日本消化器病学会 胃食道逆流 症(gerd )診療 ガ...

159
日本消化器病学会 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015(改訂第 2 版) Evidence-based Clinical Practice Guidelines for GERD 2015(2nd Edition

Upload: others

Post on 11-Feb-2020

7 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

日本消化器病学会胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015(改訂第 2版)

Evidence-based Clinical Practice Guidelines for GERD 2015(2nd Edition)

日本消化器病学会胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン作

成・評価委員会は,胃食道逆流症(GERD)診療ガイドラインの内

容については責任を負うが,実際の臨床行為の結果については各担

当医が負うべきである.

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドラインの内容は,一般論とし

て臨床現場の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料と

なるものではない.

日本消化器病学会 2015 年 9 月 1 日

— iv —

日本消化器病学会は,2005 年に当時の理事長であった跡見 裕先生の発議によって,Evidence-

Based Medicine(EBM)の手法に則ったガイドラインの作成を行うことを決定し,3年余をかけ,2009〜2010 年に消化器 6疾患のガイドライン(第一次ガイドライン)を完成・上梓した.6疾患とは,胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎であり,それまでガイドラインが作成されていない疾患で,日常臨床で診療する機会の多いものを重視し,財団評議員に行ったアンケート調査で多数意見となったものが選ばれた.2006 年の第 92 回日本消化器病学会総会の際に第 1回ガイドライン委員会が開催され,文献検索範囲,文献採用基準,エビデンスレベル,推奨グレードなど EBM手法の統一性についての合意と,クリニカルクエスチョン(CQ)の設定など基本的な枠組みが合意され,作成作業が開始された.6疾患のガイドライン作成では,推奨の強さのグレード決定にMinds(Medical Information Network Dis-

tribution Service)システムを一部改変し,より臨床に則した日本消化器病学会独自の基準を用いた.また,ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)が当時,社会的問題となっており,EBM専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員の COIを公開した.菅野健太郎前理事長のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として行われたガイドライン作成は先進的な取り組みであり,わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したものとして大きな価値があったと評価できる.日本消化器病学会は,その後,6疾患について「患者さんと家族のためのガイドブック」も編集・出版し,治療を受ける側の目線で解説書を作成することによって,一般市民がこれら消化器の代表的疾患への理解を深めるうえで役立ったと考えている.第一次ガイドライン作成を通じて,日本消化器病学会は消化器関連の Common Diseaseに関

するガイドラインの必要性と重要性の認識を強め,さらに整備する必要度の高い疾患について評議員にアンケートを行い,2011 年から機能性ディスペプシア(FD),過敏性腸症候群(IBS),大腸ポリープ,NAFLD/NASHの 4疾患についても,診療ガイドライン(第二次ガイドライン)の作成を開始した.一方では,これら 4疾患の診療ガイドラインの刊行が予定された 2014 年には,第一次ガイドラインも作成後 5年が経過するため,いわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成から長期経過したガイドラインは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に従い,先行 6疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行うこととなった.2011 年 11 月 9日に 6疾患の第1回改訂委員会が開催され,改訂の基本方針が確認された.改訂版では第二次ガイドライン作成と同様,国際的主流となっている GRADE(The Grading of Recommendations Assessment,

Development and Evaluation)システムの考え方を取り入れて推奨の強さを決定することとした.このシステムは,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,患者さんへの有益性,費用まで考慮し,たとえ比較対照試験であってもその内容を精査・吟味してエビデンスレベルを決定するなど,アウトカムにとって有用かどうかを重視する立場に立っており,患者さんの立場により則したガイドライン作成に有用と考えられた.また,完成後に改訂版は Journal

of Gastroenterologyに掲載することが予定されており,世界的趨勢である GRADEシステムの考え方を取り入れることで国際的ガイドラインとしての位置づけを強化する狙いもあった.

日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって

日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって

— v —

改訂作業の進捗には疾患によって多少差がみられるが,2015 年 4 月から順次完成し,秋までに 6疾患すべての改訂作業が完了する予定である.最新のエビデンスを網羅した改訂版は,初版に比べて内容的により充実し,記載の精度も高まるものと期待している.最後に,ガイドライン委員会の前担当理事として多大なご尽力をいただいた木下芳一理事,

渡辺 守理事,ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに評価委員会の諸先生,刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御礼を申し上げたい.

2015 年 4月

日本消化器病学会理事長

下瀬川 徹

— vi —

委員長 三輪 洋人 兵庫医科大学内科学消化管科委員 荒川 哲男 大阪市立大学消化器内科学

上野 文昭 大船中央病院木下 芳一 島根大学第二内科西原 利治 高知大学消化器内科坂本 長逸 新聖会ういずクリニック下瀬川 徹 東北大学消化器病態学白鳥 敬子 東京女子医科大学消化器内科杉原 健一 光仁会第一病院田妻  進 広島大学総合内科・総合診療科田中 信治 広島大学内視鏡診療科坪内 博仁 鹿児島市立病院中山 健夫 京都大学健康情報学二村 雄次 愛知県がんセンター野口 善令 名古屋第二赤十字病院総合内科福井  博 奈良県立医科大学福土  審 東北大学大学院行動医学分野・東北大学病院心療内科本郷 道夫 公立黒川病院松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器内科森實 敏夫 日本医療機能評価機構山口直比古 日本医学図書館協会個人会員吉田 雅博 化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科芳野 純治 藤田保健衛生大学渡辺 純夫 順天堂大学消化器内科渡辺  守 東京医科歯科大学消化器内科

オブザーバー 菅野健太郎 自治医科大学

統括委員会一覧

— vii —

協力学会:日本消化管学会,日本食道学会

■ 作成委員会委員長 木下 芳一 島根大学第二内科副委員長 岩切 勝彦 日本医科大学消化器内科学委員 蘆田  潔 洛和会音羽病院消化器病センター

岩切 龍一 佐賀大学消化器内科(光学医療診療部)大島 忠之 兵庫医科大学内科学消化管科大原 秀一 東北労災病院消化器内科小澤 壯治 東海大学消化器外科柏木 秀幸 富士市立中央病院外科河村  修 群馬大学医学部附属病院光学医療診療部永原 章仁 順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科羽生 泰樹 大阪府済生会野江病院消化器内科藤原 靖弘 大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学眞部 紀明 川崎医科大学附属病院内視鏡・超音波センター

■ 評価委員会委員長 本郷 道夫 公立黒川病院副委員長 足立 経一 島根県環境保健公社総合健診センター委員 河野 辰幸 東京医科歯科大学食道・胃外科

草野 元康 群馬大学医学部附属病院光学医療診療部春間  賢 川崎医科大学消化器内科学樋口 和秀 大阪医科大学第 2内科藤本 一眞 佐賀大学消化器内科星原 芳雄 日本医科大学消化器内科学三輪 洋人 兵庫医科大学内科学消化管科

作成協力者 小熊 潤也 東海大学消化器外科川田 晃世 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学木幡 幸恵 大阪市立大学大学院医学研究科消化器内科学栗林 志行 群馬大学医学部附属病院光学医療診療部坂田 資尚 佐賀大学消化器内科下山 康之 群馬大学医学部附属病院光学医療診療部北條麻理子 順天堂大学消化器内科学保坂 浩子 群馬大学医学部附属病院光学医療診療部前田 正毅 群馬大学大学院医学系研究科病態制御内科学山崎 尊久 兵庫医科大学内科学消化管科

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン委員会

— viii —

1.改訂ガイドライン作成の目的2009 年に,1983 年から 2007 年までの文献エビデンスに基づいて,胃食道逆流症(GERD)診

療ガイドラインを出版してからすでに 6年が経過している.この間に GERD診療に関しては多くの進歩,変化があった.特に日本国内の疫学データや薬剤の副作用に関する情報収集が大きく進み,多くの論文が出版された.また,Barrett食道に関する知識が増加するとともに日本と欧米の違いが整理されてきた.本ガイドラインは刊行後も毎年新しい発表エビデンスをチェックし,診療に大きなインパクトを与える場合には annual reviewの形で追記が行われてきたが,いよいよ全面改訂が必要な時期となったと考えられた.このたびの改訂は,初版刊行後の GERD

研究の進歩をガイドラインに取り入れることを目的に行われた.

2.改訂ガイドライン作成の実際1)GRADE system今回の改訂では,新しくガイドライン作成の標準となりつつある GRADE systemに準じて作

成が行われることとなった.GRADE systemでは採用文献を決めるときに臨床的に重要性の高い評価項目を用いたものを重視している.また,文献エビデンスの評価にあたっては研究のデザインだけではなく,割り付けの妥当性,盲検化の有無,脱落例数,対象症例数,各種バイアスの有無,効果の一貫性と大きさ,臨床的重要性など,研究の内容を評価するためにバイアスリスク表を作成しエビデンスレベルを決定する.さらに推奨度を決めるときにもエビデンスだけではなく,患者の好みや,実現可能性,副作用やコストなども考慮することが明記されている.すなわち,GRADE systemはエビデンスを基本としながら,より臨床の現場で使用しやすいガイドラインの作成を目指した柔軟な作成基準であると考えられている.2)CQ作成改訂版作成のプロセス自体は初版の作成時とほぼ同じで,協力学会として日本消化管学会と

日本食道学会の会員にも参加をしていただき協力して作成委員会の委員と評価委員会の委員を決定した.今回の作成委員会のメンバーの選定にあたっては今後の定期的な改訂作業も見越して若返りを意識しながら選定が行われている.作成にあたってまず最初に,作成委員会で CQ

(clinical questions)案を検討した.初版と同じでよいもの,修正が必要なもの,削除するべきものをまず選び出し,その後,新たに追加するべき CQが作成された.新たな CQの作成にあたってはできるだけ PICO(patients, intervention, comparison, outcome)に沿った CQが作成されるように配慮がなされた.完成した CQは疫学関係が 5,病態関係が 8,診断関係が 11,内科的治療が 9,外科的治療が 7,術後の食道炎が 8,食道外症状が 6,Barrett食道が 6の合計 60 件であり,初版の 53 件に比べて 7件増加してより充実したものとなっている.これらの CQのうちBarrett食道に関するものはほとんどが今回新たに作成された CQである.CQの原案は作成委員会で決定後,評価委員会でも検討評価が行われ,作成委員会では評価委員会からのコメントに従った修正が行われた.

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン作成の手順

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン作成の手順

— ix —

3)文献検索その後,系統的な文献検索が行われ,初版のガイドラインで採用されなかった新しい文献の

収集と評価が行われた.新しい CQや改訂した CQでは,新たに 1983 年以降 2012 年 6 月までの文献が収集された.また,初版と同じ CQでは初版のときには検索されなかった 2007 年以降2012 年 6 月までの文献に関して検索が行われた.これらの文献に関して構造化抄録が作成された後,RCTの研究を含む論文ではバイアスリスク表も作成され,論文のエビデンスレベル決定の参考とされた.なお,本ガイドラインでは解説文の作成にあたって検索期間外(1982 年以前,2012 年 7 月以降)の文献を必要に応じ一部加えている.これらについては検索期間外であることが明示されている.4)ステートメントの作成と推奨度の決定次いで,これらの文献エビデンスに加えて患者の好み,実施可能性などを考慮して各 CQに

対するステートメントが作成された.ステートメントにかかわる文献全体のエビデンスレベル(エビデンス総体)の決定と推奨度の決定は作成委員が集まって討議を十分に重ねた後に無記名投票を繰り返して決定した.その後,フローチャートの作成,ステートメントの解説文の作成を行い,作成委員会で討論と討論に基づく修正を行った後に,評価委員会においてチェックが行われた.その後,最終的な修正を作成委員会で行った後に,日本消化器病学会のホームページを通じて広く会員にパブリックコメントを求めた.パブリックコメントで寄せられたコメントをもとに,ステートメントと解説文の一部の修正を行って,このたび,2015 年度改訂版の胃食道逆流症(GERD)診療ガイドラインとして発表することとなった.

3.今後の予定今後,一般向けの簡易解説版ガイドラインを作成するとともに,英文版を作成し,日本のガ

イドラインを世界に発信していく予定である.また,本改訂ガイドラインの検索期間内では,まだ臨床データに関する論文が発表されていなかったが,本年より逆流性食道炎の初期治療にも維持療法にも使用することができる新しいタイプの強力な胃酸分泌抑制薬の使用が開始されている.この新しい種類の胃酸分泌抑制薬である potassium competitive acid blocker(P-CAB),ボノプラザンの臨床データの集積が進み臨床的な論文が発表されれば,本ガイドラインの追補版の作成や早期の改訂も視野に入れた検討を行っていくことが必要であろうと考えられる.

4.おわりに最後に,本ガイドラインをまとめるにあたって,常に一緒に仕事をしていただき,調整作業

にあたっていただいた作成委員会副委員長の岩切勝彦先生,評価委員会委員長の本郷道夫先生,さらに,それぞれの仕事で多忙なところ文献の収集や評価,そのまとめに多くの時間を割いていただいた作成委員,評価委員の先生方,作成の進行モニタリング,委員間の連絡,会議の調整,記録のまとめなど事務的な仕事に多くのサポートをいただいた日本消化器病学会事務局と南江堂のみなさんに深謝いたします.

2015 年 9月

日本消化器病学会胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン作成委員長

木下 芳一

— x —

1.エビデンス収集初版で行われた系統的検索によって得られた論文に加え,今回新たに以下の作業を行ってエ

ビデンスを収集した.それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した.

データベースは,英文論文はMEDLINE,Cochrane Libraryを用いて,日本語論文は医学中央雑誌を用いた.新規 CQについては 1983 年〜2012 年 6 月末,変更 CQについても同期間を文献検索の対象期間とし,初版と同じ CQについては 2008 年〜2012 年 6 月末を文献検索の対象期間とした.また,2012 年 7 月以降 2015 年 3 月までの重要かつ新しいエビデンスについては,検索期間外論文として文献に掲載した.各キーワードおよび検索式は日本消化器病学会ホームページに掲載する予定である.収集した論文のうち,ヒトに対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺伝子研究に関

する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが,エビデンスとしては用いなかった.

2.エビデンス総体の評価方法1)各論文の評価:構造化抄録の作成各論文に対して,研究デザイン 1)(表1)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した.

さらに RCTや観察研究に対して,Cochrane Handbook 2)やMinds診療ガイドライン作成の手引き 1)のチェックリストを参考にしてバイアスのリスクを判定した(表2).総体としてのエビデンス評価は,GRADE(The Grading of Recommendations Assessment, Development and

Evaluation)システム 3〜22)の考え方を参考にして評価し,CQ各項目に対する総体としてのエビデンスの質を決定し表記した(表3).2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価

(1)初期評価:各研究デザイン群の評価

本ガイドライン作成方法

表 1 研究デザイン各文献へは下記9種類の「研究デザイン」を付記した. (1)メタ (システマティックレビュー /RCTのメタアナリシス) (2)ランダム (ランダム化比較試験) (3)非ランダム (非ランダム化比較試験) (4)コホート (分析疫学的研究(コホート研究)) (5)ケースコントロール (分析疫学的研究(症例対照研究)) (6)横断 (分析疫学的研究(横断研究)) (7)ケースシリーズ (記述研究(症例報告やケース・シリーズ)) (8)ガイドライン (診療ガイドライン) (9)(記載なし) (患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は, 参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした)

本ガイドライン作成方法

— xi —

�メタ群,ランダム群=「初期評価 A」�非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」�ケースシリーズ群=「初期評価 D」

(2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価�研究の質にバイアスリスクがある�結果に非一貫性がある�エビデンスの非直接性がある�データが不精確である�出版バイアスの可能性が高い

(3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価�大きな効果があり,交絡因子がない�用量–反応勾配がある�可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている

(4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した.

表 2 バイアスリスク評価項目

選択バイアス

(1)ランダム系列生成詳細に記載されている

か(2)コンシールメント

組み入れる患者の隠蔽化がなされているか

実行バイアス (3)盲検化

検出バイアス (4)盲検化

症例減少バイアス

(5)ITT解析ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守しているか

(6)アウトカム報告バイアス

 (解析における採用および除外データを含めて)(7)その他のバイアス

告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報告されていないアウトカムがないか

表3 エビデンスの質A:質の高いエビデンス(High)   真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる.B:中程度の質のエビデンス(Moderate)   効果の推定値が中程度信頼できる.   真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある.C:質の低いエビデンス(Low)   効果推定値に対する信頼は限定的である.   真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない.D:非常に質の低いエビデンス(Very Low)   効果推定値がほとんど信頼できない.   真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである.

— xii —

3)エビデンスの質の定義方法エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1つとした.またエビデンスは複数文献

を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,表3の A〜Dで表記した.4)メタアナリシスシステマティックレビューを行い,必要に応じてメタアナリシスを引用し,本文中に記載し

た.

また,1つ 1つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解説の中で明記した.

3.推奨の強さの決定以上の作業によって得られた結果をもとに,治療の推奨文章の案を作成提示した.次に,推

奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した.推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の希望,③益と害,④コスト評価,の 4項目

を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi変法,nominal group technique(NGT)法に準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1回目で,結論が集約できないときは,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は,この集計結果を総合して評価し,表4に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表記した.推奨の強さは「1:強い推奨」,「2:弱い推奨」の 2通りであるが,「強く推奨する」や「弱く

推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.また,投票結果を「合意率」として推奨の強さの下段に括弧書きで記載した.推奨の強さを決定できなかった場合や,疫学・病態などの,CQおよびステートメント内容が推奨文章ではない場合は,推奨の強さを「なし」と記載した.

4.本ガイドラインの対象1)利用対象:一般臨床医2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした.

5.改訂について本ガイドラインは改訂第 2版であり,今後も日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心と

して継続的な改訂を予定している.

表 4 推奨の強さ推奨度

1(強い推奨)“ 実施する ” ことを推奨する“実施しない ”ことを推奨する

2(弱い推奨)“ 実施する ” ことを提案する“実施しない ”ことを提案する

本ガイドライン作成方法

— xiii —

6.作成費用について本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金

提供はない.

7.利益相反について1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作

成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は「利益相反に関して」に記す).

2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリックコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した.

8.ガイドライン普及と活用促進のための工夫1)フローチャートを提示して,利用者の利便性を高めた.2)書籍として出版するとともに,インターネット掲載を行う予定である.

・日本消化器病学会ホームページ・日本医療機能評価機構 EBM医療情報事業(Minds)ホームページ

■引用文献1) 福井次矢,山口直人(監修).Minds診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,20142) Higgins JPT, Green S (eds). Cochrane Handbook for Systematic Reviews of Interventions version 5.1.0:

The Cochrane Collaboration http://handbook.cochrane.org/(updated March 2011)[最終アクセス 2015年 3 月 11 日]

3) 相原守夫,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADEシステム,凸版メディア,弘前,2010

4) The GRADE* working group. Grading quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2004;328: 1490-1494 (printed, abridged version)

5) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength ofrecommendations GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recom-mendations. BMJ 2008; 336: 924-926

6) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strengthof recommendations: What is "quality of evidence" and why is it important to clinicians? BMJ 2008; 336:995-998

7) Schünemann HJ, Oxman AD, Brozek J, et al; GRADE Working Group. Grading quality of evidence andstrength of recommendations for diagnostic tests and strategies. BMJ 2008; 336: 1106-1110

8) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength ofrecommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ2008; 336: 1170-1173

9) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strengthof recommendations: going from evidence to recommendations. BMJ 2008; 336: 1049-1051

10) Jaeschke R, Guyatt GH, Dellinger P, et al; GRADE working group. Use of GRADE grid to reach decisionson clinical practice guidelines when consensus is elusive. BMJ 2008; 337: a744

11) Guyatt G, Oxman AD, Akl E, et al. GRADE guidelines 1. Introduction-GRADE evidence profiles and sum-mary of findings tables. J Clin Epidemiol 2011; 64: 383-394

12) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 2. Framing the question and deciding on impor-tant outcomes.J Clin Epidemiol 2011; 64: 295-400

13) Balshem H, Helfand M, Schunemann HJ, et al. GRADE guidelines 3: rating the quality of evidence. J ClinEpidemiol 2011; 64: 401-406

14) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al. GRADE guidelines 4: rating the quality of evidence - study limita-

tion (risk of bias). J Clin Epidemiol 2011; 64: 407-41515) Guyatt GH, Oxman AD, Montori V, et al. GRADE guidelines 5: rating the quality of evidence - publication

bias. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1277-128216) Guyatt G, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 6. Rating the quality of evidence - imprecision. J

Clin Epidemiol 2011; 64: 1283-129317) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 7. Rating the

quality of evidence - inconsistency. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1294-130218) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 8. Rating the

quality of evidence - indirectness. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1303-131019) Guyatt GH, Oxman AD, Sultan S, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 9. Rating up the

quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1311-131620) Brunetti M, Shemilt I, et al; The GRADE Working. GRADE guidelines: 10. Considering resource use and

rating the quality of economic evidence. J Clin Epidemiol 2013; 66: 140-15021) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, et al. GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence in

effect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 151-15722) Guyatt GH, Oxman AD, Santesso N, et al. GRADE guidelines 12. Preparing Summary of Findings tables-

binary outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 158-172

— xiv —

— xv —

日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た.

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関連する企業との経済的な関係につき,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た.

申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1日から 2014 年 12 月 31 日).企業名は 2015 年 7 月現在の名称とした.非営利団体は含まれない.

1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企業・団体役員・顧問職(100 万円以上),株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有),特許権使用料(100 万円以上)

2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体講演料(100 万円以上),原稿料(100 万円以上),その他の報酬(5万円以上)

3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体研究費(200 万円以上),寄付金(200 万円以上),寄付講座

※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた

統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of lifeの向上を第一として作業を行った.利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである.

表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順)

1.エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社2.味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパ

ン株式会社,株式会社医学書院,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,オリンパスメディカルシステムズ株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,ファイザー株式会社

3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,あすか製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,花王株式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社,グラクソ・スミスクライン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーンケア研究所,ゼリア新薬工業株式会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,株式会社ツムラ,東レ株式会社,ファイザー株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会社,株式会社ヤクルト本社,ユーシービージャパン株式会社

表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順)

1.なし2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社,第一三共株式会社,

武田薬品工業株式会社,日本新薬株式会社3.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社,ギブン・イメージング株式会社,第一三共株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,日本製薬株式会社

利益相反に関して

— xvi —

第1章 疫学 (1)有病率(2)GERD患者の身体的特徴と合併症 

第2章 病態(1)GERDの病態(2)世界との比較(3)胃食道逆流(GER)の要因 

第3章 診断 (1)自覚症状の評価(2)内視鏡診断(3)逆流現象の評価

第4章 内科的治療(1)治療の目的(2)治療手段

第5章 外科的治療(1)外科的治療適応対象の基準(2)外科的治療の効果

第6章 上部消化管術後食道炎(1)定義(2)要因(3)術後食道炎の病態評価(4)術後食道炎の治療(5)術後食道炎の長期経過と合併症

第7章 食道外症状(1)非心臓性胸痛(2)慢性咳嗽(3)咽喉頭症状(4)喘息(5)睡眠障害(6)その他の食道外症状

第8章 Barrett 食道

本ガイドラインの構成

— xvii —

フローチャート

GERD疑い

GERD内視鏡未施行

臨床評価

他疾患GERD

(びらん性GERD or非びらん性GERD)

臨床評価

併用可能な治療手段

生活習慣の改善

アルギン酸塩,制酸薬  頓用

消化管運動機能改善薬,漢方薬

臨床評価

臨床評価

病態評価**維持療法

改善あり

改善あり

改善なし

改善なし

他疾患

PPI 抵抗性GERD

薬剤検討

他剤検討*PPI 倍量分割投与

PPI 8週

初期治療

長期治療戦略PPI抵抗性GERD戦略専門治療

症状持続または再燃

(一過性症状として診療終了)

内視鏡検査

診断

治療

CQ4-3CQ4-5

CQ3-4CQ3-6

CQ3-7CQ3-8CQ3-9

CQ4-1CQ4-3CQ4-5

PPI

継続治療不要のGERD

軽症びらん性GERD

(grade A,B)

重症びらん性GERD

(grade C,D)

長期治療を要するGERD

PPI による維持療法

積極的維持療法

外科的治療

オンデマンド療法or

継続的な維持療法外科的治療

状態/診断陽性判断 or治療成功

陰性判断 or治療不成功治療

PPI に反応する非びらん性GERD

CQ3-5

CQ4-2

CQ4-8 CQ4-8

CQ4-8 CQ5-1 CQ4-8CQ3-11

CQ5-1

CQ4-7

CQ4-7

CQ4-8CQ4-9

CQ4-4

CQ4-6

他剤検討*

 PPI 変更,投与法の変更, 消化管運動機能改善薬追加, 漢方薬追加,H2RA追加

病態評価**

 食道インピーダンス・ pHモニタリング 食道内圧検査

酸,弱酸,非酸逆流

専門医による内科的治療

検査判断

— xviii —

1.胃食道逆流症(GERD)「胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)」は,胃食道逆流(gastroesophageal

reflux:GER)により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患であり,食道粘膜傷害を有する「びらん性 GERD」と症状のみを認める「非びらん性 GERD」に分類される.

2.胃食道逆流(GER)胃食道逆流(gastroesophageal reflux:GER)は,「酸の GER」と「酸以外(弱酸,非酸)の

GER」に分類される.

3.PPI 抵抗性GERD標準量の PPIを 8週間内服しても①食道粘膜傷害が治癒しない and/or ②GER由来と考えら

れる症状が十分に改善しない状態と定義する.

4.術後食道炎胃切除後(胃全摘術を含む),食道切除後までを含めることとし,肥満手術後,逆流防止術後

は含めない.

5.Barrett 食道Barrett食道の定義は,国内外で統一(生検の有無,長さ,食道胃接合部の判定)されていない

のが現状であり,今後定義を統一する必要もあるが本ガイドラインでは日本における『食道癌取扱い規約(第 10 版)』に基づいた定義「バレット粘膜(胃から連続性に食道に伸びる円柱上皮で,腸上皮化生の有無を問わない)の存在する食道」を用いた.

用語解説

— xix —

第1章 疫 学

❶有病率CQ 1-1 日本人の GERDの有病率はどれくらいか? ………………………………………………2CQ 1-2 日本人の GERDの有病率は増加しているか? ……………………………………………4

❷GERD患者の身体的特徴と合併症CQ 1-3 GERDの有病率は過体重者に多いか? ……………………………………………………6CQ 1-4 GERDは食道裂孔ヘルニアに合併するか? ………………………………………………8CQ 1-5 GERDでは食道狭窄,出血が合併するか?………………………………………………10

第2章 病 態

❶GERDの病態CQ 2-1 胃酸の GERは GERDの食道粘膜傷害の主な原因か? …………………………………14CQ 2-2 食道裂孔ヘルニアは食道の胃酸曝露の原因になるか?…………………………………15CQ 2-3 食道運動障害は食道の胃酸曝露の原因になるか?………………………………………16CQ 2-4 胃酸の GERのメカニズムは? ……………………………………………………………17CQ 2-5 胃酸以外の GERは GERDの原因になるか? ……………………………………………18CQ 2-6 非びらん性 GERDの病態は,びらん性 GERDの病態と同じか? ……………………21

❷世界との比較CQ 2-7 H. pylori 感染で GERD有病率は低下するか? …………………………………………25

❸胃食道逆流(GER)の要因CQ 2-8 激しい肉体運動は GERDの誘発因子になるか? ………………………………………28

第3章 診 断

❶自覚症状の評価CQ 3-1 胸やけ症状は患者に正しく理解されているか?…………………………………………32CQ 3-2 GERにより GERDの定型的食道症状以外の症状(食道外症状)が出現することがある

か?…………………………………………………………………………………………33CQ 3-3 GERにより食道外症状のみを呈する患者はいるか? …………………………………36CQ 3-4 自己記入式アンケートは GERDの診断,治療効果の評価に有用か? ………………38CQ 3-5 食道粘膜傷害の内視鏡的重症度は自覚症状の重症度と相関するか?…………………40CQ 3-6 PPIテストは GERDの診断に有用か?……………………………………………………42

❷内視鏡診断CQ 3-7 びらん性 GERDの内視鏡的重症度分類にロサンゼルス分類は妥当か? ……………44

クリニカルクエスチョン一覧

— xx —

CQ 3-8 内視鏡検査でみられるminimal changeはどう取り扱うべきか? ……………………46CQ 3-9 GERDの診断において画像強調観察・拡大内視鏡観察は有用か?……………………48CQ 3-10 PPI抵抗性 GERDは酸の GERによらない病態か? ……………………………………50

❸逆流現象の評価CQ 3-11 24 時間食道 pHモニタリング,24 時間食道インピーダンス・pHモニタリングは

GERD診療に有用か?……………………………………………………………………52

第4章 内科的治療

❶治療の目的CQ 4-1 GERD治療の目的(目標)は何か? ………………………………………………………56

❷治療手段CQ 4-2 生活習慣の改善・変更は GERDの治療に有効か? ……………………………………59CQ 4-3 酸分泌抑制薬は GERDの治療に有効か? ………………………………………………61CQ 4-4 アルギン酸塩,制酸薬は GERDの治療に有効か? ……………………………………64CQ 4-5 PPIは GERDの第一選択薬か?……………………………………………………………66CQ 4-6 消化管運動機能改善薬,漢方薬など PPIとの併用で上乗せ効果が期待できる薬剤は

あるか?……………………………………………………………………………………69CQ 4-7 常用量の PPIで効果が不十分な場合はどうするか?……………………………………70CQ 4-8 GERDの長期治療戦略は何か? 維持療法,間欠療法,オンデマンド療法,ステップ

ダウン療法はどう使い分けるか?………………………………………………………74CQ 4-9 GERD治療薬の長期維持療法は安全か?…………………………………………………79

第5章 外科的治療

❶外科的治療適応対象の基準CQ 5-1 外科的治療の適応となる GERDはどのような病態のものか? ………………………86

❷外科的治療の効果CQ 5-2 GER防止手術の長期成績は PPI治療と同等以上か? …………………………………88CQ 5-3 外科的治療は PPI治療よりも費用対効果比が良好か?…………………………………90CQ 5-4 GER防止手術の成績は外科医の経験と技能に左右されるか? ………………………91CQ 5-5 開腹手術に比べ腹腔鏡下手術は有用か?…………………………………………………92CQ 5-6 びらん性 GERDの外科的治療として,Nissen法は Toupet法より優れているか? …93CQ 5-7 GERDに対する経口内視鏡的治療は有効か?……………………………………………94

第6章 上部消化管術後食道炎

❶定義CQ 6-1 術後食道炎の原因となる食道粘膜傷害性を持つ逆流内容物は何か?…………………98

❷要因CQ 6-2 術後食道炎の発生に影響する要因は何か? ……………………………………………101

— xxi —

クリニカルクエスチョン一覧

❸術後食道炎の病態評価CQ 6-3 術後食道炎の病態評価の診断に有用なものは何か? …………………………………105CQ 6-4 術後食道炎に特有な病理組織像はあるか? ……………………………………………107

❹術後食道炎の治療CQ 6-5 術後食道炎の治療に生活指導は有用か? ………………………………………………108CQ 6-6 術後食道炎の治療に薬物治療は有用か? ………………………………………………109CQ 6-7 術後食道炎の治療に手術療法は有用か? ………………………………………………111

❺術後食道炎の長期経過と合併症CQ 6-8 術後食道炎の自然経過はどうなるのか? ………………………………………………113

第7章 食道外症状

❶非心臓性胸痛CQ 7-1 GERにより虚血性心疾患と見分けのつかない胸痛が生じるか? ……………………116

❷慢性咳嗽CQ 7-2 GERにより慢性咳嗽が生じるか? ………………………………………………………118

❸咽喉頭症状CQ 7-3 GERにより慢性咽喉頭炎(自覚症状のみのものを含む)が生じるか?………………120

❹喘息CQ 7-4 GERにより喘息が生じるか? ……………………………………………………………122

❺睡眠障害CQ 7-5 GERにより睡眠障害が生じるか? ………………………………………………………124

❻その他の食道外症状CQ 7-6 GERによりその他の食道外症状が生じるか? …………………………………………126

第8章 Barrett 食道

CQ 8-1 Barrett食道はどのように定義されるか? ………………………………………………130CQ 8-2 Barrett食道の発生に GERが関係するか? ……………………………………………132CQ 8-3 一般日本人および日本人 GERD患者のなかで Barrett食道の合併頻度は,それぞれどれ

くらいか? ………………………………………………………………………………133CQ 8-4 術後食道炎から Barrett食道は生じるか?………………………………………………135CQ 8-5 日本人の Barrett食道からの発癌頻度はどれくらいか?………………………………137CQ 8-6 日本人の Barrett食道はすべて内視鏡による経過観察が必要か?……………………139

索引 ………………………………………………………………………………………………………141

— xxii —

略語一覧

AFI autofl uorescence imagingBAL broncho-alveolar lavage 気管支肺胞洗浄BLI blue laser imagingBMI body mass indexCC collageneous colitisCPAP continuous positive airway pressure 持続陽圧呼吸DLCO diff using capacity of COECL enterochromaffi n-like 腸クロム親和性細胞様FICE fl exible spectral imaging color enhancementGER gastroesophageal refl ux 胃食道逆流GERD gastroesophageal refl ux disease 胃食道逆流症H2RA histamine H2 receptor antagonist ヒスタミンH2 受容体拮抗薬hetEM heterozygous extensive metabolizerhomEM homozygous extensive metabolizerIPCL intrapapillary capillary loop 上皮乳頭内血管ループLC lymphocytic colitisLDH lactate dehydrogenase 乳酸脱水素酵素LES lower esophageal sphincter 下部食道括約筋LSBE long segment Barrett’s esophagusMC microscopic colitisNAB nocturnal acid breakthroughNBI narrow band imagingNCCP non-cardiac chest pain 非心臓性胸痛OR odds ratio オッズ比OSAS obstructive sleep apnea syndrome 閉塞性睡眠時無呼吸症候群PM poor metabolizerPPI proton pump inhibitor プロトンポンプ阻害薬QOL quality of life 生活の質SSBE short segment Barrett’s esophagusTLESR transient lower esophageal sphincter relaxation 下部食道括約筋の一過性弛緩TRPV transient receptor potential vanilloid

1.疫 学

— 2 —

解説

2008 年以降に発表された 1,000 例以上を対象とした研究で,びらん性 GERDの頻度は 6.5〜14.6%であった(表1)1〜7).報告された全症例を平均すると 10.5%であり,びらん性 GERDの有病率は 10%程度と推定される.Kusanoらの報告では,胸やけ症状を加味した診断では GERD

の頻度はびらん性 GERDの約 2倍である 8).他の報告からも症状から診断される症例を加味すると GERD患者はさらに多いと推定される 9, 10).びらん性 GERDの内視鏡重症度に言及した報告はほとんどないが,Yasuharaらの報告ではロサンゼルス分類 Grade C,Dの症例はびらん性GERDの 3%のみであった 7).過去の報告も同様であり 11),ロサンゼルス分類 Grade C,Dに相当する重症例は少ない.

Clinical Question 1-11.疫学 ― ❶有病率

日本人の GERD の有病率はどれくらいか?

CQ 1-1 日本人の GERD の有病率はどれくらいか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● びらん性 GERD の有病率は 10%程度と推定される. なし B

表1 びらん性GERDの頻度報告者 対象 対象数 GERD症例

Chiba ら 1) 多施設,健診受診者 4,990 14.6%志賀ら 2) 単一施設,健診受診者 1,531 6.5%Mizuta ら 3) 単一施設,健診受診者 2,303 8.7%Kato ら 4) 単一施設,健診受診者 2,405 9.8%Murao ら 5) 単一施設,健診受診者 2,853 11.3%Kaji ら 6) 単一施設,健診受診者 2,680 7.7%Yasuhara ら 7) 多施設,健診受診者 1,495 8.0%

— 3 —

①有病率

文献

1) Chiba H, Gunji T, Sato H, et al. A cross-sectional study on the risk factors for erosive esophagitis in youngadults. Intern Med 2012; 51: 1293-1299(横断)

2) 志賀智子,森吉百合子.逆流性食道炎の危険因子の検討―メタボリックシンドローム,症状に関連しての検討.人間ドック 2011; 26: 523-530(ケースコントロール)

3) Mizuta A, Adachi K, Furuta K, et al. Different sex-related influences of eating habits on the prevalence ofreflux esophagitis in Japanese. J Gastroenterol Hepatol 2011; 26: 1060-1064(ケースコントロール)

4) Kato M, Watabe K, Hamasaki T, et al. Association of low serum adiponectin levels with erosive esophagi-tis in men: an analysis of 2405 subjects undergoing physical check-ups. J Gastroenterol 2011; 46: 1361-1367

(ケースコントロール)5) Murao T, Sakurai K, Mihara S, et al. Lifestyle change influences on GERD in Japan: a study of participants

in a health examination program. Dig Dis Sci 2011; 56: 2857-2864(ケースコントロール)6) Kaji M, Fujiwara Y, Shiba M, et al. Prevalence of overlaps between GERD, FD and IBS and impact on

health-related quality of life. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1151-1156(ケースコントロール)7) Yasuhara H, Miyake Y, Toyokawa T, et al. Large waist circumference is a risk factor for reflux esophagitis

in Japanese males. Digestion 2010; 81: 181-187(ケースコントロール)8) Kusano M, Kouzu T, Kawano T, et al. Nationwide epidemiological study on gastroesophageal reflux dis-

ease and sleep disorders in the Japanese population. J Gastroenterol 2008; 43: 833-841(横断)9) Sakaguchi M, Oka H, Hashimoto T, et al. Obesity as a risk factor for GERD in Japan. J Gastroenterol 2008;

43: 57-62(ケースコントロール)10) Yamagishi H, Koike T, Ohara S, et al. Prevalence of gastroesophageal reflux symptoms in a large unselect-

ed general population in Japan. World J Gastroenterol 2008; 14: 1358-1364(横断)11) Furukawa N, Iwakiri R, Koyama T, et al. Proportion of reflux esophagitis in 6010 Japanese adult: prospec-

tive evaluation by endoscopy. J Gastroenterol 1999; 34: 441-444(横断)

— 4 —

解説

日本人の GERDの有病率に関するシステマティックレビューによると,これまでに外来患者を対象とした 30 論文と健診受診者を対象とした 12 論文が報告されている 1).外来患者の内視鏡検査における GERD有病率は,1980 年代には 1.6%前後であったが 1990 年代後半より増加し,2000 年代には 13.1%(5.8〜16.7%)と高い有病率を示していた.健診受診者の内視鏡検査における有病率は,1990 年代には 2.5%(1.3〜13.7%)であったが,2000 年代の報告では 9.8%(4.9〜12.8%)と増加していた.健診受診者の GERD症状を有する割合は,1990 年代は 10.3%であったが,2000 年代半ばには 18.9%(12.7〜27%)と増加していた.他のレビューにおいても,内視鏡検査における GERDの有病率は,1985〜1987 年に 1%前後であったが,2005 年には 7.1%と増加していたと報告されている 2).有病率は報告により大きな差があるが,対象者の年齢や性が異なることなどが要因であると考えられる.しかし,同一施設で外来患者を対象とした症状および内視鏡における GERD有病率の経時的な変化を調査した報告によると,胸やけを訴えた患者の割合は,1981〜1982 年の 1.7%から 2004〜2005 年の 8.2%へ有意に増加し,びらん性食道炎の割合も,1981〜1982 年の 2.0%から 2004〜2005 年の 14.3%と有意に増加していた 3).また,1998 年と 2005 年における健診受診者の H. pylori 感染とびらん性食道炎の年齢調整罹患率を同一地区で調査した報告によると,H. pylori 感染は 70.5%から 52.7%に減少した一方で,GERDは1.4%から 6.6%に増加していた 4).

報告により有病率に違いはあるが,日本人の GERDの有病率は増加していると考えられる.要因として,胃酸分泌能の増加や H. pylori 感染率の減少,H. pylori 除菌治療の普及などが考えられている 4〜6).

文献

1) Fujiwara Y, Arakawa T. Epidemiology and clinical characteristics of GERD in the Japanese population. JGastroenterol 2009; 44: 518-534(メタ)

Clinical Question 1-21.疫学 ― ❶有病率

日本人の GERD の有病率は増加しているか?

CQ 1-2 日本人の GERD の有病率は増加しているか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 日本人の GERD の有病率は増加している. なし C

— 5 —

①有病率

2) Miwa H, Oshima T, Tomita T, et al. Gastro-esophageal reflux disease: the recent trend in Japan. Clin J Gas-troenterol 2008; 1: 133-138(メタ)

3) Manabe N, Haruma K, Kamada T, et al. Changes of upper gastrointestinal symptoms and endoscopicfindings in Japan over 25 years. Intern Med 2011; 50: 1357-1363(ケースコントロール)

4) Nakajima S, Nishiyama Y, Yamaoka M, et al. Changes in the prevalence of Helicobacter pylori infection andgastrointestinal diseases in the past 17 years. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25 (Suppl 1): S99-S110(ケースコントロール)

5) Kinoshita Y, Kawanami C, Kishi K, et al. Helicobacter pylori independent chronological change in gastricacid secretion in the Japanese. Gut 1997; 41: 452-458(メタ)

6) Yagi S, Okada H, Takenaka R, et al. Influence of Helicobacter pylori eradication on reflux esophagitis inJapanese patients. Dis Esophagus 2009; 22: 361-367(ケースコントロール)

— 6 —

解説

GERDと body mass index(BMI)との関連を検討した報告はあるが,BMIが有意に高い 1〜6),オッズ比が上昇する 3, 5, 7),上昇しない 1, 2, 8)など意見が分かれている 9).相反する結果の原因として,対象が異なること,GERDの定義(内視鏡診断によるびらん性 GERDか,Grade Mを含むか,質問紙票に基づくものか),対照の設定,多変量解析において同じ交絡因子が加味されていないことがあげられる.びらん性 GERDのみを対象とした場合,対照群と比較して BMIが有意に高いという報告が多

い 1, 3〜6, 10).非びらん性 GERD患者では BMIと関連しない 1, 3),あるいは低い 10)とする報告があり,GERD全体として BMIとの関連が不明確になっている.過体重・肥満者との関連については,GERD有病率が高い 11),びらん性 GERDのリスクであ

る 12),GERD患者の一部の年代で肥満が多い 13, 14),高度肥満とびらん性 GERDは関連がある 15).肥満よりむしろ腹囲との関連がある 16)など一定の見解は得られていない.したがって,過体重者・肥満患者において必ずしも GERD有病率は高いといえない.

文献

1) Mishima I, Adachi K, Arima N, et al. Prevalence of endoscopically negative and positive gastroesophagealreflux disease in the Japanese. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 1005-1009(横断)

2) Yasuhara H, Miyake Y, Toyokawa T, et al. Large waist circumference is a risk factor for reflux esophagitisin Japanese males. Digestion 2010; 81: 181-187(横断)

3) Murao T, Sakurai K, Mihara S, et al. Lifestyle change influences on GERD in Japan: a study of participantsin a health examination program. Dig Dis Sci 2011; 56: 2857-2864(横断)

4) Mizuta A, Adachi K, Furuta K, et al. Different sex-related influences of eating habits on the prevalence ofreflux esophagitis in Japanese. J Gastroenterol Hepatol 2011; 26: 1060-1064(横断)

5) Gunji T, Sato H, Iijima K, et al. Risk factors for erosive esophagitis: a cross-sectional study of a large num-ber of Japanese males. J Gastroenterol 2011; 46: 448-455(横断)

Clinical Question 1-31.疫学 ― ❷GERD 患者の身体的特徴と合併症

GERD の有病率は過体重者に多いか?

CQ 1-3 GERD の有病率は過体重者に多いか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD 患者では body mass index(BMI)との関連については不明であるが,びらん性 GERD 患者では BMI が高い. なし C

— 7 —

②GERD 患者の身体的特徴と合併症

6) 志賀智子,森吉百合子.逆流性食道炎の危険因子の検討―メタボリックシンドローム,症状に関連しての検討.人間ドック 2011; 26: 523-530(横断)

7) Kawai T, Yamamoto K, Fukuzawa M, et al. Helicobacter pylori infection and reflux esophagitis in youngand middle-aged Japanese subjects. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: S80-S85(横断)

8) 名越淳人,財 裕明,原澤 茂.逆流性食道炎の疫学と成因.消化器の臨床 2004; 4: 441-444(横断)9) Kinoshita Y, Adachi K, Hongo M, et al. Systematic review of the epidemiology of gastroesophageal reflux

disease in Japan. J Gastroenterol 2011; 46: 1092-1103(メタ)10) 船津和夫,斗米 馨,栗原浩次,ほか.健診者におけるびらん性および非びらん性胃食道逆流症の臨床的

検討.人間ドック 2008; 22: 811-817(横断)11) Sakaguchi M, Oka H, Hashimoto T, et al. Obesity as a risk factor for GERD in Japan. J Gastroenterol 2008;

43: 57-62(横断)12) Moki F, Kusano M, Koyama T, et al. Association between reflux esophagitis and features of the metabolic

syndrome in Japan. Aliment Phamacol Ther 2007; 26: 1069-1075(横断)13) Furukawa N, Iwakiri R, Kiyama T, et al. Proportion of reflux esophagitis in 6010 Japanese adults: prospec-

tive evaluation by endoscopy. J Gastroenterol 1999; 34: 441-444(横断)14) Fujimoto K. Prevalence and epidemiology of gastro-esophageal reflux disease in Japan. Aliment Phamacol

Ther 2004; 20 (Suppl 8): 5-8(横断)15) 松橋信行,遠藤宏樹,蓮江智彦,ほか.人間ドックでの肥満と GERDの相関.消化器科 2006; 42: 248-252

(横断)16) 曽山ゆかり,山田亮詞,西川晋史,ほか.BMI・腹囲径およびメタボリックシンドロームと消化器疾患の

相関について―逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニア,胆石,脂肪肝の 4疾患での横断的検討.人間ドック2010; 24: 1017-1023(横断)

— 8 —

解説

GERDと食道裂孔ヘルニアとの関連については,健診受診者による横断的疫学研究や内視鏡施行患者や GERD患者における臨床研究が報告されている 1〜14).ヘルニアの定義は,個々の報告により異なるが,びらん性 GERDではヘルニア合併が高いとする報告が多い 1〜11).多変量解析において食道裂孔ヘルニアはびらん性 GERDに対するオッズ比が有意に高い 2, 7, 12〜14)(表1).したがって,びらん性 GERDと食道裂孔ヘルニアとは密接な関連が存在するといえる.一方,食道裂孔ヘルニアが GERDの原因となるかは議論の多いところであるが,除菌後に発

症する GERDの危険因子を調査した報告では,食道裂孔ヘルニアの存在が有意な危険因子であることから 11, 15),疾患発症との関連が示唆される.

