「責任ある機関投資家」の諸原則 - financial services agency · 2020-03-24 ·...

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「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ ~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~ スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(令和元年度) 2020年3月24日 2014 年 2 月 26 日 策定 2017 年 5 月 29 日 改訂

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「責任ある機関投資家」の諸原則

≪日本版スチュワードシップ・コード≫

~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~

スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(令和元年度)

2020年 3月 24日

2014年 2月 26日 策定

2017年 5月 29日 改訂

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スチュワードシップ・コードの再改訂に当たって

2020年3月 24日

スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会(令和元年度)

一 経緯

1. 2014 年 2 月 26 日に、「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討

会」によりスチュワードシップ・コードが策定され、その後、2017年 5月 29日に、

「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」によって同コードが改訂さ

れてから約 3年が経過した。これまで、スチュワードシップ・コードの受入れを表

明した機関投資家は 280を超えるに至り、また、2018年 6月には、コーポレートガ

バナンス・コードも改訂された。両コードの下で、コーポレートガバナンス改革に

は一定の進捗が見られるものの、より実効性を高めるべきではないか、との指摘も

なされている。

2. こうした中、2019年 4月 24日、金融庁・東京証券取引所に設置された「スチュ

ワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」

(以下、「フォローアップ会議」という。)において、「コーポレートガバナンス改革

の更なる推進に向けた検討の方向性」と題する意見書(以下、「意見書」という。)

が公表された。意見書においては、コーポレートガバナンス改革の実効性を高める

ためには、投資家と企業の対話の質の向上が必要であるほか、議決権行使助言会社

や年金運用コンサルタントなどによる機関投資家への助言やサポートがインベス

トメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう促すことが重要である

とされ、スチュワードシップ・コードの更なる改訂が提言された。

3. 意見書を受け、金融庁において、2019年 10月から計 3回にわたり、「スチュワー

ドシップ・コードに関する有識者検討会」(令和元年度)(以下、前出の「日本版ス

チュワードシップ・コードに関する有識者検討会」、「スチュワードシップ・コード

に関する有識者検討会」と併せ、「本検討会」という。)を開催し、コード改訂に向

けた議論を重ねた。こうした議論を踏まえ、同検討会はスチュワードシップ・コー

ド改訂案を取りまとめてこれを公表し、広く各界の意見を求めた。

寄せられた意見を検討の上、今般スチュワードシップ・コード再改訂版(以下、

「本コード再改訂版」という。)を公表する。

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二 本コード再改訂版の主なポイントとその考え方

1. 意見書においては、

・ 運用機関における議決権行使に係る賛否の理由や、対話活動及びその結果や自

己評価等に関する説明・情報提供の充実

・ ESG要素等を含むサステナビリティを巡る課題に関する対話における目的の意

・ 企業年金のスチュワードシップ活動の後押し

・ 議決権行使助言会社における体制整備、それを含む助言策定プロセスの具体的

公表、企業との積極的な意見交換

・ 年金運用コンサルタントにおける利益相反管理体制の整備やその取組状況に

ついての説明等

についての提言がなされており、今回の検討会では、これらの内容について議論を

行い、新たに本コード再改訂版に盛り込むこととした。

2. さらに、同検討会の議論の過程では、意見書の提言に係る論点以外についても、

以下のような指摘がなされた。

・ スチュワードシップ活動が、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に

結び付くよう意識して行われることが重要ではないか。

・ ESG要素を考慮することは、事業におけるリスクの減少のみならず収益機会に

もつながる。また、昨今の世界における ESGを巡る動きの急速な変化に鑑みれば、

こうした変化自体がリスクや収益機会に影響を及ぼし得る。こうしたことを踏ま

えれば、ESG要素を含むサステナビリティに関する課題についても、投資プロセ

スに組み込むことが有益ではないか。

・ コードが中長期的な企業価値の向上を目的としていることや、株主と債券保有

者とで利益相反関係に陥るケースがあること等には留意が必要であるが、上場株

式以外の債券等の資産に投資する機関投資家においては、当該資産にコードを適

用することが有益な場合もあるのではないか。

・ 年金運用コンサルタントに限らず、機関投資家をサポートする役割を負う者は、

利益相反管理等を行うべきではないか。

こうした指摘を踏まえ、上記の事項についても議論をした上で、議論の結果を本コ

ード再改訂版に盛り込んだところである。

なお、アセットオーナーが、運用機関のスチュワードシップ活動の取組状況につ

いて報告を受ける際に、共通様式を用いる民間団体の取組みについても紹介がされ

たところである。アセットオーナーの実効的なスチュワードシップ活動の支援に向

けて、こうした動きが民間団体においても進むことが望まれる。その際には、モニ

タリングを形式化させずに「質」を高めるよう意識することが重要である。

そのほか、議論の過程で以下のような指摘がなされた。今後実態も踏まえて本検

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討会において検討していくことが必要であると考えられるが、金融庁においても検

