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fNIRS の原理とデータ処理方法 宮嶋めぐみ 廣安 知之 山本 詩子 2014 10 3 IS Report No. 20141003 Report Medical Information System Labratry

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fNIRSの原理とデータ処理方法   

宮嶋めぐみ 廣安 知之 山本 詩子   

2014年 10月 3日   

IS Report No. 20141003   

ReportMedical Information  

System Labratry  

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Abstract

人の脳が神経活動を行う時,神経血管カップリングにより脳血管が拡張し脳血流が増加する.神経

血管カップリングとは,脳神経活動による酸素代謝およびグルコース代謝の亢進に伴い脳血流が拡

張し脳血流が上昇する仕組みのことである.この仕組みにより,脳機能イメージング法の一つである

fNIRSで神経活動時の脳血流変化を測定することができる.fNIRSデータにはフィルタ処理,移動平

均処理,ベースライン処理,加算平均処理などの処理方法があり,生理的ノイズの除去や波形を明瞭

化する事ができる.しかし,データ処理により除去してはならないデータも消失してしまう可能性が

ある.そのため,解析を始める時は処理を行う前のデータから検討する必要があり,3D Topography

画像表示を行い全体的な脳活動の様子を時間経過と共に検討していく事が大切である.

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目 次

第 1章 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2

第 2章 神経血管カップリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

第 3章 fNIRS原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

第 4章 fNIRSデータ処理方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

4.1 フィルタ処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

4.2 移動平均処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

4.3 ベースライン処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

4.4 加算平均処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

第 5章 3D Topographyの表示方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

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第 1章 はじめに

脳機能イメージング法は,計測する信号により二つの方法に分類される.一つは神経活動の一次信

号である電気的信号で測定する方法であり,たとえば脳波や誘発脳電位,あるいは脳磁図は神経の電

気的信号を測定している.もう一つの方法は神経活動の二次信号である神経活動に伴った脳循環代謝

変化を測定する方法である.fNIRS(functinal near infrared spectroscopy)は神経活動時のヘモグロビ

ン酸素化状態の変化という二次信号を計測する脳機能イメージング法である.本稿では,神経活動時

の神経血管カップリングによる局在脳血流変化および酸素代謝変化について解説し,NIRSの原理と

データ処理方法について述べる.しかし,様々なデータ処理を行う事で細かい脳血流反応変化が消失

してしまうことや,明確に定義されていない生理的ノイズを取り除く事で,正確な計測データを得ら

れない可能性がある.そのため,処理を行う前の脳血流データを見る事が大切であり,データを 3D

化された被験者の頭部に表示し,血流変化の動きを見る事が可能な 3Dトポグラフィー表示方法につ

いて述べる.

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第 2章 神経血管カップリング

神経活動時に,神経血管カップリングに基づく脳血管の拡張により脳血流が増加することは 19世

紀後半から Sherringtonらにより指摘されていた.神経血管カプリングとは,脳神経活動による酸素

代謝およびグルコース代謝の亢進に伴い脳血流が拡張し脳血流が上昇する仕組みのことである.この

生理学的メカニズムについては,アストロサイトという血管拡張反応に関与していることが指摘され

ている.アストロサイトは,古くから脳組織の恒常性を維持するために存在すると考えられていたが,

アストロサイトにはグルタミン酸受容体があり,また,グルタミン酸トランスポーターによってアス

トロサイト内に取り込まれたグルタミン酸をグルタミンに変えて神経細胞に戻す機能も担っている.

Zontaらは,神経細胞から放出されたグルタミン酸がアストロサイトのグルタミン酸受容体に結合し

て細胞内のCa濃度が上昇し,アストロサイトからプロスタグラジン(PG)が産生され,血管に密接

するアストロサイトの突起部分からPGが放出されて血管拡張が生じると提唱した.脳神経活動時に

ニューロンが活動し,酸素やグルコースのエネルギー消費を活発に行う.アストロサイトはニューロ

ンにエネルギーを供給するため毛細血管よりエネルギーを吸収するようになり,神経血管カップリン

グにより血管が拡張し,血流量が増加する仕組みになっている 1) 2) . Fig. 2.1に神経活動に伴う脳血

流増加の仕組みを示す.

Fig. 2.1 神経血管カップリングによる脳血流増加 (参考文献 1) を参考に自作)

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第 3章 fNIRS原理

近赤外光を照射し,酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)の吸収

スペクトルの違いから濃度変化を測定する.波長が 700~900nmの近赤外光の波長域での光の吸収

は,主に酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンによって生じるが,両者は異なる吸収スペクト

ルを持つ.このため,酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンのモル分子吸光係数が既知であれ

ば,2波長以上での吸光度変化を計測することで酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度

変化を算出することが可能となる.チャンネルは 3cmの間隔で設置されており,表皮から 3~4cmの

深さまで計測することが可能である.fNIRSの長所として,計測が容易である,時間分解能に優れて

いる,MRIに比べて可搬性が高い事が挙げられる.また,短所として,MRIに比べて空間分解能が

低く,脳深部の計測が不可能である事が挙げられる 3) .Fig. 3.1に fNIRS原理の概要図を示す.

