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Title <センター教員・共同研究論考>Bifactor モデルによるア クティブラーニング(外化)尺度の開発 Author(s) 溝上, 慎一; 森, 朋子; 紺田, 広明; 河井, 亨; 三保, 紀裕; 本田, 周二; 山田, 嘉徳 Citation 京都大学高等教育研究 (2016), 22: 151-162 Issue Date 2016-12-01 URL http://hdl.handle.net/2433/219537 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Page 1: Title Bifactor モデルによるア クティブラーニング… · ラーニングそれ自体の質を測定する「アクティブラーニング(外化)尺度(al(外化)尺度)」を開発した。

Title <センター教員・共同研究論考>Bifactor モデルによるアクティブラーニング(外化)尺度の開発

Author(s) 溝上, 慎一; 森, 朋子; 紺田, 広明; 河井, 亨; 三保, 紀裕; 本田,周二; 山田, 嘉徳

Citation 京都大学高等教育研究 (2016), 22: 151-162

Issue Date 2016-12-01

URL http://hdl.handle.net/2433/219537

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京都大学高等教育研究第22号(2016)

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センター教員・共同研究論考

Bifactorモデルによるアクティブラーニング(外化)尺度の開発

溝上 慎一 1・森 朋子 2・紺田 広明 2・河井 亨 3・ 三保 紀裕 4・本田 周二 5・山田 嘉徳 6

(1 京都大学高等教育研究開発推進センター・2 関西大学教育推進部・3 立命館大学教育開発推進機構・ 4 京都学園大学経済経営学部・5 大妻女子大学人間関係学部・6 大阪産業大学学部学科再編準備室)

本研究では、アクティブラーニング(AL)の効果検証において大きな課題の一つとなっている、アクティブラーニングそれ自体の質を測定する「アクティブラーニング(外化)尺度(AL(外化)尺度)」を開発した。研究 1では、作成された12 項目を因子分析し、最終的には、第 1因子の12 項目から成る「AL」(一般因子)とALに寄与する外化 3項目だけの「AL外化」(グループ変数)の2因子からなるBifactorモデルによって解を見いだした。確認的因子分析をおこなった結果も、Bifactorモデルがもっとも適合度が高く、妥当なモデルだと判断された。研究 2では、異なるサンプルに研究 1の結果を適用し、同様の因子構造、確認的因子分析、信頼性を確認し、そのうえで外部変数として学習向上、能力向上、成績との相関関係を検討した。妥当な相関関係があると認められた。

キーワード:大学生、アクティブラーニング、外化、内化、学習

1.問題と目的1.1.アクティブラーニング研究・実践の概観「アクティブラーニング(active learning)」は、1960~80 年代にかけての米国の大学の大衆化、大学教育の混乱を背景に(Study Group on the Conditions of Excellence in American Higher Education, 1984)、Bonwell & Eison

(1991)が概念化した学習論である。当時、多くの大学で「どのように教えるか」が喫緊の課題となっており、後に「教えるから学ぶへ(From teaching to learning)」(Barr & Tagg, 1995)という教授学習パラダイムの転換の見方とともに、大学教育再生の案としてアクティブラーニングは登場し、広まっていった(溝上,2016a)。溝上(2014)は、Bonwell & Eison(1991)をはじめ、Meyers & Jones

(1993)、Fink(2003)、Prince(2004)等を参考にして、アクティブラーニングを「一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」と定義している。日本では、いわゆる学士課程答申(2008 年)で、教授学習パラダイムの転換がさまざまな観点のもと施策化された。質的転換答申(2012 年)で示された、「アクティブ・ラーニング(能動的学修)」は学習パラダイムを教授学習法として具体的に示したものであった。そこでは、アクティブ・

ラーニングは「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等によっても取り入れられる」と説明されている(『質的転換答申』用語集、p. 37)。2014 年末には、文部科学大臣からの中央教育審議会への諮問のもと、アクティブラーニングが初等中等教育における次期学習指導要領改訂の目玉の一つともなった。過日には、『小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)』(2016 年 12月)が出され、「アクティブ・ラーニング」の視点としての主体的・対話的で深い学びが提示されているのは承知のとおりである。今やアクティブラーニングは、日本においても、初等教育から高等教育に至る学校教育の全段階の施策の一つとして、導入・推進が急ピッチで進められている(溝上,2016b)。この流れのなかで、アクティブラーニングに関する一連の理論的整備がおこなわれてきた(溝上,2014)。なかでも、従来独立して提唱・推進されていた協同学習や協調学習、PBL(問題解決学習・プロジェクト学習)、反転学習といっ

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た学習論を、包括的な「アクティブラーニング」概念の一つとして位置づけ整理したことは大きな作業の一つであった。講義一辺倒の授業を脱却する点を目指す学習(と成長)パラダイム(cf. 溝上,2016a)に位置づけてはじめて、それらの学習論はその価値を顕わにすると考えられた。また、講義パートとアクティブラーニングのパートを組み合わせた授業形式を「アクティブラーニング型授業」として理論的に提示したことも、アクティブラーニング研究の大きな作業であった。講義一辺倒の授業を脱却することが求められていても、講義それ自体の価値が否定されているわけではない。「~型授業」はこのジレンマを、理論的に解決するものであった。さらには、これによってアクティブラーニング型授業の分類も可能となった。つまり、アクティブラーニングを「習得型」から「探究型」まで(cf. 森,印刷中)、あらゆる学習の型に対応するものとしてとらえ、その上で目指す学習目標、育てるべき能力育成に対応した「~型授業」をつくっていけばいいと考えられたのである。