討を進めることが期待される。

・ パッシブ運用が広まる中で、いかにしてエンゲージメントの充実化を図るか、

について考えるべきではないか。

・ 金融庁が公表している「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた

法的論点に係る考え方の整理」では、現状行うことができる協働エンゲージメン

トの範囲が明確でないとの声もあるため、その対応を検討する必要があるのでは

ないか。

三 パブリックコメントを踏まえた対応

1. 本コード再改訂版の取りまとめに当たっては、策定時・改訂時と同様に、和英両

文によるパブリックコメントを実施し、和文については 44 の個人・団体から、英

訳版については 23 の個人・団体から意見が寄せられた。検討会においては、これ

らについても検討を行い、下記のように本コード再改訂版の取りまとめに反映させ

ていただいた。

2. パブリックコメントにおいては、

・ 脚注9の「本コードは、基本的には、基金型・規約型の確定給付企業年金及び

厚生年金基金を対象にすることを念頭に置いている」という記述につき、本コー

ドの対象を企業年金等に限定するように誤解されかねないとのご指摘

・ 脚注 15 の機関投資家が投資先企業と対話を行うに当たって自らがどの程度株

式を保有しているかを説明することが望ましい旨の記述につき、株式を少数しか

持っていない投資家が建設的な対話に応じてもらえなくなるおそれがあるなど

のご指摘

・ 指針8-3の「議決権行使助言会社は、企業の開示情報のみに基づくばかりで

なく、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである」

という記述につき、開示情報のみに基づく判断では不十分で、必ず企業と意見交

換をしなければならないかのように受け止められる懸念があるなどのご指摘

がそれぞれ寄せられた。これらのコメントを踏まえ、本コード再改訂版では、脚注

9、脚注 15及び指針8-3をご指摘の趣旨を反映して修正した。

3. パブリックコメントではそのほかにも、

・ 議決権行使助言会社が指針8-2及び8-3に沿った取組みを行うためには、

企業においても株主総会の開催時期の分散、株主総会資料の早期開示や開示の充

実等に取り組むべき

・ 内部監査のコーポレートガバナンスにおける重要性に鑑み、機関投資家は内部

監査部門の整備・活用状況についても把握すべき

・ 政策保有株式の更なる縮減に向けた取組みを進めるべき

・ 企業年金の実効的なスチュワードシップ活動のためには、母体企業において利

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益相反管理に努めることが重要

などのご意見が寄せられたところである。

これらの課題については、今後実態も踏まえながら、フォローアップ会議や金融

庁を含む関係者において更に検討を進めることが期待される。

4. 本検討会は、現在コードを受け入れている機関投資家等に対して、本コード再改

訂版公表の遅くとも6ヶ月後(2020年9月末)までに、改訂内容に対応した公表項

目の更新(及び更新を行った旨の公表と金融庁への通知)を行うことを期待する。

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「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ について

本コードにおいて、「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業や

その事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素

を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲ

ージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことによ

り、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。以下同じ。)の中長期的な投資リターンの拡

大を図る責任を意味する。

本コードは、機関投資家が、顧客・受益者と投資先企業の双方を視野に入れ、「責任

ある機関投資家」として当該スチュワードシップ責任を果たすに当たり有用と考えら

れる諸原則を定めるものである。本コードに沿って、機関投資家が適切にスチュワー

ドシップ責任を果たすことは、経済全体の成長にもつながるものである。

経緯及び背景

1. 2012年 12月、我が国経済の再生に向けて、円高・デフレから脱却し強い経済を

取り戻すため、政府一体となって、必要な経済対策を講じるとともに成長戦略を実

現することを目的として、内閣に「日本経済再生本部」が設置された。また、2013

年 1月、同本部の下に、我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具

現化と推進について調査審議するため、「産業競争力会議」が設置された。同会議

における議論を踏まえ、日本経済再生本部において、本部長である内閣総理大臣よ

り、「内閣府特命担当大臣(金融)は、関係大臣と連携し、企業の持続的な成長を促

す観点から、幅広い範囲の機関投資家が適切に受託者責任を果たすための原則のあ

り方について検討すること。」との指示がなされた1。

2. 以上の経緯を経て、2013年 6月、いわゆる「第三の矢」としての成長戦略を定め

る「日本再興戦略」において、「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長

を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)」、

すなわち「企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い機関投資家が企業との建設

的な対話を行い、適切に受託者責任を果たすための原則」について検討を進め、年

内に取りまとめることが閣議決定された。

3. 前記の総理指示及び閣議決定を踏まえた検討の場として、2013年 8月、金融庁に

おいて「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が設置された。

同検討会は、同年 8月から計 6回にわたり議論を重ね、2014年 2月 26日、「『責任

ある機関投資家』の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ 」を策定した。

なお、コードの取りまとめに当たっては、和英両文によるパブリックコメントを実

1 日本経済再生本部 第 6回会合(2013年 4月 2 日)

