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GARD INSIGHT - MAY 2014
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潮流の変化:仏政府、エリカ号事件以降油濁に関する法
制度を再検討
Jérôme de Sentenac および Jean-Philippe Maslin, Ince & Co.(パリ)による寄稿
フランスで起きたエリカ号事件をきっかけに、フランス法に組み込まれた油濁責任に関する国
際条約とフランス国内法との間の相互作用について多くの議論がなされました。
はじめに
以前の Gard News1において、1999年 12月にフランスのブルターニュ沖で発生した、タンカー
「エリカ号」の沈没に伴う大量の油流出事件について、その訴訟が長期化していることをお伝
えしました。このエリカ号事件をめぐる仏裁判所の審理においては、フランス法に組み込まれ
た油濁責任に関する国際条約とフランス国内法との間の相互作用について多くの問題が検討さ
れました。を提起するものとなっています。本稿では、エリカ号の判決以降フランスで成立し
た法律に焦点を当てて、エリカ号裁判の判決に反するようにも見えるこのフランス法の立場を
明らかにします。
1 Gard News 210
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フランス最高裁判所の判決
2012 年 9 月 25 日、フランスの最高裁判所は、エリカ号の油流出に起因する汚染損害について、
被告 4者(事実上の用船者である TOTAL SA、船級協会 RINA、所有者である Tevere Shipping
の管理責任者、Panshipの技術管理責任者)全員の刑事責任を認めました。最高裁判所は、いず
れの被告人も、登録所有者に厳格責任を課した「1992年の油による汚染損害についての民事責
任に関する国際条約(Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage [CLC 92])」の第 3
条「チャネリング条項」の恩恵を受けることはできないとの判断を示しました。その際、裁判
所は「この国際条約またはその他に基づく汚染損害に対する賠償請求は、当該船舶の用船者
……管理責任者または運航者を含む多数当事者に対して、提起してはならない」と述べるに留
まりました。
このエリカ号に関する裁判は環境問題に関する大きな関心を集め、フランスのメディアや世論
による長期にわたる議論を巻き起こしました。裁判所がそれらの(強硬な)意見を裁判所が看
過したということは考えにくいと思われます。
法をめぐる議論においては、仏裁判所がこの訴訟の管轄権を有しているか否か、どの国の法律
が適用されるべきかが焦点となり、油濁責任に関するフランス国内法と国際条約との間の互換
性が検討されました。
裁判管轄の問題
フランスは CLC 92の締約国ですが、以下の制度との関連も検討されました。
(i) 締約国の「領海」および「排他的経済水域(EEZ)」の定義を定めた 1982年の国連海洋法条
約(Montego Bay Convention)
(ii) 一般的な水汚染に関する問題に適用され、訴追される違反行為について国内法で定義するこ
とを可能にしたマルポール 73/78条約(MARPOL Conventions)
(iii) 領海に関して、(領海「内での損害」ではなく)領海「に対する損害」を刑事罰の対象とし
た 1983年 7月 5日の法律、および国際条約の許容範囲内で領海外の違反行為にフランス法を適
用することを認めたフランス刑法の L.113-12条などの様々な国内法
仏裁判所は、1つの事案について 4つの国際条約を取り扱う必要があることを認め、これらの国
際条約は「フランス領海の油濁損害が『深刻』であるとみなされた場合には仏裁判所がこの損
害に関する刑事責任を裁定する裁判管轄を有する」と解釈できるとの見解を示しました(ただ
し、このような解釈はいずれの国際条約の文言においても明白になっているわけではありませ
ん)。「~内で生じた損害」ではなく、「~に対する損害」という解釈が、海洋汚染訴訟にお
いて仏裁判所の管轄権の拡大をもたらすことになったのはほぼ間違いありません。
適用法はどちらか?
