s波速度とn値の相関について - chubu-geo.org · 2019-10-28 ·...

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S 波速度と N 値の相関について (株)ジーベック 渡邊 直 1. はじめに 弾性波のひとつである S 波速度は「地盤の硬軟、地質年 代の違いによる固結度、密度、分布深度」などの地盤状況 に影響されるといわれている。実務において S 波速度は、 耐震設計等の地盤モデルの物性値や基盤の設定で不可欠 な要素であり、道路橋示方書の液状化判定の一要素として も関わっている。 S 波速度の決定に際しては、主に原位置で PS 検層によ り測定する方法と標準貫入試験 N 値から推定する方法が 用いられている。しかしながら、日頃の実務においてよく 用いられる道路橋示方書の推定式による推定 S 波速度は、 実測 S 波速度に対して小さい値であると感じることが多 く、また S 波速度に影響を及ぼすといわれている「時代」 「深さ」の要素が省かれていることから過小評価となって いる可能性が考えられる。 本検討では、実測による S 波速度と標準貫入試験 N 値や N 値から推定した S 波速度を比較し、S 波速度と N 値の相 関について考察を行った。 2. データ整理に用いた地盤情報 データ整理に用いた地盤情報は、以下の 3 地点のデータ である。一つ目(以降「菊川Ⅰ」とする)は、静岡県西部 地域にある菊川河口付近の沖積平野における調査結果で、 基盤の固結した洪積シルトが 50m 以深の深部にあり、上部 層および中間層に中位~密な沖積砂~沖積シルト~沖積 砂礫が分布する地層状況である。二つ目(以降「菊川Ⅱ」 とする)も同じく菊川河口付近の調査結果であるが、基盤 の固結した洪積シルトが 18m 付近と比較的浅部にあり、以 浅には軟質な沖積シルトおよび深度方向に密な状態とな る沖積砂が分布する地層状況である。三つ目(以降「静岡 Ⅲ」とする)は、静岡県中部地域にある静岡平野における 調査結果で、全層が沖積層により構成され、沖積砂礫を主 体としながらも沖積シルトや沖積砂を互層状に挟み、硬質 層の間に軟質層を挟むという地層状況である。 3. 検討方法 検討方法は「対数軸とした取得 N 値のグラフと実測 S 波 速度のグラフの比較」「取得N 値からの推定 S 波速度と実 測 S 波速度のグラフの比較」とした。この検討で用いた N 値からの S 波速度推定式は次の 2 式である。 (1) N 値からの S 波速度推定式 本検討に用いた N 値からの S 波速度推定式は「道路橋示 方書の推定式」と「太田・後藤の推定式」である。2 式と も、通常の調査によりデータの入手が比較的容易である要 素により構成されているが、前者は「N 値、土質」の二要 素、後者は「N 値、深さ、時代、土質」の四要素により構 成されており、S 波に影響する地盤状況を考えた場合、前 者はより簡便な構成であるといえる。 ○道路橋示方書の推定式 1) 粘性土層の場合 砂質土層の場合 ○太田・後藤の推定式 2) 表-1 土質区分による係数 4. 検討結果 (1) 取得 N 値と実測 S 波速度の比較 下記のとおり取得 N 値と実測 S 波速度のグラフは比較的 近い形状を示すが、菊川Ⅱの 18m 以深(固結粘性土)で実 測 S 波は大きくなるものの取得 N 値は大きくならない。ま た、静岡Ⅲの 5~15m 間(礫質土部)で実測 S 波は小さいが、 取得 N 値は大きく、過大値の可能性が考えられる。 図-1 菊川Ⅰ取得 N 値 図-2 菊川Ⅰ実測 S 波 図-3 菊川Ⅱ取得 N 値 図-4 菊川Ⅱ実測 S 波 ) 50 1 ( 80 3 / 1 i i Si N N V ) 25 1 ( 100 3 / 1 i i Si N N V 0 10 20 30 40 50 60 1 10 100 1000 深度(m) N値 30㎝換算N値 0 10 20 30 40 50 60 0 100 200 300 400 500 深度(m) S波速度(m/s) S波速度(実測値) 0 5 10 15 20 25 1 10 100 1000 深度(m) N値 30㎝換算N値 0 5 10 15 20 25 0 200 400 600 深度(m) S波速度(m/s) S波速度(実測値)

