最新選鉱技術事情 番外編(2) - jogmec金属資源...

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2014.7 金属資源レポート 77 150最新選鉱技術事情 番外編(2) —採鉱— Ⅰ. はじめに 前回述べたように、地質技術者が作成した3Dブロックモデルに対してどの様に効率的に採掘するかを計画し、実 際に採掘を行うのが採鉱技術者の役割である。開発においては、地質技術者、選鉱技術者のデータからコスト計算を 基に最大Profitを求める様に最終掘削形の算出及び採掘計画を求める役割を担う。本稿は選鉱技術者である筆者の目 から見た採鉱に関するものであり、各採鉱要素技術と言うよりは、採鉱技術者がどの様に資源量(Resource)から埋蔵 量(Reserve)に変えるのか、又、選鉱コストを含めた鉱山の操業コストが如何に埋蔵量に影響するのかを中心に論を 進めたいと考える。 大きく分けて採鉱法としては、地表からすり鉢状の大きな穴を掘って採掘する露天採掘法と坑道と呼ばれるトンネ ルを掘って地下の鉱脈を採掘する坑内採掘法に大別される。 採鉱で、計画においても実施においても最も重視されるべくは安全面である。例えば、露天採掘で急傾斜で掘れば 採算性は良くなるであろうが、斜面が崩落する可能性が高くなる。又、坑内採掘においても崩落事故など、所謂、鉱 山の大規模事故とされる事例は採鉱に基づくものが非常に多い。安全を常に考慮しながら、出来るだけ経済的に鉱石 を掘り出す事が採鉱技術者の目標となる。 採鉱技術動向に関してはJOGMEC 金属資源技術グループ 大山雅嗣氏の「Surface Mining & Underground Mining Methods ~採鉱技術の動向紹介~」に詳しく紹介されているので以下を参考にされたい。 http://mric.jogmec.go.jp/public/kouenkai/2006-09/breifing_060831_6.pdf http://mric.jogmec.go.jp/public/tec_topics/pdf/06_03.pdf http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rmin_S.html#anchor235577 尚、筆者の経験からは採鉱法を選択する上では以下の4つの方法から、鉱体の深さ、形状、性状から経済性からど れか又は組み合わせで選択される事が多い。 オープンピット(露天採掘) ブロックケービングに代表されるケービング ロングホール ストーピング等に代表されるストーピング カット&フィル 又、上記「採鉱技術の動向」でも示されているように露天採掘では深部に位置する鉱石はWaste Ore Ratio (剥土比、 W/O比)が高くなり、経済的に採掘できない為、 Block Caving等を組み合わせて鉱山の延命を図る事も検討されている。 (露天採掘から坑内採掘への移行) 金属資源技術部生産技術課 専門調査員 中村 威一 図1. 剥土比(Waste Ore Ratio) (JOGMEC 早稲田大学講義資料より) 2

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2014.7 金属資源レポート 77(150)

最新選鉱技術事情番外編(2)—採鉱—

Ⅰ. はじめに 前回述べたように、地質技術者が作成した3Dブロックモデルに対してどの様に効率的に採掘するかを計画し、実際に採掘を行うのが採鉱技術者の役割である。開発においては、地質技術者、選鉱技術者のデータからコスト計算を基に最大Profitを求める様に最終掘削形の算出及び採掘計画を求める役割を担う。本稿は選鉱技術者である筆者の目から見た採鉱に関するものであり、各採鉱要素技術と言うよりは、採鉱技術者がどの様に資源量(Resource)から埋蔵量(Reserve)に変えるのか、又、選鉱コストを含めた鉱山の操業コストが如何に埋蔵量に影響するのかを中心に論を進めたいと考える。 大きく分けて採鉱法としては、地表からすり鉢状の大きな穴を掘って採掘する露天採掘法と坑道と呼ばれるトンネルを掘って地下の鉱脈を採掘する坑内採掘法に大別される。 採鉱で、計画においても実施においても最も重視されるべくは安全面である。例えば、露天採掘で急傾斜で掘れば採算性は良くなるであろうが、斜面が崩落する可能性が高くなる。又、坑内採掘においても崩落事故など、所謂、鉱山の大規模事故とされる事例は採鉱に基づくものが非常に多い。安全を常に考慮しながら、出来るだけ経済的に鉱石を掘り出す事が採鉱技術者の目標となる。 採鉱技術動向に関してはJOGMEC 金属資源技術グループ 大山雅嗣氏の「Surface Mining & Underground Mining Methods ~採鉱技術の動向紹介~」に詳しく紹介されているので以下を参考にされたい。 http://mric.jogmec.go.jp/public/kouenkai/2006-09/breifing_060831_6.pdf http://mric.jogmec.go.jp/public/tec_topics/pdf/06_03.pdf http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rmin_S.html#anchor235577 尚、筆者の経験からは採鉱法を選択する上では以下の4つの方法から、鉱体の深さ、形状、性状から経済性からどれか又は組み合わせで選択される事が多い。 オープンピット(露天採掘) ブロックケービングに代表されるケービング ロングホール ストーピング等に代表されるストーピング カット&フィル 又、上記「採鉱技術の動向」でも示されているように露天採掘では深部に位置する鉱石はWaste Ore Ratio(剥土比、W/O比)が高くなり、経済的に採掘できない為、Block Caving等を組み合わせて鉱山の延命を図る事も検討されている。

(露天採掘から坑内採掘への移行)

金属資源技術部生産技術課専門調査員 中村 威一

図1. 剥土比(Waste Ore Ratio)

(JOGMEC 早稲田大学講義資料より)

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

連載

2014.7 金属資源レポート78(151)

 採鉱作業自体は露天採掘、坑内採掘共に基本的に以下の4つの作業工程で行われる。 穿孔:岩盤に爆薬を詰める孔をあける 装薬・発破: あけた孔に爆薬を詰めてふたをして爆破し、鉱石を崩す 積込: 爆砕した鉱石を運搬機に積込む、あるいは直接・間接に破砕設備に投入する 運搬:鉱石を切羽から破砕設備まで運搬する 当然ながら、露天採掘と坑内採掘では例えば同じ穿孔にしても使用する機械は異なり、露天採掘では穿孔機と呼ばれるのに対し、坑内採掘ではその用途別にジャンボや長孔穿孔機と呼ばれている。また、積込、運搬機についても坑内という空間的な制約から車格、仕様は露天採掘とは異なる。 我々が鉱山の経済性評価を行う際には年度毎のCashflowを計算してその値からIRRなりNPVを求めるのが常であるが、その基本となるのが採掘計画である。しかし、残念ながら、どのようにして採掘計画が立てられるのかを理解している人間は少なく、従って、例えば金属価格が上がったり、選鉱実収率が上がったり、採鉱、選鉱コストが下がる事で埋蔵量自体が増加する事やその逆も存在する事を理解している人間も少ない。今回はその点も踏まえ、筆者が理解している範囲内で採鉱計画の立て方についても述べたいと考える。

