揺らして? C:0歳児クラスも必ず朝歌を歌うんですけど,8か月くらいから座れるようになったら座って。先生の声を聴くだけですよ。歌えるわけじゃないから。先生の声を聴くと興奮したり,時々先生が表現したりするとちょっとこの辺まで手が挙がったり(手を挙げるジェスチャー)。ということは,わかってるっていう訳でしょ。歌えないのにじーっと聞いてますよ。先生の方をじーっと聴いて。それで手遊びなんかが入るとなおさらね。だからやっぱり0(歳)から大事なんですよ。そのために先生がよい声を出すのは必要だと思っている。先生が小さいからってバカにしないという私の信念。わかります?子どもが小さいからって先生がいい加減な音程を取ったらいけんという。そういうところが自分がうるさかったところ。

考察2:歌の活動を行っても,幼児によって興味を示す者とそうでない者に分

かれる。歌が嫌な幼児は動き回って落ち着かない様子がみられる。障害の度合

いによっては,歩き回りながら楽しむ者がいることを伝えると,C は,ある幼

児の動きを思い出し,同意した。また,C は,0歳児から先生の歌声を聴いて

興奮したり手を挙げたりする様子がみられたことから,O 歳児でも歌を聴く力

があると主張している。これらの例からも,0歳児は歌えないが先生の方を見

て歌を聴き,歌に興味を示し,歌う人の姿を物珍しくみていることがわかる。

声を聴くだけ0歳児には十分な刺激になり,そこで歌を聴く機会を多くもった

幼児は,次第に歌に興味をもつようになる。「先生が小さいからってバカにしな

いという私の信念」とあるが,0歳から一人間としてよい歌声や音程で歌い掛

けることは,乳児への音楽教育で重要な点である。人間の始まり時によりよい

音楽を聴いて音感を身に付けることは,音楽の原点として望ましい形といえる。

語り3:毎月の歌 -1日の中で,朝の歌とかあるんですか。D:必ず歌うようにしている。歌を毎月,前はどのクラスも同じ歌にしてたんです。だけど,年齢

― 118 ―

Page 12: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

考察3:月の歌を歌うと決め,以前は全年齢が同じ歌であったが,現在は年齢に応

じた歌を担任が選曲して指導している。曲を全て歌わせるか,どこまでをどのよう

に歌わせるか目標を定めることで,指導者側の意気込みや幼児の成果の向上が考え

られる。目標をどの程度クリアできているかはこの語り内では示されてはいないが,

何回歌ったからよいではなく,中身を深めていくことに重きを置いていた。また,

この語りの後に語られた保育士のピアノ技術の力量について,例えば,保育士が,

幼児が歌いたくなるようなピアノを弾くことで,幼児の歌自体にもまとまりが出る

と実感していることも窺えた。

(2)元保育士D

語り4:クラスで扱う歌選び

考察4:公立保育園の場合,歌の選択は担任に任されている。その際,男女比,担

任の好み,子どもの興味等で歌を選曲する。園の方針によって歌を選ぶということ

ではなく,保育書に載っている曲や季節の歌の定番曲を歌う等,歌の選択は担任の

裁量による。私立保育園等は園の方針があるところが多いので,公立とはその点が

異なる。

語り5:新しい歌を教える時の工夫

考察5:歌を教えていく手順についての語りである。文字が読めるようになる5歳

児には,歌詞カードを提示する。文字理解に個人差はあるが,文字を読めない幼児

は読める幼児の歌声を聴いて覚える。幼児はすぐに覚えられるので,特性を生かし

に合った歌があると気が付いて,同じ歌を全クラス(全年齢)に歌わせるのは無理よと。それで,各クラスで年齢に応じた歌を入れましょうって。同じ歌になってもいいんですよ。2歳3歳はこの歌が合うとか変えて,今は決めた以上は1ヶ月で歌のねらいがあるじゃないですか,先生によって。この歌は完全に歌わせるとか,ここまでは歌わせたいとか。そしたら,1 ヶ月その目標をもってしてもらわないと,ただ歌いました,今月何回歌った?じゃいけないと。毎日歌う。(中略:保育士のピアノ技術の話題)

考察3:月の歌を歌うと決め,以前は全年齢で同じ歌であったが,現在は年齢

に応じた歌を担任が選曲して指導している。曲を全て歌わせるか,どこまでを

どのように歌わせるか目標を定めることで,指導者側の意気込みや幼児の成果

の向上が考えられる。目標をどの程度クリアできているかはこの語り内では示

されてはいないが,何回歌ったからよいではなく,中身を深めていくことに重

きを置いていることがわかった。また,この語りの後に語られた保育士のピア

ノ技術の力量について,例えば保育士が,幼児が歌いたくなるようなピアノを

弾くことで,幼児の歌自体にもまとまりが出ると実感していることも窺えた。

(2)元保育士 D

語り4:クラスで扱う歌選び D:朝の歌とかやっていたけど,そこに重きを置いていたわけではない。-音楽の中でいろいろ活動があるけど,自分で教材を選ぶの?それぞれのクラスで。 D:うん。担任が選ぶ。例えば,男の子と女の子の割合で,女の子がすごい多いのに乗物系の歌だったらそこまで食いついて来ないだろうし,その逆もなんかあるだろうし。子どもの興味とかを考えて,担任が選ぶ。季節の歌,例えば『こいのぼり』とか『ひなまつり』とかいうのは,基本歌う。あとの曲は担任の好みと子どもの興味。その歌自体,曲名自体を園の方針として歌いなさいということはない。園歌くらいかな。園の方針として歌っておこうというのは。あとは,保育書の中には毎月こういう歌がありますよという参考の歌があって,楽譜とかもついている。それを歌ったりもした。

