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Title 英語強変化動詞の研究( Abstract_要旨 ) Author(s) 岩本, 忠 Citation Kyoto University (京都大学) Issue Date 2008-03-24 URL http://hdl.handle.net/2433/136485 Right Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University

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Page 1: Title 英語強変化動詞の研究( Abstract 要旨 ) Issue …...不規則動詞として存続したものは86語,古期英語で強変化動詞ではなかった語で現代英語で不規則動詞になったものは81語

Title 英語強変化動詞の研究( Abstract_要旨 )

Author(s) 岩本, 忠

Citation Kyoto University (京都大学)

Issue Date 2008-03-24

URL http://hdl.handle.net/2433/136485

Right

Type Thesis or Dissertation

Textversion none

Kyoto University

Page 2: Title 英語強変化動詞の研究( Abstract 要旨 ) Issue …...不規則動詞として存続したものは86語,古期英語で強変化動詞ではなかった語で現代英語で不規則動詞になったものは81語

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【898】

氏     名 岩いわ

本もと

忠あつし

学位(専攻分野) 博  士 (人間・環境学)

学 位 記 番 号 論 人 博 第  24 号

学位授与の日付 平 成 20 年 3 月 24 日

学位授与の要件 学 位 規 則 第 4 条 第 2 項 該 当

学位論文題目 英語強変化動詞の研究

(主 査)論文調査委員 教 授 齋 藤 治 之  教 授 服 部 文 昭  教 授 河 靖崎殕

論   文   内   容   の   要   旨

本論文『英語強変化動詞の研究』は,300余語存在する古期英語の「強変化動詞」を語形と活用(語幹構造と母音交替の

型)により分類し,さらに各類に属する動詞を基本形と変異型に分けることにより,古期英語の強変化動詞を体系的に整

理・分類したものである。その際,強弱・弱強移行等の「揺れ動き」の主要因を語幹の音声的な「韻構造」を軸にした類推

現象に求める試みがなされている。

本論文は,第1章「英語の言語的位置」,第2章「英語の歴史」,第3章「古期英語の動詞」,第4章「強変化動詞の形態」,

第5章「古期英語強変化動詞の類別定義」,第6章「古期英語強変化動詞の類別詳論」,第7章「帰属類の移行」第8章「強

変化動詞の通時的移行」,第9章「現代不規則動詞の変化形」の9つの章から構成されており,結論部としての「結語」で

締め括られている。

第1章では印欧語族の中のゲルマン語派,さらにその西ゲルマン語群に属する英語(Anglo-Saxon語)の言語的位置と,

印欧祖語に由来する動詞時制と母音交替の関係が扱われている。

第2章では英語の歴史がその言語的性格とともに,古期(ゲルマン的),中期(フランス語語彙の流入),近代(ラテン語,

フランス語からの自立),現代(米語を中心とする国際的拡大)の4期に区分され,各時代の主要な作品名が挙げられてい

る。

第3章,第4章では古期英語の動詞がそれぞれの形態論的特徴とともに,「強変化動詞(母音交替)」,「弱変化動詞(歯茎

音接辞)」,「過去現在動詞(現在を表す過去形)」,「不規則動詞(幹母音をもたない)」の4種類に分類され,さらに「英語

強変化動詞」の形態が語幹構造と母音交替の型に基づき7つの類に区分され示されている。

第5章では古期英語強変化動詞1類から7類の基本形の語幹構造と母音交替の型,および各類の変異形が扱われている。

その際,変異形の種類として,①音声的変異(VL型,縮約型,音位転換型,/u‾/-現在型),②語彙形態論的変異(アオリ

スト現在型,弱現在型,畳音型)の7つの変異現象が認められるとされている。

第6章では古期強変化動詞に属するすべての語が,その語幹構造と母音交替型に関して,他のゲルマン対応語をも含めて,

検証されている。その結果を踏まえ,古期英語では強変化動詞基本形は230語,変異形は74語,計304語存在することが,各

類別の基本形,変異形の語数の統計的図表により示されている。

第7章,第8章では動詞変化の移行に関する問題が扱われている。移行には,①類移行,②強弱・弱強移行,の2種類が

存在するが,第7章では①の類以降が扱われ,その主な原因として,語幹構造(韻構造)の変化とそれに伴う新しい語幹型

の母音交替の出現が挙げられている。さらに,第8章では,②の強弱・弱強移行の問題が扱われている。この章ではまず,

古期英語末期から中期英語初期にかけてのヴァイキングによる古ノルド語と南部からのフランス語など外来語彙の大量流入

により古期英語強変化動詞の約半分が廃語になり,その結果現代英語に至るまで存続している165語(165/304)すべてが類

別類型別統計表とともに挙げられている。また,165語のうち現代英語で強変化を保持している80語と,強弱移行の結果弱

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変化となった動詞すべてが列挙され,強変化から単純語形・単純変化である弱変化への移行が,語尾の消失,文法の簡素化