図2. オープンピットから坑内採掘に

(JOGMEC 早稲田大学講義資料より)

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

連載

2014.7 金属資源レポート 79(152)

図3. 露天採掘手順

図4. 坑内採掘手順

(露天採掘)

(坑内採掘)

(JOGMEC 早稲田大学講義資料より)

(JOGMEC 早稲田大学講義資料より)

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

連載

2014.7 金属資源レポート80(153)

Ⅱ. Open Pit Mine 地表からすり鉢状の大きな穴を掘って採掘するのが露天採掘法(Open Pit)であり、基本的に鉱石採掘単価が安いので、地表に近い鉱体に関しては最初に検討される方法である。このような方法で地下にある鉱石

(Ore)を採掘するには、鉱石以外の部分(ズリ、Waste)も掘り出す必要があり、鉱石を1t掘り出すのにズリを何t掘り出す必要があるかを示す割合が、露天採掘で大きなFactorとなるWaste Ore Ratio(W/O比)である。当然W/O比が高ければ、鉱石を掘り出すのにズリを大量に掘る必要がある為、採掘コストが高くなり採算割れする事になる。

1. 初期ピット計算(Preliminary Pit Optimization) 前稿でも示したように埋蔵量計算ではMineSight、Gencomと言うソフトウェアが多く使われていたが、現在はCADベースの様々なプログラムが使用されているようである。ただし、いずれも基本的に鉱石価値が操業費用より高い鉱石を最大ピットスロープ以下のスロープで最大量採掘できるようにアルゴリズムが組まれている。 筆者の持つ本段階のイメージとしては、ピットのイメージとして傾斜角45度の下向きの円錐台を想定し、それを移動したり、拡大縮小させて、中に含有される鉱石価値とズリを含む採掘費および選鉱費を含むその他のコストの総和が同じになるような最大の円錐台を

求めるものであった。(もちろん一つの円錐台とは限らず、幾つかの円錐台に分かれる事も多いし、それらが繋がって一つの大きなピットになる事も多い)。この方法は円錐台が拡大縮小移動をして最適解を求めるのでFloating Cone Methodと呼ばれている。簡易的に鉱量を求める方法としては優れており、例えばMetal Priceを下げて順次ピット設計を行えば、採掘順も品位の高い個所から自然に採掘するようなPlanningも出来るのでScoping Study Levelで用いられることも多い。ただし、本方法で求めた採掘順序では最初に良い個所を掘り尽くすので、後になるほど鉱石価値の低い鉱石のみが残留しており、更に実際には終掘近くでは鉱石、ズリの運搬距離も長くなるので採掘コストが高くなり、採算性が合わなくなるので採掘できない状況が生まれ、実際に採掘できる鉱量はずっと小さいものになる事が多い。 その問題を解消する為に、現在のPit DesignではLerch Grossmann methodと言う方法を用いる事が一般的である。これは各Block毎にやはり鉱石価値と採掘費および選鉱費を含むその他のコストを差し引くことで、Block毎のvalue(profit, loss)及び type (ore, waste)を定義し、その合計値が0となる最大のブロック層(1層)を求める方法である。簡単に言うと、ピットを掘って行く上で、最も外側にあるBlock1層を掘るのに採算性が取れるようにするイメージである。計算はほとんど自動的に行われるが、実際には地表部から始めら

図5. 坑内採掘重機(JOGMEC 早稲田大学講義資料より)

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

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2014.7 金属資源レポート 81(154)

れ、傾斜面の制約の範囲内でブロックの全ての組み合わせを計算し、最大利潤を求めるアルゴリズムになっている。 http://www.lynxgeo.com/HTML/Applications/apps_6.htm 本方法は、ピット内の鉱石価値と操業コストの総和を等しくする先の方法よりは計算される鉱量の値はずっと小さいものになるが、逆に本ピット内の鉱石は何処を掘っても一応採算性にあうと考えられる。従って、現在の鉱量計算と言うとLerch Grossmann methodによる事が基本となる。 Lerch Grossmann methodにおいても金属価格を低く設定する等の方法で、やはり、鉱石価値の高い順に採掘Planningを設定する事は可能となる。しかしながら、自動的に計算された結果はかなりいびつな形になるので、採鉱技術者は改めてFloating Coneを用いてPhase毎にスムーズなピットに成型する事が多い。 又、最終的なPit計算では各Block毎に、例えば鉱種毎の実収率や、後述するピットの最大傾斜角をGeologistの責任で入力する必要があるが、初期ピット設計の段階では一定の値として入力する事が通常である。実際には以下の9項目を入力する事になるが、其々以下のような注意が必要であるし、逆にプロジェクト評価の段階でこれらの点を確認すれば、そのプロジェクトの真の経済性を図る事も可能となる。

1) Metal Weight(Tonnage, Assay) 地質で述べた3Dブロックモデルの基本データ。重量は鉱画のVolumeと鉱石比重から、品位はボーリングデータからクリンギング法で割り当てられる。有価鉱物品位(例えばCu, Au等)に後のMetal Priceを掛けたものが鉱石価値として計算される。又、有価鉱物品位以外でも実収率の予想式に用いられる事も多いので他の品位(例えばOx Cu, As等)もブロック毎に割り当てられる。

2) Loss / Dilution.  鉱石を採掘する際はある程度のズリが鉱石に混入し処理品位が下がり、又、逆にある程度の鉱石がズリに混入する為にロス(実収率の低下)が起こるのが通常である。これらがLoss/Dilution Factorとして表され、鉱体の形状にもよるが、一般に各Block Modelの品位から10%の低下、Loss5%(採鉱実収率95%)で計算される事が多い。ただし、本Factorは大きく経済性に影響する為に、本Factorを無視して経済性計算を行うProjectも多くあるので、本Factorがきちんと考慮されているかどうかで経済性の信頼度を図る事も出来る。

3) Pit Wall Overall Slopes.  先にも述べたが、ピットスロープは45度の傾斜角で進められることが多い。当然スロープが急ならば鉱量は増加するのであるが、種々の調査、検

討が進められピットスロープが決定される。

4) Process Recoveries.  最終的にはVariation選鉱試験を通じて各Block毎に予想実収率を割り当てるのであるが、本段階ではボーリングコアを用いたコンポジットの選鉱試験結果を用いる事が多い。

5) Mining Costs.  鉱石、ズリを合わせた採掘費の単価計算で設定される。値は近辺の鉱山の操業費を用いるか、Mine Cost Database等で得た値を用いる。当然、終掘近くでは運搬距離も長くなるので、採鉱費は高くなってくるのであるが、本段階のピット計算では3.50US$ per tonne for ore and wasteの様に一定の値を用いる事が通常である。

