日本貿易振興機構 -...

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Copyright © 2009 JETRO. All rights reserved. 禁無断転載 1 2009 3 11 日作成 日本貿易振興機構 世界同時不況によりアジア域内各国の実体経済の先行きにも不透明感が増しています。 主要輸出先である欧米市場の景気減退感から、内需刺激策など国内市場の拡大で景気回復を 図る動きがみられる中、「世界の工場」といわれる中国企業が余剰製品をアジア各国に振り向 けているのではないか、中国製品の流入・競合を避けるために、各国が保護主義化するので はないか、との懸念も強まっています。本特集では、アジア各国における中国製品の波及状 況、政府・産業界の対応などについて7回に分けて報告します。 警戒感強め輸入規制の強化も(1)(ASEAN・南アジア)2009 02 19 ................... 2 急増を受け対中輸入を牽制(2)(インド)2009 02 20 .............................. 4 密輸防止図り電子・電気など 5 分野で輸入規制(3)(インドネシア)2009 02 23 ...... 7 低価格の中国製品の流入を懸念(4)(タイ)2009 02 24 ............................ 9 低価格で販売伸ばす中国製二輪車(5)(フィリピン)2009 02 25 ................... 11 スーパーから消えつつある中国製品(6)(ベトナム)2009 02 26 ................... 13 模倣品天国も転機に(7)(ベトナム)2009 02 27 ................................. 17 ※通商弘報は、70 ヵ所を超えるジェトロ海外事務所の駐在員から送られる国際ビジネス関連情報を、 いち早くお手許にお届けするニュースサービスです。ウェブサイトは 1 2 回更新、メールニュー スが毎日配信(土日祝祭日除く)されます。購読方法など詳細については、ジェトロのウェブサイ ト(http://www.jetro.go.jp/biz/kouhou/subscription/)をご覧ください。

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2009年 3月 11日作成

日本貿易振興機構

世界同時不況によりアジア域内各国の実体経済の先行きにも不透明感が増しています。

主要輸出先である欧米市場の景気減退感から、内需刺激策など国内市場の拡大で景気回復を

図る動きがみられる中、「世界の工場」といわれる中国企業が余剰製品をアジア各国に振り向

けているのではないか、中国製品の流入・競合を避けるために、各国が保護主義化するので

はないか、との懸念も強まっています。本特集では、アジア各国における中国製品の波及状

況、政府・産業界の対応などについて7回に分けて報告します。

目 次

警戒感強め輸入規制の強化も(1)(ASEAN・南アジア)2009 年 02月 19日 ................... 2

急増を受け対中輸入を牽制(2)(インド)2009年 02月 20 日 .............................. 4

密輸防止図り電子・電気など 5 分野で輸入規制(3)(インドネシア)2009 年 02月 23日 ...... 7

低価格の中国製品の流入を懸念(4)(タイ)2009年 02月 24日 ............................ 9

低価格で販売伸ばす中国製二輪車(5)(フィリピン)2009 年 02月 25 日 ................... 11

スーパーから消えつつある中国製品(6)(ベトナム)2009 年 02月 26 日 ................... 13

模倣品天国も転機に(7)(ベトナム)2009 年 02月 27日 ................................. 17

※通商弘報は、70 ヵ所を超えるジェトロ海外事務所の駐在員から送られる国際ビジネス関連情報を、

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警戒感強め輸入規制の強化も(1)(ASEAN・南アジア)2009 年 02 月 19 日

米国金融危機に端を発した世界同時不況の中で、中国製品がアジア域内にもあふれ出し、各国

の実体経済に影響を与えている。一部の国では国民の健康保護という名目で中国産の特定品目の

輸入を暫定的に禁止したほか、密輸防止を理由として特定品目の輸入者登録義務、輸入港の制限

などを課すところも出ている。今後、日本企業の事業活動にも影響を与えかねない貿易関連措置

について、その動向を注視する必要がある。中国製品の波及が与えたアジア各国市場への影響に

ついて、7 回に分けて報告する。

<中国製玩具を半年間輸入禁止>

中国製品の国内普及状況を現地に聞くと、「今に始まったことではない」との声が多い。ジェト

ロが実施した在アジア日系企業の経営実態-ASEAN・インド編(2007 年度調査)によると、現

地での最大の競争相手はどの国・地域の企業かを聞いたところ、中国企業と回答した割合(33.6%)

