全身性強皮症にanca関連腎炎を合併した一例 · 2016-09-13 ·...

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はじめに 全身性強皮症に合併する腎障害として,近 年,MPO-ANCA が陽性で,急速進行性腎炎の 経過をたどる正常血圧腎クリーゼが報告されて いる。 今回,我々は全身性強皮症に合併した MPO- ANCA 陽性の慢性腎炎症例を経験したので提示 する。 症  例 症 例:56 歳,女性 主 訴:血尿,蛋白尿,全身浮腫 既往歴:特記事項なし 現病歴:2001 年強皮症と診断され,他院で 加療されていた。2003 年に肉眼的血尿が出現。 2004 4 月当院初診。蛋白尿,血尿を認め, MPO-ANCA 614EU と陽性であったが,血圧は 正常で,明らかな腎機能低下はなかった。腎生 検を勧めたが同意が得られず,他院でステロイ ド治療を受けていた。しかし,6 月に全身浮腫 が出現,増悪したため 7 22 日当院入院となっ た。 入院時現症:身長 162cm,体重 62.2kg,体温 36.7 ℃,血圧 127 / 70mmHg,脈拍 64 / 分,眼 瞼結膜に貧血なし,心雑音なし,両下肺野に fine crackle 聴取,腹部異常所見なし,口周囲に 皮膚硬化,両側前腕~手指に皮膚硬化,下肢に 浮腫著明。 入院時検査所見(表 1):WBC 13,300 / μ l と増加しており,貧血はなく,血小板も異常な かった。TP 5.5g / dl, Alb 3.2g / dl, Cr 1.10mg/dl, 尿素窒素 29mg / dl, CRP 0.1mg / dl, T-chol 283mg / dl,血清レニン活性の上昇は認めていない。 免疫学的検査では MPO-ANCA 268EU と高値で あったが,ANAScl-70,抗セントロメア抗体,抗 Sm 抗体,抗 DNA 抗体はすべて陰性であった。 KL-6 SP-D が高値であった。 尿所見は, 1 日尿蛋白量が 4.3g / day, 潜血(3+で沈渣赤血球が 30~49 個。蛋白選択性は 0.14 で, クレアチニンクレアランスは 61.8ml / mim あった。 画像所見(図 1):胸部レントゲン写真と CT では,両下肺野を中心にスリガラス状の間質性 影を広範に認めた。 腎病理所見(図2 ~ 7):入院 1 週間後に腎 生検を行なった。 採取された 11 個の糸球体のうち global sclero- sis 4 個, segmental sclerosis 1 個,半月体形成 4 個, 癒着 5 個を認めた。 間質には軽度の尿細管萎縮と線維化,リンパ 球浸潤を認めた。血管は特に異常なかった。 糸球体ではメサンギウム細胞が segmental 軽度増殖しており,半月体形成・癒着も認めた。 蛍 光 抗 体 法 で は,IgG IgM mesangium segmental に軽度染色されている。IgAC3C1qFib はいずれも陰性であった。 電顕所見は,上皮細胞の足突起の癒合,微絨 全身性強皮症に ANCA 関連腎炎を合併した一例 横 山 倫 子 1 菊 地 祐 子 1 山 崎 浩 子 1 島 田 典 明 1 松 田 充 浩 1 岩 田 康 義 1 福 島 正 樹 1 津嘉山 朝 達 2 豆 原   彰 3 蔭 山 豪 一 3 原   茂 子 4 1 倉敷中央病院腎臓内科  2 同病理検査科  3 同リウマチ内科 4 虎の門病院健康管理センター Key WordANCA 関連腎炎,全身性強皮症,正常血圧 - 19 - 第 43 回神奈川腎炎研究会

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はじめに全身性強皮症に合併する腎障害として,近年,MPO-ANCAが陽性で,急速進行性腎炎の経過をたどる正常血圧腎クリーゼが報告されている。今回,我々は全身性強皮症に合併したMPO-

ANCA陽性の慢性腎炎症例を経験したので提示する。

症  例症 例:56歳,女性主 訴:血尿,蛋白尿,全身浮腫既往歴:特記事項なし現病歴:2001年強皮症と診断され,他院で加療されていた。2003年に肉眼的血尿が出現。2004年4月当院初診。蛋白尿,血尿を認め,MPO-ANCA 614EUと陽性であったが,血圧は正常で,明らかな腎機能低下はなかった。腎生検を勧めたが同意が得られず,他院でステロイド治療を受けていた。しかし,6月に全身浮腫が出現,増悪したため7月22日当院入院となった。入院時現症:身長 162cm,体重 62.2kg,体温

36.7℃,血圧 127 / 70mmHg,脈拍 64 / 分,眼瞼結膜に貧血なし,心雑音なし,両下肺野にfine crackle聴取,腹部異常所見なし,口周囲に皮膚硬化,両側前腕~手指に皮膚硬化,下肢に浮腫著明。

