日本企業の株価と海外株価指標の連動性 · 3. 実証分析①...

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1 日本企業の株価と海外株価指標の連動性 浅見 啓太 伊藤 恵都 渋沢 舞香 皆川 直輝

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1

日本企業の株価と海外株価指標の連動性

浅見 啓太

伊藤 恵都

渋沢 舞香

皆川 直輝

2

要旨

本稿では、日本企業の株式投資収益率と海外株価指標の株価収益率の相関要因を分析し、

株連動の原因を検証した。

約 30 年前に発生したブラックマンデー以降、株価の国際連関が注目されてきたが、2008

年のリーマンショックを主とする、株主のリスク概念を揺るがしうる出来事を受け、株価

の国際連動性は弱まるとの見方が強まった。しかし、2011 年の東日本大震災を受けて内閣

府が発表した記事からも、今もなお株価の国際連動性の存在が見受けられる。魏・佐藤・

柴田・深井(2008)は 2003 年から 2008 年の 5 年間における日本企業の株価とアメリカの

株価指標には、株価の連動性が存在し、その要因が外国人投資家比率であると述べた。先

行研究では、株価の国際連動性を日米間で検証しているが、現在の日本企業を考慮すると、

米国以外の数多くの国に進出している。また先行研究で分析が行われた期間以降も、企業

はグローバル化にますます力を入れており、世界との結びつきがより一層強まっている。

以上のことから、日本企業の株価と米国以外の海外株価指標との間の株価連動性は年々強

まっているのではないかと考えた。

本稿では、まず 1 次分析で日本企業と海外指標の株価連動性が過去から強まっているの

かを日次投資収益率を用いて検証した。その結果、日本企業の日次投資収益率と海外株価

指標の日次投資収益率の連動性は 10 年前と比べて高まっていることが明らかになった。続

いて、2 次分析で、日本企業の日次投資収益率と海外株価指標の日次投資収益率の株価連動

性を引き起こす要因が、外国人投資家比率と海外売上高比率であることを明らかにした。

これらの結果から、先行研究で言及されてきた日米間だけでなく、日本企業の株価と

海外株価指標の間に国際連動性があることが示された。これにより、投資家に対して、日

本企業のみに投資を行う際でも TOPIX や日経平均などの日本の株価指標だけに目を向ける

のではなく、グローバルな視点を持ち海外市場の動向にまで目を向けた投資活動を行う必

要性があることを示唆できた。また、過去の先行研究などから国際連動性を高める要因と

されてきた外国人投資家比率以外に、海外売上高比率という新たなファンダメンタル要因

を見出した。

3

目次

1. はじめに

2. 研究の背景と目的

3. 実証分析① ―日本企業と海外株価指標の日次投資収益率の相関分析―

3.1 仮説

3.2 日本企業の株価と海外株価指標の相関の変化

4. 実証分析② ―外国人投資家比率と海外売上高比率の効果―

4.1 仮説Ⅰ

4.2 外国人投資家比率と海外売上高比率の効果

5. おわりに

6. 参考文献

参考サイト

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1、はじめに

1987 年 10 月 19 日にニューヨーク株式市場で過去最大規模の暴落が発生し、その影響が

全世界の株式市場に波及し、株価の国際連動が生じた。このブラックマンデーを境に株価

の国際連動が注目され始め、多くの研究が行われるようになった。しかし、2008 年のリー

マンショックを機に、グローバルに展開する企業は他国投資よりも自国投資を重視するな

ど、リスク管理強化の観点からリスクに慎重な姿勢を取るようになった。こうした経緯か

ら、金融市場の国際連動性は弱まるとの見方が強まったが、2010 年 5 月のギリシャショッ

ク、2011 年 3 月の東日本大震災、2011 年 8 月以降の欧州政府債務危機により各国株価は総

じて下落しており、近年でも株価の国際的な連動性が多く見受けられる。

また、日本企業もグローバル化を推進するなど国境を越えた経済活動が活発化し、世界と

の結びつきはより一層強まっている。このように、各企業がグローバル化への取り組みを進

めることにより海外から受ける影響が増すため、企業活動という面だけでなく、投資家の

多国籍化によって株式市場のグローバル化も進み、株価の国際的な連動性が高まると考え

