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特集 4 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 嗜好モデルを活用した 消費者理解とデザイン支援 Understanding Customer Preferences and Designing Sales Materials Using Preference Models デザインに対する人の好みは多様である。消費者1 人ひとりが、どのようなデザインの制作物を好むのか を知ることができれば、それらの好みに応じて制作物 を作り分けて発信することで、訴求効果を高めて購買 行動を誘発しやすくできる。 本論文では、まず、デザインに対する人の好みを類 型化した「嗜好モデル」の考え方について述べる。つ ぎに、この嗜好モデルに基づいて開発した「Media Image GAP Finding」という嗜好イメージ評価ツー ルについて紹介する。これは、情報発信者(企業等) が提供している制作物のイメージと、情報受信者(消 費者)の好む制作物のイメージとのギャップを見える 化し、情報受信者の好むイメージに応じた配色等のデ ザイン要素を考えていくためのデザイン支援ツール である。 Abstract There are diverse design preferences among customers. And knowing each consumer’s design preferences beforehand makes it possible to create and deliver materials for sales promotion according to those preferences. That would make the materials more appealing and thus make it easier to encourage consumers to buy a given product. This paper initially describes the idea of “Preference Models” that classify people’s preferences for design elements. It then introduces a taste and image evaluation method called “Media Image GAP Finding” that was developed based on the Preference Models. This method is a tool used to visualize the gap between the impressions of materials conveyed by the sender of information (e.g., a company) and the preferences of the recipient of that information (the consumer), and assist in determining such design elements as the color palettes that match the preferences of the recipient of information. 執筆者 小澤 一志(Kazushi Ozawa岸本 康成(Yasunari Kishimoto大村 賢悟(Kengo Omura研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス Communication Design Office, Research & Technology Group

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Page 1: Understanding Customer Preferences and …...特集 嗜好モデルを活用した 4 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 消費者理解とデザイン支援

特集

4 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

嗜好モデルを活用した 消費者理解とデザイン支援 Understanding Customer Preferences and Designing Sales Materials Using Preference Models 要 旨

デザインに対する人の好みは多様である。消費者1

人ひとりが、どのようなデザインの制作物を好むのか

を知ることができれば、それらの好みに応じて制作物

を作り分けて発信することで、訴求効果を高めて購買

行動を誘発しやすくできる。

本論文では、まず、デザインに対する人の好みを類

型化した「嗜好モデル」の考え方について述べる。つ

ぎに、この嗜好モデルに基づいて開発した「Media

Image GAP Finding」という嗜好イメージ評価ツー

ルについて紹介する。これは、情報発信者(企業等)

が提供している制作物のイメージと、情報受信者(消

費者)の好む制作物のイメージとのギャップを見える

化し、情報受信者の好むイメージに応じた配色等のデ

ザイン要素を考えていくためのデザイン支援ツール

である。

Abstract

There are diverse design preferences among customers. And knowing each consumer’s design preferences beforehand makes it possible to create and deliver materials for sales promotion according to those preferences. That would make the materials more appealing and thus make it easier to encourage consumers to buy a given product.

This paper initially describes the idea of “Preference Models” that classify people’s preferences for design elements. It then introduces a taste and image evaluation method called “Media Image GAP Finding” that was developed based on the Preference Models. This method is a tool used to visualize the gap between the impressions of materials conveyed by the sender of information (e.g., a company) and the preferences of the recipient of that information (the consumer), and assist in determining such design elements as the color palettes that match the preferences of the recipient of information.