入院時検査所見(表1):WBCは13,300 / μ l

と増加しており,貧血はなく,血小板も異常なかった。TP 5.5g / dl, Alb 3.2g / dl, Cr 1.10mg/dl,

尿素窒素 29mg / dl, CRP 0.1mg / dl, T-chol 283mg

/ dl,血清レニン活性の上昇は認めていない。免疫学的検査ではMPO-ANCA 268EUと高値であったが,ANA,Scl-70,抗セントロメア抗体,抗Sm抗体,抗DNA抗体はすべて陰性であった。KL-6とSP-Dが高値であった。尿所見は,1日尿蛋白量が4.3g / day, 潜血(3+)で沈渣赤血球が30~49個。蛋白選択性は0.14で,クレアチニンクレアランスは61.8ml / mimであった。画像所見(図1):胸部レントゲン写真とCT

では,両下肺野を中心にスリガラス状の間質性影を広範に認めた。腎病理所見(図2~ 7):入院1週間後に腎生検を行なった。採取された11個の糸球体のうちglobal sclero-

sis 4個, segmental sclerosis 1個,半月体形成4個,癒着5個を認めた。間質には軽度の尿細管萎縮と線維化,リンパ球浸潤を認めた。血管は特に異常なかった。糸球体ではメサンギウム細胞が segmentalに軽度増殖しており,半月体形成・癒着も認めた。蛍光抗体法では,IgG と IgMがmesangium

に segmentalに軽度染色されている。IgA,C3,C1q,Fibはいずれも陰性であった。電顕所見は,上皮細胞の足突起の癒合,微絨

全身性強皮症にANCA関連腎炎を合併した一例

横 山 倫 子1  菊 地 祐 子1  山 崎 浩 子1

島 田 典 明1  松 田 充 浩1  岩 田 康 義1

福 島 正 樹1  津嘉山 朝 達2  豆 原   彰3

蔭 山 豪 一3  原   茂 子4         

1倉敷中央病院腎臓内科 2同病理検査科 3同リウマチ内科4虎の門病院健康管理センター

Key Word:ANCA関連腎炎,全身性強皮症,正常血圧

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第43回神奈川腎炎研究会

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毛,内皮細胞の腫大,メサンギウム基質の増加,一部にmesangial interposition を認めた。また,メサンギウムの一部にdeposit を認めた。臨床経過(図8):入院前にはPSLが25mgま

で増量されていた。7月28日の腎生検以降は当院のリウマチ内科が加療した。8月2日からソルメドロール500mg / 日を3日間点滴後,プレドニゾロン30mg / 日内服を開始した。CRPが上昇してきたため,9月2日からソルメドロール1gによるパルス療法をおこない,さらにエンドキサンパルス療法を開始した。11月中旬

にCRPおよびMPO-ANCA が上昇してきたため,エンドキサンパルスの効果不十分と判断し,エンドキサンパルスを内服に変更した。12月初旬に帯状疱疹を発症したため,エンドキサン内服も中止し,ゾビラックスを開始した。帯状疱疹は軽快したが,MPO-ANCAが469EUと上昇してきたため,エンドキサン 25mg / dayで再

開している。初診から入院まで,外来 follw中は沈渣赤血球が1視野100個以上出ており,赤血球円柱も時折みられていたが,ステロイドパルス治療開始後は沈渣赤血球が10~ 20個程度まで減少した。帯状疱疹の発症とほぼ同時期にMPO-ANCAおよびCRPの上昇を認めており,このとき尿潜血も再び1視野100個以上まで増加した。血清Cr値は初診時1.08mg / dlであったが,9ヵ月後の今年1月の時点で1.3mg / dlと緩徐に上昇してきている。経過中,血圧の上昇は認めなかった。

CBCRBC 4.22×106 /μ l

Ht 39.0 %,

Hb 13.3 g/dl

PLT 20.7×104 /μ l

WBC 13.3×103 /μ l

SEG 93.0%,BAND 1.0%,EOS 0%,BASO 0%,LYMPH 5.0%,MONO 1.0%

生化学TP 5.5 g/dl

Alb 3.2 g/dl

Cre 1.10 mg/dl

s-UN 29 mg/dl

CRP 0.1 mg/dl

UA 5.2 mg/dl

TCH 283 mg/dl

ChE 237 IU/l

Na 143 mEq/l

K 4.2 mEq/l

Cl 106 mEq/l

Ca 8.8 mg/dl

T-BIL 0.4 mg/dl

GOT 21 IU/l

GPT 23 IU/l

γ -GTP 32 IU/l

LDH 276 IU/l

ALP 279 IU/l

レニン活性 1.9 ng/ml/h

免疫学的検査MPO-ANCA 268 EU

IgG 732 mg/dl

IgA 279.1 mg/dl

IgM 101.7 mg/dl

C3 100.3 U/ml

C4 18.8 U/ml

CH50 42.2 U/ml

ANA (-)Scl-70 (-)抗セントロメア抗体

(-)抗Sm抗体 (-)抗DNA抗体 (-)KL-6 1180 U/ml

SP-D 227.0 ng/ml

尿所見pH 6.0

Pro(3+) 4.3 g/day

Glu (-) Uro (±)WBC (±) OB (3+)