Fig. 3.1 fNIRS原理の概要図 (参考文献 2) を参考に自作)

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第 4章 fNIRSデータ処理方法

4.1 フィルタ処理

フィルタ処理とは目的の周波数成分を取り除く処理方法である.フィルタの種類は3つあり,LPF(Low-

pass filter),HPF(High-pass filter),BPF(Band-pass filter)である.LPFは低域周波数のみを通過さ

せるフィルタのことであり,HPFは高域周波数のみを通過させるフィルタのことである.また,BPF

は特定の周波数の範囲のみを通過させるフィルタのことである.生理的ノイズである心拍,脈拍はお

よそ 1~1.5Hzであり,LPF1.0Hzかけることによりノイズの除去を行う.Fig. 4.1にフィルタ処理の

概要図を示す.

Fig. 4.1 フィルタ処理の概要図 (参考文献 2) を参考に自作)

4.2 移動平均処理

移動平均処理とは細かく変動している時系列データを平滑化する処理方法である.例えば 3サンプ

ルで移動平均処理を行う場合,測定した時間のデータとその前後の時間のデータを足して 3で割り,

平均値をプロットしていくことで時系列データを平滑化し,血流変化を見やすくしている.Fig. 4.2

に移動平均処理の概要図を示す.

Fig. 4.2 移動平均処理の概要図 (参考文献 2) を参考に自作)

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4.3ベースライン処理 第 4 章 fNIRSデータ処理方法

4.3 ベースライン処理

ベースライン処理とは,課題に対する反応の変化を明確にする処理方法である.Fig. 4.3(a)に示す

ように,生体のゆらぎの影響によって脳血流の反応前と反応後では反応の変化が不明確である.そこ

で反応直前と反応直後の期間における FittingLineを算出することでそれぞれのタスク間において同

一条件での解析が可能となる.FittingLineには最小二乗法より数値の組から想定される近似曲線な

どが用いられる.反応前と反応後の数値の組より垂線の距離の二乗和が最小となる近似曲線 y=ax+b

が決定する.Fig. 4.3(b)に FittingLine算出方法の概要図を示す.

(a) ベースライン処理前,処理後の脳血流

データ

(b) FittingLineの算出方法

Fig. 4.3 ベースライン処理の概要図 (参考文献 2) を参考に自作)

4.4 加算平均処理

加算平均処理とは,複数回刺激を繰り返し,その結果を加算して平均値をとる処理方法である.こ

の処理を行うことにより,タスクの刺激による脳血流変化が明瞭化され,見やすくなるという利点が

ある.しかし,加算する刺激の数を多くすると,眠気や緊張など心理的要因の影響で目標の反応が消

失する可能性があるので注意する必要がある.Fig. 4.4に加算平均処理の概要図を示す.

Fig. 4.4 加算平均処理の概要図 (参考文献 2) を参考に自作)

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第 5章 3D Topographyの表示方法

1. 波形解析ソフトであるMATLABを起動させ,コマンドウィンドウの一行目に”cd c:TSP”,二

行目に”topo”と入力し,”Enter”を押す.Fig. 5.1に示す.

2. 新たなウィンドが表示され,”DataLoad”を押し,脳血流データの読み込みを行う.Fig. 5.2に

示す.

3. 脳血流データが入っているファイルを開き,MESデータをどれか一つ選択する.Fig. 5.3に

示す.

4. 2で表示されたウィンドの”Continue Hb”を押す.Fig. 5.4に示す.

5. 5つの新たなウィンドが表示され,”3D Topography”を押し,TSPファイルから”001.pos”の磁

気計測データを読み込む.Fig. 5.5に示す.

6. 3D Topography画像が表示される.ウィンド画面下部に表示されている時間の計測データが表

示される.時間を変更したい場合は”Stop”を押し,5で表示されたウィンド下部のバーを動か

すことで見たい観測時間の 3D Topography画像が表示される.Fig. 5.6に示す.

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第 5 章 3D Topographyの表示方法

Fig. 5.1 MATLABの起動

Fig. 5.2 脳血流データの読み込み

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第 5 章 3D Topographyの表示方法

Fig. 5.3 MESデータの読み込み

Fig. 5.4 Hbデータの読み込み

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第 5 章 3D Topographyの表示方法

Fig. 5.5 磁気計測データの読み込み

Fig. 5.6 3D Topography画像の表示

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参考文献

1) 岡田 英史,星 詳子,宮井 一郎,渡辺 英寿. NIRS-基礎と臨床-. 新興医学出版社, 第一版発

行, 2012.

2) 福田正人. 精神疾患とNIRS-光トポグラフィー検査による脳機能イメージング-. 中山書店, 第一刷

発行, 2009.

3) 灰田宗考. Nirs(信号変化の原理と臨床応用). 脳循環代謝 17, pp. 1–10, 2005.

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