執筆者 小澤 一志(Kazushi Ozawa) 岸本 康成(Yasunari Kishimoto) 大村 賢悟(Kengo Omura) 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス (Communication Design Office, Research & Technology

Group)

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特集

嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 5

1. はじめに

富士ゼロックスでは、より良いヒューマンコ

ミュニケーションを実現するためのドキュメン

トやメディアのあり方について長年研究を行っ

てきている。この伝統を継承して、私たちコミュ

ニケーション・デザイン・オフィスにおいても、

ドキュメントやメディアを中心に据えて、相互

に関連する4つのテーマについて研究を進めて

きた。

第1のテーマは、ドキュメントの評価手法や

診断技術に関する研究であり、帳票、マニュア

ル、Webページ等の商用文書の評価、改善案件

に携わりながら、読みやすく、使いやすく、ア

ピールするドキュメントを作成・改善するため

のガイドラインを作成するとともに、独自の評

価手法や診断ツールの開発を行ってきた。第2

のテーマは、ユーザーモデリングに関する研究

であり、性別、年代といったデモグラフィック

変数や購買履歴やアクセス履歴などではとらえ

きれない受け手の嗜好性、価値観、ライフスタ

イル、購買態度などの心理特性に基づいて受け

手を類型化し、受け手のタイプに応じてデザイ

ンを作り分けて情報発信を行うというアプロー

チの効用検証を実際のフィールドの中で試行し

ている。第3の研究テーマは、紙文書と電子文

書のメディア比較研究であり、両者のメリット

とデメリットを実験的に検証しながら、スマー

トな使い分け方法や融合手法、さらにはドキュ

メントの未来像についても探究している。第4

のテーマは、デザインセンスやスキルがない人

(ノンデザイナーズ)でも、受け手の嗜好にあっ

たデザインテイストを備えたプロのデザイナー

が作成するような質の高い制作物を迅速に作成

できる環境やサービスを提供することを目指し

て、プロのデザイナーのデザインノウハウを抽

出して、システムへ移植しデザインを合成する

技術(人工デザイン)の研究を進めている。

本稿で紹介する技術は、第1、第2の研究テー

マに関連したものであり、現在進行中の研究で

ある。

企業は、チラシやカタログ、Webサイト、ダ

イレクトメール等の制作物を使って、消費者や

ユーザーに対してさまざまな情報を発信してい

る。これらは、受け手に読んでもらい、受け手

の心に訴求できてはじめて、購買に向けた行動

を受け手に誘発させることができる。残念なが

ら、多くの制作物は、その目的を全うしないま

ま、読まれずに捨てられ、見過ごされ、あるい

は何ら受け手の記憶に残らずに忘れ去られてし

まう。

原因は、一言でいえば、その制作物が、受け

手に対して全く訴求するところがないからであ

ると、私たちは考える。そして、それは、受け

手が求めるものが何かを知らぬまま制作物を作

り発信した側に責任があるといわざるを得ない。

しかし、制作物の受け手は多数であり、訴求

ポイントも、人それぞれ異なると予想できる。

こうした場合、受け手としての消費者やユー

ザーを何らかの観点で分類、類型化したうえで、

それらのタイプにあわせて、制作物を作り分け

て発信するのが、効果的であろう。

私たちは、人の好みや何らかの対象物に対し

て保有するイメージを類型化した「嗜好モデル」

を構築するとともに、この嗜好モデルに基づい

て「Media Image GAP Finding(以下、MIGF)」

という嗜好イメージ評価ツールを開発し、制作

に関係する商談で活用している。

本論文では、まず、嗜好モデルについて説明

し、続いて、MIGFの主要機能である(1)人の

嗜好するイメージを知る機能、(2)制作物のイ

メージを推定する機能、(3)人の持つイメージ

と制作物の持つイメージのギャップを可視化す

る機能について述べる。最後に、MIGFの活用例

について紹介する。

