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12(12) 日医大誌 第53巻 第1号(1986)

原 著

腰 部 脊 椎 疾 患 に お け るSomatosensory Evoked

Potentials(SEP)

腰椎椎間板ヘルニアを中心 として

子 田 純 夫

日本医科大学整形外科学教室(主 任:白 井康正教授)

Somatosensory evoked potentials in patients with low back pain with

special reference to intervertebral disc herniations

Sumio Kota Department of Orthopedics, Nippon Medical School

To evaluate the diagnostic value of somatosensory evoked potentials (SEPs), produced by sti-mulation of the common peroneal nerve of the lumbar intervertebral disc herniation, 43 patients were examined. In addition, recordings of SEPs in patients with spondylolysis and spinal canal stenosis, and in healthy subjects, were also made for the purpose of comparison.

In general, there was strong correlation between the latency of P 30 and N 40 in normal

persons. However, there was no correlation between P30 and N40 in patients with interverte-bral disc herniation of L4-5, indicating an abnormal phenomenon.

A significant delay in latency was observed only in the spinal canal stenosis group.Therefore this method is valuable as a routine test in order to diagnose L5 radiculopathy.Key words : somatosensory evoked potentials, common peroneal nerve, latency, lumbar

intervertebral disc herniation, diagnostic value

緒 言

腰椎部 の神経障害 にお ける電 気生理学的検索 は,種

々の方面 よ りア プローチ され ているが,近 年 の医用機

器 の進歩 とあいまって,最 近 では微少電 位の導 出 も可

能 とな り,機 能的診断法 としての地位 が確立 されて き

てい る.

電気生理学的検査法 とし て は針電極 に よ る筋電図

(needle EMG),末 梢 神 経 の 運 動 神 経 伝 導 速 度

(MCV),知 覚 神 経 伝 導 速 度(SCV),H-reflex,

F-responce,脊 髄誘発電位(Spinal evoked potentials),

体性感覚誘発電位(Somatosensory evoked potentials,

以下SEPと 略す)な どが臨床的 に応 用 され ている.

これ らの うちSEPは,末 梢 の感覚受容器や その中枢

への伝導路 を外的刺激によ り興奮 させ,こ れ によっで

惹起 され る体性感 覚野を中心 に生ず る微少電位 で,知

覚障害の客観的現 象 として臨床的 に意義が ある.

1947年Dawsonが 初 めてsuperimposition me-

thodを 用い,人 間の頭皮上 よ りのSEPの 記録 を報告

して以来,数 多 くの基礎的 ・臨床的研究 がなされて き

た.し か し,SEPの 臨床応用 面で単一神経根障害 を

客観的に診断す ることはかな り有意義 なこ とと理解 さ

れ ているが,坐 骨神経 のご とき多数根支配 を うける末

梢神経 を刺激 して得 られ るSEP波 形 の判読および分

析 は困難 とされ てい る.

Present address : Department of Orthopedics, Nippon Medical School, 1-1-5, Sendagi, Bunkyo-ku, Tokyo, 113

Japan

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(13)13

Table 1 Materials

*():numbers of the post-operated patients

本 論文で著者 は,単 一神経根 障害 と考 え られ る腰椎

椎 間板ヘ ルニア に対 し,総 腓骨神経刺激 によるSEP

波形 を導出 し,健 側お よび正常例 と比較検討 した.さ

らに脊椎 分離症例,脊 椎管狭窄症例 をも検索 し,SEP

の有用性 につき検討 を行 った.

研 究 対 象 お よび 方 法

(1)対 象

対 象は 日本医科大学付属病院お よび関連 病院で治療

を行 った腰椎椎間 板ヘルニア症例43例 と,腰 椎 分離

症症例20例,お よび腰部脊椎管狭窄症例20例 であ

る.

腰椎椎間板ヘルニア症例 の内訳 としては,L4-5間 ヘ

ルニア例(L5神 経根障害)23例,L5-S1間 ヘ ルニア

例(S1神 経根障害)20例 で,全 例Inyelographyお よ

び手術 的 治療 によ り障害神経 根を確認 した も の で あ

り,他 レベ ルの障害例 および多椎間 障害例 は,今 回の

対 象 よ り除外 した.な お,43例 の うち術 前 ・術後 に

SEP測 定 を行いえた ものは35例 であ り,残 りは術 前

のみSEP測 定を行 った.

