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Saasスター卜アップ 創業者向けガイド SaaSリーダーが伝えるコンセプ卜、 戦略、および戦術 Vol.2 スター卜アップ向け

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Saasスター卜アップ創業者向けガイドSaaSリーダーが伝えるコンセプ卜、

戦略、および戦術Vol.2

スター卜アップ向け

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戦略、および戦術Vol.2

スター卜アップ向け

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この PDF は、米国本社で 2017 年に制作された「SaaS Startup Guide Vol.2」の翻訳版です。

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はじめに 7

第1章 9サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

第2章 24ドル箱カテゴリを確立する

第3章 37製品/市場との相性を見極める

第4章 45推進力を高め成長に対処する

第5章 51顧客のエンゲージメントを強化

第6章 68スタートアップ企業にとってのCRMのメリット

第7章 75効果的なマーケティングキャンペーンを企画する

第8章 84ソーシャルセリングによる営業活動の変化

目次

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第9章 99AppExchange:MVPへの最短距離

あとがき 108Salesforce Incubatorからの起業家への助言

SalesforceforStartupsについて 117

寄稿者 118

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Leyla Seka

9年前、Salesforceに入社した頃の私の肩書きはAppStore担当のディレクターでした。当時、iPhoneがわずか4か月前に登場したばかりで、アプリケーションはほとんど普及していませんでしたが、私は、まるでAmazonで本を購入するようにアプリケーションを購入するというアイデアに魅力を感じました。それは当社のマーク・ベニオフCEOが提唱したアイデアでした。

1年足らずのうちに、Apple AppStoreが立ち上がり、マークはスティーブ・ジョブズにAppStoreの商標をプレゼントしました。私の肩書きはAppExchangeのディレクターになり、プロフェッショナルなフィールドで未知の冒険に挑む毎日がスタートしました。目の前で、最大かつ並外れて活気に満ちたエンタープライズ用アプリケーションのエコシステムが誕生しようとしていました。世界の一流起業家が当社のプラットフォームで革新を起こし、当社のお客様のために世界を変革するのを間近で見る幸運を得ました。

本書は、偏見のない心で挑戦に挑み、あらゆるリスクを厭わない、勇気あるイノベーターである起業家の皆さんに、敬意を称して執筆されたものです。Salesforceの基盤にあるのも、同様の気概と強固な意思です。当社を輝かせるコミュニティを称えることほど喜ばしいことはありません。

本書では、皆さんや私のような人々の実話を紹介しています。まじめに働き、チャンスの芽を見つけ、ものにした人々です。もちろん、運にも恵まれていたでしょう。ただ視点を変えればどこにでも幸運は見出せます。本書ではSaaS企業の経営方法について実践的知識を紹介しています。その理由は、お察しのとおり、SaaSがいわゆる伝統的なソフトウェアビジネスモデルとは異なっているからです。この業界を開拓し、再開拓し続けるパイオニア精神に満ちた先輩たちの話を読み、個人、企業、業界として私たちが直面する課題について学んでください。こうした課題は、世界経済の行方に大きく影響します。

本書には、変化を重視するという点で、個人的に共鳴できる意見が多数紹介されています。テクノロジー分野で頭角を現すには、変化を楽しみ、受け入れる必要があります。事実、皆さんの将来の生活は、今作り出される変化によって決まるといっても過言ではないのです。皆さんの仕事は、従来の概念を壊し、改良することです。壊すべきものが自分自身である場合もあります。

はじめに

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ここで、私自身の体験談をご紹介します。私は若かりし頃、優秀な製品マネージャーでした。エンジニアリング部門と共に優れた製品を開発し、営業部門が大口案件を成約する手助けをし、世界中を飛び回っていました。充実した日々でした。ただ、次のステップに移る潮時でもあり、マネージャーへの昇進を望んでいました。

個人的に秀でていた点、つまり気概、スキル、体験、適度な自負心と自己アピール力が上層部の目に留まり、すぐにマネージャーへと昇格しました。チームを率いる立場になったのです。ところが、まったくうまくいきません。失敗ばかりでした。自分について話すことに慣れすぎていて、チームについて語る術を知りませんでした。自分というブランドを守るためでなく、チームと共に働くということがどういうことなのか、まったく分かっていなかったのです。

しかし幸運なことにすばらしい上司に恵まれ、この時期を乗り越えることができました。その上司が部下を鼓舞し、リードする方法を教えてくれたのです。当時は不安な毎日でした。落伍者となることを心配していたのです。それでも結果として私は、はるかに貴重なものを手に入れました。長年私を支持してくれているチームです。勝利を共に祝い、苦境では支えあってきました。

こうした私の体験からの重要な教訓は、皆さんが優秀な起業家として乗り越えなければならない移行期にも生かせます。はじめは自分がすべてです。自分のアイデア。自分の気概。自分のビジョンがものをいいます。そのうち、重要な転換期が訪れ、自分の世界に他人を受け入れる必要が生じます。共同創業者を探すにしても、初代チームメンバーを採用するにしても、自分の夢の実現に近づくには、自我を抑え、他人を信用する必要があります。しかしこれは、起業に乗り出そうとする皆さんに変えていただきたい認識のひとつに過ぎません。

私たちにとって唯一不変のルールは「変化を受け入れる」ということなのです。

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由Tien Tzuo

 Tien Tzuo氏は、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)業界で最初のソートリーダーの1人として広く知られています。Salesforceを世界トップクラスのエンタープライズSaaS企業に押し上げる要因となった、サービスおよびビジネスモデルを定義する上で極めて重要な役割を果たしました。2007年、Tzuo氏はSalesforceを離れ、煩雑なサブスクリプションベースのビジネスに解決策を提供するZuora社を創設しました。CEOとして同社を成長目覚ましいSaaS企業に育て上げるかたわら、さまざまな業界でサブスクリプションベースのビジネスモデルへの移行を促す活動を行ってきました。そして「サブスクリプション経済」という言葉を生み出しました。SaaS企業の創設者はサブスクリプションビジネスの構築と運営に関する基本を身に付ける必要があります。サブスクリプション経済で重要なのは、成功を測る新しい指標は何か、そして成功を導くビジネスの牽引力は何なのかを理解することです。

おめでとうございます。今、本書を読んでいるあなたは、ベストなタイミングで正しい選択をしました。産業革命以後、ビジネス環境はこの種の変化をいくつも遂げており、将来には大きな機会が待っています。今、それをつかむかはあなた次第です。

さて、この変化とは何のことでしょうか?この16年間でサービスとしてのソフトウェア(SaaS:Software as a Service)はソフトウェアの配布と利用の主流モデルとなりました。ソフトウェアが必要であっても、ハードウェアの購入やソフトウェアのインストール、手間のかかるバックアップ、アップグレードで悩み、ソフトウェアが動かなくなって真夜中にサポート窓口に連絡することなど、誰も求めてはいません。一度Salesforceを試してみれば、もうSiebelには戻れなくなります。

多くの人がSaaSのことをテクノロジーの一種であると考えているようですが、SaaSははるかに根本的な変化を起こしました。それはサブスクリプションという新しいビジネスモデルを生み出したことです。1999年にSalesforceを創業したとき、製品を売る時代はもう終わったと私たちは確信しました。当時私たちは、

第1章

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第1章

開発したサービスをサブスクリプションの形態で顧客に売り込んでいました。しかし、ここからが重要です。2017年になった今、このビジネスモデルはSaaSを超え、生活のあらゆる部分に浸透しています。このようなことが起きた経緯を確認するため、少し歴史を振り返ってみましょう。

産業の時代と絶対的な利ざやの力20世紀は基本的に、ほぼ全体を通して物を売る経済の時代でした。企業は物

理的な商品を設計、製作し、資産移動モデルの下で商品を売り込み、出荷していました。在庫、棚への陳列、コストを加味した価格設定。これがビジネスのすべてでした。売り手と買い手の関係の拠り所になっていたのは、ほとんどが匿名で行われる個別の取引でした。支払いレジには「最終処分セール」の貼り紙が掲げられました。小売業のパイオニア的存在だったSears RoebuckやMacy’sは、誰が商品を購入し、商品がどのように使われているのかを知る手立てをほとんど持ち合わせていませんでした。

1913年、フォード社は初の流れ作業式組み立てラインを稼動しましたが、それは1800年代の産業革命期に最初に導入された製造の原則をまさに拡大したものでした。組み立てラインは非連続的な繰り返し作業において最大の効率性を上げるのみに留まらず、さらなる影響をもたらしました。つまり、たった1つの商品が、サプライチェーンや製造工程、流通チャネル、経営層よりも強い支配力を持つようになったのです。

商品こそが唯一の原則であり、商品によってすべてが完全に統制されていました。製造や購入、販売に関与する実際の人間は完全に使い捨てでした。ボディ色を黒のみにし、「フォードの顧客は、黒ならどれでも好きな色のT型フォードを選べる」と言った逸話は有名です。

こうして徹底して効率性を追求した結果、1台当たりのコストは大幅に下がり、安く、耐久性のある車を市場に大量投入できるようになりました。

T型フォードが黒色だけの生産だったのは、他の色は乾きが遅く、3分に1台という生産ペースに間に合わなかったからです。

やがて圧倒的な市場シェアを得たフォードは、じわじわと価格を吊り上げ、差益(利ざや)を稼ぎ始めました。すべてで利ざやが取られるようになり、モデルチェンジにより多少意図的に時代遅れを作り出すやり方も許容されました。

戦後の米国の大企業は、絶対的な力を持っていました。企業は明確に線引きされた商品部門を中心とした組織作りをしており、誰にも応対する必要がありませんでした。コールセンターもなければ、顧客サービス担当もなく、返品もほとん

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

どありませんでした。現在の顧客だったらこのようなモデルは成立しなかったでしょうが、企業は商品を出荷し、経営陣は十分満足していました。

1980年代にOracleのエンタープライズリソースプランニング(ERP)システムが誕生しましたが、これは問題を助長するだけでした。このシステムは事業の効率性を測る基準、つまり原材料、在庫、注文書、出荷、給与などの測定においては非常に優れていましたが、カスタマーエクスペリエンスの測定については非常にお粗末なものでした。企業は測定できるものの管理に重点を置くようになり、組織面でも戦略面でも救いようがないほどの商品重視の経営になりました。

この10年は、サプライチェーン経済が勢力を伸ばした時期でもあります。サプライチェーンの狙いは、保有在庫を最小限に抑えながら供給と需要のバランスを取ることでした。日本の新しい電化製品や効率性に脅かされていた技術者や経営コンサルタントはようやく安堵できました。「ジャストインタイム」方式の在庫管理では、倉庫を商品でいっぱいにして放置

しておくことは究極の悪とされました。「総合的品質管理」は改善に向けた取り組みには終わりがないことを意味しました。マイケル・デル氏はこの方針にもとづき、帝国を築きました。

20年前あたりになると、米国の企業はこの徹底的な生産性重視の姿勢により、あるものが犠牲になっていることに気付きました。ベンダーと顧客の関係です。顧客はこれまで、流通チャネルの最後の受け手であり、誰にも知られることなく企業が生産した商品を消費するだけの存在でした。

ある日、多くの顧客が初めて購入した商品をうまく使えずに困っていることがわかりました。なぜわかったのでしょうか?受付にクレームの電話が来るようになったのです。この問題を企業はどうやって解決したのでしょうか?顧客サービスの部署を立ち上げたのです。

疑わしいときは、別の部署を立ち上げました。市場サービス、テクニカルサポート回線、保証契約、保守グループなどの組織を立ち上げました。顧客はようやく自分に向けた部門を企業から用意されるようになったのです。ただし、その部門はサプライチェーンのはるか末端の搬出口を過 ぎたところに据えられました。

余談ですが、主要なMBAプログラム、少なくとも私が受けたプログラムはどれも、とにかく商品に執着していました。ビジネスで最も重要な目標は、ヒット商品を作ることだと教えられたり、また、できるだけ多くの商品を売るべきだと教えられたりもしました。固定費をなるべく多くの数で割り、すべてを利ざやで勝負するためです。SAPをうまく使いこなせさえすれば他社に勝てると言われたこともあります。本当に役に立たない助言ばかりでした。

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第1章

収益を生む関係への移行私はSalesforceの11人目のメンバーとして、単なる新しいタイプの顧客関係

管理(CRM)ツールではなく、エンタープライズアプリケーションに対するまったく新しいアプローチを構築する権限が与えられました。初期の従業員の多くがすでにエンタープライズソフトウェア業界の状況に幻滅していた頃です。20世紀も終わりに近づいた頃、OracleやSiebelなどの企業が必要以上に複雑な製品を作り始め、製品は金銭ずくの営業部隊によって販売され、寄生虫のようなシステムインテグレーション業界が販売を促進していました。

誰もが利益を得ていましたが、その中に顧客は含まれていませんでした。半分は設置したまま活用されず、成功したと思える事例でもエンドユーザーの評価は劣悪でした。業界から顧客という視点、つまり、そこに誰がいて、毎日どのように暮らしていて、作業システムのどこが良くどこが悪いと感じているかという視点が、完全に抜け落ちていました。変化すべき時期が来ていました。

同じ頃、私たちはインターネットがもたらす新しい体験を驚きの目で見ていました。それはまさに私たちが必要としていたものでした。新しいタイプのユーザー体験、つまりAmazonで本を買うように簡単にソフトウェアを使用することだったのです。

しかし実際に踏み出してみると、考え方を180度転換しなければならないことがわかりました。ソフトウェア企業の意義を再評価して、基本的な論点を「商品を何個売れるだろうか?」から「顧客は何を欲しがっているのか、どうすればそれを直感的なサービスとして提供できるだろうか?」に変える必要がありました。

もはや単純な数量の変動の話だけではなくなったのです。重要なのは献身的な顧客基盤を拡大し、収益化することでした。

SaaSモデルの何が私たちを顧客に向き合わせたのでしょうか?もちろん、テクノロジーによってインターネット経由でサービスを提供できました。結局のところ、求める将来像はAmazonで本を買うのと同じくらい簡単なものでした。しかしそれを実現するには、サブスクリプション形態で販売するサービスとして何を提供するのかを考え、顧客に満足してもらうために常に努力する覚悟も必要でした。すると突然、製品自体の機能がどれだけ優れているかはそれほど重要ではなくなり、顧客が現在使用している機能や、必要とされている機能に目が向くようになりました。

結果、いかにもハイスペックな機能をリストアップして見せることはしなくなりました。数多くの質問を投げかけることから始めたのです。マーク・ベニオフ氏はまるで1人きりの消費者調査会社のようでした。彼の売り込み会議は、どち

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

らかと言えばリサーチのフォーカスグループと言えました。彼は最高の製品を開発するために、見込み客に絶えず数多くの質問を投げかけました。

この10年で、モバイルテクノロジーによってインターネットが広がり、多くの企業が同じような考え方、つまり顧客第一主義の姿勢をとるようになりました。Amazon、NetflixそしてZipcarはこれまでのサービスの内容を見直しました。顧客の好みを追跡し、各顧客のニーズに合わせた商品を提案して、生涯続く顧客価値を作り出すという長期的な展望を常に取るようになりました。取引重視から顧客重視へと変化したのです。

その結果、精算が済めば顧客と一緒に消えてしまう静的な商品、あるいはオンプレミスで「設定して終わり」のインストールサービスではなく、継続的なサービスを提供し、スマートで即応的な関係を構築できたのです。サブスクリプションモデルを採用すると、先行コストの低い商品を提供して商品を改善し続け、使用状況や行動の分析を通して顧客を知ることができます。顧客はもはやERPの中の見えない存在ではなくなりました。

サブスクリプション経済現在、メディア、輸送、農業、医療、消費財、教育など、あらゆるものがサブ

スクリプション経済に移行しつつあります。顧客が欲しているのは製品によって得られる結果であり、製品自体を所有することではないということに、多くの企業が気付きました。顧客が望んでいるのはカスタマイズされた経験です。また、計画的な陳腐化(新製品の投入などで現行モデルを意図的に旧式化すること)ではなく、継続的な改善です。

この点について考えるときに一番わかりやすいのが、企業は目的達成の手段として商品を利用し、結果を顧客に売り始めたということです。

UberやLyftは車を売っているのではなく、乗車することを売っています。Caterpillar社は建設会社に運搬車両を売っていました。今では、どれだけの土

砂を運搬したいのかを顧客に尋ねています。健康管理機器メーカーは、分析プラットフォームの12か月間のサブスクリプション契約に対して、実際の商品を無料提供しています。テスラ社の車は最新のテクノロジーで自動更新されるため、時間を追うごとに賢くなります。もう新しい車を買う必要はありません。Amazonでは、消費者がストアに入り、必要なものを選んで立ち去れる小売テクノロジーを展開しています。

つまり、もうソフトウェアだけでは勝負できない時代になったのです。あらゆる業界で、以前より多くの投資が必要となりました。

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第1章

新たな優先順位

これはZuoraでよく使う図です。この図は移行を簡単に説明しています。左側の図は、企業が商品の市場投入を重視していたことを示しています。特定の製品ラインまわりに販売と流通チャネルを配置していました。現在の顧客はさまざまな流通チャネルを利用していることが判明したため、企業は顧客がどこにいようと、その場所で顧客のニーズを満たさなければなりません。

強大な力を持つ無機質な大企業の栄光の日々は、遠い昔に終わりました。IBMは今でも偉大な企業ですが、テレビドラマ『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア』

(Halt and Catch Fire)で描かれたような悪らつな帝国ではありません。今となっては言い古された感もありますが、まさにAppleが1984年に広告したとおりの未来が実現したというわけです。そう、当時ITを支配していたIBMを、Appleが自由なアイデアで打ち負かしたのです。

企業は変わりました。人々が変わったからです。今日の顧客は多くの情報を持ち、非常に大きい要求をします。企業が顧客に接触する前に、 ほとんどの顧客が企業を調査し、評価し、分類しています。そして多くの顧客、特に若年層の顧客にとっては、モノを所有することはそれほど重要なことではありません。

最近では、物理的な商品だけでなく、形のない商品を購入する人が増えてきました。つまり、モノではなく体験を求めている人が増えているのです。これが、私が幼少期を共に過ごした巨大企業、IBMが姿を消してしまった理由です。Circuit City、Tower Records、Blockbuster、Borders、Virgin Megastore、そして数々のモールも、消えようとしています。

今やGoogle、Amazon、Appleが世界の3大企業となった理由は何でしょうか?ヒントを挙げましょう。あなたもこの3社すべての個人IDを持っているのではあ

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

りませんか?これらの企業は、顧客との関係を築き、維持することに重点を置いています。では、あなたはナイキのIDを持ち歩いているでしょうか?コカ・コーラのIDは?トヨタのIDは?いつかは持つことになるでしょう。そうでない企業は顧客から関連性を感じてもらえない企業として廃れていくはずです。

かつては、顧客対応といえばカスタマーサービス部門の仕事でしたが、いまや顧客はビジネスの中心となっています。車の相乗りからストリーミングサービス、サブスクリプションボックス(定期的に届く商品の詰め合わせ)まで、今の顧客はサービスに即時性や継続性を求めています。日常的な便利さを求めているのです。この期待に応えられなければ、顧客から切り捨てられ、当然、ソーシャルメディアでも批判されることになります。それくらい簡単なことなのです。

これは、あらゆるものが変わったことを意味しています。サービスの設計方法、顧客との関わり方、会社の運営、企業の存在意義さえも変わってしまいました。

本書の執筆目的は、SaaS企業として成長するとともに、サブスクリプション経済時代の企業として成功するための新たなルールを探ることにあります。次章からは、ビジネスを最初の軌道に乗せるためのポイントや、需要創出戦略の立て方、成約率の高い営業チームを育成する方法についてご紹介します。

まずは、基本的なところから始めてみましょう。このユニークな新しいビジネスモデルの背景にある基本的な経済について説明します。

新しい損益計算書サブスクリプション経済に関しては、世の中にすばらしい資料が多数出回って

います。ここでは、すべてを簡単なフレームワークに落とし込んで説明します。2種類の損益計算書、古い計算書と新しい計算書を比較することから始めます。

ここに製品の損益計算書があります。どこの初級ビジネスクラスでも教える従来の損益計算書です(単位:百万)。

純売上 $100 売上原価(COGS) (40)

売上総利益 $60 営業・マーケティング費 (20) 一般管理費 (10) 研究開発費 (20)

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第1章

非常に単純明快にできていますよね?この損益計算書では、製品を販売することによって、合計で1億ドルを売り上げたという事実と、その製品を販売するために投入された経費の内訳が説明されています。

主な経費は以下の4つです。

1.売上原価(COGS):原材料、製造コストなど。2.販売コスト:営業担当に支払うコミッションや、流通チャネルにかかった

費用など。3.諸経費:財務、人事、経営部門など、企業経営に必要なコスト。多く売れ

ば売るほど、1製品当たりの諸経費が少なくなります。4.次のヒット商品を生み出すための研究開発費。

製品を売って得た金額から製品の原価を引いた金額が売上総利益です。パーセンテージで表した場合は粗利率です。昔の経済ではこれが最も重要な利益の1つでした。

しかし、残念ながらこの考え方は、サブスクリプションビジネスにおいては完全に間違っています。その主な理由として次の3つが挙げられます。

1. 後方重視の考え方である。これは過去時制の枠組みであり、すでに得た収益、すでに支払った費用、すでに実施された行動に関するものです。サブスクリプションビジネスで大事なことは将来を見据えることです。今後12か月の収益が予測できれば、それに応じた説明、計画、支出を実現できます。

2. 過去に販売した商品と同じ方法で営業とマーケティングを行ってお り、そのコストは基本的に回収できていません。このことは本章の後半で詳しく取り上げますが、サブスクリプションビジネスでは、将来のビジネスを牽引するためにも、営業とマーケティングにかかる費用を戦略的に考える必要があります。

3. この損益計算書は経常利益と一時的な利益を区別していません。これは根本的な過失とも言えます。今ある1ドルと今後10年間に1ドルで達成できる価値が同じだと言っているようなものです。

賢いサブスクリプションビジネスではこのような考え方はしません。サブスクリプションビジネスでは、収益よりも年間の経常収益(ARR)を重視します。ここで新しい損益計算書、「サブスクリプション経済の損益計算書」をご紹介しましょう。この損益計算書には、次のような項目が含まれます。

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

年間経常利益(ARR) $100 チャーン (10)

正味ARR 90 売上原価(COGS) (20) 一般管理費(G&A) (10) 研究開発費(R&D) (20)

営業利益 40 営業・マーケティング費 (30)

純利益 10

新規の年間契約額(ACV) 30

期末ARR $120

ARR(経常収益)この内訳を見てみましょう。まず注目したい点は、この損益計算書は始まりと

終わりが純売上高と純利益ではなく、ARR(年間の経常収益) であることです。サブスクリプションビジネスでは、すべての収益が収益ではないことを把握し

ています。1回だけの支払いと繰り返し発生する支払いには当然違いがあります。サブスクリプションビジネスを賢く運営している企業は、常にARRを強く意識しています。ARRとは既存の顧客から毎年継続的に得られる収益のことです。

従来の損益計算書では、収益とはすでに回収した収益を指していました。サブスクリプション経済の損益計算書で扱うARRは、将来の見込みを数値で表したものです。サブスクリプション経済の企業は、実際、年初にはその1年間の収益額を把握しています。

上記の例の1億ドルのARRを計上している企業は、毎年この額の収益を見込めるわけです。これは変動が少なく予測可能な数字であるため、企業は各月の収益額について、より適切な計画を立て、より正確に予測することができ、ミスはほぼありません。

ARRなしで1億ドルを稼ぐ企業の場合はそうはいきません。この企業は、毎年収益ゼロの状態から地道に努力を重ねて 1億ドルという目標を達成しなければ

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第1章

なりません。過去の業績にもとづいて多少の予測はできますが、契約で確定している収入源がないため、大がかりな拡張計画は立てられません。

サブスクリプションビジネスにおいて、企業の真の健全性を測る基準は、現金や収益ではなくARRなのです。しかし、ここが肝心なのですが、現在の会計基準にはARRの概念がありません。例えば1ドルの売上を得たとしても、多くの会計システムは、それが経常利益か単発利益なのかを区別することができません。現在の会計システムは、500年前、香辛料の売上履歴を継続的に把握しようとするベネチア商人のためにLuca Pacioliが編み出した複式簿記と同じ標準で成り立っています。そのシステムでは、1ドルは1ドルでしかありません。

チャーン(顧客離れ)簡単に説明すると、チャーンとはサブスクリプション契約を更新しない顧客

の数で、多くの場合、収益で示されます。通常、ダウンセル( 購入意思のない顧客にグレードの低い商品を販売すること)は、チャーンとしてカウントされます。年末に顧客が脱退しても当年の収益には影響しませんが、ARRには影響があります。

チャーンは収益を低下させますが、市場内で一番魅力的な提案をしても、顧客のビジネスモデルの変化や競合他社の法外な割引などの理由から、顧客を逃してしまうことがあります。これを考慮し、その年の営業収益として記載されているARRから予想されるチャーンの数を差し引き、純ARRを算出する必要があります。

では、これらのコストを見てみましょう。

経常費用SaaS企業の費用の発生源は、人件費、データセンター、営業およびマーケティ

ング費の3つしかありません。サブスクリプションの損益計算書では、これらのコストは4つの区分に割り当てられます。

1. 収益原価:「売上原価(COGS)」とも呼ばれます。サービスを提供するのに実際にかかった金額です。SaaS企業の場合、データセンターやハードウェア、データセンターとカスタマーサポートの人員などが含まれます。IoT企業の場合は、ハードウェアや接続にかかる費用が含まれます。サブスクリプションボックスを販売する企業は、出荷する商品の金 額がこれに含まれます。

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

2. 研究開発(R&D)費:開発者と製品マネージャーの費用が含まれます。3. —般管理(G&A)費:主に、経理や人事の人件費が含まれます。4. 営業とマーケティング:営業部門、マーケティング部門、サポートスタッフ

の人件費と、マーケティングプログラムにかかった費用が含まれます。サブスクリプションの損益計算書では、営業とマーケティングのコストが経常利益より後に発生する仕組みです。この理由については、後で説明します。

従来の損益計算書では、これらの費用を収益にマッピングして利益を算出します。収益から収益原価を引いた金額が売上総利益です。従来の財務会計の中心にあったのはマッチングの概念です。損益計算書に1ドルの収益が計上されていたら、その1ドルを生み出すために投じたすべての固定費が計上されます。

残念ながら、サブスクリプションビジネスモデルにおいてはこのマッチングの概念は成り立たなくなっています。従来とは別の方法でこれらの費用をARRと比較するのです。なぜARRなのでしょうか? ARRは前期に獲得し、当期でも再び発生する収益を示しています。顧客にサービスを継続して提供しなければならないため、COGSと一般管理費はARRとマッチングさせる必要があります。

研究開発費はどうでしょうか?従来の考え方では、現在販売中のものは開発が終わった製品であり、現在投入している研究費は、将来の売上につながる革新的なサービスの開発費用ということになります。要するに、SaaS企業の顧客はまったく改善されない静的なサービスには手を出さなかった、ということです。

SaaS企業のことをいくらかでも知れば、企業が顧客を常に満足させ、サービスの継続購入を促すために努力していることがわかるでしょう。その目標を達成するため、研究開発へ資金を投じているのです。

Salesforceでは、製品の新機能を定期的に追加していることがお客様に伝わるよう、「Winter 2013」のように発売時期名を含めたリリース名を付けるようにしています。このような理由から、研究開発費はARRにマッチングさせるものと考えています。

営業およびマーケティング費は興味深い部分です。ARRが繰り返し手にできる利益だとしたら、営業およびマーケティング費は、ARRを拡大し、まだ経常化されていない収益を増やすための費用ということになります。つまり、現在発生している営業およびマーケティング費は将来の収益とマッチングされます。

営業およびマーケティング費は今や、従来の会計用語で言う資本支出(CapEx)として扱われます。昔の製造業の世界では、大規模な工場を建設して生産を開始した場合、その後生産・販売する製品に対して工場の建設費を一定の期間にわたっ