2. 嗜好モデルの考え方と

Media Image GAP Finding

MIGFとは、情報発信者(企業等)の提供して

いる制作物のイメージが、対象となる消費者(情

報受信者)の嗜好や求めるイメージに合致して

いるか(ギャップがないか)を確認していきな

がら、人の嗜好や求めるイメージに応じた配色

等のデザイン要素を考えていくための嗜好イ

メージ評価ツールで、日本カラーデザイン研究

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特集

嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

6 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

-0-

嗜好モデル1

「キュート」

嗜好モデル2

「陽気」

嗜好モデル3

「親しみ」

嗜好モデル4

「開放感」

嗜好モデル5

「元気」 嗜好モデル6

「華やか」

嗜好モデル7

「動的」

嗜好モデル8

「情熱」

嗜好モデル9

「パワフル」

嗜好モデル10

「艶やか」

嗜好モデル11

「豪華」

嗜好モデル12

「充実」

嗜好モデル13

「ワイルド」

嗜好モデル14

「可憐」嗜好モデル15

「ロマンチック」

嗜好モデル16

「フェミニン」嗜好モデル17

「繊細」

嗜好モデル18

「優雅」 嗜好モデル19

「上質」

嗜好モデル20

「自然」

嗜好モデル21

「寛ぎ」

嗜好モデル22

「マイルド」嗜好モデル23

「快適」

嗜好モデル24

「新鮮」

嗜好モデル25

「静妙」

嗜好モデル26

「洗練」

嗜好モデル27

「知性」

嗜好モデル28

「風流」

嗜好モデル29

「伝統」

嗜好モデル30

「堅実」 嗜好モデル31

「ダンディ」

嗜好モデル32

「重厚」

嗜好モデル33

「格調」嗜好モデル34

「フォーマル」

嗜好モデル35

「シンプル」

嗜好モデル36

「清潔」

嗜好モデル37

「若さ」

嗜好モデル38

「明快」

嗜好モデル39

「先進感」

嗜好モデル40

「技術」

所1)の協力に基づいて開発したシステムである。

日本カラーデザイン研究所は、Warm⇔Cool、

Soft⇔Hardの直行座標で形成された、イメー

ジの違いを整理したり、その全体像を表現する

ためのものさしである“イメージスケール”2)

という考え方を使って、言葉から連想される色

や色から連想される言葉を等価交換できる仕組

みを保有しており、富士ゼロックスの持つ嗜好

モデル(図1)は、この仕組みを活用して作ら

れている。

図1に示した富士ゼロックスの嗜好モデルと

は、一言でいえば、多様な人の好みや対象に対

して持つイメージを40種類に類型化(分類)し

たもので、イメージスケール上で整理されてい

る360語の感性表現と等価交換の可能な各種

デザイン表現(単色・配色・造形物)に対する

人の好みを調査*1した結果に基づいて構築され

ており、図2は嗜好モデルと配色の関係を示し

ている。また、嗜好モデルは、数量化理論Ⅲ類*2

で抽出した次の6つの嗜好因子軸で説明するこ

とができる。

*1 サンプル構成を、性別・年代・地域に対して同数

に割りつけた4,800人に対するネット調査

*2 変数が質的データのときの主成分分析に相当する

数量化理論

① 「優(やさしい)⇔硬(かたい)」

② 「濃(こい)⇔淡(あわい)」

③ 「遊(あそび)⇔真(まじめ)」

④ 「剛(つよい)⇔柔(やわらかい)」

⑤ 「飾(そうしょく)⇔素(しんぷる)」

⑥ 「格(ほんかく)⇔愛(かわいい)」

嗜好モデルを構築するに当たっては、日本カ

ラーデザイン研究所のイメージスケール上でも

大まかに分類されているイメージゾーンを参考

にしながらも、制作をする場面において、この

モデルを使ってデザイン発注者とデザイナーの

間でやり取りされると想定される非常にセンシ

ティブな感性表現を仲介できるよう、できるだ

けモデルを細かく分類しており、各感性表現と

関係の強いデザイン情報もできるだけ詳細に分

けて整理し、参照が可能になるよう工夫している。

また、40種類の嗜好モデルが持つ6つの嗜好

因子軸に対する因子負荷量(カテゴリスコア)