文献

1) Shimazu T, Matsui T, Furukawa K, et al. A prospective study of the prevalence of gastroesophageal refluxdisease and confounding factors. J Gastroenterol 2005; 40: 866-872(横断)

2) Mishima I, Adachi K, Arima N, et al. Prevalence of endoscopically negative and positive gastroesophagealreflux disease in the Japanese. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 1005-1009(横断)

3) Furukawa N, Iwakiri R, Kiyama T, et al. Proportion of reflux esophagitis in 6010 Japanese adults: prospec-tive evaluation by endoscopy. J Gastroenterol 1999; 34: 441-444(横断)

Clinical Question 1-41.疫学 ― ❷GERD 患者の身体的特徴と合併症

GERD は食道裂孔ヘルニアに合併するか?

CQ 1-4 GERD は食道裂孔ヘルニアに合併するか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● びらん性 GERD と食道裂孔ヘルニアとは密接な関連がある. なし C

表1 食道裂孔ヘルニアとびらん性GERDとの関連報告者 対象 数 ヘルニアの定義 OR(95% CI)

Mishima ら 2) 健診受診者 2,760 横隔膜より口側の胃襞の存在 7.08(4.98~10.06)Amano ら 7) 健診受診者 2,788 横隔膜より口側の胃襞の存在 5.95Yasuhara ら 12) 健診受診者 1,485 2cm以上 3.50(2.35~5.22)Kawai ら 13) 健診受診者 418 幕内分類 4.14(2.29~7.48)Murao ら 14) 健診受診者 2,853 反転観察におけるスペースの存在 2.58(2.20~3.14)

— 9 —

②GERD 患者の身体的特徴と合併症

4) 関口利和,大和田恒夫,萩原 修,ほか.逆流性食道炎の疫学調査―2000 年における発症頻度について.日本臨床内科医会会誌 2005; 20: 393-402(横断)

5) Ohno E, Kogure T. Upper gastrointestinal X-ray findings associated with gastroesophageal reflux disease(GERD). Ningen Dock 2005; 19: 9-13(横断)

6) 草野元康,神津照雄,河野辰幸,ほか.日本人の食道裂孔ヘルニアの頻度.Gastroenterol Endosc 2005; 47:962-973(横断)

7) Amano K, Adachi K, Katsube T, et al. Role of hiatus hernia and gastric mucosal atrophy in the develop-ment of reflux esophagitis in the elderly. J Gastroenterol Hepatol 2001; 16: 132-136(横断)

8) Hongo M, Kinoshita Y, Miwa H, et al. The demographic characteristics and health-related quality of life ina large cohort of reflux esophagitis patients in Japan with reference to the effect of lansoprazole: theREQUEST study. J Gastroenterol 2008; 43: 920-927(非ランダム)

9) Tsuboi K, Omura N, Yano F, et al. Relationship of the frequency scale for symptoms of gastroesophagealreflux disease with endoscopic findings of cardiac sphincter morphology. J Gastroenterol 2008; 43: 798-802

(横断)10) Fujimoto K, Hongo M; Maintenance Study Group. Safety and efficacy of long-term maintenance therapy

with oral dose of rabeprazole 10 mg once daily in Japanese patients with reflux esophagitis. Intern Med2011; 50: 179-188(非ランダム)

11) Fujiwara Y, Arakawa T. Epidemiology and clinical characteristics of GERD in the Japanese population. JGastroenterol 2009; 44: 518-534(メタ)

12) Yasuhara H, Miyake Y, Toyokawa T, et al. Large waist circumference is a risk factor for reflux esophagitisin Japanese males. Digestion 2010; 81: 181-187(横断)

13) Kawai T, Yamamoto K, Fukuzawa M, et al. Helicobacter pylori infection and reflux esophagitis in youngand middle-aged Japanese subjects. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: S80-S85(横断)

14) Murao T, Sakurai K, Mihara S, et al. Lifestyle change influences on GERD in Japan: a study of participantsin a health examination program. Dig Dis Sci 2011; 56: 2857-2864(横断)

15) Yagi S, Okada H, Takenaka R, et al. Influence of Helicobacter pylori eradication on reflux esophagitis inJapanese patients. Dis Esophagus 2009; 22: 361-367(横断)

— 10 —

解説

日本においてもびらん性 GERDでは出血や狭窄が合併することが報告されているが,それぞれの研究における対象患者,調査方法・期間,治療介入の有無などが異なるため,日本人 GERD

患者における頻度は不明である.出血に関しては,Grade Cや Grade Dのような重症びらん性 GERD 1〜5),高齢者 2, 3),糖尿病・

膠原病など基礎疾患を有する患者 1, 3),大酒家 1)に多いことが報告されている(表1).

文献

1) Yamaguchi M, Iwakiri R, Yamaguchi K, et al. Bleeding and stenosis caused by reflux esophagitis was notcommon in emergency endoscopic examinations: a retrospective patient chart review at a single institu-tion in Japan. J Gastroenterol 2008; 43: 265-269(横断)

2) 小林 隆,芳野純治,乾 和郎,ほか.高齢者における食道出血性病変の特徴.老年消化器病 2009; 21:115-119(横断)

3) 相原洋祐,森安博人,西村典久,ほか.消化管出血で発症した高齢者逆流性食道炎の臨床的検討.日本高齢消化器病学会誌 2011; 13: 35-40(横断)

4) 古賀千晶,船田摩央,蔵原晃一,ほか.重症逆流性食道炎症例の臨床的特徴―軽症例との比較.消化管の

Clinical Question 1-51.疫学 ― ❷GERD 患者の身体的特徴と合併症

GERD では食道狭窄,出血が合併するか?

CQ 1-5 GERD では食道狭窄,出血が合併するか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● びらん性 GERD では食道狭窄や出血が合併するが,日本人 GERD患者での頻度は不明である. なし C

表1 びらん性GERDに合併する出血と狭窄の頻度報告者 対象 対象数 出血例(%) 狭窄例(%)

Yamaguchi ら 1) 緊急内視鏡施行症例 1,621 19(1.2%) 4(0.2%)小林ら 2) 静脈瘤・癌を除く食道出血症例 81 37(45.7%)相原ら 3) 吐下血に対する緊急内視鏡施行症例 818 43(5.3%)古賀ら 4) 内視鏡を施行したGERD症例 554 24(4.3%) 1(0.2%)眞部ら 5) GERD長期観察症例(10年以上) 200 15(7.5%)宮本ら 6) GERD長期観察症例(平均7.1 年) 435 41(9.4%) 16(3.7%)

— 11 —

②GERD 患者の身体的特徴と合併症

臨床 2012; 17: 49-52(横断)5) 眞部紀明,春間 賢,大越裕章,ほか.逆流性食道炎は慢性進行性の疾患か?―逆流性食道炎 200 例の 10

年間における長期臨床経過からの検討.Therapeutic Research 2009; 30: 470-473(横断)6) 宮本真樹,東 悠介,日高 徹,ほか.逆流性食道炎 435 例の長期経過―PPI治療は高齢者の上部消化管

粘膜傷害の予後を変える.Therapeutic Research 2011; 32: 612-617(横断)

2.病 態

— 14 —

解説

健常者,びらん性 GERD患者における食道 pHモニタリングの結果からは,びらん性 GERD

患者の食道内の酸曝露時間(pH 4 未満の時間率)は健常者に比べ有意に延長している 1).健常者,軽症,重症びらん性 GERD患者での検討では,食道粘膜傷害が重症になるに従い酸曝露時間は有意に延長 2〜4)することから,びらん性 GERD患者の食道粘膜傷害の原因は食道内の過剰な酸曝露である.健常者における 24 時間食道内酸曝露時間の正常値は 4%未満である.

文献

1) Hayashi Y, Iwakiri K, Kotoyori M, et al. Mechanisms of acid gastroesophageal reflux in the Japanese pop-ulation. Dig Dis Sci 2008; 53: 1-6(ケースシリーズ)

2) Iwakiri K, Kawami N, Sano H, et al. Mechanisms of excessive esophageal acid exposure in patients withreflux esophagitis. Dig Dis Sci 2009; 54: 1686-1692(ケースシリーズ)

3) Lundell LR, Dent J, Bennett JR, et al. Endoscopic assessment of oesophagitis: clinical and functional corre-lates and further validation of the Los Angeles classification. Gut 1999; 45: 172-180(横断)

4) Adachi K, Fujishiro H, Katsube T, et al. Predominant nocturnal acid reflux in patients with Los Angelesgrade C and D reflux esophagitis. J Gastroenterol Hepatol 2001; 16: 1191-1196(ケースシリーズ)

Clinical Question 2-12.病態 ― ❶GERD の病態

胃酸の GER は GERD の食道粘膜傷害の主な原因か?

CQ 2-1 胃酸の GER は GERD の食道粘膜傷害の主な原因か?

ステートメント

● 胃酸の GER による食道内の過剰な胃酸曝露は食道粘膜傷害の主な原因であり,その程度は重症なびらん性 GERD になるに従い増加する.

— 15 —

解説

非還納性の食道裂孔ヘルニア症例では,ヘルニアのない症例に比べ食道内の酸排出遅延が存在することが報告されている 1〜3).ヘルニアの酸の GERに及ぼす影響に関しては,ヘルニアを有する症例では,低 LES圧に関連する酸の GERが有意に増加するが,酸の GERの主なメカニズムである一過性 LES弛緩(TLESR)時の酸の GERはヘルニアの有無によって差がない 4).また,ヘルニアの TLESR頻度に及ぼす影響を検討した報告では,胃内に連続的に空気を挿入したときにはヘルニアを有する症例において TLESR頻度が増加するとする報告 5)があるが,生理的条件下での報告では差がないとしている 4).以上のことから,ヘルニアの TLESR頻度に及ぼす影響は明らかではないが,ヘルニアの存在は食道内の酸排出遅延を起こし,また低 LES圧による酸の GERを増加させる.

文献

1) Emerenziani S, Habib FI, Ribolsi M, et al. Effect of hiatal hernia on proximal oesophageal acid clearance ingastro-oesophageal reflux disease patients. Aliment Pharmacol Ther 2006; 23: 751-757(ケースシリーズ)

2) Mittal RK, Lange RC, McCallum RW. Identification and mechanism of delayed esophageal acid clearancein subjects with hiatus hernia. Gastroenterology 1987; 92: 130-135(ケースシリーズ)

3) Sloan S, Kahrilas PJ. Impairment of esophageal emptying with hiatal hernia. Gastroenterology 1991; 100:596-605(ケースシリーズ)

4) van Herwaarden MA, SamsomM, Smout AJ. Excess gastroesophageal reflux in patients with hiatus herniais caused by mechanisms other than transient LES relaxations. Gastroenterology 2000; 119: 1439-1446

(ケースシリーズ)5) Kahrilas PJ, Shi G, Manka M, et al. Increased frequency of transient lower esophageal sphincter relaxation

induced by gastric distention in reflux patients with hiatal hernia. Gastroenterology 2000; 118: 688-695(ケースシリーズ)

Clinical Question 2-22.病態 ― ❶GERD の病態

食道裂孔ヘルニアは食道の胃酸曝露の原因になるか?

CQ 2-2 食道裂孔ヘルニアは食道の胃酸曝露の原因になるか?

ステートメント

● 食道裂孔ヘルニアの存在は,下部食道括約筋(LES)圧低値による酸逆流の増加および食道内の酸排出遅延をきたし,食道内の酸曝露時間を延長させる.

— 16 —

解説

食道内の酸排出は 2つのステップにより行われる.嚥下による蠕動波により,胃酸(液体)の大部分は 1〜2回の嚥下により胃内に排出されるが,少量の残存した胃酸は嚥下した唾液により中和され酸排出は完了する 1).逆流した胃酸排出のメカニズムをみると一次蠕動波の出現が重要である 2).内圧検査と食道造

影を同時に行った検討では,正常な蠕動波が出現した場合には 1回の蠕動波でバリウムは排出される.収縮圧からみると,下部食道において 31〜45mmHgの収縮圧が存在した場合にはバリウムはほぼ排出されることが多いが,収縮圧が 30mmHg未満である場合には 60%に逆行性のバリウムの移動が観察され,20mmHg未満ではこの現象はより頻回になる 3).

びらん性 GERD患者での蠕動障害合併の頻度は軽症で 25%,重症で 48%と報告され,重症例で蠕動障害の合併が多くなる 4).一次蠕動波の蠕動性,収縮圧でみると,蠕動性は重症びらん性 GERD患者で高頻度に障害され,収縮圧は重症例になるに従い低下する 5).

文献

1) Helm JF, Dodds WJ, Pelc LR, et al. Effect of esophageal emptying and saliva on clearance of acid from theesophagus. N Engl J Med 1984; 310: 284-288(横断)

2) Allen ML, Castell JA, DiMarino AJ Jr. Mechanisms of gastroesophageal acid reflux and esophageal acidclearance in heartburn patients. Am J Gastroenterol 1996; 91: 1739-1744(横断)

3) Kahrilas PJ, Dodds WJ, Hogan WJ. Effect of peristaltic dysfunction on esophageal volume clearance. Gas-troenterology 1988; 94: 73-80(横断)

4) Kahrilas PJ, Dodds WJ, Hogan WJ, et al. Esophageal peristaltic dysfunction in peptic esophagitis. Gas-troenterology 1986; 91: 897-904(ケースシリーズ)

5) Sugiura T, Iwakiri K, Kotoyori M, et al. Relationship between severity of reflux esophagitis according tothe Los Angeles classification and esophageal motility. J Gastroenterol 2001; 36: 226-230(ケースシリーズ)

Clinical Question 2-32.病態 ― ❶GERD の病態

食道運動障害は食道の胃酸曝露の原因になるか?

CQ 2-3 食道運動障害は食道の胃酸曝露の原因になるか?

ステートメント

● 一次蠕動波が食道内酸排出の重要な因子であることから,その障害は食道内の胃酸曝露の原因となる.

— 17 —

解説

健常者においてもびらん性 GERD患者においても,日中,夜間の胃酸の GERの主なメカニズムは一過性 LES弛緩(TLESR)(嚥下とは関係ない突然の LES弛緩)1〜5)であるが,一過性 LES

弛緩の頻度には健常者とびらん性 GERD患者間に違いはみられない 1〜3, 6, 7).びらん性 GERDの軽症例においても重症例においても,多くの胃酸の GERは TLESR時にみられるが,重症患者などで元々の LES圧が低値の患者では TLESR時以外にも胃酸の GERが生じる 4, 6).

文献

1) Mittal RK, McCallum RW. Characteristics and frequency of transient relaxations of the lower esophagealsphincter in patients with reflux esophagitis. Gastroenterology 1988; 95: 593-599(ケースシリーズ)

2) Iwakiri K, Hayashi Y, Kotoyori M, et al. Transient lower esophageal sphincter relaxations (TLESRs) are themajor mechanism of gastroesophageal reflux but are not the cause of reflux disease. Dig Dis Sci 2005; 50:1072-1077(ケースシリーズ)

3) Hayashi Y, Iwakiri K, Kotoyori M, et al. Mechanisms of acid gastroesophageal reflux in the Japanese pop-ulation. Dig Dis Sci 2008; 53: 1-6(ケースシリーズ)

4) Dent J, Holloway RH, Toouli J, et al. Mechanisms of lower oesophageal sphincter incompetence in patientswith symptomatic gastrooesophageal reflux. Gut 1988; 29: 1020-1028(ケースシリーズ)

5) Kuribayashi S, Kusano M, Kawamura O, et al. Mechanism of gastroesophageal reflux in patients withobstructive sleep apnea syndrome. Neurogastroenterol Motil 2010; 22: 611-617, e172(ケースシリーズ)

6) Iwakiri K, Kawami N, Sano H, et al. Mechanisms of excessive esophageal acid exposure in patients withreflux esophagitis. Dig Dis Sci 2009; 54: 1686-1692(ケースシリーズ)

7) Trudgill NJ, Riley SA. Transient lower esophageal sphincter relaxations are no more frequent in patientswith gastroesophageal reflux disease than in asymptomatic volunteers. Am J Gastroenterol 2001; 96: 2569-2574(ケースシリーズ)

Clinical Question 2-42.病態 ― ❶GERD の病態

胃酸の GER のメカニズムは?

CQ 2-4 胃酸の GER のメカニズムは?

ステートメント

● 胃酸の GER のメカニズムには,一過性下部食道括約筋(LES)弛緩時に発生する胃酸の GERと LES の収縮圧が元来低値なときに発生する胃酸の GER が存在するが,日中,夜間とも健常者,びらん性 GERD 患者の主な胃酸の GER のメカニズムは,一過性 LES 弛緩(TLESR)である.

— 18 —

解説

食道インピーダンス・pHモニタリングが GER検出法として登場した.この方法により,酸と酸以外の GERを高い感度で検出することができるようになった.その後,食道インピーダンス・pHモニタリングを用いて酸以外の GERと GERDとの関係を明らかにすることを目的とした研究が多数報告された.食道インピーダンス・pHモニタリングを用いてこの関係について研究した報告の結果を表1にまとめた 1〜6).食道症状には酸の GERが重要であるも,酸以外のGERも関与しており,食道外症状には酸以外の咽頭逆流の関与が強く示されていた.酸分泌を抑制した状態でこの関係について研究した報告もある.Velaら 7)は 12 人の GERD

患者を対象に PPIの 1週間内服前と後で 2時間の食道インピーダンス・pHモニタリングを行った.PPI内服前後で GER回数に差はみられず,内服前と後で全逆流に占める酸の GERの割合は有意に減少し,酸以外の GERの割合は 55%から 97%に増加した(p=0.03).PPI治療中の患者には主として酸以外の GERが存在していることがわかる.Mainieら 8)は十分量の PPI投与にもかかわらず胸やけなどの食道症状または食道外症状がある GERD患者 168 人に食道インピーダンス・pHモニタリングを行った.検査中に症状があったのは 144 人で,144 人中酸の GER

に対して SI(symptom index)脚注)陽性者は 16 人,酸以外の GERに対して SI陽性者は 53 人であった.PPI治療中でも酸または酸以外の GERが症状発現に関与しており,特に酸以外の GER

が重要であることが示された.Iwakiriら 9)は,十分量の PPI投与にもかかわらず胸やけがある非びらん性 GERD患者 13 人に食道インピーダンス・pHモニタリングを行ったところ,916 回の液体逆流があり,125 回が酸,791 回が酸以外の GERであったと報告し,Mainieらの報告と同様に酸以外の GERが症状の原因となることがあることを明らかにした.GERを抑えることにより症状が軽くなるまたは消失する場合,GERは症状発症の原因となっ

ていることを強く示唆する.Tutuianら 10)は,PPIを十分に投与しており,かつ,呼吸器疾患に起因しない慢性咳漱があり,かつ食道インピーダンス・pHモニタリングを行った患者をレトロスペクティブに調べた.その結果,咳症状に対して 50 人中 13 人が SI陽性であり,この 13 人の GERはすべて酸以外の GERであった.13 人中 6人にNissenの手術が行われており,手術後に症状は消失した.Velaら 11)は健常人と胸やけがある患者に対し LES弛緩抑制作用を有す

Clinical Question 2-52.病態 ― ❶GERD の病態

胃酸以外の GER は GERD の原因になるか?

CQ 2-5 胃酸以外の GER は GERD の原因になるか?

ステートメント

● 胃酸以外の GER も GERD の原因になる.

— 19 —

①GERD の病態

るバクロフェン内服後に検査食を負荷し食道インピーダンス・pHモニタリングを行った.バクロフェン内服により,酸および酸以外の GERの回数は両者とも有意に減少し,それに伴ってGER症状も両者とも有意に減少した.

表1 酸と酸以外のGERとGERDの関係を研究した報告報告者 対象者 酸と酸以外の

GER回数酸の

GER回数酸以外(弱酸,非酸)のGER回数

GERとGERDとの関係

食道症状

Savarino ら 1), 2008

非びらん性GERD:150人健常人:48人

非びらん性 GERD> 健 常 <0.05)

非びらん性 GERD> 健 常 <0.05)

非びらん性 GERD≒健常人

酸以外のGERに対する SAP 脚注)陽性者 33/150(22%)酸 の GER に 対 する SAP 陽性者は,83/150(56%)

Gutschowら 2), 2008

非びらん性GERD:28人び ら ん 性 GERD:52人BE:12人

非びらん性 GERD≒びらん性 GERD≒ BE

非びらん性 GERD≒びらん性 GERD≒ BE

非びらん性 GERD≒びらん性 GERD≒ BE(臥位の場合)BE>びらん性 GERD> 非 び ら ん 性GERD( 0.05)

夜 間 の 酸 以 外 のGER が BE の病態に関係

Sifrim ら 3), 2001

び ら ん 性 GERD・BE:30人健常人:28人

び ら ん 性 GERD・BE≒健常人

び ら ん 性 GERD・BE >健常 <0.05)

び ら ん 性 GERD・BE≒健常人

びらん性 GERD では酸以外のGERより酸のGERが重要

Conchillo ら 4), 2008

非びらん性GERD:13人び ら ん 性 GERD:13人健常人:10人

非びらん性 GERD> 健 常 <0.001)びらん性 GERD >健常人( 0.02)非びらん性 GERD≒びらん性GERD(臥位の場合)びらん性 GERD >非びら ん 性=0.048)

非びらん性 GERD> 健 常 =0.001)びらん性 GERD >健常人( 0.03)非びらん性 GERD≒びらん性GERD

酸以外のGERは酸のGERより食道粘膜への障害は軽いびらん性 GERD 発症には臥位での酸のGERが重要

食道外症状

Patterson ら 5), 2009

喘息・慢性咳嗽:36人

(遠位食道逆流回数)SAP 陽性者≒SAP陰性者(咽頭逆流回数)SAP陽性者> SAP陰性者( 0.05)

咽頭逆流回数2回 咽頭逆流回数 142回

酸以外の咽頭への逆流が咳(食道外症状)発現に重要

Kawamuraら6), 2004

GERD:11人喉 頭 炎(GERD,BE の合併可):10人健常人:10人

(近位食道逆流)GERD ≒ 健 常 人,喉頭炎>健常<0.05)(遠位食道逆流)GERD ≒ 健 常 人,喉頭炎≒健常人

(近位食道逆流)GERD ≒ 健 常 人,喉頭炎>健常<0.05)(遠位食道逆流)GERD ≒ 健 常 人,喉頭炎≒健常人

( 喉 頭 弱 酸 気 体逆 流 ) 喉 頭 炎 >GERD(p< 0.05)喉頭炎>健常<0.05)( 喉 頭 非 酸 気 体逆 流 ) 喉 頭 炎 ≒GERD,喉頭炎≒健常人

咽頭への弱酸気体逆流が逆流誘発喉頭炎発症に関与している

≒:有意差なし,BE:Barrett’s esophagus,SAP:symptom association probability

SI(symptom index):全体の症状のうちで,症状に関連した逆流の割合を示す.SI=(症状に関連した逆流回数/総症状回数)×100(%).50%以上を陽性とする.

SAP(symptom association probability):症状と逆流の関連性についての確率を示す.測定時間を 2分間隔に分け,症状と逆流の有無により 4分割表を作成し,Fisherの直接法により p 値を算出する.SAP=(1−p)×100(%).95%以上を陽性とする.

— 20 —

2.病態

文献

1) Savarino E, Zentilin P, Tutuian R, et al. The role of nonacid reflux in NERD: lessons learned from imped-ance-pH monitoring in 150 patients off therapy. Am J Gastroenterol 2008; 103: 2685-2693(ケースコントロール)

2) Gutschow CA, Bludau M, Vallböhmer D, et al. NERD, GERD, and Barrett’s esophagus: role of acid andnon-acid reflux revisited with combined pH-impedance monitoring. Dig Dis Sci 2008; 53: 3076-3081(ケースシリーズ)

3) Sifrim D, Holloway R, Silny J, et al. Acid, nonacid, and gas reflux in patients with gastroesophageal refluxdisease during ambulatory 24-hour pH-impedance recordings. Gastroenterology 2001; 120: 1588-1598

(ケースコントロール)4) Conchillo JM, Schwartz MP, Selimah M, et al. Acid and non-acid reflux patterns in patients with erosive

esophagitis and non-erosive reflux disease (NERD): a study using intraluminal impedance monitoring.Dig Dis Sci 2008; 53: 1506-1512(ケースシリーズ)

5) Patterson N, Mainie I, Rafferty G, et al. Nonacid reflux episodes reaching the pharynx are important fac-tors associated with cough. J Clin Gastroenterol 2009; 43: 414-419(横断)

6) Kawamura O, Aslam M, Rittmann T, et al. Physical and pH properties of gastroesophagopharyngealrefluxate: a 24-hour simultaneous ambulatory impedance and pH monitoring study. Am J Gastroenterol2004; 99: 1000-1010(ケースコントロール)

7) Vela MF, Camacho-Lobato L, Srinivasan R, et al. Simultaneous intraesophageal impedance and pH meas-urement of acid and nonacid gastroesophageal reflux: effect of omeprazole. Gastroenterology 2001; 120:1599-1606(ケースシリーズ)

8) Mainie I, Tutuian R, Shay S, et al. Acid and non-acid reflux in patients with persistent symptoms despiteacid suppressive therapy: a multicentre study using combined ambulatory impedance-pH monitoring.Gut 2006; 55: 1398-1402(ケースシリーズ)

9) Iwakiri K, Kawami N, Sano H, et al. Acid and non-acid reflux in Japanese patients with non-erosive refluxdisease with persistent reflux symptoms, despite taking a double-dose of proton pump inhibitor: a studyusing combined pH-impedance monitoring. J Gastroenterol 2009; 44: 708-712(ケースシリーズ)

10) Tutuian R, Mainie I, Agrawal A, et al. Nonacid reflux in patients with chronic cough on acid-suppressivetherapy. Chest 2006; 130: 386-391(ケースシリーズ)

11) Vela MF, Tutuian R, Katz PO, et al. Baclofen decreases acid and non-acid post-prandial gastro-oesophageal reflux measured by combined multichannel intraluminal impedance and pH. Aliment Phar-macol Ther 2003; 17: 243-251(ランダム)

— 21 —

解説

非びらん性 GERDはびらん性 GERDと比較して,臨床像が異なることが知られており,女性が多く,ヘルニアの合併が少なく,体重が軽いという特徴がある 1).シンガポールで行われたアジア多民族国家の解析では,びらん性 GERDは非びらん性 GERDと比べ,高齢,男性,喫煙,精神疾患が少ない,PPIによく反応するという特徴を有し,人種,アルコール,H. pylori は差を認めなかったという 2).食道外症状から非びらん性 GERDとびらん性 GERDの区別を試みた研究では,二者を十分鑑別できなかった 3).日本で非びらん性 GERDでの GER,食道運動について調べた研究では,非びらん性 GERD

はコントロールと比較して,二次蠕動波の誘発は有意に低率であり,食道が長時間酸に曝露され,近位食道に逆流が及ぶことで症状が出現すると報告されている 4).また,PPI抵抗性非びらん性 GERDでは,非酸の GERが症状に強く関連していること 5),さらに,逆流の多くは弱酸の GER

であり,それの近位食道への逆流の拡がりが逆流症状と関連していることが示されている 6).検索された文献で非びらん性 GERDとびらん性 GERDとで比較した記載のあるものを表1にまとめた 7〜13).非びらん性 GERDはびらん性 GERDの軽症型であるかのような報告がある一方,酸以外の GERが症状発現に関与していることがわかる.

食道知覚に関する研究では,非びらん性 GERDでは食道に酸を注入すると,びらん性 GERD

例より症状を強く訴え 14),さらにこの現象は非びらん性 GERDへの生理食塩水注入でも観察された 15, 16).また,非びらん性 GERDでは近位食道への酸注入に対して敏感であった 17).非びらん性 GERD では,物理刺激,化学刺激などで活性化される TRPV(transient receptor potential

vanilloid)1発現が増加していることが指摘されている 18, 19).また,電子顕微鏡で形態を調べた報告では,細胞間隙の拡大がみられている 20, 21).びらん性 GERDと非びらん性 GERDの治療効果を直接比較した日本からの報告では,4週間ラベプラゾール 10mg投与での症状消失例は非びらん性 GERD 例 35.8%,びらん性 GERD 例 55.4%と非びらん性 GERD 例での効果は有意に低かった 22).これらの点から,非びらん性 GERDとびらん性 GERDでは GERにかかわる病態の一部は,

共通の病態の重症度の差として捉えることが可能性であるものの,「非びらん性 GERDはびらん

Clinical Question 2-62.病態 ― ❶GERD の病態

非びらん性 GERD の病態は,びらん性 GERD の病態と同じか?

CQ 2-6 非びらん性 GERD の病態は,びらん性 GERD の病態と同じか?

ステートメント

● 非びらん性 GERD の病態は,びらん性 GERD のそれとは必ずしも同じではない.

— 22 —

2.病態

性 GERDの軽症型」では説明できないエビデンスも数多く示されており,病態は同じとはいえない.食道インピーダンス・pHモニタリングなどは研究目的で行われており,一般に行われていな

い.すなわち,実地臨床で逆流症状と内視鏡所見から非びらん性 GERDと診断されるものは,①びらん性 GERDと同じように異常な酸曝露によるもの,②異常な酸曝露を認めないが,食道の感受性が亢進しており,少量の酸の GERないしは,非酸の GERによっても症状が出現しているもの,③機能性胸やけと称されるような GERとは無関係に症状が出現しているものなどが

表1 非びらん性GERDとびらん性GERDの逆流・運動を比較した報告

報告 対象 方法非びらん性GERDとびらん性GERDで差違の

ある主な項目

非びらん性GERDとびらん性GERDで差違の

ない主な項目Conchillo ら 7),2008

びらん性GERD 13 例非びらん性GERD 13 例コントロール10例

食道インピーダンス・pH モニタリング

びらん性GERD では臥位での酸逆流が有意に多く,液体逆流も多い.

病的逆流のある患者割合,酸逆流,非酸逆流,LES圧,蠕動波,distal amplitudeには差がない.

Emerenziani ら 8),2008

びらん性GERD 20 例非びらん性GERD 32 例コントロール10例

食道インピーダンス・pH モニタリング

pH- 非びらん性 GERD では弱酸逆流,混合逆流の知覚頻度がびらん性 GERDより有意に多く,多変量解析では混合逆流が有意に多い.

酸逆流,液体逆流の知覚頻度は差がない.

Hakら 9),2008 びらん性GERD 71 例非びらん性GERD 11 例Barrett 9 例

pHモニタリング,ビリルビンモニタリング

ビリルビン逆流時間はびらん性GERDで有意に多い.混合逆流,十二指腸逆流はびらん性GERDで多い.

Foroutan ら 10),2008

びらん性GERD 31 例非びらん性GERD 46 例

マ ノ メ ト リ ー,pHモニタリング

I E M( i n e ff e c t i v e esophageal motility)の頻度,低 LES 圧の頻度,異常酸逆流の頻度には差がない.

Martínek ら 11),2008

びらん性GERD 110例(軽症中等症77例,重症33例)非びらん性GERD 111例コントロール92例

マ ノ メ ト リ ー,pHモニタリング -

酸逆流量,LES 基礎圧,LES 圧の低い割合,食道裂孔ヘルニアの割合には差がない.

Bredenoord ら 12),2009

びらん性 GERD(ロサンゼルス分類で A:10 例,B:10例,C/D:10例)非びらん性GERD 10 例short Barrett 10 例

食道インピーダンス・pH モニタリング

非びらん性 GERD は,びらん性GERD(B,C/D),Barrett と比較して,総逆流回数,酸逆流回数,液体逆流回数が少なかった.また,びらん性 GERD(C/D)と比較して混合逆流回数が有意に少なく,酸クリアランス時間,bolus clearance time は短かった.

弱酸逆流回数,近位食道での逆流には差がない.

Savarino ら 13),2010

びらん性GERD 58 例非びらん性GERD 168例コントロール48例

食道インピーダンス・pH モニタリング

酸曝露時間,近位食道への酸逆流はびらん性 GERDに有意に多い.

コントロールに比べて非びらん性 GERD,びらん性GERD は有意に酸逆流回数が多い.非酸逆流は非びらん性 GERD,びらん性GERD,コントロールで差がない.SAP(sympton association probability)は非びらん性GERD とびらん性GERDで差がない.

— 23 —

①GERD の病態

混在していると考えられている(Ann Gastroenterol 2013; 26: 283-289 a)[検索期間外文献]).

文献

1) Fass R. Erosive esophagitis and nonerosive reflux disease (NERD): comparison of epidemiologic, physio-logic, and therapeutic characteristics. J Clin Gastroenterol 2007; 41: 131-137

2) Ang TL, Fock KM, Ng TM, et al. A comparison of the clinical, demographic and psychiatric profilesamong patients with erosive and non-erosive reflux disease in a multi-ethnic Asian country. World J Gas-troenterol 2005; 11: 3558-3561(横断)

3) Zimmerman J, Hershcovici T. Non-esophageal symptoms cannot differentiate between erosive refluxesophagitis and non-erosive reflux disease in a referred population. Scand J Gastroenterol 2011; 46: 797-802(ケースコントロール)

4) Iwakiri K, Hayashi Y, Kotoyori M, et al. Defective triggering of secondary peristalsis in patients with non-erosive reflux disease. J Gastroenterol Hepatol 2007; 22: 2208-2211(ケースシリーズ)

5) Iwakiri K, Kawami N, Sano H, et al. Acid and non-acid reflux in Japanese patients with non-erosive refluxdisease with persistent reflux symptoms, despite taking a double-dose of proton pump inhibitor: a studyusing combined pH-impedance monitoring. J Gastroenterol 2009; 44: 708-712(ケースシリーズ)

6) Iwakiri K, Sano H, Tanaka Y, et al. Characteristics of symptomatic reflux episodes in patients with non-erosive reflux disease who have a positive symptom index on proton pump inhibitor therapy. Digestion2010; 82: 156-161(ケースシリーズ)

7) Conchillo JM, Schwartz MP, Selimah M, et al. Acid and non-acid reflux patterns in patients with erosiveesophagitis and non-erosive reflux disease (NERD): a study using intraluminal impedance monitoring.Dig Dis Sci 2008; 53: 1506-1512(ケースシリーズ)

8) Emerenziani S, Sifrim D, Habib FI, et al. Presence of gas in the refluxate enhances reflux perception in non-erosive patients with physiological acid exposure of the oesophagus. Gut 2008; 57: 443-447(ケースシリーズ)

9) Hak NG, Mostafa M, Salah T, et al. Acid and bile reflux in erosive reflux disease, non-erosive reflux dis-ease and Barrett’s esophagus. Hepatogastroenterology 2008; 55: 442-447(ケースシリーズ)

10) Foroutan M, Doust HM, Jodeiri B, et al. Relevance of ineffective esophageal motility with erosive andnonerosive gastroesophageal reflux disease. Indian J Gastroenterol 2008; 27: 58-61(ケースシリーズ)

11) Martínek J, Benes M, Hucl T, et al. Non-erosive and erosive gastroesophageal reflux diseases: no differencewith regard to reflux pattern and motility abnormalities. Scand J Gastroenterol 2008; 43: 794-800(ケースシリーズ)

12) Bredenoord AJ, Hemmink GJ, Smout AJ. Relationship between gastro-oesophageal reflux pattern andseverity of mucosal damage. Neurogastroenterol Motil 2009; 21: 807-812(ケースシリーズ)

13) Savarino E, Tutuian R, Zentilin P, et al. Characteristics of reflux episodes and symptom association inpatients with erosive esophagitis and nonerosive reflux disease: study using combined impedance-pH offtherapy. Am J Gastroenterol 2010; 105: 1053-1061(ケースシリーズ)

14) Miwa H, Minoo T, Hojo M, et al. Oesophageal hypersensitivity in Japanese patients with non-erosive gas-tro-oesophageal reflux diseases. Aliment Pharmacol Ther 2004; 20 (Suppl 1): 112-117(ケースシリーズ)

15) Nagahara A, Miwa H, Minoo T, et al. Increased esophageal sensitivity to acid and saline in patients withnonerosive gastro-esophageal reflux disease. J Clin Gastroenterol 2006; 40: 891-895(ケースシリーズ)

16) Hartono JL, Qua CS, Goh KL. Non-erosive reflux disease (NERD), symptomatic and asymptomatic erosivereflux disease (ERD): from hypersensitive to hyposensitive esophagus. Dig Dis Sci 2011; 56: 90-96(ケースシリーズ)

17) Thoua NM, Khoo D, Kalantzis C, et al. Acid-related oesophageal sensitivity, not dysmotility, differentiatessubgroups of patients with non-erosive reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2008; 27: 396-403(ケースシリーズ)

18) Bhat YM, Bielefeldt K. Capsaicin receptor (TRPV1) and non-erosive reflux disease. Eur J GastroenterolHepatol 2006; 18: 263-270(ケースシリーズ)

19) Guarino MP, Cheng L, Ma J, et al. Increased TRPV1 gene expression in esophageal mucosa of patientswith non-erosive and erosive reflux disease. Neurogastroenterol Motil 2010; 22: 746-751, e219(ケースシリーズ)

— 24 —

2.病態

20) Caviglia R, Ribolsi M, Maggiano N, et al. Dilated intercellular spaces of esophageal epithelium in nonero-sive reflux disease patients with physiological esophageal acid exposure. Am J Gastroenterol 2005; 100:543-548(ケースシリーズ)

21) Caviglia R, Ribolsi M, Gentile M, et al. Dilated intercellular spaces and acid reflux at the distal and proxi-mal oesophagus in patients with non-erosive gastro-oesophageal reflux disease. Aliment Pharmacol Ther2007; 25: 629-636(ケースシリーズ)

22) Miwa H, Sasaki M, Furuta T, et al; ACID-RELATED SYMPTOM (ARS) RESEARCH GROUP. Efficacy ofrabeprazole on heartburn symptom resolution in patients with non-erosive and erosive gastro-oesophageal reflux disease: a multicenter study from Japan. Aliment Pharmacol Ther 2007; 26: 69-77(ケースコントロール)

【検索期間外文献】a) Giacchino M, Savarino V, Savarino E. Distinction between patients with non-erosive reflux disease and

functional heartburn. Ann Gastroenterol 2013; 26: 283-289

— 25 —

解説

H. pylori 感染と GERDの有病率に関しては,2003 年にシステマティックレビュー 1)とメタアナリシス 2)が発表されている.前者は H. pylori の陽性率は GERD例で 38.2%(20.0〜82.0%),対照群で 49.5%(29.0〜75.6%)であった.GERD例での H. pylori 陽性のオッズ比(OR)は 0.58(95%CI 0.51〜0.66)であった.地域別にみると,西ヨーロッパでは OR 0.76(95%CI 0.61〜0.96)であり,heterogeneityのある研究を除くと OR 0.97(95%CI 0.75〜1.27)で,有意差はなかった.北米では OR 0.70(95%CI 0.55〜0.9),極東では OR 0.24(95%CI 0.19〜0.32)と有意差を認めた.後者はケースコントロールスタディのメタアナリシスであり,GERD例での H. pylori 陰性の OR

は 1.34(95%CI 1.15〜1.55)であったが,有意差のない(95%CIが 1をまたぐ)論文も多かった.対照群に食道腺癌を含むもの,heterogeneityが最大のものを除くと OR 1.44(1.23〜1.68)であった.アジアからの報告を除くと ORは 1.19(1.02〜1.38)と弱くなった.これらの報告からは,GERDと H. pylori の有病率は逆相関することがわかるが,アジアでより逆相関性が高いという地域差もみられることが明らかとなった.これはアジアでは H. pylori 感染は cagA,vacAに代表される菌株ならびに宿主の炎症反応の違いから萎縮をきたしやすく低酸となり,びらん性 GERD

に対して保護的に働いているからと考えられている 3).改訂版で検索された文献から H. pylori 感染とびらん性 GERDとの関連について抽出したもの

を表1に示す 4〜15).日本を含むアジアでの報告が多く,ORはおおむね 0.4〜0.6 前後である.いくつかの報告は ORが 1をまたぎ有意差がみられないが,対象の違い,地域の違いのみならず,GERDの有病率や H. pylori 感染率が著しく低い(あるいは高い)ことが結果に影響を及ぼしていると考えられる.

経時的にみた報告では,日本で 1988 年と 2005 年の内視鏡所見を調べた報告では,17 年間でH. pylori 感染率は 70.5%(推計)から 52.7%に低下し,年齢調整を行ったびらん性 GERDの頻度は男性 6.6 倍,女性 2.7 倍,全体 4.8 倍に上昇した 16).また,マレーシアからの報告をみると,10 年間の経過でびらん性 GERDの頻度は H. pylori 陰性例で 2.9%から 8.6%に増加するとともに,H. pylori 陽性例でも 1.2%から 8.2%に増加していると算出された 17).これらの結果から,H.

pylori 感染以外の因子がびらん性 GERDの増加に関与していることは明白である.

Clinical Question 2-72.病態 ― ❷世界との比較

H. pylori 感染で GERD 有病率は低下するか?

CQ 2-7 H. pylori 感染で GERD 有病率は低下するか?

ステートメント

● H. pylori 感染例で GERD 有病率は低い.

— 26 —

2.病態

文献

1) Raghunath A, Hungin AP, Wooff D, et al. Prevalence of Helicobacter pylori in patients with gastro-oesophageal reflux disease: systematic review. BMJ 2003; 326: 737(メタ)

2) Cremonini F, Di Caro S, Delgado-Aros S, et al. Meta-analysis: the relationship between Helicobacter pyloriinfection and gastro-oesophageal reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2003; 18: 279-289(メタ)

3) Wu JC. Does Helicobacter pylori infection protect against esophageal diseases in Asia? Indian J Gastroen-terol 2011; 30: 149-153

4) Anderson LA, Murphy SJ, Johnston BT, et al. Relationship between Helicobacter pylori infection and gastricatrophy and the stages of the oesophageal inflammation, metaplasia, adenocarcinoma sequence: resultsfrom the FINBAR case-control study. Gut 2008; 57: 734-739(ケースコントロール)

5) Somi MH, Fattahi E, Fouladi RF, et al. An inverse relation between CagA+ strains of Helicobacter pyloriinfection and risk of erosive GERD. Saudi Med J 2008; 29: 393-396(ケースコントロール)

6) Kim N, Lee SW, Cho SI, et al; H. pylori and Gerd Study Group of Korean College of Helicobacter andUpper Gastrointestinal Research. The prevalence of and risk factors for erosive oesophagitis and non-ero-sive reflux disease: a nationwide multicentre prospective study in Korea. Aliment Pharmacol Ther 2008;27: 173-185(横断)

7) Song HJ, Shim KN, Yoon SJ, et al. The prevalence and clinical characteristics of reflux esophagitis in Kore-ans and its possible relation to metabolic syndrome. J Korean Med Sci 2009; 24: 197-202(横断)

表 感染とびらん性GERDの関連

報告者 国 報告年 研究デザイン 対象 症例数 オッズ比

(95% CI) 感染率びらん性GERD有病率

Anderson 4) アイルランド 2008 ケースコン

トロール 多施設ケース230例コントロール260例 #

0.42(0.27~0.65)

ケース 42.4%コントロール62.1%

Somi 5)イラン 2008 ケースコン

トロール 一般病院ケース92例,コントロール93例

0.65(0.29~1.50)

ケース 81.5%コントロール87.1%

Kim 6) 韓国 2008 横断 多施設検診 25,536 例 0.47(0.39~0.58) 59.2% 8.2%

Song 7) 韓国 2009 横断 大学病院 2,972例 # 0.63(0.33~1.18)$ 3.9% 13.9%

Peng 8) 中国 2009 横断 大学病院 2,580例 0.92(0.60~1.42)$ 28.0% 4.3%

Kawai 9) 日本 2010 横断 検診 418例 0.47(0.24~0.93) 33.7% 19.6%

Nam 10) 韓国 2010 コホート 多施設プログラム 10,102 例 0.42

(0.34~0.51) 50.8% 4.9%

Nguyen 11) べトナム 2010 横断 一般病院 270例 0.41(0.11~1.55)$ 65.6% 3.3%

Scarpa 12) イタリア 2011 横断 大学病院 638例 0.72(0.37~1.42)$ 20.8% 10.5%

Gunji 13) 日本 2011 横断 男性の検診 9,840例 0.35(0.30~0.40) 29.7% 18.6%

Chiba 14) 日本 2012 横断 40歳以下の検診 4,990例 0.58

(0.44~0.76) 14.6% 14.1%

Wang 15) 台湾 2012 横断 検診 逆流症状なし594例

0.57(0.34~0.95) 38.9% 14.5%

# 感染とびらん性GERD有病率にかかわる症例数$:論文のデータよりオッズ比を算出した

— 27 —

②世界との比較

8) Peng S, Cui Y, Xiao YL, et al. Prevalence of erosive esophagitis and Barrett’s esophagus in the adult Chi-nese population. Endoscopy 2009; 41: 1011-1017(横断)

9) Kawai T, Yamamoto K, Fukuzawa M, et al. Helicobacter pylori infection and reflux esophagitis in youngand middle-aged Japanese subjects. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25 (Suppl 1): S80-S85(横断)

10) Nam SY, Choi IJ, Ryu KH, et al. Effect of Helicobacter pylori infection and its eradication on reflux esophagi-tis and reflux symptoms. Am J Gastroenterol 2010; 105: 2153-2162(コホート)

11) Nguyen TL, Uchida T, Tsukamoto Y, et al. Helicobacter pylori infection and gastroduodenal diseases inVietnam: a cross-sectional, hospital-based study. BMC Gastroenterol 2010; 10: 114(横断)

12) Scarpa M, Angriman I, Prando D, et al. Helicobacter pylori and gastroesophageal reflux disease: a cross sec-tional study. Hepatogastroenterology 2011; 58: 69-75(横断)

13) Gunji T, Sato H, Iijima K, et al. Risk factors for erosive esophagitis: a cross-sectional study of a large num-ber of Japanese males. J Gastroenterol 2011; 46: 448-455(横断)

14) Chiba H, Gunji T, Sato H, et al. A cross-sectional study on the risk factors for erosive esophagitis in youngadults. Intern Med 2012; 51: 1293-1299(横断)

15) Wang PC, Hsu CS, Tseng TC, et al. Male sex, hiatus hernia, and Helicobacter pylori infection associated withasymptomatic erosive esophagitis. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 586-591(横断)

16) Nakajima S, Nishiyama Y, Yamaoka M, et al. Changes in the prevalence of Helicobacter pylori infection andgastrointestinal diseases in the past 17 years. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25 (Suppl 1): S99-S110(横断)

17) Goh KL, Wong HT, Lim CH, et al. Time trends in peptic ulcer, erosive reflux oesophagitis, gastric andoesophageal cancers in a multiracial Asian population. Aliment Pharmacol Ther 2009; 29: 774-780(横断)

— 28 —

解説

定期的な運動習慣があり,GER症状のない 14 人の健常人に対して,ランニングを 1時間負荷して検討した研究では,運動負荷により安静時と比較して有意に酸曝露時間が延長した.症状のない健常人を対象とした研究であったが,安静時と比較して運動時に有意に症状は増加した.主な症状はげっぷで,時々逆流感や腹満感が生じた 1).Petersら 2)は,運動中に GER症状がある 14 人の運動選手に対して,ランニング(トレッドミ

ルを使用)を負荷して検討した.運動により酸の GER回数は有意に増加し,pH 4 未満の%時間でみた酸曝露時間も有意に増加した.ランニング中に 10 人にげっぷの自覚があり,胸やけなどの GER症状は 4人にみられた.Clarkら 3)は,GER症状のない 12 人の健常人に対して,運動の種類によって酸の GERが変

化するかどうかの検討を行った.少し身体を動かす程度の有酸素運動であるサイクリング,身体の激しい動きを伴う有酸素運動であるランニング,そして無酸素運動である筋力トレーニングを行った.ランニング運動のときが最も酸曝露時間が長く,次に長いのは筋力トレーニングのときであった.少し体を動かす程度の運動より体の激しい動きを伴う運動のほうが酸の GER

を誘発しやすいことが示された.Collingsら 4)は,運動中に GER症状がある 29 人の運動選手を対象に,運動の種類(サイクリング,ランニング,重量挙げ)による酸の GERの変化を調べた.サイクリング時の酸曝露時間が最も短く,重量挙げ時の曝露時間が最も長かった.Sofferら 5, 6)

も,運動の強度によって酸の GERの程度に差があるかどうかを,食事と水分摂取の影響を除いた状態で,運動選手と運動選手でない人それぞれで調べた.運動選手であるなしにかかわらず,90%最大酸素摂取量(VO2max)の激しい運動時に,酸の GER回数は最大となり,酸曝露時間も最長となった.