腰椎 分離症症例は,全 例腰痛 を主訴 とするL5の 分

離症であり,辷 り症の合併 はな く,臨 床的 に馬尾神経

お よび神経根 障害の存在 する ものは含 まれ てい ない.

腰部脊椎 管狭窄症症例は,myelographyで 確認 され

た もので,そ の内訳は,degenerative spinal canal ste-

nosis 13例,spondylolisthetic spinal canal stenosis

4例,post-laminectomy spinal canal stenosis3例

であった.臨 床的 には,全 例 馬尾神経性間歇性跛行 お

よび腰痛 が主訴 であ り,著 明 な筋力低下,知 覚障害 は

な く腱反 射 も正 常であった.

以上の症例 の うち,上 肢 に異常 を認 めたものはなか

った.

さらに神経学的 に異常を認 めない健康正常者20名

を対照群 とし,SEP測 定 を行 った.

各群の年 齢お よび性別 はTable1に 示 す.

(2)方 法

測定 は,被 検者 を室温20~25℃ に保 たれ た うす暗

い シール ドルーム内 に覚醒 閉眼 の状態で安 静仰臥位 と

し,原 則 として四肢 のSEPの 導出 を行った.

刺激 は,上 肢 では手 関節部 で正 中神経に,ま た下肢

では膝窩 部にて総腓骨神経 に,Medelec社 製

Bar electrodeを 用い,0.1~0.2msec幅 の

矩形波電流 を中枢側が陰極 となる ように経皮

的 に与 えた.

刺激強度は定電圧刺激装置によ り,肉 眼的

に支配筋の収縮が確認 される強 さよ りさらに

10V強 い閾上刺激 とし,刺 激頻度 は1Hzと

した。

記録 は,総 腓骨神経刺激では近藤 に従い

Vertexよ り2cm後 方 の点,ま た 正 中神経

刺激ではShagassら に従 い先の点 よ りさら

に刺激 と反対側 へ7cmの 点 に,関 電極 とし

てステ ンレススチール製 ス ピン電 極 を お い

た.ま た,不 関電極 は両耳朶 に,接 地電極は

前額中央部 に皿状電極 を用い た。

Fig. 1 Recording method Electrical stimuli were applied to the common peroneal

nerve (median nerve), and recording was made from

cerebral somatosensory area.

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14(14)

導 出 され た電 位 は,三 栄 測 器 社 製Biophisiograph

を介 し増 幅 し,刺 激 に同 期 させ 三 栄 測 器 社 製Signal

processor 7 T 07に て100回 の平 均 加 算 を 行 っ た.

なおamplifierの 時 定 数 は0.3秒,high cut filterは

用 い ず,ま た 導 出 中,筋 電 図 や そ の他 のnoiseの 混 入

を防 ぐ ため,同 時 に脳 波 のモ ニ タ ー も行 っ た.

導 出 され たSEP波 形 は,分 析 時 間100msec(正 中

神 経 刺 激)お よび200msec(総 腓 骨神 経 刺 激)と し,

上 方 の振 れ を陰 性 として ポ ラ ロイ ドカ メ ラに て 記録 し

た(Fig.1).

得られ たSEP波 形 の 各 頂 点 潜 時 を測 定 記 録 し,分

析 を 行 っ た.頂 点 潜時 の命 名 法 と して は従 来 諸 家 に よ

り様 々 で あ っ た が,最 近,Vaugham(1969)に よ り

提 案 され1974年Bmsselsに お け るCommittee on

Methods at the International Symposium on Cere-

bral Evoked Potentials in Manに よ り推 薦 され た

方 法,つ ま り極 性 と頂 点 潜 時 を指 定 す る方 法(例 え ば

「N20」 は 陰 性 成 分 で約20msecの 頂 点 潜 時 の もの を

表 す)が 一 般 的 とな っ てい る.Goffら は,こ の方 法

の 不 利 な 点 と して,各 頂 点 潜時 が 実験 的条 件 で変 動 す

る こ とを あ げ,正 常成 人 に よ り記録 され た平 均頂 点 潜

時 を 基 準 と して,15~150msesの 潜 時 成分 で は近 傍 の

5msec単 位 で の命名を行い 各成分 の分 析を

行 ってい る.著 者 もGoffら に従い各頂 点潜

時 を命名 した.

結 果

(i)正 中神経 刺激 によ り導出記録 された

SEP波 形 はP13,N20,P25,N35,P45,

N55の 六つ の頂 点が認め られ た(Fig.2).

