p299 312 東京経大学会誌 経営学306 3(本藤貴康先生) · 変 数...

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  • 299

     現在日本においては,移民流入も少なく,出生率も低迷するなどの諸要因によって,人口

    減少が今後の社会構造特性の前提となっている1)。コモディティを中心とした消費市場の規

    模縮小は基本的趨勢になり,メーカーにとってはブランド・ロイヤルティ,小売業にとって

    はストア・ロイヤルティの構築が事業継続していく上で最重要戦略課題として位置づけられ

    ている。

     このような消費環境において,約 8 割の生活者が利用する実店舗型小売業の事業基盤でも

    あるストア・ロイヤルティについて本稿では焦点をあてて検討を行う。ここでは,特にスト

    ア・ロイヤルティに影響を与える諸要因について顧客アンケート調査を実施した結果を分析

    考察していくことにする。

     今回実施した顧客アンケート調査は,2019 年 7 月から 8 月にかけて,全国各地にエリア

    ドミナント展開するドラッグストア企業 14 社(561 店舗)の顧客を対象として実施した。

    調査協力者は 12,169 名。被験者性年代構成比は,40 代女性が 27.5% で最も多く,つづいて

    30 代女性が 22.9%,50 代女性が 21.4% となっており,ドラッグストア主要顧客を中心とし

    た構成となっている。また,アンケート回答者のうちで購買履歴と連携している顧客数は

    8,160 名であり,本稿では,これらの分析を進めながら,ストア・ロイヤルティ形成要因の

    影響力を検討していくことにする。

    1.態度的ストア・ロイヤルティ評価への影響要因

     今回実施した顧客調査で目的変数に想定した質問項目として「対象店舗の利用意欲」「対象

    店舗の推奨度合」「対象店舗の総合評価」の 3 項目がある。これは N Sirohi, E.W.Mclaughlin,

    D.R.Wittink による調査で設計された「購入を継続する意思,将来の購入を増やす意向,店

    舗を他の人に推奨する意向」2)に基づいたストア・ロイヤルティに関する態度評価項目を採

    用しており,総括的な評価として「総合評価」を加えている。また,説明変数として「個人

    消費用商品の品揃え評価」「家庭消費用商品の品揃え評価」「個人消費用商品の価格評価」

    「家庭消費用商品の価格評価」「代理購入の頻度」「個人消費用の目的来店」「店内プロモーシ

    ドラッグストアにおける態度的ストア・ロイヤルティに関する一考察

     ― 顧客アンケート調査分析 ― 

    本 藤 貴 康

  • 図表A-1 (「利用意欲」を目的変数とした重回帰分析結果―回帰式の精度と有意性―)

    重相関係数 決定係数R 修正 R R2 乗 修正 R2 乗0.4208 0.4198 0.1771 0.1762

    ダービン = ワトソン比 AIC1.9705 -10266.6752

    要 因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F 値 P 値回帰変動 1123.7077 12 93.6423 217.9410 P

  • 変 数偏回帰係数の有意性の検定 *:P

  • 図表B-1 (「推奨度合」を目的変数とした重回帰分析結果―回帰式の精度と有意性―)

    重相関係数 決定係数R 修正 R R2 乗 修正 R2 乗0.5188 0.5181 0.2692 0.2685

    ダービン = ワトソン比 AIC1.9824 -12651.3307

    要 因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F 値 P 値回帰変動 1581.4729 12 131.7894 373.1233 P

  • 変 数偏回帰係数の有意性の検定 *:P

  • 図表C-1 (「総合評価」を目的変数とした重回帰分析結果―回帰式の精度と有意性―)

    重相関係数 決定係数R 修正 R R2 乗 修正 R2 乗0.6009 0.6005 0.3611 0.3605

    ダービン = ワトソン比 AIC1.9875 -13639.5917

    要 因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F 値 P 値回帰変動 2237.8241 10 223.7824 687.0624 P