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施し、和文については 26の個人・団体から、英訳版については 19の個人・団体か

ら充実した意見が寄せられた。同検討会は、これらについても議論を行い、コード

の取りまとめに反映した。

4. その後、本コード及びコーポレートガバナンス・コード(2015年 6月 1日適用開

始、2018 年 6 月 1 日改訂)を軸とするコーポレートガバナンス改革の実効性を高

めるため、金融庁・東京証券取引所により設置された「スチュワードシップ・コー

ド及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、「フォロー

アップ会議」という。)において、2016年 11月、「機関投資家による実効的なスチ

ュワードシップ活動のあり方」と題する意見書が公表された。当該意見書を受け、

「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が開催され、2017 年 5 月

29日、本コードの改訂を行った。

上記改訂の後も、フォローアップ会議においては、コーポレートガバナンス改革

の深化に向けた取組みについて議論が続けられ、2019 年 4 月 24 日、「コーポレー

トガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性」と題する意見書が公表され

た。当該意見書を受け、「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(令

和元年度)が開催され、2019年 10月から計 3回にわたり議論を重ね、2020年 3月

24日、本コードを再改訂した。

本コードの目的

5. 冒頭に掲げたように、本コードにおいて、「スチュワードシップ責任」とは、機

関投資家が、投資先の日本企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略

に応じたサステナビリティの考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲ

ージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことに

より、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味する。本コ

ードは、機関投資家が、顧客・受益者と投資先企業の双方を視野に入れ、「責任あ

る機関投資家」として当該「スチュワードシップ責任」を果たすに当たり有用と考

えられる諸原則を定めるものである。

6. 一方で、企業の側においては、コーポレートガバナンス・コードに示されている

ように、経営の基本方針や業務執行に関する意思決定を行う取締役会が、経営陣に

よる執行を適切に監督しつつ、適切なガバナンス機能を発揮することにより、企業

価値の向上を図る責務を有している。企業側のこうした責務と本コードに定める機

関投資家の責務とは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切に相まって質の高い

コーポレートガバナンスが実現され、企業の持続的な成長と顧客・受益者の中長期

的な投資リターンの確保が図られていくことが期待される。本コードは、こうした

観点から、機関投資家と投資先企業との間で建設的な「目的を持った対話」(エン

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ゲージメント)が行われることを促すものであり、機関投資家が投資先企業の経営

の細部にまで介入することを意図するものではない2。

7. また、スチュワードシップ責任を果たすための機関投資家の活動(以下、「スチ

ュワードシップ活動」という。)において、議決権の行使は重要な要素ではあるも

のの、当該活動は単に議決権の行使のみを意味するものと理解すべきではない。ス

チュワードシップ活動は、機関投資家が、投資先企業の持続的成長に向けてスチュ

ワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を適切に把握することや、

これを踏まえて当該企業と建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を

行うことなどを含む、幅広い活動を指すものである3。

8. 本コードにおいて、機関投資家は、資金の運用等を受託し自ら企業への投資を担

う「資産運用者としての機関投資家」(以下、「運用機関」という。)である場合と、

当該資金の出し手を含む「資産保有者としての機関投資家」(以下、「アセットオー

ナー」という。)である場合とに大別される。

このうち、運用機関には、投資先企業との日々の建設的な対話等を通じて、当該

企業の企業価値の向上に寄与することが期待される。

また、アセットオーナーには、スチュワードシップ責任を果たす上での基本的な

方針を示した上で、自ら、あるいは委託先である運用機関の行動を通じて、投資先

企業の企業価値の向上に寄与することが期待される。

運用機関は、アセットオーナーの期待するサービスを提供できるよう、その意向

の適切な把握などに努めるべきであり、また、アセットオーナーは、運用機関の評

価に当たり、短期的な視点のみに偏ることなく、本コードの趣旨を踏まえた評価に

努めるべきである。

機関投資家による実効性のある適切なスチュワードシップ活動は、最終的には顧

客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を目指すものである。したがって、ス

チュワードシップ活動の実施に伴う適正なコストは、投資に必要なコストであると

いう意識を、機関投資家と顧客・受益者の双方において共有すべきである。

9. また、議決権行使助言会社や年金運用コンサルタントなど、機関投資家から業務

の委託等を受け、機関投資家が実効的なスチュワードシップ活動を行うことに資す

るサービスを提供している主体(以下、「機関投資家向けサービス提供者」という。)

