rzeta −アミンエミッション・臭いを抑えたウレタン発泡触媒−49 rzeta ®...

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49 ●RZETA ® アミンエミッション・臭いを抑えたウレタン発泡触媒有機材料研究所 アミン誘導体グループ  藤原 裕志 高橋 義宏 鈴木 孝生 木曾 浩之 1.はじめに ポリウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシア ネートを主原料に製造され、その優れた特性から様々 な分野で利用されている 1) 。中でも自動車分野におい ては、フォームと呼ばれる発泡ポリウレタンが、シー ト内部のクッション材料、ヘッドレスト、アームレス ト、ハンドルなどの自動車内装材に用いられており、 大きな需要がある。 三級アミン化合物は、ポリウレタンフォームの骨格 形成(樹脂化)や発泡・膨張の反応(泡化)における 触媒として機能し、フォーム製造に不可欠な物質であ る。しかし、アミン触媒は製造後のウレタンフォーム から徐々に揮発し(アミンエミッション)、臭気、眼 への刺激、内装材の変色や白濁、ガラスの曇りなどの 問題を引き起こすことが明らかとなり、現在、これら の早期解決が求められている(図1)。 2.アミンエミッションに対するアプローチ [1]反応型触媒とその課題 アミンエミッションに対する有効な解決策として、 反応型触媒が提案されている 2),3) 。反応型触媒は分子 中にイソシアネートと反応する置換基を持ち、フォー ム製造時に触媒として働くと同時に、フォーム骨格に 触媒が固定化される(図2)。これにより、アミンエミッ ション発生を抑えることができる。 しかし一方で、反応型触媒はイソシアネートと結合 することで、フォーム骨格の成長を停止させる。そこ で生じた末端部位は加水分解されやすく、湿熱条件下 でのフォームの耐久物性が大幅に低下する。添加する 触媒量を少なくできれば、物性低下の影響は小さくな ると考えられるが、既存の反応型触媒は触媒活性(樹 脂化能)が低く、触媒量が多く必要である。また、一 部反応型触媒にはイソシアネートとの反応性が低いも のがあり、未反応のままウレタンフォームに残存する ため、アミンエミッションの原因となっている。以上 の背景より、高活性(強樹脂化)な反応型触媒が市場 から要求されている。 [2]強樹脂化触媒の開発 我々は、種々のアミン化合物の構造と触媒活性の関 係を検証し、環状構造に代表される立体障害の小さい 窒素部位が強力な樹脂化能を持つことを明らかに した 4) 。この結果を基に、強樹脂化能を持つトリエチ レンジアミン(「TEDA ® 」以下 ® を省略)を主骨格と ガラス曇り ランプカバー白濁 (ポリカーボネート) インパネ変色(塩ビ) 臭気、眼への刺激 アミンエミッション 図1 アミン触媒の問題点 反応 反応性基 反応型触媒 ポリイソシアネート OCN NCO HO OH ポリオール ウレタン 骨格形成 固定化 揮散抑制 欠点 欠陥生成 物性低下 図2 反応型触媒の原理と課題

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Page 1: RZETA −アミンエミッション・臭いを抑えたウレタン発泡触媒−49 RZETA ® −アミンエミッション・臭いを抑えたウレタン発泡触媒− 有機材料研究所

