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2010 年度 修士論文中間報告資料 平成 22 4 30 環境電磁界からの電力再生を利用した無線センサネットワークのための電力管理手法 Power Management Method for Wireless Sensor Network Using RF Energy Harvesting 電子情報学専攻 浅見研究室 48-096443 西本 寛 Abstract: Energy harvesting is the process to convert ambient energies to electrical energy that are useful for wear- able electronics and wireless sensor networks. Wireless sensor networks are now used in many types of ap- plications including industrial process monitoring and control, machine health monitoring, environment and habitat monitoring, healthcare applications, home au- tomation, and traffic control. Energy harvesting pro- vides a solution to solve the sustainability limitations that arises in wireless sensor networks. However, com- pared to battery based WSNs, faces many challenges. This paper clarifies the problems for energy harvest- ing wireless sensor networks, and shows the effective- ness of RF Energy Harvesting by showing a prototype of RF Energy Harvesting WSN. We propose a MAC protocol that enables sensor nodes to change the duty cycle according to the amount of harvested energy. 1 はじめに 無線センサネットワークでは広い空間に分散配置さ れたセンサノードにより物理的な情報や空間的な情報 を監視するする事ができることから,健康管理や気候変 動のモニタリングや希少動物の生態調査,工業や農業支 援,軍事用途など幅広い分野での利用が期待されてい る.電池動作のセンサノードを使って長時間の動作をす るためには大容量の電池を搭載するか,または電池交換 を行う手間が発生するため,センサノードへの電力供給 方法として,化学電池に代わる方法としてエネルギー ハーベスティングが注目されている. 無線センサネットワークでは低コストのノードを大 量に配置することによってデータの絶対量や信頼性が高 まり,データとしての価値が高まる.したがって,自律 的なルーティング手法や送信電力を削減するための手 法など様々な電力削減のための研究が行われてきた.し かしながら,電池動作の無線センサネットワークに比べ 得られる電力が時間的・空間的にばらつきの多いエネル ギーハーベスティングを用いた無線センサネットワーク では,より多くの課題が発生する. 本稿ではエネルギーハーベスティング無線センサネッ トワーク特有の課題について整理し,環境電磁界からの Fig. 1: Example of a WSN (Fire Alarm)[1] 電力再生を利用した無線センサネットワークのプロトタ イプを通して環境電磁界からの電力再生の有効性を示 す.さらに,センシング回数を最大化する提案手法を用 いる事により,変動するエネルギーハーベスティングの 獲得電力に応じた動作が可能である事を示す. 本稿ではまず,第2章で無線センサネットワークの メリットと技術要求について述べる.また,第3章でエ ネルギーハーベスティング技術と無線センサネットワー クとの関係について説明する.第4章でエネルギーハー ベスティング無線センサネットワークにおける電力管理 の課題について説明する.第5章で環境電磁界からの電 力再生を用いた無線センサネットワークにおける課題と 解決策について述べる.第6章で関連研究について紹介 し,第7章で本稿のまとめ,今後の研究の方向性につい て述べる. 2 無線センサネットワークとエネルギー ハーベスティング 2.1 無線センサネットワーク 無線センサネットワークは従来のイーサネット,シ リアル通信などの有線回線を置き換えて行くだけでは なく,計測分野において従来の有線方式では配置が難し かったアプリケーションなどに適用する事が期待され 1

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2010年度 修士論文中間報告資料 平成 22年 4月 30日

環境電磁界からの電力再生を利用した無線センサネットワークのための電力管理手法Power Management Method for Wireless Sensor Network Using RF Energy Harvesting

電子情報学専攻 浅見研究室 48-096443 西本 寛

Abstract:

Energy harvesting is the process to convert ambientenergies to electrical energy that are useful for wear-able electronics and wireless sensor networks. Wirelesssensor networks are now used in many types of ap-plications including industrial process monitoring andcontrol, machine health monitoring, environment andhabitat monitoring, healthcare applications, home au-tomation, and traffic control. Energy harvesting pro-vides a solution to solve the sustainability limitationsthat arises in wireless sensor networks. However, com-pared to battery based WSNs, faces many challenges.