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Page 1: S波速度とN値の相関について - chubu-geo.org · 2019-10-28 · に対して低い値が得られるが、道路橋示方書式のほうは比 較的実測値に近い値である。18m以深の粘性土部分では2

S 波速度と N値の相関について

(株)ジーベック 渡邊 直

1. はじめに

弾性波のひとつである S波速度は「地盤の硬軟、地質年

代の違いによる固結度、密度、分布深度」などの地盤状況

に影響されるといわれている。実務において S 波速度は、

耐震設計等の地盤モデルの物性値や基盤の設定で不可欠

な要素であり、道路橋示方書の液状化判定の一要素として

も関わっている。

S 波速度の決定に際しては、主に原位置で PS 検層によ

り測定する方法と標準貫入試験 N 値から推定する方法が

用いられている。しかしながら、日頃の実務においてよく

用いられる道路橋示方書の推定式による推定 S 波速度は、

実測 S 波速度に対して小さい値であると感じることが多

く、また S 波速度に影響を及ぼすといわれている「時代」

「深さ」の要素が省かれていることから過小評価となって

いる可能性が考えられる。

本検討では、実測による S波速度と標準貫入試験 N値や

N 値から推定した S 波速度を比較し、S 波速度と N 値の相

関について考察を行った。

2. データ整理に用いた地盤情報

データ整理に用いた地盤情報は、以下の 3地点のデータ

である。一つ目(以降「菊川Ⅰ」とする)は、静岡県西部

地域にある菊川河口付近の沖積平野における調査結果で、

基盤の固結した洪積シルトが 50m 以深の深部にあり、上部

層および中間層に中位~密な沖積砂~沖積シルト~沖積

砂礫が分布する地層状況である。二つ目(以降「菊川Ⅱ」

とする)も同じく菊川河口付近の調査結果であるが、基盤

の固結した洪積シルトが 18m 付近と比較的浅部にあり、以

浅には軟質な沖積シルトおよび深度方向に密な状態とな

る沖積砂が分布する地層状況である。三つ目(以降「静岡

Ⅲ」とする)は、静岡県中部地域にある静岡平野における

調査結果で、全層が沖積層により構成され、沖積砂礫を主

体としながらも沖積シルトや沖積砂を互層状に挟み、硬質

層の間に軟質層を挟むという地層状況である。

3. 検討方法

検討方法は「対数軸とした取得 N値のグラフと実測 S波

速度のグラフの比較」「取得 N 値からの推定 S 波速度と実

測 S波速度のグラフの比較」とした。この検討で用いた N

値からの S波速度推定式は次の 2式である。

(1) N 値からの S波速度推定式

本検討に用いた N値からの S波速度推定式は「道路橋示

方書の推定式」と「太田・後藤の推定式」である。2式と

も、通常の調査によりデータの入手が比較的容易である要

素により構成されているが、前者は「N値、土質」の二要

素、後者は「N値、深さ、時代、土質」の四要素により構

成されており、S波に影響する地盤状況を考えた場合、前

者はより簡便な構成であるといえる。

○道路橋示方書の推定式 1)

粘性土層の場合

砂質土層の場合

○太田・後藤の推定式 2)

表-1 土質区分による係数

4. 検討結果

(1) 取得 N値と実測 S波速度の比較

下記のとおり取得N値と実測S波速度のグラフは比較的

近い形状を示すが、菊川Ⅱの 18m 以深(固結粘性土)で実

測 S波は大きくなるものの取得 N値は大きくならない。ま

た、静岡Ⅲの5~15m間(礫質土部)で実測S波は小さいが、

取得 N値は大きく、過大値の可能性が考えられる。

図-1 菊川Ⅰ取得 N値 図-2 菊川Ⅰ実測 S波

図-3 菊川Ⅱ取得 N値 図-4 菊川Ⅱ実測 S波

)501(80 3/1 iiSi NNV)251(100 3/1 iiSi NNV

0

10

20

30

40

50

60

1 10 100 1000

深度

(m)

