title study on the diglucuronidation reaction of …...―2119― 【894】 氏 名 村 むら 井...
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Title Study on the diglucuronidation reaction of steroid hormones(Abstract_要旨 )
Author(s) Murai, Takahiro
Citation Kyoto University (京都大学)
Issue Date 2008-03-24
URL http://hdl.handle.net/2433/136704
Right
Type Thesis or Dissertation
Textversion none
Kyoto University
―2119―
【894】
氏 名 村むら
井い
孝たか
弘ひろ
学位(専攻分野) 博 士 (農 学)
学 位 記 番 号 論 農 博 第 2679 号
学位授与の日付 平 成 20 年 3 月 24 日
学位授与の要件 学 位 規 則 第 4 条 第 2 項 該 当
学位論文題目 Study on the Diglucuronidation Reaction of Steroid Hormones(ステロイドホルモンのジグルクロン酸抱合反応に関する研究)
(主 査)論文調査委員 教 授 宮 川 恒 教 授 西 岡 孝 明 教 授 西 田 律 夫
論 文 内 容 の 要 旨
グルクロン酸抱合は生体において内因性および外因性化合物の解毒を担う重要な代謝反応であり,UDP-グルクロン酸転
移酵素(UGT)により触媒される。グルクロン酸抱合体は水溶性が十分高く一般的にはそれ以上代謝を受けないが,抱合
体のグルクロン酸部位にさらにグルクロン酸が抱合する珍しい代謝反応が存在する。ジグルクロン酸抱合と定義される本反
応は,水溶性原子団にさらに水溶性原子団を付与するという薬物代謝学上興味深い反応である。
本研究は,このジグルクロン酸抱合について,基質となる化合物,反応の生物種差,関与する酵素分子種などこれまでほ
とんど明らかになっていない諸特性を検討したものである。論文は,以下の6章よりなっている。
第1章は,グルクロン酸抱合反応についての概説で,ある化合物に対してグルクロン酸が2分子抱合した代謝物を,その
化学構造に基づきビスグルクロン酸抱合体とジグルクロン酸抱合体に分類している。
第2章では,グルクロン酸抱合代謝のモデル基質として4-ヒドロキシビフェニルを用いた場合に,イヌ肝ミクロソームに
よって構造的に新奇なジグルクロン酸抱合体に代謝されることを見出した結果が述べられている。ジグルクロン酸抱合体の
構造は,大スケールの酵素反応液から調製した試料の質量分析および核磁気共鳴による構造解析によって決定され,二つ目
のグルクロン酸は一つ目のグルクロン酸の2’位水酸基に結合していることを示した。また,ジグルクロン酸抱合体は基質
から一段階で生成するのではなく,モノグルクロン酸抱合体を経由して生成していることも明らかにした。
第3章では,代表的な内因性UGT基質として知られるステロイドホルモンについて,肝ミクロソーム画分を用いたin
vitro系でジグルクロン酸抱合体が生成するかどうかを検討した結果がまとめられている。液体クロマトグラフィー-タンデ
ム質量分析(LC-MS/MS)により,イヌ肝ミクロソームが用いた6種類の基質全てをジグルクロン酸抱合体へ代謝するの
に対し,ヒトおよびサル肝ミクロソームではジヒドロテストステロンなど一部基質のみがジグルクロン酸抱合体に変換され
ることを明らかにした。さらにラット肝ミクロソームではこのような抱合体生成が認められないなど,反応には大きな種差
があることが示された。また生成したジグルクロン酸抱合体は,いずれも第2章で明らかにした4-ヒドロキシビフェニル
の抱合体と同様,一つ目のグルクロン酸の2’位の水酸基に二つ目のグルクロン酸が抱合した構造をもっていた。
第4章では,第3章で示された内因性ステロイドホルモンのジグルクロン酸抱合が実際に生体内で起こっているかどうか
が検証されている。雄ラット,イヌ,サルの胆汁あるいは尿を採取し,それぞれを固相抽出により前処理後,高分解能LC-
