p001 008 中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移...

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2013.07 金属資源レポート 1 99る。そのクリティカルな度合いに係る指標として中国 の自給率は重要である。 3.各鉱種の自給率変化 中国におけるレアメタルおよびベースメタルの自給 率を鉱石生産量、地金消費量、中国消費量の対世界計 割合とともに以下に示す。今回例示する鉱種は、中国 国内に資源の乏しい鉱種であるクロム・コバルト、中 国国内に資源があるが鉱石生産が金属消費量の拡大に 追いつかない鉱種である銅・ニッケル・鉛・亜鉛、 中国が世界随一の埋蔵量を占め、自給率が 100%を超 え輸出されている鉱種であるタングステン・レアアー ス・モリブデン・バナジウム・錫・アンチモンの計 12 鉱種である。 2.自給率の定義と重要性 本報告において、自給率をある国における鉱石(純 分)生産量を地金消費量で除した値と定義する。言い 換えれば、地金消費量のうち、自国から生産された鉱 石によって賄われる割合である。地金消費量が変化せ ずに鉱石生産量が減少した場合、あるいは鉱石生産量 が変化せずに地金消費量が増加した場合、自給率は低 下する。 中国は金属消費量が大きく、また中国で産出する鉱 種に関しては生産量も大きいため、その需給バランス の変化は世界および日本の金属市場に多大な影響を与 える。我が国にとって中国依存度の高いレアメタルに 関し、中国の自給率低下に伴って必要量を確保できな い事態となれば安定供給上の大きなリスクとなりえ 中国における主要レアメタルの需給と 自給率の推移 上木 隆司 希少金属備蓄部 企画課長 阿部 和彦 希少金属備蓄部 1.はじめに 2000 年代における中国経済の成長は著しく、GDP は 1 兆 1,980 億 US$ (2000 年)から 8 兆 2,270 億 US$ (2012年)に、 1 人当たり GDP は 946US$ (2000 年)から6,076US$ (2012 年)に増加した(図1)。そして、グローバル資本主義経済に おける中国の存在感は年々高まっており、世界の工場として飛躍的な成長を遂げている。レアメタルはじめ金属消費 量もそれに伴って急増してきた。本報告では、中国におけるレアメタル等金属の自給率変化と経済成長の関係をまと める。 なお、本稿は平成 25 年 5 月 30 日に実施した『平成 25 年度第 1 回金属資源関連成果発表会』にて報告した内容を まとめたものである。  9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 (10 億 US$) (US$) (百万人) GDP(10 億 US$) 1人当たり GDP(US$) 人口(百万人) 1,400 1,350 1,300 1,250 1,200 1,150 1,100 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 図 1. 1990 年から 2011 年までの中国の人口および 1人当たり GDP の推移(IMF データを基に作成)

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中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

レポート

2013.07 金属資源レポート 1(99)

る。そのクリティカルな度合いに係る指標として中国の自給率は重要である。

3.各鉱種の自給率変化 中国におけるレアメタルおよびベースメタルの自給率を鉱石生産量、地金消費量、中国消費量の対世界計割合とともに以下に示す。今回例示する鉱種は、中国国内に資源の乏しい鉱種であるクロム・コバルト、中国国内に資源があるが鉱石生産が金属消費量の拡大に追いつかない鉱種である銅・ニッケル・鉛・亜鉛、中国が世界随一の埋蔵量を占め、自給率が 100%を超え輸出されている鉱種であるタングステン・レアアース・モリブデン・バナジウム・錫・アンチモンの計12 鉱種である。

2.自給率の定義と重要性 本報告において、自給率をある国における鉱石(純分)生産量を地金消費量で除した値と定義する。言い換えれば、地金消費量のうち、自国から生産された鉱石によって賄われる割合である。地金消費量が変化せずに鉱石生産量が減少した場合、あるいは鉱石生産量が変化せずに地金消費量が増加した場合、自給率は低下する。 中国は金属消費量が大きく、また中国で産出する鉱種に関しては生産量も大きいため、その需給バランスの変化は世界および日本の金属市場に多大な影響を与える。我が国にとって中国依存度の高いレアメタルに関し、中国の自給率低下に伴って必要量を確保できない事態となれば安定供給上の大きなリスクとなりえ

