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2008年度,修士論文,大塚佑治

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Page 1: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

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A Model of Touching Behaviors on Personal Belongings by Ring-Type RFID Reader in Houses

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Page 3: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

指輪型RFID リーダーを用いた住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

A Model of Touching Behaviors on Personal Belongings by Ring-Type RFID Reader in Houses

大塚 佑治Yuji OTSUKA

Page 4: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

はじめに

Page 5: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

はじめに

はじめに

 人類は " モノ " を作り出し使うことによって他の生物から脱した唯一の生物としてその地位を確立した。それ

までの生物は環境に合うことのできた突然変異の個体の繁殖により、その生物の形体を変え続けることにより、

その遺伝子を後世へとつないでいた。いわゆる " 進化 " により、その遺伝子を伝達することを行ってきた。そし

てほぼ全ての生物は今も尚そのようにし、この地球上で生き続け、遺伝子を後世へと伝えている。しかし、人類

は彼らとはまったく異なることを行った。“ モノ " を作り出し、それらを使うという形体を " 進化 " により手に

入れたことにより、人類は自らの形体を変えることなく、"モノ " に " 進化 " を与えることにより、擬似的に "進

化 " し、この地球上を生き続けている。生物である人類から飛び出した "モノ " は、人類により "進化 " させられ、

人類に付属する新たなる生物かのように、この地球上に生きているのである。それはまるで遺伝子を伝えるため

の器である生物が進化するように、人類を伝えるための器として進化している。

 生物の体の部分と遺伝子が関係し合っているのと同様に、それぞれの " モノ " と人間は関係し合っている。"

モノ " を見れば、人間がわかる。人間を見れば、" モノ " がわかる。遺伝子が単体で存在できないのと同様、人

間はもはや " モノ " から離れて存在することはできない。" モノ " が人間から離れたとき、それは人類という遺

伝子が最後のときを迎えたときではないだろうか。

 一方、その人類は自らが行った歴史を綴り後世に伝えることにより、また、他の人間を観察比較することによ

り、自らの存在を表現し改善することを行ってきた。それは、道具としての " モノ " だけでなく、情報としての

"モノ ” を作り出し " 進化 " を与えることに他ならない。人類がつくりだした "モノ " は形があるとは限らないの

である。そして、つくられた全ての " モノ " により、人類は今もなお生き続けて、全ての生物の頂点にいるかの

ように振る舞っている。どのような生物の生も死も、人類の手中におさめられたのである。そして、その中の遺

伝子さえも最早、人類の手中におさめられたのである。

 この人類による " モノ " の " 進化 " は今後も続くだろう。そしていつか、遺伝子が " モノ " をつくりだす人類

を誕生させてしまったときのように、" モノ " の中に " 進化 " を与える存在を人類は誕生させてしまうのではな

いだろうか。いや、それは最早 " いつか " ではない。それはすぐそこにあり、今、着実に誕生し始めている。"

進化 " を与えることのできる " モノ " が誕生したとき、人類が他の生物を手中におさめたように、その新たなる

"モノ " は全ての " モノ " を手中におさめるのだろうか。そして、その中にいる "人類 " をも手中におさめてしま

うのだろうか。

 " 進化 " は誰にも止められない。なぜなら、" 進化 " は生きることそのものだからである。" モノ " が最後を迎

えるとき、" 人類 " が最後を迎えるとき、" 遺伝子 " が最後を迎えるとき、そこには何があるのだろうか。この "

伝達 " の最後に迎えるものはなんであろうか。だが、最後は最後の者が見ればいい。我々はただ、後へと伝達し

続ければいいのである。ただ我々は生き続ければいいのだから。

Page 6: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

もくじ

はじめに

目次

1. 研究概要

  1-1. 研究目的

  1-2. 研究の流れ

  1-3. 用語定義

2. 研究背景

  2-1 住宅・人間・モノ

2-1-1. 人類の誕生とモノと家

2-1-2. 現在までの住空間におけるモノへの視点

2-1-3. 今和次郎の考現学

  2-2. 情報化社会

2-2-1. 情報化社会

2-2-2. ユビキタスからアンビエントへ

  2-3. 情報化 ( アンビエント ) 建築

2-3-1. アンビエントと行動モニタリング

2-3-2. 建築空間の情報化の意義

2-3-3. 知的生産性の向上のための建築空間の情報化

2-3-4. 生活快適性向上のための建築空間の情報化

2-3-5. マーケティング・エンターテイメントのための建築空間の情報化

2-3-6. 安心・安全の提供のための建築空間の情報化

2-3-7. アンビエント建築の今後

  2-4. 行動モニタリング

2-4-1. 行動モニタリング

2-4-2.RFID

2-4-3. 行動モニタリングに使用されるその他のセンサシステム

2-4-4. 行動モニタリングシステムの比較

  2-5. ネットワーク科学

2-5-1. ネットワーク科学

2-5-2. ネットワーク科学用語定義

2-5-3. ネットワーク科学の指標

3. 実験方法・分析方法

  3-1. 実験方法

3-1-1. 実験方法

3-1-2. 実験対象概要

  3-2. 分析方法

3-2-1. 分析の流れ

3-2-2. データの分類

3-2-3. 分析方法

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もくじ

4. 実験結果

  4-1. 登録モノ数と使用モノ数と使用カテゴリー数

  4-2. 接触履歴

4-2-1. 接触履歴データ

4-2-2. 接触履歴データ量

4-2-3. 平均モノ接触数

  4-3. モノとモノの物理的距離

5. ネットワーク分析結果・考察

  5-1. ネットワークの可視化

5-1-1. 中心性を含んだネットワーク図

5-1-2. 同居人のネットワーク図の重ね合わせ

  5-2. 評価指標値

5-2-1. 密度

5-2-2. クリーク

  5-3. 中心性

5-3-1. 各種中心性

5-3-2. 入次数中心性と出次数中心性

5-3-3. モノの中心性

5-3-4. カテゴリーの次数中心性と媒介中心性

6. 確率モデル結果・考察

  6-1. 全日・外出前・帰宅後の単純マルコフ連鎖及びニ重マルコフ連鎖

6-1-1. 全日・外出前・帰宅後の単純マルコフ連鎖及びニ重マルコフ連鎖による遷移確率表

6-1-2. 全日・外出前・帰宅後の単純マルコフ連鎖及びニ重マルコフ連鎖による整合率

  6-2. カテゴリー別の単純マルコフ連鎖から四重マルコフ連鎖

6-2-1. カテゴリー別の単純マルコフ連鎖及び四重マルコフ連鎖による遷移確率表

6-2-2. カテゴリー別の単純マルコフ連鎖及び四重マルコフ連鎖による整合率

7. 接触行動シミュレーション

  7-1. システム概要

  7-2. 空間の変化による行動予測

7-2-1. 空間の変化量

7-2-2. 行動予測結果

8. まとめ

  8-1. まとめ

  8-2. 展望

8-2-1. 指輪型 RFID リーダによる行動モニタリングの課題

8-2-2. 行動予測システムの課題

おわりに

謝辞

参考文献

資料編(添付DVD)

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1. 研究概要

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1. 研究概要

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1.1 研究目的

 RFID タグを用いて人とモノとの接触行動を記録することにより、自動的に接触行動モデルを構築するシステ

ムを作り、その妥当性を検証する。

 また、接触行動をネットワーク図として表現・分析し、モノの配置やネットワーク指標値を加えた接触行動モ

デルを作成し、そのモデルによるシミュレーションを構築することを目的とする。

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1. 研究概要

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1.2. 研究の流れ

 以下に研究の流れを示す(図 1-2)。

図 1-2 研究の流れ

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1. 研究概要

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1.3. 用語定義

 以下に本論における用語定義を記す。ネットワーク科学の用語定義に関しては、「2-5-2. ネットワーク科学用

語定義」で取り扱う。

●モノ

主に住宅内にある生活財のこと。生活を行うために使用する用具のこと。空間に付属するスイッチ ( 電灯、給湯、

換気扇等 ) やドアノブ、収納棚も含まれる。

●アンビエント空間

「いつでも、どこでも、だれでも」というコンセプトで空間における人間が情報にアクセスできる「ユビキタス空間」

に対し、アンビエント空間は「今だから、どこだから、だれだから」というコンセプトの下に空間内のコンピュー

タの方から人間に対してアクセスをし、有益な情報・サービスを提供していくれる空間。

●行動モニタリング

人間や動物の行動を観察し、その行動についてモデル化やシミュレーションを行うことで把握し、行動の一連を

体系化すること。

●接触行動

ヒトが手によってモノを触ること。従って、単に「座る」などの動作だけでは「触れる」ことにはならないが、

椅子を手でひいて座った場合は「触れる」こととなる。

●接触履歴データ

接触行動の履歴。住宅内において人間が生活している中で、どのようなモノとどのような順序で接触しているの

かという情報。

●指輪型 RFID リーダ

ヒトとモノとの接触行動履歴を記録する際に被験者が装着する RFID リーダのこと。ウェルキャット社製の市販

されている製品 (13.56MHz 帯、アンテナ部分 : 約 13mmφ、送信出力 :50mW) を用いる。被験者はこれを利き

手の中指等に装着し、身の回りのモノに貼られた RFID タグに触れることでタグの ID データを取得する。デー

タは Bluetooth 経由で PCに転送される。

●物理的距離 (mm)

実在空間におけるモノとモノの間の長さやそれらの総数。複雑ネットワークにおける距離は、「2-5-2. 複雑ネッ

トワーク用語定義」参照のこと。

●整合率 (%):

予測の精度を表す値。検証用の実測データによるモノからモノへの遷移と接触情報データベースを比較すること

で、接触情報データベースがどの程度次にアクセスするモノを予測出来ているのかを示す。  

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2. 研究背景

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2. 研究背景

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2-1 住宅・人間・モノ

2-1-1. 人類の誕生とモノ

 人とモノ、人と家、モノと家との関係は何であろうか。まず、それを解明するためには人とは何であるのか、

モノとは何であるのか、住宅とは何であるのかについて考える必要がある。そこでまず、人類学や生物学におけ

る人、モノ、住宅について考えたい。

 人はもちろんのこと動物である。そのため、ライオンやチーターがネコ科であるように人も分類される。” ヒ

ト ” はヒト科として扱われている。そして、ヒトはヒト科に属する唯一の現生種である。つまり、人類は他の動

物とは異なる独立した動物なのである。では、ヒトを他の動物種から明確に区別する特性はどのようなものであ

るのだろうか。ヒトは高度な知性を持っている。しかし、これはその決定的な特性とはなりえないと言われている。

その理由の一つは、動物の進化の全課程を通じてこの特性が一度しか出現していなかったことの説明がつかない

ためである。例えば、自然選択の一つである飛翔という行動様式は、これまでに少なくとも、三度、昆虫類、鳥

類、翼手類において出現した。また一つの理由は、約 540 万年前にアフリカで誕生した最古のヒト科であるア

ウストラロピテクス類の脳は、現代人の脳の三分の一ほどの大きさしかなかったため、ヒトが高度な知性を持っ

ているということを言えないためである ( 図 2-1-1-1)1)。

 では、どのような特性がヒトを他の動物から独立した動物としたのだろうか。ヒトが持つ特性として、二足歩行、

言語能力、性行動メカニズム、家族の形成、成長期間の長期化、道具の使用と制作、火を操る能力などがあげら

れる 2)。しかし、二足歩行の進化にせよ、その他の特性にせよ、その証拠を手に入れるのは容易ではない。また

諸説あり、どの特性がヒトを独自の動物として確立したものと決定できるものではない。つまり、ヒトというも

のを明確に示すものは今のところないのである。しかし、その中でも二足歩行というものは大きな意味を持ち評

価されている 3)。ヒトの祖先はきわめて早い時期に二足歩行に移行しており、このことが人類のあらゆる進化的

変化の中で最も決定的な役割を果たした可能性があると考えられている。体重を支えるために使われていた四肢

の足の内、前足二肢が独立し手となり、後足二肢が体重を支え移動するためのものとなった。このことが人類の

発達に大きな影響を及ぼすこととなる知性の発達、つまり脳の発達に繋がったとも言われている。手の独立によ

り道具の制作や使用が進む要因になったとも言われ、また、二足歩行は長距離の移動に適しており、生活圏を森

からその外部まで広げ、地球上のあらゆる場所までヒトの生活圏を広げていった要因とも言われている 4)。だが、

二足歩行となった要因は諸説あり、未だに解明されていないがために二足歩行がヒトというものを明確に示すも

のとして言えないのである。しかし、このような点から、ヒトは少なからず二足歩行をすることによって飛躍的

な進化の第一歩を踏み出したのだと言えよう。

 かつて専門家の間では、二足歩行への移行が早い時期にもたらした利点の最たるものは、道具、特に武器をつ

くれるようになったことであるという考え方が有力であった。しかし、アウストラロピテクス類が出現してから

100 万年以上の期間にわたり、彼らが道具をつくった証拠はまったく見つかっていない。つまり、石器が見つ

かっていないのである。木のような腐りやすい道具をつくっていたとも考えられるが、おそらく、石や枝などを

そのまま使っていたのだろうと考えられる。彼らは道具を作り出すことはなく、自然物を道具として使用してい

たと考えられる。この道具を使う行動は、ヒト独自の行動であり、他の動物では行われていないと思われがちだ

が、自然界において道具を使う動物の行動が近年報告されている。例えば、ヒトに近い動物であるチンパンジー

は、木の実を石で割って食べたり、アリを捕るため巣に小枝を差し入れる様子が観察されている。鳥類であれ

ば、カラスは、固い殻を被った貝やクルミなどを高いところからコンクリート上に落としたり、道路に置き車に

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2. 研究背景

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轢かせて割って食べるという様子が観察されている。サギの一種であるササゴイは、岸辺から落ち葉や鳥の羽な

どを池に落とすことによって餌と間違って近づいてきた魚を捕まえるという疑似餌を使用する行動が観察されて

いる。実験的なものではあるが、齧歯類でも、南米産のネズミの一種であるデグーに訓練を加えたところ、前足

でくま手のような道具を自在に操り、離れた場所に置かれた餌を取れるようになったということが独立行政法人

理化学研究所により報告されている 5)。この他、様々な動物でも道具を使うところが近年報告されている。この

ように、これまでヒトだけの特性だと考えられていたモノの使用は、他の動物においても行われていることがわ

かった。では、ヒトはどのように道具を使っていたのだろうか。おそらくアウストラロピテクス類は石を投げて

狩猟をしていたのではないかと考えられている。つまり、アウストラロピテクス類が道具を使ったということは、

他の動物が道具を使うことと何ら変わらない特性なのである。つまり、ヒトが道具を使うことは他の動物とさほ

ど変わらない行動の一つであると言える。また。自然物である何かを道具として使うことに着目し、それらがヒ

トと他の動物と同様に持つ自然的な行動であることがわかったが、外部のモノではなくその個体自身が持つ内部

のモノに着目すると、道具を使うことはごく当たり前に行われている。それは、道具のように体の一部を使うと

いうことである。例えば、モグラの前足は土を掘りやすいような形状をとっており、その手を使い穴を掘る。ゾ

ウの鼻は大きな身体を養うために大量の植物を食べるため大きくなった顔を支える補助をするために長くなって

いる 6)。これらは、それらの動物の形状を決定しているものであり、その動物を特定するものとも考えられるが、

体の一部を変化させることで他の機能とは異なる特性を持たせ道具として使っているとも捉えることができる。

つまり、道具を使うということは、その個体の内外を問わなければ、すべての動物が行っていることだとも言え

るのではないだろうか。このように考えると、ヒトが道具を使うことは自然界においてはごく普通なことである

ことだということがわかる。つまり、ヒトと道具 ( モノ ) を使用することの関係は動物が元来持ち得ていた関係

であることがわかる。

 では、そのような道具を使うという行動はどのような意味を成すものなのだろうか。ヒトが道具を使うことは

手や口の延長上にあると言われている ( 図 2-1-1-2)7)。探索や対象操作といった道具的な使用を開始しつつあっ

た手に、棒や石といったモノをとることによって、手の機能が延長、強化されることを発見したと考えられてい

る。また、対象を攻撃、破壊したり、対象を保存、運搬したりする機能である口の機能を延長、強化した。これ

は、対象を操作する機能を手に転移させたことになる。そして、その機能を道具によってさらに延長、強化され

たのである。さらに手の持つ機能も道具によって延長可能になる。例えば、棒を手に持つと遠くのものをつっつ

いたり、叩いたり、引き寄せたりすることができるようになる。つまり、手は「長さ」を延長させることができ

る。また、石を手に持つと、手は「堅さ」と「重さ」を増すことで、破壊力を強化することができる。このよう

に道具を使うということは、それぞれが持つ能力を延長し、強化することだと言える。それは生命体として生き

延びるための攻撃性と防御性を求めたものだと言える。ヒトであれ、他の動物であれ、彼らが道具を使う理由と

して、食料確保のための狩猟目的と外敵から身を守る防護目的というもの考えられる。言うまでもなく、生き残

るための手段の一つである。道具を使うこととは、生き残るために動物が自らの身体の能力を内外のモノを使い、

延長、強化することであると言える。

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2. 研究背景

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 では、道具の制作ということに焦点を当てるとどうだろうか。発見されている最古のヒトの手が加わっている

道具、つまり道具の制作が見られたのは、現在のところ 250 万年前のエチオピアで発見された石器である。と

ても粗雑なスクレイパー、チョッパー、フレイクであって、ハンマーストーンによって極めて少ない打撃を加え

て作られたものである。考古学上ではこれらはオルドワン文化と呼ばれている。鋭角な石器をつくるためには、

意図的に計画し制作する必要があり、これは知能の高さを表しているとも言われている。また、その細かい制作

作業は手の器用さが必要であり、ヒトにしかできないことであるとも言われていた。

 このように道具を作ることがヒトが他の動物とは異なる点だと考えられていた。しかし、実験室や自然界にお

いて自然物や人工物を加工し、道具を作り出す動物の行動が近年、観察され発表されている。実験室での観察で

は、オックスフォード大学行動生態学研究グループでは飼育中の自然界で道具を作ることが知られているカレド

ニアカラスが人工の針金を釣り針のように変えエサを釣る様子が観察された 8)。また、自然界においてはアイオ

ワ州立大学のジル・プルーツ氏とケンブリッジ大学のパコ・ベルトラーニ氏の 2 名により、セネガルのフォン

ゴリ地区でチンパンジーの主に子供とメスが、枝を折り取り、側枝や葉をちぎって手ごろな長さにしたり、さら

に場合によっては端を歯で噛んで鋭くし、「ヤリ」状に作り、樹木の空洞などに突き刺して中を探るという、道

具を使って他の動物を狩猟するチンパンジーの姿が初めて観察された9)(図2-1-1-3)。このように、ヒトだけが行っ

ていると考えられていた道具を作り出すことは、他の動物にも観察されている。つまり、ヒトの特性だと考えら

図 2-1-1-1 アウトラピテクス類

図 2-1-1-2 手と口の延長である道具

Page 16: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

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れていた道具を作ることでさえ、他の動物が持ち得る能力なのである。

 このように見ていくと、道具を作り使うという行動はヒトだけが持ち得ているものではなく、ヒトが他の動物

とは異なるという決定的なものには成り得ないことがわかる。しかし、逆に考えると、道具、つまりモノとヒト

の関係は、自然界に存在する動物が持ちえる関係性であり、モノとヒトの関係はモノと動物の関係であるとも言

える。そのため、その関係は動物の生態という中においても強い関係性で結ばれていると言える。故にヒトの生

態を考える上でモノを考えることが重要であることがわかる。

 では、果たして本当にヒトと動物のそれぞれのモノとの関係は同じものなのだろうか。ヒトと動物のモノとの

関わりの大きな違いとして、モノの種類と所持という点が考えられるのではないだろうか。先にあげたモノを使

う動物の特性を考えてみると、どれも各動物で数個のモノしか使っておらず、同じモノを同じ用途で使い、使い

終われば処分し、また新しく使っているように思える。まず、モノの種類だが、各動物を見ると大半の動物がそ

れぞれ一つのモノしか使っていないように思う。ササゴイが疑似餌として使うモノが落ち葉や鳥の羽と異なるモ

ノを使うことはあっても、その目的は共に疑似餌である。つまり、モノの用途は変わらないため同じ種類のモノ

と考えられる。それに対し、ヒトは様々なモノを場面や行動に合わせて使い分ける。狩猟や調理のために石器を

使い、調理や保存のために土器を使っている。石器の中でも、ヤリとして使うモノ、肉を切るために使うモノ、

叩くために使うモノなど様々な種類が使い分けられている。現在のヒトのモノを考えてみても、一人が使うモノ

を考えても異常なまでの数のモノがあり、それらを使い分けていることがわかる。次にモノの所持だが、各動物

を見ると、大半の動物がモノを使うことで目的を達成すれば、そのモノは不必要になりその場でそのまま処分を

し、また必要になればどこからか持ってくるという行動をしている。例えば、「ヤリ」をつくるチンパンジーは

枝を折り取り、側枝や葉をちぎって手ごろな長さにしたり、さらに場合によっては端を歯で噛んで鋭くし、「ヤ

リ」状に作り、樹木の空洞などに突き刺して中を探るという行動は、目的を達成、または中止したときに「ヤリ」

は処分されているのではないだろうか。そして、また必要になれば、周辺にある木から適当に枝を折り取りまた

「ヤリ」をつくるのであろう。それに比べ、ヒトはモノを所持することが多いのではないだろうか。石器は所持し、

同じモノを何度も使っていたかはわかっていないが、いくつかの石器が同じ場所から発見されていることから、

ヒトは常にいくつかの石器を所持していたと考えられる。また、同様に土器も同じ場所からいくつも発見されて

いることから所持していたと考えられる。現在のヒトに着目しても、モノを所持していないヒトはおらず、全て

のヒトが多くのモノを所持している。このように考えると、ヒトがヒトである特性は、数種類のモノを作り、使

い分け、所持することであると言えるのではないだろうか。つまり、ヒトは、数種類のモノを作り使い分け所持

する動物であると言えるのではないだろうか。

図 2-1-1-3 チンパンジーが制作したヤリ状の道具

Page 17: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

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 さて、次にヒトと家の関係について考えたい。家は、ヒトが作り使い分け所持するモノの一つであると捉えら

れる。つまり何かの目的を達成するために作られ使われ所持されているモノが家であると考えられる。家は、生

物学的に言えば、巣である。巣は、「子供を産み、子供を育て、子供を外敵から守る機能を持つ装置であり、空

間である」と榎本氏は定義している 10)。この定義に従えば、家は子供を産み、育て、外敵から守る機能を持っ

たモノである。現在の家の状況を考えると、家は寝るところであるとも捉えられるが、寝るという機能は副次的

に発生したものである。ヒトは元々、家で寝ることはしていなかった。氷河時代であり、当時ヒトがいたアフリ

カは気温差が大きく朝晩は凍りつくような寒さであったがその時でさえ、家は作られていなかった。ヒトは元々、

裸であり、それまでその寒さに耐えてきている。獣皮をかぶり、火を焚けるようになれば寒さは気にならない。

また、見通しよく整備した場所で、集団で寝れば、獣も襲っては来ない。これは、他の群れをなす動物を考えれ

ば、わかるだろう。つまり、寝るということに関しては、他のモノにより補えるため、家は寝るためには必要な

かったのである。

 家をつくるということは、とても手間のかかることである。ヒトが入るためのスペースをつくる必要があるた

め、それまでに制作してきたモノよりもはるかに大きくなり、大量の材料を使い、また崩れないような工夫が必

要である。石器などは 1 日でつくることができただろうが、家は 1 日ではできない。また、定住するとなると、

衛生問題が発生する。家の中が汚れ、家の周辺には糞便がたまり、病気の原因になりうる。このように面倒な家

というものをヒトはなぜつくったのだろうか。まず一つは、先にあげたような巣としての役割があると考えられ

る。つまり、子供を産み、育て、外敵から守るためである。ヒトの子供は他の動物よりも未熟な状態で産まれ、

また成長が遅い。そのため、その時期に外敵に襲われる可能性が高いのである。巣を持つ他の動物について考え

てみると、鳥類でも哺乳類でも未熟な子供を産む動物であることがわかる。ネズミの子供は、赤裸で産まれ、耳

も目も閉じている。ネコの子供は、目が閉じており動きもぎこちない。巣は外の環境を和らげ、子供の生存のた

めの条件を整えているのである。親は子供を残して採食に出る。その間、子供は巣の中で帰りをじっと待つ。運

動能力の低い子供はこの間に外敵に襲われてしまうとひとたまりもない。そのため、巣は外敵から彼らを守る防

壁になっているのである。また、親が母乳を子供にあげているときは無防備であり、この状態を外敵から守る防

壁でもある。これらの条件をヒトの家は満たしており、家は動物の巣と同じように未熟な子供を産み、育て、外

敵から守るモノだと言える。次に考えられるのが、倉庫としての役割である。つまり、生活に必要なモノを貯え

ておくためである。自然界から採取したものの多くは、常に採取できるものではない。植物であれば、季節によ

りその姿を変え、食料としての状態でいる期間は少ない。また、動物であれば、狩猟により採取するが、常に捕

まえることができるということはない。また、冬などの食料の採取が難しい季節に備えるために、食料を貯める

必要がある。これらの行動は、動物にも見られる。例えば、アリは地下や地上に作られた巣の中に、外部で採取

した食料を貯えている。ハチは、花の蜜を採取し、それを巣に貯えている。食料を確保出来るときに、充分な食

料を巣に貯えることにより、冬などの食料確保の難しい季節を乗り越えているのである。また、巣に貯えること

により、雨風等から食料を守ることができる。このように、巣は食料を倉庫として使うことも行われている。考

古学においても、日本に渡ったホモ・サピエンスは家をもっぱら倉庫として使い、基本的に外で生活を行ってい

たと考えられている。また、農業をするようになったヒトにとっては、より倉庫の役割が重要になる。必要以上

に確保できた食料を貯める場所が必要になるからである。雨風や湿気、他の動物等から生存するために重要な食

料を守るために家が必要になるのである。また、それと同時に、食料確保のために重要である道具の保存も行わ

れたのではないかと考えられる。使い捨てでなく、長く使う道具は特に食料と同様に雨風や湿気、他の動物等か

ら守る必要がある。そのため、食料と同じように道具、つまりモノを家に保存するようになったと考えられる。

 このように考えていくと、ヒトにとってのモノや家は、動物が生き残るために自然と身に付ける能力であるこ

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2. 研究背景

11

とがわかる。また、そのモノの中の一つである家は、ヒトがモノを所有することにより能力を高めたモノだと言

える。つまり、ヒトの能力を延長、強化したものがモノであり、家なのである。そして、ヒトは多種多様なモノ

を作り出し、使い分け、所持する動物であり、彼らは家という大きなモノの中に、それらのモノを配置、所持し、

それらを使い生活することで生態維持活動を行っている動物である。これらから、ヒトとモノと家の関係を考え

ることは、ヒトがヒトであるため意味を考えることと同じであることがわかる。また、彼らによって作られ、使

い分け、所持されていたモノや家を観察することは、ヒトの生態を考える上で重要なことであることがわかる。

モノとヒトと家の関係は、ヒトという動物を考えることに他ならないのである。

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2. 研究背景

12

2-1-2. 現在までの住空間におけるモノへの視点

 次に、現在の人とモノ、人と家、モノと家について考えたい。ヒトは文明を持ち、人類の歴史が刻まれてきた。

その中で、人類は数々のモノを作り出し、使用してきた。歴史の節目にはざまざまなモノが誕生し、ヒトの能力

の拡張と世界の基準を変えていった。車輪を作り運搬能力を拡張し巨大な都市や建築をつくり、紙を作り情報伝

達能力を拡張し歴史をつくり、羅針盤を作り方向感覚を拡張し大航海時代をつくり、活版印刷を作り情報伝達力

を拡張し情報共有の社会をつくり、原子爆弾を作り攻撃力を強化し世界の基準をつくった。いわば、人類の歴史

はモノの歴史とも言える。そして、それらの歴史の上に現在の我々の生活が成立しているのである。だが、ここ

ではモノの歴史をつづるというよりも、モノがどのように人や家や建築と関係を持っているかということがどの

ように考えられてきたかについて考えたいと思う。人とモノと家、または建築の関係は、様々な分野によって考

えられてきた。現在のモノとの関係性を考える上で、まず 19 世紀から 20 世紀かけての、建築空間におけるモ

ノの捉え方について考えようと思う。

 19 世紀から 20 世紀にかけて建築空間におけるモノへの視点としてまず、文化人類学や博物学における視点

の建築的展開がある。欧米各国による帝国主義的な海外進出に伴い、各地の異文化の理解を目的とした民俗調査

や考古学的・地理学的研究が行われた。そして、その調査や研究で得られた多様なモノを展示することで異文化

を鑑賞する博物館的な建築空間、あるいは建築空間内のモノに対する視点が発達した。また、その物証的な資料

の膨大さと多様さは、モノの分類や科学的調査・分析の方法の発達を促した。異文化の生活財であるモノなどを

主体者、つまり欧米人の生活とはまったく異なるモノとして捉えることが行われた。つまり、この場合のモノは

生活に使われるモノではなく、調査・研究・鑑賞の対象としてのモノでしかない。だが、この異文化のモノは、

欧米各国の文化等に影響を与えた。例えば、絵画において、ドラクロアの「アルジェの女たち」( 図 2-1-2-1)11)

