土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析bulletin.soe.u-tokai.ac.jp/vol52_no2_2012/p230_236.pdfproperties...
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東海大学紀要工学部 Vol. 52, No. 2, 2012, pp. -
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土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
玉井 洋輔*1 本間 重雄*2
Experiments and Analysis on the Simultaneous Seepage
of Pore-Water and Oils in Soils
by
Yosuke TAMAI*1 and Shigeo HONMA*2(Received on Sep.18, 2012 and accepted on Nov.15, 2012 )
Abstract
A simultaneous flow of two-immiscible fluids, i.e. water and oil, through a saturated soil was studied in conjunction with geo-environmental contamination issues. Laboratory experiments were carried out to investigate the displacement mechanism of pore-water by three sorts of oils, Kerosene, heavy oil and lube oil, and subsequently inverse displacement, i.e. displacing pore-oils by water, were examined through column tests. Residual saturations of water and oils in the soil pore were evaluated through a change in pore-volumes of each fluid discharged from the soil column. Experimental results were then analyzed by the Buckley-Leverett frontal displacement theory which is widely employed in petroleum reservoir simulation. Based on both experimental and theoretical investigations, the displacement mechanism of two-immiscible fluids in soils was discussed associated with the wettability of fluid and effective pore volume of the soil. Keywords: Geo-environmental Contamination, Oil Contamination, Immiscible Displacement, Effective Porosity,
Two-phase Flow in Porous Media, Buckley-Leverett Analysis
1.まえがき
油による地盤環境汚染は,産業活動によって大量に発
生する廃油や使用済み炭化水素燃料,暖房用オイル等の
不適切な処理処分によるものや,老朽化した地下貯蔵タ
ンクからの漏出等により長期間に亘って汚染が放置され
る場合が多く,調査や浄化対策に多額のコストを要して
いる状況である 1,2). 油はガソリン,灯油,軽油,重油,機械油,潤滑油,
タールなどの総称であり,水に溶けない非水溶液
(Non-aqueous phase liquid: NAPL) に分類される.また,油類は密度が水よりも小さいため LNAPL とも称される.
Fig.1 は地表面から地盤内への浸透と地下貯蔵タンクからの油の漏洩による汚染の広がりを示したものである. 地表面からの漏洩(Fig.1(a))においては,土の毛管作用により土間隙を重力方向にほぼ鉛直に浸透し,毛管飽和帯
および地下水面に達した後はレンズ状の油溜まりを形成
し、それが地下水流の方向に移動していく 3).地下貯蔵
タンクからの漏洩(Fig.1(b))の場合には,漏洩箇所から浸出したガソリン等は飽和土中をほぼ鉛直に上昇し,地下
水面に達した後に同様に水平方向へと移動していく 4). 地下水面付近および地下水面以下の領域においては,
土中の間隙水と浸透油が非混和状態で同時に浸透する状
況が現れ,その場合非混和 2相流体の同時浸透(Two-phase
Fig.1 Ground and groundwater contamination due to leaked oil.
fluid flow) 現象としてとらえる必要がある. また,油汚 染地盤や汚染地下水の浄化対策として,注水や揚水によ
り浸透油を回収する際にも 2 相流体同時浸透の解析が必要となる.
飽和土中への油の浸透現象は,毛管圧や流体間の界面
張力,土の間隙構造等が複雑に関与し,浸透油が既存の*1 工学研究科土木工学専攻修士課程 *2 工学部土木工学科教授
(a) Infiltration from the ground surface.
(b) Leakage from the underground tank.
Underground oil tank
Water
G.S.
Oil
Air+Water
Air+Oil+Water
Water
G.S.