沈渣RBC 30-49 /HPF

WBC 5-9 /HPF

OFB 1 /HPF

蛋白選択性 0.14

U-β2MG 991 μg/l

NAG 9.1 IU/g・cr

Ccr 61.8 ml/min

尿EPAlb 83.5 %

α1-G 2.1 %

α2-G 2.8 %

β -G 5.8 %

γ -G 5.8 %

表1.入院時検査所見

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図1

図2

図3

図4

図5

図6

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図7

図8

まとめ本症例は全身性強皮症に合併したANCA関

連メサンギウム増殖性腎炎と考えられ,高度の蛋白尿と浮腫で発症し,腎機能低下は緩徐であった。今回我々は全身性強皮症にMPO-ANCA陽性の腎炎を合併した症例を経験した。強皮症にANCA陽性の腎炎が合併した症例は現在までに十数例報告されているが,高血圧を伴なわず,急速な腎機能低下で発症し,進行性に悪化するのが特徴である。腎組織は半月体形成性腎炎の像を呈する。しかし,本症例は高度の蛋白尿と浮腫で発症し,腎機能低下は緩徐であった。また,腎生検所見でもANCA関連腎炎としては半月体形成や硬化像が比較的軽度であり,半月体形成を伴ったメサンギウム増殖性腎炎の像を呈していた。慢性腎炎の経過をたどった本症例は,CRPおよびMPO-ANCAの動きとほぼ一致して尿所見が悪化しており,ANCA関連腎炎と考える。治療に関して,CRP,MPO-ANCA,尿所見など,何を目安にステロイドや免疫抑制剤の調節をはかっていけば良いか,また,本症例が今後,急速進行性糸球体腎炎に移行する可能性があるのかなど,御意見をいただきたく,症例を提示した。

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討  論 横山 よろしくお願いします。全身性強皮症に合併する腎障害として高血圧性腎クリーゼが知られていますが,近年MPO-ANCAが陽性で急速進行性腎炎の経過をたどる正常血圧腎クリーゼが報告されています。今回,我々は全身性強皮症に合併したMPO-ANCA陽性の慢性腎炎症例を経験いたしましたので,ご提示いたします。 症例は56歳の女性で,主訴は血尿,蛋白尿,全身浮腫です。既往歴に強皮症以外の特記事項はありません。現病歴ですが,2001年に強皮症と診断され,他院で加療されていました。2003年に肉眼的血尿が出現し,2004年4月に当院,初診となりました。初診時,蛋白尿2.4g,血尿(3+)を認め,MPO-ANCA 614と陽性でありましたが,血圧は正常で明らかな腎機能低下は認めませんでした。腎生検をお勧めしましたが同意が得られず,他院でプレドニゾロン5mgのステロイド治療を受けていました。なお,DPネツシラミンおよび抗甲状腺薬は内服しておりませんでした。6月に全身浮腫が出現し,増悪したため,7月22日,当院入院となりました。 入院時現症ですが,身長162cm,体重62.2kg,血圧127/70mmHg,脈拍64,眼瞼結膜に貧血なく,心雑音も聴取しませんでした。両側下肺野にファインクラックルを聴取し,腹部以上所見はありませんでした。口周囲に放射状のしわを伴った皮膚硬化を認め,両側前腕から手指にかけて皮膚が硬化しておりました。下肢に著明な浮腫を認めました。 入院時の検査所見ですが,白血球は13,300と増加しており,貧血はなく,血小板は異常ありませんでした。総蛋白5.5,アルブミン3.2,クレアチニン1.1,尿素窒素29,CRP 0.トータルコレステロール283,血清レニン活性の上昇は認めておりません。免疫学的検査ではMPO-

