「夫婦別姓制度について」t-ogawa.sakura.ne.jp/kougi/aichigakuin/2005kisozemi_7.pdf章立て...

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2005年・春学期 基礎演習2・火曜1限・小川富之 現代社会法学科・2年 04W0**・**** テーマ 「夫婦別姓制度について」

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Page 1: 「夫婦別姓制度について」t-ogawa.sakura.ne.jp/kougi/aichigakuin/2005kisozemi_7.pdf章立て 第一章 はじめに 第二章 夫婦の氏に関する現行制度の概観

2005年・春学期

基礎演習2・火曜1限・小川富之

現代社会法学科・2年

04W0**・****

テーマ

「夫婦別姓制度について」

Page 2: 「夫婦別姓制度について」t-ogawa.sakura.ne.jp/kougi/aichigakuin/2005kisozemi_7.pdf章立て 第一章 はじめに 第二章 夫婦の氏に関する現行制度の概観

テーマ設定の理由

この問題を選んだ理由は2つあります。1つめは、高校生の

家庭科の授業で討論したのがきっかけで、興味を持ちはじめ法

学部に入学した今もう一度、法的視点から夫婦別姓制度につい

て考えてみたいと思ったからです。

2つめは、夫婦別姓は伝統的な社会秩序を破壊するとして反

対の声も強いなか、別姓にすることを望む人たちが多いのは現

代の社会と、どういった関係があるのか調べてみたいと思った

からです。

以上のことから、私は、夫婦別姓制度を導入すべきかどうか

について考えていきたいと思います。

Page 3: 「夫婦別姓制度について」t-ogawa.sakura.ne.jp/kougi/aichigakuin/2005kisozemi_7.pdf章立て 第一章 はじめに 第二章 夫婦の氏に関する現行制度の概観

章立て

第一章 はじめに

第二章 夫婦の氏に関する現行制度の概観

一節 憲法 憲法第 13 条・第 14 条・第 24 条にかかわる人権問題としての側面について。

二節 民法 夫婦別姓に係る婚姻・離婚などの家族関係における身分上の権利義務について。

三節 戸籍法等

戸籍制度の特殊性の確認について。

第二章 夫婦の氏に関する見解

一節 夫婦別姓反対派 夫婦別姓の反対派の意見を述べる。

二節 夫婦別姓賛成派 まず婚姻による改氏の不利益をとりあげる。そして夫婦別姓を強く望む声が多いの

はなぜか、現代社会と照らし合わせながら賛成派の意見を述べる。

第四章 おわりに

一節 夫婦別姓制度をめぐる歴史的な展開

二節 夫婦別姓を支援する市民活動

三節 筆者の見解

Page 4: 「夫婦別姓制度について」t-ogawa.sakura.ne.jp/kougi/aichigakuin/2005kisozemi_7.pdf章立て 第一章 はじめに 第二章 夫婦の氏に関する現行制度の概観

概要報告

第一章 はじめに 2001 年 5 月に実施された内閣府・夫婦別姓に関する世論調査では、賛成する人

(42.1%)が反対する人(29.9%)を初めて上回り、各メディアは「夫婦別姓への支

持が広がっている」と報じました。

第二章 夫婦の氏に関する現行制度概観 一節 憲法 憲法はその第 13 条で「個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉」を、第 14 条で「法

の下の平等」を定めている。また第 24 条では、第 13・14 条の内容の繰り返しにな

るにもかかわらず、特に「家族生活における個人の尊重と両性の平等」を別項目で定

めている。この第 24 条が旧制度下の「家制度」「家父長制」を否定したものである。

二節 民法 民法はその第 739 条 1 項で「戸籍による婚姻の届出」を規定することによって「法

律婚主義」を明確に採用している。そして第 750 条で「夫婦同氏原則」を規定してい

る。

三節 戸籍法等

戸籍について論ずるにあたり、まず、戸籍制度の比較法的な特殊性を確認しておく

べきであろう。戸籍とは社会生活において、婚姻や縁組をするに際してその要件を備

えているかどうか確かめたり、遺産分割や相続財産の取引に際して相続人を確認する

など、個人の家族関係や家族にかかわる事実を登録し、公証する制度である。氏の異

同や家族関係の変動に基礎においた身分登録制度は国際的には特殊なもので、日本・

韓国・台湾の三国にしか存在しない。しかも、韓国・台湾の戸籍制度はいずれも日本

による植民地支配の名残であるとされている。

第三章 夫婦の氏に関する両意見

一節 夫婦別姓反対派 夫婦別姓でいつも問題となるのは子どもの姓である。親子で姓が違うと、姓が異な

る家族は不正常で、なにか特別な事情のある親子だという社会通念や、子どもが有形

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無形の差別やイジメの対象になるのはかわいそうだという気持ちがあるため、夫婦別

