寒地ts i 研究開発の足跡 ~加治屋安彦さんを偲んで~ ·...

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寒地 ITS 研究開発の足跡 ~加治屋安彦さんを偲んで~ Trails for Cold Region ITS Research and Development – In Memory of Dr. Yasuhiko Kajiya 松沢 勝,松田泰明 Masaru Matsuzawa and Yasuaki Matsuda (独)土木研究所寒地土木研究所 雪氷チーム Snow and Ice Research Team, Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI (独)土木研究所寒地土木研究所 地域景観ユニット Scenic Landscape Research Unit, Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI 1.はじめに 平成 21 年 8 月 24 日,寒地土木研究所特別研究監・地域 景観ユニットリーダーの加治屋安彦博士は,52 年の生涯を 閉じた.加治屋さんは,平成 7 年 5 月に北海開発局開発 土木研究所防災雪氷研究室室長(当時)に就任して以降 13 年以上に亘り寒地 ITS の研究に携わってきた.ここでは, 加治屋さんが長年に亘って,牽引してきた寒地 ITS の研究 開発を振り返りたい. 2.寒地 ITS 研究開発の足跡 2.1 平成 7 年度以前 (1) ITS/Win 研究計画 「ITS/Win 研究計画」は,加治屋さんが平成 7 年頃に, 自ら示した最初の寒地 ITS 構想である 1) .この ITS/Win 研 究計画では,積雪寒冷地の,特に冬期交通の安全性向上や 災害時対応等の観点から,ITS 技術の研究開発に取り組む こととしている.ITS/Win 研究計画は,3 つのカテゴリーか ら構成される. インテリジェント・ウィンター・ハイウェー・システム (IWHS: Intelligent Winter Highway System)は,路の 付属施設のインテリジェント化を通じて直接的に危険を回 するコンセプトのもので,以下の 9 つの研究開発推 テーマから成っている. ①インテリジェント・デリニェータの開発 ②多機能チューブライト・システムの開発 ③冬期転状況警告システムの開発 ④周辺車両検知・衝突防止システムの開発 ⑤交通量常時観測システムのネットワーク対応化 ⑥路気象観測所のネットワーク対応化 ⑦ITV カメラのネットワーク対応化 ⑧インテリジェント防雪柵の開発 ⑨路情報車の開発 次世代冬期路情報システム(WHITE21;Winter Highway Information system for Traffic safety and Efficiency of the 21st century)は,路情報システムの高度化を通じ て路利用者が危険な目にう機会を減らし間接的に事故 を抑止するコンセプトのもので,以下の 4 つの研究開発推 テーマから成っている. ①インターネットを活用した路情報提供 ②峠情報電話・FAX リクエストシステム ③路気象情報システムの高度化 ④除雪情報システムの開発. 総合的な路防災情報システムは,一刻を争う災害を瞬 時にドライバーに伝え,災害に巻き込まれて事故にうこ とを未然に防止するコンセプトのもので,次の 4 つの研究 開発推テーマから成っている. ①路被災センサーの開発 ②路気象情報システムの防災対応化 ③路情報板のインテリジェント化 ④越波監視システムの開発. なお,ITS/Win 研究計画以前から,インテリジェント・ デリネータ,越波監視システム等の開発が行われていた. (2) インテリジェント・デリネータ 平成 4 年 3 月,吹雪の中,央で 186 台を巻き込む多 重衝突事故が発生した.この様な事故を防ぐため,平成 5 年よりインテリジェント・デリネータの開発に取り組んだ. インテリジェント・デリネータは,自発光デリニェータに 視程計と停止車両検知用レーダを組み込み,吹雪時に,事 故や転困難で停止した車両が出た場合にはこれを自動的 に検知して後続車に警報を発するシステムである 2) .この システムは江別市や豊富町において実実験も行った(図 -1). 25回寒地技術シンポジウム(200911242526日) CTC09-II-016 327

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Page 1: 寒地TS I 研究開発の足跡 ~加治屋安彦さんを偲んで~ · 2.寒地ITS研究開発の足跡 2.1 平成7年度以前 (1) ITS/Win研究計画 「ITS/Win研究計画」は,加治屋さんが平成7年頃に,