This paper clarifies the problems for energy harvest-ing wireless sensor networks, and shows the effective-ness of RF Energy Harvesting by showing a prototypeof RF Energy Harvesting WSN. We propose a MACprotocol that enables sensor nodes to change the dutycycle according to the amount of harvested energy.

1 はじめに無線センサネットワークでは広い空間に分散配置さ

れたセンサノードにより物理的な情報や空間的な情報を監視するする事ができることから,健康管理や気候変動のモニタリングや希少動物の生態調査,工業や農業支援,軍事用途など幅広い分野での利用が期待されている.電池動作のセンサノードを使って長時間の動作をするためには大容量の電池を搭載するか,または電池交換を行う手間が発生するため,センサノードへの電力供給方法として,化学電池に代わる方法としてエネルギーハーベスティングが注目されている.無線センサネットワークでは低コストのノードを大

量に配置することによってデータの絶対量や信頼性が高まり,データとしての価値が高まる.したがって,自律的なルーティング手法や送信電力を削減するための手法など様々な電力削減のための研究が行われてきた.しかしながら,電池動作の無線センサネットワークに比べ得られる電力が時間的・空間的にばらつきの多いエネルギーハーベスティングを用いた無線センサネットワークでは,より多くの課題が発生する.本稿ではエネルギーハーベスティング無線センサネッ

トワーク特有の課題について整理し,環境電磁界からの

Fig. 1: Example of a WSN (Fire Alarm)[1]

電力再生を利用した無線センサネットワークのプロトタイプを通して環境電磁界からの電力再生の有効性を示す.さらに,センシング回数を最大化する提案手法を用いる事により,変動するエネルギーハーベスティングの獲得電力に応じた動作が可能である事を示す.本稿ではまず,第2章で無線センサネットワークの

メリットと技術要求について述べる.また,第3章でエネルギーハーベスティング技術と無線センサネットワークとの関係について説明する.第4章でエネルギーハーベスティング無線センサネットワークにおける電力管理の課題について説明する.第5章で環境電磁界からの電力再生を用いた無線センサネットワークにおける課題と解決策について述べる.第6章で関連研究について紹介し,第7章で本稿のまとめ,今後の研究の方向性について述べる.

2 無線センサネットワークとエネルギーハーベスティング

2.1 無線センサネットワーク

無線センサネットワークは従来のイーサネット,シリアル通信などの有線回線を置き換えて行くだけではなく,計測分野において従来の有線方式では配置が難しかったアプリケーションなどに適用する事が期待され

1

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3. エネルギーハーベスティング 2

ている.無線センサネットワークはビルディングオートメーション,ホームオートメーション,工業オートメーションなどの分野への活用が期待されている.無線センサネットワークを適用する事により,様々なメリットが期待できる.計測機器などの配線が無線になることにより配線のコストが削減できる.また,配置の自由度が上がる事により,頻繁なレイアウト変更に対応できる.さらには,有線では配置が不可能だった回転体などへの配置が可能であると考えられる [2].

2.2 技術要求

無線センサネットワークは,低い通信速度,低コスト,低消費電力が最大の特徴であるが,様々なメリットとは裏腹に多くの問題が未解決である.無線センサネットワークの技術要件として以下の事が考えられる.

2.2.1 消費電力

無線センサネットワークのメリットは配線が不要という点に尽きる.そこで,センサノードは電池交換なしに長時間動作する事が求められる.携帯電話や無線 LAN端末などと異なり,年単位での動作が求められる状況もある.このため,他の無線通信装置と異なり,無線センサネットワークでは消費電力の優先度が最も高い.

2.2.2 コスト

有線の通信を無線に置き換えるメリットを活かすため,無線センサネットワークでは低コストが優先される.無線モジュール込みでのコストが重要な指標となるため,コスト削減のために通信速度やリアルタイム性などが犠牲となる.