6) Process Costs.  選鉱コストもやはり、近隣の似たようなサイズの鉱山を参考にするかMine Cost Databaseの値を用いる事が多い。ただし、エンジニアリングが進み、プロジェクトのOPEX, CAPEXが得られているのであればそれを用いる。Mining Costと同様に18.00US$/Ore tの様に一定の値を用いる。

7) Site Fixed Costs.  通常はAdministrationやGeologyや分析費等の費用で定額費用として計算。鉱山規模にもよるが5M US$/yearから10M US$程度で計算される事が多い。

8) Metal Price.  メタル価格は過去12か月の平均LME価格を用いたり、長期将来予想価格を用いたりするのだが、鉱山評価で非常に注目されるFactorであるので、Sensitive Analysisを含め低めに設定されている事が多いように思われる。又、例えば銅鉱山で金を副産物として産出するような鉱山評価では銅、金それぞれの鉱石価値を合算した物が実際の鉱石価値として計算される。本Factorは計算上非常に変動をさせやすいので、設定メタル価格を低くして、鉱体の中で最も利潤の高いピットを抽出し、掘る順番を決定させるような方法にも用いられる。

9) Smelter Recovery, Cost 製錬費は実際には試験で求めた精鉱品位等から精鉱運搬費やTreatment Cost(TC)が求まるし、標準的なRefining Chrge(RC)や製錬実収率もあるので選鉱技術者が求める場合は計算式を組み込むことも多いのであるが、初期のピット計算では鉱石価値の8割が鉱山側、2割が製錬費のように非常にラフな計算をしている事も多い。

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

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2014.7 金属資源レポート82(155)

2. Phase毎Pit計算 初期ピット設計では上に上げたように採鉱費やその他の費用も一定の値で計算されている。しかし、実際には先にも述べたようにピットが大きくなるとその分運搬距離も長くなり、後半の方がコストが上昇する事が一般的である。それらの問題点を防ぐのがPhase-Miningと言う手法である。 http://www.ysxbcn.com/down/upfile/soft/20101102/26-p1974.pdf

 簡単に言うと、Open Pit Miningは最初に小さいPitから始まって、徐々に大きさを広げていく(Pushbackしていく)訳であるが、それを幾つかのPhaseに分けて、採掘費との条件を変えコントロールしていく方法である。当然、最初のピットは初期ピット計算でも述べた鉱石価値の最も高い個所から採掘していく訳であるが、ピット自体が小さい事から、選鉱場に投入できる鉱石量に対し、ズリの量も少なくてすむ。従って、Open Pitの初期では比較的小規模な機械を用いて採掘し、ピットが大型化するにつれて、機械の台数を増やしたり、大型化する事で対応する事が多い。 一方で、最近はPhase 1の初期段階から大型機械を導入し、選鉱場で処理する以上の鉱石を採掘し、その鉱石をHigh Grade, Middle Grade, Low Gradeとクラス分けしてStockpileにし、High Gradeの鉱石を優先して処理し、Middle Grade, Low Gradeの鉱石は次のPhaseか、場合によっては最終Phaseで処理する計画が見受けられる。一見、NPV, IRRも高くなるので非常に良い方針の様に思えるが、実際にはStockpileしていると、酸化により鉱石の実収率は極端に低下する事が知られており、結果として鉱山全体の採算性や鉱山寿命を減少させることになる。 Phase毎の採鉱量が決定すると、次の条件に合わせて年度毎の採鉱量と鉱石品位が決定される。 選鉱場に一定量の鉱石を運搬する事:選鉱場Capa 採掘量(Ore+Waste)を一定にする事:採鉱機械Capa 当然ながらWaste/Ore比(W/O Ratio)は一定でないので不可能な要求に思えるが、次のPhaseのWasteを先に掘る事や、鉱石をStockpileする事で対応する。この様にして決定された採鉱量や選鉱場への給鉱量、そして鉱石品位、予想実収率や予想精鉱品位及びPhase毎の操業費はSpreadsheetに入力され、最終NPV, IRRが求められるのである。

1) Geological Model 初期ピット計算では一定の値を入れていたが、実際にはGeological Modelと称して各Block毎に上記設定値は決定される。例えば初期ピット設計では斜面角度を45度にすると述べたが、当然ながら斜面角度を立てるほど可採鉱量は増加する。斜面傾斜を決定するためには、ボーリングや踏査などを行なってこの現地の岩盤データを基にRMRやMRMRという指標を算出して傾斜角度を決め、これでピット設計を行い最終的に安定解析を行いその安全性を確認するという方法が用いられている。 RMRとはRock Mass Ratingのことで、岩盤の強度、RQD(Rock Quality Designation)、不連続面の間隔と状態、地下水の存在などを指標化して岩盤状況を指標化して掘削面の傾斜角度を決めるという手法であり、これに風化の程度、亀裂系の方位、応力状態や発破の影響を考慮した修正係数を乗じて鉱山に関する指標としたものがMRMR(Mining

図8. RQD計算法

図9. RQDと岩盤等級

図6. Lerch Grossmann methodによる最終Pit形

図7. Phase掘削計画

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

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2014.7 金属資源レポート 83(156)

Rock Mass Rating)と呼ばれるものである。この指標値で斜面傾斜を決定して、ピット設計を行う。 ピット設計を実施した後に数値解析を行い斜面の安定性を評価する。この数値解析手法としては有限差分法をもちいた米国Itasca社製のソフトFlac等の専用アプリケーションが用いられる。 近年は、大規模なオープンピットでは採掘の進展に伴い岩盤状況のデータをリバイスしながら最終的な斜面傾斜を決定するということも行われている。 又、層厚が厚い個所ではLoss/Dilution Factorを小さくしたり、選鉱試験のVariation Test結果からBlock毎にRecoveryを設定される(同時に鉱石硬さか ら 予 想Throughputも 設 定 す る 事 も 多 い )。Mining Costに於いてはPhase毎に設定される事が多い。実際にはこれらの値はGeologistがBlock Modelを作成する際に入力する必要があるのだが、Mine Planを作成する段階で、後追いで必要入力データを求めるようなことも多い。 Geological Modelは基本的に判る範囲内で全ての情報を組み込んでおくことが望まれる。 ただし、基本はボーリングコアデータであり、品位等はクリンギング法で補完できても、その他のデータは地質図等をレイヤーで重ね合わせて入力する事になる。従って、実収率などのデータは選鉱試験でVariation Testsを行って、品位等の数値から予想式を立ててBlock毎の予想実収率にする事が望まれる。

