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TALKS18 原 稿
1. 池 谷 知 子 ( Tomoko IKEYA)
2. 文 学 部 日 本 語 日 本 文 化 学 科 (Department of Japanese Language and Culture)
3. 久 津 木 文 ( Aya KUTSUKI )
4. 人 間 科 学 部 心 理 学 科 ( Department of Psychology )
5. 英 語 を母 語 と する 日 本 語 学 習 者 にお ける カタ カナ 語 の 研 究 ( Ⅲ )
— カタ カナ 語 と 非 カ タカ ナ語 の使 い分 けと 日 本 語 レ ベル の関 係 —
Study of KATAKANA for English Speakers Learning Japanese ( Ⅲ )
6. 英 語 母 語 話 者 の日 本 語 学 習 者 , 意 味 の ずれ , カ タカ ナ語 , 非 カタ カナ 語 , 習 得
English Speakers Learning Japanese, Gap of the meaning, Katakana, Non-Katakana,
Learning
7. 日 本 語 学 習 者 ( 英 語 母 語 ) にお ける カタ カナ 語 の 研 究
8. 横 書 き
9. 別 刷 り 1 0 部
10. Word で作 成
11. メー ル [email protected] TEL/FAX 075-200-2662
〒 615-815 京 都 市 西 京 区 川 島 権 田 町 21-39 池 谷 知 子
要 旨 ( 日 本 語 )
日 本 語 を 学 ぶ 外 国 人 が 苦 労 す る も の と し て 「 日 本 語 の
中 の カ タ カ ナ 」 が 挙 げ ら れ る 。 本 研 究 は 英 語 母 語 和 話
者 の 日 本 語 学 習 者 55 人 に 次 の 6 組 の カ タ カ ナ 語 と 非 カ
タ カ ナ 語 の 使 い 分 け の 研 究 を 行 っ た 。 こ れ ら の 6 組 を
理 解 し や す い と 予 測 さ れ る も の 順 に 分 類 し 、 日 本 語 の
レ ベ ル ( 初 級 か 上 級 か ) が カ タ カ ナ 語 の 使 用 に ど の よ
う に 影 響 し て い る か を 確 認 し た 結 果 、 以 下 の よ う な こ
と が 明 ら か に な っ た 。
< タ イ プ Ⅰ : 理 解 し や す い タ イ プ >
1
= カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 指 示 対 象 が 別 に な っ て
お り 、 カ タ カ ナ 語 が 有 標 な も の
カ テ ゴ リ ー 3 Glove グ ロ ー ブ と 手 袋
カ テ ゴ リ ー 4 Potato ポ テ ト と 芋
< タ イ プ Ⅱ : 使 い 分 け の 基 準 が わ か れ ば 理 解 し や す い
タ イ プ >
= 材 質 や 形 態 、 使 用 方 法 な ど で 使 い 分 け が さ れ て い る
も の
カ テ ゴ リ ー 1 Bottle ボ ト ル と 瓶
カ テ ゴ リ ー 2 Brush ブ ラ シ と 筆
< タ イ プ Ⅲ : 理 解 し に く い タ イ プ >
= 一 見 、 非 常 に 意 味 が よ く 似 て い て 使 い 分 け の 基 準 を
規 則 化 し に く い も の
カ テ ゴ リ ー 5 Tea テ ィ ー と お 茶
カ テ ゴ リ ー 6 Ticket チ ケ ッ ト と 券
要 旨 ( 英 語 )
Japanese learners as a second language find KATAKANA words difficult, as it is hard to
distinguish them from English words, and there are also Non-KATAKANA synonyms in
Japanese.
This study looks into 55 Japanese learners of the English mother tongue speaker for
their distinction of 6 pairs of KATAKANA word and Non-KATAKANA word. The following
results were obtained: these words were classified into three types by easiness to
understand.
< Type I: Easy to understand as KATANAKA words and Non-KATAKANA words in pairs have
their own denotations respectively. >
Category-3 Gloves “GUROBU” “TEBUKURO”
2
Category-4 Potato “POTETO” “IMO”
< Type II: Need to realize standards of the usage. Correct words must be chosen by
materials, forms and situations. >
Category-1 Bottle “BOTORU” “BIN”
Category-2 Brush “BURASHI” “FUDE”
< Type III: Difficult to discern as KATANAKA words and Non-KATAKANA words in pairs
indicate almost the same thing. >
Category-5 Tea “THI” “OCHA”
Category-6 Ticket “THIKETTO” “KEN”
英 語 を 母 語 と す る 日 本 語 学 習 者 に お け る カ タ カ ナ 外 来
語 の 研 究 1 ( Ⅲ )
— カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け と 日 本 語 レ ベ
ル の 関 係 —
池 谷 知 子 ・ 久 津 木 文
1 研 究 の 背 景 と 目 的
鳥 飼 ( 2007 ) な ど で も 指 摘 さ れ て い る よ う に 、 日 本
語 を 学 ぶ 外 国 人 が 苦 労 す る も の と し て 「 日 本 語 の 中 の
カ タ カ ナ 」 が 挙 げ ら れ る 。 日 本 語 の 語 彙 の 中 に は 多 く
の カ タ カ ナ 語 が 入 っ て い る が 、 そ れ が 原 義 の 意 味 と イ
コ ー ル で は な い か ら で あ る 。 そ の 中 の 有 名 な 例 と し て 、
マ ン シ ョ ン が 知 ら れ て い る 。
マ ン シ ョ ン … 中 高 層 の 集 合 住 宅 1960 年 代 か ら 急
速 に 普 及 ( 広 辞 苑 第 五 版 よ り )
1この論文は日本私立学校振興共済事業団から平成 24 年度・25 年度・26 年度学術研究振興資金援助を受けた「日本語学習者におけるカタカナ外来語の理解についての研究」(研究代表者:久津木文)の調査結果の一部である。この調査では日本語母語話者と英語母語話者について同じような調査を行った。日本語母語話者については久津木が分析し、英語母語話者については池谷が分析した。
3
Mansion……( 豪 華 な ) 大 邸 宅 、 屋 敷 ( ジ ー ニ ア ス 英
和 辞 典 第 四 版 よ り )
ま た 、 カ タ カ ナ 語 と 原 義 の 意 味 の ず れ だ け で は な く 、
同 じ よ う な カ タ カ ナ 語 の 対 象 物 を カ タ カ ナ 語 で 呼 ん だ
り 、 非 カ タ カ ナ 語 で 呼 ん だ り す る こ と も あ る 。 そ の 例
と し て 、 「 鮭 ( サ ケ ) 」 と 「 サ ー モ ン 」 を あ げ る 。 イ
ン タ ー ネ ッ ト の 寿 司 屋 の 紹 介 ペ ー ジ か ら 「 鮭 = サ ー モ
ン 」 の よ う に 書 か れ て い る と こ ろ を 引 用 し て み る 。
【 お 寿 司 屋 さ ん の 歩 き 方 鮭 】
( http://www.sushiwalking.com/sake/ 2014 年 11 月 30 日 取 得 )
寿 司 ネ タ に さ れ る と き は サ ー モ ン と 呼 ば れ る こ と も 多
い サ ケ 。 ( 下 線 部 は 筆 者 )
脂 の ノ リ と い い 、 身 の う ま さ と い い ま さ に 絶 品 で す 。
特 に 秋 口 に 産 卵 を 控 え た サ ケ の 美 味 し さ は ぜ ひ 味 わ っ
て み て い た だ き た い 一 品 で す 。
サ ケ の 脂 と し ょ う 油 が 奏 で る ハ ー モ ニ ー を お 試 し く だ