2.2.3 プロトコル

無線センサネットワークでは,目的とするアプリケーションに応じて,マスタ/スレーブタイプのネットワーク以外のネットワーク形態もとられる.自己組織化機能を有するアドホックネットワーク,メッシュネットワークや,無線による多段中継をするマルチホップネットワークなどの形態がとられる.高速な通信プロトコルは処理が複雑化する上,高速な変調方式を採用するとより高い受信感度を必要とするため電力消費が大きくなる.さらに,一般に無線センサネットワークに要求されるデータ伝送速度は低速で構わない事が多いため,数kbpsの通信が想定されている.また,無線システムを利用する以上,パケット衝突は避けられないため,無線センサネットワークはリアルタイム性が要求されるアプリケーションには不向きである.

Table 1: Ambient Energy Sources for energyharvesting[3]

3 エネルギーハーベスティングエネルギーハーベスティング技術とは,環境中や身

の回りにあるエネルギーを電力に変換し,電気エネルギーとして貯め,消費する一連の過程のことである.化学電池を置き換える事が可能となるため,小型のデバイスの動力源としてエネルギーハーベスティング技術が期待がされている.特に無線センサネットワークにおいては,低い消費

電力で数年単位の長期間駆動する必要があるため,無線センサネットワークにとってエネルギーハーベスティングは非常に重要な技術となっている.太陽光,熱,風力,振動,押しボタン,など様々な物から電力を作り出す研究が行なわれている.図 1から分かるように,それぞれの手法によって,単位面積,単位体積あたりで得られる電力はそれぞれ異なる.中でも,得られる電力が大きさから,無線センサネットワークデハ太陽光が最も利用されている.しかし日照時間にばらつきのある太陽電池に代表さ

れるように,エネルギーハーベスティングによって得られる電力には時間的・空間的ばらつきが多いため,電力の安定供給を期待するのは困難である.また,面積・体積の制約から,エネルギーハーベスティングによって得られる電力には限りがある.

3.1 環境電磁界からの電力再生日常生活において,ますます多くの電子通信機器が

利用されるようになり,電波による無線通信の利用機会が拡大している.当研究室では,放送や通信のための電波をエネルギーハーベスティングのエネルギー源としてとらえ,電波から電力を再生しセンサネットワークを駆動することを目指している.動作させるセンサノードの近くにある,潤沢に電力を使える送信機を使って,電力を電波で届ける試みがいくつかなされている.一方,

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4. 電力管理手法 3

我々は主として放送電波を利用する事で,どこに居ても入手可能なエネルギーを利用する事を想定している.電波は距離によって減衰するため,受信電力は以下のように示される.

Pr = Poλ2/4π R2 (1)

これは反射や干渉を想定しない場合の受信電力であり,実際には室内などでは 1/R2よりも大きい 1/R4で減衰することが一般に知られている.したがって,放送電波によって得られる電力は非常に微弱であり,µWオーダーの電力である.したがって,無線通信を行なう行なうためにに必要なエネルギーが貯まるまで,長時間にわたって充電を行う.環境電磁界をエネルギー源とすると,二次電池を充電するほどの大きな電流が得られないため,エネルギーをためる方法として電界コンデンサや電気二重層コンデンサを使う事が想定される.

4 電力管理手法一般的なエネルギーハーベスティングセンサネット

ワークのノードは,発電をする Energy Harvester デバイス,エネルギーを蓄える Energy Storage ,マイコンと無線通信モジュールの Load で構成される.(図 2)エネルギーハーベスティングにより得られる電力は,

発電量が小さい.また,配置場所や時間変動による影響が大きく電力の安定供給が難しい.したがって従来のアプローチとしては,充電回路を搭載する事により電源を安定化させ,ある程度安定な電力を確保し,省電力で動作するネットワークプロトコルを利用するのが一般的である.それでも実装が困難な状況が多いため,エネルギーハーベスティングのエネルギー源に合わせてネットワークプロトコルや,ソフトウェアに改良を加えてノードを構成するのが常識となっている.

