Title 新尿路造影剤Hypaqueの使用経験

Author(s) 広根, 孝衛; 松本, 鐐一

Citation 泌尿器科紀要 (1957), 3(8): 519-524

Issue Date 1957-08

URL http://hdl.handle.net/2433/111490

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌尿紀要3巻8号'

、 昭和32年8月,

新 尿 路 造影 剤Hypaqueの 使 用経 験

金沢大学皮膚科泌尿器科教室(泌 尿器科主任 黒田恭一教授)

助 手 広 根 孝 衛

助 手 松 本 錬 一

Use of Hypaque in Urography

T. HIRONE and R. MATUMOTO

From th3 Department of Dermat-logy & Urology, Medical Faculty of

Kanazawa University (Director : Prof. Dr. K. Kuroda)

Hypaque, a new urographic medium, is presented. Clinical experiences of a series of 12

cases are reported. The authors believe that Hypaque is a superior material which affords

excellent contrast, has fewer undesirable side effects and is not always necessary comp-

ressionsband.

1緒.言

排泄 性 瞥孟 撮 影 法 に使 用 され る有 機 ヨー ド化

合物 は,そ の化 学 構 造 上 か ら メ クス ル フオ ン

酸,ピ リジ ン及 び 安 息香 酸 誘導 体 の3群 に大 別

され るが,ハ イ ペ ツ ク は安 息香 酸 誘 導 体 に属

し,Sodium3.5-diacetylamido-2,4,6-tri-

iodobenzoate「 な る構 造 式(第1図)を 有 し,

その50%滅 菌 水溶 液 が 市 販 に供 さ れ て い る.思

うに排 泄 性 腎 孟撮 影 を施 行 す る際 に使 用 され る

理 想的 な造影 剤 と して は,毒 性 の な い こ と,影

像 の鮮 鋭 な る こ と,適 度 の 時 間 内 に早 く且 つ 完

全 に排 泄 され る こ と等 が要 求 され て い るが,ハ

イ ペツ クは そ の ヨ ー ド含 有 量 が59.87%に 達

し,し か もそ の毒 力 が 極 め て低 く且 つ 注 射 後2

時 間以 内忙 大 部分 が排 泄 さ れ る こ とか ら,そ の

耐 容量 は大 で,従 つ て5096水 溶 液30ccを 静

注 して忌 む べ き副 作 用 を 示 さな い点,略 汝上 記

目的 に副 うもの とい え よ う。 更 に排 泄 性 腎 孟撮

影法 は尿 管 ヵ テー テル挿 入 不 能 の場 合 に於 い て

も これを 実施 し得 る こ と,逆 行 性 腎 孟撮 影 に比

し患 者 に与 え る苦 痛 の 少 な い こ と な どの利 点 が

あるが,従 来 か ら行 わ れ て い る排 泄 性 腎 孟撮 影

法 の際 の尿 管部 圧 迫 は,こ の点 か ら云 う も除 か

れゑ ことが 望 ま し く,叉 腹 部 腫 瘍,妊 娠 等 に よ

ひ尿管部 犀迫 不 能Q場 合 に も容 易 に施 行 し得 る

こ とか ら も,非 圧 迫 性撮 影 の 可能 性 に就 い て検

討 す る こ とは 充分 意 義 の あ る事 と信 ず るの で あ

る.

最 近 吾 々 は本 剤 の試 供 を うけ,そ の 臨 淋 成績

殊 に そ の非 圧迫 性撮 影法 につ き検 討 す る機 会 を

得 た の で藪 に 報 告 す る.街 使 用 例 数 が 少 ない の

で本 剤 の 充分 な検 討,特 に他 の造 影 剤 との 比較

は 後 日に 譲 る が,些 か 知 見 を得 た ので 簡 単 に言

及 す る.

皿 基 礎 的 実 験

臨躰的使 用に先立ち,ハ イペ ック,ト リォ ダソ、,ピ

ラセ トソ,ス ギウロソ,ウ ログラフイソの各造影剤 の

黒化度 を測定 した.撮 影条件は6CKV,50mA,0.1

秒で焦点 フイルム間距離は100cmと し増 感紙 を使用

した(第2図)

ハイペ ツ クはウ ログラフイy,ピ ラセ トy,70%ト

リオダソに次 ぎスギウ ロyよ り優れてい る.