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第1章

て配分していました。これを減価償却 と呼びます。同じようにサブスクリプション経済でも、販売とマーケティングに投資して

顧客を獲得し、その顧客から生み出される収益を顧客の存続期間(5年、10年、それ以上など)にわたって計上します。ただし、現在の会計規則では、営業およびマーケティング費を分散したり、償却したりすることはできません。ただし、一部の企業で、コミッション費用を契約期間で償却している場合もあります。大きく違うのは、ARRは通常、当初の契約期間を超えて継続されることが予想されるという点です。

このような理由から、営業およびマーケティング費は現在のARRにマッチングさせません。代わりに、経常利益という重要な指標に紐付けます。

経常利益率簡単に言うと、経常利益率(RPM)は経常収益と経常費用の差です。これは

ARRからCOGSと研究開発費、一般管理費を引いた金額で、営業およびマーケティング費を引く前の金額です。上の損益計算書を見ると、RPMは4,000万ドルで非常に健全な利益率が出ています。

これは成長の元手になる資金です。RPMがプラスである限り、サブスクリプション企業は成長と採算性のいずれかを選択できます。支出をRPM未満に抑えれば、それほど成長は見込めませんが、採算性を確保できます。RPMを上回る支出をすれば、大きな成長を見込めるでしょう。しかし、資金は流出します。

また、RPMは将来の予算配分に大きく影響します。年初に一定の額のARRを確保していれば、具体的なRPM目標を達成するためのCOGSや研究開発費、一般管理費としてどれだけ支出できるかを把握できます。ただし、これはあくまでも将来的な見通しに過ぎません。

では、営業とマーケティングにかける費用は何を基準に決めたらよいのでしょうか?これは損益計算書には表れないもう1つの重要な数字で、成長効率性指標と呼ばれるものです。

成長効率性指標営業やマーケティング、カスタマーサクセスなどに100万ドルを支出するとし

ます。これは、新規または既存顧客に新しい事業を展開するための投資と言えます。その支出は新たな経常収益をどれだけ生み出すでしょうか?これが成長効率性指標(GEI)です。どれだけの成長を見込めるかを示す数字です。

GEIは、成長費用/新規ACVという計算式で算出します。GEIが1.0より大きい

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

場合、獲得する金額以上の額を新規事業に費やしています。GEIが1.0より小さい場合、獲得する金額よりも支出が下回っています。これはもちろん良いことです。

すぐには収益や利益につながらない戦略的顧客の獲得に支出することになるため、当初の営業費は高くなりますが、効率性に優れたサブスクリプション企業であれば当然、GEIの目標を1.0以下に設定します。GEIが大きくなればなるほど、期待に反して、実際の売上拡大という点で企業の効率性が低くなります。GEIが小さければ、同じ金額でもより多くの収益を得ることになります。

上のサブスクリプションの損益計算書を見ると、当初のARRが1億ドルで、4,000万ドルの経常利益が出ています。この4,000万ドルをすべて利益として計上しますか?年間40%の利益率は魅力的な数字です。しかし、これでは収益拡大のための手段に再投資した場合にどれだけの成長を見込めるかを考えていないことになります。

むしろ強気に出て、3,000万ドルを営業・マーケティング・カスタマーサクセス(成長)に充当するとしましょう。GEIを1.0として、次年度の新規年間契約額として3,000万ドルを計上すると、ARRは1.2億ドルになります。

ACV年間契約額(ACV)は、新規顧客や現在の契約をアップグレードまたは更新し

た顧客から生み出される収益のことです。これは予約に関連しており、企業に対して一定の金額を支出することを顧客が表明するものです。

大きく違うのは、サブスクリプションモデルの予約は、繰り返し発生する収入源に追加されるものであり、1回限りの予約の場合はそうではありません。サブスクリプションビジネスの魅力は、より良いサービスを求めてアップグレードする既存の顧客基盤から大きなACVを獲得できることです。ただし、アップセルと一体となりARRを引き上げるため、ACVを新たに生み出す営業およびマーケティング活動にも資金を投じるべきです。

将来の成長前年比ベースでこれを実行し、優良な成長効率を維持していれば、年20%の

GEIを達成できます(GEIが1.0未満であればさらに成長可能)。そして利益を確定する時点では、それ以上の経常収益から始められます。

これがビジネスモデルの基本的な概略です。その他にも、市場規模、1回限りの販売/コストの影響、GEIに対する顧客離れの影響といった、さまざまな要因があります。話をわかりやすくするため、細部は省いています。

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第1章

予測可能な収益の利点大局を見ると、予測可能な収益の流れからは、複合的な成長効果が生じます。

サブスクリプション企業が生み出す収益は、企業が従来の先行投資方法で得ている収益より6倍価値があると言われるのはこの理由からです。安定して経常収益を得られる基盤があると、目先の問題に捕らわれることなく、長期的視野に立ち、あらゆる種類の創造的なビジネス戦略を練られるようになります。

顧客を引き付け、長期間つなぎとめるため、企業はサブスクリプションモデルを使用し、次々とサービスを追加して収益の拡大や盤石の顧客関係の構築に努めています。これが顧客離れの可能性を大幅に減らしています。これらの要因が、従来の製品重視企業の何倍にもなるサブスクリプションの評価に寄与しています。

今から10年後、エコノミストは過去を振り返り、棚に商品を陳列し消費者が購入してくれるのを待つというスタイルは20世紀のビジネスモデルであると述べるでしょう。将来的には、企業は商品の販売数ではなく、高額なサブスクリプションを定期契約している顧客の数で成功を測るようになるはずです。

起業家にとっての意味このサブスクリプション経済で成功するには、顧客の行動を理解したうえで、

営業、マーケティング、サービス提供を行う必要があります。その方法をご紹介します。

・ 正しい手段を選ぶ。考えるべきことはSKUや注文書ではなく、成長効率性、顧客離れ、経常利益率です。そして、とにかくARRを増やすことに専念してください。

・ 絶え間なく学び続ける姿勢。Netflixは毎日数百万もの視聴をモニタリングしています。顧客が一時停止、巻き戻し、早送りをしたポイントやユーザーの評価、検索、地理データ、視聴回数、機器情報、ソーシャルメディアのフィードバックまで、対象項目は多岐にわたります。あなたの顧客はどんな行動をとっていますか? あなたはそこから何を学んでいますか?

・ すばらしいサブスクリプション体験を用意する。テスラの車は驚くべき速さで自動運転機能を備えました。Appleの電話は実に短期間で音声認識付きの電話になりました。あなたはどんなことができますか?どのようにして継続的に顧客に新鮮な魅力を提供しますか?

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サブスクリプション経済:経常収益がすべてを変える理由

ここまでサブスクリプション経済の基本を説明してきましたが、もちろんこれは全体のほんの一部に過ぎません。次の章では、SaaSの販売とマーケティングの基礎について説明します。セグメンテーションと主要戦略、営業およびマーケティングの統制、成長ファネル、コンテンツマーケティングエンジンなどの内容を紹介します。

どれも非常に重要ですが、ARRという最も重要な指標を決して見失わないようにしてください。

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第2章

第2章ドル箱カテゴリを確立するMark Organ

 Eloquaの創業者である Markは、Software as a Service(SaaS)分野のパイオニアの1人であり、Eloquaはクラウド型マーケティングオートメーションソリューションの草分けです。 Eloquaは、Mark独自のカテゴリ創出理論を基盤としたソリューションでしたが、成功までの道は非常に険しいものでした。そもそも、ニッチ市場を見つけるのは大変なことでした。しかしMarkは、デジタルマーケティング分野でほとんど注目されることのなかった「デマンドジェネレーション(営業機会の創出)」に目を付けることで、成功のきっかけを掴みました。そして、デマンドジェネレーションに従事するマーケターたちのニーズを研究してソリューションを提供し、彼らの地位を「デマンドジェネレーションのスペシャリスト」にまで向上させたのです。彼はまさに、カテゴリを創出することによって道を切り拓いたのです。この章では、Mark自身による理論の解説とともに、ドル箱カテゴリを確立する方法を説明します。

スタートアップ企業の中でも、評価額十億ドル規模にまで上り詰める企業は、ほんの一部です。2016年11月の時点で、歴史的(かつセンセーショナル) ないわゆる「ユニコーン企業」と呼ばれる地位を獲得したのは、資 金調達に成功した無数の企業のうち、わずか149社にすぎません。その多くは、独自のドル箱カテゴリを作り出しています。すなわちエコシステムを絶えず変動させ、そのカテゴリのトップ企業として君臨し続ける「革新的ビジ ネス」というカテゴリです。カテゴリのトップ企業となるメリットは絶大です。こうした企業はまるで、何の苦もなく事業を急成長させたり、資本を調達したり、エリートを雇用したりしているように見えます。

革新的企業と仕事をするのはビジネスの醍醐味でもあります。スティーブ・ジョブズ氏はこれを「making a dent in the universe(宇宙にへこみを作る)」と表現しています。言い換えれば、長期にわたって人々の生活に良い影響を与え続けるチャンスです。それが簡単であれば、誰もがそうします。

私は、革新的ビジネスというカテゴリのダイナミクスと確立プロセスを考察することをライフワークとしています。これまでに、数十のカテゴリとその主な創

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ドル箱カテゴリを確立する

設者を研究してきました。私自身も起業家として2つのカテゴリの主な推進役を担ってきました。カテゴリの1つ目は、クラウド型のマーケティングオートメーションです。このカテゴリは今では100億ドルを超える革新的ビジネスへと発展しており、その代表的存在が2012年に上場し、2013年にOracleに約10億ドルで売却されたEloquaです。2つ目のカテゴリは、アドボカシーマーケティングです。このカテゴリは急成長過程にあり、現在私が経営しているInfluitiveは、まさにアドボカシーマーケティングの代名詞のような会社です。

革新的ビジネスというカテゴリの創出について学んだ事柄を振り返ってみると、そこには一定のパターンがありました。つまり、以下の要素を組み合わせることで、一定の成果が出せることがわかったのです。

1. 新たな技術とトレンドによって、新たな価値を生み出せそうな「不遇な逸材」を探す。

2. こうした逸材が抱える問題を、革新的製品とビジネスモデルで解決する。

3. ムーブメントを高める:成功した顧客を称え、刺激的なアイデアで顧客の心を掴み、顧客にブランドの良さを広めてもらう。

カテゴリの発見と発展

多くの起業志望者は、秀逸なアイデアを持ち合わせないが故に壁に突き当たっています。アイデアさえあれば優れた企業が多数誕生する余 地があるのに、残念なことです。私が皆さんにお勧めしたいのは、素晴らしい新製品のアイデアが浮かぶのを待つことではなく、ある特定の人々に注目し、その人たちが心に描いている画期的なアイデアを理解することです。よく理解したら、その人たちのニーズ、環境、状況を詳しく調べ、従来とは異なる新しい体験とビジネスモデルを彼らに提供しましょう。重要なのは、彼らから強い支持が得られるような体験を作り出すことです。

カテゴリを創出するときは、特定の人たちから熱烈な支持が得られるようなカテゴリを作りましょう。しかも将来的に、支持者を大幅に拡大できそうなカテゴリを見つける必要があります。こうすることで、きわめて魅力的な市場を支配できるようになります。単純に思えますが、こうしたアプローチをとる起業家はあまり多くありません。自分の製品ビジョンに夢中になるあまり、営業方法の検討は後回しにするケースのほうが多いのです。

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第2章

特定のユーザー、顧客、そして「不遇な逸材」に注目する起業家が少ない理由として、この課題を成し遂げるには多大な労力が必要なことが 挙げられます。私は、Influitiveの調査のために、文字通り数百人に及ぶ熱 心な支持者やマーケティング担当者と面談しました。中には、自分のビジョンに合わない意見には一切耳を貸さない起業家もいますが、カテゴリのトップ企業を目指すのであれば、まずエゴを捨て、探究心を持ち、初心に戻って人の話に耳を傾けることを勧めます。カテゴリを意思の力で生み出すことはできません。特定のターゲット顧客層にその独自のニーズを満たすソリューションを提供することでカテゴリを発見し、確立する必要があります。

では、上述したパターンの話に戻りましょう。それなりに労力はかかりますが、以下のステップをたどれば、革新的ビジネスを確立する第一歩を踏み出すことができます。

ステップ1:新たな技術とトレンドによって、新たな価値を生み出せそうな「不遇な逸材」を探す。

人類学者を手本にし、現在はあまり注目されていないが、今後(新しいトレンドや既成概念を打ち破る技術が登場すれば)大いなる飛躍が見込めそうな分野を見つけて、研究します。ポイントは、技術そのものではな く、こうした技術の登場によって最も恩恵を受ける人たちに的を絞り、彼らのニーズに合うテクノロジーソリューションを提供することにあります。

革新的なビジネスカテゴリを創出するには、不遇な逸材を特定し、状況を細部まで把握して、そのニーズを満たすソリューションを開発し、新たなトレンドを定着させることによって利益を生む、というプロセスをたどる必要があります。

このプロセスが機能する仕組みを、架空の例で説明します。たとえば、 ドローンを活用した新しいビジネスを始めるとしましょう。中には、毎日数 千、いや数百万ものドローンを飛行させている企業もあるでしょうし、いずれ、すべてのドローンを一元的に管理しなければならなくなるでしょう。現在、ドローン管理者は世界に数百人いると考えられます(執筆時点で、LinkedInには450人登録されています) 。ドローン飛行が本格的になれば、管理者の数は数万人規模に膨れ上がるかもしれませんし、この業界が今後も成長していくことを考えると、ドローンを効率的に管理するためのテクノロジーとサービスが必要不可欠になるかもしれません。優秀な起業家ならば、ドローン管理者向けのソリューションに大きな商機を見出すことで しょう。

では、ここで少しテクノロジーから離れて考えてみましょう。ボディビルダ—

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ドル箱カテゴリを確立する

の代表者、アーノルド・シュワルツェネッガーを例に挙げます。

ボディビルディングはかつて、スポーツ界の本流とはみなされず、ニッチ分野に属していました。ところが、シュワルツェネッガーとルー・フェリグノがミスターユニバースのタイトルを競うドキュメンタリー映画

「アーノルド・シュワルツェネッガーの鋼鉄の男」が 1977年に公開されると状況は一変

します。この映画でシュワルツェネッガーの名前は一躍世間に知られるようになり、「ターミネーター」での大抜擢につながります。それどころか、ボディビルディングというカテゴリを作り出した人々も、この映画の人気に乗じて、80年代のフィットネスブームへと発展させ、食品、ジム、サプリメント、雑誌など、ボディビルダー向け製品市場を新たに開拓していきます。

事例1:Salesforce、不遇な逸材を見つける Salesforce:1999 ~ 2001年、Salesforceは急成長企業の営業マネージャーたちが、取引先やその責任者、商談などフォローするためのネットワーク機能を必要としていることを突き止めました。彼らにとって大事なのは、製品機能の奥深さでなく、アクセスや操作(および支払い)が簡単に行えることです。 こうした人たちの生産性を向上させる先端テクノロジーが、マルチテナント方式のクラウドデータベース用アプリケーションです。大量のサーバーもシステム統合も、遅延の原因となる注文書も必要なく、営業業務を簡単に自動化できます。この先端テクノロジーがあれば、やがて営業部門のマネージャーや管理者がより高い地位を得て、その人数も莫大に増えるであろうことは容易に想像できました。

ボディビルディングが新たな10億ドル市場分野を確立し、現在まで続く息の長いフィットネストレンドになると、60年代に誰が予想したでしょうか。不遇な逸材は身近にいます。それは、あなたの同僚や同業者かもしれませんし、隣人かもしれません。いずれにしても重要なのは、業界のニッチ分野で活動している、という点です。Eloquaにとっての不遇な逸材は、営業機会を創出しようとしていたマーケティング担当者でした。こうしたマーケティング担当者は、実際どこ

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第2章

にでもいたはずです。しかし、顧客のニーズに応えるマーケターは居ても、マーケターのニーズに応える製品はなかったのです。

事例2:Eloqua、社内で不遇な逸材を見つける Eloqua:2000 ~ 2002年には、米TVドラマ「マッドメン」に象徴されるような古い営業スタイルからを脱却し、営業機会を創り出すことに注力する新種のマーケターたちが現れました。彼らが目指していたのは、同じプロセスによって自社製品の営業機会を大量かつ反復的に生み出すことです。 Eloquaは、こうしたマーケターを「不遇な逸材」と見込み、彼らのことを徹底的に調査しました。どのようなツールを使って問題を解決しているのか、どのような人物から強く影響を受けているのか、どのような専門用語を使っているのか、などです。そして彼ら独自のニーズに合ったソリューションを開発し、提供しました。インターネットで顧客の行動を追跡確認したり、顧客が必要とする情報だけをメールで通知したりできれば、効率よく顧客を育成できます。そうした機能を製品として提供すれば、営業機会を生み出すマーケターたちの地位も数も向上するはずだ、と私たちは考えたのです。この賭けは大当たりし、今や、営業機会の創出に従事するプロフェッショナルたちの報酬は2000年のEloqua創業時の約3倍に上昇しています。

次に電気自動車メーカー、Teslaを例に挙げましょう。Eloquaの社内でも、Teslaは高級車を好む富裕層に人気のメーカーとして話題となっていました。しかし、Teslaがどのように顧客とつながっているのか、という点に着目する社員はあまりいなかったようです。Teslaの営業担当者は、見込み客にアプローチする際、押しつけがましいマーケティングキャンペーンを行ったりは しませんでした。代わりに、顧客に試乗を勧め、乗り心地を試してもらった うえで、顧客が自分の意思で購入を決断できるようにしていました。TeslaとEloquaは、従来型のマーケティング活動に多額の費用を投じる代わりに、顧客の信頼や支持を得ることに注力したのです。

事例3:Teslaが実現した、革新的なカスタマーエクスペリエンス Teslaは、真に革新的なカスタマーエクスペリエンスを生み出した会社の好例といえます。Teslaでは、新しい車を開発した後、顧客一人ひとりのニーズ

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ドル箱カテゴリを確立する

に合わせて独自のサービスを用意していました。顧客がWebサイトで試乗予約できるようにし、Tesla直営のショールームを開設して仲介者(車の販売業者)を排除しました。これはAppleStoreを使ったAppleのアプローチと似ています。顧客がオンラインで車を注文、購入できるようにすると同時に、全車両を定価で販売し、値引き交渉の余地もなくしました。 販売後のサービスも、環境に優しく、デザイン、パフォーマンス共に優れています。ここにもまた、不遇な逸材から得たヒントが生かされています。Teslaでは、製品を顧客に直接届けています。問題のある製品は客先から回収して、新しい車両と交換します。再販価格も保証しています。革新的な製品の購入にはリスクが伴います。革新的ビジネスを創出する人々にとって、こうしたリスクを大幅に抑えることは非常に大切です。リスクが低ければ、製品を購入してくれる顧客も増えますし、こうした安心感そのものが顧客の満足度を高めます。 独立系の新興自動車メーカーが軒並み市場参入に苦戦していた当時。Teslaが成功を収めるためには、こうした秀逸なサービスが不可欠でした。Teslaはまず、自社で占領できそうな高級電気スポーツカーという小規模なニッチ市場に照準を合わせ、極上のカスタマーサービスを提供しました。こうした極上のサービスより、Teslaというブランドに対する熱烈な支持は、口コミを通じて急速に広まりました。Teslaのビジネスモデルを語るうえで私がよく例に挙げるのが「Fireflies(蛍)」というビデオのことです。このビデオは、Tesla社の広告に見えますが、同社は制作費を一切負担していません。なぜなら、同社の熱心なファンである著名な映像ディレクター Sam O’Hare氏がTeslaのために無償で制作したからです。同作の脚本執筆と制作には18か月もの時間を費やしました。外国産石油への依存度を減らしたいというElon Musk氏の考え方に深く感銘を受けたO’Hare氏は、心血を注いで制作に当たりました。 Teslaの成功のカギは、サプライズと喜びです。この2つの要素は、顧客の支持を得るうできわめて重要です。Elon Musk氏は、Teslaの空気ろ過システムの新技術を発表する際、その性能を「生物兵器に攻撃されても生き残れるくらい強力」と表現しましたが、いかにも同氏らしい言い回しです。Teslaがこれを生物兵器防衛モードと命名したのも納得できます。同氏の意図は、風変わりなフレーズを使うことで、オンラインとオフライン双方の関心を呼ぶことにありました。

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第2章

 話題になれば同社を支持する声が活発になります。Teslaは歩合ベースの営業担当者を抱えず、従来型マーケティング費用を最小限に抑えているため、これは重要な点です。Teslaの営業・マーケティング活動の大半は支持を通じて実行されているのです。Teslaには、「Tesla Motors Club」という魅力的なオンラインコミュニティがあります。また、オフラインでもラリーや自動車クラブを開催しており、70%もの見込み客が、試乗なしで車を購入しているそうです。通常、自動車の小売が成功する確率は、試乗ありの場合でも12%です。それを考えると、Teslaの手法は、市場に新カテゴリを作るのに導入するのにきわめて効率的といえます。

ここまで読んだところで、Influitiveの不遇な逸材は何だったのかと興味を抱かれるかもしれません。我々にとっての不遇な逸材は、営業機会を創出しているカスタマーマーケターたちです。彼らは既存の顧客に新たな価値を提供し、新しい見込み客を開拓し、自社の評判を高めて購入プロセスを加速させようとしています。また、リアルタイムにデータを入手し、分析し、直販収益を伸ばそうとしています。現在、カスタマーマーケターは、世界でもそれほど多くありませんが、ソーシャルWebが普及し、顧客が情報を頼りに購入を決断するようになれば、一躍脚光を浴びるようになる人材と断言できるでしょう。その結果、Eloquaなどの会社のマーケティングオートメーションソリューションが実証したように、直接的なコミュニケーションではなく、信頼性の高い別の形のマーケティングオートメーションが必要とされるようになるかもしれません。

ステップ2:こうした逸材の問題を革新的な製品とビジネスモデルで解決する。

今や、企業の価値はカスタマーエクスペリエンスによって決まるといっても過言ではありません。実際、Gartnerによると、2016年には89%にも上る企業がカスタマーエクスペリエンスに力を入れたそうです。では残りの11%はなぜ顧客に関心を寄せなかったのでしょうか。おそらく、成長に興味のない会社なのでしょう。顧客の意見に耳を傾け、問題を特定しない限り、どのような市場でも競争力を持つことはできないと断言できます。

カスタマーエクスペリエンスを重視する企業トップの代表各、AmazonのJeff Bezos氏は、このアプローチを用いて次から次へと市場を変革しています。同氏はカスタマーエクスペリエンスを向上し、測定可能な価値を作り出すことに重点

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ドル箱カテゴリを確立する

を置いており、顧客のニーズを徹底的に理解したうえで、ビジネスプロセスやテクノロジーを策定します。Bezos氏は、迅速な配送、低価格、充実した品揃えとサービスを看板とするAmazonプライムを導入することにより、オンラインショッピング体験を一変させ、Kindleによって、電子書籍の読書体験を飛躍的に充実させ、Amazon Web ServicesとAmazon Lambdaによって、オンデマンドソフトウェアの導入方法、構築方法を一新しました。

Eloquaがマーケティング担当者に提供した革新的なソリューションとは、メールで見込み客を自動的に育成する手法でした。つまり、見込み客に心行くまで製品のことを調査してもらい、納得してもらった上で商談に進む、という手法です。Salesforceのようなサブスクリプションビジネスモデルでは、リスクをかなり軽減しつつ、見込み客とのつながりを維持できます。ユーザーの購入意思が固まる頃には、マーケティング担当者は、当事者全員に有意義な体験を提供しつつ、コストも抑えるなど、双方のハードルをできる限り排除した関係の構築に成功していることでしょう。

Influitiveは、ゲーム感覚で参加できるセルフサービス型のポータルをカスタマーマーケターに提供することにより、新たな支持者を数百人単位で増やすことを可能にしています。このビジネスモデルには、サブスクリプションとパフォーマンス双方の要素があるため、顧客のリスクはさらに軽減します。では、顧客の問題はどのように特定したらよいのでしょう。ポイントは顧客が向いている方向に焦点を当てることです。顧客からのアプローチを待つことも、資金を投じて顧客を説得することも得策ではありません。

すでに述べた優れたカスタマーエクスペリエンスは、他社に勝つ秘密兵器となり得ます。Musk氏はTeslaだけでなくSolarCityのビジネスも従事していますが、これによりTeslaのユーザーにもメリットがもたらされています。両社には共通の目的があるためです。

同様に、InfluitiveもEloquaによってメリットを得ています。EloquaとInfluitiveの業種は異なりますが、両社とも再現可能なプロセスを作るという共通のルールに従っています。Eloquaがマーケティングオートメーションに重点を置いているのに対し、Influitiveは支持者の力を借り、支持者にブランドの良さを伝えてもらうことによって、測定可能な成果を反復的に出せることを証明しています。また両社は、不遇な逸材を見つけてその問題を解決する、という共通のビジネスアプローチをとっています。Eloquaの愛用者はEloquaに信頼を寄せていたからこそ、Influitive製品を迷わず購入するのです。

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第2章

ステップ3:ムーブメントを高める。逸材を称え、刺激的なアイデアで引き寄せる。

カテゴリを創出する人間にとって、マーケティングは至難の業です。大抵の人は、画期的なコンセプトを紹介されても、すぐには理解できないものです。また、従来の方法で営業機会を創出しようとすると、コストばかりが高くつき、非効果的になりがちです。既存の市場に参入しようとする企業の多くは、自分の方が効率、スピード、またはコスト効果に優れていると声高に主張していますが、新たなカテゴリを創り出すときには、同じカテゴリの企業や製品を比較基準にすることができないため、別のカテゴリと比較するしかありません。この課題を克服するには、ある程度の啓蒙活動が必要です。

カテゴリ創出者の最大の使命は、カテゴリを作り、育て、宣伝することによって支持者を獲得し、その支持者に新しいカテゴリを支援してもらうことです。この使命を達成する最善の方法は、刺激的アイデアによって見込み客に感銘を与えることです。自社ブランドを支持している

顧客に意見や感想、成功体験を自分の言葉で語ってもらい、その成功体験をできるだけ多くの人に知らせましょう。

新たなカテゴリを創り出すときには、既存の市場に参入するときとは異なり、「不遇な逸材」と言われる顧客層と向き合う必要があります。こうした人々はお金のためでなく、純粋な動機に基づいてブランドの良さを広めてくれます。その企業のアイデアに賛同し、いずれその企業が飛躍的な成長を遂げると信じているからこそ、自主的に啓蒙活動を行ってくれるわけです。彼らは壮大で刺激的なアイデアに引き寄せられるため、スローガンを掲げると効果的です。Salesforceは初期に、「No Software」という大胆なスローガンを掲げました。Teslaのスローガンは「Eliminate dependence on fossil fuels( 化石燃料への依存から脱却する)」です。Eloquaは「Repeatable, measurable process for generating demand

(再現性が高く測定可能なプロセスで営業機会を創出する)」、Influitiveは「Stop Selfish Marketing(独りよがりのマーケティングを止める)」とうたっています。スローガンで大事なのは、努力に値する理念を伝えることです。詰まるところ、新たなカテゴリは起業家が生み出す製品や企業ではなく、顧客と顧客のニーズによって作られるのです。

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ドル箱カテゴリを確立する

スローガンが決まったら、次は信憑性の高いマーケティング活動をする 必要があります。実直かつ説得力のあるマーケティングによって新しいカテゴリをアピールするためには、成功した顧客の体験談を中心に据える必要があります。顧客の言葉をそのまま使い、体験談をありのままに伝えましょう。企業と市場とのコミュニケーションは、企業が顧客のことを語り、顧客が企業のことを語るときに初めてうまくいきます。

このプロセスを速やかに進めるための手段としてよく使われるのが、成功した顧客をゲストスピーカーとして招くライブイベントです。大規模な年次イベントであれ、親密なディナーであれ、見込み客が集結するイベントは、成功すれば、短期的にも長期的もおおむね大きな成果が得られます。こうしたイベントでは、新しいカテゴリや、スローガン、成功した顧客を主役とし、自社や顧客が使用している特定のテクノロジーの話は脇に置いておかなければなりません。