さ い 。
ま た 、 「 鮭 」 と 「 サ ー モ ン 」 を 辞 書 で 引 く と 以 下 の
よ う に 述 べ ら れ て い る 。
( 広 辞 苑 第 五 版 よ り )
さ け 【 鮭 】 … 広 義 に は サ ケ 目 サ ケ 科 の サ ケ ・ ベ ニ ザ
ケ ・ ギ ン ザ ケ ・ マ ス の 一 部 な ど の 総 称 。
サ ー モ ン 【 salmon】 … 鮭 ( さ け )
4
こ こ で 問 題 と な っ て く る の が 、 1 つ の 事 物 を 表 す 時
に カ タ カ ナ 語 の 「 サ ー モ ン 」 を 使 っ た り 、 非 カ タ カ ナ
語 の 「 鮭 」 を 使 っ た り し た 場 合 の 意 味 の マ ッ ピ ン グ
( 使 い 分 け ) で あ る 。 鳥 飼 ( 2007 ) な ど で も 指 摘 さ れ
て い る よ う に 、 日 本 語 を 学 ぶ 外 国 人 が 苦 労 す る も の と
し て 「 日 本 語 の 中 の カ タ カ ナ 」 が 挙 げ ら れ て い る 。
カ タ カ ナ 語 を 説 明 す る こ と は 一 見 、 語 彙 の 問 題 で あ
り 単 純 に 見 え る が 、 ス ー パ ー で 同 じ 魚 が 「 サ ー モ ン 」
「 鮭 」 と い う 二 つ の 名 前 で 売 ら れ て い る の に 対 し て 感
じ る 日 本 語 学 習 者 の 素 朴 な 疑 問 、 つ ま り 、 い つ 「 サ ー
モ ン 」 と 呼 び 、 い つ 「 鮭 」 を 使 う の か 、 と い う こ と に
対 し て 明 確 に 答 え ら れ る 日 本 人 は 少 な い だ ろ う 。 な ぜ
な ら カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け は 辞 書 に は
載 っ て い な い 問 題 だ か ら で あ る 。 ま た 、 こ の こ と は 英
語 の salmon≠サ ー モ ン 、 鮭 と い う こ と も 示 し て い る 。
日 本 語 に は 、 固 有 語 と 外 来 語 と 2 つ の 語 種 に 分 類 さ
れ 、 か つ 、 外 来 語 の 中 に は 漢 語 と 、 カ タ カ ナ 語 に 分 類
す る こ と が 一 般 的 で あ る 。 つ ま り 、 漢 語 も 中 国 か ら の
借 用 語 で あ る が 、 こ こ で は 議 論 を 簡 単 に す る た め 、 い
わ ゆ る 、 カ タ カ ナ で 表 記 さ れ る 狭 義 の 外 来 語 の み を カ
タ カ ナ 語 と 呼 ぶ こ と に す る 。 ま た 、 原 義 と の ズ レ を 確
認 す る た め に 、 英 語 を 母 語 と す る 日 本 語 学 習 者 の み に
調 査 を 行 っ た の で 、 カ タ カ ナ で 表 記 さ れ る 外 来 語 の 中
で も 、 さ ら に 英 語 を 原 義 と す る 物 の み を 調 査 の 対 象 と
す る 。
一 方 で 、 非 カ タ カ ナ 語 と し て は 、 単 な る 「 和 語 」 だ
け で は な く 、 「 和 語 」 と 「 漢 語 」 と の 両 方 を 含 む 広 義
の も の を 非 カ タ カ ナ 語 と 呼 ぶ こ と に す る 。
< 本 発 表 に お け る カ タ カ ナ 語 の 定 義 >
5
主 に 英 語 を 母 語 と す る 日 本 語 学 習 者 を 研 究 対 象 と す
る た め 、 取 り 扱 う カ タ カ ナ 語 も 英 語 起 源 の カ タ カ ナ 語
の み と す る 。 よ っ て 、 本 発 表 で の カ タ カ ナ 語 と は
「 ( 英 語 に 由 来 し 、 カ タ カ ナ で 表 記 さ れ る ) 外 来 語 」
と 定 義 す る 。
秋 元 ( 2002:P64 ) の 表 を 元 に 、 「 カ タ カ ナ 語 」 と
「 非 カ タ カ ナ 語 」 を 入 れ 、 再 構 成 し た も の が 表 1 で あ
る 。
< 表 1 > カ タ カ ナ 語 ( 英 語 由 来 の み ) と 非 カ タ カ ナ 語
の 位 置 関 係
こ の 研 究 は 、 日 本 私 立 学 校 振 興 共 済 事 業 団 か ら 平 成
24 年 度 〜 平 成 26 年 度 に 学 術 研 究 振 興 資 金 援 助 を 受 け 、
「 日 本 語 学 習 者 に お け る カ タ カ ナ 外 来 語 の 理 解 に つ い
て の 研 究 」 ( 研 究 代 表 者 : 久 津 木 文 ) と し て 行 っ た 研
究 成 果 の 一 部 を ま と め た も の で あ る 。 こ の 調 査 で は 、
英 語 母 語 話 者 の 日 本 語 学 習 者 を 調 査 し 、 カ タ カ ナ 語 と
非 カ タ カ ナ 語 の 意 味 の マ ッ ピ ン グ を ど の よ う に お こ
な っ て い る の か を 調 査 し た 。
こ れ ら の 調 査 の 詳 し い 報 告 に つ い て は 、 池 谷 ・ 久 津
語
借用語
外来語
カタカナ語
漢語
非カタカナ語
固有語
和語
非カタカナ語
6
木 (2013) 、 久 津 木 ・ 池 谷 ( 2013 ) 、 池 谷 ・ 久 津 木 (2014)に 譲 る と す る が 、 こ れ か ら の 議 論 の た め に 、 ま ず 、 池
谷 ・ 久 津 木 (2014) の 結 果 を 簡 単 に 概 観 し 、 さ ら に 新 し
い 知 見 を 述 べ て い く 。
2 池 谷 ・ 久 津 木 ( 2014 ) の 調 査 概 要
3.1 調 査 の 目 的
池 谷 ・ 久 津 木 (2014) の 調 査 の 目 的 は 、 英 語 を 母 語 と
す る 日 本 語 学 習 者 が カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 を ど の
よ う に 使 い 分 け て い る の か を 調 査 す る こ と で あ っ た 。
同 時 に 英 語 の 意 味 カ テ ゴ リ ー が ど の よ う に カ タ カ ナ 語
の 意 味 に 干 渉 し て い る の か を 調 査 し た 。 つ ま り 、 カ タ
カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 意 味 の マ ッ ピ ン グ の 傾 向 を あ
き ら か に す る こ と が 第 一 の 目 的 で あ る 。 前 回 の 調 査 の
方 法 と 概 要 を 簡 単 に ま と め て み る 。
3.2 調 査 の 概 要
英 語 を 母 語 と す る 日 本 語 学 習 者 55 名 に 対 し て 、 6 つ
の カ テ ゴ リ ー か ら 成 る カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使
い 分 け を 調 査 す る 。 1 つ の カ テ ゴ リ ー は 5枚 の 写 真 で
構 成 さ れ る 。 そ れ を 見 て 、 そ の 対 象 物 を 「 カ タ カ ナ
語 」 で 言 う の か 、 「 非 カ タ カ ナ 語 」 で 言 う か を 確 認 す
る 。 つ ま り 、 1枚 の 写 真 が カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語
で 2 回 使 わ れ る 。
ま と め る と 、 1 つ の カ テ ゴ リ ー は 、 カ タ カ ナ 語 ( 写
真 刺 激 5枚 ) + 非 カ タ カ ナ 語 ( 写 真 刺 激 5枚 ) = 計 10 質
問 で 構 成 さ れ る 。 そ れ を 6つ の カ テ ゴ リ ー で 調 査 を 行
う 。 つ ま り 、 被 験 者 は 、 60 質 問 ( 1 カ テ ゴ リ ー 10 質 問
×6カ テ ゴ リ ー ) に 答 え る こ と に な る 。 調 査 し た カ テ ゴ
リ ー と 写 真 刺 激 は 以 下 の よ う に な っ て い る 。
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カ テ ゴ リ ー 1 Bottle ボ ト ル と 瓶
カ テ ゴ リ ー 2 Brush ブ ラ シ と 筆
カ テ ゴ リ ー 3 Glove グ ロ ー ブ と 手 袋
カ テ ゴ リ ー 4 Potato ポ テ ト と じ ゃ が 芋
カ テ ゴ リ ー 5 Tea テ ィ ー と お 茶
カ テ ゴ リ ー 6 Ticket チ ケ ッ ト と 券
カ テ ゴ リ ー 1 Bottle ボ ト ル と 瓶
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5
カ テ ゴ リ ー 2 Brush ブ ラ シ と 筆
2-1 2-2 2-3 2-4 2-5
