p28 33 藤倉大 cs4wilhelm richard wagner 1813–1883 )...

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ふじくら・だい 1977年、大阪生まれ。作曲家。ロンドン在住。5歳 でピアノを始め、15歳で英国に留学。受賞多数。シカゴ交響楽団、 BBC交響楽団など世界各地のオーケストラやアンサンブルから作曲を 委嘱。また最近はポップミュージックも手がけ、デヴィッド・シル ヴィアンとのコラボレーション最新作は『sleep walkers』収録の 「Five Lines」。坂本龍一氏との新作も控えている。 www.daifujikura.com ―― ―― 宿…… returning Ampere 使使returning City of London Festival I.C.E. I.C.E. ―― 70 彿使―― …… …… 60 70 10 influence ―― ice returning 11 Pierre Boulez 1925– 12 BBC IRCAM 91 Joseph-Maurice Ravel 1875–1937 "Pierrot lunaire" 1912 調調12 Arnold Sch ö nberg 1874–1951 調Claude Achille Debussy 1862–1918 Wilhelm Richard Wagner 1813–1883 Ludwig van Beethoven 1770–1827 1930-1996 1950 1957 1967 125 Karlheinz Stockhausen 1928-2007 1952 John Cage 1912–1992 1940 1951 33 10 Morton Feldman 1926–1987 11 September 11 st 2010, the Museum of Contemporary Art, Chicago, USA "ice" for ensemble "returning" for piano (US premiere) performed by I.C.E. Conducted by Jayce Ogren 12 September 18 th 2010, Black Diamond, Copenhagen, Denmark "Fifth Station" for ensemble (Danish Premiere) "time unlocked" for 6 players (Danish Premiere) performed by Athelas Sinfonietta Copenhagen Conducted by Pierre-André Valade mon 7tue thu © Jean Radel © Jean Radel ピエール・ブーレーズ氏と すべての音楽は、そのとき、現代音楽だった

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Page 1: P28 33 藤倉大 CS4Wilhelm Richard Wagner 1813–1883 ) グの指輪』など。ランダ人』『タンホイザー』『トリスタンとイゾルデ』『ニーベルンドイツの作曲家。「歌劇王」と呼ばれる。代表作に『さまよえるオ

ふじくら・だい 1977年、大阪生まれ。作曲家。ロンドン在住。5歳でピアノを始め、15歳で英国に留学。受賞多数。シカゴ交響楽団、BBC交響楽団など世界各地のオーケストラやアンサンブルから作曲を委嘱。また最近はポップミュージックも手がけ、デヴィッド・シルヴィアンとのコラボレーション最新作は『sleep walkers』収録の

「Five Lines」。坂本龍一氏との新作も控えている。www.daifujikura.com

時代をこえ、演奏者が作曲家とつながる一番大きな手がかりは「楽譜」。

楽譜は音楽における「言葉」のようなもの? 

いまや世界中で彼の作品が演奏されている―

ロンドン在住の作曲家・藤倉大氏との「現代音楽」と「楽譜」をめぐるQ&A

Q1

――

現代音楽の楽譜は、一般的になじみが薄いもので

すが、藤倉さんが、初めて現代音楽の楽譜にふれたとき

のことを、おしえてください。

 

その前にもっと基本的なことをお話しすると、現代音

楽ってどこから現代音楽なんでしょうか?

「今日」からさかのぼってみましょうか。例えば今生き

ている作曲家で重要な作曲家であるブーレーズ(*1)、

彼は現代音楽の作曲家に間違いないですよね。では、彼

が生まれたときに生きていた人、ラヴェル(*2)

はど

うでしょうか? 

ラヴェルはシェーンベルクの『月に憑

かれたピエロ』(*3)

の影響下で『マラルメの三つの詩』

という曲を書いたそうです(ちなみにブーレーズもこの

二人に大きく影響を受けている)。

 

ラヴェルと同じ時代に生きていたドビュッシー(*4)

(彼に大きく影響を受けたというポップアーティストは、

例えば坂本龍一さん)、ドビュッシーが逃れられなかっ

たワーグナー(*5)

の音楽の影響、ワーグナーは憧れ

のベートーヴェン(*6)

の家の前に宿をとって一種の

追っかけをしていた…

。となると「今」からベートー

ヴェンまで、まったく途切れがありませんよね、人間的

にも音楽的にも。「現代音楽だけは苦手」という人は、

どこからを「現代音楽」と言っているのでしょうか?