これ らの うち,特 に初期成分 であるP13,

N20の 平均潜時 お よ び,潜 時の 左右差 を

Table2に 示 す.潜 時 は比較的 ば らつ きが

少な く,各 群間 で も差 はなかった.ま た,潜

時の左右差を み る とP13で は91.9%が,

N20で は90.2%が1msec以 内であ った.

臨床的 にも上肢 に神経 障害 を認め る 例 は な

く,以 上 よ り全例頚部 ・頭 部の伝 導路には,

異常 がない ものと考 えられ た.

(ii)総 腓骨神経 刺激 によ り導出記録 され

たSEP波 形 では,四 つの頂点 つま りP30,N

40,P55,N70が 全例 に観察 され た(Fig.3).

Fig. 2 Somatosensory evoked potentials by median nerve stimu-

lation in normal subject The 100 responses were summated with analysis time of

100 msec.

Table 2 Peak latencies and right-left differences of SEP components (median nerve stimulation)

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(15)15

Fig. 3 Somatosensory evoked potentials by common peroneal nerve

stimulation in normal subject

The 100 responses were summated with analysis time of 200

msec.

この うちP30,N40に ついて,各 群における平均

潜時 および その標 準偏差 を調べ てみた.対 照群 との比

較では,脊 椎 管狭窄症例で,P30(p<0.01),N40

(p<0.02)と も有意 に潜時の延長がみ られた.し か し

腰椎椎 間板ヘ ルニア例お よび脊椎 分離症例 ではP30,

N40と も に 有 意 の潜 時 差 は得 られ なか

っ た(Table3),

個 々 の例 にお け る潜 時 の 左 右 差 を 比 較

して み る と,正 常 例 で はP30で 平 均

0.92msec,N40で 平 均1.50msecで あ

り,2msec以 内 の 潜時 差 の 症 例 は 両者

と も92.9%を 占め た。

脊 椎 分 離 症例 で も左 右 差 はP30,N40

と もに正 常 例 とほ ぼ 同 様 で あ っ た が,脊

椎 管 狭 窄 症 例 で は,P30で 平 均1.71

msecで あ り,2msec以 内 の潜 時 差 の

症 例 は70.6%と,前 二 群 に比 較 し減 少

し,さ ら にN40で は平 均3.24msec,

2msec以 内 の潜 時 差 は52.9%と,こ

の 傾 向 が著 明 とな っ た(Table4),

次 に腰 椎 椎 間 板 ヘ ル ニ ア症 例 を み る と,

術 前 ・術 後 例,L4-5・L5-S1,例 す べ て に

お い て 左 右 の潜 時 差 はP30で1.76~

2.56msec,N40で2.22~2.75msecと

対 照 群 と比 較 して 大 きか った.し か し患

側 刺 激 に よ る頂 点 潜 時 が,健 側 の もの と

比 較 し必 ず し も遅 れ て は い ず,逆 に健 側

の ほ うが 遅 延 して い る も の も症 例 に よっ

てはみ られた(Table5).

この原因 をさらに追求す るた めに,今 度 はP30と

N40の 潜時の間の相関関係を調べてみた.

Fig.4は,正 常例,脊 椎分 離症例,脊 椎 管狭窄症例

におけ るP30とN40の 潜時 の散 布図お よび回帰直

Table 3 Peak latencies of SEP components (common peroneal nerve stimulation)

(NS) not significant (two -tailed Student's t-test) (S) significant

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Table 4 Difference of SEP latency between right and left (common peroneal nerve stimulation)

Table 5 Difference of SEP latency between normal and affected side of the I.D.H. cases (common peroneal nerve stimulation)

a=latency after affected side stimulation- latency after normal side stimulation (msec)

Fig. 4 Scatter diagrams and regression lines of P30 and N40 latency

Note linear relationship in the each group.

線 である.正 常例 では,強 い直線傾 向がみ られ,脊 椎

分離症例,脊 椎 管狭窄症例 でも同様 に,ば らつきの少

ない直線傾 向が得 られ た.同 様 に腰椎椎 間板 ヘルニア

術前例 の散布 図をみる と,L4-5例,L5-S1例 ともに患

側 でば らつきが大き くな り,特にL5-S1例 に比 しL4-5

例 のほ うがその傾向は強かった.健 側ではほぼ正 常例

と同様 であった(Fig.5).

