管外性病変と尿細管間質性腎炎を高度に認めたループス腎炎の1例 ·...

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153 第 58 回神奈川腎炎研究会 Key Word:ループス腎炎,Lupus vasculopathy尿細管間質病変 1 虎の門病院腎センター   2 同病理部 症  例 症 例:46 歳女性 主 訴:頭痛,全身倦怠感,両側下腿浮腫 現病歴:20 代の頃に一度 Raynaud 症状の指摘 あり。1996 7 月ハワイへ旅行に出かけた後よ り顔面皮膚紅潮と水疱形成あり。 8 月には頭痛, 全身倦怠感,両側下腿浮腫が出現。10 月になっ て近医受診時,高血圧,心拡大,貧血,蛋白尿, さらには,指趾関節の腫脹と圧痛を認め,11 月当院入院。 既往歴:特記なし 内服薬:なし 家族歴:母:脳腫瘍 入院時身体所見:身長 156cm,体重 61kg,意 clear,血圧 172/88mmHg,脈拍 92/ 分(整), 体温 36.6℃。頭頸部:眼瞼結膜に貧血あり,蝶 形紅斑なし,円形紅斑なし,舌辺縁部潰瘍あり, 頸静脈怒張あり。胸部:肺音-清音,心音-純音, 雑音なし。腹部:腸音整,平坦・軟。四肢:前 脛骨部に軽度浮腫,指趾関節の疼痛,腫脹。他, 特記なし。 腎生検診断 LM:一部の糸球体には管内性病変を認めた。 糸球体 15 個中 11 個に細胞性半月体を伴い管外 性病変が主体で,wireloop 病変,係蹄壁には spike も認めた。尿細管間質性腎炎も高度であ り,細動脈に血栓形成がみられた。 IF:係蹄壁中心にメサンギウム領域にも IgGIgAIgMC3 C1q IgG1 IgG2 IgG3 IgG4 の沈着を顆粒状に認めた。尿細管にも IgG の沈着を認め,細動脈には C1qIgG3 の沈着が 示唆された。 EM:density の強い高密度沈着物を糸球体係 蹄内皮下,上皮下,パラメサンギウムに高度に 認めたが,尿細管にも沈着物が確認された。 ISN/RPS 分類では IV-GA/C)に相当す るループス腎炎と診断。尿細管間質性腎炎と TMA を合併。 Lupus-related tubulointerstitial Lesions ・糸球体病変が高度なほど尿細管病変も強くな る。 class > > >II, I・尿細管における Immune deposits IF, EM て確認(約 50%IgG(, IgM, IgADAgati et al. Heptinstalls pathology of the kidney 6 th ed.) ・尿細管に IgGC3 の沈着があり,Deposits 認められたことから SLE に伴う尿細管間質 性腎炎の合併があると考えられた。 Haykawa et al . CEN 2005, Mori et al . CEN 2005, Park, et al. Nephron 1986管外性病変と尿細管間質性腎炎を高度に認めたループス腎炎の 1 例 関 根 章 成 1 乳 原 善 文 1 星 野 純 一 1 住 田 圭 一 1 諏訪部 達 也 1 早 見 典 子 1 三 瀬 広 記 1 浜 之 上 哲 1 川 田 真 宏 1 今 福   礼 1 平 松 里佳子 1 山 内 真 之 1 長谷川 詠 子 1 澤   直 樹 1 高 市 憲 明 1 木 脇 圭 一 2 大 橋 健 一 2 藤 井 丈 士 2

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第58回神奈川腎炎研究会

Key Word:ループス腎炎,Lupus vasculopathy,尿細管間質病変

(1 虎の門病院腎センター  (2 同病理部

症  例症 例:46歳女性主 訴:頭痛,全身倦怠感,両側下腿浮腫現病歴:20代の頃に一度Raynaud症状の指摘

あり。1996年7月ハワイへ旅行に出かけた後より顔面皮膚紅潮と水疱形成あり。8月には頭痛,全身倦怠感,両側下腿浮腫が出現。10月になって近医受診時,高血圧,心拡大,貧血,蛋白尿,さらには,指趾関節の腫脹と圧痛を認め,11

月当院入院。既往歴:特記なし内服薬:なし家族歴:母:脳腫瘍入院時身体所見:身長156cm,体重61kg,意

識clear,血圧172/88mmHg,脈拍92/分(整),体温36.6℃。頭頸部:眼瞼結膜に貧血あり,蝶形紅斑なし,円形紅斑なし,舌辺縁部潰瘍あり,頸静脈怒張あり。胸部:肺音-清音,心音-純音,雑音なし。腹部:腸音整,平坦・軟。四肢:前脛骨部に軽度浮腫,指趾関節の疼痛,腫脹。他,特記なし。

腎生検診断LM:一部の糸球体には管内性病変を認めた。

糸球体15個中11個に細胞性半月体を伴い管外性病変が主体で,wireloop病変,係蹄壁にはspikeも認めた。尿細管間質性腎炎も高度であり,細動脈に血栓形成がみられた。