前述の研究は健常人を対象としたものであった.Pandolfinoら 7)は,非びらん性 GERD患者と健常人を対象として,運動日と非運動日で酸の GER時間を比較する研究を行った.その結果,激しい運動や筋力トレーニングは,GERD患者と健常人の両対象者の酸の GERを増加させることが明らかとなった.ヘルニアの存在とその程度が運動時の酸の GER増加の程度と相関していたことよりヘルニアが運動時の酸の GERに関与する可能性が示された.

Clinical Question 2-82.病態 ― ❸胃食道逆流(GER)の要因

激しい肉体運動は GERD の誘発因子になるか?

CQ 2-8 激しい肉体運動は GERD の誘発因子になるか?

ステートメント

● 激しい肉体運動は GER を増加させるが,GERD を誘発させるかどうかは不明である.

— 29 —

③胃食道逆流(GER)の要因

以上より,激しい運動(通常 VO2maxや最大心拍数をもたらす動きに近い運動を指す)は酸のGERを増加させる.筋力トレーニングでも酸の GERがしばしば生じる.一方,適度な運動では酸の GERの誘発は少なく,週 1回以上の適度な運動(30 分以上のジョ

ギングやクロスカントリースキーなど)は GERDの発症リスクを下げるという報告もある 8).したがって,適度な運動は GERDの誘発因子にはならない.

文献

1) Kraus BB, Sinclair JW, Castell DO. Gastroesophageal reflux in runners: characteristics and treatment. AnnIntern Med 1990; 112: 429-433(ランダム)

2) Peters HP, De Kort AF, Van Krevelen H, et al. The effect of omeprazole on gastro-oesophageal reflux andsymptoms during strenuous exercise. Aliment Pharmacol Ther 1999; 13: 1015-1022(ランダム)

3) Clark CS, Kraus BB, Sinclair J, et al. Gastroesophageal reflux induced by exercise in healthy volunteers.JAMA 1989; 261: 3599-3601(ケースシリーズ)

4) Collings KL, Pierce Pratt F, Rodriguez-Stanley S, et al. Esophageal reflux in conditioned runners, cyclists,and weightlifters. Med Sci Sports Exerc 2003; 35: 730-735(ケースシリーズ)

5) Soffer EE, Merchant RK, Duethman G, et al. Effect of graded exercise on esophageal motility and gastroe-sophageal reflux in trained athletes. Dig Dis Sci 1993; 38: 220-224(ケースシリーズ)

6) Soffer EE, Wilson J, Duethman G, et al. Effect of graded exercise on esophageal motility and gastroe-sophageal reflux in nontrained subjects. Dig Dis Sci 1994; 39: 193-198(ケースシリーズ)

7) Pandolfino JE, Bianchi LK, Lee TJ, et al. Esophagogastric junction morphology predicts susceptibility toexercise-induced reflux. Am J Gastroenterol 2004; 99: 1430-1436(ケースコントロール)

8) Nilsson M, Johnsen R, Ye W, et al. Lifestyle related risk factors in the aetiology of gastro-oesophagealreflux. Gut 2004; 53: 1730-1735(ケースコントロール)

3.診 断

— 32 —

解説

GERDの定型症状として胸やけと呑酸がある.ただし,胸やけという症状の理解は,民族,文化,性あるいは個人で差がある可能性がある.これまでに人種間で胸やけ症状に対する理解度が異なることが知られている.米国人の検討では,白人,黒人およびアジア人に分けて胸やけ症状の頻度とその言葉の意味を検討すると,黒人で最もその頻度は高く,アジア人での頻度および理解度は著しく低い 1).日本からの報告では,ある職域一般従業員を対象とした検討で胸やけは様々な症状として多様に理解されており 2),健常者と GERD患者,また医師と看護師で胸やけの理解が異なることが示されている 3).この他,上腹部症状の訴えは家族単位で特徴があり,これは症状の理解に家族を含めた生育環境や文化および遺伝子レベルでの個人の差が関連する可能性を示している 4).脳イメージングを用いた研究では,食道内酸注入による症状発現時に各個人あるいは健常者と GERD患者で脳内活性化領域やその程度に差があることが報告されており 5),症状の理解の差の原因は複雑である.したがって,胸やけ症状の把握は単なる症状の有無の聴取ではなく,具体的な表現を交えた注意深い問診が必要であろう 6).

文献

1) Spechler SJ, Jain SK, Tendler DA, et al. Racial differences in the frequency of symptoms and complicationsof gastro-oesophageal reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2002; 16: 1795-1800(横断)

2) 河村 朗,野中 洋,八坂成暁,ほか.「むねやけ」についての検討.消化器の臨床 2003; 6: 231-2343) Manabe N, Haruma K, Hata J, et al. Differences in recognition of heartburn symptoms between Japanese

patients with gastroesophageal reflux, physicians, nurses, and healthy lay subjects. Scand J Gastroenterol2008; 43: 398-402(横断)

4) Murray LJ, McCarron P, McCorry RB, et al. Prevalence of epigastric pain, heartburn and acid regurgitationin adolescents and their parents: evidence for intergenerational association. Eur J Gastroenterol Hepatol2007; 19: 297-303(横断)

5) Kern M, Hofmann C, Hyde J, et al. Characterization of the cerebral cortical representation of heartburn inGERD patients. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2004; 286: G174-G181(コホート)

6) 星原芳雄.GERDの基礎知識―GERDの定型的症状―「胸やけ」は正しく理解されているか?内科 2006;98: 598-601

Clinical Question 3-13.診断 ― ❶自覚症状の評価

胸やけ症状は患者に正しく理解されているか?

CQ 3-1 胸やけ症状は患者に正しく理解されているか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 胸やけ症状は患者に正しく理解されているとは限らない. なし C

— 33 —

解説

24 時間食道 pHモニタリングや 24 時間食道インピーダンス・pHモニタリングにより,食道内への酸あるいは酸以外の GER(pH 4 以上)によって胸やけや呑酸などの定型症状だけでなく,食道外症状が発生することが明らかとなっている.この食道外症状としては,慢性咳嗽,喘息などの呼吸器症状,咽喉頭違和感や咽頭痛などの耳鼻咽喉科症状および非心臓性胸痛(NCCP)などの循環器症状があげられる.GERによる慢性咳嗽は,①下部食道括約筋(LES)の一過性弛緩(TLESR)によって胃内容物が

食道内へ逆流し,食道下端に存在する迷走神経末端が刺激されることによる中枢反射によるもの,②逆流内容物が上部食道から咽喉頭まで到達することにより気道に誤嚥される直接刺激のよるものが主なメカニズムとして考えられている.中枢反射の存在を証明するデータとして,咳嗽のある GERD患者では,食道内酸注入を前

もって行うとカプサイシン刺激による咳感受性が咳嗽のない GERD患者に比べて有意に亢進したとの報告があげられる 1).また,原因不明の慢性咳嗽があり 24 時間食道 pHモニタリングで食道への逆流が証明されている者に食道内酸注入を行うと,健常者と比較して咳の回数と程度がともに増強した 2).

気道の直接刺激に関しては,GERD患者に対して肺機能検査と気管支内視鏡検査[気管支肺胞洗浄(BAL),気管支内 pH検査]を行い健常者と比較すると,BAL液中の LDH上昇,気管支内pH低下および拡散能低下を認めた 3).すなわち,逆流内容物が直接気道に誤嚥されることで咳嗽が発生しうることを示している.さらに,咳嗽を内圧検査で客観的に同定した報告では,咳嗽の誘因として酸や弱酸だけでなく弱アルカリの逆流も関与することが明らかとなっており 4),喘息や慢性咳嗽患者を対象とした検討では,非酸の咽頭への逆流が咳嗽出現の誘因になっている 5).同様に咽頭への弱酸気体逆流と嚥下に伴う酸・弱酸逆流が PPI治療反応性の慢性咳嗽患者の 90%(9/10)に認められ,慢性咳嗽の誘因となっていることが示されている 6).また,酸あるいは非酸にかかわらず GERが咳嗽の発生に直接関連している頻度としては,約 30%と報告されている 4, 7).

Clinical Question 3-23.診断 ― ❶自覚症状の評価

GER により GERD の定型的食道症状以外の症状(食道外症状)が出現することがあるか?

CQ 3-2 GER により GERD の定型的食道症状以外の症状(食道外症状)が出現することがあるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GER によって GERD の食道外症状が出現することがある. なし C

— 34 —

3.診断

約 10 万例のびらん性 GERDと食道狭窄患者の検討では,気管支喘息など呼吸器疾患の合併が有意に高いことが報告されている 8).また,喘息患者では GERのある患者とない患者にかかわらず,食道への酸注入が生食注入に比べて一秒量と最大呼気流量を有意に減少させた(BMC

PulmMed 2013; 13: 33 a)[検索期間外文献]).治療介入試験では,GERD治療がわずかではあるが肺機能や QOLの改善を認めるとの報告 9)がある一方で,喘息発作予防効果も肺機能改善効果も認めないとの報告 10)もみられ,更なる検討が必要である.咽喉頭炎においては,咽喉頭逆流と声帯浮腫などの組織学的な慢性喉頭炎所見と 24 時間食道

pHモニタリングによる酸の GERイベントが有意に相関し 11),GERが関連する喉頭炎患者では,喉頭への弱酸気体逆流が有意に多い 12).また,喉頭炎患者を対象に PPIを投与すると症状および喉頭炎所見が改善しているとの報告もあり 13),GERが咽喉頭炎,咽喉頭炎症状の一因となることが示唆されている.冠動脈造影検査で異常を認める患者および心筋梗塞後患者を対象として 24 時間食道 pHモニ

タリングと心電図検査を施行した検討では,胸痛の約半数は ST変化を伴わず,GERと一致していた 14).また,冠動脈造影では異常を認めない胸痛患者を対象にした検討では,48 時間食道pHモニタリングあるいは上部消化管内視鏡検査の一方でも逆流所見を呈するものを GERDとした場合,約 70%に GERDが合併していた 15).

文献

1) Javorkova N, Varechova S, Pecova R, et al. Acidification of the oesophagus acutely increases the coughsensitivity in patients with gastro-oesophageal reflux and chronic cough. Neurogastroenterol Motil 2008;20: 119-124(ランダム)

2) Ing AJ, Ngu MC, Breslin AB. Pathogenesis of chronic persistent cough associated with gastroesophagealreflux. Am J Respir Crit Care Med 1994; 149: 160-167(ランダム)

3) Mise K, Capkun V, Jurcev-Savicevic A, et al. The influence of gastroesophageal reflux in the lung: a case-control study. Respirology 2010; 15: 837-842(横断)

4) Sifrim D, Dupont L, Blondeau K, et al. Weakly acidic reflux in patients with chronic unexplained coughduring 24 hour pressure, pH, and impedance monitoring. Gut 2005; 54: 449-454(横断)

5) Patterson N, Mainie I, Rafferty G, et al. Nonacid reflux episodes reaching the pharynx are important fac-tors associated with cough. J Clin Gastroenterol 2009; 43: 414-419(横断)

6) Kawamura O, Shimoyama Y, Hosaka H, et al. Increase of weakly acidic gas esophagopharyngeal reflux(EPR) and swallowing-induced acidic/weakly acidic EPR in patients with chronic cough responding toproton pump inhibitors. Neurogastroenterol Motil 2011; 23: 411-418(横断)

7) Shaheen NJ, Crockett SD, Bright SD, et al. Randomised clinical trial: high-dose acid suppression for chron-ic cough: a double-blind, placebo-controlled study. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 225-234(横断)

8) El-Serag HB, Sonnenberg A. Comorbid occurrence of laryngeal or pulmonary disease with esophagitis inUnited States military veterans. Gastroenterology 1997; 113: 755-760(横断)

9) Kiljander TO, Junghard O, Beckman O, et al. Effect of esomeprazole 40 mg once or twice daily on asthma:a randomized, placebo-controlled study. Am J Respir Crit Care Med 2010; 181: 1042-1048(ランダム)

10) Castro M, Holbrook JT, Leone FT, et al. Efficacy of esomeprazole for treatment of poorly controlled asth-ma. N Engl J Med 2009; 360: 1487-1499(ランダム)

11) Kamargiannis N, Gouveris H, Katsinelos P, et al. Chronic pharyngitis is associated with severe acidiclaryngopharyngeal reflux in patients with Reinke’s edema. Ann Otol Rhinol Laryngol 2011; 120: 722-726

(横断)12) Kawamura O, Aslam M, Rittmann T, et al. Physical and pH properties of gastroesophagopharyngeal

refluxate: a 24-hour simultaneous ambulatory impedance and pH monitoring study. Am J Gastroenterol2004; 99: 1000-1010(横断)

— 35 —

①自覚症状の評価

13) Williams RB, Szczesniak MM, Maclean JC, et al. Predictors of outcome in an open label, therapeutic trial ofhigh-dose omeprazole in laryngitis. Am J Gastroenterol 2004; 99: 777-785(コホート)

14) Mehta AJ, de Caestecker JS, Camm AJ, et al. Gastro-oesophageal reflux in patients with coronary arterydisease: how common is it and does it matter? Eur J Gastroenterol Hepatol 1996; 8: 973-978(横断)

15) Mohd H, Qua CS, Wong CH, et al. Non-cardiac chest pain: prevalence of reflux disease and response toacid suppression in an Asian population. J Gastroenterol Hepatol 2009; 24: 288-293(横断)

【検索期間外文献】a) Amarasiri DL, Pathmeswaran A, de Silva HJ, et al. Response of the airways and autonomic nervous sys-

tem to acid perfusion of the esophagus in patients with asthma: a laboratory study. BMC Pulm Med 2013;13: 33(ランダム)

— 36 —

解説

GERD患者は,非心臓性胸痛(NCCP),慢性咳嗽,咽喉頭症状,喘息などの食道外症状を有することが知られている.食道外症状のみを有する GERD患者の割合は,表1に示すごとく報告されている 1〜4).酸分泌抑制薬などによる GERD治療に反応した者と 24 時間食道 pHモニタリングで GERを認めた 56 例の逆流関連慢性咳嗽患者での検討では,43%(24/56)に GERD症状をまったく認めなかった 2).食道外症状に対する酸分泌抑制薬の効果を検討した報告では,非心臓性胸痛に対する有効性

がメタアナリシスで示されている 5).喘息患者に対する効果はわずかであるか,効果がないと報告されている 6, 7).一方,喘息患者のうち GERDを合併する夜間の呼吸器症状を伴う喘息患者のみで検討を行うと,酸分泌抑制薬の効果が示されている 8).喉頭炎に対する PPIの効果はほとんどなく 9, 10),慢性咳嗽についてもメタアナリシスがなされており PPIの効果は限定的である 11).以上から,非心臓性胸痛のみが酸の GERに起因することが多いと考えられ 12),GERDの食道外症状としての喘息や喉頭炎はわずかである可能性が高い.結論としては,酸の GERによって食道外症状のみを呈する患者は少ないながらも,存在すると考えられる.

一方,近年使用可能となった 24 時間食道インピーダンス・pHモニタリングで GERを評価し,食道外症状のみを呈する患者の頻度を検討した報告はない.これまで検討できなかった弱酸や非酸,気体の GERによって慢性咳嗽 13)などの食道外症状のみが発生する可能性もあり,今後の更なる検討が必要である.

Clinical Question 3-33.診断 ― ❶自覚症状の評価

GER により食道外症状のみを呈する患者はいるか?

CQ 3-3 GER により食道外症状のみを呈する患者はいるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GER による食道外症状のみを呈する患者はいる. なし B

表1 食道外症状のみを有するGERD患者の割合疾患 報告者 GERDの診断 食道外症状のみ

非心臓性胸痛 Mohd ら 3),2009 48時間食道 pHモニタリングまたは内視鏡査 15/18(83%)慢性咳嗽 Poeら 2),2003 治療に反応した者と24時間食道 pHモニタリング 24/56(43%)咽喉頭症状 Wang ら 4),2012 24時間食道 pHモニタリングまたは内視鏡検査 3/22(14%)喘息 Kiljander ら 1),1999 24時間食道 pHモニタリング 21/81(26%)

— 37 —

①自覚症状の評価

文献

1) Kiljander TO, Salomaa ER, Hietanen EK, et al. Gastroesophageal reflux in asthmatics: a double-blind,placebo-controlled crossover study with omeprazole. Chest 1999; 116: 1257-1264(横断)

2) Poe RH, Kallay MC. Chronic cough and gastroesophageal reflux disease: experience with specific therapyfor diagnosis and treatment. Chest 2003; 123: 679-684(横断)

3) Mohd H, Qua CS, Wong CH, et al. Non-cardiac chest pain: prevalence of reflux disease and response toacid suppression in an Asian population. J Gastroenterol Hepatol 2009; 24: 288-293(横断)

4) Wang AJ, Liang MJ, Jiang AY, et al. Comparison of patients of chronic laryngitis with and without trouble-some reflux symptoms. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 579-585(横断)

5) Cremonini F, Wise J, Moayyedi P, et al. Diagnostic and therapeutic use of proton pump inhibitors in non-cardiac chest pain: a metaanalysis. Am J Gastroenterol 2005; 100: 1226-1232(メタ)

6) Field SK, Sutherland LR. Does medical antireflux therapy improve asthma in asthmatics with gastroe-sophageal reflux?: a critical review of the literature. Chest 1998; 114: 275-283(メタ)

7) Littner MR, Leung FW, Ballard ED 2nd, et al. Effects of 24weeks of lansoprazole therapy on asthma symp-toms, exacerbations, quality of life, and pulmonary function in adult asthmatic patients with acid refluxsymptoms. Chest 2005; 128: 1128-1135(ランダム)

8) Kiljander TO, Harding SM, Field SK, et al. Effects of esomeprazole 40 mg twice daily on asthma: a ran-domized placebo-controlled trial. Am J Respir Crit Care Med 2006; 173: 1091-1097(ランダム)

9) Vaezi MF, Richter JE, Stasney CR, et al. Treatment of chronic posterior laryngitis with esomeprazole.Laryngoscope 2006; 116: 254-260(非ランダム)

10) Long MD, Shaheen NJ. Extra-esophageal GERD: clinical dilemma of epidemiology versus clinical practice.Curr Gastroenterol Rep 2007; 9: 195-202

11) Chang AB, Lasserson TJ, Kiljander TO, et al. Systematic review and meta-analysis of randomised con-trolled trials of gastro-oesophageal reflux interventions for chronic cough associated with gastro-oesophageal reflux. BMJ 2006; 332: 11-17(メタ)

12) Flook N, Unge P, Agreus L, et al. Approach to managing undiagnosed chest pain: could gastroesophagealreflux disease be the cause? Can Fam Physician 2007; 53: 261-266

13) Zerbib F, Roman S, Ropert A, et al. Esophageal pH-impedance monitoring and symptom analysis inGERD: a study in patients off and on therapy. Am J Gastroenterol 2006; 101: 1956-1963(横断)

— 38 —

解説

GERDの診断に用いられる問診票を表1に示す 1〜11).感度・特異度ともに平均 70%前後で,GERDの初期診断に有用である.また,ReQuest 6)や FSSG 12)問診票は症状の頻度を点数化しており,治療の効果判定に有用である.

文献

1) Carlsonn R, Dent J, Bolling-Sternevald E, et al. The usefulness of a structured questionnaire in the assess-ment of symptomatic gastroesophageal reflux disease. Scand J Gastroenterol 1998; 33: 1023-1029(横断)

2) Manterola C, Munoz S, Grande L, et al. Initial validation of a questionnaire for detecting gastroesophagealreflux disease in epidemiological settings. J Clin Epidemiol 2002; 55: 1041-1045(横断)

3) Wong WM, Lam KF, Lai KC, et al. A validated symptpms questionnaire (Chinese GERDQ) for the diagno-sis of gastro-oesophageal reflux disease in the Chinese population. Aliment Pharmacol Ther 2003; 17: 1407-1413(横断)

4) Zimmermann J. Validation of a brief inventory for diagnosis and monitoring of symptomatic gastro-oesophageal reflux. Scand J Gastroenterol 2004; 39: 212-216(横断)

5) Kusano M, Shimoyama Y, Sugimoto S, et al. Development and evaluation of FSSG: frequency scale for thesymptoms of GERD. J Gastroenterol 2004; 39: 888-891(横断)

6) Bardhan KD, Stanghellini V, Armstrong D, et al. Evaluation of GERD symptoms during therapy. Part Ⅰ.Development of the new GERD questionnaire ReQuest. Digestion 2004; 69: 229-237(横断)

7) Shimoyama Y, Kusano M, Sugimoto S, et al. Diagnosis of gastroesophageal reflux disease using a newquestionnaire. J Gastroenterol Hepatol 2005; 20: 643-647(横断)

8) Kleinman L, Rothman M, Strauss R, et al. The infant gastroesophageal reflux questionnaire revised: devel-opment and validation as an evaluative instrument. Clin Gastroenterol Hepatol 2006; 4: 588-596(横断)

9) Horowitz N, Moshkowitz M, Halpern Z, et al. Applying data mining techniques in tha development of adiagnostics questionnaire for GERD. Dig Dis Sci 2007; 52: 1871-1878(横断)

10) Ho KY, Gwee KA, Khor JL, et al. Validation of a graded response questionnaire for the diagnosis of gas-troesophageal reflux disease in an Asian primary care population. J Clin Gastroenterol 2008; 42: 680-686

(横断)11) Jones R, Junghard O, Dent J, et al. Development of the GerdQ, atool for the diagnosis and management of

Clinical Question 3-43.診断 ― ❶自覚症状の評価

自己記入式アンケートは GERD の診断,治療効果の評価に有用か?

CQ 3-4 自己記入式アンケートは GERD の診断,治療効果の評価に有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 自己記入式アンケートは GERD の診断,治療効果の評価ともに有用であり,使用するよう提案する.

2(91.7%) C

— 39 —

①自覚症状の評価

gastro-oesophageal reflux disease in primary care. Aliment Pharmacol Ther 2009; 30: 1030-1038(横断)12) Kusano M, Shimoyama Y, Kawamura O, et al. Proton pump inhibitors improve acid-related dyspepsia in

gastroesophageal reflux disease patients. Dig Dis Sci 2007; 52: 1673-1677(横断)

表1 GERD診断時に使用される問診票と感度・特異度

問診票 年 対象疾患人数

(GERD:control)

GERDの診断方法

感度(%)

特異度(%) 調査した国 使用した言語

QUEST 1) 1998 びらん性GERD

133:291 EGD 70 46 スウェーデン,英国

英語

QUEST 1) 1998 GERD 148:28 EGD and pH

92 19 スウェーデン,英国

英語

スケール票(Manterola)2)

2002 GERD 180:80 臨床的 92 95 チリ 英語

Chinese GERDQ 3)

2003 GERD 100:101 EGD and pH

82 84 香港 中国語

スケール票(Zimmerman)4)

2004 GERD 258:300 EGD and pH

91 92 イスラエル ?

FSSG 5) 2004 びらん性GERD

42:67 EGD 62 59 日本 日本語

ReQuest 6) 2004 びらん性GERD

421 EGD × × ドイツ,フランス,スペイン,米国,英国

ドイツ語,英語,フランス語,スペイン語

Sスケール 7) 2005 びらん性GERD

124:209 EGD 80 54 日本 日本語

I-GERDQ-R 8) 2006 GERD 185:93 臨床的 65 100 ベルギー,フランス,イタリア,オランダ,ポーランド,英国,米国

オランダ語,フィンランド語,フンス語,ドイツ語,イタリア語,ポーランド語,ポルトガル語,スペイン語,英語

questionnaire 9) 2007 GERD 72:60 EGD and 臨床的

70~75 63~78 イスラエル ?

Graded response questionnaire(中国語版)10)

2008 GERD 45 臨床的 87.5 75.7 シンガポール 中国語

Graded response questionnaire(英語版)10)

2008 GERD 163 臨床的 76.9 50.8 シンガポール 英語

GERD-Q 11) 2009 GERD 308 EGD and pH

65 71 ドイツ,スウェーデン,カナダ,デンマーク,ノルウェー,英国

英語

EGD:esophagogastroduodenoscopy(上部消化管内視鏡),pH:24時間食道 pHモニタリング*:minimal change(Grade M)を含む×:文献に記載なし

— 40 —

解説

ロサンゼルス分類は胸やけの重症度と相関する 1)と報告されているが,その後の検討では胸やけ症状重症度別にロサンゼルス分類 Grade C/Dの頻度を検討すると,胸やけ症状が軽度で22%,中等度で 23%,高度で 31%であり,自覚症状重症度は内視鏡的重症度と相関しないことが示されている 2).内視鏡的粘膜傷害の重症度と自覚症状重症度はある程度関連があるとの報告もあるが,その相関程度は弱い 3〜5).また,非びらん性 GERD患者の 7割で過剰な酸の GERを認めない 6).日本における検討では,多施設共同研究で胸やけや呑酸症状を聴取後に上部消化管内視鏡検

査を施行し,症状とびらん性 GERDの重症度を検討すると,胸やけ症状は OR 2.46 でびらん性GERDの有意な予測因子であり,びらん性 GERDの重症度に比例して有意に発現する症状であったが,ロサンゼルス分類 Grade C/Dでも 40%で胸やけ症状は認めない.さらに,胸やけのある患者の 24%にのみ内視鏡的なびらん性 GERDを認めたに過ぎない 4).したがって,各症状を聴取するだけでは内視鏡的所見の有無や重症度を予測することは困難であった 4).内視鏡的粘膜傷害の重症度と自覚症状重症度の関連に影響を与える因子としては,年齢,性 7)

などがあげられる.高齢者では症状が発現しにくくなり,高齢になるに従ってびらん性 GERD

が重症になるにもかかわらず,胸やけなどの逆流症状の程度は逆に低下し 8),非定型症状が増加する 9).また,びらん性 GERDの 11.6%(45/388)は無症状であり,無症状のびらん性 GERDは有症状のびらん性 GERDに比較して,有意に高齢であり,性,内視鏡的重症度に差を認めず,QOLは保たれていた 10).しかし,非びらん性 GERD患者では高齢者で胸やけ症状発現率が若年者に比して高率であると日本から報告されている 11).Fスケール(FSSG)問診票を用いてびらん性 GERDの内視鏡的重症度を比較すると,ロサンゼ

ルス分類 Grade C/Dでは,FSSGスコアが高値であり,酸の GER関連症状スコアのみで検討するとさらに有意に高値であった.しかし,同時に聴取した QUEST問診票ではスコアと内視鏡的重症度に相関を認めなかった.さらに,ロサンゼルス分類の Grade Aと Bにおいて,Grade

Mとの間に FSSGおよび QUESTスコアに有意な違いを認めていない 12).食道 pHモニタリングと症状の相関が必ずしも高くないこともあり 13〜16),胸やけ症状発現を

Clinical Question 3-53.診断 ― ❶自覚症状の評価

食道粘膜傷害の内視鏡的重症度は自覚症状の重症度と相関するか?

CQ 3-5 食道粘膜傷害の内視鏡的重症度は自覚症状の重症度と相関するか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 食道粘膜傷害の内視鏡的重症度は自覚症状と必ずしも相関しない. なし C

— 41 —

①自覚症状の評価

単純に酸の GERの程度によって規定することは困難であると思われる.

文献

1) Lundell LR, Dent J, Bennett JR, et al. Endoscopic assessment of oesophagitis: clinical and functional corre-lates and further validation of the Los Angeles classification. Gut 1999; 45: 172-180(横断)

2) Fennerty MB, Johnson DA. Heartburn severity does not predict disease severity in patients with erosiveesophagitis. MedGenMed 2006; 8: 6(横断)

3) El-Serag HB, Johanson JF. Risk factors for the severity of erosive esophagitis in Helicobacter pylori-negativepatients with gastroesophageal reflux disease. Scand J Gastroenterol 2002; 37: 899-904(横断)

4) Okamoto K, Iwakiri R, Mori M, et al. Clinical symptoms in endoscopic reflux esophagitis: evaluation in8031 adult subjects. Dig Dis Sci 2003; 48: 2237-2241(横断)

5) Locke GR, Zinsmeister AR, Talley NJ. Can symptoms predict endoscopic findings in GERD? GastrointestEndosc 2003; 58: 661-670(横断)

6) Xiong LS, Chen MH, Lin JK, et al. Stratification and symptom characteristics of non-erosive reflux diseasebased on acid and duodenogastroesophageal reflux. J Gastroenterol Hepatol 2008; 23: 290-295(横断)

7) Lin M, Gerson LB, Lascar R, et al. Features of gastroesophageal reflux disease in women. Am J Gastroen-terol 2004; 99: 1442-1447(横断)

8) Fass R, Pulliam G, Johnson C, et al. Symptom severity and oesophageal chemosensitivity to acid in olderand young patients with gastro-oesophageal reflux. Age Ageing 2000; 29: 125-130(横断)

9) Pilotto A, Franceschi M, Leandro G, et al. Clinical features of reflux esophagitis in older people: a study of840 consecutive patients. J Am Geriatr Soc 2006; 54: 1537-1542(横断)

10) Nagahara A, Hojo M, Asaoka D, et al. Clinical feature of asymptomatic reflux esophagitis in patients whounderwent upper gastrointestinal endoscopy. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27 (Suppl 3): 53-57(横断)

11) Furuta K, Kushiyama Y, Kawashima K, et al. Comparisons of symptoms reported by elderly and non-elderly patients with GERD. J Gastroenterol 2012; 47: 144-149(横断)

12) Danjo A, Yamaguchi K, Fujimoto K, et al. Comparison of endoscopic findings with symptom assessmentsystems (FSSG and QUEST) for gastroesophageal reflux disease in Japanese centres. J Gastroenterol Hepa-tol 2009; 24: 633-638(横断)

13) Tefera L, Fein M, Ritter MP, et al. Can the combination of symptoms and endoscopy confirm the presenceof gastroesophageal reflux disease? Am Surg 1997; 63: 933-936(横断)

14) Noordzij JP, Khidr A, Desper E, et al. Correlation of pH probe-measured laryngopharyngeal reflux withsymptoms and signs of reflux laryngitis. Laryngoscope 2002; 112: 2192-2195(横断)

15) Taghavi SA, Ghasedi M, Saberi-Firoozi M, et al. Symptom association probability and symptom sensitivityindex: preferable but still suboptimal predictors of response to high dose omeprazole. Gut 2005; 54: 1067-1071(横断)

16) Portale G, Peters J, Hsieh CC, et al. When are reflux episodes symptomatic? Dis Esophagus 2007; 20: 47-52(横断)

— 42 —

解説

強力な酸分泌抑制作用を有する PPIを用いて,胸やけなどの酸の GER症状消失の有無で治療的診断を行うものである.内視鏡を用いず非侵襲的,簡便,低コストで GERDの診断が行える.内視鏡陽性患者または食道 pHモニタリング陽性患者を真の GERD患者としたプラセボコントロール,二重盲検,多施設でのオメプラゾール 40mg/日・7日間投与で行われた試験において,感度は 74%であったと報告されている 1).非びらん性 GERDに対してオメプラゾール 40mg/

日・14 日間投与では感度 66%と報告された 2).症状改善の目安とするカットオフ値の決め方で感度・特異度が変化する欠点を有する.GERDの非定型的症状を有する患者でも行われ,心電図で異常を確認できない非心臓性胸痛(NCCP)患者の診断に有用(オメプラゾール 60mg/日×1週間)3),喘息患者の診断に有用(オメプラゾール 20〜60mg/日×4〜12 週間)4),咽喉頭症状を有する患者の診断にも有用(オメプラゾール 40mg/日×6〜24 週間,オメプラゾール 40mg/日×8週間)5, 6)などの報告がある.しかし,オメプラゾール 40mg/日の投与は日本の保険診療では認められておらず,用量と投与期間も統一されたものはなく,その評価は難しいところもある.大規模なメタアナリシスの報告があり,PPIテストによる GERDの診断は,24 時間食道 pHモニタリングによる GERDの診断をゴールドスタンダードにすると,感度 78%,特異度 54%であり 7),やや特異度は低いがその簡便性から GERDの診断に有用と考えられる.

文献

1) Johnsson F, Weywadt L, Solhaug JH, et al. One-week omeprazole treatment in the diagnosis of gastro-oesophageal reflux disease. Scand J Gastroenterol 1998; 33: 15-20(ランダム)

2) Schenk BE, Kuipers EJ, Klinkenberg-Knol EC, et al. Omeprazole as a diagnostic tool in gastroesophagealreflux disease. Am J Gastroenterol 1997; 92: 1997-2000(ランダム)

3) Fass R, Fennerty MB, Ofman JJ, et al. The clinical and economic value of a short course of omeprazole inpatients with noncardiac chest pain. Gastroenterology 1998; 115: 42-49(ランダム)

4) Field SK, Sutherland LR. Does medical antireflux therapy improve asthma in asthmatics with gastroe-sophageal reflux?: a critical review of the literature. Chest 1998; 114: 275-283(メタ)

Clinical Question 3-63.診断 ― ❶自覚症状の評価

PPI テストは GERD の診断に有用か?

CQ 3-6 PPI テストは GERD の診断に有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● PPI テストは GERD およびその食道外症状の診断に有用である. なし B

— 43 —

①自覚症状の評価

5) Kamel PL, Hanson D, Kahrilas PJ. Omeprazole for the treatment of posterior laryngitis. Am J Med 1994;96: 321-326(横断)

6) Wo JM, Grist WJ, Gussack G, et al. Empiric trial of high-dose omeprazole in patients with posterior laryn-gitis: a prospective study. Am J Gastroenterol 1997; 92: 2160-2165(横断)

7) Numans ME, Lau J, de Wit NJ, et al. Short-term treatment with proton-pump inhibitors as a test for gas-troesophageal reflux disease: a meta-analysis of diagnostic test characteristics. Ann Intern Med 2004; 140:518-527(メタ)

— 44 —

解説

ロサンゼルス分類は,1994 年のロサンゼルスで行われた世界消化器病学会で紹介されたびらん性 GERDの内視鏡分類である 1).従来の分類は病理学的なびらん・潰瘍を定義として使用していた(The Esophagus: Handbook and Atlas of Endoscopy a)[検索期間外文献])のに対し,ロサンゼルス分類では内視鏡的観察による粘膜傷害(mucosal break)という概念が導入された.粘膜傷害の長さが 5mm以下の Grade A,5mm以上の Grade B,粘膜傷害の癒合を認めるが全周の 75%以下の Grade C,75%以上の Grade Dに分類される.この Grade分類は酸の GERの程度 2, 3),胸やけの重症度 2),治療の反応性 2),PPI維持療法中の再発のリスク 4)などとも相関していることが報告されている.しかし,内視鏡的には重症でも,症状が強くない事例も存在するため注意が必要である.5mmという数字から読影者間での差を生じる原因となるが 5),欧米からも読影者間の一致率

がよいこと 6, 7)が報告されており,日本でも経験年数により読影間での一致率が上がることが報告されている 8).

文献

1) Armstrong D, Bennett JR, Blum AL, et al. The endoscopic assessment of esophagitis: a progress report onobserver agreement. Gastroenterology 1996; 111: 85-92(横断)

2) Lundell LR, Dent J, Bennett JR, et al. Endoscopic assessment of oesophagitis: clinical and functional corre-lates and further validation of the Los Angeles classification. Gut 1999; 45: 172-180(横断)

3) Ghoshal UC, Chourasia D, Tripathi S, et al. Relationship of severity of gastroesophageal reflux diseasewith gastric acid secretory profile and esophageal acid exposure during nocturnal acid breakthrough: astudy using 24-h dual-channel pH-metry. Scand J Gastroenterol 2008; 43: 654-661(横断)

4) Fujimoto K, Hongo M. Risk factors for relapse of erosive GERD during long-term maintenance treatmentwith proton pump inhibitor: a prospective multicenter study in Japan. J Gastroenterol 2010; 45: 1193-1200

(コホート)

Clinical Question 3-73.診断 ― ❷内視鏡診断

びらん性 GERD の内視鏡的重症度分類にロサンゼルス分類は妥当か?

CQ 3-7 びらん性 GERD の内視鏡的重症度分類にロサンゼルス分類は妥当か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● びらん性 GERD の内視鏡的重症度分類に用いられるロサンゼルス分類の客観性は高く,有用であると考えられる. なし B

— 45 —

②内視鏡診断

5) Kusano M, Sugimoto S, Kawamura O, et al. Numerical modification of the Los Angeles classification ofgastroesophageal reflux disease fails to decrease observer variation. Dig Endosc 2004; 16: 9-11(ケースコントロール)

6) Rath HC, Timmer A, Kunkel C, et al. Comparison of interobserver agreement for different scoring systemsfor reflux esophagitis: impact of level of experience. Gastrointest Endosc 2004; 60: 44-49(ケースコントロール)

7) Pandolfino JE, Vakil NB, Kahrilas PJ. Comparison of inter- and intraobserver consistency for grading ofesophagitis by expert and trainee endoscopists. Gastrointest Endosc 2002; 56: 639-643(ケースコントロール)

8) Kusano M, Ino K, Yamada T, et al. Interobserver and intraobserver variation in endoscopic assessment ofGERD using the “Los Angeles” classification. Gastrointest Endosc 1999; 49: 700-704(ケースコントロール)

【検索期間外文献】a) Savary M, Miller G. The Esophagus: Handbook and Atlas of Endoscopy, Verlag Gassmann AG, Solothurn,

Switzerland, 1978

— 46 —

解説

GERDの内視鏡診断に用いられるロサンゼルス分類の客観性は高いが,ロサンゼルス分類の作成にあたり,微小色調変化を表現するminimal changeは読影医間の一致率が悪く,採用されていない.しかし,日本では欧米と比較し軽症例が多いことなどから,星原らにより Grade M

として Grade Nと Aの間に置く改訂分類が提唱されており,広く用いられている 1).minimal

changeを有する患者ではびらん性 GERD患者と同様のリスクファクターを持つといった報告 2)

や,また問診票スコアによる逆流症状の検討で Grade Nと比較し Grade Mで高かったとする報告 3),また Grade Mで症状スコアが高いが有意差はみられなかったといった報告 4)がみられる.内視鏡の経験や近年の画像強調技術や拡大観察の併用などにより一致率の改善がみられる可能性も指摘されているが 5, 6),日本における報告でも診断の一致率はいまだ低く 7),minimal change

の客観的診断,臨床的意義について十分確立されていない 8, 9).

文献

1) 星原芳雄.GERDの診断―内視鏡診断と分類.臨床消化器内科 1996; 11: 1563-15682) Lee JH, Kim N, Chung IK, et al. Clinical significance of minimal change lesions of the esophagus in a

healthy Korean population: a nationwide multi-center prospective study. J Gastroenterol Hepatol 2008; 23(7 Pt 1): 1153-1157(横断)

3) Tsuboi K, Omura N, Yano F, et al. Relationship of the frequency scale for symptoms of gastroesophagealreflux disease with endoscopic findings of cardiac sphincter morphology. J Gastroenterol 2008; 43: 798-802

(横断)4) Kusano M, Hosaka H, Kawada A, et al. Development and evaluation of a modified Frequency Scale for

the Symptoms of Gastroesophageal Reflux Disease to distinguish functional dyspepsia from non-erosivereflux disease. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 1187-1191(横断)

5) Miyasaka M, Hirakawa M, Nakamura K, et al. The endoscopic diagnosis of nonerosive reflux diseaseusing flexible spectral imaging color enhancement image: a feasibility trial. Dis Esophagus 2011; 24: 395-

Clinical Question 3-83.診断 ― ❷内視鏡診断

内視鏡検査でみられる minimal change はどう取り扱うべきか?

CQ 3-8 内視鏡検査でみられる minimal change はどう取り扱うべきか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 日本では,minimal change を用いたロサンゼルス分類が広く用いられているが,客観的診断,臨床的意義に関しては検討が十分でない.

なし C

— 47 —

②内視鏡診断

400(横断)6) Gomes Jr CA, Loução TS, Carpi G, et al. A study on the diagnosis of minimal endoscopic lesions in

nonerosive reflux esophagitis using computed virtual chromoendoscopy (FICE). Arq Gastroenterol 2011;48: 167-170(横断)

7) Miwa H, Yokoyama T, Hori K, et al. Interobserver agreement in endoscopic evaluation of reflux esophagi-tis using a modified Los Angeles classification incorporating grades N and M: a validation study in acohort of Japanese endoscopists. Dis Esophagus 2008; 21: 355-363(横断)

8) Dent J. Endoscopic grading of reflux oesophagitis: the past, present and future. Best Pract Res Clin Gas-troenterol 2008; 22: 585-599

9) Falk GW. Is conventional endoscopic identification of non-erosive reflux disease adequate? Digestion2008; 78 (Suppl 1): 17-23

— 48 —

解説

GERD症状を有するも通常観察では粘膜傷害を視認できない場合,一般に非びらん性 GERD

と診断されるが,このなかには,GERが関与するものと関与しないものが含まれている.前者は狭義の非びらん性 GERD,後者は機能性消化管疾患のひとつである機能性胸やけの範疇に含まれることになる.通常光では視認困難な微小粘膜傷害を種々の観察法で認識できれば,内視鏡検査によって GERの有無をさらに明確に示すことが可能となる.ここでは,GERによって発生する食道粘膜傷害の検出率を上昇させるために画像強調観察・拡大内視鏡観察が有用であるかについて解説する.NBI(narrow band imaging)は,通常観察で正常粘膜と診断された症例でも粘膜傷害を有意に

検出する可能性があり,ロサンゼルス分類 Grade Aと診断された患者のうち 45%は,通常観察では粘膜傷害のない非びらん性 GERD と診断されていた 1).びらん性 GERD/非びらん性GERD/コントロールの検討においても,非びらん性 GERD患者ではNBI観察によって有意に微小粘膜,血管変化の検出力が上がり 2, 3),これらの所見に対する検者間一致率は良好であった 1, 3).しかし,一方で非びらん性 GERDに対する感度は病理組織検査のほうがよいとの報告もある 4).GERDの診断精度,すなわち GERの診断精度を上げることは,PPI治療の有効性にも影響を

与えることが予測され,NBI拡大内視鏡による GERD診断は,PPI治療有効性の予測因子となることが示されている 5).AFI(autofluorescence imaging)では,少数例の報告ではあるが Grade Mがピンク色の粘膜と

して描出され,粘膜の微小変化を捉えるために有用であったと報告されている 6).しかし,逆流症状との相関は明らかでない.FICE(flexible spectral imaging color enhancement)によっても非びらん性 GERDの微小粘膜

変化が捉えられると考えられているが,GERDに対しては,術者に依存するとともに,微小変化と逆流症状に相関が得られていない 7).また,これまで BLI(blue laser imaging)が食道粘膜傷害の診断精度に影響を与えるかどうかについては検討がなされてない.

通常観察では粘膜傷害を検出できない GERD患者と健常者との比較で,ヨード散布を行うと,

Clinical Question 3-93.診断 ― ❷内視鏡診断

GERD の診断において画像強調観察・拡大内視鏡観察は有用か?

CQ 3-9 GERD の診断において画像強調観察・拡大内視鏡観察は有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD の診断において NBI,AFI,ヨード散布,i-scan および共焦点レーザー顕微鏡観察は有用である可能性がある. なし C

— 49 —

②内視鏡診断

48.7%(19/39)の GERDと 2.6%(1/38)の健常者で不染域を認め,食道粘膜傷害が不染域によって有意に描出されると報告されている 8).i-scan とは surface enhancement(SE),contrast

enhancement(CE),tone enhancement(TE)の 3種類からなる内視鏡画像強調機能であり,微小粘膜傷害の検出には高精細画像に i-scanあるいはヨード散布を併用することの有用性が報告されている 9).拡大内視鏡のみの検討ではびらん性 GERDや非びらん性 GERDの診断精度に関する有用性は

示されていない 10〜12).共焦点レーザー内視鏡は,リアルタイムに消化管粘膜の病理組織評価を可能とするが,GERD

における評価は限られている.非びらん性 GERD患者では,上皮乳頭内血管ループ(IPCL)の数が多いこと,太いこと,また細胞間間隙開大がみられ,細胞間間隙開大と IPCLの数によって特異度 100%となると報告されている 13).以上,種々の画像強調観察や顕微内視鏡観察は GERの存在を検出することに関して有用であ

ると考えられるが,依然それぞれの検査法の精度は明らかでなく,更なる比較検討が必要である.