カ テ ゴ リ ー 3 Gloves グ ロ ー ブ と 手 袋
3-1 3-2 3-3 3-4 3-5
8
カ テ ゴ リ ー 4 Potato ポ テ ト と 芋
4-1 4-2 4-3 4-4 4-5
被 験 者 は こ れ ら の 写 真 を 見 て 、 そ れ を カ タ カ ナ 語 で
呼 ぶ か 、 非 カ タ カ ナ 語 で 呼 ぶ か を 、 直 感 に 従 い リ ッ
カ ー ト 法 に よ る 4 段 階 の 確 信 度 で 回 答 す る 。 非 カ タ カ
ナ 語 の 単 語 を 尋 ね る 時 に 、 そ れ を 英 語 の オ リ ジ ナ ル の
単 語 で も 呼 ぶ こ と を で き る の か も 確 認 し た 。 ア ン ケ ー
ト 用 紙 の サ ン プ ル は 、 文 末 に 参 考 資 料 と し て 載 せ て お
く 。
回 答 の 選 択 肢 は 以 下 の よ う に な っ て い る 。
1 Never( ま っ た く * * を 使 わ な い )
2 Sometimes( ど ち ら か と い う と * * を 使 わ な
い )
3 Often ( ど ち ら か と 言 う と * * を 使 う )
4 Always ( 常 に * * を 使 う )
つ ま り 、 1 や 2 が 多 い と 、 そ の 単 語 を 「 使 わ な い 」
と い う 否 定 的 な 傾 向 に な り 、 3 や 4 が 多 い と 、 そ の 単
語 を 「 使 う 」 と い う 肯 定 的 な 傾 向 に な る 。
カ テ ゴ リ ー 1 の カ タ カ ナ 語 の 「 ボ ト ル 」 と 、 非 カ タ
カ ナ 語 の 「 瓶 」 を ど の よ う に 使 い 分 け て い る か を み る
設 問 を 例 に と っ て 、 説 明 し て い く 。
「 ワ イ ン ボ ト ル 」 は 「 ワ イ ン の 瓶 」 の よ う に 「 ボ ト
ル 」 と 「 瓶 」 の 両 方 の 使 用 を 許 容 す る が 、 同 じ ガ ラ ス
製 品 で も 「 ビ ー ル 瓶 」 は 、 「 * ビ ー ル ボ ト ル 」 が 許 容
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さ れ な い 。 ま た 、 同 じ 飲 み 物 を 入 れ る も の で あ っ て も
プ ラ ス チ ッ ク 製 で あ る 「 ペ ッ ト ボ ト ル 」 は 「 ボ ト ル 」
の み 許 容 さ れ 、 「 瓶 」 は 許 容 さ れ な い 。
つ ま り 、 「 瓶 」 は ガ ラ ス 製 の も の に 使 用 し 、 プ ラ ス
チ ッ ク 製 の も の は 「 ボ ト ル 」 と 呼 ば れ る こ と か ら 、 そ
の 材 料 が 使 い 分 け の 基 準 と な っ て い る こ と が 推 測 さ れ
る 。 し か し 、 問 題 な の 「 瓶 」 の 中 に も 「 ボ ト ル 」 と 呼
べ る も の と 「 ボ ト ル 」 と 呼 べ な い も の が 混 在 し て い る
こ と で あ る 。 < 表 2 > と し て 、 カ テ ゴ リ ー 1 の 刺 激 と
な っ た 写 真 を 再 掲 す る 。 < 表 3 > の グ ラ フ と 照 ら し 合
わ せ て 見 て ほ し い 。
< 表 2> カ テ ゴ リ ー 1 Bottle ボ ト ル と 瓶
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5
写 真 を 解 説 す る と 1-1 「 飲 み 物 を 入 れ も の ( ペ ッ ト
ボ ト ル ) 」 、 1-2 「 シ ャ ン プ ー を 入 れ る も の 」 、 1-3
「 ワ イ ン を 入 れ る も の 」 、 1-4 「 ビ ー ル を 入 れ る も
の 」 、 1-5 「 洗 剤 を い れ る も の 」 で あ る 。 「 ボ ト ル 」
と 「 瓶 」 の 使 い 分 け に つ い て 、 以 下 の よ う な 結 果 と
な っ た 。
< 表 3 > カ テ ゴ リ ー 1 Bottle 「 ボ ト ル 」 と 「 瓶 」 の
使 い 分 け
10
写真1-1
使わない
写真1-1
使う写真1-2
写真1-3
写真1-4
使わない
写真1-4
使う写真1-5
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
1aボトル1b瓶
①ペットボトル
②ワインボトル
③ビール瓶
④ ⑤ ⑥
カ タ カ ナ 語 「 1a ボ ト ル 」 を x 軸 上 、 正 の 値 と し て 取
り 、 数 値 を 対 照 さ せ る た め に 非 カ タ カ ナ 語 「 1b 瓶 」 を
負 の 値 と し て 、 反 転 さ せ て グ ラ フ に し た 。
1 つ の 写 真 1-1 に 対 し て 、 そ こ で 得 ら れ た 4 つ の 回
答 を 左 端 か ら 「 1 Never ( ま っ た く * * を 使 わ な
い ) 」 「 2 Sometimes( ど ち ら か と い う と * * を 使 わ な
い ) 」 「 3 Often ( ど ち ら か と 言 う と * * を 使 う ) 」
「 4 Always ( 常 に * * を 使 う ) 」 の 順 に 並 べ て あ る 。
つ ま り 、 左 端 が 「 使 わ な い 」 と 答 え た 回 答 で 、 右 端 が
「 使 う 」 と 答 え た 回 答 に な っ て い る 。 そ れ が 写 真 1-1
か ら 1-5 ま で 並 ん で い る 。
カ テ ゴ リ ー 1 a 「 ボ ト ル 」 に つ い て 、 1-1 「 ペ ッ ト ボ
ト ル 」 を 常 に カ タ カ ナ 語 の 「 ボ ト ル 」 が 使 う と い う 回
答 者 は 67%(37人 ) お り ( 番 号 ① ) 、 群 を 抜 い て 高 か っ た 。
し か し 、 一 方 で 1-3 「 ワ イ ン ボ ト ル 29%( 16 人 ) 」 ( 番
号 ② ) 1-4 「 ビ ー ル 瓶 30%( 17 人 ) 」 で 「 ボ ト ル 」 を 使
う ( 番 号 ③ ) と い う 回 答 者 に は 差 が 無 い 。
カ テ ゴ リ ー 1b 「 瓶 」 に つ い て 、 常 に 「 瓶 」 を 使 う と
い う 回 答 者 は 、 1-3 「 ワ イ ン ボ ト ル 20%( 11 人 ) 」 ( 番
号 ④ ) と 1-4 「 ビ ー ル 瓶 29%(16人 ) 」 ( 番 号 ⑤ ) の 間 で あ-40-30-20-10
010203040
1aボトル1b瓶
①ペットボトル②ワインボトル
③ビール瓶
④ ⑤⑥
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ま り 差 が な い 。 こ れ ら の こ と か ら 、 「 ワ イ ン ボ ト ル 」
と 「 ビ ー ル 瓶 」 の 使 い 分 け は 強 く 認 識 さ れ て い な い こ
と が わ か る 。 1-5 「 洗 剤 容 器 」 に 関 し て は 、 ど ち ら か
と い う と 「 瓶 」 使 わ な い と い う や や 否 定 的 な 回 答 ( 回
答 1 と 回 答 2 ) を 選 ん だ 回 答 者 が 合 計 65% ( 36 人 )
( 番 号 ⑥ ) い た 。 は っ き り し た 理 由 は わ か ら な い が 、
英 語 の bottle の 使 用 を み て み る と 、 他 の 写 真 刺 激 は 回 答
3 や 回 答 4 を 選 好 し て い た が 、 1-5 「 洗 剤 容 器 」 は 他 と
比 較 す る と 回 答 1 と 回 答 2が 多 く 、 合 計 す る と 29%( 16
人 ) が 使 わ な い 方 を 選 ん で い た 。
こ こ か ら 仮 説 を た て る と 、 英 語 の bottle場 合 、 手 で 一
周 し て 握 れ る 筒 型 の 形 状 の も の が プ ロ ト タ イ プ で あ り 、
持 ち 手 が つ い て 持 ち 上 げ る 大 ぶ り の も の は bottle の プ ロ
ト タ イ プ か ら 外 れ る 可 能 性 が あ る 。
日 本 語 学 習 者 の ボ ト ル と 瓶 の 使 い 分 け に 関 し て 、 日
本 語 学 習 者 は ペ ッ ト ボ ト ル の み 、 高 い 確 信 を も っ て
「 ボ ト ル 」 と 判 断 し て い る が 、 「 瓶 」 に 関 し て は 、 使
い 分 け の 基 準 に な る も の が 、 素 材 ( ガ ラ ス or プ ラ ス
チ ッ ク ) な の か 、 内 容 物 ( 飲 め る も の or 飲 め な い も )
な の か 、 形 状 ( 筒 型 or 持 ち 手 付 き ) な の か 等 、 は っ き