には、顧客・受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れ(インベストメント・

チェーン)全体の機能向上のために重要な役割を果たすことが期待されている。本

コードの原則8は、機関投資家向けサービス提供者に適用されるものであるほか、

2 また、本コードは、保有株式を売却することが顧客・受益者の利益に適うと考えられる場合に売却を行うことを否定するものではない。

3 金融庁において、2014年 2月、機関投資家と投資先企業との対話の円滑化を図るため、大量保有報告制度や公開買付制度等に係る法的論点について、「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」を公表し、解釈の明確化を図っている(http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/legalissue.pdf)。

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その他の原則(指針を含む)も、原則8と矛盾しない範囲で機関投資家向けサービ

ス提供者に適用される。

10. 本コードは、基本的に、機関投資家が日本の上場株式に投資を行う場合を念頭に

置いているが、本コードの冒頭に掲げる「スチュワードシップ責任」の遂行に資す

る限りにおいて、他の資産に投資を行う場合にも適用することが可能である。

「プリンシプルベース・アプローチ」及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」

11. 本コードに定める各原則の適用の仕方は、各機関投資家(機関投資家向けサービ

ス提供者を含む。以下この前文において同じ。)が自らの置かれた状況に応じて工

夫すべきものである。本コードの履行の態様は、例えば、機関投資家の規模や運用

方針(長期運用であるか短期運用であるか、アクティブ運用であるかパッシブ運用

であるか等)などによって様々に異なり得る。

12. こうした点に鑑み、本コードは、機関投資家が取るべき行動について詳細に規定

する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、機関投資家が各々の置

かれた状況に応じて、自らのスチュワードシップ責任をその実質において適切に果

たすことができるよう、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)

を採用している。

「プリンシプルベース・アプローチ」の意義は、一見、抽象的で大掴みな原則(プ

リンシプル)について、関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有した上で、

各自、自らの活動が、形式的な文言・記載ではなく、その趣旨・精神に照らして真

に適切か否かを判断することにある。機関投資家が本コードを踏まえて行動するに

当たっては、こうした「プリンシプルベース・アプローチ」の意義を十分に踏まえ

ることが望まれる。

13. 本コードは、法令とは異なり、法的拘束力を有する規範ではない。本検討会は、

本コードの趣旨に賛同しこれを受け入れる用意がある機関投資家に対して、その旨

を表明(公表)することを期待する。

14. その上で、本コードは、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を

実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用している。

すなわち、本コードの原則の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切

でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することに

より、一部の原則を実施しないことも想定している。したがって、前記の受入れ表

明(公表)を行った機関投資家であっても、全ての原則を一律に実施しなければな

らない訳ではないことには注意を要する。ただし、当然のことながら、機関投資家

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は、当該説明を行う際には、実施しない原則に係る自らの対応について、顧客・受

益者の理解が十分に得られるよう工夫すべきである。

機関投資家のみならず、顧客・受益者の側においても、当該手法の趣旨を理解し、

本コードの受入れを表明(公表)した機関投資家の個別の状況を十分に尊重するこ

とが望まれる。本コードの各原則の文言・記載を表面的に捉え、その一部を実施し

ていないことのみをもって、機械的にスチュワードシップ責任が果たされていない

と評価することは適切ではない。

なお、原則を実施しつつ、併せて自らの具体的な取組みについて積極的に説明を

行うことも、顧客・受益者から十分な理解を得る観点からは、有益であると考えら

れる。

15. 本検討会は、本コードの受入れ状況を可視化するため、本コードを受け入れる機

関投資家に対して、

・ 以下を自らのウェブサイトで公表すること

- 「コードを受け入れる旨」(受入れ表明)

- 「コードの各原則(指針を含む)に基づく公表項目」

① スチュワードシップ責任を果たすための方針などコードの各原則(指

針を含む)において公表が求められている具体的項目

② 実施しない原則(指針4を含む)がある場合には、その理由の説明

・ 当該公表項目について、毎年、見直し・更新を行うこと(更新を行った場合に

は、その旨も公表すること)