寒地 ITS研究開発の足跡 ~加治屋安彦さんを偲んで~

Trails for Cold Region ITS Research and Development – In Memory of Dr. Yasuhiko Kajiya

松沢 勝,松田泰明

Masaru Matsuzawa and Yasuaki Matsuda

(独)土木研究所寒地土木研究所 雪氷チーム

Snow and Ice Research Team, Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI

(独)土木研究所寒地土木研究所 地域景観ユニット

Scenic Landscape Research Unit, Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI

1.はじめに

平成21年 8月24日,寒地土木研究所特別研究監・地域

景観ユニットリーダーの加治屋安彦博士は,52年の生涯を

閉じた.加治屋さんは,平成7年5月に北海道開発局開発

土木研究所防災雪氷研究室室長(当時)に就任して以降 13

年以上に亘り寒地ITSの研究に携わってきた.ここでは,

加治屋さんが長年に亘って,牽引してきた寒地ITSの研究

開発を振り返りたい.

2.寒地ITS研究開発の足跡

2.1 平成7年度以前

(1) ITS/Win研究計画

「ITS/Win 研究計画」は,加治屋さんが平成 7 年頃に,

自ら示した最初の寒地ITS 構想である 1).このITS/Win 研

究計画では,積雪寒冷地の,特に冬期交通の安全性向上や

災害時対応等の観点から,ITS 技術の研究開発に取り組む

こととしている.ITS/Win研究計画は,3つのカテゴリーか

ら構成される.

インテリジェント・ウィンター・ハイウェー・システム

(IWHS: Intelligent Winter Highway System)は,道路の

付属施設のインテリジェント化を通じて直接的に危険を回

避するコンセプトのもので,以下の 9 つの研究開発推進

テーマから成っている.

①インテリジェント・デリニェータの開発

②多機能チューブライト・システムの開発

③冬期運転状況警告システムの開発

④周辺車両検知・衝突防止システムの開発

⑤交通量常時観測システムのネットワーク対応化

⑥道路気象観測所のネットワーク対応化

⑦ITVカメラのネットワーク対応化

⑧インテリジェント防雪柵の開発

⑨道路情報車の開発

次世代冬期道路情報システム(WHITE21;Winter Highway

Information system for Traffic safety and Efficiency of

the 21st century)は,道路情報システムの高度化を通じ

て道路利用者が危険な目に遭う機会を減らし間接的に事故

を抑止するコンセプトのもので,以下の4つの研究開発推

進テーマから成っている.

①インターネットを活用した道路情報提供

②峠情報電話・FAXリクエストシステム

③道路気象情報システムの高度化

④除雪情報システムの開発.

総合的な道路防災情報システムは,一刻を争う災害を瞬

時にドライバーに伝え,災害に巻き込まれて事故に遭うこ

とを未然に防止するコンセプトのもので,次の4つの研究

開発推進テーマから成っている.

①道路被災センサーの開発

②道路気象情報システムの防災対応化

③道路情報板のインテリジェント化

④越波監視システムの開発.

なお,ITS/Win 研究計画以前から,インテリジェント・

デリネータ,越波監視システム等の開発が行われていた.

(2) インテリジェント・デリネータ

平成4年3月,吹雪の中,道央道で186台を巻き込む多

重衝突事故が発生した.この様な事故を防ぐため,平成 5

年よりインテリジェント・デリネータの開発に取り組んだ.

インテリジェント・デリネータは,自発光デリニェータに

視程計と停止車両検知用レーダを組み込み,吹雪時に,事

故や運転困難で停止した車両が出た場合にはこれを自動的

に検知して後続車に警報を発するシステムである 2).この

システムは江別市や豊富町において実道実験も行った(図

-1).