り し て い な い と 言 え る 。 こ れ は お そ ら く 、 ペ ッ ト ボ ト
ル は 「 ペ ッ ト ボ ト ル 」 と い う 名 称 を よ く 聞 く た め 、
「 ボ ト ル 」 で あ る と は っ き り 認 識 し て い る が 、 洗 剤 や
シ ャ ン プ ー の 容 器 の よ う に あ ま り 名 称 を と り あ げ ら れ
る こ と が な い も の は 、 「 ボ ト ル 」 な の か 「 瓶 」 な の か
判 断 が つ か な い こ と が 推 測 さ れ る 。 ま た 、 瓶 に つ い て
も 素 材 が ガ ラ ス 製 で あ る と い う こ と で 「 瓶 」 の 認 知 的
カ テ ゴ リ ー を 形 成 す る ま で に は い た っ て い な い の で 、
ガ ラ ス 製 の 1-3 「 ワ イ ン ボ ト ル 」 や 1-4 「 ビ ー ル 瓶 」 の
写 真 刺 激 で も 、 3 や 4 の 確 信 度 を も っ て 「 瓶 」 使 う と
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答 え た 人 は 半 分 に 満 た な い 数 に な っ て い る 。
池 谷 ・ 久 津 木 ( 2014 ) で は 、 6 つ の カ テ ゴ リ ー す べ
て の も の に つ い て 、 英 語 を 母 語 と す る 学 習 者 が カ タ カ
ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 を ど の よ う に 認 識 し て い る か を 調
査 し た 結 果 を 明 ら か に し た 。 そ の 結 果 、 カ タ カ ナ 語 と
非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け に 以 下 の よ う な 5 つ の 傾 向 が
見 ら れ た 。
< 結 果 >
.① カ タ カ ナ 語 に 関 し て 、 非 カ タ カ ナ 語 に 対 応 す る 語
が な く 「 ペ ッ ト ボ ト ル 」 「 歯 ブ ラ シ 」 の よ う に 指
示 対 象 物 の 名 称 の 中 に そ の カ タ カ ナ 語 が 入 っ て い
れ ば 、 積 極 的 に カ タ カ ナ 語 を 選 び や す い 。
.② 「 筆 」 と 「 ブ ラ シ 」 の 使 い 分 け や 「 お 茶 」 と
「 テ ィ ー 」 の 使 い 分 け か ら 、 日 本 的 な も の は 非 カ
タ カ ナ 語 、 そ う で は な い も の は カ タ カ ナ 語 を 選 ぶ
傾 向 が あ る 。
.③ 対 象 物 を 表 す 時 、 カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の ど
ち ら を 使 え ば よ い の か 不 明 な 場 合 、 英 語 の 母 語 の
知 識 を 生 か し て 、 そ れ と 対 応 す る カ タ カ ナ 語 が 選
択 さ れ や す い 。
.④ 「 革 手 袋 」 を 「 グ ロ ー ブ 」 と 判 断 す る こ と か ら 、
材 料 や 形 態 な ど 、 独 自 の 使 い 分 け の 基 準 を 適 用 し
て 判 断 す る こ と が あ る 。 そ の 時 の 判 断 に 母 語 干 渉
が 現 れ る な ど 、 一 種 、 中 間 言 語 的 な 振 る 舞 い を 見
せ る 。
.⑤ 一 般 的 に 、 カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け
は 辞 書 に 書 い て い な い こ と が 多 い こ と か ら 、 学 習
者 は 多 く の 例 か ら 帰 納 的 に そ の 意 味 カ テ ゴ リ ー を
形 成 し て い く 。 そ の た め 、 そ の 情 報 に ど の く ら い
13
ア ク セ ス で き る か が 習 得 の 鍵 に な っ て い る 可 能 性
が あ る 。
こ れ ら の 結 果 を 踏 ま え て 、 カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ
語 の 両 方 が 存 在 す る 場 合 、 ど の よ う な 使 い 分 け が 理 解
し や す く 、 ど の よ う な 使 い 分 け が 理 解 し に く い の か を
探 る こ と に し た 。
4. 被 験 者
こ の 調 査 の 対 象 者 は 英 語 を 母 語 話 と す る 者 で 、 2013
年 の 7月 〜 9月 に か け て H 県 内 の 複 数 の 日 本 語 短 期 プ ロ
グ ラ ム の 学 生 を 対 象 と し て 行 っ た 。
被 験 者 の 内 訳 は 男 性 が 18 人 、 女 性 が 37 人 で N =552 で
あ る 。 対 象 の 年 齢 は 10 代 が 13 人 、 20 代 が 39 人 、 30 代 以
上 が 4人 で 、 平 均 年 年 齢 は 21.6歳 で あ っ た 。 日 本 語 の レ
ベ ル は 自 己 申 告 で あ る が 初 級 が 12 人 、 中 級 が 32 人 、 上
級 が 9 人 で あ っ た 。 ア ン ケ ー ト に は 公 的 な 日 本 語 の テ
ス ト を 受 け た こ と が あ る 場 合 は 記 入 し て も ら っ た が 、
OPI3や JLPT4 な ど 様 々 で あ っ た 。 ま た 、 国 外 で 勉 強 し て
い る せ い か 、 資 格 が な い と い う 対 象 者 も か な り い た 。
ア ン ケ ー ト は 対 面 で 用 紙 を 配 布 し て 行 っ た 。 な お 、
ア ン ケ ー ト で は 日 本 語 教 育 学 会 の 倫 理 規 定 に 基 づ き 、
個 人 情 報 に 配 慮 し て 行 い 、 そ れ を デ ー タ 化 し た 。
< 表 4 > 被 験 者 属 性 の ま と め ( 2013 年 7 月 〜 9月に デ ー タ 採 取 )
2 項目によっては欠損があるため数が異なる。3 正式名称ACTFL-Oral Proficiency Interview 口頭能力を測るインタビュー形式の試験 4 正式名称 Japanese Language Proficiency Test或いは日本語能力試験、日本語を母語としない人を対象に日本語能力を認定する試験。N1〜N5まである。
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1 性 別 男 性 18 名 女 性 37 名 合 計 55 名
2 年 齢 10 代 13 名 、 20 代 39 名 、 30 代 4 名
平 均 → 21.6歳3 母 語 英 語
4 英 語 以 外
の 使 用 言 語
日 本 語 1 名 中 国 語 6 名 韓 国 語 2名 そ の 他 4名
6 日 本 語 レ
ベ ル
初 級 12 名 中 級 32 名 上 級 9名
7 日 本 語 学
習 時 間
0.5 年 〜 10 年 平 均 → 3.95 年
あ る 対 象 物 に 対 し て 、 カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 が
存 在 す る 場 合 、 ど の よ う な 使 い 分 け が 理 解 し や す く 、
ど の よ う な 使 い 分 け が 理 解 し に く い の か を 探 る 手 が か
り と し て 、 学 習 者 の レ ベ ル に 注 目 し た 。 初 級 の 学 習 者
で も 使 い 分 け が 理 解 で き て い る も の と 、 上 級 に な ら な
い と 使 い 分 け が 理 解 で き な い 、 あ る い は 上 級 で も 使 い
分 け が 難 し い も の を 知 る こ と に よ っ て 、 理 解 が し や す
い も の と 理 解 し に く い も の を 分 類 で き る だ ろ う と 予 測
す る か ら で あ る 。
初 級 の 被 験 者 は 12 名 で 、 日 本 語 学 習 歴 の 平 均 は 約
2.2 年 で あ っ た 。 JLPT4級 を 持 っ て い る 者 1名 い た が 、 そ
の 他 に 資 格 を 持 っ て い る 者 は い な か っ た 。
上 級 の 被 験 者 は 9名 で 、 日 本 語 学 習 歴 の 平 均 は 約 4.7
年 で あ っ た 。 そ の 中 で 日 本 語 学 習 歴 が 最 も 長 い 者 は
8.5 年 で 、 最 も 短 い 者 は 1.5 年 で あ っ た 。 上 級 と い う の
は 、 あ く ま で 自 己 申 告 の レ ベ ル で あ る が 、 そ の 中 で
JLPT 1 級 を 持 っ て い る 者 が 1 名 、 1級 を 69%で き た と い