Influitiveは、カスタマーエクスペリエンス、カスタマーエンゲージメント、カスタマーアドボカシーをテーマとする唯一の会議、Advocampでこのアプローチ を採用しています。会議の中心は、当社のアドボカシー(支持)プラットフォームではありません。この会議の目的は、もっと広い意味でのアドボカシーマーケティングに主眼を置き、競合他社を招待して、新しいカテゴリを共に作ることです。ピザのスライスの大小を競うのでなく、ピザのサイズ自体を大きくすれば全員の分け前が増えます。時間や友好な関係を失わないためにも、自社製品の優秀さをアピールしたりはしません。当社の目的は、「不遇な逸材」である人々を支援し、彼らを成功に導くことです。

カテゴリを新たに創出するためには、未来のヒーローにスポットライトを当て、称える必要があります。イベントを開くのも効果的ですが、フォローアップも忘れてはいけません。Salesforceは成功顧客を巨大な掲示板広告に起用することで知られています。成功顧客の具体的な成果を表彰する授賞式は、比較的費用も抑えることができ、多数の賛同者を生みます。また、健全な競争心を刺激することによって、新たなカテゴリをスムーズに育成できます。というのも成功例を示すことによって新規参入者を指導し、方向性を示せるからです。トレー

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第2章

ニングや認定、求人サイトは、未来のヒーローとなる人材や、カテゴリに参入する覚悟はあってもスキルを持つ人材不足に悩む企業に経済的保証を提供します。

支持者を獲得し、支持者の力を借りてブランドの魅力を広める革新的なビジネスは、たまたま幸運に恵まれて生まれているのでしょうか?そ

れとも周到な計画に基づいて創出されているのでしょうか。もちろん、幸運やタイミングの良さも一因でしょうが、現在、隆盛を誇るカテゴリには共通要素が多数あります。

新たなカテゴリを生み出す起業家は、不遇な逸材にターゲットを絞って、独自の革新的な体験を提供すれば、成功の確率を大幅に高めることができます。重要なのは、既成概念を打ち破る技術によって、強大かつ強力な存在となる人々を選ぶことです。

多くの起業家は第二のElon Muskやマーク・ベニオフになる夢を抱きますが、ビジネスライフを自分で管理する自由で健康的なライフスタイルという比較的堅実な目標を掲げる起業家もいます。経験上、ここで概説した方式は誰にでも有効です。特定の人々のニーズに焦点を合わせることで差別化要因が生まれ、競合企業と一線を画せるため、利益が生まれやすく、優良な企業になれるのです。目標の大小にかかわらず、顧客にマーケティング活動を託すことで、ビジネスを効率的に拡大できます。

事例4:HubSpotのカテゴリマーケティング HubSpotは支持者にブランドの魅力を広めてもらうことで成功した模範的な事例です。共同創業者のBrian Halligan氏とDharmesh Shah氏はこうしたムーブメントを生み出すために、以下の3つの必須項目に取り組みました。

1. 不遇な逸材の活躍を阻んでいるものを特定する。

2. 製品や企業でなく特定のカテゴリのマーケティングをメインテーマとする国際イベントを主催し、支持者の意見を語ってもらう。

3. インバウンドマーケターの教育、訓練、認定活動を通じて、キャリア向上に必要な知識とツールを提供し、ムーブメントや支持者の影響力が高まるようする。

 HubSpotはまず、従来のアウトバウンドマーケティングを敵と定め、「干渉型のマーケティング・営業方法」、つまり顧客が望まないマーケティングであると定義づけました。ダイレクトメール、メール、勧誘電話といった使い古さ

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ドル箱カテゴリを確立する

れた方法はかつての効果を失っていました。では、マーケティング担当者はどうすればよいのでしょう。 創業者の2人は運営していたブログを分析し、アクセス数が大幅に増えていることに気づきました。資金がかかっていないのに、多額のマーケティング予算を持つ多くの大企業より訪問者数が多かったのです。2人は、世間の人々がマーケティング担当者からの突然の勧誘電話や営業マンのごり押しに嫌気が差していることに気づきました。同時に、人々がさまざまな方法でWebや良質なコンテンツに適応していることにも気づきました。そして、顧客の開拓に出向くのでなく、良質のコンテンツを作成して顧客を引き寄せれば、マーケティング担当者と購入者との橋渡しができると考えました。このようにして、コンテンツマーケターとインバウンドマーケターはマーケティング界で脚光を浴び、先端的マーケティング組織の主役となりました。HubSpotのマーケティング手法でも、製品や製品のメリット以外のところに焦点を当てています。つまり、カテゴリや、カテゴリによってどのように問題が解決されるのか、といった点を丁寧に説明し、インバウンドマーケターの地位向上に注力しています。

 さらに、HubSpotは、企業やその製品でなく、カテゴリをテーマにしたイベントを開いています。HubSpotが主催する年次会議は、大半の企業のような、自社製品の販売がからむユーザー向けのものではなく、マーケティング担当者

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第2章

がインバウンドマーケティング能力を上げる手助けをすることに重点を置いています。多くの会議は、HubSpotの製品名にも触れず「インバウンド」をテーマに行われます。会議では代わりに、カテゴリの発展に役立つ知識(これらの多くは、同社の製品を通じて入手されたものです)を共有します。皆さんはおそらく、HubSpotの会議に出席したマーケティング担当者をご存知でしょう。彼らがHubSpotの製品を話題にしないことにお気づきでしょうか。代わりにマーケティングスキルを向上させる豊富なアイデアを豊富に両手に抱えて帰ってきます。こうしたアイデアは顧客サービスの向上にも役立ちます。要するに、彼らはHubSpotの支持者になったというわけです。 さらにHubSpotは、インバウンドマーケター志願者と経験豊富なコンテンツリーダーの両方に適した世界的教育プログラムを構築しています。キャリア向上をメインテーマにしたこのプログラムでは、顧客の中から熱烈な支持者と活動推進者を養成し、影響力を持つためのツールとフォーラムを提供しています。HubSpot Academyを通じてマーケティング担当者を訓練、認定することでコミュニティ形成を後押しし、リソースと最新情報の継続的な共有や別の教育的サポート、パートナーシップの創設に結びつきました。教育を重視することで、オンラインソーシャルメディア界では、その規模からは考えられないほどの大きな存在となり、業界最大手のSAPやSalesforceを凌ぐ勢いです。 HubSpotが採用した手法は、実直なカテゴリマーケティングを行うための模範といえます。そのために、同社は、旧式の干渉型マーケティングを非難し、カテゴリを主要議題とする会議を開き、充実した教育および認定プログラムを構築しました。HubSpotの元CMO、Mike Volpe氏は、次のように説明します。

「支持者を増やし、ムーブメントを高めることで、自社製品に対して無意識に好意を持ってもらえるようになります。そうなると顧客は、競合製品との客観的な機能の比較でなく、企業理念への忠誠心に基づき購入を決断するようになります」HubSpotは顧客の忠誠心と支持を基盤に、社会的な評価を得る相互補強サイク"を確立するのに成功しました。そして、大成功を遂げたのです。

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製品と市場の適合性を評価する

製品と市場の適合性を評価するSean Jacobsohn

 Sean Jacobsohn氏は1999年にエンタープライズSaaS(サービスとしてのソフトウェア)を担当してキャリアをスタートさせ、その後、事業開発、営業、事業提携などの職務を経て、2012年にベンチャー業界に入りました。現在、同氏はNorwest Venture Partnersと提携しているほか、Dreamforceをはじめとする多数の業界イベントで頻繁に講演活動も行っています。Dreamforce 2014のFounders Forumトラックでは、Godard Abel氏(当時、Big Machines社CEO)に製品と市場の適合性というトピックでインタビューを行いました。本章でご紹介するように、この公開インタビューでは製品と市場の適合性を判断する重要手段が5つ掲げられました。読み進めながら、ぜひ自社製品のスコアを付け、市場導入準備がどれくらい整っているかを確認してください。

テスト、聞き取り調査、打ち合わせの準備不足は、私自身も含め、ほとんどの人間が経験したことがあるはずです。こうした苦い経験から得た教訓は、準備不足で臨めば、相応の結果しか戻ってこないということです。

同じことがあらゆるスタートアップ企業に当てはまります。立ち上げ前にしっかり準備する必要があります。取り組むこと自体がおもしろい難問だから挑むのではなく、現実の具体的な市場ニーズに対応していることを確認してください。

今、クラウド業界のスタートアップ企業には、製品と市場の適合性をどう定義するかについて、非常に大きな混乱が見られます。理解しているつもりで市場に進出し、理解していなかったことを後で悟る企業家は後を絶ちません。これでは、時間も資金も無駄になります。

ある企業では、1億ドルの評価額で1,000万ドルの資金を集め、製品と市場の適合性が高いと考えていました。1年かけ、大金を営業とマーケティングに費やした後で、製品と市場の適合性が高くなかったことに気づき、ほどなくして廃業しました。

とはいえ、この企業やこれと似たような多くの企業を笑うことはできません。物事の進展が速く、つねに変化している今日のテクノロジー業界では、市場に合っ

第3章

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第3章

た製品を用意することも、製品と市場の適合性を維持することも、簡単ではありません。失敗したスタートアップ企業を調べたCB Insightsの最近の統計によると、市場ニーズの不在は42%で失敗の原因とされており、スタートアップ企業の最大の撤退理由となっています。

製品が成功しない理由には、他にもいくつかのパターンがあります。

・ 顧客に採用または利用してもらえなかった

・ 製品が意図したとおりに機能しなかった

・ ターゲット層にとって重要な課題に対応していない製品だった

私の経験では、顧客の立場に立ってみることが一番の方法で、これにより市場を動かす真の機会を特定することができます。たとえばマーク・ベニオフは、CRM(顧客との関係の管理)をクラウドに導入するというインスピレーションを得、自信とビジョンを持って実行に移しましたが、Oracleで何年も成功体験を積んだ後でなければ、成し得なかったことでしょう。ベニオフが自著『Behind the Cloud』で助言しているとおり、「業界の鉄則であろうと、すでに時代遅れのものや常識に反するものを無視することを恐れてはなりません」そこで私は、クラウド業界のスタートアップ企業がはまりやすい落とし穴を避けられるように、スタートアップ企業と市場ニーズの適合性を評価する枠組みを用意しました。SaaS(サービスとしてのソフトウェア)を念頭に置いて考案した枠組みですが、他の分野のスタートアップ企業が製品と市場の適合性を判断する際にも有効です。

スタートアップ企業の製品と市場の適合性については、判断の基盤となる要素が5つあります。それは顧客の多様性、エンゲージメント、チャーン(顧客離れ)、コミットメント、話題性(口コミ力)です。

1.顧客の多様性多様な顧客層に製品を利用してもらう必要があります。まずは、顧客について

ありのままを客観的に見極める態度を身に付けます。たとえば、起業時点では知り合いではなかった顧客が何パーセントいるか、自問してみてください。

クラウド業界のスタートアップ企業の多くは、シリコンバレーを拠点とする仲間や友人、家族を判断基準にして製品と市場の適合性を判断します。たしかに製品への反応を測る最初の手段としては、ごく真っ当な方法ですが、製品を広く市

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製品と市場の適合性を評価する

場に浸透させることができるかどうかを判断するうえで有効な方法とは言えません。この現実をよく伝えているのが、HBOのヒット番組『Silicon Valley』で、パイドパイパー社のチームが、仲間内でしか製品がテストされていなかったことを思い知るときの様子です。

製品が市場で生き残れるかどうか、もっと厳しく評価する必要があります。私はよくスタートアップ企業に、遠く離れたアイオワ州デモインの住民にも受ける製品であってこそ、現実の問題を解決できる可能性があると伝えています。課題の解決を必要とする顧客から意味のあるコミットメントを引き出せるかどうかがわからなければ、製品のインパクトを判断することはできません。

誤解しないでください。初期の段階で友人や家族を仮想顧客とすることに問題はありません。ただし、本当の意味で潜在顧客層を見極めるには、自分とその周囲に限らず、製品を気に入り使用してくれる顧客を見据える必要があります。

2.エンゲージメントここでは「エンゲージメント」と呼びますが、「結婚」と言い換えてもよいでしょ

う。その製品がないと本当に困ると思ってもらえるほど、密接に顧客と結びつく製品を提供していますか?ここではSalesforceを例にして考えてみてください。利用できなくなったら、お客様のビジネスに大きな混乱が起きます。この製品はすでに営業部員が毎日何時間も使う大事な記録体系となっています。必要不可欠な製品とは、このようなものを指します。

エンゲージメントの判断にあたり、自問すべき重要な質問をいくつかご紹介しましょう。

・ 顧客のビジネスにどの程度深く組み込まれた製品ですか?・ その製品がなくなった場合、顧客の業務にどのくらい支障が出ますか?・ 会社のサイトがなくなったら、顧客は困りますか?・ その製品に顧客は愛着(満足)を感じていますか?

製品と市場の適合性は、ばらばらの点としてではなく、連続的にとらえる方が良いでしょう。顧客が製品にログインする回数より、顧客のビジネスにとってどれほどミッションクリティカルな存在になっているかが重要です。「ローマは1日にしてならず」という有名な格言にあるとおり、企業がビジョン

を構築し、このミッションクリティカルというポイントまで到達するには、相当の時間がかかります。新しい市場を生み出そうとするなら、さらに時間がかかる場合もあります。ここで重要な点は、スタートアップ企業はどれも独自の存在で

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第3章

あり、市場に合った製品を用意するプロセスもさまざまだということです。アプリケーションの開発プロセスは、1本の細いロープを探りながら綱渡りす

るようなものです。ロープの先に市場での成功か失敗が待っています。開発ライフサイクルの初期の製品に対し、顧客は直感的に理解、操作でき、使いやすい製品を受け入れ、新機能の充実を待つ傾向があります。製品が成熟するにつれ、ユーザーのニーズに細かく対応した他製品に比べても遜色ないか、上回るほどインパクトの大きい機能を確立する必要があります。

つまり、製品には見事な出来栄えと高い機能性が必要で、両方が揃うと理想的です。どちらにおいても凡庸な製品は優れているとは言えません。

3.チャーン(顧客離れ)離客率を定量的に評価することは、スタートアップ企業にとって極めて重要で

す。さらに言うと、顧客が離れていく理由も知る必要があります。問題は価格設定、サービス、競合他社、可用性、それともほかの何かでしょうか?

製品発売当初は、自社のビジネスがどの顧客層に最もよく合うか見極めようとしている時期で、顧客離れの測定は必要ありません。ただし、会社の収益が伸びてきたとき、離客率が高いと、健全なビジネスモデルを達成できなくなります。たとえば、収益1,000万ドルのスタートアップ企業で月間離客率が4%の場合は、毎年、ビジネスのほぼ半分が失われる計算になります。

そこまで離客率が高い企業の成長は、非常に困難です。中小規模企業向けのビジネスでは、月間離客率を2%以下に抑える必要があります。大企業向けのビジネスでは、月間収益ベースで1%以下の離客率を目指す必要があります。離客率を見極めるときに重要なのは、製品のアップセル部分は算入しないことです。アップセルが入ると、実態がぼやけ、実質的離客率を低く誤認する恐れがあります。

離客率の測定は、顧客満足度の測定でもあります。とはいえ、短期間で製品に不満を感じ始める顧客も必ずいます。そのような顧客への対策としては、月次契約より年次契約を用意すると良いでしょう。創設直後のSalesforceでも、不安定な月次サブスクリプションモデルのために、撤退寸前まで追い込まれたことがありました。

繰り返しになりますが、スタートアップ企業にとって離客率の測定は、ビジネスとその成長を客観的に評価することを意味します。ある程度の離客率は健全な証拠で、特に製品や将来のロードマップと合わなくなった顧客は、離れていくのが当然です。

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製品と市場の適合性を評価する

4.コミットメント

コミットメントを評価するにあたっては、次のように自問してみてください。

・ 顧客はパイロットプログラムの参加者でしたか?

・ パイロットプログラムは有償、無償のどちらでしたか?

・ プログラムの参加期間は、月単位、1年間、3年間のどれでしたか?

ここで年間契約を確保する重要性について振り返っておきましょう。年間契約が本質的に意味するものは、顧客から製品に対するより強固なコミットメントを引き出すことです。今後ずっと悩まされるかもしれない重要な課題から解放してくれる製品だと納得できるまで、ほとんどの顧客は年間サブスクリプションに移行しようとしません。そのため、年間契約を確保できれば、製品の長期的価値を実証したことになります。また、スタートアップ企業にとっては、先行経常収益でのキャッシュフローが改善し、収益の予測性が高まるという利点もあります。

新しい見込み客に対して好印象を与えるような成功事例をある程度蓄えたら、今度はそれを活用して、新しい顧客に比較的早期の年間サブスクリプションを促し、年間契約に移行する顧客を増やしていきましょう。移行の流れとしては、先着10社までは月次契約、次の10 ~ 20社には3+9プラン(3か月契約で、解約しなければ次の9か月間は自動更新)、その後はすべての顧客に対し年間契約のみに切り替える方法などが考えられます。

市場によっては、多数の企業が競合しており、潜在顧客が複数のスタートアップ企業とパイロット製品契約を結ぶ場合もあります。市場で競合関係にある複数のスタートアップ企業の照会先リストに、同じような顧客企業のロゴが並んでいる例は珍しくありません。このような初期の顧客は製品を試用しているだけであり、製品提供元のスタートアップ企業はあまり収益を上げていないことを投資家たちは知っています。

競合企業が多い市場では、サブスクリプション価格が主な決定要因になります。それでも、最終的にはいずれかの製品に、大企業であれば年間6桁以上、中小企業でも5桁以上の金額を支払うことになります。

5.話題性(口コミ力)口コミ情報からは、新規顧客をどのように獲得したかがわかります。自分自身

に問いかけてみてください。

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第3章

・ 見込み客の獲得において、すべてのケースで対外的な営業やマーケティングが必要だったでしょうか?

・ 見込み客の獲得には、対外的な営業やマーケティングと既存顧客の紹介、どちらの手段も用いられたでしょうか?

・ 自社の対象市場のソリューションを消費者は検索していますか?

売上のなかで自然発生的インバウンドのリードや顧客の紹介によるものが高い割合を占めるようになれば、製品と市場が適合した証拠です。逆に言えば、スタートアップ企業は自社製品が市場である程度の規模を獲得するまで、市場に受け入れられるためにより一層の努力が必要となります。

業界に特化したクラウドソリューションは、一般的なサービス形態のクラウドソリューションより、口コミの影響力が強く出る傾向があります。たとえば、Veeva Systemsは大手製薬会社のあいだでまたたく間に業界標準のCRMとなりました。これは、企業間でソリューションの採用に関する意見交換が行われていることが原因といえます。Veeva Systemの製品ロードマップには、ごく早期にCRMソリューションを購入した企業が要望した他製品の影響が色濃く反映されています。

まとめ以上、5つのポイントの概略を学んだところで、今度は自社が次に示す製品の

連続的成長段階のどの位置にあるのかを特定しましょう。

1.製品テスト段階で、まだ中核ビジネスを見極めている途中です。2.初期評価段階で、製品が潜在的な重要課題を一定期間解決することを確認

しています。3.高い確率で、製品と市場の適合を達成しています。

自社の現状がこの3つの製品段階のどこに当たるか正直に評価することが、非常に重要です。

第1段階:製品テスト

この記事で挙げた5つのポイントの大半で低い評価点が付いた場合、その製品は製品テスト段階にあり、まだ中核ビジネスを見定めようとしている企業です。未知の企業のニーズを解決できるように、地元の技術コミュニティのラボを使用

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製品と市場の適合性を評価する

してアイデアをテストし、練り上げている段階です。次のステップは、直接の知り合いの枠を超えて顧客に製品を評価してもらい、

本当の市場のフィードバックを得ることです。この時点ではまだ営業員は雇わず、創業者たちだけで顧客を確保します。つまるところ、製品と問題について最もよく知っているのは創業者であるため、実際に切実な課題であれば、創業者だけでも初期導入者を募るのは、それほど負担にはならないはずです。最終的に取り組む製品や市場を変える必要があるとの判断に至る場合もあります。

第2段階:初期評価

この記事で挙げた5つのポイントのうち、2 ~ 3つで高得点が出た場合は、重要課題を一定期間解決できる製品と言えます。できる限り潜在顧客とコミュニケーションを取り、製品に関するフィードバックを回収して、重要課題の解決に有効で、市場に代替ソリューションがないような製品にたどり着くまで、検討を重ねます。営業担当者を2人雇う段階でもあります。

営業担当者のパフォーマンスが良い場合、それは、製品が市場から多くの反響を得ていることを意味するため、増員を検討しましょう。どちらの営業担当者もパフォーマンスが低い場合、製品と市場の適合がまだ不十分であることを示している可能性があります。1人だけが不振な場合は、おそらくその営業担当者に問題があります。ただちに変更しましょう。

第3段階:製品と市場が適合

この記事で挙げた5つのポイントのうち、4 ~ 5つで高得点が出た場合、製品と市場がうまく適合した可能性が高いと言えます。つまりこれは、5 ~ 6社の顧客が新たに製品のことを知り、有償契約を結んで、自社の継続的な問題解決に役立てていることを指します。ここでは、ターゲットとする顧客のタイプに合わせた年間契約料の設定が重要な意味を持ちます。具体的には顧客が大企業なら10万ドル以上、中規模企業なら2万5,000ドル以上、小規模企業なら1万ドル以上となります。

この段階は、成長を加速するため、市場に切り込みをかける取り組みに投資する時期でもあります。良質なコミュニケーションはこのプロセス全体の根幹となる重要事項です。Norwest Venture Partnersでは、大規模クラウド企業にとって、顧客諮問委員会を結成し、あらゆる新製品と製品イテレーションに関与することが極めて重要であることを確認しました。これらの初期顧客に製品を使用してもらい、リアルタイムでデモを試してもらう形で、テストとフィードバックの

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第3章

回収を進めます。週に1度は率直な印象の変化を聞き出します。はじめはごく少数の顧客に対象をしぼり、問題点を解消してから顧客層全体に規模を拡大します。

成功するスタートアップ企業では、多くの場合、創業者たちがカスタマーエクスペリエンスの改善に真摯に取り組み、業界の抱える重要課題と日常的課題を隅々まで把握しています。顧客が本当に悩んでいる問題を探り当て、解決できる企業なら、まさに今こそ市場参入すべきだと言えます。

本章の冒頭で、テスト、聞き取り調査、打ち合わせの準備不足に起因するリスクについて述べました。スタートアップ企業は、これらを肝に銘じ、これまで説明してきた徹底的な評価を通じて製品と市場の適合性を判別することが、なによりも重要です。

製品を市場に合わせることはできても、市場を製品に合わせることはできません。だからこそ、大企業は数百万ドルもの研究開発費を投じ、アンケートやオンライン解析プラットフォーム、アナリストミーティング、フォーカスグループなどを総動員して、大がかりな市場分析を実施しています。

本当に重要な問題を解決できる製品であれば、ほとんどの企業は予算を確保します。スタートアップ企業では、よくターゲットとなる顧客の潜在的ニーズを評価しないうちに製品を作ってしまいます。製品を作る前に、市場の典型例となる顧客を十分な数集め、その顧客たちとじっくり時間をかけて向き合うことが必要です。

スタートアップ企業に数百万ドルの研究開発費はありませんが、初期段階でもおそらく顧客はいるはずです。こうした顧客を製品イテレーションに巻き込み、製品に対する一層の投資をしてもらうことで、成功を手にすることができるでしょう。つまり、製品を一段と優れたものに改良して市場で成功するためには、初期顧客から得られる充実したフィードバックが重要なのです。

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推進力を高め成長を成し遂げる

推進力を高め成長を成し遂げるAdrian Rosenkranz

 AdrianはSalesforceで営業戦略と成長イニシアチブにかかわる幅広い任務に従事してきました。なかでも、成長を見越した採用に関しては多くの有益なノウハウを学んでいます。本章では、採用を決めるタイミングと、成長の牽引力としてテクノロジーを活用する方法を分析していきます。

独創的な営業手法を伝授しましょう。営業トークに一言加えることを心がけるだけでよいのです。その一言を明かす前に、ちょっとした自己チェックをしていただきます。「業績を劇的に高めるための手段を常に探しているか?」と自問してください。スタートアップ企業の経営者は、収益を増大させる推進力、すなわち、利益の

増加(または倍増)要因となり得る単純な変化を常に求めています。こうした推進力は、士気の向上、従業員トレーニング、経験者の採用、影響力のあるリーダーを見習う、テクノロジーの導入などさまざまな形態をとりますが、自社に適した形態を選ぶことが課題となります。経験(営業担当者の採用)、トレーニング(プロセス改善)、テクノロジー(ソフトウェアに投資)など、それぞれの形態を導入する最良のタイミングを判断するにはどうすればよいのでしょうか。

収益増大にはほぼ常に代償が伴います。またテクニックと理論の両面があります。収益の伸びが加速しているときは、同時にキャッシュフローとのバランスにも配慮する必要があります。キャッシュフローはすべての創業者を悩ませる課題ですが、それと営業テクニックについてはひとまず置いておいて、成長目標達成に向けてどのように人材を採用し、プロセス、テクノロジーをどのように活用していくかを取り上げます。

人材の採用人材の採用が、増収率にどのような影響を及ぼすかを把握するには、営業担当

者を初めて採用するタイミングの影響と効果を理解する必要があります。営業チームに2名の担当者が所属し、昨年の合計売上高が100万ドルだったと

します。今年は増収率30%を目標にしており、この目標を達成する方策として、

第4章

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第4章

営業担当者の生産性を高める、または増員する、あるいはこの両方が必要です。どの方策を選んだらよいでしょうか。

まず、30%の増収目標を達成するために、もう1人営業担当者の採用が必要となる月を決めます。以下のシンプルな表を作成して、営業担当者1人あたりの月次ベースの予想予約件数を把握することができます。この表では、新しい担当者のオンボーディング時における生産性が考慮されています。

新しい営業担当者が3か月目に仕事を始めた場合、前年比で33%の成長を達成します。ところが、最初の営業担当者をその1か月前または1か月後に採用した場合は、確実に結果は異なります。この表によると、採用を1か月前倒しした場合、新規採用の影響で成長率は28%に後退します。採用を1か月先送りする場合、成長率はわずか22%にとどまります。この表はタイミングの重要さを物語っています。

次に、採用日程を立てる必要があります。適切なタイミングでの採用は、年間成長目標を達成するかどうかの決定要因となり得ます。予定している採用人数が多いほど、1年の適切なタイミングで採用する重要性は高まります。

ここで、起業家の悩みの種であるキャッシュバーンレートについて考えてみましょう。成長加速に必要だとしても、現実には、大半の起業家は営業担当者をすぐに採用することはできません。SaaS分野の営業職の採用には多額の支出を伴うためです。損益分岐点は、算定した顧客獲得コストから請求額(収益)を差し引いて分析されます。SaaSはサブスクリプションベースのサービスであるため、製品の納品時に収益を認識します。

以下の表によると、上記シナリオで営業担当者の採用コストを回収し、利益を出すまでに11か月近くかかります。

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推進力を高め成長を成し遂げる

ただし、営業担当者の採用を採算に乗せることは1つの目標であり、キャッシュフローと切り離してとらえる必要があります。また、採算化は特定の営業慣行に従うことで実現可能です。年次請求にすればよいのです。これにより、営業活動によるキャッシュフローが前倒しとなるため、月次請求で12か月にわたり回収する場合より有利です。新しい営業担当者の採用をきっかけにキャッシュフローが大幅に悪化するのは、この慣行を一貫して実践していないことが原因です。逆に一貫して実践すれば、年次請求により営業担当者の新規採用に伴うキャッシュバーンを軽減します。

プロセス積極的な人材採用は常に最良のアプローチとはいえないため、他の推進力にも

目を向けて、成長率を向上させる方法を見いだしましょう。では、営業プロセスを目標達成に必要なだけ改善することはできるでしょうか。HBSによると、営業プロセスを明確に定義している企業の収益成長率は、定義していない企業より18%高くなっています。営業プロセスを明確に定義すると、案件を進行させるための作戦をより効果的に立てることができます。ところが大半の中小企業は、その逆の行動をとります。まずプロセスを発見または進展させてから、市場が望む購入方法にもとづいてそのプロセスを販売手法と結び付けているのです。