・ 当該公表を行ったウェブサイトのアドレス(URL)を金融庁に通知すること

を期待する。

また、本検討会は、当該通知を受けた金融庁に対して、当該公表を行った機関投

資家について、一覧性のある形で公表を行うことを期待する。

16. 本検討会は、機関投資家による本コードの実施状況(受入れ・公表を含む)や国

際的な議論の動向等も踏まえ、本コードの内容の更なる改善が図られていくことを

期待する。このため、本検討会は、金融庁に対して、おおむね 3年毎を目途として

本コードの定期的な見直しを検討するなど、適切な対応をとることを期待する。こ

うした見直しが定期的に行われることにより、機関投資家やその顧客・受益者にお

いて、スチュワードシップ責任に対する認識が一層深まり、本コードが我が国にお

いて更に広く定着していく効果が期待できるものと考えられる。

4 指針の中には、一定の事項が「重要である」とするなど、必ずしも一定の行動を取るべき(取

るべきでない)旨が明示されていないものがあり、こうした指針については、必ずしも、実施

しない理由を説明することを求めるものではない。

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本コードの原則

投資先企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図

るために、

1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針

を策定し、これを公表すべきである。

2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利

益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシッ

プ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきであ

る。

4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通

じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努める

べきである。

5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針

を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基

準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとな

るよう工夫すべきである。

6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をど

のように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対

して定期的に報告を行うべきである。

7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業

やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステ

ナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ

活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

8. 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシッ

プ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメン

ト・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきであ

る。

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原則1 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定

し、これを公表すべきである。

指針

1-1. 機関投資家は、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦

略に応じたサステナビリティ(ESG 要素5を含む中長期的な持続可能性)6の考

慮に基づく建設的な「目的を持った対話」7(エンゲージメント)などを通じて、

当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、顧客・受益者

の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきである。

1-2. 機関投資家は、こうした認識の下、スチュワードシップ責任を果たすための

方針、すなわち、スチュワードシップ責任をどのように考え、その考えに則っ

て当該責任をどのように果たしていくのか、また、顧客・受益者から投資先企

業へと向かう投資資金の流れ(インベストメント・チェーン)の中での自らの

置かれた位置を踏まえ、どのような役割を果たすのかについての明確な方針を

策定し、これを公表すべきである8。

その際、運用戦略に応じて、サステナビリティに関する課題をどのように考

慮するかについて、検討を行った上で当該方針において明確に示すべきである。

5 ガバナンス及び社会・環境に関する事項を指す。 6 2015年 9月の国連サミットにおいて 17の目標等から構成される「持続可能な開発目標」

(SDGs)が採択されている。 7 「目的を持った対話」とは、「中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、

その持続的成長を促すことを目的とした対話」を指す(原則4の指針4-1参照)。 8 当該方針の内容は、各機関投資家の業務の違いにより、例えば、主として運用機関としての

業務を行っている機関投資家と、主としてアセットオーナーとしての業務を行っている機関投

資家とでは、自ずと異なり得る。

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1-3. アセットオーナー9,10は、最終受益者の視点を意識しつつ、その利益の確保の