考察4:公立保育園の場合,歌の選択は担任に任されている。その際,男女比,

担任の好み,子どもの興味等で歌を選曲する。園の方針によって歌を選ぶとい

うことではなく,保育書に載っている曲や季節の歌の定番曲を歌う等,歌の選

択は担任の裁量によることがわかった。私立保育園等は園の方針があるところ

が多いので,公立とはその点が異なる。

語り5:新しい歌を教える時の工夫 -歌う時はどういう感じで歌う?例えば初めての曲だったら?D:オルガンを弾きながら,その先生によって,主旋律を弾きながらまずは先生が歌ってあげる。CD があれば CD をかけるけど。ピアノが上手な先生とかはすごいよね。 -それを歌って,子どもは結構すぐに覚えた? D:大きいクラスの子は,歌詞カードとか模造紙に,5歳だったりしたら読めるから,読める子は見て歌う。読める子が見て歌っているのを,読めない子はそれを聴いて歌う。子どもって頭がいいから,すぐに覚える。ちっちゃいクラスはそこまで難しい歌は歌わないから,それこそ定番の曲は。 -定番の曲ってどういう曲? D:季節の歌。『シャボン玉』とか『かえるの歌』もそうだし。そういうすぐ覚えられる歌。小さいクラスの子に,例えば『手の平を太陽に』みたいな歌は歌わさない。年齢に応じて。情景が目に浮かんですぐ覚えられるような歌,繰り返しだったりとか。『どんぐりころころ』なんかはイメージが湧くでしょ。しかも,小さいクラスだったら,ペープサートでどんぐりとかどじょうとか。それでこうやってやれば(手で表現)お池にはまってとかを見せながら先生が歌うと,子どもは余裕で覚えちゃう。その教材がペープサートでもあるし,絵本やかみしばい,パネルシアターとかそういう視覚に訴えるもの。そういうものと合わせてやると,余裕で覚える。3歳以上4,5歳になると,先生が歌っているのを聞いて覚えていくっていうのもできる。でも,やっぱり先生が歌いながら見せるというのはあったほうがいい。例えば『はたらくくるま』ってわかる? -わかる。あれは大人でもわからなくなる。 D:そういう時には,先に画像で用意しといて,そういうのを先行して見せてあげといたら,歌詞が間違わずにすむ。発表会とかはそういうのをする。発表会の時は先生が指揮者として正面にいる。見えるところで先生が出すみたいな感じ。

考察5:歌を教えていく手順についての語りである。文字が読めるようになる

5歳児には,歌詞カードを提示する。文字理解に個人差はあるが,文字を読め

ない幼児は読める幼児の歌声を聴いて覚える。幼児はすぐに覚えられるので,

特性を生かした教え方をする。また,歌の選曲は年齢に応じる。年齢の低い幼

に合った歌があると気が付いて,同じ歌を全クラス(全年齢)に歌わせるのは無理よと。それで,各クラスで年齢に応じた歌を入れましょうって。同じ歌になってもいいんですよ。2歳3歳はこの歌が合うとか変えて,今は決めた以上は1ヶ月で歌のねらいがあるじゃないですか,先生によって。この歌は完全に歌わせるとか,ここまでは歌わせたいとか。そしたら,1 ヶ月その目標をもってしてもらわないと,ただ歌いました,今月何回歌った?じゃいけないと。毎日歌う。(中略:保育士のピアノ技術の話題)

考察3:月の歌を歌うと決め,以前は全年齢で同じ歌であったが,現在は年齢

に応じた歌を担任が選曲して指導している。曲を全て歌わせるか,どこまでを

どのように歌わせるか目標を定めることで,指導者側の意気込みや幼児の成果

の向上が考えられる。目標をどの程度クリアできているかはこの語り内では示

されてはいないが,何回歌ったからよいではなく,中身を深めていくことに重

きを置いていることがわかった。また,この語りの後に語られた保育士のピア

ノ技術の力量について,例えば保育士が,幼児が歌いたくなるようなピアノを

弾くことで,幼児の歌自体にもまとまりが出ると実感していることも窺えた。

(2)元保育士 D

語り4:クラスで扱う歌選び D:朝の歌とかやっていたけど,そこに重きを置いていたわけではない。-音楽の中でいろいろ活動があるけど,自分で教材を選ぶの?それぞれのクラスで。 D:うん。担任が選ぶ。例えば,男の子と女の子の割合で,女の子がすごい多いのに乗物系の歌だったらそこまで食いついて来ないだろうし,その逆もなんかあるだろうし。子どもの興味とかを考えて,担任が選ぶ。季節の歌,例えば《こいのぼり》とか《ひなまつり》とかいうのは,基本歌う。あとの曲は担任の好みと子どもの興味。その歌自体,曲名自体を園の方針として歌いなさいということはない。園歌くらいかな。園の方針として歌っておこうというのは。あとは,保育書の中には毎月こういう歌がありますよという参考の歌があって,楽譜とかもついている。それを歌ったりもした。

