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完備化されたリーマン・ゼータ 7・1 偶関数・奇関数 定義 7・1・0 f() z は開領域 D 内に定義された関数とする。 (1) f() z = f( ) -z のとき、 f() z 偶関数 と言う。 (2) f() z = -f( ) -z のとき、 f() z 奇関数 と言う。 Note この定義に従えば、直ちに次のことが言える。 (1) f() z が偶関数のとき、 もし z 1 f() z の零点ならば、 -z 1 f() z の零点である。 (2) f() z が奇関数のとき、 もし z 1 f() z の零点ならば、 -z 1 f() z の零点である。 定理 7・1・1 f 1 () z , f 2 () z は領域 D 内に定義された関数とするとき、 (1) f 1 () z , f 2 () z が偶関数ならば f 1 () z f 2 () z も偶関数である。 (2) f 1 () z , f 2 () z が奇関数ならば f 1 () z f 2 () z も奇関数である。 証明 f 1 () z , f 2 () z が偶関数のとき、 f k () z = f k ( ) -z k =1, 2 であるから f 1 () z f 2 () z = f 1 ( ) -z f 2 ( ) -z f 1 () z , f 2 () z が奇関数のとき、 f k () z = -f k ( ) -z k =1, 2 であるから f 1 () z f 2 () z = -f 1 ( ) -z -f 2 ( ) -z = - f 1 ( ) -z f 2 ( ) -z 定理 7・1・2 f 1 () z , f 2 () z は領域 D 内に定義された関数とするとき、 (1) f 1 () z , f 2 () z が偶関数ならば f 1 () z f 2 () z は偶関数である。 (2) f 1 () z , f 2 () z が奇関数ならば f 1 () z f 2 () z は偶関数である。 (3) f 1 () z が奇関数で f 2 () z が偶関数ならば f 1 () z f 2 () z は奇関数である。 証明 f 1 () z , f 2 () z が奇関数のとき、 f k () z = -f k ( ) -z k =1, 2 であるから f 1 () z f 2 () z = -f 1 ( ) -z - f 2 ( ) -z = f 1 ( ) -zf 2 ( ) -z かくして (2) が証明された。 (1) (3) も類似の方法で証明される。 f() z を実数部と虚数部に分けると、以下の定理が成立する。 - 1 -

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Page 1: 完備化されたリーマン・ゼータsugaku.sakura.ne.jp/jb07.pdf · 2018-11-07 · 定理 7・1・3 f()z が領域D 内に定義された複素関数とする。 (1) f()z