第25回寒地技術シンポジウム(2009年11月24・25・26日) CTC09-II-016

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Page 2: 寒地TS I 研究開発の足跡 ~加治屋安彦さんを偲んで~ · 2.寒地ITS研究開発の足跡 2.1 平成7年度以前 (1) ITS/Win研究計画 「ITS/Win研究計画」は,加治屋さんが平成7年頃に,

図-1 一般国道40号豊富町開源での実験

2.2 平成8~ 11年度頃まで

平成8年7月に,当時の関係5省庁によるITS全体構想

が発表された.そしてこの頃より,加治屋さんの指導の下

で,本格的に寒地ITSに関するプロジェクトが推進された.

加治屋さん自身、様々な印刷物に「防災雪氷(ITS 担当)研

究室」「加治屋安彦&ITS/Win 研究グループ」と記してお

り、ITSに取り組む強い意気込みを感じる。

(1) 北海道における ITS 開発推進のフレームワークスタ

ディ 3)

平成8年度に,北海道におけるITS推進懇談会(座長:

北海道大学中辻助教授)を立ち上げた.この懇談会では北

海道におけるITS技術開発推進のためのフレームワーク

を取りまとめた.フレームワークの検討においては,国内

外の ITS・冬期道路の専門家を対象に2回にわたって行っ

たアンケートや,交通工学や自動車工学,通信・放送,イ

ンターネット分野の専門家から成る地域推進懇談会の議論

にもとづき,長期的視点から北海道のITSの基本的な推

進方向を明らかにした.その中で,北海道が取り組むべき

ITSのキーワード抽出を行った.この結果,安全・安心

とくらし・活力という2つの視点から,ふゆ・交通事故・

防災・北海道ライフ・環境・地域の活力&新しい産業とい

う6つのキーワードが抽出された.なお,北海道ライフと

は,「北海道の気候や風土に適した北海道らしい生活文化

を創造」し,「四季を通じてすべての人が生き生きとした

生活を送る地域生活を実現する」ことを意味する.そして,

最終報告書「北海道におけるITS技術開発推進のフレーム

ワークスタディ 報告書」には,さらに,これら6つのキー

ワードに基づいた以下の6シーンにおける将来イメージが

記されているが,10年以上たった現在でも新鮮さを失って

いない(図-2).

・豪雪の朝の都市の混乱

・吹雪時の安全走行支援

・緊急災害時の的確な情報提供

・運転中の急病時の緊急通報

・環境の保全と地域交流拠点としての道の駅

・新しい産業の創出とライフスタイル(図-2下)

図-2 ITSで実現する北海道の将来(6つのキーワー

ドと場面イメージ)

(2) 寒地ITS研究会と地域ITS構想 4)

北海道におけるITS推進懇談会で策定した将来イメージ

の具体化を図るため,平成 9 年度から寒地ITS研究会を立

ち上げた.寒地ITS研究会では,有識者などで構成される研

究会の「コアメンバー」のほかに,インターネット上で意見

を述べる「ネットメンバー」で構成される.

平成9年度に立ち上げた寒地ITS研究会(第1期)では,

「北海道における地域ITS構想」として,1)道北圏ブリザー

ドネット構想,2)ニュー・カントリーロード構想,3)ソー

ランITS構想,4)札幌圏ITS構想(図-3),5)北の道ネッ

ト構想の5つの構想を示した.そして,それぞれの構想に

基づく以下のようなフィールド実験を提案した(図-4).

� 高度情報化による冬期道路管理の効率化・円滑化

(道路管理情報の詳細情報の動的収集,インター

ネット技術を活用した関係機関の情報共有,雪氷対

策の高度化)

� マルチメディアの活用による冬期交通の確保・交通

需要管理(インターネット,各種放送メディア,移

動体通信等による情報提供による交通行動支援)

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� 冬期の安全走行支援(凍結路面の検知による情報提

供・凍結対策高度化,吹雪時の視線誘導や前方障害

物検知・情報提供)

� 速度超過型事故の防止(事故多発地点の情報提供や

速度超過の警告)

� 豪雪・地震・津波の防災(インターネット技術を活

用した地域防災システムによる災害情報の提供と

復旧作業の迅速・効率化)

� 越波・斜面崩落・トンネル災害等の防災(高度通信

技術を応用した災害監視・検知システムと情報提供,

復旧作業支援)