 

僕が最初に現代音楽、そしてその楽譜にふれたのは、

中学生のときです。家のマンションの下に住んでいた方

 

今シカゴへ向かう機内です。

「returning

」は、ピアニストの小川典子さん個人に委

嘱された作品です。この作品が数年後に書くことになる

ピアノコンチェルト「A

mpere

」の〝種〟になれば、とい

うことで委嘱していただきました。僕は大学生の頃から

小川典子さんの大ファンで、特に彼女の弱音の音がとて

も好きでした。というのもあり、この作品は最初から最

後まで「ピアノ(弱音)」で演奏されます。あと、この

作品を書いていた頃、2006年だったでしょうか、作

曲の根本的なシステムを作り上げられないものかと、考

えていました。数ヶ月の書き直しの結果、あるシステム

を使い始めました、それは柔軟なもので、今でもいろん

な形で他の作品を書くのに使われています。この、ある

部屋の家具、のようなピアノ曲と違い、ピアノコンチェ

ルトの方はかなりダイナミックな作品となりました。イ

ギリスのフィルハーモニアと名古屋フィルの共同委嘱で、

もちろん初演時の演奏は小川典子さんでした。

「returning

」がC

ity of London Festival

で小川さんに

よって初演されたときに、偶然I

.C.E.

の奏者がロンドン

にいて、コンサートに来てくれ、クラリネット奏者のジ

ョシュ・ルービンがとっても気に入って是非アメリカで

初演を、ということで今回演奏されることになりました。

 

僕は、彼らI

.C.E.

を2003年から知っていて、その

頃は、メンバーがいろいろな都市から集まり、リハーサ

ル期間は「誰か知り合いのアパートの床で寝る」という

状況、それでもアメリカでなかなか聞けないヨーロッパ

の新しい音楽をしたい! 

という気合いのみでやってい

ました。

 

演奏家一人一人は若いのにずば抜けて素晴らしく、中

にはシカゴ交響楽団のメンバーでもある演奏家がいます。

でも何が凄いって新しい音楽への興味と気合いが素晴ら

しい! 

それから七年、今やオフィスはニューヨークと

シカゴで、リハーサルスペースもあり、CDがどんどん

がたまたま英語の先生で、留学に向けて習いに行ってい

たところ、その先生は武満徹(*7)

さんの大ファンだ

ったので、CDなどを貸していただきました。

Q2     

――

武満徹さんの音楽から、どのような影響を受けま

したか。

 

最初聞いたときは、「ドビュッシーじゃん!」って思

いました(笑)

 

でももちろん深く聞くと、特に70年代に書かれた作品

群は、構成も音作りも素晴らしくオリジナルなものがあ

るなあ、と夢中になっていたものです。

 

僕が学生の頃はとても影響を受けていたと思います、

今はどうでしょうか、いろいろな影響が混ざって書いて

いると思います。でも僕としてはワザと武満さんを彷彿

とさせるものは書かないようにしています。例えばタイ

トルに夢、雨、などを使うのは避けています(笑)やは

りどうしてもヨーロッパで活動する日本人作曲家として

見られたときに、武満さんの存在は無視できないですし。

Q3

――

人間も音楽も、脈々と続いている、その流れのな

かで、藤倉さんご自身はこの「現代音楽」という言葉を、

どのように覚悟しながら作曲されているのでしょうか。

 

一つは、全ての音楽はその時の現代音楽だった…

いうことですね。ですから今「古典」と言われるものも

当時は現代音楽だったわけで。ちょうど、指揮者の金聖

響さんとベートーヴェンの『運命』の話をしていていた

んです。この曲の第一回目の譜読みのリハーサルはどう

だったんだろうか…

特に、合わせるのが難しいと言わ

れる最初の部分とか。たぶんオーケストラも困惑だった

だろうと思います。

 