やモネの「ラ・ジャポネーズ」( 図 2-1-2-2)12) などの作品にその影響が見ることができる。これらは、自らを生

活を形成するモノとの異文化のモノを相互に捉えることで、それまでのモノを再認識するきっかけになったと言

える。

図 2-1-2-1 アルジェの女たち 図 2-1-2-2 ラ・ジャポネーズ

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2. 研究背景

13

 次に、ロマン主義文学や演劇におけるモノへの関心の深化がある。近代社会の発達により市民生活が多様化し、

個人の主体性や多様性が重視されるようになるに伴って盛んになった文学や演劇では、細かな生活の状況とそ

の心理的な意味の描写が発達した。オノレ・ド・バルザックの小説群「人間喜劇」に見られるようなモノの細部

の表現がその所有者の人生を表象するという考え方や、空間とモノ、人間の身体行動の関係に内包される意味へ

の関心が深まった。「人間喜劇」は 150 篇の小説からなり、風俗研究・哲学研究・分析研究の 3 つに大別される13)。更に、風俗研究は、私生活情景・地方生活情景・パリ生活情景・軍隊生活情景・政治生活情景・田園生活情

景に分かれる。バルザックは「優雅」という視点から人とモノとの関係を論じている。「身なりに対する怠慢は、

精神の自殺である。優雅は生まれつきの資質。生まれついて優雅でないものは、いくら後から富んでも優雅には

到達しない。」と後天的にはどうにもならない前提を提示した上で優雅とはいかなるものかという問いている。「物

が思考の影響を受ければうけるほど、人生の細部は高貴に、洗練され、偉大になる。」と人とモノの関係の意味

を論じ、自らの生活をとりまくあらゆるものを、ひとつの秩序だった観念の元に総括することが優雅な生活の本

質だと論じている 14)。

 商品学では、所有財や生活財の研究がある。それは都市で急激に進む消費行動とそれが社会組織や都市景観、

住宅生活に及ぼす影響の研究が主に統計学的に行われたが、それはモノの意味を均質化された貨幣価値の基準で

測ることで市場を客観的に把握することを目ざすものでもあった。近代工業化に伴い商工業が発展し、地方に分

散されていた市民に消費を促す卸売り業の発達と流通システムの整備のために商業学が発展し、その中で、商品

に関する知識領域である商品学が発展していった 15)。つまり、商品としてのモノの均質化した価値の共有が行

われた。

 芸術学では、芸術の大きな変革と共に、モノの捉え方とその表現方法に関して注目されるようになる。それ

まで絵画や彫刻などの表現方法しかなかったものが、絵画のフレームから飛び出たものも芸術であると考え

られるようになり、その広がりを見せた。そのことにより、芸術作品がより空間やそこにあるモノとの関係性

を考えざるをえなくなったのである。そこで注目されるべきものはマルセル・デュシャンの「泉」である ( 図

2-1-2-3)16)。これは、1917 年に制作された作品であり、物議をかもした作品である。普通の男性用小便器に「リ

チャード・マット (R. Mutt)」という署名をし「泉」というタイトルをつけただけの作品である。これは、デュシャ

ンの「レディ・メイド」という大量生産された既製品を用いた一連のオブジェ作品の一つである。当初、これら

は大量生産として作られた既製品へ美術的意味合いを見出そうとする試みであった。その後、芸術家により「芸

術的な意味合い」、つまり概念的な芸術というものを見い出すこととなり、それまでになかった絵画や彫刻とは

異なる概念的な芸術を認めることとなり、芸術作品の幅が大きく広がることとなった。芸術学として新たなる発

展に貢献した一方、当初の目的である大量生産された既製品に対する意味合いは、現在のモノと人の関係の意味

を表している。大量生産された既製品は、多くの生活者が同じ機能、同じ形状のモノを使っているということを

示している。つまり、場所も時間も職業も家族構成も家の間取りも違う他人同士が同じ機能、同じ形状のモノを

使用し生活を行っている。それまで、モノはそれぞれの人がそれぞれの生活に合わせて作られ、または作られた

モノを使っており、同じモノはなかった。しかし、大量生産により多くの人が同じモノを持つことになった。こ

れは、人の生活を平均化し均質なものにすることにより、社会が一つの標準化された生活へと変革していくこと

を懸念したものと捉えられる。生活をとりまくものが変化していく時代変化を象徴的に表現した作品である。

 文学では、モノや空間をどのような言語により成立されるのかという視点をもたれた。ジョルジュ・ペレック

は「考える / 分類する」において仕事机の上にあるものをどう列挙するかを行っている 17)。彼は自らの書斎の

机の上や棚の上に置かれたものを淡々とつづり、その移動を記録した。綿密に書かれた記録ではあるが、机の上

や棚の上にあるものを客観的にいかに捉えることができるか、また、それをどのように言語として変換すること

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2. 研究背景

14

ができるかというものを行ったと考えられる。

 このように、19 世紀から 20 世紀にかけて建築空間におけるモノに関して考えられてきた。これらは主に欧

米諸国で行われたものである。では、次に日本での建築空間内におけるモノがどのように考えられてきたのかに

ついて考えたい。

 日本においては、明治末期、大正時代から都市部を中心とした生活近代化運動や農村地帯の生活改善運動が行

われたが、住宅空間におけるモノの表現や理解の視点に対する関心が深まったのは、1910 年代末からの農村生

活調査においてだった。そしてそれは 1920 年代から戦前にかけて独自の展開をなしとげられた。これにより住

宅空間とモノの関係に関する考察の視点や具体的調査方法が発達した。特に、建築家であり民家研究者でもあっ

た今和次郎による都市や農村の生活に関する現象学的な研究である考現学はこれらを考える上で外すことのでき

ない学問である。同時期に欧米で展開した文化人類学や商品学と言った生活に使われるモノの捉え方を融合して

具体的に実践し、その手法を開拓したという点で重要であり、日本の生活空間研究に大きな影響を与えた。18)

図 2-1-2-3 泉

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2. 研究背景

15

2-1-3. 今和次郎の考現学

 今和次郎が考現学を始めたのは、関東大震災後の東京の復興を都市発生史として記述するためだった。彼は三

つのテーマ ( 服装と持ち物・行動・住居 ) を設定し、1925 年の銀座風俗調べ以来、新家庭品物調べ、歩行者の

歩くリズムの図など多くのテーマの調査を行い、人々の経済的階層と風俗の関係を比較考察した。大きな特徴と

して、スケッチや統計図表、写真を用いて「都市の人々の消費パターンと習慣を研究し記録する」ことを試みて

いる。つまり消費社会における人間と物との多様で密接な関係を空間的にそして具象的に描き出したのである。

また、考現学を社会学の補助であり人類学・民族学・民族史と同じ方法を用いて現代を対象とし、分類・記述・

比較、という三つの作業で成る科学的なものだと説明している。

 住居というテーマの「新家庭の品物調査」で今は、家の中の道具・思い出の品々・家具等をスケッチし、それ

らの特徴や由来を所有者から聞き取って正確に記述した。同様に、家の細部や平面図と立面図、そして物が使わ

れていた場所と周囲の状況なども細密に描写している ( 図 2-1-3-1)。また、映画を通して住宅内での主婦の朝食

時の行動図という形で行動を図式化することを試みている ( 図 2-1-3-2)。

 1925 年 1 月の「新家庭の品物調査」で今和次郎はその主旨を、第一に品物使用の変移と始末、第二に品物に

現れる個人的特徴や地方性、第三に社会的階層性と物品の占有されている状況あるいは使用されている状況の関

係、そして第四に品物そのものについてのあるいは処理することについての技巧と要約している。

 その中で今は、物が人間の「ネガティブな肖像である」として丁寧に観察する必要を説いて、これらの品物は

個人の空間を作り出し、その持ち主の人格や生活スタイルを反映していると説明している。さらに、現代の古物

商の組織化による家庭内の品物の新陳代謝の提案、個性を無視したイデオロギーとしての文化生活への批判、そ

して家具の配置、押入れの取り方、道具の備え方のテクニックの研究の必要を説いている。すなわち、今和次郎

の調査と分析にはモノと人間の関係についての三つの視点が共存している事がうかがわれる。第一に、フェティッ

シュな次元での人と物との関係への関心であり、それは物の意味の歴史的で象徴的な次元を含んだ多様性や細部

に対する興味や、人間の記憶や心理との関係への関心でもある。第二に、近代日本の急激に変化する生活様式の

安定と健全化のために、規範としての「標準」生活像を探求しようとする意図である。それは歴史的な事例の普

遍的な特徴の解明と共に、用により抽象的に規定される住宅空間とモノとの関係を明確に科学的に記述すること

への関心を伴っている。第三に、住宅空間とは人々がモノの処理を通して主体的に使いこなす空間であるべきだ

という考え方に立ったモノと空間の関係の変化の理解の仕方を探求する姿勢である。第一と第二の視点には相克

する側面があることを自覚しつつ、第三の視点において、その相克そのものが実際の人々の生活における独自な

創造性の源だと考えたのではないだろうか 19)。

 以上より、住空間におけるモノへの視点は 19 世紀から提唱されており、特に考現学は 21 世紀において「モノ」

を研究する際に必ず押さえておかなければならない学問である。本研究では、考現学における今和次郎のモノと

人間の関係についての三つの視点のうち第三の視点、つまり住宅空間とは人々がモノの処理を通して主体的に使

いこなす空間であるべきだという考え方に基づいて、21 世紀のアンビエント社会を想定した際の住空間におけ

る人とモノの在り方を考察していく。

Page 23: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

16

図 2-1-3-1 今和次郎「4 帖半の間借(かの女はオフィスガール)」左、「6 帖の間借(かの女は学校教師)

図 2-1-3-2 今和次郎「映画を通していた主婦の朝食時の行動図」

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2. 研究背景

17

2-2. 情報化社会

2-2-1. 情報化社会

 では、次にモノとヒトと家の関係から離れ、現在の社会について考えたい。現在の社会は情報技術の進歩

もあり情報化社会と言われている。最も大衆にとって身近な情報技術である携帯電話の普及率は 95% を超え、

パソコンの普及率も 85% を超え、情報技術は生活空間において無縁とは言い難い状況となってきている ( 図

2-2-1-1)20)。この情報化社会とは多様な情報ネットワークの中で、必要とする情報を、時間や場所の制約を超え

て安全にかつ意識せずに活用できる社会を指している。情報技術は多種多様で大量の情報の交換を可能にし、各

個人が情報の発信源になることができるようになり、社会の発展に大きな影響を与えている。しかし、情報の利

用や情報操作のあり方を誤ると、特定の情報に支配されることや、誤った情報を正しいものと認識してしまうこ

と、不適切な情報を無批判に受け入れることなどが起こっている。また、情報を巧みに利用して、自らの経済的

な利益のみを追求する者や他者を陥れようとする者なども発生している。その結果、情報とその利用の正しいあ

り方が問われている。情報というものは、人により発信されているものではあるが、結果的に情報が人を支配す

ることもある。情報というものがこれまで以上に人に大きく関わり、それが社会から個人へと変化している現在

において、情報と人の関係はどのようなものであり、今後どのようになるのだろうか。

 情報と言うと、特に情報化社会というような使われ方をしていると、インターネットが意識され大きく扱われ

ることが多い。それまで、マスコミや自治体からしか社会への情報発信が出来なかったものが、今日では各個人

が誰でも簡単に社会に対して情報発信が出来る。これに大きな影響を与えたものがインターネットである。例え

ばブログでは、その管理者が気に入ったものやサイトをブログ上に紹介することで、それを見た他者が、それに

興味を持ちリンクされたサイトに飛んだり、そのものを実際に店等で手に取るということが行われている。これ

は、それまで CM 等でしか行われていなかった広告という効果が、個人のブログを通して行われるもので、口コ

ミのような形で広告手法として一般的に使われるようになっている。また、その一方、インターネットは誰でも

図 2-2-1-1 インターネット普及率の推移

Page 25: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

18

アクセスできるということと匿名性から、その情報の撹乱や混乱が行われることがある。先に上げたブログであ

れば、ある一人が載せた誤情報があっという間に広まってしまい混乱が生じてしまうということが起きている。

また、「炎上」と呼ばれるようなブログの発言に対し、多数のコメントが来る事でブログが閉鎖に追いやられる

ということも起きている。発言等に対する非難によるものが多いが、同情のコメントでも同様のことは起きてい

る。つまり、この現象は多種多様な意見を持つ人々が、一つのブログという情報発信地に対し、それぞれが情報

を返し、それに対しまた情報が返されるという情報過多の連鎖が発生したものだと捉えることができる。これは、

誰もが情報提供者であり、誰もがその情報にアクセスできるというインターネットだからこそ起きたものだと言

える。先の口コミに関しても同様のことが言える。つまり、インターネットにより、人にとって情報がいつでも

誰でも発信し受信できるものとなったと言える。

 情報をいつでも誰でも簡単に受信でき、送信できるというような多種多様な情報が飛び交う社会になっている

一方、その情報に対し敏感に反応するということも起きている。例えば、個人情報というものがある。個人情報

とは個人を識別することができる情報を指している。2005 年の個人情報の保護に関する法律 ( 通称「個人情報

保護法」) の施行により特に意識されるようになったものである 21)。インターネットの普及によって、情報が簡

単にいつでも誰で発信し受信できるようになったこともあり、現在、多くの人が個人を特定される恐れのある個

人情報というものの提供に敏感になっている。個人情報の保護に関する法律の対象は 5000 件以上の個人情報を

個人情報データベース等として所持し事業に用いている個人情報取扱事業者だけであるにも関わらず、それに当

たらない個人等に提出する個人情報に対しても敏感に反応し、また、個人情報に当たらないような情報であって

も敏感に反応するということが起きている。インターネットや情報機器により、様々な情報の送受信が誰でもい

つでもどこでもできる環境にも関わらず、その情報を発信することに対しは敏感に反応し行わず、その一方、自

らが求める情報であれば個人に近い情報をも求めるという状態が起きている。このような状態は、後述するアン

ビエント空間の提供という立場では大きな問題となる。この点に関しては後述するが、実現性を考えた上で最も

重要な問題点の一つであると言える。

 インターネットにおける情報が情報の妨げとなることもある。その一つにスパムメールがある。スパムメール

とは受信者の意向を無視し、無差別かつ大量に一括して送信されるメールである。スパムメール対策としてメー

ルソフトやプロバイダー等によりスパムメールを識別するということが行われているが、これにより全てのスパ

ムメールを識別できるわけでもなく、正常のメールをスパムメールとして処理してしまうということもあり、完

全ではなく。特に正常のメールをスパムメールとして処理する可能性があるため、スパムメールフォルダは確認

する必要があるため、その人為的処理にかかる時間が企業では問題になっている。また、スパムメールの大きな

問題の一つにインターネットの信頼性の崩壊の危険性というものがある。これは、世界中のインターネット上を

スパムメールが送受信されていることにより、人がスパムメールを拒みインターネットにアクセスしなくなると

いうものである。インターネットという情報伝達はその情報が真であるという信頼性の元に成立している。実際

に真であるかではなく、情報として成立しているかという意味である。スパムメールはこの情報としての成立を

崩すものであり、これによるインターネットの崩壊が懸念されている。

 このように、インターネットというものにより、大きく意識されるようになった情報というものは、人により

発信、受信されるものであり、個人と個人、個人と社会を簡単に影響し合える環境にするものである。また、そ

の一方、簡単に情報により個人、社会が崩壊することも可能であり、情報自体の崩壊へとも繋がるものであると

言える。つまり、より身近になり使いやすくなった情報ではあるが、それをいかにうまく安全に使うかというこ

とが重要になっている。

 インターネットに代表されるデジタルな情報を取り上げて考えてみたが、アナログな情報について考えたい。

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2. 研究背景

19

何がデジタルで何がアナログなのかということを定義するのは難しいが、ここでは情報機器を用いて交換される

情報をデジタル情報、それ以外のモノを使って交換される情報をアナログ情報と定義する。この定義に従えば、

アナログ情報として考えられるものは大変多く存在する。小説や新聞といった文字の載っている媒体、シンボル

や文字の書かれたサインなどの様々な具体的な情報が書かれたものの他、信号や時計などそのものがある特定の

情報を提示するものなどがある。椅子や手すりは座ることやにぎること、よりかかることが可能だという情報が

あり、草花は環境や季節の情報を持っている。このように考えると、全てのモノが何かしらのアナログ情報を持っ

ていることがわかる。しかし、これらはある対象から対象を見た者、体感した者が一方的に情報を受取っている

に過ぎない。この点に関しては、デジタル情報でも同じことだが、デジタル情報の利点として簡単に相互に情報

発信及び受信が可能であり情報交換が行えるという点がある。この情報交換という点に着目すると、どのような

アナログ情報があるだろうか。例えば、茶室がある。茶室では建築そのものではなく、「茶事」という行為の中

に空間を媒介としてのアナログ情報の交換が行われている様子が見て取れる。主人が客人を迎えるときに、客人

が自分の空間に入っていいかどうかは、携帯電話で電話するわけでもなく、「用意ができました」と言うわけで

もない。門の扉を5~10cmほど、少し開けておくのである。それにより「もう準備ができているから入っていい」

と客人は判断し入ることができる。待合で招待される客人がそろうと、茶室のにじり口を開けて中に入る。そし

て、一番最後の人はにじり口の障子を音を立てて「ピシャッ」と閉める。主人はその音を聞くことで、「客人全

員がそろった」ということが分かる。このように、茶室では空間要素を用いてアナログ情報が、主人と客人の間

で交換されている。このアナログ情報の交換という行動に関して注目すべき点は二点ある。一つ目は、空間要素

を媒体にしているが、空間要素の状態を変化させたのは人である点である。情報交換という行動は、人によるも

のであるので人が関わるのは当然のことではあるが、人によって同一の媒介を用いて異なる情報を交換している

点に注目してほしい。アナログ情報を持つ他のモノの多くは、ある一定の情報を提供し続けており、その時点で

持ち得ない情報は提供することはできない。デジタル情報であれば、書き換えや書き加えというような同一のも

の、インターネットであれば同一のサイト上で情報を交換することが可能である。つまり、アナログ情報は同一

の媒介を通して交換できる情報はある一定にされていることが多いのである。これは、デジタル情報の媒介に比

べ、書き換えや書き加えが容易ではないためである。しかし、この茶室に見られるようなアナログ情報の交換に

おいては、同一の媒介を用いて異なる情報を提供している。デジタル情報と同じように書き換えや書き加えが行

われている。そして、二つ目は、必要最低限の情報を交換することにより、行動の乱れを起こしていない点である。

この同一の媒体を用いた情報交換のための書き換えや書き加えが、一連の行動の一部として行われ、大きな労力

が使われていない。アナログ情報を持つモノの多くは同一の情報を提供し続けているため、その情報を変更する

ことは容易ではない。小説やサインであれば、刷り直しが必要であり、信号や時計であれば、工事や修理が必要

となる。その変更を少ない手数で、なおかつ一連の行動の一部として行われ、そこに大掛かりな変更のための動

作が必要とされていない。これを実現するための一つとして、必要最低限の情報を交換しているということが考

えられる。例えば、茶室の門を少し開けておくことにより、入っていいという情報と提供している。逆に門が閉

まっていれば入ってはいけないという情報を提供する。この門を媒介にした情報交換は、必要最低限で行われて

いる。門が少し開いているだけでは、実際入っていいかどうかという情報はわからない。そこに、茶事に招待さ

れていること、客人であること、主人がいること、時間が合っていること、門は通常閉まっていることなどの状

況や環境が持つ情報を相互に結びつけることによって、そこに「入っていい」という情報を見いだしている。つ

まり、状況や環境を考慮することにより最低限の情報だけで情報交換を可能にしているのである。状況が変わる

とそこにある情報が変わり、先にような情報交換は行われない。例えば、茶事はされておらず、主人が外出中で

あったにもかからず、門が少し開いているとどのような情報を得るだろうか。主人が門をしっかりと閉め忘れる

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2. 研究背景

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ほど慌てて外出した、主人がいない間に泥棒が入った、などが予測される。状況が異なるだけで、そこが持ち得