う 者 が 1 名 、 OPI 上 級 を 持 っ て い る 者 が 2 名 、 AP Japanese
15
Language and Culture に 合 格 し た も の が 1名 で あ っ た 。 つ ま
り 、 9名 中 、 5名 は 何 ら か の 根 拠 が あ り 、 自 分 自 身 を 上
級 で あ る と 判 断 し て い る 。
< 表 5> 上 級 の 被 験 者 の 詳 し い 属 性
NO. 性
別
年
齢
母 語 と そ の 他
の 使 用 言 語
学 習
歴
日 本 語 の テ
ス ト
NO.1 女 16 英 語 ・ 韓 国 語 3年 AP Japanese
NO.2 男 27 英 語 8.5
年
JLPT N1 69%
NO.3 女 22 英 語 6年
NO.4 女 20 英 語 ・ 日 本 語 3年 JLPT N1
NO.5 女 21 英 語 ・ 中 国 語 1.5 OPI advanced
Level
NO.6 女 22 英 語 6年
NO.7 男 22 英 語 3年
NO.8 女 20 英 語 6年 OPI advanced
Level
NO.9 男 23 英 語 6年
5. カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け と 日 本 語 レ ベ
ル の 関 係
英 語 を 母 語 と す る 日 本 語 学 習 者 の カ タ カ ナ 語 と 非 カ
タ カ ナ 語 の 使 い 分 け に 、 日 本 語 の レ ベ ル ( 初 級 か 上 級
か ) が ど の よ う に 影 響 し て い る か を 分 析 し た 。 手 順 と
し て 、 初 級 と 上 級 の レ ベ ル に 分 け た 回 答 の 傾 向 を レ ー
ダ ー チ ャ ー ト で 表 し 、 そ の 傾 向 を 比 較 ・ 分 析 た し た 結
果 、 大 き く 以 下 の 3 つ の タ イ プ に 分 類 さ れ る こ と が わ
か っ た 。
16
詳 し い 分 析 は 後 で 述 べ る こ と に し て 、 ま ず 、 3 つ の
タ イ プ を 解 説 す る 。
タ イ プ Ⅰ は 初 級 で あ っ て も 上 級 で あ っ て も 回 答 に 差
が 無 い タ イ プ で あ る 。 か つ 、 回 答 が 1 つ の ベ ク ト ル に
集 約 さ れ て お り 、 日 本 人 と 同 じ よ う な 回 答 パ タ ー ン を
示 す も の で あ る 。 つ ま り 、 早 い 時 点 に そ の カ タ カ ナ 語
の 使 い 分 け が 理 解 さ れ て い る と 考 え ら れ る も の で あ る 。
タ イ プ Ⅱ は 初 級 と 上 級 の 回 答 が 大 き く 異 な る タ イ プ
で あ る 。 初 級 は 混 乱 し て い る が 、 上 級 に な る と 回 答 に
一 定 の 傾 向 が あ り 、 日 本 語 学 習 の 習 得 が 進 む に つ れ 、
カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け の 規 則 を 理 解 し
て い た っ た と 考 え ら れ る も の で あ る 。
タ イ プ Ⅲ は 初 級 で も 上 級 で も 回 答 が 混 乱 し て お り 、
一 定 の 傾 向 が な い も の で あ る 。 初 級 は も ち ろ ん で あ る
が 、 上 級 で あ っ て も 、 使 い 分 け の 規 則 性 が 捉 え に く く 、
回 答 に 確 信 が な い も の で あ る 。
そ れ ぞ れ の タ イ プ と カ テ ゴ リ ー の 結 果 を ま と め る と
以 下 の よ う に な っ た 。
< タ イ プ Ⅰ 習 得 し や す い タ イ プ >
= カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 指 示 対 象 が 別 に な っ て
お り 、 カ タ カ ナ 語 が 有 標 な も の
カ テ ゴ リ ー 3 Glove グ ロ ー ブ と 手 袋
カ テ ゴ リ ー 4 Potato ポ テ ト と 芋
< タ イ プ Ⅱ : 使 い 分 け の 基 準 が わ か れ ば 習 得 し や す い
タ イ プ >
= 材 質 や 形 態 、 使 用 方 法 な ど で 使 い 分 け が さ れ て い る
も の
カ テ ゴ リ ー 1 Bottle ボ ト ル と 瓶
17
カ テ ゴ リ ー 2 Brush ブ ラ シ と 筆
< タ イ プ Ⅲ : 習 得 し に く い カ タ カ ナ 語 の タ イ プ >
= 一 見 、 非 常 に 意 味 が よ く 似 て い て 使 い 分 け の 基 準 を
規 則 化 し に く い も の
カ テ ゴ リ ー 5 Tea テ ィ ー と お 茶
カ テ ゴ リ ー 6 Ticket チ ケ ッ ト と 券
以 下 、 そ れ ぞ れ の タ イ プ に つ い て 詳 し く 分 析 し て い く 。
5.1 タ イ プ Ⅰ : 習 得 し や す い タ イ プ
< タ イ プ Ⅰ 理 解 し や す い タ イ プ >
= カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 指 示 対 象 が 別 に な っ て
お り 、 カ タ カ ナ 語 が 有 標 な も の
カ テ ゴ リ ー 3 Glove グ ロ ー ブ と 手 袋
カ テ ゴ リ ー 4 Potato ポ テ ト と 芋
ま ず 、 最 初 に 揚 げ ら れ る の が 、 カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ
カ ナ 語 が 相 補 分 布 な 関 係 に あ り 、 カ タ カ ナ 語 で 指 す も
の と 、 非 カ タ カ ナ 語 で 指 す も の の 指 示 対 象 が 異 な る も
の で あ る 。
ま ず 、 レ ー ダ ー チ ャ ー ト の 見 方 を 解 説 す る 。 4 つ の
角 が 以 下 の そ れ ぞ れ の 回 答 に 対 応 し て い る 。
1 Never( ま っ た く * * を 使 わ な い )
2 Sometimes( ど ち ら か と い う と * * を 使 わ な い )
3 Often ( ど ち ら か と 言 う と * * を 使 う )
4 Always ( 常 に * * を 使 う )
つ ま り 、 1 や 2 が 多 け れ ば 「 使 わ な い 」 と 判 断 が 強
く 、 3 や 4 が 多 け れ ば 「 使 う 」 と い う 判 断 が 強 い こ と
18
に な る 。 初 級 の 被 験 者 は 12 人 で 、 上 級 の 被 験 者 が 9 人
で あ る た め 、 母 数 が 異 な る 。 母 数 が 異 な る が 、 レ ー
ダ ー チ ャ ー ト で 同 じ よ う な 図 形 に な れ ば 、 同 じ よ う な
回 答 の 傾 向 が あ る こ と が わ か る 。
回 答 に ば ら つ き が あ れ ば あ る ほ ど 、 レ ー ダ ー チ ャ ー
ト の 中 の 四 角 の 空 間 が 大 き く な り 、 回 答 に ば ら つ き が
な く 、 1 つ の 回 答 に 集 約 さ れ る と 、 四 角 の 空 間 が な く
な り 、 フ ラ ッ ト な 1 本 の 線 の よ う な 形 に な る 。
< 表 6 > 野 球 の 道 具 (3-3) に 「 グ ロ ー ブ 」 を 使 う か と い
う 質 問 の 答 え
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
5
10
初級上級
野 球 の 道 具 (3-3) に 「 グ ロ ー ブ 」 を 使 う か と い う 質 問
の 答 え を み る と 、 上 級 は ほ ぼ 1 本 線 に な っ て お り 、 回
答 4 「 使 う 」 を 選 好 し て い る 。 初 級 も 回 答 3 「 ま あ ま
あ 使 う 」 と 回 答 4 「 使 う 」 を 選 好 し て お り 、 上 級 と 同
じ よ う な 傾 向 を 示 し て い る と い え る だ ろ う 。
日 本 語 で は 「 グ ロ ー ブ 」 と い う と 、 野 球 や ボ ク シ ン
グ な ど の ス ポ ー ツ の 時 に 使 う 特 別 な 道 具 で あ っ て 、 普
通 の 手 袋 の こ と は 決 し て グ ロ ー ブ と は 言 わ な い 。 こ の
19
よ う に 、 日 本 語 で は グ ロ ー ブ と 手 袋 は 指 示 対 象 が は っ
き り と 異 な っ て い る 。 一 方 で 、 英 語 の glove は 手 袋 の 総
称 で あ り 、 普 通 の 手 袋 に glove を 使 う が 、 手 に は め る も