中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

上木 隆司希少金属備蓄部企画課長阿部 和彦希少金属備蓄部

1.はじめに 2000 年代における中国経済の成長は著しく、GDP は 1 兆 1,980 億 US$(2000 年)から 8 兆 2,270 億 US$(2012 年)に、1 人当たり GDP は 946US$(2000 年)から 6,076US$(2012 年)に増加した(図 1)。そして、グローバル資本主義経済における中国の存在感は年々高まっており、世界の工場として飛躍的な成長を遂げている。レアメタルはじめ金属消費量もそれに伴って急増してきた。本報告では、中国におけるレアメタル等金属の自給率変化と経済成長の関係をまとめる。 なお、本稿は平成 25 年 5 月 30 日に実施した『平成 25 年度第 1 回金属資源関連成果発表会』にて報告した内容をまとめたものである。 

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図 1. 1990 年から 2011 年までの中国の人口および 1人当たりGDPの推移(IMFデータを基に作成)

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レポート

中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

2 2013.07 金属資源レポート(100)

コバルト鉱山 75 のうち中国資本下にあるものが 60 であり、精鉱の 90%が中国向けとされている(Amnesty International, 2013)。

3.1 中国国内に資源の乏しい鉱種〈クロム〉(図 2参照) クロムは主にステンレスや鉄鋼への添加剤として用いられているが、中国におけるステンレスおよび鉄鋼の生産量は著しく増加しているため、クロム消費量もそれに伴って急増している。1990 年代には中国のクロム消費量は世界消費量の 10%未満であったが、2012 年には世界のクロム消費の 50%を占めるに至っている。クロム鉱石は中国国内にほとんど産せず、ここ 15 年でほとんど増産がなかった。そのため、クロム自給率は大幅に低下しており、1998 年には 60%近くあった自給率は 2010 年には 3%となっている。中国は主なクロム生産国である南ア等における権益確保や輸入量増加により対処している。例えば、PGM を産する UG2 鉱床の尾鉱にクロムが高濃度で含まれており、これを中国が大量に輸入している(中山、2012)。

3,500

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Cr 生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)[生産量]Roskill(Cr 鉱石のCr 品位は 32%と仮定)[消費量]特殊金属プロジェクト委員会報告書

(Cr 消費量は中低炭素 FeCr と高炭素 FeCr の消費量の和、Cr 分はそれぞれ 58%、63%と仮定)

地金消費量 鉱石生産量

自給率 中国消費量/世界消費量

1998

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図 2. 中国におけるクロム生産量、消費量、   自給率の推移

〈コバルト〉(図 3参照) コバルトは特殊鋼や合金、二次電池等に用いられ、これらは中国においても製造されているため、近年の消費量増加は著しい。USGS によれば 2011 年における世界のコバルト鉱石生産量は 98,000t であったが、そのうち中国の鉱石生産量は世界生産量のわずか 6%に過ぎない。中国国内において充分に埋蔵せず、消費量増大に応じて鉱石を増産することができないため、輸入鉱に依存しており自給率は低下傾向にある。2011年では中国は世界のコバルト消費量の 4 割以上を占め、自給率は 30%を下回っている。主要なコバルト生産国である DR コンゴは中国にとって重要なコバルト資源供給国となっている。2008 年でカタンガ州の

図 3. 中国におけるコバルト生産量、消費量、自給率、   対世界消費割合の推移

Co 30

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0

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生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

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地金消費量 鉱石生産量

自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)[生産量]2002-2009; Roskill, 2010-2011: USGS MYB[消費量]特殊金属プロジェクト委員会報告書

10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000

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Cu 生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

1990

1992

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1996

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2000

2002

2004

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2012

地金消費量 鉱石生産量

自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)1990-2011: WMS, 2012: Copper Bulletin

図 4. 中国における銅生産量、消費量、自給率、   対世界消費割合の推移

 以上、クロムおよびコバルトは中国国内にほとんど産しないため、中国は自給することができず、海外からの輸入に依存している。

3.2 中国国内に資源があるが鉱石生産が金属消費量の拡大に追いつかない鉱種

〈銅〉(図 4参照) 中国は、チリに次ぐ世界第 2 位の産銅国で、2012年の銅鉱石生産量は 160 万 t(世界計 1,710 万 t の 9.4%)

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中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