  • 東京経大学会誌 第 306 号

    305

     図表 C-1 にて回帰式の精度と有意性の各数値を掲載しているが,⾃由度調整済みの決定

    係数(修正 R2 乗)の値は,3 つの目的変数として指定したなかで最も高い数値が出ている。

    図表 C-2 上段の標準変化域係数の値から,目的変数「総合評価」に最も大きな影響力を及

    ぼしていると考えられるのは「好印象だった接客経験(0.2067)」であり,これまでと同様

    の傾向が見られた。つづいて,「個人消費用商品の品揃え(0.1399)」「家庭消費用商品の価格

    評価(0.1254)」「車での立ち寄りやすさ(0.1152)」「家庭消費用商品の品揃え評価(0.1067)」

    という結果が導出された。図表 C-2 下段の偏回帰係数の有意性の検定では,「代理購入の頻

    度」が 5% 水準で,その他の項目について 1% 水準で帰無仮説は棄却されなかった。

     一般的かつ概括的な「総合評価」という目的変数に対しても「好印象だった接客経験」が

    極めて高い影響要因となっているが,「利用意欲」を目的変数とした場合に次点だった「家

    庭消費用商品の価格評価(0.1067)」は三位に落ち,代わって「個人消費用商品の品揃え評

    価(0.1399)」が次点に上がってきている点は興味深い。個人消費用商品(パーソナル・ユ

    ース)については,予想通りに価格よりも品揃えがより評価されていることが明らかであり,

    「総合評価」という概括的なストア・ロイヤルティに対しては,家庭消費用商品(ファミリ

    ー・ユース)よりも個人消費用商品(パーソナル・ユース)が重視されていることが示され

    ている。

    2.行動的ストア・ロイヤルティ指標を加えた影響力分析

     ここまで分析及び考察してきたデータは,あくまでも認知ベースでのストア・ロイヤルテ

    ィ評価であり,各説明変数についても顧客が認知する評価だったが,本研究の貴重な探究的

    アプローチは,認知ベースと行動ベースのデータからのストア・ロイヤルティ要因を検討す

    ることにある。ストア・ロイヤルティは,本質的には認知ベースで解明していくべきかもし

    れないが,小売業のビジネスとしての成否は年間購入販売額という指標が最も重要な指標で

    あると言える。そこで,本項では,ID-POS データも指標として追加しながらカテゴリー別

    影響力を検証していくことにしたい。

     拙稿[2018]3)では,購入カテゴリー数が多いほど年間購入金額が多くなることを既に検

    証したが,どのカテゴリーが年間購入金額に影響しているかは検証されていない。しかし,

    国内ドラッグストア 19 社 908 店舗を対象としたデシル分析によって,年間購入金額の高い

    顧客層と低い顧客層で購入カテゴリーの傾向が見られることは分かっている。ドラッグスト

    ア業態の専門性を包含する医薬品や化粧品カテゴリーについては,デシル上位顧客もデシル

    下位顧客も広範囲に渡る顧客層が購入するのに対して,他業態でも購入できる食系カテゴリ

    ーは上位デシル層で購入傾向が強く示されている4)。

  • 図表D-1 (「年間購入金額」とカテゴリー別購入金額の重回帰分析結果―回帰式の精度と有意性―)

    重相関係数 決定係数R 修正 R R2 乗 修正 R2 乗0.9941 0.9941 0.9883 0.9883

    ダービン = ワトソン比 AIC1.9901 130900.7333

    要 因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F 値 P 値回帰変動 6299259804444.7100 6 1049876634074.1200 115209.2926 P

  • 図表E-1 (「年間購入金額」を目的変数とした重回帰分析結果―回帰式の精度と有意性―)

    重相関係数 決定係数R 修正 R R2 乗 修正 R2 乗0.1456 0.1421 0.0212 0.0202

    ダービン = ワトソン比 AIC0.0420 157406.8609

    要 因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F 値 P 値回帰変動 127566601053.2290 8 15945825131.6536 20.8060 P