の違いは、たとえば、図3の『解放感』と『元

気』のように、近似したイメージのモデル間の

違いを因子軸単位で詳細に確認することができ

るため、デザイン制作を進めるに当たり、関係

者間でモデル間のイメージの違いを共有する場

合に非常に有効である。

図1 富士ゼロックスの嗜好モデル Preference Models

図2 嗜好モデルと配色の関係 Relation between Preference Models and color scheme

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特集

嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 7

-1.1

-1.9

-0.2

1.9

2.0

1.5

-1.2

-0.1

-2.2

-0.2

0.8

2.0

-0.1

1.8

-2.0

-2.1

-1.2

0.5

元気

開放感

+-

+-

この嗜好モデルという考え方を活用するため

に開発したMIGFは、図4のように、大きく(1)

人の嗜好するイメージを知る機能、(2)制作物

のイメージを推定する機能、(3)人の持つイ

メージと制作物の持つイメージのギャップを可

視化する機能といくつかのサブモジュールから

構成されている。サブモジュールは、3つの機

能をより効果的に活用するためのもので、対象

となる人の好みに合致したデザイン情報を想定

する制作物に展開したときのイメージをシミュ

レーションする機能(イメージシミュレーター)、

制作された制作物が特定の色覚を持つ人にとっ

て見にくい部分を含んでいないかをシミュレー

ションする機能(CUD*3シミュレーター)等、

で構成されている。

次の章以降は、この構成に沿って、紹介を進

めることとする。

*3 カラーユニバーサルデザイン(Color Universal

Design)の意

3. 嗜好モデルで人の持つイメージを

知る

MIGFでは、対象となる消費者が好むイメージ

を判定するために、対象となる消費者が対象と

なる事柄に対してどのように態度形成*4する可

能性があるのかに応じて、感性語選択テスト(論

理・理性型嗜好判定)とビジュアル選択テスト

(直感・感覚型嗜好判定)の2種類の判定方法

を用意している。

Petty & Cacioppoによれば、広告物などに

よって消費者に何らかの態度形成を促す場合、

消費者に情報を処理する動機(モチベーション)

があり、かつ情報処理能力(知識)がある場合

(中心的ルート)と、その両方もしくはどちら

かが欠落している場合(周辺的ルート)では有

効な方法が異なり、前者の場合には、たとえば

経済性や操作性などを論理的に訴求することが

適しているのに対して、後者の場合には、審美

性やあこがれなどを直感的・感覚的に訴求する

ことが有効であるといわれている(精緻化見込

みモデル)3)(図5)。

MIGFを使って対象となる消費者の嗜好モデ

ルを判定する場合にも、対象となる商品やサー

ビスが成熟し、消費者がその商品やサービスを

購入するための充分な動機と知識を持つと想定

される場合と、動機を持たなかったり、新しい

*4 特定の対象に対して好意的・非好意的に振る舞う

学習された心的傾向の作られ方

図3 『解放感』と『元気』の嗜好モデル間での因子負荷量の比較

Comparison of two Models

図4 MIGFの機能構成 Functional composition of MIGF

図5 精緻化見込みモデル Elaboration likelihood model

(1)人の嗜好するイメージを

知る機能

(2)制作物のイメージを推定

する機能

人の嗜好性を判別するためのデータ

制作物の画像データ

(3)人の持つイメージと制作物の持つイメージのギャップを可視化する機能

デザイン情報とイメージシミュレーター

制作物に対するCUDシミュレーター

情報収集

精緻化の動機

精緻化の能力(知識)

感覚的(直感的)処理

態度形成

論理的(理性的)処理

目標設定

選択

中心的ルート

周辺的ルート

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嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

8 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

商品やサービスであるために態度を決めるため

の充分な知識や情報を保有しないまま態度を決

めなければならない場合とがあることはおおい

に考えられる。

そのため、その消費者の嗜好モデルを判定す

るときには、対象となる事柄に対する「動機の

強さ」と「知識の量」を把握するための設問を

組み合せて、両方が一定以上あると想定される

場合には、対象となる事柄に対する好みを論理

的・理性的に表現すると考え、モデルを作ると

きに想定した360の感性語の中から抽出した

「90種類の感性語」によるアンケート(表1)