ANCA 268と高値でしたが,ANA,SCL70,抗セントロミヤ抗体,抗SDM抗体,抗DNA抗体は

すべて陰性でした。KL6とSTDが高値でした。尿所見ですが,一日尿蛋白量が4.3g,潜血(3+)で沈渣赤血球が30~ 49個でした。蛋白選択性は0.14で,クレアチニンクリアランスは61.8でした。胸部レントゲン写真とCTです。両側下肺野を中心にスリガラス状の間質影を広範に認めました。 入院1週間後に腎生検を行いました。弱拡大です。色が悪く見にくいスライドになりまして申しわけございません。採取されました11個の糸球体のうちglobal sclerosisが4個,segmen-

tal sclerosis 1個,半月体形成4個,癒着5個を認めました。間質には軽度の尿細管萎縮と線維化,リンパ球浸潤を認めました。血管は特に異常ありませんでした。個々の糸球体をお示しします。メサンギウム細胞が segmentalに軽度,増殖しており,半月体形成および癒着を認めました。病理の先生方に提出しましたものとは別の標本で大変申しわけありませんが,何枚かご提示いたします。やはり同様にメサンギウム細胞の増殖と半月体形成を認めます。メサンギウム細胞の増殖,半月体形成が認められます。線維性の半月体形成とボーマン嚢が断裂し,消失している像が認められました。螢光抗体ですが,IgGと IgMがメサンギウムに segmentalに軽度,染色されています。IgA,C3,C1q,フィブリノーゲンはいずれも陰性でした。電顕所見ですが,上皮細胞の足突起の癒合,微絨毛,内皮細胞の腫大,メサンギウム基質の増加,一部にメサンギアルインターポジションを認めます。また,メサンギウムの一部にデポジットを認めました。このあたりです。 臨床経過ですが,入院前にはステロイドのプレドニゾロンが25mgまで増量されていました。7月28日の腎生検以後は当院のリウマチ内科が加療しました。8月2日からソルメドロール500mgを3日間点滴後,プレドニゾロン内服を30mgに変更しました。CRPが上昇してきたため,ソルメドロール1gのパルス療法を行い,さらにエンドキサンパルスを開始しました。11

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月中旬にCRPおよびANCAが上昇してきたために,エンドキサンパルス効果不十分と判断し,内服に切り替えました。12月初旬に帯状疱疹を発症したために,エンドキサンの内服を中止しました。帯状疱疹は軽快しましたが,MPO-

ANCAが上昇していたために再びエンドキサンの内服を開始しています。 初診から入院まで外来フォロー中は沈渣赤血球が1視野に101個以上出ており,赤血球円柱もときおり見られておりましたが,ステロイドパルス開始後は沈渣赤血球が約10~ 20個程度にまで減少しました。帯状疱疹の発症とほぼ同時期にMPO-ANCAおよびCRPが上昇しており,この時期と一致して尿潜血も再び1視野100個以上まで増加しておりました。血性クレアチニンは初診時1.08でしたが,9カ月後の今年1月には1.3まで緩徐に増加しておりました。経過中,血圧の上昇は認めませんでした。 強皮症にANCA陽性の腎炎が合併した症例は近年,報告が増えておりますが,高血圧を伴わず急速な腎機能低下で発症し,半月体形成性腎炎の像を呈するのが特徴です。これらの症例は正常血圧腎クリーゼと呼ばれています。本症例はMPO-ANCA陽性でしたが,高度の蛋白尿と浮腫で発症し,急速な腎機能低下は認めませんでした。また,腎生検所見でもANCA関連腎炎としては半月体形成が比較的軽度であり,糸球体に壊死性変化も認めておりませんでした。慢性腎炎症候群の臨床像を呈した本症例はCRPおよびMPO-ANCAの動きとほぼ一致して尿所見が悪化しており,ANCA関連腎炎と考えました。全身性強皮症に合併したANCA関連腎炎は急速に進行し,肺出血などを合併し予後不良となる例が多いと報告されていますが,本症例も今後,急速進行性糸球体腎炎に移行する可能性がありますでしょうか。また,治療に関しましてCRP,ANCA,尿所見など何を指標にステロイドや免疫抑制剤の調節を測っていけばよいか,ご意見をいただければ幸いです。以上です。ありがとうございました。

小沢 ありがとうございます。それでは,臨床の先生方からご質問はございませんでしょうか。はい,どうぞ。安田 聖マリアンナ医大の安田です。おもしろい症例をありがとうございました。2003年に肉眼的血尿が出ていますが,これは4月に初診するどれぐらい前の時期ですか。横山 約1年です。安田 では4月ごろだったのですね。そのときから全身倦怠感や,末梢神経炎を疑わせる所見などの血管炎を疑わせるような所見はございませんでしたか。横山 発熱もないですし,倦怠感なども訴えられていませんでした。安田 まったくなかったのですね。肉眼的血尿があったのですが,その血尿の経過はいかがでしたか。横山 血尿の経過は受診時には軽快しておりましたが。安田 受診時の所見ですか。横山 当院初診時です。安田 1年後ですね。横山 はい。軽快しておりましたが。安田 そのあいだの1年間はわからないのですね。横山 申しわけないです。安田 いえ,わかりました。発症がいつごろだったのかなということを知りたいと思いました。ありがとうございます。小沢 どうぞ。鎌田 北里大学の鎌田です。先生の疑問に答える努力をしてみます。ANCA関連腎炎は,ANCAタイターが非常に高いけれども,腎機能はゆっくり悪くなる症例と,ANCAタイターは100ぐらいしかないけれど,crescentができて腎機能が急速に悪くなってしまう症例の両方があります。それでは,この症例はどちらに入るのかと考えました。この症例では,強力なエンドキサン投与により,ANCAタイターが急速に下がりました。そして,再びリバウンドをし