2) Stockpile 上述したように、現在の採鉱計画は鉱石価値の高い鉱石から採掘し、IRR, NPVを最大化する様

に組まれるが、最近はPhase 1の初期段階から大型機械を導入し、選鉱場で処理する以上の鉱石を採 掘 し、 そ の 鉱 石 をHigh Grade, Middle Grade, Low Gradeの様にクラス分けしてStockpileにし、High Gradeの 鉱 石 を 優 先 し て 処 理 し、Middle Grade, Low Gradeの鉱石は次のPhaseか、場合によっては最終Phaseで処理する計画が見受けられる。この方法は酸化影響の少ない金や、タングステンやレアアースのような酸化物に対して有効と考えられるMine Planningではあるが、銅鉱山等の硫化物に適用するには酸化による実収率低下、同時に酸性水を発生するので環境上のコントロールも必要となる。 実際に筆者が経験した銅鉱山ではStockpileされた鉱石の実収率は当初の予想式の6割~8割程度に減少し、Low Grade Oreでは採算が取れなくなったことからWasteとして処理された。(幸いなことに金属価格の上昇に伴い、試算時に対して鉱石価値が上昇したので大きな問題とはならなかったが)。今後採鉱計画を立てるにあたってはむやみにStockpileに頼る事は避ける方が良いと考える。 金属価格が上昇している状況なら鉱石価値そのものが上昇するので、問題が表面化する事も少なかった。しかしながら、今後も続けて金属価格が上昇すると言う事は考えにくく、現状の様なStockpileに頼る採鉱計画を用いると、予想以上の減損等が生じる可能性もある。少なくとも、Stockpileを行う事でどの程度実収率に影響が生じるかの何らかの選鉱試験を通じ年度―実収率変化の関係を求め、Pit Optimizationに組み入れるべきと考える。

図10. MRMRチェックリストの一例

DATE :

INTACT MATERIAL STRENGTH 2. ROCK TYPE

PARAPYROXENITE

10M

JOINTS EXTENSIVELY OPENED BY BLASTING

80%

1. JOINT 3. FAULT ZONE 5. FAULT2. BEDDING 4. CRITICAL JOINT

3. ZONE WIDTH

4. BLASTING EFFECTS

5. RQD FOR ZONE

6a. DISCOUNTINUITY

6. ROCK MASS DISCONTINUITIES

JOINTSET

1 4

1

1

1

1

1

1

2

2

3

A2

A2

B3

A3

B2

B3

A1

0.85

0.80

0.90

0.70

0.75

0.80

0.95

0.90

0.95

0.80

0.75

0.80

3

2

1

2

2

2

1

1

1

1

1

4

0.4m

0.3m

0.2m

0.6m

0.1m

0.4m

1.5m

-

3.0m

-

-

-

15m

15m

10m

8m

20m

15m

1

1

1

3

1

1

1

1

1

2

1

1

Dry

Mcist

Dry

Dry

Dripping

40m

5m

1m

3m

0.5m

0.2m

-

-

-

-

YES

Cal&serp

Cache

Serp

Cache

Clay

Clay

Quartz

080°

085°

100°

350°

005°

355°

040°

250°

220°

300°

72°

78°

65°

85°

65°

80°

45°

30°

35°

75°

2

3

4

FAULT

JOINTTYPE (6a)

ORIENTATION JOINT FILLING ROUGHNESS JOINTSURFACE

ROCKSURFACE

AVEm

CJSm

DIPLENGTH

m

STRIKELENGTH

m

WATER6 (0)

END1・3

END1・3DIP. DIR DIP TYPE SMALL LARGE

JOINT WALLALTERATION

JOINT CONDITION WEATHERING (6c) JOINT SPACING JOINT CONTINUITY (6c)FF/m

NO. (6b)

6b. JOINT FILLING

6c. DEGREE OF WEATHERING

6d. JOINT CONTINUITY (ENDS)

6e. WATER

A Non-soltening and sheared material (eg-quartz)1. Coarse 2. Medium 3. Fine

Solt sheared material (eg-clay)1. Coarse 2. Medium 3. Fine

1. Fresh2. Slight3. Moderate

1. Both joint ends extended out of the face2. Both joint ends end in the face3. One joint ends ends in the face

1. Dry 2. Moist4. Dripping 5. Flowing

3. Wet

4. High5. Complete6. Residual soil

B

PIT : BENCH/BLAST : ZONE :GEO POINT : 17GP-004

1 OF 417 / 008FACE ORIENTATION : FACE : EAST FACESTRIKE 18D

SOUTH WEST EXTENSIONRECORDED BY : A. R. BYE

28 - 07 - 1997

SCHMIDTREBOUND READINGS (R)

R MPaMean High50 54195 260

HAMMER ORIENTATION :

Horizontal Up :1 505248

505249

54

48

23

45

678

910

Horizontal Down :45 Up :45 Down :Vertical

SPECIMEN TYPEin situBlasled rock

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

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2014.7 金属資源レポート84(157)

3. 採掘計画に関する実作業 これまでは選鉱技術者である筆者が金属鉱山開発に関連して理解するところの採鉱面を述べてきたが、平成19年にJOGMEC 採鉱技術者である大山雅嗣氏が

「露天掘採掘計画手法の紹介」として石灰石鉱山の実際の採鉱手順に関して発表されているので以下を参考にしてもらいたい。 http://mric.jogmec.go.jp/kouenkai_index/2007/breifing_07823_6.pdf

4. 操業技術トレンド これまでは、開発におけるOpen Pit設計について述べてきたが、当然ながら、実際の作業においても多くの採掘費用を安くする為の技術が開発されてきており、以下にその一部を紹介する。

1) 大型化 もっとも露天採掘鉱山で言われるのが採掘機械の大型化であり、ショベルやトラックで多く紹介されている。簡単な紹介記事であるが以下の記事なども参考になるので一度見ておかれるのも良いと思う。 h t tp : / / j -ne t21 . smr j .go . jp /deve lop / t echno /entry/2012030101.html 日立建機やコマツそしてブリヂストンと言った日本のメーカーの名前も多く出てきて誇らしく思うのであるが、実際の鉱山開発では、ただやみくもに大きくすれば良い訳ではなく、鉱山の規模、長期採掘計画とのバランスが必要となるのはこれまで述べてきたとおりである。

2) Dispatch System 採掘機械が大型化して1台で運搬できる量が増加しても、例えばショベルで鉱石やズリを載せるのに何台も順番待ちしていたり、逆にショベルで載せるトラックが無くて時間待ちをしたりしていたら効率が悪くなる。そこでトラックがどこにあるのかの位置情報を常にとらえ、最も効率的に運用する配車を行うシステムがディスパッチシステムである。本概念はかなり古くから適用されており、昔はピット全体を見渡せる位置にウォッチタワーと言う建物があり、そこから無線で配車指示をしていたが、現在は管理室内のコンピューターで待ち時間等の時間ロスが生じないよう、最適配車を計算し、場内無線で車両に対し行先指示、作業指示が行われる。①. 無人ダンプトラック

 ディスパッチシステムがさらに進んだものが無人システムであり、日本のコマツがシステムを開発してチリやオーストラリアの大規模露天採掘鉱山ですでに実用化されているようである。 http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/profile/product_supports/ トラックオペレーターの人件費も高騰しており、年間365日、24時間操業といった鉱山では1台のダンプトラックに3~4人のオペレータが必要となる為、人件費の削減,安全面等に関して、今後も有効な手段の一つになるとは考えられる。