1.2.アクティブラーニング尺度の開発大学教育学会の課題研究「アクティブラーニングの効果検証」に採択され(詳しくは溝上,2016c)、プロジェクトチームで取り組んでいる課題の一つに、アクティブラーニング(型授業)の効果を検証するためのアクティブラーニング尺度の開発がある。これまでのアクティブラーニング(型授業)の効果を検証する研究の大半は、たとえば、・ 記憶定着率が上がること・ 学習が向上すること(たとえば、授業外学習時間、学習意欲、学習へのアプローチなど)

・ 能力(技能・態度を含む)が向上すること・ クラス全体の成績が上がること・ 達成度テストの得点や合格率が上がること等の指標をもとに、伝統的な講義型授業と比較して、あるいは授業開始期(プレ)と終了期(ポスト)を比較してアクティブラーニングの効果を示してきた(Akınoğlu & Tandoğan, 2007;Bowen, 2000;Crouch & Mazur, 2001;松本・秋山,2013;Prince, 2004;所,2016;和井田・小泉・田中,2016)。教育効果と呼べるかは横におき、授業アンケートの結果をふまえた授業成果の報告まで含めれば、その数はかなり膨大となる。本課題研究でも、これらの指標に基づく効果検証をおこ

なっているが(三保,2016)、さらにふみこんで、アクティブラーニングそれ自体の質を測定し、効果を検証していくことをも課題としている。というのも、上記の指標を用いての効果は、アクティブラーニング型授業以外の教育・学習方法でも示すことが可能であり、アクティブラーニング型授業の

観点で全授業の形態を見直す、転換していく決定的根拠とはならないからである。アクティブラーニングの効果検証を進めるうえで、この点はかなり大きな課題である。そこで本研究では、上述したアクティブラーニングの定義(溝上,2014)における2つのポイント、「(書く・話す・発表するなどの)活動への関与」と「認知プロセスの外化」をふまえて、アクティブラーニングそれ自体の質を測定する尺度を開発することを目的とする。質問項目は、クラスメイトとの議論や発表における「外化」に着眼して作成する。ここには、大きく2つの考えが込められている。第一に、アクティブラーニングの活動として、「話す(議論する)」「発表する」のみに着眼することである。定義では、アクティブラーニングは「書く」「話す(議論する)」「発表する」などの活動とされる。しかしながら、「書く」は、多くの場合、伝統的な講義型授業でも学生に課せられていたものである。アクティブラーニング型授業で採るべき新しい活動は、他者との、あるいは集団を前にした「話す(議論する)」「発表する」であり、質問項目はこれらの活動に特化して尋ねることとする。なお、講義科目のなかには、「発表する」の活動のないものがあるだろうが、質問文では「議論や発表を通じて」「~の中で」という連語表現を採ることにより、問題を回避できると考えた。第二に、アクティブラーニングの「外化」のなかに、外化後の気づき、内化をも加えることである。外化後であることを強調して、それぞれを「外化-気づき」「外化-内化」と呼ぶ。アクティブラーニングでは、(書く・話す・発表するなどの)活動への関与を通して生じる認知プロセスを「外化」することが求められる。外化とは、平たく言えば、頭のなかで起こる考えや思考などを(多くの場合)言語によって表現(アウトプット)することを指すが、これは第一の話す、発表するという(表現・アウトプット)活動を認知機能(知覚・記憶・思考・言語など)の側面から言い直したものである。溝上(2014)では、理想的なアクティブラーニングとは、「活動への関与」と「認知プロセスの外化」が協奏することだと説明している。ここでの問題は、高い学習成果を導くアクティブラーニングが、外化だけでなく、内化とカップリングしてとらえられなければならないということである。アクティブラーニングの定義や説明が(活動への関与と)認知プロセスの外化でなされようとも、その外化の周辺には常に内化があるということである。森(2016)は、内化-外化-内化の往還がアクティブラーニングに求められると述べ(同様の考え方として関谷[2016]の個→協働→個’ の学びも参照)、松下(2015)は「「外化のない内化」がうまく機能しないのと同じように、「内化のない外化」もうまく

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機能しない。内化なき外化は盲目であり、外化なき内化は空虚である」(p. 9)と述べる。測定では、森(2016)が内化-外化-内化として定式化するところの、外化を経ての「内化」(知識が増える、理解が深まるなど)、さらにはその内化のやや手前の学習理解に相当する「気づき」を対象として扱う。これらが上述の「外化-気づき」「外化-内化」に相当する。基本的には「外化」の1因子尺度を想定しているが、「外化-気づき」「外化-内化」を加えて理論的な補強をしていることから、「外化」と「外化-気づき」「外化-内化」は分別され 2因子となることが考えられる。最終的には、両因子の相関を見て決定したい。なお、本研究で開発する尺度は、現在受けている授業を含めてこれまでのアクティブラーニング型授業における、一般的なアクティブラーニングへの取り組みを測定するものである。一つひとつのアクティブラーニング型授業におけるそれを測定するものではない。本課題研究のように、一つひとつの授業を複数対象とし、そこで収集される尺度得点の全体平均を検討する場合には、厳密には、マルチレベル分析を必要とする。この作業ステップをにらんで本研究では、まず一般的なアクティブラーニングへの取り組みを測定する尺度を、信頼性、妥当性を確認したうえで開発する。次いで、それを一つひとつのアクティブラーニング型授業へ適用する。なお、調査への参加者によっては、アクティブラーニング型授業をまったく、あるいはあまり受けてこなかった者もいるだろうから、その者たちが尺度得点の全体にどのような影響を及ぼすかは、アクティブラーニング型授業への経験を尋ねることで別途検討する。最後に、アクティブラーニング尺度得点との関連で検討