Fig. 2: diagrammatic illustration of a Energy Harvest-ing System

4.1 プロトコルによる電力管理このような理由から,様々な目的のための改良型プ

ロトコルが数多く存在し,通信プロトコルの標準化が難しい状況が生じている.センサネットワークでは,センサノードを間欠的に稼働させる事により低消費電力を

実現できる.このような低動作周期のセンサネットワークにとって有効な省電力方式としては,通信を行なわない時間はプロセッサやRF回路をスリープさせる事である.図 3は CC2500を使った送受信の消費電流を示した物である.無線通信においては,送信にも受信にもほぼ同程度の電力を消費する.したがって,消費電力を押さえるためには,RF回路をスリープさせる必要がある.送信時には数十 mA前後の電力を必要とするノードでも,スリープ中の消費電力はその千分の一以下の数十から数 uAの消費電力に抑える事が可能である.したがって,ノードの動作周期を低く設定し,RF回路やプロセッサをスリープ状態にする事ができるネットワークプロトコルを考えなければならない.また,RF回路やプロセッサの状態がスリープ状態からアクティブ状態へと遷移するときのウェイクアップ時間を考慮しなければならないため,単純にスリープ状態とアクティブ状態を繰り返せば良いという物でもない.したがって頻繁にスリープ状態とアクティブな状態に入る事は非効率的であるという側面もある.

Fig. 3: Example of consumption current when usingMS430RF2500[4]

4.1.1 センサノードでの電力管理Kansal et al.が提案した Energy Neutral Operation

の概念によると,エネルギーハーベスティングによって獲得する電力に応じてノードでの負荷を決定すると充放電のロスが減り,エネルギーの利用効率が向上するという研究がされている [?].したがって,同じ電力でより多くの回数センシングを行いデータを送信する事がノードの電力管理の鍵となる.そこで,エネルギーハーベスティングによって得られる限られた電力のなかでEnergy Neutralを満たすようなセンシング回数を最大

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5. 環境電磁界からの電力再生を用いた 無線センサネットワーク 4

化するための電力管理手法を提案する.前提条件として,容量の大きい二次電池ではなく,電

界コンデンサや電気二重層コンデンサに電荷をためる事を想定している.電界コンデンサの両端の電圧を測定する事により,電

界コンデンサに貯まっている電荷は Q = CV と決定できる.コンデンサの電圧を測定し,その結果十分に電荷が貯まっていればメインタスクを実行するという動作を一定間隔毎に繰り返すことにより,Energy NeutralOperationを達成できる.しかしながら,電圧を測定する頻度が高すぎる場合には電圧測定という電力管理のために消費する電力が増加してしまう.また,電圧測定の頻度が低い場合は,エネルギーハーベスティングによって発電できるエネルギーを無駄にしてしまう事になる.したがって,最適な頻度で電圧を測定することがEnergy Neutral Operationを実行するために必要である.最適な頻度で電力管理動作を行なうための手法を提案する.時間間隔をあけてコンデンサ電圧を測定することに

より,Q1 −Q0 = C(V1 − V0) から前回の測定電圧との差分からエネルギーハーベスティングによる発電量を計算する事ができる.コンデンサ容量は回路設計時に決定される既知の定数であるため,前回との差分から次タスクを実行する事ができる時刻を推定する事ができる.実際には,電圧を測定するタスク自体も電力を消費

するため,できるだけ電圧の確認回数を減らす事が望ましい.実測では,メインタスクであるデータ送受信時の約 3%の電力が一回の電圧測定で消費された.そこで,さらに電力管理によるオーバヘッドを削減

する取り組みを行なっている.定常状態と電源投入後から安定した状態までの過渡状態,の2状態を定義する.過渡状態ではより少ないセンシング回数で獲得電力の特性を取得し,定常状態では,サンプリングの頻度を獲得電力のパターンに合わせるようにノードのデューティサイクルに補正を加える.それぞれの動作の仕組みを図4,図 5にしめす.青い矢印が電圧を測定する点で,赤い矢印が予測したい時刻の点である.過渡状態では,電圧測定の結果からエネルギーが十分に貯まる頃合いを推定する.また,定常状態ではメインタスクの実行時に合わせて電圧を測定し,電力管理によるオーバーヘッドを削減する.

