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「働き方改革の実現に向けてー 労使で乗り越える課題」 独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT理事長 樋口美雄 1 100JILPT労働政策フォーラム 20181129日(木)

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Page 1: 「働き方改革の実現に向けてー 労使で乗り越える課 …...2018/11/29  · 3 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等) ・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業

「働き方改革の実現に向けてー労使で乗り越える課題」

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)理事長 樋口美雄

1

第100回 JILPT労働政策フォーラム2018年11月29日(木)

Page 2: 「働き方改革の実現に向けてー 労使で乗り越える課 …...2018/11/29  · 3 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等) ・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業

労使自治と生産性・豊かさの向上 戦後の激しい労使対立 労使による生産性3原則の合意(昭和30年5月20日、第1回生産性連絡会議)1. 生産性の向上は,究極において雇用を増大するものであるが,過

渡的な過剰人員に対しては,国民経済的観点に立って能う限り配置転換その他により,失業を防止するよう官民協力して適切な措置を講ずるものとする。

2. 生産性向上のための具体的な方式については,各企業の実情に即し,労使が協力してこれを研究し,協議するものとする。

3. 生産性向上の諸成果は,経営者,労働者および消費者に,国民経済の実情に応じて公正に分配されるものとする。

労使自治と集団的雇用管理の確立

「労働者の改善意欲」と「生産性」・「生活水準」向上の好循環

労使による長期的成長の重視

2

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雇用者報酬と労働生産性 (国際比較)[1995年=100]3

出所:内閣府「働き方改革実現会議」配付資料

OECD「Economic Outlook 92」、総務省「消費者物価指数」「労働力調査」、内閣府「国民経済計算」

80

100

120

140

160

1801995

2000

2005

2010

民間消費デフレーター

労働生産性

80

100

120

140

160

180

1995

2000

2005

2010

1人当たり雇用者報酬

労働生産性

民間消費デフレーター

米国

80

100

120

140

160

180

1995

2000

2005

2010

民間消費デフレーター

労働生産性

1人当たり雇用者報酬

EU

1人当たり雇用者報酬

日本

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日本における企業収益の回復と雇用者所得の推移[1995年=100]4

90

95

100

105

110

115

120

125

0

50

100

150

200

250

300

350

経常利益(左軸) 雇用者報酬(右軸)

(年)

出所:財務省「法人企業統計」、内閣府「国民経済計算」

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正規労働者の削減と非正規雇用の拡大5

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

2000

2200

2600

2800

3000

3200

3400

3600

3800

400019

84年

1985

1986

1987

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

非正規の職員・従業員(万人)

正規の職員・従業員【左目盛】

非正規の職員・従業員【右目盛】

正規の職員・従業員(万人)

出所:平成13年以前は「労働力調査特別調査」、平成14年以降は「労働力調査詳細集計」注:平成13年以前は2月の値、平成14年以降は年平均。

5 正規、非正規別にみた雇用者の推移(男女計)

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各国の総実労働時間の推移6

出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較 2018」

1,300

1,400

1,500

1,600

1,700

1,800

1,900

2,000

2,100

1990年

1995

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

(時間)

日本

イギリス

ドイツ

アメリカ

スウェーデン

イタリア

フランス

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雇用形態別労働時間の推移とパートタイム比率の上昇

14.4 14.5 15.015.6

16.3

19.520.3

21.122.1

22.7

25.3 25.3 25.526.1 26.1

27.3 27.8 28.228.8

29.4 29.8 30.5 30.730.8

2036

2038

20502026

2010

20092026

2017 20172024 2040

20282041 2047

2032

1976

2009 2006 2030 2018 2021 2026 20232026

1172 1174 11761162

1150 11391168 1154

1141

1151 1150 1140 1138

1128

11111082

1096

1090

1105

1093 1084 1068 1050103310

15

20

25

30

35

1000

1200

1400

1600

1800

2000

2200

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

パートタイム労働者比率(右軸、単位%)