そして、いつも現代音楽で発表されてきた手法が、数

十年後にポップスやら他のもっとポピュラーな音楽のジ

ャンルに伝わっていく、ということです。今のエレクト

ロニカ音楽を聞いたあと、60、70年代に作曲されたシュ

トックハウゼン(*8)

の電子音楽を聞いても、シュトッ

クハウゼンの音楽の新しさがわかるし、今のアヴァンギ

ャルドのジャズの世界でも、ジョン・ケージ(*9)、フ

ェルドマン(*10)

の影響が大きく現れています。

 

いつも「最初」は現代音楽なのです、と言っても過言

ではないと思います。

 

もちろん僕も他のジャンルの音楽(ポップスとか)を

すれば生活ももっと豊かだっただろうし、もっと人気が

あって、今よりたくさんの人が僕の書く作品を好きって

言ってくれていたと思います。ですが、僕としては、人

生をかけてやるんだったらやっぱり一番チャレンジング

な現代音楽をやりたいのです。いくら今は誰の興味をひ

かなくても、もしかすると五十年後、百年後、何かに影

響を与えることができるかもしれない。これは芸術/文

学でしかできないことですよね、スポーツとかでは次の

世代の文化をi

nfluence

することはできないですし。

 

明日シカゴへ飛びます。

Q4

――

今週末シカゴで演奏される「i

ce

」と「r

eturning

について、書いたきっかけやコンセプトをおしえてくだ

さい。(*11)

(*1)ピエール・ブーレーズ 

Pierre Boulez

(1925–

フランスの作曲家、指揮者。パリ音楽院でメシアンに学び、12音技

法の主唱者レイボヴィッツに師事。指揮活動ではBBC

交響楽団の首

席指揮者や、ニューヨーク・フィルの音楽監督を歴任。フランス国

立音響音楽研究所IRCA

M

の創立者で初代所長、91年まで務めた。近

年はシカゴ交響楽団やベルリン・フィル、ウィーン・フィルの定期

演奏会などで活躍。代表作に『ル・マルトー・サン・メートル』『プリ・

スロン・プリ』『レポン』『ノタシオン』など。

(*2)ラヴェル 

Joseph-Maurice Ravel

(1875–1937

フランスの作曲家。代表作に『亡き王女のためのパヴァーヌ』『鏡』『夜

のガスパール』『ボレロ』など。精密さ、細かさ、完璧な構図を称え、

ストラヴィンスキーはラヴェルを「スイスの時計職人」になぞらえ

た。

(*3)『月に憑かれたピエロ』"Pierrot lunaire"