②. GPS利用 ディスパッチシステムや無人化を進める上

図11. 無人ダンプトラック運行システム

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

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2014.7 金属資源レポート 85(158)

でGPSの利用は非常に進んできている。鉱山では開発が進むにつれてアクセスロードの位置も変わるわけで正確な緯度経度の把握は絶対に必要となるとともに、例えばショベルのブーム(腕)の根元と先にGPSを取り付けて発破された岩石の積込み箇所を正確に把握し出来高管理、品質管理をしたり、トラックに積込まれた鉱石品位から原石投入のタイミング調整をしたりしている。 ただし、鉱石の積み込みに関しては、発破された岩石を鉱石とズリに区別して鉱石は選鉱場にズリはズリ堆積場に運搬しなければならないのであるが、筆者の知る操業では、発破孔の穿孔時に発生する繰り粉(岩盤に穿孔機で発破孔を開ける際に出る岩石の粉)の分析値と ブ ロ ッ ク モ デ ル の 値 を 元 に、 発 破 後 にGeologistが発破された石の上にやってきて旗を立ててここから右側が鉱石、左側がズリと言うようにショベルに指示を与えていた。自動化では旗の代わりにGPSを用いて指示するのであろうと推測するのであるが、詳細については不明である。

3) In-Pit Crusher 鉱石を積載した状態で平坦地では40㎞/h以上のスピードで走行可能なトラックも400tもの鉱石を積載するために登坂ではそのスピードも10㎞/h程度まで低下する。その点、鉱石を積載しても下りならばそのスピードの低下は押さえられ、運搬効率は上昇する。従って、ピットの中に一次クラッシャーを設置し、破砕した鉱石をベルトコンベアを用いて選鉱場まで運搬する方法がIn-Pit Crusherである。クラッシャーは移動式になっており、採掘の進展に伴ってダンプトラックの鉱石運搬距離が大きくなり効率が低下するのを防止するために設置位置を移動することが行われる。筆者が従事したアメリカ アリゾナ州のモレンシ鉱山ではビルの大きさほどもある巨大なジャイレトリークラッシャーをIn-Pit Crusherとして使用していたが、その移動には当時、スペースシャトルを運搬する運搬装置が用いられ、時速4㎞のゆっくりとした速度で移動させていた。 ただし、対象はあくまで鉱石であり、ズリに関してはやはり、ほぼ全てがトラック輸送であることからズリ 鉱石比(W/O Ratio)の高い鉱山では、その効果は低くなる。

①. Underground Crusher 高知県にある日鉄鉱業 鳥形山の石灰石鉱山においては地下にクラッシャーを設置し、立坑を鉱石ビンとして使用している点で、やはり、In-Pit Crusherと同様なコンセプトと考える事が出来る。

4) 斜面モニタリング 最初にも述べたが、ピットスロープはなるべく立てた方が鉱量も増え、経済性が高くなるのであるが、同時に斜面崩壊の可能性も高くなる。従って、通常の採鉱計画では45°程度の角度をベースとするのであるが、前述のように斜面傾斜を決定し、実際の操業に移行した後には、セオドライト、レーザーやGPS等を単独あるいは、これらをインテグレートして斜面の状態を観測し、ズレ等の兆候が確認されたらその位置の立ち入りを禁止する事で安全性を確保するような操業も多く見られる。ただし、実際に崩落が起こったとしたら、その箇所のアクセス道路も使用できなくなり(近年ではアクセス道路を2系統準備する場合もある)、生産にも大きく影響を与える事から、斜面角度を決定する際には細心の注意が必要とされる。

図12. 鳥形山採掘現場

図13. ピット斜面崩壊状況

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2014.7 金属資源レポート86(159)

Ⅲ. Underground Mine Open Pitに対比されるのがUnderground Mine(坑内採掘)鉱山である。Wikipediaによると、坑内採掘とは「地表から坑道を掘り、地表からの採掘が困難な鉱石を採掘する方法」とされる。以下にその概念図を示す。

 地下に鉱体があるのに対し、まず鉱体までアクセスする必要がある。図では立坑によるアクセス法が示されているが、地表から浅い鉱体の場合は斜坑が用いられる。アクセスは崩れる事を防ぐため、その坑道はロックボルト、金網やショットクレートと呼ばれる吹付で保護される。 地下へのアクセス   立坑(Shaft)、斜坑(Incline、Slope)、水平坑(通洞坑:

Adit) 鉱体へのアクセス  水平坑(Drift)、斜坑(Decline、Incline) 鉱体まで到達すると、以下の坑内採鉱法に従って採鉱されるのであるが、鉱体内でもアクセスを行う必要があり、 Development Mine Ore (アクセス時に出てくる鉱石) Production Mine Ore (各採掘法により生産物として出てくる鉱石)の二つに分類される。実際にDevelopment Mineで出てくる鉱石量は採掘法によってはかなりの量であり、その鉱石の採鉱コストとストーピング等のProduction Mineで生産されるコストには差があるので、其々の生産量は別々に算出される。更にProductionでは層厚等の条件ごとにLong Hole StopingとCut&Fillを組み合わせる場合などで其々の単価を計算して行って、長期採掘計画を求める。可採鉱量計算はOpen Pitと同様にソフトウェアを用いて行われるが、Lerch Grossmann methodの様にほとんど自動化した様なアルゴリズムではなく、なるべく単価の安い採掘法を優先して採掘していく方法になっているようである。例えば後述するLong Hole Open StopingとCut & Fillを採鉱法として組合す場合、RQDと層厚の条件が見合えば出来る限りコストの安いOpen Stopingを用い、それ以外はCut & Fillで採鉱を行う様な条件が決められて、その鉱石価値がコストよりも高い鉱石のみが可採鉱量として計算される。 しかしながら、Open Pitとは異なり、採掘中も坑内からの探鉱を継続し、新たな鉱体が見つかる場合もあり長期採掘計画は立てにくいのが実状である。例えば鹿児島県菱刈鉱山では開山時にMine Life 20年と言われていたが、30年経過した現在もMine Life 20年と言われている。 坑内採鉱に関しては以下のWikipediaに詳しいので合わせて参考にしてもらいたい。 http://en.wikipedia.org/wiki/Underground_mining_(hard_rock)

 実際の鉱体の採掘法(Production)は以下の表に示す様に天盤の支保形態で3つに分類される。

図14. 崩壊探知システム

図15. 坑内採掘概念図

Hoist houseHead frame

Ore zoneStope access

Main level

Sub level

Access ramp

Ore pass

Crusher

Ore load out

Shaft

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2014.7 金属資源レポート 87(160)

Underground Mining Methods(坑内採鉱法)

Naturally Supported〔天然(天盤)支持〕 Artificially Supported〔人工(天盤)支持〕 Unsupported〔(天盤)無支持〕