が最も多かった。

インドは、輸入が急増したいくつかの製品を対象に、輸入ライセンス制度や強制規格であるイ

ンド工業規格(BIS)を適用している。政府は「特定の国をターゲットにしてはいない」と主張

しているものの、ほとんどの対象製品の最大の輸出国は中国であり、結果として中国製品の輸入

を牽制している。また、商工省は中国製玩具に対して、輸入を 6 ヵ月間禁止する通達を 1 月 23

日に出した。通達は輸入禁止の理由を明らかにしていないが、政府は、中国製玩具に有害物質が

含まれている可能性があるという保健および司法当局の訴えを受けて発動した「暫定措置」と説

明している。

インドネシアは、世界的な景気後退の影響で、欧米諸国や日本など先進国の消費が低迷し、中

国などからの密輸品の流入拡大が予想されることから、密輸入対策に乗り出した。密輸品被害が

大きい特定製品を対象に、1 月から輸入業者登録の義務付け、輸入港の限定、製品の船積み前検

査を行う。これにより、製品の確認と流通経路の明確化を図り、輸入データを蓄積することで、

密輸防止を含めた今後の対策に活用するという。

<ベトナムでは中国製品よりも国産品が人気>

ベトナム南部のホーチミンでは、買い物の中心になりつつあるスーパーの店頭に中国製品がほ

とんどみられなくなった。中国製乳製品のメラミン混入問題をきっかけに、消費者の中国製品に

対する不信感から、中国製品が次々と陳列棚から撤去された。また、輸出中心だったベトナム地

場企業も国内市場に目を向け始め、いまやスーパーでは国産品が品ぞろえの多さと品質面が評価

され、消費者の支持を集めている。

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しかし中国と陸続きであるベトナムのこと、密輸品、模倣品は市場(いちば)のあらゆるとこ

ろで見受けられる。当局は密輸品の水際での取り締まり、模倣品製造工場の摘発、また模倣品を

製造するための部材の供給源である不正商品を扱う部品市場の閉鎖などの対策を講じている。

一方、タイでは、世界経済の後退の影響で、中国製品の輸入急増による市場かく乱の懸念が電

機・電子産業界で指摘されているものの、政府は目立った措置を講じていない。フィリピンでは

2009 年に入り、中国の自動車メーカーが新規市場参入を果たしたほか、06 年に販売が減尐した

中国製バイクがその後、低価格を武器に再び市場シェアを拡大し、低所得者層を中心に急速に浸

透している。

インドの強制規格適用品目には日本の主要輸出品目が含まれているため、日本の関係企業・業

界は、インド政府に対し、強制規格の導入延期を要望している。インドネシアでは、密輸品対策

の対象品目以外にも、中国などからの製品輸入急増による市場かく乱の恐れから、国内製造業が

大きな打撃を被るとの懸念が強まっており、政府が今後、密輸防止を含めどのような対策をとる

か、注視しておく必要がある。

なお、日本では、経済産業省が世界各国で導入された企業活動に影響を与える貿易措置を迅速

に把握し、対応するための体制を強化するため、アクションチームを設けた。

(馬場雄一)

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急増を受け対中輸入を牽制(2)(インド)2009 年 02 月 20 日

中国製品の輸入が加速度的に増えている。2008年には輸入全体に占める割合が 10%を超え、国

内市場でますます存在感を高めている。世界景気の後退で、輸出や国内消費が伸び悩む一方、輸

入は拡大を続けているため、政府は国内産業保護を目的に、中国製品を意識したとみられる輸入

抑制措置をいくつも発動している。しかし、対象製品には鉄鋼など日本の主要輸出品目も含まれ

ているため、関係する日系企業は政府の動きを注視している。

<対中輸入は 5年で 10倍に>

中国からの輸入は近年、輸入全体の伸びをしのぐ勢いで増えている。過去 5年間の年平均成長

率(CAGR)は 50%を超えており、輸入額は 5年で 10倍以上に膨らんだ。08年は 1 月~9月で既

に前年 1年間に比べ 55%増の 271 億ドルに達した。輸入全体に占める中国製品のシェアは 11.4%

まで上昇し、対中輸入はさらに加速の度合いを強めている(図参照)。07年には、中国が米国を

抜き、インドにとって最大の貿易相手国となるなど、貿易面での中国の存在感は群を抜いている。

対中輸入を製品分類別にみると、電子製品が対中輸入全体の約 3割と圧倒的に多い。電子製品

は 08 年 1~9月に 76億 3,610万ドルを輸入しており、当該製品の輸入全体に占める中国製品の割

合も 37.6%と高い(表参照)。国内産業の発展の遅れから、テレビや携帯電話などの部品・材料

の多くは中国や ASEAN からの輸入に頼っているのが現状だ。次に多く輸入されているのは、発電

や農業分野の設備が含まれる非電気機械類、鉄・鉄鋼製品、有機化学品で、当該製品の輸入に占

める中国製品の割合はそれぞれ、16.5%、23.4%、23.9%と高い。

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一方、輸出をみても、中国は米国、アラブ首長国連邦に次ぐ 3番目の相手国となっている。し