IF:係蹄壁中心にメサンギウム領域にも IgG,IgA,IgM,C3,C1q,IgG1,IgG2,IgG3,IgG4の沈着を顆粒状に認めた。尿細管にも IgG

の沈着を認め,細動脈にはC1q,IgG3の沈着が示唆された。EM:densityの強い高密度沈着物を糸球体係

蹄内皮下,上皮下,パラメサンギウムに高度に認めたが,尿細管にも沈着物が確認された。

▼ISN/RPS分 類 で は IV-G(A/C) に 相 当 す

るループス腎炎と診断。尿細管間質性腎炎とTMAを合併。

Lupus-related tubulointerstitial Lesions・ 糸球体病変が高度なほど尿細管病変も強くな

る。(classⅣ>Ⅲ>Ⅴ>II, I)

・ 尿細管における Immune depositsを IF, EMにて確認(約50%)IgG(, IgM, IgA) (D’Agati et al. Heptinstall’s pathology of the kidney 6th ed.)

・ 尿細管に IgG,C3の沈着があり,Depositsが認められたことからSLEに伴う尿細管間質性腎炎の合併があると考えられた。 (Haykawa et al.CEN 2005, Mori et al. CEN 2005, Park, et al. Nephron 1986)

管外性病変と尿細管間質性腎炎を高度に認めたループス腎炎の1例

関 根 章 成1  乳 原 善 文1  星 野 純 一1

住 田 圭 一1  諏訪部 達 也1  早 見 典 子1

三 瀬 広 記1  浜 之 上 哲1  川 田 真 宏1

今 福   礼1  平 松 里佳子1  山 内 真 之1

長谷川 詠 子1  澤   直 樹1  高 市 憲 明1

木 脇 圭 一2  大 橋 健 一2  藤 井 丈 士2

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腎炎症例研究 29巻 2013年

Lupus-related Vascular Lesions1.Arteriosclerosis and arteriolosclerosis

2.�Uncomplicated vascular immune deposits..狭少化なし,IF,EM陽性

3.�Noninflammatory necrotizing vasculopathy..LM,IF陽性 (so-called lupus vasculopathy)..狭小化あり,血栓なし

4.�Thromboticmicroangiopathy(TMA)..狭少化あ り,血栓あり

(1)Associated with HUS/TTP syndrome

(2)Associated with antiphospholipid antibodies

(3)Associated with scleroderma/MCTD

5.�Necrotizingvasculitis(PANtype)..血管炎所見 あり (D’Agati et al. Heptinstall’s pathology of the kidney 6th ed.)尿細管間質・血管病変の評価は,ループス腎

炎のWHO分類,ISN/RPS分類にも組み込まれておらず,さらに血管病変は,NIHのactivity and chronicity indexにも組み込まれないため見落とされてしまう危険がある。

イタリアにて,20の腎センター施設による285人のループス腎炎患者を対照とした研究で,血管病変があると,renal survival rateは5年74.3%,10年58%であり,血管病変がない場合は89.6%,85.9%という結果が得られている。

Banfi G et al. Am J Kidney Dis, 1991

症例のまとめ① 腎生検後より,パルス療法を含めたステロイ

ド治療(PSL60mg/day)を開始するも効果は充分でなく,血小板減少と溶血性貧血に腎不全への急速な進行が加わりTMAと診断された。血漿交換療法を併用したが腎不全は進行し肺胞出血をも合併したため血液透析導入に至った。その後SLEの活動性は落ち着いたが腎症の改善は得られず,定期透析へと移行した。

② 本症では治療抵抗性で急速進行性腎不全の臨床経過をとったが,その要因として管外性病変を伴う糸球体病変と尿細管間質性腎炎が高度であったことに加えて,TMAを惹起する血管病変なくしては説明できないと考えられる。尿細管間質病変,血管病変について病理学的に検討頂きたい。

結 語ループス腎炎では管内増殖性腎炎所見が主体

であるといわれているが,管外性病変が主体で尿細管間質性病変とTMAの合併を認めた症例を経験した。

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第58回神奈川腎炎研究会

<血算>WBC 5200 /μL

RBC 2.87×106 /μL

Hb 8.4g /dL

Plt 15.5×104 /μL

<生化学>TP 6.1 g/dL

Alb 2.2 g/dL

T-Bil 0.2 mg/dL

UN 29 mg/dL

Cr 1.3 mg/dL

UA 7.3 mg/dL

Na 144 mEq/L

K 3.9 mEq/L

Cl 116 mEq/L

AST 36 IU/L

ALT 16 IU/L

LDH 289 IU/L

ALP 185 IU/L

γGTP 21 IU/L

CK 326 IU/L

ESR 86 mm

CRP 0.2 mg/dL

T-Chol 234 mg/dL

HDL-Ch 43 mg/dL

TG 121 mg/dL

FBS 89 mg/dL

<尿所見>比重 1.016

尿蛋白 14.69 g/day

尿潜血 3+

沈渣RBC 6-10 /HPF

Ccr 28.1 ml/min

(11/20)