姓に強く反対しているのである。

二節 夫婦別姓賛成派 夫婦別姓にすることを強く望む声が多いのは、女性たちの高い水準での進学率・就

労率の向上や、一人っ子同士の結婚が増えてきたことから母方の姓が絶えるとか、墓

の継承が問題となるなどの、現代社会の問題からも生じてきているのである。

第四章 おわりに

一節 夫婦別姓制度をめぐる現在までのながれ

今年、2005年3月30日民主、共産、社民の野党3党は30日、選択的夫婦別

姓制度を導入するための民法改正案を共同で参院に提出した。 野党共同による同趣旨の法案提出は、99年12月以降で衆参両院合わせて11回

目。改正案は、希望した夫婦はそれぞれ結婚前の姓を名乗ることができることを定め

たほか、再婚禁止期間を100日に短縮することや非嫡出子に嫡出子と同じ相続権を

与えることなどが柱である。

二節 夫婦別姓を支援する市民活動の動き

夫婦別姓を支援する市民活動として、夫婦別姓選択性実現協議会では、2003 年 6月 30日から 2004年 9月 27日まで毎日新聞インタラクティブのウエブサイトにおけ

る「Women interactive カモミール」の「女性 NGO」の欄に夫婦別姓制度を実現す

るために連載記事を掲載していました。また全国司法書士女性会とともに 2004 年 12月 7 日に院内集会を開催し、小泉純一郎自民党総裁に公開質問状を提出した。 三節 自分の見解 法は、できるだけ不公平感を取り除くよう変えられるべきである。そして、何事も

タブー視せず、まず国会という開かれた場で議論し世論にこたえていくのが、政治の

使命ではないのか。

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第一章 はじめに 2001 年 5 月に実施された内閣府・夫婦別姓に関する世論調査では、賛成する人

(42.1%)が反対する人(29.9%)を初めて上回り、各メディアは「夫婦別姓への支

持が広がっている」と報じました。 とは言うものの、別姓にすると「家族の一体感が弱まる」と答えた人は 41.6%(「影

響が無い」は 52%)、「別姓だと子供に好ましくない影響がある」と考える人は 66%(「影響がない」は 26.8%)と、依然として、「別姓が家族や子供に良くない影響を与

えるのではないか?」と危惧している人は少なくありません。 そこで、わたしは、現在の夫婦の氏に関する現行制度の概観として、憲法・民法・

戸籍法等をあげ、そして、夫婦の氏に関する反対派、賛成派それぞれの意見を述べて

いきます。

第二章 夫婦の氏に関する現行制度概観 一節 憲法

憲法はその第 13 条で「個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉」を、第 14 条で「法

の下の平等」を定めている。また第 24 条では、第 13・14 条の内容の繰り返しにな

るにもかかわらず、特に「家族生活における個人の尊重と両性の平等」を別項目で定

めている。この第 24 条が旧制度下の「家制度」「家父長制」を否定したものであるこ

とは周知のとおりである。 これらの条文が夫婦別氏を論ずるにあたっての根拠となるのだが、これらには夫婦

の「氏」に関することは勿論、人の氏名に関する権利についてすら直接には何等、規

定していない。それと同時に、これらの条文からは夫婦別氏を積極的に否とする根拠

が導き出し得ないことも確かである。むしろ、第 13 条の「個人の尊重、幸福追求権」、

第 14 条、第 24 条の「両性の平等」といった憲法の基本的な原則に照らすと、それら

を侵害する恐れなしと出来ない夫婦同氏を強制する民法の規定に疑念を抱くほうが

論理的には自然であるとも考えられる。 憲法第 14 条 1 項は憲法の基本原則である「法の下の平等」の原則を定め、第 24

条は第 14 条の平等原則に加え、更に婚姻について 1 項で「夫婦が同等の権利を有す

ること」を確認し、2 項で法律の制定において「家族生活における両性の平等」に立

脚すべきことを規定している。

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「平等」とは、常に相対的平等を指す。相対的平等とは、人間がさまざまに異なる属 性をもつことを認めて、等しいものを等しく、異なっているものを、その異なる程度 に応じて異なって扱うことであり、全ての人間の絶対的な平等などというものはあり