Oil+Water
東海大学紀要工学部vol.52,No2,2012,pp.217-224
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土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
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間隙水を完全に置換することはなく,土間隙に水と油が
併存した状態で両相が移動する 3).さらに,石油系炭化
水素が飽和土中に存在する場径合には,水が土粒子に対
して湿潤流体(Wetting fluid),油が非湿潤流体(Non-wetting fluid)となることが知られている 4,5). 本研究は,飽和砂中への油の浸透現象を室内での鉛直
カラム実験を通じて再現し,2相流体の土間隙における
置換割合や既存間隙水の残留飽和度の大きさについて検
討するとともに,油飽和砂中への水の浸透置換を再現す
る実験(逆置換問題)を実施し,帯油層原油の注水置換解析で用いられる Buckley-Leverett 解析 6)を通じて実験結果の分析を行った.
2.実験の概要 実験装置は Fig.2 に示す内径 1.5cm,長さ 50cm のアクリルカラムの下部に送液定量ポンプを繋げた単純なもの
である.カラム内壁には接着剤で豊浦砂を貼り付け,壁
面に沿う水みちの発生を防止するとともに,カラム下端
には注入圧を測定するため小型圧力計を設置した. このカラム内に豊浦砂(平均粒径 0.25mm)を一定密度
で充填し,最初に送水によって試料を完全に飽和させた
後,送液を油に切り替え,カラム上端からの排出液を 2ccずつ連続的に採取した.送液流量は q = 0.04~0.18cm3/sの範囲で 3 種類変えて行い,排出液中の油分量を正確に把握するため,油のみに溶解して赤色に発色する着色剤
(SudanⅣ)を使用した.Fig.3 にその採液状況を示す. Fig.2 の装置を用いた透水試験より,豊浦砂の透水係数
は 0.015~0.025cm/s であった.実験に使用した油は,灯油(家庭用燃料),A 重油(電力船舶用燃料),潤滑油(真空
Fig.2 Experimental apparatus.
Fig.3 Collection of discharged liquids.
ポンプオイル)の 3 種類で,それらの物理的性質を Table1 に示す.間隙水の油置換実験に続いて,試料を先に油で
飽和しておき,水による間隙油置換実験を同様の油種お
よび送液流量にて実施した.
3.実験結果 Fig.4 は,飽和砂中へ下端から流量 q = 0.040cm3/s で灯油を浸透させた場合の,上端から排出された水量 qw と油量 qo の時間変化を示したものである.浸透開始後 t = 500sまでは排出液は間隙水のみであるが,t = 550s 付近で qwは急激に減少し,代わって油量 qo が急激に増加している.その後は,qo が徐々に増加し,相対的に qw は減少して行く.間隙水の排出が止まるのは t = 1100s 付近であり,その時点で排出液は全て油となる. この変化は,充填試料(砂) の間隙容量や注入油量の影響を受けるので,横軸を流出間隙体積 Vp (effluent pore volume) に,縦軸を局所流率 fw= qw/ q, fo= qo/ q に置き換えると Fig.5 に示す結果が得られる.流出間隙体積 Vp は,流体が土間隙を通過する際の累積体積 Vf を土の間隙体積 Vv で除した値(無次元)であり,その量は充填砂の乾燥密度ρdと土粒子の密度ρsから間隙率φを求め,Vv = V×φ (V はカラム体積),Vp = Vf / Vv により算出した.
Fig.4 Change of the amount of discharge.
Properties Kerosene Heavy oil Lube oil
Densityρ (g/cm3) 0.795 0.837 0.880 Dynamicviscosity μ (Pa・s)
0.00242 0.0167 0.0250
Notes) ρw=1.00 g/cm3, μw =0.001 Pa・s
Data recordeOils
d =1.5cm
Fraction
L =
50 c
m Toyoura sand
D = 0.105 ~0.425mm ρs = 2.65 g/cm
3 e = 0.92~0.98
Pressure Tubing
pump
Glass
Acr
ylic
col
umn
P
K = 0.015~0.025 cm/s
Data recorder
Glass beads
Pressure transducer
Fraction collector
Table1 Physical property of oils.