られる。

本稿では、まず、日本企業の株価と世界の海外株価指標の連動性が過去よりも強まって

いることを実証する。さらに、世界の株価指標と相関が高い日本企業にはどのような共通

点があるのか、株価の国際的な連動性を高める要因とは何かを明らかにする。

我々の分析では、以下の結果が得られた。10 年前と比べて、現在の方が全世界的に見て

日本企業と海外の株価指標との相関が強まっている。また、外国人投資家比率と海外売上

高比率が株価連動性を引き起こす要因となっており、外国人投資家比率と海外売上高比率

が高いほど、株価の国際連動性が高まることを示した。魏・佐藤・柴田・深井(2008)では、

外国人投資家比率が株価の国際連動要因であることを示し、外国人投資家の行動が株価の

国際連動に影響を与えることを明らかにしている。しかし、我々は相関を高める要因とさ

れてきた外国人投資家比率以外に、新たに海外売上高比率というファンダメンタル要因を

見出すことができた。

本稿の構成は以下のとおりである。まず第 2 節では本稿に関する研究の背景と目的を示

す。続いて第 3、4 節では、検証する仮説、分析に用いるデータと推計モデルを示し、仮説

に対する実証分析を行う。最後に、第 5 節では分析を踏まえて本稿の統括を述べる。

2、研究の背景と目的

我々は、内閣府が発表した記事により「2011 年 3 月東日本大震災を受け、その後各国金

融市場が一貫して連動した動きを見せた」という事実を知った。このように、近年も株価

の連動性が存在するという記事がありながら、2008 年のリーマンショックを受け、株価の

連動性は弱まるとの主張も数多く見られる。このような説に対して、我々は、現在グロー

バル化が進み、資本や労働力が国境を越えて自由に移動するようになったことで、世界と

の経済的な結びつきはより強まっているため、株価の連動性も一層深まっているのではな

5

いかと考えた。金融市場のグローバル化が進む中で、このような株価の国際的な連動性の

強まりを明確にし、その要因を明らかにすることは意義があると考える。

また、海外の株価指標が日本企業の株価に与える影響の大きさを示すことは、投資家が

投資判断を行う際の一助になると考える。日本の投資家は投資を行う際に、市場全体の動

向を把握するために一般的に TOPIX などの株価指標を見る。しかし、そこである企業の株

価と海外の株価指標との連動性が強まっていることが明らかになれば、その企業への投資

を考えている投資家にとって海外の株価指標は TOPIX などと同様に、場合によってはそれ

以上に重要な投資判断材料のひとつとなりうる。このように、海外の株価指標と日本企業

の株価の連動性の強まりを明らかにすることは、投資家に対して、日本企業に投資を行う

際でもグローバルな視点を持ち、海外市場の動向にまで目を向けた投資活動を行う必要性

があることを示唆できると考える。

この分野についてはいくつか注目すべき先行研究がある。第 1 に、張(2008)は 1990~

2007 年のデータを用いて、日本、アメリカ、シンガポール、中国、香港の株価指標の相関

係数を検証することにより、1990~2007 年と 1997~2007 年を比べると、後者の方が相関が

強いという傾向を示し、相関が徐々に強まっているということを明らかにした。第 2 に、

魏・佐藤・柴田・平井(2008)は 2003~2007 年の月次データを用いて、日本企業と S&P500

間の株価連動性の要因を示している。この研究では、本来株価形成の要因となるファンダ

メンタル要因の輸出依存度は必ずしも株価に影響を与えておらず、非ファンダメンタル要

因である外国人投資家比率が影響を与えていることを明らかにしている。

これらの先行研究を読み、我々は 3 つの疑問を抱いた。1 つ目は、日本企業と世界株価指

標の相関係数を検証すると、過去よりも現在の方が相関は高まっているのではないか。現

代はグローバル化を推進する企業が多く、世界との経済的な結びつきはより一層強まって

いると考えられる。そこで我々は、世界との結びつきが強まるにつれて、株価の国際連動

性もより強まるのではないかと考えた。

2 つ目は、先行研究にある日米間の株価連動性にとどまらず、日本企業と世界各国の株価

指標においても、非ファンダメンタル要因である外国人投資家比率が株価連動性の要因と

なるのではないか。IT 技術の革新により海外からの情報を得やすくなったことで、外国人

投資家たちはよりグローバルな視点を持って投資活動を行うようになり、自国の株だけで