レポート

2013.07 金属資源レポート 3(101)

〈亜鉛〉(図 7参照) 亜鉛の自給率変化は鉛の傾向と極めて類似している。中国の亜鉛鉱石生産量は世界第 1 位で 2012 年では 493 万 t(世界計 1,339 万 t の 37%)であった。1990年代には剰余分が日本にも輸出された。2000 年代半ばより亜鉛消費量が増加したものの、亜鉛鉱石生産量はそれを賄うようにして増加していった。自給率は低下を続け、2003 年頃には 100%を切り、2009 年には70%程度まで低下した。2010 年より消費量の伸びが頭打ちとなり、2012 年には消費量は減少に転じた。それに伴って自給率が上昇していることが確認される。

であった。消費量の増大に伴って鉱石生産はわずかに増加傾向にあるが、急激な消費量の増加に生産量が全く追いついておらず、自給率は漸減傾向にある。1990年の時点で自給率は 50%程度であったが、1990 年代を通して緩やかに減少、2000 年代に入ってから自給率低下に拍車がかかり、2012 年には約 25%となっている。残り 75%については海外からの輸入に依存している。

〈ニッケル〉(図 5参照) 中国においてニッケルは比較的賦存量が多く、2012年におけるニッケル鉱石生産量は約 92,800t であり世界第 8 位であった。ニッケルは鉄鋼、合金、メッキ、二次電池等に用いられ、2000 年以降ニッケル地金消費量が急増した。鉱石生産量もそれに伴って増加したが、消費量の爆発的増大を補うことはできず、自給率は急激に減少していった。2000 年までは自給率はおおむね 100%であったが、2000 年以降は消費量の爆発的増加により自給率が急激に低下し、輸出国から輸入国へ転換した。2012 年には自給率は 20%を切り、消費量の 80%以上を輸入にたよっている。

図 5. 中国におけるニッケル生産量、消費量、自給率、   対世界消費割合の推移

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Ni 生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

1990

1992

1994

1996

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2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

地金消費量 鉱石生産量

自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)INSG

〈鉛〉(図 6参照) 中国は、世界第 1 位の鉛生産国であり、2012 年における中国の鉛鉱石生産量は 284 万 t(世界計 530 万 tの 54%)であった。1990 年代では主要な輸出品目の 1つであった。2002 年以降に中国の鉛消費量が急増したが、鉱石生産量はそれほど伸びなかったため、自給率が低下していった。2008 年以降では、鉛鉱石生産量の伸び方と比較して鉛消費量の伸びは小さく、2011年と 2012 年では鉛消費量は横ばいとなったため、自給率が上昇するという結果となった。これは、中国経済成長の鈍化を示唆しているようにも見える。

図 6. 中国における鉛生産量、消費量、自給率、   対世界消費割合の推移

5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0

Pb 生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

1990

1992

1994

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1998

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0%

地金消費量 鉱石生産量

自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)WMS

図 7. 中国における亜鉛生産量、消費量、自給率、   対世界消費割合の推移

6,000

5,000

4,000

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2,000

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0

Zn生産量消費量(kt)

自給率中国消費量/世界消費量

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

2012

160%

140%

120%

100%

80%

60%

40%

20%

0%

地金消費量鉱石生産量

自給率中国消費量/世界消費量

(出典)WMS

 以上、銅、ニッケル、鉛、亜鉛の 4 鉱種は中国国内より豊富に産するが、近年における生産量を上回る消費によって自給率は減少傾向にある。

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レポート

中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

4 2013.07 金属資源レポート(102)

中国国内消費量の 5 倍近くが中国にて生産され、世界各国にモリブデンを供給していた。2007 年以降、中国の消費量が急激に増加するが、それでもなお国内生産量を下回っていたため、2005 年頃までは自給率は下落傾向ではあった。2007 年以降は 100~150%で横ばい状態となっている。