得ない。したがって、恣意的でなく、その差別が社会通念上、合理的であると認めら

れる場合には、その差別は平等原則違反ではないものと解される。また、平等には、

人の現実のさまざまな差異を一切捨象して原則的に一律平等に取り扱うこと、すなわ

ち基本的に機会平等を意味する「形式的平等」と、人の現実の差異に着目してその格

差是正を行うこと、すなわち配分ないし結果の均等を意味する「実質的平等」という

ふたつの側面が存在する。このふたつは相関はするものの、同一次元では両立しない。 「法の下の」という文言は、法律の内容に平等を求めること(立法者拘束説)を意

味し、内容の如何にかかわらず、法律の適用さえ平等であればよいとすること(適用

平等説)ではない。 第 14 条 1 項後段の列挙事由については、限定列挙であるとする説、特に重要なも

のを列挙したものであるとする説、列挙事由と司法審査基準を関係付けようとする説

などが考えられる。最高裁は第 14 条 1 項をその前段は立法者を拘束し、後段は単な

る例示に過ぎず、合理的差別は許容されると判断している。

憲法第 24 条 1 項は、その前段で「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」と

規定している。条文中に「婚姻の自由」という文言はないが、この第 24 条が婚姻の

自由を保障したものであることに争いはない。ここでは婚姻の自由の意義とその制限

について考察し、夫婦同氏の原則が婚姻の自由に及ぼす影響について論ずる。

旧家制度の下では、婚姻に際して、戸主の同意権(旧民法第 750 条)や、男子 30才以下・女子 25 才以下の婚姻に対する父母の同意権(旧民法第 772 条)が認められ、

当事者意思は著しく制限(あるいは無視)されており、形式上は婚姻において、自由

などというものは存在しなかったに等しい。こういった制度が戸主が支配権を握る家

制度をより安定的なものとするのに役立っていた。新憲法は、そういった、人身をそ

の意とは無関係に拘束する「家制度」を打破せんがため、「婚姻の自由」を打ち出し

たのである。 そうかといって、婚姻の自由が保障された現行憲法による制度下において婚姻の自

由の制限がないわけではない。未成年の子の婚姻に際する父母の一方の同意の必要

(民法第 737 条)、男子 18 才・女子 16 才未満の婚姻の禁止(同第 731 条)、届け出

の必要(同第 739 条)、重婚の禁止(同第 732 条)、女性の再婚禁止期間(同第 733条)、近親婚の制限(同第 734・735・736 条)がそれである。これらの制限は、一夫

一婦制や、女性の生理学的根拠、優生学的根拠から発したものと考えられるので、婚

姻には「合意」以外のいかなる要件も不要である、という解釈は当を得ない。ただ、

中には不平等で合理性を欠くという点で違憲の疑いが濃いものもある。

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夫婦の氏の問題に関係する制限は「届け出の必要」であるが、この届け出婚主義(法

律婚主義)自体は、憲法第 24 条自身がその第 2 項で法律婚を前提としていることや、 その届け出が夫婦の自由な意思のみによってなされること、また婚姻という制度の法