そしてそれに伴う語順の固定化という,英語史を通じて観察される平準化の流れに沿うものとされている。この平準化の流

れに逆行する弱強移行の例は古期英語から中期英語に至る時期には稀であるが,計4語の動詞が挙げられている。

第9章では古期英語強変化動詞は現代語に如何に伝わっているかを考察するために,現代英語の不規則動詞の活用形が共

時的に考察されている。その結果,現代英語不規則動詞計167語のうち,古期英語で強変化動詞であったものが現代英語で

不規則動詞として存続したものは86語,古期英語で強変化動詞ではなかった語で現代英語で不規則動詞になったものは81語

存在することが示されている。後者に属する動詞は「古期英語・ゲルマン語伝承語」,「古期英語伝承語」,「中期英語以降に

出現した語」に分類され,それらの動詞が韻構造を軸に類推同化作用によって成立したものであることが明らかにされてい

る。

結語として,語幹構造の変化に伴う別の母音の交替系列の導入とそれに伴う類の移行の現象はさらに一歩進んで,使用頻

度の多い語形がモデルとなり他の語を引きつけ,引きつけられた語は類推模倣によりその類の母音交替活用をするという,

語彙形態論的な語形形成操作へと至ることがある。その結果,例えばルクセンブルク語やオランダ語では母音交替系列は単

純化され,過去形の母音は現在形と必然的な関係を失っている。英語に関しても,強弱というよりはむしろ,heave/hove

やshine/shoneなどにおいて[ou]が過去・過去分詞の標識の役目を果たしているように,「語の音形(sou‾nd shape)」に

左右される傾向も見られるが,母音交替系列は古期英語に由来する不規則動詞にその分類固有の活用とともに保持されてい

る。このように,英語の歴史的指向は簡略化であるが,またそれに逆行する動きも強変化動詞において見て取ることができ

ることが示されている。

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

本論文は,英語における強変化動詞を古期英語,中期英語,近代英語,現代英語という英語史の各時代区分の流れの中に

おける変遷において考察した通時的研究であるといえる。一方,各時代の流れにおける変化を捉えるためにはそれぞれの時

代の共時的言語体系の緻密な記述が不可欠であり,その点において本論文はゲルマン祖語およびゴート語やドイツ語,北欧

語などのゲルマン諸言語との比較をも含む厳密な共時的形態論分析,また,一語も漏らすことのない徹底した用例の収集と

分類に基づく統計的手法により,各時代の強変化動詞の状況を形態的および数量的に把握することを可能にしている。

英語強変化動詞における母音交替はそれが属する印欧祖語から継承したもので,例えばsing/sang/sungのように,本来

は不定詞・過去・過去分詞に,祖語の「e~o~ゼロ」に遡る,規則的な母音交替の型を示していた。また,強変化動詞は

それが有する語幹構造に従い7種類の母音交替系列(Ablaut series)を示し,これらの系列が強変化動詞を1類から7類

まで分類する基準となる。基本形が示す7種類の規則的な母音の交替は,歴史の流れの中で,音韻変化などにより乱され,

各類における変異型の形成へと至ることになる。本論部では基本型と様々な要因により生じた変異型が各時代および強変化

各類ごとに体系的に整理・分類されており,強変化動詞が歴史的にどのように受け継がれ,現代語へと至ったかを数量的に

厳密に示している。また,変異型に関しては,これをまず音声的変異と語彙形態論的変異に区分し,さらに前者をVL型,

縮約型,音位転換型,/u‾/-現在型の4種,後者をアオリスト現在型,弱現在型,畳音型の3種に下位区分し,それぞれに

属する動詞をすべて網羅し統計的に図表化している。

強変化に属する動詞の数は英語史の各時代により異なっているが,その理由はある時期に強変化であったものが別の時期

には弱変化になるか,あるいはその逆の場合も存在するからである。このような強・弱変化の通時的交替は移行と呼ばれ,

それには様々な要因が存在すると考えられる。本論文はその主要因として,韻構造を軸とした類推現象を挙げている。本論

文の韻(rhyme)とは生成文法理論で行われているような語から音節頭音(onset)を除いた後半部分を指し,この部分が

話し手の聴覚印象によって同じ韻構造を示す語に類推作用を及ぼすとしている。本論文は,強変化から弱変化への移行(強

弱移行)により,英語史においては強変化動詞に由来する動詞の約半数が現代英語において弱変化動詞化したことを示して

いる。また逆に,弱変化から強変化への移行(弱強移行)により,81語の本来強変化に属さない動詞が現代英語では不規則

動詞に移行していることが示されている。移行にはさらに強変化動詞全7類における類の間の移行(類移行)が存在する。

本論文は類移行の主要因として音韻変化による語幹構造の変化とそれによる新しい語幹型の母音交替の導入を挙げている。

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本論文ではさらに移行の問題を英語史における通時的言語変遷の全体像において位置づける試みもなされている。移行に

おいては,使用頻度の高い語形はその型がモデルとなり他の語を引きつけ類推作用によりその母音交替型の使用を拡大する。

ゲルマン語に属するルクセンブルク語やオランダ語では多くの動詞が全く同じで単純な母音交替型を採用し,「過去形母音

は現在形と同じでなければよい」と言われる状態にまで至っている。英語の言語構造は歴史的に見て簡略化の方向に向かっ

ていると言えるが,強変化動詞においては,少数の動詞において移行が確認されるにせよ,依然として7種類の母音交替系

列が保持されており,現在形と過去・過去分詞の間の音声的な差異のみでなく,母音交替型に基づく語彙形態的な区別が重

要である。このように,英語においては簡易化に対抗する強変化動詞による弁別的伝承固持の動きが存在し,言語変化とい

うものがE. Sapirの言うように「うごめきよどみながら流れてゆく」様子が示されている。

本研究は,従来伝統的にゴート語を中心にして7つの類に分けられていたが,古期英語に関しては特にその音形による厳

密な定義が見られなかった強変化動詞の類構成を,基本型とそれに準じる変異型とに分け各類の定義を明確化し,それぞれ

に属する動詞のリストを作成し,古期英語から中期英語を経て現代英語という時代の流れの中で数量的にその変遷を跡付け

た点に主要な意義が認められる。さらに,移行の問題を英語の通時的変遷の全体像の中に位置づけた点も高い評価に値する。

よって本論文は博士(人間・環境学)の学位論文として十分に価値あるものと認める。また,平成19年12月26日,論文内

容とそれに関連した事項について口頭試問を行った結果,合格と認めた。