の す べ て を 指 す 上 位 概 念 の 語 で あ る た め 、 野 球 の 道 具
の 場 合 、 単 に glove と 言 っ た だ け で は 、 言 葉 足 ら ず に な
る 。 き ち ん と 言 う に は 「 baseball glove 」 あ る い は 、
「 mitt 」 と 言 わ な け れ ば な ら な い 。 そ れ に も 関 わ ら ず 、
上 級 レ ベ ル の 被 験 者 の ほ と ん ど が 、 野 球 の 道 具 に 「 グ
ロ ー ブ 」 を 使 う と 回 答 し て お り 、 回 答 に ぶ れ が な い 。
興 味 深 い の が 、 初 級 の 被 験 者 も カ タ カ ナ 語 の グ ロ ー ブ
が 野 球 の 道 具 の み を 指 す こ と を 理 解 し て お り 、 初 級 と
上 級 の 学 習 者 の 回 答 が ほ ぼ 同 じ 傾 向 と な っ て い る こ と
で あ る 。
ま た 、 カ タ カ ナ 語 で あ る 「 フ ラ イ ド ポ テ ト 」 の 中 に
は 「 ポ テ ト 」 が 入 っ て い る が 、 英 語 で は 一 般 的 に
「 French fry」 あ る い は 「 Frites」 と 言 わ れ 、 「 potato 」 が
そ の 名 称 に 入 ら な い こ と が 知 ら れ て い る 。 そ の こ と を
裏 付 け る よ う に 、 英 語 potato の 調 査 で は 「 フ ラ イ ド ポ
テ ト 」 に 関 し て potato を 使 わ な い ( 回 答 1 と 回 答 2) と
い う 回 答 者 が 合 計 40%( 22 人 ) い た 。 そ れ に も 関 わ ら
ず 、 日 本 語 で は そ の 対 象 物 に 「 ポ テ ト 」 使 う と い う 回
答 者 が 多 い こ と が < 表 7 > は 示 し て い る 。 つ ま り 、 英
語 で は あ ま り potato と 言 わ な い が 、 日 本 で は 細 切 り に
し た 油 で あ げ た 芋 が 「 ポ テ ト 」 と 呼 ば れ て い る こ と を
認 識 し て い る の で あ る 。 ア ン ケ ー ト は 日 本 に 来 て い る
留 学 生 達 に 行 っ た の で 、 フ ラ イ ド ポ テ ト の 実 物 を
フ ァ ー ス ト フ ー ド 店 な ど で よ く 見 る せ い な の か 、 か な
り は っ き り と し た 傾 向 が 見 ら れ た 。
< 表 7> 細 切 り に し た 揚 げ た 芋 (4-5) に 「 ポ テ ト 」 を 使
20
う か と い う 質 問 の 答 え
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
5
10
初級上級
5.2 タ イ プ Ⅱ : 使 い 分 け の 基 準 が わ か れ ば 習 得 し や す
い タ イ プ
< 使 い 分 け の 基 準 が わ か れ ば 理 解 し や す い タ イ プ >
= 材 質 や 形 態 、 使 用 方 法 な ど で 使 い 分 け が さ れ て い る
も の
カ テ ゴ リ ー 1 Bottle ボ ト ル と 瓶
カ テ ゴ リ ー 2 Brush ブ ラ シ と 筆
タ イ プ Ⅱ は 初 級 と 上 級 の 回 答 が 大 き く 異 な る タ イ プ
で あ る 。 議 論 の 都 合 上 、 カ テ ゴ リ ー 2 の 「 ブ ラ シ 」 と
「 筆 」 の 使 い 分 け か ら 見 て い く こ と に す る 。 習 字 の 筆
を 見 て 、 ブ ラ シ と い う か と い う 質 問 に 対 し 、 初 級 の 学
習 者 は 回 答 に ば ら つ き が あ り な が ら も 、 「 使 う 」 を 選
ん だ 回 答 が 多 い 。 そ れ は 、 英 語 で 筆 の こ と を 「 brush 」
呼 ぶ た め 、 よ く わ か ら な い 対 象 物 を 判 断 す る と き は 、
母 語 の 知 識 を 利 用 す る か ら だ と 考 え ら れ る 。
一 方 で 、 上 級 で は ほ と ん ど の 人 が 「 使 わ な い 」 を 選
21
ん で い る 。 こ の こ と か ら 、 上 級 の 被 験 者 達 は こ れ ま で
の 経 験 か ら 、 習 字 の 筆 に は 「 ブ ラ シ 」 で は な い 、 非 カ
タ カ ナ 語 を 使 用 す る こ と を 認 識 し て い る こ と が わ か る 。
< 表 8> 習 字 の 筆 ( 2-1 ) に 「 ブ ラ シ 」 を 使 う か と い う
質 問 の 答 え
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
5
10
初級上級
そ れ で は 、 「 筆 」 と 「 ブ ラ シ 」 の 使 い 分 け は 、 ど の
よ う に 認 識 し て い る の だ ろ う か 。 可 能 性 と し て は 2 つ
あ る 。 1 つ 目 と し て 、 日 本 的 な も の は 「 筆 」 、 そ の ほ
か の も の は 「 ブ ラ シ 」 と い う 使 い 分 け の ル ー ル を 適 応
し て い る 可 能 性 で あ る 。 2 つ 目 と し て 、 毛 先 を 下 向 き
に し て そ こ に 水 気 を 含 ま た 状 態 で 、 文 字 を 書 い た り 、
絵 を 描 い た り す る も の を 筆 と い い 、 毛 先 を 上 向 き し て 、
比 較 的 水 気 が 少 な い 状 態 で 使 用 す る も の を ブ ラ シ と し
て い る 可 能 性 で あ る 。
< 表 9> 絵 筆 ( 2-5 ) に 「 ブ ラ シ 」 を 使 う か と い う 質 問
の 答 え
22
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
5
10
初級上級
< 表 9 > か ら わ か る よ う に 、 絵 筆 に 関 し て は 、 上 級
者 の 回 答 が レ ー ダ ー チ ャ ー ト で ほ ぼ 完 全 な 四 角 に な っ
た 。 無 回 答 が 1 名 い る た め に 、 N=8 に な り 各 回 答 が 2
名 ず つ で 、 す べ て の 回 答 に 分 散 し た か ら で あ る 。 そ の
た め < 表 9> は < 表 8> と は 全 く 異 な っ た 形 に な っ た 。
こ れ は つ ま り 、 絵 筆 に 「 ブ ラ シ 」 を 使 っ て も い い の か 、
使 っ て は い け な い の か わ か ら な い 状 態 で あ る こ と を 示
し て い る 。 久 津 木 ・ 池 谷 ( 2013 ) で 、 日 本 人 母 語 話 者
で は 100% が 「 筆 」 を 選 ん で お り 、 「 ブ ラ シ 」 を 選 ん だ
回 答 者 は 0% で あ っ た こ と を 考 え る と 、 英 語 を 母 語 と
す る 日 本 語 学 習 者 は 1 つ 目 の 可 能 性 で あ る 日 本 的 な も
の は 「 筆 」 、 そ の ほ か の も の は 「 ブ ラ シ 」 と い う 使 い
分 け の ル ー ル を 適 応 し て い る こ と が わ か る 。
一 方 で 日 本 語 母 語 話 者 は 2 つ 目 の 可 能 性 で あ る 、 毛
先 を 下 向 き に し て そ こ に 水 気 を 含 ま た 状 態 で 、 文 字 を
書 い た り 、 絵 を 描 い た り す る も の を 「 筆 」 と い い 、 毛
先 を 上 向 き し て 、 比 較 的 水 気 が 少 な い 状 態 で 使 用 す る
も の を 「 ブ ラ シ 」 と す る 使 い 分 け の ル ー ル を 適 応 し て
い る こ と が わ か る 。
23
日 本 人 母 語 話 者 と は 多 少 異 な り な が ら も 、 日 本 語 学
習 者 が そ れ ま で の 経 験 や 知 識 を 活 か し て 、 語 彙 に 関 し
て も 、 一 種 中 間 言 語 的 な 独 自 の ル ー ル を 編 み 出 し 、 判
断 し て い る こ と が こ れ ら の 結 果 か ら わ か る 。
そ れ で は 、 次 に 「 ボ ト ル 」 と 「 瓶 」 の 使 い 分 け に つ
い て 見 て い く 。
< 表 10 > ワ イ ン の 容 器 (1-3) に 「 ボ ト ル 」 を 使 う か と い
う 質 問 の 答 え
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
2
4
初級上級
初 級 の 学 習 者 は ワ イ ン の 容 器 に 対 し て 「 ボ ト ル 」 を
「 使 う 」 を 選 択 し た 回 答 者 が 多 い の に 対 し 、 上 級 の 学