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第4章

では、プロセスの定義基準が常に変化している場合、どのように明確な定義付けができるでしょうか。まず、多様なビジネスライン(マーケティング、営業、製品、サービスなど)の担当者を集めて、顧客の視点から購入プロセスを考察するアプローチが考えられます。製品の開発、マーケティング、営業、サービス過程で実施した調査をすべて利用して、顧客にとって必要と考えられる手順をホワイトボードに書き出します。購入プロセスの中でテーマを見つけてマイルストーンとし、これをもとに担当チームを管理します。こうした作業はすべて営業プロセスの一部となります。

次のセクションでは、担当チームの出発点として利用できる一般的な営業プロセスの枠組みについて詳しく見ていきます。この枠組みは、顧客に合わせてアレンジすることも可能です。表の数字は営業プロセスの段階と手順を表します。見通しカテゴリで成約の可能性を想定し、予測を立てやすくしています。

テクノロジー営業プロセスの導入により成長目標に近づくことはできますが、達成を保証す

るものではありません。営業担当者の生産性を向上するために自動化できる要素は限られているのです。

Salesforceが2015年に実施した顧客アンケートによると、顧客との関係を管理する当社のテクノロジーを利用することで、平均33%の収益アップ効果が生まれています。まずは慎重に見積もって、顧客関係管理(CRM)ソフトウェアの導入後、少なくとも15%の収益成長率が見込まれると仮定しましょう。すると所定

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推進力を高め成長を成し遂げる

の営業プロセスに加え、CRMテクノロジーを利用することにより、収益率は合計で33%(15%+18%)上昇することになります。悪くない数字です。

営業プロセスに従っていると仮定して、生産性強化への投資後、33%の成長目標を達成するには、どのタイミングまで営業担当者の新規採用を遅らせることができるでしょうか。

作成済みの表に再び目を向け、スプレッドシートからCRMへの移行により生まれた増収効果(営業担当者あたり15%)を加味します。これにより、7月まで新規採用を先延ばししたとしても少なくとも30%の成長率を達成できることが明確になります。このアプローチを取ることで、採用を4か月遅らせることができます。しかも、生産性向上に投資することで、損益分岐点の到達時点が1か月早まるため、将来の人材採用では採算性の向上を期待できます。

以上、人材採用、営業プロセス、テクノロジーを足掛かりにして成長を加速するアプローチの概要を説明しました。こうしたアプローチ以外にも成長活性化に役立つ推進力は多数あります。推進力には理論とテクニックの両面があるため、具体的なものもあれば概念的なものもあります。

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第4章

この章では取り上げませんでしたが、テクニック的な側面も重要であり、無視することはできません。この点に関して、冒頭で営業トークの推進力となるとっておきの言葉を1つ伝授すると約束しました。その言葉とは「なぜなら」です。

Noah Goldstein、Steve Martin、Robert Cialdini氏が共同執筆した『Yes! 50 Scientifi cally Proven Ways to Be Persuasive』には、オフィスのコピー機の順番を譲ってもらうさまざまな方法の効果について報告されています。調査の結果、「なぜなら」というシンプルな言葉を使うと状況が一変することがわかりました。

この言葉を使えば、たとえ理由に触れなくても、93%の人が順番を譲ってくれたのです。これは最初の依頼方法を33%上回ります。

この言葉を推進力とともに活用し、案件を進めることでキャッシュフロ—がプラスになります。まさに、テクニックと理論の併用です。

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顧客のエンゲージメントを強化

顧客のエンゲージメントを強化David Priemer

 Davidが初めて営業リーダーの職に就いたカナダのスタートアップ企業Rypple社は、Salesforceにより2011年に買収されました。Davidは引き続き、Salesforceで営業担当Vice Presidentとなり、Sales Leadership Evangelistの肩書も得ています。DavidはSalesforceのブログ記事を多数執筆しており、見込み客や顧客とのつながり方や、エンゲージメントを促進する方法など、エンタープライズSaaS分野のスタートアップ企業に役立つ独自の見解を紹介しています。

2013年に800社のB2Bマーケティングチームを対象に行ったアンケート調査では、質の高いリードの獲得が難しいことが、これらの企業の成功を阻む一番の障壁であることが明らかになりました。これは、当然の結果です。ソリューションを購入しようとするとき、選択肢や情報の豊かさは、従来の比ではありません。しかも、社内では注意すべきことが次々と発生し、優先順位は一貫していません。

課題は難しくなる一方ですが、それでも、より多くのリードを引き付け、顧客に変えていこうとするなら、営業やマーケティングの担当者のために、顧客の心をつかむトレーニングや営業支援リソースを部門単位で用意する必要があります。コールドコールのテクニック、営業方法論、ソリューションデモ、交渉戦術などはどれも、見込み客とのつながりを積極的に深め、購入サイクルの先に進んでもらうために、営業部門で今日活用されている手段です。

適切に生かせば、こうした手段でも平均的な成果は引き出せますが、目覚ましい効果は期待できません。根本的な考え方は良くても、実際に運用すると、よくある失敗理由は、主として次の2つです。

1.適用方法が間違っている—般的な営業サイクルは、施錠されたドアを次々開けていくイメージでとらえ

ると、分かりやすくなります。ドアには次のラベルが掲げられています。

第5章

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第5章

関心:特定の問題やソリューションに対し、最初の関心が生まれます。

ソリューション:特定のソリューションによって問題がどう解消されるのかという点について、情報と背景説明が提供されます。

交渉:ソリューションの提供方法について、当事者間で条件を取り決めます。

各ドアを開くには、戦術、スキル、トレーニングなど、それぞれに対応したカギが必要です。正しいドアと正しい戦術の組み合わせ以外で開こうとすると、問題が発生します。

たとえば、営業担当者がマーケティングの自動化ソリューションに対する顧客の関心のドアを開こうとしているとします。1つ目の例は、営業担当者は次のように顧客に説明します。「当社にはマーケティングを自動化できる優秀なWebベース製品があります。御社の時間を節約でき、より多くのリードを集めるだけでなく、すでにお使いのシステムに組み込むことができます。御社では、マーケティング自動化ソリューションをご利用ですか?」

2つ目の例は、営業担当者は以下のように説明します。「当社はすでに御社とよく似た企業数百社との取り引きがあります。その経験を通じ、市場の競争が激化する中で、顧客との結びつきを強化するには、顧客との1対1の関係がカギになると分かりました。他社ではどのような対策がとられたか、詳細をお聞きになりませんか?」

1つ目はソリューションを売り込むときの典型的な宣伝文句です。2つ目が本当に関心をつかめる戦術です。

正しいカギを使った方が、ドアが開く可能性は断然高くなります。Salesforceではお客様に提供するトレーニングや戦術が最も効果的な方法で

活用されるよう願っていますが、残念ながらそうではない例も多く見られます。

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顧客のエンゲージメントを強化

2.購買意思決定者より販売担当者に注意が向いている新人の営業担当者を見ていて、最初によく感じることは、しっかりした顧客第

一主義を身に付ける必要があるということです。たしかに、顧客は皆親切で、こちらの話に耳を傾けてくれるかもしれません。ですが、顧客が本当に興味を持つのは、顧客自身にとって価値のある話です。そのため顧客にとって、皆さんの会社の製品やソリューションは関心の外にあります。皆さんの社内の仕組みや社内階層にも興味はありません。どう転んでも、よその会社の営業担当者が受け取る報酬額を最大限まで増やしてあげることに躍起になったりしません。顧客が大事に思うのは、自社のビジネスをうまく運営し、成長させることと、その過程で従業員に利益を与える方法です。その目標の達成を手伝うのが、営業担当者の職務です。

有名な著述家Simon Sinek氏が、2011年の講演「If You Don’t Understand People, You Don’t Understand Business」(人間を理解しなければ、ビジネスは理解できない)でこの感情を見事に表現しています。この講演でSinek氏は、世界中の企業のほとんどが営業やマーケティングに自社第一主義を採用していると言っています。企業は自社や自社のソリューションについて伝え、競合他社より有利に立つことに大部分の力を注いでいます。ありがちなミスに、購買者の立場に立った取り組みが十分重視されていない点が挙げられます。この点について理解を促すために、Sinek氏はニューヨークの路上で物乞いを観察した体験を詳しく披露しています。その話によると、物乞いたちのメッセージは、完全に施しを与える側の視点で書かれている分、5倍の訴求力がありました。

顧客のために働く営業担当者だと思ってもらうには、完全に顧客と同じように考え、顧客と同じ論理に従って話す必要があります。社内で活用するツールや営業支援戦略にも、購入者第一主義のアプローチを反映させる必要があります。

営業を阻害する真の敵これまで、ジムに通おう、健康的な食生活に切り替えよう、もっと家族との時

間を増やそう、自宅をリフォームしよう、などと決意したことはありませんか?でも、やろうという意志、あるいは宣言までしたその決意は変わっていないにもかかわらず、実現していません。なぜでしょうか?結論から言うと、その答えは科学的に説明できるかもしれません。

1687年7月5日、イギリスの物理学者にして数学者のアイザック・ニュートン卿が著作『自然哲学の数学的諸原理』(Mathematical Principles of Natural Philosophy)の初版を発行し、今も有名な3つの古典力学の基本法則を説明しま

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第5章

した。ニュートン力学の1つ目の基本法則は、万物に働く「慣性」という物理特性に関係したものです。慣性の法則とは、外部から力が加わらない限り、静止している物体は静止し続け、動いている物体は同じ速度で同じ方向に動き続けるという法則です。

ニュートンは数百年差で、現代企業のからくりを目撃しそびれましたが、もし現代の私たちがニュートンの第1法則をビジネス界に応用したら、こうなるでしょう。企業は経営管理にあたり、何か大きな力で従来の踏襲を阻害され、変化を促されない限り、これまで使ってきたのと同じやり方、方針、テクノロジーを使い続ける傾向があります。要するに、慣性(または現状を維持しようとする心理)こそが現代の営業、マーケティング部門の敵なのです。

この慣性は、どういう形で現れるでしょうか?営業担当者は誰でも、「今は当社の優先事項ではありません」、「そんな資金はありません」、「今のやり方は完璧ではないけれど、今のところうまくいっていますから」といった言葉を何度も聞かされているものです。どの言葉も、ビジネス運営を慣性が支配していることを示しています。「ソフトウェア?テクノロジー?プロセスの変更?そんなものは要りません。今の対応でまあまあうまくやれますよ」

たまに、ちらりと希望が見えることもあります。時には営業やマーケティングの努力が重なり、こうした防御態勢が突き崩されて、ターゲット顧客の慣性を打ち破ることができます。

成長の一途をたどる高度なオンライン市場のソーシャル広告、リターゲティング、マルチスクリーンは、潜在顧客の行動を促す機会を豊富に提供しています。皆さんのWebサイトを訪れた潜在顧客が、ホワイトペーパーをダウンロードしたり、あるいはFacebook広告をクリックした場合、その顧客はMQL(マーケティングで有望となったリード)として、営業の対象になる可能性が高いです。MQLかどうかは、主要な人口統計や、顧客の行動(オンラインでの行動など)にもとづいて判断できます。一般に、見込み客が確実に有望とみなされるには、最低限、これらの基準を1つ以上満たす必要があります。MQLの問題点は、多くの場合、この最低基準があまりに低く設定されている点です。

ここで、購入者が製品を購入するまでの過程を、温度計の水銀の動きになぞらえて考えてみましょう。製品にまったく興味がない購買者の関心度を0度、熱烈な得意客の関心度を10度、製品を購入するときの関心度を8度とします。それでは、関心度がまだ2度の購入者をMQLとして営業プロセスに取り込んだとします。この場合、契約を結び顧客となってもらうまでに、関心度を6度、営業やマーケティング努力で引き上げなければなりません。絶対不可能とは言えませんが、慣性と

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顧客のエンゲージメントを強化

の差が大きいため、営業サイクルは長くなり、コンバージョンに必要な努力は大きくなります。一方、営業プロセスに取り込むのが6度の購入者だったら、どうでしょうか?慣性との差が小さいため、はるかに有利なスタートを切り、より高いコンバージョン率を達成できるでしょう。それでは、エンゲージメントを高めるには、どうすれば良いのでしょうか?

世界のトップレベルの営業組織やマーケティング組織の中には、慣性の法則を科学的に攻略しようとしているところもあります。こうした組織では、購入者の重い腰を上げさせ、見込み客の関心を強く引き付けるために、心理学の基礎知識や人間の心理にもとづいた秘策を施しています。

下のセクションでは、特に訴求力が強い方法を5つ紹介します。

秘訣その1:互恵関係の威力を生み出す相互利益は、世界で最も古く、最も強力なビジネス処世術の1つです。基本的に、

してほしいことがあるから、代わりに何かを指し出さなければなりません。たとえば、子どもたちがおとなしく歯磨きをして時間どおりベッドに入ってくれたら、次の日いつもより長くテレビを観ることを許可するといったことです。シンプルでしょう?結論から言うと、ここでは依頼と報酬の順が思いのほか大切です。『Yes! 50 Scientifically Proven Ways to Be Persuasive』(決定版:科学的に

証明された、説得力を付ける50の方法)の著者は、環境保護を理由に掲げ、ホテルの利用客に同じタオルを翌日に利用してもらうという実験をしました。節約できた電気代の一部を非営利環境保護団体に寄付するという理由で、利用客の協力が得られると期待していました。これは先に挙げた子どもたちの例と同様、「これをしてくれたら、あれをしてあげる」という提案です。おもしろいことに、この条件ではまったく協力が得られませんでした。ところが、協力と成果の順番を入れ替え、ある金額をすでに非営利環境保護団体に寄付したと伝えると、協力してくれる宿泊客が45%も増えたのです。

顧客のエンゲージメントについて、このことから分かるのは、あらゆるやりとりに価値を付加すると(特に、何かを依頼する前にその価値を示すと)、絶大な効果があるということです。あなたと取り引きすることで、有用なツールや知識を得られると、顧客と見込み客に理解してもらいましょう。たとえば、見込み客に対し、メールや電話でお決まりのご機嫌伺いをするくらいなら、ぜひ、顧客がやろうとしていることについて、参考になる記事やビジネス書を紹介したり、考え方のよく似た顧客やサードパーティの専門家を紹介したりしてみましょう。

顧客から見た価値を高め、互恵関係を築くために、できることはいくらでもあ

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第5章

ります。ただし、重要なのは見返りを求めないということです。便宜を図った相手がいつか好意に応えてくれること、つまりビジネスへの参加や、最終的な製品の購入を期待しているとしても、付加価値を提供するという態度を一貫させ、相手の出方次第で変えないことです。

秘訣その2:個人ではなく会社の重みを付けて働きかける最近、仲間の営業マネージャーと世間話をしているとき、部下の営業担当者が

十分なパイプを築けず困っていると聞きました。よくある話ですよね?

 「問題は何です?」と私は聞きました。「見込み客が足りないのですか?」

 「いや」と彼は答えました。「訪問先のアカウントはたくさんあっても、重要なキーパーソンと会えていないのです」

 「理由は?」私は重ねて聞きました。「顧客に電話に出てもらうためのノウハウがないのですか?」

 「そうではなく」と彼は続けました。「たぶん、営業チームの多くは新しい人だから、役職者に会って、用件を話す自信がないだけのように思います」

 「それで、その理由は?」と私は尋ねました。ここで一つ補足しておきますが、私は何を隠そう「5Why問題解決術」の愛好者なのです。

 「今の自分では高い価値のある話や情報を提供できないと感じているためです。自分には会ってもらうだけの信用がない、会話に付加価値を乗せられないと感じているようです。恐れているんです」

 根源的問題は、信じてもらえないという意識による恐れでした。

Salesforceでは、意思決定に携わる上級管理職とのつながりを作る意図から、顧客企業で権力を持つ人に働きかけるよう営業担当者に指示します。問題はほとんどの営業担当者には企業の役員経験などない点です。会えと言われたものの、訪問先の相手の立場から物事がどう見えるか、理解できないことがあります。残念ながら、信用してもらえないのではないかという思いから自信を持てない場合、顧客のエンゲージメントを得るには大きな障壁となります。特に職場や業務での経験が浅く、若い営業担当者には大きな壁となります。裏を返せば、個人担当者ではなく会社が用意した重みのあるメッセージには、強い訴求力があります。

変わろうとしないターゲットの抵抗を突破するうえで必要となる自信と信ぴょう性を営業担当者に付けさせるために、いくつかお勧めしたいことがあります。

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顧客のエンゲージメントを強化

1.事例を文章にまとめる

たとえ短期間でもビジネスを続けてきたなら、満足している顧客、ソリューションを通じて価値を提供した企業が何社かはあるでしょう。これらの顧客の事例が、営業サイクルでは絶大の信ぴょう性をもたらします。それなのに、こうした成功事例が事例やホワイトペーパーとして文章にまとめられたり、証言ビデオの形で記録されたりしている例は、驚くほどわずかです。

営業担当者の言葉に信ぴょう性をもたせたいと考えるなら、成功事例を把握させる必要があります。

ただ文章を書き、読ませるだけで満足してはいけません。成功事例をよく知ることを責務として営業担当者に課しましょう。いつでも自信を持って堂々と、相手の興味を引くような話し方で、よどみなく成功事例を語れるよう、働きかけてください。達成した価値を具体的数値ではっきり示したり、そこから顧客と自社が得た教訓を織り交ぜたりしながら、話せるように指導しましょう。成功事例をうまく話せるようになればなるほど、営業担当者の言葉は信ぴょう性を増し、顧客にとって価値ある相手となり、高位のキーパーソンと会えるようになります。

2.信用のある者を論拠にする

次のことをはっきりさせておきましょう。新人や新規参入企業、若年者、経験の浅い者は、顧客からの信用度が高いとはいえません。たとえば、「私が気づいた点は…」あるいは「私が思うに…」という言葉に重みは出ません。考えてみてください。あなたが何を考えようと、誰も気にかけたりはしないでしょう。

—方、会社が積み重ねてきた経験や顧客の言葉には、はるかに大きな重みと信ぴょう性があります。そもそも成功事例と提供した価値の話は、そういう経験に根差したものです。それならば信用度が低いという問題を解決するには、どうすれば良いでしょうか?簡単です。終始、信ぴょう性のある人たちを話題に絡めるよう言葉を選んで話します。会話の切り出し方は、常に「当社のお客様がいつもお気づきになるのは…」あるいは「当社で繰り返し体験してきたのは…」とします。

2つ目の言い換えでは、位置付けが微妙に変わっただけですが、この変化は重要です。「私」個人の経験ではなく、全社の経験の集大成として聞いてもらえるからです。

いたってシンプルな考え方ですが、実践には練習が必要です。人は自分の視点から語る癖が付いていますから、顧客を前にしたら、意識的に相手の視点で言葉を選ぶように心掛けなければなりません。

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3.チャレンジ精神を育む

私はいつだってチャレンジャーセールスモデルを支持してきました。その理由は、営業のプロなら、顧客より担当分野で最新の動向や情報に通じている可能性が高いことが、このモデルの前提になっているからです。新しいスーツ、車、テクノロジーなど、どんな製品やサービスを買うときも、大半の人間は営業担当者の知識を頼り、参考にしようとするものです。ですから、プロとしての信ぴょう性が営業の支障になっている場合は、営業チームに真のエキスパートとしての自覚を持たせることが大切です。なんといっても、その背後には大勢の顧客と会社の経験に裏打ちされた知識があるのですから。

たとえばマーケティングの自動化ソリューションを売り込む場合、その種のソリューションを顧客が購入した回数と、自分や自分の組織が販売した回数を比べてみてください。ほぼ間違いなく、自分たちの方に利があるのではないでしょうか。この視点を営業チームにも伝えると、落ち着いてお客様とのつながりを築く勇気と活力が湧いてくるでしょう。

秘訣その3:信念で導く2013年9月20日午前2時30分、技術ライターのStewart Wolpin氏は、Apple

社がニューヨークの5番街に構えるフラッグシップ店を訪れました。訪問目的は、大いに期待され、翌朝発売されるiPhone 5Sの最初の購入者の1人になることでした。Stewart氏は、早く行くことで確実に列の最初の方に並べると思っていましたが、実際には300番目でした。

これが珍しい体験ではないことは、今では常識です。実際、Apple製品の発売日前後の数日は、いつも予想どおりに同じ状況が繰り返されています。イベントと言うと、徹夜で並ぶのが当たり前で、おとなも騒ぎ立て、顧客の大歓声が響き

ます。では、Appleの何がそれほど異様に人々を熱狂させ、消費者からそのような反応を引き出すのでしょうか?

Stewart氏の著書『Start With Why』(なぜ?からの出発)によれば、著名作家Simon Sinek氏は、顧客のこのような反応は、顧客に共通する価値観と信念を探り当てる組織の能力の賜物だと述べたそうです。簡単に言うと、熱烈に歓迎する消費者は、「企業の実績ではなく、行動理念を見て購入して

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顧客のエンゲージメントを強化

いる」のです。この概念に説明を加えて、Sinek氏は自著にまとめた「ゴールデンサーク"」とい

うアプローチを導入しています。このアプローチでは、3つの同心円でできた単純な図を使い、企業の目的と価値体系、特に事業内容、方法、理念の認知度について(とその企業の顧客について多く)説明します。Sinek氏は世界中のあらゆる組織が、自分が何を提供しているのか理解していると説明しています。これはビジネスの基本ともいえる部分で、たとえば、当社はボールベアリングを製造している、おいしいカップケーキを生産している、投資製品とアドバイスを提供しているといったことです。

さらに、それをどのような方法で実現しているかを把握している組織は、比較的少ないとSinek氏は言います。つまり、競合他社と自社の違いを把握できていないのです。たとえば、私たちは二酸化炭素を増やさない独自の特殊製造プロセスを採用している、私たちは少量手作り生産で優れた製品品質を維持している、わが社のアドバイザーは15週間の厳しいトレーニングを受けているといったことです。

最後にSinek氏は、ごく少数の組織のみが自分たちがしていることの理由を把握していると述べています。これは組織の行動や意思決定プロセスを方向付ける、借り物ではない動機、中核的価値観です。ゆるぎない信念の提示は、まさに顧客や見込み客の慣性をゆるがし、Appleに対するような顧客の熱烈な支持を大きく育てるカギです。理念が人の心を動かす力は、私が「信念の表明」と呼ぶ概念で端的に説明できます。

Appleはここ数年、ほとんどの新製品の発売時に、最高デザイン責任者(CDO)のジョナサン・アイブ氏のコメントを交え、洗練されたプロモーション動画を発表するのが通例となっています。これらの動画は、見事な製品紹介メディアの体を装っていますが、実際には製品の機能説明ではなく、その機能を実現した理由を延々と訴えています。ここで言う理由とはつまり、Appleの設計チームが行動基準としている信念です。

 「私たちのあらゆる行動の中心にユーザーが据えられるべきだと信じています」

 「テクノロジーは機能的であると同時に美しくあるべきだと信じています」

 「より薄く、より軽量で、よりパワフルなデバイスを実現するには、革新的な問題解決が必要だと信じています」

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これらの信条表明は、購入者である私たちの個人的信念体系と呼応するからこそ、非常に強く心を撃ち、魅了します。語られた信条は、強い思いでしかなかったとしても、私たちの気持ちを1つにし、正当化してくれます。たとえば私が、そろそろジムに通って減量しなければと考えているときに、フィットネスクラブや洗練されたブレンダーの会社からタイミングよく広告が届き、健康的なライフスタイルのメリットを説かれたら、たぶんすぐに契約するでしょう。

Appleの場合は、それがAppleに惚れ込み、店舗に大挙して押し寄せ、長蛇の列も厭わず、高額の商品を買う消費者という現象になって表れています。この行動はあたかもこう叫んでいるかのようです。「そのとおり!私はAppleのあらゆる行動の中心に私が据えられるべきだと信じています。テクノロジーは美しくあるべきです。より薄く、より軽く、よりパワフルなのがすばらしいのは当然です。私たちは同じビジョンの持ち主。Appleも私もすばらしい」実際にこういう言葉が口にされることは少ないと思いますが。

多くの営業方法論は、購入者の個人的かつ心情的な動機を解明することに注力しています。それはまさしくこれらの要素が最もすばやく、最も決定的な行動を引き出すからです。しかし、信念を表明すると、モノやサ—ビスを売る以上の効果が得られます。偉大な指導者が人々の行動を喚起する例では、今も誰もが知っているマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の名演説「私には夢がある

(Have a Dream)」は、いくつもの具体的信念の深層にある信念が大勢の聴衆の心を動かした典型例です。

それでは、貴社が価値観や信念の力をうまく制御して、ターゲット顧客との強いつながりを築くには、どうすれば良いのでしょうか?簡単です。信念で導いてください。まず、競合他社と差別化できるような信念を考えます。次に、その信念に基づき、営業やマーケティング活動全般に使える表明文を1つまたは複数考え出します。以下に例を挙げてみましょう。

「私たちは、お客様が電話でビジネスを運営できるべきだと信じています」「私たちは、従来のパフォーマンスレビューは古臭くて、時代遅れだと信じて

います」「私たちは、ヘルシーな有機食品がもっと手ごろな値段で販売されるべきだと

信じています」

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顧客のエンゲージメントを強化

皆さんのビジネスでも効果的な信念表明文を作るヒントを3つご紹介しましょう。

・ 具体的な周知の課題を指摘します。顧客自身の信念から大きく外れた考え方を押しつけてはなりません。まずはシンプルで、はっきりとした態度があって、顧客が中心に据えられたメッセージを目指してください。

・ 製品やサービスのことを直接言及しないようにしましょう。いくら高尚で利他的な信念を表明しても、見え透いた売り込みが見えたとたん、説得力がなくなります。たとえば「私たちは、お客様が電話でビジネスを運営するにあたり、Acme Co.のモバイルアプリが最適な手段だと信じています」というようなコメントは避け、常に相手や相手のメリットに重点を置きましょう。

・ 信念表明を伝えた相手がにっこりしてうなずくか考えてみてください。適切な信念かどうかを簡単にチェックする方法が必要なら、自社の典型的な顧客層にその信念を伝えたときのことを想像してみましょう。彼らがすぐに微笑み、うなずいてくれると思いますか?もしそうはならないと思うなら、もっとよく考える必要があります。

競合他社がひしめき、派手なメッセージがあふれる市場で、顧客の慣性をゆるがし、行動へと導くのは、難しい課題です。迷ったときには、とにかく自社の信念に沿って進むことです。そうすれば、効果的に多くの顧客層の心を掴み、長く愛される企業になることができます。

秘訣その4:自社のソリューションではなく、顧客の問題に集中する営業とは奇妙な職業です。一方では営業のプロという役割から指導者や信頼で

きる助言者として扱われます。顧客の利益を優先し、新しいツールやサービス、考え方を提供し、利用してもらうことで、顧客の生活を改善し、ビジネスの成長を促します。しかし、こうした高尚な目標を追求する一方、営業のプロには手数料という魅力的な代償が支払われます。これは、経営幹部になったら最後、滅多に受け取れないメリットであり、営業担当者にとって大きなモチベーションとなります。特に新しい営業担当者は、この2つの要素が頭の中で対立し、誰の利益を最優先すべきか、矛盾に悩むことがあります。

自分の率いる営業チームの顧客として今の会社と接していたからこそ、私は新人がこのジレンマの判断に迷わないようにすることを目標にしました。私自身も大きなノルマを抱えていますし、皆さんと同じように焦燥感に追われることもありますが、これだけははっきりと言い切れます。

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第5章

「ちょっといいかな?」担当チームに話を切り出すとき、私はよくこう言います。「お客様は、当社のソリューションにも、営業プロセスにも、我々が売上目標を達成できるかどうかにも、まったく関心がない。本当に、興味があるのはただ1点、自社のビジネスを広げることだけだ」ひたすら顧客の問題に対峙すると、顧客から関心と好意を向けてもらえるなど、多くのメリットがあります。前述のとおり、より顧客中心、つまり購入者中心のメッセージに移行すると、収支決算とブランドの両面からみてはっきりとした効果が出ます。

それでは、ターゲットの注意を引き寄せる説得力を持った、顧客中心のメッセージを用意する秘訣は何でしょうか?顧客を確実に振り向かせられる戦術が3つあります。

他山の石をはっきりさせる

顧客がすでによく理解している問題を1つだけ取り上げ、明確で、簡単に賛同してもらえそうなメッセージを作ります。たとえば、私が以前携わっていたRyppleは、フィードバック、コーチング、従業員が職場で進歩できるよう設計した評価ソリューションでした。当時、消費者、特に2000年代初期に生まれた新しい企業は、フィードバックを求めている一方、古臭い年次パフォーマンスレビュープロセスはどこも嫌っていました。そこで、Ryppleではパフォーマンスレビューを敵とし、人目を引くプレスで有利な条件を用意し、ターゲットがRyppleのビジネス改善策をさっと理解できるようにしました。

最適の言葉を選ぶ

自分が担当するプロジェクトやサービスを購入してもらおうとするターゲットは誰ですか?分かっていますか?自社のサービスが実際より多くの層の関心を引き付けると感じている組織は多いため、具体的データを参照しながら、ターゲット購入者の主要人口統計を正しく理解すると、多くの場合、参考になります。つまり、次のように自問してみてください。自社のソリューションを実際に購入しているのは、どういうタイプの人たちだろうか?収益の大半は、どのタイプの人からもたらされているだろうか?