7 完備化されたリーマン・ゼータ

7・1 偶関数・奇関数

定義 7・1・0

f( )z は開領域 D 内に定義された関数とする。

(1) f( )z = f( )-z のとき、 f( )z を 偶関数 と言う。

(2) f( )z = -f( )-z のとき、 f( )z を 奇関数 と言う。

Note この定義に従えば、直ちに次のことが言える。

(1) f( )z が偶関数のとき、 もし z1 が f( )z の零点ならば、 -z1 も f( )z の零点である。

(2) f( )z が奇関数のとき、 もし z1 が f( )z の零点ならば、 -z1 も f( )z の零点である。

定理 7・1・1

f1( )z , f2( )z は領域 D 内に定義された関数とするとき、

(1) f1( )z , f2( )z が偶関数ならば f1( )z f2( )z も偶関数である。

(2) f1( )z , f2( )z が奇関数ならば f1( )z f2( )z も奇関数である。

証明

f1( )z , f2( )z が偶関数のとき、 fk( )z = fk( )-z k=1,2 であるから

f1( )z f2( )z = f1( )-z f2( )-z

f1( )z , f2( )z が奇関数のとき、 fk( )z = -fk( )-z k=1,2 であるから

f1( )z f2( )z = -f1( )-z -f2( )-z = - f1( )-z f2( )-z

定理 7・1・2

f1( )z , f2( )z は領域 D 内に定義された関数とするとき、

(1) f1( )z , f2( )z が偶関数ならば f1( )z f2( )z は偶関数である。

(2) f1( )z , f2( )z が奇関数ならば f1( )z f2( )z は偶関数である。

(3) f1( )z が奇関数で f2( )z が偶関数ならば f1( )z f2( )z は奇関数である。

証明

f1( )z , f2( )z が奇関数のとき、 fk( )z = -fk( )-z k=1,2 であるから

f1( )z f2( )z = -f1( )-z - f2( )-z = f1( )-z f2( )-z

かくして (2) が証明された。

(1) (3) も類似の方法で証明される。

f( )z を実数部と虚数部に分けると、以下の定理が成立する。

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定理 7・1・3

  f( )z が領域 D 内に定義された複素関数とする。

(1)  f( )z が偶関数のとき、その実数部も虚数部も共に偶関数である。

(2)  f( )z が奇関数のとき、その実数部も虚数部も共に奇関数である。

証明

 領域 D に含まれる実数空間を R とし

f( )z = u( )z +iv( )z , u , v R

z を -z に置換して

f( )-z = u( )-z + iv( )-zこれらより

f( )z = f( )-z  ならば u( )z = u( )-z , v( )z = v( )-z

f( )z = -f( )-z ならば u( )z = -u( )-z , v( )z = -v( )-z

定理 7・1・4

  f( )z が領域 D 内に定義された複素関数とする。このとき、

もし f( )z が偶関数もしくは奇関数であれば、 f( )z 2は偶関数である。

証明

 領域 D に含まれる実数空間を R とし

f( )z = u( )z +iv( )z , u , v Rとすれば

f( )z 2 = u 2( )z + v2( )zもし f( )z が偶関数ならば、定理 7・1・3 ( )1 により u( )z , v( )z は共に偶関数であり、

もし f( )z が奇関数ならば、定理 7・1・3 ( )2 により u( )z , v( )z は共に奇関数である。

すると 定理 7・1・2 によりいづれの場合も u 2( )z , v2( )z は共に偶関数となり、さらに

定理 7・1・1 ( )1 により u 2( )z + v2( )z は偶関数となる。

  f( )z の導関数とマクローリン級数に関して、よく知られた以下の定理が成立する。

定理 7・1・5

  f( )z が領域 D 内に定義された正則な複素関数とする。

(1)  f( )z が偶関数のとき、その第1階導関数 f( )1 ( )z は奇関数である。

(2)  f( )z が奇関数のとき、その第1階導関数 f( )1 ( )z は偶関数である。

証明

  f( )z が偶関数のとき、 f( )z = f( )-z両辺を z で微分すれば

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f( )1 ( )z = f( )1 ( )-z ( )-z ( )1 = -f( )1 ( )-z

故に f( )1 ( )z は奇関数である。

  f( )z が奇関数のとき、 f( )z = -f( )-z両辺を z で微分すれば

f( )1 ( )z = -f( )1 ( )-z ( )-z ( )1 = f( )1 ( )-z

故に f( )1 ( )z は偶関数である。

定理 7・1・6

  f( )z が領域 D 内に定義された正則な複素関数とする。

(1)  f( )z が偶関数であるための必要十分条件は、そのマクローリン級数が偶数冪のみを含む

   ことである。

(2)  f( )z が奇関数であるための必要十分条件は、そのマクローリン級数が奇数冪のみを含む

   ことである。

証明

 仮定により、 f( )z は次のようにマクローリン展開される。

f( )z = 0!

f( )0 ( )0z0 +

1!f( )1 ( )0

z1 + 2!

