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Septic Cardiomyopathy 2012.10.9 慈恵ICU勉強会 葛飾医療センター麻酔部 岩井

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Septic Cardiomyopathy

2012.10.9 慈恵ICU勉強会

葛飾医療センター麻酔部 岩井

Sepsisに伴う循環不全 Bacteremia due to gram-negative bacilli other than the Salmonella; a clinical and therapeutic study. AMA Arch Intern Med 1951; 88: 467-88.

Sepsisによる血行動態変化の初報告

病期初期 ・Hyperdynamic state ・低血圧 ・四肢末梢拡張 ・紅潮 ・発熱 ・乏尿

次第に・・・ ・低血圧 ・脈圧の減少 ・四肢末梢冷感 ・蒼白

Warm Shock Cold shock Cold shockに至る患者は 予後が悪い

The cardiovascular response of normal humans to the administration of endotoxin. N Engl J Med 1989; 321 :280-7.

健常人にエンドトキシンを静注して血行動態変化を観察した!! (エンドトキシン群9名と生食群6名の比較)

ETX or NS 3h

・CI; 53%↑ ・HR; 36%↑ ・SVRI; 46%↓

5h

Fluid bolus NS 2000mL

・LVEF; 1%↓(ETX群), 14%↑(NS群) ・LVEDV; 18%↑ ・LVESV; 24%↑

Hyperdynamic state 左室機能の低下

左室機能の低下はLV dilatatonによる? 健常

Sepsis

LVEDV LVESV SV

(LVEDV-LVESV) EF

A; 健常 120mL 50mL 70mL (120-50)/120=0.58

B; Sepis 180mL 110mL 70mL (180-110)/180=0.39

多くの研究報告では、エコー、S-G、シンチ等の結果から

1, 左室の拡張(LV dilatation) 2, SVは不変 3, EFの低下 が観察された。

そして、これらの変化は 10日以内にもとに戻る

Eur Heart J 1999; 20: 715–24.

Septic Cardiomyopathy

1, 左室の拡張(LV dilatation) →LVEDV ・ LVESVの増大

2, SVは不変

3, EFの低下

4, 経過とともに回復する(7-10日)

はっきりとした定義はないが

を特徴とした 敗血症患者に見られる心筋障害

疫学

左室収縮能不全の

頻度は20-60%位

実際には、 1, カテコラミンの投与 2, 検査の時期 などにより診断確率は相当影響を受けている

Annals of Intensive Care 2011, 1: 6.

Septic Cardiomyopathyの原因

(1)心筋虚血(心筋酸素需給バランスの破綻)

(2)各種メディエーター

1, Endotoxin

2, Cytokine(TNF-α, IL-1)

3, Nitric oxide(NO)

Septic Cardiomyopathyの原因 (1)心筋虚血(心筋酸素需給バランスの破綻)

敗血症患者では 1, HR↑, CO↑ → 心筋酸素需要の増加 2, 低血圧 → 冠動脈血流の減少

心筋酸素需給バランスの破綻

広範囲心筋虚血

動物実験(犬)では、冠動脈血流の低下が観察されていた。 Endotoxin and myocardial failure: role of the myofibril and venous return. Am J Physiol 1978; 235: H150.

では、人間では実際どうなのか?

The coronary circulation in human septic shock. Circulation 1986;73:637-644.

・Septic shock患者7名

・Thermodilution Catheterを大心臓静脈起始部に 透視下に留置 →Coronary sinus(冠状静脈洞)、 Great cardiac vein(大心臓静脈)、 の血流を計測

・測定はDay1-3で12hおき

実際問題、Septic shock患者で冠血流を計測してみた

Coronary sinus (冠状静脈洞)

Great cardiac vein (大心臓静脈)

白; 以前の研究(健常人:Control) 黒; Septic shock

HR>100,HR<100のどちらでもSepsis患者は むしろ冠静脈血流が多い

Septic cardiomyopathyの原因として、マクロレベルの冠血流低下は考えにくい。 あるとすると、血管内皮細胞障害等によるミクロレベルの血流障害か?

HR>100

HR<100

HR>100

HR<100

Septic Cardiomyopathyの原因

(1)心筋虚血(心筋酸素需給バランスの破綻)

(2)各種メディエーター

1, Endotoxin

2, Cytokine(TNF-α, IL-1)

3, Nitric oxide(NO)

ENDOTOXIN AND TUMOR NECROSIS FACTOR CHALLENGES IN DOGS SIMULATE THE CARDIOVASCULAR PROFILE OF HUMAN SEPTIC SHOCK J Exp Med 1989; 169: 823-32.