  • ドラッグストアにおける態度的ストア・ロイヤルティに関する一考察

    308

    12 項目を対象とする。また,アンケート回答者のうちで購買履歴と連携している顧客サン

    プル数 8,160 名のうち有効回答は 7,694 名だったため,これを分析対象としている。なお各

    説明変数評価は五段階評価での回答を依頼しており,変数選択は増減法を用いて,変数除去

    の基準値は 0.2 としている。

     図表 E-1 に回帰式の精度と有意性に関する数値を掲載した。これまでと同様に図表 E-2

    上段の標準変化域係数の値から,目的変数「年間購入金額」に影響力を及ぼしている項目を

    見ていくことにする。1% 水準で帰無仮説が棄却されなかった項目で尚且つプラス値として

    「車での立ち寄りやすさ(0.1027)」と「好印象だった接客経験(0.0718)」のみに有意性が認

    められている。マイナス値として「個人消費用の目的来店(-0.0221)」「ネット通販の利用

    頻度(-0.0234)」「店内プロモの評価(-0.0247)」「個人消費用商品の品揃え評価(-

    0.0394)」があがってきており,この結果だけから判断すれば,これらの要因は「年間購入

    金額」にマイナス作用があるという結果が示された。ただし,回答者がドラッグストアにお

    いて対象店舗を主たる利用先店舗であるかどうかの要素を取り込んでいないため,後ほど対

    象店舗を主たる利用店舗としている回答者に限定した結果に絞り込んで分析している。した

    がって,これらの結果についてはここでは参考程度にとどめておきたい。

     プラス値の上位項目に注目すれば,「年間購入金額」に最も影響力のある要因は「車での

    立ち寄りやすさ(0.1027)」であるが,次点に「好印象だった接客経験(0.0718)」が高い。

    仮説設定した「接客」の重要性はここでも検証されているが,車でのアクセスがいい立地条

    件であり,駐車場も整備されていて,接客力のある店舗で顧客の購買金額は上がっていくと

    いうことであり,大きなコスト要因でもある売場づくりについてはそれほど重要視されてい

    ない可能性もうかがえる。

     最後に,「総合評価」を目的変数として,各カテゴリー別購入金額を説明変数とした重回

    帰分析結果である。ここでは認知ベースの「総合評価」を目的変数として,行動ベースの各

    カテゴリー購入金額を説明変数としている。

     図表 F-1 に回帰式の精度と有意性に関する数値を掲載した。これまでと同様に図表 F-2

    上段の標準変化域係数の値から,目的変数「総合評価」に影響力を及ぼしている項目を見て

    いくことにする。全て 1% 水準で帰無仮説が棄却されなかった。

     最も影響力の大きなカテゴリーは「食品(その他食品を除く)(0.6397)」であり,次点に

    「日用雑貨(0.4107)」「化粧品(0.3612)」と続いており,食品カテゴリーと日用雑貨カテゴ

    リーという生活必需品の購入額が「総合評価」に寄与している。拙稿[2019]5)での考察と

    同様に,ドラッグストア業態を含めた,コンビニエンスストア,スーパーマーケットといっ

    た狭域商圏業態は,基本的に同じターゲット(地域住民)の同質需要を争奪しており,共通

    項となる「食品」「日用雑貨」の購入チャネルとして誘引できるかどうかで業態選択及び店

  • 図表 F-1 (「総合評価」とカテゴリー別購入金額の重回帰分析結果―回帰式の精度と優位性―)