3.3 中国が世界随一の埋蔵量を占め、自給率が 100%を超え輸出されている(いた)鉱種

〈タングステン〉(図 8参照) USGS によれば、タングステンの世界の埋蔵量の 6割は中国に賦存し、世界生産量(72,000t)の 8 割以上が中国で生産(60,000t)されている。そのため中国政府はタングステンを戦略鉱物として位置づけ、輸出・生産抑制政策等によって生産統制を行ってきた。2006年までは生産量が消費量を大きく上回り、自給率は300%程度であったため、剰余分は日本をはじめ世界各国へと供給していた。2000 年代半ば以降、消費量が順調に増加する中、生産量が 2007 年に一段減少している。これは政府の生産管理の結果と見られる。2007 年から 2011 年の間では、中国のタングステン自給率は 150%程度で横ばい状態であった。

90

80

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生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

W 500%450%400%350%300%250%200%150%100%50%0%

2002

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2011

地金消費量鉱石生産量

自給率中国消費量/世界消費量

(出典)特殊金属プロジェクト委員会報告書

図 8. 中国におけるタングステン生産量、   消費量、自給率、対世界消費割合の推移

140

120

100

80

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生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

REE 500%

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2005

2006

2007

2008

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2011

地金消費量 鉱石生産量 自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)稀土信息 2013 年 4月号

図 9. 中国におけるレアアース生産量、   消費量、自給率、対世界消費割合の推移

120

100

80

60

40

20

0

生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

Mo 500% 450% 400% 350% 300% 250% 200% 150% 100% 50% 0%

2002

2003

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2012

地金消費量 鉱石生産量 自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)Roskill(2012 年のみCRU)

図 10. 中国におけるモリブデン生産量、   消費量、自給率、対世界消費割合の推移

〈バナジウム〉(図 11参照) USGS によれば、バナジウムは、世界の埋蔵量のうち 36%が中国に賦存しており、特殊鋼への添加剤として需要が拡大している。2000 年代前半では自給率は 200%程度であったが、その後 2004 年以降は 100~150%程度で推移している。バナジウムは、中国以外にも南アやロシア等の生産割合も高く、中国の世界に占める生産割合は 38%程度と比較的低い。

〈レアアース〉(図 9参照) レアアースは、タングステンと同様に、中国にとって重要な戦略物質である。世界のレアアース資源の50%以上は中国に埋蔵し、ジスプロシウム等のハイテク産業上重要な重希土類は中国でほとんど生産されているためである。タングステンと同様に、中国政府は関税や輸出枠、資源税等の税制によって輸出・生産規制を行い、生産管理を行ってきた。2009 年までは生産量が消費量を大きく上回り、自給率は 200%程度であった。しかし、2010 年以降は生産を大幅に引き締め、ほぼ消費量と同程度とし、自給率は 100%付近で推移している。

〈モリブデン〉(図 10参照) USGS によれば、モリブデンは中国の埋蔵量が世界計の 39%とされており、鉄鋼やステンレスへの添加剤として需要が拡大してきた。2000 年代初頭までは

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中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

レポート

2013.07 金属資源レポート 5(103)

規制のためと考えられる。2009 年以降、生産量と消費量がほぼ等しい水準で推移し、自給率は 100%程度の状態が続いている。今後、さらに生産抑制や輸出抑制が行われた場合、供給障害や価格高騰のリスクがある。

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20

15

10

5

0

生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

V 500%

400%

300%

200%

100%

0%

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

地金消費量 鉱石生産量 自給率 中国消費量/世界消費量

(出典)特殊金属プロジェクト委員会報告書

図 11. 中国におけるバナジウム生産量、   消費量、自給率、対世界消費割合の推移

200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0

生産量 消費量(kt)

自給率 中国消費量/世界消費量

Sn 250%

200%

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100%

50%

0%

1992

1993

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1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

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2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

地金消費量鉱石生産量

自給率中国消費量/世界消費量

(出典)WMS

図 12. 中国における錫生産量、消費量、自給率、   対世界消費割合の推移

図 13. 中国におけるアンチモン生産量、   消費量、自給率、対世界消費割合の推移

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

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2010

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120

100

80

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20

0

生産量消費量(kt)

自給率中国消費量/世界消費量

250%

200%

150%

100%

50%

0%

Sb

地金消費量 鉱石生産量 自給率

(出典)[生産量]WMS[消費量]鉱石生産量+輸入量-輸出量として推定。ただし鉱石品位

は 60%、酸化物は純度 98%、純分換算で 83.5%と仮定

〈錫〉(図 12参照) USGS によると世界の錫埋蔵量は 490 万 t で、うち150 万 t は中国に賦存している。2000 年代前半まで、中国は錫を消費量以上に生産し、自給率は一時 200%台となった。その後、消費量が伸びたが生産量はそれほど伸びず、2011 年以降は減少に転じ、自給率は 60%程度までに低下している。