考察4:公立保育園の場合,歌の選択は担任に任されている。その際,男女比,

担任の好み,子どもの興味等で歌を選曲する。園の方針によって歌を選ぶとい

うことではなく,保育書に載っている曲や季節の歌の定番曲を歌う等,歌の選

択は担任の裁量によることがわかった。私立保育園等は園の方針があるところ

が多いので,公立とはその点が異なる。

語り5:新しい歌を教える時の工夫 -歌う時はどういう感じで歌う?例えば初めての曲だったら?D:オルガンを弾きながら,その先生によって,主旋律を弾きながらまずは先生が歌ってあげる。CD があれば CD をかけるけど。ピアノが上手な先生とかはすごいよね。 -それを歌って,子どもは結構すぐに覚えた? D:大きいクラスの子は,歌詞カードとか模造紙に,5歳だったりしたら読めるから,読める子は見て歌う。読める子が見て歌っているのを,読めない子はそれを聴いて歌う。子どもって頭がいいから,すぐに覚える。ちっちゃいクラスはそこまで難しい歌は歌わないから,それこそ定番の曲は。 -定番の曲ってどういう曲? D:季節の歌。《シャボン玉》とか《かえるの歌》もそうだし。そういうすぐ覚えられる歌。小さいクラスの子に,例えば《手の平を太陽に》みたいな歌は歌わさない。年齢に応じて。情景が目に浮かんですぐ覚えられるような歌,繰り返しだったりとか。《どんぐりころころ》なんかはイメージが湧くでしょ。しかも,小さいクラスだったら,ペープサートでどんぐりとかどじょうとか。それでこうやってやれば(手で表現)お池にはまってとかを見せながら先生が歌うと,子どもは余裕で覚えちゃう。その教材がペープサートでもあるし,絵本やかみしばい,パネルシアターとかそういう視覚に訴えるもの。そういうものと合わせてやると,余裕で覚える。3歳以上4,5歳になると,先生が歌っているのを聞いて覚えていくっていうのもできる。でも,やっぱり先生が歌いながら見せるというのはあったほうがいい。例えば《はたらくくるま》ってわかる? -わかる。あれは大人でもわからなくなる。 D:そういう時には,先に画像で用意しといて,そういうのを先行して見せてあげといたら,歌詞が間違わずにすむ。発表会とかはそういうのをする。発表会の時は先生が指揮者として正面にいる。見えるところで先生が出すみたいな感じ。

考察5:歌を教えていく手順についての語りである。文字が読めるようになる

5歳児には,歌詞カードを提示する。文字理解に個人差はあるが,文字を読め

ない幼児は読める幼児の歌声を聴いて覚える。幼児はすぐに覚えられるので,

特性を生かした教え方をする。また,歌の選曲は年齢に応じる。年齢の低い幼

に合った歌があると気が付いて,同じ歌を全クラス(全年齢)に歌わせるのは無理よと。それで,各クラスで年齢に応じた歌を入れましょうって。同じ歌になってもいいんですよ。2歳3歳はこの歌が合うとか変えて,今は決めた以上は1ヶ月で歌のねらいがあるじゃないですか,先生によって。この歌は完全に歌わせるとか,ここまでは歌わせたいとか。そしたら,1 ヶ月その目標をもってしてもらわないと,ただ歌いました,今月何回歌った?じゃいけないと。毎日歌う。(中略:保育士のピアノ技術の話題)

考察3:月の歌を歌うと決め,以前は全年齢で同じ歌であったが,現在は年齢

に応じた歌を担任が選曲して指導している。曲を全て歌わせるか,どこまでを

どのように歌わせるか目標を定めることで,指導者側の意気込みや幼児の成果

の向上が考えられる。目標をどの程度クリアできているかはこの語り内では示

されてはいないが,何回歌ったからよいではなく,中身を深めていくことに重

きを置いていることがわかった。また,この語りの後に語られた保育士のピア

ノ技術の力量について,例えば保育士が,幼児が歌いたくなるようなピアノを

弾くことで,幼児の歌自体にもまとまりが出ると実感していることも窺えた。

(2)元保育士 D

語り4:クラスで扱う歌選び D:朝の歌とかやっていたけど,そこに重きを置いていたわけではない。-音楽の中でいろいろ活動があるけど,自分で教材を選ぶの?それぞれのクラスで。 D:うん。担任が選ぶ。例えば,男の子と女の子の割合で,女の子がすごい多いのに乗物系の歌だったらそこまで食いついて来ないだろうし,その逆もなんかあるだろうし。子どもの興味とかを考えて,担任が選ぶ。季節の歌,例えば《こいのぼり》とか《ひなまつり》とかいうのは,基本歌う。あとの曲は担任の好みと子どもの興味。その歌自体,曲名自体を園の方針として歌いなさいということはない。園歌くらいかな。園の方針として歌っておこうというのは。あとは,保育書の中には毎月こういう歌がありますよという参考の歌があって,楽譜とかもついている。それを歌ったりもした。