N値

30㎝換算N値

0

10

20

30

40

50

60

0 100 200 300 400 500

深度

(m)

S波速度(m/s)

S波速度(実測値)

0

5

10

15

20

25

1 10 100 1000

深度(m)

N値

30㎝換算N値

0

5

10

15

20

25

0 200 400 600

深度(m)

S波速度(m/s)

S波速度(実測値)

Page 2: S波速度とN値の相関について - chubu-geo.org · 2019-10-28 · に対して低い値が得られるが、道路橋示方書式のほうは比 較的実測値に近い値である。18m以深の粘性土部分では2

図-5 静岡Ⅲ取得 N値 図-6 静岡Ⅲ実測 S波

(2) 取得 N値からの推定 S波速度と実測 S波速度の比較

菊川Ⅰでは、5m 以浅で道路橋示方書式が実測値を上回

り、5~20m 間では 2 式による推定値は実測に対して低い

値が得られるが、道路橋示方書式のほうが比較的実測に近

い値である。20~40m では 2式による推定値は実測値に近

いが、太田・後藤式では砂質土で局所的に N値が大きい部

分で実測値を上回り、道路橋示方書式では砂質土 N値の上

限 50 を超える部分で推定値が頭打ちとなり、実測値より

低い値を示す。40m 以深では道路橋示方書式は実測に対し

て低い値、太田・後藤式では粘性土部分が実測値に対して

低い値となる。

図-7 菊川Ⅰ 推定 S波と実測 S波

菊川Ⅱでは、5m 以浅の粘性土部分で道路橋示方書式が

実測値を上回り、5~18m 間では 2 式による推定値は実測

に対して低い値が得られるが、道路橋示方書式のほうは比

較的実測値に近い値である。18m 以深の粘性土部分では 2

式とも実測に対して低い値となり、道路橋示方書式では粘

性土N値の上限25を超える部分で推定値が頭打ちとなる。

静岡Ⅲでは、全体的には 2式の推定値のグラフは、実測

によるグラフの形状と同じような傾向を示すが、5m 以浅

の粘性土部分で道路橋示方書式が実測値を上回る部分が

ある。5~15m間の礫質土部では 2式とも実測値を上回り、

15m 以深の道路橋示方書式では砂質土 N 値の上限 50 を超

える部分で推定値が頭打ちとなり、実測値より低い値を示

し、太田・後藤式では特に粘性土の部分で低い値を示す。

図-9 静岡Ⅲ 推定 S波と実測 S波

5. まとめ

取得 N値・推定 S波速度と実測 S波速度のグラフの形状

は全体的には近い形を示し相関があるものと考えられる

が、2式による推定 S波速度は実測 S波速度より安全側の

値が得られる傾向があり、道路橋示方書式では N値の上限

を超える部分で特に低い値が得られている。一方、礫質土

では実測値より推定値が大きい部分があり N 値の過大評

価の可能性が考えられる。2式の比較では、浅部では道路

橋示方書式、深部では太田・後藤式の推定精度が高い傾向

があり、これは太田・後藤式に時代や深度の要素が含まれ

ていることに起因するものと考えられる。また、太田・後

藤式では粘性土において低い推定値となる傾向があり、粘

性土の係数が小さいことに関係しているものと考えられ

るが、この地域に限定するものかどうかは不明である。

以上より、N値と S波速度には相関があるものと考えら

れるが、推定値は安全側の傾向があり推定精度をより高め

るためには、礫質土の礫あたりによる過大値を補正するこ

とや、道路橋示方書式の N値の上限値の見直しや深度の要

素を考慮すること、太田・後藤式の粘性土の係数の見直し

などが必要であると考えられる。なお、今回は 3地点のデ

ータにより検討したが、今後は地盤データを増やし地域差

や土質との関連の詳細を検討することや、上載荷重を考慮

した N値による検討が必要であると考える。

《引用・参考文献》

1)日本道路協会:道路橋示方書・同解説 Ⅴ耐震設計編,

p.33,2012.3.