(1912

オーストリアの作曲家で、調性を脱し無調音楽に到達、12音技法と

呼ばれる作曲法を発案したシェーンベルクA

rnold Schö nberg

(1874–1951

)の、ベルギーの象徴派詩人ジローの詩をテキストに用

いた無調時代の傑作。

(*4)ドビュッシー 

Claude Achille D

ebussy

(1862–1918

フランスの作曲家。代表作に「月の光」、マラルメの詩に基づいた『牧

神の午後への前奏曲』や、『海』『子供の領分』など。

(*5)ワーグナー 

Wilhelm

Richard Wagner

(1813–1883

ドイツの作曲家。「歌劇王」と呼ばれる。代表作に『さまよえるオ

ランダ人』『タンホイザー』『トリスタンとイゾルデ』『ニーベルン

グの指輪』など。

(*6)ベートーヴェン 

Ludwig van Beethoven

(1770–1827

ドイツの作曲家。古典派音楽の大成者。またソナタ形式で数多くの

傑作を残した。代表作にピアノソナタ『悲愴』『月光』『熱情』、交

響曲『運命』『第九』など。

(*7)武満徹(1

930-1996

東京生まれ。幼少時代を満洲の大連で過ごす。戦時中に聞いたシャ

ンソン『聴かせてよ、愛のことばを』で音楽に開眼。独学で音楽を

学んだ。1

950

年、処女作はピアノ曲『2つのレント』。1

957

年、結

核の病床で書いた『弦楽のためのレクイエム』がストラヴィンスキ

ーに絶賛され、名を世界に知らしめた。1

967

年、ニューヨーク・フ

ィルハーモニー交響楽団の創立125周年記念作品をバーンスタインよ

り委嘱。琵琶と尺八、オーケストラとによる協奏的作品『ノヴェン

バー・ステップス』を発表。

(*8)カールハインツ・シュトックハウゼン 

Karlheinz Stockhausen

(1928-2007

ドイツの作曲家。1

952

年、パリに渡りメシアンに師事する。その後、

ジョン・ケージとの出会いから不確定性や空間的要素を取り入れた

作風へと移行、生演奏に音響処理を施す「ライヴ・エレクトロニクス」

の手法なども採用した。ビートルズのアルバムジャケットに登場し

たこともあり、マイルス・デイヴィス、ビョークなどが影響を受け

たと語る。代表作に『コンタクテ』『グルッペン』『光』など。

(*9)ジョン・ケージ 

John Cage

(1912–1992

アメリカの作曲家。1

940

年にグランドピアノの弦にゴム・木片・ボ

ルトなどの異物を挟んで音色を打楽器的なものに変化させたプリペ

アド・ピアノを発明。1

951

年に採用した、作曲の過程に「偶然性」

が関与する手法「チャンス・オペレーション」でその後の音楽に影

響を及ぼした。代表作に『想像上の風景』シリーズ、『4分33秒』『プ

リペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード』など。

(*10)モートン・フェルドマン 

Morton Feldman

(1926–1987

アメリカの作曲家。図形楽譜の創始者であり、後年は演奏時間の長

い静謐な作品が多い。『ザ・ヴィオラ・インマイライフ』『トライア

ディック・メモリーズ』『フォア・サミュエル・ベケット』

(*11)Sep

temb

er 11st 2010, th

e Mu

seum

of C

on

temp

orary A

rt, C

hicago, USA

"ice" for ensemble

"returning" for piano (US prem

iere) perform

ed by I.C.E. Conducted by Jayce Ogren

(*12)Septem

ber 18th 2010, Black D

iamond, C

openhagen, Denm

ark "Fifth Station" for ensem

ble (Danish Prem

iere) "time unlocked" for 6

players (D

anish

Prem

iere) perfo

rmed

by A

thelas Sin

fon

ietta Copenhagen

Conducted by Pierre-André

Valade

9/6mon

9/7

tue

9/9thu

© Jean Radel© Jean Radel ピエール・ブーレーズ氏と

すべての音楽は、そのとき、現代音楽だった

Page 2: P28 33 藤倉大 CS4Wilhelm Richard Wagner 1813–1883 ) グの指輪』など。ランダ人』『タンホイザー』『トリスタンとイゾルデ』『ニーベルンドイツの作曲家。「歌劇王」と呼ばれる。代表作に『さまよえるオ

出ている。ニューヨーク・フィルハーモニックとの共演や、

ピアニストのピエール=

ロラン・エマール、ジャズ界の

鬼才ジョン・ゾーン、僕も仕事を一緒にさせてもらって

いるポップアーティスト、デヴィッド・シルヴィアンと

のコラボなど、すごい勢いで成長している団体です。

 

今でも彼らのリハーサルへの意気込みは強く、ほぼ時

間制限なしのリハーサル、「できるまでやる」というの

と「全員がスコアを勉強していて他のパートを知ってい

る=しっかり弾かないとかっこ悪い」という他にみない

団体だと思います。僕の作品はもう何十曲と演奏してく

れていて、今回

「ice

」は初めてこの団体全員に書いた

作品です。作曲家である僕が次にどの音を書くのか早く

見たいし興味がある! 

という演奏家達に囲まれて音楽

を作るというのは本当に素晴らしいことです。

Q5      

――

I.C.E.

についてのお話にもありましたが、作曲家

と演奏家のコミュニケーションのツールとして、楽譜は

どのような役割を果たすのでしょうか。

 

とっても良い質問ですね。人それぞれ、だと思います

が、僕

は「結

果」、Ho

w does it

sound?