ため、自らの規模や能力等に応じ、運用機関による実効的なスチュワードシッ

プ活動が行われるよう、運用機関に促すべきである11。アセットオーナーが直

接、議決権行使を伴う資金の運用を行う場合には、自らの規模や能力等に応じ、

自ら投資先企業との対話等のスチュワードシップ活動に取り組むべきである。

1-4. アセットオーナーは、自らの規模や能力等に応じ、運用機関による実効的な

スチュワードシップ活動が行われるよう、運用機関の選定や運用委託契約の締

結に際して、議決権行使を含め、スチュワードシップ活動に関して求める事項

や原則を運用機関に対して明確に示すべきである。特に大規模なアセットオー

ナーにおいては、インベストメント・チェーンの中での自らの置かれている位

置・役割を踏まえ、運用機関の方針を検証なく単に採択するのではなく、スチ

ュワードシップ責任を果たす観点から、自ら主体的に検討を行った上で、運用

機関に対して議決権行使を含むスチュワードシップ活動に関して求める事項

や原則を明確に示すべきである。

1-5. アセットオーナーは、自らの規模や能力等に応じ、運用機関のスチュワード

シップ活動が自らの方針と整合的なものとなっているかについて、運用機関の

自己評価なども活用しながら、実効的に運用機関に対するモニタリングを行う

べきである12。このモニタリングに際しては、運用機関と投資先企業との間の

対話等のスチュワードシップ活動の「質」に重点を置くべきであり、運用機関

と投資先企業との面談回数・面談時間や議決権行使の賛否の比率等の形式的な

確認に終始すべきではない。

9 本コードは、アセットオーナーである企業年金について、基本的には、基金型・規約型の確

定給付企業年金及び厚生年金基金を対象とすることを念頭に置いている。なお、規約型の確

定給付企業年金は、母体企業と法人格は一体であるものの、母体企業としてではなく、企業

年金として本コードを受け入れることが想定されている。 10 コーポレートガバナンス・コード(2018年 6月 1日改訂)の原則2-6において、企業年

金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、母体企業による人事面・運

営面でのサポートが求められている。 11 アセットオーナーである企業年金が直接、議決権行使を伴う資金の運用を行わない場合

は、まずは運用機関に対して本コードの対応状況を確認するなどの、自らの規模や能力等に

応じた取組みを行うことが想定されている。特に対話(原則4)及び議決権の行使と行使結

果等の公表(原則5)については、必ずしも企業年金がこれらを行うことを想定したもので

はない。 12 運用機関が投資先企業との間で建設的な対話を含む実効的なスチュワードシップ活動を行

っているかを確認することが有効であり、必ずしも個別の詳細な指示を行うことまでを求め

るものではない。

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原則2 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反

について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

指針

2-1. 機関投資家は顧客・受益者の利益を第一として行動すべきである。一方で、

スチュワードシップ活動を行うに当たっては、自らが所属する企業グループと

顧客・受益者の双方に影響を及ぼす事項について議決権を行使する場合など、

利益相反の発生が避けられない場合がある。機関投資家は、こうした利益相反

を適切に管理することが重要である。

2-2. 機関投資家は、こうした認識の下、あらかじめ想定し得る利益相反の主な類

型について、これをどのように実効的に管理するのかについての明確な方針を

策定し、これを公表すべきである。

特に、運用機関は、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じ

得る局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避し、その影響を実効的

に排除するなど、顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な

方針を策定し、これを公表すべきである。

2-3. 運用機関は、顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止のため、例えば、独

立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などの

ガバナンス体制を整備し、これを公表すべきである。

2-4. 運用機関の経営陣は、自らが運用機関のガバナンス強化・利益相反管理に関

して重要な役割・責務を担っていることを認識し、これらに関する課題に対す

る取組みを推進すべきである。

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原則3 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任

を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。

指針

3-1. 機関投資家は、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、

その持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企

業の状況を的確に把握することが重要である。

3-2. 機関投資家は、こうした投資先企業の状況の把握を継続的に行うべきであり、

また、実効的な把握ができているかについて適切に確認すべきである。

3-3. 把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、

資本構造、事業におけるリスク・収益機会(社会・環境問題に関連するものを

含む)及びそうしたリスク・収益機会への対応など、非財務面の事項を含む様々

な事項が想定されるが、特にどのような事項に着目するかについては、機関投

資家ごとに運用戦略には違いがあり、また、投資先企業ごとに把握すべき事項

の重要性も異なることから、機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に

照らし、自ら判断を行うべきである。その際、投資先企業の企業価値を毀損す

るおそれのある事項については、これを早期に把握することができるよう努め

るべきである。

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原則4 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、

投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

指針

4-1. 機関投資家は、中長期的視点から投資先企業の企業価値及び資本効率を高め、

その持続的成長を促すことを目的とした対話13を、投資先企業との間で建設的

に行うこと14,15を通じて、当該企業と認識の共有16,17を図るよう努めるべきであ

る。なお、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、当該企業

の企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明

を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に

努めるべきである18。

4-2. 機関投資家は、サステナビリティを巡る課題に関する対話に当たっては、運

用戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的成長に結び付く

ものとなるよう意識すべきである。

4-3. パッシブ運用は、投資先企業の株式を売却する選択肢が限られ、中長期的な

企業価値の向上を促す必要性が高いことから、機関投資家は、パッシブ運用を

行うに当たって、より積極的に中長期的視点に立った対話や議決権行使に取り

組むべきである。

4-4. 以上を踏まえ、機関投資家は、実際に起こり得る様々な局面に応じ、投資先

企業との間でどのように対話を行うのかなどについて、あらかじめ明確な方針

を持つべきである19。

13 その際、対話を行うこと自体が目的であるかのような「形式主義」に陥ることのないよう留意すべきである。

14 機関投資家内部において、投資先企業との対話を行う専担部署がある場合には、その他の

部署との連携を図ることが重要である。 15 株式保有の多寡にかかわらず、機関投資家と投資先企業との間で建設的な対話が行われる

べきであるが、機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、自らがどの程度

投資先企業の株式を保有しているかについて企業に対して説明することが望ましい場合もあ

る。 16 認識の共有には、機関投資家と投資先企業との間で意見が一致しない場合において、不一致の理由やお互いの意見の背景について理解を深めていくことも含まれる。

17 例えばガバナンス体制構築状況(独立役員の活用を含む)や事業ポートフォリオの見直し

等の経営上の優先課題について投資先企業との認識の共有を図るために、業務の執行には携

わらない役員(独立社外取締役・監査役等)との間で対話を行うことも有益であると考えら

れる。 18 当該企業との対話の内容等を踏まえ、更に深い対話を行う先を選別することも考えられる。 19 当該方針の内容は、例えば、主として運用機関としての業務を行っている機関投資家と、主としてアセットオーナーとしての業務を行っている機関投資家とでは、自ずと異なり得る。