パートタイム労働者の総実労働時間

一般労働者の総実労働時間

7

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」注:事業所規模5人以上

就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移

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日本のICT投資と人的投資・組織改革への投資8

出所:日本生産性本部「日本の生産性の動向2015」

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社員の「やる気度」「働きがい度」国際比較9

77%

67%

63%

59%

59%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

インド

デンマーク

メキシコ

米国

オランダ

エンゲージメント指数の国際比較

48%

47%

45%

40%

31%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ロシア

ドイツ

フランス

韓国

日本

ワースト5トップ

出所:“2011 Kenexa Work Trends Report “ Kenexa High Performance Institute 2012

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熱意あふれる社員 やる気のない社員 周囲に不満を撒き散らしている無気力な社員

Brazil 27%±2 62%±3 12%±3

China 6%±2 68%±3 26%±1

France 9%±4 9%±4 26%±2

Germany 15%±2 61%±3 24%±2

Japan 7%±3 69%±4 24%±2

South Korea 11%±4 67%±4 23%±3

Sweden 16%±3 73%±4 12%±3

United States 30%±<1 52%±<1 18%±<1

United Kingdom 17%±1 57%±2 26%±1

出所:Gallup's Country Data Set detail

社員の「やる気度」「働きがい度」国際比較

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失われた20年;人件費削減による価格競争力向上の強化

長期的成長率の低下 個別雇用管理の進展 国際競争の激化=価格競争の激化 企業ガバナンスが変化→短期企業利益の重視 デフレ下の人件費抑制の必要性

賃金の抑制・人員の削減 仕事量は減らされず正規労働者の削減・非正規労働者の増加勤勉な人こそ、日々の仕事に追われる

生産性(付加価値/労働者数)の向上も、もっぱら分母の労働インプットの削減(効率の向上)を目指す

社員の能力開発も、費用の削減の視点から人的投資額は減少自分の役割・自分の成長を感じられず

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勤勉であるが故の問題

職務も不明確;いつまでも終わらない仕事

日々の仕事に追われ、見えなくなる自分の貢献・役割

できる人に集まる仕事 長時間労働がプライドに

企業成長率の低下・感じられない自分の成長

見えない自分のキャリアパス

社員の積極性・就業意欲を失い「エンゲージメント指数」低下

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労使による取り組みを重視した社会インフラとしての「労働法」の改正

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働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要

労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる。

働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることとする。(雇用対策法)

※(衆議院において修正)中小企業の取組を推進するため、地方の関係者により構成される協議会の設置等の連携体制を整備する努力義務規定を創設。

Ⅰ 働き方改革の総合的かつ継続的な推進

1 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)・時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年

720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。(※)自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外。・月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。また、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。・高度プロフェッショナル制度の創設等を行う。(高度プロフェッショナル制度における健康確保措置を強化)※(衆議院において修正)高度プロフェッショナル制度の適用に係る同意の撤回について規定を創設。・労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点から、労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならないこととする。(労働安全衛生法)

2 勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)・事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこ

ととする。※(衆議院において修正)事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮する努力義務規定を創設。

3 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)・事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業

医・産業保健機能の強化を図る。

Ⅱ 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等

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施行期日 Ⅰ:公布日(平成30年7月6日)Ⅱ:平成31年4月1日(中小企業における時間外労働の上限規制に係る改正規定の適用は平成

32年4月1日、1の中小企業における割増賃金率の見直しは平成35年4月1日)Ⅲ:平成32年4月1日(中小企業におけるパートタイム労働法・労働契約法の改正規定の適用

は平成33年4月1日)※(衆議院において修正)改正後の各法の検討を行う際の観点として、労働者と使用者の協議の促進等を通じて、労働者の職業生活の充実を図ることを明記。

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)の概要

1 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)短時間・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。併せて有期雇用労働者の均等待遇規定を整備。派遣労働者について、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件※を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化。また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備。

(※)同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等

2 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。3 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。

Ⅲ 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保15

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働き方改革

■不要な仕事・不要な拘束の見直し■多様な個人のWell-beingの向上■個々の労働者の積極性・働きがいを

いかにして引き出すか■評価の公平性と処遇の改善

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働き方改革における労使の役割17

実態・成果の見える化

■経営者トップによる「働き方改革」の重要性・方針の発信■組合の制度改革に対する社員の声を反映した制度・運営の発信■制度・運用の見直し■管理職の教育・評価の明確化■組合による評価チェック■一般労働者の意識改革

仕事上の自由度の確保働き方改革を実現するための評価基準の見直し・明確化

■関連企業・顧客の理解を得る

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ご清聴ありがとうございました

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