MSにより分析したところ,イヌの胆汁および尿中から複数のC19ステロイドのジグルクロン酸抱合体が検出された。検出
されたジグルクロン酸抱合体のうち主要な2化合物については,機器分析によりエピアンドロステロンおよびデヒドロエピ
アンドロステロンのジグルクロン酸抱合体と同定された。この結果から,ステロイドホルモンのジグルクロン酸抱合反応が
イヌ体内において実際に進行していることが初めて明らかになった。
第5章では,ヒト肝ミクロソームで認められたジヒドロテストステロンのジグルクロン酸抱合活性に着目し,抱合反応に
関与する酵素分子種の同定を試みた結果が述べられている。12種類のヒトUGT発現系ミクロソームを調製し,それぞれジ
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ヒドロテストステロンを基質として反応させた結果,モノグルクロン酸抱合体への代謝活性がヒトUGT2B17,UGT2B15,
UGT1A8,UGT1A4に認められた。さらにグルクロン酸抱合体を基質とした場合には,ヒトUGT1A8,UGT1A1,
UGT1A9がジグルクロン酸抱合体への代謝活性を有していることが明らかになった。このうち両方の反応に対する活性が
あるUGT1A8は,単独でジヒドロテストステロンをジグルクロン酸抱合体にまで変換することも確認した。またUGT1A8
が主に腸で発現している分子種であることを考慮して,ヒト肝と小腸ミクロソームにおけるジヒドロテストステロンのジグ
ルクロン酸抱合活性を比較した結果,小腸の方が肝よりも高い活性をもつことを見出している。
第6章では,総括として本研究で得られた主要な知見がまとめられている。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
生体内因性および外因性化合物の不活性化を担う重要な代謝反応のひとつであるグルクロン酸抱合では,抱合体のグルク
ロン酸部位にさらにグルクロン酸が抱合するという,薬物代謝学上きわめて興味深い現象が観察されることがある。このジ
グルクロン酸抱合については基質となる化合物の構造要件,活性の種差,触媒する酵素分子種など化学的あるいは生化学的
に未知な部分が多く,それらの知見は低分子化合物の生体内挙動を理解する上で重要である。本論文は,外因性の生体異物
のみならず内因性の生理活性分子もジグルクロン酸抱合を受けることを示す目的で実施した研究について,その成果をまと
めたものである。評価すべき点は,以下のとおりである。
1.グルクロン酸抱合反応のモデル基質として汎用される4-ヒドロキシビフェニルがイヌ肝ミクロソームによって構造的に
新奇なジグルクロン酸抱合体に代謝されることを見出し,その化学構造を質量分析および核磁気共鳴による解析から明らか
にした。
2.ジグルクロン酸抱合が内因性化合物に対しても起こるかどうかをステロイドホルモンを基質としてin vitro系で検討し
た結果,ヒトおよびサル肝ミクロソームがジヒドロテストステロンなどの一部基質をジグルクロン酸抱合するのに対し,イ
ヌ肝ミクロソームは用いた6種類の基質に対する抱合活性を有することを明らかにした。
3.ステロイドホルモンのジグルクロン酸抱合が実際に生体内で起こっているかどうかを検証する目的で,実験動物の胆汁
および尿中のジグルクロン酸抱合体を検索した結果,イヌのサンプルからエピアンドロステロンおよびデヒドロエピアンド
ロステロンをはじめとする複数のC19ステロイドのジグルクロン酸抱合体を検出することに成功した。
4.ヒト肝ミクロソームで活性が認められたジヒドロテストステロンのジグルクロン酸抱合に着目し,反応を触媒する
UDP-グルクロン酸転移酵素分子種を明らかにした。
以上のように,本論文は生体外異物のみならず内因性ステロイドホルモンに対するジグルクロン酸抱合活性が動物体内に
存在し,実際にイヌ体内で抱合体が生成していることを機器分析による化学構造解析を通じて明らかにした。また,複数存
在するヒトの酵素分子種のうち,ジヒドロテストステロンのジグルクロン酸抱合に係わるものを同定した。これらの結果は,
薬物代謝学,生物有機化学,生化学などの分野に寄与するところが大きい。
よって,本論文は博士(農学)の学位論文として価値あるものと認める。
なお,平成20年2月12日,論文並びにそれに関連した分野にわたり試問した結果,博士(農学)の学位を授与される学力
が十分あるものと認めた。