f( )2 ( )0z2 +

3!f( )3 ( )0

z3 +

(1)  f( )z が偶関数のとき、定理 7・1・5 により f 2n-1 ( )z n=1,2,3, は奇関数となる。

  すると、 f 2n+1 ( )0 = -f 2n+1 ( )-0 n=1,2,3,

  これより、 f 2n+1 ( )0 = 0 n=1,2,3, を得る。

   逆に上記マクローリン級数が偶数冪のみを含むとき、その各項は全て偶関数であるから、

  定理 7・1・1 によりこのマクローリン級数も偶関数となる。

(2)  f( )z が奇関数のとき、定理 7・1・5 により f 2n ( )z n =0,1,2, は奇関数となる。

  すると、 f 2n ( )0 = -f 2n ( )-0 n =0,1,2,

  これより、 f 2n ( )0 = 0 n=0,1,2, を得る。

   逆に上記マクローリン級数が奇数冪のみを含むとき、その各項は全て奇関数であるから、

  定理 7・1・1 によりこのマクローリン級数も奇関数となる。

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7・2 複素共役性

定義 7・2・0

 領域 D 内に定義された関数 f( )z が

f z = f( )z z Dを満たすとき、 f( )z は 複素共役性を持つ と言う。

例1  f( )z = ez-1

f( )z = f( )x,y = ex-1+ i y = ex-1( )cosy + i sin y

f z = f( )x,-y = ex-1- i y = ex-1( )cosy - i sin y = f( )z

例2  f( )z = ( )z-1 n

  z =x-1+ iy を次のように球座標 r, に変換する。

r = x -1 2 + y 2 , cos = x -1 2 + y 2

x -1 , sin =

x -1 2 + y 2

y

すると

f( )z = r cos + i sin n = rn cos n i sin n

f z = r cos - i sin n = rn cos n i sin n = f( )z

cf.

  f( )z = ez-i や f( )z = ( )z-i n は複素共役性を持たない。

 次の公式及び定理が容易に証明できる。

公式 7・2・1

  f1( )z , f2( )z は領域 D 内に定義された複素共役性を持つ関数とするとき、

(1)  f1 z f2 z = f1( )z f2( )z

(2)  f1 z f2 z = f1( )z f2( )z

証明

f1( )z = u1 + i v1 , f1 z = u1 - i v1

f2( )z = u2 + i v2 , f2 z = u2 - i v2

とすれば

f1 z f2 z = u1 - i v1 u2 - i v2 = u1 u2 - i v1 v2

= f1( )z f2( )z

次に

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f1( )z f2( )z = u1u2 - v1v2 + i u1v2 + u2v1

f1( )z f2( )z = u1u2 - v1v2 - i u1v2 + u2v1

f1 z f2 z = u1u2 - v1v2 - i u1v2 + u2v1

f1 z f2 z = f( )z g( )z

定理 7・2・2

 領域 D 内に定義された関数 f( )z が次のように級数展開されたとする。

f( )z = Σn =-

cn( )z-a n

このとき、もし a , cn (n =0 , 1 ,2 , ) が実数ならば、 f( )z は複素共役性を持つ。

証明

 上記例2で見たとおり、 ( )z-1 n (n =0 , 1 ,2 , ) は複素共役性を持つ。従って a が実数

ならば ( )z-a n (n =0 , 1 ,2 , ) も複素共役性を持つ。 cn (n =0 , 1 ,2 , ) は実数であ

るから、公式 7・2・1(1) により、 Σn =-

cn( )z-a n も複素共役性を持つ。

Note1 この定理により、次の関数はいづれも複素共役性を持つことが分る。

z = ez log = Σn =0

n!log n

zn

( )z = z-11

+ Σn =0

n!( )-1 n

n ( )z-1 n s : Stieltjes constant

( )z = 1 + Σn =1

n!cn( )a

( )z-a n a >0

但し、 cn( )a = ( )a Σk=1

n

Bn,k 0( )a , 1( )a , , n-1( )a n=1,2,3,

n( )z はポリガンマ関数、 Bn,k f1 , f2 , は Bell 多項式。

Note2

  f( )z は領域 D 内に定義された複素共役性をもつ関数とするとき、

もし z1 が f( )z の零点ならば、 z1 も f( )z の零点である。何故ならば、

f( )z = u( )z + i v( )z と表すとき、もし z1 が f( )z の零点ならば、

0 = f z1 = u z1 + i v z1 i.e. u z1 = v z1 = 0

= u z1 - i v z1 = f z1 = f z1

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複素共役性持つ偶関数・奇関数

 素共役性を持つ関数 f( )z が偶関数もしくは奇関数であるときは、以下のようにややこしくなる。

定理7・2・3

  f( )x,y = u( )x,y + i v( )x,y は領域 D 内に定義された複素共役性を持つ関数とするとき、

(1)  f( )x,y が偶関数ならば

u( )x,y = u( )x,-y = u( )-x,y = u( )-x,-y (2.1u)

v( )x,y = -v( )x,-y = -v( )-x,y = v( )-x,-y (2.1v)