� 高齢者等の歩行・運転支援(歩道除雪状況を含む冬

期のバリアフリー情報提供,走行時の視認性補助・

線形情報提供等)

� 緊急通報・医療情報提供(事故発生時の救急救命機

関への自動通報,走行時の医療機関情報の提供)

� 野生動物の保護(野生動物の出没検知と注意喚起情

報の提供)

� 北海道の道路・地域情報ネットワーク(道路災害情

報の開発部間の共有,道の駅の情報ネットワーク化

による道路・地域情報提供)

また,平成11~12年度の第2期の寒地ITS研究会では,寒

地ITSの評価手法についてとりまとめた.

図-4 地域ITS構想とフィールド実験

図-3 札幌圏ITS構想

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(3)民間21社との公募共同研究

平成7,8年度から10年度にかけて,開発土木研究所(当

時)は,次のテーマで民間21社と共同研究を実施した 5).

a)インテリジェントITVカメラの開発に関する研究

平成7~10年度に実施.冬期条件下での障害事象の検出

と電子メール・WWWによる事象伝達に関する研究を行った.

b)インターネット技術を活用した道路情報システムの開発

に関する研究,

平成 8~10 年度に実施.イントラネットで,ITV 画像,

交通量,情報板,落石検知,気象情報・管理情報・道の駅

情報などの道路情報の統合に関する研究を行った.後述の

RWML(Road Web Markup Language)についても,この

共同研究の中で検討されていた.

c)冬期道路の安全走行支援システムの開発に関する研究

平成8~10年度に実施.吹雪時の停止車両検知に関する

ミリ波レーダなどセンサー技術の開発(図-5)と,道路

情報板や自発光施設とヒューマン・ファクターに関する研

究を行った.

図-5 複合センサーの実験状況

(4) 峠画像の伝送実験

インターネットを通じて北海道内の主要3峠の道路監視

画像を提供するシステムを開発し,平成8/9年冬期に,全

国に先駆けてバス会社などモニター限定で道路利用者に提

供する実験を実施した 6).さらに平成9/10年冬期は平日の

日中のみ,一般の道路利用者に公開した.(図-6)

図-6 峠画像の伝送実験(平成9/10年度版)

(5)札幌圏ホワイトネット実験 7)

平成8年1月の札幌圏の豪雪災害では,関連機関の連携

が不十分だったことが反省点として残った.そこで,イン

ターネット技術を活用し,公的機関の情報共有化を通じて

災害に強い都市を目指すホワイトネット構想を提案した

(図-7).平成12年度の冬は,図-8に示すように,国,

道,札幌市,日本道路公団の道路気象情報を共有した.

図-7 ホワイトネット構想

図-8 ホワイトネットシステムの概要

(6) RWML(Road Web Markup Language)

HTMLが文章の表現,レイアウトのみをサポートするのに

対して,XML は論理構造までサポートすることができる.

これまでは単なる「文字」としてコンピューターが認識し

ていたものを,意味を持った「データ」として扱うことが

可能となり,インターネット上に XMLによって分散して配

置された情報を,あたかも巨大なデータベースとして取り

扱うことが可能となる.加治屋さんは,いち早くXMLに着

目し,後述する公募共同研究において,道路関連情報のXML

について検討を行い,平成 11 年 10 月 20 日に RWML0.71

として公表した.この成果は世界的にも注目された 8).

RWMLは,ニセコ・羊蹄e街道実験や,スマート札幌ゆき情

報実験2002 などで,試験活用され,現在では,北海道地域道路情

報提供に利用されている.

写真

ミリ波レーダIRカメラ

可視カメラ

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(7)北の道ナビ

道路利用者向けの,北海道の道路情報のポータルサイト

で,平成11年 7月9日に開設した(図-9)9).距離と時

間検索,北の道再発見,外国語対応,素敵な北の道など,

様々な道路関連情報を提供し,現在も,利用者の支持を受

けている.

図-9 北の道ナビ(開設当時)

2.3 平成12年度以降

平成14年1月にPIARC世界冬期道路会議が札幌で開催さ

れた.これに向けて,寒地ITSのプロジェクトは加速され

た.