すべき外部変数についてである。前述したとおり、これまでの多くのアクティブラーニングの効果検証では、「記憶定着率が上がること」「学習が向上すること」「能力(技能・態度を含む)が向上すること」「クラス全体の成績が上がること」「達成度テストの得点や合格率が上がること」の指標が用いられてきた。本研究では、このなかから、「学習が向上すること」「能力(技能・態度を含む)が向上すること」「クラス全体の成績が上がること」を、本研究の目的に照らして修正のうえ用いることとする。具体的に、学習の向上については、「学習意欲」(浅野,2002)、「主体的な学習態度」(畑野,2013;畑野・溝上,2013)、「学習へのアプローチ(以下、深い学習・浅い学習)」(河井・溝上,2012)の尺度を用いる。能力については、京都大学高等教育研究開発推進センターと学校法人河合塾でおこなっている、高校 2年生から大学生、社会人へと10 年間追跡調査する「学校と社会をつなぐ調査(通称:10 年トランジション調査)」で使用されている資質・能

力の項目を使用する。「他者理解力」「社会文化探究心」「計画実行力」「コミュニケーション・リーダーシップ力」の得点が算出される。成績については、客観的なものではないものの、個々人に成績の相対的な良し悪しを尋ねることで情報を収集する。本調査が一個単位の授業で調査がなされるものではないことと、調査への参加者がさまざまな大学にわたって存在し、GPAなどの客観的な成績の数値を尋ねても意味をなさないことの限界をふまえて尋ねられる質問項目である。以上の外部変数を用いて、アクティブラーニング得点と

の関連を次のように予測する。まず、学習意欲、主体的な学習態度、深い学習といった学習の向上変数、能力変数とは正の相関関係を、浅い学習とは負の相関関係か無相関を示すことと予想される。そのなかでも、深い学習とは高い相関が見られることが予想される。アクティブラーニング得点は、外化-気づき、外化-内化を加えて、単なる表現以上の、学習理解の深まりまで表す得点となるからである。本研究で収集される成績は、一般的には伝統的な講義型授業がまだまだ大半のなかでつけられるものであるから、アクティブラーニング得点と成績とはそれほど関連しないことが予想される。アクティブラーニング型授業で低い学習成果を示す者のなかに、ここで言うところの成績優秀者が一定程度含まれるはずであり、彼らの存在がアクティブラーニング得点との相関関係を鈍いものにすると考えられる。以上をふまえて本研究では、クラスメイトとの議論や発表

における外化に着眼したアクティブラーニング尺度を開発し、その信頼性・妥当性を検討する。ただし、外化-気づき、外化-内化を加えて、表現以上の、学習理解の深まりまで表す尺度として理論的補強を施していることから、研究 1ではまず尺度の因子構造ならびに信頼性を検討する。それを受けて、研究 2では外部変数を用いた尺度の妥当性を検討する。

2.研究 12.1.目的クラスメイトとの議論や発表における外化(外化-気づ

き・外化-内化を含む)に着眼したアクティブラーニング尺度の項目を作成し、尺度の因子構造ならびに信頼性を検討する。また、アクティブラーニング型授業の未経験者の影響も検討する。

2.2.方法(1)調査概要京都大学高等教育研究開発推進センターと学校法人河合塾が共催で実施している「学校と社会をつなぐ調査

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(通称:10 年トランジション調査)」の2時点目の大学 1年生のデータを抽出して分析をおこなう。この調査は、高校 2年生(1時点目)を10 年間追跡する縦断調査である。1時点目、2時点目の報告書は京都大学のウェブサイト(http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/trans/index.html)で公開されており、1時点目の成果は、溝上慎一(責任編集)京都大学高等教育研究開発推進センター・河合塾(編)(2015)として刊行されている。調査手続き、参加者の詳細は以下の通りである。1時点目調査は、2013 年 10~12月に実施された。全国計 378 校の高校 2年生 45,311 名(男性 21,238 名、女性 22,588 名、不明 1,485 名)が教室で、あるいはインターネットで調査票に回答した。メールアドレスをウェブ上で登録し、継続調査を承諾した者 16,829 名(回答者の37.1%)が、以後の継続調査の対象者となった。研究 1の分析対象となる2時点目調査は、2015 年 11

~12月にウェブ上で実施された。5,939 名(継続調査を承諾した者の35.3%)が回答した。そのうち、4年制(あるいは6年制)大学へ進学した者 4,751 名を本分析の対象とした。ただし、同一数字を続けて回答するなどいい加減だと見なされる回答者 74 名を除き、4,677 名(男性1,792 名、女性 2,850 名、回答拒否等その他 35 名、専門分野は人文科学系 1,011 名、社会科学系 962 名、理科系 1,292 名、芸術系 98 名、4年制の医療系 439 名、6年制の医療系 241 名、学際系 192 名、その他 34 名、未記入 408 名)を分析対象者とした。(2)調査内容アクティブラーニング尺度(以下、AL尺度) クラスメイトとの議論や発表における外化(外化-気づき・外化-内化を含む)を表す12 項目を作成し、「大学に入ってから、発表したり、ディスカッションをしたり、チームで取り組んだりするアクティブラーニング型授業(先生からの一方的な説明だけでない参加型の授業)に対して、以下の項目のような態度や行動をどの程度とっていましたか ? それぞれもっとも近い選択肢を選んでください。」という教示文のもと、5件法(5 あてはまる、4 どちらかといえばあてはまる、3 どちらでもない、2 どちらかといえばあてはまらない、1 あてはまらない)で回答を求めた。ただし、アクティブラーニングの経験がまったくない者がいることを考慮して、「*アクティブラーニング型授業をまったく受けていない人は、“1 あてはまらない” を選んでください。」と注を入れた。アクティブラーニング型授業の経験 「あなたは大学に入ってから、ある問題を考えたり、発表したり、ディスカッションをしたりする参加型の授業の機会がどの程度ありましたか。それぞれもっとも近い選択肢を選んでください。」という教示