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てANCAタイターが上がりました。ANCAタイターが再上昇したときに尿所見は変化したのでしょうか。尿所見があまり変化しなければ,ANCAタイターが上がっていても腎疾患は案外悪化しないと思うのですが,もし尿所見が変化したら,ANCAタイターの上昇を指標に強力な治療をしたほうが良いと思います。もちろんANCAタイターは参考にはしますが,尿所見が非常に重要ではないかと思います。横山 尿所見は赤血球円柱が再び100個以上出るようになりました。小林 湘南鎌倉総合病院の小林です。今の鎌田先生とまったくというか,同じようなことを臨床的には考えていたのではないかと思うのですが,最初にステロイドをやっておられましたね。5mgと25mgか何かで,腎生検の前ですが,あれは何のためのステロイドだったかを臨床的にお聞かせ願えますか。ANCAの数字が高かったから出していったのか,症状としてどうであったからとか,何を目的に,どのためのステロイド投与であったかをお聞かせ願えますか。横山 ステロイド投与は他院でされていたので,はっきりとは言えませんけれども,最初の5mgは間質性肺炎に対して行われていたと思います。この25mgはたぶん尿蛋白が増えてきたために入れられたのだと思います。小林 なるほど,最初は間質性肺炎で蛋白尿が増えてきたので,組織はだめだったけれど増やしたということですね。それから,エンドキサンパルスは何ミリですか。1,000ミリですか,500。3回,かなりいっているのですが。横山 800mgです。小林 800mgを1カ月に1回ですね。横山 1カ月に1回で800mgです。小林 はい,どうもありがとうございました。平和 横浜市大市民総合医療センターの平和です。教えていただきたいのですが,2001年に強皮症と診断され,他院で加療されていたということですが,そのときの診断の根拠は,どのようなものだったのでしょうか。どういうこと

をもとに強皮症と診断されて,そのときの状態は,いかがだったのでしょうか。肺の合併症もあったようですが,経過として最近,急に肺の間質像が悪化して不安定な状況になってきたのか,あるいはずっと安定していたのかどうか。そのあたりはいかがでしょうか。横山 当院初診までの経過は前医に問い合わせていないので詳しいことはわかりませんが,当院初診後は前腕から先の硬化像とレイノー症状ということで。あとは逆流性食道炎のような症状もあって,抗体はすべて陰性ですが,臨床症状から強皮症とこちらでは診断しています。平和 SSAとSSBは陰性でしたね。横山 はい。平和 MCTDとか,そういうことではなさそうでしたか。横山 そうですね。福島 共同演者の福島です。MCTDはRNPもたしか陰性だったと考えていますし,診断された先生は非常に膠原病で有名な先生ですので,強皮症の臨床症状すべてを含めてMCTDを否定されています。問い合わせができにくい状況ですので,あまり詳しいことを調べられておりません。問い合わせができておりませんので,申しわけありません。平和 病状自体はわりと安定したと。福島 安定しておりましたし,かなり尿所見が出ていたのですが,血尿もあって患者さんが不安に思われて,腎臓を診て欲しいということで当院へ来られたということですので。その間のやりとりで患者さんからも絶対に問い合わせないでくれということがありまして,できていないということです。平和 大変ですね。わかりました,ありがとうございました。小沢 はい,どうぞ。岡 湘南鎌倉総合病院腎臓内科の岡と申します。教えていただきたいのですが,2004年4月20日の初診時に持参薬というか,内服薬がありましたら教えていただきたいのですが。