①ETX-腹腔投与 ①ETX-腹腔投与

②TNF-α-IV ②TNF-α-IV

ビーグル犬に①ETX腹腔投与、②TNF-α静注投与してみると、 Day1,2にかけてMAP,EFが低下する。

詳しい機序は不明だが、おそらく直接的な心筋収縮力低下作用が原因。

MAP

EF MAP

EF

Administration of Anti-TNF Antibody Improves Left Ventricular Function in Septic Shock Patients* Results of a Pilot Study Chest 1992; 101:810-15.

動物実験では、抗TNF抗体は心機能を改善することが知られている。 実際の敗血症患者ではどのような心機能への変化があるか?

Setting;Single center study Patients;成人Septic shock患者10名(Shock発症後24h以内) Methods; ①Septic shockに対して初期蘇生を行う ・ SBP>90mmHgを目標に、コロイド輸液、ドパミン投与 ・CI3.0>L/min・m2を目標にドブタミン投与 ・RCC輸血 ②それでもショックが遷延する場合、抗TNF抗体を投与

0h 1h 2h 4h 8h

MAP 69 73 73 73 71 SI 35 37 38 36 37 CI 4.3 4.3 4.4 4.1 4.3

HR

LVSWI

HR; 低下 4h時点, 122⇒113 回/min(p<0.05)

LVSWI; 上昇 2h時点, 26⇒31 g・m/sqm(p<0.05) MAP・SI; 上昇傾向だが有意差なし CI; 変化なし

TNF-αは左室機能を低下させるが、 抗体を投与すると、機能が改善する。

詳しい機序は不明だが、おそらく 直接的な心筋収縮力低下作用が原因。

抗体を投与したり、レセプターを ノックアウトしたりすると、心抑制が 改善するとの報告は、IL-1でもある。

Septic cardiomyopathyにサイトカインが 関与しているのは間違いない!!

Endotoxin, Cytokineだけが原因か?

・Endotoxin刺激⇒Cytokine産生

・TNF-α, IL-1は速やかに減少する(<6h)

・10日も継続する心筋障害を説明できない

・他にもメディエーターがある?

Endotoxin

Cytokine (TNF-α, IL-1)

NO

NO(一酸化窒素)

1980; Furchagott 血管内皮細胞が、血管弛緩物質(EDRF)を産生している EDRF=Endothelium-derived relaxing factor

EDRFの作用; 血管の弛緩 血管平滑筋細胞の増殖抑制 血管内皮細胞への血液成分接着の調節

⇒血管内皮機能を担っている

1988; Ignarro

実は、EDRF = NO と判明

1992; サイエンス誌, 『今年の分子』

1998; Furchagott, Ignarroにノーベル賞授与

NOの合成

L-アルギニン L-シトルリン+NO

NOS(触媒)

NOS; NO synthase(一酸化窒素合成酵素)

・iNOS(誘導型); 単球・マクロファージ・好中球⇒Sepsisの病態に関与

・eNOS(内皮型); 血管内皮細胞

・nNOS(神経型); 中枢神経系

各NOSは同じ物質であるNOを誘導するが、誘導する場所(器官)が異なり、 誘導されたNOは各器官で様々な生理学的効果を発揮する。

iNOSのNO産性能は他のNOSの数百-数千倍。

敗血症でのNOによる循環抑制

iNOS (触媒)

大量の NO産生

主に マクロファージ ⇒ ⇒

NOによる循環抑制の機序

1, ミトコンドリアの呼吸抑制による心筋細胞傷害 Interferon-gamma and tumor necrosis factor synergize to induce nitric oxide production and inhibit mitochondrial respiration in vascular smooth muscle cells. Circ Res 1992; 71: 1268-76.

2, Ca2+ チャンネル機能の抑制 Denitration of L-type calcium channel. FEBS Lett 2008; 582: 3033-6.

3, 心筋カテコラミン反応性の阻害 Increased of myocardial inhibitory G-proteins in catecholamine-refractory septic shock or in septic multiorgan failure. Am J Med 1995; 98: 183-6.

4, 心筋アポトーシスの誘導 Nitric oxide-mediated apoptosis in murine mastocytoma. Biochem Biophys Res Commun 1994; 204: 244-51.

Infusion of methylene blue in human septic shock: A pilot, randomized, controlled study Crit Care Med 2001; 29:1860 –1867.