(1)移動中の高度情報通信社会流通情報の利用技術に関す

る研究

平成 12 年度~14 年度に民間と実施した公募共同研究で

ある.この研究では,「ニセコ・羊蹄・洞爺e街道実験」10)や「スマート札幌ゆき情報実験」11)を実施した.

平成 12 年頃は,携帯電話は既に広く普及し,インター

ネットに接続可能なカーナビなどのモバイル・マルチメ

ディアも普及・高度化が進められており,時間や場所を選

ばずインターネットへ接続し,様々な情報を得ることが可

能となりつつあった.「ニセコ・羊蹄・洞爺e街道実験」

は,旅行者の携帯電話にWeb やメールで観光・気象情報を

道路情報と共に提供するドライブ観光支援を意図したもの

である.平成13年夏に「ニセコ・羊蹄e街道実験」として

実施し,翌平成14年にはエリアを拡大して実施した(図-

10).この実験では,道路管理者,気象機関,地域,民間

がそれぞれ RWML に基づきデータを XML 化して各自のデー

タサーバに格納する.移動体情報提供サーバが各データ

サーバから情報を収集し,実験参加モニターの位置や嗜好,

時間に応じて適切に情報をシームレスに編集し,携帯電話

に配信するサービスを提供した.この実験は「ドライブ観

光支援の地域ITS実験」を謳っており,この頃より,加治

屋さんは観光や景観に傾倒していった.

図-10 ニセコ・羊蹄・洞爺e街道実験 ポスター

「スマート札幌ゆき情報実験」は,札幌圏ホワイトネッ

ト実験プロジェクトの中で,既に,マイカー通勤者モニター

実験として,実施していたものを発展させたものである.

「スマート札幌ゆき情報実験」は平成13/14 年冬期と平成

14/15年冬期にかけて実施し,メールとweb で,通勤・通

学する人などに希望するエリア(札幌市内 10 区と周辺の

3 市)の降雪量,気温,路面状態などを夕方と早朝の2回

提供した(図-11).

図-11 スマート札幌ゆき情報実験

(2) 寒冷地AHS(冬期道路の高度情報提供システム)

開発土木研究所(当時)が民間企業と冬期道路の安全走行

●●●●非常非常非常非常にににに滑滑滑滑りやすいりやすいりやすいりやすい路面路面路面路面

●●●●大雪大雪大雪大雪((((雪堤雪堤雪堤雪堤でででで狭狭狭狭いいいい幅員幅員幅員幅員))))

走行安全性走行安全性走行安全性走行安全性のののの低下低下低下低下

交通渋滞交通渋滞交通渋滞交通渋滞

交通需要交通需要交通需要交通需要マネジメントマネジメントマネジメントマネジメント((((TDM))))

時差出勤時差出勤時差出勤時差出勤

公共交通利用促進公共交通利用促進公共交通利用促進公共交通利用促進

道路交通道路交通道路交通道路交通のののの分散分散分散分散

XML技術技術技術技術をををを使使使使ったったったったパーソナライズパーソナライズパーソナライズパーソナライズ情報提供情報提供情報提供情報提供

インターネットインターネットインターネットインターネット対応対応対応対応のののの携帯電話携帯電話携帯電話携帯電話

・・・・気象情報気象情報気象情報気象情報・・・・路面情報路面情報路面情報路面情報

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支援システムの研究開発を進めていた頃,当時の建設省は,

戦略的に走行支援道路システム(AHS: Advanced

Cruise-Assist Highway Systems)の開発を進めていた.

両者は,平成12~14年に「冬期道路における走行支援に

関する研究」を行い,道路センサーなど,センシング技術

については建設省土木研究所(その後,国土技術政策総合

研究所)が担当し,開発土木研究所は吹雪時の注意喚起手

法に関する研究を担当した 12).