<免疫・感染症>IgG 2750 mg/dL

IgA 420 mg/dL

IgM 87.8 mg/dL

IgE 629 IU/mL

CH50 11 IU/L

C3 22.8 mg/dL

C4 8.0 mg/dL

C1q 15.1 μg/ml

LE細胞 +

ROSE反応 40 倍抗核抗体 10240 倍以上抗DNA抗体 100.0 IU/ml

抗ds-DNA抗体 +

抗sm抗体 陰性抗カルジオリピン抗体 陰性抗ENA 12800 倍抗RNP抗体 +

抗SS-A抗体 +

P-,C-ANCA 陰性

表1.検査所見

図1 図2

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図3

図4

図5

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図7

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図10

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図12

図13

図14

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図16

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図18

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第58回神奈川腎炎研究会

討  論 関根 よろしくお願いします。虎の門病院の関根と申します。報告させていただきます。 菅外性病変と尿細管間質性腎炎を高度に認めたループス腎炎の一例です。 症例は当時46歳の女性。頭痛,全身倦怠感,下腿浮腫が主訴です。現病歴ですけれども,20

代のころに一度 raynaud症状の指摘があったそうです。1996年の46歳のときですが,7月,ハワイへ旅行に出かけた後より,顔面皮膚紅潮と,水疱形成を認め,8月に頭痛,全身倦怠感,両足下腿浮腫が出現。10月になって近位受診時,高血圧,心拡大,貧血,蛋白尿,さらには指趾関節の腫脹と圧痛を認め,11月に当院に精査入院となっています。 既往歴,家族歴は以下のとおりです。 入院時の身体所見ですけれども,眼瞼結膜に貧血を認めていまして,蝶形紅斑や円形紅斑はなく,舌辺縁部の潰瘍がありました。頚静脈怒張も認めていました。また前脛骨部に軽度の浮腫,指趾関節の疼痛,腫脹を認めておりました。 こちらが検査所見になります。ヘモグロビン8.4と著明な貧血を認めており,アルブミンは2.2と低値,クレアチニンは1.3と軽度上昇していました。LDH,CKは高値で,ESRも86と亢進しておりました。 尿所見です。尿蛋白は14gです。これは蓄尿で測ったものです。尿潜血は3(+)で,沈渣で見ると6 〜 10個,CCRは,28.1というデータでした。 補体が著明に低下しており,C1qも15.1と高値。抗核抗体が10240倍以上と,著明な高値で,double-stranded DNAが陽性ということです。 criteria 11項目中6項目ということで,SLEの診断になり,腎病変の精査目的に腎生検を11

月14日に施行しています。 こちらは弱拡大ですけれども,高度の間質性病変が見られ,糸球体が15個採取されておりますけれども,明らかな全周性硬化は認められ

ませんでした。間質には炎症細胞浸潤が見られ,尿細管間質性腎炎に相当すると考えられました。 糸球体には管内性病変を認めましたが,wire-loop病変も認め,糸球体の一部には炎症細胞浸潤も見られております。こちらのように,多くの糸球体は細胞性半月体を伴う菅外性病変が主体で,ボーマン氏嚢周辺にも炎症細胞浸潤が見られております。 こちらはPAMになりますけれども,同様の所見です。一部のボーマン氏嚢の破壊も見られております。別の糸球体ですが,糸球体係蹄壁の虚脱が顕著です。糸球体係蹄壁には,高拡で見ると spikeが確認されて,膜性腎症様の変化もあると考えられました。 さらに細動脈に目を移すと,血栓形成が確認されまして,その周辺組織には炎症細胞浸潤があるように見えます。後で臨床経過を述べますが,TMAを伴った血管異変が考えられるでしょうか。 こちらは IFになります。係蹄壁中心に full houseパターンを取っております。IgG1,2,3,4と,subclassのどれも染まっており,G3も著明に染まっております。また,血管のほうにも目を移してみますと,IgGで染まっている様子が分かります。さらに細動脈のほうに目を移すと,C1q,IgG3が染まっているように見えました。 こちらを電顕で見ますと,上皮下,内皮下にdensityの高いような,高density沈着物を認めております。mesangium領域にも認めております。さらに,尿細管病変のほうにも目を移しますと,尿細管にも沈着物があるように認められました。 以上のまとめになります。腎生検診断としては,LMで一部の糸球体には管内性病変を認めました。糸球体15個中,11個には細胞性半月体を伴い,菅外性病変が主体でwire-loop病変,係蹄壁には spikeも認められました。尿細管間質性腎炎も高度であり,細動脈に血栓形成が見

