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平成期の地方行政と今後の課題について 863

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Page 1: 平成期の地方行政と今後の課題について · 平成五年の衆参両院での「地方分権の推進に関する決議」を嚆矢として、地方分権推進委員会での議論等を経平成の三〇年間を振り返るとき、地方行政にとって最も大きな変化は、地方分権の進展であった。

平成期の地方行政と今後の課題について

安 

田   

は 

じ 

め 

平成二九年一一月二〇日、東京国際フォーラムにおいて、天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、地方自治法施行七

〇周年記念式典が行われた。この七〇年、地方行政をめぐる環境は大きく様変わりしたが、特に平成に入って約

三〇年は、地方行政にとって大きな転換の時期に当たった。平成が三一年四月で終わると決まった今日、この間

の経緯を振り返り、併せて今後の課題を概観してみたい。

一 

平成期の地方行政

㈠ 

地方分権の進展、国と地方の関係

平成期の地方行政と今後の課題について

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Page 2: 平成期の地方行政と今後の課題について · 平成五年の衆参両院での「地方分権の推進に関する決議」を嚆矢として、地方分権推進委員会での議論等を経平成の三〇年間を振り返るとき、地方行政にとって最も大きな変化は、地方分権の進展であった。

平成の三〇年間を振り返るとき、地方行政にとって最も大きな変化は、地方分権の進展であった。

平成五年の衆参両院での「地方分権の推進に関する決議」を嚆矢として、地方分権推進委員会での議論等を経

て、平成一一年の地方分権一括法において、機関委任事務制度の廃止と自治事務、法定受託事務の創設、国と地

方の係争処理制度の創設等の改革が結実していくこととなる。

その後、平成一九年の地方分権改革推進委員会の発足により、いわゆる第二次地方分権改革が始まり、法律上

地方公共団体に対して定められている義務付け、枠付けを見直すことや、特に都市に対して権限の移譲を行うこ

とを内容とする分権一括法が平成二三年に成立している。

こうした分権改革によって、国と地方の関係は大きく転換し、従来の上下主従の関係から、対等協力の関係と

なったとされる。実際に、以下のように国と地方の関係は明確に整理され、また、これらを踏まえ地方公共団体

側の国に対する意識も大きな変化があったものと考えている。

すなわち、前述したとおり、機関委任事務制度が廃止され、法定受託事務と自治事務に再編された。これに伴

い、国の地方公共団体への関与についても、包括的な指揮監督権が廃止され、地方自治法において、関与の意義

と類型、関与の法定主義、関与の基本原則が明らかにされた。

この関与の整理に併せて、関与に関する係争処理制度が創設された。すなわち、国の関与のうち、公権力の行

使に当たるものに不服があるときは、関与を行った国の行政庁を相手方として、総務省に置かれる国地方係争処

理委員会に審査の申出をすることができるとされた。さらに 

審査の結果や当該委員会の勧告の内容、勧告に基

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づいて行われた行政庁の措置に不服があるときなどには、訴訟を提起し、関与の取消し等を求めることができる

とされた。 

国地方係争処理委員会に、実際に審査の申し出がなされた事案は、制度創設以来、四件(平成一三年横浜市、

平成二一年新潟県、平成二七年沖縄県、平成二八年沖縄県)に留まっている(このほか、都道府県と市町村の間

の係争に関して自治紛争処理委員による係争処理手続きが行われた例があり、また、国が地方公共団体(沖縄県、

平成二八年)に対し訴訟を提起した例がある。)が、国と地方の係争について、このような透明な処理方法が制

度化された意義は大きい。

義務付け、枠付けの見直しについては、第二次分権改革時の法改正による見直しのみならず、義務付け、枠付

けの存置を許容する場合の考え方がメルクマールとしてまとめられたことが、分権改革後の国と地方に関係する

法律の立法作業への影響を含めて、国と地方の関係を明確化する意義を有したものと考える。

国と地方の関係に関する重要な制度として、平成二三年に導入された「国と地方の協議の場」も挙げることが

できよう。この「協議の場」は、地方自治に影響を及ぼす国の政策の企画及び立案並びに実施について、内閣官

房長官、総務大臣ほかの関係大臣、地方六団体の各代表が協議を行うこととするものである。

平成二四年二月に閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」において、消費税の段階的引上げが取りまと