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横山 持参薬は。小沢 先ほどたしかDペニシラミンと抗甲状腺薬は飲んでいないということでしたよね。横山 特にANCA関連腎炎を誘発するということで,あとで現物を見せて,こういうものは飲んでいませんでしたかという問い合わせをしました。それは飲んでいないのはたしかですが,それ以外はプレドニゾロン5mgだけしかはっきりしたことは言えません。小沢 PSSの腎クリーゼの正常血圧のときにはすべてANCAが陽性になると,そういう報告と考えてよろしいのでしょうか。今まで先生がお調べになった。横山 ほとんど陽性だったのですが,2004年にまとめられた方がいらして,その報告では十数例の中,ほとんど正常血圧でMPO-ANCAが陽性でしたが,MPO-ANCAが陽性でも正常の高血圧性の腎クリーゼ様の病理像を呈したものが1例含まれていました。小沢 原先生,どうぞ。原 虎の門病院の原ですが,これは質問というより追加です。ANCA関連腎炎発症の前にANCA陽性で間質性肺炎像があり,あるところから半月体形成性ANCA関連腎炎を起こしてくることがあります。この方がPSSでANCAを陽性に持っていたのか,あるいはむしろどちらかというと間質性肺炎があってANCA陽性を示していたと考えられますがいかがでしょうか。subclinicalにANCAが出現する頻度が高いのでないかと考えます。福島 先ほどの正常血圧性腎クリーゼのときにANCAが出ない症例があるかということですが,いろいろ調べてみましたが,ANCAが陽性でという形では報告されていますが,ヘプティンストールを読んでみましても,PSSに特徴的な,あるいは糸球体障害をメインにするような腎炎はあまり書かれていません。vasculitisもあるということが書いてありますが,ANCAが測られていない時代の文献であって,実際にこういう症例でANCAが陰性の症例があるかどう

かは,全部を調べたわけではありませんが,非常に少ないのではないかと思いました。これはANCA関連血管炎,あるいはANCA関連腎炎だろうと思っているのですが,このような緩やかな経過もあります。治療もされていますが,発症時,蛋白尿が一般的に少なく,1g以下の症例が多いと思います。PSSに合併したこういう症例はあまりなかったということで,出させていただいていました。小沢 ありがとうございます。前田先生,どうぞ。前田 前田記念腎研究所の前田ですが,本質と関係ないことを伺いたいのですが。コレステロールが280mg / dlありましたね。あのときは5mgぐらいプレドニゾロンを飲んでいました。それからパルス療法そのほかをやって,ある程度いろいろな症状が改善したときの血清総コレステロールはどのぐらいでしたか。横山 申しわけないです。覚えていません。前田 数字はいいですがよくなったかどうか。高いか,低いか,それから,その際,血清総蛋白は上がったのでしょうか。横山 蛋白は戻りました。前田 戻った。それとともにコレステロールはどうなったかということは大事な係証になります。そうすると,尿蛋白が4gぐらい出ていましたね。何が原因で蛋白が出てきたのか。尿に蛋白が出てきたから血清総蛋白が減って,浮腫が出,又コレステロールが上がったのか。それが治療によってよくなったのか。普通のネフローゼ症候群の場合にはコレステロールがかなりよくなりますが,膠原病の場合はあまり高くはなく又改善してもよくならないのです。ですから,それもどういう原因かということの1つの参考にはなると思いまして伺いました。ありがとうございました。小沢 それでは病理の先生,よろしくお願いいたします。重松 これはまた非常に難しい症例ですが,ともかく全身性強皮症という病態があり,そして

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高度蛋白尿,ANCA陽性ですね。それで演者はANCA関連のメサンギウム増殖性腎炎という概念をお立てになったわけですね。私はどちらかというと,高度蛋白尿を説明できるような組織像を引きずってお話できないと,臨床と病理の乖離と言われますから。そういう意味で,私は本症例は巣状糸球体硬化症(FGS)に傾いた腎病変を持っていることをいくつかのスライドでお見せしたいと思います。【スライド01】ここではほとんど全節性の硬化になっていますが,そのように傾いている硬化病変でも,まだ構造が残っている係蹄がある。そして癒着と segmental sclerosisを起こしている。そういう名残がある糸球体があります。もう少し硬化が進んでいない糸球体を見ていきたいと思います。【スライド02】糸球体に出てくる変化はこのように癒着があって,その場所が虚脱状態になり,一種の segmental sclerosisに陥りかけている,つまり虚脱性の硬化病変です。ここに癒着がある。ほかは一見すると微小糸球体変化のように見えます。【スライド03】別の糸球体ですが,ここにも癒着があって,こちらはcollapseというよりまだメサンギウムの基質が不明瞭になって,mesan-

giolysisと言ってもいいぐらいのマトリクスの融解性の変化を示している場所が分節性にあると言えます。【スライド04】ここでは癒着があって,ここは非常に浮腫性になっています。ほかの場所はそれほどの浮腫はないのですが。Massonで見ると,青く染まらない,少しピンク色に染まっています。【スライド05】PAS染色で見ると,癒着をしたところはcollapseになって,上皮細胞が増殖しています。これを半月体と言わないで欲しいと思います。これは一相性ですし,係蹄の破綻を伴わない病巣はcellular lesionと呼んでいます。それがまだ急性の変化なのか,慢性の変化なのか,判断がついていないのですが。parietalの