なく、様々な国の株を含む国際的ポートフォリオを組むと考えられる。こうした外国人投

資家が国際的なポートフォリオ調整を行う際に株価の連動を引き起こすと考えた。

3 つ目は、株価連動性の要因となる外国人投資家比率以外に、ファンダメンタル要因であ

る海外売上高比率が株価連動性に影響を与えるのではないか。企業の株価は将来のキャッ

シュフローによって決まるため、海外の株価指標との連動性を生む要因にも、海外と関連

して企業の将来キャッシュフローに影響を与えるようなファンダメンタル要因があるはず

である。外国人投資家の動向を介しての連動だけでなく、企業の海外での収益に関する直

接的な要因により日本企業の株価と世界の株価指標が連動すると考えた。魏・佐藤・柴田・

6

平井(2008)は、日米間の株価連動性について輸出依存度を用いて分析しているが、輸出

高に関して言えば、現在は中国がアメリカを抜いて最大輸出相手国となっている(図表-1

参照)。そのため、日米間の株価連動性だけでなく世界各国の株価指標にも注目する必要が

あると考えた。

【図表-1】輸出高の推移

そこで本稿では、まず 10 年前と現在の日本の各企業の日次投資収益率と世界各国の株価

指標の日次投資収益率の相関係数を比較し、日本企業の株価と世界の株価指標の連動性が

過去よりも強まっていることを実証する。次に、外国人投資家比率が株価の国際的な連動

性を高める要因として全世界的に当てはまるのかを確認し、そして海外売上高比率も国際

的な株価連動性に影響を与えるということを重回帰分析を用いて実証する。

3.実証分析①

日米間の株価連動性についての先行研究はいくつか見られる。今村(1999)は、日米間

に双方の株価連動性が存在する可能性を示唆している。西村(2008)も、今後は日本やヨ

ーロッパあるいはほかのアジア諸国間における株式市場の連動性も高まっていくと考えら

れると注目しており、我々は、日本企業の株価が米国との間だけでなく他の国の株価指標

とも株価連動性が存在し、経済のグローバル化が進む中でその株価連動性が強まっている

のではないかと考えた。

また、2009 年より日本の最大貿易相手国がアメリカから中国に移り、日米間だけでなく

他の海外の国々との経済的な結びつきが強まっている今日において、日本企業に投資して

いる投資家にとっての TOPIX の重要性が、相対的に弱まってきているのではないかと考え

た。

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

160000

180000

2007 2008 2009 2010 2011

単位:億円

アメリカ

中国

7

3-1 仮説

日本企業と海外の株価指標間に株価連動性が存在する。

また、株価連動性は過去から強まっている。

3-2.日本企業と海外株価指標の日次投資収益率の相関分析

(A) 使用する変数について

本分析は、金融を除く東証 1 部上場企業を対象企業とした。過去から現在への相関係数

の変化を比べるために、2001 年と 2011 年の日本企業の株価の日次投資収益率と海外株価指

標の日次投資収益率を用いて、両年度ともデータの取れる 1210 社を対象とした。用いる海

外株価指標は日本企業の現地法人設立数の多い国を選び、NY ダウ、シンガポール ST 指数、

韓国総合株価指数、ジャカルタ総合指数、台湾加権指数、上海総合指数を使用した。Pt は t

日の終値を意味する。

1

1

t

tt

P

PP日次投資収益率

分析手法は、2001 年と 2011 年の各日本企業の日次投資収益率と各海外株価指標の日次投

資収益率の相関分析である。2 つの期間にまたがって分析を行うことで、10 年の間に日本

企業と海外株価指標との連動性が強まっていることを検証する。連動性の強まりは、-1

から1で表せられる相関係数を 0.2 ずつ 10 グループに分け、それぞれの間にその相関係数

を持つ日本企業が何社あるか企業数で比較した。

(B) 分析結果

以下のグラフは、それぞれ 2001 年と 2011 年の相関の強さで分けたグループに分けられる

企業数の変化を表している。横軸が相関係数の値、縦軸が企業数を表す。

8

【図表-2】東証 1 部上場企業と海外株価指標の日次投資収益率の相関の変化

9

10

上記のグラフより、ほぼすべての指標において 10 年前に比べて高い相関係数を持つ企

業の数が増加していることが分かった。すなわち、日本の各企業と世界各国の株価指標と