習 者 は 「 使 わ な い 」 を 選 択 し た 回 答 者 が 多 い 。 こ れ だ
け 見 る と 、 初 級 の 学 習 者 の 方 が 正 し く 選 ん で い る よ う
に 感 じ ら れ る が 、 瓶 は 主 に ガ ラ ス ・ 陶 器 な ど で で き た
容 器 の こ と を 指 す 。 そ れ に 対 し て 、 ボ ト ル は プ ラ ス
チ ッ ク で で き た 容 器 を 指 す こ と が 多 い 。 そ の た め 、 一
般 的 に は 、 ビ ー ル 瓶 、 花 瓶 、 空 き 瓶 の よ う に 、 素 材 と
「 瓶 」 の 使 い 分 け が 対 応 し て い る 。 た だ し 、 そ の
「 瓶 」 の 中 に 、 ワ イ ン ボ ト ル の よ う に 、 慣 習 的 に 「 ボ
24
ト ル 」 を 使 う 物 が 混 じ っ て い る 。 そ れ が 、 洋 酒 の 瓶 の
グ ル ー プ で あ る 。 こ れ ら は 、 「 * ワ イ ン 瓶 」 の よ う に
語 彙 化 は し て お ら ず 、 「 ワ イ ン の 瓶 」 の よ う に 合 成 的
な 形 で し か 言 う こ と が で き な い 。 し か し 、 飲 み 終 わ っ
た ワ イ ン ボ ト ル は 「 空 き 瓶 」 と な り 、 瓶 に な る 。 こ れ
ら を 「 ボ ト ル 」 と 呼 ぶ の は 慣 習 的 に 決 ま っ て い る も の
で あ り 、 ガ ラ ス 製 の も の は 瓶 と い う 原 則 か ら は 外 れ て
い る 。
< 表 10 > を 見 る と 、 上 級 の 学 習 者 は ワ イ ン の 容 器 に
は 「 ボ ト ル 」 を 「 使 わ な い 」 を 選 ん だ 回 答 者 が 多 い 。
こ れ は 、 ガ ラ ス 製 の も の は 瓶 と い う 規 則 を 知 っ て お り 、
そ れ を 一 般 化 し た せ い だ と 考 え ら れ る 。 そ れ に 対 し て 、
初 級 の 学 習 者 は 「 瓶 」 と い う 単 語 に 対 し て 明 確 な イ
メ ー ジ が な い た め 、 英 語 の bottle と 同 じ よ う に 「 使 う 」
を 選 択 し た 回 答 者 が 多 く な っ て い る 。
こ れ か ら わ か る こ と は 、 日 本 語 の 学 習 が 進 む に つ れ
て 、 学 習 者 が 語 彙 の 選 択 に 対 し て 独 自 の ル ー ル を 設 定
し 、 カ タ カ ナ 語 と 非 カ タ カ ナ 語 の 使 い 分 け を 判 断 し て
い る こ と が わ か る 。
こ れ ら の カ テ ゴ リ ー は 現 在 は そ の 使 い 分 け が は っ き
り し て い な い が 、 日 本 語 に お い て そ の 対 象 物 に 対 す る
イ ン プ ッ ト が 増 え る と 伴 に 語 彙 の 認 知 カ テ ゴ リ ー が 修
正 さ れ 、 日 本 人 と 同 じ よ う な 意 味 の マ ッ ピ ン グ に な る
こ と が 予 測 さ れ る 。
5.3 タ イ プ Ⅲ : 理 解 し に く い カ タ カ ナ 語
< 習 得 し に く い カ タ カ ナ 語 の タ イ プ >
= 一 見 、 非 常 に 意 味 が よ く 似 て い て 使 い 分 け の 基 準 を
規 則 化 し に く い も の
25
カ テ ゴ リ ー 5 Tea テ ィ ー と お 茶
カ テ ゴ リ ー 6 Ticket チ ケ ッ ト と 券
最 期 に 考 察 す る タ イ プ Ⅲ は 初 級 で も 上 級 で も 回 答 が
混 乱 し て お り 、 一 定 の 傾 向 が な い も の で あ る 。 初 級 は
も ち ろ ん で あ る が 、 上 級 で あ っ て も 、 回 答 に 確 信 が な
い 。
タ イ プ Ⅲ と タ イ プ Ⅰ は 初 級 の 学 習 者 と 上 級 の 学 習 者
と は 同 じ よ う な レ ー ダ ー チ ャ ー ト に な る と い う 点 で は
共 通 点 が あ る 。 し か し 、 タ イ プ Ⅰ の 日 本 語 学 習 者 達 は
あ る 程 度 の 確 信 を も っ て 、 回 答 を 選 ん で い る の で 、 回
答 の ば ら つ き が な い 。 ま た 、 日 本 人 の 回 答 と も 一 致 し 、
1 本 の 線 の よ う な フ ラ ッ ト な 閉 じ た レ ー ダ ー チ ャ ー ト
と な る 。
そ れ に 対 し て 、 タ イ プ Ⅲ は ど う い う 基 準 で カ タ カ ナ
語 を 選 ん だ ら よ い の か は っ き り し な い た め 、 上 級 で
あ っ て も 、 回 答 が そ ろ わ ず 、 か つ 、 ど ち ら の レ ベ ル も
母 語 で あ る 英 語 の 知 識 を 利 用 す る た め 、 結 果 と し て 初
級 と 上 級 の 学 習 者 が 同 じ よ う な レ ー ダ ー チ ャ ー ト と な
る 。
飛 行 機 に 乗 る も の に 「 チ ケ ッ ト 」 を 使 う か と う 答 え
に 対 し て 、 日 本 語 学 習 者 は 初 級 で あ っ て も 、 上 級 で
あ っ て も 「 使 う 」 を 選 ん だ 回 答 者 が 多 い 。 こ れ は 英 語
で は 「 an airline ticket 」 と 呼 ば れ た り 、 「 boarding pass 」
と 呼 ば れ る も の で あ る 。
日 本 語 で は 「 航 空 券 」 「 搭 乗 券 」 と 呼 ば れ る も の で
あ る が 、 「 券 」 は 「 チ ケ ッ ト 」 を 排 除 す る わ け で は な
く 、 「 飛 行 機 の チ ケ ッ ト 」 と も い う こ と が で き る も の
で あ る 。 つ ま り 、 「 チ ケ ッ ト 」 と 「 券 」 が 共 存 し て お
り 、 ど ち ら か 1 つ し か 言 え な い よ う な 排 他 的 な 関 係 に
26
な っ て い な い 。 こ の よ う に 、 日 本 語 の 語 彙 と し て 使 い
分 け の ル ー ル が 確 定 し て い な い た め 、 基 準 が と り に く
い も の で あ る 。 そ の た め 、 日 本 語 学 習 者 は 英 語 の 知 識
を 利 用 し て 回 答 し て い る こ と が わ か る 。
< 表 11 > 飛 行 機 に 乗 る も の ( 6-5 ) に 「 チ ケ ッ ト 」 を
使 う か と い う 質 問 の 答 え
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
5
10
初級上級
そ れ で は 、 日 本 人 母 語 話 者 は ど う 判 断 し て い る だ ろ
う か 。 久 津 木 ・ 池 谷 ( 2013 ) で は 、 日 本 人 に 対 す る 予
備 調 査 の 中 で 、 自 由 記 述 の 中 で は 「 チ ケ ッ ト 」 と 使 っ
て も 良 い と い う 記 述 が 見 ら れ た が 、 実 際 に 写 真 を 見 て
選 ん で も ら う 質 問 で は コ ン サ ー ト の チ ケ ッ ト の み が
「 チ ケ ッ ト 」 の 使 用 に 優 位 な 差 が 見 ら れ 、 そ の 他 の も
の は 有 意 に は 許 容 さ れ な い と い う 結 果 が 出 た 。 つ ま り 、
「 チ ケ ッ ト 」 は 使 え な い わ け で は な い が 、 無 意 識 の 選
択 と し て 、 「 券 」 が 好 ま れ る こ と が わ か る 。
更 に 複 雑 な の が 、 「 茶 」 と 「 テ ィ ー 」 の 使 い 分 け で
あ る 。 久 津 木 ・ 池 谷 (2013) の 調 査 で は 日 本 語 母 語 話 者
の 結 果 で は 「 茶 ⇒ 紅 茶 ⇒ 様 々 な タ イ プ の お 茶 ( =
27
テ ィ ー ) 」 と い う 紅 茶 の 中 で の 意 味 の ヒ エ ラ ル キ ー が
指 摘 さ れ て い る 。 ま た 、 英 語 の tea に つ い て の 5-1 か ら
5-5 の 写 真 刺 激 は 、 常 に tea が 「 使 え る 」 を 選 択 し た 人
が 多 く 、 英 語 に お い て す べ て の 対 象 物 が 一 般 的 に tea
と 呼 ば れ る カ テ ゴ リ ー に 入 る も の で あ る 。
冷 た い 紅 茶 を 何 と 呼 ぶ の か と う 質 問 に 対 し て は 、 初
級 、 上 級 の 学 習 者 と も に 「 テ ィ ー 」 を 「 使 う 」 を 選 択
し た 回 答 者 が 多 い が 、 タ イ プ Ⅰ の よ う に 、 レ ー ダ ー