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腎炎症例研究 29巻 2013年

られました。 IFでは,係蹄壁を中心にmesangium領域にも full houseの沈着を顆粒状に認めました。尿細管にも IgGの沈着を認め,細動脈にはC1q,G3の沈着が示唆されました。電子顕微鏡では,densityの強い高密度沈着物を糸球体,係蹄内皮下,上皮下,paramesangiumに高度に認めましたが,尿細管にも沈着物が確認されたということです。 ISN/RPS分類ではⅣ-G型(A/C)に相当するループス腎炎と診断し,尿細管間質腎炎とTMAを合併したものと考慮されました。 こちらが,腎生検後の経過になります。著明で高度な腎病変が認められたことから,パルス療法を含むステロイド治療で,プレドニン60

ミリから開始されました。経過中,血小板の急激な減少で,一時7000まで落ちていますけれども,さらに貧血の進行が認められました。12

月に入ったところで,凝固は正常で,クームステストも陰性ですが,末梢血で破砕赤血球が見られまして,同時に腎機能も急激に進行し,発熱も見られたことから,TTPと考え,血症交換療法も併用しましたが,効果が乏しく腎不全へと進行し,さらには肺胞出血も合併してしまいました。それで透析導入となっております。 こちらが入院後の全経過になります。一時,肺胞出血も起こしたことから,人工呼吸管理を行い,その後,透析導入になりましたけれども,徐々にSLEの活動性は落ち着き,状態も改善していったという経過になります。 改めて,ADAMTS13の活性を調べたところ,こういうような結果で,最初41%で,途中の経過では37%とあまり低下はなかったですけれども,1年後の1997年7月,この辺りは9.8%

と低下しておりました。 ループス腎炎に関連した尿細管病変というのは,報告が一応ありまして,糸球体病変が高度なほど尿細管病変も強くなるといわれております。尿細管におけるdepositは IF,EMにて約5

割は確認されると書いてありました。さらに,

尿細管に IgG,C3の沈着があり,depositが認められたことから,SLEに伴う尿細管間質性腎炎の合併があると考えられたという症例報告も多数見られておりました。 さらに,ループスに関連したvascular region

としましては,成書にこの五つの分類がされております。当症例に関しては,Ⅳ番とⅤ番というふうに考えて,よろしいでしょうか。 尿細管間質血管病変の評価は,ループス腎炎のWHO分類,ISN/RPS分類にも組み込まれておらず,さらに血管病変に関してはNIHのActivity and Chronicity Indexnにも組み込まれないため,見落とされてしまう危険があると考えられます。一つの報告ですけども,1991年のイタリアにて,20の腎センター施設による285

人のループス腎炎患者を対象とした研究では,血管病変があると,renal survival rateが5年で74.3%,10年で58%とあり,ない場合が89.6%

と85.9%と比べて低下しているという結果が得られております。 症例のまとめになりますけれども,腎生検後より,パルス療法を含めたステロイド治療,プレドニン60mg/dayを開始するも効果は十分ではなく,血小板減少と溶血性貧血に腎不全への急速な進行が加わり,TMAと診断された症例です。血症交換療法を併用したが,腎不全は進行し,肺胞出血をも合併したため血液透析導入に至りました。その後,SLEの活動性は落ち着いてきましたが,腎症の改善は得られず,定期透析へと移行しました。 本病例では,治療抵抗性で急速進行性腎不全の臨床経過を取りましたが,その要因として菅外性病変を伴う糸球体病変と尿細管間質性腎炎が高度であったことに加えて,TMAを惹起するような血管病変をなくしては説明できないと考えられます。尿細管間質病変,血管病変について,病理学的に検討いただきたいと思っております。 結語ですが,ループス腎炎では管内増殖性腎炎所見が主体であるといわれておりますが,菅

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第58回神奈川腎炎研究会

外性病変が主体で,尿細管間質性病変とTMA

の合併を認めた症例を経験いたしました。以上になります。ありがとうございました。座長 はい。ありがとうございました。では,フロアのほうから,臨床経過に関しまして,ご質問がある方はいらっしゃいますでしょうか。鎌田 北里の鎌田です。 このTMAはcatastrophic APSなのか,それともHUS/TTPのような病態なのか。どのようにお考えになっておられますでしょうか。関根 ありがとうございます。乳原 まずカルジオリピン抗体,Lupus anti-

coagulantは陰性であることから抗リン脂質抗体症候群(APS)の合併はないと考えています。ループス腎炎では半月体形成を伴うⅣ型であっても腎機能が急速に進行することは稀であり,本症のように急激に腎機能が悪化する場合には血管病変を伴うと考えた方がよいと思います。その中に血栓性血小板減少症(TPP),Thrombotic microangipathy(TMA),lupus vas-

culopathyといった概念があります。先日名古屋で行われた腎生検の研究会でループスによる尿細管病変や血管病変という病態が提示され論議されました,その中でループスに特異な病態はやはりその中心に免疫沈着物の確認が必要ではないかということになり,そんな病例があるのかと考えた時,古い病例ですがもう一度見直し今回提示しました。座長 ほか,いかがでしょうか。金綱 1点だけお聞きしたいんですけれども,慈恵医大柏病院の金綱と申します。 この方の場合,尿細管基底膜のほうに沈着があったようですけれども,かなり前に一度1件だ け, 実 はperitubular capillariesにwire-loop様の沈着を認めた症例を経験したことがございます。この方の場合は,peritubular capillariesとか,そういった間質のほうの血管はどうだったかということだけ,1点お伺いしたいのですが。関根 ありがとうございます。 尿細管間質のほうには,明らかなものは認め