0 200 400 600 800 1000 12000
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0
50
100
t
q ,w o
(s)
P(kP )a
P
qw
qqo
= 0.040 cm3/sq(cm3/s)Kerosene
土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
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玉井洋輔・本間重雄
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Fig.5 を見ると,排出液が間隙水から油に切り替わるのは Vp= 0.5~0.55 であり,したがって 1-Vp = 0.45~0.5 の量の間隙水が浸透油によって置換されずに間隙中に残存し
ていることになる.注入圧 p は飽和砂中への油の浸入につれて上昇していくが,間隙水が油で置換された後はほ
ぼ一定の状態となる.置換時の Vp の大きさは,間隙内実流速 (ve = q / Aφ )の影響はあまり受けないようである.
Fig.6 に間隙流体の置換状況を模式的に示した.ここで は,間隙中の油と水の分量をそれぞれ飽和度 So, Sw で示 している(So=Vo /Vv , Sw=Vw /Vv). Fig.6 に示すとおり,置換流体 (油 )によって置換されない不動水 (Immobile water)が土間隙中に残存し,移動可能な自由水 (Mobile water)を浸透油のフロント部が押し上げながら置換が進行しているものと推察される.浸透油のフロントが排出 端に到達(Breakthrough)した後には,間隙中に残存している自由水が浸透油に引きずられる形でゆっくりと排出さ れると考えられる.油によって置換される自由水の総量
は,Vp~fw 図における fw の累積から求めることができる. 油による間隙水の置換現象においては,一般に間隙水が
鉱物土粒子に対して親和性を有するため水が湿潤流体 (Wetting fluid)となり,油は非湿潤流体 (Non-wetting fluid)となる 6).飽和土中における湿潤流体と非湿潤流体の浸
透状況を Fig.7 に示した. Fig.8, Fig.9 はそれぞれ A 重油および潤滑油(真空ポンプ油)による間隙水の置換実験結果を Vp~fw , fo で示したものである.A 重油(Fig.8)では Vp= 0.55~0.6 で両流体の置換が生じており灯油の結果に近いが,潤滑油(Fig.9)で は Vp=0.65 近くで置換が生じ,間隙中の不動水量が若干 少なくなる傾向がみられる.また潤滑油の場合,土中へ の浸透が進むにつれ,灯油や重油に比べて注入圧が大き
く増加して行くが,間隙水の急激な置換が終了した後に は圧力が減少に転じている.
Imm
obile
por
e-w
ater
1So
Sw
0
1 0
t1
t2
t3Oil
0
z /L
Swr Mobile pore-water (at Breakthrough)
tB1
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
fw
f
fo= 0.026 cm/svav
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
fw
f
fo= 0.064 cm/svav
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )aP
fw
f
fo= 0.113 cm/svav
Fig.5 Change in the fractional discharge where Kerosene displaces water.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
50
100
150
200
V
fwo
p
P (kP )a
P
f w
f
fo= 0.055 cm/svav
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
50
100
150
200
V
fwo
p
P (kP )a
P
fw
f
fo= 0.026 cm/svav
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
50
100
150
200
V
fwo
p
P (kP )aP
f w
f
fo= 0.078 cm/svav
Fig.8 Change in the fractional discharge where heavy oil displaces water.
Fig.6 Displacement of water by oil in a soil column.
Fig.7 Displacement of wetting fluid by non-wetting fluid, and vice versa, in soil pores.
(a) (b) Water Immobile oil
Soil particle
Oil Immobile water
Mobile water Mobile oil
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土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
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Fig.10, Fig.11, Fig.12 はそれぞれ灯油,重油,潤滑油で試料を先に飽和させた後に,カラム下端から水を注入し
た場合の実験結果(逆置換)である.間隙油が注入水で置換されるときの Vp は,灯油では 0.55~0.65,重油では 0.2~0.25,潤滑油では 0.14~0.15 付近に現れ,特に重油と潤滑油においては,間隙水の油による置換実験とは逆に
置換時の Vp が大きく低下する.さらに,重油(Fig.11),潤滑油(Fig.12)では,置換後にも間隙油の排出がゆっくりと継続する.
