Title 馬蹄腎を伴う嚢胞腎に発生した腎血管筋脂肪腫の1例

Author(s) 京, 昌弘; 幸田, 憲明; 藤本, 宜正; 永野, 俊介

Citation 泌尿器科紀要 (1987), 33(9): 1416-1419

Issue Date 1987-09

URL http://hdl.handle.net/2433/119272

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

1416

〔囎 畿 罰

馬蹄腎を伴 う嚢胞腎に発生 した腎血管筋脂肪腫の1例

兵庫県立西宮病院泌尿器科(部 長:永 野俊 介)

京 昌 弘 ・ 幸 田 憲 明*・ 藤 本 宜 正 ・永 野 俊介

A CASE OF ANGIOMYOLIPOMA ORIGINATING FROM

POLYCYSTIC KIDNEY WITH HORSESHOE KIDNEY

Masahiro KYO, Noriaki KoaDA, Nobumasa FuJiMoTo and Shunsuke NAGANO

From the Department of Urology, Hyogo Prefectural Nishinomiya Hospital

(Chief: Dr. S. Nagano)

A case of renal angiomyolipoma originating from polycystic kidney with horseshoe kidney is reported. A 32-year-old woman visited our hospital with the complaint of prote-inuria. with computerized tomographic scan and further examinations the patient was diagnosed as having renal angiomyolipoma with tuberous sclerosis. The tumor originated from a polycystic horseshoe kidney. Three weeks later, she complained of right flank pain and was diagnosed with spontaneous rupture of the angiomyolipoma. Right heminephrectomy was performed and histological examination confirmed the preoperative diagnosis.

Some discussion is made on the characteristics and treatment of renal angiomyolipoma, and the statistics on renal diseases with tuberous sclerosis in Japan are presented.

Key words: Angiomynlipoma, Tuberous sclerosis, Polycystc kidney, Horseshoe kidney

は じ め に

腎血管筋脂肪腫は結節性硬化症に合併す る腎病変 と

して知 られ る比較的稀な疾患 であるが,近 年CT,超

音波検査 の進歩に よ り報告例 が増加 し て い る.一 方

嚢胞腎,馬 蹄腎は比較 的多 くみ られ る腎疾患 で あ る

が,こ れ らが合併 した症例についての報告 は少ない,

今回われわれは,馬 蹄 腎を伴 う嚢胞腎に発生 した腎

血 管筋脂肪腫 とい う非常に稀な症例を経験 したので,

若干の文献的考察を加 え報告す る.

症 例

患者=43歳,女 子

主訴=蛋 白尿

家族歴:父 は肝硬変 で死亡,現 在 の ところ母,同 胞

に 腎疾患の発症 を認め ない.

既往h:子 宮筋腫にて本院婦人科通院中

現病歴1婦 人化 にて蛋 白尿を指摘 され,1985年8月

7日 精査のため 当科受診.

*現:愛 媛 大 学 医rK'Lp>fflR泌尿器 科 学 教 室

初 診 時 現 症:血 圧150/100,体 格,栄i養 中 等 度,知

能 正 常,顔 面 に 皮 脂 腺 腫 を 認 め る(Fig.1).

胸 部 に 異 常 を 認 め ず 左 右 側 腹 部 に 超 手 挙 大 で 非 可 動

性,表 面 凹 凸 の 腫 瘤 を 触 知 し た.

検 査 成 績1検 血RBC:397x104/mm3,Hb9.Ogl

dl,Ht37.5%,Plt41.4x104/mm3,WBC7,200/

mm3(分 画 正 常),Bleedingtime2min,PT10.7

sec,PTT21.7sec,Wa-R(一),HBsAg(一),血 液

生 化 学TP6・99/dl,AEG1.5,Bilirub三nTIDO,4/

0.1mg/dl,GOT141U/1,GPTllIU/1,AIP147

1U/1,LAP421U/1,r-GTP61U/1,LDH7241U/1,

Ch-)」0.97pH,T-Cholesterol184mg/dl,Cr1.O

mg/dl,BUNllmg/dl,Na139mEq/1,K3,7mEq

/1,Cl109mEq/1,Ca8.8mg/dl,Pi3.6mg/dl,UA

4・3mg/dl,PSP(15m圭n)2%0,HCG9.0119/ml(正

常5>),HCGO,3ng/ml(正 常0.5>),CEA1.2

ng/ml(正 常2・5>),AFP3ng/ml(正 常20>),検

尿 黄 色 透 明pH6,Prot(-FI-),su(一),0.B.(升),

沈 査RBC70/hpf,wBc10/hpf,尿 細 胞 疹 陰 性,類

円 柱(-i十),

レ ン トゲ ン 検 査1

京 ・ほか:腎 血管脂肪腫 ・結節性硬化症 1417

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Fig.1.Sebaceousadenomaontheface

「

Fig.3.CTscanshowsatumorwithfattytissue

intherightkidneyandpolycysticki-

dneywithhorseshoekidney.