の連動性はこの 10 年間で全体的に強まってきていると言える。ここで注目すべき点がいく

つかある。まず、ほぼすべての指標において 10 年前と比較して高い相関係数を持つ企業の

数が増えている中で、NYダウのみ 10 年前とほとんど変化が見られなかった点である。こ

の理由としては、日本とアメリカは 2001 年の時点ですでに経済的な結びつきが強かったた

めであると考えられる。アメリカは日本の最大の貿易相手国であったが、日中貿易の急速

な拡大により、この 10 年間で対中国の貿易額が対米国のそれを上回り、日本にとって中国

が最大の貿易相手国となった。また、日本企業の海外進出におけるアジアへの関心は高ま

りを見せており、日本企業の海外進出はアメリカからアジアへと推移してきていると言え

る。アジアの各指標で 10 年前に比べて高い相関係数を持つ企業の数が増加している一方で、

NYダウではほとんど変化が見られなかったことは、以上のような日本企業の海外進出の

推移をよく表す結果であると考える。2011 年の各指標の分布をひとつにまとめたグラフを

見ても、アジアの重要性が高いことが窺える。

次に、TOPIX においても 10 年前に比べて高い相関係数を持つ企業の数が大幅に増加し

ている点である。このことから、日本の各企業の動向は一様化してきているかと考えられ

る。我々は、海外の国々との経済的な結びつきが強まっている今日において、日本企業に

投資している投資家にとっての TOPIX の重要性が、相対的に弱まってきているのではない

かと考えたが、TOPIX の重要性は依然として高いという結果であった。しかし、日本企業

と海外の株価指標との相関関係が強まっていることは確かな事実であり、企業によっては

TOPIX よりも海外株価指標と強い相関関係を持つものも存在する。

11

このように、海外の株価指標と日本企業の株価の連動性は強まっており、投資家は日本

企業のみに投資を行っている場合であっても、海外の株価指標の動向にも目を向けていく

必要があることが示唆された。

ここまでは、日本企業と世界の株価指標の株価連動性が強まっているのかに注目して分

析を進めてきたが、これ以降の分析では、何が株価連動性の要因となっているのかについ

て考察していく。

4.実証分析②

1 次分析の結果から、10 年前と比べて日本企業の株価と世界の株価指標との相関は強ま

り、日本企業の株価は海外からの影響を受けやすくなってきていることが分かった。我々

はこの結果から、日本企業の株価と世界の株価指標との相関を強める要因を探るため、2 次

分析を行う。

相関を強める要因について、我々は、外国人投資家比率と海外売上高比率に注目し、以

下の仮説を立てた。

4-1.仮説Ⅰ

外国人投資家比率と海外売上高比率は、日本企業の株価と世界の株価指標との相関を強

める。

筒井・平山(2009)によると、株価が国際連関する要因について、主に3つの要因があ

ると考えられていた。第一に世界の企業に同様の影響を与える事件の発生、第二に国際的

投資家のポートフォリオ調整、第三に株価変動そのものがニュースとなるケースである。

しかし、第二の要因である国際的投資家のポートフォリオ調整は株価の国際連関の要因と

は言えないという結果が示されたが、魏・佐藤・柴田・深井(2008)は日米間の株価の連

関の要因は国際的投資家のポートフォリオの調整であるということを示した。そこで我々

は日本企業のグローバル化を背景に、日本企業と世界のつながりがより一層強まっている

ことを踏まえると、日米の株価の連関の要因であると示された国際的ポートフォリオの調

整は、日本と世界の株価の連関要因にもなり得るのではないかと考えた。ここで言う国際

的投資家とは、投資範囲を一国にとどまらず、複数の国の企業に広げてポートフォリオを

組んでいる投資家のことである。この国際的投資家が、自らのポートフォリオを調整する

ために恣意的な投資活動を行い、ある国の企業の株価と世界の株価指標に相関が生まれる

可能性がある。

例えば、期待収益率が 10%の日本株と 30%のアメリカ株をそれぞれ 5 割ずつ、500 万円ず

つ保有している投資家を想定する。ここで、日本株の株価が下落して 400 万円になったと

すると、全体の価値は 900 万円に下落する。コーポレートファイナンスによると、ポート

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フォリオのリスクは含まれる株式の期待収益率の加重平均で決まるため、投資家のポート