的効果などを勘案すると、合理性は認められるべきであろう。 戸籍法の規定により、婚姻の届け出において婚氏の決定がなされていない婚姻届は

受理されず、従って、届け出婚主義に則り、婚姻は成立しない。しかし第 24 条は、

婚姻の成立要件を「両性の合意のみ」としている。届け出婚主義自体は違憲でないと

しても、さらにその届け出に、単なる手続上の制限ではない、具体的な権利・利益の

取捨の絡む成立要件を加重することは、婚姻の自由の侵害になると考えることも出来

る。互いに氏名保持権を主張する男女が婚姻をしようとする場合、夫婦同氏原則の下

では双方の氏名権を婚姻後にも同時に実現することは不可能である。双方が自己の氏

名権を守ろうとすると、婚姻を断念するか、事実婚に踏み切るかの選択、つまり「人

格権」と「婚姻の自由」という二つの人権の二者択一を迫られるのである。こういっ

た二者択一が憲法上の権利間での選択を迫る場合には、選択を強制することについて

の強い正当化事由が示されねばならないはずである。よって、夫婦同氏を強制するに

は、婚姻において、人格権としての氏名権を制限するだけの十分な合理的理由が必要

なはずであるのだが、一般に夫婦同氏の原則の存立根拠とされる「社会通念」といっ

た極めて抽象的かつ不可確定的なものからは、それを見いだし得ない。この点からも、

夫婦同氏の強制が婚姻の自由の侵害になり得ることが分かる。

二節 民法 民法はその第 739 条 1 項で「戸籍による婚姻の届出」を規定することによって「法

律婚主義」を明確に採用している。そして第 750 条で「夫婦同氏原則」を規定してい

る。夫婦は、協議によって夫又は妻のいずれの氏を称するか決め、決めたらその氏を

共通に称さなければならず、夫婦が各別に固有の氏を称したり、共同の新設の氏(第

三の氏・婚姻氏)を称したりすることは許されない。また、夫婦の氏に関する意思表

示がない場合に備えた規定はないので、当事者が氏の決定をしないときは、婚姻する

ことが出来ないことから、この「夫婦同氏の原則」は民法の構成の中では「婚姻の効

力」となっているが、事実上は法律上の婚姻の成立要件となっているのである。

また、第 767 条 2 項では「離婚後の婚氏続称」を認めている。この制度の善し悪し

は別として、これは、氏について同じ婚姻関係上の効果であるにもかかわらず、その

起点である婚姻は氏の選択は二者択一であるのに対し、終点である離婚の際には選択

肢が広いという矛盾を生じさせている。

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三節 戸籍法等

戸籍について論ずるにあたり、まず、戸籍制度の比較法的な特殊性を確認しておく

べきであろう。戸籍とは社会生活において、婚姻や縁組をするに際してその要件を備

えているかどうか確かめたり、遺産分割や相続財産の取引に際して相続人を確認する

など、個人の家族関係や家族にかかわる事実を登録し、公証する制度である。氏の異

同や家族関係の変動に基礎においた身分登録制度は国際的には特殊なもので、日本・

韓国・台湾の三国にしか存在しない。しかも、韓国・台湾の戸籍制度はいずれも日本

による植民地支配の名残であるとされている。その他の国々では、おおむね、個人の

出生、婚姻、死亡などを個別的に登録する「事件別登録制度」を採っている。

戸籍法は実体法である民法第 750 条の下位法として、夫婦同氏の原則を受け、婚姻

の手続きの中でその原則を具体化している。

戸籍法はその第 6条に「夫婦・親子同氏同一戸籍の原則」を規定している。これは

同一の戸籍に記載されるのは、氏の同一の者に限られ、氏の異なる者は同籍しえない

ということであり、制度上、氏が戸籍編成の基準となっていることが分かる。氏にこ

のような身分としての性質が認められることは、旧民法下の「家籍」の概念を思い起

こさせると批判されるところである。

また、第 9条で「戸籍筆頭者」、第 14 条 1 項で「戸籍の記載順序」、第 16 条で「婚

姻による新戸籍の編纂・非改氏配偶者が既に戸籍筆頭者である場合の新戸籍編纂不必

要」を定め、戸籍筆頭者を事実上、戸籍編纂の基準としている。戸籍筆頭者とは、旧

民法下での「家」の中心的存在であった統率者・支配者たる「戸主」とは違い、実体

法上は何らの意味をもたず、戸籍を検索するためのインデックスとして利用される役

目をもっているにすぎないのだが、民法上対等であるべき夫婦について、形式的にで

はあるがいずれが筆頭者になるかということが問題となる。戸籍筆頭者についての世

間一般の理解は、観念的ではあるが形式以上の何ものか(権威的なもの)を意識して

いるのが実情なのである。本来は戸籍筆頭者とは、あくまで法制度内の概念であるの

だから、戸籍筆頭者という法概念の存在自体が、そういった実情を作り出しているで

あろうことは想像に難くない。

実務

夫婦同氏の原則が婚姻の成立要件であることは前述したが、それに従い、戸籍事務

の窓口では婚氏決定の要件を欠いた婚姻届は、記載事項不備として受理されない。よ

って、婚氏が決しない場合、法律上の婚姻は成立しない。また、婚氏の決定不能を救

済する裁判制度も存在しない。つまり、婚姻をしようとしている男女のどちらかが自

分の氏を捨てない限り法律婚は出来ないことを意味する。 婚氏決定の要件を欠いた

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婚姻届の不受理に関しては、その不受理処分の取り消しを求めた裁判(審判)が実際

