successful treatment with corticosteroid in a case …〔症例報告〕...

5
高齢者重症肺サルコイドーシス 〔症例報告〕 55 日サ会誌 2018, 38(1) はじめに 高齢者サルコイドーシスの検討では80歳未満の症例に おける検討が大半であり 1—3) ,80歳以上の症例における臨 床像は明らかではない.高齢者では様々な合併症・併存症 があることも多くステロイドによる治療適応の判断も難 しい.今回,急速に呼吸不全が進行しステロイドが著効し た高齢者の重症肺サルコイドーシスの1例を経験したので 報告する. 症例提示 ●患者:81歳,女性. ●主訴:呼吸困難. ●現病歴:78歳から霧視を認め,近医眼科でぶどう膜炎と 診断された.その際,胸部X線写真において,両側肺門リ ンパ節腫大を指摘され,当科紹介受診となった.胸部CT で両肺上葉を中心とした浸潤影,両側肺門および縦隔リン パ節腫大を認め, 18 Fluorodeoxyglucose positron emission tomography/computed tomography( 18 FDG-PET/CT)に て同リンパ節,肝にFDGの高集積を認めた.血液検査にお いてはACE 30.1 U/L,sIL-2R 2273 U/mLと上昇を認め た.気管支鏡検査にて,網目状毛細血管怒張,気管支肺胞 洗浄液中のリンパ球比率58.1%,CD4/CD8比14.21と上 昇,経気管支肺生検にて非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め た.以上よりサルコイドーシス(肺・眼・肝)と診断,外 来にて無治療経過観察中であった.今回,81歳時に週単位 で増悪する呼吸不全の進行,下腿浮腫,体重増加を認め入 院となった. ●既往歴:関節リウマチ(30歳代で診断され,20年前まで 通院歴を認めたが詳細不明). ●生活歴:喫煙歴:なし,飲酒歴:なし,粉塵吸入歴:な 急速に呼吸不全が進行しステロイドが著効した高齢者の重症肺サルコイドーシ スの1例 穴井 諭 1) ,濵田直樹 1) ,柳原豊史 1) ,緒方彩子 1) ,山本宣男 1) ,緒方大聡 1) ,伊地知佳世 1,2) ,米嶋康臣 1) 原田英治 1) ,松元幸一郎 1) ,中西洋一 1) 【要旨】 症例は81歳,女性.78歳時のぶどう膜炎診断時,両側肺門リンパ節腫大を指摘され,当科紹介受診.胸部CTで両肺上葉 を中心とした浸潤影,両側肺門・縦隔リンパ節腫大,ACE上昇,気管支肺胞洗浄液中のリンパ球比率とCD4/CD8比の上昇, 経気管支肺生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,サルコイドーシスと診断.無治療経過観察中緩徐に肺病変の進行を認 めていた.81歳時に週単位で増悪する呼吸不全の進行,下腿浮腫,体重増加を認め入院.BNP上昇,心陰影の拡大,肺浸潤 影の著明な増悪を認め,心不全を疑い利尿薬の投与にて心拡大や浮腫は改善した.しかし肺浸潤影は改善せず,KL-6,ACE の著明な上昇も認め,肺病変の増悪と考え,全身ステロイドを投与したところ,肺浸潤影,酸素化は速やかに改善した.80 歳以上の高齢者ではサルコイドーシスの臨床像は明らかでなく,様々な合併症もありステロイド導入の判断も難しいため報 告する. [日サ会誌 2018; 38: 55-59] キーワード:肺サルコイドーシス,高齢者,急性呼吸不全 Successful Treatment with Corticosteroid in a Case of Elderly Severe Pul- monary Sarcoidosis Progressing to Acute Respiratory Failure Satoshi Anai 1) , Naoki Hamada 1) , Toyoshi Yanagihara 1) , Saiko Ogata-Suetsugu 1) , Norio Yamamoto 1) , Hiroaki Ogata 1) , Kayo Ijichi 1,2) , Yasuto Yoneshima 1) , Eiji Harada 1) , Koichiro Matsumoto 1) , Yoichi Nakanishi 1) Keywords: pulmonary sarcoidosis, elderly, acute respiratory failure 1)九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設 2)九州大学病院 病理診断科・病理部 著者連絡先:穴井諭(あない さとし) 〒812-8582 福岡市東区馬出3丁目1番1号 九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設 E-mail:[email protected] 1)Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University 2)Division of Pathology, Kyushu University Hospital *掲載画像の原図がカラーの場合,HP上ではカラーで閲覧できます.