フォリオに占める日本株の割合は、400÷900×100=44.4%となってしまう。

これをもとに、日本株下落前後のポートフォリオのリスクを計算する。

日本株下落前ポートフォリオのリスク= 0.5×10% + 0.5×30% = 20%

日本株下落後ポートフォリオのリスク= 0.44×10% + 0.56×30% = 21.2%

このように、ポートフォリオに占める株の投資額が変化すると、それに伴ってポートフ

ォリオ全体のリスクも変化してしまい、ポートフォリオのリスクのバランスが崩れてしま

う。そのため、投資家はポートフォリオのバランスを保つために、米国株を売却するので

ある。ある国の株価が下落したのをきっかけに他国の株を売却する行為、このような投資

家の行動は企業の業績と全く関係しておらず、投資家自身の資金繰りのための恣意的な行

動である。この行動によって、投資家は複数国の株価変動に影響を与えるため、一国の株

式指標はその国の投資家だけでなく、外国人投資家の行動にも影響を受けると考える。

実際に先行研究として、魏・佐藤・柴田・深井(2008)は、5 年間の月次データを用いて、

日米間の株価連動に影響を与える主な要因は、非ファンダメンタル要因である外国人投資

家の投資行動であり、外国人投資家の存在が市場を非効率的にしている可能性があると示

唆している。我々はこの論文に注目し、外国人投資家比率は日米間の株価連関だけでなく、

世界の他の国との株価連動も説明できるのではないかと考えた。

もう一つの株価連動要因と考えられる海外売上高比率についてだが、先行研究では、株

価の連動性の要因として、輸出依存度について取り上げているものが多い。筒井・平山(2009)

は、日本株式市場の投資家は、企業がどの程度輸出に依存しているかを十分に考慮してい

ると示し、個別企業の輸出依存度が適切に株価に反映されていることを明らかにした。こ

れと同様に、魏・佐藤・柴田・深井(2008)も輸出依存度は異国間との経済的つながりを

表し、継続的に企業収益に影響を与えるという観点で分析を行い、輸出依存度が株価の連

関の原因であることを完全には否定できないという結論を導いている。

各企業の輸出依存度が、日本企業の株価と海外の株価指標との相関に影響を与える原因

として、例えば、中国全体の景気が低迷し、その結果中国での消費が滞り、中国の株価が

下落したとする。この時投資家が、中国に対して輸出依存度の高い企業はその悪影響を被

って現地の利益が下がり、企業価値も下落するのではないかと懸念し、その企業の株を売

る。その結果的として日本企業の株価も下落する。という状況が考えられる。我々はこの

輸出依存度から派生して、海外売上高比率が日本企業の株価と海外株価指標との相関に影

響を与えているのではないかと考えた。

輸出依存度という指標は、筒井・平山(2009)に輸出売上高/総売上高であると示され

ているが、それでは輸出からの売上高しか含まれていない。我々は、海外での現地の販売

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活動による利益も加味するべきだと考え、輸出売上高に海外からの売上高も足した海外売

上高比率を日本企業の株価と海外の株価指標との相関を高める要因として考える。

魏・佐藤・柴田・深井(2008)では、輸出依存度が日米間の株価の連動の要因になって

いるという仮説について、必ずしも統計的に有意な結果が得られなかった。我々は、直近

のデータを使用して再度分析し、また、前述の外国人投資家比率同様、日米間だけでなく

他の海外諸国の海外株価指標との相関も説明できているのではないかと考え、相関を強め

る要因として挙げた。

4-2.重回帰分析

(A)推計モデル・使用する変数について

本研究では、日本企業の株価の最新の動向を見るため、2009 年から 2011 年の直近 3 年間

のデータを使った。Quick 社の Astra Manager からデータを取得し、日本企業のサンプルは、

金融業を除く東京証券取引所一部上場会社の日次投資収益率を使用し、海外の株価指標の

サンプルも同じく日次の投資収益率を使用した。

海外株価指標を選択するにあたって、日本の現地法人数の多い国を選び、アメリカ、中

国、台湾、韓国、シンガポール、インドネシア、イギリスを採用した。各国の株価指標と

して、NY ダウ、上海総合指数、台湾加権指数、KOSPI、シンガポール ST 指数、ジャカル

タ総合指数、FTSE100 種総合株価指数の 7 指標を採用した。

説明変数については、2009 年から 2011 年の年次データの平均を使用した。

推計式Ⅰ

CORindex(世界の株価指標と日本企業の

日次投資収益率の相関)= a0(定数項)

+ bX1(外国人投資家比率)

+ bX2(海外売上高比率)

+ bX3(PBR)

+ bX4(PER)

+ bX5(ROA)

+ bX6(ROE)

+ bX7(配当利回り)

+ bX8(log 総資産)