ですので、楽譜はそれをリアライズするための

ツールだと思っています。

 

ですが、人によって解釈の仕方はそれぞれですよね、

それは文章やメールでもみなさん経験あるかもしれませ

ん、知らない間に相手を怒らせてしまった、とか。文章

よりもっと抽象的でもありえる楽譜です、書き方によっ

て「ああ、作曲家はこういう感じで弾いて欲しいんだな」

って思わせる書き方というのがあるかもしれません。

 

僕の作品は技巧的に難しいものも多いのですが、演奏

家になるたけ練習してもらう書き方というのも実験して

います。よく僕の場合言われるのは、みんなが知らない

曲なのに演奏家が間違ったら即わかりそうで怖い! 

か、ぱっと見た楽譜の感じは、そこまで複雑そうじゃな

いけど、いざ弾いてみて、テンポを見てみるとめちゃく

ちゃ難しい、でもそこまで複雑そうに見えない楽譜が弾

けない俺って…

と思わせる、みたいな(笑)

 

僕の師匠達、ペーター・エトヴェシュ、ジョージ・ベ

ンジャミン、二人とも指揮者でもあるので、無意味な複

雑性を持つ書き方をすると、「ここは僕が奏者だったら

適当にごまかすな!」(だからそういう書き方をするな、

と。同じ結果で違う書き方をしろ、という意味です)と

よく言われていました。本当にたくさん習いましたし、

たくさんの演奏家と仕事をしてそういうのも学びます。

 

僕の作品は世界のいろんな所で演奏されているので、

できるだけ、S

kype

やらを使って、リハしたいっていう

演奏家とはしますが、全部が全部どう演奏されているか

分かりません。ですので、書法というのは「最低限これ

だけは守って欲しい」というのは伝えられないといけな

いと思います。もちろん演奏家のi

nterpretation

もあり

ますから、いろんな弾き方があっても良いわけですが。

Q6      

――

今週末コペンハーゲンで演奏される「F

ifth

Station

」と「t

ime unlocked

」について、書かれるきっ

かけや、どういうことを表現しようと考えていたかなど、

おしえてください。(*12)

「Fifth Station

」はまだ学生のときに書いた作品で、

ロンドン・シンフォニエッタの委嘱でした。その頃僕は

空間配置にとても興味をもっていて、日本で最初に僕の

作品が演奏されたときのオケ作も、いろんな楽器がホー

ルに散らばっているという作品でした(その作品は後年

作品群から撤去)。

「Fifth Station

」では好きなことを試しても良いとい

うことでしたので、10人の演奏家をチェロとトランペッ

ト、指揮者を除いて観客を囲むように配置し、指揮者は

観客へ向いて指揮する、というアイデアで書きました。

これを生で聞いた友人が言うには、ヘッドフォンで音楽

を聞いているみたいだと言ってました。一番再演される

ことの多い作品かと思います。

 

後にブーレーズ指揮、アンテルコンタンポラン(*13)

でフランス初演されたときには、ブーレーズの指揮のジ

ェスチャーに、客の頭の上を通じて客席の後ろにいる演

奏家が反応するのは、作品の良し悪しとは無関係に面白

い経験でした、彼のジェスチャーはすごく小さく、無駄

な動きがなく、ときには指がちょっと動くだけで、かな

り離れた演奏家たちが一斉にパシッと同時に弾くのです

から(このときのコンサートでモニターは使われなかっ

たので、ホールの後ろに陣取っていた演奏家たちは指揮

者が見えにくかったと思います、それなのに合ってしま

う)、よくある身振りの大袈裟な指揮者って一体なにを

やっているんだろう?(それに騙されている観客って一

体…

?)と考えさせられたコンサートでした。

「time unlocked

」はアンテルコンタンポラン30周年の

為に書いた作品です。オーボエ、クラリネット、バスーン、

ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラという編成です。このア

ンサンブルを一つの大きなピアノと考え、ヴィオリンと

ヴィオラはギターピックで弦を弾きピアノの鍵盤の延長、

木管群はピアノのペダル(残響)の延長という感じでし

ょうか。

 

両方の作品も、変わった編成と空間配置で、演奏され

そうな可能性を低くする要素満載(笑)なのに、案外再

演される曲です。

Q7

――

「SAKANA

」もそうでしたが、「F

ifth Station

」のよ

うに、観客のなかに演奏者がいる設定は、藤倉さんにと

ってどういう意味を持つのですか?