    重相関係数 決定係数R 修正 R R2 乗 修正 R2 乗0.1034 0.0999 0.0107 0.0100

    ダービン = ワトソン比 AIC2.0196 -5569.3787

    要 因 平⽅和 ⾃由度 平均平⽅ F 値 P 値回帰変動 44.5961 6 7.4327 14.7110 P

  • ドラッグストアにおける態度的ストア・ロイヤルティに関する一考察

    310

    3.総括

     拙稿[2019]によって仮説構築したドラッグストアにおけるストア・ロイヤルティ要因と

    して,ドラッグストアにおける専門訴求カテゴリー(医薬品,化粧品)よりも非専門カテゴ

    リー(食品)の⽅が顧客の年間購入金額という行動的ストア・ロイヤルティへの影響力が強

    かったことを示したが,本稿においては,非専門カテゴリー(食品)の購入金額は態度的ス

    トア・ロイヤルティへの影響力も強いことが検証できた。また,「利用意欲」や「推奨度合」

    については「好印象な接客経験」が大きなロイヤルティ形成要因であることも検証されてお

    り,少なくともドラッグストア業態においては「好印象な接客経験」によってロイヤルティ

    形成が加速する可能性が高い。

     態度的ストア・ロイヤルティが行動的ストア・ロイヤルティに影響を与えて,顧客の購入

    頻度や購入金額という小売事業成果指標につながっていくという仮説は,食料品購買行動に

    ついて峰尾[2012]6)によって示されているが,HBC(Health and Beauty Care)カテゴリ

    ーを取り扱うドラッグストアにおいても極めて参考になる仮説である。業態機能の大きな相

    違点として接客機能の比重が挙げられる。食系業態であるスーパーマーケットやコンビニエ

    ンスストアの多くはセルフ販売⽅式が大半の売上を占めるのに対して,ドラッグストアでは

    過半数の売上でセルフ販売が採用されているものの,専門訴求カテゴリーを中心として接客

    サービスが採用されている。そのため,「サービス・店員の質への態度」が食系業態よりも

    態度的ストア・ロイヤルティに影響を及ぼしやすいと考えられる。

     また,カテゴリー評価について個人消費用商品(パーソナル・ユース)と家庭消費用商品

    (ファミリー・ユース)にグルーピングした結果,個人用商品については品揃え評価が重要

    であり,家庭用商品については価格評価が重要であることが検証された。今回の分析では,

    顧客の RFM に基づいたセグメント別に分析しておらず,行動的ストア・ロイヤルティの強

    い顧客層と低い顧客層での比較検討は今後の研究課題として挙げられる。これと同時に,態

    度的ロイヤルティの強い顧客層と低い顧客層での比較検討を含めて,ドラッグストアにおけ

    るロイヤルティ形成要因の究明を進めていきたい。

    附記 本稿は 2019 年度東京経済大学個人研究助成費(研究番号 19-28)による研究成果の

    一部である。

    注1 )国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口』(国立社会保障・人口問題研究所,

    2018. 3)2 )N Sirohi, EW McLaughlin, DR Wittink “A model of consumer perceptions and store loyalty

  • 東京経大学会誌 第 306 号

    311

    intentions for a supermarket retailer”, Journal of Retailing vol. 74 (1998) pp. 236-238.3 )本藤貴康(2018)「ドラッグストアにおけるストア・ロイヤルティ構築―購入カテゴリー数に

    焦点をあてて―」『東京経大学会誌 経営学』第 298 号(東京経済大学経営学会,2018. 2)pp. 29-40

    4 )本藤貴康(2019)「ドラッグストアにおけるストア・ロイヤルティ構築要因に関する仮説構築」『東京経大学会誌 経営学』第 302 号(東京経済大学経営学会,2019. 2)pp 131-149

    5 )本藤貴康(2019)「ドラッグストアにおけるストア・ロイヤルティ構築要因に関する仮説構築」『東京経大学会誌 経営学』第 302 号(東京経済大学経営学会,2019. 2)pp 131-149

    6 )峰尾美也子(2012)「食料品購買における消費者満足とストア・ロイヤルティ」『経営論集』(東洋大学,2012. 3)pp. 62-64