文献

1) Lee YC, Lin JT, Chiu HM, et al. Intraobserver and interobserver consistency for grading esophagitis withnarrow-band imaging. Gastrointest Endosc 2007; 66: 230-236(横断)

2) Sharma P, Wani S, Bansal A, et al. A feasibility trial of narrow band imaging endoscopy in patients withgastroesophageal reflux disease. Gastroenterology 2007; 133: 454-464; quiz 674(横断)

3) Fock KM, Teo EK, Ang TL, et al. The utility of narrow band imaging in improving the endoscopic diagno-sis of gastroesophageal reflux disease. Clin Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 54-59(横断)

4) Kasap E, Zeybel M, Asik G, et al. Correlation among standard endoscopy, narrow band imaging, andhistopathological findings in the diagnosis of nonerosive reflux disease. J Gastrointestin Liver Dis 2011; 20:127-130(横断)

5) Tseng PH, Chen CC, Chiu HM, et al. Performance of narrow band imaging and magnification endoscopyin the prediction of therapeutic response in patients with gastroesophageal reflux disease. J Clin Gastroen-terol 2011; 45: 501-506(横断)

6) Asaoka D, Nagahara A, Kurosawa A, et al. Utility of autofluorescence imaging videoendoscopy system forthe detection of minimal changes associated with reflux esophagitis. Endoscopy 2008; 40 (Suppl 2): E172-E173(横断)

7) Gomes Jr CA, Loução TS, Carpi G, et al. A study on the diagnosis of minimal endoscopic lesions innonerosive reflux esophagitis using computed virtual chromoendoscopy (FICE). Arq Gastroenterol 2011;48: 167-170(横断)

8) Yoshikawa I, Yamasaki M, Yamasaki T, et al. Lugol chromoendoscopy as a diagnostic tool in so-calledendoscopy-negative GERD. Gastrointest Endosc 2005; 62: 698-703; quiz 752, 754(横断)

9) Hoffman A, Basting N, Goetz M, et al. High-definition endoscopy with i-Scan and Lugol’s solution formore precise detection of mucosal breaks in patients with reflux symptoms. Endoscopy 2009; 41: 107-112

(ケースシリーズ)10) Kiesslich R, Kanzler S, Vieth M, et al. Minimal change esophagitis: prospective comparison of endoscopic

and histological markers between patients with non-erosive reflux disease and normal controls using mag-nifying endoscopy. Dig Dis 2004; 22: 221-227(横断)

11) Edebo A, TamW, Bruno M, et al. Magnification endoscopy for diagnosis of nonerosive reflux disease: a pro-posal of diagnostic criteria and critical analysis of observer variability. Endoscopy 2007; 39: 195-201(横断)

12) Amano Y, Yamashita H, Koshino K, et al. Does magnifying endoscopy improve the diagnosis of erosiveesophagitis? J Gastroenterol Hepatol 2008; 23: 1063-1068(横断)

13) Chu CL, Zhen YB, Lv GP, et al. Microalterations of esophagus in patients with non-erosive reflux disease:in-vivo diagnosis by confocal laser endomicroscopy and its relationship with gastroesophageal reflux. AmJ Gastroenterol 2012; 107: 864-874(横断)

— 50 —

解説

PPI抵抗性 GERDは標準量の PPIを 8週間内服しても食道粘膜傷害が治癒しない,かつ/または GERD由来と考えられる逆流症状が十分に改善しない状態であり,びらん性 GERDと非びらん性 GERDとに分けられる.PPI抵抗性 GERD患者において,食道内 pHモニタリングや食道内インピーダンス・pHモニタリングで症状と GERとの関連性が検討されている.PPIを投与していても異常な酸の GERが認められるケースがあり,この原因としては PPI代謝における遺伝子多型の影響が指摘されている 1).また,特に PPI抵抗性の検討は行われていないものの,服薬アドヒアランスや薬剤投与のタイミング,薬剤の相互作用の影響などもシステマティックレビューでは指摘されている 2).さらに,夜間に酸の GERが生じる症例では,PPI投与中にもかかわらず胃内 pH 4 以下となる時間が 1時間以上連続して認められる nocturnal acid break-

through(NAB)の関与 3)が指摘されている.異常な酸の GERが認められない症例でも GERと症状との間に関連を認めるケースがあり,

酸以外(弱酸)の GERの関与や 4),気体を含む混合逆流や食道上部にまで及ぶ逆流が症状を引き起こしやすいこと 5)が報告されている.

酸以外(非酸)の GERにより症状を呈するケースや 6, 7),食道内ビリルビンモニタリングでは,胆汁の GERの関与も指摘されている 8, 9).酸以外(非酸)の GERが症状をもたらす原因としては,食道の過敏性亢進があげられている 10).

なお,PPI抵抗性非びらん性 GERD患者において,PPIに加えて消化管運動機能改善薬を併用することで症状の改善が認められており,胃排出遅延も PPI抵抗性の要因のひとつと思われる 11).一方で,逆流と症状に関連が認められない症例もあり,こうした症例では心理的要因 12)や機

能性胸やけ,好酸球性食道炎,食道運動障害 13)などの他疾患である可能性も指摘されている.

Clinical Question 3-103.診断 ― ❷内視鏡診断

PPI 抵抗性 GERD は酸の GER によらない病態か?

CQ 3-10 PPI 抵抗性 GERD は酸の GER によらない病態か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● PPI 抵抗性 GERD における PPI 抵抗性の要因として,不十分な胃酸分泌抑制に伴う酸の GER が要因である場合もあるが,酸のGER 以外にも種々の要因が報告されている.

なし C

— 51 —

②内視鏡診断

文献

1) 富永和作,樋口和秀,門内かおり,ほか.難治性 GERD症例の 24 時間 pHモニタリング,CYP2C19 遺伝子多型からみた各種 PPIの使い分け.胃分泌研究会誌 2002; 34: 121-125(ケースシリーズ)

2) Fass R, Shapiro M, Sewell DJ. Systematic review: proton-pump inhibitor failure in gastro-oesophagealreflux disease: where next? Aliment Pharmacol Ther 2005; 22: 79-94(メタ)

3) 藤原靖弘,樋口和秀,山森一樹,ほか.難治性 GERDの治療.日本臨牀 2004; 62: 1510-1515(横断)4) Frazzoni M, Conigliaro R, Melotti G. Weakly acidic refluxes have a major role in the pathogenesis of pro-

ton pump inhibitor-resistant reflux oesophagitis. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 601-606(ケースシリーズ)

5) Tutuian R, Vela MF, Hill EG, et al. Characteristics of symptomatic reflux episodes on acid suppressivetherapy. Am J Gastroenterol 2008; 103: 1090-1096(横断)

6) Mainie I, Tutuian R, Shay S, et al. Acid and non-acid reflux in patients with persistent symptoms despiteacid suppressive therapy: a multicenter study using combined ambulatory impedance-pH monitoring.Gut 2006; 55: 1398-1402(横断)

7) Sharma N, Agrawal A, Freeman J, et al. An analysis of persistent symptoms in acid-suppressed patientsundergoing impedance-pH monitoring. Clin Gastroenetrol Hepatol 2008; 6: 521-524(横断)

8) Koek GH, Sifrim D, Lerut T, et al. Effect of the GABAB agonist baclofen in patients with symptoms andduodeno-gastro-oesophageal reflux refractory to proton pump inhibitors. Gut 2003; 52: 1397-1402(横断)

9) Karamanolis G, Vanuytsel T, Sifrim D, et al. Yield of 24-hour esophageal pH and Bilitec monitoring inpatients with persisting symptoms on PPI therapy. Dig Dis Sci 2008; 53: 2387-2393(ケースシリーズ)

10) Galmiche JP, Clouse RE, Balint A, et al. Functional esophageal disorders. Gastroenterology 2006; 130: 1459-1465(ガイドライン)

11) Futagami S, Iwakiri K, Shindo T, et al. The prokinetic effect of mosapride citrate combined with omepra-zole therapy improves clinical symptoms and gastric emptying in PPI-resistant NERD patients withdelayed gastric emptying. J Gastroenterol 2010; 45: 413-421(ケースコントロール)

12) Nojlov B, Rubenstein JH, Adlis SA, et al. The influence of co-morbic IBS and psychiological distress onoutcomes and quality of life following PPI therapy in patients with gastro-oesophageal reflux disease. Ali-ment Pharmacol Ther 2008; 27: 473-482(横断)

13) Klinkenberg-Knol EC, Meuwissen SG. Combined gastric and oesphageal 24-hour pH monitoring andoeosphageal manometry in patients with reflux disease, resistant to treatment with omeprazole. AlimentPharmacol Ther 1990; 4: 485-495(ケースシリーズ)

— 52 —

解説

24 時間食道 pHモニタリングは,下部食道括約筋(LES)上縁 5 cmに留置した pH電極により24 時間の胃酸の GERを測定する検査であるが,GERD診断のゴールドスタンダードのひとつである.しかし,強力な酸分泌抑制薬である PPIの登場により治療的診断(いわゆる PPIテスト)が行われるようになり,食道 pHモニタリングを施行する意義も変化してきた.PPI投与にもかかわらず症状が改善されない症例(いわゆる PPI抵抗性 GERD)に PPI投与下に施行するとPPIの用量不足の症例が明らかになると報告されている 1).また,ワイヤレス式 pHモニタリング(Bravo®)の登場により 2),患者がより快適にしかも長時間の測定が可能となり,食道内酸曝露時間や酸の GERと症状との関連の検討に改善が認められている 3).24 時間食道インピーダンス・pHモニタリングは,細いプローブ上に配列されたたくさんの

電極の隣接する 2電極間の電気抵抗を測定することにより通過する内容物の性状を判定し(液体で低下,気体で上昇),内容物の移動する方向により逆流しているのか順行(嚥下)しているのかを判定する.本検査は逆流内容物の性状(液体,気体,液体と気体の混合)とどこまで逆流したかを判定でき,pH電極により同時に pHを測定することにより酸の GERだけでなく酸以外(弱酸,非酸)の GERも測定可能であり,現時点で逆流を捉える最も感度の高い検査法となっている 4).PPI抵抗性 GERD患者において PPI投与下に本検査を施行することにより症状が酸以外のGERでも発現することが報告され脚光を浴びた 5).その後,PPI抵抗性非びらん性 GERD,GERD患者で本検査を施行することにより,PPI用量不足(酸の GERが異常に多い,本当の非びらん性 GERD),過敏性食道(酸逆流の程度は正常範囲だが,酸以外の GERを含む逆流と症状との間に有意な関連を認める症例),機能性胸やけ(酸の GERは正常で逆流と症状との間に関連を認めない症例)などに分けられることが明らかになり,治療方針を決定するうえでの有用性が報告されている 6〜8).

Clinical Question 3-113.診断 ― ❸逆流現象の評価

24 時間食道 pH モニタリング,24 時間食道インピーダンス・pH モニタリングは GERD 診療に有用か?

CQ 3-11 24 時間食道 pH モニタリング,24 時間食道インピーダンス・pH モニタリングは GERD 診療に有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 24 時間食道 pH モニタリング,24 時間食道インピーダンス・pHモニタリングは GERD 診療に有用である. なし C

— 53 —

③逆流現象の評価

文献

1) Katzka DA, Paoletti V, Leite L, et al. Prolonged ambulatory pH monitoring in patients with persistent gas-troesophageal reflux disease symptoms: testing while on therapy identifies the need for more aggressiveanti-reflux therapy. Am J Gastroenterol 1996; 91: 2110-2113(横断)

2) Pandolfino JE, Richter JE, Ours T, et al. Ambulatory esophageal pH monitoring using a wireless system.Am J Gastroenterol 2003; 98: 740-749(横断)

3) Prakash C, Clouse RE. Value of extended recording time with wireless pH monitoring in evaluating gas-troesophageal reflux disease. Clin Gastroenterol Hepatol 2005; 3: 329-334(横断)

4) Sifrim D, Castell D, Dent J, et al. Gastro-oesophageal reflux monitoring: review and consensus report ondetection and definitions of acid, non-acid, and gas reflux. Gut 2004; 53: 1024-1031(ガイドライン)

5) Vela MF, Camacho-Lobato L, Srinivasan R, et al. Simultaneous intraesophageal impedance and pH meas-urement of acid and nonacid gastroesophageal reflux: effect of omeprazole, Gastroenterology 2001; 120:1599-1606(横断)

6) Savarino E, Zentilin P, Tutuian R, et al. The role of nonacid reflux in NERD: lessons learned from imped-ance-pH monitoring in 150 patients off therapy, Am J Gastroenterol 2008; 103: 2685-2693(横断)

7) Mainie I, Tutuian R, Shay S, et al. Acid and non-acid reflux in patients with persistent symptoms despiteacid suppressive therapy: a multicentre study using combined ambulatory impedance-pH monitoring.Gut 2006; 55: 1398-1402(横断)

8) Zerbib F, Roman S, Ropert A, et al. Esophageal pH-impedance monitoring and symptom analysis inGERD: a study in patients off and on therapy. Am J Gastroenterol 2006; 101: 1956-1963(横断)

4.内科的治療

— 56 —

解説

1)GERDの症状とQOL内科的治療,外科的治療にかかわらず GERD症状のコントロールが成就されれば QOLは改

善する 1〜8).症状が消失した場合には低下した QOLは健常者のレベルまで改善する.あるいは健常者のレベル以上にまで QOLの改善がみられることもしばしばある 9).症状の完全消失は重要であり,1週間に 1回以上の症状発現は,QOLに対して悪影響を与えている 9).薬物療法においては症状の消失が高率でかつ速やかな薬剤のほうがより高い QOLの改善が得られる 9).PPIはH2RAや消化管運動機能改善薬よりも QOL改善効果がある 2, 6, 10〜13).夜間の酸の GERは,睡眠障害,非心臓性胸痛(NCCP)の誘発原因となることがあり,また夜間の胸やけは最も大きなQOL低下の要因になっている 14).PPI投与によって夜間の酸の GERを抑制できた場合,睡眠障害の改善,胸痛消失によって QOLの改善がもたらされる 15, 16).

2)GERDの治療と合併症の予防食道粘膜傷害の治癒および寛解の維持は,GERDの治療ならびに合併症の予防に最も重要で

ある.食道炎の治癒と維持は,標準量の PPI投与により 80〜90%が可能であり,H2RA投与では 40〜70%である 17〜20).GERDの合併症としては,貧血,出血,食道狭窄,Barrett食道さらには食道腺癌の発生があげられる 21).食道びらんや潰瘍形成の結果として,貧血,出血,食道狭窄が発生する.これらは重症食道炎に認められる合併症である.食道炎の重症度は酸曝露時間に相関するため,より強力な酸曝露抑制がより速やかな食道炎の治癒と合併症の抑制をもたらす 17).したがって,合併症のある患者では PPI投与が求められる.最も重篤な合併症は,食道腺癌である.食道腺癌は日本では極めてまれであるが,欧米では過去 20 年間に 2倍となっており,扁平上皮癌より多くなっている 21).GERDは腺癌のリスク因子であり,胸やけの期間,重症度,頻度が腺癌の独立リスク因子であるとされている 21).20 年以上にわたる強度の胸やけ患者は,無症状患者に比べ 43.5 倍の相対危険度がある.しかし,GERD治療によってこのリスクを

Clinical Question 4-14.内科的治療 ― ❶治療の目的

GERD 治療の目的(目標)は何か?

CQ 4-1 GERD 治療の目的(目標)は何か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD 患者の長期管理の主要目的は,症状のコントロールと QOLの改善に加え,合併症の予防である.酸の GER を防ぐ治療はGERD 患者の QOL を改善する.

なし A

— 57 —

①治療の目的

抑制することはできないとされている.内科的あるいは外科的治療で癌発生を抑制するというデータはない 21, 22).

文献

1) Pace F, Negrini C, Wiklund I, et al. Quality of life in acute and maintenance treatment of non-erosive andmild erosive gastro-oesophageal reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2005; 22: 349-356(ランダム)

2) Ofman JJ. The economic and quality-of-life impact of symptomatic gastroesophageal reflux disease. Am JGastroenterol 2003; 98 (Suppl): S8-S14(メタ)

3) Velanovich V. Quality of life and severity of symptoms in gastro-oesophageal reflux disease: a clinicalreview. Eur J Surg 2000; 166: 516-525(メタ)

4) Robinson M, Fitzgerald S, Hegedus R, et al. Onset of symptom relief with rabeprazole: a community-based, open-label assessment of patients with erosive oesopagitis. Aliment Pharmacol Ther 2002; 16: 445-454(コホート)

5) Meineche-Schmidt V, Hauschildt Juhl H, Østergaard JE, et al. Costs and efficacy of three differentesomeprazole treatment strategies for long-term management of gastro-oesophageal reflux symptoms inprimary care. Aliment Pharmacol Ther 2004; 19: 907-915(ランダム)

6) Ponce J, Argüello L, Bastida G, et al. On-demand therapy with rabeprazole in nonerosive and erosive gas-troesophageal reflux disease in clinical practice: Effectiveness, health-related quality of life, and patientsatisfaction. Dig Dis Sci 2004; 49: 931-936(コホート)

7) Mathias SD, Colwell HH, Miller DP, et al. Health-related quality-of-life and quality-days incrementallygained in symptomatic nonerosive GERD patients treated with lansoprazole or ranitidine. Dig Dis Sci2001; 46: 2416-2423(ランダム)

8) Liu JY. Symptoms and treatment burden of gastroesophageal reflux disease. Validating the GERD assess-ment scales. Arch Intern Med 2004; 164: 2058-2064(非ランダム)

9) Bytzer P. Goals of therapy and guideline for treatment success in symptomatic gastroesophageal refluxdisease patients. Am J Gastroenterol 2003; 98 (Suppl): S31-S39(メタ)

10) van Zanten SJ, Henderson C, Hughes N. Patient satisfaction with medication for gastroesophageal refluxdisease: a systematic review. Can J Gastroenterol 2012; 26: 196-204(メタ)

11) Hongo M, Kinoshita Y, Miwa H, et al. Characteristics affecting health-related quality of life (HRQOL) inJapanese patients with reflux oesophagitis and the effect of lansoprazole on HRQOL. J Med Econ 2009; 12:182-191(コホート)

12) Yoshida S, Nii M, Date M. Effects of omeprazole on symptoms and quality of life in Japanese patients withreflux esophagitis: final results of OMAREE, a large-scale clinical experience investigation. BMC Gastroen-terol 2011; 11: 15-28(非ランダム)

13) Hongo M, Miwa H, Kusano M. Effect of rabeprazole treatment on health-related quality of life and symp-toms in patients with reflux esophagitis: a prospective multicenter observational study in Japan. J Gas-troenterol 2011; 46: 297-304(コホート)

14) Nocon M, Labenz J, Jaspersen D, et al. Health-related quality of life in patients with gastro-oesophagealreflux disease under routine care: 5-year follow-up results of the ProGERD study. Aliment PharmacolTher 2009; 29: 662-668(コホート)

15) Talwar V, Wurm P, Bankart MJG, et al. Clinical trial: chest pain caused by presumed gastro-oesophagealreflux in coronary artery disease: controlled study of lansoprazole vs. placebo. Aliment Pharmacol Ther2010; 32: 191-199(ランダム)

16) Fass R, Johnson DA, Orr WC, et al. The effect of dexlansoprazole MR on nocturnal heartburn and GERD-related sleep disturbances in patients with symptomatic GERD. Am J Gastroenterol 2011; 106: 421-431(ランダム)

17) Jones MP. Acid suppression in gastro-oesophageal reflux disease: Why? how? how much and when? Post-grad Med J 2002; 78: 465-468

18) Richter JE. Long-term management of gastroesophageal reflux disease and its complications. Am J Gas-troenterol 1997; 92 (4 Suppl): 30S-34S; discussion: 34S-35S

19) 関口利和,遠藤光夫,本郷道夫,ほか.H2 受容体拮抗剤抵抗性の逆流性食道炎に対する Omeprazoleの臨床評価(第 2報)―再発予防効果と安全性の検討.臨床医薬 2000; 16: 1387-1404(ランダム)

20) 遠藤光夫,関口利和,中村孝司,ほか.H2 受容体拮抗剤抵抗性の逆流性食道炎に対する AG-1749 の臨床

— 58 —

4.内科的治療

的有用性の検討―第二報 維持効果の検討.臨床成人病 1999; 29: 959-977(ランダム)21) Katelaris PH. An evaluation of current GERD therapy: a summary and comparison of effectiveness, adev-

erse effects and costs of drugs, surgery and endoscopic therapy. Best Prac Res Clin Gastroenterol 2004; 18(Suppl): 39-45

22) Jankowski JA, Anderson M. Review article: Management of oesophageal adenocarcinoma- control of acid,bile and inflammation in intervention strategies for Barrett’s oasophagus. Aliment Pharmacol Ther 2004;20 (Suppl 5): 71-80(メタ)

— 59 —

解説

LES圧を低下させるものに,タバコ,チョコレート,炭酸飲料,右側臥位がエビデンスレベルの高いものとしてあげられている 1).酸曝露時間を延長させるエビデンスレベルの高いものとしてタバコ,アルコール 2),チョコレート 3),脂肪食 4, 5),臥位,右側臥位 6)がある.一方,これらのなかで実際に症状を悪化させるのはタバコ,アルコール,臥位のみである 1).LES圧を低下させる生活習慣や酸曝露時間を延長させる生活習慣はあるもののそれらを変更したり,中止したりすることによって症状が改善するかが治療においては重要な点である.LES圧を上昇させるのは左側臥位のみ,酸曝露時間を減少させるのは体重減少とベッドの頭側挙上 6)のみがエビデンスとなっている.また,実際に症状を改善させる行為は体重減少とベッドの頭側挙上(Diges-

tion 1977; 15: 104-109 a),Pediatrics 1982; 69: 768-772 b)[検索期間外文献])のみである.生活習慣単独では十分な症状の改善は期待できないが,PPI治療を併用すると症状改善と同時に QOL改善をもたらすという新たなエビデンスが明らかとなっている 7, 8).

文献

1) Kaltenbach T, Crockett S, Gerson LB. Are lifestyle measures effective in patients with gastroesophagealreflux disease? Arch Intern Med 2006; 166: 965-971(メタ)

2) Pehl C, Wendl B, Pfeiffer A, et al. Low-proof alcoholic beverages and gastroesophageal reflux. Dig Dis Sci1993; 38: 93-96(ランダム)

3) Murphy DW, Castell DO. Chocolate and heartburn: evidence of increased esophageal acid exposure afterchocolate ingestion. Am J Gastroenterol 1988; 83: 633-636(ランダム)

4) Becker DJ, Sinclair J, Castell DO, et al. A comparison of high and low fat meals on postprandial esophagealacid exposure. Am J Gastroenterol 1989; 84: 782-786(ランダム)

5) Schönfeld JV, Evans D. Fat, spices and gastro-oesophageal reflux. Z Gastroenterol 2007; 45: 171-175(非ランダム)

Clinical Question 4-24.内科的治療 ― ❷治療手段

生活習慣の改善・変更は GERD の治療に有効か?

CQ 4-2 生活習慣の改善・変更は GERD の治療に有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 生活習慣のなかには酸の GER を引き起こすものがありその変更や中止は PPI 療法下に行えば有効であり,生活指導を行うよう提案する.ただし,生活習慣の改善単独では症状改善につながるというエビデンスは少ない.

2(84.6%) C

— 60 —

4.内科的治療

6) Johnson LF, DeMeester TR. Evaluation of elevation of the head of the bed, bethanechol, and antacid foamtablets on gastroesophageal reflux. Dig Dis Sci 1981; 26: 673-680(非ランダム)

7) Kinoshita Y, Ashida K, Miwa H, et al. The impact of lifestyle modification on the health-related quality oflife of patients with reflux esophagitis receiving treatment with a proton pump inhibitor. Am J Gastroen-terol 2009; 104: 1106-1111(コホート)

8) Hongo M, Miwa H, Kusano M. Effect of rabeprazole treatment on health-related quality of life and symp-toms in patients with reflux esophagitis: a prospective multicenter observational study in Japan. J Gas-troenterol 2011; 46: 297-304(コホート)

【検索期間外文献】a) Stanciu C, Bennett JR. Effects of posture on gastro-oesophageal reflux. Digestion 1977; 15: 104-109(非ラン

ダム)b) Meyers WF, Herbst JJ. Effectiveness of positioning therapy for gastroesophageal reflux. Pediatrics 1982; 69:

768-772(非ランダム)

— 61 —

解説

1)びらん性GERDに強力な酸分泌抑制薬は有効びらん性 GERDの重症度は,食道の酸曝露時間ならびに逆流胃内容物の pHに相関する 1).

酸曝露時間は,粘膜傷害の程度と直接的に相関し 2〜5),また症状の重症度に相関している 6).より強力かつ持続的な酸分泌抑制作用を有する薬剤は,より早期の症状消失とより高い治癒率をもたらす 1, 7, 8).PPIはH2RAよりも胃内 pHを 4以上に長く保持することからびらん性 GERDの患者において PPIはH2RAよりも高い治癒率 1, 7〜9)と早期の症状寛解をもたらす 1, 7, 8, 10).メタアナリシスの 12 週治癒率は,プラセボ 28%,スクラルファート 39%,H2RA 52%,PPI 84%である 11).胸やけの 12 週寛解率は,H2RA 48%,PPI 77%である 11).6 週間の標準量のH2RA投与で胸やけが消失しない患者にH2RAの倍量投与に切り替えても効果はない 12).びらん性 GERDの軽症例 13),重症例 14)をそれぞれ対象にした比較試験において,H2RA倍量投与より標準量の PPIのほうが優れていた.また,日本でのH2RA抵抗性びらん性 GERDを対象とした臨床試験において PPI

の優れた有用性が示されている 15, 16).PPIはH2RAより優れた効果を発揮するが,酸分泌抑制という点ではまだ改善すべき課題がある.すなわち,投与後,速やかに酸分泌を抑制し,24 時間にわたり酸分泌をコントロールする薬剤はいまだにない 17).

2)非びらん性GERDに対するPPI の有効性と課題非びらん性 GERDを対象とした 9試験のメタアナリシスによると,PPIはプラセボより 35%,

H2RAより 20%,それぞれ高い胸やけ消失率が得られている 18).酸曝露時間がびらん性 GERD

より短く,約半数の患者において酸曝露時間が正常範囲内にある非びらん性 GERD患者 3)でも酸分泌をより強力に抑制することはより高い症状消失をもたらす 19〜24).ただし,症状消失率は,びらん性 GERD患者に比べて非びらん性 GERD患者のほうが治療 4週目では約 20%低い 25).標準量の PPI投与で症状消失しない非びらん性 GERD患者に高用量の PPIを投与しても更なる改

Clinical Question 4-34.内科的治療 ― ❷治療手段

酸分泌抑制薬は GERD の治療に有効か?

CQ 4-3 酸分泌抑制薬は GERD の治療に有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● びらん性 GERD の治癒速度および症状消失の速さは,薬剤の酸分泌抑制力に依存するため,その治療には強力な酸分泌抑制薬を使用することを推奨する.また非びらん性 GERD の治療にも酸分泌抑制が有効であり,酸分泌抑制薬を使用することを推奨する.

1(100%) A

— 62 —

4.内科的治療

善は認められていない 19, 20).粘膜傷害のない非びらん性 GERDには,様々な病態が包括されていると考えられる 26).この病態の相違が治療効果の差になっていると考えられる.特に酸以外のGERによる胸やけ出現例や GERが症状発現に関与しない機能性胸やけ患者が非びらん性 GERD

と診断される例のなかに包括されているために非びらん性 GERDにおける PPI治療による症状消失率がびらん性 GERDより低い原因になっていると考えられる.

文献

1) Hunt RH. Importance of pH control in the management of GERD. Arch intern Med 1999; 159: 649-657(メタ)

2) Pujol A, Grande L, Ros E, et al. Utility of inpatient 24-hour intraesophageal pH monitoring in diagnosis ofgastroesophageal reflux. Dig Dis Sci 1988; 33: 1134-1140(ケースコントロール)

3) Masclee AAM, de Best ACAM, de Graaf R, et al. Ambulatory 24-hour pH-metry in the diagnosis of gas-troesophageal reflux disease: determination of criteria and relation to endoscopy. Scand J Gastroenterol1990; 25: 225-230(ケースコントロール)

4) Kasapidis P, Xynos E, Mantides A, et al. Differences in manometry and 24-H ambulatory ph-mertybetween patients with and without endoscopic or histological esophagitis in gastroesophageal reflux dis-ease. Am J Gastroenterol 1993; 88: 1893-1899(ケースコントロール)

5) Johansson KE, Ask P, Boeryd B, et al. Oesophagitis, signs of reflux, and gastric acid secretion in patientswith symptoms of gastro-oesophageal reflux disease. Scand J Gastroenterol 1986; 21: 837-847(横断)

6) Saraswat VA, Dhiman RK, Mishra A, et al. Correlation of 24-hr esophageal pH patterns with clinical fea-tures and endoscopy in gastroesophageal reflux disease. Dig Dis Sci 1994; 39: 199-205(ケースコントロール)

7) Khan M, Santana J, Donnellan C, et al. Medical treatments in the short term management of refluxoesophgitis (review). Cochrane Databese Syst Rev 2007; (2): CD003244(メタ)

8) Hunt RH. The relationship between the control of pH and healing and symptom relief in gastro-oesophageal reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 1995; 9 (Suppl 1): 3-7(メタ)

9) Soga T, Matsuura M, Kodama Y, et al. Is a proton pump inhibitor necessary for the treatment of lower-grade reflux esophagitis? J Gastroenterol 1999; 34: 435-440(非ランダム)

10) van Pinxteren B, Numans ME, Lau J, et al. Short-term treatment of gastroesophageal reflux disease: a sys-tematic review and meta-analysis of the effect of acid-suppressant drugs in empirical treatment and inendoscopy-negative patients. J Gen Intern Med 2003; 18: 755-763(メタ)

11) Chiba N, de Gara CJ, Wilkinson JM, et al. Speed of healing and symptom relief in grade Ⅱ to Ⅳ gastroe-sophageal reflux disease: a meta-analysis. Gastroenterology 1997; 112: 1798-1810(メタ)

12) Kahrilas PJ, Fennerty MB, Joelsson B. High- versus standard-dose ranitidine for control of heartburn inpoorly responsive acid reflux disease: a prospective, controlled trial. Am J Gastroenterol 1999; 94: 92-97

(ランダム)13) Festen HP, Schenk E, Tan G, et al. Omeprazole versus high-dose ranitidine in mild gastroesophageal

reflux disease: short and long-term treatment. Am J Gastroenterol 1999; 94: 931-936(ランダム)14) Jansen JBMJ, van Oene JC. Standard- dose lansoprazole is more effective than high-dose ranitidine in

achieving endoscopic healing and symptom relief in patients with moderately severe reflux oesophagitis.Aliment Pharmacol Ther 1999; 13: 1611-1620(ランダム)

15) 関口利和,遠藤光夫,本郷道夫,ほか.H2 受容体拮抗剤抵抗性の逆流性食道炎に対する Omeprazoleの臨床評価(第 1報)―治癒効果と安全性の検討.臨床医薬 1999; 15: 91-106(非ランダム)

16) 遠藤光夫,関口利和,中村孝司,ほか.H2 受容体拮抗剤抵抗性の逆流性食道炎に対する AG-1749 の臨床的有用性の検討―第一報 治癒効果の検討.臨床成人病 1999; 29: 805-817(非ランダム)

17) Tytgat GNJ. Are there unmet needs in acid suppression? Best Prac Res Clin Gastroenterol 2004; 18 (Suppl):67-72

18) van Pinxteren B, Numans ME, Bonis PA, et al. Short-term treatment with proton pump inhibitors, H2-receptor antagonists and prokinetics for gastro-oesophageal reflux disease-like symptoms and endoscopynegative reflux disease (review). Cochrane Databese Syst Rev 2006; (3): CD002095(メタ)

19) Miner P, Orr W, Filippone J, et al. Rabeprazole in nonerosive gastroesophageal reflux disease: a random-ized placebo-controlled trial. Am J Gastroenterol 2002; 97: 1332-1339(ランダム)

— 63 —

②治療手段

20) Armstrong D, Talley NJ, Lauritsen K, et al. The role of acid suppression in patients with endoscopy-nega-tive reflux disease: the effect of treatment with esomeprazole or omeprazole. Aliment Pharmacol Ther2004; 20: 413-421(ランダム)

21) Damiano A, Siddique R, Xu X, et al. Reductions in symptom distress reported by patients with moderatelysevere, nonerosive gastroesophageal reflux disease treated with rabeprazole. Dig Dis Sci 2003; 48: 657-662

(ランダム)22) 本郷道夫,星原芳雄.ランソプラゾール(AG-1749)15mgおよび 30mgの非びらん性胃食道逆流症(NERD)

に対する第Ⅲ相臨床試験―多施設共同二重盲検プラセボ対照群間比較試験.薬理と治療 2008; 36: 655-671(ランダム)

23) Uemura N, Inokuchi H, Serizawa H, et al. Efficacy and safety of omeprazole in Japanese patients withnonerosive reflux disease. J Gastroenterol 2008; 43: 670-678(ランダム)

24) Kinoshita Y, Ashida K, Hongo M; The Japan Rabeprazole Study Group for NERD. Randomised clinicaltrial: a multicentre, double-blind, placebo-controlled study on the efficacy and safety of rabeprazole 5 mgor 10 mg once daily in patients with non-erosive reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 213-224

(ランダム)25) Tack J, Fass R. Review article: approaches to endoscopic-negative reflux disease: part of the GERD spec-

trum of a unique acid-related disorder? Aliment Pharmacol Ther 2004; 19 (Suppl 1): 28-34(メタ)26) Fass R. Epidemiology and pathophysiology of symptomatic gastroesophageal reflux disease. Am J Gas-

troenterol 2003; 98 (Suppl): S2-S7

— 64 —

解説

アルギン酸塩は,酸の GERを有意に抑制することが証明されており 1〜3),(Lancet 1974; 1: 109-111 a)[検索期間外文献]),また症状改善効果も認められている 4〜7).ただし,1日 4回あるいはそれ以上の投与が必要であり,重症例には適していない 6).制酸薬の連続投与試験での内視鏡的治癒率は,プラセボと有意な差はない 8, 9)と指摘されてい

るが,自覚症状においてはプラセボより改善が認められ 4, 10),その有用性が証明されている.ただし,制酸薬は酸中和薬であり作用発現は速やかであるが,大量投与されても約 30 分で胃排出されるためのちに分泌される胃液への制酸効果は期待できない 5).したがって,連続投与試験では 1日 7回投与が行われている 8, 9).症状発現が頻回で,QOLに支障をきたしている中等症や重症の GERD患者では制酸薬のみによる治療は現実的ではない.

文献

1) Castell DO, Dalton CB, Becker D, et al. Alginic acid decreases postprandial upright gastroesophagealreflux: comparison with equal-strength antacid. Dig Dis Sci 1992; 37: 589-593(ランダム)

2) Buts JP, Barudi C, Otte JB. Double-blind controlled study on the efficacy of sodium alginate (Gaviscon) inreducing gastroesophageal reflux assessed by 24h continuous pH monitoring in infants and children. Eur JPediatr 1987; 146: 156-158(ランダム)

3) Kwiatek MA, Roman S, Fareeduddin A, et al. An alginate-antacid formulation (Gaviscon Double ActionLiquid) can eliminate or displace the postprandial ‘acid pocket’ in symptomatic GERD patients. AlimentPharmacol Ther 2011; 34: 29-66(横断)

4) TranT, Lowry AM, El-Serag HB. Meta-analysis: the efficacy of over-the-counter gastro-oesophageal refluxdisease therapies. Aliment Pharmacol Ther 2006; 25: 143-153(メタ)

5) Mandel KG, Daggy BP, Brodie DA, et al. Review article: alginate-raft formulations in the treatment ofheartburn and acid reflux. Aliment Pharmacol Ther 2000; 14: 669-690(メタ)

6) Poynard T, Vernisse B, Agostini H. Randomized, multicentre comparison of sodium alginate and cisapridein the symptomatic treatment of uncomplicated gastroesophageal reflux. Aliment Pharmacol Ther 1998;12: 159-165(ランダム)

Clinical Question 4-44.内科的治療 ― ❷治療手段

アルギン酸塩,制酸薬は GERD の治療に有効か?

CQ 4-4 アルギン酸塩,制酸薬は GERD の治療に有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● アルギン酸塩,制酸薬は GERD の一時的症状改善に効果があり,使用することを提案する.

2(100%) B

— 65 —

②治療手段

7) Pouchain D, Bigard M-A, Liard F, et al. Gaviscon® vs. omeprazole in symptomatic treatment of moderategastroesophageal reflux: a direct comparative randomised trial. BMC Gastroenterol 2012; 12: 18-26(ランダム)

8) Graham DY, Patterson DJ. Double-blind comparison of liquid antacid and placebo in the treatment ofsymptomatic reflux esophagitis. Dig Dis Sci 1983; 28: 559-563(ランダム)

9) Grove O, Bekker C, Jeppe-Hansen MG, et al. Ranitidine and high-dose antacid in reflux oesophagitis: arandomized, placebo-controlled trial. Scand J Gastroenterol 1985; 20: 457-461(ランダム)

10) Weberg R, Berstad A. Symptomatic effect of a low-dose antacid regimen in reflux oesophagitis. Scand JGastroenterol 1989; 24: 401-406(ランダム)

【検索期間外文献】a) Stanciu C, Bennett JR. Alginate/ antacid in the reduction of gastro-oesophageal reflux. Lancet 1974; 1: 109-

111(ランダム)

— 66 —

解説

びらん性 GERDの初期治療について,PPIはH2RA,消化管運動機能改善薬より優れた症状改善ならびに食道粘膜傷害の治癒をもたらし 1〜5),H2RA単独や step-up治療と比較して効果が高く,PPI治療は費用対効果に優れている 6〜11).症状により診断された GERDの初期治療について PPIはH2RA,アルギン酸塩と比較して症

状の有意な改善が認められ 12〜14),オメプラゾールはラニチジンを第一選択とする step-up治療と比較して効果が高く,(ドイツの場合を除いて)費用は低額であった(有意差はなし)15).非びらん性 GERDの初期治療について,PPIは症状改善において消化管運動機能改善薬や

H2RAよりも優れている 16, 17),(Cochrane Database Syst Rev 2013; (5): CD002095 a)[検索期間外文献]).PPIと PPI+モサプリドの比較 18)では症状改善に有意差は認められていない.各 PPI間の直接比較を行った RCTでは,エソメプラゾールとオメプラゾールを比較した 1論

文を除いて,PPIの間で効果に有意の差はなく,びらん性 GERDの初期治療について,各 PPI

の間で効果に有意の差はみられない 2, 3, 19, 20),(日本消化器病学会雑誌 2013; 110: 234-242 b)[検索期間外文献]).投与早期の症状の寛解について,PPI間で差を認めるとする報告と認めないとする報告がみられ,一定の傾向はみられなかった 21〜27).

内視鏡的重症度と治癒率について,ランソプラゾール 30mg・8週間投与によるびらん性GERDの治癒率は,治療前のロサンゼルス分類 Grade Aで高く,Grade Cまたは Dでは有意に低いとする報告 28),ランソプラゾール 30mgおよびオメプラゾール 20mg・8週間投与では,治療前の内視鏡的重症度が高いほど,治癒率は低くなるとする報告 29)がある.したがって,びらん性 GERDの初期治療として通常行われている PPIの 8週間投与では,治療前の内視鏡的重症例では軽症例と比較して治癒しにくい傾向があることが示されている.PPIは肝の薬物代謝酵素チトクローム P450(CYP)2C19 の代謝を受ける.CYP2C19 には遺伝

子多型が存在し,酵素活性が遺伝子型により異なり,代謝活性の高い順に homozygous exten-

sive metabolizer(homEM),heterozygous extensive metabolizer(hetEM),poor metabolizer

Clinical Question 4-54.内科的治療 ― ❷治療手段

PPI は GERD の第一選択薬か?

CQ 4-5 PPI は GERD の第一選択薬か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD の初期治療において PPI は他剤と比較して優れた症状改善ならびに食道粘膜傷害の治癒をもたらし,費用対効果にも優れており,GERD の第一選択薬として使用することを推奨する.

1(100%) A

— 67 —

②治療手段

(PM)の 3群に分類される.ランソプラゾール 8週間投与によるびらん性 GERDの治癒率は,PMと homEMで有意差を認める,または PMと homEM,hetEMと homEMの間でそれぞれ有意差を認めるとする報告がみられる 28, 30).したがって,PPIによっては,8週間投与によるびらん性 GERDの治癒率は CYP2C19 遺伝子多型に影響を受けることが示されている.

文献

1) Chiba N, De Gara CJ, Wilkinson JM, et al. Speed of healing and symptom relief in grade Ⅱ to Ⅳ gastroe-sophageal reflux disease: a meta-analysis. Gastroenterology 1997; 112: 1798-1810(メタ)

2) Caro JJ, Salas M, Ward A. Healing and relapse rates in gastroesophageal reflux disease treated with thenewer proton-pump inhibitors lansoprazole, rabeprazole, and pantoprazole compared with omeprazole,ranitidine, and placebo: evidence from randomized clinical trials. Clin Ther 2001; 23: 998-1017(メタ)

3) Khan M, Santana J, Donnellan C, et al. Medical treatments in the short term management of refluxoesophgitis (review). Cochrane Databese Syst Rev 2007; (2): CD003244(メタ)

4) 川野 淳.逆流性食道炎に対する PPIとH2 受容体拮抗薬の無作為比較試験.Therapeutic Research 2000;21: 1330-1332(ランダム)

5) 羽生泰樹,清田啓介,浅田全範,ほか.軽症逆流性食道炎治療におけるオメプラゾールとファモチジンの無作為比較対照試験.新薬と臨床 2000; 49: 1072-1078(ランダム)

6) 羽生泰樹,大安一也,若松隆宏,ほか.胃食道逆流症治療の費用効果分析―プロトンポンプ阻害剤(PPI)とH2 受容体拮抗剤(H2RA)の比較評価.消化器科 2000; 30: 191-196(メタ)

7) 羽生泰樹,大安一也,若松隆宏,ほか.逆流性食道炎治療におけるコストベネフィット―プロトンポンプ阻害剤とH2 受容体拮抗剤の比較評価.日本臨床 2000; 58: 1881-1885(メタ)

8) 羽生泰樹.日本における逆流性食道炎治療の費用効果分析(I)PPI first strategyと Step-up strategy,(Ⅱ)維持療法における PPIとH2RAの比較評価.Therapeutic Research 2001; 22: 1067-1071(メタ)

9) 羽生泰樹,池浦 司,浦井俊二,ほか.Cost-effectivenessからみた逆流性食道炎治療.治療学 2003; 37:545-548(メタ)

10) Habu Y, Maeda K, Kusuda T, et al. “Proton-pump inhibitor-first” strategy versus “step-up” strategy for theacute treatment of reflux esophagitis: a cost-effectiveness analysis in Japan. J Gastroenterol 2005; 40: 1029-1035(メタ)

11) 羽生泰樹,渡邊能行,川井啓市.GERD治療の医療経済.Medicina 2005; 42: 22-24(メタ)12) 原澤 茂,三輪 剛,西元寺克禮,ほか.逆流性食道炎に対する Lansoprazoleの有用性の検討―H2-RA

とのクロスオーバー比較試験.Progress in Medicine 1999; 19: 931-939(ランダム)13) Haag S, Holtmann G. Onset of relief of symptoms of gastroesophageal reflux disease: post hoc analysis of

two previously published studies comparing pantoprazole 20 mg once daily with nizatidine or ranitidine150mg twice daily. Clin Ther 2010; 32: 678-690(メタ)

14) Pouchain D, Bigard M-A, Liard F, et al. Gaviscon® vs. omeprazole in symptomatic treatment of moderategastroesophageal reflux. a direct comparative randomised trial. BMC Gastroenterol 2012; 12: 18(ランダム)

15) Stalhammar NO, Carlsson J, Peacock R, et al. Cost effectiveness of omeprazole and ranitidine in intermit-tent treatment of symptomatic gastro-oesophageal reflux disease. Pharmacoeconomics 1999; 16: 483-497

(ランダム)16) 本郷道夫,星原芳雄.ランソプラゾール(AG-1749)15mgおよび 30mgの非びらん性胃食道逆流症(NERD)

に対する第Ⅲ相臨床試験―多施設共同二重盲検プラセボ対照群間比較試験.薬理と治療 2008; 36: 655-671(ランダム)

17) Kinoshita Y, Ashida K, Hongo M; The Japan Rabeprazole Study Group for NERD. Randomised clinicaltrial: a multicentre, double- blind, placebo-controlled study on the efficacy and safety of rabeprazole 5 mgor 10mg once daily in patients with non- erosive reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 213-224

(ランダム)18) Miwa H, Inoue K, Ashida K, et al; Japan TREND study group. Randomised clinical trial: efficacy of the

addition of a prokinetic, mosapride citrate, to omeprazole in the treatment of patients with non-erosivereflux disease: a double- blind, placebo-controlled study. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 323-332(ランダム)

19) Klok RM, Postma MJ, van Hout BA, et al. Meta-analysis: comparing the efficacy of proton pump inhibitors

— 68 —

4.内科的治療

in short-term use. Aliment Pharmacol Ther 2003; 17: 1237-1245(メタ)20) Raghunath AS, Green JR, Edwards SJ. A review of the clinical and economic impact of using esomeprazole

or lansoprazole for the treatment of erosive esophagitis. Clin Ther 2003; 25: 2088-2101(メタ)21) Pace F, Annese V, Prada A, et al. Rabeprazole is equivalent to omeprazole in the treatment of erosive gas-

tro-oesophageal reflux disease: a randomised, double-blind, comparative study of rabeprazole andomeprazole 20 mg in acute treatment of reflux oesophagitis, followed by a maintenance open-label, low-dose therapy with rabeprazole. Dig Liver Dis 2005; 37: 741-750(ランダム)

22) Bytzer P, Morocutti A, Kennerly P, et al. Effect of rabeprazole and omeprazole on the onset of gastro-oesophageal reflux disease symptom relief during the first seven days of treatment. Scand J Gastroenterol2006; 41: 1132-1140(ランダム)

23) 三浦幸彦,細井董三.逆流性食道炎患者を対象にした服薬日誌による PPI 7 日間投与における自覚症状改善の比較.消化器科 2006; 42: 227-234(ランダム)

24) Eggleston A, Katelaris PH, Nandurkar S, et al. Clinical trial: the treatment of gastro-oesophageal refluxdisease in primary care: prospective randomized comparison of rabeprazole 20 mg with esomeprazole 20and 40mg. Aliment Pharmacol Ther 2009; 29: 967-978(ランダム)

25) Zheng R-N. Comparative study of omeprazole, lansoprazole, pantoprazole and esomeprazole for symp-tom relief in patients with reflux esophagitis. World J Gastroenterol 2009; 15: 990-995(ランダム)

26) Hein J. Comparison of the efficacy and safety of pantoprazole magnesium and pantoprazole sodium in thetreatment of gastro- oesophageal reflux disease: a randomized, double- blind, controlled, multicentre trial.Clin Drug Investig 2011; 31: 655-664(ランダム)

27) Pace F, Coudsy B, DeLemos B, et al. Does BMI affect the clinical efficacy of proton pump inhibitor therapyin GERD? the case for rabeprazole. Eur J Gastroenterol Hepatol 2011; 23: 845-851(ランダム)

28) 古田隆久,白井直人,杉本光繁,ほか.CYP2C19 遺伝子多型の Lansoprazoleによる GERD治療への影響.Therapeutic Research 2004; 25: 844-849(コホート)

29) Mee AS, Rowley JL. Rapid symptom relief in reflux oesophagitis: a comparison of lansoprazole andomeprazole. Aliment Pharmacol Ther 1996; 10: 757-763(ランダム)

30) 川村昌司,大原秀一,小池智幸,ほか.PPI による逆流性食道炎の初期治療における薬剤代謝酵素CYP2C19 遺伝子多型の影響に関する検討.Therapeutic Research 2004; 25: 837-843(コホート)

【検索期間外文献】a) Sigterman KE, van Pinxteren B, Bonis PA, et al. Short-term treatment with proton pump inhibitors, H2-

receptor antagonists and prokinetics for gastro-oesophageal reflux disease-like symptoms and endoscopynegative reflux disease. Cochrane Database Syst Rev 2013; (5): CD002095(メタ)

b) 木下芳一,三輪洋人,春日井邦夫.逆流性食道炎初期治療に対するエソメプラゾールの有効性の検討―オメプラゾールを対照とした無作為化二重盲検比較試験.日本消化器病学会雑誌 2013; 110: 234-242(ランダム)

— 69 —

解説

消化管運動機能改善薬,漢方薬の単独療法を推奨するエビデンスはない 1, 2).また,海外の報告では標準量の PPIと消化管運動機能改善薬(シサプリド:副作用のため発売中止)との併用による治癒率や症状寛解率に有意な上乗せ効果は認められていない 3, 4).近年,日本において行われた非びらん性 GERDに対する臨床試験において,モサプリド(消化管運動機能改善薬)には有意ではないが PPIとの併用による上乗せ効果が認められている 5).また,PPI抵抗性 GERDを対象とした試験において,六君子湯と PPIの併用は PPI倍量投与と同様の上乗せ効果が認められており 6),PPI単独療法で効果不十分な場合にはこれらの薬剤を併用してみる意義はある.