皿 臨 躰 成 績

A腎 孟像 について

ハイペ ツクテス ト液teccを 徐 々に静注後 ・2乃

至3分 間観察 し過敏性反応 を示 さな いこ とを確かめた

後 ハイペ ック30ccを3分 間に静注 した 。前処置 とし

て前 日にヒマシ油30gを 投与 し,当 日朝涜腸のみ施

行 し た もの もあ る.使 用 した症例 は13例(第1表)

で・至適撮影時間を検討す るため最初 の3例 は注射後

520 広根,松 本一新尿路造影剤Hypaqueの 使用経 験

第1表

イyジ ゴカル ミソ試験

症 例 性 年令 診 断右1左

備 考

3'3G" 3'50"

1 永 野 ♂ 22 泌尿器科的正常 ～ ～

5'20" 4'15"

3'35" 4'05"

2 七 田 ♀ 59 同 上 ～ ～8'00" 5'30"一 一 一 一5'2G" 4'30"

3 黒 鳥 6 28 同 上 ～ ～6'50" 6'45"

3,50" 2'40"

4 辻 本 ♀ 23 膀胱三角部炎 ～ ～4'48" 4'25"

6'10" 6'20"

5 成 田 δ 44 膀 胱 腫 瘍 ～ ～ PSP2時 間合計45%6'40" 6'20"一一

6 大 井 ♂ 65 前 立 腺 癌▼

膀胱鏡検査不能PSP2時 間合計34%

5'10"一 幽一

6'05"

7 河 村 ♀ 27 急性膀 胱炎 ～ ～7/10" 8'03" 「 隻

8'00"

一 一}

5'10"8 久 田 6 28 游 走 腎 ～

～ PSP2時 間合計65%濃染せず 5'50"一8'GO" 4'10"

9 池 田 δ 47 右 腎 結 石 ～ ～ PSP2時 間合計58%濃染せず 4'45"

10 皆 川 ♀ 33慢性腎孟炎兼穎粒性膀胱炎

6'33"

～濃 染せ ず

6'55"

～

9,05"

PSP2時 間合計24%

6'05" 3'20"11 桝 田 δ 28 泌尿器科的正常 ～ ～

濃染せず 3'45"

12 茶 山 ♂ 65 前立腺肥大症 讐 轡 諄罐 計52%,

3'GO" 9'13 野 口 δ 26 左尿管結石 ～ PSP2時 間合 計60%

3/55"

3分,5分,10分,15分,20分,25分 に 撮影を試み

た.

第1例 は圧迫帯 を使用 し腎孟尿管像 の描 出状態を観

察 した.3分 後には左右 共梢 々淡いが腎孟尿管像は明

瞭に認 め られ,腎 杯の杯状像 も鮮明に認 められ,5分

後 には更 に濃 く腎杯像 も一層鮮鋭15分 後に腎錐体像

の一部が描出 され,25分 後には殆ん どすべて の腎錐体

部 が可成 り明瞭に描 出されている.こ の時期にな る と

腎杯 の杯状像は稻 々円鈍化 して来 る(第3・4・5・6

図)

第2例 は圧迫帯を使 用せず且つ水平位で施行 した.

3分 後に左 右腎 孟尿 管像は描 出されてい るが梢 々淡

く,5分 後 には濃 くな り右重複 腎孟像が明かに認め ら

れた(第7・8図)

第3例 は圧迫帯 を使用せず頭低位20。にて施行 した.

3分 後 には左右共腎孟 尿管像が淡 く認め られ,5分 後

には梢 々濃 く15分後 には可成 り濃 く明瞭 に認められた

が,腎 杯像は圧迫帯を使用 した第1例 に比 し鮮鋭 さが

劣つた.

以 上の正 常人3例 に使 用 した所 見か らハイペ ツクは

注射後 短時間で腎 よ り排泄され5乃 至15分 で鮮明な腎

孟像 を描 出 し,圧 迫帯 を使 用せず とも造影可能であ る

ことを知 つた.依 つて第4例 か ら第12例 までは無圧迫

頭 低位20。 にて注射後3分,5分,15分 の3回 撮影

した.第4例 か ら第9例 までは何れ も5乃 至15分 で鮮1

明な腎孟像が描 出された(第11・12・13・14図)