これで終わりではありません。自分のターゲットをしぼり込んだら、ターゲットとのつながりを作り、ターゲットが自分たちの問題を表現するとき、自社のソリューションからターゲットが得る価値を表現するとき、具体的にはどのような言葉を使うか確認します。そして、営業やマーケティングでは、その言葉を使います。

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顧客のエンゲージメントを強化

2002年の調査でオランダの調査会社Rick Van Baarenは、あるレストランでは給仕が客の言った言葉をそのまま繰り返しただけで70%もチップが増えたことを確認しています。このミラーリング(物まね)技法は、最初はばかげて見えるかもしれませんが、ターゲット購入者と同じ言葉を使うと、営業メッセージとブランドに対するエンゲージメントをより急速に同化させる効果があります。

顧客に新しい情報を与える

役に立ち、情報量の多いメッセージは、次の3つの理由からターゲットとのつながり構築に有効です。

そういうメッセージなら互恵関係の力を引き出せます。自分から相手に情報を与え、その結果相手にいい体験を提供できれば、同じような反応を得られる可能性が高くなります。

そういう顧客がブランドの価値を構築してくれます。実際に価値を提供できた顧客だからこそ、皆さんの会社を業界のリーダーとして確固たる地位に押し上げ、その評判を広げてくれます。しかも、ターゲットに新しくメッセージを送っても、そう簡単には無視されません。

気づかなかったところから切実な問題点を提示してくれることもあります。多くの場合、ターゲットは自分たちの現状がそれほど深刻だとは自覚していません。しかし説得力のある将来図を描いて見せると、気づきを得られる場合があります。

営業、マーケティング組織では、ターゲット企業の主要なビジネス課題に重点的に取り組むような、顧客第一主義的態度の醸成が長期的成功の達成には不可欠です。習慣化するのは大変ですが、はっきりした態度、相手との関係性、有意義な情報を発信し続けることが、変わるまいとする顧客の態度を衝き動かすとともに、自社のソリューションに対し最初から高い関心を持ってもらうために必要な唯一の条件かもしれません。

秘訣その5:ピッチを洗練させるセールスピッチは、直接会う場合も、電子メッセージの場合も、さまざまな販

路を介す場合も、おそらくターゲットにソリューションの価値を伝える、最も基本的で直接的な方法です。残念ながら、ほとんどのセールスピッチは、ベンダーの事例を端的に伝えること、競合との違いを理解してもらうこと、何より記憶に残ることができず、失敗します。それでは、現状維持を志向するターゲットの態度を変えられるほど、魅力的でパワフルなピッチに仕上げるには、どうすれば良いでしょうか?深夜、早朝枠が鉄板と言われるインフォマーシャルを見れば、答

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第5章

えが分かります。包丁、ブレンダー、掃除機といったごく普通の商品なのに、世界平和を樹立で

きるソリューションのようにすら感じさせるインフォマーシャルの手際は、いかにも魅力的ではありませんか?インフォマーシャルプログラムでは、対話、アニメーション、おやっと思うデモの組み合わせに入念な趣向を凝らし、何も変えたくなかったはずの購入者の抵抗感を巧みに潜り抜けて、成約にこぎつけます。魅惑的ながら反復が多く、やや野暮ったい印象の作品が多いにもかかわらず、効果はてきめんです。注意深く準備した企業向けピッチの多くが目的を果たせない中、インフォマーシャルは昔ながらのシンプルなパターンを踏襲し、視聴者が気軽に同意できる議論を重ねて、最終的には具体的なアクションを促すメッセージで締めくくっています。具体例を取り上げる前に、インフォマーシャルピッチで定番化されたシンプルな4段階の要素を見てみましょう。

1.今の対策の問題点を伝えます。2.その問題点への理想的解決法を提示します。3.そのソリューションの難点、魅力が削がれる部分を明かします。4.広告の製品が、その難点を緩和する仕組みを紹介します。

この定石に当てはめると、人気商品Magic Bulletのような、個人用ブレンダーを問題解決の特効薬だと感じさせるピッチの内容は、次のようになります。

1.加工食品の食べすぎは、健康を損ないます。2.生のフルーツやジュースをもっと食生活に取り入れることで、問題は解決

します。3.でも、一般的なジューサーは、大きすぎて使いづらいうえ、高価で後片付

けが大変です。4.当社のすばらしいコンパクトジューサーなら、後片付けが簡単で値段もお

手頃、まさにあなたに必要な品です。

トレーニングDVDセットやフィットネスマシンのピッチなら、次のようになるでしょう。

1.体重を減らし、すっきりしたボディを手に入れたいと思いますよね?2.定期的にジムに通い、しっかりトレーニングすれば、問題は解決します。3.しかし時間がなく、ジムの登録料が高額なことが難点です。4.そんなあなたに最適なのは、費用対効果が高い、当社のすばらしいホーム

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顧客のエンゲージメントを強化

トレーニングDVDセット/マシンです。

古典的な営業の視点から見ると、このような決まりきったピッチパターンでは、段階を追うごとに、顧客が少しずつソリューションに向かって引き寄せられるため、高い効果が見込めます。各ステップが一般的な事実と感情の両方にしっかりと結びついています。反感を抱かせる要素はありません。日ごろの考え方から大きく逸脱する必要もありません。さらに具体的には、インフォマーシャルのルールは、次の要素で構成されています。

1.現状と結びつけ、時には明らかな、時には潜在的な問題点を具体的に示します。

2. 望ましい未来の状態とそれを実現する方法を簡単に説明します。3. その方法に付帯するリスクや不確実性を目立たせ、より良いソリューショ

ンの必要性を際立たせます。4.そのリスクを緩和または回避できる、よりシンプルな代替ソリューション、

つまり売り込もうとする製品を提案します。

テクノロジーの世界に戻り、このピッチパターンを生かすと、どうなるでしょうか。モバイル生産性向上アプリを営業部のリーダーに売り込む場合は、次のようになります。

1.あなたが担当する営業チームは失注が続いています。その理由は、メンバーが必要とする主要な顧客情報や製品情報に出先でアクセスできないからです。

2.営業担当者がどこからでも重要なデータにアクセスできるように、拠点オフィスのデータベースへのモバイルアクセスを提供すると、問題は解決します。

3. ただ、難点はカスタムアプリを作製し、そのアプリを拠点オフィスに接続するのが難しく、多くの時間やコストを要することです。

4. 当社のすばらしいモバイル接続フレームワークは、御社に最適です。専門知識がなくても、このフレームワークを利用すれば、同じ作業を数分の1の時間で完了できるようになります。

御社の問題を解決するソリューションを今すぐお試しください。インフォマーシャルのアプローチを応用すると、自社が提供する製品やサービス、具体的付加価値を顧客や見込み客によりスムーズに理解してもらえるだけでなく、担当チー

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第5章

ムの営業担当者がピッチを磨くことができます。この結果、部下の営業担当者がより短時間で力を付け、自社の価値提案内容をしっかりと把握し、スライドやデモを使わなくても顧客にすっきりと納得させることができます。

顧客第一主義の考え方を貫く何年も前のことですが、顧客との打ち合わせの後で部下の営業担当者が私に質

問しました。重要なキーパーソンに送るメールの文面からミスをなくすには、どうすれば良いか知りたいと言うのです。メールの目的は、打ち合わせの内容をざっと振り返り、魅力的な価値提案をして、ソリューションの商談を進めるためです。「どう思いますか?」と聞いてきました。「さぁどうだろう」と私は答えました。「もし自分がこのお客様だとして、この

メールをもらったら商談を先に進めたくなると思うか?」顔に浮かんだ表情から、文面は最高の出来ではなく、もう1 ~ 2回、練り直し

が必要だと互いに分かりました。何年も経つうち、「もし自分がそのお客様だったら、当社とのつながりを深めようと思うか?」という問いが、方向性の正しさを適切に確認できる基準だと私は悟りました。

ここまで商談を進めていくうえで、参考となる秘訣を話してきました。それを振り返ってみましょう。

1. 付加価値のあるリソースという道具立てを用意すること。ターゲットとの互恵関係を築く方法を見つけることに執着しすぎないでください。事前に計画を練りましょう。記事、書籍、有用なコンテンツのリストを事前にまとめておくと、時間をかけなくても毎回付加価値を提供できます。

2. 言葉選びをチェックすること。陥りやすい誤りは「私が感じることは…」や「私が気づいたのは…」といった切り出し方です。組織の信ぴょう性で自分のメッセージに重みを付け、信用を築くために切り出しの言葉を「当社では」あるいは「当社のお客様が気づかれたことは…」とします。

3.お客様の事例を整理すること。顧客は皆さんのソリューションを使って成功を築き上げています。事例を常に伝えられるようにします。これらの事例を文章にまとめ、共有することが、営業、マーケティングを担当する新人がすばやく力を付ける何より有効な方法です。

4. 信念を表明できるよう用意すること。信念で導くと、大きな訴求力が生まれます。そういうメッセージを作成し、担当チームが顧客に接するあらゆる機会に信念をもってその言葉を伝えるようにします。

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顧客のエンゲージメントを強化

5. スライドを使わないピッチの練習をすること。分かりやすい営業ピッチは、短くシンプルながら強い説得力を持っているものです。次回はスライドを捨て、10秒以下でピッチをしっかりと印象付けられるよう練習してください。

あらゆるビジネスは、対処を要する戦略面、運営面の問題点を抱えているものです。その問題に対処するソリューションについて、視野に入る選択肢や情報の豊かさは、従来の比ではありません。一方で、社内で注意すべきことは次々と発生し、優先順位が一貫していません。そのうえ、非常に洗練された営業、マーケティング部門でも容易には突き崩せない、要塞のような守りの姿勢が築かれてしまっています。

健全な戦略に沿って、確実に顧客中心主義の営業、マーケティングメッセージを武器として身に付けることが、変化を嫌うターゲットの防御態勢を崩し、強い意図を示す見込み客に変えるためには大切です。あらゆる良い習慣と同様に、これらの戦略を習性とするためには思慮深く、繰り返し実践していくことが必要です。ご成功をお祈りしています。

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第6章

スタートアップ企業にとってのCRMのメリットGreg Poirier

 Poirier氏は立ち上げ間もない数々のスタートアップ企業で経験を積んだ「スタートアップのプロ」です。最後のスタートアップ企業ではCOOを務めました。Radian6社の買収によってSalesforceに入社した同氏は、Marketing Cloudの戦略的オンライン活動全体の指揮と実施を担当しました。スタートアップ企業のコミュニティでアドバイザーとして尊敬を集める人物であり、創設したコンサルタント企業、CloudKettle社では、実績ある営業やマーケティングのプログラムをとおし、スタートアップ企業の成功を支援しています。この章では、『SaaSスタートアップ創業者向けガイド』初版で取り上げた、スタートアップがCRM(顧客関係管理)を必要とする理由について掘り下げます。まず、CRMを効果的に利用することでスタートアップ企業が得られる主なメリットを列挙してから、こうした企業の急成長ニーズに応えるCRMソリューションとして、Salesforceで使用できるお薦めの生産性向上アプリをAppExchangeから紹介します。

まだ会社の規模が小さく、顧客のことは理解していますが、そもそも管理するほど多くの顧客がいないとしましょう。簡単なスプレッドシートを共有して使えば、十分間に合うような状態です。この段階で顧客関係管理(CRM)ソリューションにお金や手間をかける必要があるでしょうか?

スタートアップ企業であれば特に、CRMソリューションの購入は後回しにしたいと考えるでしょう。何しろCRMソリューションというものは、貴重なリソースを食いつぶすものです。最低でもライセンス使用料と設定費用がかかるうえ、スタートアップ企業にとって一番貴重なリソースである創設者の時間が奪われます。計画から実装まで目を離せません。

このように、CRMには事前の準備期間や資金面のコミットメントが必要になりますが、それでも、スタートアップ企業は早い段階で最優先事項としてCRMに投資すべきです。この章ではその理由を説明します。

第6章

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スタートアップ企業にとってのCRMのメリット

スタートアップが必ず直面する5つの課題急成長中のスタートアップ企業に当事者および協力者として10年以上関与し

てきましたが、どのスタートアップ企業も直面するのが以下の5つの課題です。

1.人材雇用や拡大ペースが速いため、新規採用者はサイロ型の縦割りにされた管理データにアクセスできない。

2.投資家にデータを求められても、創業者はデータを持ち合わせない。3.営業チーム(あるいは営業担当者)の成果に関して、有用な情報がない。4.データ不足のため情報にもとづく決断ができない。5.営業やマーケティング分野の有能な人材はCRMを求めているが、スタート

アップ企業は導入していない。ご心配は無用です。CRMがこうした課題の克服に役立ちます。

創業者の知識が共有されないジレンマ創業者は、初期の段階では、自分自身、自社、自社製品を売り込みながら、市

場ニーズをすばやく学んでいきます。そのため、完璧ではあるものの誰も望まない製品を作るといったような罠にはまることはまずありません。

ところが、市場ニーズを学ぶことには弊害もあります。創業当時の顧客や市場の情報を把握しているのが、創業者だけとなる傾向があるのです。この傾向は、スタートアップ企業が勢いに乗り、人材を急いで採用するようになると問題を引き起こします。創業間もなく雇用された従業員に有用な情報が伝わらないためです。

この問題は、SalesforceなどのCRMを早めに導入すれば回避できます。CRMを使えば、自動的に記録される創業者や従業員のメールや文書(苦情処理

シートや契約書など)を簡単に検索できるためです。スタートアップ企業が規模を拡大し始めたタイミングで、簡単に検索できるデ

ジタルナレッジベースを構築すると、新入社員は創業間もない時期のものも含め、すべてのメールや電話での顧客とのやり取りをすぐに確認できます。また、契約更新前に各取引先を再審査する場合や競合他社の製品、サービスについて協議する場合、多忙な創業者を待つ必要がなくなります。

つまり、新入社員が企業の蓄積データにすぐアクセスできるシステムがあれば、オンボーディング期間は短くなり、柔軟で反復的な育成が可能になります。

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第6章

投資家ニーズに応え続けるCRMを導入する理由として見過ごされがちなのが、投資家の心をつかみ、満

足度を維持する必要性です。スタートアップ企業のライフサイクルの特定段階に詳しい投資家は、営業パイプラインを特に重視します。製品が市場に出回るようになったら、投資家の関心は月次、四半期、次年度など、各期に予測されるパイプライン件数にシフトします。

大半のスタートアップ企業は企業データの入手にてこずります。単に記録されていないだけでなく、短いプレゼンテーションや四半期レビューのデータも楽観的な右肩上がりの予測であるため、その信ぴょう性に欠けます。こうした理想的なデータには夏季休暇や年末年始休暇などでの販売の落ち込みも反映されないうえ、更新にかなりの手間がかかります。

—方、Salesforceを使えば、巨大なファネルのイメージを伴う正確なパイプラインレポートがわずか数秒で作成可能です。そのスピードたるや、プレゼンテーションスライドに、(なんと当日の)午前8時10分時点でのパイプライン予想が掲載されているのを実際に見たことがあるほどです。

時間節約という利点に加え、CRMの導入には、創業者が将来を見据え、現実的な基準データ(Excelで反復される公式でなく)を持ち合わせているというアピール効果もあります。投資家全員は無理でも、一部の投資家からの評価は確実に上がります。

営業担当者の力量の把握スタートアップ企業では、営業担当者の優劣を判別しにくい傾向にあります。

まだそれほど認知されていない新製品を中心に、営業サイクルが1年に及ぶこともあるため、売上をもとに実績を評価することはできません。営業担当者が目標達成を見込めるようになるまでの数か月間は、訪問やデモンストレーションの予約件数、提案の送付件数、パイプラインの構築状況など、別の要因を考慮する必要があります。

ボタンを一押しするだけでこうした情報が得られれば、スタートアップ企業のリーダーは創業初期に前途有望な営業担当者を見極めることができるだけでなく、情報を拠り所に基準を満たせない従業員の処遇を即時に決断することもできます。

データが決断を促進収益が上がらない間、急成長するスタートアップ企業がビジネス上の決断を

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スタートアップ企業にとってのCRMのメリット

下すには、営業パフォーマンスに関する情報がリアルタイムで必要となります。SalesforceなどのCRMを利用すると、収益とキャッシュフローの予測プロセスが向上します。

具体的には、予測の見直しが簡単になり、パイプラインの予想を狂わせる短期的要因がないかどうかを確認できます。あらかじめ各月の注意事項を把握しておけば、新従業員を採用するタイミング、特定案件の成約を促進する取り組み、価格の調整、営業チームの管轄となる有力リードの獲得を目的としたマーケティング分野への積極的な投資について、決断が下しやすくなります。

人材を引き寄せる—流の営業、マーケティング担当者は、急成長していてもCRMの導入予定が

なければ、Software as a Service(SaaS)企業に入社しないでしょう。こうした人材は現職ですでにCRMを使用しており、セールスイネーブルメント活動におけるCRMの必要性を実感しています。同様に、一流のデジタルマーケティング担当者は、パフォーマンスを追跡し売上と紐付けし直すことが成功には不可欠であり、そのためにはCRMはもちろんのこと、マーケティングオートメーションプラットフォームも必要とするケースが多いことを認識しています。

要するに、ディベロッパーを採用するならラップトップを支給する必要があるように、営業やマーケティング担当者、サポートチームやサクセスチームのメンバーを雇うならば、CRMライセンスの提供は不可欠です。

営業分野以外の用途にもソリューションを提供Salesforceはリーダーや営業チームのみを対象としているわけではありま

せん。他の事業部門向けのネイティブ機能を多数備え、アプリの堅牢なエコシステムがその強みを助長していることもSalesforceがCRMとして優れている要因です。実際、Salesforceはサードパーティから絶大な支持を得ています。AppExchangeにはほぼすべてのニーズを満たすアプリが揃っており、どれもチームの統合と同期を促進します。以下の8つは、営業分野以外の用途でお薦めのアプリや機能です。

1.SalesforceLabs

Salesforce Labsは、Salesforce従業員がカスタマーコミュニティのために構築した無料アプリです。さまざまな規模や業界のお客様との共同作業から得たヒントをもとに、単純なユーティリティから総合的な垂直ソリューションまで幅広

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第6章

く揃っています。使用料はかかりませんが、未管理パッケージであるためコードは表示されており、編集可能です。

2.AppExchangeDashboardパック

Salesforce Labsアプリの中で最も有名なのは、おそらくAppExchange Dashboardパックです。この無料パッケージには、ダッシュボード、数十種類のレポート(営業、マーケティング、サポート、サービス用)、Salesforceの社内普及率測定ツールなどが含まれています。

Salesforceを新規に導入する際、CloudKettle社がインストールする最初のアプリでもあります。ゼロから構築するには何時間もかかるパフォーマンス表示機能にも、視覚的なダッシュボードから簡単にアクセスできます。

3.Trailhead

Salesforceの新規ユーザーや活用範囲を広げたい場合は、Trailheadが役に立ちます。どこから始め、どう進むべきかについて思い悩むことなく、スムーズに馴染むことができます。

企業の中ではある従業員が管理者ロールを担い、Salesforceに関する質問を集中的に受けることがよくありますが、Trailheadを使えば、社内の誰もがSalesforceをマスターできます。管理者、ユーザー、ディベロッパーとすべての層を対象とするSalesforceの無料トレーニングシリーズやモジュールが揃っています。

4.カスタマーサポートとサービス

Salesforceの主要製品は、顧客引き留めという重要なニーズもカバーします。そのためのネイティブ機能が「Cases」です。Salesforceのケース管理機能を使うと、顧客の問題を顧客レコード上で直接アタッチし、追跡、確認できるため、リーダーやサポート、さらには営業担当まで、チームの所属メンバー全員が顧客の動向をよく把握できます。

Casesの用途は顧客にまつわる問題にとどまりません。Salesforceの自動化プロセスを使用すると、新規顧客がオンボーディング、トレーニング、販売後のフォローアップ、定期チェックを必要とする場合、自動的にケースが作成され、カスタマーサクセスチームに割り当てられます。

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スタートアップ企業にとってのCRMのメリット

5.AgileAccelerator

社内でアジャイル手法を採用しているのであれば、バックログやスプリント、ユーザーの体験談、不具合などをSalesforceと同じ方法で管理できるように構築されたアプリを活用できます。Agile Acceleratorは、社内のディベロッパーと別のロールを担当するチームがアジャイルプロジェクト管理のフレームワークを共同で推進する際に役立つAppExchangeの無料アプリです。

6.プロジェクト管理ツールの統合

プロジェクト管理プラットフォームは営業チームでは使用する機会がないかもしれませんが、他のチーム、たとえばマーケティング部門ではおそらく使用するはずです。Salesforce Labsの無料アプリ「Milestones PM」は、プロジェクト、マイルストーン、タスク、中断タスク、遅延タスク、時間と費用予算など幅広い要素を追跡するのに便利です。シンプルなインターフェース、ガントチャート、テンプレート、詳細レポートを備え、Chatterも統合されています。

7.マーケティングキャンペーンの追跡

Salesforceは「ソース」と「キャンペーン」という独自のコンセプトを持つ点で、Google Analyticsと似ています。こうしたコンセプトを用いることで、マーケティングの成功事例だけでなく、同じくらい重要な失敗事例も追跡できます。

リードを得た場所は重要ですが、特定のソースを優先させる弊害も生みます。現代の消費者は驚くほど情報通で、じっくりと買い物をします。ですから、1人の見込み客が数か月のうちに多くの媒体を通じてアプローチを受けることがあります。

Salesforceは、マーケティングキャンペーンの進行状況をトラッキングする機能や、開始日、終了日、費用などの詳細を記録する機能を備えています。キャンペーンのトラッキング機能を適切に使用すれば、マーケティングメール、フォームの送信、展示会といった接触の機会がSalesforceに記録され、営業パイプライン、売上のほか、マーケティング担当者が何よりも知りたいキャンペーン別の正確なROIデータをレポート形式でマーケティング担当者やリーダーに提供することができます。

8.内部コミュニケーション

Salesforceのライセンスには、内部ソーシャルネットワークのChatterへのアクセスが必ず付属します。FacebookやTwitterに似たインターフェースを持つ

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第6章

Chatterは、案件、顧客との問題、見込み客など、Salesforceに関わる多様なトピックについてスタッフと対話するうえで非常に効率的な手段です。そのうえ、Salesforceのライセンスを持たないスタッフもChatterのユーザーに無料で追加できるため、実質的には無料の社内コミュニケーションツールとなっています。

スタートアップ企業のためのCRMCRMが複雑な営業プロセスを持つ成熟した企業専用のツールであった時代は

過去のものとなりました。スタートアップ企業もCRMを活用して、予測される5つの課題を克服する必要があります。その5つとは、営業チームの増員、パイプラインデータに対する投資家の要望、営業生産性についての有益なデータ、意思決定のための正確な情報、今後の採用見通しです。

CRMツールとしてSalesforceを選べば、AppExchangeの無数のアプリを活用できるため、社内の営業以外の部署でも顧客データへのアクセスが可能となり、スタートアップ企業の成長にとって何よりも大切な「お客様」という財産のニーズに社員全体で応えられるようになります。

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効果的なマーケティングキャンペーンを企画する

効果的なマーケティングキャンペーンを企画するAmanda Nelson

 Nelson氏は、SalesforceでAppExchangeのコンテンツマーケティングとコミュニティのマネージャー職につく前は、Radian6やRinglead社をはじめ数々のスタートアップ企業においてコンテンツマーケティングの専門知識を深めてきました。この章では、デジタルマーケティングの専門家としての経験を活かして、スタートアップ企業に効果的なマーケティングキャンペーンの企画、実行、管理方法を伝授します。

優れた製品は企業を成長させます。ただ、製品の認知度を飛躍的に高めるのは、優れたマーケティングキャンペーンにほかなりません。認知度の向上、リードの創出、案件の成約と目的は異なっても、マーケティングキャンペーンでは、目標を達成(そして超越)するために戦略、戦術、テクニックを結集させます。この章では、効果的なマーケティングキャンペーンの企画についてあらゆる面から考察します。

ステップ1:オーディエンスに対する理解を深めるブログ記事の投稿、Facebook広告の展開、プレスリリースの発表をする前に、

オーディエンスの願望を知る必要があります。発信相手や、発信する理由を自問してみましょう。統計にもとづく幅広い普遍的なペルソナを作りあげて、オーディエンスを理解したと思いがちですが、マーケティングにはさまざまな要素が複雑に絡み合うため、大規模なキャンペーンで本命オーディエンスを狙い撃ちするのは不可能です。

Software as a Service(SaaS)のマーケティングキャンペーンでは、オーディエンスを理解することが成功のカギを握ります。現状の課題、使っているハッシュタグ、つながりのある同僚などを分析するのです。分析したうえで、その具体的なニーズに効果的なマーケティング活動とコンテンツを展開します。

以下の表では、マーケティング活動において、オーディエンスへのアプロ—チ方法が最近どのように変化したかをまとめています。

第7章

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第7章

従来の対象者アプローチ 新しい対象者アプローチ対象者層:CRMを利用する18 ~ 24歳の営業担当

サイコグラフィックス:新しいテクノロジーに積極的なタイプの人は、意思決定を行う前に自らオンラインで調査する。同僚とコミュニケーションを図り、平日は熱心に働き、週末はハイキングなどのレジャーを楽しむ

トップダウン式の対象者指示:マネージメントから割り当てられた対象者、製品など

ボトムアップ式の顧客アドバイス:顧客の意見を参考にして求めている情報を見出し、対象者の意見をマネージメントに提案

自分の目標に焦点を絞る:前月比でACVを20%増加させる

顧客の目標に焦点を絞る:キャリアアップ、雇用の促進、手作業を減らすプロセスの自動化

B2Bのメッセージ:製品のメリットを対象者に紹介する

P2Pのメッセージ:製品のメリットに関して顧客の感想や体験談を共有してもらう

表で示すような変化を遂げるために、オーディエンスの志向と願望に注目します。オーディエンスの好みを知りたければ、具体的に質問するしかありません。質問する際は、つい会話の主導権を握りたくなりますが、マーケティングキャンペーンを企画する初期段階では、相手の話に耳を傾けることが重要です。聞き手に徹しオーディエンスを理解することが、今後の成果につながります。

オーディエンスとの対話からペルソナが浮き彫りにオーディエンスを知るためにはどのように話を聞いたらよいのか、その方法を

練習する機会を以下にいくつか挙げます。

・ 営業デモンストレーションやカスタマーサービスの電話対応に同席する・ 顧客が関心を寄せるイベントに出席する(Salesforceユーザーグループ会

議、ネットワーク作りのイベント、同窓会など)・ 自社や競合他社のコンテンツを精査する・ 組織のキーパーソンと面談する・ 顧客と対話する・ 元顧客と対話する

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効果的なマーケティングキャンペーンを企画する

上記のような対話から有益な情報を選別したら、それをもとにした疑問を自分に問いかけて、マーケティングキャンペーンの枠組みを作りあげます。自問する際は以下の点を考慮します。