文献

1) Khan M, Santana J, Donnellan C, et al. Medical treatments in the short term management of refluxoesophgitis (review). Cochrane Databese Syst Rev 2007; (2): CD003244(メタ)

2) van Pinxteren B, Numans ME, Bonis PA, et al. Short-term treatment with proton pump inhibitors, H2-receptor antagonists and prokinetics for gastro-oesophageal reflux disease-like symptoms and endoscopynegative reflux disease (review). Cochrane Databese Syst Rev 2006; (3): CD002095(メタ)

3) von Rensburg CJ, Bardhan KD. No clinical benefit of adding cisapride to pantoprazole for treatment ofgastro-oesophageal reflux disease. Eur J Gastroenterol Hepatol 2001; 13: 909-914(ランダム)

4) Hsu Y-C, Yang T-H, Hsu W-L, et al. Mosapride as an adjunct to lansoprazole for symptom relief of refluxoesophagitis. Br J Clin Pharmacol 2010; 70: 171-179(ランダム)

5) Miwa H, Inoue K, Ashida K, et al; Japan TREND study group. Randomised clinical trial: efficacy of theaddition of a prokinetic, mosapride citrate, to omeprazole in the treatment of patients with non-erosivereflux disease: a double- blind, placebo-controlled study. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 323-332(ランダム)

6) Tominaga K, Iwakiri R, Fujimoto K, et al. Rikkunshito improves symptoms in PPI-refractory GERDpatients: a prospective, randomized, multicenter trial in Japan. J Gastroenterol 2012; 47: 284-292(ランダム)

Clinical Question 4-64.内科的治療 ― ❷治療手段

消化管運動機能改善薬,漢方薬など PPI との併用で上乗せ効果が期待できる薬剤はあるか?

CQ 4-6 消化管運動機能改善薬,漢方薬など PPI との併用で上乗せ効果が期待できる薬剤はあるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 消化管運動機能改善薬,漢方薬などは単独療法の有用性を指示するエビデンスはないが,PPI との併用により症状改善効果が得られることがあり,使用することを提案する.

2(100%) C

— 70 —

解説

PPIは GERD治療に高い有効性を示し,広く臨床において用いられるようになったが,近年,GERDの一部に PPI治療に抵抗するものがあること 1〜10),また PPI抵抗例では QOLが低下し,労働損失も存在することが報告されている 11, 12).標準量の PPI治療に反応しない患者でも,倍量投与により食道粘膜傷害の治癒および症状消

失が得られるとする報告がみられ 13),常用量の PPIの 1日 1回投与で十分なコントロールが得られない場合の現実的な対応として推奨されてきた.PPI抵抗性のびらん性 GERDに対して,ラベプラゾール 20mg・1日 2回投与,ラベプラゾール 10mg・1日 2回投与,ラベプラゾール20mg・1日 1回投与(8週)の RCTが行われ,ラベプラゾール 20mg・1日 2回投与,ラベプラゾール 10mg・1日 2回投与はラベプラゾール 20mg・1日 1回投与と比較して有意に内視鏡的治癒率,症状改善率が高く,ロサンゼルス分類 Grade C,D例では,ラベプラゾール 20mg・1日 2回投与が,ラベプラゾール 10mg・1日 2回投与,ラベプラゾール 20mg・1日 1回投与と比較して有意に内視鏡的治癒率が高いことが示されている 14).この結果を受けて,ラベプラゾールについては,2010 年 12 月より,PPIによる治療で効果不十分なびらん性 GERDにおいて,10mg・1日 2回,重度の粘膜傷害を有する場合では 20mg・1日 2回のそれぞれ 8週間の投与が保険適用となっている.

常用量 PPIで症状の残存するびらん性 GERDに対して,PPIの種類の変更により,一部の症例で症状改善を認めたとする観察研究 15, 16),強皮症合併例で六君子湯の追加投与により,一部の症例で症状改善を認めたとする観察研究 17)が報告されている.

就寝前のH2RAの追加投与は,nocturnal gastric acid breakthrough(NAB)の抑制効果があることが明らかになっているが,これが GERD患者の症状改善や QOL改善に寄与するか否かは

Clinical Question 4-74.内科的治療 ― ❷治療手段

常用量の PPI で効果が不十分な場合はどうするか?

CQ 4-7 常用量の PPI で効果が不十分な場合はどうするか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 常用量の PPI の 1 日 1 回投与にもかかわらず食道粘膜傷害が治癒しない,もしくは強い症状を訴える場合には PPI の倍量・1 日 2回投与を行うことを推奨する.

1(92.3%) A

● 常用量の PPI で効果が不十分な場合,PPI の種類の変更,モサプリドの追加投与,六君子湯の追加投与,就寝時の H2RA 追加投与を行うことを提案する.

2(100%) C

— 71 —

②治療手段

十分に検討されていない.この方法により,長期に症状のコントロールが可能であったとする報告 18)がみられる一方,H2RAの夜間分泌に対する耐性は 1週間程度で発現するため,長期投与ではNAB抑制の効果が減弱することも指摘されている 19).PPIとH2RAの同時併用投与が保険診療上認められるか否かについては,個々の症例においての各都道府県の国民健康保険あるいは社会保険支払い基金の判断にゆだねられているのが現状である.PPI抵抗性 GERDに対する対応について,以下の非盲検 RCTが報告されている.ランソプラ

ゾール 30mg抵抗性 GERDに対して,オメプラゾール 40mg・1日 1回投与,ランソプラゾール 30mg・1日 2回投与(6週)の RCTが行われ,症状改善スコア,日中および夜間の胸やけ,呑酸のいずれも両群で有意差を認めていない 20).オメプラゾール 20mg抵抗性 GERDに対して,オメプラゾール 20mg・1日 2回投与とオメプラゾール 20mg・1日 1回投与+鍼療法(4週)のRCTが行われ,日中および夜間の胸やけの改善はオメプラゾール 20mg・1日 1回投与+鍼療法群が有意に優れており,SF-36 の全体的健康感はオメプラゾール 20mg・1日 1回投与+鍼療法群のみで有意の改善を認めたとされている 21).ラベプラゾール 10mg抵抗性 GERDに対して,ラベプラゾール 20mg・1日 1回投与とラベプラゾール 10mg・1日 1回+六君子湯 2.5g・1日3回投与の RCTが行われ,症状スコアは両群とも有意に低下(群間有意差なし)を認めたが,男性の非びらん性 GERD患者では,六君子湯併用群が PPI倍量群と比較して改善率で有意に優れていたとされている 22).PPI抵抗性 GERDに対して,PPIの増量 23),PPIの種類の変更 24, 25),モサプリドの追加投与 1, 26),

バクロフェンの追加投与 27)により,一部の症例で症状改善を認めたとする観察研究が報告されている.PPI治療で症状が十分に改善しない非びらん性 GERDへの対応については,ランソプラゾー

ル 15mg治療に抵抗する非びらん性 GERDに対して,レバミピド 100mg・1日 3回投与,プラセボ 1日 3回投与(4週)の RCTが行われ,症状スコアは,両群で有意差を認めなかったと報告されている 28).PPI治療で症状が十分に改善しない非びらん性 GERDに対して,PPIの増量 29),モサプリドの

追加投与 30, 31),六君子湯の追加投与 32)により,一部の症例で症状改善を認めたとする観察研究が報告されている.さらに,神経症圏の PPI治療に抵抗する非びらん性 GERDでは,食道機能検査による治療法の選択が有効なものと精神科診療を要するものがある,とする観察研究も報告されている 33).十分量の薬物治療に抵抗する症例では,24 時間食道インピーダンス・pHモニタリングなど

による病態の評価が望ましい.

文献

1) Miyamoto M, Haruma K, Takeuchi K, et al. Frequency scale for symptoms of gastroesophageal reflux dis-ease predicts the need for addition of prokinetics to proton pump inhibitor therapy. J Gastroenterol Hepa-tol 2008; 23: 746-751(コホート)

2) Chey WD, Mody RR, Wu EQ, et al. Treatment patterns and symptom control in patients with GERD: UScommunity-based survey. Curr Med Res Opin 2009; 25: 1869-1878(横断)

3) El-Serag H, Becher A, Jones R. Systematic review: persistent reflux symptoms on proton pump inhibitortherapy in primary care and community studies. Aliment Phamacol Ther 2010; 32: 720-737(メタ)

4) Chey WD, Mody RR, Izat E. Patient and physician satisfaction with proton pump inhibitors (PPIs): are

— 72 —

4.内科的治療

there opportunities for improvement? Dig Dis Sci 2010; 55: 3415-3422(横断)5) Gerson LB, Bonafede M, Princic N, et al. Development of a refractory gastro-oesophageal reflux score

using an administrative claims database. Aliment Phamacol Ther 2011; 34: 555-567(横断)6) 徳永健吾,田中昭文,土岐真朗,ほか.逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害薬治療の満足度実態調

査―日本語版 GerdQ問診票を用いた検討.医学と薬学 2011; 66: 103-109(横断)7) 古家 乾,関谷千尋,定岡邦昌,ほか.実地医家における逆流性食道炎治療の実態調査―患者の症状コン

トロールの実態.医学と薬学 2011; 66: 681-686(横断)8) 齋藤壽仁,川崎孝広,木村綾子,ほか.逆流性食道炎患者に対する PPIの治療実態.診療と新薬 2011; 48:

1143-1147(横断)9) Ruigomez A, Johansson S, Wernersson B, et al. Gastroesophageal reflux disease in primary care: using

changes in proton pump inhibitor therapy as an indicator of partial response. Scand J Gastroenterol 2012;47: 751-761(ケースコントロール)

10) 小池智幸,中川健一郎,岩井 渉,ほか.胃食道逆流症(GERD)患者に対する PPI治療の実態調査.医学と薬学 2012; 67: 449-454(横断)

11) van der Velden AW, de Wit NJ, Quartero AO, et al. Maintenance treatment for GERD: residual symptomsare associated with psychological distress. Digestion 2008; 77: 207-213(横断)

12) Toghanian S, Johnson DA, Stalhammar N-O, et al. Burden of gastro-oesophageal reflux disease in patientswith persistent and intense symptoms despite proton pump inhibitor therapy: a post hoc analysis of the2007 national health and wellness survey. Clin Drug Invest 2011; 31: 703-715(横断)

13) Holloway RH, Dent J, Narielvala F, et al. Relation between oesophageal acid exposure and healing ofoesophagitis with omeprazole in patients with severe reflux oesophagitis. Gut 1996; 38: 649-654(コホート)

14) Kinoshita Y, Hongo M, Mitsui S, et al. Efficacy of twice-daily rabeprazole for reflux esophagitis patientsrefractory to standard once-daily administration of PPI: the Japan-based TWICE study. Am J Gastroen-terol 2012; 107: 522-530(ランダム)

15) 竹内 基,平野直樹,伊藤 謙,ほか.プロトンポンプ阻害薬治療抵抗性の逆流性食道炎患者の治療方法の検討―オメプラゾール 20mg/日への治療薬の変更による症状改善効果に関する研究.医学と薬学 2010;64: 397-403(コホート)

16) 長見晴彦.エソメプラゾール切り替え投与における症状消失率および治療有効率の検討―高齢者逆流性食道炎患者における治療効果と患者背景因子との関連.Therapeutic Research 2012; 33: 265-277(コホート)

17) 長谷川道子,永井弥生,石川 治.強皮症に伴う胃食道逆流症に対する六君子湯の使用経験.皮膚科の臨床 2011; 53: 1767-1770(コホート)

18) Adachi K, Komazawa Y, Mihara T, et al. Administration of H2 receptor antagonist with proton pumpinhibitor is effective for long-term control of refractory reflux esophagitis. J Clin Gastroenterol 2004; 38:297-298(コホート)

19) Fackler WK, Ours TM, Vaezi MF, et al. Long-term effect of H2RA therapy on nocturnal gastric acid break-through. Gastroenterology 2002; 122: 625-632(コホート)

20) Fass R, Murthy U, Hayden CW, et al. Omeprazole 40 mg once a day is equally effective as lansoprazole 30mg twice a day in symptom control of patients with gastro- oesophageal reflux disease (GERD) who areresistant to conventional-dose lansoprazole therapy-a prospective, randomized, multi-centre study. Ali-ment Phamacol Ther 2000; 14: 1595-1603(ランダム)

21) Dickman R, Schiff E, Holland A, et al. Clinical trial: acupuncture vs. doubling the proton pump inhibitordose in refractory heartburn. Aliment Phamacol Ther 2007; 26: 1333-1344(ランダム)

22) Tominaga K, Iwakiri R, Fujimoto K, et al. Rikkunshito improves symptoms in PPI-refractory GERDpatients: a prospective, randomized, multicenter trial in Japan. J Gastroenterol 2012; 47: 284-292(ランダム)

23) Furuta T, Shimatani T, Sugimoto M, et al. Investigation of pretreatment prediction of proton pumpinhibitor (PPI)-resistant patients with gastroesophageal reflux disease and the dose escalation challenge ofPPIs-TORNADO study: a multicenter prospective study by the Acid-Related Symptom Research Group inJapan. J Gastroenterol 2011; 46: 1273-1283(コホート)

24) 石田 誠,池田宣聖,松田和也,ほか.PPI抵抗性 GERDにおけるラベプラゾールナトリウム 10mgの有用性.消化器の臨床 2008; 11: 452-459(コホート)

25) Hoogendoorn RJ, Groeneveld L, Kwee JA. Patient satisfaction with switching to esomeprazole from exist-ing proton pump inhibitor therapy for gastro-oesophageal reflux disease: an observational, multicentrestudy. Clin Drug Invest 2009; 29: 803-810(コホート)

26) 山本佳洋.PPI抵抗性 GERD患者に対する PPIと消化管運動機能改善剤のコンビネーション治療の検討.診断と治療 2008; 96: 2587-2591(コホート)

— 73 —

②治療手段

27) Koek GH, Sifrim D, Lerut T, et al. Effect of the GABA(B) agonist baclofen in patients with symptoms andduodeno-gastro-oesophageal reflux refractory to proton pump inhibitors. Gut 2003; 52: 1397-1402(コホート)

28) Adachi K, Furuta K, Miwa H, et al. A study on the efficacy of rebamipide for patients with proton pumpinhibitor-refractory non-erosive reflux disease. Dig Dis Sci 2012; 57: 1609-1617(ランダム)

29) Sugimoto M, Nishino M, Kodaira C, et al. Characteristics of non-erosive gastroesophageal reflux diseaserefractory to proton pump inhibitor therapy. World J Gastroenterol 2011; 17: 1858-1865(コホート)

30) Futagami S, Iwakiri K, Shindo T, et al. The prokinetic effect of mosapride citrate combined with omepra-zole therapy improves clinical symptoms and gastric emptying in PPI-resistant NERD patients withdelayed gastric emptying. J Gastroenterol 2010; 45: 413-421(コホート)

31) Miyamoto M, Manabe N, Haruma K. Efficacy of the addition of prokinetics for proton pump inhibitor(PPI) resistant non-erosive reflux disease (NERD) patients: significance of frequency scale for the symptomof GERD (FSSG) on decision of treatment strategy. Intern Med (Tokyo, Japan) 2010; 49: 1469-1476(コホート)

32) 尾高健夫.消化管における漢方を科学する―消化管と呼吸器・免疫・アレルギーの接点―非びらん性胃食道逆流症と六君子湯.漢方と免疫・アレルギー 2010; 23: 106-124(非ランダム)

33) 舟木 康,小長谷敏浩,徳留健太郎,ほか.神経症圏と診断されたプロトンポンプ不応性非びらん性胃食道逆流症の病態と治療経過.消化器心身医学 2009; 16: 98-102(コホート)

— 74 —

解説

1)維持療法びらん性 GERDの維持療法において,PPIはH2RAより優れた症状寛解維持ならびに食道粘

膜傷害の再発抑制効果を示し 1〜5),費用対効果に優れている 6〜9).PPI維持療法は,治療開始後 5年間の検討では,外科手術と比較しても費用対効果に優れていることも報告されている 10).また,長期の有効性についても多数の報告がある 11〜15).PPIの用量については,常用量は半量と比較して再発抑制効果が有意に高いことが示されてい

る 2, 16).PPI半量維持療法は費用対効果に優れているが,半量でコントロールが不十分な場合に常用量で維持療法を行うことは,患者の支払い意志の点から合理性があることも示されている 6〜8).CYP2C19 遺伝子多型の影響について,ランソプラゾール 15mg維持療法において,homEM

では,hetEM,PMと比較して有意に再発率が高いとする報告,homEM,hetEMと PMの間で再発に有意差を認めるとする報告がみられる 17, 18).したがって PPI によっては,再発率は

Clinical Question 4-84.内科的治療 ― ❷治療手段

GERD の長期治療戦略は何か? 維持療法,間欠療法,オンデマンド療法,ステップダウン療法はどう使い分けるか?

CQ 4-8 GERD の長期治療戦略は何か? 維持療法,間欠療法,オンデマンド療法,ステップダウン療法はどう使い分けるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● PPI による維持療法は最も効果が高く,費用対効果に優れており,GERD の維持療法には PPI を用いることを推奨する.

1(100%) A

● 重症のびらん性 GERD では積極的に維持療法を行うことを推奨する.

1(100%) B

● 粘膜傷害が軽度のびらん性 GERD の一部には,オンデマンド療法で症状コントロール可能な場合があり,長期管理においては症状コントロールを適宜評価し,必要に応じた最小限の用量,用法の使用を提案する.

2(100%) B

● PPI 初期治療に反応する非びらん性 GERD の長期管理についてはPPI によるオンデマンド療法を提案する.

2(92.3%) B

● GERD の長期管理について,患者の視点から,効果(症状の寛解),安全性,費用,剤形(服用しやすさ),服用回数なども考慮することを提案する.

2(100%) C

— 75 —

②治療手段

CYP2C19 遺伝子多型に影響を受けることが示されている.他の維持療法薬として,粘膜保護薬であるレバミピド(逆流性食道炎に対して保険適用なし)

について,ランソプラゾール 15mgとともに投与するとランソプラゾール 15mg単独と比較して有意に症状再発が少なかったとする少数例(n=41)の open studyが報告されている 19).

内視鏡的に重症のびらん性 GERDでは,維持療法を行わなければ再発はほぼ確実であり 20),維持療法の再発防止による医療費の節減効果も高く,特に費用対効果に優れていることが報告されており 21),重症のびらん性 GERDでは積極的な維持療法が推奨される.症状により診断された GERDの維持療法についても,オメプラゾールはラニチジンと比較し

て効果が高く,直接医療費はほぼ同一で総医療費は低額であったとする報告 22)がある.

2)オンデマンド療法PPI初期治療に反応する非びらん性 GERDや軽症のびらん性 GERDの長期管理については,

PPIによるオンデマンド療法について検討が行われている.オンデマンド療法とは,いったん症状が消失したのち,胸やけなどの症状が再発した場合に内服を再開し,症状が消失すれば服薬を終了するもので,患者が「必要に応じて」服薬する治療法である.PPI初期治療に反応する非びらん性 GERDの管理(6〜12 ヵ月間)について,オメプラゾール

20mgまたは 10mg 23),エソメプラゾール 20mg 24, 25),ラベプラゾール 10mg 26),ラベプラゾール20mg 27)によるオンデマンド療法は,プラセボより効果が高いとする報告がみられる.他剤との比較では,ランソプラゾール 15mgはラニチジン 75mgによるオンデマンド療法より効果が高いとする報告がみられる 28).費用対効果の点では,エソメプラゾール 20mgによるオンデマンド療法は,ランソプラゾール 15mgの維持療法より効果が高く,かつ直接費用は 36%少なかったとする報告 29),オメプラゾール 10mgまたは 20mgによるオンデマンド療法は間欠療法と比較して効果が高く,費用の増分は患者の支払い意志の点から合理性があるとする報告 30)がある.症状により診断され,PPI初期治療に反応する GERDの管理(6ヵ月間)について,ランソプ

ラゾール15mgによるオンデマンド療法は,プラセボより効果が高いとする報告 31),エソメプラゾール20mgによるオンデマンド療法は,ラニチジン 300mg維持療法より寛解維持に優れていたとする報告 32),オメプラゾールによるオンデマンド療法は,維持療法には劣るものの,前治療と比較して症状,QOLを改善したとする報告 33)がある.費用については,エソメプラゾール20mgによるオンデマンド療法は,エソメプラゾール20mg維持療法,ラニチジン 300mg維持療法より直接医療費は低額であったとする報告 32),エソメプラゾール 20mgによるオンデマンド療法は,エソメプラゾール 40mg間欠療法より総医療費は低額であったとする報告 34),エソメプラゾール20mgによるオンデマンド療法は,エソメプラゾール20mg維持療法と比較して,間接費用,労働損失では有意の差がなく,直接医療費は有意に低額であったとする報告 35)がある.

3)長期管理戦略の選択GERDの長期管理戦略の選択について,PPI治療に反応した非びらん性 GERD,ロサンゼル

ス分類 Grade A,Bのびらん性 GERD患者に対して,オメプラゾール 20mgによるオンデマンド療法とオメプラゾール 10mg維持療法の RCT(12 ヵ月間)が行われ,症状再発については,維持療法群がオンデマンド療法群と比較して有意に少なかった(34.9% vs. 15.3%,p<0.05)が,QOLについては有意の差を認めなかったとされる 36).また,維持療法の既往のあるロサンゼルス分類 Grade C,Dを除く GERD患者に対して,プラセボ 1日 1回投与+pantoprazole(国内未

— 76 —

4.内科的治療

承認)オンデマンド投与群と pantoprazole 1 日 1 回投与+プラセボオンデマンド投与群の RCT

(6ヵ月間)が行われ,プラセボ 1日 1回投与+pantoprazoleオンデマンド投与群のうち,19%が症状制御困難で脱落,38%が 1日 1回投与,10%が 1日 1回以上の PPIの投与を要したが,33%が 2〜6錠/週の PPIで管理可能であった.終了時の症状,QOLは,PPIの投与量によらず,pantoprazole 1 日 1 回投与+プラセボオンデマンド投与群とも有意の差を認めなかったとされる 37).したがって,PPI初期治療に反応する非びらん性 GERDや軽症のびらん性 GERDの長期管理について,PPIによるオンデマンド療法の有用性が示唆されている.

4)患者の視点・好みGERD患者に対するアンケート調査において,患者は,効果(症状の寛解),安全性,費用,

剤形(服用しやすさ),服用回数などを重視していた 38).剤形については,小型の錠剤が,飲みやすさの点で優れているとする報告がみられた 38, 39).また,すでに多くの患者が支払額に負担を感じている一方,十分な症状改善が得られない患者では,症状が改善するのであればさらに医療費の追加支払い意志が存在することも報告されている 38).PPIは初期治療,長期管理において高い患者満足度を示し,他剤より優れていたとする報告もみられる 40〜42).

文献

1) Caro JJ, Salas M, Ward A. Healing and relapse rates in gastroesophageal reflux disease treated with thenewer proton-pump inhibitors lansoprazole, rabeprazole, and pantoprazole compared with omeprazole,ranitidine, and placebo: evidence from randomized clinical trials. Clin Ther 2001; 23: 998-1017(メタ)

2) Donnellan C, Sharma N, Preston C, et al. Medical treatments for the maintenance therapy of refluxoesophagitis and endoscopic negative reflux disease. Cochrane Database Syst Rev 2005; 2: CD003245(メタ)

3) 遠藤光夫,関口利和,中村孝司,ほか.H2 受容体拮抗剤抵抗性の逆流性食道炎に対する AG-1749 の臨床的有用性の検討(第 2報)―維持効果の検討.臨床成人病 1999; 29: 959-977(ランダム)

4) 関口利和,遠藤光夫,本郷道夫,ほか.H2 受容体拮抗剤抵抗性の逆流性食道炎に対する Omeprazoleの臨床評価(第 2報)―再発予防効果と安全性の検討.臨床医薬 2000; 16: 1387-1404(ランダム)

5) 維持療法期の試験成績.新薬承認情報集平成 15 年No.18 ラベプラゾールナトリウム,薬事日報社,東京,2003: p70-87(ランダム)

6) 羽生泰樹.日本における逆流性食道炎治療の費用効果分析(I)PPI first strategyと Step-up strategy,(Ⅱ)維持療法における PPIとH2RAの比較評価.Therapeutic Research 2001; 22: 1067-1071(メタ)

7) 羽生泰樹,池浦 司,浦井俊二,ほか.Cost-effectivenessからみた逆流性食道炎治療.治療学 2003; 37:545-548(メタ)

8) 羽生泰樹,吉野琢哉,塩せいじ,ほか.GERDの維持療法―PPIとH2RAの役割と領域.日本臨床 2004;62: 1504-1509(メタ)

9) 羽生泰樹,渡邊能行,川井啓市.GERD治療の医療経済.Medicina 2005; 42: 22-24(メタ)10) 羽生泰樹,青井一憲,高橋和人,ほか.GERDの維持療法における選択肢としての外科手術の評価―費用

対効果の観点から.消化器内科 2010; 50: 222-225(メタ)11) Caos A, Breiter J, Perdomo C, et al. Long-term prevention of erosive or ulcerative gastro-oesophageal

reflux disease relapse with rabeprazole 10 or 20 mg vs. placebo: results of a 5-year study in the UnitedStates. Aliment Pharmacol Ther 2005; 22: 193-202(ランダム)

12) Lundell L, Miettinen P, Myrvold HE, et al. Comparison of outcomes twelve years after antireflux surgeryor omeprazole maintenance therapy for reflux esophagitis. Clin Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 1292-1298

(ランダム)13) Kovacs TO, Freston JW, Haber MM, et al. Long-term efficacy of lansoprazole in preventing relapse of ero-

sive reflux esophagitis. Dig Dis Sci 2009; 54: 1693-1701(コホート)14) Fujimoto K, Hongo M, Yabana T, et al. Risk factors for relapse of erosive GERD during long-term mainte-

nance treatment with proton pump inhibitor: a prospective multicenter study in Japan. J Gastroenterol

— 77 —

②治療手段

2010; 45: 1193-1200(コホート)15) Galmiche J-P, Hatlebakk J, Attwood S, et al. Laparoscopic antireflux surgery vs esomeprazole treatment

for chronic GERD: the LOTUS randomized clinical trial. JAMA 2011; 305: 1969-1977(ランダム)16) 木下芳一,古田賢司,越野健司.逆流性食道炎患者の維持療法に対するプロトンポンプ阻害薬の至適用量

に関するメタアナリシス.医薬ジャーナル 2009; 45: 1657-1665(メタ)17) Furuta T, Sugimoto M, Kodaira C, et al. CYP2C19 genotype is associated with symptomatic recurrence of

GERD during maintenance therapy with low-dose lansoprazole. Eur J Clin Pharmacol 2009; 65: 693-698(コホート)

18) 小池智幸,海上寛之,堀井 享,ほか.逆流性食道炎の維持療法.消化器内科 2010; 50: 191-195(コホート)

19) Yoshida N, Kamada K, Tomatsuri N, et al. Management of recurrence of symptoms of gastroesophagealreflux disease: synergistic effect of rebamipide with 15 mg lansoprazole. Dig Dis Sci 2010; 55: 3393-3398

(ランダム)20) Carlsson R, Galmiche JP, Dent J, et al. Prognostic factors influencing relapse of oesophagitis during main-

tenance therapy with antisecretory drugs: a meta-analysis of long-term omeprazole trials. Aliment Phar-macol Ther 1997; 11: 473-482(メタ)

21) 羽生泰樹,池浦 司,塩せいじ,ほか.内視鏡所見に基づいた逆流性食道炎治療の費用効果分析.消化器科 2003; 36: 46-50(メタ)

22) Kaplan-Machlis B, Spiegler GE, Zodet MW, et al. Effectiveness and costs of omeprazole vs ranitidine fortreatment of symptomatic gastroesophageal reflux disease in primary care clinics in West Virginia. ArchFamMed 2000; 9: 624-630(メタ)

23) Lind T, Havelund T, Lundell L, et al. On demand therapy with omeprazole for the long-term managementof patients with heartburn without oesophagitis: a placebo-controlled randomized trial. Aliment Pharma-col Ther 1999; 13: 907-914(ランダム)

24) Talley NJ, Lauritsen K, Tunturi-Hihnala H, et al. Esomeprazole 20 mg maintains symptom control inendoscopy-negative gastro-oesophageal reflux disease: a controlled trial of ‘on-demand’ therapy for 6months. Aliment Pharmacol Ther 2001; 15: 347-354(ランダム)

25) Talley NJ, Venables TL, Green JR, et al. Esomeprazole 40 mg and 20 mg is efficacious in the long-termmanagement of patients with endoscopy-negative gastro-oesophageal reflux disease: a placebo-controlledtrial of on-demand therapy for 6months. Eur J Gastroenterol Hepatol 2002; 14: 857-863(ランダム)

26) Bytzer P, Blum A, De Herdt D, et al. The Trial Investigators. Six-month trial of on-demand rabeprazole 10mg maintains symptom relief in patients with non-erosive reflux disease. Aliment Pharmacol Ther 2004;20: 181-188(ランダム)

27) Fass R; Delemos B; Nazareno L, et al. Clinical trial: maintenance intermittent therapy with rabeprazole 20mg in patients with symptomatic gastro-oesophageal reflux disease: a double- blind, placebo-controlled,randomized study. Aliment Phamacol Ther 2010; 31: 950-960(ランダム)

28) Juul-Hansen P, Rydning A. On-demand requirements of patients with endoscopy-negative gastro-oesophageal reflux disease: H2-blocker vs. proton pump inhibitor. Aliment Phamacol Ther 2009; 29: 207-212(ランダム)

29) Tsai HH, Chapman R, Shepherd A, et al. Esomeprazole 20 mg on-demand is more acceptable to patientsthan continuous lansoprazole 15 mg in the long-term maintenance of endoscopy-negative gastro-oesophageal reflux patients: the COMMAND Study. Aliment Pharmacol Ther 2004; 20: 657-665(メタ)

30) 羽生泰樹,前田和男,楠田武生,ほか.症候性 GERD治療の費用対効果分析.消化器科 2005; 40: 286-290(メタ)

31) Bigard MA, Genestin E. Treatment of patients with heartburn without endoscopic evaluation: on-demandtreatment after effective continuous administration of lansoprazole 15 mg. Aliment Pharmacol Ther 2005;22: 635-643(ランダム)

32) Norman Hansen A, Bergheim R, Fagertun H, et al. A randomised prospective study comparing the effec-tiveness of esomeprazole treatment strategies in clinical practice for 6 months in the management ofpatients with symptoms of gastroesophageal reflux disease. Int J Clin Pract 2005; 59: 665-671(ランダム)

33) 原田容治,家冨克之,岩崎至利,ほか.胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease: GERD)に対するProton Pump Inhibitor(PPI)であるオメプラゾールによる On-demand療法の有用性.新薬と臨床 2007;56: 425-436(コホート)

34) Meineche-Schmidt V, Juhl HH, Ostergaard JE, et al. Costs and efficacy of three different esomeprazoletreatment strategies for long-term management of gastro-oesophageal reflux symptoms in primary care.Aliment Pharmacol Ther 2004; 19: 907-915(ランダム)

35) Szucs T, Thalmann C, Michetti P, et al. Cost analysis of long-term treatment of patients with symptomatic

— 78 —

4.内科的治療

gastroesophageal reflux disease (GERD) with esomeprazole on-demand treatment or esomeprazole con-tinuous treatment: an open, randomized, multicenter study in Switzerland. Value Health 2009; 12: 273-281

(ランダム)36) Tepes B, Stabuc B, Kocijancic B, et al. Maintenance therapy of gastroesophageal reflux disease patients

with omeprazole. Hepatogastroenterology 2009; 56: 67-74(ランダム)37) van der Velden AW, de Wit NJ, Quartero AO, et al. Pharmacological dependency in chronic treatment of

gastroesophageal reflux disease: a randomized controlled clinical trial. Digestion 2010; 81: 43-52(ランダム)

38) 羽生泰樹.逆流性食道炎治療に関する実態調査―逆流性食道炎患者と医師へのアンケート調査から.ProgMed 2004; 24: 1133-1145(横断)

39) 長見晴彦,中山信一,藤邑俊克,ほか.逆流性食道炎患者を対象としたオメプラゾール錠とランソプラゾール口腔内崩壊錠の患者満足度調査.Prog Med 2007; 27: 1007-1013(コホート)

40) 佐藤信紘,大草敏史,三田地泰司,ほか.再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎患者へのオメプラゾール錠投与 1ヵ月後の患者満足度の評価―患者自己記入式調査票による満足度調査.薬理と治療2003; 31: 163-175

(コホート)41) Ponce J, Arguello L, Bastida G, et al. On-demand therapy with rabeprazole in nonerosive and erosive gas-

troesophageal reflux disease in clinical practice: effectiveness, health-related quality of life, and patient sat-isfaction. Dig Dis Sci 2004; 49: 931-936(コホート)

42) van Zanten SJ, Henderson C, Hughes N. Patient satisfaction with medication for gastroesophageal refluxdisease: a systematic review. Can J Gastroenterol 2012; 26: 196-204(メタ)

— 79 —

解説

PPIは GERDをはじめとする酸関連疾患治療に優れた効果を示し,高く評価されてきた一方,その強力な酸分泌抑制作用がゆえ,特に長期使用に際して様々な懸念が示されてきた.

1)カルチノイド腫瘍発生H2RAの臨床導入以来,低酸状態によるネガティブフィードバック機構によりガストリン分

泌が亢進し,enterochromaffin-like(ECL)細胞の増殖,腫瘍化(カルチノイド腫瘍)が起こることが危惧されてきた.PPIが臨床応用されて 20 年以上が経過し,長期使用の成績も多数報告されている 1〜7)が,酸分泌抑制薬によるカルチノイド腫瘍発生を明確に示した報告はみられず,今までのところ,臨床上の大きな問題とはなっていない.酸分泌抑制薬の長期使用中または後に,神経内分泌腫瘍が診断された数例の症例報告がみられるものの,薬剤の使用と腫瘍発生の時間関係が明確ではなく,投与量や投与時期も様々であり,薬剤使用と腫瘍発生との因果関係に言及できる資料とはいえない 8〜10), (Aliment Pharmacol Ther 2012; 36: 644-649 a)[検索期間外文献]).しかし,現時点で酸分泌抑制薬の長期使用がカルチノイド腫瘍に促進的に作用する可能性を完全に否定することは困難であり,酸分泌抑制薬の長期投薬が必要な場合には,今後も一定の注意が必要と思われる.

2)胃癌PPI長期投与により,H. pylori 感染例では,胃体部胃炎の増悪と萎縮性胃炎の進展が認められ

るとする報告 11)がなされて以来,PPIの継続投与が胃癌の発生を促進する可能性が注目されてきた.その後,除菌により,萎縮の進展防止がみられたとする報告 12, 13)もなされているが,PPI

の継続投与が胃粘膜の萎縮に影響を与えるかどうか,PPI継続投与例で H. pylori の感染状態を確認のうえ,除菌すべきかどうかについては,現在のところ見解の一致はみられていない.現時

Clinical Question 4-94.内科的治療 ― ❷治療手段

GERD 治療薬の長期維持療法は安全か?

CQ 4-9 GERD 治療薬の長期維持療法は安全か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● PPI による維持療法の安全性は高いが,長期投与に際しては注意深い観察が必要である.適切な適応症例においては,投与期間について明確な制限は存在しないが,必要に応じた最小限の用量で使用することを提案する.

2(84.6%) C

— 80 —

4.内科的治療

点では,H. pylori 感染の有無によらず,PPIの継続投与が胃癌の発生を促進することを示唆する報告はなく 14, 15),PPI長期投与に際して全例に H. pylori 感染診断を行うべきとまではいえない.

3)大腸癌ガストリンは大腸粘膜に対して trophic effectを持つことから,長期にわたる高ガストリン血症

が大腸癌の発生を促進する可能性が考えられてきた.この問題に対する症例対照研究の結果 16〜18)

からは,PPI使用による大腸癌発生のリスクの増加は否定的である.

4)消化管感染症細菌に対する予防的作用のある胃酸分泌の抑制により,消化管感染症が増加する可能性が考

えられる.PPI投与と腸管感染症についての 6編の疫学的研究のシステマティックレビュー 19)

によると,細菌性胃腸炎の発症に関する PPI投与のオッズ比(OR)は 3.33,95%CIは 1.84〜6.02,またH2RAでは OR 2.03(95%CI 1.05〜3.92)となった.PPI投与と Clostridium difficile 腸炎についての 30 の疫学的研究のシステマティックレビュー 20)によると,Clostridium difficile 腸炎の発症に関して,PPI投与は OR 2.15(95%CI 1.81〜2.55)であった.PPIの用量や使用期間と感染のリスクについての分析はないものの,PPIの使用により,腸管感染症のリスクがわずかに増大する可能性が示唆されている.

5)市中肺炎低酸環境による胃内細菌の増殖とその逆流物の吸引により,市中肺炎が増加する可能性が考

えられる.PPI投与と市中肺炎の発症に関する 9編の疫学的研究のシステマティックレビュー 21)

によると,市中肺炎の発症に関して,PPI使用中の患者では OR 1.39(95%CI 1.09〜1.76),PPI

の 30 日以下の使用は OR 1.65(95%CI 1.25〜2.19)と有意であったが,PPIの 180 日以上の使用では OR 1.10(95%CI 1.00〜1.21)と有意な関連を認めなかった.数字のうえでは,PPIの使用により,市中肺炎のリスクがわずかに増大する可能性が示唆されるが,PPI投与の適応の多くを占めると考えられる GERD自体が肺炎の危険因子であり,方法論からも GERDの影響をまったく排除して解釈することは困難と思われる.

6)カルシウム・骨折低酸環境によるカルシウムの吸収障害や PPI自体が骨代謝へ直接影響を及ぼす可能性が想定

されている.PPI投与と主に高齢者の骨折に関する 11 編の疫学的研究のシステマティックレビュー 22)によると,PPIの使用は大腿骨頸部骨折に関して OR 1.25(95%CI 1.14〜1.72),脊椎骨折に関して OR 1.50(95%CI 1.32〜1.72)と有意な関連を認めた.大腿骨頸部骨折について,PPI

の 1年以下の使用は OR 1.24(95%CI 1.19〜1.28)と有意であったが,PPIの 3〜10 年の使用ではOR 1.30(95%CI 0.98〜1.70)と有意な関連を認めなかった.以上より PPIの使用時に骨折のリスクがわずかに増大する可能性が示唆されるが,高齢者では,PPI服用の有無にかかわらず,骨折のリスクが高く,必要に応じて骨量の測定や骨粗鬆症に対する加療が考慮されるべきである.

7)microscopic colitis(collageneous colitis/lymphocytic colitis)microscopic colitis(MC)は,臨床的に水様性下痢を主徴とし,組織学的には粘膜固有層内にリ

ンパ球を主体とする炎症性細胞浸潤を特徴とする疾患で,粘膜上皮直下の collagen bandの肥厚

— 81 —

②治療手段

を伴う collageneous colitis(CC)と collagen bandの肥厚を認めない lymphocytic colitis(LC)が含まれ,薬剤は重要な原因のひとつと考えられている.2000 年の Ghilainらの報告 23)以来,ランソプラゾール投与開始後に発症し,中止により改善をみたMCの症例が散見される.近年,日本からランソプラゾール服用と関連があると考えられる CC例が多数報告されている.CCの日本での報告例の集計の検討では,51.1〜69.8%がランソプラゾール服用中に発症し 24〜27),うち90.4%が同剤の中止により軽快したと報告されている 26).慢性下痢患者に一定の方法で大腸内視鏡・生検を行った検討では,82 例中MCを 24 例に認め,CCが 15 例,LCが 9例であった.CC 15 例中で PPIの内服は 9例で,うち 8例がランソプラゾールであったとされる 28).また,136 例の症例対照研究でも PPI内服とMCの有意の関連 OR 4.5(95%CI 2.0〜9.5)が報告されている 29).PPIが発症に関連する機序や,PPIのうちランソプラゾールに関連した報告が圧倒的に多い理由など不明な点も多いが,ほとんどの場合,薬剤の中止により速やかに改善するため,PPI投与中の難治性の下痢に際しては本疾患の存在を念頭に置くべきである.

8)クロピドグレルとの併用クロピドグレルは CYP2C19 を含むチトクローム P450 で代謝を受け,活性型に変換され,血

小板凝集抑制作用を示す.したがって,同じく CYP2C19 の代謝を受ける PPIの併用により,クロピドグレルの効果が減弱し,心血管イベントの増加につながる懸念があり,当初,これを支持する複数の症例対照研究が報告されてきたが,その後,両者の関連について否定的な結果を示す観察研究のみならず,複数の前向き研究 30〜34)および RCT 35〜37)が集積しつつある.クロピドグレルと PPIの併用についての 23 編の疫学的研究のシステマティックレビューによると,CYP2C19 の代謝の関与が異なる個々の PPI別に検討してもすべて心血管イベント増加の傾向がみられたこと,PPIの使用が単独で(クロピドグレルの併用なしに)心血管イベント増加と関連を示していたこと,2件の RCTのメタアナリシスでは,PPIの併用で心血管イベントの増加は認めなかったことから,観察研究における PPIの併用と心血管イベント増加の関連については,交絡因子の関与が強く示唆されている(Int J Cardiol 2013; 167: 965-974 b)[検索期間外文献]).

9)その他低酸環境によるビタミン B12 や鉄の吸収障害,低マグネシウム血症との関連を示唆する症例報

告などが散見されるが,頻度や機序は不明で,通常の食事が可能な栄養状態では,臨床的な問題とはならないと思われる.ただし,高齢者,栄養不良の場合には注意が必要と考えられる 38).また,近年,胃ポリープ,特に胃底腺ポリープの発生と PPIの長期投与との関係が注目され,報告されているが,悪性例の報告はない 39〜41).

以上の安全性に関するいずれの懸念も PPI投与との直接的な因果関係が明らかとはいいがたいが,前向きの検討が困難なものも多い.なかには,QOLに直接影響を及ぼす事象もあり,高齢者,栄養不良,重篤な合併疾患の存在する場合をはじめ,PPIの長期投与に際しては,今後とも一定の注意が必要と思われる.GERD治療において,PPIを適切に使用することで得られるベネフィットは大きく,臨床における薬剤の使用は,ベネフィットとリスクのバランスのうえで決定されるべきである.適切な適応症例においては,投与期間について明確な制限は存在しないが,上記の点も考慮し,必要に応じた最小限の用量を心がけるべきであろう.