49

● R Z E T A ®

 −アミンエミッション・臭いを抑えたウレタン発泡触媒−

有機材料研究所 アミン誘導体グループ  藤原 裕志高橋 義宏鈴木 孝生木曾 浩之

1.はじめに

 ポリウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシア

ネートを主原料に製造され、その優れた特性から様々

な分野で利用されている 1)。中でも自動車分野におい

ては、フォームと呼ばれる発泡ポリウレタンが、シー

ト内部のクッション材料、ヘッドレスト、アームレス

ト、ハンドルなどの自動車内装材に用いられており、

大きな需要がある。

 三級アミン化合物は、ポリウレタンフォームの骨格

形成(樹脂化)や発泡・膨張の反応(泡化)における

触媒として機能し、フォーム製造に不可欠な物質であ

る。しかし、アミン触媒は製造後のウレタンフォーム

から徐々に揮発し(アミンエミッション)、臭気、眼

への刺激、内装材の変色や白濁、ガラスの曇りなどの

問題を引き起こすことが明らかとなり、現在、これら

の早期解決が求められている(図1)。

2.アミンエミッションに対するアプローチ

[1]反応型触媒とその課題

 アミンエミッションに対する有効な解決策として、

反応型触媒が提案されている 2),3)。反応型触媒は分子

中にイソシアネートと反応する置換基を持ち、フォー

ム製造時に触媒として働くと同時に、フォーム骨格に

触媒が固定化される(図2)。これにより、アミンエミッ

ション発生を抑えることができる。

 しかし一方で、反応型触媒はイソシアネートと結合

することで、フォーム骨格の成長を停止させる。そこ

で生じた末端部位は加水分解されやすく、湿熱条件下

でのフォームの耐久物性が大幅に低下する。添加する

触媒量を少なくできれば、物性低下の影響は小さくな

ると考えられるが、既存の反応型触媒は触媒活性(樹

脂化能)が低く、触媒量が多く必要である。また、一

部反応型触媒にはイソシアネートとの反応性が低いも

のがあり、未反応のままウレタンフォームに残存する

ため、アミンエミッションの原因となっている。以上

の背景より、高活性(強樹脂化)な反応型触媒が市場

から要求されている。

[2]強樹脂化触媒の開発

 我々は、種々のアミン化合物の構造と触媒活性の関

係を検証し、環状構造に代表される立体障害の小さい

窒素部位が強力な樹脂化能を持つことを明らかに

した 4)。この結果を基に、強樹脂化能を持つトリエチ

レンジアミン(「TEDA®」以下 ® を省略)を主骨格と

ガラス曇りランプカバー白濁(ポリカーボネート)

インパネ変色(塩ビ) 臭気、眼への刺激

アミンエミッション

図1 アミン触媒の問題点

反応反応性基

反応型触媒

ポリイソシアネート

OCN NCO

HO OHポリオール

ウレタン骨格形成

固定化揮散抑制

欠点欠陥生成物性低下

図2 反応型触媒の原理と課題

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50 TOSOH Research & Technology Review Vol.58(2014)

し、反応性基の水酸基を導入した化合物を強樹脂化反

応型触媒(「RZETA®」、以下 ® を省略、読み:アール

ゼータ)として設計した(図3)5),6)。

3.評価処方

 開発した RZETA を自動車シートなどに用いられる

軟質 HR モールド処方で評価した(表1)。発泡条件

を表2に示す。アミン触媒として表3に示した化合物

を用い、触媒間の比較を行った。

4.RZETA の特性

[1]触媒活性(樹脂化反応活性)

 図4にモデル反応 7)より算出した種々のアミン触

媒の樹脂化反応速度定数を示す。RZETA の樹脂化反

応活性は、他の反応型触媒よりも 2 − 3 倍高く、非反

応型の TEDA に匹敵する値を示した。硬化時間(ゲ

N N

OH

図3 RZETA結晶の構造

反応部位

活性部位(立体障害小)

三官能ポリエーテルポリオール連通化剤水シリコーン整泡剤アミン触媒

イソシアネート(MDI)

表1 軟質HRモールド処方

水酸基価[mgKOH/ g] 使用量[pbw]

28.029.0

NCO含量[wt%]28.7

100.0 2.0 3.3 1.0varied

インデックス100

表2 発泡条件

液温度撹拌速度モールド温度モールド寸法

20℃6,000 rpm(5 sec)

60℃25×25×8 cm

触媒名 構造 触媒名 構造

TEDA−L33

RZETA

TOYOCAT−ET

RZETA−SP

Cat.A

Cat.B

Cat.C

Cat.D

Cat.E

Cat.F

(TEDA):