術後 の同症例 をみる と,L4-5例 では健側・ 患側 とも

にば らつきがみ られ るが,術 前患側 に比べ,そ の程度

は改 善 してい るよ うであ る.ま た,L5-S1例 では より

正常例 に近い分布 を示 した(Fig.6)

これ らすべての群 におけ るP30,N40の 潜時 の間

の相 関係数 を求めてみる とTable6の ご とくとな り,

正常例 では強い相 関関係 が得 られ た(p<0.001).ま

た脊椎分離症例,脊 椎管狭窄症例 でもや は り強い相関

(p<0.001)が 得 られ たが,腰 椎椎間板ヘ ルニア例患

側 ではやや相関が弱 くな り,特 にL4-5例 では術前 ・

術後 ともに棄 却域0.02で 無相 関 となった.

考 察

Dawsonの 報告以来人間 のSEPの 研究は急速 に

発展 して きたが,初 期の報告 の多 くは正 中神経刺激 に

よるもので,下 肢 末梢神経 刺激 に よるSEPの 報告は

散 見 され るにす ぎなかった.し か もこれ らは詳

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(17)17

Fig. 5 Scatter diagrams and regression lines of P 30 and N 40 latency

(pre-operation cases of I.D.H.)

Fig. 6 Scatter diagrams and regression lines of P30 and N40

latency (post-operation cases of I.D.H.)

細 に検討 はされてい なか った.そ の後今 井 は,腓 骨

神経 および腓腹神経刺激 によるSEPを,津 本 ら は

総腓骨神経 刺激 によるSEPを 記録 し,健 康者 におけ

る系統的な検討を報告 した.

臨床的応用 としては,近 藤 の系統的

な報 告がみ られ る.彼 は,各 種神経 刺激

によ り脊髄 障害の高位診断や,脊 髄横断

面 にお ける障害部位 の診断,さ らには脊

髄以下 の末梢神経障害 に対 してまで,幅

広い臨床応用 が可能な ことを報告 してい

る.加 えて彼 は,腰 椎椎 間板 ヘルニア症

例 にお けるSEPの 検討 も行 っ て い る

が,こ の場合 には正常神経根 を介 して求

心性 イ ンパルスが伝達 するため,潜 時は

正 常に記録 され る としてい る.

著者 も1976年 よ り腰部脊椎 疾患 に対

し,SEPの 検索 を行ってきたが,比 較的

変動の少ない と され るP30,N40

の潜時の比較 では,正 常例 に対 し,腰 椎

椎 間板 ヘルニア例,脊 椎分離症例では有

意 の差 は得 られず,脊 椎 管狭窄症例 にの

み有意 の潜時延長 を認 めた.本 症例 では

明 らかな神経学的脱落 症状を認 めた もの

はなかったが,全 例馬尾神経性 の間歇性

跛行および腰痛 を主訴 としてお り,比 較

的症状 の出ない安静仰 臥位 での検査時 に

おいて も,馬 尾神経 のsubclinicalな 障

害 をとらええた もの と老 える.

しか しなが ら,脊 椎 管狭窄症例群 の平

均年 齢は他の群 に比較 し高 く,加 齢 に よ

る潜時 の変化 も考慮す る必要が生 ずる.

正 中神経刺激 によるSEPで は,Shagass

ら が 最初 の 頂点潜時 の 延長 を認 めて

い るが,Liidersは 有意 の差 を得 て い

ない.下 肢 ではVogelら が,腓 腹神経

・脛骨神経 の刺 激によるSEPの 検索を

行ったが,や は り加齢 による変化 は認 め

ていない.著 者 のdataで はこれ を分析

しえない が,今 後検討 を要する ところで

あろ う.

腰椎椎間板ヘ ルニア例 において,対 照

群 との間に潜時 の差が得 られ なかった こ

とは,諸 家 の報告 にみ られ るご とく,刺

激 され た総腓骨神経が,非 障害根 を含 む

多数根支配 を うけてい るため と考え られ る.

個 々における各頂 点潜時 の左右差 では,正 中神経 刺

激 によるSEPのP13,N20の 潜時では,と もに90

%以 上 が1msec以 内であ り,同 様 に総 腓骨神経刺激

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18(18)Table 6 Coefficient of correlation between P 30 and

N 40 latencies (r)

* significant using two-tailed Student's l-test

によるSEPで は,正 常例 でP30,N40と もに90%

以上 が2msec以 内 の潜時差であった.下 肢 のほ うが

差 の大 きい のは,イ ンパルスの伝導距離 の差 のため と

考 えちれ る.こ の差 をもって正常域 と考 える と脊椎分

離症例 はほ ぼ正常例 と同様の分布 を示 したが,脊 椎 管

狭窄症例で は,P30,N40と もに左右 の潜時差 は増 し

た.こ れ は馬尾神経障害 による伝導遅延 が,一 様 でな

い ため と理解 され る.