を使う。どちらか(もしくは両方)が欠落、ま

たは不足していると考えられる場合には、直観

的・感覚的に表現する方が適していると考え、

直観的な好みの選択が可能な「ビジュアル(単

色・配色・造形物)」によるアンケート(図6)

を使って、どの嗜好モデルに近似している消費

者なのかを推定している。

いうまでもなく、消費者一人ひとりの嗜好傾

向は多様で、性別、年代、地域によっても異な

り、同じ消費者でも、時間の経過や環境の変化

によって嗜好が変化することもおおいにありう

る。たとえば、2008年のリーマンショックや

2011年の東日本大震災のような大きな社会変

化が発生した場合、消費者は自らの生活や社会に

対する考え方に影響を受けていると考えられ、継

続的な調査によって抽出された嗜好モデルの変

化が環境の変化に追従して消費者の嗜好傾向を正

しく映し出せているのかを検証する意味もある。

そのため、私たちコミュニケーション・デザ

イン・オフィスでは、毎年1回、全国の20歳代

~50歳代の社会人1,000名*5を対象に基礎調

査を実施し、調査した結果は、その年度ごとの

嗜好傾向を表す1つのデータとして商談時に活

用できるようにデータベース化している。

論理・理性型嗜好判定の調査に使用する設問

としては、「自分観」(どんな自分になりたいか?)

「生活感」(どんな生活を送りたいか?)「社会

観」(どんな社会に暮らしたいか?)の3種を継

続的に使用している。

この調査結果から、たとえば、図7のように*6

求めている「生活観」に関する2011年度の全

調査対象者の回答集計結果を2010年度と比べ

てみると、2011年度は『くつろぎ』『自然』『快

適』等の毎年上位にくるイメージ(黒実線)は

継続して上位に位置しているが、リーマン

*5 サンプル構成は、総務省統計局発行国勢調査デー

タに基づき、都道府県別の人口・性別・年代の比

率を参考に割りつけ *6 図7中の数字について

数字は、そのカテゴリー集団が各モデルに対して

持つ重みを100%に正規化したもの

表1 論理・理性型嗜好判定(感性語選択テスト)で

用いる90種類の感性語

90 KANSEI words used for judgment of Preference Models

図6 直感・感覚型嗜好判定(ビジュアル選択テスト) で用いるビジュアル Visuals Used for judgment of Preference Models

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嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 9