5 環境電磁界からの電力再生を用いた無線センサネットワーク環境電磁界からの電力再生で得られる電力は非常に

小さく,時間的・空間的変動が大きいため,無線ネット

Fig. 4: Activating timing prediction method (transientstate)

Fig. 5: Activation timing prediction method (steadystate)

ワークを形成するには上述のようなMACプロトコルを利用する必要がある.また,無線センサネットワークのノードでは実行タスクに応じて消費電力が大きく変動するため,電力管理をする必要がある.初期評価として,実際に上述のようなプロトコルを

搭載する前にマスタ/スレーブ型のネットワークプロトコルを使い,センシングした温度情報などを集めるプロトタイプを実装した.このプロトタイプは 5秒に 1回温度計測を行い,2.4GHz の無線を利用してセンサ情報を約 5m 離れたノードへ送信することが可能である.プロトタイプの実装と,それによって明らかになった課題について述べる.

5.1 ハードウェア構成

実装したセンサノードは,レクテナ,マイコン,通信モジュールからなる.使用したレクテナ回路は地上波デジタル放送用アンテナ,整合回路,整流回路からなり図 6,地上波デジタル放送で使われているUHF電波を直流に変換することができる.マイコンと通信モジュールは太陽光によるエネルギーハーベスティングセンサネットワーク向けに開発されたキットである eZ430-RF2500[5]からMSP430F2274マイコンと通信モジュール CC2500を利用した.MSP430F2274は 16bitの超低消費電力マイコンであり,CC2500は 2.4GHzのトランシーバである.実験ではレクテナ出力をコンデンサに接続し,電力

をコンデンサに蓄え, マイコンに供給した (図 7).エンドデバイスはセンシング直後に温度と電圧のセンサ情報合計 3バイトをアクセスポイントに送信する.1回の通信に最低限必要なコンデンサ容量Cminは,通信時間

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5. 環境電磁界からの電力再生を用いた 無線センサネットワーク 5

Fig. 6: Equipments used for this Experiment

T,平均消費電流 Ia,レクテナ出力電圧 Vout,マイコン動作可能最小電圧 Vmin によって決定できる.

Cmin ≥ Ia × T

Vout − Vmin(2)

電源電圧 3.6V の時のパラメータは以下である:Ia=13.14mA,T=3.4ms,Vmin=2.0V.したがって,Vout=3.6Vとした場合 Cmin ≥ 27.91µF と計算できる.そこで,レクテナ出力が 3.6Vに満たない状況も想定し今回電力をバッファするコンデンサの容量を 100µF とした.ノードのデューティサイクルはレクテナの出力電力によって決まる.電解コンデンサにエネルギーをためる事により,リ

チウムイオン電池やニッケル水素を利用する場合に比べ高い放電効率を目指している.

Fig. 7: simplified schematic of the RF Energy Harvest-ing Node

5.2 通信プロトコル初期段階の評価として通信プロトコルにはSimpliciTI

を用い,スター型のトポロジのネットワークを構成した.SimpliciTIはTexasInstrumentsが開発している256ノード以下の小規模なRFネットワークを対象にしたプロトコルである.SimpliciTIによるネットワークは,アクセスポイント,リピーター,エンドデバイスで構成される.エンドデバイスで計測したデータを定期的にアクセスポイントに送信することでデータを収集する.小規模なネットワークであれば,MSP430上で SimpliciTI

を使うことにより,RTOS上で Zigbeeを利用するよりも少ないリソースでセンサネットワークを構築することが可能である.

5.3 実験環境実験は,芝公園内の東京タワーから距離 500mの地点

で行った (図 8).実験を行った地点での電界強度の分布をスペクトルアナライザで測定した結果を図 9に示す.地上波アナログ放送と地上波デジタル放送の放送用途の電波が強く観測されている.同地点でレクテナ出力に10kΩの負荷を接続した時の電力は 315µW であった.