CLC 92は、締約国領海内でのタンカーの油濁によって生じた損害に適用されます。2 これに反
して、フランスの第一審裁判所は、1976年の海事債権についての責任の制限に関する国際条約
(Convention on the Limitation of Liability for Maritime Claims [LLMC])が適用されることを決定
しました。LLMCには様々な種類の海事債権について責任の制限が定められていますが、貨物と
して積載された油による損害に関する債権についての規定はありません。3 実際、LLMC 76の 3
2 CLC 92の 2 (1) (a)条
3 LLMC 76の 3条
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(b)条は、「CLC …の意義の範囲内の油濁損害に関する債権」を明示的に除外しています。パリ
控訴院は、油濁による損害の責任と制限の問題にはフランス法に組み込まれた CLC 92を適用す
べきであるとの適切な判断を示し、この誤りを修正しました。
この問題の複雑さと訴訟の長期化を踏まえて、仏政府は、油濁に関する刑事・民事両面の責任
について法的立場を明確にするための法律の策定に取り組みました。
法的立場を明確にするための法律
その一環として、船舶所有者と保険業者に影響を及ぼすであろう 2 つの重要な法律、すなわち、
海事問題の刑事訴訟手続きに関する 2012年 11月 2日付の Ordinance n°2012-1218およびイン
フラ・運輸サービスに関する 2013年 5月付の Law n°2013-431が導入されました。
これらの法律についていくつか注意すべき点があります。まず、船舶由来の油濁事故の刑事責
任に関する裁判の管轄権については、仏最高裁判所がエリカ号裁判で下した、仏裁判所に管轄
権があるとする判決の効力が上記の法律によって変わることはなく、今後も、仏裁判所は、た
とえ油濁損害を引き起こしたと考えられる犯罪行為がフランス領海外で発生したものであって
も、フランス沿岸に対するその油濁損害が「深刻」であるとみなされる場合には「刑事裁判管
轄権」を引き続き主張することになるでしょう
2つ目の点は、環境法典への言及が廃止されたことです。貨物である 油をバルクで積載した船
舶による油濁損害に関する民事責任については、CLC 92が適用されるということが明確化され
ました。これを受けて、フランスでは、これに該当する事故は CLC 92に従って取り扱われるよ
うになっており、LLMC 76の下で定められた一般的な賠償責任の制度との間で今後混乱が生じ
ることはないはずです。
3つ目に、こうした問題については専門家による迅速な訴訟手続きが行われるように、刑事責任
の管轄が通常の商事裁判所から専門の裁判所(海事裁判所)に移管されたことが挙げられます。
このほか、フランス国旗の掲揚を怠った船舶や、有効な保険証明書を保持せずにフランス入出
港した船舶には刑事的制裁が科されるようになりました。不履行を犯した場合、罰金のみなら
ず、フランス領海内の航行が一時的または永久に禁止される可能性もあり、また、極端な場合
には懲役刑が科されることもあります。こうした規定が設けられた目的は、保険未加入船舶の
フランス水域への入航を阻止することにあります。
船長、航海士または乗組員に科された罰金は、メンテナンスの不備や危険な命令、当局または
他の船舶との適切な連絡を怠るなど、損害に係る船主の責任が認められた場合には、船主に対
して請求がなされることになります。
さらに、船舶検査官の組織再編成に関する規定が設けられたほか、検査官に、違反行為を調
査・追求し、違反者がフランス当局の命令に従わない場合には相当重い刑事処分を科す権限を
与えることも定められました。
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本情報は一般的な情報提供のみを目的としています。発行時において提供する情報の正確性および品質の保証には細心の注意
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ません。
本情報は日本のメンバー、クライアントおよびその他の利害関係者に対するサービスの一環として、ガードジャパン株式会社
により英文から和文に翻訳されております。翻訳の正確性については十分な注意をしておりますが、翻訳された和文は参考上
のものであり、すべての点において原文である英文の完全な翻訳であるとは限りません。であるとはであることを証するもの
ではありません。したがって、ガードジャパン株式会社は、原文との内容の不一致については、一切責任を負いません。翻訳
文についてご不明な点などありましたらガードジャパン株式会社までご連絡ください。
なお、原文の英文記事は「A sea change: the French Government rethinks its oil pollution legislation post-ERIKA」からご覧に
なれます。
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結論
タンカーが起こした油濁村外の民事責任については、CLC 92が適用されることが明確化された
一方で、エリカ号裁判で下された判決も、船舶由来の油濁に関する責任と制裁を明確にするた
めに制定された法律の中で引き続き効力を持ち続けることになります。
無責任な行為に対する抑止力としての効果があるとの考えから、フランスの国内法の下で決定
される広範囲に及ぶ刑事的制裁では事件後に課される罰に重きがおかれています。また、環境
損失に対して賠償を求める権利をフランス民法典中に明記することも検討されています。これ
が実現すれば、当局は、インフラに対する物理的損害や天然資源の乱用がなくとも、環境その
ものの損害について賠償を要求できるようになるでしょう。
これらの全体を見ると、フランスは、船舶由来の油濁に関して刑事的・民事的救済措置の強化
に努め、汚染の責任を問われるべき船員、船主その他の関係者を処罰する傾向を強めている国
の一つであると言えます。