ショックという経済環境の悪化から脱しつつあ

ることを示していた2010年度にあった『はな

やか』が消え、『静妙』や『充実』に加えて再び

『堅実』(黒点線)が増加するように、求める「生

活観」に震災の影響が表れていることが時系列

で比較してみることで非常によくわかる。

また、2010年度の「生活観」に関する嗜好

イメージを20歳代と50歳代で比較してみると、

どちらの世代でも『くつろぎ』や『自然』は、

やはり「生活観」として求められるイメージの

上位にくるが、この2つの世代の結果を比率差

分析*7すると、図8に示すように、20歳代は50

歳代に比べると『元気』『動的』といった嗜好イ

メージが、50歳代は20歳代に比べるとより『く

*7 カテゴリー双方が回答時に選択した感性表現の選

択比率の差分を加重させて嗜好モデルを抽出する

手法

つろぎ』『自然』で『知的』な嗜好イメージが浮

かび上がってくる。つまり、20歳代にとっても

50歳代にとっても『くつろぎ』感や『自然』は

「生活観」を表現するうえではずしてはならな

い中心ではあるが、20歳代にとっては、そこに

『元気』で『動的』(ダイナミック)なエッセン

スを、50歳代にとっては、若い世代が感じてい

る以上の『くつろぎ』感に『知的』なエッセン

スが必要である、ということがわかるだろう。

さらに、嗜好モデルは日本人に対する調査結

果から構築したものではあるが、同種の研究を

グローバルに展開・実践することを想定し、日

本と諸外国との間の嗜好傾向の違いに関する基

礎的なデータ収集の1つとして、前述の「自分

2009年度嗜好モデルマップ 2010年度嗜好モデルマップ

増加

2011年度嗜好モデルマップ

増加

リーマンショック

東北大震災

回復の兆し

図7 2009年、2010年、2011年の生活観の比較 Comparison of 2009 map, 2010 map and 2011 map

図8 20歳代と50歳代の比較(比率差分析)

Comparison of 20’s and 50’s

20歳代に特徴的な嗜好モデル 50歳代に特徴的な嗜好モデル

※全員との比率差分析

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特集

嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

10 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

①自分観(Q)あなたがなりたい

と思う ~な人は?

②生活観(Q)あなたが送りたい

~な生活は?

③社会観(Q)あなたが暮らしたい

~な社会は?

アメリカ 中国 日本

順位 No 嗜好モデル % 順位 No 嗜好モデル % 順位 No 嗜好モデル %

1 8 情熱 5.80 1 2 陽気 5.80 1 2 陽気 6.34

2 5 元気 5.52 2 3 親しみ 5.34 2 3 親しみ 5.92

3 9 パワフル 5.44 3 5 元気 5.20 3 5 元気 5.02

4 7 動的 5.10 4 6 はなやか 4.52 4 4 開放感 4.89

5 21 くつろぎ 4.91 5 7 動的 4.34 5 37 若さ 4.78

順位 No 嗜好モデル % 順位 No 嗜好モデル % 順位 No 嗜好モデル %

1 21 くつろぎ 8.64 1 20 自然 7.45 1 21 くつろぎ 10.89

2 20 自然 7.04 2 21 くつろぎ 7.44 2 20 自然 9.02

3 23 快適 6.94 3 12 充実 5.33 3 23 快適 8.38

4 8 情熱 6.40 4 23 快適 5.20 4 3 親しみ 5.29

5 9 パワフル 6.18 5 3 親しみ 4.72 5 4 開放感 3.97

順位 No 嗜好モデル % 順位 No 嗜好モデル % 順位 No 嗜好モデル %

1 23 快適 8.22 1 5 元気 5.48 1 4 開放感 6.38

2 21 くつろぎ 7.94 2 21 くつろぎ 5.02 2 5 元気 6.32

3 20 自然 6.29 3 26 洗練 4.83 3 21 くつろぎ 6.21

4 2 陽気 6.13 4 2 陽気 4.65 4 20 自然 5.97

5 3 親しみ 5.96 5 4 開放感 4.53 5 2 陽気 5.38

観」「生活観」「社会観」に対して求めるイメー

ジに関する調査*8を、主に中国・アメリカを対

象に継続的に実施し始めている。その結果をみ

ると、図9のように、「自分観」については、中

国・日本とも『陽気』『親しみ』『元気』と比較

的親近感を感じさせるイメージで似通っている

のに対して、アメリカでは『情熱』『元気』『パ

ワフル』と強い力動感を感じさせるイメージを

求めているようである。これに対して、「生活観」

となると、日本・アメリカ・中国ともに『くつ

ろぎ』で『自然』な「生活観」を共通して求め

ていることがわかる。

また、ビジュアル選択テストを使って、直接

デザイン要素(単色・配色・造形物(カップ))

*8 各国100人、サンプル構成を、性別・年代に対し

て同数に割りつけ、ネット調査

に対する好みを問う設問(あなたが好きなもの

はどれですか?)を実施した結果をみると、図

10のように、単色では、中国・日本が『赤』を

最も嗜好しているのに対して、アメリカでは『青』

や『紺』のようなはっきりとした力強い色が上

位にきている。配色では、アメリカ・中国に比

べて日本ではトーンを押さえた柔らかい配色が

比較的好まれるようである。

このように、嗜好モデルを使って、対象とな

る消費者が対象となる事柄に対して求めるイ

メージや好みを知ることができれば、そのイ

メージを表現しやすい配色に代表されるデザイ

ン要素を特定していくことも可能になってくる。

図9 海外比較(自分観・生活観・社会観) Comparison of American, Chinese, and Japanese (ideal self image, lifestyle, and society)