これは,Fig.7(b)に概念的に示し したように,粘性が大きい油では 土粒子周辺の間隙油は容易に移動
せず,注入水は土間隙の中央付近
の流路を主に通過し,その後土粒
子に対し親和性である水が土粒子
表面に浸潤していくためと考えら
れる.Fig.11,Fig.12 の注入圧の変化に着目すれば,間隙油が水によ
って置換された直後から圧力が大
きく低下して行く特徴が見られる. 以上の油による間隙水の置換実験およびその逆の水に
よる間隙油の置換実験結果から,置換流体によって置換
されない間隙流体の残留飽和度を求めると,Table2 に示す値が得られた.これより,飽和砂中に油が浸入する場
合には,灯油,重油,潤滑油の順に間隙水の残留飽和度
Swr は減少し,逆に油で飽和した砂中に水が浸入する場合には,灯油,重油,潤滑油の順に間隙油の残留飽和度
Sor は増加することが示された.これには,置換・被置換流体の粘性や土粒子に対する親和性が大きく関与するも
0 0.5 1.0 1.5 2.00
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
f
w
f
f
o
= 0.072 cm/svav
0 0.5 1.0 1.5 2.00
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
f
w
f
f
o
= 0.033 cm/svav
0 0.5 1.0 1.5 2.00
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
f
w
f
f
o
= 0.113 cm/svav
Fig.10 Change in the fractional discharge where water displaces Kerosene.
0 0.5 1.0 1.5 2.00
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
f
wff
o
= 0.027 cm/svav
0 0.5 1.0 1.5 2.00
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
P
f
wf
f
o
= 0.070 cm/svav
0 0.5 1.0 1.5 2.00
0.5
1.0
0
50
100
V
fwo
p
P(kP )a
Pf
w
f
f
o
= 0.117 cm/svav
Fig.11 Change in the fractional discharge where water displaces heavy oil.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
250
500
V
fwo
p
P(kP )a
P
fw
f
fo= 0.014 cm/svav
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
250
500
V
fwo
p
P(kP )a
P
fw
f
fo= 0.018 cm/svav
Fig.9 Change in the fractional discharge where lube oil displaces water.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
250
500
V
fwo
p
P(kP )a
Pf
wf
f
o
= 0.024 cm/svav
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.20
0.5
1.0
0
250
500
V
fwo
p
P(kP )a
Pf
w
f
f
o
= 0.057 cm/svav
Fig.12 Change in the fractional liquids where water displaces lube oil.
土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
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のと考えられるが,置換流体の間隙内実流速による影響
については実験の範囲内では明確な関係は認められなか
った.
4.2 相流体の同時浸透解析 多孔質体中の互いに混和しない 2 相流体の浸透現象に関しては,採油工学の分野において古くから研究が行わ
れている.それらの成果は,帯油層において採油効率を
継続的に維持する目的から揚油井の周辺に複数の注水井
を設け,高圧注水により帯油層原油を揚油井方向に置換
する水攻法 7) などに生かされている.その場合,帯油層内の流れは水-原油の非混和 2 相流体流れとしてとらえられ,一般に Buckley-Leverett 問題として解析や工法の設計が行われている.Buckley-Leverett 解析法 5) は相対透過係数の概念を用い,重力と毛管圧の影響を無視した均
質帯油層中の非圧縮性 2 相流体の非混和流れに基づいており,その概要は次のようなものである. 飽和多孔質体中における鉛直方向への油と水の浸透流
量は,ダルシーの法則より次式で示される. ここに,k は多孔質体の固有透過係数,A は透過断面積,Po ,Pw はそれぞれ間隙油と間隙水の圧力,kro,krw は多孔質体に対する油と水の相対透過係数であり,一般に飽和
度の関数として Fig.13 のように与えられる 8).多孔質体内 に お け る 油 と 水 の 接 触 面 で 生 じ る 毛 管 圧 を
Pcow=Po-Pwとすると,式(2)の Pwを次のように書き換え, さらに式(3)から式(1)を差し引くと となる.ここに, は 2 流体の単位体積重量差である.qw+ qo= q の関係から qo= q- qw を式(4)に代入すると
が得られる.これより間隙水の局所流率 fw は となる.同様な手順により,間隙油の局所流率 fo は次のようになる. ここで,毛管圧と重力の影響を無視すると fw , fo は次のような簡単な表現となる. fw の変化の一例を Fig.13 中に示した. 次に,間隙水の質量保存則から連続の式は と表され,間隙水を非圧縮性と仮定すると qw= fwq の関係から となる.ここに は多孔質体の有効間隙率である.fw(Sw) であるので,上式は次のように書き直される.