2)全国官報販売協同組合:2007 年版 建築物の構造関係

技術基準解説書,pp.444~445,2007.8.

図-8 菊川Ⅱ 推定 S波と実測 S波

0

5

10

15

20

25

30

1 10 100 1000深

度(m)

N値

30㎝換算N値

0

5

10

15

20

25

30

0 200 400 600

深度(m)

S波速度(m/s)

S波速度(実測値)

0

10

20

30

40

50

600 100 200 300 400 500 600

深度(m)

S波速度(m/s)

実測値 推定値(道路橋取得N値) 推定値(太田・後藤)

0

5

10

15

20

250 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500

深度

(m)

S波速度(m/s)

実測値 推定値(道路橋取得N値) 推定値(太田・後藤:取得N値)

0

5

10

15

20

25

300 100 200 300 400 500 600

深度

(m)

S波速度(m/s)

実測値 推定値(道路橋取得N値) 推定値(太田・後藤:取得N値)

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地中レーダー探査の適用事例と精度等について

松阪鑿泉(株) ○秋永 昇久

(株)さつま工業 手塚 大貴

1. はじめに

近年,建設後長期間を経た多くの施設に対し補修や改

良の必要性が指摘されており,補修計画等に必要な現状

の状態確認を目的に,非破壊による地中レーダー探査法

がよく使用されている。

本報告では,地中レーダーにより埋設管や空洞の存在

が推定された位置において,削孔や内視鏡で探査結果の

確認を行った事例を基に,地中レーダー探査の精度など

について考察する。

2. 地中レーダー探査法の概要

地中レーダー探査は,電磁波を地盤中に放射し,性質

の異なる物質表面で反射してくる反射波の走時と振幅の

大きさを測定するものであり,この結果を測線上の連続

した画像として表示することで,地盤中の異物の存在や

地中状態の異常が断面図上で容易に把握できる。

ただし,地下水以深は電磁波が弱くなり,反射も弱くなる

ため精度が大きく低下することや,深度は反射時間を比誘電

率で換算して求めているが,地盤の比誘電率は不明な場合が

多く,含水状態による影響が大きいこと等から,探査結果の

深度には常に誤差をともなうこと等に留意が必要である。

3. 適用事例

ここでは,400MHz アンテナを使用したプロファイル測

定による事例を示す。

事例 1:埋設管確認(掘削)

表-1 事例 1埋設管確認結果

方法 地中レーダー 掘削

埋設管深度(m) 1.28 1.35

管径(mm) 350

材質 鋳鉄管

備考 比較的均質な砂質土内の鋳鉄管であるこ

とにより反射画像は明瞭である。

事例 2:埋設管確認(掘削)

表-2 事例 2埋設管確認結果

掘削

確認

管径

(mm)75 300 250 75 50

材質 鋳鉄管 鋳鉄管 塩ビ管 鋳鉄管 鋼管

深度

(m)1.13 1.30 1.10 1.20 0.66

地中レーダー ? 深度

1.36m ? ?

深度

0.64m

備考

◎強反射が多く塩ビ管や小径管の明瞭な判読

は困難である。

◎1.1m付近を境に反射パターンが異なる。

掘削時に 1.15m で水位が確認されている。

事例 3:護岸背面の空洞範囲確認(ボーリング)

◎護岸表面から奥行 70cm 付近に,測線始点から深度 1m

付近まで空洞が存在する。

近接箇所の天端からのボーリングで,同様深度に1.1m

厚の空洞が存在することを確認している。

(m)

0.0

1.0

2.0

2.0 0.0 1.0 3.0

距離(m)

塩ビ?