図10 海外比較(単色・配色・造形物) Comparison of American, Chinese, and Japanese (preference for single color,color combination, and shape of objects)

アメリカ 中国 日本

単色 配色 カップ 単色 配色 カップ 単色 配色 カップ

順位 色 cunt 配色 cunt カップ cunt 順位 色 cunt 配色 cunt カップ cunt 順位 色 cunt 配色 cunt カップ cunt

1 7 41 11 31 23 25 1 1 41 9 32 1 36 1 1 286 2 298 2 248

2 31 30 5 28 14 24 2 10 30 17 32 18 32 2 7 257 20 283 14 210

3 1 27 7 27 1 14 3 4 29 20 32 15 28 3 6 244 12 274 23 205

4 36 27 1 23 2 14 4 7 27 29 28 7 26 4 3 236 1 231 21 195

5 8 26 17 23 5 14 5 6 25 1 25 11 25 5 4 212 25 224 6 194

6 30 22 15 18 7 12 6 33 19 5 25 21 24 6 10 208 29 214 18 191

7 6 20 20 17 6 11 7 3 18 25 24 2 21 7 14 175 21 179 19 191

8 32 20 25 17 19 11 8 8 17 12 21 13 18 8 2 171 9 177 7 166

9 5 18 3 16 24 11 9 14 16 2 18 14 17 9 36 167 5 172 11 163

10 9 18 12 16 16 10 10 9 15 21 17 6 16 10 9 162 11 161 13 163

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嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 11

図11に示した「デザイン情報」は、MIGFに

よって示される、対象となる消費者が好感を持

つイメージ(感性語)と相関の強いデザイン要

素(配色・モチーフ・フォント)を整理したも

のである。

サブモジュールの「イメージシミュレーター」

は、その「デザイン情報」で示された、対象と

なる消費者が好感を持つと考えられる色の中か

ら、MIGFの使用者が対象となる制作物のメイン

カラー(基調色)を選択すると、選択されたメ

インカラーに応じた10種の色*9が自動的に検

索される。あわせて、想定したいレイアウトを

選択するだけで、準備したレイアウト上に検索

された10種の色が自動的に合成・展開できるの

で、対象となる制作物に対するレイアウトがガ

イドラインやレギュレーション等によって事前

に決まっている場合に、そのレイアウト情報を

MIGFに登録しておくことで、制作物の受け手の

好みに応じた制作物のイメージを容易にシミュ

レーションできる。

*9 選択されたメインカラーに応じたサブカラー/ラ

イトカラー/ダークカラー/文字色/ベースカ

ラー/アクセントカラー/ディープカラー等の色

4. 嗜好モデルで制作物の持つイメー

ジを知る

MIGFには、デザインされた制作物をビット

マップ形式で読み取り、その配色を解析するこ

とで、イメージスケール上の感性表現に置きな

おし、該当する制作物が直観的にどの嗜好モデ

ルに属するかを判定する機能が実装されている。

この制作物の色彩分析には、ヒュー&トーン

解析法4)を使用する。これは、読みこまれたビッ

トマップファイルを画素単位で集計し、その

ビットマップが使用している色のボリュームを

ヒュー&トーンカラーシステム5)にマッピング

するもので、使用されている色のボリュームと

主要色の組み合わせによって、「まとまり配色」

や「トーン配色」のような近似色中心の構成で

あればその面積比を考慮した重心座標を、「色相

配色」のような高彩度で多色相の構成であれば、

重心座標に補正をかけて、カラーイメージスケー

ル上の感性表現と結びつける解析方法である。

図11 嗜好モデルに応じたデザイン情報とイメージシミュレーター Design information for Preference Models and image simulator