(2)  f( )x,y が奇関数ならば

u( )x,y = u( )x,-y = -u( )-x,y = -u( )-x,-y (2.2u)

v( )x,y = -v( )x,-y = v( )-x,y = -v( )-x,-y (2.2v)

証明

  f( )x,y は複素共役性を持つから

u( )x,-y + iv( )x,-y = u( )x,y - iv( )x,y

u( )-x,-y + iv( )-x,-y = u( )-x,y - iv( )-x,yこれらより

u( )x,y = u( )x,-y , u( )-x,y = u( )-x,-y (2.u)

v( )x,y = -v( )x,-y , -v( )-x,y = v( )-x,-y (2.v)

(1)  f( )x,y が偶関数のとき、 定理7・1・3 (1) より

u( )x,y = u( )-x,-y , v( )x,y = v( )-x,-yこれらと (2.u), (2.v) より (2.1u), (2.1v) を得る。

(2)  f( )x,y が奇関数のとき、定理7・1・3 (2) より

u( )x,y = -u( )-x,-y , v( )x,y = -v( )-x,-yこれらと (2.u), (2.v) より (2.2u), (2.2v) を得る。

例 4次関数

 偶関数の例として4次関数 f( )z = z4 +1 を取り上げる。 x =1/ 2 , y =1/ 2 として

(2.2u), (2.2v) を計算すると次のようになる。

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系 7・2・3

  f( )x,y = u( )x,y + i v( )x,y は領域 D 内に定義された複素共役性を持つ関数とする。

すると、任意の実数 x,yD について次が成立する。

(1)  f( )x,y が偶関数のとき、 v( )x,0 =0 , v( )0,y =0

(2)  f( )x,y が奇関数のとき、 u( )0,y =0 , v( )x,0 =0

証明

(1)  f( )x,y が偶関数のとき、(2.1v) より、

v( )x,y = -v( )x,-y , v( )x,y = -v( )-x,yそれぞれ y=0 , x=0 と置けば、

v( )x,0 = -v( )x,0 , v( )0,y = -v( )0,yこれらより、 v( )x,0 =0 , v( )0,y =0

(2)  f( )x,y が奇関数のとき、(2.2u), (2.2v) より、

u( )x,y = -u( )-x,y , v( )x,y = -v( )x,-yそれぞれ x=0 , y=0 と置けば、

u( )0,y = -u( )0,y , v( )x,0 = -v( )x,0

これらより、 u( )0,y =0 , v( )x,0 =0

例1 4次関数の虚数部

  f( )z = z4 +1 とし、この虚数部の x =0 , y =0 での断面図を描いたのが次図である。両断面

が一直線であることが分る。

例2 3次関数の実数部と虚数部

  f( )z = z3 とし、この実数部の x =0 での断面図を描いたのが左図であり、虚数部の y =0 で

の断面図を描いたのが右図である。実数部は任意の y について一直線、虚数部は任意に x に

ついて一直線になっている。

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 最後に、非常に重要な次の定理を提示し証明する。

定理 7・2・4

 領域 D 内の複素共役性を持つ関数 f( )z が零点 z1= x1+ iy1 x1 0 を持つとき、

(1)  f( )z が偶関数ならば、 -x1- iy1 , x1- iy1 , -x1+ iy1 も f( )z の零点である。

(2)  f( )z が奇関数ならば、 -x1- iy1 , x1- iy1 , -x1+ iy1 も f( )z の零点である。

証明

(1)  f( )z が偶関数で z1= x1+ iy1 x1 0 がその零点ならば、定理 7・2・3 (1) より

u x1 , y1 = u x1 ,-y1 = u -x1 ,y1 = u -x1 ,-y1 = 0

v x1 , y1 = -v x1 ,-y1 = -v -x1 ,y1 = v -x1 ,-y1 = 0

これらより、 x1 iy1 , x1 iy1 が f( )z の零点であることが解る。

(2)  f( )z が奇関数で z1= x1+ iy1 x1 0 がその零点ならば、定理 7・2・3 (2) より

u x1 , y1 = u x1 ,-y1 = -u -x1 ,y1 = -u -x1 ,-y1 = 0

v x1 , y1 = -v x1 ,-y1 = v -x1 ,y1 = -v -x1 ,-y1 = 0