められたが、この「協議の場」は、その検討過程において、消費税(地方消費税)の国と地方の配分に関して、

国と地方で議論を戦わせる場となった。

(1)

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㈡ 

市町村合併の進展等

平成に入ってからの地方行政を巡る二つ目の大きな変化は、市町村合併の進展であった。

この平成の大合併は、小学校や戸籍事務の処理を行うため三〇〇から五〇〇戸を標準として全国一律に町村合

併が行われた明治の大合併(明治二一年の七一三一四町村が明治二二年には一五八五九市町村に減少)、中学校

一校を効率的に設置管理していくため人口八〇〇〇人を標準として町村合併を推進した昭和の大合併(昭和二八

年の九八六八市町村が昭和三六年には三四七二市町村に減少)に次いで行われたもので、地方分権の推進のなか

で、その受け皿となる市町村の自主的な合併を進めたものである。

市町村数は、平成一一年四月の時点で三二二九であったが、約一〇年間の合併推進運動を経た後、合併推進運

動が一区切りとされた平成二二年三月には一七二七に減少した。

その後の市町村の行政体制については、第三〇次地方制度調査会答申(平成二五年六月)において、以後は「自

主的な合併や、市町村間の広域連携、都道府県による補完など多様な手法のなかで、各市町村が最も適したもの

を自ら選択できるようにする必要」があるとされた。

広域的な行政の手段としては、戦前より一部事務組合など組合制度が設けられていたが、平成に入り、広域連

合(平成六年)、連携協約制度、事務の代替執行制度(平成二六年)なども設けられている。

㈢ 

地方税財政制度の改正

地方分権推進委員会の最終報告(平成一三年)で今後の改革課題とされた税財源の改革は、いわゆる三位一体

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の改革として実現された。

これは、平成一四年五月に経済財政諮問会議に片山総務大臣が提出した「地方財政の構造改革と税源移譲につ

いて」(いわゆる片山試案)が議論のスタートになったものであり、この片山試案においては税源移譲の具体案

を示し、国税と地方税の比率を一対一とすることとしたものであった。

その後、骨太の方針二〇〇四(平成一六年)等において整理がされ、平成一八年度までに国庫補助負担金の改

革約四・七兆円、税源移譲約三兆円、地方交付税改革約五・一兆円という改革が行われることとなった。

この三位一体改革により、地方税の充実確保がされたことは地方分権の進展に資する一定の成果と考えられる

であろう。

一方、国庫補助負担金の改革については、主要な部分が義務教育費国庫負担金、児童扶養手当、児童手当など

の補助負担率の引下げによって実現しており、地方六団体からは、分権改革の理念に沿わないとの批判もなされ

た。ま

た、地方交付税の改革として、五・一兆円の交付税(臨時財政対策債を含む。)の減がなされたことは、各

地方公共団体の財政運営に深刻な影響を与えたとの批判が見られた。

平成一九年には、地方公共団体の財政の健全化に関する法律が整備された。 

この法律においては、財政情報の開示を徹底するとともに、早期健全化基準を設け、基準以上となった地方公

共団体には財政健全化計画の策定を義務付けるなどの健全化のための制度が設けられた。

平成期の地方行政と今後の課題について

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Page 6: 平成期の地方行政と今後の課題について · 平成五年の衆参両院での「地方分権の推進に関する決議」を嚆矢として、地方分権推進委員会での議論等を経平成の三〇年間を振り返るとき、地方行政にとって最も大きな変化は、地方分権の進展であった。