測線=2m

0.0

1.0

0.5

1.5

2.0

深度(m))

←空洞

(表面)

距離

(m)

0

1.0

2.0m

1.28m

距離(m) 4.0 0.0 2.0 3.0 1.0

(m)

0.0

1.0

2.0

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事例 4:堤防天端空洞確認(ハンマードリル削孔)

◎覆工コンクリート直下の空洞は,厚さが 5cm 程度以下

になると400MHzアンテナでは反射が不明瞭となる。

事例 5:堤防天端空洞確認(ハンマードリル削孔・内視鏡)

◎厚さ約30cmの覆工コンクリート直下に 20cm厚の空洞

が存在する。横方向の広がりは小さい。

事例 6:堤防天端空洞確認(ハンマードリル削孔・内視鏡)

◎厚さ約24cmの覆工コンクリート直下の礫層が,隙間の

発達した状態にある。地中レーダー結果からは,隙間

発達部分は2m強の延長を有すると考えられるが,周囲

の反射パターンとの相違に留意した判読が必要である。

4. 地中レーダー探査の精度や空洞確認方法について

(1) 精度について

適用事例から,地中レーダー探査結果の精度について

次のような事が言える。

●均質な地盤内にある反射率の高い鋳鉄管は,精度良く把握

することが可能である(適切な比誘電率の設定が必要)。

●反射画像が乱雑となる地盤中の埋設管は,判読が困難とな

る場合が多い。このような場合には複数測線で探査を実施

し,反射パターンの連続性から対象物を判読することが必

要である。

●一般によく使用されている 400MHz アンテナの場合,5

~7cm程度以下の空洞は把握が難しい。

●横に広がりを持つ空洞や隙間発達部は,強反射部が横

に続く反射パターンとなり,地層境界等と誤認する可

能性がある。

●周囲の地盤と類似の比誘電率を持つ物質は反射する境界面

が無いため探査は困難。

●反射強度の違いから塩ビ管と鋳鉄管などの相違を判別する

ことが可能となる場合はあるが,地中レーダー探査のみで

物質を特定することは不可能である。

(2) 空洞確認方法について

今までの実施例などから,空洞の有無や規模の確認方

法として経験的に次のような方法が有効である。

●空洞の有無を確認するだけであれば孔径20mm程度のハ

ンマードリル削孔と内視鏡で十分対応可能である(深

度 1m 程度まで)。さらに,多数削孔で空洞の広がりも

把握可能である。

●削孔水飛散などによる周囲への影響が懸念される場合

には,無水による削孔方法の利用が有効である。

●空洞規模が大きい場合には,100mm程度で削孔し 3次元

レーザー装置(削孔深度約 10cm以上,空洞規模約50cm

以上)を利用する方法もある。

5. おわりに

地中レーダー探査は,非破壊で場所の制約が比較的少

なく簡易に実施できることから,各種場面での利用が増

えている。

しかし,探査結果の反射画像には地盤中の比誘電率の

違う物や状態が全て表現されているため,それが何を表

しているかを画像のみで判読することは容易ではなく,

結果に曖昧さが含まれることも稀ではない。そのため,

現状では掘削などによる対象物の確認が不可欠となって

いる。

今後,反射画像と各種地盤データとの相関性の検討な

どを進め,より信頼性の高い調査手法へと発展させてい

くことが必要と考える。

深度(m)

距離(m)

←約2m→

削孔深度約0.4m

70cm

(0.05)

(0.15)

(0.07) (0.2)

(0.25)

(0.24) (0.32)

(0.28)

(0.35)

(0.05)

0.0m

0.3m

0.2m 0.1m

削孔位置

空洞等厚線 ↑

(探査測線)

深度(m)

距離(m)

削孔深度約0.5m

距離(m)

深度(m)