文を与え4件法(1 なかった、2 あまりなかった、3 まあまああった、4 よくあった)で回答を求めた。(3)データ分析の実行

IBM SPSS Statistics / AMOS Version 23.0、R Version 3.3.2を使用した。研究 2も同様である。

2.3.結果と考察(1)AL尺度の因子分析分析対象者全員のデータで12 項目を用いて因子分析

(最尤法)をおこない、観測変数の相関行列の固有値を見たところ、7.187、1.010、.641、.493、.437…となり、スクリープロットは図 1のとおりであった。一般的に用いられるスクリーテストによれば、1因子から2因子目の間で固有値の大きな減衰状況が認められ、1因子構造を示していると考えられる。他方、ガットマン基準によれば、固有値 1.0以上が 2因子あり、2因子構造を示していると考えられる。主成分分析で生成される主成分を利用して因子数を決定するMAPテスト(豊田,2012)を用いても2因子構造が示される。2因子解で Promax回転をおこない因子パターンを見た

ところ(表 1を参照)、外化-気づき・外化-内化と外化にきれいに分かれた。外化-気づきと外化-内化は分化しなかった。しかしながら、因子間相関が非常に高く(r =

.768)、ガットマン基準、MAPテストで2因子構造が示されるにせよ、これでは第 1因子に高く負荷する項目から算出される得点と第 2因子のそれとの弁別性が悪くなることは必至である。他方で、表面上外化(表現・アウトプット)だけを見る項目が、外化以上の、気づきや内化まで多かれ少なかれ含む得点となっていることは、実践的に有益な知見に繋がるかもしれない。少なくとも、これらの外化の項目に “あてはまる” と回答する者の学習状況としてはそうだと言えそうである。

図 1 AL尺度における因子のスクリープロット

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以上の結果をふまえて本研究では、AL尺度を階層因子解法で算出するBifactorモデル(清水・青木,2015)を当てはめて分析してみる。Bifactorモデルを当てはめることができれば、AL尺度は外化、外化-気づき・外化-内化から成る一因子構造(一般因子)と見なしつつ、他方でその一般因子に寄与する外化をグループ因子として持つモデルとして理解されることとなる。さらに、Bifactorモデルが採用できるならば、今後は外化、外化-気づき・外化- 内化から成る一因子構造として得点化されるバージョンと、外化得点として算出しながらも、そこに外化-気づき・外化-内化をもある程度含み込むものとして得点化されるバージョンとの2通りの扱いが可能となる。

(2)Bifactorモデルに基づく因子分析Bifactor構造を仮定した因子分析(直交回転)をおこ

なった。グループ因子を2つ以上設定することが一般的であることから、表 2のように3因子解を採用した。しかしながら、3因子目(グループ因子 2)には負荷の高い項目がほとんど見られないことから、結果として2因子構造(一般因子+グループ因子 1)の尺度であると見なした。その上で、第 1因子(一般因子)には12 項目すべてが高く負荷しており、かつ、第 2因子(グループ因子 1)には外化の3項目のみが高く負荷していることが認められる。このことから、 外化、外化-気づき・外化-内化から成る12 項目の一般因子と、それに寄与する外化 3項目のグループ因子が抽出

表 1 AL尺度の因子分析(最尤法・Promax回転)の結果

次元 項目No 項目 外化-気づき・ 内化因子 外化因子 共通性

外化-気づき AL10 議論や発表を通じて新しい物事の見方に気づく .840 −.001 .704外化-内化 AL8 議論や発表を通じて授業の内容に関する知識が増える .831 −.003 .688外化-内化 AL13 議論や発表を通じて、複数の視点から授業の内容への理解が深まる .828 .000 .687外化-気づき AL6 クラスメイトの異なる意見を知って刺激を受ける .794 .020 .655外化-気づき AL7 議論や発表を通じて自分の考え方に間違いがあると気づく .726 .006 .534外化-内化 AL3 議論や発表を通じて授業の内容についての理解が深まる .665 .180 .649外化-気づき AL12 議論や発表を通じて自分の考えが偏っていることに気づく .664 −.038 .407外化-内化 AL9 議論や発表を通じて自分が何を考えていたのかを理解する .641 .173 .602外化-気づき AL2 クラスメイトの考えが自分と異なることに気づく .582 .202 .551外化 AL4 根拠を持ってクラスメイトに自分の意見を言う −.087 .941 .775外化 AL1 議論や発表の中で自分の考えをはっきり示す .058 .723 .587外化 AL5 クラスメイトに自分の考えをうまく伝えられる方法を考える .135 .696 .640

因子間相関 1 .768 1

表 2 AL尺度の因子分析(最尤法・Bifactor直交回転)の結果

次元 項目No. 項目 一般因子グループ 因子 1

グループ 因子 2 共通性

外化 AL1 議論や発表の中で自分の考えをはっきり示す .596 .482 −.015 .589外化-気づき AL2 クラスメイトの考えが自分と異なることに気づく .724 .133 .148 .564外化-内化 AL3 議論や発表を通じて授業の内容についての理解が深まる .807 .094 −.103 .671外化 AL4 根拠を持ってクラスメイトに自分の意見を言う .615 .625 −.003 .770外化 AL5 クラスメイトに自分の考えをうまく伝えられる方法を考える .653 .462 .013 .641