14

被説明変数

上記した 7つの株式指標と日本の企業の 2009年から 2011年の日次投資収益率の相関係数

を用いる。データは、Astra Manager から抽出した。

日次投資収益率 = 1

t

tt

p

pp

Ptをt日における終値とする。

相関係数 =

n

tindextindex

n

tcotco

n

tindextindexcoco

rrrr

rrrr

1

2

1

2

1

)-(t

rco は企業の日次投資収益率、r indexは海外の各株式指標の日次投資収益率を表す。

説明変数(括弧内は、予想される符号が記されている)

① 外国人投資家比率(年次データ 単位:%)(+)

企業の株式に投資している株主のうち、外国人投資家の割合を示す指標である。

外国人投資家とは、外国の法律に基づき設立された法人、外国の政府・地方公共団体

及び法人格を有しない団体、並びに居住内外を問わず日本国籍の個人及び法人格を有

しない団体のことをいう。

上記の仮説により、外国人投資家比率は日本企業と海外株価指標の相関に正の影響を

与えていると予想する。

② 海外売上高比率(年次データ 単位:%)(+)

企業の売上高のうち、海外から得られる売上高の割合。

海外売上高比率 = 輸出売上高+現地からの海外売上高/総売上高

上記の仮説により、海外売上高比率は日本企業と海外株価指標の相関に正の影響を与

15

えていると予想する。

③ PBR:株価純資産倍率(年次データ 単位:%)

一株当たりの純資産額に対する株価の状況を測り、相対的に割安か割高か見るため

の指標。

PBR = 株価 / 一株当たりの純資産額

1 より高い時は割高な株式と判断されて、投資の誘因材料とはならない。しかし、投

資家が価値の高い株式と判断するなら、その株式を購入する可能性もある。

外国人投資家の行動に影響を与える可能性があるので、コントロール変数として用い

た。

④ PER:株価収益率(年次データ 単位:%)

PER = 株価 / 一株当たり当期純利益

株価と企業の一株当たりの利益との関係を表す。利益に対して割安か割高かを判断

する指標のため、外国人投資家にとって投資を促す要因になると考えたためコント

ロールする。

⑤ ROA:総資産利益率(年次データ)

ROA = 当期純利益 / 総資産

企業の収益性を測る指標である。企業に投下された総資産が、利益獲得のためにどれ

ほど利用されているかが分かり、外国人投資家の投資判断に影響を与えると考えたた

め、コントロールする。

⑥ ROE:自己資本比率(年次データ 単位:%)

ROE = 当期純利益 / 株主資本

収益性を見る指標であり、一般的に ROE が高ければ効率的な経営を行っている企業

と判断できる。株主の投資額に対してどれだけ効率的に利益を獲得したかが見られる

ので、特に企業は株主のものだという考えが強い欧米諸国の外国人投資家にとって投

16

資の判断要因となると考えたので、コントロールする。

⑦ 配当利回り(年次データ 単位:%)

配当利回り = 配当額 / 株価

自分の投資額に対して、いくらの配当が得られるか利回りを表す指標。

配当の高い企業は人気となるが、株主優待よりも配当を重要視する外国人投資家の判

断材料となると考えたので、コントロールした。

⑧ Log 総資産(年次データ)