上皮細胞が伸びてできているのかもしれない。けれど,半月体とは違うものであるという考え方です。【スライド06】Massonで染めますと,癒着したところは究極的には硬化巣になっているということです。ですから,この人がかなり高蛋白尿になってしまったというのは,このようなsegmental lesionをつくるような原因が,この一見健常に見える上皮細胞とか,バリアに障害が進行中であるのだと考えます。【スライド07】特に硬化が強くなっているところもあります。【スライド08】こういう癒着ですね。ここはまだあまりcellularになっていない。マトリクスも増えておりません。【スライド09】次にお見せするのは,これを演者はcrescentだとおっしゃいましたが,cellular

lesionだと考えます。巣状糸球体硬化症ではいろいろなvariantがありますが,collapsing vari-

antといって,このようなcellular lesionを伴って硬化巣が出てくるグループがあるわけです。それと似たような状態がこの症例では起こっているということです。【スライド10】これは同じところです。やはり同じように硬化した糸球体のまわりに細胞が増えている。どうもここはparietalの上皮細胞が覆っている可能性が強い。だから,本当のcrescentではないと私は思います。 ということで,まとめてどう考えるかということですが,ご存じのように全身性強皮症は,高血圧になる前は動脈に強い内膜の線維性の肥厚が起こるわけです。それにcrisisという悪性腎硬化症のようになりますと,そこにfibrinoid

necrosisが起こって糸球体病変が壊死性になります。しかし,この症例は血圧は正常です。けれども,このようなcollapsing variantに入れてもいいような,糸球体の係蹄にかなりcollapse,虚血性の変化が起こっています。結局,内皮細胞障害は強皮症のmalignant phaseでもそうだし,このような蛋白尿が多くなった時期で,内

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皮障害は強皮症のときには同じように進行しているのではないかということです。FGSの組織発生をどのように考えるかについてはいろいろな意見がありますが,私自身は係蹄の中の循環障害が引き金になって上皮障害が起こり,そしてあのような癒着病変という形に進展していくのではないかと考えているのです。ですから,この症例はそれとANCAがどう関係したか,非常に難しいのです。ANCA値が上がってくること自体,このような循環障害的なものを増悪してゆくのだろうと思われます。 そういうことで,この症例は非常に難しいけれども,もしANCAをどうしても入れるとすれば,ANCA関連でFGS様変化をきたした全身性強皮症の一例という形で仕方ないかと思います。山口 最後まで私も結論が出ないので,電顕はいただけなかったので,電顕の情報がない。ANCA関連で昭和医大のスギザキ先生などはANCAが本当に悪さをするのかどうか説明されていないと,ANCAがからんでその腎炎を起こすのかどうかは未定であると言われています。それから,問題なのはネフローゼを呈しているので,組織学的に説明する根拠を何か求めないといけない問題です。なぜMPO-ANCAが高いのかも調べないといけない。腎炎とからんでなければ,別の要因を考える必要がある。先ほど原先生から間質性肺炎から起こることを聞きましたので,もしかしたらそういったものにコリレートして高くなっているのかもしれないと思います。【スライド01】弱拡で見ますと,縞状のfibrosis

はありそうです。動脈は比較的きれいです。【スライド02】糸球体にやや癒着があり,尿細管極に出て癒着しているようなところもある。それから,血管極に thromboticに入っていたような泡沫状の内容の感じがしていました。scle-

roticで癒着がfibrous crescent様に見えていたと思います。全体として間質の炎症も軽く,ボーマン嚢周囲の反応も微弱です。

【スライド03】タフトが巻き込まれてボーマン嚢と癒着し,ボーマン嚢の基底膜が断裂して,少し周囲に反応がある。小さな癒着病変がある。【スライド04】PAMでセグメントが染まって,そのあいだを分け入るようにPAMが弱陽性のfibrousな基質化した内容です。タフトが断裂しているわけです。necrotizingのときに見る scle-

roticな部分と思われる。これはANCA関連を示唆するやられ方という印象です。【スライド05】crescentよりは scleroticでボーマン嚢上皮が sclerosisのところにエピテルジーレンしている。細動脈の平滑筋が少し浮腫状にはなっていますが,これで何か示唆するものがあるか難しいように思います。【スライド06】先ほどのglomerular tip lesionです。糸球体が大きくなって,FGSで見られる,尿細管極側に癒着を起こして tip regionをつくるFGS likeの病変です。血管極が変で sclerosis

とは言いがたい癒着病変で,タフトの破壊が起こってもおかしくない。【スライド07】これは最後ですが,細動脈の周囲,JGA cellが増えていると思います。1つはANCA関連も否定はできない。ただ,それだけでは全部説明できず,FGS likeのものと重なっている病変としたほうがいいのではないかと思います。小川 ありがとうございます。臨床の先生方から病理の先生に何かご質問はございませんでしょうか。演者の先生,先ほど先生のご質問に対する答えとして鎌田先生にお答えいただきましたけれども,それでよろしいですか。横山 はい,ありがとうございました。小沢 はい,どうぞ。安田 聖マリアンナ医大の安田です。ANCA関連の腎炎でも非常にゆっくりくるタイプがあると思うのですが,slowly progressiveということで北里の鎌田先生をはじめ報告されています。この報告では最初に治療が入ったときにわりとのんびり,ゆっくり進行するようなものがあるのではないか,また,最近は治療をしていなく