かし、投資面では、農業機械のマヒンドラ・マヒンドラ、風力発電のスズロン・エナジーなどイ

ンドからの大型対中投資と、ハイアール、ファーウェイ、ZTEなど中国企業による電気電子・通

信分野でのインド投資が増えてはいるが、急拡大する貿易関係に比べるとそれほど活発ではない。

<輸入ライセンス制の導入や独自工業規格の適用で牽制>

世界経済が急激に冷え込んだ 08年第 4四半期には、インドの輸出額は 3ヵ月連続でマイナス成

長となったにもかかわらず、輸入額は 10.6%(10月)、6.1%(11月)、8.8%(12月)(いずれも

速報値)の伸びと拡大を続けている。内需は減速しているため、国内市場に供給される国内製品

と輸入製品とのバランスが大きく崩れたと考えられる。

こうした事態を受けて、政府は、輸入が急増したいくつかの製品について、アンチダンピング

やセーフガードなどの措置だけでなく、輸入ライセンス制度やインド工業規格(BIS)などの適用

といった保護主義的な動きをみせている(2008年 12月 9 日記事参照)。

アンチダンピングを除くと、政府は「特定の国をターゲットにしていない」と主張しているも

のの、対象となっている製品のほとんどについて最大の輸出国は中国であり、中国製品の過剰流

入を牽制していることは明らかだ。日系鉄鋼商社の幹部は「日本企業は高級鋼材に特化している

ところが多い。政府がターゲットとしている安価な中国製の鋼材は、主に欧米のトレーダーが輸

入している」という。

矢継ぎ早に発動されてきた輸入抑制措置だが、当該製品の需要回復や各国政府、業界からの要

請を受け、早くも撤廃されるケースも出始めている。BIS を管轄する消費・公共配給省は 2月 10

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日、鉄鋼製品 11品目の BIS 適用を 1年延期する通達を出した。また、そのうち建設用の鉄棒とワ

イヤ、ブリキ、熱延ロール鋼の 3品目を BIS から除外すると発表した。さらに、熱延ロール鋼と

ともに輸入ライセンス制が導入された 12品目のうち、車用バンパー(HS87081090)、鉄鋼製チュ

ーブ・管(HS7304)のライセンス制が撤廃されたほか、カーボン・ブラック(HS28030010)も CIF

価格が 1トン当たり 8万ルピー以上であることを条件に輸入が自由化された。

<中国製玩具を輸入禁止に>

商工省は 1月 23 日、中国製玩具(HS番号 9501、9502、9503)の輸入を 6ヵ月間禁止する通達

を発表し、即日発効させた。通達は輸入禁止の理由を明らかにしていないが、政府は、中国製玩

具に有害物質が含まれている可能性があるという保健・司法当局の訴えを受けて発動した「暫定

措置」だとしている。ナート商工相は「通商関係悪化は望んでいない。経済的な意図はなく、国

民の健康を守ることが目的だ」と言い、WTO への提訴も検討している中国側とは対話による解決

を探っている。

しかし、通商法の専門家は当地メディアに対し「全面的に輸入を禁止するための明確な証拠と、

同等の品質基準が国内製品にも課されていなければ、WTO は中国の訴えを認めるだろう」と分析

する。また、玩具生産者協会のラジ・クマール氏は「政府の措置を支持している。しかし、組織

がしっかりしている玩具メーカーは先進国の規格にも準拠する製品を生産しているが、大多数の

小規模生産者には難しいだろう」と述べ、中国製品の輸入禁止に伴い、玩具に関する安全基準が

強化されれば、国内産業にも影響が出ると心配する。

インドの玩具市場は約 250億ルピー(500 億円)と見積もられており、うち中国製の玩具は国

内市場の約 60%を占めるといわれる。輸入玩具に占める中国製品の割合は、約 90%とほぼ独占状

態で、08 年 1~9月には前年同期に比べ 37%増えている。

(河野敬)

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密輸防止図り電子・電気など 5 分野で輸入規制(3)(インドネシア)2009 年 02 月