・ 顧客はどんなことに満足するだろうか。・ 最もよく話題にあがった課題とは。・ 自社製品と相性の良いのはどのペルソナか。・ どのような言い回しやフレーズが特に使われていたか。・ どのコンテンツがよく共有または活用されているか。・ 上記質問の答えの参考となるのはどのタイプのコンテンツか。

社内外のキーパーソンと対話し、上記の疑問を自分に問いかけ、学んだことを分析するプロセスが完了すれば、オーディエンスへの理解はより深まったと言えるでしょう。次は、理解したことを織り込んだペルソナを構築します。以下はAppExchangeのペルソナの例です。

アプリの活用範囲が広いSalesforceの管理者たちSalesforceの管理者はオーディエンス攻略の最初のハードルです。管理者は、社内の人材のニーズと要望に対処し、すばやく効率的に実現させるためのソリューションを探ります。愛猫にSalesforceにちなんだ名前をつけるほどSalesforceに入れ込んでいたとしても、その立場ゆえに、責任も重くなります。管理者の任務は、課題とその解決にどう取り組むかの連続です。

このペルソナを絞り込みましょう。管理者の絵を描いたり、ホワイトボードにスケッチしたり、会議室の壁に顔写真を貼ります。管理者はマーケティング活動の主軸となるだけでなく、ビジネス全般にとっても重要です。管理者を抜きに意思決定を下すことはできません。何につけてもオーディエンスを主軸に据えることが大切です。

ステップ2:キャンペーンテーマを確立するキャンペーンでは、オーディエンスのビジネス上の課題に対処するテーマを定

めます。オーディエンスが最も懸念している課題から、自社の製品で解消できるものを選びます。

オーディエンスのために行動しているのだと、肝に銘じます。オーディエンス

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第7章

の役に立たなくてはなりません。製品はオーディエンスのために作られるのであり、製品のためにオーディエンスが作られるのではありません。キャンペーンテーマでは、オーディエンスが手にする成功について示し、製品の使用によりビジネスの成長がより加速することを実証します。

以下は、前述したSalesforce管理者向けのキャンペーンテーマの例です。

 非効率な日常業務から社内の各部門のスタッフを開放するアプリについて、その実力をSalesforce管理者に実感してもらうことを主軸に据える。組み込まれたレポートやダッシュボードといった小規模な機能向上から、瞬時に実行されるプロジェクト管理や総合的人事ソリューションまで、Salesforceがアプリを使って日々を充実させる方法を示す。さらにハッシュタグ「#awesome」を管理者に追加する。

キャンペーンのタイミング

前述のとおり、オーディエンスのペルソナのタイプは1つにとどまりません。それが当然です。おそらく、オーディエンスの調査結果でこの点は浮き彫りになります。たとえば、製品を使用する顧客のタイプが多岐に渡ることも明らかになるでしょう。前述のSalesforce管理者の例は、Salesforce AppExchangeの数多いオーディエンスタイプの1つにすぎません。確かに管理者は重要ですが、Salesforceのどの顧客もアプリの恩恵を受ける点では同じです。

では、さまざまなタイプのオーディエンスを対象としたキャンペーンはどのように企画したらよいでしょう。答えは単純です。企画しません。オーディエンスのタイプは1度に1つに限定します。オーディエンスのタイプがいくつであっても、それぞれに独自のキャンペーン、テーマを設け、各グループの課題に効果的に的を絞り対処します。各キャンペーンに独自の日程と要点を定めてから、次のキャンペーンを立ち上げます。このルールに従うと、社内でも社外でも対処しやすいように内容が整理されて、キャンペーンのスケジュ—ルが確定します。以下に一例を挙げます。

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効果的なマーケティングキャンペーンを企画する

対象者 キャンペーン 立ち上げ 追加プロモーション

Salesforce管理者 管理者が気に入るアプリ 第3四半期 第4四半期

小 規 模 ビ ジ ネ ス のリーダー

ビジネスを促進するアプリ

第4四半期 第1四半期

営業リーダー 営業の生産性を高めるアプリ

第1四半期 第2四半期

キャンペーン日程は次の2つの理由から重要です。1つ目の理由は、各ペルソナとキャンペーンが主役となる期間が定まります。マーケティング予算、リソース、労力を対象に集中して投入することで、成果が生まれます。的を絞ったメッセージは、対象とするオーディエンスにはっきりと確実に伝わるため、興味をかきたてられたオーディエンスは、企業のWebサイトを経て、製品に熱心に関心を寄せるようになります。

2、3か月後には次のキャンペーンを立ち上げる準備が整います。ただし、最初のキャンペーンもある程度の規模で継続する必要があります。これがキャンペーンの第2幕となります。新鮮味を失っていない限り、開始日から3か月経過した後も、最初のキャンペーンをさらに1 ~ 2か月継続します。

ステップ3:戦術を定める理想的なマーケティングとは、誰もが興味をひかれ、役に立ち、ヒントが得ら

れ、決まりきった日常を変えてくれるものです。マーケティングが効果を発揮するには、キャンペーンの戦術要素を忠実に実行することが不可欠です。

実行には2つの手順があります。

1.戦術を特定する。たとえば、eBook、ウェビナー、ブログ記事。2.構成を決める。たとえば、インタビュー、既存コンテンツの編集。

—般的には1つ目の手順が重視され、2つ目はあまり重視されません。キャンペーンの戦術を特定したとしても、それぞれの戦術の最適な構成をじっくり検討するとは限りません。ブログ記事は、キャンペーンの主な内容を後押しする役割に加え、それ自体、画期的で示唆に満ちたものとなる可能性があります。発表したばかりのeBookについて宣伝するだけの記事もあるでしょう。とはいえ、構成をおろそかにすることはできません。

効果的、独創的、画期的なマーケティングでは、戦術の項目と構成のバランス

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第7章

がよく取れています。

1方策:何を行うか? 2構成:どのように実行するか?eBook 10の質問を10人のソートリーダーに

尋ねます。

ブログ記事 5つの質問への回答を使ってブログ記事を作成します。

ソーシャル投稿 最も影響力があるソートリーダーの意見を引用します。

オンラインセミナー 3人のソートリーダーとの談話を実施します。

振り返ってみましょう。ウェビナー、eBook、ブログ記事、ソーシャルメディアへの投稿を利用するとどうやって決めましたか?ソートリーダーにインタビューするとなぜ決めましたか?理由を分析しましょう。

戦術を選ぶ

最初に主役となるコンテンツを選びます。説得力があり、目標を超えるための原動力となるものです。時間、予算、リソースの大半がこのコンテンツに費やされますが、成果も最大となります。主役コンテンツは目標に応じて決まります。

目標 コンテンツのフォーカス認知 SlideShare、ポッドキャスト

リードの獲得 eBook、オンラインセミナー

無料トライアルと早期購入 お客様事例、製品動画

主役が決まったら、それを支える脇役が必要です。この段階で、戦術が威力を発揮し始めます。宣伝もせずにeBookを公開したところで、森で1本の木が倒れるようなもので誰も気づきません。主役コンテンツを広め、サポートする戦術項目の例としては以下が考えられます。

・ ブログ記事・ ブログへの寄稿記事・ ソーシャルメディアへの投稿・ 社内ソーシャルネットワークでのシェア(Chatterなど)

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効果的なマーケティングキャンペーンを企画する

・ コミュニティでのシェア(LinkedInグループ、Salesforce Successコミュニティなど)

・ コンテンツハブとリソースセクション・ 育成ジャーニー・ メール・ 有料ソーシャル広告有料検索・ ディスプレーバナー広告・ キャンペーンの外部関係者(顧客、見込み顧客、ソートリーダー、パートナー

など)との接触

上記すべてを結集させると、どの戦略も大きな目標達成に帰結する効果抜群のキャンペーンが誕生します。ただし、これほど戦術が多数あると、焦点を定めることが重要となります。多ければよいというわけではありません。以下の基準にもとづき、最良の戦術を選んでください。

・予算:資金はありますか?・リソース:十分な人員が揃っていますか?・時間:全部完了させるだけの時間がありますか?・効果:その戦術は過去に効果的でしたか?

最初は、思いつく限り最も壮大で大胆なキャンペーンを計画して、大規模に始めることをお勧めします。その後、上記4つの基準をもとに現実に合わせて絞り込み、本当に重要で実行可能な要素を決めます。つまるところ、キャンペーンでは常に可能な範囲で全力をつくす必要があるということです。

構成を選ぶキャンペーン戦略は緻密に策定しました。自社や他社で過去に効果を上げてき

た戦術を総動員した申し分のない戦略です。時間、予算、リソースについても問題ありません。この段階に達したら、次は構成を決める番です。

eBookの企画、ブログ記事の執筆者など、コンテンツが情報豊富で他と連携するものであれば、オーディエンスが拡大、進歩、成功する可能性は高くなります。構成は、オーディエンス側と企業側の2つの観点に分けて練り上げます。

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第7章

オーディエンス向けの構成eBookをコンテンツの例として、構成を練り上げるうえで参考となるアイデア

を以下にまとめました。

対象者の価値:誰を信頼しているか?

対象者の興味:どのように情報を取り入

れているか?

価値+興味=アプローチ

ピア eBook お客様事例の動画

ソートリーダー ブログ記事 ソートリーダーに聞いた10の質問に関するインタビューブログ記事

ブランド eBook 関連組織との提携eBook

ざまざまな価値とアプローチを組み合わせることで、オーディエンスを惹きつける隠された構成を突き止めることができます。

以下は、AppExchangeのSalesforce管理者をオーディエンスとするキャンペーンで効果的な公式です。

対象者の価値:誰を信頼しているか?

対象者の興味:どのように情報を取り入

れているか?

価値+興味=アプローチ

ピア eBook Salesforce管 理 者25人のお気に入りアプリを紹介するeBook

ブランド向けの構成構成を練り上げる2番目の観点が企業の予算、リソース、時間です。こうした

要因が理由でキャンペーンをフルに実行できない場合は、構成を練り直す必要があります。eBookへのアプローチを決める場合を例に、予算、時間、リソースを以下の方法で検討します。

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効果的なマーケティングキャンペーンを企画する

予算/リソース 時間 アプローチ低 低 実績の高い5つのブログ記事を5つの

章として紹介するeBook

低 高 ソートリーダーへのインタビューから得た5つのベストプラクティスをまとめたeBook

高 低 業界を代表するゲスト執筆者を選出し、書かれたeBook

高 高 10人のソートリーダーへのインタビューから得たインサイトに基づいて書かれたインタラクティブなeBook

各ステップを結合させる前述の各ステップ(オーディエンスに対する理解を深める、キャンペーンテー

マを確立する、戦術を定める)を分析すると同時に、オーディエンスを主軸に据えて行動することで、今までで最も充実した効果的なキャンペーンができあがります。一流のマーケティング活動を実践、実行する方法をチームに示し、オーディエンスを鼓舞、刺激して、スタートアップ企業のジャーニーに加わってもらいます。

SalesforceCampaignsキャンペーンの管理、追跡、レポートにはSalesforceのアプリが役立ちます。

Salesforce Campaignsを使用して社内の取り組みを管理、追跡、分析すれば、分析用データにアクセスし、チャネル別にキャンペーンの成果を追跡しながら、キャンペーンの目標を確実に達成することができます。Salesforce Campaignsの詳細については、『キャンペーン管理実装ガイド』を参考にしてください。

マーケティングキャンペーンに取り組む間、革新的なコンテンツを作成、パッケージ化する一方で、その過程を楽しむことで、自社を不可欠な存在としてオーディエンスに印象付けましょう。

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第8章

ソーシャルセリングによる営業活動の変化Jill Rowley

 ソーシャルメディアチャネルを活用して見込み客や顧客にアプローチするソーシャルセリングという手法は、ほんの数年前まで「あれば望ましいもの」でしかありませんでした。しかし、今ではあらゆる主要ブランドにとって、ソーシャルメディアは無くてはならないものになっており、こうしたブランド企業は、顧客との関係を管理するためにソーシャル全般を活用したビジネス戦略を立てています。ソーシャルメディアの諸機能が充実し、あらゆる企業がソーシャルメディアをフル活用できるようになるには、まだ多くの課題が残っていますが、時代の流れが変わったことだけは確かです。本章では、ソーシャルセリングが重要であることの理由と、ソーシャルチャネルの普及率の高さを利用して見込み客や顧客とのつながりを深め、最終的にビジネスを拡大する方法について、Rowley氏が分かりやすく説明します。

近年、新たな営業支援イニシアティブが台頭してきましたが、ほとんどの企業ではまだ20年前と同じ方法で営業活動を行っています。

私がお話ししようとしているのは、従来の営業を自動化するための方法ではなく、購入を決意させるまでのプロセス全体を一から見直すべきだという話です。

私たちの営業手法には、以下のいずれのルールも当てはまりません。

・ 営業とは、相手を説得して何らかの行動を起こさせる行為である。・ 営業ノルマがあるから、営業を成功させることができる。・ 顧客との関係より取引の方が重要である。・ 営業プロセスと比較したテクノロジーの価値は、他部門に比べ低くなってい

ます。・ 営業イニシアティブは、必ず人の行動がきっかけとなって始まる。

つまり、私たちはこうした考え方すべてをあらためて考え直すことができ、またそうする必要があるということです。

旧来の営業は、営業とはモノを売ることだという考えにしばられていました。しかし、新しい営業手法では、まったく新しい思考プロセスを辿ります。つま

第8章

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

り、メリットがもたらされる理由とタイミング、方法を、まず購入者に説明するのです。

この新しい営業プロセスを成功させるためには、真の変革、それもデジタルを最大限に活用した変革が必要です。デジタルを活用すれば、勘や憶測に頼ることなく、データ、人工知能、予測モデリングに基づいて営業プロセスを定量的に分析し、予測できるようになります。

もっと売れと担当営業チームを怒鳴りつけたところで、このような成果を得ることはできません。営業担当を増員し、電話や訪問、メール送信の数を増やしたとしても、無理でしょう。平均的な新人営業担当は一人前の生産性を発揮できるまでに9 ~ 10か月かかるうえ、営業ノルマの半分も達成できません。半年もの間、プログラムを書くことはおろか、ソフトウェア開発にまったく貢献できないようなエンジニアを採用することなど想像できますか?

ここで、方向性の異なる2つのステップを提案します。まず、従来の営業戦術からソーシャルセリングへと考え方をシフトします。次に、ソーシャルセリングはテクノロジーの力をもっともシンプルな形で具体

化したものであり、ビジネス全般(特に営業の)性質を変えるということを理解します。本章ではソーシャルセリングについて紹介します。具体的な方策も一部ご紹介しますが、そのすべてをお伝えするわけではありません。

当然ながら、どんな会社も売り上げがなければ存在する理由がありません。デジタル変革が終わってから新たな営業アプローチを考えるのでは遅いのです。最初から営業を中心にした変革が必要です。「信じてください。これがもっともお得です」というタイプの押しつけがましい

営業から「具体的にはこうした成果が得られます」と説明する営業にシフトする必要があります。営業担当者は、まず現状を説明し、購入後に何がどう変わるのかを説明し、購入者にどんなメリットがもたらされるのかを明確に説明できなければなりません。

営業トークを変えればよいという単純な話ではありません。テクノロジー、それも高度に洗練されたデータ収集/解析テクノロジーを採用し、現実に基づいて購入を強く意識させるのです。現実的なデータや情報にもとづいて購入を決める方が、購入者にとっても得策だからです。

表やグラフをツイートすればよいという話でもありません。デジタル戦術とソーシャルセリングを組み合わせ、見込み客をより高確率で実際の収益につなげること、情報収集中の購入検討者が営業担当者の存在意義を認め、実際に価値を提供してくれる相手として認識するように促すこと、最終的にはしっかりしたつ

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第8章

ながりを築き、収益を伸ばすことについて話しています。見栄えと言葉巧みな話術だけで、並み居る競合他社を制し、売り上げを伸ばす

ことを想像してみてください。現実の運用パフォーマンスと、機器の修理やアップグレードの最適なタイミングをデータで示す競合に勝てるでしょうか。到底不可能です。

営業を置き去りにしたデジタル変革など、そもそもあり得ません。企業にとっては自殺行為です。

ソーシャルセリングにはさまざまな定義がありますが、私は次のように定義しています。

ソーシャルセリングとは、購入者、購入検討委員会、購入者の判断に影響を与え得る人物について調査するために、ソーシャルネットワーク(ソーシャルメディアではない)を活用することです。目標は購入者との関連性を深め、維持すること、収益向上に役立つ関係を構築することにあります。初期のソーシャルセリングは、さまざまなソーシャルネットワークを活用し、購入者、情報を持っていて購入者に影響を与える人物を見つけ、考えを聞き、関連性とつながりを築き、つながりを深め、広げていくことを指していました。時が経ち、今の営業担当には、ソーシャルネットワークを使って購入者にアピールするという方法もあります。すなわち、有益な情報を提供している場所を購入者に教えたり、購入者に役立つコンテンツや情報を共有するという方法です。

ソーシャルセリングの5本柱

1.経歴書よりも、ソーシャルでの評判を高めることに注力する

わかりやすくいうと、今購入者は営業担当者がいなくても商品のことを調べ、学習できます。今は顧客中心の時代であり、もはや売り手の時代ではありません。かつてのように営業担当者からの働きかけを待たず、購入者は購入プロセスを始めます。製品に興味を持つ購入者の存在に営業担当が気づく前から、購入者が営業サイクルの途中まで進むこともあります。

これまでとは違い、顧客には多数の選択肢があり、顧客の要望は大きな力を持っています。購入者は営業担当者からのアプローチを待つことを止め、自ら積極的に情報を模索しています。一昔前とは違い、口コミは単なる添え物ではなく、重要な検討事項になりました。ソーシャルメディアやソーシャルネットワークには国境がなく、年中無休です。

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

購入者同士の情報交換が、かつてない力を持っています。誰を信頼するか、自分自身に当てはめて考えてみてください。ブランド、ロゴ、広告、企業メッセージといった売り手側の情報と、自分と同じような他の購入者のどちらを信じますか?

かつて私は、営業担当である自分のことを、購入者にとって一番の情報源と考えていましたが、そのうち気づいたのです。購入者はLinkedInを使い、当社製品や競合製品を使ったことのある数百人もの購入者から情報を得ている、と。コミュニケーションを始める前から、営業担当者が提供する関連情報は疑問視されています。

対応策は、皆さんもお察しのとおり、ソーシャルセリングの活用です。そうすれば、ソーシャルネットワークを上手に使い、顧客の購入プロセスを円滑に進めることができます。つまり、営業というより相手のために何かするスタンスのプロセスで、収益を生み出せるのです。

ある優れた営業担当者は、ソーシャルに参加し、自分のことを知識が豊富で信頼に足る人物、購入者の関係者として位置づけました。そして、知りたいことを何でも尋ねられる相手となり、コンテンツに関する専門家となったのです。どんな情報をどんな相手と共有すべきかもよく心得ています。非常に信頼できる専門家として一目置かれています。

従来の営業担当が獲物を狩ったり作物を育てて収穫したりするように自分から働きかけて顧客を獲得したのに対し、この営業担当には、購入者の方から魅力を感じて近づいてきます。価値ある情報を豊富に提供してくれる人物だからと、購入者の方から集まってくるのです。

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第8章

すべてが信頼につながっています。大勢の情報提供者の中で、ひときわ信頼に足る存在として目立つ必要があります。何に対しても顧客の視点を貫くことが必須です。購入者に営業プロセスを押し付けるひとりよがりは成功しません。購入者がいつでも購入プロセスをたどれるようにすることが成功です。営業担当の仕事は、購入者が購入を決意するまでの道筋を理解し、その工程を円滑化することです。

こうした理由から、ソーシャル営業の第1の柱は、経歴書の内容ではなくソーシャルでの評判を高めることに注力する、ということです。このとき、信頼を得ようとする相手側の目線で自分のソーシャルプロファイルを確認する必要があります。トップクラスの営業成績で自己アピールしたり、また業務履歴をただ書き連ねているだけでは、潜在的クライアントは興味や関心を持ってくれません。

ソーシャルプロファイルは、職務経歴書ではないのですから、購入者や顧客の視点に合わせて最適化しなければなりません。すでに理想の仕事に就いていますよね?では、それを維持できるようにする必要があります。

消費者は自分が知っている相手、好意や信頼を感じる相手、価値を得られる相手から購入しようとするものです。ネットでも現実でも顧客に尽くす人物として自分というブランドを構築し、顧客の信頼や好意を得る必要があります。覚えておいていただきたいのは、「オフラインで評判の悪い人は、オンラインではもっと評判が悪くなる」ということです。オンラインでの振る舞いにはくれぐれも注意してください。

2.つながりを維持する

営業部門にいる人なら、ABC(Always Be Closing;商談を成約に持ち込む)というキーワードを耳にしたことがあると思います。ただし、ソーシャルセリングの時代にはこの方針は通用しません。

私にとってABCとは、Always Be Connecting、つまり常につながることです。今どきの営業環境では、ネットワークこそが営業担当者の真の財産です。成約ではなく、つながることを目指して、顧客に接してください。

友人や家族、同僚も、もちろん自分のネットワークですが、こうした関係を超えてネットワークをさらに広げる必要があります。潜在的購入者、顧客、ソートリーダー(オピニオンリーダー)、インフルエンサー、スピーカー、ブロガー、ジャーナリストなどから、今朝電車であっただけの女性までをも含む大勢の人々すべてと、ネットワークでつながるべきです。

情報や知恵を持ち、おもしろく、影響力のある人々と、ソーシャルなつながり

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

を持つための戦略を練りましょう。理由を知りたいですか?それは、魅力にあふれ、強い影響力や優れた能力を持つ人々が集まれば集まるほど、ソーシャルネットワークの価値が高まるからです。心理学の基礎をソーシャルに応用したまでの話です。

ここで、常につながるための戦略の鉄則をいくつかご紹介しましょう。ソーシャルで失敗しないために、次のガイドラインを守ってください。数より質を目指す。LinkedInで500件以上の人とつながることを目指す人は多

く、実際、それは良い目標ですが、つながる人の数を増やすことより、質の良い人とつながることが大切です。ただ数を増やすために、いたずらに多くの人とつながるのは止めましょう。招待相手を選ぶ。第一印象は重要です。大勢の人に同じメッセージを送ってい

ては、手抜きだと見抜かれてしまいます。自分がつながりを持ちたいと願う相手が、自分とどういう共通点を持っているのか見極めましょう。大学の同窓生なら、同窓生だと伝えましょう。共通の人物とつながっている場合は、その人物とどういう知り合いなのか尋ねましょう。どうすれば収益を拡大できる関係を構築していけるか研究してください。

私は、自分のネットワークに加えたいと思う人物について、Googleで簡単な調査をすることにしています。たとえば、GEのチーフコマーシャルオフィサー

(CCO)であるLeeCooper氏とつながったときは、事前に検索し、偉大なコマーシャルオフィサーの条件について彼が語っているインタビュー動画を見つけました。その動画を見ただけでなく、Cooper氏が実際に言及した条件を書き出し、その知識を生かして招待状を作成しました。

モバイルデバイスからLinkedInのリクエストを送信するときは、右上に3つ並んだ点をクリックし、招待をカスタマイズできる[メッセージをカスタマイズ]を選択してください。[送信]をクリックすると、一般的な招待メールが送信されます。

一般論ですが、LinkedInで招待するときのコツは、相手にとって関係があると感じさせることで、無関係な相手から一方的に要望を突き付けられたと感じさせてはなりません。招待が意味するものは、つながりを求め、相手のすばらしさを認め、その個人と関係性を築くことです。友達になったり、交際したりする場合と同じように、関係を育てるには時間がかかります。社内外の人とソーシャルでつながる。今、学んだ招待のコツをぜひ活用してく

ださい。人々が関心を寄せる人物、影響力の大きい人物とLinkedInでつながり、そうした人達のTwitterをフォローしたり、記事を共有したりしましょう。同時

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に新しくつながった人物のフォローしている相手を調べ、フォロー先を適宜自分でもフォローするのは、良い考えです。人々から尊敬される知恵や情報の持ち主は、相互につながり合っています。

これは社外のコンタクト先に限った話ではありません。社内のインフルエンサーを見つけ出し、その人物とつながりましょう。イベントに参加する。大きな会議の場であれ、近くのスターバックスであれ、

実際に人と会える機会は、すばらしいものです。このデジタル時代でも、直接会って話す機会は軽視できません。コーヒーがつながりのきっかけになります。

同時に、オンラインイベントにも参加することが非常に重要です。Twitterでイベントのハッシュタグをフォローし、参加者がリアルタイムで伝

える情報をキャッチしましょう。参加者のツイートにリツイートすると、その場にいなくても、当事者となることができます。ピッチは禁物。LinkedInの招待で、同時にピッチやデモ設定を済ませようとし

ないでください。まずは相手を自分のネットワークに招き、関係を育て初めて相手に声をかけることができます。しばらくは慎重に関係を育みましょう。

自分の中に眠るGary Vaynerchuk氏ばりのソーシャル企業家能力を呼び覚まし、売り込み攻撃をかけたいと思う気持ちを抑え、まずは相手に価値を与え続け、意見やニーズなどを聴き込みましょう。何より先に確固たる信ぴょう性を築き、信頼を築いてください。ソーシャルスパムは禁物。読んで字のごとく、当然のことです。ソーシャルで

誰かとつながるときは、心から関係を築きたいと思う相手のみを選ばなくてはなりません。新たにLinkedInでつながってくれた人やTwitterのフォロワーになってくれた人とは、敬意を込めて付き合う必要があります。本人に無関係なことで邪魔をし、不快にするだけのメッセージを送りつけるターゲットにしてはいけません。カクテルパーティーで未知の人物を相手に、いきなり自分や会社のことを大声でまくしたてたりしないのと同じで、オンラインだからといって失礼な振る舞いは避けましょう。直接会ったことのない相手とつながってもOK。むしろ、そうすることをお勧

めします。ただし、リクエストに自分なりのメッセージを加え、相手のネットワークに自分を加えてほしいと願い出た理由を明らかにしてください。自分ではなく、相手を中心にすえた説明が必要です。

仕事柄、私は自分のネットワークに人を迎え入れるかについて、ある独自の方針を持っています。相手が私とつながること自体を心から願っていれば、誰でも受け入れることにしています。これは万人向けの方針ではないでしょう。違う方

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

針でもかまいません。直接会ったことのない相手からの招待は受けないという人もいます。これは、それぞれ本人が決めることで、断られればそれを受け入れるほかありませんが、頼んでみるだけなら、何も失いません。

3.コンテンツを活用してターゲット購入者とのつながりを強化する

Eloqua社でマーケティング部門を対象とした営業を担当(ハンドル名はJilloquaとEloQueen)していた頃、マーケティング担当者が読む刊行物はすべて読むようにしていました。ただ読むだけでなく、自分のネットワーク内で記事を共有したり、他のユーザーの投稿に対してコメントしたりもしていました。

一見矛盾した行動と思われるかもしれませんが、顧客を支援することを顧客に売り込むことより優先しようとしたのです。それで、顧客の読むものを読み、共有する習慣をできる限り見習いました。そして、顧客の重視するものを把握し、会話が充実するような情報を積極的に提供することで信頼を得ました。

相手の得になることをする点がカギです。しかし、知識を蓄えるだけでは不十分です。もし私が新しい情報を持っているという事実を誰も知らなかったとしたら、助言者として高い信頼を得ることなどできなかったでしょう。

たとえば夫が毎朝『ウォールストリートジャーナル』紙を読む間、私はLinkedInのホームページで他のユーザーのコンテンツについて「いいね!」したり、コメントしたり、共有したりしています。夫は、自分のネットワークに属する人達にとって極めて重要な情報を、この新聞紙から得ていますが、この情報を共有する術を持ち合わせていません。せいぜい記事を切り抜き、誰か一人に送ることしかできないのです。1対多のインパクトは、1対1のそれを大きく上回ります。

コンテンツはマーケティング部門の管轄だと思う人もいるかもしれませんが、ぜひ見方を変えてみてください。実際、現代の営業担当者は、ぐいぐいと契約をもぎ取っていく無機質な存在ではなく、疑似マーケターと呼ぶべき人々です。