る情報が変わってしまうのである。ここで注目してほしいのは、この状況が変わったときに発生した情報が予測

にすぎない点である。例に上げた場合では、慌てていた、泥棒が入ったという二種類の情報の可能性があり、そ

の情報を得た人が確実に情報を受取ったとは言いがたい。しかし、先の茶事の場面では、中に入っていいという

一種類の情報だけを客人は得ることができている。つまり、最低限の情報を提供し、状況や環境と合わせて情報

を受信する上で、そこから導き出された情報は一種類でなくては、その情報交換は成功したとは言えないのであ

る。このように、茶事における空間を用いたアナログ情報の交換は、最低限度の情報量にもかかわず、確実にな

おかつ円滑に伝達すべき情報を交換することができる好例である。

 情報というものを、デジタルとアナログという二点から捉えたが、これら二つは相反するものだと考えられが

ちである。特にデジタルな情報が普及した現在において、この考えは普及している。その要因としては、デジタ

ル情報の出発点が高度な技術を必要とする、研究機関や軍事機関から発生し、そこから大衆に広がったというこ

とも考えられる。その他にも要因として考えられるものはいくつもある。ここでは、その要因を追求することは

行わない。どのような要因でその考えが広まったにせよ、この相反すると考えられていたデジタル情報とアナロ

グ情報が共存することが今後、より求められていくだろう。それは、必然的なことであると言える。なぜなら、

デジタル情報は、アナログ情報をより簡潔に処理・伝達するための手段であるからである。簡単に言ってしまえ

ば、数学と同様に、事象を数字や数式で表しているだけなのである。これまでのデジタル情報は、捉えることの

できるアナログ情報が少なかったために、デジタルとアナログの共存が難しかったが、今後、より技術が発達し

それも可能となる。今後、情報というモノは、これまで異常に大きな発展を遂げるだろう。また、先の茶室の例

のように、情報が実在する建築空間において発生し、操作することは今後、着目されるものの一つである。つま

り、建築の分野において、情報化というものと実在する建築空間との関係性について考えていくべき時代を迎え

ているのである。そして、その概念のもと、様々な場面において建築空間の情報化が進んでいる。これらについ

て考えるうえで、「アンビエント」というものについて考えていきたい。

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2. 研究背景

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2-2-2. ユビキタスからアンビエントへ

 情報化社会を形成する要因となった 20 世紀後半に発生した IT 革命を 2 段階に分けることができる。まず、

IT 第 1 次革命はインターネットイノベーションで特徴づけられ、対象情報はメールや書類である。つまり IT は

情報の共有とコストの低下の革命を行った。次に、IT 第 2 次革命は情報機器の開発と実用で特徴づけられ、対

象情報は画像、音声、ID である。これは IT は「いつでもどこでも情報の受発信」することを可能にし、ユビキ

タス社会の構築をめざしたのである。そして、それらに続く第 3 次 IT 革命がアンビエント社会の実現をめざす

ものとされている。

 20 世紀の終わりに、日本では「u-Japan 構想」と呼ばれたユビキタス・コンピューティング化への流れがあった。

「ユビキタス」とはラテン語で「いつでも、どこでも」を意味する Ubique に語源を持ち、英語で「神は遍在する」

を意味するUbiquitousに由来している。ゼロックスのパロアルト研究所(PARC)に在籍していたマーク・ワイザー

が 1991 年に論文「The Computer for the 21st Century」の中で提唱した概念である。日本では坂村健が 1980

年代に同じようなコンピューティングコンセプトを発表し、それ以降、TRON プロジェクトを進める中で行われ

たいくつかの実証実験の中で具現化されている。日本において、ユビキタス・コンピューティングの社会イメー

ジは坂村が提唱している TRON プロジェクトのものが標準となっているように思われる。

 ユビキタス・コンピューティングとは、生活や社会における環境内に存在する様々なものがコンピュータを持

ち、それらが自律的に連携し互いに通信しあって一つの巨大な情報処理システムを形成している、というイメー

ジである。坂村の提唱している TRON プロジェクトにおいては、「ユビキタスコミュニケータ」を情報環境との

インターフェースに用いることが前提となっているといっていい。ユビキタスコミュニケータは無線ネットワー

ク機能を持ち、13.56MHz 帯と 2.45GHz 帯の RFID タグを読み取ることができる。その他にも Bluetooth や赤外

線通信、ZigBee、二次元バーコードなどにも対応している。確かに、現時点でこれだけの通信規格に対応してい

れば、情報インターフェース機器として優秀であることは間違いない。これを用いて上野や銀座で行われた、「自

立移動支援プロジェクト」などをはじめとしたいくつかの実証実験は、社会にユビキタス・コンピューティング

のイメージを広く啓蒙する一助となったのは間違いない。また、平成 15 年に算出されたユビキタスネットワー

クにおける関連市場規模は、平成 22 年 (2010 年 ) には 87.6 兆円もの金額になる見通しが出されており、当時

平成 15 年と比較すると、平成 22 年のユビキタスネットワーク関連市場は 3.1 倍になると予測されていた。

 このように、20 世紀末から 21 世紀初頭にかけユビキタス・コンピューティングの概念が流行し、国をあげ

ての計画となっていた。しかし、国や企業と一般人との意識の差が大きく、ユビキタス = 自分で操作して情報を

探さなくてはいけないというイメージがあり、一般まで充分に浸透しているとは言えなかった。

このような背景の元に、ユビキタス社会の次のものとしてアンビエント社会が提唱された。それまで人間が情

報機器を操作し情報を得る必要があったものが、その行動をスムーズに、またはその行動を行わずして情報のネッ

トワークにアクセスし必要な情報を与えられるというのがアンビエント社会での情報取得である。つまり、アン

ビエント社会は、環境に溶け込んでいる情報・コミュニケーションシステムに、そこにいる人間の自然な動作や

行動、生体情報をセンシングすることで無意識のうちに適切な情報知らせるセンサが組み込まれることで、自律

的な安心・安全をも提供する社会である。人間の自然な動作や振る舞いをそのままコンピュータの制御に用いる

というコンピューティングのビジョンは、常に新しいものに更新されていくコンピュータの使い方を覚えなけれ

ばならない必要性から、われわれを解放してくれるのかもしれない。このように人との親和性を持ったコンピュー

ティングビジョンとして受け入れられている。今後は「アンビエント・コンピューティング」が次世代コンピュー

ティングビジョンなっていくのではないかと考えられる。

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2. 研究背景

22

 アンビエント・コンピューティングは、センシングが基盤にある。センシングにより、さまざまな情報を互い

にやりとりすることで人間と空間の状況を認識し、その状況に合ったサービスを提供することが可能になる。近

年、MEMS や NEMS と呼ばれる微細な機械技術に対して政策的な投資と技術革新が行われており、これらの機

器を応用して、温度や湿度、加速度、明度、風流量、音声、におい、味といった情報―五感情報―をセンシングし、

数値化することが可能となった。もちろん、センシング技術自体は新しいものではない。身近な例では、自動ド

アの開閉やトイレの水洗スイッチ、GPSを活用したカーナビゲーション、赤外線を利用した防犯ライト、あるいは、

音波を用いた魚群探知やレーダーを用いた索敵技術などもこれに該当する。このように、近年センシングが注目

されている。

 とりわけセンシングが取りざたされる理由については、大きく二つの理由があるものと考えている。一つは、

ロボット産業をはじめとして、建築空間も含めた様々なものに対するロボティクス化の需要がセンシング技術の

需要を押し上げていると考えられる。「ロボティクス (Robotics: ロボット工学 )化」とは、そもそもは単純にロボッ

トに関する関連工学分野のことを指し示す総称であったが、現在では「アクチュエーション ( 動作 )」、「知能 ( 人

工知能 )」、「知覚・認知」、「制御」の大きく 4 つの分野に大別でき、センシングはこの「知覚・認知」のために

必要な要素技術となっている。つまり、手指の挙動や行動判断のために外的環境の様々な情報を利用するため、

センシング技術が不可欠となる。

 いうまでもなく、ロボティクスはいわゆるロボットのためだけの工学ではなくなってきている。家電製品や自

動車、あるいはすでに建築空間でさえも、それを取り巻く環境から情報を得るために、人間の「五感」を模した

センサー機器を利用している。今この空間が暑いのか寒いのかを知るために温度センサーを使う、というような

ことである。光や音、温度や湿度をセンシングする技術は古くからあったが、においや味といったものをセンシ

ングする技術は現時点ではまだ開発途上にあるようだ。だがこれらの技術もかなり実用段階に近いものとなって

きている。人間の五感を完全とはいかないまでも、かなりの部分まで模倣することが出来ていると考えて良いだ

ろう。

 身近なもので現在もっともロボティクス化が進んでいるものといえば、それはおそらく自動車だろう。もっと

も機械工学の応用産業として自動車産業があり、この分野でロボティクス化が進むことに疑問の余地はない。エ

ンジンの回転制御、効率的な燃費のための運転制御、カーナビゲーション、エアバッグ制御、衝突センサー、空

調制御、現在は試験途中にある ITS( 高度道路交通システム ) などと枚挙に暇がない。自動車の中も一つの空間

と考えれば、ここがもっともロボティクス化の進んだ「空間」だといって良いのかも知れない。なお、空間のロ

ボティクス化については、建築分野では「空間知能化」あるいは「空間生命化」などといった文脈で進められて

いる。

 センシングが注目されているもう一つ理由は、マンマシンインターフェースがアンビエント化する流れの中で、

生活空間の様々な場面で人間の挙動や状態をセンシングすることが求められるようになってきていることが挙げ

られる。いわゆる、直感的なインターフェース、と呼ばれるようなものがおよそこれに当たる。たとえば昨今で

は、携帯型音楽プレーヤの代名詞となった「iPod」や、2006 年に発売された任天堂のゲーム機「Wii」に代表

されるように、タッチセンサーや加速度センサーを用いたコントロールシステムをもつ機器が数多く登場してい

る。実験的な取り組みとしては、身振りや手振りによって空調や照明などをコントロールするようなものである。

先にも例として挙げたが、建築空間におけるセンシングというと、自動ドアや赤外線感知による照明スイッチ

などが挙げられる。歩行や立ち止まり、通過といった人間の動作をセンシングし、これを制御に使うといった意

味では、これらもユーザーインターフェースがアンビエント化された空間のひとつといっていいだろう。

 これまで行われきたセンシングではあるが、それらとアンビエントとの違いは何であるのだろうか。それは、

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2. 研究背景

23

ユビキタスにネットワーク化された情報通信インフラに基づき、感知したデータをデータサーバで収集・管理す

る点であろう。また、得られたデータからは行動の特徴や環境状態の遷移が高度にマイニングされ、予測 ( シミュ

レーション ) や機械の制御 ( フィードバック / フィードフォワード ) に利用される。こういったアンビエントな

情報技術によって高度にサポートされる環境にある人間は、それでも行為自体は普段の活動とさして変わりはな

いので、サポートされていることにさえ気がつかない、というのがアンビエント・コンピューティングの理想で

あろう。そのためにはモノや場所、生体情報を識別・認識する技術、情報を送る技術、人が情報を理解するのを

支援する技術、不正から利用者や機器を守る技術や制度などがバランスよく組み合わされなければ成立しない。

このセンシングというものは無作為にすべてを対象としてではあるが、建築空間や都市空間に入り込んだセンサ

により情報が取得される状態を常に行う必要性がある。つまり、街角の防犯カメラと同じような環境にさらされ

ることになるのである。安心・安全のためには、誰かに見守ってもらうことが必要である。肉親など特定の「誰」

ではなく、社会として、センシング技術によって、「常に誰か」が見守るためには、常に誰もを、センシングす

る必要があるのである。「監視」という言葉になると過剰反応してしまう面もあるが、「社会に包まれている」と

いう認識が、アンビエント社会の実現には必要となるのかもしれない。事実、英国では街角の防犯カメラが監視

ではなく、見守られているとして市民に受け入れられ、より安全で安心な生活を確保しいている。生活の高度化

のための活用と、人間の尊厳を守る倫理的な管理を両立させるというバランスを保つことにより、真に安心でき

る社会となるのである。要素技術の開発と並行して、こうした倫理面での整備もあわせて必要になってくると考

えられる。

 20 世紀末頃から今日に至るまで、世界はこれまでにないほど高度に情報化が進み、いわゆる情報弱者をうみ

出した。確かにインターネットをブラウジングするためには、相応の金額のコンピュータと通信料を支払わなけ

ればならず、その上に小難しい操作方法を覚えねばならないので、こどもや高齢者を中心に情報格差を生み出し

た。もっとも原因はこれだけではなく、情報を探索する能力やノウハウの差にも原因があったに違いない。しか

し、アンビエント・コンピューティングが目指す未来は、情報獲得のために主体的に動くといったような世界観

とは異なり、人間が知らず知らずのうちに情報環境によって強化されるような世界観である。

このようなビジョンを実現するためには、まずは現象をきちんと捉えるためのセンシング技術が高度に実現で

きていなければならず、その上で何が起こっているのかを予知するためのマイニング技術が整えられていなけれ

ばならない。ここではセンシングとマイニングの両方をあわせて「モニタリング」と定義する。モニタリングと

いう言葉は、それ自体が本来に「監視」という意味を持っているが、ここではその言葉上の意味とは別に、技術

的な基盤の上に成り立っているコンピューティング社会像を指すものである。特に本論ではモニタリングの中で

も行動モニタリングを取り上げる。次にこの行動モニタリングとそれにより成立する情報化 ( アンビエント ) 建

築との関係について考えたい。

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2. 研究背景

24

2-3. 情報化 ( アンビエント ) 建築

2-3-1. アンビエントと行動モニタリング

 社会は間違いなく「モニタリング社会」に向かいつつある。これまで述べてきたように、社会が単にアンビエ

ント・コンピューティングに向かっていると言うことだけではなく、プレ・アンビエントな社会 ( つまり現在の

社会 ) では様々なサービスが個人に特化されたアウトプットを提供することに心を砕いてきたところに端を発し

ている。Amazon.comで買い物をする度につい衝動買いしてしまいそうになる商品を勧められてしまうのも、ウェ

ブをブラウジングしていると関連する記事のページへのリンクが尽きないのも、それらすべてが個人情報と興味

関心とのマッチングに基づいたデータマイニングの成果である。われわれはただ暗黙のうちにこれらのサービス

を便利なものとして日々享受している。確かに、個人情報を差し出さなければならないという交換条件はあるが、

逆に、便利なサービスを受けるために自らすすんで個人情報を差し出す ―すなわち、自ら望んで監視対象にな

る― という逆転がいつの間にか起こっているといっていいだろう。

 Amazon.com のようなサービスは、まだそのサービスがわれわれの目に見えるだけましな方であろう。携帯電

話の電波は常に携帯電話キャリアのアンテナとつながっており、キャリアからわれわれの居場所は常に丸見えで

ある。Suica や Pasmo を使って移動すれば ( あるいはその前の磁気カード定期券だった頃でさえ )、鉄道会社に

われわれの行動が筒抜けになる。こういったことはその情報が間違いなくモニタリングされているにもかかわら

ず、サービスとしてリターンされないぶん、モニタリングされていると言うことが意識に上ることが少ない。あ

る意味では完全にアンビエントな手段だと言っていいだろう。このようなモニタリング社会がすべての点におい

て好ましいものかどうかは疑わしいが、その点は常に精査を重ねるとして、社会動向としてこのような流れにあ

ることは間違いない。そしてこの流れは今後ますます多様化し、われわれの生活を覆っていくだろう。

 では今後迎えるアンビエント社会におけるモニタリングはどのようになるのだろうか。それは建築空間や都市

空間内における人間の行動をモニタリングする行動モニタリングがその一つとして大きく変化していくだろうと

考えられる。これまで情報機器等によって行われてきたモニタリングではあるか、それと建築空間がより密接に

繋がると考えられる。では、これらを考える上で、まず情報化社会の流れの中にあった建築学の視点、つまり情

報化建築について考えたい。

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2. 研究背景

25

2-3-2. 建築空間の情報化の意義

 建築学とは切り離すことができないものに居住空間や生活空間といった、個人のテリトリーがある。人は今ま

での歴史の中で、生活形態を大きく変えながら生活してきた。農業革命、産業革命などがその契機に当たる。こ

こでは、第三の波を情報革命とする。これらの契機により価値観も大きく転換してきた。「サイボーグ化する私

とネットワーク化する世界」のあとがきにおいて、ウィリアム・J・ミッチェルは図式ではあるが、第三の情報

革命を「ネットワークに接続しながら遊動すること」という価値観の転換が起き、それが今後の生活形態となる

と記している 22)。つまり、建築を含めた動くことのないものがネットワーク化し、その中での役割を追求する

必要があると考えられる。

 また、ユビキタスという考えがあった時点で考えられていたそのような建築像を、「ユビキタス建築」と呼ぶ

ことがある。前述の通り、「ユビキタス」と「アンビエント」は完全に異なる考え方である。しかし建築に限っ

て言えば、「ユビキタス建築」は「アンビエント」の考え方を内包していたともと考えて良いだろう。それはユ

ビキタス建築と従来の建築との大きな相違点は、「コンテクスト・アウェアネス」と、「ネット接続」ということ

が考えられていたからである。

 「コンテクスト・アウェアネス」は、状況 (context) を察知 (aware) するという意味で、空間の内外の環境と、

そこに居る人間や存在する物体の現状や時間的変化を、センサーやネットワークを介してコンピュータが認識す

ることである。それを踏まえて、各所の機器に的確な制御を行うための技術で、「第三の波」において M. ワイザー

が提唱した「人間がコンピュータを意識せずに、自然にその機能を使用することができる」を実現するには、不

可欠の技術である。ただし、「自然にその機能を使用する」ということは、「人間の意思と無関係に機器の制御を

行う」とは異なる。空間を考えた上で、おそらくその概念は知らずとも建築というハードの特性上、ここにアン

ビエントの考えを内包したのであろう。つまり、前述したアンビエント・コンピューティングということにより

ユビキタス建築が実現することが可能だと言える。このような点から、これまで考えられていたユビキタス建築

は、アンビエントの要素を強く持つものだと言える。そこで、以降、ユビキタス建築は時代変化に合わせ「アン

ビエント建築」と記すこととする。

 情報化された建築空間、つまりアンビエント建築の意義は何であるのか。その一つは、アンビエント社会とい

う大きな流れの中で、人間が行動する建築空間がアンビエント化することが行われ、求められてきているためで

ある。そこで具体的な事例をふまえながら、アンビエント建築について考えていきたい。

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2. 研究背景

26

2-3-3 知的生産性の向上のための建築空間の情報化

 情報技術の発達により大きな変化が起き、大幅な効率化が行われたものとして知的生産性がある。この情報技

術を建築空間においても適用し、空間全体で知的生産性を向上させようとする動きがでている。知的生産性と言っ

ても、多くの種類があり、それに対応する空間も多種多様である。個人の知的生産性を向上させる空間、集団に

おける知的生産作業の効率化を図る空間、創造活動の生産性を向上させる空間などがあげられるだろう。この例

としてあげた三つの空間について具体事例を挙げていきたい。個人の知的生産性を向上させる空間の具体事例と

して「G-SEC LAB」( 図 2-3-3-1) がある。G-SEC LAB は、インタラクティブに情報を共有したり、交信したりす

ることができる設備を持つ研究施設である。大画面のプラズマディスプレイがふんだんに使われていて、そこに

表示される情報が空間を構成する重要な要素となっている。これは、人文社会科学系のための新しいコラボレー

ション環境としてデザインされ、数十人の研究者や学生が同時に端末をネットワークに繋ぎ込み、膨大な情報を

やり取りできる、知のオペレーションルームとも言える。次に、集団における知的生産作業の効率化を図る空間

の具体事例としては、「三鷹ネットワーク大学における学習する会議室」( 図 2-3-3-2) が挙げられる。この会議

室は、会議の内容を自動的に記録してくれたり、会議環境を学習してくれたり、沈滞化した会議をチアアップし

てくれたらどうであろうかという問題意識から実現したものである。実際にその会議室でおこった事象を音声・

映像によりすべて記録できる設備を持っている。また、壁面には LED ライトを取り付け、天井から床までの一

軸を 30 分に設定し、時間の経過を LED ライトの変化で表現することができるようになっている。これにより、

時計をみなくても空間が時間の流れをゆるやかに教えてくれ、ずるずると長引きがちな会議を制御してくれるこ

ととなる。最後に、創造活動の生産性を向上させる空間の具体事例としては、「NOPE‐21 世紀のトキワ荘」( 図

2-3-3-3) が挙げられる。NOPE‐21世紀のトキワ荘では築30年を超える木造2階建の建物をセルフリノベーショ

ンすることで、約 20 数名の建築家、アーティスト、デザイナー、キュレーターなどがシェアしている約 220

のオフィスである。オープンスペースを共同使用し、相互作用の場としても機能していた。各ブースは仮設パイ

プとボードで仕切られ、フレキシブルな空間作りが可能であり、自由な間取りと開かれた空間性により各々の創

造性を互いに向上させていく機能をもっている。これらのように、現在、知的生産性を向上させるためのオフィ

ス空間を始めとしてアンビエント建築が次々に考えられ、実証されている。

図 2-3-3-1 G-SEC LAB 図 2-3-3-2 学習する会議室 図 2-3-3-3 NOPE

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2. 研究背景

27

2-3-4 生活の快適性向上のための建築空間の情報化

 建築空間の情報化は、生活快適性向上に活かすという動きがある。日常生活の中の人為的なミスの予防や人

間がやる家事などの生活行為の代替えを行い、生活の快適性も向上させることができるというものである。ま

た、普段何気なく通り過ぎてしまう情景・行為を客観的に記録として残してくれることで自分の生活を見直す機

会を与えてくれるといったサービスも可能となり、また、自分の生活や動きに合わせて建築空間内が変化するこ

とでよりよい住環境を提供するということが可能になる。生活の快適性を向上させる建築空間の具体事例として

「PAPI」( 図 2-3-4-1) がある。PAPI では、「生活の豊かさ 2 倍に、環境負荷半減」の実現を目指し、IT や環境、防犯・

防災、健康などさまざまな分野の最先端技術を盛り込み、未来の生活シーンに合わせた形で実装した建築である。

家中に配置されたセンサーが住まいと人の様々な状況を認識し、「ユビキタスネットワーク」により、空調や照明、

エネルギーなどを自動最適制御し、人と地球にやさしい環境と快適性の両立をめざしている。また、最大級の地

震に耐える耐震性能を持つユニット構造に加え、停電時にはハイブリッドカーからの非常用電源供給、断水時に

は貯水槽としても使える室内プールなどを装備し、地震などの災害にも備えている。生活記録の可視化の具体事

例としては、「ライフスライス」がある。ライフスタイルでは、デジタルによる定間隔ウェラブル画像記録の機

能を応用することで、「人間の日常生活」をサンプリングし、「無意識の記録」を、「世界中の異なる価値観を持

つ人同士の相互理解」に応用しようとしている。大手家電メーカーでもこの建築空間の情報化に着目し、生活の

快適性向上を目指す動きがある。そのようなものの一つとして、パナソニックが提案している「空間まるごと一

歩先のくらし」( 図 2-3-4-2) というコンセプトがある。これは CEATEC2008 で発表され注目されたものである。

ワイヤレスで自由な配置が可能になったテレビを中心に、部屋中の機器が連携して、生活シーンに合わせ、照明

や空調を調整し最適な視聴スタイルを提供するものである。また、健康機器をテレビとつなげ、生活者の健康状

況を管理し、それに従いおすすめの食事メニューやエクササイズのアドバイスも行うというものである。様々な

家電を生産しているメーカーであるからこそできる家電のネットワーク化を行った事例である。これらのように、

住空間においても建築空間の情報化の動きが進み、実証されつつある。

図 2-3-4-1 PAPI

図 2-3-4-2 空間まるごと一歩先のくらし

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2. 研究背景

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2-3-5 マーケティング・エンターテイメントのための建築空間の情報化

 空間の情報化は、流通におけるマーケティングの手段として、また、人間と空間を繋ぐインターフェースとし

ての働きももっている。マーケティングにおいては、商品に RFID タグや人体通信機器を使用することで、誰が

どのようなものを購入するのか、あるいは、興味があるのかといった情報を収集することができ、商店側も顧客

側も欲しい情報を整理することができる。これは既に Suica などの電子マネーの普及により、公開はされてはい

ないが技術的環境的に既に充分可能である。空間と人間と繋ぐインタフェースとしての事例として「時空間ポエ

マー」( 図 2-3-5-1) がある。時空間ポエマーは ,GPS カメラ付きケータイを用いて、位置情報付きの写真を電子

的に共有するデータベースを構築していくことを通じて、人々が時間と空間に潜む価値を発見し表現し共有する

行為を支援し、その可能性を拡張しようというシステムである。また、docomo により「i コンシェル」がある。

これは携帯電話がまるで " 執事 " や " コンシェルジュ " のように、一人ひとりの生活をサポートするサービスで

ある。利用者の様々なデータ ( 生活エリア情報、スケジュール、電話帳など ) により自分の生活エリアや趣味嗜

好に合わせた情報を適切なタイミング、方法で届けたり、携帯電話に保存されているスケジュールを自動で最新

の情報に更新したり、電話帳にお店の営業時間などの役立つ情報を自動で追加するものである 23)。このような

流れは携帯電話業界において大きな流れとしてあり、また広告効果が期待できることから広告業界からも注目さ

れているものである。これらのように、マーケティングの手段としてのアンビエント建築に注目されていると言

える。

図 2-3-5-1 時空間ポエマー

Page 36: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

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2-3-6 安心・安全の提供のための建築空間の情報化

 空間の情報化は、離れた場所に住む家族の安全・安心も提供することを可能とする。建築空間が情報化される

ことにより、人間の生活行動が情報化させることになる。つまり、生活者が元気に生活をしているのかを情報と

して得ることができるのである。具体的な事例としては、ポットの使用歴をメールで離れた家族に伝えるサービ

スや赤外線カメラ・サーモグラフィを用いることで生活行動を把握し、もしものケースでは、消防局に連絡する

などのサービスがある ( 図 2-3-6)。これらは家具の一部や空間の一部だけを使ったものであり、アンビエント空

間と言えるものではまだないが、独居高齢者が増え社会問題になっている現在、このようなサービスはより注目

されていくであろう。また、都市空間に視野を広げると、子供の安全を提供することも行われている。具体的な

事例としては、子供に RFID カードを持たせ、学校や塾、駅でそのデータを読取り、保護者に子供のいる場所と

時間をメールで連絡するサービスがある。また、都市空間に RFID 受信機を各所に設置する事により、子供の位

置をより細かく把握するというサービスも行われている。これらのように、情報技術が安心・安全に使われてお

り、今後、より情報化された建築空間が求められていくであろう。

図 2-3-6 見守りサービスの概要

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2. 研究背景

30

2-3-7 アンビエント建築の今後

 以上のように現在、多方面からアンビエント建築の提案と実証が行われている。これらからわかるように、そ

れまで把握することのできなかった情報を共有・提供することにより、より良い活動を支援する空間を求めてい

る。情報化によりそれまでの人間が認識することの出来なかった多量の情報を共有、提供、選択することができ

るようになった。そして、空間が情報化されることにより、それが実際の活動により近いところで行われるよう

になるのである。それにより、それまで以上の活動が行われ、よりより生活を行えるようになるのである。今後、

よりアンビエント建築は求められていくであろう(図 2-3-7)。アンビエント建築の構築のためには、ネットワー

クの形成や技術力、システム構築などまだ多くの問題があり、一般に普及するまでにはまだ時間はかかると考え

られる。しかし、今後、多方面からによる研究・開発・整備が行われれば、充分に実現することが可能なもので

ある。その重要な技術の一つとして、行動モニタリングがある。次にこの行動モニタリングについて考えていき

たい。

図 2-3-7 アンビエント建築イメージ

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2. 研究背景

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2-4. 行動モニタリング

2-4-1. 行動モニタリング

2-4-1-1. 行動モニタリングの時代変化

 アンビエント社会、及びアンビエント建築を実現していく上で重要な要素である行動モニタリングについて考

えていきたい。行動モニタリングとは、人間の行動に関して見えていない情報を見えるようにすることである。

建築分野においてはもちろん、それ以外の分野においてもはっきりと見えていない人間の行動を把握することは

とても重要である。建築分野においては、人間の行動・接触・滞在といった様々な状態を情報化技術によって客

観的な数値として得た結果からモデル化、シミュレーション、検証などを経て客観的な立場から建築空間の設計

提案等を行うことができる。また、それらの情報を用いることで、時間変化するモデル、アンビエント空間、動

的に変化する空間・都市というものが実現できると考えられる。では、どのような行動モニタリングがこれまで

行われてきたのか、考えていきたい。

 これまでの行動モニタリングにおいては、ビデオ・カメラなどを使用して人間の行動を観察するのが主流であっ

た。それらの方法では、人間の眼と手によってデータ収集・分析を行うので莫大な時間がかかり、〝モニタリン

グ→モデル化 + 更新→シミュレーション→検証〟という流れを一度分断・独立させて各範疇で分析せざるをえな

かった。そのためさらに行動モニタリングの一連の流れに統合する作業が必要であったため、特定のシチュエー

ションにおける一般解を求めることが現実的であり、主流であった ( 図 2-4-1-1-1)。しかし、現在においては、

行動モニタリングを行うためのセンシングデバイスの小型化、低消費電力化が進み、“ 自由に生活している ” 被

験者の長時間にわたる追跡も可能となってきており、行動モニタリングで取得できるデータの量・質共に向上し

てきている。また、取得したデータを分析・マイニングする技術も同じく発達しており、様々なデータからより

速く正確に人間の行動を把握することが可能となってきている。こういった変化により、このモニタリングの流

れを同時並行で処理しながら、相互に関係を持ってリアルタイムに行動モニタリングを行うことができるように

なり、そのことは場面場面に応じた特殊解を求めることを可能にした ( 図 2-4-1-1-2)。

図 2-4-1-1-1 いままでの行動モニタリングシステム

図 2-4-1-1-2 これからの行動モニタリングシステム

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2. 研究背景

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2-4-1-2 行動モニタリングの種類

 行動モニタリングでは、スケールにより都市スケール・建築スケール・空間スケールと大きく 3 つに分ける

ことができると考えられる ( 図 2-4-1-2)。都市スケールでの行動モニタリングでは、携帯電話におけるデータの

送受信記録や GPS といった手法を用いたモニタリングがある。都市スケールでの人間に焦点をあてたモニタリ

ングはもちろん、都市に焦点をあてたモニタリングも可能で、人間行動により都市評価をすることもできると考

えられる。建築スケールでの行動モニタリングでは、RFID アクティブタグや GPS などを用いた手法がある。学

校や商業施設などでの人間行動を把握することで建築における全体像について考えることができる。空間スケー

ルででの行動モニタリングでは、人体通信機器や RFID パッシブタグなどを用いた手法ががある。

 このように、様々なセンサシステムが様々な場面で行動モニタリングに使用されている。次にこれらのセンサ

システムについて詳しく説明をしていきたい。その中でも、本論において使用されたRFIDをまず述べたいと思う。

図 2-4-1-1-2 スケールによる行動モニタリングシステムの分類

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2. 研究背景

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2-4-2 RFID

2-4-2-1 RFID 概要

 RFID(Radio Frequency Identification の略 ) とは、ID 情報を埋め込んだタグと呼ばれる媒体に記憶された人や

モノの個別情報を電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの、および技術全

般を指している。この技術に用いる IC タグを RFID タグと呼び、無線通信によって外部からその情報を読み書

きする。従来は複数の電子素子が乗った回路基板で構成されていたが、近年、小さなワンチップの IC( 集積回路 )