第9例 は3分 後左 腎孟像は鮮明に描出 されたが,右

腎は指 頭大の結 石影 像のみにて腎孟像は殆ん ど描出さ

れず・5分 後 に淡 く認 め られ,15分 後 に可成 り濃 くな

り結石 は上腎杯 内に存 す ることが明かに された.然 し

左腎孟像 に比較すれば猶著 しく濃度が劣 り,こ れはイ

ンジ ゴカル ミソ排泄試験 の成績か らも窮われ る如 く患

広根,松 本一新尿 路造 影剤Hypaqueの 使 用経験

側腎の機能低下が著明で ・従つ て25分 後 に も殆 ん ど腎

孟像は得 られなか つた,

次いで非圧迫性撮 影可 能の造影 剤ウ ログラフイソ と

の比較を,第11例,第12例 及び先に挙 げた第2例 にっ

いて試みた.第2例 では ハイペ ツクに よ り5分 後 に濃

い腎孟尿管像が描 出され右重複腎孟像 が明かに認め ら

れたが,ウ ログラフィソ使 用5分 後 には腎孟 尿管像は

可成 り濃 く描出 されたが梢 々不鮮明で,15分 後に於い

てもその鮮明さは ハイペ ツクのそれに比 し稻 々劣 り且

つ右重複腎孟像 は不明瞭であつた(第9・1e図)

第11例 は5分 後 ウログラフイソの方が著 しく鮮 明であ

り,15分 後には ハイベソ クとウ ログラフイγとは大差

なく後者の力が僅かに鮮 明であつた.第12例 では3分

後に既に ハイペ ツクで鮮明な腎孟像 が描出 され,5分

後には一層濃 く,ウ ログラフイソ との比較 を5分,15

分後で観 るに,腎 孟尿 管 像 は両 者共 に 明瞭 ではあ る

が,腎 杯像は ハイペ ツ クの方が鮮鋭であつた(第15・

16図)

B副 作用について

本剤の副作用 についてMooreandMayerは 悪 心,

嘔吐,流 誕過多,顔 面 潮紅,眩 最,尊 麻 疹 筋 肉痙

攣,血 管運動神経反応等を挙げ210例 中28例(13.3%)

に認めているが,そ の大部 分は注射 速度が 速い場 合

で,ハ イペ ツク30ccを3分 以内に注射 した場 合に

起つてお り,注 射速度が3分 以上の場合には比較的少

ないことを指摘 してい る。

斯か る副作用を可及的 に避け るため,吾 々は注射速

度を3分 とした.現 われた副作 用は何れ も軽微な もの

で,1例 に口内異味,悪 心,顔 面潮紅を認めたが,注

射後3乃 至5分 で これ らは全 く消失 した.叉 他 の1例

では注射1G分 後か ら奪麻 疹様 発疹が現わ れ,約2時 間

持続 した.Bodner等 も既に述べ ているが,注 射時 の

上膵痛は全例に於いて全 く認 め られ なか つた.

各症例について注射前,注 射後5分 毎 に25分 まで6

回にわた り血圧を測定 した.12例 中1C例 は殆 ん ど変化

を示 さなかつたが,他 の2例 は収縮期 に1C乃 至15皿

mHgの 下降を示 し,内1例 は拡張期 に も10mmHg

内外の下降を来た した.こ の例は前述 の茸麻疹様 発疹

が現われた例 で,皮 疹は約2時 閲持続 したが,血 圧の

下降は1時 間後に略 々注射 前 の値に まで恢復 した.

第13例 はハイペ ッ クテス ト液1ccを 徐 々に静注後

1分30秒 経つて全身倦怠感を訴え ると共 に急激 に顔面

潮紅,悪 心嘔吐,流 誕過多,頭 痛,全 身にわた る薄麻

疹様発疹が現 われ,呼 吸促迫,胸 内苦悶,冷 汗を来た

521

し,脈 搏 を触 知 し得 ず,過 敏性 シ守ツク症 状 を示 し

た.直 ちに塩酸 ア ドレナ リソ,ノ ルア ドレナ リソ,ネ

オ フイ リソ等 を注射 し,安 静 を保たす ことによ り約2

時間後 には全身状態は良好 とな り血 圧 も略 々注射前 の

値 まで阪復 した.本 症例は平素尊麻疹を発 し易 く小児

期に1喘息に悩み,入 院後施行 したペ ニシ リソのプ リツ

クテス トが陽性を示す な どアレルギー素質の保有者で

あ り,沃 度過敏性のためにテス ト液注射後 短時 間内に

ショック症状を発現 した もの と推測 され,斯 か る例は

極 めて稀 ではあ るが,テ ス トの必要性を痛感せ しめた

症例 である.