Upload: others

Post on 24-Dec-2019

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Successful Treatment with Corticosteroid in a Case …〔症例報告〕 高齢者重症肺サルコイドーシス 56 日サ会誌 2018, 38(1) し. 初診時画像所見:胸部X線写真において,両側肺門リン

高齢者重症肺サルコイドーシス 〔症例報告〕

55日サ会誌 2018, 38(1)

はじめに 高齢者サルコイドーシスの検討では80歳未満の症例における検討が大半であり1—3),80歳以上の症例における臨床像は明らかではない.高齢者では様々な合併症・併存症があることも多くステロイドによる治療適応の判断も難しい.今回,急速に呼吸不全が進行しステロイドが著効した高齢者の重症肺サルコイドーシスの1例を経験したので報告する.

症例提示●患者:81歳,女性.●主訴:呼吸困難.●現病歴:78歳から霧視を認め,近医眼科でぶどう膜炎と診断された.その際,胸部X線写真において,両側肺門リンパ節腫大を指摘され,当科紹介受診となった.胸部CT

で両肺上葉を中心とした浸潤影,両側肺門および縦隔リンパ節腫大を認め,18Fluorodeoxyglucose positron emission tomography/computed tomography(18FDG-PET/CT)にて同リンパ節,肝にFDGの高集積を認めた.血液検査においてはACE 30.1 U/L,sIL-2R 2273 U/mLと上昇を認めた.気管支鏡検査にて,網目状毛細血管怒張,気管支肺胞洗浄液中のリンパ球比率58.1%,CD4/CD8比14.21と上昇,経気管支肺生検にて非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.以上よりサルコイドーシス(肺・眼・肝)と診断,外来にて無治療経過観察中であった.今回,81歳時に週単位で増悪する呼吸不全の進行,下腿浮腫,体重増加を認め入院となった.●既往歴:関節リウマチ(30歳代で診断され,20年前まで通院歴を認めたが詳細不明).●生活歴:喫煙歴:なし,飲酒歴:なし,粉塵吸入歴:な

急速に呼吸不全が進行しステロイドが著効した高齢者の重症肺サルコイドーシスの1例

穴井 諭1),濵田直樹1),柳原豊史1),緒方彩子1),山本宣男1),緒方大聡1),伊地知佳世1,2),米嶋康臣1),原田英治1),松元幸一郎1),中西洋一1)

【要旨】 症例は81歳,女性.78歳時のぶどう膜炎診断時,両側肺門リンパ節腫大を指摘され,当科紹介受診.胸部CTで両肺上葉を中心とした浸潤影,両側肺門・縦隔リンパ節腫大,ACE上昇,気管支肺胞洗浄液中のリンパ球比率とCD4/CD8比の上昇,経気管支肺生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,サルコイドーシスと診断.無治療経過観察中緩徐に肺病変の進行を認めていた.81歳時に週単位で増悪する呼吸不全の進行,下腿浮腫,体重増加を認め入院.BNP上昇,心陰影の拡大,肺浸潤影の著明な増悪を認め,心不全を疑い利尿薬の投与にて心拡大や浮腫は改善した.しかし肺浸潤影は改善せず,KL-6,ACEの著明な上昇も認め,肺病変の増悪と考え,全身ステロイドを投与したところ,肺浸潤影,酸素化は速やかに改善した.80歳以上の高齢者ではサルコイドーシスの臨床像は明らかでなく,様々な合併症もありステロイド導入の判断も難しいため報告する.