で実現できるようになってきた。この場合は IC タグと呼ばれ、そのサイズからゴマ粒チップと呼ばれることも

ある。

 身近な例として、Suica や Pasmo などの非接触 IC カードも、同様の技術を用いている。狭義な意味では、タ

グとリーダとの間の無線通信技術であるが、技術分野としてはそれにとどまらず、タグを様々な物や人に取り付

け、それらの位置や動きをリアルタイムで把握するというシステム全般まで含めて語られる。実世界のモノを、

デジタルの仮想世界と結びつけて認識や操作ができるようになるという点が、社会的に様々な波及効果を与える

と考えられており、近年、普及し始めているシステムである。

2-4-2-2 タグの種類

 RFID タグには大きくニ種類が存在している。それは、「アクティブタグ」( 図 2-4-2-2-1) と「パッシブタグ」( 図

2-4-2-2-2) である。また、その中間的なものとして、「セミパッシブタグ」もある。

 まず、「アクティブタグ」は電池を内蔵しており、タグ自身が微弱無線などで一定時間 (1 秒~数分程度 ) おき

に ID を発信するタイプのタグである。ID の読取可能範囲は数 m ~最大 100m 以上となり、パッシブタイプと

比較して大幅に広くなる。一方で電池を内蔵するため、タグの小型化は難しく、コストも高くなる。また、3 ~

5 年程度の電池寿命があるので、永久に使うことはできない。電波型タグは、小型の発信器であるタグから発せ

られる電波を受信機で検知するもので、タグの検知はリーダーの電波の届く範囲に「ある」、「ない」の二値的に

行われる。ユーザが一定の場所に「いる」ことを認識するシステムでは、電波型タグを用いる方が適切な場合が

多い。タグは、電波型であるためタグが衣類の奥深くにあると感知範囲が狭くなるなどの問題がある。

行動モニタリングにおいては、「読み取り可能範囲が大幅に広い」「大規模施設レベルでのモニタリング可能」「在・

不在判定に適している」という特徴から、比較的規模の大きい施設での人間の行動ネットワークをモニタリング

することに活かされると考えられている。

 「セミパッシブタグ」だが、これはリーダライタアンテナの電波から生み出すエネルギーと、内蔵電池のエネ

ルギーで動作する IC タグである。パッシブタグに比べ、通信距離は広く、10 ~ 20m の読み取り距離を誇るが、

アクティブタグに比べると狭い。

 そして、「パッシブタグ」はタグリーダからの電波をエネルギー源として動作する RFID タグであり、電池を

内蔵する必要がない。タグのアンテナはタグリーダからの電波の一部を反射するが、ID 情報はこの反射波に乗

せて返される。反射波の強度は非常に小さいためアクティブタグに比べてパッシブタグの受信距離は比較的短く

なるが、非常に安価 ( 数円 ) で生産できる見込みが出てきたことや、ほぼ恒久的に作動することから今後の普及

の本命と目され、期待が高まっている。

 タグリーダ側は、比較的強めの電波を供給し、タグからの非常に微弱な反射波を受信・解読できる必要があり、

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2. 研究背景

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IC そのものにアンテナが埋め込まれている場合も多いが、その場合通信可能距離は数センチに制限される。通

信距離を伸ばすには、IC の外部にアンテナを取り付けることが必須となる。

Suica や Pasmo に使われている RFID タグはこのパッシブタグであり、既に一般に普及し始めていることがわか

る。

 行動モニタリングにおいては、「タグが安価で多くのモノ・人・空間にタグを設置できる」「一度にたくさんの

タグを読むことができる」「半永久的に使用できる」という大きく三点の特徴が上げられる。これらに着目し、様々

な分野において RFID を用いた行動モニタリングが行われている。特に、その特徴から規模の小さい住空間にお

ける行動モニタリングにおいて活かされると考えられる。

 本論においては、このパッシブ RFID タグを用いて住空間における行動モニタリングを行う。

図 2-4-2-2-1 アクティブタグ

図 2-4-2-2-2 パッシブタグ

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2. 研究背景

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2-4-2-3 通信方式

 パッシブタイプのタグでは、タグ内部に整流回路が内蔵されており、タグリーダからの電波を整流して、直

流に直し、それを電源として、IC が動作する仕組みになっている。 通常、リーダからの電波は、プリアンブルに

続きコマンド bit 列で変調されたものである。この後にさらに無変調のキャリアが続く。 プリアンブルの部分で、

IC の初期動作に必要なだけのエネルギーが蓄えられる。 そしてコマンド bit 列を復調して解釈し、無変調部キャ

リアの部分で反射波に返答を乗せて情報を返す。 リーダからの変調およびタグの返答の変調には、振幅変調、周

波数変調、位相変調、あるいはその組み合わせ変調が用いられる。 パッシブタイプのタグでは、必ずリーダから

の送信が始めにあって、タグはそれに応えて情報を返す。つまり、タグから自発的に情報を出すことはない。

 これに対して、アクティブタイプのタグでは、情報を自発的に発することが可能である。 定期的に情報を発信

するタイプ、センサーを内蔵してその変化があったときに発信するタイプ、 などがある。もちろん、リーダから

のコマンドに応答して返答するタイプも存在する。

2-4-2-4 使用する電波の周波数帯

 現在、主に使われている RFID の周波数帯は以下の 5 つがある。

・135kHz

135kHz のタグは、もっとも歴史的に長く使われている。 世界的にも規格が統一化されているが、電磁誘導方式

であるため、通信可能距離が数十センチメートル前後と短い、アンテナがどうしても大きくなることなどから、

UHF 帯、2.45GHz のタグに取って代わられるものと予想される。

・13.56MHz

これも電磁誘導方式である。 現状では、もっとも広く使われているのが、この 13.56MHz のパッシブタイプの

タグである。 CD、ビデオショップなどで盗難防止用によく使われているのを目にするであろう。Suica もこの周

波数を使っている。 通信可能距離は最大 1m 程度である。本論の実験で使われているものもこの周波数である。

・433MHz

欧米では国際物流用に使用されているといわれる。しかし、日本ではアマチュア無線の周波数帯の一つ

(430-440MHz、更に呼出専用周波数であって、他業務による有害な混信からの保護を要求出来る一次業務扱い )

であり、一部の実験が行われた程度に留まる。欧米の 430MHz 帯アマチュア無線の周波数は、420 ~ 450MHz

と日本の 3 倍の周波数幅があり、問題が表面化しにくい事情がある。

・860-960MHz

昨今 IC タグといえば、この 900MHz 帯か、2.45GHz が注目されている。 UHF 帯である。 日本では既に携帯電話

や業務無線などで使われており、RFID で使うことは認可されていない電波帯であったが、2006 年 1 月改正の

国内電波法により RFID でも利用可能となった。 電波の波長が身の回りの物品のサイズと近いため、電波の回り

込みが期待できる。そのため、多少の障害物があっても通信が可能であり、距離が一番稼げる周波数である。大

Page 43: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

36

量普及の最有力候補と目されている。 通信可能距離は 2 ~ 3m 程度、ベストケースでは 5m 程度が期待できる。

・2.45GHz

電磁波としてはマイクロ波の帯域になる。 波長が短いため回り込みが起き難く、900MHz 帯にくらべて距離が

稼げない。 通信可能距離は 2 ~ 3m 程度である。 しかしアンテナが最も小型になることから、そのような要求の

高いアプリケーションでは、普及すると考えられている。 日本でも RFID として使うことが、既に認可されてい

る電波帯である。

2-4-2-5 期待される用途

 RFID の技術を使うと、今まで考えられなかったようなことが可能になると期待されており、またいくつかは

実際に使われ始めている。ここでは、「流通」「履歴管理」「物品管理」「プレゼンス管理」「センサーネットワーク」

について取り上げたい。

 まず、流通であるが、この分野においてはサプライチェーン・マネジメント (SCM:Supply Chain Management)

で期待されている。工場で生産した段階で製品にタグを貼り付け、その後の配送ルートで物品の動きを追跡する

という用途である。例えば、コンビニエンスストアでコーラが 1 本売れたら、コーラ工場での生産数を 1 本追

加する、あるいは、今こちらの倉庫に在庫が多いからこっちから配送しよう、といった生産の合理化が◆図れる。

これは現状でも、バーコードにより実現されているシステムであるが、RFID の技術を使うことにより ID の読み

取りが自動化され、人間がバーコードリーダを操作するという手間がなくなり、効率がさらに向上すると期待さ

れている。 一部で既に実用化されており、今度の流通において一般的になるものだと考えられる。

 次に履歴管理がある。これも流通という点として捉えることもできる。RFID タグには書き込みが可能なので、

物品の流通過程で、その物がどこを通って、どういう加工をされて、どこに出荷されたか、といった履歴情報を、

移動、加工の都度、記録することが出来る。これにより、例えば牛肉の産地や生産者・賞味期限を記したり、狂

牛病の BSE 問題を管理したり、ブランド品の真贋判定をより確実にしたり、といった用途が考えられている。 健

康、安全が社会的に求められている現在、特に消費者、生活者の立場から強く求められる分野であると考えられる。

物品管理においては、図書館やビデオライブラリーなど、物品が大量にあって、それを管理する必要がある場

所での利用が期待されている。いつ、どこで、だれが、その物品をどこへ移動させたかを自動的に認識できるよ

うになる可能性がある。図書館の貸出、返却を自動化したシステムは、一部で既に実用化され徐々に広がってい

る。貸出、返却を利用者それぞれが一度に行うことができ、本棚自体にもシステムが組み込まれており、どこに

本があるかを瞬時にわかるということから作業の効率化と人件費の削減等の点からも注目され今後より実用化さ

れていくと考えられる。また、CD や DVD に貼付けても音飛び等の障害が発生しない RFID タグも開発され図書

館での RFID による管理は一般的になると思われる。

 人が今どこに居るのかという情報を、プレゼンス情報と言い、今後のビジネスで重要視されている。人が

RFID タグを常時携帯することにより、今は会議室、今は本人の机、今は外出中、といった情報を、仕事仲間が

瞬時に把握できるようになる。社員証に RFID タグを使用している企業もあり、今後普及していくと考えられる。

センサーを様々な場所に取り付けて、そこから包括的な全体情報を抽出して、意味のあるデータを得ようとい

うセンサーネットワークの試みが進行中である(データマイニング、コンテキストアウェアネスも参照)。例えば、

タクシーのワイパーが動いていると反応するセンサーをたくさん集めると、都市内の詳細な降雨情報が得られる

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2. 研究背景

37

などが実験的に行われている。

2-4-2-6. バーコードとの違い

 RFID タグは、既存のバーコードと対比して語られることが多い。ここではその違いを RFID の利点を中心に

簡潔に述べたい。

・読み取り範囲

バーコードは、バーコードリーダが読める位置に、人が意図的に持ってこなければ読むことができない。つまり、

読取範囲が限定的である。それに対し、RFID タグでは読み取り範囲が広く、また読み取れる方向も自由度が大

きいため、おおまかな位置決めで読むことが出来る。これにより人の作業が省力化することができる。

・同時に認識可能数

数十ミリ秒~数百ミリ秒でひとつの RFID タグを読むことが出来、バーコードとおよそ同じぐらいの読取速度

である。バーコードは一度に読み取ることができるものが基本的に一つのみである。それに対し、RFID タグは

多くの RFID タグが密集して配置されていても、それぞれを見分ける技術 ( 衝突回避 ) が開発されているため、

RFID タグが多少重なっていても、読み取りが可能である。これも人の作業の省力化につながるものである。

・書き込みの可否

バーコードは印刷物のため変更することはできない。それに対し RFID タグは書き込みが可能なものがある。流

通過程の履歴情報などを書き込むことで、新たな利用方法が期待されている。

・見えなくても読める

バーコードは印字面をバーコードリーダに向ける必要があり、ある程度以上の印字面が見える状態でないと読み

取ることはできない。それに対し、RFID タグが目に見えない隠れた位置にあっても、タグ表面がホコリ、泥な

どで汚れていても読み取り可能である。このため、バーコードよりも広い用途が期待される。

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2. 研究背景

38

2-4-2-8. 普及の課題

 上記のような用途が本格化するためには、タグリーダのインフラが十分に整う必要がある。それを実現するた

め、つまり普及するためには、克服しなくてはならない数々の問題を上げる。

・タグの価格

流通用途に大量に使用するためには、タグの価格を低く抑える必要がある。10 円以下という話がよく引き合い

に出されるが、実際の運用では 1 円以下が望ましいともいわれる。 バーコードは印刷であるため、1 円以下に収

まっている。

・タグの付加

従来のバーコードと同じく、単品毎にタグを付加しなくてはいけない ( 単品毎にタグを付加するのではなく、コ

ンテナ、パレット、或いはケース単位にタグを付加する場合もある )。そんため、メーカーで製造される時点で

付加されるソースタギングまたは、自前で付加するインストアタギングの工程が必要となる。コストの低減を行

うには自動化の実施は必然となり、それに対応する機械も開発、普及が望まれる。

・データベースシステムとの連動

RFID のシステムで誤解されやすいが、RFID タグ自体に、例えば野菜の生産方法や農薬の使用状況などのさまざ

まな情報 ( トレーサビリティ情報 ) が保存されていることはほとんどなく、RFID タグに記録されているのは概

ね個体を識別する情報のみであることに注意する必要がある。前述のような、本来参照したい情報については、

個々の識別情報に対応したデータベースを構築し、これを参照することで得られるものである。この点について

は、現在広く使用されているバーコードシステムと同じである。

今後、RFタグを利用して食品のトレーサビリティ情報を一般に公開していくとすれば、そのIDからひも付きデー

タを引っ張ってくるためのデータベースシステムが、今以上に重要になってくる。また、RFID の情報と、デー

タベース情報のひも付けについては全くユーザ側からは見えない部分であることから、その信憑性についてどの

ように保証するかという点も重要になる。

現状でも、大規模なデータベースを構築するには、多大な費用と労力を要するが、それ以上のものを低価格で

いかに信頼性を高く作るかが、あまり注目されていない隠れた大きな課題である。

・プライバシーの保護

最近では RFID タグに搭載される記憶素子の容量と機能 ( 読み書きなど ) は増加傾向にあり、トレーサビリティ

情報が直接記載されるケースもあるため、それらを不正に組み込まれた場合は個人情報の漏洩にもつながる。

・電波の影響の考慮

無線 IC タグは「短距離無線機器」と見なされており , 一般無線機器と同様の規制を受ける。電波法に従う

だけでなく、人体の防護、植込み型心臓ペースメーカを含む医用電子機器への影響、EMC(Electro Magnetic

Compatibility: 電磁両立性 ) 規格などに注意しなければならない。

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2. 研究背景

39

・考え得るトラブル

RFID により発生する可能性があると考えられるトラブルは以下である。

 1.RFID タグが付いているのか判らない服を着て街をあるけば、その人がどんな素材で、どんな価格の物を購

  入したのかが周辺に判ってしまう。

 2.Suica や PASMO といった RFID カードなどをポケットに入れている場合には、RFID リーダーを持って近づ

  けば個人情報を所有者に知られずに取得できるため、個人情報の入手が RFID 普及前に比べて容易である。

 3.所持品が紛失した場合は所在を調べるのに役立つが、個人が持ち歩けばその個人の行動経路も第三者に知ら

  れてしまう。

 4.意図的に個人や物品に RFID タグを付けて商業的なリサーチを行う場合、悪意を持ってその RFID タグを関

  係のない物に付けると精度の低いデータとなってしまう。

 ID のみを記録した RFID タグを利用する場合であっても、1 は、ID と商品情報がリンクされているデータベー

スが漏洩すると起こりうる。2、3 のトラブルは無条件で起こりうる。

 このように、タグは用途が終われば取り外せる様に工夫したり、不必要な情報は記録しないなど、プライバシー

を守る仕組みを検討すべきと指摘されている。例えば、大根に付けられた RFID タグは、スーパーのレジで精算

をすると同時に、その機能を消去するというような仕組みを入れることが検討されている。

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2. 研究背景

40

2-4-3 行動モニタリングに使用されるその他のセンサシステム

2-4-3-1 携帯電話使用歴

 アメリカの研究チームが携帯電話やテキストメッセージの送受信が行われるごとに、中継基地局の場所から被

験者居場所を割り出すという方法で 6 ヶ月間の人間の行動パターンを追跡調査を行った ( 図 2-4-3-1)。

実験では、人の移動の動機や行き先までは明らかにできないが、都市に伝染病の拡大防止対策などの有益なデー

タを提供できると考えられている。

 行動モニタリングにおいては、都市スケールでの行動モニタリングが可能であり、複数人のデータが同時に取

得できること。また、人間が普段携帯しているモノがデバイスとなることでより日常行動に近いデータが取得で

きるという特徴があると考えられる。これらの特徴を活かすことで、都市スケールでの人間行動をモニタリング

することに優れていると考えられ、人間だけではなく都市に焦点を置いたモニタリングを行うことができると推

測できる。

2-4-3-2 GPS

 グローバル・ポジショニング・システム (GPS:Global Positioning System) は、全地球測位システムや汎地球測

位システムとも呼ばれ、地球上の現在位置を調べるための衛星測位システムである ( 図 2-4-3-2)。

 米国が軍事用に打ち上げた 29 個の GPS 衛星から衛星の軌道と、衛星に搭載された原子時計からの時刻のデー

タを含む電波信号を GPS 受信機で受け取り、受信した電波の時間差により衛星からの距離を算出し、三角測量

の原理を用いて受信機の位置を特定する。二個の衛星の電波を捉えれば地球上の平面での位置がわかり、3 個以

上の衛星の電波を捉えればさらに高度の情報を得ることができる。

 民生用 GPS 受信機は、当初航空機・船舶・測量機器・個人携帯用に利用されてきた。しかし、近年では、カー・

ナビゲーション・システム ( 以下、カー・ナビ ) や携帯電話などにも搭載され、利用されている。カー・ナビでは、

地図上の道路情報と照らし合わせることで更に誤差を修正しているものが大半であり、ハードディスクや DVD

の利用によりディスプレイ上に詳細なカラー地図を表示することが可能となっている。

 行動モニタリングにおいては、都市レベルでのモニタリングや移動物のモニタリングが可能であるという特徴

図 2-4-3-1 携帯電話の仕組み

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2. 研究背景

41

がある。これらの特徴を活かすことで、GPS では都市スケールでのを自動車や電車などの移動手段を用いた場合

も含めた人間の行動ネットワークをモニタリングすることに優れていると考えられる。これまでにその優位性を

活かし、小学生の屋外活動についての研究や都市スケールでの移動様態を調査する研究などが行われている。

2-4-3-3 人体通信機器

 「さわる」や「ふれる」といった人間が普段当たり前に行っている動作をコンピュータネットワークに応用し

ようという概念が基となっている、人体が微弱な電流を通す性質に着目し、人体を従来のケーブルのように使い

データ通信をする、有線でも無線でもない通信形態である ( 図 2-4-3-3-1)。体内電流の変化を利用するタイプと、

体表面の電界の変化を利用するタイプがある ( 図 2-4-3-3-2)。

 専用の装置を装着した人が、他の同様の装置を装着した人あるいは装置に触れる時に通信が可能になる。特に

電解方式では、直接肌で触れなくても、衣服や靴程度の厚みのものであれば間接的に触れてもデータのやり取り

ができるため、触れる・座る・踏むといった自然な動作の中でデータ通信が可能である。より生活に即した利便

性の高いコンピュータシステムや、それらシステムが提供する直感的でわかりやすいサービスが可能になると期

待されている。

 人体通信技術のコンセプトは、1996 年にアメリカのマサチューセッツ工科大学メディア・ラボの

T.G.Zimmerman 氏が、ウエアラブル・コンピューティングにおける新しい機器間接続手段として提唱した

PAN(Personal Area Network) に端を発している。

 行動モニタリングにおいては、スケールに限らずモニタリングでき、日常的な行動からモニタリングを行える

という特徴があると考えられる。これらの特徴を活かすことで、家具レベルでデータ受信装置を配し空間スケー

ルで、データ受信装置を建物や店舗の入り口に配し学校や商業施設などの大規模施設などの建築スケールで、施

図 2-4-3-2 GPS の仕組み

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2. 研究背景

42

設や店舗の入り口に受信装置を配し街単位で普及させることで都市スケールでモニタリングすることに優れてい

ると考えられる。今後の期待を向けられている技術である。

2-4-3-4 ビデオ録画・カメラ撮影

 行動モニタリングにおいては、古くから最も使われている手法の一つが見ビデオ録画・カメラ撮影によるもの

である ( 図 2-4-3-4-1)。ビデオ録画・カメラ撮影においては、取得できるデータの解像度がとても高く、「誰が、

誰と、何を、なぜ、どこで、どのくらい、どのようにして」いった行動の全ての情報を得ることができる。一方で、

誤認の可能性が高く、映像死角が発生してしまうなどのデータの撮り違いや不足分が発生することもある。また、

撮影されていることによる被験者の心理的負担にも配慮する必要があり、データの収集・分析に時間がかかるこ

とが最も大きな問題としてあげられるが、現在では、映像を解析することで欲しいデータだけを取り出す仕組み

も発達してきている ( 図 2-4-3-4-2)。

 行動モニタリングにおいては、取得できるデータの解像度が高く、行動と行動の関係性が明確に判断できると

いう特徴があると考えられる。これらの特徴を活かすことで、ビデオ録画・カメラ撮影では複雑なデータが交錯

する場面での人の行動をモニタリングすることに優れていると考えられる。これまでにその優位性を活かし、群

衆における人間行動についての研究が行われている。

図 2-4-3-3-1 人体通信の仕組み 図 2-4-3-3-2 人体通信の種類

図 2-4-3-4-1 デジタルビデオカメラ 図 2-4-3-4-2 Qwatch

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2. 研究背景

43

2-4-3-5 赤外線カメラ

 近赤外線に感光する赤外線フィルムやカメラなど映像装置を用いることで、可視光に比べて波長が長いため散

乱しにくい性質がある赤外線を検出し、煙や薄い布などを透過して向こう側の物体を撮影することができる ( 図

2-4-3-5)。

 あくまで光であるため、近赤外線光が当たっていない物体は写らず認識できない。一方で、赤外線は目に見え

ないため、外部に近赤外線光源を持つことで、相手を刺激せずに夜間などでも撮影することができ、高齢者が住

む住宅などにおいてのヘルスモニタリングに利用されている。また、街中の監視カメラや各種料金所ゲートのカ

メラから、家庭用のドアホンまで幅広く利用されている。

 行動モニタリングにおいては、夜間でもモニタリング対象者に刺激を与えることなく観察が行えるという特徴

があると考えられる。この特徴を活かすことで、赤外線カメラでは夜を含む長い時間での人間行動をモニタリン

グすることに優れていると考えられる。

2-4-3-6 熱映像装置

 遠赤外線領域を検知する映像装置を使うことで、熱源となる物体や生物の存在を検知することができ、また、

遠赤外線の強度を解析することで温度分布を割り出し表示することも可能となる ( 図 2-4-3-6)。

 熱映像装置は、肉眼で見ればどんなに暗い場所においても、他の人間などの存在を確実に認識することができ

るので、赤外線カメラと併用することで精度の高い「在・不在」の判断を行うことができ、高齢者のヘルスモニ

タリングシステムに活用されている。

 行動モニタリングにおいては、暗い空間においても人間行動を認識することができ、体の内部の状態 ( 体温 )

図 2-4-3-5 赤外線カメラを使用した監視カメラ

Page 51: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

44

が把握できるという特徴があると考えられる。これらの特徴を活かすことで、熱映像装置では、夜を含む長い時

間での人間行動、人間の状態ををモニタリングすることに優れていると考えられる。熱映像装置を使用して室内

環境の状態を図る研究が行われている。

2-4-3-7 加速度センサ

 加速度センサは、MEMS 技術によって作製される。 MEMS の加速度センサの場合、質量が小さいため感度は

低下するが、劇的な小型化が可能になるため、自動車のエアバッグやカーナビゲーションの傾斜計、ゲームのコ

ントローラなどに使われている ( 図 2-4-3-7-1)。 精度は測定軸を基準に仕様されるため、軸の方向を筐体の固定

面、およびその加工精度で確定しないと加速度センサが提唱する精度に意味がなくなり、特にプリント基板上に

加速度センサが実装されただけの状態では計測用途に適用し難い ( 図 2-4-3-7-2)。

図 2-4-3-6 熱映像装置を用いた人間の体温状況把握

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2. 研究背景

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 加速度センサーによるヘルスモニタリングシステムの研究も行われており、加速度センサーの情報から人間の

行動を予測するということを行っている。行動モニタリングにおいては、体の動ごきを検出でき、センサを複数

装着することで姿勢を判別することができるという特徴があると考えられる。これらの特徴を活かすことで、加

速度センサは人間の行動が健康状態に及ぼす影響などをモニタリングすることに優れていると考えられる。

2-4-3-8 モーションキャプチャ

 モーションキャプチャは、関節部に加速度センサーを付けた被験者に動作を行なってもらい、被験者の動作を

デジタルデータに変換してコンピュータに取り込む仕組みである ( 図 2-4-3-8)。取り込まれたデータを元に 3 次

元グラフィックスのキャラクタの動作を構成していくことで、リアルな動きを持つ CG キャラクタを作成できる。

利用される分野は、リハビリテーション・運動工学ロボット工学・農業・建築など多岐にわたる。人間の行動に

おける作業姿勢、歩行姿勢を解析することで、集中力、疲労度、姿勢の正しさを可視化することができる。

図 2-4-3-7-1 加速度センサーを用いたエンターテインメント商品(左:iPod touch, 右:Wii)

図 2-4-3-7-2 加速度センサー

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2. 研究背景

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 行動モニタリングにおいては、作業姿勢、歩行姿勢などの細かい体の動かし方がわかり、人間行動を 3 次元

