PCゲルバー橋の連続化に関する設計報告（首都高速1号羽田線）

首都高速道路(株) ○石橋 正博

(株)ピーエス三菱 正会員 花房 禎三郎

(株)ピーエス三菱 正会員 和地 高弘

１．はじめに

本橋は首都高速1号羽田線の勝島地区に建設され

たゲルバーヒンジを有するPC連続箱桁橋である。

（図-１）昭和38年12月に供用開始してから50年以

上が経過しゲルバー部に経年劣化等による損傷（ひ

び割れ，支承腐食等）が確認されていた。このため，

維持管理が困難なゲルバー部の構造改良を含めた橋

梁全体の耐震性向上のため補強が計画され，現在施

工が進められている。なお，ゲルバー部の構造改良

は，長期耐久性を確保するため，外ケーブル工法に

よる連続一体化（9径間連続）を図る事とした。た

だし適正な連続化範囲を超える箇所については，橋

脚を新設しゲルバー部の反力を受け替えることで，

ゲルバー構造を持たない構造に変更する。

2012年PCシンポジウムでは隣接工区と合わせ工事

全体の設計概要を報告している。本稿では，本工事

の特徴であるゲルバー連続化および受け替えに関す

る設計について主に報告する。

２．構造概要

当該工事区間は3径間7連のPC連続箱桁橋で，掛

け違い部はゲルバー構造として荷重を受け渡してい

る。断面構造は２室箱桁断面を基本とし，上下線と

出入り口部（ランプ部）の有無により２～３主桁が

並列した構造となっている。（図-２）

３．設計概要

3.1 設計方針

3径間連続箱桁橋のゲルバー部を外ケーブルにて連結し，9径間連続とする。連続化しないゲルバー

図-２ 断面図

4.59%

▽2.900 ▽2.900

3.11%

CL

1.24%

P9

1461

1461-1 1461-2 1461-3 1461-4▽3.150▽3.150

海岸通り 海岸通り

出入り口部

下り線 上り線

8411 8353

11250

4039 3410

32400

8187

11250

建築限界

施工箇所

図-１ 高速 1 号羽田線勝島付近

図-３ 連続化・新設橋脚箇所図

F F MM

P21P20P19P18P17P15P14P13P12P11P10P9P8P6P5P4P3P2 P7 P16P1P0

14761452 1453 1454 1455 1456 1457 1458 1459 1460 1461 1462 1463 1465 1467 1468 1469 1470 1471 1472 1473 1475

FFM F F F F F FM

FFF FFF

ゲルバー受け替え ゲルバー受け替え

20002000 2000 2000 2000 2000 2000

9径間連続3径間

9径間連続3径間 3径間 3径間 3径間 3径間 3径間

ゲルバー連結 ゲルバー連結 ゲルバー連結 ゲルバー連結 新設橋脚新設橋脚

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〔報告〕プレストレストコンクリート工学会　第24回シンポジウム論文集（2015年10月）