[日サ会誌 2018; 38: 55-59]キーワード:肺サルコイドーシス,高齢者,急性呼吸不全

Successful Treatment with Corticosteroid in a Case of Elderly Severe Pul-monary Sarcoidosis Progressing to Acute Respiratory FailureSatoshi Anai1), Naoki Hamada1), Toyoshi Yanagihara1), Saiko Ogata-Suetsugu1), Norio Yamamoto1), Hiroaki Ogata1), Kayo Ijichi1,2), Yasuto Yoneshima1), Eiji Harada1), Koichiro Matsumoto1), Yoichi Nakanishi1)

Keywords: pulmonary sarcoidosis, elderly, acute respiratory failure

1)九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設2)九州大学病院 病理診断科・病理部

著者連絡先:穴井諭(あない さとし)      〒812-8582 福岡市東区馬出3丁目1番1号      九州大学大学院医学研究院附属胸部疾患研究施設      E-mail:[email protected]

1)Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

2)Division of Pathology, Kyushu University Hospital

*掲載画像の原図がカラーの場合,HP上ではカラーで閲覧できます.

Page 2: Successful Treatment with Corticosteroid in a Case …〔症例報告〕 高齢者重症肺サルコイドーシス 56 日サ会誌 2018, 38(1) し. 初診時画像所見:胸部X線写真において,両側肺門リン

高齢者重症肺サルコイドーシス〔症例報告〕

56 日サ会誌 2018, 38(1)

し.●初診時画像所見:胸部X線写真において,両側肺門リンパ節腫大を認めた(Figure 1A).胸部CTで両肺上葉を中心とした浸潤影,両側肺門および縦隔リンパ節腫大を認めた(Figure 1B).FDG-PET/CTにて同リンパ節,肝臓にFDGの高集積を認めた(Figure 1C,1D).●気管支鏡検査所見:網目状毛細血管怒張を認めた(Fig-ure 1E).経気管支肺生検では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた(Figure 1F).●入院時身体所見:身長143 cm, 体重43.9 kg, 体温36.8℃,血圧105/70 mmHg,脈拍93/分(整),SpO2 77%

(室内気,安静時),頸部リンパ節触知せず,呼吸音 両肺でfine cracklesを聴取した.心音正常,異常雑音なし,腹部:平坦軟,圧痛なし,四肢:両下肢に著明な圧痕性浮腫を認めた.●入院時検査所見(Table 1):血液生化学所見では,白血球数の増加を認めず,軽度のCRP上昇,Alb低下を認めた.Procalcitoninは陰性であった.またKL-6,SP-D,SP-Aの上昇,ACE,sIL-2Rの上昇およびBNPの上昇を認めた.動脈血液ガス分析では著明な低酸素血症を認めた.●12誘導心電図:洞調律,右軸偏位,HR 87 bpm.明らかなST-T変化を認めなかった.●入院時胸部X線写真(Figure 3A):両側の中肺野を中心とした広範な浸潤影と心拡大を認めた.●入院時胸部CT(Figure 3D):両肺に広範なconsolida-tionおよび多発粒状影を認めた.肺門・縦隔リンパ節の腫

