tdr-315 センサーを用いた土壌水分量およびバルク …...tdr-315...
TRANSCRIPT
TDR-315 センサーを用いた土壌水分量およびバルク電気伝導度計測
Soil moisture and electrical conductivity measurements using a TDR-315 sensor
丹野真衣 1・平嶋雄太 1・宮本英揮 1
1佐賀大学農学部
要旨
デジタル TDR センサー(TDR-315)の性能評価を行うために,NaCl 溶液と混合した豊浦砂を供試材料
とした水分・EC 計測実験を行い,既往の TDT センサー(Acclima)の測定結果と比較した。TDT センサー
と同様に,TDR-315 で測定したTDRとそれから求められた値との間には,一意的な経験的関係が認め
られた。TDTセンサーと違って,TDR-315は低バルク EC 条件における EC変化を感知できたことから,
広範なバルク EC条件における水分・EC同時計測に適したセンサーであることが判明した。
キーワード:TDR-315, バルク電気伝導度, 体積含水率
Key words:TDR-315, Bulk electrical conductivity, Water content
1.はじめに
土中の水分量・電気伝導度(EC)を同時に測定
できる時間領域反射法(TDR)が多用されてきた。
しかし,同軸ケーブル延長時に多発する解析エラ
ー,精度低下,温度依存性問題などに加え,測
定機器一式が高額であることが,特に他分野の利
用者がTDRを敬遠する一因になっている。近年,
ケーブルテスターを必要としないデジタル TDRセ
ンサー(TDR-315)が国内外で流通しており,その
性能に対する関心が集まっているものの,詳細な
性能試験結果は報告されていない。本研究では,
豊浦砂を供試材料として,TDR-315 による水分・
EC 計測実験を行い,既に国内で利用拡大がす
すむ TDT(Acclima)の性能と比較した。
2.方法
アクリルチャンバー(高さ 10 cm,内径 15 cm)の
下端にセラミックフィルターを敷き,溶液電気伝導
度(w : 0.1,10.0,19.9 dS m-1
)の異なるNaCl溶液
で洗浄した豊浦標準砂を,高さ 6 cm まで沈降充
填した (Fig.1)。TDR-315(ACC-TDR-315)および
自作の 4極 ECセンサー(直径 0.3 cm,長さ 3 cm)
を高さ 3 cm の位置に水平に固定した。下端に所
定のサクションを与えることにより排水を促し,積
算排出水量から体積含水率( )を求めた。CR800
データロガーに接続した TDR-315 で,見かけの
Fig.1 実験装置の模式図
Fig.2 w = 0.1 dS m-1における TDR波形
Fig.3 w = 19.9 dS m-1における TDR波形
誘電率 (TDR),バルク EC(TDR),体積含水率
(TDR)を,4極 EC センサーでバルク EC(4probe)を
測定した。TDR-315 を自作インターフェイスに接
続し直し,TDR 波形をコンピュータに取り込んだ。
以上の計測をサクションを段階的に変化させなが
ら反復し,測定値を TDTのそれ 1)と比較した。
3.結果と考察
TDR 波形の形状は, とw とともに変化した
(Fig.2,Fig.3)。w = 19.9 dS m-1の高水分条件で
は,ケーブルテスターを用いた一般的な TDR
と同様に,信号の減衰によって波形が平滑化し,
立上り点を検出できなかった(Fig.3)。しかし,そう
した極端な高バルク EC 条件を除けば,感知部先
端における反射を示す立上り点の時間は, とと
もに大きくなる傾向が認められた(Fig.2,Fig.3)。
TDT センサーの場合 1)と同様に,wによらず,
とともにTDRは増加し,両者の間には Topp式 2)
と類似した一意的な経験的関係が認められた
(Fig.4)。また,TDT の場合 1)に比べ,得られたデ
ータ数は少ないものの,修正混合モデルに基づ
き出力されたTDRと との二乗平均平方根誤差
(RMSE)は 0.01 m3 m
-3 となり,TDT に比べ
TDR-315 の精度が高かった。ただし,w = 19.9
dS m-1の ≥ 0.31 m
3 m
-3は,信号の減衰による解
析エラーが多発した条件である。エラー発生条件
の共通性は,信号伝播時間計測に基づく両法の
測定原理の共通性に因るものであろう。
低バルク EC条件では,TDTによる EC出力値
(TDT)はゼロとなるものの 1),TDR-315は十分な測
定感度を有した(Fig.5)。特に,w = 0.1 dS m-1の
低水分条件では,併設した 4極 ECセンサーの感
度不足により,水分量の変化に伴うバルク EC の
変化を捉えることができず,測定値(4probe)は変化
しなかったが,TDR は明確な応答を示した(Fig.5)。
この結果は,TDR-315 センサーが,低バルク EC
条件の EC計測に適していることを示す。
Hilhorst の式 3)に基づき,土中溶液の EC(𝜎w′ )
を決定できた。Hilhorst の方法 3)に倣って算出し
た𝜎w′ は,同式の適用条件外の低水分条件( ≤
0.1 m3 m
-3)を除けば,wと概ね一致した(Fig.6)。
4.おわりに
対 TDT の観点から,TDR-315 による水分・EC
計測の性能評価を行った結果,TDR-315 は良好
な水分計測精度を有すること,低バルク EC 条件
を含む広範なバルクEC条件における水分・EC計
測に適していることが明らかになった。
引用文献: 1) 松本ら(2015): 日本生物環境工学会 2015
年宮崎大会講演要旨集, 238-239., 2) Topp et al.(1980):
Water Resour. Res., 16, 574-582., 3) Hilhorst. M.A.(2000):
Soil Sci.Soc.Am.J., 64, 1922 - 1925.
Fig.4見かけの誘電率(TDR,TDT)と体積含水率( )との
関係
Fig.5バルク電気伝導度(4probe)とバルク電気伝導度
(TDR,TDT)との関係(()内の数はデータ数)
Fig.6 Hilhorst式 3)に基づき計算した土中溶液電気伝
導度(𝜎w′ )と溶液電気伝導度(w)との関係(()内
の数はデータ数)