現代の営業担当者にとって、コンテンツは通貨に相当するものですが、新しい領域ですから、疑問に思われる点もいろいろあるでしょう。ではここで、よくある質問の中から3つを選んで回答したいと思います。

どんなコンテンツを共有したらよいでしょうか?自社のコンテンツを共有する人は多く、それはそれで結構です。ただし自社以

外のコンテンツも共有してください。ブランドコンテンツばかりを共有してくる相手には、すぐに嫌気が差すものです。

それを避け、他のユーザーのコンテンツ(OPC)で相手の心をつかみましょう。

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他のユーザーとは具体的にどのような人かというと、アナリスト、ブロガー、ソートリーダー、コンサルタント、開業者、専門家など、記事を書いて発表している人なら誰でも構いません。

悩んだときは、ターゲット購入者を観察してください。ターゲット購入者がソーシャルチャネルで共有している話題、購読している刊行物を調べ、メモを作成しましょう。ターゲット購入者が関心を持ち、よく話題にするコンテンツを読み、収集し、わかりやすい形で伝えるといいでしょう。

営業担当者もブログを書いた方がよいのでしょうか?いいえ。文章を書くのが得意でなければ、書かなくてもかまいません。だから

といって、OPCを盛んに探し回り共有する必要もありません。ただし、自分がすばらしいと感じるブログや自分が用意したオリジナルコン

テンツは必ず共有してください。AT&TのSanderBiehn氏は、ブログを執筆して4,700万ドルの取引を成功させました。書くことが好きな人なら、ブログをソーシャルセリングの戦略に組み込むべきです。

記事を読み、共有しています。次は何をすればよいですか?適切なコンテンツを見つけ、共有することは、ターゲット購入者とコンテンツ

を通じてつながるための大事なステップです。そして、見過ごされがちですが、もう1つ重要な要素があります。それは、エンゲージメントです。

ソートリーダーの記事をTwitterで共有するのは良いことです。次は他のユーザーが集めたコンテンツにリツイートしたり、LinkedInやFacebookの投稿に「いいね!」したりしてみてはどうでしょうか。また、LinkedInにブログを連載するのも素晴らしいですが、次は他のユーザーのブログにコメントしてみてはどうでしょうか。会話に参加し、他の人たちの仕事を宣伝するのも忘れないでください。

自分がターゲット購入者と同じコンテンツを集め、共有することからスタートしたやり方は、間もなく他のユーザーに模倣される可能性があります。それでも、その頃には自分が信頼される助言者としての立場を着々と築き、ソーシャルセリングを上手に活用しているはずです。

4.ソーシャルで見込み客の言葉に耳を傾ける

興味もないことを押し付けてくるような営業戦略は煩わしいものです。頼みもしないのに、無節操に送りつけられるメールや電話は要らないと誰でも思います。最初にコンタクトを取る前に、製品やサービスに対する顧客の関心を測る方法が

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

あれば、どんなに良いでしょう。しかしもう、願わなくてもその方法は実在します。それが「ソーシャルリスニ

ング」です。ソーシャルネットワークは、営業担当にとってまさしく金脈に相当するもので

す。ターゲット購入者は、自分の興味、悩み、願望、必要について語るためにソーシャルを利用しているのですから、その情報を確実に取り込めるようにするだけのことです。この新しいリードジェネレーションアプローチが、ソーシャル営業の第4の柱として挙げる見込み客のソーシャルリスニングの基盤です。

まずは製品やサービス、自分が属する会社、業界、その他の関連キーワードが言及されたとき、通知を受けられるよう各ソーシャルプラットフォームで設定しましょう。この方法なら、さまざまな情報が飛び交うソーシャルメディアでも、見込み客を作り出せそうな会話だけを抽出できます。

通知を受け取るよう設定したら、今度は通知を見逃さず、すばやくコメントを書き込めるようにします。明らかにビジネスチャンスだとわかるツイートを見つけたら、そのツイートに反応し、相手の役に立つ形で働きかけます。調査によれば、競合のいる商談では、誰よりも早くリーチすることで有利になります。

ただし、明らかに見込み客と分かる相手に対しては、ただ関わるだけでは不十分です。相談に乗り、協力するよう努め、売り込みを匂わせてはいけません。特定のキーワードが出てきたら、明確な商機がなくても、会話に参加するようにしましょう。

ただ貢献し、手伝うだけで、間接的に製品を紹介したり売り込んだりできます。たとえば、Eloquaの営業担当だった頃、Twitterで「マーケティングの自動化」が登場したらアラートを受け取るよう設定していました。ある日、マーケティング自動化ソフトウェアに関する使用事例がないか質問しているツイートに気づきました。そこで、Eloquaの顧客の成功事例を紹介したページへのリンクを付け、そのツイートに返信する形でツイートしました。このリツイートで、社名を出したり、強く売り込んだりすることなく、Eloquaはこのスレッドに組み込まれました。

とはいえ、私も現実の大変さは理解しています。ソーシャルリスニングには時間がかかり、なかなか直接の因果関係や具体的数量では成果を確認できません。だからといって、後回しにしたり、楽にできるようになってから取り組んだりしてよいものでしょうか?私はそうは思いません。

なじみがなく大変な作業だと思います。それでも、他に方法があるでしょうか?コールドコールなどの外向きの戦略では、効果を出しにくくなっています。

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第8章

InsideView社の調査によれば、知らない相手からのメールや電話には応えない方針のCEOは、全体の90%を超えています。コールドコールは役に立たないが、電話をかけ続けて良い結果が出るのを期待しようとするのは、合理的な対応ではありません。

私なら、ソーシャルメディアから有意義な情報を抽出できるよう今すぐ担当営業チームをトレーニングします。ソーシャルメディアこそ、ターゲット購入者がいる場所なのですから、早くその場に立ちたいと思いますよね?いつか都合よくRFPが舞い込むまで待っていられません。

私は何となくソーシャルメディアが廃れることはないと感じています。今は信頼を築くべくまい進し、ソーシャルリスニングに時間をかけて、将来長きにわたって効果が期待できるようなソーシャル営業手腕を身に付けてください。

5.有効な指標を使う

肝心なのは営業収益をあげることです。担当者と会えた回数ではありません。前月にデモをした回数でもありません。何回電話をかけたかですらありません。

それなのに、なぜ多くの営業部門ではいまだにこういう指標を測定し、報告させるのでしょうか?ソーシャルセリングの時代に活躍する営業部門のリーダーは、こうした重要性の低い数値のしばりをなくし、本当に重要な指標の測定を始める必要があります。これが第5の支柱です。

ソーシャルセリングの定量的評価が難しいのはよく理解しています。ツイート回数に比例して注文件数が伸びるわけではないからです。それほど直接的な関係だったら、どれほど楽だったでしょう。とはいえ、ソーシャルセリングの知恵と収益の指標の間には、はっきりとした相関関係が見て取れます。

 LinkedInのSSI(ソーシャルセリングの指数)が平均より高い営業担当者は、SSIのスコアが平均未満の担当に比べ、四半期ごとに作り出す商談が45%多く、営業ノルマを達成する確率が51%高くなっています。

今日、ソーシャルセリングが収支決算に及ぼすインパクトを直接測定しようとすると困難な場合もありますが、次の主要指標が、ソーシャルな営業活動を評価する際の基準となりそうです。

1.SSI

LinkedInのSSIでは、プロフェッショナルなブランドを構築する、適切な相手

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

とつながる、情報交換を通じてつながりを強化する、強い関係性を構築するというソーシャル営業の4つの側面から、営業担当の能力を評価します。それぞれの評価点は1 ~ 25で、4つの評価点を足した総合点でSSIのスコアが決まります。ここでも、経時的な変動にこまめに目を配る必要があります。

2.ネットワークの規模と質

—般的には、規模が大きいほど望ましいと言えますが、常にそうとは限りません。コンタクト先の質も考量する必要があります。たとえば、部長クラスは何人含まれているでしょうか?サードパーティーのインフルエンサーや専門家はどうでしょう?今日では、ネットワークこそが営業担当者の真の財産です。

3.取引の発生源

CRMに取引の発生源となる項目を追加したら、ソーシャルチャネルを通じた機会がいくつ増えるか考えてみてください。

4.コンテンツの共有

今の市場のツールはどれも、営業担当者ごとにコンテンツの共有状況や効果を測定できる、と宣伝されています。ですが、このレポートの責任を負うのは誰でしょうか?すでに同様のイニシアティブを取っている企業を見て、模範的コミュニケーションスキルを持った強力なチャンピオンを採用すべきではないでしょうか。個人的には、セールス支援部門でソーシャルセリングの指標を管理するのがいいと思います。ただし、他では無理というわけではありません。ソーシャルセリングには多くの部門で取り組むため、ある部門で有効な方策が他でも有効とは限りません。

指標の解析とレポートには時間がかかりますが、無意味な数値の測定を止めれば、驚くほど多くの時間が節約できます。古く無意味な作業を止め、新しい指標に時間をかけましょう。

ただ測定するだけで満足してはいけません。営業部門のリーダーは、ソーシャルセリングの成功を評価し、さらに実践を促してください。社内協力の基盤を活用し、ソーシャルセリングを上手に活用している営業担当者の事例を共有したり、皆に伝わるように評価したり、ソーシャルセリングの月間スーパーヒーローとして優秀な担当の名前を発表するなど、何らかのゲーミフィケーションを取り入れたりしてみてください。ソーシャル営業の実践で得をし始めると、他の営業担当も真似をするようになるため、短期間でソーシャル営業に励む担当ばかりの組織

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第8章

ができあがります。

もっと強い動機が必要な場合もあるかもしれません。こういう動機はいかがでしょう。

もし皆さんが、Hertz社が「窓口手続きを飛ばして直接レンタカーを受け取る」画期的な方式を導入したとき、すでに現役だった世代なら、次の質問を考えてみてください。今まで窓口担当者と話して手続きして、20分もかかったことがありましたか?私はありません。

もちろん列に並ぶのも、担当者が延々と端末に情報を入力するのを見ているのも好きではありません。前の日にトロントで聞かれたことを再度ボストンで聞かれ、答えなくてはならないのも、一向に楽しいとは思えません。担当者がどれほど親切で礼儀正しく、プロらしかったとしても、もうその手続きは不要だとなってからは、喜んで窓口に並ぶのを止めました。

営業を担当する皆さんは、心してください。Hertzの窓口担当者に似た立場に立つ可能性があります。

AI(人工知能)が営業取引を処理する能力は、徐々に高まってきています。実際にはほとんどの取引でAIは不要ですが、ご注目いただきたいのは、テクノロジーは急速に進歩しており、コンピューターで自動処理できる取引の数が増えている点です。私の言葉では信じられないかもしれませんが、あのフォレスターリサーチ社が営業担当のタスクの85%は「自動化できる」と発表しているのです。

AIがいずれは企業の営業努力を後押しする完璧なツールとなること、業務を効果的に調整し、売り上げを伸ばせる真にインテリジェントなツー "を提供して営業チームの力になることは確実です。人間の営業担当の代わりにはなりませんが、データを理解し、活用する営業担当の能力を増幅、強化して、生産性を高め、パフォーマンスを高めるとともに、カスタマーエクスペリエンスを向上するのにも役立つでしょう。

私は今の営業環境を次のようなものと考えています。

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ソーシャルセリングによる営業活動の変化

購入者は2つの候補のうちどちらか一方が欲しいと考えています。そしてできれば、直接レンタカーを受け取ったり、ボタン1つで発注したりす

るなど、極力簡単に手続きを済ませたいと考えています。これらは極力時間をかけず、簡単に物事を済ませたい購入者の心理になじみやすい(障壁の少ない)取引方法です。言い換えると、この購入者にとって営業担当者のサポートは必要ないのです。

ここまででご納得いただけない皆さんも、GEがすでにeBayでモーターを販売している事実からは、納得されるのではないでしょうか。

GEがeBayでモーターを売る時代でも、豊富な知識と能力を持ち、購入者の意図を的確にくみ取れる営業担当は付加価値となります。ボタン操作1つでは1億ドルの企業を売却したりしないでしょう。同様の簡単な手続きでは、デジタル変革に向け、適切な投資方法を相談するコンサルティング会社を雇ったりもしないでしょう。今予測できる範囲では、今後も高額取引では人間によるサポートが必要です。

「営業に行き詰った!」と感じたらまずは落ち着いてください。上記の図のトップにある「ビジネスチャンスの豊

富な分野」で働いている営業担当者の方々は、むしろ少数派でしょう。実際、大半の方は、障壁が多く低額取引の多い市場で働いています。個人的にはこうした市場を「未開の市場」と呼んでいます。

そんな皆さんに考えていただきたい質問があります。あなたはHertzの窓口担

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第8章

当者と同じ、古い時代の営業を続けていますか?営業とは、潜在的購入者を追いかけまわすことだと思っていませんか?購入者から敬遠されていませんか?もしそうなら、提供する付加価値が小さく、購入者の気持ちをコンバージョン、つまりあなたとの購入契約から遠ざけてしまっている印です。

Salesforceの『Salesforce Sate of the Connected Customer』(つながった顧客の現状)レポートに、検討していただきたい統計がいくつかあります。

・ 法人購入者の79%は、信頼できる助言者となってサポートしてくれる・ 営業担当者の存在が絶対必要または極めて重要と考えています。法人購入者

の75%は、2020年までに多くの企業が自社のニーズを予測し、関連性の高い提案をしてくるようになると期待しています。

これは確信を持っていえることですが、これから数えきれないほどのテクノロジー企業、スタートアップ企業が、この未開の市場に乗り出し、いずれこの市場を占領することでしょう。現にSalesforceは、機械学習テクノロジーを搭載したAI――営業業務を効率化、高速化し、高精度な予測機能を備えたSalesforce Einstein――に大きく投資しています。

10年後、上記の図は大きく様変わりしていることでしょう。いちばん下の部分が2倍の大きさとなり、「未開の市場」はごく小さくなっていることでしょう。

そうなる理由は、資金を握る人たち、すなわち購入者が、それを望んでいるからです。彼らは、営業担当がデータを処理する間、手をこまぬいて時間を浪費したくないと考えています。時代遅れにならない選択肢は1つしかありません。上を目指してください。「上」の意味するところは、ここまで話をお読みくださった皆さんのご想像どおりです。このシフトを効果的に実現するには、まずソーシャルセリングをマスターする必要があります。

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AppExchange:MVPへの最短距離

AppExchange:MVPへの最短距離Mike Kreaden

 AppExchangeの初代チームメンバーであるMikeは、数多くのスタートアップ企業や独立系ソフトウェアベンダーと長きにわたって交流を持ち、AppExchange内で配信するソリューションの開発や位置づけ、マーケティングに関する支援を行ってきました。Salesforceのお客様への直売販路としてAppExchangeの利用方法を理解することは、アプリケーションだけでなく企業にとっても成功のカギとなります。本章でMikeは、AppExchangeを利用して顧客を開拓する方法をはじめ、製品や市場に適したAppExchangeアプリケーションやサービスを開発する方法を説明しています。

エンタープライズソフトウェア業界に携わる人であれば、AppExchangeという名称は聞いたことがあるはずです。Salesforceの顧客としてAppExchangeを使用した経験のある人もいるでしょう。AppExchangeマーケットプレイスがスタートして10年以上経つ今では、無数の独立系ソフトウェアベンダー(ISV)が数多くのアプリケーションを出品しています。インストールされたアプリケーションは400万点を越え、AppExchangeパートナーの売上高は数十億ドルに達しています。AppExchangeマーケットプレイスの成功は、どの尺度から見ても明らかです。

DocuSign、Zuora、QuickBooks、Cornerstone、Xactly、MailChimpな どの人気ビジネスアプリケーションやサービスが、アプリケーションエコシステムとして成功しているAppExchange向けにアプリを構築し、AppExchangeを重要な配信経路として活用しているのも当然といえます。

AppExchangeの成功のカギは、Salesforceと統合できる外部アプリケーションを配布している点と、Salesforceの主力テクノロジーによって構築されたアプリを揃えているという点です。Salesforceテクノロジーでは、ロジック、ワークフロー、コンテキストに応じたUIをカプセル化し、データを安全に統合できるため、非常にシームレスな操作が実現します。

AppExchangeは当初、顧客が自分の体験や使用にもとづいてアプリを評価し、スコア付けできる透明性の高いマーケットプレイスを提供するためのものでし

第9章

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第9章

た。顧客が製品やサービスに対してスコア付けできるAmazonやYelpのシステムと同様に、AppExchangeでも、Salesforceエコシステムのあらゆる場所から顧客がアプリケーションを見つけて使用し、スコア付けし、評価することができます。

Salesforceプラットフォームを使って全体を構築するソリューションがある—方で、APIやConnected AppフレームワークなどのApp Cloudテクノロジーを使って他のアプリと統合するソリューションもあります。こうして、外部SaaSの製品やサービスとのフレキシブルな統合を可能にしています。顧客は、ソリューションの提供形態にかかわらず、Salesforce内で使用するために必要な機能を備えるアプリをAppExchangeからインストールできます。

ConnectedAppsSalesforceと併用したいSaaSアプリケーションをすでにお持ちの場合、複数

の選択肢があります。1つめの選択肢は、公開APIを活用して、安全なOauth接続からデータの読み込みや書き込みをすることです。この初歩的使用例で注意すべき点は、APIを自由に使えるのは、エンタープライズと無制限版プラットフォームを持つ顧客に限られるということです。

多数のエンタープライズ顧客が高度なセキュリティ制御ツールを使用しているため、APIがアクセスできるのはAppExchangeのリストに掲載されているような既知の信用できるサービスに限定される点にも注意が必要です。

2つめの選択肢は、connect appsフレームワークを使って、自社サービスとSalesforceとのインテグレーションを強化することです。これにより、アクセス範囲が広がりセキュリティ制御が強化されるため、接続済みアプリがエンタープライズで利用しやすくなります。

この方法でSalesforceと統合済みである場合は、「この統合により顧客はどのような付加価値を得るか?」と自問してみてください。こうした疑問を持つことが顧客を分析するきっかけとなり、おそらく、AppExchangeアプリを通じてSalesforceのユーザー体験で提供すべき追加機能が浮き彫りになっていくことでしょう。

AppExchangeアプリConnected Appフレームワークを使用してコネクター定義をカプセル化した

い、自社ソリューションにSalesforceのネイティブ機能を含めたい、と考えるようになったら、そろそろ自分でAppExchangeアプリを構築してみてもいいか

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AppExchange:MVPへの最短距離

もしれません。Salesforceプラットフォームテクノロジー(Lightning Design System and Force.com等)を使ってAppExchange向けのエンドツーエンドソリューションを作成すれば、そのソリューションはAppExchangeからすぐにインストールできます。

上記の説明を読むと、SaaS接続アプリ向けとApp Cloudテクノロジーで構築したソリューション向けの2つのシナリオがあるように思われるかもしれませんが、実際にはこの2つは結構似ています。次のセクションで詳しく説明しますが、御社のSaaSアプリケーションをSalesforceと統合する作業を行うと、Salesforceのユーザーがどのように製品を使用するのか、どのようなワークフローが最適なのか、といった点を自分で考えることができます。

たとえば、外部サービスを呼び出すボタンを作成することでSalesforceから自社サービスへのアクセスを可能にしたり、Salesforce Waveを活用してレポート、ダッシュボード、解析機能を提供したり、といった工夫を独自に加えられるわけです。こうした追加機能はすべてSalesforceプラットフォームテクノロジーを使って構築し、AppExchangeアプリを通じて提供することができます。

新たなペルソナ「Salesforceユーザー」私は、スタートアップ企業やディベロッパーから、AppExchangeでいち早く

成功するためのアドバイスをよく求められます。通常は、創業者からこうした質問を受けることが多いのですが、私は必ずこう聞き返すことにしています。「御社のAppExchangeアプリは、Salesforceと御社のユーザーに、どのような付加価値を提供できるのですか?」と。これを話の糸口として、アプリケーションの使用状況、アプリケーションが影響/強化/改善/置き換わる既存ワークフロー、Salesforceのユーザー体験などにおける検討すべき点について話し合うことができます。

最初の登場人物は、想定するエンドユーザー、つまりSalesforceの顧客です。顧客は外部アプリケーションやサービスを単独で使用しているのではなく、呼び出しや使用する時点で利用中のSalesforceアプリと連携するように使用しています。そのため、AppExchangeの自社アプリケーション内では、両者を組み合わせたユーザー体験について検討し、内容を練り上げたうえで提供する必要があります。

2番目の登場人物は、AppExchangeの自社アプリケーションをインストールし管理する役割を担うSalesforceの管理者です。アクセス権の提供(権限付与)、アプリケーションの構成、データに関する報告、アプリ間のワークフローの編成

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第9章

をどのように行うべきかについて、周到に検討する必要があります。AppExchangeアプリの開発に結びつく要素についてのこうした知識が得られ

ると、AppExchange MVPマップアウトする際に検討が必要な別の側面があることに気づきます。

AppExchangeで自社のMVPを見つけるMVPの5つの成功要因についてSean Jacobsohn氏が執筆した章を掘り下げる

と、各要因はAppExchangeアプリとリストの属性および特質にマッピングすることができます。

1.顧客の多様性Salesforceは全顧客セグメント(小規模、中規模、エンタープライズ)に浸透

しているため、AppExchangeリストの掲載アプリもすべてのセグメント、地域、国、顧客規模にわたる潜在顧客に見てもらうことができます。

Salesforceのエコシステムは、個人的ネットワーク以外の見込み客に接触する最適な場所です。MVPへの最初のステップでは、基本的であるものの価値が高い機能に対する顧客のフィードバックを入手することに注力します。基本的な機能でも、顧客の大きな弱点を解決するためには必要です。ただ、ターゲットセグメントのニーズを満たす適切な特長と機能一式を見極めるのは容易ではありません。AppExchangeリストにある1つのアプリケーションで適切なセグメントに効果的に照準を合わせるためには、『SaaSスタートアップ創業者向けガイド』初版のJudy Loehr氏が執筆した章に立ち返る必要があります。この章では、適切な登場人物に適切な形で話しかけられるような位置づけおよびメッセージ対策について考察しています。

現在の自社アプリケーションが規模の大小を問わず顧客ニーズを満たすのであれば、リスト全体でこのメッセージを伝える必要があります。この方法は、販売、マーケティング、サービス中のアプリケーションへのシンプルなアドオンには効果的ですが、業界全体や垂直ソリューションにはあまり有効でない場合があります。1つのリスト掲載品で複数のセグメントにメッセージを発信する際、課題に直面したら、その掲載品に適切なセグメントに絞ったパッケージングと価格設定を試行錯誤する必要があるかもしれません。

たとえば、創業初期、Salesforceは品揃えを、プロフェッショナルとエンタープライズという2つのエディションに大別していました。AppExchangeに置き換えると、対象セグメントのニーズを満たす、明白に異なる機能を持つ2つのア

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AppExchange:MVPへの最短距離

プリケーションリストをパッケージ化し、宣伝します。MVPを見つける目的では、最初はセグメント、業界、垂直フローのうち1つだけに集中することをおすすめします。位置づけとメッセージの発信が効果的であれば、対象を絞ったリードを生み出す可能性が高まります。AppExchangeを通じて生み出される他のリードについては、プロセス初期に選別したリードを接触準備ができるまで育成し、将来のターゲット顧客候補とします。

2.エンゲージメントAppExchangeは、自社のアプリケーションやサービスを宣伝するマーケット

プレイスであるだけでなく、Salesforceプラットフォームで実行する完成アプリケーションを開発、パッケージ、配信する役割も果たします。別のパフォーマンスで構築されたアプリケーションについては、Salesforceと連携してターゲットユーザーのニーズを満たすAppExchangeアプリを構築することができます。特定または一連の問題を解決するためには、自社のアプリとSales CloudなどのSalesforceアプリを融合させたユーザー体験を考慮する必要があります。

アプリ開発者は、ターゲットユーザーが利用するSalesforceのワークフロープロセスに沿って自社アプリが提供されることを望みます。一方、エンドユーザーにとっては、問題解決に必要な機能の提供者がSalesforceであるか外部企業であるかは完全に不要な情報であり、アプリが問題を解決するかどうか、もはや不可欠となったアプリが使用開始当初と同程度まで処理能力を改善できるかどうかという点のみが重要です。

Yeswareはその好例です。見込み客への営業活動の効率化を図るツ—ルであるYeswareは、OutlookやGmailの利用を通じて、Salesforceとシームレスに統合します。見込み客が関わるすべての活動(メール送信、クリック、開封、添付のダウンロードなど)は、発生するたびにSalesforceに同期されます。カレンダーイベントもSalesforceで自動更新されます。

こうしたリアルタイムのデータ統合や同期に加え、YeswareのAppExchangeアプリには、メールの効果的な測定や管理、メール返答率の集計が可能なSalesforceのレポートやダッシュボードが付属します。生産性向上やYeswareの使いやすさを体験したユーザーは、手動でデータを同期し続ける従来の方法に戻ることは難しくなります。

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第9章

3.チャーン(顧客離れ)チャーン(顧客離れ)は普及とは逆の現象です。ソリューションは十分普及しな

いと、チャーンに直面するリスクを負います。AppExchangeは、普及率を最大化しチャーン率を最小化するうえで、どのように役立つのでしょうか。

AppExchangeとその基盤となるSalesforceプラットフォームは、Salesforce組織から企業の顧客を直接サポートするためのツールを提供します。たとえば、ライセンス管理アプリ(LMA)を使うと、無料トライアルの実行、ライセンスの追加や削除、AppExchangeリストから創出されるリードの管理が可能になるようにAppExchangeアプリの権限付与を管理できます。こうしたツールをカスタマーサクセス包括プログラムに統合すれば、顧客へのサービス内容を充実させ、ソリューションの普及率向上につなげることができます。

4.コミットメントソリューションが、何度も再発する、あるいは解消が難しい問題の解決に長け

ているほど、契約期間の延長や前払いを顧客と交渉できる可能性が高くなります。MVP発見の初期段階では、長期契約の成約にあまりこだわるべきではありま

せん。顧客からソリューションに対する高い評価を受領するようになったら、既存契約の期間延長や複数年契約への転換を働きかけます。早期に利用を定着した満足度の高いユーザー層は、年間契約や複数年契約の割引インセンティブだけで、月間契約から年間契約に変更するでしょう。自社ソリューションで顧客に価値とメリットを提供し、こうした体験を記録することに注力してください。ですから、カスタマーサクセスの継続的な接点は、こうした価値の提供の徹底や再確認に利用し、契約変更を成功させて顧客からの年間コミットメントを実現する基盤を作ります。

5.口コミ最も効果的なマーケティング手法として、マーケティング担当者が異口同音に

挙げるのは「口コミ」です。昨今、こうした口コミ効果を管理する新分野のソフトウェアが台頭していま

す。Influitiveなどのアドボカシーマーケティングプラットフォームは、この経路の管理により好感度とパイプライン創出が大きく向上することを証明しています。AppExchangeのエコシステムは、無数のエンドユーザーを持つ売上高数十億ドル規模のSalesforceにとって、成功を支える柱のひとつとなっています。AppExchangeマーケットプレイスでは、顧客によるアプリのスコア付けとレ

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AppExchange:MVPへの最短距離

ビューで口コミ活動の促進を図っています。こうしたレビューは、顧客が体験談を共有し、企業に愛着を持ち、製品を愛好しそうな層を特定するために利用することができます。

このエコシステムの重要な構成要素が顧客基盤です。当社のお客様はすべて、Salesforce Ohana(オハナ)の一員です。Ohanaとは、当社ソリューションの開発、提供、使用バリューチェーンに属する全員で構成されるSalesforceファミリーを指します。Ohanaは具体的には、Salesforceコミュニティ全体を指します。ユーザーグループ、インフルエンサー(MVP)、パートナー、従業員のオンラインや現存するコミュニティは、価値や普及率を高め、各顧客企業内やエコシステム全体で前向きな変化を実現しようと、団結して取り組んでいます。