Fig. 8: The location where we did the mesurement

Fig. 9: Field Intensity at the location the Experimentwas conducted

5.4 実験実験ではアクセスポイント 1台とエンドデバイス 2

台を使い,スター型のネットワークを構成した.アクセスポイントは USBでノートパソコンに接続し,エンドデバイスでのセンサ情報を受信する.また,2台のエンドデバイスのうち 1台は電池で駆動させ,1秒おきに周囲の温度と電源電圧を収集しデータをアクセスポイン

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6. 関連研究 6

トへ送信する.もう 1台のエンドデバイスは環境電磁界からの再生エネルギーで駆動させ,5秒おきにデータを収集してアクセスポイントへ送信する.センシングする値は,温度の情報と供給電源の電圧の情報あわせて 3バイトである.

5.5 結果と考察レクテナの出力は数百 µW 程度であるので,通信に

必要な電力がコンデンサに貯まるまで待つ必要がある.5秒に 1回通信を行った場合の電力をバッファしているコンデンサの電圧変化を測定した (図 10).通信を行った直後には電圧が 2.9V から 2.4V まで低下するが,5秒の間に少しずつ充電され 2.9V に到達する様子が確認できる.

Fig. 10: The capacitor voltage at the node workingevery 5 seconds

5.6 まとめと課題初期評価として,MSP430でマスター/スレーブ接

続型の SimpliciTIプロトコルを使い,実際に無線センサネットワークを構築した.放送電波の強い,東京タワー近郊であれば,スリープ期間とアクティブな期間を2000:1のデューティ比でノードを駆動する事が可能である事が示された.問題点として,今回使用した整流回路は,昇圧機能のない倍電圧整流回路であるので,東京タワーから遠ざかるとノードの最低動作電圧を満たさない事が問題としてあげられる.また,電波環境は時間変動するため,今回のように毎回 5秒毎に通信を行なってもノードが動作するとは限らない.したがって,通信するためのエネルギーが十分に残っているか管理しなければならない.

6 関連研究6.1 環境電磁界からの電力再生これまでにも環境電波から電力を再生した例と

しては,Intel Research の Wireless Ambient RadioPower(WARP)と呼ばれる技術がある [6].八木アンテナと整合回路,4段のコッククロフト・ウォルトン回路を組み合わせることにより電波塔から約 4km離れた地

点で最大 60µW の電力を消費するデジタル温度計を動作することに成功している (図 11).

Fig. 11: Operating a temperature and humidity me-ter (including LCD display) using only ambient RFpower.[6]

また,NEC[?],電気通信大学のCheng et al[10]は蛍光灯のインバーター回路から発生する電磁波ノイズからの電力再生に取り組んでいる.電気通信大学では発電した電力で赤外線センサやマイコンを使いセンサネットワークの構築に取り組んでいる.

6.2 ノード単位の電力管理手法

ノード単位の電力管理手法としては,様々な提案がされているが,Kansal et al.が提案した Energy NeutralOperationという概念がある [?].この概念では,エネルギーハーベスティングによって得られる電力とセンサノードでの負荷 (仕事)の均衡を保つ事によって永続的な動作をする事ができるという事が示されている.以下にこの概念について説明する.通常,太陽電池などエネルギーハーベスティングに

よって得られたエネルギーはコンデンサや二次電池などに蓄えられる.マイコンはそれらに蓄えられたエネルギーを消費する.時刻 tにおいて,エネルギーハーベスティングによって得られた電力 Ps(t),負荷で消費される電力 Pc(t)とすると,Ps(t)≧ Pc(t)が任意の tで成

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7. まとめと今後の課題 7

立すれば電力をためずにその場で消費すれば充放電をしなくてよいのでエネルギーをためる必用はない.一方,Ps(t)< Pc(t)の場合は,負荷を駆動するためのエネルギーが不足するのでマイコンをスリープ状態にしてエネルギーが貯まるのを待つ.すでに貯まっているエネルギーを B0 として,∫ T

0

Pc(t)dt≦∫ T

0

Ps(t)dt + B0∀ T ∈ [0,∞) (3)

を満たすように Pc(t) を制御する必要がある.所望の性能レベルが永久に維持できるとき「Energy NeutralOperation」状態にあると定義される.