23 日

密輸入品を含め、中国からの廉価品の流入は従来から問題視されていたが、今後はさらに事態

が深刻化すると懸念されている。政府は、特に密輸が多い 5分野について、2009年 1月から輸入

規制を導入して対策に乗り出したが、早くもその効果を疑問視する声が出ている。中国製廉価品

の大量流入で国内産業が大きな打撃を受けることは避けられそうにない。

<対象は電子・電気、既製衣料、飲食料、玩具、履物>

政府は、08年 10 月 28日に発表した緊急経済対策の中の 1項目として、中国などからの密輸入

被害が大きい電子・電気製品(部品を含む)、既製衣料品、食品・飲料、玩具、履物の 5分野の特

定製品(505製品)について、輸入規制措置を導入して密輸防止策を強化している。

輸入規制導入の目的と内容は以下のとおり。

○世界的な景気後退の影響で、欧米諸国や日本などの先進国の消費が低迷し、中国などからの密

輸品の流入拡大が予想されるため、密輸品を規制して、関連する国内産業の保護と雇用の確保を

図る。

○密輸の多い対象製品について、輸入業者と輸入港を明確化し、船積み前検査を行うことで、製

品自体の確認と流通経路の明確化を図る。輸入データを蓄積し、密輸防止を含めた今後の対策に

活用する。

国内販売に占める密輸品の割合が 35%にも上るとされる家電業界では、輸入規制が国内メーカ

ーにとっては追い風になると歓迎する声が聞かれる。一方で、繊維協会(API)によると、衣料品

は製造業者などの詳細情報の調査が難しく、輸入規制に応じた合法的な輸入が困難になることか

ら、さらに密輸が増加する可能性が高い。同協会のスドラジャット副会長は、中国からの繊維製

品の密輸は倍増する恐れもあると警告している。

<タイヤや食器でも廉価品の大量流入を警戒>

輸入規制の対象となった 5分野以外でも、タイヤ、食器などで、中国などからの廉価品の流入

への警戒感が広がっている。インドネシアタイヤ協会によると、偽造の国家規格(SNI)がつけら

れた輸入タイヤが国内市場で大量に流通している。四輪用タイヤは中国とインド、二輪用タイヤ

はベトナムやタイからの輸入とされており、当局の監視が手薄な地方の小規模港から違法に荷揚

げされているとみられる。これらの価格は国内製品より 25%程度安く、国内メーカーに大きな被

害を与える可能性が強い。

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また、インドネシアプラスチック・オレフィン産業協会(INAplas)によると、中国製のメラミ

ン食器の輸入が増加傾向にある。この食器は、有害物質を含む規格外の製品で、市場価格を大幅

に下回る価格で販売されており、不当廉売の可能性も指摘されている。同協会は、廉価品が氾濫

することで、国内の食器製造業が大きな打撃を受けると警戒している。

<保護主義的な動きにも警戒を>

景気低迷の時期にこそ、懸案だった密輸防止を強化するという政策は一定の評価を得ていると

みられるが、輸入規制が十分な効果を上げることができるかについては、繊維業界のように否定

的な声もある。鉄鋼業界などでは輸入関税の引き上げを求める声も出ており、保護主義的な動き

にも警戒が必要だろう。

(塚田学)

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低価格の中国製品の流入を懸念(4)(タイ)2009 年 02 月 24 日