〈アンチモン〉(図 13参照) USGS によればアンチモンの世界埋蔵量のうち、約50%が中国に賦存し、2012 年の中国の生産量は 12.9万 t(世界計 15.2 万 t の 85%)であった。タングステンやレアアースと同様に、2000 年代前半では中国での消費量以上に鉱石生産を行っており、自給率は 150%以上であった。しかし、2008 年になると生産量が急激に減少した。これは中国国内の生産抑制および環境

 以上、錫を除きタングステン(2009 年~)、レアアース(2010 年~)、モリブデン(2009 年~)、バナジウム(2006 年~)アンチモン(2009 年~)は自給率が 100~150%程度まで低下したところで横ばい状態にあり、計画生産の結果と見られる。

4.経済政策の転換と自給率の低下 以上のように、1990 年代において多くの鉱種について自給率が高かったが、2000 年代ではここ 2~3 年の鉛、亜鉛を除くほとんどの鉱種について自給率は一貫して低下してきた。このような自給率が低下に転じた要因として、2001 年 12 月に WTO 加盟を契機として中国は「世界の工場」として工業製品輸出に拍車が掛かったこと、そして中国の経済政策が 1990 年代の市場経済化政策から国家資本主義政策に転換したことが挙げられる。

4.1 1990 年代の経済政策と高水準の自給率 1990 年代では、中国は鄧小平の主導で社会主義体制を維持しながら市場経済システムを導入することを目指した。具体的には次の 3 点である。

(1)国営企業の整理・規模縮小 これまで国営企業は中国の社会主義経済の根幹を支えたものの 1980 年代後半には大きな赤字を生み、「中国経済の癌」とまで呼ばれていた。国営企業の整理・規模縮小を行い、企業の所有者の再定義を行った。具

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レポート

中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

6 2013.07 金属資源レポート(104)

体的には国営企業は地方有力者に譲渡された(郷鎮企業の成立)、あるいは株式会社として再出発した(1990年には上海・深圳証券取引所が設立され、株式取引を行う環境が整備されている)。国営企業は電力、航空等の「自然独占産業」を中心に残された。

(2)経済特区設置による外資導入 税制面等で優遇されるような経済特区と呼ばれる地域を設置し、外資系企業の誘致を行った。これによって海外からの投資を加速させるとともに、海外からの技術を得ることを企図した。これは「引進来」と呼ばれる。

(3)外貨獲得政策 中国政府は、とりわけ天然資源を輸出することで外

図 14. 中国の輸出入額と貿易収支(IMFデータを基に作成)

2,000

1,800

1,600

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

450

400

350

300

250

200

150

100

50

0

-50

輸出入額(10億 US$) 貿易収支(10億 US$)

1980

1982

1984

1986

1988

1990

1992

1994

1996

1998

2000

2002

2004

2006

2008

2010

輸出額輸入額貿易収支

4.2 2000 年代の経済政策:急激な経済成長と自給率の低下

 2000 年代に入ると、これまでの自由主義経済への歩み寄りのスタンスとは正反対に、政府が経済活動に干渉する「国家資本主義」体制へと胡錦濤主導により移行した。具体的には以下の 3 点が挙げられる。

(1)国営企業の強化 政府主導で国営企業に巨大資本を投入し、ときに民間企業を強制的に合併させる等して国営企業を強化した。1990 年代に発展した郷鎮企業は 2000 年代には弱体化した。そして、各産業の国有企業が互いに連携することで国家資本主義体制をより強固なものとした。

(2)インフラ整備 建設・インフラ、石油化学、鉄鋼業、非鉄金属等の産業を特に重視し、国が主体的にこのような産業の振興を目指した。その結果、国内でのインフラ整備のための建設需要が惹起され、それに伴って石油、鉄鋼、非鉄金属等の需要も高まった。