外化-気づき AL6 クラスメイトの異なる意見を知って刺激を受ける .802 .003 .119 .658外化-気づき AL7 議論や発表を通じて自分の考え方に間違いがあると気づく .725 −.006 .342 .643外化-内化 AL8 議論や発表を通じて授業の内容に関する知識が増える .842 −.040 −.114 .723外化-内化 AL9 議論や発表を通じて自分が何を考えていたのかを理解する .769 .099 −.010 .602外化-気づき AL10 議論や発表を通じて新しい物事の見方に気づく .836 −.018 −.003 .700外化-気づき AL12 議論や発表を通じて自分の考えが偏っていることに気づく .626 −.029 .334 .505外化-内化 AL13 議論や発表を通じて、複数の視点から授業の内容への理解が深まる .832 −.026 −.051 .696

因子間相関 10 10 0 1

*項目No.はAL1~13となっている。AL尺度は当初 13 項目の尺度として開発を進めたが、AL11は調査実施後内容的に不適当と判断され、本論文での分析からはすべて外すこととした。本論文では項目No.は振り直さず示している。

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されたことがわかる。データとモデルとのあてはまりを確認するために確認的因子分析をおこなった。データとモデルの適合度指標には χ2 値、CFI、RMSEAを用いた。上記の探索的因子分析の結果をふまえて、1因子からなるモデル、Bifactor構造に基づくモデルを仮定し、最尤法による母数の推定をおこなった結果、1因子モデルでは、χ2(54) = 3395.537、p<.001、CFI = .911、RMSEA = .115、AIC =

3443.537(図 2参照)、Bifactorモデル(一般因子+グルー プ因子)では χ2(51) = 1267.662、p<.001、CFI = .968、RMSEA = .072、AIC = 1321.662(図 3参照)であった。両モデルともχ2 の値が有意であったが、分析対象者数が多い場合、検定力が高まって有意になりやすいことが指摘されているので(豊田,1998)、ここでは問題ないと判断した。ほかの指標を見ると、RMSEAはやや基準を満たしていなかったものの、CFIは十分に高く、またAICも低かったことから、Bifactorモデルにおいてデータと仮定したモデルの当てはまり(適合度)がいいと判断され、結果妥当なモデルであると考えられた。全体の12項目と外化 3項目のクロンバックの α係数は、そ

れぞれ .938、.851であり、十分な内的一貫性(信頼性)も 認められた。以上をもって作成された、外化、外化-気づき・ 外化-内化から成る12 項目、それに寄与する外化 3項目を含む尺度を、以下「アクティブラーニング(外化)尺度(AL(外化)尺度)」あるいは「アクティブラーニング尺度(AL尺度)」「アクティブラーニング外化尺度(AL外化尺度)」と分けて呼ぶこととする。

(3)アクティブラーニング経験者のみで分析前項までは、アクティブラーニング型授業をまったく受けて

いない者が、尺度の各項目に対して “1 あてはまらない” と評定したデータを含めて分析をおこなった。アクティブラーニングの経験がないのであるから、尺度の各項目に対して“あてはまらない” と回答せざるを得ないし、教示の注でそのように促してもいる(調査内容を参照)。しかし、厳密には、尺度の分析はアクティブラーニング型授業の経験者のみを対象におこなうべきだという考えはあろう。他方で、調査実施において、アクティブラーニングの経験を尋ねる項目をカップリング項目として必須の設定とすると、分析のステップが 1つ増え、作業を煩雑化させることにもなる。ここには一長一短がある。そこで、アクティブラーニングの経験項目で “4 よくあった” “3 まあまああった” と回答した者(N = 3,267)を抽出して、上記と同様のステップですべての因子分析をおこない、前項の分析結果とどの程度の違いがあるかを検討した。その結果、上述の分析結果とほぼ同様のものが認められた。具体的に、因子分析(最尤法、Promax回転)の結果は、固有値の減衰状況、ガットマン基準、MAPテストを経ての2因子構造、その因子パターンが同様に認められ、第 1因子(外化-気づき・外化-内化)と第 2因子(外化)の因子間相関は r = .636と同様に高い値であった。因子間相関の値は上述の r = .768よりも低い値であったが、ここにはアクティブラーニングの未経験者を除いた影響が表れていると考えられる。いずれにしても、高い因子間

図 2  AL尺度(1因子モデル)の確認的因子分析*χ2(54) = 3395.537、p<.001、CFI = .911、RMSEA = .115、AIC = 3443.537

図 3  AL(外化)尺度(Bifactorモデル:一般因子+グループ因子)の確認的因子分析

*χ2 (51) = 1267.662、p<.001、CFI = .968、RMSEA = .072、AIC = 1321.662

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相関であることに変わりはない。Bifactor構造を仮定した因子分析(直交回転)をおこなった結果からも、同様の一般因子と2つのグループ因子が抽出され、一般因子と第2因子(グループ因子:外化)を最終的な解とし、この点も同様の結果が示されている。確認的因子分析の結果は、(図 2に対応する)1因子モデルでは χ2(54) = 2493.665、

p<.001、CFI = .839、RMSEA = .118、AIC = 2541.665であり、(図 3に対応する)Bifactorモデルでは χ2(51) =

940.841、p<.001、CFI = .941、RMSEA = .073、AIC =

994.841であった。ここでもBifactorモデルのほうが妥当なモデルであると判断される。以上は、アクティブラーニングの未経験者を含めておこ

なった前項までの分析結果が、未経験者を除外しておこなった本項での分析結果とさほど変わらないという結果を示すものである。AL(外化)尺度が、因子構造の観点から見て、回答者のアクティブラーニングの経験をプレ項目としてカップリングせずとも、教示の注を加えることで十分扱っていけることを示唆している。