考察4:公立保育園の場合,歌の選択は担任に任されている。その際,男女比,

担任の好み,子どもの興味等で歌を選曲する。園の方針によって歌を選ぶとい

うことではなく,保育書に載っている曲や季節の歌の定番曲を歌う等,歌の選

択は担任の裁量によることがわかった。私立保育園等は園の方針があるところ

が多いので,公立とはその点が異なる。

語り5:新しい歌を教える時の工夫 -歌う時はどういう感じで歌う?例えば初めての曲だったら?D:オルガンを弾きながら,その先生によって,主旋律を弾きながらまずは先生が歌ってあげる。CD があれば CD をかけるけど。ピアノが上手な先生とかはすごいよね。 -それを歌って,子どもは結構すぐに覚えた? D:大きいクラスの子は,歌詞カードとか模造紙に,5歳だったりしたら読めるから,読める子は見て歌う。読める子が見て歌っているのを,読めない子はそれを聴いて歌う。子どもって頭がいいから,すぐに覚える。ちっちゃいクラスはそこまで難しい歌は歌わないから,それこそ定番の曲は。 -定番の曲ってどういう曲? D:季節の歌。《シャボン玉》とか《かえるの歌》もそうだし。そういうすぐ覚えられる歌。小さいクラスの子に,例えば《手の平を太陽に》みたいな歌は歌わさない。年齢に応じて。情景が目に浮かんですぐ覚えられるような歌,繰り返しだったりとか。《どんぐりころころ》なんかはイメージが湧くでしょ。しかも,小さいクラスだったら,ペープサートでどんぐりとかどじょうとか。それでこうやってやれば(手で表現)お池にはまってとかを見せながら先生が歌うと,子どもは余裕で覚えちゃう。その教材がペープサートでもあるし,絵本やかみしばい,パネルシアターとかそういう視覚に訴えるもの。そういうものと合わせてやると,余裕で覚える。3歳以上4,5歳になると,先生が歌っているのを聞いて覚えていくっていうのもできる。でも,やっぱり先生が歌いながら見せるというのはあったほうがいい。例えば《はたらくくるま》ってわかる? -わかる。あれは大人でもわからなくなる。 D:そういう時には,先に画像で用意しといて,そういうのを先行して見せてあげといたら,歌詞が間違わずにすむ。発表会とかはそういうのをする。発表会の時は先生が指揮者として正面にいる。見えるところで先生が出すみたいな感じ。