中国は第 2位の輸入相手国であり、規模も年々大きくなっている。輸入品はコンピュータ部品、

電気機械・同部品、家電製品から、一般機械・同部品、鉄・鉄鋼製品、化学品、肥料まで幅広い。

産業界には、世界経済の後退の影響で中国から低価格製品が流入してくるのではないかとの懸念

があるが、現在のところ政府は目立った対抗措置を講じていない。

<電機・電子産業はセーフガードを求める>

地元英字紙「バンコク・ポスト」は 2008 年 12月 18日、「中国のダンピング新たな懸念~電機

製造業はセーフガードを求める」と題する記事を掲載した。国内の電機・電子産業界では、世界

経済減速の副作用として、中国の低価格製品のダンピング(不当廉売)が起きる可能性を報じて

いる。同記事では、国内の企業経営者たちの間に「中国の製造業者は、先進諸国の需要減退によ

って増えた過剰在庫を振り向ける先を探すだろう」という声があることを紹介。具体的には、「国

内市場は下降傾向にあるが、国内市場の保護はほかの国に比べて不十分(relatively poor)なの

で、品質の低い中国製在庫品のターゲットとなる可能性がある」(タイ工業連盟電機電子関連産業

部会のカティヤ・グレーガーン部会長)という発言を掲載している。

地場銀行系シンクタンクのカシコンリサーチも、08年 11月 11日付レポートで、「既存市場の

需要減退と生産コストの上昇を原因とする中国の工場閉鎖という観点から、安価な中国製品の流

入で(タイ製品は)競争にさらされるかもしれない」と指摘している。

<中国からの輸入増に勢いがある>

実際に中国製品が流入してきているのか。貿易統計(08 年)で中国からタイへの輸入の状況を

みてみると、中国は日本に続く第 2位の輸入相手国(構成比 11.2%)で、前年伸び率は 23.6%増

だが、ここ数年では目立って大きな増加率というわけではない(05年以降の増加率は順に 37.0%

増、21.9%増、19.3%増)。しかし、増加率が低下する中で 08年は増加率がやや拡大していると

はいえる。また、04年と比べて 08年は倍増以上(146.3%増)となっているが、同時期の輸入全

体の増加率が 90.0%増であることからすれば、ここ数年の傾向として、中国からの輸入増加には

勢いがあるともいえる。

08 年の中国からの輸入品は、コンピュータ部品、電気機械・同部品、家電製品、一般機械・同

部品、鉄・鉄鋼製品、化学品、肥料などとなっている。また主な輸入品のうち特に増加率が大き

いものは、肥料(61.8%増)、化学品(43.9%増)、家電製品(32.7%増)などである。

<AD 措置は H型鋼、クエン酸などに限定>

先の「バンコク・ポスト」紙の記事は、中国製品流入の懸念を踏まえ、「中国製品のダンピング

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の懸念があるので、政府は対処策を導入する必要がある」(タイ東芝のカニット・ムアンクラチャ

ーン副社長)との産業界の指摘で締めくくっている。

しかし、貿易統計で確認した増加率の大きな製品に対して、保護的な政策は取られていないよ

うだ。ジェトロがタイ商務省に確認したところ、中国製品に対する AD(アンチダンピング)措置

として高関税を付加している製品は H形鋼、クエン酸、ガラス製のブロック、綿織物・ポリエス

テル織物で、三りん酸ナトリウムは調査中となっている。

(鶴岡将司)

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低価格で販売伸ばす中国製二輪車(5)(フィリピン)2009 年 02 月 25 日

低価格の中国製二輪車や自動車が存在感を増している。日系二輪業界の推計によると、中国製の

販売は 2008年に 16 万台規模に達し、国内市場の 2割前後を占めたという。中国製は 06年に販売

シェアを大きく落としたものの、ここにきて再び売り上げを伸ばしている。自動車業界では、09

年に入って中国の自動車メーカー「力帄汽車」が市場参入している。

<中国製二輪車の販売が拡大>

国内の主要二輪メーカーからなる二輪車開発計画参加者協会(MDPPA)は、加盟企業の日系 4 社

と台湾系 1社、中国系 2社の販売台数統計を作成している(注)。それによると、08 年の加盟 7

社合計販売台数は 59万 4,989台だった。一方、車両用ナンバープレートを発給する陸運局(LTO)

は、二輪車の登録台数を集計しており、08年には 73万 4,666 台が新規登録された。

日系二輪業界は、MDPPA と LTOの台数差を基に、国内で販売される中国車(MDPPA非加盟ブラン

ドを含む)の数を推計した。それによると、中国車は 06年の 9万 8,400 台から、07年は 13万 5,600

台、08 年には 16万台へと増加したとみられる。地域別では、拠点のある中部ビサヤ地方で比率

が高い。中国車は、06年ごろいったん販売を大きく落としたが、ここにきて再拡大の勢いをみせ

ている。

日系メーカーと比較すると、中国車は同排気量の類似モデルの場合、一般的に 15~20%程度安

い。中国車は、この価格差を武器に売り上げを伸ばしてきた。中国メーカーは、国内生産を行っ

ておらず、中国から完成車を輸入、あるいは国内でタイヤだけを取り付けている。ある二輪業界

関係者は、中国車の安さの秘密として、正規の輸入関税(完成車 30%)を支払わない密輸のほか、

a.模倣品のため研究開発費が不要、b.低価格・低品質の部品を利用、などを指摘する。中国車は

過去数年間、日系メーカーに対する価格優位性を背景に、低所得者層を中心に急速な浸透をみせ

てきた。

物価高騰や景気悪化を受け、消費者の購買力が低下しているため、日系メーカーは「市場全体

が伸びない中、安価な中国車に消費者の関心が向くのではないか」と警戒を強めている。前述の

二輪業界関係者は「中国経済が減速する中、中国の二輪メーカーは、手持ちの在庫を早く現金化

したいはずだ」と指摘。その上で、「中国国内で製品を処分できない場合、タイやベトナム、フィ

リピンなど ASEAN 各国がターゲットになる」と警鐘を鳴らす。MDPPA は、09年の二輪車市場につ

いて、前年比 5%増と予測する(08年末時点)が、日系メーカーからは 09年に入って「前年比横

ばいがせいぜい」との声が出始めた。

<力帄が自動車市場に参入>

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自動車市場では、中国・重慶を拠点とする力帄汽車(リーファン)が 09年 1月末に新規参入し