これらより、 x1 iy1 , x1 iy1 が f( )z の零点であることが解る。

別証

(1)  f( )z が偶関数で零点 z1= x1+ iy1 x1 0 を持つならば、

f( )z = f( )-z であるから、 -x1- iy1 も f( )z の零点である。そして上記 Note2 により、

これらの共役複素数 x1- iy1 , -x1+ iy1 も f( )z の零点である。

(2)  f( )z が奇関数で零点 z1= x1+ iy1 x1 0 を持つならば、

f( )z = -f( )-z であるから、 -x1- iy1 も f( )z の零点である。そして上記 Note2 により、

これらの共役複素数 x1- iy1 , -x1+ iy1 も f( )z の零点である。

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7・3 対称関数等式

 リーマン・ゼータの関数等式は対称的な形に変換できる。

公式 7・3・1 (Riemann)

-

2

z

2z

z = -

2

1-z

21-z

1-z z 0 ,1 (3.1)

-

2

1 2

1+ z

21 2

1+z 2

1+z =

-2

1 2

1- z

21 2

1-z 2

1-z

但し z 1/2 (3.1')

証明

 関数等式より

( )z = 2 1-z

2( )1-zsin

2z( )1-z z 0 ,1

この両辺に-

2z

2z

を乗じると

-

2z

2z ( )z =

-2z

2z

2 1-z

2( )1-zsin

2z( )1-z

= -

2

1-z

2z

sin2z2z( )1-z

-2

1

( )1-z

ここで

( )z ( )1-z = sinz

より

2z

sin2z

= 1-

2z

これを上に代入して

-

2z

2z ( )z =

-2

1-z

1-2z

2z( )1-z

-2

1

( )1-z

= -

2

1-z

1-2z

2z( )1-z ( )1-z

さらに

2z 2

z+1 = 21-z ( )z

において z を 1-z に置換すれば

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21-z 2

2-z = 2z ( )1-z

これより

1-2z

2z( )1-z = 2

1-z

これを上に代入して

-

2

z

2z

z = -

2

1-z

21-z

1-z z 0 ,1 (3.1)

最後に、 z を z+1/2 に置換すれば

-

2

1 2

1+ z

21 2

1+z 2

1+z =

-2

1 2

1- z

21 2

1-z 2

1-z

但し z 1/2 (3.1')

 ディリクレ・イータ関数についても、対称的な関数等式が得られる。

公式 7・3・2

2z

-

2

z

1-2z z = 21-z

-

2

1-z

1-21-z 1-z

但し z 0 ,1 (3.3)

-

2

1 2

1+ z

21 2

1+z 1-2 2

1+ z

21

+z

= -

2

1 2

1- z

21 2

1-z 1-2 2

1- z

21

-z

但し z 1/2 (3.3')

証明

 (3.1) に ( )z = ( )z / 1-21-z を代入して

2z

1-21-z

-

2

z

z = 21-z

1-21-( )1- z

-

2

1-z

1-z

i.e.

  2z

-

2

z

1-2z z = 21-z

-

2

1-z

1-21-z 1-z (3.3)

次に、 z を z+1/2 に置換して (3.3') を得る。

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7・4 完備化されたリーマン・ゼータ

 関数 ( )z , ( )z を複素平面上でそれぞれ次のように定義する。

( )z = -z( )1-z -

2

z

2z ( )z (4.1)

( )z = - 21

+z 21

-z -

2

1 2

1+ z

21 2

1+z 2

1+z (4.1')

すると、公式 7・3・1 より、全複素平面上で次式が成立する。

( )z = ( )1-z (4.2)

( )z = ( )-z (4.2')

 これらは完備化されたリーマン・ゼータ と総称されている。 z = x+ iy とするとき、 ( )z はその

実数部が x =1/2 に対して線対称であり、( )z はその実数部が x =0 に対して線対称である。

本章では( )z についてその性質を考察する。

cf.

