未来型教養プロジェクト ワークスタイル ·...

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1 マドワーカーの安藤美冬さんをお招きし、未来 型教養プロジェクト主催の第二回ディスカッ ションを行いました。安藤さんは、慶応義塾大 学を卒業後、集英社にて広告営業と宣伝業務の経験を積 み、2011年の1月に独立して、現在フリーランスとして働い ています。 安藤さんは、業種を決めず、多種多様な仕事を手がけて います。研究者になるか、大企業に就職して働くという一 般的な東工大生の選択肢からはかけ離れたワークスタイル だといえるでしょう。「東工大生だから理系として研究職 に就く」という固定観念を取り払い、幸せな人生を送るた めにどのような仕事選びをするべきなのか、そのために必 要な教養は何なのか、ということを考える。今回はこれを テーマに据え、前半は安藤さんの講演、後半は質問を交え た議論という形でディスカッションが行われました。 未来型教養プロジェクト 第二回 ゲスト紹介 安藤美冬(あんどう・みふゆ)さん 株式会社スプリー代表。1980年生まれ、東京育ち。 慶応義塾大学卒業後、(株)集英社にてファッショ ン誌の広告営業と書籍単行本の宣伝業務経験を積 み、 2008年には社長賞を受賞。20111月独立。 ソーシャルメディアでの発信を駆使し、一切の営業 活動をすることなく、多種多様な仕事を手がける独 自の ノマドワークスタイルが、TBS系列『情熱大 陸』で取り上げられる。またNHK Eテレ『ニッポン のジレンマ』では30代の若手論客として、フジテレ ビ『Mr.サンデー』ではゲストコメンテーターとし て出演。『自分をつくる学校』の運 営、野村不動 産やリクルート、東京ガスなどが参画する新世代の 暮らしと住まいを考える『ポスト団塊ジュニアプロ ジェクト』ボードメンバーのほか、日本初の スマ ホ向け放送局『NOTTV』でのレギュラーMCや連載 の執筆、講演、広告出演など、企業や業種の垣根を 超えて活動中。2013年春創刊のシングルアラフォー 向け女性誌『DRESS』では、「女の内閣」の「働き 方担当相」を務める。猫と旅と映画と本をこよな く愛する33歳。著書に『冒険に出よう』(ディス カヴァー・トゥエンティワン)がある。 一人ひとりに合う選択を 最初に安藤さんが切り込んだのは「東工大生の常識が世 間一般とあまりにも乖離している」ということです。皆さ んも知っていることだろうと思いますが、東工大生は大学 を卒業後、その9割が大学院に行きます。一方、世間一般 では大学院進学は1~2割だと言われています。安藤さん は東工大生の現状を見て「ある世界の中に閉じこもってい るとそれが当たり前だと思い込んでしまうのでは」と指摘 します。確かに、将来のことをあまり考えずに、ふつうは 大学院に行くものだと思い込んでいる人もいるのではない でしょうか。 安藤美冬さん と考える Copyright © 2013 東工大CLA チームD All Rights Reserved. ワークスタイル 2012年12月14日 東京工業大学にて 今回の焦点 ①一人ひとりに合うワークスタイル セルフブランディングとは? 囚われすぎない仕事選び ④大切なのは人とのつながり