3.研究 23.1.目的研究 1で作成した12 項目のAL(外化)尺度を用いて調査をおこない、外部変数との関連をみて妥当性の検討をおこなう。

3.2.方法(1)調査概要2016 年 11月に、株式会社かんでんCSフォーラムによ

るインターネットリサーチで大学生を対象に実施された。多くの4年生は主として卒業研究に従事しており、AL(外化)尺度得点への回答に影響を及ぼすと考えられたため、調査対象は1~3年生とした。参加者は、全国の国公立私立大学生 1,854 名(男性 927 名、女性 927 名、学年は1年生 618 名、2年生 618 名、3年生 618 名、専門分野は人文科学系 447 名、社会科学系 483 名、理科系477 名、4年制の医療系 169 名、6年制の医療系 94 名、学際系 86 名、その他 98 名)であった。(2)調査内容アクティブラーニング(外化) 研究 1で作成した12 項目を使用。教示文と評定は研究 1と同様である。学習意欲 浅野(2002)によって作成された、学習に対する積極性・継続意志を測定する尺度 5項目を用いて、5件法で尋ねた(下記を参照)。浅野(2002)では4件法で回答を求めているが、本調査では他の尺度と評定段階を合わせて5件法で回答を求めた。因子構造はもとの論

文と比べて変わらず、問題なく扱えると判断した(以下の尺度についても同様)。クロンバックの α係数は .894であり、加算平均をして分析をおこなった。

以下のそれぞれの項目内容について、現在の気持ちはどのようなものですか?それぞれもっとも近い選択肢を選んでください。(1)自分では、学習意欲は高い方だと思う(2)自分では、積極的に学習していると思う(3)勉強は好きである(4)できるだけ長く勉強を続けたい(5)常に学びたい気持ちがある評定:(5)あてはまる(4)どちらかといえばあてはまる(3)どちらでもない(2)どちらかといえばあてはまらない(1)あてはまらない

主体的な学習態度 畑野・溝上(2013)によって作成された「主体的な授業態度」尺度 9項目を、畑野(2013)にならって「主体的な学習態度」尺度と名称を変えて用いた(下記を参照)。5件法で回答を求めた。クロンバックの α係数は .823であり、加算平均をして分析をおこなった。

「以下のそれぞれの項目内容は、あなたにどの程度あてはまりますか。もっとも近いものを1つ選んで、数字に○をつけてください。」(5件法)*授業や場合によって変わるかもしれませんが、「一般的にこの程度」という感覚でお答えください。*課題、プレゼンテーション、レポートの経験がない方は、「出されたらどのように取り組むか」ということを想定してお答えください。(1)レポートや課題はただ提出すればいいという気分で仕上げることが多い *(2)レポートは満足がいくように仕上げる(3)授業には意欲的に取り組む(4)課題には最小限の努力で取り組んだ *(5)単位さえもらえればよいという気持ちで授業に出る*(6)課題は納得いくまで取り組む(7)課されたレポートや課題を少しでも良いものに仕上げようと努力する(8)授業はただぼうっと聞いている*(9)プレゼンテーションの際、何を質問されても大丈夫なように十分に調べる(*は逆転項目)評定:(5)あてはまる(4)どちらかといえばあてはまる(3)どちらでもない(2)どちらかといえばあてはまらない(1)あてはまらない

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学習アプローチ 河井・溝上(2012)によって作成された「学習アプローチ」尺度の下位尺度「深い学習」(項目1、3、5、7、9、11、13、14)、「浅い学習」(項目2、4、6、8、10、12、15)の計 15 項目を用いた。もとの論文では6件法で回答を求めているが、先と同様に、本調査では5件法で回答を求めた(下記を参照)。クロンバックの α係数は、深い学習(α = .882)、浅い学習(α = .838)であり、加算平均をして分析をおこなった。

「以下のそれぞれの項目内容は、あなたにどの程度あてはまりますか。もっとも近いものを1つ選んで、数字に○をつけてください。」(5件法)*授業や場合によって変わるかもしれませんが、「一般的にこの程度」という感覚でお答えください。(1)できるかぎり他のテーマや他の授業の内容と関連させようとする(2)自分でテーマを考え抜かずに、教えられたことをただただ受け取る(3)自分がすでに知っていることと結びつけて、授業内容の意味を理解しようとする(4)よりよいやり方を考えずに、ただなんとなく学習してしまうことがよくある(5)私は、授業内容の意味を自分で理解しようとする(6)自分がどこに向かっているのか分からなくても、かたちだけで勉強を済ませる(7)様 な々見方を考慮して、問題の背後にあることを理解することが私にとって重要だ(8)授業内容を理解するのが難しかった(9)新しい考えを理解するとき、それらを現実生活と結びつけようとする(10)私が学んできたことの多くは、無関係でばらばらなままになっている(11)授業のための読書の際、著者の意味することを自分から正確にわかろうとする(12)私は、教えられたことに対して、自分で深く考えずに受け取る傾向がある(13)学術的な読書の中で新しい考えに出会ったときは、じっくり考え抜く(14)授業で学んでいることについて、自分なりの結論を導くたけの根拠を注意深く調べた(15)授業のテーマは、何を意味しているのか理解できない複雑なやり方で示された評定:(5)あてはまる(4)どちらかといえばあてはまる(3)どちらでもない(2)どちらかといえばあてはまらない(1)あてはまらない