で複製できるという特徴があると考えられる。これらの特徴を活かすことで、モーションキャプチャでは、人間

行動の細かい姿勢などを解析することに優れていると考えられる。

図 2-4-3-9 モーションキャプチャを使用した人間行動モニタリング

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2. 研究背景

47

2-4-4. 行動モニタリングシステムの比較

2-4-4-1. 可能なモニタリング手法・データの分類

 このように現在、様々な行動モニタリングシステムが存在する。そして、それらの実用化に向け研究が行なわ

れている。また一部では既に実用化を含め実証的に導入され始めている。

 本論で取り扱う指輪型 RFID リーダは行動モニタリングに関してはまだ研究段階であるが、空間スケールにお

ける行動モニタリングのツールの一つとして期待できる技術である。ここでは、空間スケールの中での指輪型

RFID リーダの分類について考えたい。空間スケールにおける行動モニタリングでできるデータの種類は大きく

3 つに分類することができる。それは、「歩行行動モニタリング」「活動状況モニタリング」「接触行動モニタリ

ング」である ( 図 2-4-4-1)。歩行行動モニタリングによるデータは、空間における人のいる場所を継続的にモニ

タリングすることで、人の移動、つまり歩行行動により人の位置と時間を記録したものである。方法としては、

床面に格子状に RFID タグを並べ貼付け、その上をスリッパ等の RFID リーダを装備したものを装着した人が行

動するなどが考えられる。活動状況モニタリングによるデータは、空間における人の活動を局所的にモニタリン

グすることで、人が行っている活動の内容と時間を記録したものである。他の二つの行動モニタリングのアプリ

ケーション的な側面が強いものである。接触行動モニタリングによるデータは、人とモノとの接触行動、つまり

モノを使う行為を記録するものである。方法としては、モノに RFID タグを貼付け、それを指輪型等の RFID リー

ダを装備したものを装着した人が行動するなどが考えられる。本論で取り上げる指輪型 RFID リーダは接触行動

モニタリングに分類される。

図 2-4-4-1 空間スケールでの行動識別による行動モニタリング手法分類

Page 55: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

48

2-4-4-2. 本研究の位置づけと意義

 本論において取り扱う空間スケールは主に住空間を対象としている。住空間内における行動モニタリングの研

究は建築学会の他、情報学会等でも行われている。そもそも、行動モニタリングによって最終的にできることは

大きく二つあると考えられる。一つ目は、行動に合わせたリアルタイムによるその人に合わせたサービス提供。

二つ目は、建築空間内における人間の行動を客観的に判断し、設計・計画に活かすことである。

 まず、一つ目のサービス提供であるが、アンビエント空間における行動モニタリングでは最も研究されている

ものである。それは高齢者や子供の見守りサービスとしての側面もあり、着目されている。日本は、高齢化が進

み、高齢者が単身で住まうケースが増えている。そのため、高齢者の見守りサービスの需要が急激に増えている

のである。また、そこで、生活状況を把握するためのモニタリングシステムとして、ドアの開閉や、水道・ガス

メータなどの生活場面がデータとして反映されるものが発達し、システム化が進んでいる。特にガス栓の閉め忘

れなどのミスを起こさないように行動モニタリングをすることに着目されている。この点に関しては、生活空間

に限らず、整備業務など人為的なミスをなくす需要のある分野からも注目されているものである。また、高齢者

や子供に限らずより良い生活環境の提供するサービスの構築という点からも着目されている。その人の行動特性

を認識し、次に起こる行動を予測し、それに対応したサービスを外部ネットワークと接続することで提供すると

いうものである。例えば、外出する行為が観測された場合、その日の天気予報より傘が必要だという情報を提供

するというものが考えられる。

 二つ目の設計に活かす客観的データの取得であるが、建築設計を考えるうえで重要になるものだと考えられる。

これまで、建築空間内における生活者の行動は、本人や他者により主観を持った上で、設計者と生活者がコミュ

ニケーションをとり得られるものであった。そのため、生活者が気づかないその人の行動の特性などを設計者が

認識することは難しく、その生活者に適応した建築計画を提案し、設計することが容易ではない。また、設計さ

れた住宅内で生活者が設計者の意図通りに生活、利用しているかは、生活者と設計者とのコミュニケーションに

頼るしかなく、設計者が知りたい情報を生活者が提供してくれるとは限らず、情報を得にくい。そのため、設計

者がその設計の適切な点や改善すべき点を認識することは容易ではなく、次の設計に充分に活かすことが可能と

は言いがたい状況である。また、行動シミュレーションが使える空間は主に、建築空間や都市空間であり、生活

空間における行動シミュレーションは現在のところ普及しているものはない。建築空間や都市空間においては、

人の滞在、滞留行動をシミュレーションする技術が確立しており研究が数多く行われており、実用化されている。

渡辺仁史研究室においては、特にこの研究は継続的に行われいる。例えば、菊池徹らは公共空間におけるプロモー

ション活動の見物衆の群衆形成の行動シミュレーションを行うことを行った 28)。公共空間における行動シミュ

レーションは確立している反面、生活空間における行動シミュレーションは確立してない。

 これまで生活空間を対象として行動モニタリングについて行った研究について触れたい。森らは、RFID タグ

を床面に貼付け、実験的な生活空間 ( センサルーム ) をつくり、そこでの人間の歩行行動のモニタリングを行っ

た 29)。横尾らは、ビデオ録画による実際のリビングにおける生活者の接触行動モニタリングを行い、マルコフ

モデルを用いてその行動予測を行った 30)。遠田らは、モノに RFID タグを貼付け指輪型 RFID リーダを読み取る

ことを実際の住宅内における接触行動モニタリングを行い、それをネットワークと図式化することを行った 31)。

また、楓らは、指輪型 RFID リーダを用いて実験空間において接触行動モニタリングを行い、確率的手法により

外出前の行動を予測することを行った 32)。これらを受け、本論は指輪型 RFID リーダを用いた接触行動モニタリ

ングを実際の住宅で行い、それによる行動予測とそれに基づいたシミュレーションシステムの構築を目指すもの

である。

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2. 研究背景

49

2-5. ネットワーク科学

2-5-1. ネットワーク科学

2-5-1-1. ネットワーク科学概要

 本論で用いるネットワーク科学について触れたい。本項目は、増田、安田によるネットワーク科学及びその分

析方法を参考に記載している 33) ~ 35)。

 ネットワーク科学とは複雑ネットワークという現実世界に存在する巨大で複雑なネットワークの性質について

研究する学問領域を指す。現実世界に存在するネットワークは複雑な構造を有しているが、スケールフリー性、

スモールワールド性、そしてクラスター性などの一定の共通する性質を見出すことができる。従来、こうした社

会的ネットワークの性質は主に社会学の研究対象となってきたが、1998 年にスモールワールドモデルという数

学モデルが発表されたことを契機に、現実世界の様々な現象を説明する新たな指標として注目を集めている。現

実世界のネットワークが持つ性質への関心が高まったことから、インターネット、食物連鎖、さらには論文の被

引用関係や言語の文法構造といったネットワークにおいても共通の性質が発見さたことでこの分野の研究は現在

急速に進展しており、他の研究分野との相互影響も活発化している。今後、ネットワーク科学は、ネットワーク

の問題が関連する多数の分野において、普遍性と重要性を増していくものと予想される。以下にネットワーク科

学で言われているモデルの概要を記す。文中に使われているネットワーク科学用語の定義は「2-5-2. ネットワー

ク科学用語定義」を参照されたし。

・スケールフリー性

 ネットワーク上に存在する一部のノードが他のたくさんのノードとエッジで繋がっており、大きな次数を持っ

ている一方で、大多数のノードはごくわずかなノードとしか繋がっておらず、次数も小さいという性質。この性

質は社会学をはじめとするこれまでの研究により、現実世界のネットワークで幅広く観察されている。例えば、

人々の持っている知人関係の数をみると、一部の人は非常にたくさんの知人を持っているが、大多数の人々の知

人の数は限られている。WWW ではごく少数の有名サイトが数百万単位のリンクを集めているが、大多数のサ

イトはわずかなリンク先からしかリンクされていない。生体内の相互作用でも、ごく一部のたんぱく質が多数の

たんぱく質と反応する構造になっている。

 数学的には、スケールフリー性はノードが次数 k を持つ確率 p(k) の確率分布が p(k) ∝ k^- γ のべき乗則にな

ると表現される。このような次数分布では、分布の偏りを特徴付ける平均的な尺度 ( スケール ) といったものが

存在しない。グラフがこのような性質を持つことを「スケールフリー」と呼ぶ。また、このような確率分布のと

き分散 V は無限大となる。

・スモールワールド性

 任意の 2 つのノードが、中間にわずかな数のノードを介するだけで接続されるという性質。

 数学的には、スモールワールド性はグラフの「平均最短距離」( 固有パス長もしくは直径ともいう ) L がノー

ド数 n の大きさに比べて小さい値となることで表現される。無方向・重み無しのグラフにおいて、任意のノー

ド vi からノード vj へ行くまでに通過しなければならないエッジの最小の本数を「パス長」( 距離ともいう )、パ

ス長の中で最短のものを ij 間の「最短距離」 dij と呼ぶが、dij の平均値がそのグラフの平均最短距離である。グ

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2. 研究背景

50

ラフにおいて n が増大したときに L が高々 logn に比例する程度でゆるやかに増加するとき、そのグラフはス

モールワールド性を満たすと定義される。

・クラスター性

 数学的には、クラスター性はグラフの「クラスター係数」 C が十分大きな値を取ることで表現される。グラ

フにおいて任意のノード vi と vj、同じく vi と vk が共にエッジで繋がっているような組み合わせの数を N3、

vi、vj、vk が三角形で繋がっているような組み合わせの数を N Δ とする。このグラフのクラスター係数は C =

3N Δ / N3 と定義される。クラスター係数は現実世界の各種のネットワークにおいて計測されており、それら

の値は 0.1 から 0.7 程度と報告されている。

2-5-1-2. 背景

 ネットワークはグラフとも言われ、それに関する学問としてグラフ理論がある。このグラフ理論と呼ばれる学

問は、18 世紀にレオンハルト・オイラーが創始された。1959 年にポール・エルデシュによって考案されたラ

ンダムグラフによってグラフの解析的な取り扱いが大きく進歩したが、その後はグラフ理論の分野では目立った

進展はあまり起きていなかった。その後 1960 年代から 70 年代にスモールワールド現象と弱い紐帯の重要性と

いう二つの現象が発見され、その後 1988 年にダンカン・ワッツとスティーブン・ストロガッツによって考案さ

れたスモールワールドモデルという数学モデルによって幅広い分野において注目を集めることになった。以下に

グラフ理論におけるネットワークに関する事項を記す。

・グラフ理論

 ノードとエッジの集合によって構成されるグラフの性質について研究する学問領域で、近くとだけ結びついた

ネットワークやランダムに対象を選ぶネットワーク、そして数十個程度までの小さなネットワークなどの構造が

簡単なネットワークをモデル化する手段として広く使われてきた。

・ランダムグラフ

 1959 年にポール・エルディシュが提案したネットワーク。名前から想像できるように、乱雑さをもつネット

ワークで、n 個の頂点の各二点間について。それぞれサイコロをふって出ため目の数によって確率 p で枝をおき、

確率 1?p おかないことにすることで作成する。

・弱い紐帯の力

 マーク・グラノヴェッターは 1973 年の論文において、密接な関係にあるノードとの間に張られた強い紐帯よ

りも、ごくまれに接するような弱い紐帯の方が有効な情報を持つという現象を見出した。

Page 58: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

51

2-5-1-3. ネットワーク科学のモデル

ネットワーク科学におけるモデルの代表的なものを以下に記す。

・スモールワールドモデル

 グラフ理論における既存の数学モデルは現実社会のネットワークを表現する上では一長一短といったところで

あったが、1998 年にダンカン・ワッツとスティーヴン・ストロガッツが発表した「スモールワールドモデル」

によってネットワーク科学は急速に進展することになった。

 スモールワールドモデルでは次のようなアルゴリズムでグラフを生成する。

1. 全てのノードを、近隣の a 個のノードと格子 (1 次元格子 ) 状にエッジで繋ぐ。

2. それらのエッジを確率 p でランダムに張り替える。

 パラメータ p を 0 とおけば格子、1 とおけばランダムグラフとなる。p を 0.1 前後とすると、格子とランダム

グラフをあわせもったような性質のグラフが生成される。スモールワールドモデルでは、ショートカットが形成

される効果によって平均最短距離はほぼ L ∝ log n となり、スモールワールド性を満たす。同時に格子の構造を

残していることで、クラスター係数は格子に近い値となりクラスター性をも満たす。

 スモールワールドモデルにも限界があり、次数分布は格子とポアソン分布の中間となるのでスケールフリー性

は満たさない。しかし、現実世界のネットワークに近いような性質を持つグラフを極めて単純なアルゴリズムで

生成できることが関心を呼んだ。この研究に触発される形で、現実世界のネットワークが持つ性質への関心が高

まり、またこの研究をさらに発展させた研究が続々と発表されていった。

・バラバシ=アルバートモデル

 1999 年、アルバート = ラズロ・バラバシとレカ・アルバートはスケールフリー性を持つグラフの数学モデル

を考案した。「バラバシ = アルバートモデル」(BA モデル ) では次のようなアルゴリズムでグラフを生成する。

1. m 個のノードからなる完全グラフ Km をスタートとする。

2. 新しいノードを 1 個追加する。そのノードから、すでに存在している m 個のノードに対してエッ

 ジを張る。このとき、エッジが張られる確率は、それぞれのノードのその時点での次数 k に比例す

 るものとする。

3. 2 を、ノードが所定の数になるまで繰り返す。

 バラバシ = アルバートモデルでは、既存の次数の大きなノードに対して新しいエッジが高い確率で加わって

ゆき、そのノードがハブへと成長してゆく。このモデルではノードの次数分布は p(k) = 2m(m+1) / [k(k+1)(k+2)]

∝ k^-3 となり γ = 3 のスケールフリー性を満たす。モデルはランダムグラフと似たところもあるので、平均最

短距離は L ∝ log n となりスモールワールド性をも満たす。

 バラバシ = アルバートモデルの弱点は、クラスター係数が 0 に近い小さな値となり、クラスター性を満たさ

ないことにある。だがその後、これらの研究をさらに発展させる形で、単純なアルゴリズムでありながら「スケー

ルフリー性」「スモールワールド性」「クラスター性」という現実世界のネットワークの 3 つの特徴全てを満た

すようなモデルが発表されている。

・スケールフリーグラフの頑強性と脆弱性

 スケールフリーグラフが持つ注目すべき特性として、ネットワーク障害に対する頑強性が高いことがあげられ

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2. 研究背景

52

る。スケールフリーなトポロジーを持つネットワークでは、全ノードのうちの 5 パーセントがダウンしたとし

ても、代替経路の存在によってノード間の接続を維持でき、系全体の平均経路長 ( 平均最短距離 ) はほとんど変

化しないのである。同じノード数、同じエッジ数でトポロジーが異なる他のネットワークではこのような特性は

見られない。

 一方で、スケールフリーなネットワークは、特定の重要なハブをピンポイントで狙った攻撃に対しては脆弱で

あるという弱点も併せ持っている。次数の集中した上位 5 パーセントのノードがダウンしたとすると、系全体

の平均経路長は約 2 倍にまで増大してしまう。

同様の特性は自然界の食物連鎖のネットワークでも観察されている。食物連鎖のネットワークは生物種のラン

ダムな絶滅に対しては頑強であるが、特定の重要な種が絶滅すると大きな影響を受けてしまう。こうした点を考

慮することは生物多様性に関する議論においても重要とされている。

2-5-1-4. 分析用のツール

複雑ネットワークの解析では、可視化・統計解析などを行うための分析ツールが幾つか存在する 36) ~ 39)。それ

らを下記に記す。

・UCINET

Windows 用のネットワーク解析ソフト

http://www.analytictech.com/downloaduc6.htm

・Pajek

Windows 用のネットワーク可視化ソフト

http://vlado.fmf.uni-lj.si/pub/networks/pajek/

・Igraph

グラフ関連のアルゴリズムが実装されたパッケージ

http://cneurocvs.rmki.kfki.hu/igraph/

・Cytoscape

マルチプラットフォーム対応のネットワーク解析ソフト。

http://www.cytoscape.org/

Page 60: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

53

2-5-2. ネットワーク科学用語定義

  ネットワーク科学用語の定義を以下に記す。また、括弧内に本論での接触行動における意味を記す。

・エゴセントリックネットワーク egocentric network

任意の行為者がそのまわりに取り結んでいるネットワーク

・完全グラフ complete graph

グラフ内の点が全て隣接しているグラフ

・距離 distance in graph theory

グラフ理論におけるパスの長さ

( 触れたモノの連続数、モノとモノの一つのつながり )

・距離の総和 sum distance

ある点からのグラフ内の他の全ての点への距離

( モノとモノのつながりの全ての数 )

・グラフの絶対中心 absolute center

グラフに存在する全ての点と等距離または最短距離の位置にある点

・構造中心 structural center

グラフ全体の中で中心的な位置をしめる、一つないし複数の点

・次数 degree

グラフ上の一つの点に接続している線の数

( モノとモノのつながり )

・出次数 outdegree

有効グラフにおいて、ある点から発して他の点に向かっている線の数

( そのモノの後に触れられたモノの数 )

・中心性 centrality

ネットワーク内の行為者の占める位置の中心性の尺度

( 中心的なモノの尺度 )

・入次数 indegree

有効グラフにおいて、特定の点にむけて他の点から発して来ている線の数

( そのモノの前に触れられたモノの数 )

Page 61: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

54

・ノード node

グラフを線とともに構成する要素

( 一つ一つのモノ )

・複雑ネットワーク complex network

現実世界に存在する巨大で複雑なネットワークの性質について研究する学問領域

・スケールフリー性 scale-free

一部のノードが他の多くのノードと繋がって大きな次数を持っている一方、大多数のノードはごくわずかなノー

ドとしか繋がっておらず、次数は小さいというネットワークの性質。

・スモールワールド性 small-world

任意の二つのノードが、中心にわずかな数のノードを介するだけで接続されるというネットワークの性質

・クラスター cluster

ネットワーク上におけるノードとエッジによって形成された三角形

・クラスター係数 clustering coefficieny

ネットワーク構造中にある閉じた三角形の比率

・平均頂点間距離 average path length

全ての頂点同士の距離のへ均地

・平均次数 average degree

各頂点から張られるパスの平均値

・グラフ graph

ノードとエッジの集合

・グラフ理論 graph theory

点と線との結びつき構造について研究する学問

・クリーク clique

グラフの中に埋め込まれた部分グラフとしての完全グラフ

( 良く一緒に使われるモノのグループ )

Page 62: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

55

2-5-3. ネットワーク科学の指標

2-5-3-1. 中心性概要

 何らかの組織やグループが存在するときに中心的な存在を特定し、ネットワーク内の個々の影響力関係を理解

することは非常に重要とされる。影響力の存在は、中心的なノードが他者と活発に関わりあっていることを前提

とすると、あるネットワークにおいて他者との関わりあいが比較的に活発なノードはネットワークの中心的な存

在であり、ネットワーク内の他者に大きな影響力を与えると解釈できる。逆に他者との関わりが少ないノードは、

紐帯数の少なさや他者との距離が大きいこと、そして紐帯の力の弱さなどから中心的な存在であるということは

ありえない。この中心的な存在を表す指標値が中心性 (Centrality) である。

 ネットワークにおいて、一つの頂点だけが中心的な存在でその他全ての頂点が従属しているような明確な中

心̶周辺関係が成立することは稀である。したがって、コミュニケーション、小集団、地域権力構造あるいは企

業間関係などの分析において、一つの中心的なノードとその他周辺的存在とを二つに分けて特定するだけでは十

分ではない。何らかの関係構造が存在する際には、最も中心的な頂点の特定だけではなく、ネットワーク内のす

べての頂点の中心性を相対的に計量することが望ましい。

 中心性の測り方はいくつか提案されているが、ネットワーク内で他者との関わりにおいて、他者との関わりが

相対的に多い者を中心的であるという一般的な理解をもとに開発された次数、近隣性、媒介性、固有ベクトルな

どにもとづいた指標が一般的とされている。次数とはネットワーク内においてノード間の紐帯数を指し、数が多

いほど中心性は高い。近隣性は他のノードとの距離がどの程度離れているかを示し、値が小さいほど中心性は高

い。媒介性はそのノードを通過しないと到達できない関係の数を表し、数値が高いほど中心性は高い。固有ベク

トルは繋がっているノードがどの程度他のノードと繋がっているかを示し、値が大きいほど中心性が高い。

分析において求められる中心性の指標は、扱うネットワークが内包する紐帯の定義、そしていかなる意味にお

いて「中心的」であるかを問題とするかにより、適切な中心性の指標は異なるため、算出にはいかなる意味で中

心を特定したいのかを確認したうえで、適切な指標を選択する必要がある。

2-5-3-2. 次数中心性

 次数 (Degree) は最も単純な中心性の指標であり、ネットワーク内の他者といかに多く直接的に接触している

かという接触量から相対的な中心性を求めることができる。

 次数にもとづく中心性 ( 以下、次数中心性 ) は、ネットワーク内の各ノードそれぞれが保持する関係特性だっ

たが、ここで個々のノートを離れ、ネットワーク全体と中心性の関連を見る指標について考えてみる。特定のネッ

トワークにおいて内部のノードの中心性がどの程度分散しているのかを計算するためには、集中化という指標が

ある。ネットワーク密度と同様に、集中化はネットワーク全体の構造に関する指標である。

 次数による中心性を用いて、グラフの集中化を計算してみる。集中化の指標は 0 から 1 までの値をとりうる。

ネットワーク内の全ノードの次数が全て等しい場合には集中化の指標は 0 となり、ネットワーク内の全ての行

為者が特定の一人の行為者のみと紐帯で結ばれている。いわゆるスター型のネットワークの場合、最大値の 1

となる。つまり集中化とはネットワークを中心性の観点からみた場合に、それが分散型のネットワークなのか、

一極集中型のネットワークなのかの程度を計測している指標なのである。次数による中心性の集中化を算出する

ためには、以下の式を用いる。

Cd= Σ [Cd(n)-Cd(ni)] ÷ {(g-1)(g-2)}

Page 63: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

56

 この式では、まずグラフの点の最大の中心性 (Cd(n)) から、グラフを構成する他の点の中心性をそれぞれ引き、

その差を全て合計する。次に、その合計値を g 個のネットワークにおいて、一つの点が最大可能な次数中心性

を保持している場合に、その他の中心性との次数の差を合計したもので除す。この操作によって、ネットワーク

全体でノードがどのように分布しているかを知る中心化の指標が算出できる。

2-5-3-3. 媒介中心性

 ネットワーク内部ではノードが互いに連結し合う事により、関係の構造を保っている。そのため、ネットワー

クの関係構造には、ノード同士の関係を維持する上で他の位置よりも重要な位置というものがある。一方、他の

位置と比較して構造上、さほど重要ではない位置というのも存在する。

 フリーマンは行為者間の連結関係上の重要性に注目し、行為者がどの程度ネットワーク内で人々の関係を媒介

しているかを示す「媒介性 (Betweenness) による中心性」( 以下、媒介中心性 ) を提唱し、以下の式を用いて定

義した。

Cb(ni)=Gjk(ni) ÷ Gjk

 Gjk は頂点 j と頂点 k の間の測地線の数であり、Gjk(ni) は、頂点 i を含む頂点 j と頂点 k との測地線の数である。

Gjk(ni) は頂点 i が、ネットワーク内のほかのノードの関係を仲介している頻度を示し、Gjk は頂点 i の媒介中心

性 Cb(ni) となる。

 媒介性は、ネットワーク内の関係の連鎖過程における関係維持の必須点という位置特性を現す指標であり、潜

在的な情報の統制力や関係の切断力を示す。また関係の分断可能性を統制するという意味で、関係構造の潜在的

破壊力をも示す指標でもある。

2-5-3-4. 近隣中心性

 距離 (Closeness) に基づく中心性 ( 以下、近接中心性 ) の概念は、11 世紀から 18 世紀までの東西貿易の拠点

としてのヴェネツィアの位置や、薩摩藩に支配されるまでの南方貿易の拠点としての琉球王国の位置を想像しな

がら考えると理解しやすい。

 近隣中心性はネットワーク内の頂点間の距離にもとづいて決定される。頂点 A の中心度はネットワーク内の

全ての頂点から他の頂点への最短距離を合計した値を、頂点 A が自らを除く全ての他社に到達するために必要

な最短距離を合計したもので割ることで算出することができる。

 この指標にはネットワーク内に孤立点がある場合や有向グラフを扱う場合に、到達不可能な頂点が存在すると

多数の頂点の中心性が判別不可能となるため、距離の計測が不能になるという大きな欠点があり、状況によって

は他の指標を用いることが適切とされる。

Page 64: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

2. 研究背景

57

2-5-3-5. 中心性以外の主な指標

・平均頂点間距離

 ネットワーク全体の距離感を知るための指標。頂点 vi と ji の距離とは、頂点 vi から頂点 ji に行くために通ら

なければならない枝の最小の本数とする。頂点が n 個あるとき、頂点二つの対の選び方は n(n-1)/2 通りある。

平均頂点間距離 L は二点間距離の n(n-1)/2 ペア全体にわたる平均である。

・クラスター係数

 この指標は計量社会学の世界ではネットワークの推移性という名前で前々から知られていたが、広くは注目

されておらず、実際にはワッツとストロガッツが彼らのモデルの特徴づけに使って以降、複雑ネットワークをと

らえるのに有効なだとして頻繁に用いられることになった。グラフ全体のクラスター係数 C は、グラフ全体の n

個の頂点の Ci を平均した以下の式で定義される。

C=1 ÷ n Σ Ci

・クリーク

 ネットワーク内で、直接的に連結し相互に強い関係で結ばれている複数の行為者の集合。グラフの中に埋め込

まれた部分グラフとしての完全グラフ Km はクリークという。クリークはネットワークの中で特に密に結びつい

た部分を形作り、内輪づきあいやクラスター性の高い部分と直感的に対応する。ネットワークの中で、完全グラ

フのように小さい L と大きい C をもつ部分ということである。

・ネットワーク密度

 ネットワークにおいてノード同士の関係が、どのくらい密接であるかの、その程度を示すのがネットワーク密

度という指標である。ネットワークの密度は、特定のグラフに存在する点と線の数によって決まる。密度は、理

論的に存在可能な紐帯の数で実際にネットワークに存在する紐帯の数を除して計算する。

頂点 i の持つ次数を ni とすると n 個の点からなる無向グラフのネットワーク密度は以下の式により算出できる。

2 Σ (ni) ÷ n(n-1)

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3. 実験方法・分析方法

Page 66: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

59

3-1. 実験方法

3-1-1. 実験方法

3-1-1-1. 使用システム・機材

・システム

 本論において採用している「指輪型 RFID リーダ」による接触行動追跡システムは、建築空間内にいる居住者

が指輪型 RFID リーダを装着し、様々なモノに貼られたパッシブ型 RFID タグの ID を日常生活の接触行動の中か

ら読み取り、これを Bluetooth によりホスト PCにデータを送信し接触時刻と共に IDを蓄積するというシステム

である ( 図 3-1-1-1-1)。システムは制作したものである。

図 3-1-1-1 接触行動モニタリングシステム

Page 67: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

60

・機材

指輪型 RFID リーダ :

ウェルキャット社製のもの (13.56MHz 帯、アンテナ部分 : 約 13mm φ、送信出力 :50mW) を用いた ( 図

3-1-1-1-2)。

RFID タグ :

日特エンジニアリング社製のもの (25 x 35 x 1mm) を用いた。また、金属製のモノには金属対応のもの (10 x

60 x 1mm) を用いた ( 図 3-1-1-1-3)。モノへの貼付けは両面テープを用いて行った。両面テープによる貼付けが

出来ない場合は、針金を用いてモノに結びつけた。

ホスト PC:

DELL 社製のノートパソコン (LATITUDE C540/640) を用いた。

Bluetooth:

Princeton 社製のもの (周波数範囲 :2.4GHz ~ 2.4835GHz、通信距離 : 約 100m( 環境によって異なる )、通信速度 :