また、地方交付税の算定方法の簡素化、行革努力等の地域の努力を算定に反映させる取組みなども行われた。

㈣ 

地方行革の進展

三位一体の改革で、地方交付税が削減される中、地方行革の取組みが進んだことも、この期間の地方行政にとっ

て特筆すべきことであろう。

すなわち、平成一七年三月には、地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(新地方行革指針)

が総務省において策定され、地方公共団体に定員管理等に関する数値目標を盛り込んだ集中改革プランの作成、

公表を求めることとされた。さらに、翌平成一八年には、地方公共団体における行政改革の更なる推進のための

指針(地方行革新指針)が総務省において策定され、さらなる定員の純減などが要請された。

こうした集中改革プランの地方公共団体での実施やその後の自主的な行革の取組みの結果、地方公務員の総数

は減少を続け、平成一四年に三一四万四千人だったものが、平成二八年には二七三万七千人にまで減少している。

特に、平成一七年四月から二二年四月までの五年間、いわゆる集中改革期間中の減少率は、地方公共団体全体で

七・五%と、国の削減実績五・三%を上回るものとなっている。

また、地方公共団体の給与水準の目安となるラスパイレス指数も、かつては国の水準を上回る時期もあったが、

最近では一〇〇を下回る水準が続いている(国家公務員の時限的な給与引下げが行われた時期を除く。)。

平成二七年には、地方行政サービス改革に関する留意事項について総務省から通知され、行政サービスのオー

プン化・アウトソーシング等の推進、情報システムのクラウド化の拡大などを地方公共団体に求めており、各地

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方公共団体で取組みが行われている。

二 

今後の地方行政を巡る課題

今後、我が国においては、人口減少社会が到来し、高齢化・少子化が進んでいく。

こうした中にあって、地方行政は、高齢化に伴う介護福祉需要への対応、少子化に歯止めをかける対策をはじ

め様々な行政需要を抱えることになる。

集落の人口流出が進む中での上下水道などのインフラの維持管理、公共施設の老朽化への対応、所有者不明土

地の増加、空き家数の急増や都市のスポンジ化、子供の減少に伴う教育環境の変化なども挙げられよう。

IOT、AIの進展が産業の維持・発展や人手不足への対応、行政の効率化にどのように貢献するのかによっ

て社会のあり方や地方行政の姿は大きく左右されることになるであろう。

こうした地方行政全体の課題や社会情勢の変化をここで論ずることは困難であるが、現時点で想定される今後

の地方行政の課題について概観してみることとしたい。

㈠ 

人口減少と行政体制

我が国の人口は、二〇〇八年頃の一二八〇八万人をピークに減少に転じており、国立社会保障・人口問題研究

所の「日本の将来推計人口」(平成二四年一月推計(出生中位(死亡中位))によれば、二〇四〇年の人口は約一

億一一〇〇万人に、二〇六〇年の人口は約八七〇〇万人にまで減少すると見通されている。

(2)

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市町村の将来の人口を推計すると、二〇四〇年にかけて、人口規模一万人未満の市町村は約二六%増加し、六

〇〇程度となると見込まれる。

今後の市町村の行政体制を考えるとき、まず、増加する小規模市町村を中心に、現在と同等の行政の機能を維

持できるかが課題となってくると考えられる。

現在でも、前述のように、小規模の市町村の行政体制に関しては、自主的な合併、広域的な連携、都道府県に

よる補完を必要に応じ選択してもらうこととしているが、今後、このような小規模市町村を中心として、フルセッ

トの行政機能を自らが備えること以外の選択肢として、どのような方法で行政機能を維持していくのか、議論を

行う必要が増大していくこととなるであろう。

また、すべての地方公共団体において、IOTやAIという新たな技術も活用し、行政改革への不断の取組み

も引き続き求められることになろう。

さらに、既にいくつかの地域で、地域の住民が主体となって「地域運営組織」を立ち上げ、高齢者の暮らしを

支える活動や公的施設の管理、地域間の交流事業などに取り組んでいる例が見られるが、行政資源が限られ、市

町村が住民のニーズにきめ細かく応えていくことが困難になる中で、こうした市町村の域内での住民を主体とし

た「共助」の活動が広がりを見せ、市町村行政の「補完」の役割を果たして行く可能性も考えられる。

都市部においては、地域の良好な環境や地域の価値の維持・向上のために、「エリアマネジメント」と呼ばれ

る住民や事業者、地権者等による取組み(セキュリティーの向上、空き家等の活用、施設、公園等の管理など)