Kansal et al.はこの Energy Neutralな状態を保つため,太陽電池での発電量を予測する方式を提案した.指数加重移動平均フィルタを用い,過去の太陽電池の発電量をサンプル点として用い,太陽電池による1日の発電量を予測する方式を提案した.30分毎に発電量を調べ,1日あたり 48個の電力サンプルを取得し,そのデータから発電可能な電力量を予測する.この手法により,ノード配置などによって想定した電力と実際の電力に差異が生じた場合にもセンサノードは動作し続ける事が可能である.Kansal et al.の手法は,太陽電池を対象とした電力管理手法である.

6.3 ネットワークプロトコルによる電力管理

無線センサネットワークにおけるMACプロトコルは消費エネルギー削減のための大きな課題である.そのようなプロトコルはTDMA,Low Power Listening(LPL),Scheduled Contentionの3つに大別される.

TDMAは,同じ周波数帯の電波を時間軸で分割し,分割した各時間(タイムスロット)を各ユーザに割り当てる方式である.TDMAを使う場合は,自分の通信に関与しない時間はノードをスリープさせる事が可能であるため,省電力に有効な方式である.その一方,各ノード間の通信スケジュールの決定のためのコストがかかるという問題が生じる.そのため,エネルギーハーベスティング無線センサネットワークのようなノード毎に得られる電力に差がある場合の実行は難しい.また,受信者は常にアクティブな状態で受信を待たなければならないので,多様なネットワーク形態に対応するのは難しい.

LPLでは,受信ノードは一定周期毎にアクティブ状態になり無線チャンネルを監視し,送信者が居た場合は受信待機状態に入る.データ送信時には,受信ノードのスリープ間隔より長いプリアンブルを送信前につけることで,受信ノードの電力消費を軽減する.

Scheduled Contentionでは,ノードはあらかじめ設定されたアクティブ期間とスリープ期間のサイクルに合わせ,アクティブ期間の中で CSMA/CAを行いデータを送信する事でエネルギー削減を実現する [7].

LPL以外のTDMA,Scheduled Contentionではノード同士で時刻同期を行なっておく必要がある.また,TDMA以外の LPL,Scheduled Contentionでは全ノードが一定の間隔でアクティブとなる必要がある.環境電磁界からの電力再生を利用したエネルギーハー

ベスティング無線センサネットワークを考える場合,1回の送信または受信に要する電力を充電するのに要する時間が長い.したがって,アクティブ状態期間に比べ長い時間べスリープ状態となる必要がある.このような電力事情から,非同期型の通信をすることは,データ送信時に多大な電力消費を発生するため非現実的であるため,同期型通信をする必要がある.また,エネルギーハーベスティングは獲得電力が安定しているとは限らない.そこで,図 12のように Scheduled Contention方式

を採用し,全ノードが同時に起動しているとは限らない状況を想定してネットワークを構成する方式を想定する.この方式を用いる場合,動的にアクティブになるスロットを決定する必要がある.ノードの電力が不足している場合は,アクティブになる頻度を下げる事で,電力をマネージメントするプロトコルを利用するベきである.

Fig. 12: An example of a scheduled contention MACprotocol

7 まとめと今後の課題エネルギーハーベスティングによって電力を獲得す

る場合では,配置場所によってノード間で獲得電力のばらつきが生じる事や,時間変動によっても獲得電力にばらつきが生じる.したがって,環境電磁界からの電力再生のように獲得できる電力の量が限定的な場合においては,獲得電力量に応じて間欠動作周期を変更するようなプロトコルを用いる必要がある.したがって,その

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参考文献 8

ような間欠動作をする通信プロトコルを採用する場合,ノード間で時刻同期をする方法や,間欠動作周期を動的に決めるためのパラメータを決定する必要がある.提案手法により,電力を消費する主なタスクである無線通信以外のセンシングなどのタスクについても,より少ない電力でセンシング回数を最大化できる.今後は,環境電磁界からの電力再生を利用した無線

センサネットワークのための省電力の通信プロトコルとして,ノードがアクティブ状態の期間とスリープ状態の期間を決定する同期型の通信プロトコルを想定する.この想定するプロトコルにおいて,ノードのデューティサイクルを決定するための手法について取り組む予定である.

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