上式は飽和度 Sw の位置的・時間的変化を表す微分方程式であるが,Buckley-Leverett5) のアイディアは式(12)をさらに次の特性方程式に変換したことにある 4).
これより置換流体の飽和度一定面の進行は,式(13)を時間について積分することにより
Residual saturation Kerosene Heavy oil Lube oil
Swr 0.44 ~ 0.48
0.43 ~ 0.47
0.30 ~ 0.35
Sor 0.25
~ 0.28 0.46
~ 0.49 0.80
~ 0.82
Table2 Range in residual saturations.
Swr : Residual water saturation where oil displaces water.Sor : Residual oil saturation where water displaces oil.
)2()( gwww
rww z
PAkkq
)1()( goo
o
roo z
PAkkq
Fig.13 Relative permeabilities and the corresponding fractional flow curve8).
)3(( ) gww
rww z
PPAkkq cowo
)4()(1 g
zP
kq
kq
kAcow
ro
oo
rw
ww
g
)6(1
)(1
o
w
rw
ro
cow
o
ro
ww
kk
zP
qAkk
qq
f
g
)7(1
)(1
w
o
or
rw
cow
w
rw
oo
kk
zP
qAkk
qq
f
g
)9()8(1
1,1
1
w
o
or
rwo
o
w
rw
row
kk
kk
ff
)10()()( wwww StAqz e
)11(t
Sq
Az
wewf
e
)12()()( tzS
SAq
tS w
w
ww
dfd
ez
)13()()( tw
w
SAq
tz
dfd
eSw
Sw
So
krw ,kro fw
krw
kro
1
1
0
00
1
Sor
fw
Swr
)5()()1( g
zPAkk
kkqq cow
o
ro
o
w
rw
row -
玉井洋輔・本間重雄
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土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
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で求められる.ここに z0 は時間 t=0 における飽和度一定面の位置である.採油工学では,帯油層原油の注水置換
を目的としているため,式(14)が解析の基礎式として用いられる. 一方,土間隙が初期に水で飽和され,油の浸入により
間隙水が置換される逆の場合には,式(9)を用いて同様の展開をたどると,間隙油の飽和度一定面の進行は により評価できる. 最初に Buckley-Leverett の原式(14)により,灯油で飽和した豊浦砂に水を注入した置換実験の再現を試みる.灯
油と水の粘性係数と密度は Table1 に示した値を用い,相対透過係数は Fig.13 に示した曲線を採用した.また,間隙油の残留飽和度は Table2 より Sor=0.25 を用いた. Fig.14 は Fig.10 に示した q=0.054cm3/s (vav=0.033cm/s)での注水置換の計算結果である. Fig.10 は流出間隙体積Vp に基づいたグラフであったので,これを流量~時間関係で表したもの(実験結果)を Fig.15 に示す.Fig.14 より置換水のフロントは一定速度で上昇を続け,約 10 分半程でカラム上端に達し(Breakthrough)ており,これは Fig15に示す実験結果とよく一致している.ただし,計算結果
では Breakthrough 後の残留可動油(Residual mobile oil) がかなり残存し,それが間隙水の飽和度の上昇につれゆっ
くりと排出されることになるが,実験ではその量は多く
なく約 33 分で残留可動油の排出が停止している.これはFig.7(b)に示したように,土粒子に対し湿潤流体である水が土粒子表面に徐々に浸潤し,残留可動油が付着水膜の
間に取り残されてしまうためであろうと考えられる.