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脇 饗

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4

L菟,」Fig.2.DIPshowslargesizeofbothkidneys

andelongationofcalyces.Leftincom-

pletedoublepelvisandureterisseen.

胸部単純撮影 ・異 常所見 なし

DIP;両 腎 と も腫大 し,腎 孟腎杯系の著明 な 延長

を認め,左 側は不 完全型重複腎孟尿管を示 した(Fig.

2).

腹部CT;両 腎 とも著明に 腫大 し内部はpolycystic

で,右 腎下極にfattydensityareaを 含む腫瘍を認

めた.肝 もPQIycystic様 であ った.さ らにこの症例は

馬蹄腎も合併 し,両 側は峡部で連続 して い た(Fig.

3).

頭部CT;側 脳室壁 と松果体に石灰化を認めた(Fig.

4).

臨床経過:以 上 よ り馬蹄 腎を合併 した嚢胞腎に発生

した右腎血管筋脂肪腫で,顔 面皮脂腺腫,頭 蓋内石灰

Fig.4.

鋤 鹸懲 醗」

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"∫ .辱 豪'～

"騨 糠難

Calcificationinthepinealbodyand

lateralventriclewall

化 より結節性硬 化症 を合併 している と診断す るも,無

症状 で腎機能低下 を示 して い た た め 経過観察 してい

た.と ころが,8月27日 突然右側腹 部痛 があ り当院外

科受診,急 性腹症 の診断にて開腹手術を施行 した とこ

ろ,右 腎血管筋脂肪腫 の自然破裂 と判 明,当 科にて右

半腎摘除術を行な った.

手術所見;右 傍腹直筋切開にて腹腔内に達す.虫 垂

に炎症所見はな く,右 後腹膜腔に,肝 床 より回盲部に

いた る嚢胞腎 と出血を伴 う腫瘍を認め右 半腎は内方は

峡部を経て左半腎に 続い て お り馬蹄腎の 合併 も確認

した,腫 瘍 の周囲への浸潤,周 囲 リンパ節の腫大 は認

め られず右半腎を腫瘍,血 腫 ともに一塊に切除 した.

1418 泌尿紀要33巻9号1987年

Table1.Renaldiseaseswithtuberoussclerosis.

AML

Sarcoma

RCC

PolycysticKidney(Adulttype)

AML-PolycysticKidney(Adulttype)

PolycysticKidney(lnfatiletype)

Hypernephroma

AML十PolycysticKidney十HorseshoeKidney

78例

7例

3例

2例

2例

2例

1例

自験例

治退院 し現在外来にて経 過観察 している。

Fig.5.Grossappearanceofthe

rightkidney.

tumorinthe

灘籔澱饗襲柊鞍 耀 蔦媛 奪:鵬 築筆贈 》二戯∫∴〆ヂ

離懸叢峯塗3Fig.6.Photomicrographofthetumor:The

tumoriscomposedofbloodvessels,

smoothmusclecellsandmatureadipose

tissue.

摘除標本=切 除 され た右半腎は重量850g,大 きさ

23×12cm.黄 灰褐色,全 体に 嚢胞状で,下 極に出血

壊死 を伴 う脂肪組織の豊富 な腫瘍を認めた(Fig,5).

病理組織診断 腫瘍 は平滑筋組織 小血管,成 熟 し

た脂肪組織が混在 し,平 滑筋組織細胞p`部 核の クロ

マチ ン増加や,多 核 細胞を認めたが悪性所見はな く嚢

胞の所見 とあわせ,病 理組織学的に も馬蹄腎を伴 う嚢

胞腎に発生 した右腎血管筋脂肪腫 と診断された(Fig.

6).

術後経過:術 後一過性 に腎機能低下 を示 したが,輸

液療法,利 尿剤の投 与にて回復 した.第19病 日Vim,略

考 察

血管筋脂肪腫(以 下AMLと 略す)は 結節性硬化

症(以 下TSと 略す)の 合併腎病変 と して 知 られ る

中胚葉性の混合腫瘍 で,脂 肪組織,血 管,平 滑筋組織

が混在 してい る,腎 に発生 した血管筋脂肪腫は,1986

年8月 現在本邦 において250例 を 超 え る症例が 報告 さ

れてい る.男 女比は約13で30歳 代 に 好発 し,TS

の合併は約40%に 認め られ るといわれて いる1).自 験

例は顔面皮脂腺腫,松 果体石灰化を認める ものの,TS

の完全型にみ られ る知能発育遅延,て んかん発作 の既

往はな く,TSの 不完全型 と考え られる.TSの 合併

腎病変 としてはAMLの ほか 肉腫,腎 細胞癌,嚢 胞腎

な どが報告2-6)されてお り,わ れわれ は平石 らの報告2)

以後の症例 を加え,1986年8月 までに文 献上調べ えた

症例の集計 を行 なった.