ておりませんでした。金綱 どうもありがとうございます。座長 ほかはよろしいでしょうか。先生,どうぞ。乳原 尿細管間質性病変,peritubular capillaries

も含めて,そういうところにちょうどdeposit

が電顕で確認できれば,とても説明がしやすいので,そういうのがないかということで,もう1回間質のほうの電顕を撮り直して調べてもらったんです。間質が壊れていて,なかなか難しいのです。そういうことで,かろうじて尿細管のほうには基底膜に沈着物を確認したということです。もっと探せば出てくるかもしれません。座長 山口先生,どうぞ。山口 血小板減少と溶血性貧血の原因は,例えば血小板に対する抗体,あるいは溶血の原因は何ですか。関根 溶血の原因ですね。山口 ちょっと古いデータなので,例えば,リン脂質が先ほどの乳原先生のお話だとネガティブになっているんですけど,今はずいぶん幅広く,いろんなものを調べられますよね。関根 そうですね。山口 そうすると,それも否定できるのかどうかという問題と,TMAの診断根拠は何なのか。関根 はい。座長 じゃあ乳原先生,よろしくお願いします。乳原 TMAということですが,まず血小板減少と溶血性貧血です。それに急激な腎不全が進行した場合は,3徴がそろってHUSと。さらにそれに発熱と脳症の神経障害を合併した場合は,5徴が加わってTTPということですが,最近はさらにそれをまとめてTMAと。しかし,ADAMTS13活性が落ちている場合,またはinhibitorが出ている場合には,TMAと呼ぼうというような先生もいらっしゃいます。さらに細動脈に血栓形成が出てくれば,ちょうどぴったり合うと思っています。 SLEの場合には,ADAMTS13が下がって,

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腎炎症例研究 29巻 2013年

inhibitorが出てくると,血症交換が効くとか,治療がいいんだということですが,この人の場合は効かなかったということです。座長 ほか,いかがでしょうか。先生,どうぞ。鎌田 これは少し古い症例ですが,inhibitorは当時測れたのでしょうか。関根 ADAMTS13を今回測らせていただいた採血データは,腎生検をする直前と,ちょうど腎不全が進行した1997年,1年後のデータと,3ポイントだけ血清が残っております。鎌田 そうすると,von Willebrand factor cleav-

ing enzymeに対する抗体,いわゆる inhibitorはあったのでしょうか。関根 なかったです。鎌田 ない?関根 はい。鎌田 SLEだと,そのような機序が多いかなと思うのですが。関根 そうですね。鎌田 で も,von Willebrand factor multimerはたくさんあったわけですよね。関根 はい。鎌田 そうですか。分かりました。座長 よろしいでしょうか。それでは病理の先生方からコメントお願いします。関根 よろしくお願いします。山口 糸球体病変は,この症例は,DPLNで臨床的にはTMAなんですが,その細動脈の病変をどういうふうに考えるかです。私はちょっとAPS的に取ったほうがいいように思ってはいます。

【スライド01】基本的に糸球体の病変は非常にcrescenticなんです。先ほどの例もひどかったんですけれども,この症例もほとんどの糸球体にcellular,あるいはfibro-cellularぐらいのcres-

centicな病変があります。間質炎は非常にまばらなんです。場所によってはそんなに目立たないですし,crescentの周囲にプラズマリンパ球が出てきています。

【スライド02】こういうように半周ぐらいの

cellular crescentで,massiveな細胞浸潤が目立つやつもあります。どちらかというと,podocyte

の変性像が強いんですが,小さなcrescentもあります。確かに糸球体の周りにある場合は,このcrescentのあるところで,周りに間質炎が起きてくるということがありますので,こういうところの間質炎はいろんなものの結果として出てくる。蛋白尿もありますでしょうし,もしかしたらTBMに合ったdepositが優位になっている場合もあり得るとは思います。

【スライド03】こういうふうにPASで見ますと,非常にcellularで全周性に近いようなんです。係蹄内には,少し細胞浸潤があるんですが,逆にちょっとcollapse気味になっています。こういうcellular crescentです。間質炎はあまり関係なしに,あちこちに。一部 tubular injuryがあります。

【スライド04】 こういうようにフルムーンに近いようなcrescentです。ちょっと壊死性の変化はないですが,こちらは間質炎がちょっと強いところです。少し尿細管壁内に tubulous的な病変も出ています。一部上皮の foamに短命化が見られます。

【スライド05】それで,先ほど臨床の方が出されたのは,あれは尿細管の円柱が外にこぼれているのを見ているんで,実際の細動脈にあったのは1カ所,2カ所ぐらいしかなかったと思う。こういうものです。これはPASなんです。PAS