削孔深度約0.9m

空洞延長

約70cm

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老朽化したダム減勢工における電気探査事例

中央開発㈱中部支店 ○山下大輔

〃 関西支社 矢野晴彦

1. はじめに

本論文は,完成から長期間が経過し老朽化したダムの

減勢工部において,顕在化した変状の原因解明および対

策工のための基礎資料を得る目的で実施した地質調査事

例である。減勢工は特に左岸側で変状が大きく,コンク

リート継目で最大 200mm のズレを生じていた。また,導

流壁には隅角部を中心にクラックが分布しており,恒常

的な湧水を生じていた。これら変状の発生原因を特定す

るため,減勢工導流壁背面において電気探査と調査ボー

リングを実施した。

2. 電気探査測線の設定

当該ダムの基盤地質は丹波層群Ⅱ型地層群に区分され,

砂岩・頁岩が主体をなす。丹波層群中には,水平変位量

が 100m に達し,厚い破砕帯を伴う「F-0 断層」が左岸側

導流壁を横断して分布することが知られていた。また,

導流壁の背面は埋土が施工されている。

探査測線の設定に当たっては,埋土層の状態及び F-0

断層の分布を把握できるような配置とした(図-1)。

なお,現場は V字型の谷地形に建設されたダムの直下

流にあたり,減勢工自体も河床からの比高が約 20m と非

常に起伏に富んだ地形であり,電気探査測線を展開する

のに不利な条件であった。このため,図-2 に示すように,

縦断測線(E-1・E-2・E-3)では測線端部を導流壁の下に

設置することで深部のデータを与え,データ欠損の補完

を行った。また,横断測線(E-4)では左右岸減勢工背面

に位置する横坑を利用することで測線の起伏を抑え,深

部まで高精度なデータ取得ができるように工夫した。

電気探査は電極間隔を 3m とし,水平方向の地質構造に

解像度が良いウェンナー配列と,垂直方向の地質構造に

解像度が良いエルトラン配列の両者を併用することで,

探査精度の向上に努めた。

これらに加え,減勢工の変状の一因と考えられる導流

壁背面の埋土層中の地下水の状態を把握するため,「比抵

抗差分法」を採用した。

※比抵抗差分法:電極配置をそのままに,1 回目の測定

に対し測定電圧を変化させて 2 回目の測定を実施する。

この電圧変化により電流電位の発生箇所で蓄電(チャー

ジ)され,さらに大きな電流電位が生じ,結果として比

抵抗値がより小さく変化する。これを分布図として表わ

すことで,断面分布上で地中水の被圧流動の大きさが比

抵抗変化率の大きさとして取り出すことができる。

測線名測線長

m測点間隔

m備  考

E-1 114 3 左岸側 縦断測線

E-2 111 3 左岸側 縦断測線

E-3 120 3 右岸側 縦断測線

E-4 135 3 横断測線

合計 480

右岸横坑 左岸横坑

減勢池

図-1 電気探査およびボーリング

配置平面図

データ欠損部を補完

※埋土部と横坑は同

レベルにあり,測線

の起伏を押さえるこ

とができる。減勢池

下部の十分な深度ま

で,精度の良い探査

が可能となった。

※縦断測線の端

部は,データの欠

損を補完するた

めに,電極を導流

壁の下に設置し

た。

図-2 深部までデータ取得するための工夫

測線諸元 E-4

E-3

右岸横坑

左岸横坑

No.25-1