脊椎分離症例ではP30,N40の 平均潜時 および そ

の標準偏差,さ らに個々 におけ る潜時 の左右差 はすべ

て正常例 と同様 の結果が得 られ ている が,こ れ は今 回

の本症例群では,全 例 が腰痛 を主訴 とす るもので,下

肢 の神経障害 を認 めるものは含 まなか った ためと考え

る.

腰椎椎 間板 ヘルニア例では,脊椎 管狭窄症例 と同様,

P30,N40の 潜時 の左右差 は大 きいが,興味 あるこ と

に必ず しも患側 が健側 に比 し遅れ ているわ け で は な

く,逆 の現象 も多 くみ られた.

Cassvanら は,L5神 経根障害 のみ られ る患者 に

対 しSEP測 定 を行い,健 側 に比 し患側 のP35の 潜

時 の遅延 を報告 してい る.し か し彼 のdataに も,患

側 のほ うが健 側 よ り潜時の短縮 してい る例 も含 まれて

い る.ま た松 田ら も,坐 骨神経 痛のある症 例(S1神

経 根障害)に お ける腓骨神経 および後〓 骨神経刺激 に

よるSEPで,両 者 とも患側 のP1潜 時 が健側 よ りも

短縮 している例 を報告 してい る(P35,P1は 本 論 文

のP30に あ たる.).

著者 は,こ れ らの現象 に対 し以下 のよ うに考え る.

つま り,障 害神経根 を伝導す るイ ンパル スは様々 な程

度 で遅延 するが,こ れ が症例 によ り一定で は な い た

め,非 障害神経 根を伝導 したインパルス によって生ず

るcortical responseに 対 し,い ろいろな 形で影響を

与え,あ るものは頂点 潜時 の遅れ となるが,あ るもの

では逆に潜時 が早 くなるのではないか.

近藤 は彼 の論文の 中で,正 常神経根 の存在のため

に,全 く正常 のSEP潜 時 が得 られ るのであろ うと考

察 してい るが1著 者 は障害神経根 由 来 の イ ンパルス

は,多 少 な りともSEP潜 時 に影響 を及ぼ してい るも

の と考え る。

P30,N40の 潜時 の相 関関係 について も同様の原因

が影響 を与 えるであろ う.

両者 の間の相 関は,正 常例で非常 に高 く,脊 椎分離

症例 で も同様 であった.

Fig. 7 Relationship between scatter diagram of P 30 and N 40 latency and 95% confidence line in normal

subjects

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脊椎管狭窄症例 で もや は り相関は高い.本 症例では,

前述 のご とく馬尾神経 の障害 が一様で ない にして も,

単一神経 根障害の ように極端 ではな く,障 害が馬尾神

経全体 に及ぶため高 い相関が得 られ たのであろ う

.これ らに対 し,腰椎椎間板ヘルニア例 におけるP30,

N40の 潜時の相 関は,患 側 で低 くな っていた.そ の

程度はL4-5ヘ ルニア例 で大 き く,L5-S1例 では軽度

で あった.こ の結果 は,総 腓骨神経 にはL5神 経根 の

要素がS1神 経根 に比べ多いため と考 え られ る.ま た

術 後症例 で も術前 とあま り差 が ないのは,検 査時 が術

後3~4週 と比較的短期 であったためであ り,電 気生

理学的にはこの程度 の期間では完全 に正常には戻 らな

い もの と考 えられ る。

Fig.7Aは 正常例 にお けるP30,N40の 潜時 の散

布 図および回帰直線であ る.そ の標準誤差(SE)は

1,553で,±2SEを 正常域 と考 えると,破 線 に囲 ま

れ た領域 となる.

Fig.7-B,Cは,そ れ ぞれ腰椎椎間板ヘル ニア術前

の,L4-5例 ・L5-S1例 の散布 図に,Aの 回帰直線の正

常域 を当 てはめた ものである.L4-5ヘ ル ニア例 では,

患側 で正常域 よ りはずれ る ものが,約1/3に み られ

たが,L5-S1例では この割 合は牛 な くある.