— 82 —

4.内科的治療

文献

1) Klinkenberg-Knol EC, Nelis F, Dent J, et al. Long-term omeprazole treatment in resistant gastroesophagealreflux disease: efficacy, safety, and influence on gastric mucosa. Gastroenterology 2000; 118: 661-669(コホート)

2) 関口利和.PPIによる逆流性食道炎の薬物療法―主にヒスタミンH2 受容体拮抗薬との比較において.Progress in Medicine 2003; 23: 2335-2342(コホート)

3) Caos A, Breiter J, Perdomo C, et al. Long-term prevention of erosive or ulcerative gastro-oesophagealreflux disease relapse with rabeprazole 10 or 20 mg vs. placebo: results of a 5-year study in the UnitedStates. Aliment Pharmacol Ther 2005; 22: 193-202(ランダム)

4) Freston JW, Hisada M, Peura DA, et al. The clinical safety of long-term lansoprazole for the maintenanceof healed erosive oesophagitis. Aliment Phamacol Ther 2009; 29: 1249-1260(コホート)

5) Lundell L, Miettinen P, Myrvold HE, et al. Comparison of outcomes twelve years after antireflux surgeryor omeprazole maintenance therapy for reflux esophagitis. Clin Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 1292-1298

(ランダム)6) 藤本一眞.逆流性食道炎の維持療法(長期投与)におけるパリエット錠の安全性と有効性の検討―特定使用

成績調査結果.薬理と治療 2009; 37: 829-845(コホート)7) Galmiche J-P, Hatlebakk J, Attwood S, et al. Laparoscopic antireflux surgery vs esomeprazole treatment

for chronic GERD: the LOTUS randomized clinical trial. JAMA 2011; 305: 1969-1977(ランダム)8) Dawson R, Manson JM. Omeprazole in oesophageal reflux disease. Lancet 2000; 356 (9243): 1770-1771

(ケースシリーズ)9) Haga Y, Nakatsura T, Shibata Y, et al. Human gastric carcinoid detected during long-term antiulcer thera-

py of H2 receptor antagonist and proton pump inhibitor. Dig Dis Sci 1998; 43: 253-257(ケースシリーズ)10) Jianu CS, Lange OJ, Viset T, et al. Gastric neuroendocrine carcinoma after long-term use of proton pump

inhibitor. Scand J Gastroenterol 2012; 47: 64-67(ケースシリーズ)11) Kuipers EJ, Lundell L, Klinkenberg-Knol EC, et al. Atrophic gastritis and Helicobacter pylori infection in

patients with reflux esophagitis treated with omeprazole or fundoplication. N Engl J Med 1996; 334: 1018-1022(コホート)

12) Kuipers EJ, Nelis GF, Klinkenberg-Knol EC, et al. Cure of Helicobacter pylori infection in patients withreflux oesophagitis treated with long term omeprazole reverses gastritis without exacerbation of refluxdisease: results of a randomised controlled trial. Gut 2004; 53: 12-20(ランダム)

13) Yang H-B, Sheu B-S, Wang S-T, et al. H. pylori eradication prevents the progression of gastric intestinalmetaplasia in reflux esophagitis patients using long-term esomeprazole. Am J Gastroenterol 2009; 104:1642-1649(ランダム)

14) Tamim H, Duranceau A, Chen L-Qi, et al. Association between use of acid-suppressive drugs and risk ofgastric cancer: a nested case-control study. Drug Saf 2008; 31: 675-684(ケースコントロール)

15) Poulsen AH, Christensen S, McLaughlin JK, et al. Proton pump inhibitors and risk of gastric cancer: a pop-ulation-based cohort study. Br J Cancer 2009; 100: 1503-1507(コホート)

16) Robertson DJ, Larsson H, Friis S, et al. Proton pump inhibitor use and risk of colorectal cancer: a popula-tion-based, case-control study. Gastroenterology 2007; 133: 755-760(ケースコントロール)

17) van Soest EM, van Rossum LG, Dieleman JP, et al. Proton pump inhibitors and the risk of colorectal can-cer. Am J Gastroenterol 2008; 103: 966-973(ケースコントロール)

18) Chubak J, Boudreau DM, Rulyak SJ, et al. Colorectal cancer risk in relation to use of acid suppressive med-ications. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2009; 18: 540-544(ケースコントロール)

19) Leonard J, Marshall JK, Moayyedi P. Systematic review of the risk of enteric infection in patients takingacid suppression. Am J Gastroenterol 2007; 102: 2047-2056(メタ)

20) Deshpande A, Pant C, Pasupuleti V, et al. Association between proton pump inhibitor therapy andClostridium difficile infection in a meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol 2012; 10: 225-233(メタ)

21) Giuliano C, Wilhelm SM, Kale-Pradhan PB. Are proton pump inhibitors associated with the developmentof community-acquired pneumonia? a meta- analysis. Expert review of clinical pharmacology 2012; 5: 337-344(メタ)

22) Ngamruengphong S, Leontiadis GI, Radhi S. Proton pump inhibitors and risk of fracture: a systematicreview and meta-analysis of observational studies. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1209-1219(メタ)

23) Ghilain JM, Schapira M, Maisin JM, et al. Lymphocytic colitis associated with lansoprazole treatment. Gas-troenterol Clin Biol 2000; 24: 960-962(ケースシリーズ)

— 83 —

②治療手段

24) 中山奈那,永田信二,金子真弓,ほか.内視鏡像の経過を追えた collagenous colitisの 1例―本邦 123 例の報告を含めて.Gastroenterological Endoscopy 2010; 52: 1888-1894(ケースシリーズ)

25) 松本主之,梅野淳嗣,飯田三雄.collagenous colitisの病態と臨床像.日本消化器病学会雑誌 2010; 107:1916-1926(ケースシリーズ)

26) 林 智之,荻野英朗,平井 聡,ほか.ランソプラゾール中止にて下痢が改善した collagenous colitisの 1例―本邦の報告例 182 例の集計結果を含む.ENDOSCOPIC FORUM for digestive disease 2011; 27: 30-36,53(ケースシリーズ)

27) 阿部光市,蔵原晃一,堺 勇二,ほか.当センターにおける collagenous colitis症例の臨床的検討.消化管の臨床 2012; 17: 101-106(ケースシリーズ)

28) 堀田欣一,小山恒男,宮田佳典,ほか.慢性下痢症におけるMicroscopic Colitisの頻度―本邦における大腸内視鏡下ランダム生検を用いた遡及的研究結果.消化器内視鏡 2008; 20; 1357-1361(横断)

29) Keszthelyi D, Jansen SV, Schouten GA, et al. Proton pump inhibitor use is associated with an increasedrisk for microscopic colitis: a case-control study. Aliment Pharmacol Ther 2010; 32: 1124-1128(ケースコントロール)

30) O’Donoghue ML, Braunwald E, Antman EM, et al. Pharmacodynamics’ effect and clinical efficacy of clopi-dogrel and prasugrel with or without a proton-pump inhibitor: an analysis of two randomised trials.Lancet 2009; 374: 989-997(非ランダム)

31) Simon T, Steg PG, Gilard M, et al. Clinical events as a function of proton pump inhibitor use, clopidogreluse, and cytochrome P450 2C19 genotype in a large nationwide cohort of acute myocardial infarction:results from the French Registry of Acute ST-Elevation and Non-ST-Elevation Myocardial Infarction(FAST-MI) registry. Circulation 2011; 123: 474-482(非ランダム)

32) Rossini R, Capodanno D, Musumeci G, et al. Safety of clopidogrel and proton pump inhibitors in patientsundergoing drug-eluting stent implantation. Coron Artery Dis 2011; 22: 199-205(非ランダム)

33) Goodman SG, Clare R, Pieper KS, et al. Association of proton pump inhibitor use on cardiovascular out-comes with clopidogrel and ticagrelor: insights from the platelet inhibition and patient outcomes trial. Cir-culation 2012; 125: 978-986(非ランダム)

34) Chitose T, Hokimoto S, Oshima S, et al. Clinical outcomes following coronary stenting in Japanese patientstreated with and without proton pump inhibitor. Circ J 2012; 76: 71-78(非ランダム)

35) Bhatt DL, Cryer BL, Contant CF, et al. Clopidogrel with or without omeprazole in coronary artery disease.N Engl J Med 2010; 363: 1909-1917(ランダム)

36) Ren YH, Zhao M, Chen YD, et al. Omeprazole affects clopidogrel efficacy but not ischemic events inpatients with acute coronary syndrome undergoing elective percutaneous coronary intervention. ChinMed J (Engl) 2011; 124: 856-861(ランダム)

37) Hsu P-I, Lai K-H, Liu C-P, et al. Esomeprazole with clopidogrel reduces peptic ulcer recurrence, comparedwith clopidogrel alone, in patients with atherosclerosis. Gastroenterology 2011; 140: 791-798(ランダム)

38) Ito T, Jensen RT. Association of long-term proton pump inhibitor therapy with bone fractures and effectson absorption of calcium, vitamin B12, iron, and magnesium. Curr Gastroenterol Rep 2010; 12: 448-457

(メタ)39) Ally MR, Veerappan GR, Maydonovitch CL, et al. Chronic proton pump inhibitor therapy associated with

increased development of fundic gland polyps. Dig Dis Sci 2009; 54: 2617-2622(横断)40) 菅原通子,今井幸紀,齊藤詠子,ほか.プロトンポンプ阻害薬長期投与中に増大した胃底腺ポリープの検

討.Gastroenterological Endoscopy 2009; 51: 1686-1691(ケースシリーズ)41) Hongo M, Fujimoto K, Yabana T, et al. Incidence and risk factor of fundic gland polyp and hyperplastic

polyp in long-term proton pump inhibitor therapy: a prospective study in Japan. J Gastroenterol 2010; 45:618-624(コホート)

【検索期間外文献】a) Jianu CS, Fossmark R, Viset T, et al. Gastric carcinoids after long-term use of a proton pump inhibitor. Ali-

ment Pharmacol Ther 2012; 36: 644-649(ケースシリーズ)b) Kwok CS, Jeevanantham V, Dawn B, et al. No consistent evidence of differential cardiovascular risk

amongst proton-pump inhibitors when used with clopidogrel: meta-analysis. Int J Cardiol 2013; 167: 965-974(メタ)

5.外科的治療

— 86 —

解説

生活習慣の改善や薬物療法の効果が十分に得られていない患者においては,GERそのものを確実に防止できる外科的治療がメカニズムの異なる治療法として適応になることは,治療法の選択肢が限られるなか,いわば自明のことと考えられている.このため,PPI抵抗性 GERDを外科的治療の適応としてよいかどうかに焦点を絞った研究は行われていないが,その点に言及する論文は少なくない 1〜3).多くの GERD患者に対して PPIは奏効するが,そのほとんどの例で長期にわたる維持投与が

必要となる.そのような例においては,服薬アドヒアランス,個人的および社会的なコストなどの面から,外科的治療との比較が考慮されることとなる.PPIの長期維持投与と最近の標準的外科的治療である腹腔鏡下 GER防止手術を,安全性,効果の確実性,コストなどから比較した検討は数多くなされており 4, 5),ほとんどにおいて PPIの長期必要例における外科的治療の適応が支持されている.また,外科的治療後における症状の再発は大きな問題であるが,近年では再発をきたす危険因子を抽出するための検討も行われるようになった 6, 7).一方,一部の比較試験において外科的治療の積極的適用に疑問が呈されており 8),今後も検討が必要である.

文献

1) Eypasch E, Neugebauer E, Fischer F, et al. Laparoscopic antireflux surgery for gastroesophageal reflux dis-ease (GERD): results of a consensus development conference. Surg Endosc 1997; 11: 413-426(ケースシリーズ)

2) Stein HJ, Feussner H, Siewert JR. Antireflux surgery: a current comparison of open and laparoscopicapproaches. Hepatogastroenterology 1998; 45: 1328-1337(ケースシリーズ)

3) Ozawa S, Yoshida M, Kumai K, et al. New endoscopic treatments for gastroesophageal reflux disease. Ann

Clinical Question 5-15.外科的治療 ― ❶外科的治療適応対象の基準

外科的治療の適応となる GERD はどのような病態のものか?

CQ 5-1 外科的治療の適応となる GERD はどのような病態のものか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● PPI 抵抗性 GERD に対しては外科的治療を検討することを提案する.

2(100%) B

● 長期的な PPI の維持投与を要するびらん性 GERD に対しては外科的治療を検討することを提案する.

2(100%) C

— 87 —

①外科的治療適応対象の基準

Thorac Cardiovasc Surg 2005; 11: 146-153(ケースシリーズ)4) Anvari M, Allen C, Marshall J, et al. A randomized controlled trial of laparoscopic nissen fundoplication

versus proton pump inhibitors for treatment of patients with chronic gastroesophageal reflux disease: one-year follow-up. Surg Innov 2006; 13: 238-249(ランダム)

5) Gillies RS, Stratford JM, Booth MI, et al. Does laparoscopic antireflux surgery improve quality of life inpatients whose gastro-oesophageal reflux disease is well controlled with medical therapy? Eur J Gastroen-terol Hepatol 2008; 20: 430-435(ケースコントロール)

6) Broeders JA, Draaisma WA, de Vries DR, et al. The preoperative reflux pattern as prognostic indicator forlong-term outcome after Nissen fundoplication. Am J Gastroenterol 2009; 104: 1922-1930(コホート)

7) Omura N, Kashiwagi H, Yano F, et al. Postoperative recurrence factors of GERD in the elderly afterlaparoscopic fundoplication. Esophagus 2010; 7: 31-35(ケースコントロール)

8) Spechler SJ, Lee E, Ahnen D, et al. Long-term outcome of medical and surgical therapies for gastroe-sophageal reflux disease: follow-up of a randomized controlled trial. JAMA 2001; 285: 2331-2338(ランダム)

— 88 —

解説

患者数が多く,これまでに多くの手術が行われてきた欧米においては,以前から PPI治療とGER防止手術との比較試験が数多く行われている.近年では腹腔鏡下噴門形成術の有効性および安全性が示されるようになり,腹腔鏡下手術との比較試験が多い 1).薬物維持療法と腹腔鏡下手術との RCTのシステマティックレビューでは,少なくとも術後 1年までにおいては一般的な健康指標および GERD特異的症状のいずれも有意に改善がみられた 2).さらに,GERD症状に起因する睡眠障害および呼吸器症状 3)や,24 時間食道 pHモニタリングにおける酸の GER 4〜6)

および胆汁の GER 6),さらに内視鏡検査における SSBEでの腸上皮化生の転換 5)についても薬物療法に比べて GER防止手術の優位性が示唆された.今後は,更なる長期成績の検討が必要である.日本においては,手術適応の症例数が限られており,いまだ十分な比較試験が行われていないが,腹腔鏡下手術を中心とした外科的治療の良好な成績が報告されるようになってきており,欧米における比較試験の成績は日本においても応用できると考えられる.

文献

1) Grant AM, Wileman SM, Ramsay CR, et al. Minimal access surgery compared with medical managementfor chronic gastro-oesophageal reflux disease: UK collaborative randomised trial. BMJ 2008; 337: 2264-2271

(ランダム)2) Wileman SM, McCann S, Grant AM, et al. Medical versus surgical management for gastro-oesophageal

reflux disease (GORD) in adults. Cochrane Database Syst Rev 2010; (3): CD003243(メタ)3) Johannessen R, Petersen H, Olberg P, et al. Airway symptom and sleeping difficulties in operated and

non-operated patients with gastroesophageal reflux disease. Scand J Gastroenterol 2012; 47: 762-769(ケースコントロール)

4) Frazzoni M, Conigliaro R, Melotti G. Reflux parameters as modified by laparoscopic fundoplication in 40patients with heartburn/regutgitation persisting despite PPI therapy: a study using impedance-pH moni-

Clinical Question 5-25.外科的治療 ― ❷外科的治療の効果

GER 防止手術の長期成績は PPI 治療と同等以上か?

CQ 5-2 GER 防止手術の長期成績は PPI 治療と同等以上か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● びらん性 GERD に対して,PPI 治療に比べ腹腔鏡下噴門形成術は少なくとも術後 1 年までの期間では一般的な健康指標および症状の有意な改善が認められる.

なし B

— 89 —

②外科的治療の効果

toring. Dig Dis Sci 2011; 56: 1099-1106(ケースコントロール)5) Zaninotto G, Parante P, Salvador R, et al. Long-term follow-up of Barrett’s epithelium: Medical versus

antireflux surgical therapy. J Gastrointest Surg 2012; 16: 7-15(ケースコントロール)6) Brillantino A, Schettino M, Torelli F, et al. Laparoscopic Nissen-Rossetti fundoplication is a safe and effec-

tive treatment for both acid and bile gastroesophageal reflux in patients poorly responsive to proton pumpinhibitor. Surg Innov 2011; 18: 387-393(ケースコントロール)

— 90 —

解説

PPI治療は多くの GERD患者に対して有効であるが,胃酸の分泌抑制が GERD治療の基本概念であるため,GER防止そのものが目標となる外科的治療とは異なり,長期にわたる維持療法が必要な例が多い.このため欧米では両治療法の費用対効果の比較が行われてきたが 1),日本ではいまだ十分な検討が行われていない 2).腹腔鏡下Nissen法と PPI治療との術後 QOLを考慮した RCTでは 3),長期的な内科的治療を要する GERDに対しては費用対効果の良好な治療法と結論づけている.しかし,費用対効果の比較成績については,その評価方法,各国の医療保険制度,薬価などに大きく依存するため,現時点での結論づけは尚早で,評価方法の統一を含めた更なる検討が必要である.

文献

1) Grant A, Wileman S, Ramsay C, et al. The effectiveness and cost-effectiveness of minimal access surgeryamongst people with gastro-oesophageal reflux disease: a UK collaborative study: The REFLUX trial.Health Technol Assess 2008; 12: 1-98(非ランダム)

2) 羽生泰樹,青井一憲,高橋和人,ほか.GERDの維持療法における選択肢としての外科手術の評価―費用対効果の観点から.消化器内科 2010; 50: 222-225(横断)

3) Ron Goeree MA, Rob Hopkins MA, John KM, et al. Cost-utility of laparoscopic Nissen fun duplicationversus proton pump inhibitors for chronic and controlled gastroesophageal reflux disease: a 3-yearprospective randomized controlled trial and economic evaluation. Value Health 2011; 14: 263-273(ランダム)

Clinical Question 5-35.外科的治療 ― ❷外科的治療の効果

外科的治療は PPI 治療よりも費用対効果比が良好か?

CQ 5-3 外科的治療は PPI 治療よりも費用対効果比が良好か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 外科的治療は PPI 維持療法と比べ費用対効果が良好となる場合もあるが,検討方法や,各国の医療保険制度や薬価などにより結果が大きく変わるため,現時点では不明である.

なし B

— 91 —

解説

外科的治療においては,すべての術式において技術の修練と習得が必要となるが,その到達度は各外科医により必ずしも一定ではない.この点を直接的に検討する研究はないものの,最近の内視鏡下手術の導入により手術野の共有や保存といった手術手技の再現化ももたらされ,様々な技術評価が行われるようになっている.そのなかで,GER防止手術においても,いわゆる learning curveという視点から技術習得の成果を論じたものがみられるようになっている.エビデンスレベルの高い報告はなく,左右されるとする報告があるが 1),差はないとする報告も少なくない 2〜5).

文献

1) Luostarinen ME, Isolauri JO. Surgical experience improves the long-term results of Nissen fundoplication.Scand J Gastroenterol 1999; 34: 117-120(ケースコントロール)

2) Sandbu R, Khamis H, Gustavsson S, et al. Laparoscopic antireflux surgery in routine hospital care. Scand JGastroenterol 2002; 37: 132-137(ケースコントロール)

3) Contini S, Scarpignato C. Does the learning phase influence the late outcome of patients with gastroe-sophageal reflux disease after laparoscopic fundoplication? Surg Endosc 2004; 18: 266-271(ケースコントロール)

4) Contini S, Bertile A, Nervi G, et al. Quality of life for patients with gastroesophageal reflux disease 2 yearsafter laparoscopic fundoplication: evaluation of the results obtained during the initial evidence. SurgEndosc 2002; 16: 1555-1560(ケースコントロール)

5) Hwang H, Turner LJ, Blair NP. Examining the learning curve of laparoscopic fundoplication at an urbancommunity hospital. Am J Surg 2005; 189: 522-526(ケースコントロール)

Clinical Question 5-45.外科的治療 ― ❷外科的治療の効果

GER 防止手術の成績は外科医の経験と技能に左右されるか?

CQ 5-4 GER 防止手術の成績は外科医の経験と技能に左右されるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GER 防止手術の成績は外科医の経験と技能に左右されることもある. なし C

— 92 —

解説

従来は開腹により行われていた GER防止手術も,現在ではほとんどが腹腔鏡下に行われるようになっている.手術侵襲の軽減に基づく疼痛の緩和,入院日数の短縮と早期社会復帰,総合的なコストの削減などに加え,手術における視野の共有や安全性の向上まで示されている 1〜10).日本ではいまだ系統的な比較試験の成績は報告されていないが,欧米のエビデンスはおおむね日本にも通用すると考えられる.

文献

1) Stein HJ, Feussner H, Siewert JR, et al. Antireflux surgery: a current comparison of open and laparoscopicapproaches. Hepatogastroenterology 1998; 45: 1328-1337(ケースシリーズ)

2) Zaninotto G, Molena D, Ancona E. A prospective multicenter study of laparoscopic treatment of gastroe-sophageal reflux disease in Italy: type of surgery, conversions, complications, and early results. SurgEndosc 2000; 14: 282-288(コホート)

3) Hakanson BS, Thor KB, Thorell A, et al. Open vs laparoscopic partial posterior fundoplication. SurgEndosc 2007; 21: 289-298(ランダム)

4) Cuschieri A, Hunter J, Wolfe B, et al. Multicenter prospective evaluation of laparoscopic antireflux sur-gery: preliminary report. Surg Endosc 1993; 7: 505-510(コホート)

5) Valaovich V. Comparison of symptomatic and quality of life outcomes of laparoscopic versus open antire-flux surgery. Surgery 1999; 126: 782-789(非ランダム)

6) Trullenque Juan R, Torres Sanchez T, Marti Martinez E, et al. Surgery for gastroesophageal reflux disease:a coparative study between the open and laparoscopic approaches. Rev Esp Enferm Dis 2005; 97: 328-337

(非ランダム)7) Rattner DW, Brooks DC. Patients satisfaction following laparoscopic and antireflux surgery. Arch Surg

1995; 130: 289-294(非ランダム)8) Franzen T, Anderberg B, Tibbling Grahn L, et al. Prospective evaluation of laparoscopic and open 360* fun-

doplication in mild and severe gastro-oesophageal reflux disease. Eur J Surg 2002; 168: 539-554(ランダム)9) Franzen T, Anderberg B, Wiren M, et al. Long-term outcome is worse after laparoscopic than after conven-

tional Nissen fundoplication. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 1261-1268(ランダム)10) Peters JH, DeMeester TR. Indications, benefits and outcome of laparoscopic Nissen fundoplication. Dig

Dis 1996; 14: 169-179(ケースコントロール)

Clinical Question 5-55.外科的治療 ― ❷外科的治療の効果

開腹手術に比べ腹腔鏡下手術は有用か?

CQ 5-5 開腹手術に比べ腹腔鏡下手術は有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 開腹手術に比べ腹腔鏡下手術は有用であり,行うよう推奨する. 1(100%) A

— 93 —

解説

びらん性 GERDに対する外科的治療の目標は,確実な GER防止とともに嚥下障害や腹部膨満などの合併症を最小にすることである.より高度な GER防止効果を期待するためには全周性のNissen法が適しているが,術後早期の嚥下障害を回避するには非全周性の Toupet法が適している.欧米では開腹手術の時代から多くの比較検討がなされており,近年では腹腔鏡下手術における 2つのメタアナリシスで,両者で治療効果および安全性に差はなく,術後の嚥下障害や腹部膨満といった合併症は有意に Toupet法で少ないことが示された 1, 2).さらに,5年以上の長期成績においても両者で治療効果に差はないことが示唆されており 3),今後は外科的治療の標準術式として腹腔鏡下 Toupet法が提案される.

文献

1) Tan G, Yang Z, Wang Z. Meta-analysis of laparoscopic total (Nissen) versus posterior (Toupet) fundoplica-tion for gastro-oesophageal reflux disease based on randomized clinical trials. ANZ J Surg 2011; 81: 246-252(メタ)

2) Broeders JAJL, Mauritz FA, Ali UA, et al. Systematic review and meta-analysis of laparoscopic Nissen(posterior total) versus Toupet (posterior partial) fundoplication for gastro-oesophageal reflux disease. Br JSurg 2010; 97: 1318-1330(メタ)

3) Hafez J, Wrba F, Lenglinger J, et al. Fundoplication for gastroesophageal reflux and factors associated withoutcome 6 to 10 years after the operation: multivariate analysis of prognostic factors using the propensityscore. Surg Endosc 2008; 22: 1763-1768(非ランダム)

Clinical Question 5-65.外科的治療 ― ❷外科的治療の効果

びらん性 GERD の外科的治療として,Nissen 法は Toupet法より優れているか?

CQ 5-6 びらん性 GERD の外科的治療として,Nissen 法は Toupet 法より優れているか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● より高度な逆流防止効果を期待するためには全周性の Nissen 手術が適しているが,術後早期の嚥下障害を回避するには非全周性のToupet 手術が適している.短期的には Toupet 手術のほうが優れているが,長期成績については更なる検討を要する.

なし A

— 94 —

解説

GERDに対する内視鏡的治療は,2003 年ごろより欧米で盛んに行われるようになり,現在までに様々な方法が報告されている.これらは大きく 3つのカテゴリーに分類できる.第 1のカテゴリーは,噴門部に皺襞を形成する方法であり,EndoCinchTM 法 1, 2),Full-thickness PlicatorTM

法 3),Dilator-shaped Device法 4),EsophyX®法 5)などがある.第 2カテゴリーは,LES領域の筋層を変性させる方法であり,Stretta®法 6)などがあり,また第 3のカテゴリーは LES領域に異物を挿入する方法で,Enteryx®法 7)と GatekeeperTM 法 8)がある.それぞれの方法はある一定の治療効果が認められたが,長期的に治療効果の維持を認めたものはなく,今後更なる長期的な経過観察およびより安全性,有効性の高い治療法の開発が必要である.

文献

1) Ozawa S, Kumai K, Higuchi K, et al. Short-term outcome of endoluminal gastroplication for the treatmentof GERD: the first multicenter trial. J Gastroenterol 2009; 44: 675-684(コホート)

2) Chen YK, Raijman I, Ben-Menachem T, et al. Long-term outcomes of endoluminal gastroplication: a U.S.multicenter trial. Gastrointest Endosc 2005; 61: 659-667(コホート)

3) von Renteln D, Brey U, Riecken B, et al. Endoscopic full-thickness placation (Plicator) with two seriallyplaced implants improves esophagitis and reduced PPI use and esophageal acid exposure. Endoscopy2008; 40: 173-178(コホート)

4) Filipi CJ, Stadlhuber RJ. Initial experience with new intraluminal device for GERD Barrett esophagus andobesity. J Gastrointest Surg 2010; 14: 121-126(ケースシリーズ)

5) Testoni PA, Vailati C, Testoni S, et al. Transoral incisioness fundoplication (TIF 2.0) EsophyX for gastroe-sophageal reflux disease: long-term results and findings affecting outcome. Surg Endosc 2012; 26: 1425-1435(コホート)

6) Liu H, Zhang J, Li J, et al. Improvement of clinical parameters in patients with gastroesophageal reflux dis-

Clinical Question 5-75.外科的治療 ― ❷外科的治療の効果

GERD に対する経口内視鏡的治療は有効か?

CQ 5-7 GERD に対する経口内視鏡的治療は有効か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD に対する内視鏡的治療は,現在までに様々な方法の報告があり,多くは安全性および臨床症状の改善,PPI の減量などの有効性が示されている.短期的な有効性は示されているが,長期的な有効性は現在のところ不明である.

なし B

— 95 —

②外科的治療の効果

ease after radiofrequency energy delivery. World J Gastroenterol 2011; 17: 4429-4433(コホート)7) Luis H, Devière J. Endoscopic implantation of enteryx for the treatment of gastroesophageal reflux dis-

ease: technique, pre-clinical and clinical experience. Gastrointest Endosc Clin N Am 2003; 13: 191-200(ケースシリーズ)

8) Fockens P. Gatekeeper reflux repair system: technique, pre-clinical, and clinical experience. GastrointestEndosc Clin N Am 2003; 13: 179-189(ケースシリーズ)

6.上部消化管術後食道炎

— 98 —

解説

上部消化管の手術後に食道炎がみられることがある.術後食道炎が問題となる上部消化管手術としては,①食道切除,②胃切除,③肥満手術,④逆流防止手術があるが,③は日本ではまれなため,④は術後再発に分類されるため,除外した.そのため,本ガイドラインでは,「上部消化管術後食道炎」を食道切除後,胃切除後のみとし,「術後食道炎」と表記した.食道切除に関しては,結腸間置など逆流防止を重視した再建もあるが,胃を用いることが多い.そのなかでも,食道炎の重症化を抑え,授動距離の長い胃管再建が多く用いられている.一方,胃切除術に関しては,切除範囲より,噴門側胃切除術,幽門側胃切除術,胃全摘術に分類される(図1).幽門側胃切除術の代表的な再建法には胃・十二指腸吻合術(BillrothⅠ法),胃・空腸吻合術

(BillrothⅡ法),胃・空腸吻合術(Roux-en-Y法)がある(図2).ただし,幽門保存胃切除術,分節的胃切除術や胃部分切除術は,今回の対象としては含まれていない.術後食道炎の発生には,胃液だけでなく,十二指腸液の逆流が重要視される.胃液では胃酸

とペプシンが,十二指腸液に関してはトリプシンと胆汁酸が重要である.前者は,酸による直接的な粘膜傷害と,酸(至適 pH 2.0)で活性化されたペプシンによる傷害で,一般的には酸逆流という用語が用いられる.一方,トリプシン,胆汁酸の逆流にはアルカリ逆流の用語も用いられるが,pHの推移からは中性に近く,酸性環境下でも,これら十二指腸液による粘膜傷害が生じるため,本ガイドラインでは,十二指腸液逆流の用語を用いる.酸性環境下では,ペプシンや抱合型胆汁酸が,酸がない場合には,トリプシンと脱抱合型の胆汁酸が粘膜傷害の要因として関与している(Surgery 1980; 87: 280-285 a)[検索期間外文献]).抱合型胆汁酸は pH 2.0 以下の酸性環境下で食道粘膜への傷害性が強くなるが,脱抱合型は,pH 5〜8 の環境下で傷害性が最も強い(Dig Dis Sci 1981; 26: 65-72 b)[検索期間外文献]).胃切除後の重症食道炎ではトリプシン活性と胆汁酸濃度が高く 1),これらの直接傷害による影響が大きいが,刺激により食道上皮細胞から誘導されるケモカインによる傷害も考えられている 2).切除範囲や再建により逆流液の性状は異なるが,混合逆流で重症の食道炎がみられやすい.

Clinical Question 6-16.上部消化管術後食道炎 ― ❶定義

術後食道炎の原因となる食道粘膜傷害性を持つ逆流内容物は何か?

CQ 6-1 術後食道炎の原因となる食道粘膜傷害性を持つ逆流内容物は何か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 胃全摘術後の術後食道炎は十二指腸内容(膵液と胆汁)が原因となるが,残胃のある術式では胃液,十二指腸液のいずれもが原因となりうる.

なし B

— 99 —

①定義

術式と逆流の性状に関する報告は 1編あり,酸逆流は非手術例の 13%,食道切除の 26%,幽門側胃切除術の 9%の,胃全摘術の 0%にみられていたが,十二指腸液の逆流は非手術例の 39%,食道切除例の 48%,幽門側胃切除術の 64%,胃全摘術の 63%にみられていた 3).術式の特性からみて,食道切除や噴門側胃切除術では,胃底腺の残存領域の影響を受ける可能性が考えられ

図 1 上部消化管手術の種類a:食道切除(胃管再建)b:噴門側胃切除(食道胃吻合)c:胃全摘(Roux-en-Y法)d:幽門側胃切除(BillrothⅠ法)

a b c d

食道

胃Treitz 靱帯

図 2 幽門側胃切除術の再建法a:BillrothⅠ法b:BillrothⅡ法c:Roux-en-Y法

a b c

十二指腸液

十二指腸断端

輸入脚 輸出脚 Roux 脚Y脚

Treitz 靱帯

酸・ペプシン酸・ペプシン

— 100 —

6.上部消化管術後食道炎

る.他の報告では,噴門側の 1/2〜2/3 切除の場合,45.8%は十二指腸液逆流のみ,29.2%は酸逆流のみであった 4).さらに,8.3%は混合逆流であったが,12.5%には逆流が認められていない.一方,幽門側胃切除術では,胃底腺の上部は残るが,胃の排出とガストリン産生にかかわる幽門洞が切除され,幽門保存胃切除でなければ,十二指腸液は残胃へ逆流しやすい.そのため,幽門側胃切除後は,十二指腸液単独の逆流が多いが,逆流症状と食道炎を伴うほとんどの症例では混合逆流がみられている 5, 6).また,酸逆流を伴わない場合に有症状の食道炎はまれである.食道炎の重症度と相関性を示すのは,混合逆流の場合であって,十二指腸液単独では認められていない.当然ながら,胃全摘術では胃底腺ならびに幽門腺は完全に除去されるので,十二指腸液の逆流のみとなる.食道炎の有無で食道内 pHに差はないが,食道炎例で十二指腸液(ビリルビン)の逆流が高値であることが報告されている 7).

文献

1) Kono K, Takahashi A, Sugai H, et al. Trypsin activity and bile acid concentrations in the esophagus afterdistal gastrectomy. Dig Dis Sci 2006; 51: 1159-1164(ケースシリーズ)

2) Souza RF, Huo X, Mittal V, et al. Gastroesophageal reflux might cause esophagitis through a cytokine-mediated mechanism rather than caustic acid injury. Gastroenterology 2009; 137: 1776-1784

3) Yuasa N, Abe T, Sasaki E, et al. Comparison of gastroesophageal reflux in 100 patients with or withoutprior gastroesophageal surgery. J Gastroenterol 2009; 44: 650-658(ケースコントロール)

4) Kim JW, Yoon H, Kong SH, et al. Analysis of esophageal reflux after proximal gastrectomy measured bywireless ambulatory 24-hr esophageal pH monitoring and TC-99m diisopropyliminodiacetic acid (DISI-DA). Scand J Surg Oncol 2010; 101: 626-633(ケースシリーズ)

5) Vaezi MF, Richter JE. Contribution of acid and duodenogastro-oesophageal reflux to oesophageal mucosalinjury and symptoms in partial gastrectomy patients. Gut 1997; 41: 297-302(ケースシリーズ)

6) 河喜 鉄,瀬下明良,亀岡信悟.幽門側胃切除後の胃食道逆流症についての検討.日本消化器外科学会雑誌 2003; 36: 347-353(ケースシリーズ)

7) Yumiba T, Kawahara H, Nishikawa K, et al. Impact of esophageal bile exposure on the genesis of refluxesophagitis in the absence of gastric acid after total gastrectomy. Am J Gastroenterol 2002; 97: 1647-1652

(コホート)

【検索期間外文献】a) Kivilaakso E, Fromm D, Silen W. Effect of bile salts and related compounds on isolated esophageal

mucosa. Surgery 1980; 87: 280-285b) Harmon JW, Johnson LF, Maydonovitch CL. Effects of acid and bile salts on the rabbit esophageal mucosa.

Dig Dis Sci 1981; 26: 65-72

— 101 —

解説

食道・胃手術後の食道炎における逆流物の性状は切除範囲による影響を受けている 1).食道癌に用いられる食道切除術では,逆流防止に関与する噴門部も切除されるため,食道炎が起こりやすいが,全胃を用いた再建に比べ,胃管再建のほうで逆流が少ない 2).さらに,胃管再建では幽門形成の付加や胆汁逆流が危険因子として指摘されている 3).再建法別の食道炎の発症に関する 2つの報告 4, 5)では,頸部吻合では 56.4%,46%の発症率が,胸腔内吻合では 88.6%,81%の発症率が報告されており,胸腔内吻合で食道炎が起こりやすい.また,頸部吻合の場合 24 時間食道 pHモニタリングによる検討にて,縦隔内再建に比べ,胸骨後再建で酸逆流が起こりやすい 6).

体上部胃癌(特に早期胃癌)では,噴門側胃切除術が選択されることがあるが,逆流防止機構が切除されるため,術後食道炎の発生が危惧されている.噴門側胃切除術と胃全摘術を比較したシステマティックレビュー 7)において,術後食道炎に関する 2つのケースコントロール 8, 9)に基づいて,噴門側胃切除では胃全摘術に比べ食道炎が起こりやすいとされている(OR 0.04,p<0.00001).各々の報告の術後食道炎の発生率は,噴門側胃切除後(29.2%,16.2%)に対し,胃全摘術後(1.8%,0.5%)で,明らかに低値である.噴門側胃切除術は,残胃の大きさや萎縮の程度により,逆流液の性状が異なる可能性があるが 10),狭窄をきたすような高度の食道炎を起こす可能性があることが問題である.逆流を防止するために,下部食道括約筋ならび迷走神経肝枝や腹腔枝の温存手技 11),正中弓状靱帯に固定する付加手術 12),Toupet噴門形成術の付加手術 13)

が報告されている.これらの手技のなかでは,食道と残胃の間に空腸を間置する空腸間置法が用いられることが多く,食道炎の発生率は 1.7%と,長期の良好な成績 14)が報告されている.一方,空腸間置法と食道胃吻合で症状に差がないとの報告 15)や空腸間置法でも,10%前後に食道炎,空腸炎,空腸潰瘍が発生するとの報告 16)も認められる.Wenのシステマティックレビュー 7)のなかの唯一の RCT 17)では,噴門側胃切除術+空腸囊間置法と胃全摘術+Roux-en-Y

法の比較が行われている.逆流症状を伴う内視鏡的食道炎の頻度は,胃全摘術(19%)に比べ,噴門側胃切除術+空腸囊間置法(4%)は有意に低値であった.この報告では胃全摘術+Roux-en-

Y法の成績が悪すぎるが,日本では,噴門側胃切除術に空腸囊間置法が用いられること自体が

Clinical Question 6-26.上部消化管術後食道炎 ― ❷要因

術後食道炎の発生に影響する要因は何か?

CQ 6-2 術後食道炎の発生に影響する要因は何か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 上部消化管術後食道炎の発生は,残胃の大きさ,吻合の位置,再建法の影響を受ける. なし B

— 102 —

6.上部消化管術後食道炎

少ない.胃全摘術の再建としては,空腸間置法や結腸間置法による逆流防止の工夫も報告されている

が 18),一般的には Roux-en-Y法が広く普及している.Moynihan法(BillrothⅡ法に Braun吻合を加えた手技)(72%)19)などの他の再建法に比べて,Roux-en-Y法(3〜5%)で術後食道炎の発生率は明らかに低い.さらに,同等の逆流防止効果を有する間置法に比べると,手技が容易であることから,胃全摘術の再建法として普及してきている.Roux-en-Y法自体からみた場合,Roux脚は長いほうが食道炎は起こりにくい.胃全摘術の Roux脚の長さについては,35 cmの報告もあるが(Br J Surg 1982; 69: 389-390 a)[検索期間外文献]),一般的には 40 cm以上の報告が多い 20, 21).もともと十二指腸液の逆流が起こりにくい再建法であるので,術後に食道炎がみられる場合には,癒着,腹腔内圧の上昇,特に腫瘍再発の可能性を考慮する.幽門側胃切除術の術後食道炎に関して,多くの検討が行われている.2011 年に出されたシス

テマティックレビュー 22)では BillrothⅠ法と BillrothⅡ法の間に有意差はないが,両術式に比べ,Roux-en-Y法は逆流症状,内視鏡による術後食道炎,逆流性胃炎の発生率がいずれも低値である.内視鏡検査だけでなく,シンチグラフィーを用いた 2つの RCT 23, 24)でも,Roux-en-Y法は十二指腸液の残胃への逆流を有意に抑制していた.24 時間食道ビリルビンモニタリング(Bilitec2000TM)25, 26)などでも検証されているが,Roux-en-Y法は,残胃内への逆流,すなわち逆流性胃炎に対する予防効果を示す 27).ところで,幽門側胃切除術における Roux脚の長さに関しては,胃全摘術に準じて 40 cm以上のものや,25 cmの報告 24)もあるが,最近では 30 cmの報告 28)

が多い.十二指腸液の残胃への逆流と残胃から食道への逆流は分けて考える必要があるが,残胃から食

道への逆流に影響を与える因子としては,胃排出障害 29),(Jpn J Clin Oncol 2013; 43: 1195-1202 b)

[検索期間外文献])と噴門部の機能がある.幽門側胃切除後では,下部食道括約筋圧が低下するが,ガストリンや膵ポリペプチドの低下やコレシストキニンやニューロテンシンの増加の影響も考えられている 30).また,幽門側胃切除術では,食道裂孔ヘルニアの存在も重要な因子となる 31, 32).また,BillrothⅠ法再建では,術後に食道裂孔ヘルニアの増加が指摘されているが 33),His角の開大も指摘されており 34, 35),噴門部の逆流防止機構の脆弱化が起こりやすい.そのため,BillrothⅠ法における再建で噴門形成を加えることにより,逆流防止を図る工夫も報告されているが 36),残胃の小さいものには Roux-en-Y法が用いられる傾向にある.

文献

1) Yuasa N, Abe T, Sasaki E, et al. Comparison of gastroesophageal reflux in 100 patients with or withoutprior gastroesophageal surgery. J Gastroenterol 2009; 44: 650-658(ケースコントロール)

2) Zhang C, Wu QC, Hou PY, et al. Impact of the method of reconstruction after oncologic oesophagectomyon quality of life--a prospective, randomised study. Eur J Cardiothorac Surg 2011; 39: 109-114(ランダム)

3) Yajima K, Kosugi S, Kanda T, et al. Risk factors of reflux esophagitis in the cervical remnant followingesophagectomy with gastric tube reconstruction. World J Surg 2009; 33: 284-289(横断)

4) Shibuya S, Fukudo S, Shineha R, et al. High incidence of reflux esophagitis observed by routine endoscop-ic examination after gastric pull-up esophagectomy. World J Surg 2003; 27: 580-583(ケースコントロール)

5) D’Journo XB, Martin J, Rakovich G, et al. Mucosal damage in the esophageal remnant after esophagectomyand gastric transposition. Ann Surg 2009; 249: 262-268(コホート)

6) Nakajima M, Kato H, Miyazaki T, et al. Comprehensive investigations of quality of life after esophagecto-my with special reference to the route of reconstruction. Hepatogastroenterology 2007; 54: 104-110(ケー

— 103 —

②要因

スコントロール)7) Wen L, Chen XZ, Wu B, Chen XL, et al. Total vs. proximal gastrectomy for proximal gastric cancer: a sys-

tematic review and meta-analysis. Hepatogastroenterology 2012; 59: 633-640(メタ)8) An JY, Youn HG, Choi MG, et al. The difficult choice between total and proximal gastrectomy in proximal

early gastric cancer. Am J Surg 2008; 196: 587-591(ケースコントロール)9) Yoo CH, Sohn BH, Han WK, et al. Long-term results of proximal and total gastrectomy for adenocarcino-

ma of the upper third of the stomach. Cancer Res Treat 2004; 36: 50-55(ケースコントロール)10) Kim JW, Yoon H, Kong SH, et al. Analysis of esophageal reflux after proximal gastrectomy measured by

wireless ambulatory 24-hr esophageal pH monitoring and TC-99m diisopropyliminodiacetic acid (DISI-DA) scan. J Surg Oncol 2010; 101: 626-633(ケースシリーズ)

11) Hirai T, Matsumoto H, Iki K, et al. Lower esophageal sphincter- and vagus-preserving proximal partialgastrectomy for early cancer of the gastric cardia. Surg Today 2006; 36: 874-878(ケースシリーズ)

12) 辻 秀樹,安藤重満,三井 章.下部食道の逆流防止機能を温存した噴門側胃切除術後の quality of lifeに関する検討.日本消化器外科学会雑誌 2005; 38: 377-384(ケースシリーズ)

13) Sakuramoto S, Yamashita K, Kikuchi S, et al. Clinical experience of laparoscopy-assisted proximal gastrec-tomy with Toupet-like partial fundoplication in early gastric cancer for preventing reflux esophagitis. JAm Coll Surg 2009; 209: 344-351(ケースシリーズ)

14) Katai H, Morita S, Saka M, et al. Long-term outcome after proximal gastrectomy with jejunal interpositionfor suspected early cancer in the upper third of the stomach. Br J Surg 2010; 97: 558-562(ケースシリーズ)

15) Tokunaga M, Hiki N, Ohyama S, et al. Effects of reconstruction methods on a patient’s quality of life aftera proximal gastrectomy: subjective symptoms evaluation using questionnaire survey. Langenbecks ArchSurg 2009; 394: 637-641(ケースコントロール)

16) Kikuchi S, Nemoto Y, Katada N, et al. Results of follow-up endoscopy in patients who underwent proxi-mal gastrectomy with jejunal interposition for gastric cancer. Hepatogastroenterology 2007; 54: 304-307

(ケースシリーズ)17) Yoo CH, Sohn BH, Han WK, et al. Proximal gastrectomy reconstructed by jejunal pouch interposition for

upper third gastric cancer: prospective randomized study. World J Surg 2005; 29: 1592-1599(ランダム)18) Mabrut JY, Collard JM, Romagnoli R, et al. Oesophageal and gastric bile exposure after gastroduodenal

surgery with Henley’s interposition or a Roux-en-Y loop. Br J Surg 2004; 91: 580-585(ケースコントロール)19) Wei HB, Wei B, Zheng ZH, et al. Comparative study on three types of alimentary reconstruction after total

gastrectomy. J Gastrointest 2008; 12: 1376-1382(ケースコントロール)20) Salo JA, Kivilaakso E. Failure of long limb Roux-en-Y reconstruction to prevent alkaline reflux esophagitis

after total gastrectomy. Endoscopy 1990; 22: 65-71(ケースシリーズ)21) Domjan L, Simon L. Alkaline reflux esophagitis in gastroresected patients: objective detection with a sim-

ple isotope method. Scand J Gastroenterol 1984; 92 (Suppl): 245-249(ケースコントロール)22) Zong L, Chen P. BillrothⅠ vs. BillrothⅡ vs. Roux-en-Y following distal gastrectomy: a meta-analysis

based on 15 studies. Hepatogastroenterology 2011; 58: 1413-1424(メタ)23) Montesani C, D’Amato A, Santella S, et al. BillrothⅠ versus BillrothⅡ versus Roux-en-Y after subtotal gas-

trectomy: perspective randomized study. Hepatogastroenterology 2002; 49: 1469-1473(ランダム)24) Lee MS, Ahn SH, Lee JH, et al. What is the best reconstruction method after distal gastrectomy for gastric

cancer? Surg Endosc 2012; 26: 1539-1547(ランダム)25) Fukuhara K, Osugi H, Takada N, et al. Reconstructive procedure after distal gastrectomy for gastric cancer

that best prevents duodenogastroesophageal reflux. World J Surg 2002; 26: 1452-1457(ケースシリーズ)26) Osugi H, Fukuhara K, Takada N, et al. Reconstructive procedure after distal gastrectomy to prevent rem-

nant gastritis. Hepato-Gastroenterology 2004; 51: 1215-1218(ケースシリーズ)27) Tanaka S, Matsuo K, Matsumoto H, et al. Clinical outcomes of Roux-en-Y and BillrothⅠ reconstruction

after a distal gastrectomy for gastric cancer: what is the optimal reconstructive procedure? Hepatogas-troenterology 2011; 58: 257-262(ケースコントロール)

28) Kojima K, Yamada H, Inokuchi M, et al. A comparison of Roux-en-Y and Billroth-Ⅰ reconstruction afterlaparoscopy-assisted distal gastrectomy. Ann Surg 2008; 247: 962-967(ケースコントロール)

29) Fujiwara Y, Nakagawa K, Tanaka T, et al. Relationship between gastroesophageal reflux and gastric emp-tying after distal gastrectomy. Am J Gastroenterol 1996; 91: 75-79(ケースコントロール)

30) Yamashita Y, Inoue H, Ohta K, et al. Manometric and hormonal changes after distal partial gastrectomy.Aliment Pharmacol Ther 2000; 14 (Suppl 1): 166-169(ケースコントロール)

31) 石坂克彦,袖山治嗣,高橋千治,ほか.胃切除後における食道胃接合部の機能変化.日本消化器外科学会雑誌 1990; 23: 2452-2455(ケースコントロール)

32) Fujiwara Y, Nakao K, Inoue T, et al. Clinical significance of hiatal hernia in the development of gastroe-

— 104 —

6.上部消化管術後食道炎

sophageal reflux after distal gastrectomy for cancer of the stomach. J Gastroenterol Hepatol 2006; 21: 1103-1107(ケースシリーズ)

33) Takahashi T, Yoshida M, Kubota T, et al. Morphologic analysis of gastroesophageal reflux diseases inpatients after distal gastrectomy. World J Surg 2005; 29: 50-57(ケースコントロール)

34) Namikawa T, Kitagawa H, Okabayashi T, et al. Roux-en-Y reconstruction is superior to BillrothⅠ recon-struction in reducing reflux esophagitis after distal gastrectomy: special relationship with the angle of His.World J Surg 2010; 34: 1022-1027(ケースコントロール)

35) Fujiwara Y, Nakagawa K, Kusunoki M, et al. Gastroesophageal reflux after distal gastectomy: possible sig-nificance of the angle of His. Am J Gastroenterol 1998; 93: 11-15(ケースコントロール)

36) Shibata Y. Effect of semifundoplication with subtotal gastrectomy for prevention of postoperative gastroe-sophageal reflux. J Am Coll Surg 2004; 198: 212-217(非ランダム)

【検索期間外文献】a) Donovan IA, Fielding JW, Bradby H, et al. Bile diversion after total gastrectomy. Br J Surg 1982; 69: 389-390

(ケースコントロール)b) Nomura E, Lee SW, Tokuhara T, et al. Functional outcomes according to the size of the gastric remnant

and the type of reconstruction following distal gastrectomy for gastric cancer: an investigation includingtotal gastrectomy. Jpn J Clin Oncol 2013; 43: 1195-1202(ケースコントロール)

— 105 —

解説

術後食道炎は,切除範囲や再建法により逆流の病態や性状の影響を受ける.術後食道炎に特有な病態評価の診断法がなく,通常の GERDに用いられる検査法が行われている.ただし,十二指腸液逆流の評価を重要視している点が非手術例の GERDと異なる.逆流液の性状は術式のみならず,個々においても異なるため,現在までに術後食道炎の病態評価の診断に用いられている検査法を列挙するにとどめる.一般的な検査として,内視鏡検査や上部消化管造影検査が行われる.内視鏡検査により,食道炎だけでなく,食道裂孔ヘルニアの程度や噴門の形態の評価も重要である 1).内視鏡検査では,食道内の胆汁の確認は簡便な方法であるが 2),食道内吸引検査(酸,ペプシン,抱合型・脱抱合型の胆汁酸,トリプシンの測定)3, 4)も行われている.術後食道炎の病態に関する検査としては,酸逆流と十二指腸液逆流の定量的評価が行われる.