陽性に,ほとんど内腔が充填されています。一つは内皮細胞がどこにあるか分かりませんから,hyalinosisのひどいものというものも一応染み込み病変として考えなくてはいけない。それから,PAS陽性ですから,immunoglobulinとか,補体系が沈着する可能性があります。ただ,fibrin血栓ではないです。 ですから,これを見たときには,APSか,あるいは lupus bath colopathyのどちらかを考えざるを得ないということになると思います。cres-

centで,collapseがあって,この影響があるのかもしれない。mesangiumの増殖が見られてい

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第58回神奈川腎炎研究会

ます。【スライド06】massonで見ると,ちょっと赤いので,fibrinも混ざっているのかもしれません。これはhiariも赤く出ますので,ここにendothel

らしいものがあるんですが,やはり通常のfi-

brin血栓とはだいぶ違う。hyalineを巻き込んだような,細動脈の閉塞性の病変であると言えると思います。少しこういうところは,浸潤細胞が多いです。

【スライド07】こういうcellular crescentとpodo-

cyteの変性像が強くて,全体にhypercellularで,外来性の細胞。それからwire-loop様の壁内への沈着ということだろうと思います。

【スライド08】これがhyaline thrombiを思わせる所見です。基底膜がやや厚ぼったく,べたっとなっていますので,wire-loop+hyaline thrombi

ということになると思います。ここには,あまりcrescentはないです。

【スライド09】先ほどのところをちょっと強調したところがこういう感じです。hyalineでpodocyteな変性像が強くて,ちょっとcrescent

ライクになっている。動脈は内膜の繊維性肥厚が強いです。

【スライド10】フルムーンに近い,一部基底膜の断裂があって,cellular crescentになっています。

【スライド11】それで,上皮下の沈着物が大小あって,ずいぶん目立っております。hyaline thrombiらしいところもあります。

【スライド12】Gがmesangial peripheralで,TBM

にも,IgAも同じように,少し linealな感じですけど,granularなんでしょう。mesangiumにも出ています。

【スライド13】IgMはちょっと弱いです。C3はdominantです。

【スライド14】C1qも強いです。それからκ・λは両方出ているように思いました。

【スライド15】GⅡがちょっと弱いですが,GⅣも強いです。

【スライド16】電顕では非常にhypercellularな,こちらがちょっとcrescentの領域です。cellular cres-

centの領域で,この辺に基底膜がありますけど,この辺はちょっとはっきりしなくなっております。非常にhypercellularで,いろんな浸潤細胞がやってきています。

【スライド17】depositの目立つのはこういうところで,非常にフレッシュなステージ1から2ぐらいの大小のエピデポ(epithelial deposit)が あ っ て,subendoに もmassiveに 見 ら れ て,paramesangiumかもしれませんが,subendoを主体にべたっとあります。virus like particleがちょっと確認できなかったんですけれども,これかもしれないです。この辺にちょっとあったように思います。

【スライド18】それから,先ほどTBMにあったということで,これも遠位系のところで,これがdepositですかね。こういうところにじょぼじょぼっとあります。われわれも何例か観察すると,3割から4割にはTBM,あるいは間質,あるいはperitubular capillariesといったところにあるように思います。そのほかは,だいぶ間質炎が強いんで,peritubular capillariesがこの辺にあるのかもしれないですが,ちょっとよく分かりません。

【スライド19】そういうようなことで,診断的にはあまり名前はないのですが,Ⅳ-Gに入れなくてはいけないんですが,crescenticな lupus nephritisで,あの細動脈の病変はAPS,あるいは lupus vasculopathyと言ったほうがいいように思いますので,TMAというのも広い意味で入れざるを得ないのかもしれないんですが,ちょっと下が出ていないです。そういうようなことです。

【スライド20】(★02:06:46/一語不明,ダガティ)たちが出しているのは,crescentic necro-

tizingな lupus nephritis,大体ANCAが陽性のものが多いということです。この症例はネガティブだったです。

【 ス ラ イ ド21】 そ れ か ら,classの Ⅳ のGで,crescentのあるなしで予後が違う。当然,cres-

centicなやつのほうが予後が悪いということに

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なると思います。【スライド22】vasculopathyの見方で,やはり

PAS陽 性 な の で,( ★02:07:22/一 語 不 明,sso cold )vasculopathyか,APSか。そうすると,どうもTTPというのは,あまりはっきりした証拠がないように思います。以上です。重松 お願いします。

【スライド01】ご覧のように弱拡大でみると,大きな血管にはそんな強い血栓性の変化はないし,間質病変,それから糸球体がどこにあるのか,よく分からないぐらい,恐らく糸球体が腫大しているだろうと思われるわけですが,実際,これは12個の菅外性病変を示すものが大半を占めているということなんです。

【スライド02】ご覧のように,extracapillaryの変化が強い。細胞増生が見られます。それから,proximal tubuleは,microvilliも保持されているようですけれども,distalのほうが,やはり障害を受けているという印象があります。間質にはかなり強い浮腫があります。