が行われている例がある。前述の「地域運営組織」の取組みとは若干趣旨を異にするが、今後、これらのいわゆ

(3)

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る小さな自治に関する取組みに注目していく必要があり、必要な制度を整備することを検討する場面も出てこよ

う。人

口の減少と高齢化は都市部にも無縁ではない。むしろ、現時点では地方からの転入により、人口が維持され

ている東京等の大都市部において、そうした流入人口が高齢化すれば、一気に高齢化比率が高まり、高齢者への

介護、福祉ニーズへの対応が切迫した課題となってくるであろう。

大都市部の行政体制については、それでも比較的堅固な体制が維持されることが想定されるが、行政需要の急

増に対応するために、広域的な連携などの工夫が必要になってくると考えられる。

こうした市町村の行政体制の変化を踏まえ、広域自治体である都道府県のあり方も検討が行われる場面が出て

くるであろうか。

㈡ 

合意形成の困難化と議会の活性化

今後、財政を含め行政資源が限られる中、行政需要は増大していくことが想定されるが、こうした状況では、

すべての住民が満足するような施策の実施は困難になり、施策の選択が行われ、見送ることとせざるを得ない施

策も生じてくると考えられる。そして、このような選択に住民の合意を得ることは、困難を伴うことが予想され

る。

(4)

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住民の合意形成が困難になる中で、合意形成機能を担う地方議会の果たすべき役割は従来以上に重要になって

くる。

ところが、地方議会に関しては、現在において、一方で政務活動費の不正使用を巡る問題など、その信頼を揺

るがす事案が起こっており、他方で、小規模市町村においては、議員のなり手不足が深刻な問題となっている。

各地方議会においては、その信頼を確保するため、政務調査費の透明性の向上、住民との様々な形での対話の

実施、議会基本条例の制定等の試みが行われている。また、小規模市町村におけるなり手不足対策としては、夜

間休日議会を開催し、兼務しやすい環境を作る試みが見られるほか、議会への住民の関心を高める取組みも行わ

れている。議員の兼職制限、兼業制限の緩和の提言もなされている。

こうした地方議会のそれぞれの取組みによって、議会の信頼確保や活性化を図り、また、なり手不足を解消し、

議会がその役割を十分に果たしていく環境を整えることが何より重要である。さらに地方の意見を踏まえた上で

の国における制度改正の議論もそれに併せて行う必要があるだろう。

また、あまり議論されることのなかった(都道府県の選挙制度については平成二五年に選挙区設定の弾力化を

内容とする改正が行われたが)地方議会の選挙制度についても、議会の担うべき機能を踏まえ、代表性のあり方

として地方議会にふさわしい制度は何か、住民の関心を呼び起こす制度として何が適当か、現状と同様に全国一

律の制度とすべきか、あるいは選択制の導入が考えられるかなどについて、議論を重ねることも意義があるもの

と考える。

(5)

(6)