SEPの 早い成分 の潜時 と身長 と の間 に相関が認 め

られ る,と い う報 告は数多 くみられ るが,そ の理

由としては,インパルスの伝導 距離に 関係が深いと,

ほぼ一致 した見解 が得 られ てい る.つ ま り各個体 にお

けるインパルスの 伝導距離の ばらつ きが,P30,N40

の潜時の ば らつきを大 き くし,各 潜時 の単独の比較 に

おいては不利な要素 となる.こ の意味 でも,前 記の ご

とくP30,N40の 潜時の関係 において.比較す ること

は,個 々 のば らつ きによる影響 を少 な くす るために有

利 であろ う。

しか しなが ら,異 常の比較的 明らか となるL4-5ヘ

ル ニア例 において も,そ の2/3は 依然正常域 に分布 し

た.総 腓骨神経刺激 によるSEPで のL5神 経根障害

の診断は,こ の辺 が限界 であるとも思 われ る。

松田 ら5)は刺激を障害神経根近傍 に与え,SEPを 導

出 し,こ の問題 を解決 してい る,し か しこの方法は患

者 に対す る負担 は大 きい.Eisenら はL5神 経根 は

superficial peroneal nerveの 刺激で,ま た5,神 経

根はsural nerveの 刺激 でSEPを 導 出するこ とによ

り,単 一神経根障害 を診断 し うると報 告 してい る.し

か しこれ らの刺激神経 も,単 一神経根 支配 とはい えず

問題 は残 る.さ らに町 田ら は,第1お よび第5足 趾

を刺 激 して得 られ たSEPで,そ れ ぞれL5,S1の 単

一神経根障害 の診断 が可能 であるとい う.し か し足部

末梢 神経 は,末 梢性 のニューロパチー を生 じている場

合 があるので,で きれ ば避 けたほ うが良い との報告 も

ある.著 者 の方法 では,診断性には 多少 欠けるが,

SEPの 導 出は簡単 かつ確実で あるとい う点 で は有利

で あるため,外 来 でできるroutine検 査 として,ま ず

試 みてみ る価値が ある分析法 と思 う.

結 論

腰椎椎 間板ヘル ニア症例 に対する電気生理学的診断

法 としてのSEPの 応用は,刺 激する末梢神経 が多数

根 支配 を うけてい るため,頂 点潜時 の遅延 としてとら

え ることは困難 とされ ている.これ を検討 するために,

腰椎 椎間板へル ニア症例43例 に対 し,総 腓骨神経刺

激 によるSEPを 求め,同 様 に導出 した対照例,脊 椎

分 離症例,脊 椎管狭窄症例,各20例 のSEPと 比較

の もとに分析 し,次 の結果 を得 た.

1)P30,N40の 頂点潜時の比較 では,脊 椎 管狭窄

症例 にのみ正常例 との間に有意 の潜時延長が認め られ

た .

2)個 々の症例 にお ける潜 時 の左右差は,脊 椎 管狭

窄症例,腰 椎椎間板へ ルニア例 で大 き くばらつい てい

たが,特に 後者 に著明 で あった.

3)P30とN40の 潜時 の間の相関 は,腰 椎椎 間板

ヘ ルニア例の患 側肢 刺激 のSEPで 弱 くなり,特 に

L4-5へルニア 例な著 明であった.術 後3~4週の例で

は,術 前 とほ とん ど差 は認 め られ な か った.

4)正 常 例 に お け るP30,N40潜 時 の回 帰 直線 を

求 め,そ の ±2SEの 領 域 よ り,L4-5ヘ ル ニ ア 例患 側

肢 刺 激 のSEPの1/3が は ず れ た.

5)総 腓 骨 神 経 刺 激 に よ るSEPで も,あ る程 度

L5神 経 根 障 害 の機 能 的 診 断 が可 能 で あ り,routine検

査 と して試 み る価 値 が あ る もの と考 え る.

稿 を終 えるにあた り,終 始 ご協力いただきま した筋電図班

の諸先生方に感謝いた します.な お本論文の要 旨は,第7回

日本脳波筋電図学会学術大会,第51回 日本整形外科学会総

会,6th International Congress of Electromyography

(Sweden)に て発表 した.

文 献

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Page 9: Somatosensory evoked potentials in patients with …...14(14) 導出された電位は,三 栄測器社製Biophisiograph を介し増幅し,刺 激に同期させ三栄測器社製Signal

20(20)

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(受 付:1985年5月17日)