Room & Pillar(残柱式採掘法)水平または層状の鉱体に適用。

Cut & Fill(充填採掘法) StopingBlock Caving

巨大かつ脆弱な鉱体に適用。鉱体の下部から上部へ採掘。

Sublevel(中段坑道) & Longhole Open Stoping鉱体が大規模かつ急傾斜の場合に適用。

VCR(Vertical Crater Retreat) StopingSublevel Caving

鉱体の上部から下部へ採掘。

Shrinkage Stoping

※坑内採掘の増加の理由: ①露天採掘では剥土岩比が上昇し、ズリが増加する。(鉱体の深部化による) ②鉱山の環境に対する影響を最小にする。(景観問題および騒音振動と発塵の問題などの軽減化による)大山雅嗣(2007):Surface Mining & Underground Mining Methods 〜採鉱技術の動向紹介〜、金属資源レポート、2007.5、9〜17.から

 元々は鉱石を採掘した後、空いた空間が崩落しない様に残柱を残すRoom & Pillar等のNatural Supportedが中心であったものから、鉱石を抜いて空いた空間が崩落しない様にズリや選鉱尾鉱にセメントを加えたもので埋め戻すCut&Fill等のArtificial Supportへと転換し、更に鉱石を積極的に崩落させて、下部から抜き出す大量生産に向くCaving法へと基本的な流れになっていると考えられる。もちろん鉱体の形状や性状等にも左右されるので全てCavingが適用できるとは限らないし、Open Stoping法を用いても、空間が大きくなり過ぎないようにズリ等で埋め戻すStope & Fillも用いられる。 又、坑内での採掘においてその安定性を考察する手法としてグラフを利用したStability Graph Methodと言う方法があり、採掘しようとしている鉱体のデザインから、Hydraulic Radius(HR)と言う指標を求め安定性のインデックスN'とグラフの交点から岩盤の状態を類推するやり方である。Hydraulic Radiusは採掘面の鉱体の高さ(h)、底辺の長さ(w)で求め、A~Cは応力と重力のファクターとされている。詳細は以下を参考にしてほしい。https://www.rocscience.com/library/pdf/DerekMartin_paris.pdf

1. Production Mining 実際の鉱体の採掘法(Production)は以下に示す様に天盤の支保形態で3つに分類される。 Natural Supported Artificial Supported Unsupported (Caving) それぞれの採掘法に関して先のJOGMEC 金属資源技術グループ 大山 雅嗣氏の「Surface Mining & Underground Mining Methods ~採鉱技術の動向紹介~」を中心に述べるものとする。

1) Natural Supported①. Room and pillar mining

②. Sublevel Stoping

図16. 坑内採掘法分類

図17. Hydraulic RadiusとStability Graph Method

図18. Room & pillar

図19. Sublevel Stoping

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2014.7 金属資源レポート88(161)

・ 鉱体の下段・中段・上段に坑道を持ち、中段の坑道(Sublevel)から長孔穿孔機で穿孔・発破された鉱石を重力により最下底レベルに落とし、下段の抜出坑道で抽出・運搬する採掘法。

・ 急傾斜の鉱体または大規模な塊状鉱床の採掘に適している。

・ 大規模採掘が可能であるため生産性が高く採掘コストが比較的安いが出鉱までの開坑作業に要する経費と時間が大きい。

③ Longhole Stoping

2) Artificial Supported①. Cut and fill

・採掘と充填を繰返す採掘法・ 中から急傾斜の層状・板状の鉱体の採掘に

適している。選択採掘が可能であるから、鉱床の形が不規則であったり、鉱床が不連続である場合に特に適している

・ 採掘実収率も高いが、無支保採鉱法に比べると、機械化を導入しても、生産性は劣り、採掘コストは高くなる

②. Shrinkage stoping

・ 上向き穿孔で爆砕した鉱石を足場にして鉱石そのものを支保として掘削する採掘法。

・ Sublevel Stopingの一種で、中段を持たず、鉱体の上段に穿孔坑道、下段は抜出坑道を有し、穿孔坑道から長孔穿孔機で穿孔・発破された鉱石を重力により最下底レベルに落とし、下段の抜出坑道で抽出・運搬する。

・ 長孔穿孔の精度(穿孔長が長くなると孔曲りが生じる)が爆砕鉱石の破砕性やズリ混入率に影響する。

図21. Cut & Fill

図22. Shrinkage Stoping

図20. Longhole Stoping

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2014.7 金属資源レポート 89(162)

・ 爆砕された鉱石の体積は増加するのでその分は抜き出すが、多くの鉱石は終掘するまで抜き出されないままになるのでIRR,NPV的には不利。

3) Unsupported(Caving)①. Block caving

・ 鉱体の下部を広範囲にわたって下透かしすることにより、その上部の鉱体を自然崩落させ、砕かれた鉱石をドローポイントから回収する採鉱法。

・ 鉱体の下部に、鉱石の抽出口となるドローポイントと鉱石を搬出する為の坑道を掘削し、ドローポイントの上部を発破して、アンダーカットし、鉱石を自然崩落させる

・ 鉱石を下部から抽出すると、崩落が上部まで伝わり、やがて地表まで崩落が続き、鉱石全てと被覆岩盤まで陥没する方法

・ 低コスト・大規模生産が可能であるので,大規模な低品位鉱床の採掘に適している

②. Sublevel Caving

図23. Block Caving (1)

図24. Block Caving (2)

図25. Block Caving (3)

図26. Sublevel Caving (1)

図27. Sublevel Caving (2)

図28. Sublevel Caving (3)

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2014.7 金属資源レポート90(163)

2. 開発計画1) 立坑、斜坑

 坑内採掘の模式図にもあるように地下へのアクセスとして、立坑や斜坑の位置は坑道の保護の意味もあり、鉱体そのものからは離れた位置に建設される。そこからレベルを決めて横坑を掘削して鉱体へのアクセスがなされる。しかしながら、鉱体へのアクセスを早くし、早期の費用回収を求めて、鉱体内の高品位部近くに立坑の建設が計画される事もある。立坑の径は生産量を左右するので、生産量に合わせて十分な径が選定される。

2) 通気 坑内採掘において必要不可欠なものに通気

(Ventilation) がある。これは坑内で発生する有害ガス(通常のNOx、SO2、メタン、CO2とCO)を空気の循環により希釈して、坑外に排気するシステムである。ガスの供給源は、発破の後ガス、鉱山機械のディーゼルエンジンからの排気、そして鉱体そのものから噴出されるガスの場合もある。鉱山通気に使用される電力量は坑内採掘鉱山の全電力費の1/3とされている。 通気方法はFlow-through ventilation方法が主流で、空気は坑外から採取して立坑や斜坑を通して坑内に取り込まれる。取り込まれた空気は坑内に配置された坑道を通じて採掘切羽へ供給された後