考察5:歌を教えていく手順についての語りである。文字が読めるようになる

5歳児には,歌詞カードを提示する。文字理解に個人差はあるが,文字を読め

ない幼児は読める幼児の歌声を聴いて覚える。幼児はすぐに覚えられるので,

特性を生かした教え方をする。また,歌の選曲は年齢に応じる。年齢の低い幼

― 119 ―

Page 13: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

た教え方をする。また,歌の選曲は年齢に応じる。年齢の低い幼児へは,イメージ

しやすく旋律の繰り返しが多い曲にする。教える際にペープサート等の視覚情報で

働き掛けると,頭に浮かぶイメージと実際に見るイメージが重なって覚えやすい。

文字の理解が難しい幼児であっても,視覚,聴覚情報,イメージと組み合わせるこ

とで容易に覚えられる。発表会で歌詞の内容が1番と2番で変わるような曲をする

ことになっても,指揮者の保育士が提示しながら歌えば,幼児も歌詞の内容を視覚

からも思い出しながら歌うことができる。保育士が日々工夫して歌を提供している

ことが示された。

語り6:歌う時の声掛け①

考察6:幼児の声の出し方について,詳細に語っている。幼児が叫ぶように歌うのは,

保育士が「もっと大きな声で」と誘導する時等に起こる。Dによると,幼児は「大きい声」

の意味がわからず,大きい声を叫び声と捉える。「大きい」のニュアンスをわかりや

すく伝えるために指導者側は表現方法を考える必要がある。「小さい声」は「優しい声」

「ありさんの声」等に言い換えられるが,「大きい声」を「ぞうさんの声」等に例えても,

叫び声が収まるか定かでない。Dは「優しく歌おうね」「きれいに歌おうね」等と声

掛けの表現を工夫したところ幼児の声が変化したといい,声掛け表現次第で幼児は

理解し,歌声を変えられることが明らかになった。

(3)現役保育士E

語り7:歌う時の声掛け②

考察7:語り6と同様に「大きい声」の出し方について言及した。保育士は幼児の

歌声の音程や声量をどのように指導すべきかの悩みを抱えていた。その回答はリト

ミック研究では明確に示されなかったが,目標の所まで声が届くように歌う,口を

開けて上を向いて歌う等,幼児が理解しやすい表現で「大きい声」のニュアンスを

伝えていた。「きれいな声」のニュアンスを伝えるのも難しいが,ハミングの練習を

児へは,イメージしやすく旋律の繰り返しが多い曲にする。また,教える際に

ペープサート等の視覚情報で働き掛けると,頭に浮かぶイメージと実際に見る

イメージが重なって覚えやすい。文字の理解が難しい幼児であっても,視覚,

聴覚情報,イメージと組み合わせることで容易に覚えられる。発表会で歌詞の

内容が1番と2番で変わるような曲をすることになっても,指揮者の保育士が

提示しながら歌えば,幼児も歌詞の内容を視覚からも思い出しながら歌うこと

ができる。保育士が日々工夫して歌を提供していることがわかった。

語り6:歌う時の声掛け① -歌の高音を叫んだりする,子どもって。あれは,普通に出てくるものかな?D:いがる(大きな声で叫ぶ)とか?声が小さかったりすると,先生が「もっと大きく」とかはっぱをかけるわけ。「もっと大きい声で」とか。たぶんその「大きい声で」の意味が子ども達にはわからない。とりあえず出せばいいのねという感じで出すという感じなんだろうね。その時も「優しく歌おうね」とか「きれいな声で歌おうね」という声掛けはもちろんする。 -そしたら変わった? D:変わる。

考察6:幼児の声の出し方について,詳細に語っている。幼児が叫ぶように歌

うのは,保育士が「もっと大きな声で」と誘導する時等に起こる。D によると,

幼児は「大きい声」の意味がわからず,大きい声を叫び声と捉える。「大きい」

のニュアンスをわかりやすく伝えるために指導者側は表現方法を考える必要が

ある。「小さい声」は「優しい声」「ありさんの声」等に言い換えられるが,「大

きい声」を「ぞうさんの声」等に例えても,叫び声が収まるか定かでない。D は

「優しく歌おうね」「きれいに歌おうね」等と声掛けの表現を工夫したところ幼

児の声が変化したといい,声掛け表現次第で幼児は理解し,歌声を変えられる

ことが明らかになった。

(3)現役保育士 E

語り7:歌う時の声掛け② E:リトミックの研究の時に,「大きい声を出そうといったらいがって(叫んで)しまうんですけど,「どうしたらいいですか」とか「きれいな声だけど声量が出ないけどどうしたらいいか」とかいう相談を投げかける場面があった。どうしたらよいかっていう悩みをもった先生は結構おられることがわかった。ちっちゃい学年の子は卒業式で歌う時とかどうしたらいいかなっていうのはあった。音程が取れないとか。すごい元気に歌うけど,同じ一定の音程で。 ―そういうのはどうだった? E:それも,答えはあったと思うんですけど。 ―大きい声とかって,結構表現が難しいなと思って。「ぞうさんの声」とか。小さい声だったら「アリさんの声」とか「ささやく声」とか言えると思うけど,大きい声って結構難しいよね。 E:発表会の練習で,私たち保育士がステージに立って,お遊戯室の後ろに非常灯があったんですよ。「あそこに届くくらいしっかりと声を出そうね」とか,目標があればいいのかなと。口をしっかり開けるとか上を向いて歌うとか。 ―そういう時にでも大きい声を出したり叫んだりするような子がいたら?「叫ばない」と言うこともある? E:「叫ばない」ですよね。でも,「叫ばない」がわからないですよね。(リトミックの研究資料を見ながら)これですね。きれいな声で歌いましょうっていうのが難しい。3本の指が(口に)入るようにとか,いがらずに(叫ばずに)歌うようにとか。4歳児ですね。口を開けず,口の中でハミングの練習をするんでしょうね。(中略)よく言っていたのが,叫んでいる子には「聞こえてるから大丈夫よ!」って。 ―そういう言い方もいいよね。

考察7:語り6と同様に「大きい声」の出し方について言及した。保育士は幼

児の歌声の音程や声量をどのように指導すべきかの悩みを抱えていた。その回

答はリトミック研究では明確に示されなかったが,目印まで声が届くように歌

う,口を開けて上を向いて歌う等,幼児が理解しやすい表現で「大きい声」の

ニュアンスを伝えていた。「きれいな声」のニュアンスを伝えるのも難しいが,

児へは,イメージしやすく旋律の繰り返しが多い曲にする。また,教える際に

ペープサート等の視覚情報で働き掛けると,頭に浮かぶイメージと実際に見る

イメージが重なって覚えやすい。文字の理解が難しい幼児であっても,視覚,

聴覚情報,イメージと組み合わせることで容易に覚えられる。発表会で歌詞の

内容が1番と2番で変わるような曲をすることになっても,指揮者の保育士が

提示しながら歌えば,幼児も歌詞の内容を視覚からも思い出しながら歌うこと

ができる。保育士が日々工夫して歌を提供していることがわかった。

語り6:歌う時の声掛け① -歌の高音を叫んだりする,子どもって。あれは,普通に出てくるものかな?D:いがる(大きな声で叫ぶ)とか?声が小さかったりすると,先生が「もっと大きく」とかはっぱをかけるわけ。「もっと大きい声で」とか。たぶんその「大きい声で」の意味が子ども達にはわからない。とりあえず出せばいいのねという感じで出すという感じなんだろうね。その時も「優しく歌おうね」とか「きれいな声で歌おうね」という声掛けはもちろんする。 -そしたら変わった? D:変わる。