測点 0

測点 40

電極

導流壁

E-2 E-1

電気探査測線

ボーリング F-0断層

No.24-1

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3. 調査結果

例として,E-1 測線における調査結果を図-3 に示す。

また,図には電気探査結果を踏まえて実施した調査ボー

リング(No.25-1;L=40m,∠50°斜め下方)結果および

既存ボーリング結果を合わせて示す。

電気探査による比抵抗分布とボーリング結果による地

質区分は良い対応を示し,比抵抗コンターが水平に近い

箇所が埋土層,垂直に近い箇所が岩盤にそれぞれ対応し

た。また,埋土中の玉状~層状高比抵抗部は玉石層,レ

ンズ状をなす低比抵抗部が粘性土層にそれぞれ対応した。

測点 No.18~22 付近に不明瞭であるが比抵抗コンター

の屈曲部が分布するが,これを F-0 断層と想定した。ボ

ーリングを実施した結果,粘土~砂~礫状を呈する 2 条

の断層破砕帯を確認した。

比抵抗差分法の結果,GL-10m(HL+27m)以浅の埋土中

に玉状の地下水流動部が複数認められた。ボーリング結

果と比較すると,粘性土層上面を中心に分布することが

分かった。既設水位観測孔による地下水位は GL-15m

(HL+22m)付近に確認されているため,これらは地下水

位より上位に分布するものと考えられる。左岸側で実施

した E-1・E-2 測線の比抵抗変化率分布が大きい箇所を比

較した結果,両測線で対比可能であったことから,これ

らは水みちをなしている可能性が高いと考えられる。

また,調査ボーリングの結果,埋土層は非常に不均質

であり,礫間の細粒分が流失し,緩んだ箇所が随所で認

められたほか,比抵抗差分法による比抵抗変化率が大き

かった箇所では,含水により軟質化した粘土混じり砂礫

層として確認された。

4. 減勢工の変状原因

調査の結果,減勢工の変状原因として,①不均質な埋

土層において緩みや空隙等の存在により土粒子間のせん

断強度が低下し,埋土層が不安定化したこと,②地下水

および水みちにより土層に間隙水圧が作用することで,

減勢工で最も応力が集中しやすい隅角部に大きな変状を

発生したこと,が主な要因であると考えられる。

5. 今後の展望

本論文で実施した「比抵抗差分法」は,近年,道路ト

ンネルの地下水調査や深層崩壊地の水みち調査等に利用

されるケースがあるが,現時点ではオーソライズされた

手法ではない。今回の調査結果では,特に浅層において

地質構成,地中水の状態と非常に良い相関を示したこと

から,地下水・水みち等の調査において有効な手法であ

ると考えられ,今後,広く展開されていくことが望まれ

る。

図-3 E-1 測線調査結果

埋土層中の水みち

岩盤中の地下水

埋土層

F-0 断層

地質断面図

F-0 断層

1 回目と 2回目の比抵抗値

の差分から比抵抗変化率

を求める。

403530

25 20 15105

403530

25 20 15105

403530

25 20 15105

0

0

0

403530

25 20 15105

0

Page 7: S波速度とN値の相関について - chubu-geo.org · 2019-10-28 · に対して低い値が得られるが、道路橋示方書式のほうは比 較的実測値に近い値である。18m以深の粘性土部分では2