それに よれ ばTSの 合併腎病変はAMI.が 最 も多

く78例で,つ い で肉腫,腎 細胞癌の順 とな って い る

(TaUle1).し か し自験例 の ようにAML,成 人型嚢

胞腎の両方 を合併 した症例 の報告は2例z)の みであ り

さらに馬蹄腎を合併 した症例は,わ れわれが検索 しえ

たか ぎ りでは本邦 において も外国において も報告 され

ていなか った.ま た統 計学的 に,嚢 胞腎 の頻 度が約

500人 に1人 の 割合7),馬 蹄腎の頻度が 約400人 に1人

の割合8)であ り,AMLの 報告が本邦で約250例 であ

ることか らも,自 験例 は非常に稀 な症例であ るといえ

る.

AMLが 多発性,両 側性 に発生す る場 合は多発性嚢

胞状 とな り,肉 眼的に しば しば嚢胞腎 との鑑別が問題

となる9)自 験例では嚢 胞は両 腎に多発性に存 在す る

ものの,腫 瘍は右半腎下極 に存在す るのみで,病 理学

的に右半腎 の他の部分や,CT,エ コー上残 された左

半腎には腫瘍所見は認 め られず,嚢 胞腎 の約3分 の1

に合併す る7)と いわれる肝嚢胞を多発的に認めたため

嚢胞腎に合併 したAMLと 診 断 した.

AMLは 脂肪組 織を含む ことか ら,最 近は非侵襲的

京 ・ほか:腎 血管筋脂肪腫 ・結節性硬化症 1419

なCT,超 音波エ コーな ど,特 にCTに よ り確実に

診断 され る ようにな っている,し か し成熟脂肪細胞成

分が少ない場合には,腎 癌 との鑑 別が困難な こともあ

り10),血管造影が施行 され る場合 も多い.

治療法につ いては,本 腫瘍 が良性 であ ることか ら術

前に診断 され てい る場合には生検,腎 部分切除,腎 動

脈塞栓術1Dな どの保存的治療 が行 なわれ るよ うにな っ

きた.し か し悪性腫瘍の可能性や,出 血に よ りシ3ッ

ク状態になる ことも約9%1)に 認め られる ことか ら腎

摘 され る場 合が多 く,保 存的療法 を行な う場合で も厳

重な経過観察が必要 である.

結 果

馬蹄 腎を伴 う嚢 胞腎に発生 した腎血管筋脂肪腫の1

例を報告 し,結 節性硬化症の合併腎病変 についての統

計学的考察を加えた.

なお,本 論 文の要 旨は第115会 日本泌 尿器科学 会関西地 方

会にて発 表 した.

文 献

1)高 士 宗 久 ・村 瀬 達 良 ・山 本雅 憲 ・傍 島 健 ・三 宅

弘 治 ・三 矢英 輔 ・相 馬 駿 量 ・荻 須 文 一 ・渡 辺 丈 治

・大 竹 浩1腎 血 管 筋 脂 肪 腫 の3例 .泌 尿 紀 要

30:65^-75,1984

2)平 石 攻 治 ・津 曲一 郎 ・田 尾 茂=両 腎 にAngio-

myolipomaを 合 併 したBourneille-Pringle母

班 症 の1例 とそ の統 計 学 的 考 察.臨 泌28:41～

47,1974

3)吉 尾正 治 ・黒子 幸 一 ・工 藤 治 ・山越 昌成 。田中

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4)竹 内 信 一 ・後 藤 修 一 ・田 利 清 信 ・神 田 裕 三 。石 井

勝 ・藤 原 睦 憲1結 節 性 硬 化 症 に 合 併 した 腎 細 胞 癌

の1例.泌 尿 紀 要30:671～678,1984

5)馬 場 谷 勝 広 ・青 山 秀 雄 ・伊 集 院 真 澄 ・林 威 三 郎 ・

岡 島 英 五 郎 ・平 松 侃 ・松 井 宏 昭 ・大 森 高 明:腎

血 管 筋 脂 肪 肉 腫 のi例.泌 尿 紀 要22=241～247,

1976

6)萩 中 隆 博 ・酒 井 晃 ・田 辺 俊 英 ・本 間 一 正:結 節

性 硬 化 症 に み られ た 嚢 胞 腎 の2例.日 泌 尿 会 誌

77'1369,1986

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Campbell'sUrology.WalshP.C.5thEdition

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delphia,1986

9)O'CallaghanTJ,EdwardsJA,TobinMand

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strikingrenalinvolvementinafamily.Arch

InternMed135:1082～1087,1975

10)藤 本 宜 正 ・多 田 安 温 ・市 川 靖 二 ・小 出 卓 生.CT

scanで 診 断 で き な か っ た 腎 血 管 筋 脂 肪 腫 の1例.

泌 尿 紀 要32:227～231,1986

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ceptinmanagement.Urology20:566,1982

(1986年9月19日 受 付)