に行われた。裁判所は、夫婦同氏原則について、夫婦の一体感を高めるのに有効であ

ることと、婚姻の対第三者公示力を根拠に、合理性と有するものとし、婚姻届の不受

理という戸籍事務の取り扱いを認めている。

「家」意識の残存

「家破れて氏あり」と言ったのは憲法学の大家、故宮沢俊義教授である。宮沢教授

は戦後間もなくの新憲法施行にあたって、氏に関する民法改正に注目し、「『家』がな

くなる以上、『家』の名である『氏』がなくなるのは当然だともいえる」と考え、氏

を残すことを認めつつも、民法改正のなりゆきを見て、「なくなるはずの『家』を『氏』

という形で少しでも温存しようなどという気持ちは賛成しない。」と意見を述べてい

る。また、「『家』がないのに『戸』籍というのはおかしい」とも言っている。宮沢教

授は悪しき旧制度の中核たる「家」的制度の復活を憂慮していたものと思われる。し

かし、制度上も氏の異同と基調とした家制度的な側面を持つ法律も現に存在するし、

また、「氏」即ち「家名」という発想は好むと好まざるとにかかわらず国民に浸透し

ていた。新憲法の精神によっても、法律がどう変わろうと、国民の家意識は払拭し切

れなかったようである。 最も国民に浸透している残存する家意識は、嫁入り婚的発想であろう。一般に男女

が婚姻するとき、その関係者は、婚姻し改氏をする女性については「嫁に行く」「嫁

をもらう」などということを言うが、改氏をしない男性については「婿に行く」「婿

をもらう」とはまず言うことはない。また逆に、男性が改氏をする婚姻の場合、「婿

養子になる」などと言われる。周知のとおり、嫁入り婚や婿養子は旧民法下の家制度

の中では重要な役割を負っていたものであるが、制度としては現行法制下には存在し

ない。しかしそれらの言葉と発想が、今もなお根強く国民の間に残っていることは否

めない。 同様に大きなものが、「戸籍筆頭者即ち家長」という誤解である。前述のとおり、

戸籍筆頭者とは建前上は単なる見出しに過ぎないものであるのだが、改氏をしなかっ

た配偶者が戸籍筆頭者になるという制度から、戸籍筆頭者という語が、同籍者の代表

者、つまり家長のようなものを示す語として理解されていることが少なくない。 また、「家を継ぐ」という発想も根強い。これは核家族化、少子化の波の中での親

子関係への不安の現れではないかと考えられるが、家といっても必ずしも旧家制度に

みる概念的な「家(氏)」の継承ばかりではなく、物質的な「家」つまり家屋敷その

他財産の相続をも同時に示している傾向が強いようではある。いずれにしろ、婚姻し

ようとする本人の意思を外的に規制しようとする点では大差はない。 以上の考えつくままに三点を挙げたが、これだけ見ても、家意識が新憲法施行から

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半世紀を経た現在に至っても、老若男女を問わず国民の中に息づいていることが分か

る。こういった意識が、夫婦が氏を異にするということへの理解を妨げ、夫婦別氏を

制度として導入することへの障害の一つとなっているようである。

第三章 夫婦の氏に関する両意見

一節 夫婦別姓反対派

夫婦別姓は伝統的な社会秩序を破壊するとして反対の声も根強い。おもな反対派の

意見は、 ① 姓は古来から血縁集団の表象ないし血縁関係の表示であり、夫婦別姓は、家族制

度や婚姻制度などの社会秩序を破壊する。 ② 姓は家族という社会で最小単位の団体の名称で、夫婦同姓は夫婦をつなぎとめる

意識のきずなである。 ③ 姓はファミリーネームなのだから、同じ家族の中で氏が違うのはおかしい。 ④ 職場での旧姓使用と夫婦別姓は、別の問題である。職場で旧姓使用に不利な状況