最大 2.1Mbps( 環境によって異なる )) を用いた。

図 3-1-1-2 指輪型 RFID リーダ

図 3-1-1-3 RFID タグと貼付例

Page 68: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

61

3-1-1-2. 実験空間の設定

 ワンフロアーの住宅を実験対象とした。各被験者宅内の被験者の身の回りのモノに RFID タグを貼り付ける。

いずれも被験者の目につきやすいところに貼り付け、日常的な動作によって読み取りやすいように配慮してはい

るが、記録の精度を確保するために被験者にはモノと接触する際には必ず RFID タグを読み取るように教示した。

また、RFID タグに記録されている ID と貼付けたモノとの対応リスト ( モノリストデータ ) を作成し、データ解

析時に記録された ID から接触したモノを特定できるようにした ( 表 3-1-1-2)。さらに被験者の住宅平面図を作

図し、そこに RFID タグを貼付けたモノの位置を図中に記した。

3.-1-1-3. 接触行動のモニタリング方法

 被験者は指輪型 RFID リーダを利き手の手首に装着し、指輪部分を中指等に装着し日常生活を行うよう教示し

た。起床してから就寝するまでの、入浴中を除いた住宅内にいる間は常に装着して行うよう教示した。ただし、

洗顔や炊事等で RFID 指輪型リーダが濡れる可能性がある場合は一時的に外し、モノに触れた順に随時改めて触

れるよう教示した。また、外出直前や就寝直前に触るドアや電灯スイッチに関しては、実際に触る前に触り記

録を取り、指輪型 RFID リーダを取りはずすよう教示した。帰宅直後や起床直後、システムの立ち上げや指輪型

RFID の装着をした後に、既に触ったものを順番通りにもう一度触れるよう教示した。

 また、ホスト PCの立ち上げ等や指輪型 RFID リーダのバッテリー交換は、実験前に実験者が被験者に教示し、

実験中は被験者によって全ての操作が行われた。システムによって蓄積された接触履歴データは、毎日就寝直前

に保存するよう教示した。

表 3-1-1-2 モノリストデータ例

Page 69: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

62

3-1-2. 実験対象概要

3-1-2-1. 被験者

 家族暮しをする 20代の男子学生 4名と女子学生 1名と 50 ~ 60 代の主婦 4名、一人暮しをする 20代の男

子学生 6名と女子学生 1名、二人暮しをする 20代社会人男女 2名を対象にして行った。

3-1-2-2. 実験時期・期間

 2007年10月上旬から12月下旬に及ぶ期間内で随時実施した。2007年10月上旬から下旬に行われた実験は、

小林 40) によって行われたものであり、その実験期間はいずれも 5日間である。2008 年 5月下旬から 12 月下

旬まで行われた実験では、9~ 15日間分のデータを取得した。

 実験で得られたデータのうち 1週間分 (7 日分 ) を実験データとして採用した。これは、過去に保健医療の研

究において生活習慣を研究した論文があり、そこでは 1週間セルフモニタリングを行う事により、その人個人

の生活習慣が把握できるとされているためである。外泊や仕事の関係等の被験者の都合により連続した 1週間

のデータを取得できてない場合は、抜けている曜日に関して平日・休日の判断をしてもらい、それに従い次の週

の平日・休日に実験を行うよう教示した。残りの実験データは後で記す遷移確率モデルの検証用のデータとして

採用する。5日間分のみのデータに関しては、4日分を実験データとして採用し、残りの 1日を検証用のデータ

として採用した。

 各被験者の年齢、性別、職業、実験開始日及び終了日、実験日数、住居形式、部屋数、全生活者数、所在地等

は一覧として表 3-1-2-2 に記す。

表 3-1-2-2 被験者属性と諸情報

Page 70: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

63

3-1-2-3. 被験者

 各被験者の実験時期、実験期間、データ使用日数、住居形式、部屋数、全同居人数、年齢、性別、職業、登録

タグ数、住宅内写真、図面、モノリストを被験者宅ごとに以下に記す ( 図表 3-1-2-3-1 ~ 3-1-2-3-51)。平面図

上に書かれた丸印は RFID タグを貼付けたモノの場所を示している。各被験者宅において RFID タグを貼付けた

モノのリスト ( モノリスト ) の表を記す。モノリストは被験者によって制作した。モノの名称は被験者へのヒア

リングを行い実験者によって共通する用語に変更した。元の被験者が記載したモノの名称は資料編参照のこと。

_被験者宅 A

表 3-1-2-3-2 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-1 被験者宅 A内観

図 3-1-2-3-3 被験者宅 A 平面図

Page 71: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

64

表 3-1-2-3-4 被験者宅 A モノリスト

Page 72: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

65

_被験者宅 B

図 3-1-2-3-5 被験者宅 B内観

図 3-1-2-3-6 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-7 被験者宅 B 平面図

表 3-1-2-3-8 被験者宅 B モノリスト

Page 73: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

66

_被験者宅 C

図 3-1-2-3-9 被験者宅 C内観

表 3-1-2-3-10 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-11 被験者宅 C 平面図

表 3-1-2-3-12 被験者宅 C モノリスト

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3. 実験方法・分析方法

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_被験者宅D

図 3-1-2-3-13 被験者宅D内観

表 3-1-2-3-14 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-15 被験者宅D 平面図

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3. 実験方法・分析方法

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表 3-1-2-3-16 被験者宅D モノリスト

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3. 実験方法・分析方法

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_被験者 E

表 3-1-2-3-18 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-19 被験者宅 E 平面図

図 3-1-2-3-17 被験者宅 E内観

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3. 実験方法・分析方法

70

表 3-1-2-3-20 被験者宅 E モノリスト

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3. 実験方法・分析方法

71

_被験者 F

表 3-1-2-3-22 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-23 被験者宅 F 平面図

図 3-1-2-3-21 被験者宅 F内観

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3. 実験方法・分析方法

72

表 3-1-2-3-24 被験者宅 F モノリスト

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3. 実験方法・分析方法

73

_被験者宅G

表 3-1-2-3-26 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-27 被験者宅 G 平面図

図 3-1-2-3-25 被験者宅 G内観

Page 81: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

74

表 3-1-2-3-28 被験者宅 G モノリスト

Page 82: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

75

_被験者H

表 3-1-2-3-30 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-31 被験者宅H 平面図

表 3-1-2-3-32 被験者宅H モノリスト

図 3-1-2-3-29 被験者宅H内観

Page 83: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

76

_被験者宅 I

表 3-1-2-3-34 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-35 被験者宅 I 平面図

表 3-1-2-3-36 被験者宅 I モノリスト

図 3-1-2-3-33 被験者宅 I 内観

Page 84: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

77

_被験者 J

表 3-1-2-3-38 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-39 被験者宅 J 平面図

図 3-1-2-3-37 被験者宅 J内観

Page 85: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

78

表 3-1-2-3-40 被験者宅 J モノリスト

Page 86: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

79

_被験者宅 K

表 3-1-2-3-42 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-43 被験者宅 K 平面図

図 3-1-2-3-41 被験者宅 K内観

Page 87: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

80

表 3-1-2-3-44 被験者宅 K モノリスト

Page 88: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

81

_被験者宅 L

表 3-1-2-3-46 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-47 被験者宅 L 平面図

表 3-1-2-3-48 被験者宅 L モノリスト

図 3-1-2-3-45 被験者宅 L内観

Page 89: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

82

_被験者M

表 3-1-2-3-50 被験者属性等と実験日

図 3-1-2-3-51 被験者宅M 平面図

表 3-1-2-3-52 被験者宅M モノリスト

図 3-1-2-3-49 被験者宅M内観

Page 90: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

83

3-2. 分析方法

3-2-1. 分析の流れ

 本論で行う分析の流れを図 3-2-1 に記す。

図 3-2-1 分析フロー

Page 91: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

84

3-2-2. データの分類

3-2-2-1. モノリストのカテゴリー化

 モノリストを 17のカテゴリーに分けカテゴリーリストを作成した。カテゴリー分けはそのモノの使われ方、

行為、場所、状態などを考慮し恣意的に行った。これにより全被験者で 568 項目あったモノを 17項目のカテ

ゴリーにわけた。カテゴリー分けの都合上、二段階によるカテゴリー分けを行っており、一段階目で 105 項目

に分け、その後それを 17項目に分けた。この一段階目で行ったカテゴリーリストは分析には使用しない。一段

階目のカテゴリー分けと最終のカテゴリー分けの対応表を図 3-2-2-1 に記す。紙面の都合上、モノリストとカテ

ゴリーの対応リストは載せることが出来ないため、資料編を参照してほしい。

表 3-2-2-1 カテゴリー分け対応表

Page 92: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

85

3-2-2-2. 接触履歴データの外出前・帰宅後分配

 接触履歴データのうち平日にあたる 5日間を外出の前後に分け、外出の前を「外出前」、外出の後を「帰宅後」

とした。外出の基準は、接触履歴データの連続する記録時間と記録時間の間が長時間であった場合、それを外出

と判断した。また、被験者には実験期間中にその日が平日であったか休日であったか、長時間の外出があったか

を記入してもらっており、それを参考に判断した。

3-2-2-3. 物理的距離

 あるモノを触ってから次のモノを触るまでの移動距離をモノとモノの物理的距離とした。あるモノを触って他

の部屋に移動しモノを触るという行為の連続において移動するときは、そのモノのある部屋の中心から部屋間を

つなげる戸を通り、次のモノのある部屋の入口の戸、部屋の中心を経由してそのモノに触ると仮定した。つまり、

物理的距離はモノとモノの直線距離ではなく、異なる部屋間の場合は部屋の入口と中心を経由したモノとモノの

距離である。

 図 3-2-2-3-1 ~ 3-2-2-3-13 に各被験者宅の部屋の中心と入口を点で示し、部屋間の移動経路を線で表した。

これを元にモノとモノの物理距離を算出する。

 モノとモノの物理距離算出のためにプログラム 44) を作った。モノの座標データの入ったモノリストと各部屋

間の移動距離をまとめたものを入れると、物理距離がマトリックスとして算出される。

図 3-2-2-3-1 被験者宅 A 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-2 被験者宅 B

部屋中心点と移動経路図 3-2-2-3-3 被験者宅 C

部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-4 被験者宅D 部屋中心点と移動経路 図 3-2-2-3-5 被験者宅 E 部屋中心点と移動経路

Page 93: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

86

図 3-2-2-3-6 被験者宅 F 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-7 被験者宅 G 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-8 被験者宅H 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-9 被験者宅 I 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-10 被験者宅 J 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-11 被験者宅 K 部屋中心点と移動経路

図 3-2-2-3-12 被験者宅 L 部屋中心点と移動経路図 3-2-2-3-11 被験者宅M 部屋中心点と移動経路

Page 94: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

87

3-2-3. 分析方法

3-2-3-1. ネットワーク分析

 ネットワーク構造として実験で得たデータを可視化するためのソフトウェアは幾つかあるが、今回は人間の行

為とモノとの関係性を直感的に理解することを支援する環境を構築するため、ネットワークを可視化するための

ソフトウェアとしては海外で既に広く認知されており、研究成果の汎用性を考慮した上で「NetDraw」「UCINET」

「Pajek」を用いた。

 実験で取得されたデータを上記ソフトウェア上で取り扱うためにデータの変換が必要になるため、プログラム

(変換プログラム)をつくり行った45)。カテゴリーリストによるデータも同様に別の変換プログラムをつくり行っ

た 46)。また、モノの座標データをネットワークデータに組み込むプログラム ( 座標変換プログラム ) も作成し実

行した 47)。共に基本的なプログラムは横尾及び小林の研究時に作られたプログラムを元に作成した。

 ネットワークには、有向性を考慮したもの ( 有向グラフ ) と考慮しないもの ( 無向グラフ )、リンクの重みを考

慮したものと考慮しないものがある。今回作成したプログラムではそれら 4通りのネットワークデータを変換

することができる。本論においては、リンクの重みを考慮した有向グラフとリンクの重みを考慮していない無向

グラフを取り上げている。本論では、前者を「有向グラフ」、後者を「無向グラフ」と定義する。また、特に注

釈がなければ、ネットワークデータと使用したデータは「有向グラフ」のデータとする。

以下、上記ソフトウェアを用いたネットワーク図及びネットワーク指標値の概要である。詳しい求め方、ソフ

トウェアの使い方は資料編を参照してほしい。

・ネットワーク図

 実験で得たデータは Text file 形式で保存されている。そのため、Net Draw で開くために、まず実験データを

モノリストの RFID の ID と照らし合わせ、変換プログラムによって net 形式に変換する必要がある。その後一度

Net Draw でファイルを開き、ノードやエッジを変更し、Vna 形式で保存する。次にノードの座標を実際の座標

と統一するため、更に座標変換プログラムを使ってデータを直す。これらの手順をふまえた上で再度Net Draw

を開くことでネットワークを可視化することが可能となる。

・評価指数

 ネットワークの指標値を「NetDraw」の姉妹ソフトである「UCINET」及び「Pajek」を用いることで算出し、

更に可視化させることで相互の比較に役立てる。データはNetDraw で一度開いたネットワークデータを ##h 形

式で保存し、それをUCINET 及び Pajek で開き、各指標値を求める。これにより、ネットワークの構造を数値に

認識することが可能となる。

Page 95: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

88

3-2-3-2. 確率モデル

 人間は住宅内におけるライフスタイルや住宅内に存在するモノにより形成された「確率モデル」を無意識的に

持ち、そのモデルに従い確率の高いモノを選択して行動 ( 生活 ) を行っているという仮定する。

この仮定において、住宅内で人が次にアクセスするモノの予測する問題は、次にアクセスするもの Cの条件付

き確率 Pr(C|F) を最大にする問題として捉えることが出来る。すなわち、確率最大の次にアクセスするモノ は

次式により定式化される。

C、Fのあらゆる組合せに関して十分な量の統計データが得られれば が推定できるが、現実にはデータ収集が

困難で、仮に可能であっても計算量が膨大になる。そこで、本研究では、近似モデルとしてマルコフモデルを導

入し、その妥当性を検証する。

・単純マルコフ連鎖

 起こりうる事象は E1,E2,・・・,En の n通りあって , 第 1番目 , 第 2番目 ,・・・と順次の試みによって、どれ

かの事象がおこるものとしたとき、第m番目の試みの結果は、それ以前の第 (m-1) 番目の試みの結果に関係し

て定まるとする。この一連の試みをマルコフ連鎖という。とくに第m番目の試みの結果が、その直前、すなわ

ち第 (m-1) 番目の試みの結果にだけ関係するとき、これを単純マルコフ連鎖という。

つまり、本研究において単純マルコフ連鎖の理論を用いるということは、現在触れているモノから次にアクセ

スするモノの候補を挙げる際、次にアクセスするモノは現在触れているモノにのみ依存しているということであ

る。

・多重マルコフ連鎖

 多重マルコフ連鎖とは、単純マルコフ連鎖の例でいうと、第m番目の試みの結果が、その 2つ以上前、すな

わち第 (m-1) 番目の試みの結果にだけでなく、第 (m-2) 番目以降にも関係することをいう。ここで、現在の状態

が n個前の試みに依存するような関係を n重マルコフ連鎖と呼ぶ。

モノの使用は多種多様なモノを組み合わせて使い、またそれの連続であることから、現在接触しているモノか

ら次に接触 ( アクセス ) するモノを予測する際に、予測の精度の良さを確率モデルに反映する場合、二つ以上前

に接触したモノを考慮する必要があると考えられる。そこで、本論では単純マルコフ連鎖だけではなく、多重マ

ルコフ連鎖の理論も用いることとした。また、横尾により人のモノとの接触行動は二重マルコフが最適であると

示されていることから、本論においては主に二重マルコフまでを取り扱う。

本論において、マルコフ連鎖の計算量は莫大なためプログラムを作成し、それにより遷移確率表を算出した。

また、モノの種類と接触行動の多さから三重マルコフ以上の計算を処理するためには莫大な時間を費やし、また、

実践的なことを考慮するとそのような莫大な計算を行うことは現実的ではないため、二重マルコフまでを取り扱

うこととした。マルコフ連鎖による遷移確率表の算出には、プログラムを作成しそれを使用した 48)。また、カ

テゴリーリストに基づき、カテゴリー分けしたものに関してもマルコフ連鎖による遷移確率表をプログラムをつ

くり算出した 49)。カテゴリーリストによるものは、種類が少ないため、四重マルコフまでを取り扱った。

˜ C argmaxC

Pr C | F

˜ C

˜ C

Page 96: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

3. 実験方法・分析方法

89

・日数の蓄積によるマルコフ連鎖の変動

 本論においては、データの蓄積及び更新により、マルコフモデルが更新され精度が上がるかについて取り上げ

る。7日分の接触履歴データのうち、まず一日目の接触履歴データのみを用いた遷移確率表をつくり、次に、一

日目と二日目の接触履歴データを用いた遷移確率表をつくり、次に一日目から三日目までの接触履歴データを用

いた遷移確率表をつくるというように、日数によるデータの更新を行う。全日を取り扱う場合、全 7日間の接

触値歴データより各次数 7種類の遷移確率表と算出し、外出前及び帰宅後を取り扱う場合は、各次数 5種類の

遷移確率表を算出する。

・整合率

 接触履歴データより作成したマルコフ連鎖に基づく遷移確率表から予測 ( ランダムに選出 ) されたと検証用の

実測データがどの程度次にアクセスするモノを予測出来ているのか表す値を整合率と定義し、予測が実測データ

とマッチした回数を実測データの総数で除して算出した。つまり、次にアクセルするモノを遷移確率表に基づき、

ランダムに選択することで得られたデータがどの程度、実際の接触行動と予測できているかを表す値である。実

測データは、接触履歴データとして用いた 7日間以外の一日分を使用した。小林によって得られた被験者 A1~

C0 は接触履歴データが 5日間しかないため、4日間をマルコフ連鎖のためのものに、残りの 1日を実測データ

として取り扱った。整合率の算出にはプログラムを作成しそれにより得た 48,49)。

Page 97: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

4. 実験結果

Page 98: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

4. 実験結果

91

4-1. 登録モノ数と使用モノ数

 実験で得られたを登録モノ数と使用モノ数を表 4-1-1 に記す。

 「登録モノ数」は、実験開始前に被験者によって作られたモノリストに記載され RFID タグを貼付けたモノの

種類の数である。「使用モノ数」は、実験期間中に被験者が接触した RFID タグの種類の数である。ネットワー

ク分析において、これをネットワークの「ノード数」とする。

 また、図 4-1-2 に使用モノ率を記す。「使用モノ率」は登録したモノのうち使用されたモノの数の割合であり、

使用モノ数を登録モノ数で除したものである。

_考察

 登録されたモノはその住空間にある全てのモノではないが、被験者宅によりモノの数が異なるため、どのくら

いのモノを使用したかを比べるために使用モノ率を算出した。図 4-1-2 より外出前と帰宅後では使用モノ率で大

きな差はない。また、少ない人だと 2割、多いと 8割に達しているが、平均的に 4割前後のモノしか使ってい

ないことがわかる。登録したモノは被験者自身が日頃よく使うと判断したものであり、家の中にあるモノ全てを

登録したものではないことを考えると、少ないことがわかる。日頃よく使うと思っていても実際はその半分ほど

しかモノを使用していないということがわかる。また、表 4-1-1 より実際に使用したモノの数を見ると、外出前

と帰宅後に着目すると、少ないと 21個、多いと 142 個とばらつきがあることがわかる。また全ての被験者の

全日のモノ数が外出前と帰宅後の使用モノ数を合わせたものより小さいことより、外出前後で共に使用するモノ

が存在していることがわかる。

表 4-1-1 登録モノ数と使用モノ数

図 4-1-2 使用モノ率

Page 99: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

4. 実験結果

92

4-2. 接触履歴

4-2-1. 接触履歴データ

 実験によりモノとの接触場面の記録を得ることが出来た。実験によって得られ保存されているデータ例を図

4-2-1 に記す。データは一行に「RFID タグの ID」,「日時」が記入され、次の接触行動のデータを受信すると

次の行に新たなデータを記入するようになっている。RFID タグに触り続けていると連続で読み取るため、同じ

RFID タグの ID が続くこともある。データはテキストファイルとして保存される。

4-2-2. 接触履歴データ量

 実験で得られた各被験者及び被験者宅の接触履歴データ量を表 4-2-2 に記す。「接触履歴数」は接触履歴デー

タとして保存された接触回数である。これは、同じタグ IDを読み続けた場合等、連続した IDがあったものも含

めたものである。その重複を取り除いたものが「純接触履歴数」である。

図 4-2-1 接触履歴データ例

図 4-2-2 接触履歴データ数

Page 100: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

4. 実験結果

93

4-2-3. 平均モノ接触数

一日平均の純接触履歴数を使用モノ数で除したものである。これにより 1日あたりの一つのモノを触った回数

の平均が求められる。これを平均モノ接触数とする。各被験者の平均モノ接触数を図 4-2-3 に記す。

_考察

 図 4-2-3 より人がある一つのモノを一日に使う回数は約一回であることがわかる。母数であるモノの数は使用

モノ数であるので、使用したモノのほとんどが一回だけ使われたということがわかる。また、このことからマル

コフ連鎖のようなモノの使用の連続性に着目する際、少ない日数では充分な結果が得られないことが考えられる。

図 4-2-2 より実際の接触回数を見ると、一日平均の純接触回数が外出前、帰宅後に着目すると、被験者により 8

回から 240 回とばらつきがある。

図 4-2-3 平均モノ接触数

Page 101: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

4. 実験結果

94

4-3. モノとモノの物理的距離

各被験者宅のモノとモノの物理的距離を算出した。モノとモノの物理的距離の分布をヒストグラムとして図

4-3-1 ~ 4-3-13 に記す。赤色は家族暮し、紫色は二人暮し、青色は一人暮しの被験者宅である。

図 4-3-1 モノとモノの距離分布(被験者宅 A) 図 4-3-2 モノとモノの距離分布(被験者宅 B)

図 4-3-3 モノとモノの距離分布(被験者宅 C) 図 4-3-4 モノとモノの距離分布(被験者宅D)

図 4-3-5 モノとモノの距離分布(被験者宅 E) 図 4-3-6 モノとモノの距離分布(被験者宅 F)

図 4-3-7 モノとモノの距離分布(被験者宅 G) 図 4-3-8 モノとモノの距離分布(被験者宅H)

Page 102: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

4. 実験結果

95

_考察

 上記のモノは被験者が日頃よく使うと判断しモノリストに記載したものであり、実際に実験期間中に使用した

ものではない。つまり、これは被験者が使用するイメージを持つモノとモノの物理的距離を表している。

 モノとモノの距離分布を見ると、二つのピークを持つ家と一つのピークを持つ家とある。どちらも、一つ目の

ピークは 2500mm付近であることがわかる。またほとんどが、一つ目のピークの方がそれ以降よりも多くある

ことがわかる。ピークが一つしかない家は全て一人暮らしを行っている被験者宅である。

 これらのことから、人は 3歩ほどで使用しにいける間隔でモノを最も多く配置する傾向にあることがわかる。

つまり、住空間における人の行動は約 3歩前後の移動の連続によって行われていると考えられる。ただし、こ

れは実際に使用したモノの距離ではないことから、人が蓄積された行動の中でこの 3歩前後の間隔でモノを配

置していく結果となったと言え、それがそのときの行動によってなされたものだとはいいがたい。

図 4-3-9 モノとモノの距離分布(被験者宅 I) 図 4-3-10 モノとモノの距離分布(被験者宅 J)

図 4-3-11 モノとモノの距離分布(被験者宅 K) 図 4-3-12 モノとモノの距離分布(被験者宅 L)

図 4-3-13 モノとモノの距離分布(被験者宅M)

Page 103: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

Page 104: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

97

5-1. ネットワークの可視化

5-1-1. 中心性を含んだネットワーク図

 ネットワークの可視化を行い、各被験者の全日、外出前、帰宅後の接触行動ネットワークを作成した。作成

したネットワーク図は資料編参照のこと。また、その接触行動ネットワークに次数中心性、近接中心性、媒介

中心性の重みをノードの円の大きさで表す中心性を含ませネットワーク図を作成した。それらを図 5-1-1-1 ~図

5-1-1-57 に記す。紙面の関係上、縮小しているため、詳しく見たい場合は資料編参照のこと。

図 5-1-1-1 被験者 A1の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-2 被験者 A1の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-3 被験者 A1の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 105: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

98

図 5-1-1-4 被験者 A2の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-5 被験者 A2の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-6 被験者 A2の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-7 被験者 B0の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-8 被験者 B0の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-9 被験者 B0の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 106: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

99

図 5-1-1-10 被験者 C0の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-11 被験者 C0の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-12 被験者 C0の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-13 被験者D1の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-14 被験者D1の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-14 被験者D1の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 107: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

100

図 5-1-1-16 被験者D2の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-17 被験者D2の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-18 被験者D2の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-19 被験者 E0の次数中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-21 被験者 E0の媒介中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-20 被験者 E0の近接中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 108: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

101

図 5-1-1-22 被験者 F1の次数中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-24 被験者 F1の媒介中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-23 被験者 F1の近接中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-25 被験者 F2の次数中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-27 被験者 F2の媒介中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-26 被験者 F2の近接中心性と接触行動ネットワーク

(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 109: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

102

図 5-1-1-28 被験者 G1の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-30 被験者 G1の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-29 被験者 G1の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-31 被験者 G2の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-33 被験者 G2の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-32 被験者 G2の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 110: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

103

図 5-1-1-34 被験者H0の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-34 被験者H0の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-35 被験者H0の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-37 被験者 I0 の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-39 被験者 I0 の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-38 被験者 I0 の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 111: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

104

図 5-1-1-40 被験者 J1 の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-41 被験者 J1 の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-42 被験者 J1 の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-43 被験者 J2 の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-43 被験者 J2 の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-43 被験者 J2 の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 112: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

105

図 5-1-1-46 被験者 J3 の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-47 被験者 J3 の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-48 被験者 J3 の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-49 被験者 K0の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-51 被験者 K0の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-50 被験者 K0の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 113: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

106

図 5-1-1-52 被験者 L0の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-53 被験者 L0の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-54 被験者 L0の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-55 被験者M0の次数中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-56 被験者M0の近接中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-1-57 被験者M0の媒介中心性と接触行動ネットワーク(左から、全日、外出前、帰宅後)

Page 114: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

107

_考察

 ネットワークの可視化により各被験者の住宅内における接触行動がわかりやすくなった。各図の外出前 ( 中 )

と帰宅後 ( 右 ) を比較すると近い形状をとっているネットワークではあるが、異なるネットワークを形成してい

ることがわかる。このことより、人は外出前後で大きくは変わらないが、まったく同じ行動ネットワークを形成

しない。つまり、外出前後でも同じような行動をするがそれが一致するわけではないということがネットワーク

の可視化により表された。また、ネットワークのノードの中心性スコアに対応した円の大きさから、中心的なモ

ノの配置されている場所、そのようなモノが多く存在する中心的に使われている部屋がわかる。

リンクの線に着目すると、より多くの種類のモノによりネットワークが構成されている密度の高いネットワーク

は、可視化により密度の高さが見てわかるようになった。しかし、図 5-1-1-31 ~ 5-1-1-33 の被験者 G2のよう

に密度が高いネットワークの場合、下地である平面図が隠れてしまい、空間の使われ方を充分に判断することは

難しい。また、逆に線の密度が疎であることから、あまり使われていない空間を判断することも可能であること

がわかる。ノードとノードを直線で結んでいるため、その部屋と関係のない線も含まれてはいるが、住宅全体を

考慮すると使われていない空間として判断できると考えられる。

Page 115: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

108

5-1-2. 同居人のネットワーク図の重ね合わせ

同じ住宅内に住む異なる属性のネットワーク図を重ねることにより、ネットワークの変化を見る。その一部を図

5-1-2-1 ~ 5-1-2-5 に記す。図は全て媒介中心性の重みを持ったネットワーク図である。

図 5-1-2-1 被験者 A1(青)と被験者 A2(赤)の媒介中心性と接触行動ネットワーク(上から、全日、外出前、帰宅後)

Page 116: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

109

図 5-1-2-2 被験者D1(青)と被験者D2(赤)の媒介中心性と

接触行動ネットワーク(上から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-2-3 被験者 F1(青)と被験者 F2(赤)の媒介中心性と

接触行動ネットワーク(上から、全日、外出前、帰宅後)

Page 117: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

110

図 5-1-2-4 被験者 G1(青)と被験者 G2(赤)の媒介中心性と

接触行動ネットワーク(上から、全日、外出前、帰宅後)

図 5-1-2-5 被験者 J1(青)と被験者 J2(赤)と被験者 J3(黄)

の媒介中心性と接触行動ネットワーク(上から、全日、外出前、帰宅後)