酸逆流の評価としては 24 時間食道 pHモニタリングが行われているが,十二指腸液の逆流に関しては,逆流液のビリルビンの吸光度を応用した 24 時間食道ビリルビンモニタリング(Bilitec2000TM)が用いられている 5).胃全摘術 6)では,ビリルビンモニタリングのみでも問題ないが,幽門側胃切除術では,食道 pHとビリルビンの同時モニタリングの報告が多い 7〜11).十二指腸液の逆流に関しては,99m テクネシウムを用いた肝胆道排泄シンチグラフィーを利用した方法も報告されているが 12〜14),酸逆流評価のために,24 時間食道 pHモニタリングの組み合わせが行われている 15, 16).胃の排出遅延も逆流の要因として重要である.食道や残胃からの排出をみるために,アイソ

トープでラベルしたジュースや食物を経口摂取させて測定する方法も行われている 2, 17〜20).

文献

1) Takahashi T, Yoshida M, Kubota T, et al. Morphologic analysis of gastroesophageal reflux diseases inpatients after distal gastrectomy. World J Surg 2005; 29: 50-57(ケースコントロール)

Clinical Question 6-36.上部消化管術後食道炎 ― ❸術後食道炎の病態評価

術後食道炎の病態評価の診断に有用なものは何か?

CQ 6-3 術後食道炎の病態評価の診断に有用なものは何か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 術後食道炎の病態評価は GERD に準じるが,十二指腸液の逆流を考慮する. なし B

— 106 —

6.上部消化管術後食道炎

2) Domjan L, Simon L. Alkaline reflux esophagitis in gastroresected patients. Objective detection with a sim-ple isotope method. Scand J Gastroenterol 1984; 92 (Suppl): 245-249(ケースコントロール)

3) Gotley DC, Ball DE, Owen RW, et al. Evaluation and surgical correction of esophagitis after partial gas-trectomy. Surgery 1992; 111: 29-36(ケースシリーズ)

4) Kono K, Takahashi A, Sugai H, et al. Trypsin activity and bile acid concentrations in the esophagus afterdistal gastrectomy. Dig Dis Sci 2006; 51: 1159-1164(ケースシリーズ)

5) Fukuhara K, Osugi H, Takada N, et al. Reconstructive procedure after distal gastrectomy for gastric cancerthat best prevents duodenogastroesophageal reflux. World J Surg 2002; 26: 1452-1457(ケースシリーズ)

6) Mabrut JY, Collard JM, Romagnoli R, et al. Oesophageal and gastric bile exposure after gastroduodenalsurgery with Henley’s interposition or a Roux-en-Y loop. Br J Surg 2004; 91: 580-585(ケースコントロール)

7) Vaezi MF, Sears R, Richter JE. Placebo-controlled trial of cisapride in postgastrectomy patients with duo-denogastroesophageal reflux. Dig Dis Sci 1996; 41: 754-763(ランダム)

8) Vaezi MF, Richter JE. Contribution of acid and duodenogastro-oesophageal reflux to oesophageal mucosalinjury and symptoms in partial gastrectomy patients. Gut 1997; 41: 297-302(ケースシリーズ)

9) Marshall RE, Anggiansah A, Owen WA, et al. Investigation of oesophageal reflux symptoms after gastricsurgery with combined pH and bilirubin monitoring. Br J Surg 1999; 86: 271-275(ケースシリーズ)

10) Yumiba T, Kawahara H, Nishikawa K, et al. Impact of esophageal bile exposure on the genesis of refluxesophagitis in the absence of gastric acid after total gastrectomy. Am J Gastroenterol 2002; 97: 1647-1652

(コホート)11) Yuasa N, Abe T, Sasaki E, et al. Comparison of gastroesophageal reflux in 100 patients with or without

prior gastroesophageal surgery. J Gastroenterol 2009; 44: 650-658(ケースコントロール)12) Nano M, Castellano G, Coluccia C, et al. A study of esophageal reflux following total gastrectomy with

hepatobiliary sequential scintigraphy using TC-99m DISIDA. Ital J Surg Sci 1986; 16: 17-22(ケースシリーズ)

13) Chan DC, Fan YM, Lin CK, et al. Roux-en-Y reconstruction after distal gastrectomy to reduce enterogastricreflux and Helicobacter pylori infection. J Gastrointest Surg 2007; 11: 1732-1740(ケースシリーズ)

14) Lee MS, Ahn SH, Lee JH, et al. What is the best reconstruction method after distal gastrectomy for gastriccancer? Surg Endosc 2012; 26: 1539-1547(ランダム)

15) Shinoto K, Ochiai T, Suzuki T, et al. Effectiveness of Roux-en-Y reconstruction after distal gastrectomybased on an assessment of biliary kinetics. Surg Today 2003; 33: 169-177(ケースシリーズ)

16) Kim JW, Yoon H, Kong SH, et al. Analysis of esophageal reflux after proximal gastrectomy measured bywireless ambulatory 24-hr esophageal pH monitoring and TC-99m diisopropyliminodiacetic acid (DISI-DA) scan. J Surg Oncol 2010; 101: 626-633(ケースシリーズ)

17) Fujiwara Y, Hashimoto N, Nakagawa K, et al. Scintigraphic evaluation of gastroesophageal reflux follow-ing gastrectomy. Hepatogastroenterology 1993; 40: 262-261(コホート)

18) Fujiwara Y, Nakagawa K, Tanaka T, et al. Relationship between gastroesophageal reflux and gastric emp-tying after distal gastrectomy. Am J Gastroenterol 1996; 91: 75-79(ケースコントロール)

19) Montesani C, D’Amato A, Santella S, et al. BillrothⅠ versus BillrothⅡ versus Roux-en-Y after subtotal gas-trectomy: perspective randomized study. Hepatogastroenterology 2002; 49: 1469-1473(ランダム)

20) 橋本直樹,新海政幸,川西賢秀,ほか.消化器愁訴と消化管運動異常に関する研究―胃食道シンチよりみた胃食道逆流の評価.Therapeutic Research 2005; 26: 858-859(コホート)

— 107 —

解説

胃切除術後では,シンチグラフィーを用いての残胃食道逆流の程度は内視鏡的食道炎の重症度よりも組織学的食道炎(粘膜固有層と基底細胞の肥厚・増殖)の重症度と相関するとの報告がみられている 1).ただし,術後食道炎に特有の組織像の報告はなく,術後食道炎の組織学的評価としては,一般的なびらん性 GERDの組織像が判断基準として用いられている 2).一方,びらん性 GERDの組織像の診断基準や再現性に関しては,検討が行われており,最近では,①基底細胞の過形成,②乳頭延長,③上皮内への好酸球浸潤,④上皮内への好中球浸潤,⑤単核球の浸潤,⑥壊死・びらん,⑦びらんの治癒像,⑧細胞間隙の開大の 8つの指標が示されている 3, 4).

文献

1) Fujiwara Y, Nakagawa K, Kuroki T, et al. Gastroesophageal scintigraphy following gastrectomy: compari-son to endoscopy and esophageal biopsy. Am J Gastroenterol 1993; 88: 1233-1236(コホート)

2) Montesani C, D’Amato A, Santella S, et al. BillrothⅠ versus BillrothⅡ versus Roux-en-Y after subtotal gas-trectomy: perspective randomized study. Hepatogastroenterology 2002; 49: 1469-1473(ランダム)

3) Fiocca R, Mastracci L, Riddell R, et al. Development of consensus guidelines for the histologic recognitionof microscopic esophagitis in patients with gastroesophageal reflux disease: the Esohisto project. HumPathol 2010; 41: 223-231(ケースコントロール)

4) Yerian L, Fiocca R, Mastracci L, et al. Refinement and reproducibility of histologic criteria for the assess-ment of microscopic lesions in patients with gastroesophageal reflux disease: the Esohisto Project. Dig DisSci 2011; 56: 2656-2652(ケースコントロール)

Clinical Question 6-46.上部消化管術後食道炎 ― ❸術後食道炎の病態評価

術後食道炎に特有な病理組織像はあるか?

CQ 6-4 術後食道炎に特有な病理組織像はあるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 特有な組織像はなく,非手術胃の食道炎の組織像に準じる. なし C

— 108 —

解説

エビデンスレベルの高いものだけでなく,この点に関する報告自体が認められなかった.1回の食事量の制限,回数を分けての規則正しい食生活,食後の座位と夜間(就寝中)の Fowler位の励行,肥満や便秘の解消,夕食の摂取から就寝までの時間を空けるなど,通常の GERDに対する生活指導が準用されている.1回の食事量に注意し,まめに水分を摂りながら,時間をかけて食事を行い,規則正しい食生活を行うことなど,胃切除後患者に共通する生活指導も有用となっていると思われるが,報告はない.

文献

なし

Clinical Question 6-56.上部消化管術後食道炎 ― ❹術後食道炎の治療

術後食道炎の治療に生活指導は有用か?

CQ 6-5 術後食道炎の治療に生活指導は有用か?

ステートメント

● 術後食道炎の治療における生活指導の有用性に関する報告はない.

— 109 —

解説

胃切除後,特に幽門側胃切除後では,残胃の酸分泌の状態により,逆流液の性状が個々の症例で異なる可能性もあるため,PPIのような酸分泌抑制薬が高い有用性を示すとは限らない.ただし,残胃,特に胃底腺領域が残されている場合には,PPIのような酸分泌抑制薬の投与が行われている.特に,食道切除や噴門側胃切除術では,食道炎の発生率が高いが,その治療として PPIが用いられており,その有用性は高い 1〜4).残胃や小腸の排出遅延が逆流に関与するため,消化管運動機能を改善する薬剤にも効果が期

待される 5).少数例での検討だが,シサプリド(現在発売中止)の RCTで,逆流症状の改善が報告されており 6),本疾患に対する消化管運動改善薬の有用性が示唆される.同じ消化管運動機能改善薬であるモサプリドに関しても,内視鏡検査による残胃炎や胆汁逆流の改善が報告されている 7).消化管運動改善作用を有する六君子湯に関しても少数例であるが,その有用性が報告されている 8).幽門側胃切除術や胃全摘術では,十二指腸液の逆流が特に重要であるが,そのトリプシン活

性を抑制するために,蛋白分解酵素阻害薬が用いられる.カモスタットは,十二指腸内のトリプシン活性を抑制して,ロサンゼルス分類 Grade B以上の術後食道炎の症例の割合を 70%から40%へと改善したと報告されている 9).薬剤開発治験の成績が中心であるが,蛋白分解酵素阻害薬の術後食道炎に対する有用性が示されている 10, 11).幽門側胃切除術後食道炎に対し,粘膜保護薬としてのアルギン酸塩とモサプリドの RCTが行

われている 12).胸やけ症状の著明改善は,モサプリド(n=21)の 52.6%に比べ,アルギン酸塩(n=20)は 75.0%と同等以上の効果が認められている.術後食道炎に対する有用性を示す薬剤は少なくないが,少数例の報告が多かった.さらに,酸逆流に対する薬物治療の有効率に比べると,十二指腸液逆流に対する治療効果は低い.

Clinical Question 6-66.上部消化管術後食道炎 ― ❹術後食道炎の治療

術後食道炎の治療に薬物治療は有用か?

CQ 6-6 術後食道炎の治療に薬物治療は有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 酸分泌抑制薬だけでなく,消化管運動機能改善薬,蛋白分解酵素阻害薬,粘膜保護薬が有用なことがあり,その使用を提案する.

2(100%) B

— 110 —

6.上部消化管術後食道炎

文献

1) Shibuya S, Fukudo S, Shineha R, et al. High incidence of reflux esophagitis observed by routine endoscop-ic examination after gastric pull-up esophagectomy. World J Surg 2003; 27: 580-583(ケースコントロール)

2) Yamamoto S, Makuuchi H, Shimada H, et al. Clinical analysis of reflux esophagitis following esophagecto-my with gastric tube reconstruction. J Gastroenterol 2007; 42: 342-345(ケースシリーズ)

3) Okuyama M, Motoyama S, Maruyama K, et al. Proton pump inhibitors relieve and prevent symptomsrelated to gastric acidity after esophagectomy. World J Surg 2008; 32: 246-254(ケースシリーズ)

4) Sakuramoto S, Yamashita K, Kikuchi S, et al. Clinical experience of laparoscopy-assisted proximal gastrec-tomy with Toupet-like partial fundoplication in early gastric cancer for preventing reflux esophagitis. JAm Coll Surg 2009; 209: 344-351(ケースシリーズ)

5) Tomita R, Tanjoh K, Fujisaki S, et al. Relation between gastroduodenal interdigestive migrating motorcomplex and postoperative gastrointestinal symptoms before and after cisapride therapy following distalgastrectomy for early gastric cancer. World J Surg 2000; 4: 1250-1256(ケースシリーズ)

6) Vaezi MF, Sears R, Richter JE. Placebo-controlled trial of cisapride in postgastrectomy patients with duo-denogastroesophageal reflux. Dig Dis Sci 1996; 41: 754-763(ランダム)

7) 中村理恵子,才川義朗,清田 毅,ほか.胃癌遠位側胃切除術後,クエン酸モサプリド・メシル酸カモスタット投与下における内視鏡所見の検討.Progress of Digestive Endoscopy 2005; 67: 35-39(ケースコントロール)

8) 水野修吾,山際健太郎,岩田 真,ほか.胃癌切除後の消化器症状に対するツムラ六君子湯の術後早期投与効果―逆流性食道炎を中心として.Progress in Medicine 2001; 21: 1366-1367(ケースコントロール)

9) Kono K, Takahashi A, Sugai H, et al. Oral trypsin inhibitor can improve reflux esophagitis after distal gas-trectomy concomitant with decreased trypsin activity. Am J Surg 2005; 190: 412-417(ケースシリーズ)

10) 佐藤寿雄,内野純一,松野正紀.FOY-305 の術後逆流性食道炎に対する二重盲検比較試験.臨床医薬 1992;8: 1893-1908(ランダム)

11) 阿部令彦,吉野肇一,杉田 稔.FUT-187 の胃切除後逆流性食道炎に対する臨床第Ⅲ相試験成績.プラセボを対照とした二重盲検比較試験.医学のあゆみ 1995; 173: 273-284(ランダム)

12) 幕内博康,島田英雄,北川雄光,ほか.幽門側胃切除 BillrothⅠ法再建術後の胃食道逆流症(GERD)患者に対するアルギン酸ナトリウムとモサプリドクエン酸塩の多施設間無作為化比較試験.Pharma Medica2010; 28: 121-128(ランダム)

— 111 —

解説

術後食道炎の手術療法に関しては,Roux-en-Y法に関する報告が多く認められる.ただし,個々の報告の症例数が少なく,症例報告も多い.本手術は 1892 年に Cesar Rouxにより,幽門狭窄例に対する治療としてはじめて報告された.吻合部潰瘍が頻発し,幽門狭窄例に対する胃空腸吻合術としての意義を失ったが,消化液の逆流防止効果により,その後,胃切除術における再建だけでなく,肝胆膵領域でも広く応用されるようになっている.Roux-en-Y法は,幽門側胃切除術後の術後食道炎だけでなく 1, 2),術後の逆流性胃炎の手術療法

としても用いられる 3, 4).術後食道炎の手術療法として,①噴門形成術のような逆流防止手術,②減酸手術,③十二指腸液の分離(biliary diversion)があるが,Roux-en-Y法のような十二指腸液の分離手術が用いられることが多い.十二指腸液逆流の関与が強い術後食道炎は,治療効果の高い薬剤がないことにも関係するが,攻撃因子となる十二指腸液の逆流を防止する手術療法が選択される.特に逆流性胃炎に対する十二指腸液分離手術の歴史は古く,術後食道炎にも適応されている.特に胃全摘術では,逆流は十二指腸液のみでもあることから,胃全摘術後の食道炎治療にも用いられている 5).Roux脚の長さに関しては,70 cmという長いものもあるが 3),40 cm前後が多い.一方,再手術であるがゆえの手術の危険性も踏まえなければならないため,慎重な手術適応が必要となる.治療としても有用であるが,十二指腸液の逆流を抑える Roux-

en-Y法は,胃全摘術だけでなく,幽門側胃切除術でも初回の再建術式に用いられるようになってきた.ただし,日本ではまれであるが,Roux-en-Y法では Roux stasis症候群,すなわち Roux

脚の排出障害が問題となることがある.そのような場合,胃・十二指腸吻合(B-1)への変更と総胆管・空腸吻合術による Roux-en-Y法で,十二指腸液の分離を図る手技も報告されている 6).また,空腸間置法(20〜30 cmの空腸を間置;Henley手術)も Roux-en-Y法と同等の効果を示すことも報告されている 7).

食道切除と胃管再建後の食道炎に対する手術療法としての報告は少ないが,食道切除・胃管再建後の食道炎に対し,幽門洞切除と Roux-en-Y法(Roux脚 60 cm)の有用性を示す症例報告がある 8).

Clinical Question 6-76.上部消化管術後食道炎 ― ❹術後食道炎の治療

術後食道炎の治療に手術療法は有用か?

CQ 6-7 術後食道炎の治療に手術療法は有用か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 術後食道炎の治療に外科的治療,特に Roux-en-Y 法が有用なことがあり,外科的治療を検討することを提案する.

2(92.3%) C

— 112 —

6.上部消化管術後食道炎

文献

1) Ferguson GH, MacLennan I, Taylor TV, et al. Outcome of revisional gastric surgery using a Roux-en-Y bil-iary diversion. Br J Surg 1990; 77: 551-554(ケースシリーズ)

2) Gotley DC, Ball DE, Owen RW, et al. Evaluation and surgical correction of esophagitis after partial gas-trectomy. Surgery 1992; 111: 29-36(ケースシリーズ)

3) Capussotti L, Marucci MM, Arico S, et al. Long-term results of surgical treatment for alkaline reflux gastri-tis in gastrectomized patients. Am J Gastroenterol 1984; 79: 924-926(ケースシリーズ)

4) de Langen ZJ, Slooff MJ, Jansen W. The surgical treatment of postgastrectomy reflux gastritis. SurgGynecol Obstet 1984; 158: 322-326(ケースシリーズ)

5) Bektas H, Schrem H, Lehner F, et al. The value of reoperative procedures after unusual reconstructions inthe gastrointestinal tract associated with substantial morbidity. J Gastrointest Surg 2006; 10: 111-122(ケースシリーズ)

6) Madura JA, Grosfeld JL. Biliary diversion: a new method to prevent enterogastric reflux and reverse theRoux stasis syndrome. Arch Surg 1997; 132: 245-249(ケースシリーズ)

7) Sousa JES, Troncon LEA, Anrade JI, et al. Comparison between Henley jejunal interposition and Roux-en-Y anastomosis as concerns enterogastric biliary reflux levels. Ann Surg 1988; 208: 597-600(ケースコントロール)

8) D’Journo XB, Martin J, Gaboury L, et al. Roux-en-Y diversion for intractable reflux after esophagectomy.Ann Thorac Surg 2008; 86: 1646-1652(ケースシリーズ)

— 113 —

解説

術後食道炎の自然経過に関して,限られた報告しかない.食道切除,胃管再建後にみられる術後食道炎に関しては,経過とともに症状 1)および内視鏡所見 2〜4)の増悪,特に重症食道炎の増加 2)が指摘されている.また,機能検査においても,酸逆流ならびに十二指腸液の逆流のいずれも時間経過とともに増加することが指摘されている 5).一方,胃切除後の術後食道炎は,術後 1年以内にみられることが多く 6),胃全摘術後では,術後の食道炎は経過とともに減少しているとの報告がみられる 7).幽門側胃切除後の食道炎の自然経過に関する報告はなかったが,残胃内への胆汁逆流の程度の推移に関しては変化が少ないとの報告が認められた 8).食道切除・胃管再建のように,胃底腺(の一部)ならびに幽門洞が残るような術式の術後食道炎と,幽門側胃切除術,胃全摘術のように,幽門洞領域(幽門を含め)が切除されて,十二指腸液の逆流が主体となる術後食道炎とでは自然経過が異なる可能性がある.切除範囲やガストリンなど消化管ホルモンの影響を受けている可能性も考えられるが,その機序は明らかではなく,その自然経過に関してもエビデンスの集積が必要である.

文献

1) Derogar M, Orsini N, Sadr-Azodi O, et al. Influence of major postoperative complications on health-relat-ed quality of life among long-term survivors of esophageal cancer surgery. J Clin Oncol 2012; 30: 1615-1619

(コホート)2) Nishimura K, Tanaka T, Tanaka Y, et al. Reflux esophagitis and columnar-lined esophagus after cervical

esophagogastrostomy (following esophagectomy). Dis Esophagus 2010; 23: 94-99(ケースシリーズ)3) Yajima K, Kosugi S, Kanda T, et al. Risk factors of reflux esophagitis in the cervical remnant following

esophagectomy with gastric tube reconstruction. World J Surg 2009; 33: 284-289(ケースシリーズ)4) Yamamoto S, Makuuchi H, Shimada H, et al. Clinical analysis of reflux esophagitis following esophagecto-

my with gastric tube reconstruction. J Gastroenterol 2007; 42: 342-345(ケースシリーズ)5) O’Riordan JM, Tucker ON, Byrne PJ, et al. Factors influencing the development of Barrett’s epithelium in

Clinical Question 6-86.上部消化管術後食道炎 ― ❺術後食道炎の長期経過と合併症

術後食道炎の自然経過はどうなるのか?

CQ 6-8 術後食道炎の自然経過はどうなるのか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 切除範囲などにより,術後食道炎の頻度は増加する場合と減少する場合がある. なし C

— 114 —

6.上部消化管術後食道炎

the esophageal remnant postesophagectomy. Am J Gastroenterol 2004; 99: 205-211(ケースシリーズ)6) Domjan L, Simon L. Alkaline reflux esophagitis in gastroresected patients: objective detection with a sim-

ple isotope method. Scand J Gastroenterol 1984; 92 (Suppl): 245-249(ケースコントロール)7) Wei HB, Wei B, Zheng ZH, et al. Comparative study on three types of alimentary reconstruction after total

gastrectomy. J Gastrointest Surg 2008; 12: 1376-1382(ケースコントロール)8) Jung HJ, Lee JH, Ryu KW, et al. The influence of reconstruction methods on food retention phenomenon in

the remnant stomach after a subtotal gastrectomy. J Surg Oncol 2008; 98: 11-14(コホート)

7.食道外症状

— 116 —

解説

GERが狭心症などの虚血性心疾患と区別が困難な胸痛の原因となるか否かは様々な方法で検討されてきている.一般住民を対象とした疫学的検討として,非心臓性胸痛(NCCP)は GERD症状と相関がみら

れるとの報告がある 1).数少ない日本人を対象とした研究では,NCCP 40 例中 GERDが原因と考えられた胸痛は 1例(2.5%)と低率であったと報告されており 2),海外との報告と頻度の差がみられ,今後も日本人を対象とした検討が望まれる.実際に冠動脈造影にて異常があり,狭心症を有する例に食道 pHモニタリングと心電図検査

を同時に施行中にみられた胸痛の約半数は ST変化を伴わない GERと一致していたとの報告がある 3).胸痛がある冠動脈造影異常例と正常例で食道 pHモニタリングを施行した結果,前者で約 30%,後者で約 50%の胸痛が GERとが一致していたとの報告がある 4).冠動脈狭窄が証明されており,狭心症治療中にもかかわらず胸痛がみられる例では食道 pHモニタリングによる GER

と一致した胸痛は約 23%であったとの報告がある 5).逆流症状を訴えて受診した 6,215 例中,虚血性心疾患を除外した非心臓性胸痛は 14.5%(903/6,215)にみられたとの報告がある 6).これらのコホート研究をまとめた解析では,冠動脈疾患がない非心臓性胸痛を有する患者 517 例中,GERがみられる患者は 230 例(44±7%,10 研究),そのうち 9研究 212 例の胸痛エピソード中137 例(67±20%)で GERが関連していたとの報告がある 7).虚血性心疾患(狭心症)の典型例は運動負荷時に胸痛が生じる点であり,GERDによると考え

られる胸痛も運動負荷との関連を検討する必要がある.典型的な狭心症様の胸痛を有するが,事前の冠動脈造影で冠動脈狭窄がみられないことを確認した例を対象に,食道 pHモニタリングによる食道内酸逆流と胸痛出現の関連を検討している 8, 9).その結果,通常生活時には胸痛がみられなかった例でも運動負荷時には普段自覚するのと同様の胸痛が生じ,その胸痛が食道内酸逆流と一致していた例が存在したことが報告されている.よって,GERDが原因と疑われる冠動脈異常を伴わない狭心症様胸痛を有する例の診断には,運動負荷を含めた食道 pHモニタリ

Clinical Question 7-17.食道外症状 ― ❶非心臓性胸痛

GER により虚血性心疾患と見分けのつかない胸痛が生じるか?

CQ 7-1 GER により虚血性心疾患と見分けのつかない胸痛が生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GER により狭心症と自覚される胸痛が起こる場合があるが,心臓由来が否定された胸痛に対する PPI の効果は症例により差がみられる.

なし C

— 117 —

①非心臓性胸痛

ングも考慮する必要があると考えられる.GERDと胸痛の関連を検討したこれまでの研究では,両者の関連を直接的に検討した研究よ

りも,PPIによる治療を行いその結果で胸痛が改善するか否かを検討し間接的に両者の関連を検討した研究が多くみられる.これらの 7研究のメタアナリシスを行っている 10).その結果,PPIによる治療後も胸痛が持続する risk ratioは 0.54 と PPIの有効性が示されるが,症状の完全消失を指標とすると risk ratioは 0.83 になったと報告されている.近年,GERD症状が併存しない胸痛に比較して GERD症状が併存する胸痛に対して PPIの効

果が優れるという報告がみられる 11〜13).一方,冠動脈異常のある例を対象に PPI倍量の 2週投与により,胸痛軽減や亜硝酸塩使用量の低下ばかりでなく,運動負荷時の心電図上の ST変化も軽減されたとの報告もあり,GERが胸痛症状を誘発する以外に,実際の心虚血の誘因となっている可能性を示唆するものと考えられる 14).しかし,PPIで胸痛は軽減するが心電図上の変化はみられないとの相反する報告もみられ 15),この点は今後も検討が必要と考えられる.

文献

1) Ford AC, Suares NC, Talley NJ. Meta-analysis: the epidemiology of noncardiac chest pain in the commu-nity. Aliment Pharmacol Ther 2011; 34: 172-180(コホート)

2) 谷村隆志,足立経一,石村典久,ほか.非心臓性胸痛にて救急外来受診例における胃食道逆流症の頻度についての検討.日本消化器病学会雑誌 2008; 105: 54-59(横断)

3) Mehta AJ, de Caestecker JS, Camm AJ, et al. Gastro-oesophageal reflux in patients with coronary arterydisease: how common is it and does it matter? Eur J Gastroenterol Hepatol 1996; 8: 973-978(コホート)

4) Lux G, Van Els J, The GS, et al. Ambulatory oesophageal pressure, pH and ECG recording in patients withnormal and pathological coronary angiography and intermittent chest pain. Neurogastroenterol Motil1995; 7: 23-30(コホート)

5) Singh S, Richter JE, Hewson EG, et al. The contribution of gastroesophageal reflux to chest pain in patientswith coronary artery disease. Ann Intern Med 1992; 117: 824-830(コホート)

6) Jaspersen D, Kulig M, Labenz J, et al. Prevalence of extra-oesophageal manifestations in gastro-oesophageal reflux disease: an analysis based on the ProGERD Study. Aliment Pharmacol Ther 2003; 17:1515-1520(コホート)

7) Liuzzo JP, Ambrose JA. Chest pain from gastroesophageal reflux disease in patients with coronary arterydisease. Cardiol Rev 2005; 13: 167-173(コホート)

8) Schofield PM, Whorwell PJ, Brooks NH, et al. Oesophageal function in patients with angina pectoris: acomparison of patients with normal coronary angiograms and patients with coronary artery disease.Digestion 1989; 42: 70-78(コホート)

9) Schofield PM, Brooks NH, Colgan S, et al. Left ventricular function and oesophageal function in patientswith angina pectoris and normal coronary angiograms. Br Heart J 1987; 58: 218-224(コホート)

10) Cremonini F, Wise J, Moayyedi P, et al. Diagnostic and therapeutic use of proton pump inhibitors in non-cardiac chest pain: a metaanalysis. Am J Gastroenterol 2005; 100: 1226-1232(メタ)

11) Kahrilas PJ, Hughes N, Howden CW. Response of unexplained chest pain to proton pump inhibitor treat-ment in patients with and without objective evidence of gastro- oesophageal reflux disease. Gut 2011; 60:1473-1478(メタ)

12) Mohd H, Qua CS, Wong CH, et al. Non-cardiac chest pain: prevalence of reflux disease and response toacid suppression in an Asian population. J Gastroenterol Hepatol 2009; 24: 288-293(コホート)

13) Kim JH, Sinn DH, Son HJ, et al. Comparison of one-week and two-week empirical trial with a high-doserabeprazole in non-cardiac chest pain patients. J Gastroenterol Hepatol 2009; 24: 1504-1509(横断)

14) Budzynski J, Kłopocka M, Pulkowski G, et al. The effect of double dose of omeprazole on the course ofangina pectoris and treadmill stress test in patients with coronary artery disease: a randomised, double-blind, placebo controlled, crossover trial. Int J Cardiol. 2008; 127: 233-239(ランダム)

15) Talwar V, Wurm P, Bankart MJ, et al. Clinical trial: chest pain caused by presumed gastro-oesophagealreflux in coronary artery disease: controlled study of lansoprazole vs. placebo. Aliment Pharmacol Ther2010; 32: 191-199(ランダム)

— 118 —

解説

食道内への酸の GERが呼吸器疾患などの明らかな原因がない慢性咳嗽の原因となる場合があるか否かに関しては,食道内への酸還流による直接的な検討,横断的に GERDに咳嗽が合併する頻度からの検討などが行われてきた.原因不明の慢性咳嗽を有し食道 pHモニタリングで GER

が証明されている例とコントロール例に食道内酸負荷を行ったところ,前者で有意に咳の回数,程度とも増強したとの報告がある 1).逆流症状を訴えて受診した 6,215 例中,慢性咳嗽は 13.0%と高頻度にみられたとの報告がある 2).食道 pHモニタリングとインピーダンス法を用いた検討では,喉頭への逆流は酸性か非酸性かを問わず咳嗽と密接に関連するとの報告もある 3).逆流と咳嗽の関連する機序に関しては誤嚥説と反射説があるが,喀痰中のペプシンと胆汁酸

濃度の検討から,誤嚥説よりは反射説を支持する報告がみられる 4).また,酸の GERが咳嗽を誘発する機序として,カプサイシン刺激試験により咳感受性が亢進している例で咳嗽が誘発されるとの報告もみられる 5).介入的手法で GERDと慢性咳嗽の関連を検討した研究として,GERDに対する生活指導や酸

分泌抑制薬による治療で慢性咳嗽が改善したとの報告 6〜8),腹腔鏡下の噴門形成術により合併する慢性咳嗽が改善したなどの報告がある 9).GERDを伴う原因不明の慢性咳嗽に対する PPIの効果をプラセボと比較した試験では,PPI

の効果ありとする研究 10)がある反面,PPIとプラセボの効果に差がみられなかった 11),あるいは一定の傾向がみられなかったとする研究 12),など結果が一致しておらず,これらの研究のメタアナリシスでも原因不明の慢性咳嗽に対する PPIの効果は乏しいか,あっても限定的であると結論づけされ 13, 14),今後も症例数や試験デザインを統一した更なる検討が必要であると考えられる.

Clinical Question 7-27.食道外症状 ― ❷慢性咳嗽

GER により慢性咳嗽が生じるか?

CQ 7-2 GER により慢性咳嗽が生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 食道・喉頭への逆流により慢性咳嗽が生じることがあるが,GERを伴う原因不明の慢性咳嗽に対する PPI の治療効果は限定的である.

なし C

— 119 —

②慢性咳嗽

文献

1) Ing AJ, Ngu MC, Breslin AB. Pathogenesis of chronic persistent cough associated with gastroesophagealreflux. Am J Respir Crit Care Med 1994; 149: 160-167(ランダム)

2) Jaspersen D, Kulig M, Labenz J, et al. Prevalence of extra-oesophageal manifestations in gastro-oesophageal reflux disease: an analysis based on the ProGERD Study. Aliment Pharmacol Ther 2003; 17:1515-1520(コホート)

3) Shaheen NJ, Crockett SD, Bright SD, et al. Randomised clinical trial: high-dose acid suppression for chron-ic cough: a double- blind, placebo-controlled study. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 225-234(コホート)

4) Grabowski M, Kasran A, Seys S, et al. Pepsin and bile acids in induced sputum of chronic cough patients.Respir Med 2011; 105: 1257-1261(横断)

5) Javorkova N, Varechova S, Pecova R, et al. Acidification of the oesophagus acutely increases the coughsensitivity in patients with gastro- oesophageal reflux and chronic cough. Neurogastroenterol Motil 2008;20: 119-124(ランダム)

6) Palombini BC, Villanova CA, Araujo E, et al. A pathogenic triad in chronic cough: asthma, postnasal dripsyndrome, and gastroesophageal reflux disease. Chest 1999; 116: 279-284(横断)

7) Mello CJ, Irwin RS, Curley FJ. Predictive values of the character, timing, and complications of chroniccough in diagnosing its cause. Arch Intern Med 1996; 156: 997-1003(横断)

8) Jaspersen D, Labenz J, Willich SN, et al. Long-term clinical course of extra-oesophageal manifestations inpatients with gastro-oesophageal reflux disease: a prospective follow-up analysis based on the ProGERDstudy. Dig Liver Dis 2006; 38: 233-238(コホート)

9) Allen CJ, Anvari M. Does laparoscopic fundoplication provide long-term control of gastroesophagealreflux related cough? Surg Endosc 2004; 18: 633-637(コホート)

10) Ours TM, Kavuru MS, Schilz RJ, et al. A prospective evaluation of esophageal testing and a double-blind,randomized study of omeprazole in a diagnostic and therapeutic algorithm for chronic cough. Am J Gas-troenterol 1999; 94: 3131-3138(コホート)

11) Faruqi S, Molyneux ID, Fathi H, et al. Chronic cough and esomeprazole: a double-blind placebo-controlledparallel study. Respirology 2011; 16: 1150-1156(ランダム)

12) Kiljander TO, Salomaa ER, Hietanen EK, et al. Chronic cough and gastro-oesophageal reflux: a double-blind placebo-controlled study with omeprazole. Eur Respir J 2000; 16: 633-638(ランダム)

13) Chang AB, Lasserson TJ, Gaffney J, et al. Gastro-oesophageal reflux treatment for prolonged non-specificcough in children and adults. Cochrane Database Syst Rev 2006; (4): CD004823(メタ)

14) Chang AB, Lasserson TJ, Kiljander TO, et al. Systematic review and meta-analysis of randomised con-trolled trials of gastro-oesophageal reflux interventions for chronic cough associated with gastro-oesophageal reflux. BMJ 2006; 332: 11-17(メタ)

— 120 —

解説

GERDが咽喉頭炎や咽喉頭症状の原因となることがあるか否かに関しては,GERD例における咽喉頭炎の合併が非 GERD例より高いとの多数の検討 1),咽喉頭炎・症状を有する例では必ずしも胸やけなどの定型的逆流症状を伴ってはいなかったが,2チャンネルの食道 pHモニタリングを用いた検討で高率に喉頭レベルまでの酸の GERがみられた 2),組織学的に検討された慢性喉頭炎所見と食道 pHモニタリングによる酸の GERが相関していた 3)などの肯定的な報告がみられる.一方,PPIによる治療で咽喉頭炎や咽喉頭症状の改善がみられるかに関する検討では,PPIに

より喉頭炎が改善したとの報告がある反面 4, 5),喉頭炎または症状の改善に PPIとプラセボで差がみられなかったとの報告も多い 6〜8).また,喉頭炎の症状改善には有効だが喉頭炎自体の改善効果には差なしとの報告 9),急性症状には PPIが有効であるが長期投与の症状改善効果は疑問であるとの報告 10),食道 pHモニタリング上の逆流改善に比して自覚症状の改善比率が低いなどの報告もある 11).PPI,腹腔鏡下噴門形成術施行の咽喉頭症状に対する効果は,逆流症状を伴う例では有効だが逆流症状を伴わない例では効果が少ないとも報告されている 12, 13).よって,現時点で慢性咽喉炎に対する PPIや噴門形成術施行などの酸の GERに対する治療の効果に関しては確定していないと考えざるを得ない.

文献

1) el-Serag HB, Sonnenberg A. Comorbid occurrence of laryngeal or pulmonary disease with esophagitis inUnited States military veterans. Gastroenterology 1997; 113: 755-760(ケースコントロール)

2) Issing WJ, Tauber S, Folwaczny C, et al. Impact of 24-hour intraesophageal pH monitoring with 2 channelsin the diagnosis of reflux-induced otolaryngologic disorders. Laryngorhinootologie 2003; 82: 347-352(横断)

Clinical Question 7-37.食道外症状 ― ❸咽喉頭症状

GER により慢性咽喉頭炎(自覚症状のみのものを含む)が生じるか?

CQ 7-3 GER により慢性咽喉頭炎(自覚症状のみのものを含む)が生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GER は咽喉頭炎,咽喉頭症状の原因となることがあるが,咽喉頭炎や自覚症状に対する PPI や外科的 GER 防止手術の効果は確定していない.

なし C

— 121 —

③咽喉頭症状

3) Kamargiannis N, Gouveris H, Katsinelos P, et al. Chronic pharyngitis is associated with severe acidiclaryngopharyngeal reflux in patients with Reinke’s edema. Ann Otol Rhinol Laryngol 2011; 120: 722-726

(ケースコントロール)4) Williams RB, Szczesniak MM, Maclean JC, et al. Predictors of outcome in an open label, therapeutic trial of

high-dose omeprazole in laryngitis. Am J Gastroenterol 2004; 99: 777-785(コホート)5) Yazici ZM, Sayin I, Kayhan FT, et al. Laryngopharyngeal reflux might play a role on chronic nonspecific

pharyngitis. Eur Arch Otorhinolaryngol 2010; 267: 571-574(ケースコントロール)6) Qadeer MA, Phillips CO, Lopez AR, et al. Proton pump inhibitor therapy for suspected GERD-related

chronic laryngitis: a meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Gastroenterol 2006; 101: 2646-2654(メタ)

7) Vaezi MF, Richter JE, Stasney CR, et al. Treatment of chronic posterior laryngitis with esomeprazole.Laryngoscope 2006; 116: 254-260(ランダム)

8) Steward DL, Wilson KM, Kelly DH, et al. Proton pump inhibitor therapy for chronic laryngo-pharyngitis:a randomized placebo-control trial. Otolaryngol Head Neck Surg 2006; 131: 342-350(ランダム)

9) El-Serag HB, Lee P, Buchner A, et al. Lansoprazole treatment of patients with chronic idiopathic laryngitis:a placebo-controlled trial. Am J Gastroenterol 2001; 96: 979-983(ランダム)

10) Eherer AJ, Habermann W, Hammer HF, et al. Effect of pantoprazole on the course of reflux-associatedlaryngitis: a placebo-controlled double-blind crossover study. Scand J Gastroenterol 2003; 38: 462-467(ランダム)

11) Karoui S, Bibani N, Sahtout S, et al. Effect of pantoprazole in patients with chronic laryngitis and pharyn-gitis related to gastroesophageal reflux disease: clinical, proximal, and distal pH monitoring results. DisEsophagus 2010; 23: 290-295(横断)

12) Wang AJ, Liang MJ, Jiang AY, et al. Comparison of patients of chronic laryngitis with and without trouble-some reflux symptoms. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 579-585(コホート)

13) Ratnasingam D, Irvine T, Thompson SK, et al. Laparoscopic antireflux surgery in patients with throatsymptoms: a word of caution. World J Surg 2011; 35: 342-348(コホート)

— 122 —

解説

喘息と GERDが合併しやすいか否かに関しては多くの横断的な研究が行われている.GERD

症状を有する例と有しない例の喘息の有病率を比較したノルウェーや台湾の大規模研究では,GERD症状がある例はない例に比べて 1.6〜1.97 倍喘息の有病率が高いとされている 1, 2).反対に喘息例と対象者の GERDの有病率を比較した米国とスリランカの研究では,いずれも喘息例にGERDの有病率が高いと報告されている 3, 4).これらのエビデンスから喘息と GERDが合併するリスクは有意に高いと考えられる.ただし,一方が他方の原因となっているのか否かについては十分なエビデンスがない.PPIを中心とした胃酸分泌抑制療法が喘息の症状や検査データを改善するか否かに関しては,

多数の研究が行われシステマティックレビューも報告されている.2005 年に報告されたシステマティックレビューでは,喘息に対して無作為化,二重盲検,プラセボコントロール試験で PPI

またはプラセボを投与した 7つの研究がレビューされている.7つの研究のうちエビデンスレベルの高い 5つの研究では喘息症状や肺機能検査のいずれかの項目でプラセボに比較して改善がみられたとされている 5).その後 2009 年に報告された 412 例の吸入ステロイド抵抗性の GERD

症状を有さない喘息例を対象とした多施設共同の無作為化,二重盲検,プラセボコントロール試験では,PPIとしてエソメプラゾール 40mgの 1日 2回投薬が行われているにもかかわらずPPIに喘息発作予防効果も肺機能検査改善効果も認められなかったと報告されている 6).一方,2010 年に報告された 961 例の GERD症状を有する喘息例を対象とした検討では,26 週間の投薬期間で PPI投薬群はわずかではあるがコントロール群に比べて QOLの改善や肺機能の改善がみられたと報告されている 7).さらに,GERD症状を有する喘息例と有しない喘息例の酸分泌抑制療法の効果を比較した非ランダム化比較試験では,すべて GERDを有する例で喘息に対する酸分泌抑制療法の効果が大きい結果となっている 8〜11).これらの成績をまとめると,GERD症状がある喘息例の場合は PPIによってわずかではあるが喘息の改善効果がみられる場合があると考えられる.GER防止手術の効果に関しては,研究報告のほとんどが非ランダム化試験であり症例数も少

Clinical Question 7-47.食道外症状 ― ❹喘息

GER により喘息が生じるか?

