最近のフィリピン情勢と日比関係 · 2018-08-03 ·...
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最近のフィリピン情勢と日比関係
概況
l 2016年6月30日に就任したドゥテルテ大統領は,国民からの高い支持と好調な経済を背景に,これまで概ね順調に政権を運営。
l 治安・テロ対策や違法薬物対策は,ドゥテルテ政権の最重要課題の1つ。
→ 特に強盗や強姦といった犯罪事案の減少に伴い,一般治安状況は改善。
→ 違法薬物の乱用者・製造者・販売者の取締りを重点的に実施(取締り方法について批判あり)。
l 野党自由党や一部メディア,カトリック教会に対する批判等,政権に批判的な勢力に対しては厳しい姿勢で臨んでいる。
l 所謂「超法規的殺人」への批判,イスラム過激主義の浸透,バンサモロ基本法案成立の可否,共産勢力との和平交渉の決裂等,不安定要因が存在。
フィリピン内政
1
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3月 6月 9月 12月
ドゥテルテ大統領への信頼度(2017年)(%)
(※パルス・エイジアによる世論調査結果)
1.概況
l 2017年5月23日午後,ミンダナオ島南ラナオ州マラウィ市において,イスラム過激派武装組織が市街地での同時多発的なテロ事案を起こし,その後,市街地の一角を占拠。
l 国軍・警察による奪還作戦が継続的に遂行され,10月下旬,マラウィの解放が宣言された。
3.戒厳令の布告
フィリピン治安・テロ情勢
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l 2016年9月のダバオ市爆破テロ事案を受け国内全域に国家非常事態宣言(2016年9月~)。
l 2017年5月のマラウィ市占拠事案を受け同月23日にミンダナオ地域全域に戒厳令が発令され,ダバオ市やコタバト市など都市部でも厳戒態勢。同年12月,2018年末までの戒厳令の延長が決定。
2.マラウィ市占拠事案
l アブ・サヤフ・グループ,マウテ・グループなど,ISIL(イラク・レバントのイスラム国)の影響を受けた地域テログループの活動が顕著。
l ダバオ市爆破テロ(14人死亡。2016年9月発生),米国大使館前爆破物事案(2016年11月発生),マラウィ市占拠事案(2017年5月発生。10月に解放宣言)。
l ミンダナオ地域西部(スールー諸島)において身代金誘拐事案が多数発生。
マラウィ市
2.対米関係
l 南シナ海問題に関する比中仲裁裁判でフィリピンに有利な判断が下されたものの,同判断を当面は持ち出さないとして対中関係の改善に舵を切り,アキノ前政権下で悪化した比中関係は急速に改善。
l 2017年5月,「一帯一路フォーラム」にあわせてドゥテルテ大統領が2度目の訪中。習近平国家主席,李克強首相と別々に会談。11月,APECのため訪問していたベトナムでドゥテルテ大統領は習近平国家主席と会談。さらに同月,ドゥテルテ大統領は,ASEAN関連首脳会議にあわせてフィリピンを公式訪問した李克強首相と会談を実施。
フィリピン外政
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l 「独立した外交政策」を標榜。
l 対米依存を和らげ,中国やロシアとの関係強化に前向き。
l 日比関係は極めて良好・緊密。
l 同盟関係。ドゥテルテ大統領は就任以来,激しい米国批判を繰り広げ,対米関係の見直しに言及してきたが,トランプ米大統領との関係構築を機に,比米関係を立て直しつつある。
l 2017年11月のASEAN関連首脳会議の際,ドゥテルテ大統領とトランプ大統領との初の首脳会談が実施された。ドゥテルテ政権発足以降,空席となっていた駐米フィリピン大使の任命・着任。
3.対中関係
l 2017年に創設50周年を迎えたASEANの議長国として,一連の会議を成功に導いた。
4.対ASEAN関係
1.概況
2.フィリピンの経済政策
フィリピン経済
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l 2017年1~9月の実質GDP成長率は6.7%。
l 海外出稼ぎ労働者(OFW)からの送金に支えられた国内消費,ドゥテルテ政権が推進するインフラ投資・税制改革等により,今後も7%前後の高成長が続く見通し。
l 物価成長率は安定的に推移(2017年:3.2%)しており,経常収支も黒字を維持(2017年1~9月:2,800万ドル)するなど,マクロ経済のファンダメンタルズは堅調。
l 2016年10月,2040年までの長期ビジョン「AmBisyonNatin 2040 (Our Ambition 2040)」を発表。2040年までに,貧困がなく,繁栄した,中産階級中心で,健康かつ強靱でスマートで創造的な信頼感のある社会を達成し,国民一人あたりの所得を3倍にすることを目指す。