 本章における ( )z ,( )z の定義は、次のような Landau の定義とは異なっている。

( )z = 21

z( )z-1 -

2

z

2z ( )z : xi function

( )z = 21

+ i z : Xi function

7・4・1 完備化されたリーマン・ゼータの諸性質

  ( )z ,( )-z の実数部と虚数部を3次元図に描けば次のようになる。( )z がシアンで

( )-z がマゼンタである。

 この図から次のことが見てとれる。

(1) 関数( )z は全複素平面上で正則である。特異点は何処にも見当たらない。

(2) 関数( )z は複素数 z に関して偶関数である。(( )z = ( )-z )

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  上図において( )z (シアン)と ( )-z (マゼンタ)は重なってマダラに見えている。

(3) 実数部 u( )x,y は x に関しても y に関しても偶関数である。(上左図参照。)

i.e. u( )x,y = u( )x,-y = u( )-x,y  これらは( )z の偶数性と複素共役性によるものである。( 定理 7・2・3 (1) )

(4) 虚数部 v( )x,y は x に関しても y に関しても奇関数である。(上右図参照。)

i.e. v( )x,y = -v( )x,-y = -v( )-x,y  これらもまた( )z の偶数性と複素共役性によるものである。( 定理 7・2・3 (1) )

(5) 任意の x, y に対して v( )x,0 =0 , v( )0,y =0 である。

  これは( )z の偶数性と複素共役性によるものである。( 系 7・2・3 (1) )

  上右図の x =0 , y =0 での断面図を描いたのが次図である。両断面は一直線となっている。

(6) 従って ( v( )0,y =0 for any y )、 u( )0, y =0 の解は( )z の零点となる。

(7) ( )z の絶対値の2乗 ( )z 2は x に関しても y に関しても偶関数となる。

  これは( )z が偶関数であるからである。( 定理7・1・4 ) 複素共役性は要求されない。

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  これを3次元で示せば左図のとおりである。そして右図のような極小点が x=0 に沿って点在

  しているように見える。

 以上の性質から、リーマン・ゼータ関数の非自明な零点に関する次の重要な定理が得られる。

定理 7・4・1

 リーマン・ゼータ関数 ( )z が 実数部が 1/2 でない非自明な零点を持つならば、その1組は

次の4個から成る。

1/2+1 i1 , 1/2-1 i1 ( 0 < 1 < 1/2 )

証明

  1/2+1 i1 が( )z の非自明な零点であることは 1 i1 が( )1/2+z の非自明な

零点であることと同値である。ここで (4.1') を観察しよう。

( )z = - 21

+z 21

-z -

2

1 2

1+ z

21 2

1+z 2

1+z (4.1')

すると次のことが分る。

(1) 21

+z の自明な零点と21

+z の零点は 21 2

1+z の特異点と相殺され、

それらの点において( )z は非ゼロ正則となる。

(2)21

-z の零点は 21

+z の特異点と相殺され、その点で( )z は非ゼロ正則となる。

(3) -

2

1 2

1+ z

は零点を持たない。

以上の結果、 ( )1/2+z の非自明な零点と( )z の零点は一致する。

 (4.2') より( )z = ( )-z であるから、( )z は偶関数である。そして、 定理7・2・2 Note1で見たように、(4.1') を構成する関数は全て複素共役性を持つ。よって、公式 7・2・1 により、

( )z もまた複素共役性を持つ。すると 定理 7・2・4 (1) により、もし( )z が実数部が0でない

零点を持つならば、それは次の4個から成る。

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1 i1 , -1 i1 ( 1 0 )

( )z と( )z との関係から、このことは次と同値である。

( )z が 実数部が 1/2 でない非自明な零点を持つならば、その1組は次の4個から成る。

1/2+1 i1 , 1/2-1 i1 ( 1 0 )

そして 0 < 1/21 < 1 が既知であるから 0 < 1 < 1/2 。これは定理と同値である。

2015.02.26

2017.12.07 Renewed

2018.03.30 Updated

Kano Kono

宇宙人の数学

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