CQ 7-4 GER により喘息が生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 喘息と GERD は合併する頻度が高く,PPI の投薬は喘息を改善する場合がある. なし C

— 123 —

④喘息

ない.また,新しい研究報告もみられず,喘息例に胃酸分泌抑制療法と同等に有効かどうかに関してはエビデンスが十分ではない.

文献

1) Nordenstedt H, Nilsson M, Johansson S, et al. The relation between gastroesophageal reflux and respirato-ry symptoms in a population-based study: the Nord-Toendelag health survey. Chest 2006; 129: 1051-1056

(横断)2) Tsai MC, Lin HL, Lin CC, et al. Increased risk of concurrent asthma among patients with gastroesophageal

reflux disease: a nationwide population-based study. Eur J Gastroenterol Hepatol 2010; 22: 1169-1173(横断)

3) Sontag SJ, O’Connell S, Miller TQ, et al. Asthmatics have more nocturnal gasping and reflux symptomsthan nonasthmatics, and they are related to bedtime eating. Am J Gastroenterol 2004; 99: 789-796(横断)

4) Amarasiri LD, Pathmeswaran A, de Silva HJ, et al. Prevalence of gastro-oesophageal reflux disease symp-toms and reflux-associated respiratory symptoms in asthma. BMC PulmMed 2010; 10: 49(横断)

5) Hungin AP, Raghunath AS, Wiklund I. Beyond heartburn: a systematic review of the extra-oesophagealspectrum of reflux-induced disease. Fam Pract 2005; 22: 591-603(メタ)

6) The American Lung Association Asthma Clinical Research Centers.Efficacy of esomeprazole for treat-ment of poorly controlled asthma. N Engl J Med 2009; 360: 1487-1499(ランダム)

7) Kiljander TO, Junghard O, Beckman O, et al. Effect of esomeprazole 40mg once or twice daily on asthma.Am J Respir Crit Care Med 2010; 181: 1042-1048(ランダム)

8) Tsugeno H, Mizuno M, Fujiki S, et al. A proton-pump inhibitor, rabeprazole, improves ventilatory func-tion in patients with asthma associated with gastroesophageal reflux. Scand J Gastroenterol 2003; 38: 456-461(非ランダム)

9) Wong CH, chua CJ, Liam CK, et al. Gastro-oesophageal reflux disease in ‘difficult-to-control’ asthma:prevalence and response to treatment with acid suppressive therapy. Aliment Pharmacol Ther 2006; 23:1321-1327(非ランダム)

10) Boecskei C, Viczian M, Boecskei R, et al. The influence of gastroesophageal reflux disease and its treatmenton asthmatic cough. Lung 2005; 183: 53-62(非ランダム)

11) Nakase H, Itani T, Mimura J, et al. Relationship between asthma and gastro-oesophageal reflux: signifi-cance of endoscopic grade of reflux oesophagitis in adult asthmatics. J Gastroenterol Hepatol 1999; 14: 715-722(非ランダム)

— 124 —

解説

GERDが睡眠障害の原因となりうるか否かに関しては,従来から多数の横断的研究が行われ,その結論は GERD例には睡眠障害が多いとするものが多かった.最近ではノルウェーで行われた 3,153 例の逆流症状で診断された GERD例と 40,210 例のコントロール例を対象に行われた症例対照研究では,逆流症状を有する GERD例は OR 3.1〜3.3 で有意に睡眠障害を有するリスクが高いと報告されている 1).さらに,米国で行われた住民健康調査のデータを用いた横断研究では,62,833 例を対象に質問票を用いて逆流症状と睡眠障害の関係が検討され,逆流症状を有する例は統計学的に有意に睡眠障害の有病率が高く,特に夜間に逆流症状を有する例で高いことが報告されている 2).また,日本での研究でも同様に胸やけ症状を有する例は有しない例に比べて睡眠障害を訴える例が多いと報告されている 3).さらに,内視鏡検査を受ける 2,426 例を対象とした横断研究では,胸やけ症状を有する例は有しない例に比べて有意に睡眠障害が多く,胸やけ症状の出現頻度が高いほど睡眠障害の頻度が高いことが報告されている.一方,食道粘膜びらんの存在やその重症度と睡眠障害の間には有意な関係がないことも示されている 4).これらの結果は逆流症状の存在,特に夜間の逆流症状と睡眠障害の関係が強いことを示していると考えられる.GERD例に PPIを投薬すると睡眠障害が改善するか否かに関してはプラセボを用いた 8つの

RCTをまとめたシステマティックレビューが報告されている.8件の RCT研究のうち 1件の症例数 15 例の小規模研究を除いてすべて PPIが GERD例の睡眠障害を改善するとされている.さらに,8件の RCTのうち特にエビデンスレベルの高い症例数 250 例以上の 3研究はすべて PPI

の有効性を示している 5).日本では,びらん性 GERDを有する例に PPIを用いて治療を行うと睡眠障害が改善するとするオープンラベル試験が報告されていたが 6),最近,睡眠障害を有する例を対象とした PPIとプラセボを用いた二重盲検試験が行われ,逆流症状を有する睡眠障害例にのみ PPIが有効であることが報告されている(Clin Transl Gastroenterol 2014; 5: e57 a)[検索期間外文献]).これらのエビデンスから,GERDは睡眠障害の原因となり,PPIにより改善するといえる.また,GERDの睡眠障害の原因は,主に夜間の逆流症状であると考えられる.

Clinical Question 7-57.食道外症状 ― ❺睡眠障害

GER により睡眠障害が生じるか?

CQ 7-5 GER により睡眠障害が生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD は睡眠障害の原因となり,GERD に起因する睡眠障害はPPI の投薬により改善する. なし B

— 125 —

⑤睡眠障害

文献

1) Jansson C, Nordenstedt H, Wallander MA, et al. A population-based study showing an associationbetween gastroesophageal reflux disease and sleep problems. Clin Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 960-965

(ケースコントロール)2) Mody R, Bolge SC, Kannan H, et al. Effects of gastroesophageal reflux disease on sleep and outcomes. Clin

Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 953-959(横断)3) Hongo M, Kinoshita Y, Shimozawa K, et al. Psychometric validation of the Japanese translation of the

quality of life in reflux and dyspepsia questionnaire in patients with heartburn. J Gastroenterol 2007; 42:807-815(横断)

4) Kusano M, Kouzu T, Kawano T, et al. Nationwide epidemiological study on gastroesophageal reflux dis-ease and sleep disturbances in the Japanese population. J Gastroenterol 2008; 43: 833-841(横断)

5) Regenbogen E, Helkin A, Georgopoulos R, et al. Esophageal reflux disease proton pump inhibitor therapyimpact on sleep disturbance: a systematic review. Otolaryngol Head Neck Surg 2012; 146: 524-532(メタ)

6) Hongo M, Kinoshita Y, Miwa H, et al. The demographic characteristics and health-related quality of life ina large cohort of reflux esophagitis patients in Japan with reference to the effect of lansoprazole: theREQUEST study. J Gastroenterol 2008; 43: 920-927(コホート)

【検索期間外文献】a) Aimi M, Komazawa Y, Hamamoto N, et al. Effect of omeprazole on sleep disturbance: randomized multi-

center double-blind placebo-controlled trial. Clin Transl Gastroenterol 2014; 5: e57(ランダム)

— 126 —

解説

歯牙酸食と GERDの関係に関しては様々な横断的な研究が行われてきた.2008 年にこれらの横断的研究 17 研究をまとめた報告では,歯牙酸食と GERDには強い相関関係があるとしている.ただし,コントロールを有する研究が少ないことが問題であった 1).2008 年に発表された300 例を対象としたケースコントロール研究では,歯牙酸食と GERDに有意な関係はみられず 2),2009 年,2012 年に発表された横断研究,ケースコントロール研究では,有意な関係があるとされている 3, 4).また,GERD と歯牙酸食を有する 30 例を対象に行われたエソメプラゾール20mg×2 あるいはプラセボ投薬の二重盲検試験では,PPI投薬が歯のエナメル層の欠損の進展を遅らせると報告されている 5).全体としてエビデンスの質は高くはないが,歯牙酸食と GERD

には関係があり,酸の GERが歯牙酸食の原因となる可能性があると考えられる.閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と GERDの関係に関しては,多数の横断研究が行われて

いるがその結果は必ずしも一致していない.一方,現在まで行われたランダム化試験で閉塞性睡眠時無呼吸症候群を対象に酸分泌抑制療法の効果をプラセボと比較した検討では,いずれも酸分泌抑制療法の有用性を示している 6, 7).最近行われたケースコントロール研究では,閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者は健常者に比べて夜間の GERD症状が多く,CPAP(continuous positive

airway pressure)治療が夜間の GERD症状を改善するとしている 8).反対に夜間の GERD症状を有する患者は OSAS症状を有するリスクが高いことも報告されている 9).全体をみると GERD

と閉塞性睡眠時無呼吸症候群の間には関係があるように思われるが,どちらが原因であるかは明らかではない.

副鼻腔炎と GERDの関係については,GERD例が OR 1.60 で副鼻腔炎を合併しやすいとする報告があるが,それ以外に成人での報告は少ない 10).肺疾患に関しても GERD例は,肺線維症を OR 1.36(95%CI 1.25〜1.48),気管支拡張症を OR 1.26(1.09〜1.47),肺炎を OR 1.15(1.12〜1.18)のリスクで発症しやすいとする報告 10)や,反対に慢性閉塞性肺疾患例は OR 1.46(1.19〜1.78)で GERDを発症しやすいとする報告がある 11).中耳炎でみられる中耳の滲出液中にペプシ

Clinical Question 7-67.食道外症状 ― ❻その他の食道外症状

GER によりその他の食道外症状が生じるか?

CQ 7-6 GER によりその他の食道外症状が生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● GERD と歯牙酸食,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)が合併する可能性がある.副鼻腔炎,肺炎などの肺疾患,中耳炎との合併の可能性も検討されている.

なし C

— 127 —

⑥その他の食道外症状

ンを認めるとする報告が過去になされていたが 12),中耳炎例は非中耳炎例と比較して GERD症状が多いとする報告がなされている 13).これらの疾患に関しては報告が少なく,エビデンスも高くなく,因果関係に関しても不明なものが多いため,今後の検討が望まれる.

文献

1) Pace F, Pallotta S, Tonini M, et al. Systematic review: gastro-oesophageal reflux disease and dental lesions.Aliment Pharmacol Ther 2008; 27: 1179-1186(横断)

2) Fede OD, Liberto CD, Occhipinti G, et al. Oral manifestation in patients with gastro-oesophageal refluxdisease: a single-center case-control study. J Oral Pathol Med 2008; 37: 336-340(ケースコントロール)

3) Holbrook WP, Furuholm J, Gudmundsson K, et al. Gastric reflux is a significant causative factor of tootherosion. J Dent Res 2009; 88: 422-426(横断)

4) Yoshikawa H, Furuta K, Ueno M, et al. Oral symptoms including dental erosion in gastroesophagealreflux diseasee are associated with decreased salivary flow volume and swallowing function. J Gastroen-terol 2012; 47: 412-420(ケースコントロール)

5) Wilder-Smith CH, Wilder-Smith PW, Kawakami-Wong H, et al. Quantification of dental erosions inpatients with GERD using optical coherence tomography before and after double-blind, randomized treat-ment with esomeprazole or placebo. Am J Gastroenterol 2009; 104: 2788-2795(ランダム)

6) Ing AJ, Ngu MC, Breslin AB, et al. Obstructive sleep apnea and gastroesophageal reflux. Am J Med 2000;108 (Suppl 4a): 120S-125S(ランダム)

7) Bortolotti M, Gentilini L, Morselli C, et al. Obstructive sleep apnea is improved by a prolonged treatmentof gastrooesophageal reflux with omeprazole. Dig Liver Dis 2006; 38: 78-81(ランダム)

8) Shepherd KL, James AL, Musk AW, et al. Gastro-oesophageal reflux symptoms are related to the presenceand severity of obstructive sleep apnoea. J Sleep Res 2011; 20: 241-249(ケースコントロール)

9) Emilsson OI, Janson C, Benediktsdottir B, et al. Nocturnal gastroesophageal reflux, lung function andsymptoms of obstructive sleep apnea: Results from an epidemiological survey. Respir Med 2012; 106: 459-466(横断)

10) El-Serag HB, Sonnenberg A. Comorbid occurrence of laryngeal or pulmonary disease with esophagitis inUnited States military veterans. Gastroenterology 1997; 113: 755-760(コホート)

11) García Rodríguez LA, Ruigómez A, Martín-Merino E, et al. Relationship between gastroesophageal refluxdisease and COPD in UK primary care. Chest 2008; 134: 1223-1230(コホート)

12) Tasker A, Dettmar PW, Panetti M, et al. Is gastric reflux a cause of otitis media with effusion in children?Laryngoscope 2002; 112: 1930-1934(ケースシリーズ)

13) Sone M, Kato T, Suzuki Y, et al. Relevance and characteristics of gastroesophageal reflux in adult patientswith otitis media with effusion. Auris Nasus Larynx 2011; 38: 203-207(ケースコントロール)

8.Barrett 食道

— 130 —

解説

日本では食道癌取扱い規約(第 10 版)に従い,Barrett食道を定義することが一般的である.規約によれば,「バレット食道は,バレット粘膜(胃から連続性に食道に伸びる円柱上皮で,腸上皮化生の有無を問わない)の存在する食道と定義されている.さらに,食道胃接合部の同定として,内視鏡検査における食道下部の柵状血管の下端,上部消化管造影検査におけるHis角を水平に延長した線,内視鏡および上部消化管造影検査における胃大弯の縦走襞の口側終末部,切除標本の肉眼的観察では周径の変わる部位」とされている 1).Barrett食道は,「全周性に 3cm以上 Barrett粘膜を認める場合を long segment Barrett esophagus(LSBE),Barrett粘膜の一部が3 cm未満であるか,または非全周性のものを short segment Barrett esophagus(SSBE)と呼ぶ」ことが規約に記載されている 1).

しかしながら,世界的にみると Barrett食道の定義は統一されていないのが現状である.その原因として,①生検の必要性,②長さ,③食道胃接合部の内視鏡診断の違いがあげられる 2).英国を除く欧米では特殊腸上皮化生を伴っていることが Barrett粘膜(食道)の必須条件とされている 2〜6).これは腸上皮化生から dysplasia,腺癌が生じやすいことからである.しかし,Barrett

食道における腸上皮化生は,びまん性に認めないことから,その存在診断は採取部位・個数の問題が残されている 2).Montreal定義 7)では,endoscopically suspected esophageal metaplasia

という生検診断を必須としない疾患概念も提唱されている.現在,長さについては欧米でも問わないと定義されている.Praque C&M criteriaでは,全周性に存在する Barrett食道長と最大長を別個に記載することを提案している 8).食道胃接合部の内視鏡診断は日本では,柵状血管の下端を用いることが一般的であるが,欧米ではこの指標は用いられず,胃粘膜襞の口側と定義することが多い.日本では,深吸時気時に十分な伸展下に観察することが重要とされている点も食道胃接合部の内視鏡診断が異なる一因である 2).したがって,世界的には Barrett食道の定義は統一されていないといえる.

Clinical Question 8-18.Barrett 食道

Barrett 食道はどのように定義されるか?

CQ 8-1 Barrett 食道はどのように定義されるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 日本では,Barrett 粘膜(胃から連続性に食道に伸びる円柱上皮で,腸上皮化生の有無を問わない)の存在する食道と定義されている. なし A

— 131 —

文献

1) 日本食道学会(編).食道癌取扱い規約,第 10 版補訂版,金原出版,東京,2008: p40-41(ガイドライン)2) 星原芳雄.GERDと Barrett食道―診断基準の国際的相違と問題点.消化器内視鏡 2009; 214: 1145-11523) Sampliner RE. Practice guidelines on the diagnosis, surveillance, and therapy of Barrett’s esophagus. Am J

Gastroenterol 1998; 93: 1028-1032(ガイドライン)4) Sampliner RE. Updated guidelines for the diagnosis, surveillance, and therapy of Barrett’s esophagus. Am

J Gastroenterol 2002; 97: 1888-1895(ガイドライン)5) Wang KK, Sampliner RE. Updated guidelines 2008 for the diagnosis, surveillance and therapy of Barrett’s

esophagus. Am J Gastroenterol 2008; 103: 788-797(ガイドライン)6) Boyer J, Robaszkiewicz M. Guidelines of the French Society of Digestive Endoscopy: monitoring of Bar-

rett’s esophagus: The Council of the French Society of Digestive Endoscopy. Endoscopy 2007; 39: 840-842(ガイドライン)

7) Vakil N, van Zanten SV, Kahrilas P, et al; Global Consensus Group. The Montreal definition and classifica-tion of gastroesophageal reflux disease: a global evidence-based consensus. Am J Gastroenterol 2006; 101:1900-1920(ガイドライン)

8) Sharma P, Dent J, Armstrong D, et al. The development and validation of an endoscopic grading systemfor Barrett’s esophagus: the Prague C & M criteria. Gastroenterology 2006; 131: 1392-1399(横断)

— 132 —

解説

横断研究において,Barrett食道のリスクのひとつにびらん性 GERD(オッズ比 4.44)をあげている 1).コホート研究においても,びらん性 GERDは Barrett食道伸展の危険因子(オッズ比1.996)あるいは,有意な発症リスクであることを報告している(relative risk ratio 5.2)2).以上のことから,Barrett食道のリスクにびらん性 GERDがあげられるといえる.このことは,噴門形成術を施行した 42 例では 3.5 年の経過で Barrett食道の発症は認めなかったと報告 3)からも,GERが Barrett食道に関与する根拠を支持している.酸の GERや胆汁の GERと Barrett食道との関連について,Fassらは 27 例の Barrett食道患者に対して食道 pHモニタリングを施行したところ,食道酸曝露時間と Barrett食道長と相関を認めること,SSBE患者に比較して LSBE患者で食道酸曝露時間が有意に長いことを報告している 4).Obergらは食道 pHモニタリングおよび食道ビリルビンモニタリングによる胆汁の GERを検討した結果,Barrett食道で酸および胆汁曝露時間が長いこと,特に LSBEで顕著であることを報告している 5).以上より,Barrett食道の発生は酸または胆汁の GERが関係するといえる.

文献

1) Xiong LS, Cui Y, Wang JP, et al. Prevalence and risk factors of Barrett’s esophagus in patients undergoingendoscopy for upper gastrointestinal symptoms. J Dig Dis 2011; 11: 83-87(横断)

2) Ronkainen J, Talley N, Storskrubb T, et al. Erosive esophagitis is a risk factor for Barrett’s esophagus: acommunity-based endoscopic follow-up study. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1946-1952(コホート)

3) Wetscher GJ, Gadenstaetter M, Klingler PJ, et al. Efficacy of medical therapy and antireflux surgery to pre-vent Barrett’s metaplasia in patients with gastroesophageal reflux disease. Ann Surg 2001; 234: 627-632

(非ランダム)4) Fass R, Hell RW, Garewal HS, et al. Correlation of oesophageal acid exposure with Barrett’s oesophagus

length. Gut 2001; 48: 310-313(ケースシリーズ)5) Oberg S, Ritter MP, Crookes PF, et al. Gastroesophageal reflux disease and mucosal injury with emphasis

on short-segment Barrett’s esophagus and duodenogastroesophageal reflux. J Gastrointestinal Surg 1998;2: 547-544(ケースシリーズ)

Clinical Question 8-28.Barrett 食道

Barrett 食道の発生に GER が関係するか?

CQ 8-2 Barrett 食道の発生に GER が関係するか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● Barrett 食道の発生は酸または胆汁の GER が関係する. なし C

— 133 —

解説

表1 1〜17)に日本における Barrett食道の頻度を検討した報告例をまとめる.調査年や対象が異なっており,また厳密に日本人の population-based studyや GERD患者を対象としたものがないため,日本人の一般人口および GERD患者における Barrett食道の頻度は不明である.SSBE

の頻度は報告者により大きく異なる.この理由については,Barrett食道長をどの程度短いもの

Clinical Question 8-38.Barrett 食道

一般日本人および日本人 GERD 患者のなかで Barrett 食道の合併頻度は,それぞれどれくらいか?

CQ 8-3 一般日本人および日本人 GERD 患者のなかで Barrett 食道の合併頻度は,それぞれどれくらいか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● LSBE の頻度は 1%以下とする報告が多く,SSBE に比べて非常に少ない. なし C

表1 日本におけるBarrett 食道の頻度報告者 調査年(出版年) 数 LSBE SSBE 計

熊谷ら 1) 1981~1983 1,000 14(1.4%) 47(4.7%) 61(6.1%)西ら 2) 1993~1995 657 2(0.3%) 38(5.8%) 40(6.1%)Azumaら 3) 1996~1998 650 4(0.6%) 102(15.7%) 106(16.3%)星原ら 4) (1999) 9,018 39(0.4%) 2,881(31.9%)2,920(32.4%)太田ら 5) 1999 232 2(0.9%) 16(6.9%) 18(7.8%)中村ら 6) 1999 539 5(0.9%) 318(59.0%) 323(59.9%)Hongo ら 7) 1999~2000 1,840 7(0.2%) 216(1.2%) 253(1.4%)関口ら 8) 2000 1,496 17(1.1%) 532(35.6%) 549(36.7%)Fujiwara ら 9) 2000~2001 548 1(0.2%) 67(12.2%) 68(2.4%)仁木ら 10) 2002~2003 1,852 3(0.2%) 664(35.9%) 667(36.0%)河野ら 11) 2003 2577 5(0.2%) 531(20.6%) 536(20.8%)Amano ら 12) 2003~2004 1,668 4(0.2%) 329(19. %) 333(20.0%)Okita ら 13) 2005~2007 5,338 10(0.2%) 1,997(37.4%)2,007(37.6%)Akiyamaら 14) 2005~2006 463 2(0.4%) 209(45.1%) 211(45.6%)Akiyamaら 15) 2005~2006 869 4(0.5%) 370(42.6%) 374(43.0%)Matsuzaki ら 16) 2007~2008 4,945 64(1.3%) 464(9.4%) 528(10.7%)Mori ら 17) 2007~2008 1,580 10(0.6%) 502(31.8%) 512(32.4%)

計 51,832 223(0.4%)9,283(17.9%)9,506(8.3%)

— 134 —

8.Barrett 食道

まで含めるか,その形態特に舌状の Barrett粘膜を含めるか,個々の内視鏡医の診断の違いによると考えられる.LSBEについては診断のバイアスは少ないと考えられ,その頻度は 1%以下とする報告が多い.全体として LSBEの頻度は平均 0.4%(0.2〜1.4%)で SSBEの頻度平均 17.9%

(1.2〜59.0%)と比較して明らかに低いといえる.

文献

1) 熊谷義也,陶山匡一郎,向井万起男.Barrett上皮の頻度と成因について(第 1報).Progress of DigestiveEndoscopy 1985; 27: 80-83(横断)

2) 西 隆之,幕内博康,島田英雄,ほか.Barrett食道・Barrett上皮の頻度.消化器内視鏡 1997; 9: 891-896(横断)

3) Azuma N, Endo T, Arimura Y, et al. Prevalence of Barrett’s esophagus and expression of mucin antigensdetected by a panel of monoclonal antibodies in Barrett’s esophagus. J Gastroenterol 2000; 35: 583-592(横断)

4) 星原芳雄,山本 敬,橋本光代,ほか.Barrett食道癌の内視鏡診断.日本外科学会雑誌 1999; 100: 244-248(横断)

5) 太田正穂,菊池友允,重松恭祐,ほか.当院における逆流性食道炎,Barrett食道症例の内視鏡的検討.多摩消化器シンポジウム誌 2001; 15: 10-13(横断)

6) 中村俊也,北原史章,大塚博之,ほか.Barrett粘膜・食道の罹患率と逆流性食道炎,食道裂孔ヘルニア,萎縮性胃炎との関連性.消化器科 2005; 41: 10-15(横断)

7) Hongo M, Shoji T. Epidemiology of reflux disease and CLE in East Asia. J Gastroenterol 2003; 38 (Suppl):25-30(横断)

8) 関口利和,大和田恒夫,萩原 修,ほか.逆流性食道炎の疫学的調査―2000 年における発症頻度について.日本臨床内科医会会誌 2005; 20: 393-402(横断)

9) Fujiwara Y, Higuchi K, Shiba M, et al. Association between gastroesophageal flap valve, reflux esophagi-tis, Barrett’s epithelium, and atrophic gastritis assessed by endoscopy in Japanese patients. J Gastroenterol2003; 38: 535-539(横断)

10) 仁木美也子,安田 貢,板東玄太郎,ほか.内視鏡的に prospectiveにみた Barrett粘膜の頻度と背景因子.消化器科 2005; 41: 1-9(横断)

11) 河野辰幸,神津照雄,大原秀一,ほか;GERD研究会 Study委員会.日本人の Barrett粘膜の頻度.Gas-troenterol Endoscopy 2005; 47: 951-961(横断)

12) Amano Y, Kushiyama Y, Yuki T, et al. Prevalence of and risk factors for Barrett’s esophagus with intestinalpredominant mucin phenotype. Scand J Gastroenterol 2006; 41: 873-879(横断)

13) Okita K, Amano Y, Takahashi Y, et al. Barrett’s esophagus in Japanese patients: its prevalence, form, andelongation. J Gastroenterol 2008; 43: 928-934(横断)

14) Akiyama T, Inamori M, Akimoto K, et al. Risk factors for the progression of endoscopic Barrett’s epitheli-um in Japan: a multivariate analysis based on the Prague C & M Criteria. Dig Dis Sci 2009; 54: 1702-1707

(横断)15) Akiyama T, Inamori M, Akimoto K, et al. Gender differences in the age-stratified prevalence of erosive

esophagitis and Barrett’s epithelium in Japan. Hepatogastroenterology 2009; 56: 144-148(横断)16) Matsuzaki J, Suzuki H, Asakura K, et al. Gallstones increase the prevalence of Barrett’s esophagus. J Gas-

troenterol 2010; 45: 171-178(横断)17) Mori A, Ohashi N, Yoshida A, et al. Unsedated transnasal ultrathin esophagogastroduodenoscopy may

provide better diagnostic performance in gastroesophageal reflux disease. Dis Esophagus 2011; 24: 92-98(横断)

— 135 —

解説

術後症例に,食道炎や Barrett食道が新たに発症することに関して,欧米のみならず日本からも報告がみられる 1, 2).術後症例の Barrett食道の発生率を検討した報告は,これまでに数編認められる(表1)3〜8).その頻度は 10.6%から 57.5%と一定していないが 3〜8),経過観察期間および用いた Barrett食道の定義の違いによるものと思われる.術後症例は下部食道括約筋機能が低下しており,Barrett食道発症の危険因子として,胃酸のみならず十二指腸液の逆流が関与していることが報告されている 3).しかしながら,術後症例と非術後症例を比較すると,Barrett食道の頻度に差がないという報告や 9, 10),術後状態は Barrett食道発生の危険因子ではないとする報告 11),Barrett食道は術後の経過とともに増加しないという報告もあり 12),その発症要因については一定の見解が得られていない.

Clinical Question 8-48.Barrett 食道

術後食道炎から Barrett 食道は生じるか?

CQ 8-4 術後食道炎から Barrett 食道は生じるか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 術後食道炎から Barrett 食道が生じたとする報告はあるが,その発生要因は不明である. なし C

表1 術後症例のBarrett 食道発生率報告者 報告年 研究

デザインBarrett 食道の

定義 対象 対象症例数 観察期間 発生率

(%)O’Riordan ら 3)

2004 コホート 円柱上皮(生検) 食道亜全摘 48例 26ヵ月 24例(50%)

宮崎ら 4)1998 ケースコン

トロール 日本食道学会 食道胃吻合術症例 47例 8.4 年 5例

(10.6%)Baxら 5)

2007 コホート 円柱上皮(生検) 食道亜全摘 45例 6ヵ月 18例(40%)

Nishimura ら 6)2010 コホート 日本食道学会 食道亜全摘後

胃管再建後 27例 2年 11例(40%)

Franchimont ら 7)2003 コホート 腸上皮化生(生検)食道亜全摘後胃管再建後 66例 1.4 年 9例

(13.5%)da Rocha ら 8)

2008 コホート 円柱上皮(生検) 食道亜全摘 101例 10.5 年 58例(57.5%)

— 136 —

8.Barrett 食道

文献

1) Matei D, Dadu R, Prundus R, et al. Alkaline reflux esophagitis in patients with total gastrectomy and Rouxen Y esojejunostomy. J Gastrointestin Liver Dis 2010; 19: 247-252(横断)

2) 野村 務,宮下正夫,松谷 毅,ほか.食道癌術後胃管再建症例からみた Barrett様上皮の観察.消化器内科 2012; 54: 192-196(横断)

3) O’Riordan JM, Tucker ON, Byrne PJ, et al. Factors influencing the development of Barrett’s epithelium inthe esophageal remnant postesophagectomy. Am J Gastroenterol 2004; 99: 205-211(コホート)

4) 宮崎信一,神津照雄,菱川悦男,ほか.胃管再建と逆流性食道炎.消化器内視鏡1998; 10: 59-63(ケースコントロール)

5) Bax D, Siersema PD, Moons LM, et al. CDX2 expression in columnar metaplasia of the remnant esophagusin patients who underwent esophagectomy. J Clin Gastroenterol 2007; 41: 375-379(コホート)

6) Nishimura K, Tanaka T, Tanaka Y, et al. Reflux esophagitis and columnar-lined esophagus after cervicalesophagogastrostomy (following esophagectomy). Dis Esophagus 2010; 23: 94-99(コホート)

7) Franchimont D, Covas A, Brasseur C, et al. Newly developed Barrett’s esophagus after subtotal esophagec-tomy. Endoscopy 2003; 35: 850-853(コホート)

8) da Rocha JR, Ribeiro U Jr, Sallum RA, et al. Barrett’s esophagus (BE) and carcinoma in the esophagealstump (ES) after esophagectomy with gastric pull-up in achalasia patients: a study based on 10 years fol-low-up. Ann Surg Oncol 2008; 15: 2903-2909(コホート)

9) Akiyama T, Inamori M, Akimoto K, et al. Gastric surgery is not a risk factor for erosive esophagitis or Bar-rett’s esophagus. Scand J Gastroenterol 2010; 45: 403-408(横断)

10) Akiyama T, Inamori M, Akimoto K, et al. Gastric surgery is not a risk factor for the development or pro-gression of Barrett’s epithelium. Hepatogastroenterology 2008; 55: 1899-1904(ケースコントロール)

11) Avidan B, Sonnenberg A, Schnell TG, et al. Gastric surgery is not a risk for Barrett’s esophagus oresophageal adenocarcinoma. Gastroenterology 2001; 121: 1281-1285(ケースコントロール)

12) Taha AS, Angerson WJ, Morran CG. Reflux and Barrett’s oesophagitis after gastric surgery: long-term fol-low-up and implications for the roles of gastric acid and bile in oesophagitis. Aliment Pharmacol Ther2003; 17: 547-552(ケースコントロール)

— 137 —

解説

欧米の食道癌は腺癌の割合が高く,約半数を占めるとされている 1).また,食道腺癌の増加率は極めて著しく,最近 25 年間の Barrett食道からの発癌の発生は 6倍以上と報告されている 2, 3).これまで,日本の食道癌の多くは扁平上皮癌であり,腺癌は比較的少ないとされてきたが,近年 Barrett食道からの腺癌発症の症例報告を認めるようになり 4〜9),その報告数は増加してきている.しかしながら,欧米のそれと比較すると日本の食道腺癌の増加は際立ったものではない 10, 11),

(Surg Today 2013; 43: 353-360 a)[検索期間外文献]).現在,Barrett食道のうち発癌リスクがどの程度であるか明らかになっているのは腸上皮化生を持つ長さ 3 cm以上の LSBEのみで年間の発癌リスクは 0.4%と報告されている 12, 13).Barrett食道では長いものより短いほうが発癌リスクは低いため 14),日本人に多い長さ 3 cm以下の SSBEの発癌リスクは 0.4%より低いと考えられている.しかしながら,現時点では,日本からのエビデンスレベルの高い報告はなく,正確な発癌頻度は不明である.

文献

1) Devesa SS, Blot WJ, Fraumeni JF Jr. Changing patterns in the incidence of esophageal and gastric carcino-ma in the United States. Cancer 1998; 83: 2049-2053(横断)

2) Pohl H, Welch HG. The role of overdiagnosis and reclassification in the marked increase of esophagealadenocarcinoma incidence. J Natl Cancer Inst 2005; 97: 142-146(横断)

3) 数森秀章,木下芳一.Barrett食道癌の定義と発生率.臨床消化器内科 2006; 22: 29-34(コホート)4) Itatsu T, Miwa H, Murai T, et al. Multiple early esophageal cancers arising from Barrett’s esophagus, and a

review of cases of early adenocarcinoma in Barrett’s esophagus in Japan. J Gastroenterol 1997; 32: 389-395(ケースシリーズ)

5) 竹内 学,小林正明,渡辺 玄,ほか.SSBEに発生した SM深部浸潤 Barrett表在癌の 1例.胃と腸2011;46: 799-807(ケースシリーズ)

Clinical Question 8-58.Barrett 食道

日本人の Barrett 食道からの発癌頻度はどれくらいか?

CQ 8-5 日本人の Barrett 食道からの発癌頻度はどれくらいか?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● 米国では長さ 3cm 以上の LSBE の発癌頻度は年率 0.4%といわれているが,日本人の Barrett 食道からの発癌頻度に関するデータは少なく,現時点では不明である.

なし C

— 138 —

8.Barrett 食道

6) 北村陽子,小山恒男,友利彰寿,ほか.NBI拡大観察が進展範囲診断に有用であった同時多発性 Barrett食道腺癌の 1例.胃と腸 2011; 46: 789-798(ケースシリーズ)

7) 高木靖寛,宗 祐人,野村秀幸,ほか.Barrett食道に発生した食道腺癌の 1例.胃と腸 2001; 36: 709-715(ケースシリーズ)

8) 田原久美子,田辺 聡,小泉和三郎,ほか.13 年の経過観察中に発生し,EMRし得た Barrett食道癌の 1例.Gastroenterological Endoscopy 2005; 47: 2391-2396(ケースシリーズ)

9) 郡 登茂子,渥美進一,伊勢英明,ほか.経過観察中に早期食道癌を合併した Barrett食道の 1例.Gas-troenterological Endoscopy 1993; 35: 1321-1327(ケースシリーズ)

10) Committee for Scientific Affairs, Sakata R, Fujii Y, Kuwano H. Thoracic and cardiovascular surgery inJapan during 2009: annual report by the Japanese Association for Thoracic Surgery. Gen Thorac Cardio-vasc Surg 2011; 59: 636-667(横断)

11) Kazui T, Wada H, Fujita H; Japanese Association for Thoracic Surgery Committee of Science. Thoracic andcardiovascular surgery in Japan during 2003: annual report by The Japanese Association for Thoracic Sur-gery. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg 2005; 53: 517-536(横断)

12) de Jonge PJ, van Blankenstein M, Looman CW, et al. Risk of malignant progression in patients with Bar-rett’s oesophagus: a Dutch nationwide cohort study. Gut 2010; 59: 1030-1036(コホート)

13) Sharma P, Falk GW, Weston AP, et al. Dysplasia and cancer in a large multicenter cohort of patients withBarrett’s esophagus. Clin Gastroenterol Hepatol 2006; 4: 566-572(コホート)

14) Weston AP, Sharma P, Mathur S, et al. Risk stratification of Barrett’s esophagus: updated prospective mul-tivariate analysis. Am J Gastroenterol 2004; 99: 1657-1666(コホート)

【検索期間外文献】a) Miyazaki T, Inose T, Tanaka N, et al. Management of Barrett’s esophageal carcinoma. Surg Today 2013; 43:

353-360(横断)

— 139 —

解説

欧米からの報告では,腸上皮化生を有する平均長 5 cmの Barrett食道からの食道腺癌の発癌リスクは年率 0.6%前後であることが判明している 1).また,Barrett食道内に異型上皮を有する症例は有さない症例と比較して高い発癌リスクを有することも明らかになっている 2).したがって,Barrett食道の全例が発癌リスクを有するのではなく,一部の症例が発癌リスクを有する可能性が考えられている.欧米からの報告では,Barrett腺癌患者の予後を規定する因子はサーベイランスの有無が唯一

の因子であり,サーベイランス群の平均観察期間は 107 ヵ月であったのに対して,非サーベイランス群では 12 ヵ月であり,明らかな有意差を認めている 3).Barrett食道に生じる異型性病変は,通常内視鏡では認識困難なことも多いため,色素内視鏡,拡大内視鏡,NBI(narrow band imag-

ing)内視鏡などによる image enhanced endoscopyの有効性がこれまでに報告されているが 4〜6),一方で費用対効果の観点から疑問視する報告もある 7).日本の Barrett食道から発生した腺癌に関する症例報告は数編に認められるのみであり 8〜13),

日本に多い長さ 3 cm未満の SSBEや腸上皮化生を有さない症例からの発癌頻度については不明である.これまでのところ,日本において食道腺癌の発生頻度に関する疫学研究は少ないが,欧米のそれと比較すると極めて低値とする報告が多い 14, 15),(Surg Today 2013; 43: 353-360 a)[検索期間外文献]).

以上から,欧米からの報告を参照すると Barrett食道に対して内視鏡による経過観察は有用と考えられるが,日本では Barrett食道から発生した腺癌の症例報告はあるものの,その頻度は極めて低く,また現状では内視鏡による経過観察の妥当性に関してのエビデンスレベルの高い報告も存在しないことから, Barrett食道全例に内視鏡による経過観察が必要かは,現時点では不明とした.

Clinical Question 8-68.Barrett 食道

日本人の Barrett 食道はすべて内視鏡による経過観察が必要か?

CQ 8-6 日本人の Barrett 食道はすべて内視鏡による経過観察が必要か?

ステートメント 推奨の強さ(合意率)

エビデンスレベル

● Barrett 食道から発生した腺癌の報告はあるが,その頻度は極めて低く,現時点で Barrett 食道全例に内視鏡による経過観察が必要かは不明である.

なし C

— 140 —

8.Barrett 食道

文献

1) Sikkema M, de Jonge PJ, Steyerberg EW, et al. Risk of esophageal adenocarcinoma and mortality inpatients with Barrett’s esophagus: a systematic review and meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol 2010;8: 235-244(メタ)

2) Dulai GS, Shekelle PG, Jensen DM, et al. Dysplasia and risk of further neoplastic progression in a regionalVeterans Administration Barrett’s cohort. Am J Gastroenterol 2005; 100: 775-783(コホート)

3) Ferguson MK, Durkin A. Long-term survival after esophagectomy for Barrett’s adenocarcinoma in endo-scopically surveyed and nonsurveyed patients. J Gastrointest Surg 2002; 6: 29-35(コホート)

4) Amano Y, Kushiyama Y, Ishihara S, et al. Crystal violet chromoendoscopy with mucosal pit pattern diag-nosis is useful for surveillance of short-segment Barrett’s esophagus. Am J Gastroenterol 2005; 100: 21-26

(横断)5) Goda K, Tajiri H, Ikegami M, et al. Usefulness of magnifying endoscopy with narrow band imaging for the

detection of specialized intestinal metaplasia in columnar-lined esophagus and Barrett’s adenocarcinoma.Gastrointest Endosc 2007; 65: 36-46(横断)

6) Wolfsen HC, Crook JE, Krishna M, et al. Prospective, controlled tandem endoscopy study of narrow bandimaging for dysplasia detection in Barrett’s Esophagus. Gastroenterology 2008; 135: 24-31(コホート)

7) Inadomi JM. Surveillance in Barrett’s esophagus: a failed premise. Keio J Med 2009; 58: 12-18(ケースコントロール)

8) 田原久美子,田辺 聡,小泉和三郎,ほか.13 年の経過観察中に発生し,EMRし得た Barrett食道癌の 1例.Gastroenterological Endoscopy 2005; 47: 2391-2396(ケースシリーズ)

9) 郡 登茂子,渥美進一,伊勢英明,ほか.経過観察中に早期食道癌を合併した Barrett食道の 1例.Gas-troenterological Endoscopy 1993; 35: 1321-1327(ケースシリーズ)

10) Itatsu T, Miwa H, Murai T, et al. Multiple early esophageal cancers arising from Barrett’s esophagus, and areview of cases of early adenocarcinoma in Barrett’s esophagus in Japan. J Gastroenterol 1997; 32: 389-395

(ケースシリーズ)11) 竹内 学,小林正明,渡辺 玄,ほか.SSBEに発生した SM深部浸潤 Barrett表在癌の 1例.胃と腸2011;

46: 799-807(ケースシリーズ)12) 北村陽子,小山恒男,友利彰寿,ほか.NBI拡大観察が進展範囲診断に有用であった同時多発性 Barrett

食道腺癌の 1例.胃と腸 2011; 46: 789-798(ケースシリーズ)13) 高木靖寛,宗 祐人,野村秀幸,ほか.Barrett食道に発生した食道腺癌の 1例.胃と腸 2001; 36: 709-715

(ケースシリーズ)14) Committee for Scientific Affairs, Sakata R, Fujii Y, Kuwano H. Thoracic and cardiovascular surgery in

Japan during 2009: annual report by the Japanese Association for Thoracic Surgery. Gen Thorac Cardio-vasc Surg 2011; 59: 636-667(横断)

15) Kazui T, Wada H, Fujita H; Japanese Association for Thoracic Surgery Committee of Science. Thoracic andcardiovascular surgery in Japan during 2003: annual report by The Japanese Association for Thoracic Sur-gery. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg 2005; 53: 517-536(横断)

【検索期間外文献】a) Miyazaki T, Inose T, Tanaka N, et al. Management of Barrett’s esophageal carcinoma. Surg Today 2013; 43:

353-360(横断)

— 141 —

欧文索引

AAFI(autofluorescence imaging) 48

BBarrett食道 130, 132, 133, 135, 137, 139BillrothⅠ法 98BillrothⅡ法 98BLI(blue laser imaging) 48BMI(body mass index) 6

FFICE(flexible spectral imaging color enhancement)48

GGERD 2—,有病率 2, 4, 6, 25

GERD防止手術 88, 91

HH. pylori 感染 4, 25H2RA 70hetEM(heterozygous extensive metabolizer) 66homEM(homozygous extensive metabolizer) 66

LLES(lower esophageal sphincter) 15, 17, 33LSBE(long segment Barrett esophagus) 130

Mmicroscopic colitis 80minimal change 46

NNBI(narrow band imaging) 48NCCP(non-cardiac chest pain) 36, 56Nissen法 93

PPM(poor metabolizer) 66PPI(proton pump inhibitor) 66, 70PPI抵抗性 GERD 50PPIテスト 42

RRoux-en-Y法 98, 111

SSAP(symptom association probability) 19SI(symptom index) 19SSBE(short segment Barrett esophagus) 130

TToupet法 93

和文索引

あアルギン酸塩 64, 109

い胃癌 79胃酸曝露 15, 16維持療法 74一過性 LES弛緩(TLESR) 15, 17, 33咽喉頭症状 36, 120

おオメプラゾール 66, 71オンデマンド療法 75

か過体重者 6カプサイシン刺激試験 118下部食道括約筋 15, 17, 33カモスタット 109カルシウム吸収障害 80カルチノイド腫瘍 79

索 引

— 142 —

間欠療法 74漢方薬 69

き虚血性心疾患 116

くクロピドグレル 81

け外科的治療 86

こ骨折 80

さ酸分泌抑制薬 61

し歯牙酸食 126自己記入式アンケート 38市中肺炎 80出血 10術後食道炎 98, 101, 105, 135消化管運動機能改善薬 69(24 時間)食道インピーダンス・pH モニタリング

52, 71, 118食道運動障害 16食道外症状 33, 36, 126食道狭窄 19食道粘膜傷害 14, 40食道裂孔ヘルニア 8, 15

す睡眠障害 56, 124

せ生活習慣の改善・変更 59制酸薬 64喘息 36, 122

た大腸癌 80

ち長期維持療法 79腸上皮化生 130

と呑酸 32

な内視鏡的重症度分類 44内視鏡的治療 94

に肉体運動 28

はバクロフェン 71

ひ非心臓性胸痛 36, 56非びらん性 GERD 21, 61びらん性 GERD 21, 44, 61ビリルビンモニタリング 105

ふ腹腔鏡下噴門形成術 88副鼻腔炎 126

へ閉塞性睡眠時無呼吸症候群 126

ま慢性咽喉頭炎 120慢性咳嗽 33, 36, 118

む胸やけ 32, 56

もモサプリド 69, 71, 109

らラベプラゾール 70ランソプラゾール 66, 71

り六君子湯 69, 71

ろロサンゼルス分類 40, 44, 46

2009 年 11月25日 第 1 版第 1刷発行2010 年 1 月25日 第 1 版第 3刷発行2015 年 10月20日 改訂第 2版発行

胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015(改訂第 2版)

編集・発行 一般財団法人日本消化器病学会理事長 下瀬川 徹〒104-0061 東京都中央区銀座 8-9-13 K-18ビル8階電話 03─3573─4297

印刷・製本 日経印刷株式会社

制作 株式会社 南 江 堂〒113-8410 東京都文京区本郷三丁目42 番 6 号電話 (出版)03─3811─7236 (営業)03─3811─7239

落丁・乱丁の場合はお取り替えいたします.転載・複写の際にはあらかじめ許諾をお求めください.

The Japanese Society of Gastroenterology, 2015Evidence-based Clinical Practice Guidelines for GERD 2015(2nd Edition)