 

どうして音は前からしか聞こえなくてはならないのか、

というのが逆に僕の疑問でもあります。

Q8

――

以前「情熱大陸」で、藤倉さんが、手書きで書いた

ものをデータ化する作業を通じて、その作曲を客観的に

見ることができるとおっしゃっていましたが、もうすこ

しくわしく教えてください。

 

手書きだとどうしても自分の目には、オリジナルなこ

とをしているっていう妄想にかられそうな気がして…

ですので、コンピュータで清書したものを見ながら書き

進めて行く方が、前に見たことがあるような楽譜の部分

など、見つけやすい気がします、もちろんそういうとこ

ろは消去して書き直しなのですが。

9/10fri

9/18sat

9/25sat

(*13)アンサンブル・アンテルコンタンポラン 

Ensemble Inter Contemporain

1976

年、ブーレーズにより創設。パリのポンピドゥー・センター管

轄の音響音楽研究所I

RCAM

(イルカム)に所属する、現代音楽に特

化したオーケストラ。

©copyright by G. Ricordi & Co., Bühnen- und Musikverlag, München©copyright by G. Ricordi & Co., Bühnen- und Musikverlag, München「Fifth Station」空間配置のスケッチ。「Fifth Station」空間配置のスケッチ。

© Copyright 2005 G. Ricordi & Co. (London) Ltd, reproduced by kind permission of the publisher© Copyright 2005 G. Ricordi & Co. (London) Ltd, reproduced by kind permission of the publisher

すべての音楽は、そのとき、現代音楽だった

Page 3: P28 33 藤倉大 CS4Wilhelm Richard Wagner 1813–1883 ) グの指輪』など。ランダ人』『タンホイザー』『トリスタンとイゾルデ』『ニーベルンドイツの作曲家。「歌劇王」と呼ばれる。代表作に『さまよえるオ

Q9

――

「美しい言葉」があるように、「美しい楽譜」もあ

るような気がします。藤倉さんにとって、「美しい楽譜」

とはどんな楽譜ですか? 

また、「挑発的な言葉」があ

るように、「挑発的な楽譜」もあるような気がします。

藤倉さんにとって、「挑発的な楽譜」とはどんな楽譜で

すか?

 

うーん、それは違うと思います。美しい言葉、挑発的

な言葉に適するのは、美しい音楽、挑発的な音楽、であ

って、楽譜は単なる表現を伝達する手段だと思います。

譜面だけ美しくても鳴っている音楽がしょうもない、と

いうこともよくあります。

Q10

――

藤倉さんが敬愛する音楽家の言葉で印象に残ってい

るもの、記憶に残っているものがありましたらおしえて

ください。

 

ジョージ・ベンジャミンの「音楽の全てにおいて完璧

じゃないといけない」。と、20歳のときに大手の出版社

から連絡があり、僕とミーティングしたいって言われて、

その前の日に僕の作曲の先生であったダリル・ランズウ

ィック氏に言われたこと。ミーティングの準備とかそう

© Copyright 2008 G. Ricordi & Co. (London) Ltd, reproduced by kind permission of the publisher© Copyright 2008 G. Ricordi & Co. (London) Ltd, reproduced by kind permission of the publisher

サックス奏者・大石将紀氏からの委嘱作品。

「この作品で、僕は初めて微分音をたくさん使いました。全ての微分音は気に入った

サキソフォンの重音(マルティフォニックス)を転調などしながら出してきたもの

です。弦で微分音を弾くと「え? この人ひょっとして下手?」っと聞こえてしま

うのですが(通常の12音階で耳が慣れている僕らにとっては、音が狂っているよう

に感じてしまう)、サキソフォンは一つ一つの微分音を指で押さえる事ができるので、

これはいい機会! と思い挑戦してみました。あまりの多さにどの音が微分音でどの

音が半音なのか分からない感じかなと思います。

曲全体は、海の底の暗い所でちらちらと動く魚のような感じです。タイトルはもう、

ずばりSAKANAにしてしまいました。

ゆっくり、ゆったりとした作品を書くつもりだったのが、出来上がればすごい速い

曲になってしまったのですが、実はそこまで曲の速度は速くないのです。ハーモニ

ーの動きはとてもゆったりしていて、トリルをリズム化した感じなので、奏者にと

っては超高速ですが(「ゆっくりした曲って全然速いじゃないですかー」とこの作品

の初演者の大石さん。その通りなんですけど…)、ゆっくりとも聞ける…かな? と

思います。」(プログラムノートより)