メチレンブルー(MB)はSoluble guanylate cyclase(NOの効果発現受容体)、eNOS、iNOSの インヒビター。動物実験ではMBを投与すると、ショックが改善することが観察された。 そこで、RCTを行い、血行動態変化を詳細に検討した。

Setting;Single center study

Patients;成人Septic shock患者20名(Shock発症後24h以内) MB群10名/コントロール群10名

Methods; MB2mg/kgボーラス投与ののち、 0.25-2mg/kg/hで持続投与(6hまで)

Measurement; 血行動態(24hまで追跡) 臓器障害(24hまで追跡) 28日生存率

MB投与期間

MBの投与中はNOの産生が少ない。 eNOS,iNOSを阻害したおかげか。

MB群では血行動態が改善し、カテコラミン投与量も減る。

血行動態は改善したが、臓器不全や、生存率は変わらない。

Use of Methylene Blue in Sepsis: A Systematic Review J Intensive Care Med 2006; 21: 359.

13研究133名でのレビューでは、SVR, MAPを増加させるが 死亡率はnが少なすぎてわからないと結論。

ともわれ、NOの拮抗は、血行動態を改善すると思われる。

Septic Cardiomyopathyの発生機序

感染(±エンドトキシン)

炎症性サイトカイン産生 (TNF-α, IL-1, IL-6・・・)

NO産生

iNOS

心筋 心筋収縮抑制 心室拡張

心拍出量低下 体血管抵抗低下 血圧低下

血管系 拡張 収縮 血流分布異常 内皮機能低下

組織潅流不全

早期

後期

メディエーターネットワーク

Septic Cardiomyopathyの治療戦略 (1)SSCG2008に準拠した治療 ・感染巣コントロール ・適切な抗菌薬投与 等々

(2)カテコラミンサポート・輸液(GDT) ・NE ・DOB ・Vasopressin, Terlipressin

(3)Cardioprotective therapy ・Levosimendan ・Statin ・Caブロッカー ・ACE阻害剤 ・βブロッカー

(4)実験的医療(臨床研究がまだない) ・IABP

(5)無効だった治療 ・メディエター阻害剤

Septic Cardiomyopathyの治療戦略 (1)SSCG2008に準拠した治療 ・感染巣コントロール ・適切な抗菌薬投与 等々

(2)カテコラミンサポート・輸液(GDT) ・NE ・DOB ・Vasopressin, Terlipressin

(3)Cardioprotective therapy ・Levosimendan ・Statin ・Caブロッカー ・ACE阻害剤 ・βブロッカー

(4)実験的医療(臨床研究がまだない) ・IABP

(5)無効だった治療 ・メディエター阻害剤

カテコラミンサポート・輸液

・EGDTの有効性 輸液・Vasopressor(NE,DOA)・DOBによるGDTは死亡率を低下させる。

・NE vs. NE+DOBではNE+DOBで血行動態改善 MAP↑, CI↑, SVI↑, LVSWI↑, SVR↑,HR→,PCWP→

Effects of norepinephrine plus dobutamine or norepinephrine alone on left ventricular performance of septic shock patients. Crit Care Med 1999; 27: 1708-13.

G1; NE(n=20) G2; NE+Terlipressin(n=19) G3; NE+Terlipressin+DOB(n=20)

・Terlipressin+DOBで血行動態改善

Effects of short-term simultaneous infusión of dobutamine and terlipressin in patients with septic shock: the DOBUPRESS study. Br J Anaesth 2008; 100: 494-503.

血圧が低いので輸液・Vasopressor、心収縮力が悪いので輸液・DOBは、 直感的に理にかなっているし、臨床研究もそれを支持している。

CI↑ LVSWI↑

C I LVSWI

Septic Cardiomyopathyの治療戦略 (1)SSCG2008に準拠した治療 ・感染巣コントロール ・適切な抗菌薬投与 等々

(2)カテコラミンサポート・輸液(GDT) ・NE ・DOB ・Vasopressin, Terlipressin

(3)Cardioprotective therapy ・Levosimendan ・Statin ・Caブロッカー ・ACE阻害剤 ・βブロッカー

(4)実験的医療(臨床研究がまだない) ・IABP

(5)無効だった治療 ・メディエター阻害剤

Cardioprotective therapy; Levosimendan Levosimendan; 心筋のCa2+に対する感受性増強+PDEIII阻害 ⇒心収縮力の増加、血管拡張による後負荷の軽減

うっ血性心不全,急性心筋梗塞の生存予後改善効果が報告 Lancet 2002;360:196-202.

本邦では、Pimobendan(アカルディTM 内服剤)が使用可能

Effects of levosimendan on systemic and regional hemodynamics in septic myocardial depression Intensive Care Med 2005; 31: 638–644.

LEVO+DOBU+NE

(n=15)

DOBU+NE (n=13)

初期治療ののちEF<45%の患者に Levosimendan持続静注をすると 血行動態はどうなるか?

LEVO群で ・MPAP↓ ・RAP↓ ・PAOP↓ ・SI↑ ・CI↑ ・DO2I↑ ・VO2I↑ ・LVSWI↑

LEVO群で ・EDVI↓ ・ESVI↓ ・LVEF↑

心拍出量の増加 心拡大の改善

Cardioprotective therapy; Statin スタチンの多様な作用 (Annals of Intensive Care 2012; 2: 19.)