考察6:幼児の声の出し方について,詳細に語っている。幼児が叫ぶように歌

うのは,保育士が「もっと大きな声で」と誘導する時等に起こる。D によると,

幼児は「大きい声」の意味がわからず,大きい声を叫び声と捉える。「大きい」

のニュアンスをわかりやすく伝えるために指導者側は表現方法を考える必要が

ある。「小さい声」は「優しい声」「ありさんの声」等に言い換えられるが,「大

きい声」を「ぞうさんの声」等に例えても,叫び声が収まるか定かでない。D は

「優しく歌おうね」「きれいに歌おうね」等と声掛けの表現を工夫したところ幼

児の声が変化したといい,声掛け表現次第で幼児は理解し,歌声を変えられる

ことが明らかになった。

(3)現役保育士 E

語り7:歌う時の声掛け② E:リトミックの研究の時に,「大きい声を出そうといったらいがって(叫んで)しまうんですけど,「どうしたらいいですか」とか「きれいな声だけど声量が出ないけどどうしたらいいか」とかいう相談を投げかける場面があった。どうしたらよいかっていう悩みをもった先生は結構おられることがわかった。ちっちゃい学年の子は卒業式で歌う時とかどうしたらいいかなっていうのはあった。音程が取れないとか。すごい元気に歌うけど,同じ一定の音程で。 ―そういうのはどうだった? E:それも,答えはあったと思うんですけど。 ―大きい声とかって,結構表現が難しいなと思って。「ぞうさんの声」とか。小さい声だったら「アリさんの声」とか「ささやく声」とか言えると思うけど,大きい声って結構難しいよね。 E:発表会の練習で,私たち保育士がステージに立って,お遊戯室の後ろに非常灯があったんですよ。「あそこに届くくらいしっかりと声を出そうね」とか,目標があればいいのかなと。口をしっかり開けるとか上を向いて歌うとか。 ―そういう時にでも大きい声を出したり叫んだりするような子がいたら?「叫ばない」と言うこともある? E:「叫ばない」ですよね。でも,「叫ばない」がわからないですよね。(リトミックの研究資料を見ながら)これですね。きれいな声で歌いましょうっていうのが難しい。3本の指が(口に)入るようにとか,いがらずに(叫ばずに)歌うようにとか。4歳児ですね。口を開けず,口の中でハミングの練習をするんでしょうね。(中略)よく言っていたのが,叫んでいる子には「聞こえてるから大丈夫よ!」って。 ―そういう言い方もいいよね。

