p-81 導電性高分子のポーラロンの発生と 磁気的性 …...polarons (radical cations)...

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S S S S S OH S S S S S R S S S S S R Polarons (radical cations) Doping Benzenoid Quinoid Iodine e R : OH ポリアセチレンのような共役系高分子が導電性をもつこ とが発見されてから、そのような導電性高分子は様々な分 野で使用され、さらなる研究が進んでいる。ここで、共役 系高分子が導電性を示すためには、ヨウ素やナトリウムを ドーピングすることが一つの方法として挙げられている。ド ーピングを施すことでラジカルカチオンが生じた状態のこ とをポーラロンと呼び、さらにドーピングを続けることでバイ ポーラロンとなる。これが、共役系高分子の導電性の向上 の過程である。 本研究では、共役系高分子にヨウ素をドーピングするこ とで電子状態がどのように変化するのかについて、ポーラ ロンの概念を用いて理解したうえで、その際の磁気的な性 質の変化について考察する。 今回用いた共役系高分子は、以下のFig. 1 にある構造 である。 Fig.1 共役系高分子の構造式 1.ヨウ素のドーピングによるポーラロンの発生 ・ESR測定 サンプルにヨウ素をドーピングしESR測定を行うことで、 π共役系主鎖間の荷電種の発生の様子について観察し た。ここで、その詳細な電子状態をFig. 2 に示した。また、 ESR測定によって得られた値からg値・スピン濃度などを計 算した。 ・ESR解析 ESR測定により、ESR強度のピークはドーピング時間130 分までの間は上昇し、以降は一定となった。この、130分ま での強度の上昇が、ポーラロンの発生を表している。また、 g値とスピン濃度のドープ時間変化からも同じように考察す ることが可能であった。 2.コレステリック液晶中での電解重合 コレステリック液晶を含んだサンプル溶液を、ITOガラス を用いて電解重合を行った。その後、ITOガラス上にでき たポリマーフィルムを偏光顕微鏡(POM)で観察したところ、 指紋状構造を確認することができた。これは、コレステリッ ク液晶の分子配列がポリマーに転写したものである。 ポーラロンの発生は、対象となったサンプルが反磁性体 から常磁性体へと変化したことを表している。よって、外部 磁場を印加することで、双極子モーメントが磁場と同方向 を向き、磁化されることがわかった。 また今回のサンプルは、コレステリック液晶中での電解重 合により、コレステリック液晶の分子配列をそのポリマーへ 転写することに成功した。これにより、ポリマー全体が指紋 上構造になっていることが確認され、その光学的な異方 性についての考察が可能となった。 このような磁気的特性や光学的特性をベースにして、テ クノロジーへの応用について議論する。 Fig2. ドーピングによる電子状態の変化 [1] Reina Ohta, Satoshi Ohkawa, Hiromasa Goto, International Journal of Polymeric Materials (UK),61, 395-409 (2012). 代表発表者 問合せ先 3 0 5 - 8 5 7 1 1 1 1 T E L 0 2 9 - 8 5 3 - 5 2 7 8 F A X 0 2 9 - 8 5 3 - 4 4 9 0 (1)導電性高分子 (2)ポーラロン (3)磁性 秦 志勇 後藤 博正 P-81 83

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Page 1: P-81 導電性高分子のポーラロンの発生と 磁気的性 …...Polarons (radical cations) Doping Benzenoid Quinoid Iodine e R : OH はじめに ポリアセチレンのような共役系高分子が導電性をもつこ

SSSSS

OH

SSSSS

R

SSSSS

R

Polarons (radical cations)

Doping

Benzenoid

Quinoid

Iodinee

R :OH

■ はじめに ポリアセチレンのような共役系高分子が導電性をもつこ

とが発見されてから、そのような導電性高分子は様々な分野で使用され、さらなる研究が進んでいる。ここで、共役系高分子が導電性を示すためには、ヨウ素やナトリウムをドーピングすることが一つの方法として挙げられている。ドーピングを施すことでラジカルカチオンが生じた状態のことをポーラロンと呼び、さらにドーピングを続けることでバイポーラロンとなる。これが、共役系高分子の導電性の向上の過程である。

本研究では、共役系高分子にヨウ素をドーピングすることで電子状態がどのように変化するのかについて、ポーラロンの概念を用いて理解したうえで、その際の磁気的な性質の変化について考察する。

■ 実験・結果 今回用いた共役系高分子は、以下のFig. 1 にある構造である。

Fig.1 共役系高分子の構造式 1.ヨウ素のドーピングによるポーラロンの発生 ・ESR測定

サンプルにヨウ素をドーピングしESR測定を行うことで、π共役系主鎖間の荷電種の発生の様子について観察した。ここで、その詳細な電子状態をFig. 2 に示した。また、ESR測定によって得られた値からg値・スピン濃度などを計算した。 ・ESR解析 ESR測定により、ESR強度のピークはドーピング時間130分までの間は上昇し、以降は一定となった。この、130分までの強度の上昇が、ポーラロンの発生を表している。また、g値とスピン濃度のドープ時間変化からも同じように考察することが可能であった。 2.コレステリック液晶中での電解重合 コレステリック液晶を含んだサンプル溶液を、ITOガラス

を用いて電解重合を行った。その後、ITOガラス上にできたポリマーフィルムを偏光顕微鏡(POM)で観察したところ、指紋状構造を確認することができた。これは、コレステリック液晶の分子配列がポリマーに転写したものである。 ■ 考察 ポーラロンの発生は、対象となったサンプルが反磁性体から常磁性体へと変化したことを表している。よって、外部磁場を印加することで、双極子モーメントが磁場と同方向を向き、磁化されることがわかった。 また今回のサンプルは、コレステリック液晶中での電解重合により、コレステリック液晶の分子配列をそのポリマーへ転写することに成功した。これにより、ポリマー全体が指紋上構造になっていることが確認され、その光学的な異方性についての考察が可能となった。 このような磁気的特性や光学的特性をベースにして、テクノロジーへの応用について議論する。

Fig2. ドーピングによる電子状態の変化 ■ 参考文献 [1] Reina Ohta, Satoshi Ohkawa, Hiromasa Goto, International Journal of Polymeric Materials (UK),61, 395-409 (2012).

物質・材料

導電性高分子のポーラロンの発生と 磁気的性質の変化

代表発表者 大瀧 雅士 (おおたき まさし) 所 属 筑波大学理工学群応用理工学類

後藤研究室

問合せ先 〒305-8571 茨城県つくば市天王台 1-1-1

TEL:029-853-5278 FAX:029-853-4490

■キーワード: (1)導電性高分子 (2)ポーラロン (3)磁性 ■共同研究者: 秦 志勇 後藤 博正

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