【スライド03】最初,lupus vasculopathyとしていいのかと思ったんですけど,PASが非常にきれいに染まり,周りは血管を思わせる変化なんですけど,ちょっと私はvasculopathyとするにはhesitateしました。ここには虚脱の変化があって,管外増生が見られます。

【スライド04】ここではwire-loop lesionとhya-

line thrombiが見られます。それから,ここではボーマン嚢が壊れて,extraに進展しさらに間質に病変が進展しています。ここら辺もproximal tubuleはかなりしっかりしています。

【スライド05】ここでは ruptureがあって,確かに管内性の変化から外に広がっているということを示す一つの場所です。証拠はあるということです。

【スライド06】ここでも,これは恐らく糸球体に始まった菅外性病変が,後でまたボーマンのcapsuleを破って,中から外へという炎症が広がっていくということです。ここに血管があるんです。ここはきれいです。depositionもあま

りないようです。【スライド07】それから,これはdistal tubuleです。尿円柱が詰まっています。それから,大小不同の尿細管変化があって,萎縮してしまっているのもある。

【スライド08】先ほど,演者がこれは血管で血栓ができているとおっしゃったんですが,これは,やはり山口先生のおっしゃるように,Tamm-Horsfall proteinの管外流出,(これをex-

tratubular effluxといいますけども,)尿細管の基底膜が破けたためにTamm-Horsfall proteinが間質に出ていくことです。だから,これはdis-

tal tubuleの障害が強いという一つの指標にもなると思います。

【スライド09】これは,distal tubuleの障害が強くて,基底膜の一部が破けているというところを出してあります。

【スライド10】これも,やはりdistal tubuleで壊れて破けている。動脈がありますけれども,動脈にはあまり管内性の変化はないと。

【スライド11】今のところの拡大です。これは動脈です。これはdistal tubuleだと思います。necroticになっています。

【スライド12】それで immunoglobulinの染色はIgG1,G3,ほぼ同等の染色を示しています。

【スライド13】IgAも IgMも染まると,full house

状態です。【スライド14】C1qは非常にきれいな染色を示しています。C3も同様です。これはC1qでは,恐らく血管の壁にも付いているんだと思います。

【スライド15】それから,C9まで染まっているわけです。

【スライド16】やはりきょうのテーマは間質炎なので,間質の沈着を蛍光抗体法で見ると,重い症例だと,本当にもうgranularパターンで糸球体と同じように強く染まりますけれども,ここでは陽性の部分は確かにあります。けれどもそれほど強くない。こちらも血管壁ではないと思いますけれども,沈着は尿細管だろうと思い

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ます。ループス間質炎でよくあるのは,この間質の中にやはりdepositionが散らばってあったり,それから細動脈の平滑筋層です。中膜あたりに見えることが多いということです。

【スライド17】これはG3。これは係蹄壁ですね。ちょっと間質がよく分かりません。

【スライド18】電顕では内皮下deposit,上皮下deposit,それからparamesangiumにdepositがあります。

【スライド19】これは係蹄内のいたるところfull houseのdepositが あ っ て,mesangium領 域でしょうか,depositがあるところを出したものです。これはかなり強い上皮細胞の変化を示してあります。

【スライド20】それから,これはやはり係蹄なんですけれども,係蹄の上皮が萎縮性になっておるというところです。

【スライド21】ボーマン嚢が出てきました。ここでは,depositが強くて ruptureのところが見えるかなと思ったんですが,なかなかそこまでは行きません。非常に薄くなって破れる寸前みたいなところは見ることができました。

【スライド22】これが,monocyteの浸潤です。結構強いということです。ここにボーマン嚢のcapsuleがあります。

【スライド23】これは,半月体のところを捉えた写真だと思うんです。これは萎縮してしまったpodocyte由来の菅外性の細胞です。これもpodocyteだろうと思います。ここに明るいgranuleがいっぱいある細胞。1個,2個,3個ありますけれども,これはmonocyte由来の管内から尿腔へ流出した細胞で,急性の菅外性病変をpodocyteとともにつくっている半月体形成性の細胞だということになります。

【スライド24】ここで,ボーマン嚢から外に出ていきます。そうすると,このボーマン嚢のcapsuleにもかなり強い immune depositionがあります。それに引っ張られるようにmonocyte

がいっぱい集まってきています。積極的にde-

positと接触を示すというところまでは行って

いませんけれども,activateされつつあるということです。

【スライド25】そして,尿細管の電顕所見ですが。proximal tubleの基底膜にも,やはり部分的にある。これは,形質細胞が入ってきて,何かの細胞とハグしているような状態です。どういう意味があるのか,よく分かりません。monocyte系統の細胞もあるし,myofibroblastと呼ばれる収縮蛋白を一部胞体内に持った筋線維芽細胞も出ています。

【スライド26】deposit自体に対する細胞の反応があるかなと思って見たんですけれども,あまり著明なものはありませんでした。

【スライド27】これは弱拡大ですが,部分的にdepositionがあって,ここにmonocyte,リンパ球でしょうか。そういう細胞が出ている。こっちも恐らく活性化したmacrophagesだと思います。