ISi考 按

ハ イペツクによる排泄性腎孟撮影に際 して前

日ヒマシ油投与,当 日朝淀腸の前処置を施行 し

た方が良い結果を示 した.外 来患者に於いて涜

腸のみ予 め施行 したものでは,腸 内ガスの存在

のために,時 として腎孟像の観察に不利な影響

を与えた.圧 迫帯の使用はその優れた造影能力

から必ず しも必要としないように思われるが,

腎機能が低下 した例に於いて比較的鮮明な腎孟

像を得んと欲する時は必要であろう.腎 機能正

常 な場合に圧迫帯を使用すれば,腎 錐体部 も可

成 り明瞭に描出されることは第1例 に於いて観

察された。此のことは腎杯部の微細な病変 の診

断上極めて有用である.然 しながらハイペツク

も亦他の造影剤と同様或程度以上の機能を有す

る腎でなけれぱ影像を得 られない ことは第10例

に於いて示された所である.

非圧迫性頭低位200で ハイペツクを使用 して

排泄性腎孟撮影を施行する場合には,5分 及び

15分の2回 撮影が適当と考えられる,

他の造影剤との比較は,ウ ログラフインとの

3例 を以てにわかに論じ難いが,そ の描出状態

の時間的経過,影 像の鮮鋭度からみて,ウ ログ

ラフイ ンと大差ないように思われる.

副作用は概 して軽微であり,注 射時間を3分

にして忌む べき副作用は 見 られ なかつたが,

10mmHg内 外の血 圧下降 を示したものがあ

り,従 らて高血圧患者等では充分の注意を要す

るであろう.沃 度過敏症 の有無に対する細心の

注意は,す べての有機沃度剤の使用に際 して等

しく払われねばならない点であるが,テ ス トア

522 広根,松 本一新尿路造影剤Hypaqueの 使用経験

ン プ ル の添 加 は この 目 的 に極 め て有 用 で あ る・

V結 語

新尿路造影剤ハイペツクを12例 に使用し,腎

孟 尿管像が鮮明で,副 作用が少なく,必 ずしも

圧迫帯を必要 としない点,優 れた排泄性腎孟造

影剤であることを認めて藪に報告 した.

稿を終るに当り終始御懇篤なる御指導と御校閲を賜

つた黒田教授に深謝し,併 せて黒化度測定に種々便宜『を賜つた本学放射線科飯森叉郎学士に謝意を表しま

す

参 考 文 献

ユ)市 川 篤 二 ・石 山 脩 二 清 島 茂 寺 ・伊 藤 一 元 ・梶

田 一 之 二 日泌 尿 会 誌,47:60,1956.

2)石 山 脩 二 ・梶 田 一 之 ・ 日泌 尿 会 誌,47.823,

ユ956.

3)川 村 太 郎 ・谷 口 馨 二臨 肱 皮 泌,10二91,1956.

4)清 水 圭 三 二臨 肱 皮 泌,10二479,1956。

5)MooreT.D.andMayerR.F.Datein

filesofWinthrop-StearnsInc.

6)BodnerH.,HowardA.H,andKaplanJ.

H.J.Urol.,74二422,1955.

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第1図

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lICH3CONH/＼/＼NHCOCH3

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第2図

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● ●1.

2.

3.

4.

5.

6.

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ハ イペ ツ ク

ス ギウPy

ピ ラセ トン

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ウ ログ ラ フイ ン

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第3図 第1例3分

鞠謬・攣 櫛

第4区1第1例5分

第5図 第1例15分

広根,松 本一新鄭路造 影剤Hypaqueの 使 用経験

噸/馴 璽

第6図 第1i夕ll25分

第7図 第2例3分

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遜

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第8図 第2例5分

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第1C図

523

拶.

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第Z例15分

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第2例 ウ ロ グ ラ フイ ソ15分ワゴ灘 　 欝

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第11図 第4例5分

灘

524 広根,松 本一新 尿路造影剤Hypaqueの 使用経験

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第13図 第9例5分

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第121列15分

一 旨

第16図 第12例 ウ ロ グ ラフ イ ン15分

第14図 第9例15分