部は，ゲルバー沓を分離（切断）し，新設橋脚を

設置しゲルバー反力を受け替える構造とした。

（図-３）

3.2 桁連続化の設計

桁連続化の構造概要および外ケーブル配置の一

例を図-４に示す。連続化は，まず外ケーブル設

置のために，ゲルバー部をウォータージェットに

て削孔する。吊桁と受桁の間に無収縮モルタルに

て間詰めを行った後に，外ケーブルを配線，緊張

する事で一体化を図る構造としている。また，外

ケーブルによる連続化と併せてB活荷重対応を行

っている。

桁連続化による構造系変化によって，連結部付

近の上縁には引張応力が発生することとなる。こ

の引張応力に対して，B活荷重および温度荷重時

に満足するよう外ケーブルを配置する。建設当時

のTL-20からB活荷重へ増加したことによる下縁の

引張応力に対しては，外ケーブルの他に桁下面に

炭素繊維シート補強を併用する事とした。せん断

耐力に対しては外ケーブルではせん断耐力の向上

がほとんど見込めないため，炭素繊維シートにて補強を行った。

設計フローを図-５，断面力算出モデル種別を表-１に，モデル

図を図-６に示す。クリープおよび乾燥収縮の影響は，建設後50年以上経過しているので考慮していない。

使用する外ケーブルは，ゲルバー長が4.35mと短くセットロス

の影響が大きいため，セットロスの無いナット式定着タイプとし

た。

また，ボックス内の作業スペースおよび定着スペースの制約より， 温度荷重 ○

反力（連結後） ○

〃　2次力 ○

活荷重 ○

〃　2次力 ○

プレストレス（連結外ケーブル） ○

死荷重（桁自重・橋面） ○

プレストレス（既設） ○

モデル種別

荷重種類

連続前（

現橋）

2次元フレー

ム

連続後

2次元フレー

ム

立体格子

表-１ 荷重-モデル種別一覧

図-５ 設計フロー図

START

現況（連続前）モデル作成

→死荷重断面力の算出

連続モデル作成

→連続後の断面力を集計

せん断補強繊

曲げの検討せん断の検討

END

主方向の設計

設計荷重時

曲げ応力度

外ケーブル配置のトライアル

プレストレスの算出

曲げ補強繊維

補強シートの

配置可

配置可

配置不可

配置不可

上縁引張大終局荷重作用時

斜引張耐力

終局荷重作用時

立体格子モデルによる

断面力（Ｂ活荷重）、反力

側面図

平面図

（固定側）

定着突起□330mm

増し厚部 定着突起 定着突起

□330mm

削孔φ150

C3

C2

C1

C1

C2

C3

C2

C1

C3 C2

C2

C2

削孔φ150

（無収縮モルタル注入）

PC鋼より線SWPR7AL F170TS

増し厚部

定着突起定着突起

□330mm

（固定側）

（固定側）

□450mm,□400mm

□450mm，□400mm

（充実断面）

連続化により、上縁に引張応力が発生

（緊張側）

（緊張側）

C2

C1 C3

削孔φ150

補強後σc=-0.65N/mm2補強前σc=-2.36N/mm2

C3

C2

C1

C1

C2

C3

　既設鉄筋で負担できる引張応力（1.0N/mm2程度）まで許　容した。なお，ゲルバー上縁にはジョイント連続化時に　既設鉄筋以上の鉄筋を配置した。

※上縁引張を許容しない場合，補強量が過大となるため，

設計荷重時（活min）<-1.0N/mm2 ※

4350 ゲルバー部

受桁

橋脚横梁

吊桁

図-４ 桁連結構造概要図

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〔報告〕 プレストレストコンクリート工学会　第24回シンポジウム論文集（2015年10月）

1ボックスあたり3本を基本とした。

中間横桁への定着は，緊張力に対し，横桁増厚を行

い，鉄筋とコンクリートのせん断力で負担した。また，

FEM 解 析に より発生応力を確認し，引張 強度

（2.46N/mm2）以下となる様に，増厚形状および定着

突起形状を決定した（図-７）。その結果，使用外ケ

ーブルはF170TS（7×φ15.2）に対し，中間横桁１箇

所あたりの定着は左右各1本の2本までとした。横桁増

厚量は500mm，ずれせん断に対して必要な補強鉄筋を

配置した。

3.3 新設横梁の設計・施工

9径間連続桁の端部は、現在のゲルバー部の支承を

切断し構造的に分離する。分離するゲルバーヒンジの

吊桁側には新たに支点が必要となることから，下部工

を新設し，ゲルバー部の反力を受け替えて上部工を支

持する設計とした。ここで主桁は既存の構造と同様に，

新設横梁を介して支持される構造となる。図-８にイメ

ージ図を，図-９に新設横梁概要図を示す。

新設横梁は既設上部工を貫通させる内ケーブルと，

主桁下面に配置する外ケーブルを併用したPC構造とし

て設計を行った。

新設横梁の施工は，街路を供用しながらの施工であ

り，桁下の建築限界に余裕がなく，施工条件が厳しい

ため，施工方法や順序に配慮して設計する必要があっ

た。よって，各段階での新設横梁やゲルバー沓にかか

る反力の変化，外ケーブルと支保工との取り合いを考

慮して，緊張は1次緊張と2次緊張の二回に分けて行う

図-８ イメージ図

図-６ 各種モデル図

2 3 4 5 6 7 8 9 14 1617 18 19 29 30 3132 42 43 44 47 49 53 55 56 57 58 61 65 66 67 68 69 70 71 8081 82 83 84 88 92 93 94 95 96 99 105106107108

227 237 247 257 267 277

1 101112

1513

2021 2724 28 33 113110744537

支承(M) 支承(M) 支承(M)支承(M)

P1P0 P2 P3 P4 P5 P6 P7 P8 P9

103

P0～P9径間連続化後モデル（二次元フレーム）

ケーブル配置範囲 ケーブル配置範囲 ケーブル配置範囲

支承(F) 支承(F) 支承(F) 支承(F) 支承(F) 支承(F)

10011002

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7810

7811

7812

7813

7814

7815

7816

7817

7820

7821

7822

78237824

7825

7826

7827

7830

78317832

78337834

7835

7836

7837

7840

78417842

78437844

7845

7846

7847

7910

79117912

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7915

7916

7917

7920

79217922

7923

7924

7925

7926

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7930

7931

7932

7933

7934

7935

7936

7937

7940

79417942

7943

7944

7945

7946

7947

P0

P1

P2

P3

P4

P5

P6

P7

P8

P9

立体格子モデル（活荷重算出）

P0～P9径間

図-９ 新設横梁概要図

外ケーブル F360TS(SWPR7BL)