大を認めた.胸水を認めなかった.●入院後経過:78歳で診断後,緩徐に肺サルコイドーシスの悪化を認めていた(Figure 2).今回,急激な呼吸不全の進行を認め入院となったが,3 kgの体重増加と著明な下肢浮腫を認め,胸部X線写真,CTにて両肺の浸潤影と心拡大,血液検査にてBNPの上昇を認めたことから心不全の合併を疑い,心臓超音波検査を行ったところ,左室駆出率は65.5%と保たれていたが,中等度の三尖弁逆流を認め,三尖弁収縮期圧較差(tricuspid regurgitation pressure gradient: TR-PG)は60 mmHgと上昇を認めた.心室の壁運動異常や形態異常を認めなかった.これらの所見より肺サルコイドーシス病変の進行による急性呼吸不全および右心不全と診断した.心臓サルコイドーシスの有無について検討したが,心臓MRIでは左室壁に冠動脈支配に一致しない異常増強の多発を認め心サルコイドーシスに矛盾しない所見であったが,FDG-PET/CTでは心筋に異常集積を認めず,ホルター心電図でも房室ブロックや致死的心室性不整脈を認めなかったため,心臓サルコイドーシスの診断基準は満たさなかった.治療としてはフロセミドの投与を行い,およそ1週間で下肢浮腫は改善し,体重は36 kgまで減少し, 心臓超音波検査においても,TR-PGは39 mmHgまで改善し,BNP値も68 pg/mLまで低下した.しかし呼吸不全は遷延し,酸素投与が必要な状態であり,胸部X線写真では心拡大の改善はみられたものの,両肺の浸潤影は改善を認めなかった(Figure 3B).このため,肺サルコイドーシスへの加療が必要と考えられ,prednisolone

Figure 1. 入院前のサルコイドーシス検査所見(A)胸部X線写真では両側肺門リンパ節腫大を認めた.(B)胸部CTでは両肺上葉を中心とした浸潤影を認めた.(C,D)FDG PET/CTでは両側肺門縦隔リンパ節,肝臓にFDGの高集積を認めた.(E)気管支鏡検査では網目状毛細血管怒張を認めた.(F)肺生検組織からは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.

F

E

D

C

B

A

Page 3: Successful Treatment with Corticosteroid in a Case …〔症例報告〕 高齢者重症肺サルコイドーシス 56 日サ会誌 2018, 38(1) し. 初診時画像所見:胸部X線写真において,両側肺門リン

高齢者重症肺サルコイドーシス 〔症例報告〕

57日サ会誌 2018, 38(1)

(PSL)0.5 mg/kg/日(15 mg/日)の投与を開始したところ,呼吸状態は改善し,胸部X線写真(Figure 3C)および胸部CT(Figure 3E)において肺浸潤影の改善を認めた.また血液検査においてはACEは22.9 U/mLから15.0 U/mLに低下し,sIL-2Rは2273 U/mLから1128 U/mLに低下を認めた.PSL開始14日でPSL 10 mg/日に減量し,リハビリを目的に近医に転院とした.その後,自宅退院し現在は酸素投与も終了し当院外来に通院中である.

結果 急速に呼吸不全が進行しステロイドが著効した高齢者の重症肺サルコイドーシスの1例を経験した.本邦では十

河らが65歳以上で診断されたサルコイドーシス症例を高齢者サルコイドーシスとして報告しており1),海外ではVarronらが同様に65歳以上で診断されたサルコイドーシス症例を高齢者サルコイドーシスとして報告している2,3).このように高齢者サルコイドーシスの報告は60歳代から70歳代が主であり,80歳以上の高齢者や90歳以上の超高齢者におけるサルコイドーシスの臨床像は十分に明らかではない.本邦において,自験例のような,急速な呼吸不全を呈する肺サルコイドーシスは若年の肺サルコイドーシスでの報告は散見されるが4—9),65歳以上での報告は,熱と皮疹で発症し,経過中に急性呼吸不全をきたした66歳男性の報告10),ステロイド漸減中に急性増悪した70歳

Table 1. 入院時検査結果

血算WBC 4820/uL Neu 73.0% Lym 14.7% Mono 7.0% Eo 2.9% Baso 2.4%Hb 12.9 g/dLPlt 31.8×104/mL

生化学TP 7.8 g/dLAlb 2.3 g/dLAST 33 IU/LALT 18 IU/LLDH 274 IU/LALP 338 U/Lγ-GTP 30 U/LBUN 25 mg/dLCre 0.66 mg/dLNa 142 mMK 4.5 mMCl 105 mMCa 8.8 mg/dL

血清学CRP 1.63 mg/dLProcalcitonin 0.12 ng/mLACE 22.9 U/mLKL-6 1383 U/mLSP-D 371 ng/mLSP-A 63.7 ng/mLslL-2R 1320 U/mLBNP 802 pg/mL

動脈血液ガス分析(室内気)pH 7.32PaO2 55.9 TorrPaCO2 66.2 TorrHCO2 28.9 mmol/L

Figure 2. 入院までの肺サルコイドーシスの経過サルコイドーシス診断後,緩徐に肺病変の進行を認めた.