考察7:語り6と同様に「大きい声」の出し方について言及した。保育士は幼

児の歌声の音程や声量をどのように指導すべきかの悩みを抱えていた。その回

答はリトミック研究では明確に示されなかったが,目印まで声が届くように歌

う,口を開けて上を向いて歌う等,幼児が理解しやすい表現で「大きい声」の

ニュアンスを伝えていた。「きれいな声」のニュアンスを伝えるのも難しいが,

― 120 ―

Page 14: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

する等,合唱でも用いる練習方法を実施していた。保育士の助言によって,幼児は「大

きい声」がただ叫ぶ声ではないこと,「きれいな声」を出すにはどうしたらよいか等

を学んでいくことが明らかになった。

語り8:クラスで歌ったお決まりの歌

考察8:Eは担任を受け持ちながら,自分流で歌をクラスに取り入れていった。毎年「○

○さん」「はあい」の歌活動を朝と帰りの時間に決まって行い,最初はピアノを使わ

ずに歌い方を教え,毎日歌いながら徐々にピアノ伴奏をつけていった。Eは,幼児が

徐々にできるようになったり,ピアノの音を聴くだけで反応したりすることに成長

を感じた。この活動の場合,返事の練習だけでなく,復習や即時反応,リズム練習

等の要素を含むので,活動の継続が幼児の瞬発力の強化にもつながっていったと考

えられる。

Ⅵ 総括と今後の課題 ここでは,本論の総括的考察を試みる。本研究の目的は,現在,幼児期に扱われ

る歌の種類や特徴を調査し,その傾向を見出すこと,幼児への歌唱指導の活動実践

記録を考察し,幼児の特徴や指導法を示すこと,保育関係者へのインタビューから

幼児の歌の活動に関する考え方を明らかにすることであった。

 まず,幼児期に扱われる歌に関しては,次の3点が明らかになった。①幼児の曲

は多様化しており,歌の流行に沿って変化している一方,童謡やわらべ歌,季節の

歌等,昔から歌い継がれる曲も多く残っている。②「あ」行で始まる歌が多い。③

曲の表題や歌詞の内容は,季節を表す歌,物語性のある歌,生活習慣を学ぶ歌,お

とぎ話の歌,架空の生き物の歌,語呂合わせや言葉並びのユニークな歌,「色合いを

想像しやすい物の歌,身体に関する歌,身体の動きを促す歌,擬人化された動物や

果物が登場する歌,家族に関する歌,数字や野菜,果物,食べ物等の物の名前を覚

えるための歌等,多様に分類できる。これらの分類は,時代の流れによって今後も

拡がりをみせると考えられた。逆に忘れ去られていく歌もあり,いつまでそれらを

継承できるかは,幼児の指導や支援に関わる大人や地域の伝統継承にも関連するで

あろう。

 次に,幼児への歌唱指導実践の中で,幼児への歌唱指導中に幼児から発せられた

ハミングの練習をする等,合唱でも用いる練習方法を用いていた。保育士の助

言によって,幼児は「大きい声」がただ叫ぶ声ではないこと,「きれいな声」を

出すにはどうしたらよいか等を学んでいくことがわかった。

語り8:クラスで歌ったお決まりの歌 ―歌の活動の中で,これが思い出に残っているとかありますか。E:最初にクラスをもった時は,私のクラスはこういうのをやるっていうのがあったらいいなと思って。実習とかでたぶん勉強したからだと思うんですけど,「○○さん」「はあい」とか,「クラスの男の子」「はあい」とか,「朝ごはん食べた人」とか「はみがきした人」とか「お外で遊んだ人」とか。誰がちゃんとしているか見て一瞬でわかりづらいんですけど,「あ,私今日これやるの忘れた」とかいう風に反応できる感じで,朝と帰りに必ず歌ってたんですよ。 ―じゃあ,朝は朝の生活習慣みたいなのを聞いて? E:時間がなかったら「男の子女の子」ぐらいしか言わないですけど。そのピアノを始めたらみんな「始まる!」と思ってこっちに集中できるんで。チャンチャンチャンチャン(ピアノの音)「はい,座って座って」って言いながら。2小節間ぐらいは決まった前奏があるんで。 ―じゃあ,その音が聴こえたら,「あー」っとなるという感じで? E:はい。ふふふ。 ―それで,帰りは一日の流れの中のことを聞くとか?先生も頭を使うね。今日何やったかって。聴くことを考えていないといけんし。 E:「お遊戯室行った人」「はあい」「ねんねした人」「はあい」みたいな。 それとか一番最初に全く初めての時はピアノ無しで「これから聞くから,○○した人は,はあいって手を叩いてお返事してね」って言ってたのが,毎日やってたらわかってくるので,2月3月になったら普通に「行くよ!」という感じでできるようになる。そういった一年の成長をみているのも嬉しい。