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4-5. 機関投資家が投資先企業との間で対話を行うに当たっては、単独でこうした

対話を行うほか、必要に応じ、他の機関投資家と協働して対話を行うこと(協

働エンゲージメント)が有益な場合もあり得る20。

4-6. 一般に、機関投資家は、未公表の重要事実を受領することなく、公表された

情報をもとに、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を行うことが可

能である。また、「G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則」や、これを踏ま

えて策定された東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」は、企

業の未公表の重要事実の取扱いについて、株主間の平等を図ることを基本とし

ている。投資先企業と対話を行う機関投資家は、企業がこうした基本原則の下

に置かれていることを踏まえ、当該対話において未公表の重要事実を受領する

ことについては、基本的には慎重に考えるべきである21。

20 この点に関連し、2014年 2月に公表された金融庁の「日本版スチュワードシップ・コードの策定を踏まえた法的論点に係る考え方の整理」(http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/legalissue.pdf)〔再掲〕は、具体的にどのような場合に大量保有報告制度における「共同保有者」(及び公開買付制度における「特別関係者」)に該当するかについて、解釈の明確化を図っている。

21 その上で、投資先企業との特別な関係等に基づき未公表の重要事実を受領する場合には、当

該企業の株式の売買を停止するなど、インサイダー取引規制に抵触することを防止するための

措置を講じた上で、当該企業との対話に臨むべきである。

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原則5 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つ

とともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまる

のではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきで

ある。

指針

5-1. 機関投資家は、すべての保有株式について議決権を行使するよう努めるべき

であり、議決権の行使に当たっては、投資先企業の状況や当該企業との対話の

内容等を踏まえた上で、議案に対する賛否を判断すべきである。

5-2. 機関投資家は、議決権の行使についての明確な方針を策定し、これを公表す

べきである22。当該方針は、できる限り明確なものとすべきであるが、単に形

式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するもの

となるよう工夫すべきである。

5-3. 機関投資家は、議決権の行使結果を、少なくとも議案の主な種類ごとに整理・

集計して公表すべきである。

また、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすための方針に沿って適

切に議決権を行使しているか否かについての可視性をさらに高める観点から、

機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表す

べきである23。それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別の投資先企

業及び議案ごとに議決権の行使結果を公表することが必ずしも適切でないと

考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきである。

議決権の行使結果を公表する際、機関投資家が議決権行使の賛否の理由につ

いて対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資すると考えられ

る。特に、外観的に利益相反が疑われる議案や議決権行使の方針に照らして説

明を要する判断を行った議案等、投資先企業との建設的な対話に資する観点か

ら重要と判断される議案については、賛否を問わず、その理由を公表すべきで

ある。

22 なお、投資先企業の議決権に係る権利確定日をまたぐ貸株取引を行うことを想定している場

合には、当該方針においてこうした貸株取引についての方針を記載すべきである。 23 個別の議決権行使結果を公表した場合、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関に

よる形式的な議決権行使を助長するのではないかなどの懸念が指摘されている。

しかし、運用機関は、自らが運用する資産の最終受益者に向けて、活動の透明性を高めてい

くことが重要である。さらに、我が国においては、金融グループ系列の運用機関が多く見られ

るところ、こうした運用機関において、議決権行使をめぐる利益相反への適切な対応がなされ

ていない事例が多いのではないかとの懸念を払拭するためにも、個別の議決権行使結果を公

表することが重要である。

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5-4. 機関投資家は、議決権行使助言会社のサービスを利用する場合であっても、

議決権行使助言会社の人的・組織的体制の整備を含む助言策定プロセスを踏ま

えて利用することが重要であり、議決権行使助言会社の助言に機械的に依拠す

るのではなく、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、自ら

の責任と判断の下で議決権を行使すべきである。仮に、議決権行使助言会社の

サービスを利用している場合には、議決権行使結果の公表に合わせ、当該議決

権行使助言会社の名称及び当該サービスの具体的な活用方法についても公表

すべきである。

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原則6 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのよう

に果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に

報告を行うべきである。

指針

6-1. 運用機関は、直接の顧客に対して、スチュワードシップ活動を通じてスチュ

ワードシップ責任をどのように果たしているかについて、原則として、定期的

に報告を行うべきである24。

6-2. アセットオーナーは、受益者に対して、スチュワードシップ責任を果たすた

めの方針と、当該方針の実施状況について、原則として、少なくとも年に1度、

報告を行うべきである 24。

6-3. 機関投資家は、顧客・受益者への報告の具体的な様式や内容については、顧

客・受益者との合意や、顧客・受益者の利便性・コストなども考慮して決める

べきであり、効果的かつ効率的な報告を行うよう工夫すべきである25。

6-4. なお、機関投資家は、議決権の行使活動を含むスチュワードシップ活動につ

いて、スチュワードシップ責任を果たすために必要な範囲において記録に残す

べきである。

24 ただし、当該報告の相手方自身が個別報告は不要との意思を示しているような場合には、こ

の限りではない。また、顧客・受益者に対する個別報告が事実上困難な場合などには、当該報

告に代えて、一般に公開可能な情報を公表することも考えられる。 25 なお、当該報告において、資産運用上の秘密等を明かすことを求めるものではない。

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原則7 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその

事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの

考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適

切に行うための実力を備えるべきである。

指針

7-1. 機関投資家は、投資先企業との対話を建設的なものとし、かつ、当該企業の

持続的成長に資する有益なものとしていく観点から、投資先企業やその事業環

境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基

づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うた

めの実力を備えていることが重要である。

このため、機関投資家は、こうした対話や判断を適切に行うために必要な体

制の整備を行うべきである。

7-2. 特に、機関投資家の経営陣はスチュワードシップ責任を実効的に果たすため

の適切な能力・経験を備えているべきであり、系列の金融グループ内部の論理

などに基づいて構成されるべきではない。

また、機関投資家の経営陣は、自らが対話の充実等のスチュワードシップ活

動の実行とそのための組織構築・人材育成に関して重要な役割・責務を担って

いることを認識し、これらに関する課題に対する取組みを推進すべきである。

7-3. 対話や判断を適切に行うための一助として、必要に応じ、機関投資家が、他

の投資家との意見交換を行うことやそのための場を設けることも有益である

と考えられる。

7-4. 機関投資家は、本コードの各原則(指針を含む)の実施状況を適宜の時期に

省みることにより、本コードが策定を求めている各方針の改善につなげるなど、

将来のスチュワードシップ活動がより適切なものとなるよう努めるべきであ

る。

特に、運用機関は、持続的な自らのガバナンス体制・利益相反管理や、自ら

のスチュワードシップ活動等の改善に向けて、本コードの各原則(指針を含む)

の実施状況を定期的に自己評価し、自己評価の結果を投資先企業との対話を含

むスチュワードシップ活動の結果と合わせて公表すべきである26。その際、こ

れらは自らの運用戦略と整合的で、中長期的な企業価値の向上や企業の持続的

成長に結び付くものとなるよう意識すべきである。

26 こうした自己評価やスチュワードシップ活動の結果の公表は、アセットオーナーが運用機関

の選定や評価を行うことにも資すると考えられる。

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原則8 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任

を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン

全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。

指針

8-1. 議決権行使助言会社・年金運用コンサルタントを含む機関投資家向けサービ

ス提供者27は、利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、これをどのように

実効的に管理するのかについての明確な方針を策定して、利益相反管理体制を

整備するとともに、これらの取組みを公表すべきである。

8-2. 議決権行使助言会社は、運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に

基づく助言を行うため、日本に拠点を設置することを含め十分かつ適切な人

的・組織的体制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定

プロセス28を具体的に公表すべきである29。

8-3. 議決権行使助言会社は、企業の開示情報に基づくほか、必要に応じ、自ら企

業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。

助言の対象となる企業から求められた場合に、当該企業に対して、前提とな

る情報に齟齬がないか等を確認する機会を与え、当該企業から出された意見も

合わせて顧客に提供することも、助言の前提となる情報の正確性や透明性の確

保に資すると考えられる。

27 機関投資家向けサービス提供者は、特に議決権行使助言会社や年金運用コンサルタントを

念頭に置いているが、これらに限らず、ある機関(機関投資家を含む)が、機関投資家から

業務の委託等を受け、機関投資家が実効的なスチュワードシップ活動を行うことに資するサ

ービスを提供する機能を有する場合は広くこれに該当すると考えられる。 28 個別の議案に係る助言に当たっての対話の内容等を念頭に置いているものではなく、一般

的に、助言策定に当たって、依拠する主な情報源、対象企業との対話の有無、態様等を公表

することが考えられる。 29 議決権行使助言会社において、議決権行使の助言についての方針を策定する際にも、当該

方針は、できる限り明確なものとすべきであるが、単に形式的な判断基準にとどまるのでは

なく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。