78歳 79歳 80歳

Page 4: Successful Treatment with Corticosteroid in a Case …〔症例報告〕 高齢者重症肺サルコイドーシス 56 日サ会誌 2018, 38(1) し. 初診時画像所見:胸部X線写真において,両側肺門リン

高齢者重症肺サルコイドーシス〔症例報告〕

58 日サ会誌 2018, 38(1)

男性の報告11),および過敏性肺臓炎との鑑別を要した76歳の報告12)のみであり,80歳以上で急激に肺野の浸潤影が進行し呼吸不全をきたした報告は認めなかった.また,80歳以上の高齢者サルコイドーシスの剖検症例を検討したTachibanaらの報告においても,肺サルコイドーシスによる死亡は5.9%と報告されており13),まれな病態と考えられた.特に注意すべき点として,高齢者サルコイドーシスでは肺病変が多く(13/30,43%)14),肺病変については,スリガラス影,浸潤影の頻度が若年者サルコイドーシスと比べ多いと報告されており1),本症例においても肺病変は浸潤影が主体であり,これらの報告に一致する所見と考えられた. Varronらの報告では,65歳以上で診断されたサルコイドーシスの70%はステロイドによる治療を施行されており,これは65歳未満で診断された症例と同様の割合であった2).また65歳以上で診断された症例の5年生存率および10年生存率は93%,90%であり,死因は心不全や感染症であった2).予備力が低下した高齢者の場合,肺病変の進行により,重度の呼吸不全から致死的な経過をたどる可能性もあり,注意して経過を評価していく必要があると考えられた.高齢者サルコイドーシスにおいても,病状が進行する場合は,ステロイドの全身投与を検討する必要があるが,高齢者においては糖尿病,骨粗鬆症,消化性潰瘍や

感染症などのステロイドによる合併症15,16)の危険性がより高いため,その管理にも十分な注意が必要であると考えられた.本症例では心不全治療後も肺浸潤影は残存し,呼吸不全の遷延を認めたため,ステロイドを投与した.ステロイド投与量は通常のサルコイドーシスと同様に高齢者サルコイドーシスにおいてもPSL 0.3-0.6 mg/kg/日が推奨されている3,17,18).本症例においてもPSL 0.5 mg/kg/日の投与により,肺サルコイドーシスの著明な改善を認め,特に副作用を認めなかった. なお本症例の経過において,増悪時高齢で呼吸状態が不良であったため,気管支鏡検査などによる病理組織学的な評価を行えず,感染症および心不全の陰影の関与が完全には否定できていない可能性も考えられる. 今後の本邦における高齢化の進行により,高齢者サルコイドーシス症例も増加する可能性が考えられる.その場合,本症例のような呼吸状態悪化の可能性も念頭に経過を評価していく必要があると考えられた.

結論 急速に呼吸不全が進行しステロイドが著効した高齢者の重症肺サルコイドーシスの1例を経験したので報告した.

Figure 3. 入院後治療経過(A)入院時胸部X線写真では両側の中肺野を中心とした広範な浸潤影と心拡大を認めた.(B)利尿剤投与により,2週後の胸部X線写真では心拡大の改善を認めたが,肺浸潤影は残存していた.(C)PSL内服開始後,2週後の胸部X線写真では両肺浸潤影の改善を認めた.(D),(E)CTにおいてもPSL内服開始後,肺浸潤影の改善を認めた.