(3)「走出去」……海外投融資 第三に、国内の旺盛な資源需要の高まりに応じるため「走出去」政策を推進した。これは、4 大国営商業銀行(中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、および中国農業銀行)や中国投資有限責任公司(政府系ファンド)、中国輸出入銀行等の金融的バックアップによりアフリカをはじめとした海外投融資を積極的に推進する政策である。特に中国の資源開発会社は現地のインフラ整備とパッケージにし、中国人労働者や技術者をアフリカに派遣して開発を推進することで資源確保を行っていたと言われている。

 このように、2000 年代の自給率低下は中国国内のインフラ需要喚起に伴う資源需要の増大とそれを賄うための「走出去」政策によるところが大きく、これらの大部分は中国政府の膨大な国家財政が注入された国営企業によって執り行われ、莫大な収益を生むとともに中国経済が大幅に成長した。 2000 年代をとおして自給率が低下傾向にあり、また、世界生産に占める中国生産量の割合の高い鉱種の

貨獲得を目指していた。これは鄧小平の「南巡講話」における「中東には石油があるが中国にはレアアースがある」という言葉によく表されている。

 そして、これら 3 つが相互に影響した。赤字企業を再出発させ、外資系企業と競争させることで経済成長を促進するとともに、国内産業が育つまでは豊富なレアメタルをはじめとした資源の輸出によって安定的な収入を獲得することを可能にした(図 14 参照)。このような経済政策によって中国の金属自給率は高い状態が維持された。 1980 年代には中国は慢性的な貿易赤字を抱えていたが、1990 年代には 1993 年を除き一貫して貿易黒字であった。2000 年代以降の経済成長に伴って貿易黒字は大幅に増加した。

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中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

レポート

2013.07 金属資源レポート 7(105)

境への負荷が大きくなる(図 15 参照)。環境対策への対応は急務であり、これによって生産費用が上昇し、増産を妨げる足枷となる可能性が高い。 近年の中国における大気中 SO2 濃度は、1970 年代前半の日本と同水準である。この頃、日本では四大公害病が問題となり、環境庁が設置された。 次に金属消費量に関して、すでに伸び率の減速傾向の見られる鉱種(鉛、亜鉛等)もあるが、今後も増加傾向は続くと考えられる。とりわけ中国の経済格差は著しく、内陸部に経済成長の余地が残されており、内需拡大により今後も中国の金属消費量の増加傾向は継続するものと予想される。ただし、2000 年代のような急激な増加ではなく緩慢な増加と考えられる。 短期的には、生産量の増加以上に消費量が増加すると考えられるため、自給率は今後も低下傾向と考えられる。 さらに長期的な観点で見たとき、自給率がどのように変化するかを予測することは極めて困難である。中国の金属消費のうち一定量は日欧米など先進国資本によって消費されており、このことが「世界の工場」たる所以であるが、中国で生産活動を行うことの政治・経済・社会的なリスクが顕在化した場合、より魅力的な市場・生産拠点に移転することも考えられる。 また、中国国内の人件費が著しく上昇しているため、今後は中国における製造業の国際競争力は低下する可能性がある。World Bank(2013)によると所得の上昇によって国際競争力低下を引き起こし、それが所得を低下させるという現象が様々な国に見られた。これは「中所得国の罠」と呼ばれる。図 16 は縦軸に2008年当時の米国と比較したときの所得水準の対数、横軸に 1960 年当時の米国と比較したときの所得水準の対数を示している。2 つの期間を比較して所得水準が同程度なら 45 度線上にプロットされる。2008 年の所得水準のほうが高い場合は 45 度線より上の領域、

多くが自給率 100~150%の水準で横ばい状態となる要因について次の理由が考えられる。 第一に、鉱山の生産性・利益率の向上や保安・環境対策のために鉱石生産を管理する必要があったためである。例えば 1990 年代後半から 2000 年代前半に行われた、政府による小規模鉱山の閉鎖ならびに国有重点鉱山を指定したこと、あるいは近年のレアアースの採掘・製錬・輸出を特定企業のみに許可したように、大企業が大規模鉱床の開発を行うように誘導することで生産費用の低減や効率性を向上させるとともに、政府が生産量の管理や環境保護を行うことを容易にした。 第二に、将来のさらなる国内消費量の増大に備えるために資源を温存させる意図があることである。中国の現在の経済成長が続いた場合、資源の不足が想定されるため、鉱石生産を抑えることは将来のために“備蓄”することになる。 第三に、輸出枠や税制(増値税還付制度の廃止や輸出関税の引き上げ、資源税の創設等)によって輸出を抑制し、内需を優先させる意図があったことである。 これらがもたらす日本への影響として、供給量減少リスク、価格高騰リスク、外交カードに使われるリスクが存在する。