に立坑や斜坑を通じて坑外に排気される。一般的には採掘切羽に近い場所にはメインの通気を補助するために局部扇風機を設置して適正な通気系統の確保を行っている。 坑内採掘鉱山の通気の確保は事故・災害に直結するものであり、必要通気量は、法律で厳格に規制されている場合が多い。

3) 切羽数 坑内採掘は開発開始から生産まで坑道の掘進等で時間がかかるのであるが、生産が開始されても所定の生産量になるランプアップ期間も長い。生産量の確保としては採掘切羽数が非常に重要となってくるのであるが、これまで述べてきたように鉱山開発において採鉱技術者の関与は最後の段階であるので、多くの場合、オーナー側に採鉱技術者がおらず、いたとしてもコンサルタントである場合も多い。そのため、立てられた計画の十分な検証が困難になっている。

4) コントラクトマイン 上の切羽数にも関連するのであるが、プロジェクトのオーナー側に採鉱技術者がいない事から

(特に小規模鉱山では)、採掘計画のみならず、実際の採掘までも外部の人間に請け負わせる、所謂コントラクトマインで採掘する計画が立てられる場合がある。しかしながら、それが世界的に有名な坑内採掘業者であっても生産効率が非常に低く、立ち上げが困難になる例も見受けられる。立ち上げで切羽数の早期確保が必要な事から、初期でコントラクトマインを積極的に利用する事は良いのだが、あくまで、自社で採鉱部門を持ち、補助的にコントラクターを用いる事が必要であろう。

3. 安全性 世界が注目した2010年8月に33名の鉱山労働者が坑内に閉じ込められ、その後数か月かけて救出されたチリの鉱山事故やつい最近にあった2014年5月の301名の人命が失われたトルコの炭鉱事故等、坑内作業にはやはり危険なイメージがつきまとう。実際にわが国でも古い話ではあるが、1899年には地すべりと坑内火災で別子にて512名の人命が失われているし、1963年には三池炭鉱にて458名の方が亡くなっている様に事故の影響は重大である。

http://en.wikipedia.org/wiki/Mining_accident#Turkey 上記記事より過去40年(1974年以降)の鉱山事故リストは以下の通り。

図29. 坑内採掘概念図

Hoist houseHead frame

Ore zoneStope access

Main level

Sub level

Access ramp

Ore pass

Crusher

Ore load out

Shaft

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2014.7 金属資源レポート 91(164)

1975 オーストラリア Moura鉱山(1)。地下爆発により13名死亡。1983.3. トルコ Armutcuk炭鉱。メタン爆発により103名死亡。1983.9.12 南アフリカ Hlobane Colliery。64名死亡。1984.6.20 台湾 Haishan炭鉱。爆発事故にて103名死亡。1984.7.10 台湾 Meishan炭鉱。一酸化炭素、坑内火災にて72名死亡。1984.12.5 台湾 Haishan炭鉱。一酸化炭素にて93名死亡。1986 オーストラリア Moura鉱山(2)。地下爆発により12名死亡。1986.9.16 南アフリカ Kinross鉱山。177名死亡。1992 カナダ Westray Mine鉱山。粉じん爆発により26名死亡。1992.3 トルコ TCC Kozla鉱山。爆発により263名死亡。1993.5.9 エクアドル Nambija。地すべりにて約 300名死亡。1993.5.13 南アフリカ Middelbult colliery。53名死亡。1994.8.7 オーストラリア Moura鉱山(3)。地下爆発により11名死亡。1998.4 タンザニア 豪雨にて立坑水没。56名死亡。1999.11.25 オーストラリア Northparkes鉱山。Block Caving異常崩落の影響にて4名死亡。2002 アメリカ Quecreekにて9名が地下に取り残されるも72時間後に救出。2006.1 チリ Copiapo。爆発により70名が地下に残されるが、すぐに救出。2名死亡。2006.4.25 オーストラリア Beaconsfield鉱山崩落事故。17名中14名避難。5日後に2名救出。1名死亡。2006.11.25 ポーランド Halemba鉱山メタン爆発。23名死亡。2007 ロシア Ulyanovskaya鉱山。106名死亡。2009.12 トルコ Bursa地区にてメタンガス爆発。19名死亡。2010.4.5 アメリカ Upper Big Branch 炭鉱爆発事故。鉱山労働者31名中29名死亡。2010 トルコ Zonguldak地区にて炭鉱爆発。30名死亡。2010.8 チリ San Jose鉱山崩落により33名生き埋めになるも、69日後全員救出。2010.10.15 エクアドル 金鉱山にて崩落事故。4名死亡。2010.11.19 ニュージーランド Pike River 炭鉱爆発事故。29名死亡。2013.1.20 ロシア Kuznetsk炭鉱。4名死亡、4名不明。2013.6 中央アフリカ Ndassima金鉱山。豪雨の影響による崩壊。37名死亡。2013.7 タンザニア Mererani砕石鉱山。斜面崩壊により5名死亡。2014.5.13 トルコ Soma炭鉱事故。301名死亡。

 リストを見る限り、危険とされる採鉱作業であるが、イメージよりは死亡者数も少なく、特に炭鉱を除いた場合、例え崩落で坑内に閉じ込められても救出が行われている例も見られ、現在の採鉱技術の安全性は一応確保されていると考える事が出来る。  た だ し、 中 国 で は 事 情 が 異 な り、State Work Safety Supervision Administrationによると、2006年には4,749名の鉱山労働者が死亡。それでも2005年の死亡者数よりも20.1%少なかったとされる。2013年の死亡者では1,049名の死亡者数で2012年よりも24%減少したとされており、未だ多くの鉱山事故がある事が伺える。 命はどこの国籍、どの人種であろうとその重要性には違いが無く、死亡事故は本人だけでなく、その家族にも責任を負うものである事を、鉱山技師は十分に心に刻み、安全な技術を発展させていきたいものである。

Ⅳ. 操業費

1. 操業費と埋蔵量 これまで述べてきたように可採鉱量は鉱山総操業費によって変化する。従って、選鉱コストを低下させる方法があれば逆に可採鉱量は増加し、鉱山寿命が延びるケースも見受けられる。特に低品位鉱が多く存在する鉱床ではそれが顕著であり、多くの場合、2つのピットが1つになるなどの相乗効果で採鉱費も低下する事もある。ただし、注意するべきはこの様な場合、当然、処理品位の低下が起こるので、コストを計算する場合は単に鉱石あたり処理コスト($/Ore t)を低下させるだけではなく産物メタルあたりの処理コストで低下できるようにターゲットを定めなければならない。

2. 立ち上げ時期 経済性評価を行うに際し、非常に重要な事は如何に早期に費用を回収するかが重要になるが、坑内採掘では立ち上げが遅くなりがちになる。従って、坑内採掘

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2014.7 金属資源レポート92(165)

では、Developmentを初期に同時並行的に行う必要があり、所定の切羽数まで人数をかける必要がある。その為に、コントラクターを使用するのはいいが、逆に頼りすぎるのは危険である。トレーニングを含め、十分な計画を立てておく必要がある。