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㈢ 

地方分権の更なる推進

地方分権改革については、前述のように二次にわたる改革を経て、新たな枠組みが出来上がり、相当の進展を

見たものである。

現在では、権限移譲及び規制緩和に係る改革提案を地方公共団体等から募る「提案募集方式」が導入されてい

る。また、権限移譲について全国一律の移譲が難しい場合には、希望する地方公共団体に選択的に移譲する「手

挙げ方式」が導入され、これらについて、毎年、議論の成果が法案化されている。引き続き、地方公共団体がイ

ニシャティブを取った改革を漸進させることが必要である。

一方で、今後を考えると、財政制約の下で、高齢化・少子化に対応した施策を全国的に進めていく必要がある

が、こうした状況下では、むしろ全国的に一律の制度を導入した方が効率的であるという主張も起こりやすくな

るのではないだろうか。

地方分権の推進に今後も国民の支持を得ていくためには、行政サービスの提供に当たり地域ごとの工夫をする

こととした方が、住民のきめ細かなニーズに的確に答え、むしろ効率的に行えることを、実際の行政サービスの

提供に当たり、立証していく必要があるのではないかと考える。

また、国と地方の関係は、毎年毎年、新しい法律が生まれているほか、社会経済情勢が変化する中で、国と地

方の間で様々な課題も生じるなど、変化が生まれ続けていることは当然である。

今後、一定の時期には、そうした変化や課題を踏まえて、地方分権の状況や、国と地方の関係について、再検

証する場面も出てくるものと考える。

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㈣ 

地方財源の充実と偏在是正

平成三〇年の夏には、国と地方を通じたプライマリーバランス黒字化の目標年度についての新たな達成時期と

その裏づけとなる計画が示されることとされているが、国地方を通じて一〇〇〇兆円を超える長期債務残高があ

る状況下、実効的な計画を立てて、国と地方を通じての財政健全化に取り組んでいく必要がある。

同時に、増大する社会保障関係経費、少子化対策、公共施設の老朽化対策など人口減少社会における財政需要

を適切に把握し、地方財政計画の歳出に反映させた上で、歳出に見合う地方財源を毎年確保していかなければな

らない。その際、財政健全化を図り、増大する財政需要に対応するためにも、地方税の充実や地方交付税の充実

等、地方財政制度を維持改善することが重要である。

地方税の充実に関しては、前述した三位一体の改革において、国から地方への一定の税源移譲が行われたが、

その後も、地方消費税の税率の引上げなどが実現しており、引き続きの努力が求められる。

一方、地方税等を充実することは、地方税源の偏在の問題を浮かびあがらせる。

偏在度の比較的少ないといわれる消費税においても、都道府県間の格差はなお一・六倍程度生じている(清算

後)。最も格差が大きい法人二税においては、六倍を超える格差が生じている現状にあり、不交付団体に大きな

財源超過を生む結果となっている。

これまでも偏在是正の取組みは行われてきたが、今後、国・地方を通じて厳しい財政状況が想定される中にお

いて、税源の効率的配分の観点から、こうした偏在を是正して行くべきだという議論が、地方税源の充実という

(7)

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議論と平行して、引き続き行われることも考えられる。

地方公共団体間でも利害の対立する課題であるが、真摯な議論が求められるであろう。

(1) 

平成二四年の改正においては、普通地方公共団体が是正の指示等に従わず、係争処理委員会に対する審査の申出も行わない

ような場合について、関与を行った各大臣が、地方公共団体の行政庁を被告として、不作為の違法を確認する訴訟を提起でき

ることとされた。

(2) 

平成二九年一〇月から総務省で「自治体戦略二〇四〇構想研究会」を開催している。

(3) 

総務省「自治体戦略二〇四〇構想研究会」平成二九年一〇月二日資料

(4) 

総務省「地域自治組織のあり方に関する研究会報告書」(平成二九年七月)参照

(5) 

総務省「町村議会のあり方に関する研究会」が平成二九年七月から開催されている。

(6) 

例えば、選択性の導入の提案が、総務省「地方議会・議員に関する研究会報告書」(平成二九年七月)において行われている。

(7) 

平成二九年の税制改正で、地方消費税の清算基準の見直しが行われ、結果として東京都等に帰属していた税収の一部が、他

の地方公共団体に帰属することとなった。

(8) 

平成三〇年度の与党税制改革大綱にも「地方法人課税における税源の偏在を是正する新たな措置について・・・平成三一年

度改正において結論を得る」旨の記述がある。

(総務省総務事務次官)

(8)

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