チ ャ ー ト が 1 本 線 に な る よ う な 強 い 傾 向 を 示 し て い な
い 。 冷 た い 紅 茶 を 日 本 語 で は 「 ア イ ス テ ィ ー 」 と 呼 ば
れ 、 そ の 名 称 に 「 テ ィ ー 」 が 入 っ て い る の に も 関 わ ら
ず 、 確 信 を も っ て テ ィ ー を 選 ん だ 回 答 者 が 意 外 に 少 な
い 。
そ の 理 由 と し て 、 「 テ ィ ー 」 の 持 つ 独 自 性 が あ る 。
日 本 人 母 語 話 者 で は 、 5-3 の 温 か い 紅 茶 に 関 し て は 、
非 カ タ カ ナ 語 の 「 お 茶 」 を 選 好 す る 傾 向 が あ っ た 。 そ
れ に 対 し て 、 同 じ 紅 茶 で も そ れ を 冷 た く し た も の は カ
タ カ ナ 語 で あ る 「 テ ィ ー 」 を 選 好 す る 傾 向 が あ る 。 つ
ま り 、 何 を テ ィ ー と い う の か は 、 そ の 対 象 物 ご と に 決
ま っ て お り 、 そ こ に は 明 確 な 規 則 が 見 い だ し に く い 。
な ぜ 、 こ の よ う な 振 る 舞 い を す る の か を 考 え て み る と 、
テ ィ ー は 1900 年 代 か ら 日 本 に 早 く か ら 外 来 語 と し て 輸
入 さ れ た こ と が 知 ら れ て い る 。
( 精 選 版 日 本 国 語 大 辞 典 2006 ) ( 下 線 は 筆 者 0
① 茶 。 特 に 紅 茶 を い う 「 レ モ ン テ ィ ー 」
* 風 俗 画 報 一 二 九 号 ( 19001 ) 食 堂 「 ラ イ ス
( 飯 ) と 呼 び チ ー ( 茶 ) を 叫 べ ば 、 盆 を 携 ふ る
給 仕 人 も 却 々 忙 し か り き 」
② イ ギ リ ス の 習 慣 で 、 午 後 に 取 る 軽 食 。 ア フ タ ヌ ー
ン テ ィ ー 。
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こ の よ う に 、 「 テ ィ ー 」 は 日 本 語 と し て 定 着 し て お
り 、 「 green tea 」 と い え ば 、 英 語 の 原 義 か ら 言 え ば 緑
茶 の こ と で あ る が 、 日 本 語 で は そ こ か ら 外 れ て 、 抹 茶
に 甘 い 味 を つ け 冷 や し て 飲 む も の に 、 「 グ リ ー ン
テ ィ ー 」 と 呼 ぶ な ど 、 語 と し て の 生 産 性 を 獲 得 し て い
る 。
こ う な る と 、 単 に 洋 風 な お 茶 に 「 テ ィ ー 」 を 使 う と
い う ル ー ル で は 処 理 で き な く な り 、 結 果 と し て 、
テ ィ ー は 聞 い た ら 理 解 で き る が 、 使 い 分 け に 関 し て は
判 断 が 難 し く な る 。
< 表 12 > 冷 た い 紅 茶 ( 5-3 ) に 「 テ ィ ー 」 を 使 う か と
い う 質 問 の 答 え
1 Never
2 Sometimes
3 Often
4 Always 0
5
初級上級
こ れ ま で の 議 論 を ま と め る と 、 同 じ カ タ カ ナ 語 と 非
カ タ カ ナ 語 で あ っ て も 、 そ の 使 い 分 け が 理 解 し や す い
も の と 、 理 解 し に く い も の が あ る こ と が わ か っ た 。
「 ポ テ ト と 芋 」 「 グ ロ ー ブ と 手 袋 」 の よ う に 、 カ タ カ
ナ 語 が 有 標 で 指 し 示 す 対 象 物 が 全 く 別 物 で あ る と き 、
最 も 理 解 が 簡 単 で あ る こ と が 証 明 さ れ た 。
一 方 で 、 理 解 し に く い と 予 測 さ れ る の が 、 「 チ ケ ッ
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ト と 券 」 「 テ ィ ー と お 茶 」 の よ う に 、 一 見 、 非 常 に 意
味 が よ く 似 て い て 、 使 い 分 け の 基 準 を 規 則 化 し に く い
も の で あ る 。 非 カ タ カ ナ 語 と カ タ カ ナ 語 が 包 摂 関 係 に
あ る が 、 語 彙 カ テ ゴ リ ー の 境 界 が 融 合 し て い る た め 、
同 じ も の を 「 飛 行 機 の チ ケ ッ ト 」 や 「 飛 行 機 の 搭 乗
券 」 の よ う に 言 い 表 す こ と が で き 、 そ れ ら の 語 彙 は 排
他 的 で は な く 共 存 し て い る 。 そ れ ら は 慣 習 法 的 に 対 象
物 ご と に 言 い 方 が 決 ま っ て い る た め 、 完 璧 に 使 い 分 け
る こ と は 難 し い が 、 逆 に カ タ カ ナ 語 が 日 本 語 と し て 語
彙 化 し て い る た め 、 「 電 車 の 回 数 チ ケ ッ ト ( 回 数
券 ? ) 」 や 「 そ ば テ ィ ー ( そ ば 茶 ? ) 」 と 言 っ て も 、
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 上 の 大 き な 弊 害 を 引 き 起 こ さ な い
の で あ る 。 日 本 人 で あ っ て も 揺 れ て い る こ れ ら の 使 い
分 け は 理 解 す る の が 難 し い こ と が 予 測 さ れ る 。
< 参 考 資 料 >
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文 献
秋 元 美 晴 ( 2002 ) 『 よ く わ か る 語 彙 ( 日 本 語 教
師 ・ 分 野 別 マ ス タ ー シ リ ー ズ ) 』 ア ル ク ,64.
池 谷 知 子 ・ 久 津 木 文 ( 2013 ) 「 英 語 を 母 語 話 者 と
す る 日 本 語 学 習 者 に お け る カ タ カ ナ 語 の 研 究 -Tea と
テ ィ ー と お 茶 は 同 じ な の か - 」 『 TALKS 』 16,21-36. 神
戸 松 蔭 女 子 学 院 大 学
久 津 木 文 ・ 池 谷 知 子 ( 2013 ) 「 日 本 語 母 語 話 者 の
カ タ カ ナ 使 用 に つ い て の 予 備 研 究 」
『 TALKS 』 16,37-50. 神 戸 松 蔭 女 子 学 院 大 学
池 谷 知 子 ・ 久 津 木 文 (2014) 「 英 語 を 母 語 話 者 と す る
日 本 語 学 習 者 に お け る カ タ カ ナ 語 の 研 究 Ⅱ - 習 得 し
や す い カ タ カ ナ 語 と 習 得 し に く い カ タ カ ナ 語 」
『 TALKS 』 17,28-45. 神 戸 松 蔭 女 子 学 院 大 学
佐 藤 弘 ( 1994 ) 『 外 来 語 と 英 語 の ズ レ - 英 語 を 学 び 、
使 う 人 の た め に - 』 八 潮 出 版 社
陣 内 正 敬 (1993) 「 『 さ じ 』 と 『 ス プ ー ン 』 : 外 来 語
化 と 命 名 の ゆ れ 」 『 言 語 文 化 論 究 』 4号 ,47-54. 九 州
大 学 言 語 文 化 部
陣 内 正 敬 (2008) 「 日 本 語 学 習 者 の カ タ カ ナ 語 意 識
と カ タ カ ナ 語 教 育 」 『 言 語 と 文 化 』 11号 ,47-60 関 西
学 院 大 学
鳥 飼 玖 美 子 ( 2007 ) 「 カ タ カ ナ 語 に 見 る 意 味 の ず
れ 」 『 月 刊 言 語 』 2007 年 6月 号 ,52-59.
中 山 恵 理 子 ・ 桐 生 り か ・ 山 口 昌 也 ( 2008 ) 「 日 本
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『 日 本 語 教 育 』 138 号 ,83-91. 日 本 語 教 育 学 会
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< 使 用 辞 書 >
松 村 明 ( 編 ) ( 1995 ) 『 大 辞 林 第 2 版 』 三 省 堂
新 村 出 ( 編 ) (1988) 『 広 辞 苑 第 5 版 』 岩 波 書 店
小 学 館 ( 編 ) (2006) 『 精 選 版 日 本 国 語 大 辞 典 』 小 学
館
小 西 友 七 ・ 南 出 康 世 ( 2006 ) 『 ジ ー ニ ア ス 英 和 辞 典
第 4版 』 大 修 館 書 店
ロ ン グ マ ン ( 編 ) (2003) 『 ロ ン グ マ ン 現 代 英 英 辞 典 4
訂 新 版 』 桐 原 書
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