Fig.16 は Fig.4 に示した q=0.040cm3/s での灯油置換を式(15)により計算した結果である.間隙水の残留飽和度は Table2 より Swr=0.44 を用いた.Fig.16 から,置換油のフロントは約 8 分半でカラム上端に達しており,これはFig.4 に示した実験結果とよく一致している.この場合,Breakthrough 後の残留可動水量はかなり少なく,これはFig.7(a)に示したように残留可動間隙水は置換油によってそのほとんどが置換されてしまうためと考えられる.
しかし,Fig.16 の飽和度から排出可能間隙水量を算出すると 4.25cm3 となるが,Fig.4 の t=580s 以降の qw の総量は 2.12cm3 であり約 2 倍の開きが認められる.これには間隙中での可動湿潤流体の一部が土粒子周囲の不動水に
取り込まれてしまうためではないかと推察され,式(8)(9)による単純な局所流率では表現できない土粒子表面部に
おける 2 相流体の複雑な浸潤機構が介在することが窺がわれる.
以上の結果から,砂中を油および水が浸透する際の有
効間隙率φeを求めると Table3 に示す値が得られ,飽和砂中に油類が浸出する際の有効空隙率はおおむね 0.25~0.35 の大きさであることが示された.逆に油で飽和した
)14()( 0zSAtqz
w
wS d
fd
ew
)15()( 0zSAtqz
o
oS d
fd
eo
0 5 10 15 20 25 30 350
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0.07
0
10
20
30
t
q ,w o
(min)
P(kP )a
P
q
w
q
q
o
= 0.054 cm3/sq(cm3/s)
Kerosene
Fig.15 Change in the amount of discharge where water displaces Kerosene.
Fig.14 Computed water saturation profile.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.00
10
20
30
40
50
Sw
z(cm)
Sor=0.25
10min
9min
8min
7min
6min
5min
4min
3min
2min
t =1min
Res
idua
l mob
ile o
il
Imm
obile
oil
Fig.16 Computed oil saturation profile.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.00
10
20
30
40
50
So
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Swr =0.44
土中における間隙水と油の同時浸透に関する実験と解析
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玉井洋輔・本間重雄
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汚染砂を水で置換する際には,間隙油の粘性が増大する
につれ水の浸透する有効間隙は大きく減少するため,汚
染油を効率的に回収するためには,化学溶剤(界面活性剤等)の使用が有効であると思われる.
5.あとがき
油による地盤環境汚染に関して,土中における間隙水
と油の同時浸透機構を室内カラム実験を通じて調べ,そ
れらの結果を Buckley-Leverett 解析を用いて分析した. 本研究を通じて得られた知見を要約すると以下のとおり
である. 1) 飽和砂中への油の浸透現象においては,間隙中の水と油が非混和状態で同時に移動する.置換流体(油)によって置換されない間隙水の飽和度(残留飽和度 )は 30%~48%であり,浸透可能な砂の有効空隙率は 0.25~0.34 であった.残留飽和度および有効間隙率は,浸透油の粘性
が増大するにつれ減少する傾向が認められた. 2) 油で飽和した砂中に水が浸透する場合には,急激な置換の後にも間隙油の一部が土間隙を浸透し続ける.これ
には,湿潤流体である水が土粒子表面に浸潤することに
より付着間隙油の移動が生じるためと考えられる.この
場合の間隙油の残留飽和度は Sor=20%~82%,有効空隙率はφe=0.35~0.10 となり,間隙油の粘性が増大するにつれ Sor は増加し,φeは大きく減少する. 3) 間隙水と油類の同時浸透現象を非混和 2 相流体流れに基づく Buckley-Leverett 解析法により計算した結果,浸透フロントの進行や残留可動相の排出状況が良好に再
現し得た.Breakthrough 後の置換相量には実験との差が認められ,理論では表現されない土粒子表面部での 2 相流体の局所的な置換挙動が介在することが推察された. 油汚染土の浄化対策の観点からは,土粒子に付着した
油類の溶解剥離を促す界面活性剤の使用が有効である.