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ても非常に長い経過をとるものがあると言われていて,昔のような激烈ではないANCA関連の腎炎があるのではないかということです。そういう場合には組織像で壊れたところの修復起点なりがうまくいかず,こういうFGS様の病変をとることは考えられないのでしょうか。山口 そのとおりでFGS様の病変になってもおかしくないですが,nephroticな状態をどうやって説明するかです。弱拡で見ると,ネフロンのロスがあるとは思えませんし,nephroticな状態をどう説明するのか私自身よくわからないのです。ですから,先生が言われるように古くなればFGSとほとんど組織学的には区別がつかないのですが,全部がnecrotizingで,部分的な硬化像でFGS様の病変ができているのかどうか疑問があります。小沢 どうぞ。鎌田 私たちが報告しました慢性腎炎の経過を示すANCA関連血管炎ですが,最初はFGSと診断されて私のところへ紹介されてきました。ネフローゼ症候群として発症したらしいのですが,その組織を借りてきて検鏡してみますと,focal segmental lesionの中央部にnecrosisがありました。ネフローゼ症候群で発見されてFGSと診断されていたけれども,はじめからANCA関連血管炎・腎炎であったと理解しています。我々の2度目の腎生検も focal segmental lesionを示しましたが,やはり中央部にfibrinoid necrosisを伴う壊死性病変がありました。focal segmental

な病変がゆっくりと増加して,病気が進むのだろうと思います。福島 そうしますと今後,この方を治療していくうえで,PSSの方は感染死が多いようですが,このようなANCA関連の腎炎に何を使っていくのか。この慢性腎炎型でFGSタイプですと,蛋白尿をマイナスにすることも難しいですし,尿所見が完全によくなることも期待が薄いかと思うのですが,どのような経過をとっていくか,ステロイドでいくのか,あるいはエンドキサンパルスをやるのか,エンドキサンの少量でも続

けるのか。もしその辺がわかりましたら,ご教示いただけたらと思いますけれど。小沢 鎌田先生,どうぞ。鎌田 今,お話しした慢性型のANCA関連腎炎のその後の経過ですが,ステロイドを減らしますとANCAタイターが上がって血尿が出て,蛋白尿が増えて,血清クレアチニン値が上がります。ステロイドを中止できないでいます。あまり長期になったのでミゾリビンを乗せたのですが,うまく治療できませんでした。結局,エンドキサンの少量を投与しますと病勢が落ち着きますので,エンドキサンの25mgを隔日あるいは連日投与しています。少量ステロイド+エンドキサンで何とかコントロールしている状況ですが,長期的に見るとゆっくり血清クレアチニン値が上がる状態が続いています。現在,クレアチニン値は,1.6~ 1.8mg / dlまできてしまいました。原 虎の門病院の原ですが,病理の先生にお教えいただきたいのですが,secondlyのFGSと考えるのでしょうか。secondlyのFGSにしては蛋白尿が多すぎるのではないかと思うのですね。そうすると,systemicに高血圧はなくても,PSSでは糸球体病変があって,よりhyperfiltra-

tionのようなものが加わって蛋白尿が多くなるといったPSSの経過の中での糸球体病変を考えてはいかがでしょうか。secondlyとしては,臨床的な立場から蛋白尿をどうやって説明するのだろうかと非常に疑問で,PSSの糸球体病変とかみ合わせられないのかどうか。hyperfiltration

が加わりやすいために蛋白尿が多いのであれば,もっと積極的にACE,ARBを使えば,この蛋白尿はもっと軽減するのではないかと考えますが。そういったことも含めてお教えいただければと。重松 完全な答えはできませんが,おそらくPSSですね。それから高血圧症のときに腎不全になりかかってきて,糸球体のhypertensionがあるときには,すべてこのようなFGS的な病変が出てきますね。そのときに蛋白尿が非常に

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増えるわけですが,強皮症の場合にもおそらく糸球体のhypertensionが起こっている可能性を,私は否定できないと思います。糸球体の血圧の状態と全身の血圧との関連は必ずしもうまく相関させることができないけれども,もしこの症例のような強皮症で segmental lesionがある,FGS様のものがあるとすれば,やはり降圧的な治療は選択肢に入ってくるだろうと思います。私にはそれぐらいしかコメントできません。小沢 ありがとうございます。だいぶ長引きましたので,これで第2席を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。横山 ありがとうございました。小沢 続きまして,「膜性増殖性糸球体腎炎が治癒して20年後に膜性腎症型のLupus腎炎を発症した一例」東海大学医学部の呉先生,お願いいたします。

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