サックス奏者・大石将紀氏からの委嘱作品。

「この作品で、僕は初めて微分音をたくさん使いました。全ての微分音は気に入った

サキソフォンの重音(マルティフォニックス)を転調などしながら出してきたもの

です。弦で微分音を弾くと「え? この人ひょっとして下手?」っと聞こえてしま

うのですが(通常の12音階で耳が慣れている僕らにとっては、音が狂っているよう

に感じてしまう)、サキソフォンは一つ一つの微分音を指で押さえる事ができるので、

これはいい機会! と思い挑戦してみました。あまりの多さにどの音が微分音でどの

音が半音なのか分からない感じかなと思います。

曲全体は、海の底の暗い所でちらちらと動く魚のような感じです。タイトルはもう、

ずばりSAKANAにしてしまいました。

ゆっくり、ゆったりとした作品を書くつもりだったのが、出来上がればすごい速い

曲になってしまったのですが、実はそこまで曲の速度は速くないのです。ハーモニ

ーの動きはとてもゆったりしていて、トリルをリズム化した感じなので、奏者にと

っては超高速ですが(「ゆっくりした曲って全然速いじゃないですかー」とこの作品

の初演者の大石さん。その通りなんですけど…)、ゆっくりとも聞ける…かな? と

思います。」(プログラムノートより)

「名門・シカゴ交響楽団からの委嘱。『Mirrors』の冒頭では、ピチカートの音と、ピチカートの音の逆回しの

ようなアルコ(弓で弾く音)の持続音とが交互にあらわれるのを、シンプルかつ明確に聞くことができるでし

ょう。こうした逆回しのような音の効果は鏡のようですが、動作だけでなく和声もやはり鏡のようになってい

ます。それがこの曲のタイトルの由縁です。しばしばこの鏡は歪められますが、そのとき音の素材は、催事場

のミラー・ハウスに入ったかのような様態になります。このような〈鏡〉というコンセプトは、曲全体に水平的・

垂直的に行き渡っています。」(プログラムノートより)

「名門・シカゴ交響楽団からの委嘱。『Mirrors』の冒頭では、ピチカートの音と、ピチカートの音の逆回しの

ようなアルコ(弓で弾く音)の持続音とが交互にあらわれるのを、シンプルかつ明確に聞くことができるでし

ょう。こうした逆回しのような音の効果は鏡のようですが、動作だけでなく和声もやはり鏡のようになってい

ます。それがこの曲のタイトルの由縁です。しばしばこの鏡は歪められますが、そのとき音の素材は、催事場

のミラー・ハウスに入ったかのような様態になります。このような〈鏡〉というコンセプトは、曲全体に水平的・

垂直的に行き渡っています。」(プログラムノートより)

いうことで、その後に「でもお前、忘れるなよ、お前は

作曲家なんだ、キチンとした格好なんかして行くな

よ!」。今でも忘れられません。作曲家は基本的に自由

業なのです。自由業は大変難しい生き方だと思いますが、

ネクタイをしめないで生きていくことができますよね。

だからサラリーマンみたいな格好をするな! 

っていう

ことですね(笑)

 

ちなみに僕は正装が大嫌いで、それもあって結婚式に

は行かないです。

Q11

――

藤倉さんがインタビューで、自分の音楽の世界では、

偶然性に頼りたくない、なぜなら、人生はコントロール

できないけれど、音楽の世界では自分の思いのままパラ

ダイスを作れるから、とおっしゃっていたのが印象的で

した。その「パラダイス」のイメージを作曲を通じ追求

され続けているのだと思いますが、いま「言葉」にする

としたらどのようなものですか。

 

それは、自分の嫌いなものが無い世界ということじゃ

ないでしょうか。

©copyright by G. Ricordi & Co., Bühnen- und Musikverlag, München©copyright by G. Ricordi & Co., Bühnen- und Musikverlag, München

『Mirrors』のイメージスケッチ『Mirrors』のイメージスケッチ