ED

CBA

Page 5: Successful Treatment with Corticosteroid in a Case …〔症例報告〕 高齢者重症肺サルコイドーシス 56 日サ会誌 2018, 38(1) し. 初診時画像所見:胸部X線写真において,両側肺門リン

高齢者重症肺サルコイドーシス 〔症例報告〕

59日サ会誌 2018, 38(1)

本論文の要旨は第37回日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会総会(2017年10月,名古屋)で発表した.

引用文献1)十河容子,田邨カンナ,遠藤順治,他.高齢者サルコイドーシス

の臨床的検討.日サ会誌 2002; 22: 19-23.2)Varron L, Cottin V, Schott AM, et al. Late-onset sarcoidosis: a

comparative study. Medicine(Baltimore) 2012; 91: 137-43.3)Jamilloux Y, Bonnefoy M, Valeyre D, et al. Elderly-onset sar-

coidosis: prevalence, clinical course, and treatment. Drugs Aging 2013; 30: 969-78.

4)中野義隆,栗原直嗣,宮本 修,他.高熱,好酸球増多症を伴い,広汎なスリガラス様陰影を呈して発症したサルコイドーシスの1例.日胸疾会誌 1989; 27: 98-105.

5)Suyama T, Satoh H, Inoue T, et al. A case of sarcoidosis pre-senting with high fever and acute respiratory failure. Kekkaku 1990; 65: 811-819.

6)織田裕繁,松村豊司,原 耕平,他.臨床的経過より過敏性肺臓炎との鑑別が困難であった肺野型サルコイドーシスの1例.日胸疾会誌 1991; 29: 501-6.

7)Yanagawa T, Okada J, Mochida A, et al. A case of sarcoidosis acutely aggravated with high fever and diffuse interstitial pul-monary infiltrates. Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi 2001; 39: 377-82.

8)谷澤公伸,井上哲郎,種田和清,他.急性呼吸不全を呈した肺サルコイドーシスの一例.日サ会誌 2003; 23: 57-62.

9)坂口恵美,冨岡洋海,金田俊彦,他.急性呼吸不全で発症したサ

ルコイドーシスの1例.日サ会誌 2009; 29: 55-61.10)Shibata S, Saito K, Ishiwata N, et al. A case of sarcoidosis pre-

senting with high fever and rash progressing to acute respira-tory failure]. Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi 2007; 45: 691-7.

11)松浦 駿,黒石重城,橋本 大,他.急性増悪を来たしたサルコイドーシスの1例.日サ会誌 2010; 30: 43-9.

12)松井祥子,山下直宏,朴木久恵,他.過敏性肺臓炎との鑑別を要したサルコイドーシスの一例.日サ会誌 2002; 22: 57-63.

13)Tachibana T, Iwai K, Takemura T. Sarcoidosis in the aged: review and management. Curr Opin Pulm Med 2010; 16: 465-71.

14)Chevalet P, Clément R, Rodat O, et al. Sarcoidosis diagnosed in elderly subjects: retrospective study of 30 cases. Chest 2004; 126: 1423-1430.

15)Moghadam-Kia S, Werth VP. Prevention and treatment of sys-temic glucocorticoid side effects. Int J Dermatol 2010; 49: 239-48.

16)Caplan A, Fett N, Rosenbach M, et al. Prevention and manage-ment of glucocorticoid-induced side effects: A comprehensive review: Infectious complications and vaccination recommenda-tions. J Am Acad Dermatol 2017; 76: 191-8.

17)Baughman RP, Nunes H, Sweiss NJ, et al. Established and experimental medical therapy of pulmonary sarcoidosis. Eur Respir J 2013; 41: 1424-38.

18)日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会,日本呼吸器学会,日本心臓病学会,日本眼科学会,厚生省科学研究―特定疾患対策事業―びまん性肺疾患研究班.サルコイドーシス治療に関する見解-2003.日サ会誌 2003; 23: 105-14.