企業の規模の違いによって、外国人投資家の投資判断への影響や、海外売上高比率に

影響を与えると考えたので、コントロールする。

以下、被説明変数と説明変数の記述統計量である。

【図表-3】変数の記述統計量

平均 中央値 標準

偏差 最小値 最大値 標本数

NY ダウ 0.232748 0.225067 0.096717 -0.01271 0.513246 1368

ST 指数 -0.0192 -0.01927 0.043486 -0.19395 0.119443 1368

FTSE100 0.099549 0.098449 0.049448 -0.10024 0.252225 1368

KOSPI -0.0209 -0.02097 0.036498 -0.14394 0.100137 1368

ジャカルタ総合指数 0.022275 0.022274 0.036424 -0.09396 0.16095 1368

台湾加権指数 -0.04037 -0.04099 0.039602 -0.17367 0.127453 1368

上海総合指数 -0.02479 -0.02614 0.039985 -0.15346 0.087607 1368

外国人投資家比率 13.03492 9.913333 11.42807 0.203333 80.69333 1368

海外売上高比率 18.69616 3.791935 24.05979 0 99.84568 1368

PBR 1.130207 0.883333 1.350892 0.183533 36.7738 1368

PER 30.36357 18.92678 41.59778 1.9264 500.4062 1368

ROA 5.174092 4.10178 5.3598 -17.3609 51.04362 1368

ROE 2.839149 3.695224 9.278718 -54.6288 45.10982 1368

配当利回り 2.153744 2.088617 1.183809 0.1001 8.908367 1368

log 総資産 11.32054 11.3865 2.400958 7.7257 17.20796 1368

17

(B)分析結果

被説明変数を日本企業と 7 つの海外の株価指標との日次投資収益率の相関係数とし、

説明変数に、外国人投資家比率、海外売上高比率を用いて、まず回帰分析を行い、次

に、推計式Ⅰを用いて重回帰分析を行った。以下がその結果である。

【図表-4】重回帰分析結果

NY ダウ 上海総合指数

切片 0.19025

(0.000)***

0.19655

(0.000)***

0.104286

(0.000)***

-0.02178

(0.000)***

-0.01569

(0.000)***

-0.02237

(0.000)***

外国人

投資家比

0.00319

(0.000)***

0.00198

(0.000)***

-0.00023

(0.013)**

0.000029

(0.759)

海外売上

高比率

0.001909

(0.000)***

0.001423

(0.000)***

-0.00049

(0.001)***

-0.00051

(0.000)***

PBR -0.00329

(0.062)*

0.00243

(0.001)***

PER 0.00003

(0.468)

0.0000042

(0.860)

ROA -0.0031

(0.000)***

0.00043

(0.115)

ROE 0.00106

(0.001)***

-0.000276

(0.063)*

配当

利回り

0.003795

(0.051)*

-0.000248

(0.769)

Log

総資産

0.00739

(0.000)***

0.000196

(0.651)

台湾加権指数 KOSPI

切片 -0.05019

(0.000)***

-0.042694

(0.000)***

-0.069783

(0.000)***

-0.02367

(0.000)***

-0.02131

(0.000)***

-0.02170

(0.000)***

外国人

投資家比

0.00076

(0.000)***

0.000590

(0.000)***

0.00020

(0.013**)

0.000268

(0.017)**

海外売上 0.000135 0.0000566 0.0000218 0.0000293

18

比率

(0.002)*** (0.178) (0.562) (0.962)

PBR -0.000768

(0.312)

-0.000111

(0.817)

PER -0.0000328

(0.151)

-0.000045

(0.429)

ROA -0.0001877

(0.826)

-0.000016

(0.833)

ROE -0.0000507

(0.731)

-0.000055

(0.639)

配当

利回り

-0.000187

(0.826)

0.002013

(0.063)*

Log

総資産

0.001530

(0.000)***

-0.00053

(0.556)

ST 指数 ジャカルタ総合指数

切片 -0.02439

(0.000)***

-0.026321

(0.000)***

-0.007879

(0.242)

0.01866

(0.000)***

0.0182645

(0.000)***

0.0147892

(0.003)***

外国人

投資家比

0.0003778

(0.000)***

0.000263

(0.024)**

0.00028

(0.000)***

0.0001470

(0.096)*

海外売上

高比率

0.0003698

(0.000)**

0.0002907

(0.000)***

0.0002212

(0.000)***

0.000204

(0.000)***

PBR -0.000245

(0.794)

-0.001214

(0.084)*

PER -0.0000278

(0.314)

-0.0000654

(0.001)***

ROA 0.0000787

(0.818)

-0.0000361

(0.888)

ROE -0.0003404

(0.061)*

0.00022

(0.102)

配当利回

-0.00542

(0.000)***

0.0023169

(0.003)***

Log 総資産 -0.000602

(0.255)

-0.00004

(0.920)

19

括弧内は p 値。***は 1%有意、**は 5%有意、*は 10%有意を示す。

以上の結果から、外国人投資家比率については、どの株価指標との回帰分析でも係数は

有意を示しており、重回帰分析でも大半の株価指標の係数で有意な結果が得られた。

また、海外売上高比率についても、回帰分析ではほとんどの株価指標で有意な結果を得

ることが出来た。ここで注目すべきことは 2 つある。1 つ目は、NY ダウの外国人投資家比

率と海外売上高比率の係数が、他の海外株価指標の係数よりも大きくなっていることだ。

これは、NY ダウは世界の金融市場に与える影響は大きく、外国人投資家も数多く取引に参

加しており、数多くの日本企業の米国進出で日本と米国の結びつきが強いことが原因であ

ると考えられる。2 つ目は、上海総合指数の海外売上高比率の係数が負になっていることで

ある。これは、上海総合指数の特殊な構造に原因があるのではないかと考えた。上海総合

指数は中国人限定市場のA株と外国人市場のB株の 2つの株価を合わせて算出されるため、

このような特殊な構造をもつ上海総合指数を説明変数に入れて分析しても結果が出なかっ

たのではないかと考えられる。

FTSE100

切片 0.08965

(0.000)***

0.08976

(0.000)***

0.055220

(0.000)***

外国人投資

家比率

0.000748

(0.000)***

0.000344

(0.007)***

海外売上高

比率

0.00052

(0.060)*

0.0003854

(0.000)***

PBR -0.001075

(0.304)