た。同社は、第 1弾として世界 50ヵ国以上に輸出実績のある中型セダン「LF520」の販売を開始。

さらに 3車種を年内に追加投入する予定である。LF520 の販売価格は最廉価モデルで 48万 8,000

ペソ(1ペソ=約 2.1円)。日系メーカーを下回る価格設定で、若者を中心とした顧客開拓を図る

構えだ。

地元紙によると、同社は、現在 1ヵ所の販売店を年内に 10ヵ所に増やすほか、国内メーカーに

自動車の組み立てを委託する計画もある。08 年の新車市場は、低燃費で安価な小型車の人気が上

昇した。こうした傾向は 09 年も続くとみられ、低価格を売りにした同社の製品がどこまで売り上

げを伸ばすか注目される。力帄では、09年の販売目標を 800台程度と見積もる。

(注)加盟企業は、日系のホンダ、カワサキ、スズキ、ヤマハ、台湾系のキムコ、中国系のモー

ター・スター、MCXの計 7社。

(米山洋)

Page 13: 日本貿易振興機構 - JETRO...は08年1~9月に76億3,610万ドルを輸入しており、当該製品の輸入全体に占める中国製品の割 合も37.6%と高い(表参照)。国内産業の発展の遅れから、テレビや携帯電話などの部品・材料

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スーパーから消えつつある中国製品(6)(ベトナム)2009 年 02 月 26 日

ホーチミン市のスーパーマーケットに限れば、中国製品は消えつつあるようにみえる。中国の

主要輸出品である農産物、加工食品、プラスチック製品、縫製品などは、いずれも地元の主要生

産品でもある。古くからの「嫌中感情」に加え、メラミン事件をきっかけに高まった中国製品に

対する不信感や、政府の「国産品愛用運動」により、ホーチミン市民は中国製品よりも国産品を

購入するようになってきている。

<メラミン事件などで顔を出す「嫌中感情」>

ホーチミンの家電量販店では、「メード・イン・チャイナ」の表示のある家電製品はあまりみか

けない。ときどき見つけても、その表示は「メード・イン・ベトナム」「メード・イン・タイラン

ド」「メードイン・ジャパン」などに比べると小さい。

長い歴史的な経緯や国境紛争などから、国民の間には「嫌中感情」のようなものがある。口コ

ミ社会のベトナムではメラミン事件や、中国製食品による食中毒などのニュースはあっという間

に広がる。メラミン事件のようなことが起こると、こうした感情が「中国製品は安くて当たり前」

「品質が良くない」という商品選びになって顔を出してくる。「メード・イン・チャイナ」の表示

のある商品は売れないか、売れても買いたたかれる。不利になるのを分かっていてはっきりとそ

う表示する売り手はいない。

では、表示のない中国製品をベトナム人はどのようにして見極めているのだろうか。「何も書い

ていないのが中国製品」と判断しているようだ。そのデザイン、作り、包装、価格、国内生産の

有無などを総合的に考えると「中国製品に間違いない」程度の判断は可能だ。

このような目で中国製品を探してみると、伝統的な市場、特にホーチミンにはチョロン(「大き

な市場」の意味)と呼ばれる中華街があり、名前のとおり大きな市場がある。そこは昔も今も中

国製品の宝庫である。

ところが、伝統的な市場に代わって消費生活の中心となったスーパーマーケットでは、事情は

異なる。中国製品はほとんど見当たらないようだ。

<メラミン事件で中国産加工食品の撤去始まる>

メラミン事件は、国内でも大きな問題となった。南部では、旧国営の乳飲料メーカーが強大な

シェアを握っていることから、当初は大丈夫だと思われていたが、ホーチミンでも、生産元不明

の乳製品からメラミンが見つかった。また実際に、中国産乳製品からもメラミンがみつかってい

る。スーパーから中国産加工食品の撤去が始まった。

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それまでは中国産の菓子や乾燥食品、調味料などをスーパーで見かけた。しかし事件以後は中