3. Underground Miningコスト 以下に各坑内採鉱の平均コストをあげる。Cut&Fillが30~45$/tに対し、Block Cavingでは8~12$/tに収まっている。Sub level Stopingでは15~35$/t。

Method Tonnes/Manshift Avg. Tonnes/Day Milled Avg. Mining Cost/TonneCut and fill 12 〜 48 500 〜 1200 $30 〜 $45Room and Pillar 15 〜 150 1500 〜 8000 $12 〜 $20Sublevel stoping 20 〜 115 1500 〜 5000 $15 〜 $35Sub-Level Caving 65 〜 180 1500 〜 4000 $15 〜 $35Block Caving 300 〜 500 10000 〜 60000 $8 〜 $12Cut and fill 100 100 100Room and Pillar 220 450 40Sublevel stoping 200 360 65Sub-Level Caving 460 320 65Block Caving 1700 3500 30

Ⅴ. 採鉱計画チェックリスト 参考までに以前使用していた採鉱関連のチェックリストを以下に示す。

1. 採掘方法⑴ 露天採掘/坑内採掘の選択は適切か⑵  岩盤特性、鉱床形態、地形、地下水、湧水、

アクセス等を考慮した適切な採掘方法か

2. 採掘量⑴ 鉱量に対して適切な生産規模となっているか

3. 剥土、W/O比、ピット諸元、採掘実収率⑴ W/Oは異常に高くないか⑵  ピットスロープは適切な岩盤工学的評価を行

っているか⑶ 採鉱実収率は低くないか⑷ ベンチ規格は生産規模と調和しているか

4. 主要重機⑴ 生産規模に対して適切な重機を採用しているか⑵ 作業能率は適切に設定しているか⑶ 稼働率 供用(使用)率の設定は適切か

5. 開発スケジュール⑴ 剥土のタイミングは良いか⑵  NPVの大きな鉱画から採掘する採掘計画とな

っているか

Ⅵ. おわりに 「儲からなければ資源ではない」と言う言葉はシリーズを通じて幾度となく述べてきた言葉であるが、実は今回の採鉱編はまさにその言葉を具現化するものであり、ResourceをReserveに変換する眼目となっている。しかしながら、その変換は極度にコンピューター化しており、更に、以前の様にMineSight,Gencomと言った標準ソフトウェアーから様々な異なったソフトウェアーが用いられるようになってきている事からも、謂わばブラックボックスと化している面がある。幸い筆者は選鉱技術者ではあるが、オープンピット、アンダーグラウンドのプロジェクトの採鉱コンサルタントにも関わる機会を持ち、本編では出来る限りその内容にも触れたつもりである。特にピット設計では現在はピットの最終形の最後の1層を掘る鉱石価値と採掘コストが等しくなるように計算されている。最初に高品位の鉱石を採掘して、IRR,NPVを良くしながら、残留する鉱石だけでも一応の経済性を確保する方針としては正解なのであるが、昔と比較し、可採鉱量が少なくなってきている。 一方で、経済性としてIRR,NPVを重視する余りに、初期にStockpileを積み上げて、操業後半で処理するような案も多く見かけるが、実際にはStockpileが酸化して実収率の低下等が起こる事態も存在する。これまでのF/Sでは行われなかったが、この様な採鉱計画が立てられた場合は、Stockpileがどの程度の実収率低下を招くのかの試験も新たに行い、再度経済評価を行う必要があろう。 又、坑内採掘でIRR, NPVを良くするために注意するべきは立ち上げ時期である。文面でも述べたが、坑内採掘の場合、生産量を多くするためには切羽の数を

図30. 坑内採掘コスト(JOGMEC 早稲田大学講義資料より)

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2014.7 金属資源レポート 93(166)

増加させる必要があるが、その為にはアクセスも増加し、同時並行的に行う必要がある。従って、初期段階でコントラクトマインを用いて人数を増やし、早期に多数の切羽を確保する事が重要となるが、一方で、オーナー側が自分で十分に検討せずに採鉱を全てコントラクターに任してしまうような事例も見られ、大体そのようなプロジェクトは失敗している。プロジェクト管理の上で注意すべき事項の一つであろう。 重視するべきはOpen Pit Mineの初期ピット計算で述べたLoss/Dilutionを始めとする9つのFactorsである。初期段階だけではなく最終形においてもブロック毎にこの9つのFactorを如何に正確に予想するかと言う事である。筆者はVariation試験で100個以上のサンプルで試験を行い統計解析からのRegression Modelを基に予想式を立てるのを好むが、それはこの各ブロックでの実収率等の予想式精度を出来るだけ上げたい為である。 又、ブロックモデルのデータは基本的に地質技術者が入力し、採鉱技術者はそれらのデータに基づき最適解を計算すると言うことが基本的にあるのだが、実際に計算するにあたって、本来入力されているべきデータが入力できておらず、あとから泥縄式に入力されるような事もある。これ等は地質技術者が各データーがどの様に使用されるのかを理解しておけば避けれる話であり、その意味でも地質技術者もReserveの計算方法に関しては十分に理解しておいてもらいたい。 合わせて、可採鉱量を求める際に用いられるのはOPEX(操業費)であり、CAPEX(初期投資)は考慮されない事が多い。これは現在のプログラムロジックが品位の高い鉱石から採掘し、終掘の頃にはすでに減価

償却が終了しているとの考え方の為であるが、現在のロジックでは可採鉱量が非常に少なくなり、減価償却が終了する前に終掘を迎えるような場合がある。一方でOPEXを見直すことで、低品位の鉱石も採掘可能になり、可採鉱量がかなり増加する事例も逆に見受けられる。鉱山評価の際はそれらの点も総合して評価する必要がある。 最後に安全性についてであるが、昨今の鉱山の事故の報道により、やはり、鉱山は危険な業種であるとの意識が広がったように思われる。確かに過去は日本でも数百人規模の犠牲者が出ていたし、現在でも中国では多大の犠牲者が出ている。ただ、過去40年の事故記録を確認してみると、多くが石炭鉱山であり、金属鉱山での犠牲者は非常に低いものであると同時に、例え事故が起こり、坑内に閉じ込められても救出が行われており、採鉱技術の発展とともにその安全性は十分に向上してきているものと考えられる。 次回は最新選鉱技術事情の最終稿として、番外編-環境について論を進める。これは、冒頭にも述べた「儲からなければ資源ではない」と言う言葉は真実であるのだが、ただし、それには「安全性、環境面を確保した上で」と言う枕詞がつくのである。一般的にこれらは相反するもののようであるが、筆者としてはそれを結びつけるものがバランス感覚であり、技術であると考えるのである。又、鉱山開発には必須のものとしてEIS(Environment Impact Study)や数多くの認可取得が実際に必要となっている。それらを含めて次回はその概要にも触れたいと考える。

以上(2014.6.25)

最新選鉱技術事情 番外編(2)─採鉱─

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