油除去に用いられる界面活性剤には,陰イオン系界面活
性剤(アニオン性界面活性剤),陽イオン系界面活性剤(カチオン性界面活性剤),非イオン系界面活性剤(ノニオン 性界面活性剤)があるが 9),界面活性剤を用いた油汚染土
の浄化法に関する研究 10)や油汚染サイトの原位置土壌
洗浄に関する研究 11)などが活発に行われている.筆者の
一人は,過酸化水素 (0.5%水溶液 )やケイ酸ナトリウム(1%,5%水溶液)を用いた油汚染土の撹拌洗浄実験 12)より,75%~85%の油回収率を得ており,今後,カラムや土槽による浸透洗浄実験を実施していく予定である.しかし,
油汚染土の完全な浄化は実際容易ではなく,長期的な対
策としては汚染土壌中に空気や栄養塩を供給し,油分の
生物的な分解促進を図るバイオレメディエーションが有
望とされており 13),原位置浄化への適用も進んでいるの
が現状である.
謝辞
本研究に関わる室内実験を精力的に実施した 2011 年度卒研生の安井一正,遠藤貴明両君に謝意を表します。
参考文献 1) 岩田進午・喜田大三監修:「土の環境圏」pp.1197-1207,
フジテクノシステム(1997) 2) 嘉門雅史・日下部治・西垣誠:「地盤環境工学ハンド
ブック」pp.372-380, 朝倉書店(2007) 3) Dullien F.A.L.: Porous Media ―Fluid Transport and Pore
Structure―, Academic Press(1979) 4) 地盤工学会「続・土壌・地下水汚染の調査・予測・対
策」,地盤工学・実務シリーズ 25,pp.42-50 (2008) 5) 藤縄克之・日比義彦: 地盤内の物質移動方程式-多層
流問題-, 土と基礎, 50-11,pp.66-70(2002) 6) Buckley S.E. and M.C.Leverett: Mechanism of fluid
displacement in sands, AIME, Vol.146, pp.107-116(1942) 7) Craft B.C., M.Hawkins and R.E.Terry: Applied Petroleum
Reservoir Engineering, Prentice-Hall(1991) 8) Morgan J.T. and D.T.Gordon : J.Pet.Tech.Vol.22(1970) 9) 吉田時行他: 「界面活性剤ハンドブック」,工学図書
(2000) 10) 梶田真一・棚橋秀行・大東憲二: 乳化・微発泡作用
を用いた油汚染浄化法の開発,土木学会第 59 回年次学術講演会,7-262(2004)
11) 上村宏允・長野勝己: 土壌洗浄・揚水工法による油分汚染対策,第 17 回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会,S4-17(2011)
12) 本間重雄:「油による地盤環境汚染機構とその浄化法に関する基礎的研究」,平成 16 年度~平成 17 年度科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書(2006)
13) 藤田正憲・矢木修身・漆川芳國編集: 「バイオレメディエーション実用化への手引き」,リアライズ理工セ
ンター(2001)
Displacement Kerosene Heavy oil Lube oil
Oil→Water 0.25 ~ 0.27
0.25 ~ 0.27
0.31 ~ 0.34
Water→Oil 0.35 ~ 0.36
0.24 ~ 0.26
0.09 ~ 0.10
Table3 Range in effective porosities.
Note) A→ B : A-liquid displaces B-pore-liquid.
玉井洋輔・本間重雄