能力 京都大学高等教育研究開発推進センター・学校法人河合塾(2016)「学校と社会をつなぐ調査」(通称:10 年トランジション調査)の資質・能力が身についたかど

うかを5件法で尋ねる18 項目を用いた。講義型授業での場合とアクティブラーニング型授業での場合とのそれぞれについて資質・能力が身についたかを尋ねたが(項目と教示文は下記を参照)、本研究ではアクティブラーニング型授業の場合での得点のみを使用して分析する。4つの下位得点「計画実行力(AL)」(項目1、10、12、16)、「他者理解力(AL)」(項目13、14、15)、「コミュニケーション・リーダーシップ力(AL)」(項目3、5、6、7、8)、「社会文化探究心(AL)」(項目2、4、17)を算出することができ(上記以外の3項目は未使用)、それぞれのクロンバックの α係数は .931、.941、.944、.890であった。加算平均をして分析をおこなった。

最近のあなたをふり返って、講義型の授業あるいはアクティブラーニング型授業(*)を通して、下記の事柄がどの程度身についたと感じますか? それぞれの授業に対してもっとも近い選択肢を選んでください。(*)講義科目であるが、講義だけでなく、発表したり、ディスカッションをしたり、チームで取り組んだりすることもある授業のこと。演習や実験科目は除く。

(1)計画や目標を立てて日々 を過ごすことができる(2)社会の問題に対して分析したり考えたりすることができる(3)リーダーシップをとることができる(4)図書館やインターネットを利用して必要な情報を得たりわからないことを調べたりすることができる(5)他の人と議論することができる(6)自分の言葉で文章を書くことができる(7)人前で発表をすることができる(8)他の人と協力して物事に取り組める(9)コンピュータやインターネットを操作することができる(10)時間を有効に使うことができる(11)新しいアイディアを得たり発見したりすることができる(12)困難なことでもチャレンジすることができる(13)人の話を聞くことができる(14)自分とは異なる意見や価値を尊重することができる(15)人に対して思いやりを持つことができる(16)忍耐強く物事に取り組むことができる(17)異文化や世界に関心を持つことができる(18)自分を客観的に理解することができる評定:(5)かなり身についた(4)まあまあ身についた(3)どちらとも言えない(2)あまり身につかなかった(1)まったく身につかなかった

成績 下記のとおり6段階で評定を求めた。分析では6と回答した者を欠損値として処理し、1~5を逆転させて5点が高い成績となるように処理した。

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あなたの成績は平均してどれくらいですか。もっとも近い選択肢を選んでください。(1)履修した科目の80%以上が優(80 点以上)の成績である(2)履修した科目の60~80%未満が優(80 点以上)の成績である(3)履修した科目の40~60%未満が優(80 点以上)の成績である(4)履修した科目の20~40%未満が優(80 点以上)の成績である(5)履修した科目の20%以下が優(80 点以上)の成績である(6)その他(わからない、覚えていない、など)

3.3.結果と考察AL(外化)尺度について、データとモデルとのあてはま

りを検討する確認的因子分析をおこなった。1因子モデルの適合度は χ2 (54) = 1099.429、p<.001、RMSEA = .102、CFI = .914、AIC = 1171.429、Bifactorモデルの適合度はχ2 (51) = 445.294、p<.001、RMSEA = .065、CFI = .968、AIC = 523.294であった。研究 1と同様に、Bifactorモデルのほうが妥当なモデルであるという結果であった。AL尺度の12 項目とAL外化尺度の3項目のクロンバックの α係数は、それぞれ .929、.829であり、十分な内的一貫性(信頼性)が認められた。次いで、AL(外化)尺度の妥当性の検討として、外部変数、すなわち学習意欲、主体的な学習態度、学習アプローチ(深い学習と浅い学習、浅い学習は否定的な学習インパクトの変数)といった学習向上の変数と、能力向上の4変数(計画実行力(AL)、他者理解力(AL)、コミュニケーション・リーダーシップ力(AL)、社会文化探究心(AL))、そして成績の記述統計ならびに相関関係を

表 3に示す。表を見ると、AL、AL外化と外部変数との関係はすべて、問題で立てた予想にほぼ近い結果を示した。すなわち、学習向上の変数(浅い学習を除く)、能力向上の変数とは正の相関関係を示し(ALで r = .404~ .601、AL外化で r = .311~ .513、すべて p<.01)、なかでも深い学習とは中程度の正の相関を示した(ALで r = .601、AL

外化で r = .513 ともに p<.01)。浅い学習とはほぼ無相関か負の相関であった(ALで r = .005、n.s.、AL外化で r =

−.053、p<.05)。成績とは負の相関を示した(ALで r =

−.205、AL外化で r = −.193、ともに p<.01)。すべての外部変数において、AL外化の相関係数が

ALのそれよりも低い値であったことは、AL(外化)尺度の妥当性を示すもう1つの結果である。と言うのも、ALは外化-気づき・外化-内化まで含めた外化得点となっており、外化(表現・アウトプット)だけのAL外化よりも、学習向上や能力向上の得点とより高い相関を示すのは妥当だと考えられるからである。もっとも、ALとAL外化との相関は、研究 1で示したものと同様非常に高い値であり(r =

.829、p<.001)、AL外化が単なる外化以上の得点となっていること、すなわち、外化-気づき・外化-内化を多かれ少なかれ含み込んだ得点となっていることには留意されなければならない。議論や発表を通じて「外化できている」と見なす認知が、外化-気づきや外化-内化まで含み込んだものなのか、本尺度だけで表れている得点上の特徴なのか、本研究では明らかにできない。もし前者であるならば、「活動あって学びなし」と言われてきたような活動への批判(cf.