があるなら、通称使用を制度化して、その不便・不利益を解消すればよい。 ⑤ 「ライフスタイルについての自己決定権」は、「個人」の「自由」と引き換えに社

会に無規範と無秩序をもたらす発想である。 です。これら6つの意見のなかでも、夫婦別姓でいつも問題となるのは子どもの姓で

ある。内閣府の調査でも、夫婦の名字(姓)が違うと,夫婦の間の子どもに何か影響

が出てくると思うか聞いたところ,「子どもにとって好ましくない影響があると思う」

と答えた者の割合が 66.0%,「子どもに影響はないと思う」と答えた者の割合が 26.8%となっている。

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親子で姓が違うと、姓が異なる家族は不正常で、なにか特別な事情のある親子だと

いう社会通念や、子どもが有形無形の差別やイジメの対象になるのはかわいそうだと

いう気持ちがあるため、夫婦別姓に強く反対しているのである。

二節 夫婦別姓賛成派 氏には、「個人の同一性判別のための呼称ないし記号」という側面があると同時に、

長期間の使用によって社会に対する自己の表現としての働きが生じるので、「人格的

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利益・財産的利益・社会的利益」としての側面があると考えられるが、改氏を強制

する制度によって改氏配偶者にあっては、何らかの利益が侵害される可能性があり、

よって、不便を強いられることになり得るのである。婚姻による改氏の不利益を要約

すると、6つ挙げることができる。

①自分が自分でなくなったような自己喪失感・違和感が生じる。

②女性側がほとんど改姓している現状では、夫と妻のあいだの不平等感がつきまとう。

③その人としての社会的実績・信用の断絶。

④改姓にともなう手続きの煩雑さ。(主に、運転免許・旅券・印鑑証明などの公文書、

また、日常生活・職業活動にかかわる身分証明や契約上の書類など諸々の私文書の

氏名の変更)。

⑤結婚・離婚・再婚などのプライバシーの公表を否応なく強制される。

⑥夫の「家」に吸収される感じがする。

などが挙げられる。①②⑤⑥は人格的利益の侵害であると理解出来る。これらは一見、

感覚的で、そもそも利益などとは言えないようなものに対する不満に過ぎないように

も受け取れるが、それぞれ、自己の人格的発展・幸福追求に不可欠な部分を侵害され

ていると感じ取った結果の主張であることから、むしろ、より重大な人権問題として

論じられるのが筋であろうと考える。また、③は氏の財産的利益の侵害と見ることが

出来る。様々な職業において、氏名が信用の表象であることは論ずるまでもあるまい。

このような不利益が改氏することにより、起こる可能性がでてくるのである。そこ

で賛成派のおもな意見は、

① 結婚によりどちらかが改正するのは、夫または妻のどちらかが、譲歩するわけで、

男女平等に反する。

② どちらかが改正するのは、氏名権の侵害である。

③ 改正は個人のアイデンティティ(自己同一性)の一つの証を放棄することになり、

自己喪失感をもたらす。

④ 改姓すると仕事に支障が生じたり、社会的信用や学問的実績が断絶される。

⑤ 結婚して夫の姓になると嫁扱いされるなど、「家制度」を温存することになる。

⑥ 自分の生き方についての基本的な問題は、自己の決定にまかすべきである。(ライ

フスタイルについての自己決定権)

⑦ 多様な結婚のあり方を認め、希望する夫婦には別姓という選択の幅を広げるべき

である。

です。

内閣府調査の仕事と婚姻による名字(姓)の変更を見ても、現在の法律では,婚姻

によって,夫婦のどちらかが必ず名字(姓)を変えなければならないことになってい

るが,婚姻前から仕事をしていた人が,婚姻によって名字(姓)を変えると,仕事の

上で何らかの不便を生ずることがあると思うか聞いたところでは、「何らかの不便を

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生ずることがあると思う」と答えた者の割合が 41.9%,「何らの不便も生じないと

思う」と答えた者の割合が 52.9%となっている。しかし、性別に見ると,「何らかの

不便を生ずることがあると思う」と答えた者の割合は女性で高く、性・年齢別に見る

と,「何らかの不便を生ずることがあると思う」と答えた者の割合は女性の 20 歳代

から 40 歳代の働きざかりで高くなっていることがわかる。

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次に、「何らかの不便を生ずることがあると思う」と答えた者(1,454 人)に、婚姻