寒冷地AHSは,インテリジェント・デリネータの延長線

上にあり,吹雪時に前方の停止車の存在を自発光デリネー

タなどにより注意喚起するもので,平成14年1月のPIARC

国際冬期道路会議でのテクニカルビジットとして,石狩吹

雪実験場でデモンストレーションを行った.

寒冷地AHSは,その後,冬期道路の高度情報提供システ

ムの路側情報提供システムと名を変えて,国道337号当別

で実道実験を実施した.

(3) しりべしe街道実験

しりべしe街道実験は,道路管理者と地域の方々から収

集した道路・気象情報を組み合わせて,インターネットで

提供することで,安全・快適な道路環境を支援することを

目的に,平成15年度より後志支庁管内で実施した 13).

北海道開発土木研究所(当時),北海道道路管理技術セ

ンター,日本気象協会,小樽開発建設部が主体となり,後

志観光連盟や,情報提供ボランティア(コンビニエンスス

トア・ガソリンスタンド・建設業者など)の協力で実施した.

平成17年度実験では情報提供ボランティアとして, 40団

体が参加し,冬期の天候や冬道の情報がアップされサイト

上で共有された.(図-12)

図-12 しりべしe街道の概要

3.おわりに

加治屋さんが取り組んできた研究は寒地ITSにとどまら

ず,ここで語り尽くすのは容易ではない.現在、加治屋さ

んが直接手がけたRWMLや「北の道ナビ」は,実用化さ

れている.また,初期の構想であるITS/Win研究計画や,

地域ITS構想・フィールド実験を見てみると,近年,他者

によって実現化したものも多くあり,加治屋さんの先見性

を再認識する次第である.そして,地球温暖化や少子高齢

化など多くの課題に直面している現在,優れた先見性を

持った加治屋さんを失ったことが,どんなに大きな損失か

深く感じる次第である.

最後に,加治屋さんの長年の労に感謝すると共に,ご冥

福をお祈りします.

参考文献

1)加治屋他:冬期交通のためのITS技術の研究開発と

そのインパクト-北海道開発局におけるITS/Win研究

計画-,寒地技術論文報告集, 12, 384-391,1996.

2)加治屋・福沢:インテリジェント・デリニェータ・システ

ムの開発について,土木学会北海道支部論文報告集,53,

536-541, 1996.

3)北海道開発局開発土木研究所: 北海道におけるITS技術

開発推進のフレームワークスタディ報告書,平成9年3月.

http://www2.ceri.go.jp/jpn/bousai/pdf/its-frame.pdf

4)加治屋他:北海道における地域ITS構想-寒地ITS

研究会の議論から-, 寒地技術論文報告集, 14, 522-529,

1998.

5)防災雪氷研究室:寒地型 ITS に関する公募共同研究成果

報告会の開催報告,開発土木研究所月報,556,62-63,1999.

6)千葉他:インターネットを活用した道路情報提供に関す

る研究-96/97冬期の峠画像伝送実験報告-,開発土

木研究所月報,534,29-35, 1997.

7)金田他:道路管理者間の冬期道路管理情報共有システム

(ホワイトネット) , 寒地技術論文報告集, 17, 183-190,

2001.

8)加治屋他:道路用 Web 記述言語RWML-ITS アプリケー

ション開発のためのXML-, 寒地技術論文報告集, 17,

167-174, 2001.

9)加治屋他:インターネット道路情報システム「北の道ナ

ビ」と地域活性化,寒地技術論文報告集, 15, 646-651, 1999.

10)山際他: ニセコ・羊蹄・洞爺e街道-ドライブ観光支

援の地域ITS実験-,北海道開発土木研究所月報,608,

18-24, 2004.

11)加治屋他: 雪情報が市民の交通行動に与える影響につ

いて-スマート札幌ゆき情報実験2001-,寒地技術論文報

告集, 17, 646-651, 2001.

12)金子他:寒冷地AHS のユーザ受容性に関する基礎検討

(その1)-ビデオ,CG を用いた被験者実験-寒地技術論

文報告集, 16, 341-346, 2000.

13)松島他:しりべしe街道~冬期道路情報の収集・提供に

おける官民連携~,寒地土木研究所月報, 642,30-38, 2006.

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