国産乳製品だけでなく、これらの商品も撤去され始めた。ある菓子卸売業者によると「メラミン

騒ぎの影響で、中国製品の取り扱いをやめたスーパーや店舗が多い。スーパーからの中国製品の

注文は、08年に比べて半減した」という(現地紙)。スーパーの菓子コーナーを丹念に探して見

つかった中国製品は、せんべいだけだった。

従来、ホーチミンのスーパーでは中国製の冷凍食品はあまり売られていなかった。理由は、ベ

トナム南部は食品加工業の一大拠点だからである。中国製の冷凍食品とベトナム製のそれはもと

もと競合関係にあったが、メラミン事件を契機に、国産冷凍食品の優位性は確固たるものになっ

たようだ。

<生鮮品は中国産が入り込む余地なし>

現地報道によると、北部のランソン省では中国産の野菜・果物が大量に輸入されているという

が、南部のホーチミンでは中国産の野菜も果物もほとんど見かけない。

ホーチミンを含む南部は、野菜と果物の一大生産地で、熱帯性気候の南部での生産に適さない

キャベツやイチゴ、カキなどの温帯の野菜・果物は、ホーチミンの後背地にあるダラットなどの

中部高原から新鮮なものが毎日運ばれてくる。中国産を輸入しなくても品ぞろえは十分だ。仮に

中国産の野菜や果物の原価が国産より安かったとしても、中国からの輸送費、輸送時間、関税な

どを考えると、中国産が入り込む余地はほとんどない。

商品棚を探して中国産と思われたのは、リンゴとナシだけだ。「メード・イン・USA」のシール

が張られたリンゴと並んで、何も張られていないリンゴの「ふじ」があった。中部高原では「ふ

じ」は生産されていない。日本産にしては価格が安すぎる。すると商品棚のリンゴは、中国産に

間違いないと思われる。

「ハンコック(韓国)」と書かれたシールが張られたナシもある。韓国産のナシかと思ったが、そ

のシールのベトナム語を正確に訳すと「種は韓国産」となるそうだ。これを「韓国産の種から生

産した中国産」と解釈して、「リンゴとナシは中国産なので食べない」というベトナム人もいる。

北部で売られている中国産の野菜、果物を検査したところ、6割以上から残留農薬が検出され

たとの報道もあった。2006年の年末には、中国で発がん性物質のスーダンレッドが混入した卵が

販売され、ホーチミンの市場でもそれが見つかったという事件も起きている。それによって卵の

消費が大きく落ち込み、「スーダンレッド未検出」の証明書を掲げて卵を販売するなど、スーパー

は対応に追われるはめになった。

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<国産品愛用運動で追いやられる中国製品>

日用品についても一見して国産品が目立つ。南部はプラスチック製造業の一大生産拠点でもあ

る。中国製プラスチック製品はもともと国産品と競合している上、ほとんどの日用品は南部でも

生産されている。

08 年末には政府が「国産品愛用運動」を開始した。政府の指導によって、ショッピングセンタ

ーやスーパーマーケットは、国産品の品ぞろえを増やし、目立つ位置に国産品を並べるようにな

った。

衣料品コーナーは、6割が「メード・イン・ベトナム」で、残りは産地不明、恐らく中国製品

だろう。タグをわざわざ切り取って販売しているものもある。

縫製品は、これまで、中国製品に対して国産品は押され気味だった。主な理由は価格である。

原料生産から製品に至るまでの全行程を自国で行える中国製に対して、原材料のほとんどを輸入

に頼っているベトナム製は価格面で勝てなかった。

<輸出中心だった国産縫製品が国内に出回る>

ところが、世界的な景気後退の影響で、これまで輸出が中心だった地場の縫製品企業が国内市

場に目を向け始めた。輸出用の「メード・イン・ベトナム」が国内市場に出回ると「価格は高く

ても品質面では中国製より上」ということで、消費者の支持を得た。消費者はこれまで以上に国

産品を好んで購入するようになり、中国製の売り場面積はどんどん狭まっている。中には、「国産

品愛用運動」以後、ほとんどの製品を国産品に切り替えたスーパーもある。

家電コーナーでは、スーパーでも家電量販店でも「メード・イン・チャイナ」を探すのは難し

い。大型白物家電になると、全くといってよいほど見つからない。オーブンレンジや電気ポット

などの中型家電では「メード・イン・チャイナ」の表示も見かけるが、それでも日本メーカー、

欧州メーカー、韓国メーカーの製品だけで、中国メーカーの製品は見られない。

<玩具以外の中国製品はスーパーで買わない>

ホーチミン市民は、中国メーカーの製品が欲しければ、伝統的な市場で買うか、昔から中国製

品を扱っている家族経営の小売店で購入する。中華街のチョロンに行けば、中国製品が安く売ら

れている。スーパーや家電量販店に行くのは「もっと良いもの」が買いたいからだ。

世界同時不況の影響によって、中国企業が余剰製品を ASEANなどの新興国や途上国に振り向け

ているとの報道がある。しかし、ホーチミンのスーパーマーケットに限れば、中国製品は国産品

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に押されて消えつつあるようにみえる。スーパーで唯一頑張っていた中国製品は、子どもの玩具

だ。玩具だけは、ゼンマイ仕掛けの廉価品も日本メーカーの高額品も「メード・イン・チャイナ」

だった。

ベトナムが「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれるようになって久しい。多くの製造企業が、

中国からベトナムへの生産シフトを進めている。経済発展で豊かになりつつあるホーチミンでは、

市民の消費生活もまた、中国産品からベトナム産品へとシフトしつつあるようだ。

(小嶋規純)

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模倣品天国も転機に(7)(ベトナム)2009 年 02 月 27 日