【スライド28】この細胞は,あまりgranuleがないから,活性化したmyofibroblastといわれる間質の線維化につながるか,つながらないかを決定づける細胞だといわれています。そういう細胞が腫大して,増生しているということです。

まとめ1.�糸球体には多彩な病変が展開し、特に管外

性病変が目立つ。免疫組織学的にフルハウス免疫沈着物、電顕的にメサンギウム、上皮下内皮下沈着物が見られびまん性ループス腎炎といえる組織像である。

2.�間質には炎症細胞集積が目立ち、免疫組織学的に基底膜に断続的に免疫沈着が見られる。しかし間質には沈着がはっきりしない。ループス間質炎といってよい組織像である。

3.�ループス血管炎(症)は認めない。 ということで,糸球体の病変は多彩な病変がありますけれども,特に菅外性病変が目立つ。免疫組織学的に full houseであって,電顕的にmesangium上皮下,内皮下沈着があるので,びまん性のループス腎炎としてよろしいだろう

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と。間質には炎症細胞集積が目立って,免疫組織学的に基底膜に断続的に免疫沈着がある。しかし,間質には沈着が認められない。けれども,やはりこれはループス間質炎と言ってよい組織像だと思いました。一応,私はループス血管症,あるいは血管炎というのは,ちょっと認めたくないということです,糸球体の中にある血栓様の変化というのは,やはり先生のおっしゃるようなAPSが,やはり関与している可能性があると思います。座長 ありがとうございました。では,ご質問をお願いします。鎌田 山口先生が血管の病変はAPSか,lupus vasculopathyのほうが疑わしいとおっしゃいましたが,先生が指摘された病変を聞いていて,cryoglobulin血症性血管炎の鑑別が気になりました。どのように鑑別したらいいでしょうか。山口 cryoのときは,少しでも好中球がまとわりついていただかないと困るんです。細血管炎のとき,cryoは。そうすると必ず壁を少し壊して,少し好中球が関与している。あそこを見ますと,なんにも細胞の関与がないんです,実を言えば。ですから,どっちかなというふうに考えています。鎌田 分かりました。ありがとうございます。座長 ほか,いかがでしょうか。先生,どうぞ。乳原 虎の門病院の乳原です。 ちょっと山口先生にお聞きしたいんですけども,先ほど lupus vasculopathyと,SLEの血管病変に伴うTMAの違いというものを,教えていただければと思います。以前,私は別の症例で,ちょっと東京腎生検カンファレンスに出したんですけれども,そのときにその二つの違いは何かということで,血管壁にやはり im-

munoglobulinの沈着があると。さらに血管の中の血栓物にも immunoglobulinの沈着がある場合はステロイドがよく効く。しかし,血管の中の血栓物には immunoglobulinの沈着がない場合には,明らかにSLEとしての治療をしても効かないということを報告しました。

 前回の東京腎生検カンファレンスにAPSの腎症ということでだしました,明らかにカルジオリピン抗体が陽性の症例です。そのときには,糸球体病変は大したことがないのに,やはり血管病変が主体に出てきたということで,warfarinに反応するということがありましたので,SLEを伴う場合にはその三つの場合があるのではと報告しました。山口 もう乳原先生が言われたとおりじゃないでしょうか。だから,先生たちがC1q,IgG3

でしたか。壁内に少し陽性になっていますよね。普通のhyalinosisのときには,大体 IgMが主体で,C1qのcomplexのかたちで,hyalinosis

というのは起こります。そうすると,IgGとか,IgAが動脈血管壁にある場合は,やはり lupus vasculopathy,あるいはAPSを考える必要があるように思います。 thromboticな場合は,主体はfibrinの血栓。大体はすぐ消失してしまうものが多いです。ああやって,いつまでも壁内に滞っていることがあまりなくて,ですから,cortical scarringみたいなかたちで,残ってしまって,古い変化ですとそうなっていますし,意外と早く turn overしているように思います。ああやって,しつこくPASにべたっと壁内に残るというかたちは非常に少ないように思います。もちろんacuteのいい時期に生検されれば,いわゆる血栓性の病変で,主に immunoglobulinが関与しないものがほとんどだと思います。そのへんで区別するしかないように思います。乳原 重松先生は否定的だったんで,ちょっと重松先生の意見も。重松 やっぱり血管内のいわゆるAPSの成分による凝固の過程であって,ループス血管炎でないと考えたわけですけれども。そういう病態は糸球体の中にも起こり得るわけです。やはりlupus vasculitis,vasculopathyはIFの染まり方とか,細胞の反応とか,そういうもので検索する。それでHUS,ループス関連血管病変,APSはある程度鑑別されるんだろうと思います。でも,

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その間に重なる部分があるので,クリアカットになかなかいかない場合もあると思います。座長 ありがとうございました。 貴重な症例報告と活発なディスカッションをどうもありがとうございました。これで演題発表Ⅰを終わりたいと思います。

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