考察8:E は担任を受け持ちながら,自分流で歌をクラスに取り入れていった。

毎年「○○さん」「はあい」の歌活動を朝と帰りの時間に決まって行い,最初は

ピアノを使わずに歌い方を教え,毎日歌いながら徐々にピアノ伴奏をつけてい

った。E は,幼児が徐々にできるようになったり,ピアノの音を聴くだけで反

応したりすることに成長を感じた。この活動の場合,返事の練習だけでなく,

復習や即時反応,リズム練習等の要素を含むので,活動の継続が幼児の瞬発力

の強化にもつながっていったと考えられる。

Ⅵ 総括と今後の課題

ここでは,本論の総括的考察を試みる。本研究の目的は,現在幼児期に扱わ

れる歌の種類や特徴を調査し,その傾向を見出すこと,幼児への歌唱指導の活

動実践記録を考察し,幼児の特徴や指導法を示すこと,保育関係者へのインタ

ビューから幼児の歌の活動に関する考え方を明らかにすることであった。

まず,幼児期に扱われる歌に関しては,次の3点が明らかになった。①幼児

の曲は多様化しており,歌の流行に沿って変化している一方,童謡やわらべ歌,

季節の歌等,昔から歌い継がれる曲も多く残っている。②「あ」行で始まる歌

が多い。③曲の表題や歌詞の内容は,季節を表す歌,物語性のある歌,生活習

慣を学ぶ歌,おとぎ話の歌,架空の生き物の歌,語呂合わせや言葉並びのユニ

ークな歌,「色合いを想像しやすい物の歌,身体に関する歌,身体の動きを促す

歌,擬人化された動物や果物が登場する歌,家族に関する歌,数字や野菜,果

物,食べ物等の物の名前を覚えるための歌等,多様に分類できる。これらの分

類は,時代の流れによって今後も拡がりをみせると考えられた。逆に忘れ去ら

れていく歌もあり,いつまでそれらを継承できるかは,幼児の指導や支援に関

わる大人や地域の伝統継承にも関連するだろう。

次に,幼児への歌唱指導実践の中で,幼児への歌唱指導中に幼児から発せら

― 121 ―

Page 15: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

山下 世史佳・虫明 眞砂子

声や反応が周りの幼児にも影響し,歌の活動が活発になった事例があったことから,

幼児の理解の速さや感受性の深さが明らかになった。今後も指導内容とそれに対す

る幼児の反応を詳細に記録することで,改善すべき点が浮かび上がると考える。さ

らに,保育関係者へのインタビューからは,幼児が耳にしたフレーズを日常的に歌

うことが明らかになった。幼児は園の行事での発表時だけでなく日常の多様な場面

で,保育士や友達とともに歌っていた。どこかで耳にしたフレーズや教わった曲を,

自分流のリズムやテンポで歌うのである。これら歌うことの関係性の基本形は,大

人になっても変わらない。幼児の語彙力は発達段階であっても,幼児期は物事をス

トレートに吸収できる時期と捉えられる。幼児期は微妙なニュアンスを捉える力は

弱いかもしれないが,言葉を純粋にキャッチする力は強い。幼児が大人から求めら

れる「大きい声」「きれいな声」がどのような声かを理解するには多少時間を要するが,

幼児期の言葉を純粋にキャッチする力を生かし,幼児の特性に応じた声掛けをする

と効果が出ていた。今後も幼児の年齢に応じた歌の取り入れ,幼児の特性に応じた

声掛け等,柔軟で細部まで配慮された指導や援助が必要である。

 大きく変化していく生活環境や社会において,幼児向け音楽の多様化は,今後急

速なスピードで進んでいくと思われる。しかし,幼稚園教育要領にも示されている

ように,幼児が生活を楽しみながら成長していくうえで,歌の活動が幼児の成長に

与える影響は計り知れない。今後は,長期的に幼児の歌の活動に関わり,心身の成

長を促す歌や活動方法について,さらに検討していく。

謝辞 本研究において調査協力に快諾いただいた保育関係者の皆様に,心より御礼申し

上げます。

参考・引用文献(1)幼稚園教育要領 www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/you/nerai.

htm(2019年1月3日採取)

(2)谷田貝公昭監修,渡辺厚美・岡崎裕美編著『コンパクト版保育内容シリーズ⑤

 音楽表現』,一藝社,p.71,2018.

(3)日本学校音楽教育実践学会編『音楽教育実践学事典』,音楽之友社,p.252,

2017.

(4)日本学校音楽教育実践学会編,同上,p.252.

(5)山下世史佳・市村暁子・松本健義「認知症高齢者の歌との関わりによる語り

の表出と自己の生成-音楽療法後の歌に関する語りから-」『対人援助学研究』7,

pp.55-70,2018.

(6)ガハプカ奈美「保育者養成における歌唱指導について(Ⅰ):発声法の重要性」『京

都女子大学発達教育学部紀要』4,pp.55-62,2008.

(7)長川慶「幼児への発声指導の実践と考察」『岐阜聖徳学園大学教育学部教育実

践科学研究センター紀要』17,pp.187-194,2018.

(8)木村はるみ・蔵田友子『うたおうあそぼうわらべうた-乳児・幼児・学童との

― 122 ―

Page 16: 幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/56546/...などする。 (6)音楽に親しみ,歌を歌ったり,簡単なリズム楽器を使ったり,飾ったりなどする。

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

幼児期の音楽表現活動における歌唱の役割

関わり方』雲母書房,p.63,2009.

(9)CD『よいこのどうようベスト』,King Records,2004.

(10)CD『赤ちゃんのためのどうよう』,日本クラウン,2010.

(11)CD『おやこのどうよう』,King Records,2008.

(12)CD『日本のあそびうた』,日本クラウン,2004.

(13)『こどもとうたうあそびうた決定版』,シンコーミュージックエンタテイメント,

2016.

(14)『こどもとうたう3~6才のうた2017』,シンコーミュージック,2017.

(15)『こどもとうたうそつえん式・ともだちのうた決定版』,シンコーミュージック

2016.

(16)『こどもとうたうみんなのリクエストソング』,シンコーミュージック,2013.

(17)『こどもとうたう春・夏・秋・冬一年行事のうた』,シンコーミュージック,

2012.

(18)『こどもとうたうたのしい童謡100』,シンコーミュージック,2014.

(19)『こどもとうたう親子に人気のうた』,シンコーミュージック,2014.

(20)『こどもとうたうきみへのメッセージソング』,シンコーミュージック,2015.

(21)安永憲一郎『日本童謡名曲選』,ドレミ楽譜出版社,2001.

(22)竹村欣治『子どもがときめく人気曲&どうようでリトミック』,2017.

(23)山下浩『こどものうた大百科』,2015.

(24)井上明美『使えるネタセレクション5 保育の“ワイワイ”うたあそび』,自

由現代社,2013.

(25)河北邦子・坂本久美子編著『幼稚園・保育所・家庭で楽しくうたあそび

123』,ミネルヴァ書房,2017.

(26)小林美実編著『こどものうた200』,チャイルド本社,2006.

(27)小林美実編著『続こどものうた200』,チャイルド本社,1996.

(28)井上勝義『年齢別声域配慮版こどものうた12 ヶ月』,ひかりのくに,2008.

                                     

A Role of Singing in Expressive Activities of Music during Early Childhood

Yoshika YAMASHITA*1, Masako MUSHIAKI*2

Keywords: early childhood, songs, singing activities, childcare, singing instruction

*1 Graduates of Doctoral program student of the Joint Graduate School in

Science of School Education, Hyogo University of Teacher Education

*2 Graduate School of Education, Okayama University

                                     

― 123 ―