内ケーブル F500-19T15.2

ウェブ削孔φ110

A B

側 面 図

A B

断 面 図A - A B - B

外ケーブル

F360TS(SWPR7BL)

モルタル

内ケーブル

F500-19T15.2

固定端緊張端

50005695 1555

12250

5001000 4695

112501000500

5000 555

1829

3240

2360

1050

220 2202360

3240440 2360 440

1050

779

270

150

1050

1790

740

2次緊張 2次緊張

無収縮

図-７ 中間横桁定着部 FEM 解析

結果

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〔報告〕プレストレストコンクリート工学会　第24回シンポジウム論文集（2015年10月）

事とした。施工フローを図-１０に，施工のステップを図-１１に示す。

(1) 打設・1次緊張

新設横梁施工のための型枠・支保工は，新設横梁下面の外ケーブル

と干渉するため，内ケーブルおよび外ケーブルのうち外側の２本を先

行して緊張する。この1次緊張により新設横梁の自重と活荷重を負担で

きる緊張力を導入し，型枠・支保工の解体が可能となるよう設計した。

なお，新設横梁のコンクリートは，張出床版下面およびボックス内

の遊間が狭く，バイブレータによる締固めが困難なため，高流動コン

クリートを用いる事とした。

(2)支保工撤去・支承部仮受け

ゲルバー沓切断時にジャッキupおよび高さ調整を行えるよう，支承

前後に仮受けジャッキを設置する。この段階では，支承は固定してお

らず反力を負担させていない。

(3) 2次緊張・ジャッキup・ゲルバー切断

ゲルバー沓の切断はワイヤーソーで行う。切断前にゲルバー沓の反

力を受け替える必要があるためジャッキupを実施する。ジャッキup前に2次緊張を行う必要があるが，検討の結果，一部の新設横梁では，ゲ

ルバー沓が反力を負担している状態で2次緊張を行うと，オーバープレ

ストレスにより，新設横梁上縁に引張応力

が発生する。このため，ジャッキアップを2回に分けて荷重の移行を段階的に行い，2次緊張も2回に分けて段階的に行う事でオーバ

ープレストレスとならないよう設計した。

ジャッキupにてゲルバー沓の反力を全て

新設横梁へ移行した後に，ゲルバー沓を切

断し，支承を固定，ジャッキdownし上部工

反力を新設橋脚へ受け替える事とした。

４．おわりに

今回ゲルバー部の連続化にあたり，動的

解析による耐震設計を行い，必要な下部工

補強および支承交換も本工事で実施してい

る。

平成27年4月現在，本工事ではゲルバー部

の分離が無事に終わり，外ケーブル補強の

施工中で，平成27年10月に完成予定である。

当該区間は，ゲルバー部の改築方法とし

て，連続化する他に下部工を新設し，これ

を支点としてゲルバー反力を受け替えるという手法が選択できた。これまでに前例のない手法である

と共に，都市部に建設された首都高速においては，このような手法を選択できる箇所は希である。し

かしながら，今後増加することが予想されるPC橋の補強工事に本稿が役立てば幸いである。

最後に，設計および施工にあたりご助言・ご協力をいただいた関係各位に深く感謝の意を表する。

図-１１ ステップ図

ゲルバー沓

先に配線すると支保工が解体できなくなる。

ゲルバー沓

支保工撤去仮受け1次緊張

打設

既設横梁

既設橋脚

既設横梁

既設橋脚

新設橋脚ジャッキ仮受け

活荷重上部工反力

活荷重横梁死荷重

2次緊張

既設横梁

ゲルバー沓

横梁死荷重

既設橋脚

新設橋脚

既設横梁

既設橋脚

新設橋脚

上部工反力活荷重

ゲルバー沓

活荷重上部工反力

活荷重横梁死荷重

2次緊張

支保工

1次緊張

既設横梁

横梁死荷重

既設橋脚

新設橋脚

既設横梁

既設橋脚

新設橋脚

上部工反力活荷重

ゲルバー沓

ジャッキup

反力移行

ジャッキUP

ゲルバー切断

切　断撤　去

横梁死荷重上部工反力活荷重

ジャッキdown完成

伸縮装置交換

支保工

上部工反力活荷重

(1) (2)

(3) (4)

(5) (6)

：緊張ケーブル

：緊張ケーブル

図-１０ 施工フロー

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〔報告〕 プレストレストコンクリート工学会　第24回シンポジウム論文集（2015年10月）