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ノ マドワーカーの安藤美冬さんをお招きし、未来

型教養プロジェクト主催の第二回ディスカッ

ションを行いました。安藤さんは、慶応義塾大

学を卒業後、集英社にて広告営業と宣伝業務の経験を積

み、2011年の1月に独立して、現在フリーランスとして働い

ています。

安藤さんは、業種を決めず、多種多様な仕事を手がけて

います。研究者になるか、大企業に就職して働くという一

般的な東工大生の選択肢からはかけ離れたワークスタイル

だといえるでしょう。「東工大生だから理系として研究職

に就く」という固定観念を取り払い、幸せな人生を送るた

めにどのような仕事選びをするべきなのか、そのために必

要な教養は何なのか、ということを考える。今回はこれを

テーマに据え、前半は安藤さんの講演、後半は質問を交え

た議論という形でディスカッションが行われました。

未来型教養プロジェクト

第二回

ゲスト紹介

安 藤 美 冬 ( あ ん ど う ・ み ふ ゆ ) さ ん

株式会社スプリー代表。1980年生まれ、東京育ち。

慶応義塾大学卒業後、(株)集英社にてファッショ

ン誌の広告営業と書籍単行本の宣伝業務経験を積

み、 2008年には社長賞を受賞。2011年1月独立。

ソーシャルメディアでの発信を駆使し、一切の営業

活動をすることなく、多種多様な仕事を手がける独

自の ノマドワークスタイルが、TBS系列『情熱大

陸』で取り上げられる。またNHK Eテレ『ニッポン

のジレンマ』では30代の若手論客として、フジテレ

ビ『Mr.サンデー』ではゲストコメンテーターとし

て出演。『自分をつくる学校』の運 営、野村不動

産やリクルート、東京ガスなどが参画する新世代の

暮らしと住まいを考える『ポスト団塊ジュニアプロ

ジェクト』ボードメンバーのほか、日本初の スマ

ホ向け放送局『NOTTV』でのレギュラーMCや連載

の執筆、講演、広告出演など、企業や業種の垣根を

超えて活動中。2013年春創刊のシングルアラフォー

向け女性誌『DRESS』では、「女の内閣」の「働き

方担当相」を務める。猫と旅と映画と本をこよな

く愛する33歳。著書に『冒険に出よう』(ディス

カヴァー・トゥエンティワン)がある。

■一人ひとりに合う選択を

最初に安藤さんが切り込んだのは「東工大生の常識が世

間一般とあまりにも乖離している」ということです。皆さ

んも知っていることだろうと思いますが、東工大生は大学

を卒業後、その9割が大学院に行きます。一方、世間一般

では大学院進学は1~2割だと言われています。安藤さん

は東工大生の現状を見て「ある世界の中に閉じこもってい

るとそれが当たり前だと思い込んでしまうのでは」と指摘

します。確かに、将来のことをあまり考えずに、ふつうは

大学院に行くものだと思い込んでいる人もいるのではない

でしょうか。

安藤美冬さん と考える

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© 2013 東工大CLA チームD All Rights Reserved.

ワークスタイル

2012年12月14日

東京工業大学にて 今回の焦点

①一人ひとりに合うワークスタイル

②セルフブランディングとは?

③囚われすぎない仕事選び

④大切なのは人とのつながり

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ただ、安藤さんはすべての人にノマドワークスタイル

が合うとは思っていません。東工大で専門的な勉強をし

て研究職に進む人は「スペシャリスト」と言われます。

このようなスペシャリストも世の中にはもちろん必要な

のです。ただ、その職業選択が幸せかどうかは、それが

自分で主体的に選択したものなのか否かにかかっている

のだと安藤さんは言います。私たち一人ひとりにはそれ

ぞれの成功モデルがある、その道を見つけるためのヒン

トとして話を聞いてほしい――それが安藤さんからの

メッセージでした。その言葉の通り、ノマドワークスタ

イルの切り口は、あらゆるワークスタイルに通ずるであ

ろう教養に富んでいました。安藤さんの講演から抜粋し

て紹介していきましょう。

将来の働き方はやはり気になるところ…

学生からも積極的に質問や意見が!

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■セルフブランディングとは?