DPG:

DPG:

DPG:

(RZETA結晶):

Special blend of RZETA

33%

67%

33%

67%

70%

30%

N O N

N O N OH

N O N NH2

DPG:

N N NOH

OH

OH

N

N

N

N NO

NH2

O

HN

HN

HN

70%

30%

(混合物)

表3 評価アミン触媒一覧表

N N

N N

OH

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51東ソー研究・技術報告 第 58 巻(2014)

ルタイム)を 60 秒に合わせた際に、必要となる触媒

部数を図5に示す。RZETA のアミン成分量は反応型

触媒の中で最も少なかった。また、泡化触媒(Cat.A、

Cat.B)と併用することで、触媒部数をさらに減らす

ことができた。これは TEDA − L33 と TOYOCAT® − ET

(以下 ® を省略)に見られるような樹脂化触媒と泡化

触媒の協奏効果と考えられる。以上により、RZETA

はその強樹脂化性能からアミン使用量を大幅に低減可

能である。

[2]アミンエミッション量

 自動車分野で標準的な VDA278 法(昇温脱離法)に

よりウレタンフォームからのアミンエミッション発

生量を測定した(図6)。非反応型触媒である TEDA

− L33 / ET 系は VOC 条件(90℃× 30 分)で多量のエ

ミッションを排出した。また、既存の反応型触媒系は、

VOC 条件ではエミッションがほとんど無いものの、

続く FOG 条件(120℃× 60 分)ではエミッションが

発生した。これらに対し、RZETA 系は VOC、FOG 条

件共にエミッションが検出されず、アミンエミッショ

ン量を大幅に低減できることが明らかとなった。

12

10

8

6

4

2

0

樹脂化反応速度定数[L2/g・mol・h]

TED

A

RZE

TA結晶

Cat

. C

Cat

. D

Cat

. E

図4 アミン触媒の樹脂化反応速度定数

0 1 2 3

Cat.F/Cat.B(4/1)

Cat.E

Cat.D

Cat.C

RZETA/Cat.B(4/1)

RZETA/Cat.A(4/1)

TEDA−L33/ET(4/1)

触媒量[pbw]

樹脂化アミン触媒

泡化アミン触媒

溶媒

図5 アミン触媒の使用量比較(ゲルタイム60秒)

[3]臭気

 ウレタンフォームから発生する臭気を臭気判定士

による嗅覚測定法により測定した(図7)。RZETA は

TEDA − L33 の約半分まで臭気濃度を低減可能であっ

た。また、RZETA で発泡したフォームからはアミン

化合物に由来する刺激臭や生臭いにおいが感じられな

かった。以上より、RZETA を使用することで、ウレ

タンフォームの臭気を大幅に抑えられることがわかっ

た。

[4]樹脂汚染性

 アミン触媒の樹脂汚染性を調べるため、密閉容器中

にポリウレタンフォームと樹脂を共存させ、一定時間

の加熱後、樹脂の外観を観察した。ポリカーボネート

0 ppm

708 ppm

240 ppm

61 ppm20 ppm

431 ppm

20 ppm

500

400

300

200

100

0アミンエミッション量[μg/g-Foam]

TED

A−L

33/E

T

RZE

TA/C

at.A

Cat

.C

Cat

.D

Cat

.E

Cat

.F/C

at.B

図6 ウレタンフォームからのアミンエミッション発生量(VDA278法:90℃×30分[VOC条件]後、  続けて120℃×60分[FOG条件]処理)  

FOGVOC

30

25

20

15

10

5

0

臭気濃度[-]

臭気抑制

TED

A−L

33

RZE

TA

刺激臭

生臭いにおい

芳香臭

甘いにおい

図7 ウレタンフォームの臭気比較

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52 TOSOH Research & Technology Review Vol.58(2014)