前から仕事をしていた人が,婚姻によって名字(姓)を変えると,仕事の上で何らか

の不便が生ずることがあるとして,そのことについて,どのように思うか聞いたとこ

ろ,「婚姻をする以上,仕事の上で何らかの不便が生ずるのは仕方がない」と答えた

者の割合が 25.7%,「婚姻をしても,仕事の上で不便を生じないようにした方がよい」

と答えた者の割合が 56.7%,「どちらともいえない」と答えた者の割合が 16.9%とな

っている。

このように夫婦別姓にすることを強く望む声が多いのは、女性たちの高い水準での進

学率・就労率の向上や、一人っ子同士の結婚が増えてきたことから母方の姓が絶える

とか、墓の継承が問題となるなどの、現代社会の問題からも生じてきているのである。

10

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第四章 おわりに 一節 夫婦別姓制度をめぐる現在までの流れ 夫婦別姓制度をめぐっては、一九九六年の法制審議会で、希望すれば結婚前の旧姓

を名乗ることができるなどとした「選択的夫婦別姓制度」の導入を答申したが、自民

党内の強い異論から、政府は法制化を断念。民主党など野党が夫婦別姓を盛り込んだ

民法改正案を何度か提出したが、本格的な審議は行われていない。 その背景には、賛否両論に分かれる国民世論がある。 画一的な価値観にとらわれず、多様な生き方を求める若い世代を中心とした賛成派と、

別姓を導入すれば家族のきずなが崩れると考える反対派に分かれているのが実情。し

かも、政権を握る自民党の支持層に、保守的な家族観に基づく反対派が多いのである。 今年、2005年3月30日民主、共産、社民の野党3党は30日、選択的夫婦別

姓制度を導入するための民法改正案を共同で参院に提出した。 野党共同による同趣旨の法案提出は、99年12月以降で衆参両院合わせて11回

目。自民党内に慎重論が根強く審議入りの見通しは厳しいが、与党側に協議を呼びか

ける方針だ。 改正案は、希望した夫婦はそれぞれ結婚前の姓を名乗ることができることを定めた

ほか、再婚禁止期間を100日に短縮することや非嫡出子に嫡出子と同じ相続権を与

えることなどが柱。ただ、過去10回の法案提出のうち審議入りしたのは2回だけで

ある。これが現在の現状である。

第二節 夫婦別姓を支援する市民活動の動き 夫婦別姓を支援する市民活動として、夫婦別姓選択性実現協議会では、与党女性政

策提言協議会の選択的夫婦別姓プロジェクトチームの初代座長を務められたり、マス

コミでも積極的に夫婦別姓制度の必要性をアピールされ、ここ数年、与党内で最も熱

心に夫婦別姓の問題に取り組んでこられた自民党の野田聖子議員を顧問にお迎えし

て発足し活動しています。それゆえ野田聖子議員を草の根で支援することを通じて自

民党内に夫婦別姓の法制化に対する理解の輪を広げ、夫婦別姓選択制を実現してもら

おうと活動中です。 具体的には、2003 年 6 月 30 日から 2004 年 9 月 27日まで毎日新聞インタラクテ

ィブのウエブサイトにおける「Women interactive カモミール」の「女性 NGO」の

欄に夫婦別姓制度を実現するために連載記事を掲載していました。また全国司法書士

女性会とともに 2004 年 12 月 7 日に院内集会を開催し、小泉純一郎自民党総裁に公

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開質問状を提出した。現在は、その回答を待っている段階です。

第三節 自分の見解 いま、男性と女性が、これまで以上によりよく力を合わせて社会を築いていこうと

いう時代の流れになっている。そうした時に、現在の強制的な夫婦同姓が重い足かせ

になる場合があるのは事実だ。これまで何度もいわれてきたように、長男長女同士の

結婚、働く女性の改姓による不利益など、当事者には深刻である。法は、できるだけ

不公平感を取り除くよう変えられるべきである。そして、何事もタブー視せず、まず

国会という開かれた場で議論し世論にこたえていくのが、政治の使命ではないのか。

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参考文献

1 著書 二宮周平 『夫婦別姓への招待』(有斐閣、1993) 2 著書 二宮周平 『家族法改正を考える』(日本評論社、1993) 3 『資料 政・経 2003』(東京学習出版社、2003) 4 東京新聞 2000年12月11日 朝刊 5 朝日新聞 2005年3月31日 朝刊 6 内閣府夫婦別姓に関する世論調査 2001年5月 http://www8.cao.go.jp/survey/h13/fuufu/index.html

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