・抗血栓作用

・抗炎症作用 ・免疫抑制作用

・抗酸化作用

・NO抑制作用

Statins for infection and sepsis: a systematic review of the clinical Evidence Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2008; 61: 774–785.

・20件の研究(うち13件は後ろ向き研究)

・11件の研究で死亡率のデータが解析 8件;スタチン投与患者における死亡率低下 2件;スタチン投与により死亡率の差はない 1件;スタチン投与患者における死亡率上昇

敗血症患者にスタチンが投与されると、死亡率を改善する可能性があるが、 後ろ向き研究が多く、RCTが必要。

1, Simvastatin and Severe Sepsis Trial (SIMSEPT):, ISRCTN 92093279, EudraCT number2005-003438-17. 2, Statins in Sepsis study, ACTRN 12607000028404. 3, Statins for the Early Treatment of Sepsis (SETS), ClinicalTrials.gov: NCT 00528580. 4, Study of Statin Therapy in the Treatment of Sepsis, ClinicalTrials.gov: NCT 00676897.

現在進行中のRCT

その他のCardioprotective therapy

・Caブロッカー ・ACE阻害剤 ・βブロッカー

・心筋梗塞や心不全治療のエビデンスによれば、心保護作用を期待できるが、 Septic cardiomyopathyに有効かどうかは研究が少なすぎて判断できない。 ・特にβブロッカーは、ドブタミンの有効性と矛盾する。

Septic Cardiomyopathyの治療戦略 (1)SSCG2008に準拠した治療 ・感染巣コントロール ・適切な抗菌薬投与 等々

(2)カテコラミンサポート・輸液(GDT) ・NE ・DOB ・Vasopressin, Terlipressin

(3)Cardioprotective therapy ・Levosimendan ・Statin ・Caブロッカー ・ACE阻害剤 ・βブロッカー

(4)実験的医療(臨床研究がまだない) ・IABP

(5)無効だった治療 ・メディエター阻害剤

無効だった治療, メディエター阻害剤 Study Study drug n

28日死亡率 (Cont vs. Intervention)

Fisher et al. (1994) IL-1ra 595 34% vs. 29%

Opal et al. (1997) IL-1ra 906 36& vs. 34%

Greenman et al. (1991) Antiendotoxin antibody (E5) 468 41% vs. 40%

Bone et al. (1995) Antiendotoxin antibody (E5) 530 26% vs. 30%

Angus et al. (2000) Antiendotoxin antibody (E5) 1090 40% vs. 38%

Abraham et al. (2001) p55 TNF receptor fusion protein 1342 28% vs. 27%

Reinhart et al. (2001) Anti-TNF antibody (MAK195F) 446 58% vs. 54%

Cohen and Carlet (1996) Anti-TNF antibody (BAYx1351) 648 649

33% vs. 30%(Low) 33% vs. 31%(High)

Abraham et al. (1995) Anti-TNF antibody (BAYx1351) 348 372

40% vs. 31%(Low) 40% vs. 42%(High)

Abraham et al. (1998) Anti-TNF antibody (BAYx1351) 1869 43% vs. 40%

Panacek et al. (2004) Anti-TNF antibody (afelimomab) 2634 36% vs. 32%

Lopez et al. (2004) Nitric oxide synthase inhibitor 797 49% vs. 59%

Critical Care 2005; 9: R607-R622.

無効だった治療, メディエター阻害剤 ・多くの敗血症治療薬の臨床試験が行われた。 (一覧表以外にもrAPC、TFPI、ATIII、Ibuprofen、G-CSF・・・)

・抗TNF-α抗体、IL-1raによる一部の研究では心機能改善が 観察された。

・しかし、患者予後を改善した薬剤は一つもない。

・ Septic cardiomyopathyと直接の関連はないが、 トロンボモジュリンはどうか・・・・。

Multicountry RCT(第2相), n=750, ART123 vs. Placebo 28day mortality; 17.8% vs. 21.6%(p=0.273<0.3) (http://www.artisanpharma.net/news.htm)

→第3相試験へ・・・, NCT01598831(n=800)

まとめ 1, Septic cardiomyopathyは、左室の拡張、EFの低下、経過とともに自然回復、を特徴とした心筋障害である。

2, 原因として、エンドトキシン、サイトカイン、NOなどのメディエーターの関与が考えられている。

3, 治療として、低血圧に対してバソプレッサー、 低心拍出量に対して輸液、ドブタミンの投与が挙げられ、その他、心保護効果によりレボシメンダン、スタチンの有効性も期待される。