ウィギンズ・マクタイ,2012)が、活動という表面的な特徴だけを外部者の目でとらえたものであって、学習者の意識をふまえたものではなかったということが示唆されることになる。つまり、学習者の意識においては、(外化の)活動さえ意義あるかたちでは十分になされているとは認知されていないのではないかという示唆である。今後の課題としたい。

表 3 AL尺度、AL外化尺度、外部変数の記述統計と相関係数

平均(SD) AL尺度 AL外化尺度

AL 3.60(0.71) ― .829**AL外化 3.47(0.82) .829** ―学習意欲 3.08(0.92) .410** .367**主体的な学習態度 3.14(0.65) .424** .358**深い学習 3.34(0.71) .601** .513**浅い学習 3.19(0.68) .005** −.053**計画実行力(AL) 3.01(1.15) .404** .328**他者理解力(AL) 3.26(1.25) .419** .311**コミュニケーション・リーダーシップ力(AL) 3.17(1.20) .441** .379**社会文化探究心(AL) 3.07(1.18) .421** .333**成績 2.39(1.12) −.205** −.193**

*p<.05 **p<.01

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4.まとめと今後の課題本研究では、アクティブラーニングそれ自体の質を測定す

る尺度の開発を目的とした。それは、アクティブラーニングの効果検証において大きな課題の一つとなっている、アクティブラーニングの定義(溝上,2014)における2つのポイント、「(書く・話す・発表するなどの)活動への関与」と「認知プロセスの外化」をふまえて外化に着眼した尺度であった。項目作成においては、単なる外化ではなく、学習成果を伴う外化後の気づきや内化までを含み込んだアクティブラーニングを測定しようと、理論的補強もおこなった。研究 1では、作成された12 項目を因子分析し、最終的には、第 1因子の12 項目から成る「AL」(一般因子)とALに寄与する外化 3項目だけの「AL外化」(グループ変数)の2因子からなるBifactorモデルによって解を見いだした。確認的因子分析をおこなった結果も、Bifactorモデルがもっとも適合度が高く、妥当なモデルだと判断された。AL、AL外化のクロンバックの α係数は高い値を示しており、内的一貫性(信頼性)は十分認められた。研究 2では、異なるサンプルに研究 1の結果を適用し、同様の因子構造、確認的因子分析、信頼性を確認し、そのうえで外部変数として学習向上、能力向上、成績との相関関係を検討した。妥当な相関関係があると認められた。以上より、外化(外化-気づき・外化-内化を含む)12 項目から成る「アクティブラーニング(外化)尺度」が開発された。今後の課題を2点挙げる。1つは、前項で述べた、AL

とAL外化との高い相関が果たして実践的にも認められるのかを明らかにすることである。つまり、議論や発表を通じて「外化できている」と見なす認知が、外化-気づきや外化-内化まで含み込んだものなのか、本尺度だけで表れている得点上の特徴なのかを明らかにすることである。もし前者であるならば、伝統的に批判されてきた活動主義への見方の修正を迫ることになる。もう1つは、本研究で開発された尺度が、個別のアクティブラーニング型授業に適用できるかの検討である。大学教育学会で採択されている課題研究「アクティブラーニングの効果検証」のプロジェクトで、全国の大学で50~80のアクティブラーニング型授業でこの12 項目の尺度を使用してプレ・ポスト調査をおこなっている。次の機会に結果を報告する予定である。

付記本研究は、大学教育学会からの課題研究助成(H27

~ H29)「アクティブラーニングの効果検証」(代表者:溝上慎一)、科学研究費挑戦的萌芽研究(H27~ H28)「アクティブラーニングとしての反転学習の効果検証」(溝上慎一代表:課題番号 15K12411)、科学研究費基盤研

究(B)(一般)(H28~ H30)「学習成果に結実するアクティブラーニング型授業のプロセスと構造の実証的検討と理論化」(溝上慎一代表:課題番号 16H03075)の助成を受けておこなわれています。また、研究 1は、京都大学高等教育研究開発推進センターと学校法人河合塾が共催で実施している「学校と社会をつなぐ調査(通称:10 年トランジション調査)」の2時点目データを使用しました。データ使用にあたって許可をくださった両組織にお礼を申し上げます。

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Articles by the Center Staff and Research Fellows

Developing the Active Learning (Externalization) Scale by Bifactor Model

Shinichi Mizokami1, Tomoko Mori2, Hiroaki Konda2, Toru Kawai3, Norihiro Miho4, Shuji Honda5, and Yoshinori Yamada6

(1Center for the Promotion of Excellence in Higher Education, Kyoto University, 2Division of Promotion of Educational Development, Kansai University, 3Institute for Teaching and Learning, Ritsumeikan University,

4Faculty of Economics and Business Administration, Kyoto Gakuen University, 5Faculty of Human Relations, Otsuma Women’s University, 6Department of Restructuring Undergraduate Faculties, Osaka Sangyo University)

The purpose of this study is to develop the “Active Learning (Externalization) Scale” that measures the quality of active learning—a task central to testing the effects of active learning. In Study 1, the factors were analyzed against 12 active-learning items, and we finally found out, in the Bifactor model, the first general factor, “AL” consisting of 12 items and the second group factor consisting of 3 items, “AL-externalization” that contributed to AL. That Bifactor model is ultimately identified as a more viable model, more suitable by the Confirmatory Factor Analyses (CFA). In Study 2, these findings were further confirmed by using different samples: we also identified valid correlations when using learning and competency or achievement as the outer variables.

Keywords: University Student, Active Learning, Externalization, Internalization, Learning