l 2017年2月,「AmBisyonNatin」の達成のため,中期開発計画である「フィリピン開発計画2017-2022」を策定。2022年までに貧困率を21.6%→14%に,失業率5.5%→3-5%に減少させる。
l 「ビルド,ビルド,ビルド」をスローガンとして,大規模なインフラ整備計画を推進。
3.フィリピンの財政政策
1.概況
l 積極的な財政出動を実施。2018年予算は対前年比12.4%増。
l 2022年までにインフラ支出を対GDP比7.3%に拡大(2017年:5.4%)。
l 「経済成長の促進」と「より包括的な社会の実現」のための税制改革(Tax ReformforAccelerationandInclusion(TRAIN))に着手。
- 個人所得税の大幅な減税,付加価値税の課税ベースの拡大,自動車税・石油税・石炭税の引上げ,
砂糖入り飲料に係る物品税の新設等を内容とする「パッケージ1」が昨年末に成立。
- 今後,法人所得税の引下げや優遇税制の見直しを内容とする「パッケージ2」が議論される予定。
日比関係
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l 2017年1月及び11月の安倍総理のフィリピン訪問,同年10月のドゥテルテ大統領の訪日をはじめ,年間を通じて活発な交流・協力が実現。
l 戦略的パートナーシップの「黄金時代」。
1月 2月 3月 4月 5月 6月
7月 8月 9月 10月 11月 12月
p 安倍総理のフィリピン訪問
p 海自航空機TC-90の移転
p 第1回日フィリピン経済協力インフラ合同委員会の開催(於:東京)
p 米比共同演習「バリカタン17」に自衛隊が初参加
p 日比沿岸警備当局による海賊対処合同訓練(於:スールー海,ダバオ沖)
p カエタノ外務大臣の訪日(第23回国際交流会議「アジアの未来」)
p 海自護衛艦「いずも」にドゥテルテ大統領が乗艦
p 第2回日フィリピン経済協力インフラ合同委員会の開催(於:マニラ)
p 河野外務大臣のフィリピン訪問(ASEAN関連外相会議)
p 世耕経済産業大臣のフィリピン訪問(ASEAN経済大臣関連会合)
p 小此木国家公安委員会委員長のフィリピン訪問(ASEAN関連国際犯罪対策閣僚会議)
p 小野寺防衛大臣のフィリピン訪問(拡大ASEAN国防相会議)
p ドゥテルテ大統領の訪日
p 第3回日フィリピン経済協力インフラ合同委員会の開催(於:東京)
p 安倍総理のフィリピン訪問(ASEAN関連首脳会議)
p 世耕経済産業大臣のフィリピン訪問(RCEP閣僚会合)
p 巡視船及び高速ボートの就役・引渡
p ピメンテル上院議長ほか上院公式派遣団の訪日
概況
2018年1月
p 野田総務大臣のフィリピン訪問
Ø 両国の戦略的なパートナーシップの強化を再確認。Ø ドゥテルテ政権重点分野への我が国からの支援強化を表明。
- 今後5年間で1兆円規模の官民支援の表明- 違法薬物対策(施設整備,人材育成支援)- 治安・テロ対策(小型高速艇の供与)- ミンダナオ支援(灌漑,治水分野等の支援)- マニラ地下鉄事業の早期実施への協力
Ø 2017年ASEAN議長国のフィリピンと地域の課題につき積極的に協力することで一致。Ø 南シナ海問題,北朝鮮問題の解決に関し両国の一致した立場を再確認。Ø 日米比の連携の重要性を確認。
・ドゥテルテ政権発足後,初の外国首脳によるフィリピン訪問。安倍総理
の2017年初の外遊先。
・日本からの経済ミッションが比経済界と交流。
・外国首脳として初めてダバオ(大統領私邸を含む)
を訪問。
・ミンダナオ国際大学で学生から熱烈な歓迎。
安倍総理のフィリピン訪問(1月12日~13日)
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12日(マニラ)
歓迎式典,首脳会談,署名式・共同記者発
表,企業との拡大会合,晩餐会
13日(ダバオ)
大統領私邸訪問,フィリピン鷲の命名式,
大統領との懇談,ミンダナオ国際大学訪問
概要・意義 主要⽇程
⾸脳会談
Ø 今後5年間の二国間協力に関する日・フィリピン共同声明を発出。
Ø 両首脳は,インフラ整備(マニラ首都圏の鉄道事業整備等),ミンダナオ開発支援強化,違法薬物対策,テロ・治安・海上安全対策,防衛面における協力を確認。マラウィ市の解放が宣言されたことを歓迎,テロとの闘いを全面的に支持。
Ø ドゥテルテ大統領は,日本の長年にわたる支援に感謝,日本は友人としてミンダナオにも長く積極的に関与,両国の協力関係は長い時の試練を経て磨かれたもの,真の友人である日本と「戦略的パートナーシップ」を強化していきたい旨発言。
Ø 北朝鮮等の地域情勢や海上安全保障も議論。ASEAN関連首脳会議(ドゥテルテ大統領が議長)への連携を確認。
・1月に総理が表明した「今後5年間で1兆円規模の官民貢献策」を具体化した共同声明を発表。
・マラウィ市解放直後のタイミングで,ドゥテルテ大統領の優先課題であるミンダナオの平和と安定に向けた取組を強
力に支える姿勢を示した。
・ASEAN関連首脳会議も見据え,地域・国際情勢に係る戦略認識の共有と協力の強化を確認。