ユーザーグループやMVPは、個人的ネットワーク内の見込み客を網羅したら、次に顧客開拓からスタートするのが最適といえます。ただし、SalesforceのユーザーグループコミュニティやMVPには、正式ルートを通じて、自分の意図を明確にして働きかける必要があります。この2つの見込み客グループは、自分たちがSalesforceに投じた資金で最大の見返りを得ることと、エコシステム全体(外部ソリューションも含めて)で進化することに力を注いでいます。早期得意客やインフルエンサーを含むこうしたユーザーグループには、新ソリューションに対して率直なフィードバックを提供する機会とともに接触するのが、通常最も効果的です。レビューやスコア付けシステムなどのAppExchangeの透明な性質を利用すれば、口コミを充実させ、ソリューションの検証を求める早期顧客の獲得に役立ちます。AppExchangeリスト自体を顧客ストーリー戦略の第一弾とすることもできます。対外マーケティングやプロモーションでのレビューを、見込み客や顧客との間に信用と信頼を築く手段として利用してください。顧客を手厚く処遇し、質の高いソリューションを提供し、フィードバックに耳を傾ける。この3つは、ソリューションに対して好意的なレビューとスコアを受けるうえでの決め手となります。顧客基盤が拡大し、マーケティングミックスに他のリード創出プログラムを導入できるようになっても、SaaSビジネスにとって重要な総合戦略であり続けます。口コミは、規模拡大段階でも初期の顧客開拓段階と同じくらい重要です。

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第9章

LeanAppExchange

製品/市場の適合度に関するSean Jacobsohn氏の理論をAppExchangeをビークルとして実践する場合、このプロセスは次の4つのフェーズに明確に分けることができます。

1.ソリューションの購入顧客の開拓2.初期顧客と共に製品を改良(短い間隔で反復)3. AppExchangeでの提供開始と継続的マーケティング4.ビジネス拡大

SalesforceのISV Enablement担当バイスプレジデントであるTom Cannonは、この4つのフェーズがSteve Blank氏が提唱し、Eric Ries氏が支持した『リ—ンスタートアップ』の次の方法論とほぼ合致することに注目しました。

1.顧客開拓2.顧客検証3.顧客創出4.企業設立

スタートアップ企業から見て、初期の製品開発と顧客開拓段階では機動力とスピードが重要です。そこで、AppExchangeのリストに自社アプリをいつ掲載すべきか、悩むかもしれません。学習段階で早めに掲載すると、接触する見込み客も早期得意客も増やすことができるとお考えでしょう。

理論上は正しいのですが、実際には、AppExchangeの公開リストにアプリを掲載するプロセスには、厳格なセキュリティ審査やソリューションの効果的マーケティングに対する周到な調査が含まれます。MVPにアクセスして、アプリや内部プロセスの強化にしかるべき資金を投じるまで、セキュリティ審査に合格するのは不可能です。では、初期段階でMVPを獲得するにはどうしたらよいでしょうか。

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AppExchange:MVPへの最短距離

その答えは、非公開のAppExchangeリストを使用することです。非公開リストは公開リストとほぼ同じですが、高い実行上限、スケーリング、大規模顧客基盤の管理が可能となるいくつかの機能は除かれます。

公開されているAppExchangeから利用できないため、非公開リストにはセキュリティ審査は必要ありません。URLを通じて非公開リストをターゲット顧客と共有して、アプリのインストール権限者を制御することもできます。こうすることで、初期顧客と連携して、成功の土壌を固め、アプリに対する好意的なレビューやスコアを初期段階で引き出し、顧客検証段階の幕を閉じることができます。

AppExchangeアプリのMVPの獲得を納得したら、公開AppExchangeリストに掲載されるサイドのタスクの準備が整います。MVPが検証されると、公開AppExchangeでのアプリの提供開始スケジュールを立てることができます。このプロセスにはセキュリティ審査だけでなく、プラン作成とマーケティング、営業、サポートとの調整も必要です。

公開AppExchangeに掲載されると、需要創出とリード創出に関してどのような展望が開けるでしょうか。AppExchangeが自社の全体的なマーケティング戦略を販売経路としてどのように強化、改善するかを考えてみましょう。サービス提供開始戦略で、Salesforce MVPやユーザーグループなど、このエコシステムの独自概念をどのように活用しますか。

AppExchangeのエコシステム、および自社アプリにとってのキーパーソンとしてのSalesforceユーザーへの理解を深めるほど、メッセージとアプリの対象は絞られていきます。こうした点は、AppExchangeのエコシステム内でのアプリだけでなく企業の成功にとって、きわめて重要な要因です。

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あとがき

SalesforceIncubatorから起業家への助言Mike Kreaden

 MikeはSalesforce Incubatorの2つの後継プロジェクトを構築、管理するため、2006年から2008年にまでAppExchange Incubatorに携わり、そして現在はSalesforce Incubatorのマネージングディレクター(客員経営者)を務めています。Mikeの主な役割は、スタートアップを指導することです。Salesforceでの15年間に培った経験を生かし、優れたエンタープライズSaaS製品を作り、企業として成長するための方法を伝授しています。

この2年間にわたり、才能あるSaaS起業家や、創業者、ベンチャーキャピタルをはじめ、エンタープライズ向けSaaS分野の経験豊富なソートリーダーと議論を重ねてきました。自分の経験と知識を喜んで共有してくれる人々と膝を交えて話し合うのは、楽しい経験でした。『SaaSスタートアップ創業者向けガイド』第2版を執筆した目的は、できるだけ

多くのSaaSスタートアップ起業家とスタートアップの支援者に、この経験で得た貴重な教訓を共有することにありました。必要な基礎知識やSaaS企業を成功させる極意を、SaaS起業家の皆さんに伝授したいと思ったのです。このプロジェクトは完成形とは到底いえません。ただ、成功者の考え方や戦略を皆さんと共有することで、成功したSaaS起業家と同じように考え、成功をつかんでいただくための基盤を築けたという点では満足しています。結局のところ、製品やサービスだけでは成功できないからです。

Salesforceは、顧客の成功を最優先目標として掲げる最初のエンタープライズSaaS企業でした。成功を収めているSaaS企業は、例外なくこの行動理念に従っています。私たちは、SaaSビジネスモデルの教えに従って、顧客重視の姿勢を貫いています。これは、顧客だけでなく、業界全体にとっても良い傾向です。

私は幸運なことに、数百社ものスタートアップ企業と長年にわたって仕事をしており、現在は、最新のスタートアップイニシアチブであるSalesforce Incubatorを統括させていただいています。現在、このイニシアチブはちょうど折り返し地点に差し掛かっています。スタートアップ14社とEIR(客員起業家)1名から成るチームが、エンタープライズ顧客の生活を一変させる可能性を秘め

あとがき

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Salesforce Incubatorから起業家への助言

たアイデア、製品、テクノロジーに取り組んでいます。どのスタートアップ企業も初期段階(最初の飛躍前)にありますが、中には100社以上の顧客候補を持つ企業もあります。

ここでは、チームメンバーの起業家たちに、スタートアップを模索する中で得た教訓を共有してもらうことにしました。一部の起業家は、ここ数か月だけでなく、起業前に立てたコンセプトを実行するまでの長い期間で得た教訓も披露してくれました。

RayHein、Propel社共同創業者何度かの起業経験を基に、私は創業者が重視すべき関連

分野を、「チームと文化」、「製品と市場」、「チャネルとコミュニティ」の3つに分類しています。成功企業を作り上げるには、

どの要素にも十分に配慮し投資する必要があります。

チームと文化

すぐに協力しあえる優れたスタートアップチームはたやすく見つかりません。スタートアップの初期段階に自己犠牲と忠誠心はつきものであり、こうした難題に対処できる人材を雇うことが最も重要となります。中~大規模企業で共に働いた経験があったとしても、そうした企業とスタートアップ企業では、求められるものが大きく異なります。初期段階にあるチームの基礎となるのは、人生目標、個人的目標、共有ビジョンです。規模が拡大してもビジョンと目的を維持することが非常に重要です。

今日、透明性と信用は、学ぶ文化を培う主な基本要素であり、双方がともにあって効果を増します。優れた企業を作り上げる工程は、砂をガラス製のアート作品に変身させるのに似ています。ガラスの成形には、集中力、スキルのほか大量のエネルギーと高熱が必要ですが、うまく溶け合うことで、思いがけない貴重な作品ができます。

製品と市場

真っ先に助言したいのは、対象市場と競合他社を熟知することです。昨今は、クラウドでアプリを実に簡単に作成できるため、ビジネスモデルや起業後に直面するであろう問題について深く考えずに事業に参入する起業家が多数いるようで

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あとがき

す。そのため、商業化やマーケティング、アプリの完成後に必要となる時間と資金を考えることなくビジネスをスタートしてしまいます。

チャネルとコミュニティ

製品を購入した顧客からフィードバックを得て製品と市場の適合性を見定めるのが、スタート段階にある企業の定石だといわれます。もちろんそれは最初のステップですが、ビジネスを飛躍させるには、明確なチャネル戦略を立て、複数のパートナーを確保して連携体制を築くことが重要だと私は考えます。また、初期段階に製品だけでなく強固なチャネルを構築することに重点を置いた起業家は、パートナーから得られる情報や体験を基に、顧客から学ぶより数倍早く、製品と市場の適合性を検証することができます。

コミュニティという場があれば、チーム全体でネットワークを作り、そのつながりをビジネスに活かすことができます。スタートアップには言うまでもなく、困難が伴いますが、定評あるインキュベーターやアクセラレータープログラムに参加するなどして、ネットワークを拡大すると成功の確率は高まります。多くの人に進んで助言を求め、その体験から学びましょう。大半の人は思いもよらないほど親身になって力を貸してくれるものです。まだ体験していない人もいるかもしれませんが、起業家になり、スタートアップを運営し、失敗を繰り返すうちに、成功することの難しさが改めて身に沁みてくることでしょう。大抵の人は、そうして苦労している人を応援したくなるものです。

TzachiBenayoun、BudMobile社CEO兼創業者当社は何かを実行する際、「世界の動向や現状」でなく、「世

界をどの方向に進ませることができるか」を重視しています。具体的には、インクリメンタリズム(漸進主義)に陥るのを避けます。はるか未来を夢見つつ、足元を振り返るのが、イノベーションと機会の長期的ロードマップを維持するカギとなります。

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Salesforce Incubatorから起業家への助言

WillDinkel、Nova社CEO兼共同創業者SaaS起業家への私のアドバイスを以下の10項目にまと

めました。

1. 周囲を優秀な人材で固めましょう。できれば、関連知識とスキルを備え、自分と同じように時間の価値を理解する優秀な人

材を求めます。Salesforce Incubatorはこの点で非常に魅力的です。Salesforceチームには有能で業界知識が豊富な、目覚しい急成長を経験したメンバーが揃っているためです。

2. 創業者として成功を収めるまでに5 ~ 7年かかる覚悟で臨みましょう。辣腕創業者に必要なのは、実務を通じてのみ培うことができるスキルと経験です。すぐに諦めてしまうようでは、スタート時より悪い状態で撤退するのが関の山です。

3. まずは、最初のハードルを乗り越えましょう。創業資金の調達や顧客開拓などの難問を克服すれば、スタートアップの起業は他の仕事と変わりません。労を惜しまず、思慮深く決断し、関係を維持できるよう連絡を絶やさないことが大切です。そして、こうした努力を根気強く続けるのです。

4. 起業プロセスはいくつかの段階から成り、段階ごとに具体的に成功の度合いを測る尺度がひとつあります。Salesforce Incubatorでは、具体的なマイルストーンを時系列で一覧にしています。現在の段階と尺度は、最優先で把握しておきましょう。

5. 資金を調達できても成功は保証されません。資金調達に成功すればスタートアップの起業が「約束される」わけではありませんが、資金調達ができなかったために起業に失敗した例は数多くあります。

6. 共同創業者は人格で選びましょう。共同創業者とは多くの時間を共に過ごすことになります。活力が得られる人物でなければ楽しめません。

7. 成果より深慮や努力に報いましょう。スタートアップ企業では、見返りは不安定で、進歩は見えにくいものです。一方、「できるだけ生産的に1日過ごせたか?」と自問するのは簡単です。

8. 自分が変わると世界が変わり、周囲にもそうした変化が反映します。ですから、世界を変えるために、規律、スキル、忍耐力、健康を向上

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あとがき

する努力を日々積み重ねましょう。創業1年で数百万ドル規模の企業を作り上げられるか。それは、あなたという人材にかかっているのです。

9. 自分を大切にしましょう。睡眠と食事に気を配り、日中、ウォーキングやランニングを必要とするなら、実行します。土曜日はベッドでNetflixを見て過ごしてもかまいません。オフの時間をしっかり取ることも重要です。なにしろ、あなたは戦場を生き抜かなければならないのですから。

10.楽しみましょう。起業の成功は、幸せで刺激的で充実した人生を送るという人生のより大きな目標の一面にすぎません。

KGCharles-Harris、Quarrio社CEO5つの企業を創業し軌道に乗せた経験から、その難しさを

痛感しています。ですから、誤りを避け、チャンスをつかむ手助けができる優れた助言者は、お金以上の価値があります。優れた助言者の条件は、あなたのビジネスに深く関与してくれる、あなたのビジネスの課題をよく理解してくれる、自分の人脈を活用してくれる、の3つです。こうした条件を揃えた助言者が居れば、ビジネスが成功する可能性は高まります。

では、助言者はどのように見つけて活用すればよいでしょうか。肝心なのは、良質な助言者を見つけその価値を得るには多大な労力が必要だと認識することです。助言者を見つけることに関しては、周到なリサーチと広範なネットワークに勝るものはありません。助言者との有意義な関係が築ければ、真のメンターシップを味わえます。それは非常に個人的で、時間と共に進化する体験です。心を開き、弱さを見せると同時に、自信、戦略手腕、実行力を示すことは、助言者と相談者の両者にとってたやすいことではありませんが、両者に求められる要素です。

こうした関係から得られるメリットに目を向けると、まず、コミュニケーションを取ることにより、助言者は現状、目標とする将来像、そこに到達するための過程を把握することができます。これは、企業の大局的方向性だけでなく、短期的な決断、時には日常の些細な事柄にも当てはまります。

次に、自分の望むことを求める必要性が挙げられます。これは多くの点で、こうした関係の最も難しい側面であり、それぞれの助言者に望む事柄と求めるのが妥当な事柄の両方を理解するには相当の深慮が必要です。行動様式は人によって異なるため、交流方法の標準的なガイドブックはありません。私個人は、メン

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Salesforce Incubatorから起業家への助言

ターの持つ利害と自負心に対する理解を深めようと努め、その内容を踏まえてメンターとの絆を強めることにしています。

助言者の時間を尊重することが不可欠です。有能な助言者は多忙であり、さまざまな角度からかかる重圧と相談に来る多くの人に対処しているのが慣例です。そのため、助言者と関わるときは、先入観やこだわりを捨て、自分の仮定や戦略に対する異論を受け入れる姿勢を保つことが必要です。信念が強く、やや頑固者が多い起業家にとって、これは難題ですが、自分の信念に関わるような反論を受け入れられなければ、助言者の貴重な時間と経験を無駄にする結果に終わります。起業家にそのような余裕はありません。

DeepaSubramanian、Wootric社CEO資金の調達先は、順調なときは強気な態度であなたに責

任を課していても、事態が明らかに悪い方に向かったときには助け舟を出してくれる投資家に限定しましょう。有名

な投資家であれば誰でもかまわない、さらには投資資金であれば出所は問わないと考える起業家も少なくありません。賢い

選択をしましょう。あなたが築こうとしているのは、高い信用と多くの歩み寄りが欠かせない長期的関係なのです。

GilAllouche、Metadata社創業者起業家が避けなければならないよくある過ちとして、内部

的視点で製品を開発し、発売のタイミングを逃すことが挙げられます。Salesforceは、顧客最優先の理念と、その理念に基づきあらゆるものを構築するきっかけを与えてくれます。当社にとって、顧客最優先とは単なるスローガンではありません。当社はビジョンを顧客と共有し、公明正大に顧客と接しています。見返りとして、顧客は当社と製品の方向付けと活動市場への適合強化を後押ししてくれます。

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あとがき

CarterWigell、Ideator社CEOスタートアップ企業の大半が失敗に終わることは周知の

事実です。生き残るためには作戦が必要です。そうした作戦で、方向修正が必要かどうかを見極めるための判断基準を

持たない限り、起業は成功しません。勝者は、次のレベルに達するためになすべきことがわかっています。

KrisMoyse、ProximityInsight社共同創業者多くの起業家が語りたがらない事実があります。それは、

起業は非常に大変だということです。スタートアップの92%は創業3年以内に撤退します。生き残った8%のうちでも、失敗すると考えたことがある企業は99%に達するのではないでしょうか。

私たち起業家を突き動かしているのは、現状を変えたい、という信念です。世界を変えたい人もいれば、業界の仕組みや、人々の交流方法、大事な誰かの生活を変えようとしている人もいますが、どんなに困難でも、私たちは進み続けます。起業は理論どおりにはいきません。それほど簡単ならば、誰もが試み、そして成功するでしょう。成功した起業家の体験談は、どれもバラエティに富んでいます。

事業規模の大小を問わず、すべての起業家の皆さんにおすすめしたいのが、ベン・ホロウィッツ氏の著書『HARD THINGS(ハード・シングス)答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』です。ご自身の起業規模に応じて、内容は拡大あるいは縮小して当てはめることができますが、スタートアップ起業家の真意が書かれていると思います。

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Salesforce Incubatorから起業家への助言

EmilioBernabei、Leankor社CEO起業家は、製品に対する顧客の高い関心を得ることと持

続可能なビジネスモデルを構築することはまったく違う次元のものであると認識したうえで、つねにこの両方にスポッ

トライトを当てる必要があります。

ChuckLiddell、Kapuhonu社創業者自分を苛立たせるものを見つけましょう。細い糸を見つ

けて引っ張るのです。勝機は、その糸に悩まされているのがあなただけでない点にあります。つまり、自分が気になる問題を解決すれば他人にも役立つことになります。

多くの起業家は、万事を変える完璧なアイデアを見つけようと躍起になるあまり、大半のイノベーションはわずかな変化の積み重ねで起きることを忘れています。世界を変えるすばらしいコンセプトをひとつ探すのでなく、身の回りで気になる問題を見つけて、その改善方法を追求しましょう。

このアプローチには2つのメリットがあります。まず、問題点を自分で実感しやすいということです。成功の道筋を描きやすいうえ、アイデアを他人にはっきりと説明できます。次に、ストレスを感じたり、ちょっとした怒りさえ抱くような問題であればあるほど、あなたの熱意も強くなるということです。その熱意に突き動かされて、多くの人があなたに引き寄せられ、あなたを支えてくれるでしょう。

JesseMartinez、AlignSocialVentures社創業者スタートアップの本質は、華やかなものではなく、ハー

ドワークそのものです。何を諦めてよいかを知り、可能なものは活用することが大事です。Salesforce Incubator

の初代EIRである私は、熱意あふれる起業家仲間のほか、Salesforceのさまざまなパートナーに現在囲まれています。こ

うしたパートナーたちも、起業家の皆さんを真摯にサポートし、ビ

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あとがき

ジネスパートナーシップの構築をサポートしています。これは、起業家の成功に欠かせない要素です。

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寄稿者

S alesforce for Startupsは、Salesforceの幅広い製品をスタートアップ企業に把握していただくためのグローバルプログラムです。このプログラムでは、さまざまな起業段階にある企業の製品開発、事業拡大、地域貢献をサポートしています。

このプログラムは、どのような起業段階にある企業様でも無料で参加でき、セルフサービス型Webサイトにアクセスできます。このWebサイトでは、製品を検索したり、進捗を確認したり、Salesforce for Startupsコミュニティの仲間と体験談や成功例を共有できます。

ぜひ、startups.salesforce.comにご参加ください。TwitterやInstagramで@salesforcestartをフォローして、本プログラムの最

新ニュースの確認と更新の予約にお役立てください。

SalesforceforStartupsについて

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Salesforce for Startupsについて

Leyla SekaSalesforceAppExchangeエグゼクティブバイスプレジデント@LeylaSeka

Leyla Sekaは、世界最大かつ業界最長の歴史を持つビジネスアプリのマーケットプレイス、Salesforce AppExchangeの責任者です。SalesforceのパートナーであるスタートアップとISVを、採用活動や製品、市場参入など、さまざまな面でサポートするための重要なプログラムを統括しています。AppExchangeの責任者となる前は、ジェネラルマネージャーとして、Desk.com(Salesforceの急成長企業向けオールインワン型カスタマーサービスアプリケーション)に関与していました。Salesforceでの10年間には、製品管理、製品マーケティング、ビジネスオペレーションと多様な職務を担ってきました。テクノロジー業界で働く女性のための活動や賃金格差の問題に積極的に取り組んでおり、フォーブス誌が選ぶ「Next-Gen Innovator」への選出を筆頭に、数々の輝かしい受賞履歴を持ちます。

Tien TzuoZuora社CEO@tientzuo

Tien Tzuo氏は2007年にZuora社を共同創設し、現在同社のCEOを努めています。急成長のSaaS企業を創設するかたわら、サブスクリプションベースのビジネスモデルの普及活動にも携わってきました。Zuora社を創設する前は、Salesforceの11番目の初期メンバーとして活躍していました。

寄稿者

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寄稿者

Salesforceに在籍していた9年間で、テクノロジーやマーケティング、戦略など多方面で役員職を歴任しました。コーネル大学では電子工学の学士号、スタンフォード大学経営大学院では経営学修士号(MBA)を取得しています。

Mark OrganInfluitive社創業者兼CEO@markorgan

Mark Organ氏はInfluitive社の創業者兼CEOとして、企業中心型からアドボカシーマーケティングへの移行を推進しています。同社は、顧客の支持を集め、リードを創出し、パイプラインを強化して、顧客がアイデアにすぐアクセスできる方策を企業に提供しています。Organ氏は過去、Eloquaの創業CEOとして、B2Bマーケティングに変革をもたらしました。Eloquaはマーケティング自動化ソフトウェアの世界最大手であり、Oracleに8億7,100万ドルで売却されました。Organ氏は、SaaS企業の市場参入に関するコンサルタントとしても活躍しており、担当した企業の数は北米とアジアで、2桁を超えています。

Sean Jacobsohn、パートナーNorwestVenturePartners@sjacobsohn

Sean Jacobsohn氏 は、Norwest Venture Partners社のパートナーとして、エンタープライズクラウド企業での初期から後期にわたる投資案件に主に関与しています。ベンチャーキャピタル業界に入る前は、エンタープライズクラウド企業の役員を13年間務めていました。Cornerstone OnDemand社では、チャネル管理担当VPとして、同社が700万ドルから7,500万ドルに売上を急

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Salesforce for Startupsについて

増させる過程に貢献しました。また、WageWorks社で営業およびパートナー開拓担当VPを務めた経験もあり、在任中には同社の売上高が300万ドルから8,200万ドルへと大幅に拡大しました。Jacobsohn氏は、そのキャリアを通じて、製品と市場を適合させるメリットと重要性を学びました。この2つの要素を適切に組み合わせない限り、クラウドにかかわらずどんなスタートアップも苦戦は免れません。

Adrian RosenkranzSalesforce、SMBマーケティング責任者@AdrianKranz

Adrian Rosenkranz氏は、Salesforceの中小企業マーケティング部門責任者として、カスタマーイノベーションの再考に取り組んでいます。テクノロジーを駆使したソリューションを使って中小企業の成長を支援する熱意に駆られ、同氏はSalesforceでの前職のスモールビジネスグロース部門ディレクターから転身を図りました。Salesforceでは、Work.comの市場参入戦略の立案を支援した経験があります。また、Multiple Myeloma Research FoundationやHBS Kraft Precision Medicine Acceleratorのサポート役として、テクノロジーを精密薬品モデルの発展に活用する画期的方法を模索しています。学生時代にはスタンフォード大学で国際関係学学士課程の学士号を取得したほか、サイエンス、テクノロジー、社会学も副専攻しました。

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寄稿者

David PriemerInfluitive社営業担当VP@dpriemer

科学界から実業界に転進し、ハイテク分野で4度の起業経験を持つDavid Priemer氏は、現在、Influitive社で営業担当バイスプレジデント(VP)を務めています。かつては創業メンバーとしてRypple社で営業担当VPを務めていましたが、同社がSalesforceに買収されたことに伴い、Salesforceのコマーシャル営業担当VP、およびSales Leadership Evangelistのレジデントとして活躍しました。過去には、Varicent Software社の営業オペレーション部門ディレクターと、Workbrain社のソリューションエンジニアリング部門ディレクターを務めた経験もあります。ヨーク大学では化学・大気科学の理学士号を、トロント大学では化学エンジニアリングの理学修士号を取得しています。

Greg PoirierCloudKettle社社長@gregpoirier

Greg Poirier氏はSalesforceのコンサルティングパートナーであるCloudKettle社の社長を務めています。同社はB2B SaaS企業を対象とする営業、マーケティング、カスタマーサクセスの規模拡大サービスを専門とします。Poirier氏はキャリアをスタートして間もない頃に、全国規模の大手映画館チェーンでデジタルマーケティングを行い、同社で初となるソーシャルメディアキャンペーンやEコマース戦略、モバイルチケット販売、クーポン配布などの活動を展開しました。テクノロジー業界でのキャリアをスタートさせたRadian6社(後にSalesforceが買収)では、デジタルマーケティングチームを監督し、チーム拡大に貢献しました。その後、別のスタートアップ企業、

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Salesforce for Startupsについて

TitanFile社およびLivelenz社では役員に就任しました。現在は数社で顧問役、Volta Startup Houseでメンター役を務めるほか、アクセラレータープログラムやインキュベータープログラムでの講演者として引っ張りだこです。

Amanda NelsonSalesforce、AppExchangeコンテンツ&コミュニティ担当シニアマネージャー@amandalnelson

Amanda Nelsonは、SalesforceでAppExchangeの コンテンツとコミュニティを担当するシニアマネージャーです。会議で講演をしたり、著書を出版したりする一方で、ソーシャルメディア学の教授も務めています。Salesforceでは、AppExchangeを通じて顧客やアプリパートナーの成長を支援しており、多数の顧客やパートナーと協力しながら、Salesforceエコシステム向けの啓蒙的で興味深いコンテンツの開発に取り組んでいます。Salesforce入 社 前 は、2011年 に 当 社 に 買 収 さ れ たRadian6社と、データ品質パフォーマンスを手がけるRingLead社(創業当時からのSalesforceパートナー)に在籍していました。

Jill Rowleyソーシャルセリングエバンジェリスト兼スタートアップ助言者@jill_rowley

Jill Rowley氏は、営業のプロフェッショナルであると同時に優れたマーケターでもあります。経営コンサルタントとして6年間従事し、SalesforceとEloquaで52四半期にわたり業績を向上し続けました。2013年にEloqua

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寄稿者

が買収された後は、買収元のOracleで1年間ソーシャルセリング事業を統率しました。現在は主に、講演活動で世界中を飛び回るかたわら、GE、Sprint、Workday、NetApp、CA Technologies、AT&Tなどの国際企業に、ソーシャルセリングやデジタル営業の大規模な変革に関する助言を提供しています。この他、投資家、顧問、取締役としてハイテク企業12社に関与しています。Rowley氏は4人の子供と夫、愛犬トビーと共に、シリコンバレーで暮らしています。

Mike KreadenSalesforceIncubator客員経営者@mikekreaden

Mike Kreadenは、Salesforce在 籍15年 で 数 百 ものスタートアップ企業の起業を支援してきました。Salesforceの初代製品マネージャーとして、最初の公開APIやプラットフォームブランド(Sforce)の運営に貢献しました。Salesforce初のビジネスアプリマーケットプレイス(On Demand Marketplace)の構想と実現に取り組んだ後、技術者によるエバンジェリストチームを結成してオンデマンドアプリの開発に着手し、AppExchangeの基盤固めを行いました。その後、2006年から2008年までAppExchange Incubatorのマネージングディレクターを務め、現在はエグゼクティブインレジデンスとして、Salesforce Incubatorプロジェクトを統括しています。

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スター卜アップ向け

startups.salesforce.com@salesforcestart