Page 118: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

111

_考察

 同居する被験者同士のネットワークが重なる部分は色が重なり紫色に近い色彩となっている。全体的にネット

ワークがほぼ一致するものはなく、それぞれのネットワークが異なる場所を占領していることが見て取れる。例

えば、図 5-1-2-1 の被験者宅 Aでは被験者 A2は平面図左側のリビング周辺を中心に全体を捉えているのに対し、

被験者 A1は平面図右上の個人部屋を中心に捉えている。被験者 A2は被験者 A1がメインとして使っていると

思われる個人部屋にはほとんど入っておらず、被験者 A1の部屋が家の中で独立して存在していることがわかる。

また、被験者 A1と被験者 A2のネットワークが交差する部分はで顕著なのは廊下であることがわかる。

 図 5-1-2-2 では、被験者 D1と被験者 D2は主に使う部屋は同じだが、そこでのネットワークの形は一致して

ない。また共にネットワークが蜜なのがキッチン前あたりであることがわかる。

 これらより、被験者のネットワークごとに色分けをし、同居人のネットワークを重ね合わせることにより、そ

れぞれの人のネットワークと他の同居人のネットワークの関係性が見て取れるようになった。また、重ね合った

部分がそれぞれのネットワークが重なるところ、つまり行動が重なる可能性の高い場所であると言え、この部分

をコミュニケーションの中心部分として扱うということも考えれる。

Page 119: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

112

5-2. 評価指標値

5-2-1. 密度

 各被験者の有向・無向、全日・外出前・帰宅後のネットワークの密度を算出した。それらを表 5-2-1-1、図

5-2-1-2 に記す。

_考察

表 5-2-1-1 よりいずれのネットワークも 50%以下の密度であり、疎であることがわかる。

表 5-2-1-1 各密度

図 5-2-1-2 各密度

Page 120: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

113

5-2-2. クリーク

 各被験者の全日・外出前・帰宅後のネットワークのクリーク数を算出した。最大クリーク数と最大クリーク内

にあるモノ数、3以上のクリーク数、4以上のクリーク数を表 5-2-2-1 に記す。また、クリーク数 3のデンドロ

グラムを図 5-2-2-2 ~ 5-2-2-7 に記す。デンドログラムは資料編にも収録しているため細かい数値等に関しては

資料編を参考にしてほしい。またクリーク数 3より大きいもののデンドログラムも資料編に収録している。

表 5-2-2-1 クリーク

図 5-2-2-2 被験者 F1の 3クリーク

のデンドログラム

図 5-2-2-3 被験者 F2の 3クリーク

のデンドログラム

図 5-2-2-4 被験者 G1の 3クリーク

のデンドログラム

図 5-2-2-5 被験者 E0の 3クリーク

のデンドログラム

図 5-2-2-6 被験者 K0の 3クリーク

のデンドログラム

図 5-2-2-7 被験者 L0の 3クリーク

のデンドログラム

Page 121: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

114

_考察

 表 5-2-2-1 より、3以上のクリーク、4以上のクリークをそれぞれの被験者のネットワークに多く存在してい

ることから、モノとモノの関係において、強い関係性でつながっている小さいモノのグループが多く存在してい

ることがわかる。つまり、使用順番に決まりがなく、一緒にいつも使われているモノのグループが多く存在して

おり、それらがつながりネットワークが形成されていることがわかる。

 また、図 5-2-2-2 ~ 5-2-2-7 のデンドログラムをより、接触行動ネットワークのデンドログラムはどの被験者

も大まかな形状は似ていることがわかる。しかし、同じ住宅に住む図 5-2-2-2 の被験者 F1 のデンドログラムと

図 5-2-2-3 の被験者 F2 のデンドログラムは異なる構造をしており、同じ空間に住む人間が同じような接触行動

ネットワーク及びデンドログラムをつくるとは限らないことがわかる。

Page 122: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

115

5-3. 中心性

5-3-1. 各種中心性

 各被験者の全日・外出前・帰宅後のネットワークの入次数中心性、出次数中心性、次数中心性、入近接中心性、

出近接中心性、近接中心性、有向媒介中心性、無向媒介中心性の一覧を表 5-3-1 に記す。

5-3-2. 入次数中心性と出次数中心性

各被験者の全日・外出前・帰宅後のネットワークの入次数中心性と出次数中心性の散布図の一部を図 5-3-2-2 ~

5-3-2-4 に記す。その他の被験者の散布図は資料編参照のこと。その他の被験者に関しても同様の傾向が見れた。

表 5-3-1 中心性一覧

図 5-3-2-2 入次数中心性と出次数中心性スコアの散布図(被験者 A1)

Page 123: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

116

_考察

 入次数中心性と出次数中心性のスコアの散布図の近似線の傾きが 1に近いことから、接触行動ネットワーク

は入次数も出次数もほぼ同じであることがわかる。つまり、モノの触る順番には大きな偏りがないことがわか

る。人のモノの接触行動は一筆書きであることから、入次数と出次数が同じぐらいということはモノの使われる

順番は決まったものではなく、しかも均等に様々な順番で行われていると考えら得る。また、近似曲線の傾きが

1より小さいことから、入次数の方がやや多いことがわかる。つまりこれは、あるモノから次に使うモノの種類

より、あるモノの前に使われるモノの種類の方が多いということである。

図 5-3-2-3 入次数中心性と出次数中心性スコアの散布図(被験者D1)

図 5-3-2-4 入次数中心性と出次数中心性スコアの散布図(被験者 K0)

Page 124: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

117

5-3-3. モノの中心性

 被験者ごとのモノの中心性を求めた。その一部を図 5-3-3 に記す。各被験者のモノの中心性は資料編を参照の

こと。

_考察

 モノの中心性からモノ同士を比較することが可能だということがわかる。しかし、モノの種類が多過ぎ、それ

らを比較することは容易ではない。また、被験者間を比較する場合、同一のもんでしか中心性は比較することが

できないため、各モノごとの中心性を比較することは難しいと考えれる。

図 5-3-3 モノの中心性(一部) (被験者 F1)

Page 125: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

118

5-3-4. カテゴリーの次数中心性と媒介中心性

 カテゴリーリストに基づく次数中心性と媒介中心性を図 5-3-4-1 ~ 5-3-4-3 に記す。その他の被験者に関して

は資料編参照のこと。

図 5-3-4-1 カテゴリー別次数中心性と媒介中心性スコア(被験者 A2)

図 5-3-4-2 カテゴリー別次数中心性と媒介中心性スコア(被験者D1)

Page 126: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

5. ネットワーク分析結果・考察

119

_ 考察

 どの被験者に関しても、「設備・スイッチ」の次数中心性が高いことがわかる。しかし、媒介中心性において

は他のカテゴリーと大きな差はなく、「設備・スイッチ」が飛び抜けた中心性を持ったモノだとは言えない。また、

各被験者のそれぞれのカテゴリーの中心性の値の割合は全体的に似たようなものであり、人の接触行動をカテゴ

リー分けすることによって、ある程度の決まった法則により定めることができるのではないかと考えられる。ま

た、その中でも、各カテゴリーの中心性は少しずつ異なり、各被験者の特徴づけるものとなり得る可能性もある。

しかし、カテゴリー分けの方法により、その特徴は大きくことなると考えれる。今回のカテゴリーでは、各被験

者や属性の特徴を顕著に見る事はできず、全体の傾向は見る事ができた。

図 5-3-4-3 カテゴリー別次数中心性と媒介中心性スコア(被験者 E0)

Page 127: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

Page 128: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

121

6-1. 全日・外出前・帰宅後の単純マルコフ連鎖及びニ重マルコフ連鎖

6-1-1. 全日・外出前・帰宅後の単純マルコフ連鎖及びニ重マルコフ連鎖による遷移確率表

 実験で得られた接触履歴データより作成した遷移確率表の一部を図 6-1-1 に記す。n重マルコフ連鎖の遷移確

率表は各被験者宅ごとのモノの数の 2n乗の項目を持つ。つまり、モノの数が 100 個であれば、単純マルコフの

遷移確率表は 10000 項目あり、二重マルコフは 100000000 項目ある。表 6-1-1 では被験者 F1 の全日の 7日

分の接触履歴データから算出した単純マルコフの遷移確率表を色分けしたものである。色分けは濃い色になるほ

ど確率が高く、薄いほど低い。白い部分は遷移確率が 0の部分である。遷移確率表は二重マルコフ連鎖まで行

い算出した。その他の遷移確率表は資料編を参照のこと。

表 6-1-1 遷移確率表(被験者 F1)

Page 129: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

122

6-1-2. 全日・外出前・帰宅後の単純マルコフ連鎖及びニ重マルコフ連鎖による整合率

 遷移確率表に基づき、マルコフモデルを作成し、それにより予想された接触するモノと実際の接触履歴がどの

程度対応しているかを調べた。予想は遷移確率表に基づきランダムに与えられるので常に一定のものを提供する

わけではない。また、マルコフモデルは日数を蓄積しモデルを更新するようになっている。各被験者の全日・外

出前・帰宅後整合率の結果を図 6-1-2-1 ~ 6-1-2-19 に記す。紙面の都合上、縮小して表示している。詳しく見

たい場合は資料編を参考にしてほしい。

図 6-1-2-1 整合率(被験者 A1) 図 6-1-2-2 整合率(被験者 A2) 図 6-1-2-3 整合率(被験者 B0)

図 6-1-2-4 整合率(被験者 C0) 図 6-1-2-5 整合率(被験者D1) 図 6-1-2-6 整合率(被験者D2)

図 6-1-2-7 整合率(被験者 E0) 図 6-1-2-8 整合率(被験者 F1) 図 6-1-2-9 整合率(被験者 F2)

図 6-1-2-10 整合率(被験者 G1) 図 6-1-2-11 整合率(被験者 G2) 図 6-1-2-12 整合率(被験者H0)

Page 130: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

123

_考察

 蓄積された接触履歴データの日数が増えるたびに、整合率がゆるやかに大きなることがいくつかの被験者デー

タから捉えることができた。全体的に最少で 0%、最大で 50%ほどという低い整合率になった。これから、人の

モノとの接触行動は常に触る順序が決まっていないことがわかる。これは「5-3-2. 入次数中心性と出次数中心性」

から得られた結果から言えることと同じである。つまり、人のモノとの接触行動はモノ単体の連続として見るの

ではなく、ある程度のグループとして見る必要があると考えられる。「5-2-2. クリーク」において 3以上のクリー

クや 4以上のクリークが多いことから、3~ 4個ほどのモノのグループの連続で考えると予測の精度が上がる

と考えられる。本論においては、莫大な計算時間を要する関係上、それに関しては行うことはできなかった。

図 6-1-2-13 整合率(被験者 I0) 図 6-1-2-14 整合率(被験者 J1) 図 6-1-2-15 整合率(被験者 J2)

図 6-1-2-16 整合率(被験者 J3) 図 6-1-2-17 整合率(被験者 K0) 図 6-1-2-18 整合率(被験者 L0)

図 6-1-2-19 整合率(被験者M0)

Page 131: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

124

6-2. カテゴリー別の単純マルコフ連鎖から四重マルコフ連鎖

6-2-1. カテゴリー別の単純マルコフ連鎖及び四重マルコフ連鎖による遷移確率表

 カテゴリーリストと接触履歴データにより作成した遷移確率表を色分けしたものを表 6-2-1-1 ~ 6-2-1-8 に記

す。この遷移確率表は 7日分の接触履歴データより作成した単純マルコフ連鎖の遷移確率表である。遷移確率

表は四重マルコフ連鎖まで行い算出した。その他の遷移確率表は資料編を参照のこと。

_考察

 「0 家具」「1 日常品」「2 設備・スイッチ」からの遷移が高いことが見て取れる。特に「2 設備・スイッチ」か

らの遷移が全体的に高いことがわかる。また、「2 設備・スイッチ」から「9 洗面」への遷移がどの被験者でも

共通して高いことがわかる。このように、カテゴリーリストに基づく遷移確率表により、遷移しやすいカテゴリー

の関係性を見て取れるようになった。

図 6-2-1-1 カテゴリー遷移確率表(被験者 A1) 図 6-2-1-2 カテゴリー遷移確率表(被験者 A2) 図 6-2-1-3 カテゴリー遷移確率表(被験者 B0)

図 6-2-1-4 カテゴリー遷移確率表(被験者 C0) 図 6-2-1-5 カテゴリー遷移確率表(被験者D1) 図 6-2-1-6 カテゴリー遷移確率表(被験者D2)

図 6-2-1-7 カテゴリー遷移確率表(被験者 F1) 図 6-2-1-8 カテゴリー遷移確率表(被験者 G2) 図 6-2-1-3 カテゴリー遷移確率表(被験者 J2)

Page 132: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

125

6-2-2. カテゴリー別の単純マルコフ連鎖及び四重マルコフ連鎖による整合率

 各被験者のカテゴリーリストによる全日・外出前・帰宅後それぞれの整合率を図 6-2-2-1 ~ 6-2-2-19 に記す。

図は左から全日・外出前・帰宅後それぞれの整合率を表している。

図 6-2-2-1 カテゴリー整合率(被験者 A1)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-2 カテゴリー整合率(被験者 A2)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-3 カテゴリー整合率(被験者 B0)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-5 カテゴリー整合率(被験者D1)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-4 カテゴリー整合率(被験者 C0)(左から全日、外出前、帰宅後)

Page 133: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

126

図 6-2-2-6 カテゴリー整合率(被験者D2)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-7 カテゴリー整合率(被験者 E0)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-8 カテゴリー整合率(被験者 F1)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-9 カテゴリー整合率(被験者 F2)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-10 カテゴリー整合率(被験者 G1)(左から全日、外出前、帰宅後)

Page 134: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

127

図 6-2-2-11 カテゴリー整合率(被験者 G2)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-12 カテゴリー整合率(被験者H0)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-13 カテゴリー整合率(被験者 I0)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-14 カテゴリー整合率(被験者 J1)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-15 カテゴリー整合率(被験者 J2)(左から全日、外出前、帰宅後)

Page 135: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

6. 確率モデル結果・考察

128

_考察

 モノリストに基づくマルコフ連鎖より高い整合率を出す事ができた。しかしそれでも 50%を越えつことは少

なく、実用性があるとは言えない。モノリストのものと同様に日数の蓄積により緩やかに整合率が高くなってい

ることが見て取れる。また、全日、外出前、帰宅後では大きな差がないことが見て取れる。

マルコフ連鎖の次数と整合率の関係を見ると、単純マルコフ連鎖が最も整合率が高く、次数が上がるにつれ整合

率が下がっていることがわかる。横尾によるモノの接触行動のマルコフ連鎖による予測モデルにおいては、二重

マルコフ連鎖が最も整合率が高いという結果を得ている。今回、単純マルコフ連鎖が最も高い整合率を出した理

由としては、カテゴリーわけにあると考えられる。カテゴリーわけにより、遷移する候補数が極端に少なくなっ

たことにより、その連続に関して長い連続性を見る事が難しくなったためだと考えられる。今回は、17種類の

カテゴリーに分けたものしか行わなかったが、今後、より多くの種類のカテゴリーに分けマルコフ連鎖に基づく

整合率を求めた場合、二重マルコフが高い整合率を出す可能性があると考えられる。

図 6-2-2-16 カテゴリー整合率(被験者 J3)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-17 カテゴリー整合率(被験者 K0)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-18 カテゴリー整合率(被験者 L0)(左から全日、外出前、帰宅後)

図 6-2-2-19 カテゴリー整合率(被験者M0)(左から全日、外出前、帰宅後)

Page 136: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

Page 137: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

130

7-1. システム概要

 これまで行ったネットワーク分析、及び確率モデルより人間の住宅内におけるモノを通した行動モニタリング

が行えることがわかった。そこで次に、空間やモノ、ライフスタイルが変更した際の人間の行動をシミュレーショ

ンできるモデルの作成を行う。

7-1-1. システム概要

 artisoc を用いてその接触行動シミュレーションモデルを作成した ( 図 7-1-1)。システム概要のフローを図

7-1-2 に記す。

本システムにおいて行えることは以下の点である。

・接触履歴通りにエージェントを動かしノード ( モノ ) を結ぶ。

・接触履歴より遷移行列を生成する。

・遷移確率行列に基づいてマルコフ連鎖のシミュレーションが出来る

・遷移条件式に遷移行列、物理的距離、次数中心性、媒介中心性を変数として持ち、各変数は影響度

 を調整することが出来る。

・シミュレーション結果を csv 形式及び net 形式のデータとして出力ができる。

 遷移条件式の各パラメータにより与えられる影響度の調整により、元の遷移行列に各パラメータの変数による

数値の変更が行われ、新たな遷移行列が生成される。それに基づきシミュレーションを行っている。つまり、マ

ルコフ連鎖のシミュレーションのための元になる遷移行列をパラメータの影響度により変更することを行い、シ

ミュレーション自体はマルコフ連鎖のシミュレーションである。接触行動シミュレーションシステムの使用方法

に関しては資料編参照のこと。

図 7-1-1 artisoc のシミュレーション操作画面

Page 138: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

131

7-1-2. システム内容

 このシステムにより表現できることは、

1. 実際の順番にモノとモノを線でつないでいく形の接触行動ネットワーク生成再現

2. マルコフ連鎖に基づいた接触行動ネットワーク生成予測

3. 実際と異なる条件下における接触行動ネットワーク生成予測

である。

図 7-1-2 システム概要のフロー

Page 139: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

132

7-1-3. 妥当性の検証

 マルコフ連鎖による確率モデルは「6. 確率モデル結果・考察」にて触っていくモノの予測の当たりぐあいで

ある整合率を見る事で、妥当性を検証した。ここでは、接触行動シミュレーションモデルにより生成されたネッ

トワークの妥当性をネットワーク構造から検証する。

7-1-3-1. シミュレーションデータの作成

 マルコフ連鎖のみによるシミュレーションを行い、それにより生成されたネットワークを分析し中心性を求め

る。その中心性と実際のネットワークの中心性の相関を見る事でその妥当性について検証する。今回は被験者宅

Jを対象とし、被験者 Jの接触行動シミュレーションを行った。

7-1-3-2. 中心性の相関

 ネットワークは有向であり、リンクの重みがあるものとした。相関を調べるために算出した中心性は、各モノ

の次数中心性、近接中心性、媒介中心性である。これらと実際のネットワークの各モノの中心性の相関関係を見

る。図 7-1-3-2 に中心性の相関関係を散布図と近似曲線により表した。

_考察

 近似曲線の式より次数中心性、近接中心性では共に高い精度で相関があると言える。それに対し、媒介中心性

は低い精度が見られた。また、相関係数を算出したところ、次数中心性では 0.92、近接中心性では 0.92、媒介

中心性では 0.54 という値が示された。ここでも次数中心性及び近接中心性では高い相関、媒介中心性は低い相

関となった。これはマルコフ連鎖が低い次数でのものだったためだと考えられる。モノとモノのつながりやすさ

である次数中心性はそもそもマルコフ連鎖の元になる遷移確率と変わらないものであり、これが高い精度を示す

のは必然的であると言える。すぐ次のモノとの関係である近接性は、マルコフ連鎖があるモノとあるモノの関係

を表したものであることを考えるとそれもまた必然的な精度だと考えられる。これらに対し媒介性は距離が長く、

短いつながりだけを表したネットワークの生成法では、それを再現することは出来なかったと考えられる。

図 7-1-3-2 実際の履歴に基づくものとプログラムによる変化ものとネットワークの中心性の相関

(左から次数中心性、近接中心性、媒介中心性の散布図、横軸が実験データ、縦軸がシミュレーション結果)

Page 140: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

133

7-2. 空間の変化による行動予測

7-2-1. 空間の変化量

 接触行動シミュレーションを用いて空間が変化した場合のシミュレーションを行う。今回は、被験者宅 Jの間

取りが変更されたとして、そのときの接触行動ネットワークのシミュレーションを行う。空間の変化は、和室だっ

た場所がダイニングキッチンとなり、ダイニングキッチンだった場所が和室になるという変化である。ダイニン

グキッチンにあったモノを和室であった場所に配置し、和室にあったモノをダイニングキッチンであった場所に

配置するということを行い、ダイニングキッチンと和室であった場所の用途が変化したことを表現した。この変

更を行ったモノのリストを表7-2-1-1に記す。モノの移動により変更されたモノの座標を図面上から読取を行い、

モノの座標を記載したモノリストの作成と、それに基づくモノとモノの距離一覧のデータを作成した。移動した

後のモノの配置を図 7-2-1-2 に記す。

 その他のパラメータである接触履歴データ、次数中心性スコア、媒介中心性スコアは変更せずにシミュレーショ

ンを行う。

表 7-2-1-1 配置変更を行ったモノのリスト

図 7-2-1-2 移動した後のモノの配置(朱色の点)と被験者宅 Jの平面図

Page 141: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

134

7-2-2. 行動予測結果

7-2-2-1. ネットワーク図の可視化

 接触行動シミュレーションにおいて、「マルコフ連鎖」の重みを 0.5( 最大値 1)、「距離」の重みを 0.2( 最大値 1)

として 1000 ステップまでのシミュレーションを行った。シミュレーションにより生成されたネットワーク図を

経過に従い、図 7-2-2-1 に記す。

図 7-2-2-1 接触行動シミュレーションによるネットワークの生成経過

Page 142: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

7. 接触行動シミュレーション

135

7-2-2-2. ネットワークの変化

 接触行動シミュレーションで生成されたネットワークを .net 形式で取り出し、それをNetDraw によってネッ

トワーク図を書き出す。そこの次数中心性、近接中心性、媒介中心性の重みをノード ( モノ ) に与え円の大きさ

で割合を表す。また、これらと被験者 J1の実験期間 (全日 )で得られたネットワーク図と比較することで、シミュ

レーションによって新たにネットワークが形成されたことがわかる(図 7-2-2-2-1 ~図 7-2-2-3)。

図 7-2-2-2-1 次数中心性ネットワーク図比較(左:配置変更後シミュレーション、右:配置変更前実験データ)

図 7-2-2-2-2 近接中心性ネットワーク図比較(左:配置変更後シミュレーション、右:配置変更前実験データ)

図 7-2-2-2-3 媒介中心性ネットワーク図比較(左:配置変更後シミュレーション、右:配置変更前実験データ)