(PC)樹脂の場合、RZETA を使用したフォームは汚

染が全く起こらず、樹脂は透明なままであった(図8)。

一方、Cat.C や Cat.E の他反応型触媒や非反応型の

TEDA は PC 樹脂表面の白化や溶解を引き起こした。

これは揮発アミン成分により PC 樹脂が加水分解され

低分子量化したことが原因と考えられる。

 また、塩ビ樹脂の汚染試験の結果、RZETA は試験

後の塩ビ樹脂変色が他反応型触媒よりも小さかった

(図9)。RZETA はアミンエミッション発生が抑制で

きることから、樹脂汚染の小ささに繋がったと考えら

れる。

[5]耐久物性

 図 11 に各触媒で製造したフォームの湿熱劣化試験

結果(HACS 法、図 10)を示す。RZETA は他反応型

触媒よりも圧縮歪みが小さく、良好な耐久物性を示し

触媒 ブランクRZETA

/Cat.B(4/1) Cat.C Cat.ETEDA-L33/ET(4/1)

PC板

状態 透明 透明 溶解 白化 溶解

図8 PC樹脂汚染性(フォーム:100×100×60 mm、水5 g、100℃×24時間)

図9 塩ビ樹脂汚染性(フォーム:70×70×30 mm、100℃×72時間)

触媒 ブランクRZETA

/Cat.A(4/1) Cat.C Cat.DTEDA−L33/ET(4/1)

塩ビ板

色度変化(ΔE) 1.5 5.0 27.6 10.1 59.1

た。これは RZETA が高い触媒活性により触媒使用量

を低減できた効果であると考えられる。また、さらな

る検討の結果、RZETA 混合グレードである RZETA −

SP がさらに耐久物性を向上できることを見出した。

5.おわりに

 高い触媒活性を持つ反応型アミン触媒の RZETA は、

ウレタンフォームからのアミンエミッションの発生を

20

15

10

5

0

圧縮歪み(HACS)[%]

TED

A−L

33/E

T(

4/1)

RZE

TA−S

P/C

at.A

(4/

1)

RZE

TA/C

at.A

(4/

1) Cat

.C

Cat

.E

Cat

.F/C

at.B

(4/

1) Cat

.D

耐久物性

図11 ウレタンフォームの耐久物性比較

前処理

24時間 90℃

<10%RH

湿熱処理

200時間 90℃

100%RH

乾燥

24時間 70℃

<10%RH

養生

>16時間 23℃

50%RH

50%圧縮

22時間 70℃

<10%RH

非反応型アミンは前処理段階で揮発

*RH:相対湿度

図10 HACS法の条件

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53東ソー研究・技術報告 第 58 巻(2014)

大幅に低減できることが明らかとなった。これにより、

ウレタンフォームの臭気を抑えられ、PC や塩ビ樹脂

の汚染を軽減することが可能となった。さらに、アミ

ン成分の使用量が少ないことから、高い耐久物性を達

成することができた。

 自動車分野では、今後エミッション低減に対する

ニーズがますます高まると考えられ、RZETA はこの

要求に対し大きく貢献できるものと確信している。

6.引用文献

1)岩田敬治 編、ポリウレタン樹脂ハンドブック(日

刊工業新聞社)、(1987)

2)R. L. Zimmerman,R. A. Grigsby,G. Felber,

  H. H. Humbert,UTECH (2000)

3)S. H. Wendel,L. A. Mercando, J. D. Tobias,

UTECH(2000)

4)H. Kiso,Y. Tamano,PU Magazine,1,32 (2007)

5)鈴木、高橋、徳本、木曾、東ソー研究・技術報告、

55、27 (2011)

6)T. Suzuki,K. Tokumoto,Y. Takahashi,H. Kiso,

R. V. Maris,J. Tucker,TOSOH Research & Technology Review, 57,13 (2013)

7)A. Farkas,K. G. Flynn,J. Am. Chem. Soc.,82,

642 (1960)

RZETA®、TEDA®、TOYOCAT® は東ソー株式会社の

登録商標です。