南部の経済都市ホーチミンは、模倣品があふれる「コピー天国」でもある。模倣品には中国か

らの密輸品や、中国から輸入した原料や部品から国内で密造したものも多い。ホーチミンでは「コ

ピー天国」の汚名をそそぐための対策が尐しずつではあるが進んでいる。

<密輸が容易な国>

中国製品の流入を考える場合、正規ルートのほかに密輸の問題を無視することはできない。

ホーチミンには「山砦版」と呼ばれる、中国の広東省などで作られた偽物や模倣品が出回って

いる。観光客でにぎわうベンタイン市場やドンコイ通りのショッピングセンターでは、「ルイヴィ

トン」や「シャネル」の財布、「ロレックス」の腕時計、「レイバン」のサングラス、「ラルフ・ロ

ーレン」のシャツなど、定番ともいえる「山砦版」を目にすることができる。

当地紙によると、ホーチミンの市場では、化粧品売り場で商品表示のない化粧品を扱う店の比

率はなんと 100%。指定小売店でしか販売できないはずの高級ブランド品まで公然と売られ、密

輸・模倣を防止するためのシールまで偽造されているという。

最近目にした新しい「山砦版」には、トトロのぬいぐるみがある。それには「スタヅオ・ヅブ

リ」のタグが付いていた。

これらの模倣品の多くは、中国から密輸あるいは密輸に近いかたちで持ち込まれたものだとい

う。

ベトナム製「山砦版」もある。ベトナムの典型的な製造業のパターンは、中国から原材料や部

品を輸入し、ベトナムの低廉で優秀な人材がそれを組み立て、輸出あるいは国内で販売するとい

うものだ。「山砦版」も例外ではない。

中華街のチョロン近くにある二輪車部品専用市場のタンタン市場に行けば、中国製「HONGDA」

のバイクが山砦版「HONDA」に変わっていく過程を見ることができる。

もちろんそれに必要な「HONDA」のロゴも市場で売られている。タンタン市場には、簡単に「山

砦版」が作れるような環境が整っている。

<市場に行けば模倣に必要な部品はすべて手に入る>

2007 年末には、ホーチミン市内で大規模な模倣テレビ製造工場が摘発された。当地報道による

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と、中国ヘーシン・ブランドの安価なテレビを土台に、中国製の部品を使って、模倣テレビを製

造していたようだ。摘発された模倣品の部品は数千台分で、ソニーとサムスンの模倣品が目立っ

たとのことだ。

犯人グループがその部品を購入していたのがホーチミン市 10区のニャットタオ市場だった。

そこは家電の部品市場である。何軒もの店が、フレーム、受像機、リモコンなどのテレビ部品

を売っている。これらを買い集めれば、素人でもテレビが作れる。

売られているテレビのフレームの真ん中には、ロゴを付けるための小さな穴が初めから開いて

いる。この穴に別売りの「ソニー」のロゴを差し込めば、「ソニー」のテレビになる。さらに、「サ

ムスン」のロゴが印刷された段ボール箱まである。この段ボールに完成したテレビを詰めれば「サ

ムスン」のテレビとして売ることができる。

市場の各店舗で売られている部品 1つひとつは模倣品とはいえないかもしれない。しかし、そ

れらを組み合わせることで模倣品を容易に作れる環境がここにもあった。

ニャットタオ市場は、市場とは呼ばれているものの、市場としての中心的な施設があるわけで

はなく、家電部品を扱う小売店が自然発生的に集まっただけの地域だ。店舗が広範に、そして複

雑に散っており、当局の監視も行き届かない状況にある。

公安当局もこのような状況を放置しているわけではない。国営放送を見ていると、公安当局に

よる模倣品製造工場摘発シーンが毎日のように流れている。「山砦版」対策に真剣に取り組んでい

る政府の姿勢をアピールするためかもしれないが、摘発のあまりの多さに驚かされる。

<当局は市場の撤去と店舗の移転を決定>

ホーチミン市も模倣品対策を進めている。市は 09年 1 月 25日、問題のニャットタオ市場を撤

去し、すべての店舗を移転させることに決めた。理由は、街の再開発と店舗管理のためとされて

いる。移転先は、市が用意した近くにあるビルの 1階部分と 2階部分だ。

古きホーチミンの風景がまた 1つ消えたことに一抹の寂しさもあるが、模倣品対策には部品の

供給源を断つことが有効だろう。

模倣テレビ製造工場が摘発されたのは、大量のテレビ部品を市場から運び出しているトラック

をたまたま公安当局が発見し、そのトラックを追跡したのがきっかけだ。新しい市場は、要所要

所に監視カメラが設置され、車両の出入りもすべて監視されることになっている。大量に部品を

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運び出しているトラックがあれば、すぐに分かる。

ホーチミンはまだまだ「コピー天国」であることに変わりはない。しかし「山砦版」対策は尐

しずつではあるが確実に進められている。

(小嶋規純)