Page 143: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

8. まとめ

Page 144: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

8. まとめ

137

8-1. まとめ

 本論で可能になったことは以下である。

・RFID タグを用いて人とモノとの接触行動を記録することで、接触行動モデルを構築システムを作る

ことができた。

・接触履歴の蓄積により更新する接触行動モデルシステムを作ることができ、蓄積により整合率が少

なからず上がることがわかった。

・モノとモノの接触履歴をマルコフ連鎖により予測したモデルでは充分な整合率を出すことができな

かった。

・接触行動をネットワーク図として表現・分析し、外出前と帰宅後、同住宅生活者同士の比較を行い、

そのネットワークの違いを示すことができた。

・モノの配置やネットワークの中心性を加えた接触行動シミュレーションモデルを作成することがで

きた。

・接触行動シミュレーションモデルによりシミュレーションを行うことができた。

 接触行動シミュレーションモデルは接触行動モデルと同様にその精度を上げる必要がある。この接触行動シ

ミュレーションモデルにより、将来的にはアンビエント空間におけるサービス提供や、設計者や施主のための住

宅内行動シミュレーションに用いることが期待できると考えられる。

Page 145: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

8. まとめ

138

8-2. 展望

8-2-1. 指輪型 RFID リーダによる行動モニタリングの課題

 今後、指輪型 RFID リーダによる行動モニタリングを実際に行う上での問題点をあげる。これらは実験を行い、

被験者自身から意見されたものや実験者が感じたものである。

以下に記す。

・意図的にタグを触らなくてはいけない

・触れるのを忘れてしまう

・水場では使えない

・タグが剥がれてしまうことがある

・腕につけるのが億劫になる

・タグが貼っていることを忘れてしまう

・家を出るときにドアのタグを読込んでから指輪型 RFID リーダをはずさなくていけない。

・就寝時に電灯スイッチのタグを読込んでから指輪型 RFID リーダをはずさなくていけない。

・バッテリーがなくなる時期がわからない

・バッテリー交換後に再接続する必要がある

・金属用タグと通常用タグを区別しなくてはいけない

・金属かどうかの判断がしにくい

・両面テープで貼付けると剥がすときにモノがやぶるなど損傷される可能性がある

・連続読込みの音がうるさい

・すべてのモノにタグを貼ることが難しい

・タグが貼られた状態のモノで使用しにくいものもある

・データの送受信を行う Bluetooth が二階建て以上だと使えない

・タグが小型化する必要がある

・RFID リーダーを小型化する必要がる

・起動に時間がかかる

Page 146: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

8. まとめ

139

8-2-2. 行動予測システムの課題

 行動予測システムの課題は以下である。

・接触履歴データを蓄積するとともにモデル更新するプログラムは未開発である

・マルコフ連鎖によるモデルの整合率を高くする必要がある

・モノと行動の具体的な関連性を見いだす必要がある

・接触行動シミュレーションの再現性について実験を行う必要がる

・接触行動シミュレーションのパラメータの妥当性の検証が必要である

Page 147: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

Page 148: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

141

9-1. おわりに

 本論の根本的意味、存在意義について最後に考えたいと思う。正直なところ、このような論を最後に書いてい

る余裕などまったくないのだが、ここで述べる内容は本論において最も重要なことの一つであると考えている。

最後に書いていると記載したが、実際は最後ではなく、まだ研究の分析が終わっていない 1 月下旬の危機的状

況下で書き始め原稿提出最終日である当日にも書いている。このようなものを書いている時間あるのであれば、

考察をもっとしっかり書いた方がいいと言われると思うが、そのへんにはあまり触れないでいただくと助かる。

そのような状況下であるため、充分な内容とは言えないが、簡単に考えを伝えたいと思う。実際、何度も書き直

しており、結局考えがまとまらずにここに書いているため、うまく伝わるかはわからない。先に簡潔に述べると、

アンビエント空間は果たして人類にとって良いものなのだろうか、逆に悪になるのではないか。ということを問

いていると捉えてほしい。言うなれば、この研究はそもそも良くないことをしているのではないかということで

ある。

 本論において、根底にある考えは、アンビエント空間が実現し、ヒトを行動モニタリングし、知らず知らずの

うちにそのヒトにより良いサービスを提供するというものである。また行動モニタリングにより、他者である設

計者にその情報を提供することが可能になり、よりそのヒトに対応した住宅設計を促すというものである。いわ

ば、本論が目指す先ではそのヒト自身の " あるべき行動 " を提供していると言える。「ウェブ社会の思想〈遍在

する私〉をどう生きるか」において鈴木謙介は、これを「宿命」と表現し、それについて論じている 42)。詳し

くは文献を参考してほしいが、その中で、ヒトが「宿命」に気づき、それを受け入れた場合と受け入れなかった

場合について、漫画作品や事件を参考にあげ説明している。鈴木は「宿命」をどうすればいいのかは明確に結論

づけられてはいない。

 この「宿命」というものは、これから迎えるアンビエント社会における人間の生き方に大きな影響を与えるも

のである。大きく言ってしまえば、人間が生きること自体を揺るがすものである。宿命という言葉からわかるよ

うに、ヒトが進む方向が常に決まっており、それが示されている状態下でヒトが人生を歩むということである。

宿命というと、何か物語の主役だけが持つものだと考えられるが、それが全ての人間においても行われるのであ

る。既に決まっている物語の中で、まるでその先が決まっていないかのように振る舞う主役のように生きるので

ある。例えば、映画「マトリックス・リローデッド」においても、このことに触れられている 43)。映画の内容

は簡単に言ってしまえば、コンピュータによって人間が支配された世界において、人間に救世主が生まれる反乱

を起こすというようなものである。その中で、救世主が生まれ、人間が反乱を起こすということは、数度繰り返

され、その救世主も数人目であることが触れられる。救世主を始めとする人間は、既に繰り返されたことを初め

てのことと思い、振る舞うのである。知らず知らずに既に決められている宿命に従い、行動をとっているのであ

る。最終的には、異なる結末を描くことによって映画を閉めてはいる。

 アンビエント空間が実現する、行動モニタリングによる宿命の提供は、同じようにヒトに決まった振る舞いを

与えることである。いわば、少し先の将来の自分が目の前に知らず知らずにいて、それに沿って生きるようなも

のである。その宿命に気づく人間と気づかない人間がおり、彼らが宿命を受け入れるか受け入れないかという点

から鈴木はその宿命について論じている。この宿命というものは、それまでは「神のみぞ知る」と呼ばれるよう

な領域のものであった。つまり、下界に生きる我々は知ることは到底出来ないものであった。しかし、人間は人

間の行動をモニタリングすることによって、間もなくこの宿命を作ることに成功するだろう。バベルの塔を作っ

た人間が再び、神の領域へと進もうとしているのである。

 この神の領域ということから、似た事例としてクローンというものがある。DNA から生命体を作り出す技術

Page 149: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

142

である。特に人間により人間の DNA を採取し人間のクローンを作ることに対し、倫理的な点から多くの批判を

受け、世界中で禁止される流れにある。これと同様のことがアンビエントでは起きていると認識してほしい。人

の生活の情報を的確に認識し、それによりその人のあるべき姿、すなわち宿命と呼ばれる、その人自身の情報を

持つ何かを作り出しているのである。これは、人の細胞から DNA を採取し、その情報から、その人自身の細胞

を持つ何かを作り出しているのと同じようなものだとも言える。つまり、クローンがその人間と同じ細胞を持っ

た生命体であるのに対し、宿命はその人間と同じ情報を持った生命体なのである。生命体というと違和感を感じ

るかもしれないが、今後、ロボティクス技術が進歩し、人工知能が完成すれば、それは生命体と言えるのではな

いだろうか。その人工知能をこの行動モニタリングでも必然的に使うと考えられる。つまり、アンビエント空間

により、人工知能によるその人間が作り出されるのである。映画「アイランド」において、クローンは人間のス

ペアとして扱われるという世界を描いている 44)。体に悪くなった部分があれば、それをクローンの体の一部か

ら取り出し、それを移植するというものである。これは映画の世界だけでなく、実際に実用化に向けて研究が進

んでいる。人間の全ての形のクローンではなく、例えば、心臓だけをクローンで作り出すというようなことを行

おうとしている。これと同様に、この宿命も考えられる。いわば、生きるためのスペアなのである。スペアとい

う言い方はあまりよくないが、それに近い状態である。しかし、クローンより人間の身近にあるということで、

宿命はクローンよりも危険である。なぜならば、その宿命をまるで自分自身かと認識してしまい全てを受け入れ

てしまう、つまり自己を失う可能性があるからである。クローンで言えば、本人がいつの間にかクローンによっ

て変わってしまうのである。クローンの場合は物質であるため、徐々に変わるということは難しいが、情報であ

る宿命は簡単である。二重人格の片方がもう片方を侵略していき、メインの性格へと征服するようなものである。

全ての人間の行動、思考が人工知能により宿命づけられたものに従い、生きることになる可能性があるのである。

人間は自己を持っているから、そのような人工知能に支配されることはないと思うだろう。しかし、考えてみて

ほしい。宿命というものは、人間が認識できるようなものではないことに。つまり、気がつかずに宿命に従い、

自分の意志で活動をしていると思っていても、実はその宿命に従っただけにすぎないということが起こるのであ

る。

 モノは人間の能力を拡張したものであると研究背景で触れたが、この宿命はこのモノの最終形とも言えるもの

である。つまり、人間の能力「生きる」ということをモノにしてしまったのである。人間が生きるということを「生

きる」という能力を持ったモノによって行うのである。生きるという目的を「生きる」というモノを使って行う

という矛盾した現象が行われるのである。この状況下でも、なお人間は「生きる」ことが可能なのだろうか。そ

こに人間という「生きる」モノがあるのか、それとも、モノという「生きる」人間があるのか。それとも、そこ

には「生きる」という何かがあるだけなのだろうか。そこには、もはや人間もモノも存在しないのではないだろ

うか。そこにあるのは、ただ「生きる」ということのみ。形も持たず、情報も持たずにただ、そこにあるのは「生

きる」だけなのである。そこには、何もない。そこは、全ての始めであり、終わりである世界なのかもしれない。

全ての動物、植物、生命体、物体、情報がただ、そこにあり、そこにない、そんな世界なのであろう。そのよう

な世界がこの先にあるのかもしれない。果たして我々はどのように「生きる」といいのだろうか。それはただ、

生きればいいのである。例え、それが宿命られたものであっても、そうでなくても、私は私であるという私があ

り続ければ、それは生きているのである。生きることは難しい。しかし、生きることは易しい。我々はただ生き

ればいい。それが最も難しく、最も易しく、最も間違っており、最も正しいことなのである。生きる。

 嗚呼、原稿締切日の時間が刻々と過ぎていく。私の宿命はどういうものなのだろうか。もし宿命がこの修論の

原稿を私の代わりに書き上げてくれるというのであれば、私は宿命を喜んで受け入れる。ただし、この修論さえ

終われば、必要はない。この後は、色々とやりたいことや行きたい場所があるため、そこで宿命があっては何と

Page 150: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

143

もおもしろくない。自分が楽しめるようその場には宿命はなくなってほしい。必要なときだけ、宿命があれば楽

でいい。そう、人間は何に関してもわがままであり、自己中心的である。都合がいいときだけ、それを使い、必

要なければ、使わない。人類が初めて作ったモノもおそらく、必要だったそのときは使い、必要でなくなったそ

の次のときには既に捨てられていたのだろう。人は「生きる」ことも必要なときだけ「生きる」ことを行い、必

要でないときは「生きる」ことはどこかに置いてしまうのかもしれない。そもそも人類は今、「生きる」ことが

必要だったため「生きる」ということを行っているのかもしれない。人類にとって「生きる」ことが必要なくなっ

たとき、我々はどこに行くのだろうか。、、、嗚呼、また時間が過ぎてしまった。はたして、私は原稿を製本に出

し、そして修論の発表を行い、「生きる」ことができるのだろうか。宿命を見方にして、どうにか仕上げなくては。

自分で宿命をつくり「生きる」こと。それが答えなのかもしれない。おそらく、これを誰かが読んでいるという

ことは、私の宿命は原稿を製本に出せたということであろう。そう、つまりこの「おわりに」は私により私の宿

命を与えたのである。そして最後に、この「おわりに」を読んだあなたに「宿命」を提示したい。是非とも、無

事に修論原稿を出せた私を祝福してほしい。それがこのおわりにを読んだあなたの「宿命」なのである。祝福し

てくれてありがとう。

Page 151: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

144

9-2. 謝辞と

修論をするうえで関わってくれた多くの人に感謝します。

その一部ではありますが、以下にお礼の言葉とどうでもいいような言葉を残します。

●先生方

・渡辺先生

適切な御指導誠にありがとうございました。毎回、研究室会議で発表し渡辺先生のコメントによりもう一度研究

を見直すということを繰り返し、最終的な精度として充分なもんではないかもしれませんが、精度を上げて行く

ことができました。

・久美子さん

mixi の日記でよくコメントを下さり、ほんとにはげみになりました。ありがとうございました。いつもダメダ

メな日記ばかりですみません。。。( 笑 )

・長澤さん

修論の切羽詰まったときでも、明るく対応してくれたのがとてもうれしかったです。「一家に一台大塚くん」と

いうのがおもしろかったです。一家に一台なれるものならなってみたいです。( 笑 ) ただ、そのときは一家に一

台ある大塚がこっそりと世界征服を行うと思いますが。。。( 笑 )

・林田さん

研究室会議等で的確なアドバイスをいただきありがとうございました。時々、差し入れしてくれるお菓子がおい

しくて、とてもうれしかったです。( 笑 ) いつも、コンビニ等のお菓子しか食べていなかったので、林田さんの

差し入れのお菓子がとてもおいしかったです。

・遠田さん

研究に関する全てのことに関してお世話になりました。遠田さんがいたからこそ、ぼくの修論ができたとしか言

えません。忙しいときにもプログラムを作ってくれる等、本当に助かりました。ありがとうござます。度々ご面

倒をおかけしてすみません。また、このような程度の修論になってしまいすみません。

●被験者

被験者をしてくれた方々にお礼を申し上げます。

兄とのりこさん、阿野くん、多和田くん、林くん、本田さん、平居さん、竹原くん、小原さんとお母様とご家族、

阿部くんとお母様とご家族、奥津くんとお母様と弟さんとご家族、また一昨年度、小林くんの卒論で協力した遠

田さん、菊池くん、小林くんとお母様とご家族、被験者をしてくれてホントありがとうございます。みなさんの

おかげで、修論を書く事ができました。変な機械をつけて、変なタグをつけて、長い期間面倒のかかる実験をし

てくれて本当にありがとうございました。

●M2

・おはりゃん

いろいろ話し相手になってくれたりしてくれてありがとう。似たような研究をしてましたが、おはりゃんの研

究はおもしろそうだなぁってなんとなくいつも思ってました。なんかうまく進んでなくても楽しそうな感じがよ

かったです。( 笑 ) あと、実験道具をまとめてくれたり、図面をしっかりつくってくれたり、データをしっかり

とってくれたりと、ほんと助かりました。ずばり最優秀被験者です。(笑 )おめでとう !図面を分けてもらったり、

その他いろいろやってもらったのに手伝えなくてすみませんでした。。。まぁ、これからでも何か手伝えることあっ

たら手伝いますよ。( 笑 )

Page 152: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

145

・キクチ

なんだか、卒論のときに見てた出来ないキクチがいなくなっていたのが少し寂しく感じたりもしました。( 笑 )

進んでいるように見えたりして軽く刺激になったのかな。。。加湿器を寄付してくれてありがとう。だいぶ研究室

の湿度もよくなりノドの調子もよかったです。。。ただ、セキをしていたときは、うざかったです。( 笑 ) というか、

ほんと家で作業をしてくれ。人にうつらないかといっているんじゃない。せめてマスクぐらいしてくれ。。。と最

後に文句を言っておきます。。。空気汚す前に空気を読んでみてはいかがでしょうか。。。( 笑 ) あと、どうでもい

いけど、コップが汚過ぎでしょう。。。( 笑 )

・やまなかさん

そんなにも話すことがなかったような気もしますが、パラグアイの話とか聞けて良かったです。ただ、修論が終

わる前の時期に帰国してしまい、あまり充分に話をすることが出来なかったのが残念です。。。もう少し長く滞在

してくれれば修論の忙しさからも抜け出せて、ゆっくりと何か話ができたかもしれません。また帰国することが

あればお会いしたいものです。

・ごでぃ

ごでぃの寒いセリフのあとの静かな空気は、何ものにも変えれるものだとも思います。( 笑 ) なんか、卒論生の

ときより、留学から帰って来てからの方が仲良くできてたような気もするのは気のせいでしょうかね。。。ごでぃ

の実験のいやらしさがごでぃらしいなとか思ったり思わなかったりしました。。。

・さこくん

いつも、しっかりやり、しっかり楽しませる凄さに尊敬のまなざしをこっそりむけてたりしました。InDesign

の文字スタイルを教えてくれてありがとう。まったく知らなかったので助かりました。。。あと、"SPSS= スパッ

ツすごくしまる " のすばらしい返しは仁史研の歴史に残るでしょう。。。( 笑 )

・たわでぃ

プロジェクト TJ は疲れました。。。いやぁ、肉体労働って大変ですね。。。忙しい中でもゼミ等のことをしっかり

やれていてすごいなって思いました。。。あと、なんかいつの間にか作業をどんどん進めていてすごいなって思い

ました。。。実験の被験者もしてくれてありがとう ! ただ、ちょっとモノに触らな過ぎかな。。。( 笑 ) もう少し触っ

てほしかったなぁ。。。

・ひらいさん

いろいろな研究室のプチイベント ? 的なものをやれて楽しかったです。クリスマスのさびしんぼ会とか研究室

のラジオ体操とか恵方巻きとか。( 笑 ) いつも、研究室で作業をしているのを見て、がんばろうって思えました。

なんか、この修論の期間にすごく仲良くなった気がする。( 笑 ) ありがとうございますっ。

・ほんださん

被験者をやってもらってありがたいのですが、その分、作業を頼まれたのがなんか、困るというわけではありま

したけど、すごいなぁって思いました。。。( 笑 ) なんか、うまぁく自然と頼むんで、少しぐらいならってなんかやっ

てしまいました。。。そういううまさを見習いたいです。。。あと、いつも研究室にいて作業をしているのを見てい

て、がんばらなきゃなって思ういい刺激になりました。ありがとうございますっ。あと、研究室料理がおいしそ

うだった。( 笑 ) すごいね。。。ひらいさんと共に研究室で作業して、ラジオ体操してたのしかったですね。。。

・まっすん

ときどき N 棟に来ていて、S 棟でがんばっているんだなぁって思ってました。S 棟ばかりじゃなくて N 棟でも作

業をしましょうよ。( 笑 ) なんかいつも S 棟にいるから、コメント書く事が少ない。。。( 笑 )

Page 153: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

146

・あれいちゃん

アニメ学校に通いながら研究をしていて、すごいなぁって思いました。ぼくもいろいろやりたいことがあったん

ですが、結局一度にいくつも出来ない人間なので、全然できませんでした。なので、あれいちゃんに憧れたりも

したりしました。あと、あれいちゃん実験のゴーグルを頭にかけたぼくはほんとに似合っていたんですかね。そ

れがきになる。( 笑 ) あと、カテゴリー分けをやってくれてありがとう ! 助かりました ! なんか、差が出なかった

のはあれいちゃんのせいだとか言ってごめんなさい。( 笑 ) 製本締切ギリギリのときに、手伝ってくれてありが

とう ! というか正直、あれいちゃんより遅くなるとは思ってなかったかも。( 笑 )

・もりむー

なんか、実験が終わった後はさくさくと作業をやってどんどん進んで行くもりむーがすごいな

って思いました。。。あと、パスタを電子レンジでゆでるのをいつも貸してくれて、ありがとう !! ほんと助かり

ました。あれがないのとあったのでは、だいぶ違うでしょうね。。。なんか研究室にいないときが多く、いつの間

にか進んでいるようでなんともコワい存在でした。( 笑 )

・ひで

なんだか M2 になってから、よく研究室に来て、なんと軽井沢の合宿にも来ていて、ほんと驚いた。昔からさり

げなく出来、さりげなくサボる、そのすばらしいヒデに憧れてました。ぼくがもし会社をつくったら、欲しい人

材第ニ位です。( 笑 ) 一緒に修論ができなくて残念でした。( 笑 )

●M1

・あさのさん

なんだかほんわかした雰囲気で癒されました。お茶がなくなったときとかの対応とかなんか親切な感じでよかっ

たです。ときどき、お茶がなくなっていてぼくが買うことがありましたが、気分転換になりましたし、なんか新

しいものを買うのが楽しくてよかったです。あと、そのとき相手をしてくれるのが少し楽しみだったりしました。

( 笑 )

・まだい

ぼくの相手をしてくれてありがとうです。まだいが話相手になってくれたので、だいぶ助かったのかもしれない

です。( 笑 ) 修論間際あたりの研究室メーリス宛の内容が所々、M2 への心遣いがあって良かったですが、どう

せなら、ぼくの作業の手伝いをしてほしかった。( 笑 )

・いけち

プログラムをつくってくれてありがとう ! ほんと感謝です。もぅほとんどぼくの修論はいけちの研究だと言って

も過言ではないでしょう。。。忙しいのにいろいろ無理な注文に答えてくれてほんとありがとう。そして、いろい

ろ迷惑かけてすみませんでした。。。

あと、いろいろ研究の相談に乗ってくれてありがとう ! ほんと、頼れる仙人様です。( 笑 ) 耳にかけているスピー

カーから流れるふとしたときの音楽が、研究室に雰囲気を与えていて、さすが仙人だなぁとか思ったり、、、はし

なかったですかね。。。( 笑 ) 就活で人間の姿になったのがおもしろかったです。。。( 笑 ) いや、おもしろかったと

か言っちゃ失礼ですね。。プログラムつくってくれたんですから。感銘しました。

・いりえくん

時々、話し相手になってくれてありがとう ! いりえくんの絵のうまさにはいつも感激します。度々、ぼくの話し

相手 ( ボヤキの聞き役 ?) になってくれてありがとうございました。。。ただ、ぼくの手伝いをしてほしかった。。。

( 笑 ) あ、そういえば、いりえくんがオカタツの卒論のために描いたイラストをもらったけど、それを載せるの

を忘れてた。。。ということで、急いで研究背景のところにこっそり入れさせてもらいました。( 笑 ) たぶんプレ

ゼンでも使わせてもらいますっ。

Page 154: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

147

・きはらくん

なんか、いつもしっかりしているなって思いました。。。軽井沢合宿での自己紹介のトリのうまさには感銘しまし

た。

・まつしまくん

なんだか、いつもふとしたときに N 棟に現れるのがちょっと不思議でした。いつも何をしているんですかね。。。

まついさんのキャラがいつもおもしろかったです。反応とかいろいろ。( 笑 )

●卒論生

・あの

被験者やってくれてありがとうです。なんか忙しいときにいつも何か頼むようなことになって申し訳ない。でも

まぁ、結局のところ、結果的にそこまで頼めてないのでたぶんいいでしょう。( 笑 )

・あんどう先生

なんか、卒論が終わったころから、ほとんど会ってない気がする。。。卒論前とかぼくの話し相手とかしてくれて

ありがとう。まぁ、内容的にはあまりぼくとしてはうれしいことにはならなかったですけどね。。。

・おかたつ

おかたつの卒論の文章と図をぱくってごめんなさい。( 笑 ) 何も卒論みてあげてなかったし、協力もしてなかっ

たのに、すみません。。。いやぁ、すばらしい卒論でしたよ。ほんとぱくりがえのある論文です。もし修論を書く

ときにぼくのが使えそうだったら、ご自由にぱくってください。ただ、オカタツの卒論の部分が多いですけど。(笑)

あと、話し相手になってくれてありがとうです。卒論で忙しいときも話しかけたら、相手してくれたときは嬉し

かったです。( 笑 ) ジャマしてごめんなさい。。。

・プリンス

製本を出す日に自ら手伝うって声をかけてくれてありがとう ! ほんと助かりました。目次の番号調べとか面倒

だったし、それをやってもらえることで、項目の書き忘れに気づけてよかったです。卒計の発表の次の日で疲れ

てるところにほんとありがとぅ !

・さかてぃ

最初に話したときに仲良くなれるかもって思ってそれを信じていたんですが、仲良くなれなかったのが残念です。

特に冬ぐらいから、ほとんどさかてぃと話をしていなくて、なんかすごく残念です。会うことはあるんですが、

全然話してないですよね。まぁ、それより前からもあんまり話してないし、相手にされてなかったですけどね。。。

でも、さかてぃと少しでも話が出来たときは、だいぶ元気になりました。( 笑 ) まぁ、からもうとしたり、変な

こと言ったりできもい感じですが、今年はさかてぃがいたからなんとなく楽しかったです。ありがとう。でもやっ

ぱり仲良くなりたかった。。。今からでも仲良くなってほしい。。。としつこく願ってます。。。( 笑 )

・たけはらくん

たけはらくんのイケメンぶりには感動しました。ほんとイケメンです。ほんといい人間です。実験で家にオジャ

マしたときに、家の中がかっこよかった。最もかっこいい被験者宅受賞です !( 笑 ) おめでとぅ !

・たなあみくん

あ、貸してたガラガラ ? を回収するのを忘れてた。今、ふと思い出した。。。なんかいつも楽しそうだなって思っ

て、よかったです。( 笑 )

Page 155: 指輪型RFIDリーダーを用いた  住宅内におけるヒトとモノとの接触行動モデル

9. おわりに

148

・にしくん

なんかいまいちからみが少なかった気もする。もう少しからみたかったですね。。。なんかいつも、さかてぃとプ

リンスと一緒にパナの作業をしていてがんばっているなって思ってましたが、同時になんかそこで固まってし

まって、ぼくが入っていく余地がなくて、なんとなく寂しい感じもしました。( 笑 )

・にの

なんかこっそりしっかりとやってくれているところがよかったです。被験者もやってくれたし、図面もくれたし、

写真も遅くはなっていたけど、ちゃんとくれたし、ほんと助かりました ! どうでもいいけど、ニノとニシキドは

どちらが自分では好きなんですかね。。。あぁ、そういえば、研究室のケータイの充電器 (USB) を借りたまま返し

てないですよ。。。

・まついくん

ほんと、イケメンだなぁって思いました。( 笑 ) 顔が小さいし整っているよね。。。いやぁ、、、いいね。もっと仲

良くなりたかったなぁ。。。( 笑 ) 被験者をやってくれるって言ってくれてありがとうです。延びて延びて結局日

程的に出来なくなってしまって、ほんと残念です。( 笑 ) ありがとぅ !

・なっつ

なっつの明るさはすごいなって思いましたね。少し会うだけでなんかその明るさで元気になれるような気がしま

す。被験者をやってくれるとすんなり言ってくれてありがとうです。日程的に出来なくてほんと残念です。(笑 )

やればよかったかなって後々から思ったりしました。いろいろ作業がうまく進んでいなかったので。。。

・もりやくん

なんか、あんまりからみがなかったけど、楽しかったです。( 笑 ) 何が楽しいかって感じかもしれませんが、まぁ、

話したときはなんか楽しいなって思えたんですよ。たぶん。。。ずっと話してないなぁ。。。

●三年生

・井上さん

なんだか、よくわからない状態で知らないぼくの手伝いをしに来てくれてほんとありがとぅ ! ほんと助かりまし

た。正直、ほんとに手伝いにくるとは思ってなかったので驚きました。井上さんに研究内容を説明しようとした

ら、うまく説明できてないことに気づいてプレゼンがやばいことを認識できてよかったです。

・田中さん

手伝いがほしいと言ったときに、井上さんらに声をかけてくれてありがとう ! ほんと井上さんが手伝いに来て助

かりました。あと、時々、研究室とかで会う度にぼくの話相手になってくれてありがとう ! 楽しかったです。

●卒業した人たち

・そうさくさん、金山さんやその他の先輩方

卒論のときにそうさくさんと金山さんに見てもらってから、もぅ 3 年 ( 科目等履修生という浪人期間が一年分 )

経ったのだと思いました。あのときは、ほんとダメな人間で迷惑かけてすみませんでした。八王子でほぼ全ての

修士に囲まれて緊急会議をしたのを今でも思い出します。ほんと、みなさんありがとうございました ! 結局、修

論もびみょうな感じであまり成長していないんだなっとも思いましたが、たぶん少しは良くなっていると思いま

す。( 笑 ) 修論が出来たのもあのときのみなさんのおかげです。

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9. おわりに

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・まついさん

まついさんの修論の実験の手伝いをしてましたが、がんばっていてすごいなって感心してました。そして、今度

はぼくが修論をやりその大変さと難しさを身にしみて感じました。やっぱりまついさんはすごいです。(笑)今回、

まついさんの論文をかなり参考にしました。内容はまったく違いますが、見た目や構成のきれいさと真面目さが

あるのがまついさんのだったので参考にしました。ぼくにとってバイブルです。( 笑 ) ということで、フォーマッ

トも勝手にぱくり、人の絵もこっそりパクったことをお許しください。( 笑 ) あと、まついさんのようにうまく

やれるよう、早めに実験等をしてみたんですが、どうもうまくいかなかったです。( 苦笑 ) でも、研究内容は異

なりますが、まついさんを見本にしたからこそ、この修論が出来たと思ってます。ほんとありがとうございますっ!

・横尾さん

横尾さんから始まった接触行動の研究をコバケンを経過してやりました。横尾さんの修論をすごく参考にさせて

もらいました。というか、ぼくの研究の流れの半分は横尾さんのをそのままやっているようなものです。ビデオ

撮影でやったと思うと、どんなに大変なんだと思いました。横尾さんの修論があったから、ぼくの修論をつくる

ことができました。ほんと、ありがとうございます !

・コバケン

コバケンの研究を受け継ぐ形でやり始めたこの研究です。すごくがんばってやっていたんだなと卒論を参考にし

たときに感じました。特にネットワークの指標値とかって結構、出すのに時間と手間がかかったので、がんばっ

たんだなって思いました。ただ、その指標値の出し方をどこかにまとめておいてほしかった。。。

●家族

・父、母、兄、兄嫁

終電で帰っても夕食を作ってくれ、夜遅くまで作業をして、昼頃まで寝て起きてと不規則な生活をして迷惑をか

けたにもかかわらず、いつも支えてくれた母と父に感謝します。また、実験を始めにしてくれ、また所々で全般

的なアドバイスをくれた兄と紀子さんに感謝します。ほんとにありがとうございました。

いろいろな人に出会い、支えられ、ぼくがいて、この修論をつくれたんだと思います。ほんとに、みなさんに感

謝の気持ちでいっぱいです。今回、ネットワークというものを使いましたが、人のつながりもネットワークでつ

ながっているんだと、実感しました。

モノのネットワークで人を見ましたが、きっと人と人のネットワークでも、その人がはっきりとわかるんだと思

います。( まぁ、ぼくの研究でははっきりとその人の特徴をネットワークから捉えることができませんでしたけ

ど。)

きっと、また誰かと誰かがネットワークでつながり、まだ誰かと誰かがつながり、どんどんネットワークが大き

くなっていくんでしょう。。。

ぼくの中学か高校のときに見て好きになったマンガ(アニメ)の中のセリフで「愛は広がっていくものだから」(「彼

氏彼女の事情」講談社 ) という言葉があります。きっと、ネットワークのように愛は広がっていくんでしょう。

ぼくの愛も誰かのネットワークで誰かとつながっていくのでしょう。。。だって、愛は広がっていくものだから。。。

、、、と最後にびみょうな感じのコメントを残して終わりたいと思います。( 笑 )

ほんと、みんなありがとうっ !!

製本締切日の次の日の 2009 年 2 月 5 日 ( 木 )

大塚 佑治

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9. おわりに

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works,2009.1.1,http://www.watanabe.arch.waseda.ac.jp/member/2003/entasan/ucinet/category2.cgi,(参

照 2009.2.3)

¥t:.vna 形式のファイルに記述された座標データを、タグデータリストに記載された座標データに変換

す る ",¥t works,2009.1.13,http://www.watanabe.arch.waseda.ac.jp/member/2003/entasan/ucinet/

posconvert3.cgi,( 参照 2009.2.3)

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¥t: 接触動作ログデータから任意次数の遷移確率表を生成するプログラム ( カテゴリー番号バージョン ),¥t

works,2009.1.20,http://www.watanabe.arch.waseda.ac.jp/member/2003/entasan/ring/ring_catmarkov1.

cgi,( 参照 2009.2.3)

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資料編

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