5.自給率見通し 最後に、自給率の見通しについて述べる。自給率は鉱石生産量と金属消費量によって定義されているため、この 2 つの変数に着目すればよい。 まず鉱石生産量に関して、今後著しい増産は困難と考えられる。中国国内(特に沿岸部)の人件費の上昇は著しく、中国国家統計局によると、2011 年の平均賃金は 1995 年の 8 倍、2002 年の 3.2 倍となっている。また、中国では大気汚染をはじめ、様々な環境問題が深刻となっているが、資源開発(採鉱~製錬)や化学工業は適切な措置を講じなければ硫黄酸化物をはじめ環

図 15. 日本と中国の大気中SO2 濃度の時系列変化   (原図 World Bank, 2013)

1965

1968

1971

1974

1977

1980

1983

1986

1989

1992

1995

1998

2001

2004

2007

300

250

200

150

100

50

0

大気中SO2濃度 [μg/m3 ]

日本(全国平均)

重慶

北京

上海

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レポート

中国における主要レアメタルの需給と自給率の推移

8 2013.07 金属資源レポート(106)

くは著しい所得格差が是正され中間層が形成される必要がある。そして、これらの変化によって中国における金属消費の様式も変わってくる。このように、少なくとも今後 10 年程度において自給率は減少傾向を示すと予測されるが、さらに長期的な観点からは自給率の変動を予測することは難しい。

2008 年の所得水準のほうが低い場合は下の領域にプロットされる。このグラフから、中所得国のほとんどは中所得国のままで、抜け出せた国はわずかに日本、香港、台湾、韓国、シンガポール等に過ぎない。中国が「中所得国の罠」から抜け出すには、技術水準を高めることで高付加価値製品供給国に転換するか、もし

図 16. 1960 年から 2008 年までの国民総所得の変化(原図 World Bank, 2013)

12008年の1人当たり国民総所得(米国で基準化、対数)

23

45

6

0 1 2 3 4 5 61960 年の 1人当たり国民総所得(米国で基準化、対数)

6.まとめ 中国のレアメタルはじめ各種金属の自給率は 2000年代に低下傾向にあった。国を挙げてインフラ、建設、鉄鋼、非鉄金属などの部門に注力したことで旺盛な国内金属需要を引き起こした。鉱石生産は増産しても賄えず、アフリカ、中南米などの海外資源への依存割合が高まっている鉱種も見られる。また、中国が世界的な資源量を誇る鉱種についても計画生産によって鉱石生産量が増産されず、減産された鉱種も見られる。 鉱石生産は、中国国内の人件費や環境対策コストの上昇によりさらなる増産を見込むことは困難と見られる。他方、ここ数年間の経済成長の鈍化に伴い金属消費量の増加率も低下傾向に転じる鉱種が見られるものの、少なくとも中期的には内陸部の経済発展により今後着実な増加が見込まれる。 以上により、中国の各種金属の自給率は当面のところ上昇することはなく、低下あるいは横ばい状態で推移するものと予想される。中国寡占度の高い鉱種について中国の自給率が低下し、輸出量が抑制される場合、世界市場や我が国のレアメタル資源の安定供給に

大きな影響を与える。 (2013.6.28)

参考文献Amnesty International(2013)Profits and Loss:

Mining and Human Rights in Katanga, Democratic Republic of the Congo, Amnesty Monthly Report, 6, 37p.

堀井伸浩編(2010)中国の持続可能な成長―資源・環境制約の克服は可能か,JETRO アジア経済研究所,287p.

加藤弘之,渡邉真理子,大橋英夫(2013)21 世紀の中国 経済篇,朝日新聞出版,259p.

丸川知雄(2013)中国の国有企業―「問題」から「パワー」に転換したのか―,JRI レビュー,Vol. 3(4), pp. 4 ― 20.

中山健(2012)クロム資源の供給ポテンシャルについて,金属資源レポート,9, pp. 71 ― 98.

World Bank(2013)China 2030 : Building a Modern, Harmonious, and Creative Society, 442p.