PER -0.0000179

(0.560)

ROA -0.001365

(0.000)***

ROE 0.00044

(0.027)**

配当利回り 0.00129

(0.261)

Log 総資産 0.003304

(0.000)***

20

5.おわりに

本稿では、日本企業の株価と世界の株価指標の連動性が強まっていることを実証した。

そして、従来株価の国際連動性を高める要因とされてきた外国人投資家比率以外に、海外

売上高比率という新たなファンダメンタル要因を見出した。

まず、日本企業の株価と世界の株価指標の連動性が強まっていることを明らかにするた

めに、2001 年と 2011 年の各企業の日次投資収益率と各海外株価指標の日次投資収益率の相

関分析を行った。そして、その相関係数によって企業数を比較し、10 年前よりも相関が高

くなっていることが分かった。このことから、株価の連動性が過去から強まっていること

を実証した。

次に、株価の連動性に影響を与えている要因を探るために、被説明変数に日本企業の日

次投資収益率と各海外株価指標の日次投資収益率の相関係数を置き、説明変数に外国人投

資家比率と海外売上高比率を入れて重回帰分析を行った。その結果、外国人投資家比率は

国際連動性を高める要因として全世界的に言うことができたと同時に、海外売上高比率と

いう新たなファンダメンタル要因を見出すことができた。

本稿は、海外の株価指標と日本企業の株価の連動性の強まりを明らかにすることで、投

資家に対して、日本企業に投資を行う際でもグローバルな視点を持ち、海外市場の動向を

表す各国の海外株価指標も重要な投資判断材料のひとつとなりうることを示唆できた。

今後の課題として、今回の分析では外国人投資家のポートフォリオの構成や海外売上高

比率の国別のデータを取得することが出来なかった。より正確に分析するためには、外国

人投資家の国籍別割合や、海外売上高比率の国別データを使用する必要がある。また、今

回は現地法人の多い国の海外株価指標を用いたが、その他の国の株価指標でも分析する余

地はあると考える。これらの要因で株価の連動性をより説得力を持って、説明するために

は今回データが得られなかった部分についても考察する必要がある。

その際、株価指標だけでなくGDPなどの経済指標も加えることにより、より正確に国

別の株価連関が見られるかもしれない。今回使った以外にも、日本企業の株価に影響を与

えうる要因となる指標を増やすことにより、連動性を生み出す新たな要因の存在も考えら

れる。

参考文献

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今村有里子(2001)「アジア諸国における株価変動の波及効果」

『経営論集』第 54 号,pp.133-145

21

張 艶(2008)「アジア諸国間の株価連動性」

福岡女子大学文学部紀要 『文藝と思想』第 72 号,pp.91-112

魏在喆・佐藤健二・柴田龍一・深井靖子(2008)「日米株価連関の原因を探る―外国人持株

比率と輸出依存度」

西村友作(2008)「中国株式市場と主要株式市場間における株価連動性分析」

熊本学園大学経済論集 14

筒井義郎・平山健二郎(2009)『日本の株価―投資家行動と国際連関―』東洋経済新報社

参考サイト

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閣府(http://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2012/0709/1038.html),アクセス日時:2012

年 10 月 15 日

内閣府政策統括官室(2011)「金融市場の国際連動性‐日本経済 2011-2012」内閣府

(http://www5.cao.go.jp/keizai3/2011/1221nk/pdf/11-3-1-1.pdf),アクセス日時

:2012 年 10 月 15 日

総務省 統計局・政策統括官(統計基準担当)・統計研修所 「日本の統計第 15 章貿易・国

際収支・国際協力」(http://www.stat.go.jp/data/nihon/15.htm),アクセス日時:

2012 年 11 月 27 日

財務省 貿易統計「輸出相手国上 10 カ月(年ベース)」

(http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time_latest.htm),アクセス日時:2012 年

11 月 28 日