ドゥテルテ大統領の訪日(10月29日~31日)
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概要・意義
⾸脳会談
30日:首脳会談,署名式・共同記者発表,晩餐会
31日:天皇皇后両陛下とのご会見
主要⽇程
1.二国間関係【ドゥテルテ大統領】Ø 日本からの支援に対して繰り返し謝意を表明。
Ø マニラ首都圏地下鉄計画やマラウィ市復興及び治安・テロ対策の案件等に関する交換公文が署名の運びとなったことに喜びを表明。
【安倍総理】Ø ASEAN関連首脳会議に際するフィリピンのおもてなしに謝意を表明。Ø 各交換公文の署名を歓迎。Ø 遺骨収集事業の早期再開に向けてドゥテルテ大統領の支援を要請。
2.地域情勢
Ø 北朝鮮や南シナ海を含む地域情勢も議論。特に北朝鮮については,ドゥテルテ大統領から,フィリピンは常に日本を支持するとの発言あり。
・安倍総理は,ASEAN関連首脳会議への出席に加え,ドゥテルテ大統領との会談を含む
多くの二国間や三国間会談を精力的に実施。
・安倍総理とドゥテルテ大統領との間で5度目となる会談が実施され,首脳会談後には,両
首脳の立ち会いの下,5件の署名文書の交換が行われた(マニラ首都圏地下鉄計
画,経済社会開発計画(治安・テロ対策及びマラウィ復興支援),海自航空機TC-90移転
等)。
安倍総理のフィリピン訪問(11月12日~15日)
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概要・意義
⾸脳会談
2.2017年以降に署名された経済協力案件
日比関係(経済)
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l 日本は比にとって最大の輸出相手国,最大の直接投資国かつ最大のドナー。
l 日比経済協力インフラ合同委員会(2017年3月,7月,9月)等を通じて,二国間の経済協力案件が進展。
l 日比経済連携協定については,2018年末までに一般的な見直しを完了するよう努めることとなった。
l 1月,ドゥテルテ大統領から直接要請のあった高速ボート供与に係る交換公文に署名(無償,6億円)。
l 3月,違法薬物使用者治療強化計画(無償,18億5千万円),ミンダナオにおける配電網整備支援(無償,7億7千百億円),ミンダナオの平和構築及び教育支援のための国際機関連携無償(無償,7億2千5百
万)及び警察車両等のテロ対策機材供与に係る交換公文(無償,5億円)に署名。
l 10月,カビテ州洪水対策に係る交換公文に署名(有償,約160億円)。
l 11月,マニラ首都圏地下鉄事業(有償,約1000億円),幹線道路のバイパス建設事業(有償,約94億円),治安・テロ対策及びマラウィ復興のための機材供与(無償,25億円)に署名。
3.2017年以降に進展のあった主要な経済協力案件
1.概況
l 南北通勤鉄道事業:既に日本が支援することが決まっていたマロロス-ツツバン間(38km)に加えて,ク
ラーク-マロロス,ツツバン-ロスバニョスの計180kmの区間を全て日本が支援することが確定。
l 巡視船等の供与:2013年に供与を決定した10隻の44m級の巡視船については,2017年までに6隻引渡し。
2018年に残り4隻の引渡予定。
l 治安・テロ対策機材の供与:高速ボートについては,最初の3隻が2017年11月に引渡し。2018年には,更に7隻が引渡予定。警察車両は,2017年11月にマニラで,2018年1月にダバオで引渡式典を実施。
l 次世代航空保安システム:2002年に円借款を供与した航空管制システム整備事業につき,2018年1月に
大統領出席の下,供与式典を開催。
1.内政
l 2019年5月の中間選挙をにらんだ動き
l 憲法改正(連邦制の導入,大統領の任期延長等)を巡る議論
l ミンダナオ和平:バンサモロ基本法案の扱い,戒厳令(本年末まで延長)の扱い
l マラウィ復興
l 治安・テロ対策:イスラム過激主義の浸透のリスク,共産主義勢力(NPA)への対応
l 違法薬物対策
l 政権批判的なメディアとの対立(Rapplerの法人登録取り消し等)
l 包括的税制改革の行方(特にPEZA(経済特区)におけるインセンティブの見直し)
l 外資規制緩和の行方
今後の注目点
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2.外政
(1)対日関係
l 戦略的パートナーシップの「黄金時代」に相応しい安保・経済・文化など様々な分野における協力の更なる拡大。
l 2017年10月に発出された「今後5年間の二国間協力に関する共同声明」を踏まえた協力案件の着実な実施。
l 歴史問題(慰安婦等)の適切な処理
(2)対米関係
l ドゥテルテ大統領の訪米?
(3)対中関係
l 習近平国家主席のフィリピン訪問?
l ASEAN対中調整国(本年夏頃~):南シナ海行動規範(COC: Code of Conduct)の交渉。