鉛直磁気探査とプラスティックビットを併用した埋設管確認探査

東邦地水株式会社 藤原 聡

1. はじめに

近年,都市部では管路の地中線化が進み,矢板打設な

どの工事において地中の埋設物が障害となるため,事前

に埋設管の位置を確認する必要性が重要視されている。

このため,昨今では埋設管を鉛直磁気探査により確認す

る業務が増加する傾向にあり,我社でも多くの埋設管探

査を実施してきた。今回は,鉛直磁気探査とプラスティ

ックビットを併用することにより効率よく埋設管を確認

することができた事例について報告する。

2. 埋設管探査の原理

鉛直磁気探査は,埋設管周辺の乱れた磁場をコイルが

通過したときの起電力を測定し,その波形を解析するこ

とによって埋設管の位置を推定する方法である。

埋設管の残留磁気によって生じる電力は地球磁場によ

り生じる電力と比較してわずかなものである。更に,1

つのコイルを移動させた場合双方の起電力を検知するこ

ととなる為,埋設管の残留磁気量としてとらえることが

できない。そのため,使用する測定器(両コイル型磁気

傾度計)は,測定器の両端にコイルを設置し,2 つのコ

イルを逆に結線することによって地球磁場による起電力

を打ち消す仕組みとなっている(図-1)。よって,両コイ

ル間の起電力の差を検知することで鉄類等の残留磁気量

を測定することが可能となる。

図-1 磁気探査センサーの原理

センサーを一定の速度で孔内に入れると,発生する起

電力の大きさは波形として描画される。この波形の振幅

および波長を解析することによって,探査孔から埋設管

までの距離及び埋設管の埋設深度を推定することができ

る。

図-2 鉛直磁気探査概念図

3. プラスティックビットによる埋設管探査

プラスティックビットは,硬化プラスティックで作ら

れたボーリング用のビットで,コアチューブに接続して

使用する。

我社で実施した過去の業務から得られたプラスティッ

クビットに適用する土質と N 値の概略は以下のとおりで

ある。

表-1 プラスティックビットの使用目安

この結果,砂質土においてはプラスティックビットの

消耗が激しく使用には適していないものの,埋設管周辺

の土質がN値10以下の粘性土であれば鉛直磁気探査を使

用せずプラスティックビットのみで埋設管の探査が可能

である。

4. 鉛直磁気探査の長所と短所

埋設管確認探査を実施するにあたり,鉛直磁気探査と

プラスティックビットによる確認探査の長所と短所を以

下に示す。

表-2 鉛直磁気探査とプラスティックビットの長所短所

埋設管探査方法 長所 短所

鉛直磁気探査

・埋設管の位置および深度を

 非接触で把握できる

・土質に関係なく探査可能

・埋設管の材質によって精度がバラつく

・費用が高い

・埋設管から離れると探査不能となる

・電気設備などの付近では探査不能

プラスティックビット

・埋設管に接触して確認するため、

 精度が高い

・1孔あたりの探査費用が安い

・埋設管を接触させない限り、位置と

 深度は特定できない。

・N値の高い砂質土、礫質土は対応

 が不可能

・孔曲りによる精度の低下

土質名 N値 使用の可否

粘性土 0~10 ○

0~5 △

5~10 ×

砂 礫 5以上 ×

○・・・使用可能

△・・・ビットは消耗するが使用可能

×・・・ビットの消耗が激しく使用不可

砂質土

掘 削 不 可

10㎝程度の掘削は可能

土粒子が大きいほど消耗が激しい

ビットの消耗はほとんどない

備     考

Page 8: S波速度とN値の相関について - chubu-geo.org · 2019-10-28 · に対して低い値が得られるが、道路橋示方書式のほうは比 較的実測値に近い値である。18m以深の粘性土部分では2

鉛直磁気探査による最大の長所は,周辺にある埋設管

の位置を非接触で確認できることである。このため,埋

設管の位置が既往図面どおりでなくても,埋設管の波形

を捉えることができれば位置の概略を把握することがで

きる。一方,短所は埋設管の材質や探査孔の位置によっ

て精度がバラつくことである。これを補うため,プラス

ティックビットによる探査で埋設管に接触させることに

より精度を上げることができる。

5. 鉛直磁気探査およびプラスティックビットを使用し

た埋設管探査事例

河川の護岸工事に際し,矢板打設計画箇所において深

度 5.5m(標高-1.75m)付近に農水管(φ600mm:材質ヒュ

ーム管)が布設されていることから,事前に農水管の位置

および深さを確認するための探査を実施した。

図-3 埋設管の構造

埋設管周辺の土質は砂質土でN値が10前後砂質土であ

った。表-1 で示したとおり,N値 10 程度の砂質土では掘

削時におけるプラスティックビットの消耗が激しいもの

と予想されることから,プラスティックビットのみの探

査は不適と考えた。そこで,鉛直磁気探査を併用した埋

設管探査を実施した。

図-4 鉛直探査位置図

先ず埋設管の両サイド(Bor①,Bor②)を深度 10m まで

ボーリング掘削した。その後,ボーリング孔に磁気セン

サーを通し鉛直磁気探査を実施した。

図-5 鉛直探査断面図

鉛直磁気探査の結果,Bor①と Bor②の埋設管と思われ

る波形は非常に似た結果が得られ,Bor①と Bor②のほぼ

中心の位置において標高-1.70m 付近に埋設管が布設さ

れていることが推察された。

図-6 鉛直探査波形記録

これを確かめるため,Bor③でプラスティックビットを

使用してボーリングを実施した結果,標高-1.51m 付近で

埋設管と思われる障害物を確認することができた。埋設

管の中心標高が-1.70m の場合の埋設管の頂点が標高

-1.40m であるため,埋設管接触箇所は頂部より少しずれ

た箇所であった。

6. おわりに

鉛直磁気探査とプラスティックビットによる探査を併

用することにより,埋設管の位置および深度を効率よく

探査することが可能である。しかし,今回の調査のよう

に理想どおりの結果が得られない事も多く,この要因と

して,磁気探査そのものの精度の問題,またプラスティ

ックビットによる確認探査であるがゆえの孔曲りによる

影響などが考えられる。

今後の埋設管探査業務においては,探査手法の更なる

改良により,効率よく精度の良い探査が実施できるよう

努めて行きたい。