ノマドワーカーというのはなぜ仕事が成立するのかと

いう疑問を持つ人も大勢いるはずです。専門的な知識は

スペシャリストの方が多いわけですし、個々のプロジェ

クトに参加するノマドワーカーは、総括的に企業の体質

を支えるジェネラリストとも異なります。安藤さん自身

は「プロフェッショナルな素人」を目指しています。業

界、専門領域を決めずにあらゆる業界と接点をもち、

「自分の切り口」であらゆることに切り込んでいくから

こそ価値が生まれるのだといいます。

「自分の切り口」が大切であるという視点は、研究職

についても言えることなのではないでしょうか。何か自

分にしかできないということがあれば、それは価値にな

ります。たとえ専門領域を決めたとしても、そのなかで

自分にしかできないことがあれば、そこが自分だけの居

場所だということになります。逆に考えると、仕事を選

ぶ際には、自分にしかできないようなことを探すと良い

といえるでしょう。

しかし、最初から自分にしかできないことがあるわけ

ではありません。安藤さんは自分だけの居場所を作るに

は「セルフブランディング」が大事だと言います。つま

り、自分のブランド化です。安藤さんは自分のブランド

を作るために、3つの視点を持っています。

1つめは経験や情報の蓄積です。たくさんの経験や情

報があれば、選択肢も広がる上に、臨機応変に対応でき

るでしょう。2つめは市場性を見極めること。自分にし

かできないことを価値あるものとするためには、やはり

周りに必要とされていることを見極めなくてはなりませ

ん。そして3つめは時代性を読むことです。時間ととも

に周りも変わっていくので、やはり先を見据えていない

といけないようです。

また、安藤さんはセルフブランディングには自分を客

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観的に見つめ、嘘偽りなく的確に表現しなければならない

と言います。思いが先行して戦略が足りなくなって失敗し

てしまう人が多いそうです。自分を冷静に見るために、時

には「意地悪く」見ることも必要だと言います。「継続は

力なり」ではあるけれども、やめるのも力です。嫌な仕事

がやめられなくなって不幸な人生を送る人もいるでしょ

う。特に日本人はやめるのが下手な人が多いようです。自

分を冷静に見つめることで「やめる力」もついていくのだ

と思います。

準備のし過ぎも良くありません。5年後、10年後に何か

自分のやりたいことをやろうと思って資金やコネなどを準

備していると、いつまで経っても始められないのだと安藤

さんは言います。10割の準備なんてものはないのだから、

ある程度準備ができたら素直に決断するべきなのです。

■囚われすぎない仕事選び

主体的にワークスタイルを決めていくというのが幸せの

カギだということでしたが、何をもとに主体的に判断する

べきなのでしょうか。「幸せ」という話題についても議論

が展開しました。

まず、安藤さんの考える幸せは「自由」なのだそうで

す。それも“freedom”ではなく“liberty”、不自由から

の解放、責任ある自由なのだといいます。“liberty”はリ

ベラルアーツセンターの“liberal”にも通じていますね。

つまり、偏見や固定観念を取り除くということでしょう

か。

固定観念といえば、仕事を選ぶ際に“what”や“where”

に囚われすぎている人が多いようです。安藤さんの場合は

「ノマドワークスタイル」という“how”を重視して仕事を

しています。自分の求めるものが“how”であるのに

“what”や“where”で考えても答えが見つからないのは当

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ワークスタイルについての議論をかわします!

ノマドワーカーとは?

ノマド(nomad)とは“遊牧民”を意味

する言葉です。仕事場をオフィスに限定

せず、カフェで仕事をしたり、働く場所

を選ばない人をノマドワーカーと呼んで

いたようですが、ノマドワークスタイル

も多様化し、明確な定義はないようで

す。

現在、ノマドワーカーと呼ばれる人た

ちは、それぞれ独自のワークスタイルを

もっています。

安藤さんの考えるノマドの本質とは

「枠にとらわれず、正解をもとめずに、

自分で新しいやり方を作りだしていくこ

と」。新たなやり方で、多種多様な人と

関わるノマドワーカーの方々の働き方

が、これからの社会で本当に必要とされ

てくるのかもしれません。

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然です。もちろん東工大生の中には「この研究がやりた

い!」と思って入学してきた人もいるでしょう。そして研

究に没頭して幸せをつかむ人もいます。幸せは人それぞれ

ですが、本当にそれが幸せなのかどうか、一度冷静に見直

してみることも必要なのだと思います。

■大切なのは人とのつながり

最後に、安藤さんは人とのつながりの大切さについて話

してくれました。将来どんなふうに人と関わってくるかわ

かりません。また、現代はネットも発達し、遠く離れた人

とも連絡を取ることができます。このような人とのつなが

りが断ちにくい世の中だからこそ、人とのつながりは社会

資本になるのだと言います。

「自分に転機をもたらしている人は今いる友だちではな

く、意外な人、未来に出会う人である」という、クルンボ

ルツ博士が示した"Planned Happenstance Theory(計画され

た偶然性理論)"があります。簡単に言うと、誰しも「たま

たまの連続」が今の自分を作っているということです。自

分の将来の幸せについても、何かを絶対だと決めつけず、

柔軟に考えていくのが良いのでしょう。

(文…渡来)

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終了後、参加者全員で記念写真。皆さんありがとうございました!

私たちは、今後も安藤さんのよ

うな社会で活躍する方々を交え、

ディスカッションを通して様々

な教養を学んでいきたいと考えています。

最新情報はこちらでご確認ください。

http://www.facebook.com/liberal.titech

編集後記

● 「何をするか」(what)よりも「ど

のようにするか」(how)に重点を

置くことだけで、以前よりも明確

に将来のビジョンを持つことがで

きた気がする。

● 理系一本で、開発者になることを

目標にしているが、自分の視野が

せばまっていたことに気づかされ

た。

● 失敗から学ぶ、人脈を大切にす

る、howを考えるなどなど…これ

からの人生に参考にできることが

たくさんあった。

ご意見・ご感想はこちらまで

[email protected] (担当 島田)