イメージスケールを使った判別結果

モデルに応じたデザイン情報

理性的判定 直観的判定

(単純集計/共通/比率差)

イメージシミュレーター

対象となる消費者が好感を持つイメージと相関の強い配色

メインカラー(基調色)の選択

選択されたメインカラーに応じて自動検索された10種の色

レイアウトの選択

制作物のシミュレーション結果

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嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

12 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

ヒュー&トーン解析法によって、図12に示す

サンプルは、“なじみやすい”“のんびりし

た”“ふくよかな”といった感性語と結びつき

やすい配色で構成されており、嗜好モデルでい

えば『マイルド』『くつろぎ』のゾーンに対する

親和性が強いイメージでデザインされている、

といったことがわかってくる。

さらに、MIGFでは、人の視覚特性によって異

なる色の見え方も人の多様性の1つである、と

の考え方に基づいて、読みこんだビットマップ

ファイルに対する画像分析機能を活用すること

で、対象となる制作物が色弱の人にとって見分

けにくいところを含んでいないかを確認するた

めのCUD(カラーユニバーサルデザイン)シ

ミュレーションが可能である。

色変換にはViénot, Brettel and Mollonが提

唱したいわゆるMollonモデル6)を修正して使用

している(図13)。修正したMollonモデルでは、

オリジナルのsRGB画像のRGB値をCIE XYZ

色に変換した後7)、Smith-Pokornyの正常色覚

での色覚モデル8)により3刺激値(L,M,S)を導

出し、さらに、ここから2種類の色覚に対応す

る3刺激値(LP/D,MP/D,SP/D)を求めて、RGB値

への逆変換を行うことで、2色覚のsRGB画像を

再現する。

色は、目の錐体(すいたい)細胞の光の感じ

方で識別され、錐体にはL(赤)/M(緑)/S

(青)の3種類がある。このすべてが標準的に

揃っている人が一般色覚(C型)といわれ、こ

の錐体の状態が違う人(色覚異常者、色弱者)

のうち、L錐体がないもしくはM錐体と似通っ

ている人を1型色覚(P型色覚)、M錐体がない

もしくはL錐体と似通っている人を2型色覚(D

型色覚)と呼ぶ。P型色覚またはD型色覚の人は、

図12 ヒュー&トーン解析のイメージ Hue and tone analysis

削減されたLp,Mp,Sp (第1)Ld,Md,Sd (第2)

削減されたXp,Yp,Zp (第1)Xd,Yd,Zd (第2)

各ピクセルのRGB値I,J,K

物理的輝度R,G,B

調整されたR2,G2,B2

CIE XYZ表色系X2,Y2,Z2

3刺激値L,M,S

削減されたRp,Gp,Bp (第1)Rd,Gd,Bd (第2)

削減されたIp,Jp,Kp (第1)Id,Jd,Kd (第2)

R=(I/255)2.2

G= (J/255)2.2

B= (K/255)2.2

γ値2.2

X2

Y2 = RGB_to_XYZZ2

40 .9568 35.5041 17.9167 R2

= 21.3389 70.6743 7 .9868 G2

1 .86297 11.4620 91.2367 B2

ITU-R BT.709規格

L X2

M = XYZ_to_LMS Y2

S Z2

0 .15514 0 .54312 -0.03286 X 2

= -0.15514 0.45684 0.03286 Y2

錐体が受ける3刺激値への変換

Ld 1 0 0 LMd = 0.494207 0 1.24827 MSd 0 0 1 S

2色型色覚の色範囲への削減

オリジナル画像

モニター画面上の物理的輝度

RGBからIJKへの変換 XYZからRGBへの変換 LMSからXYZへの変換

2色型色覚変換画像

変換

逆変換

R2

G2

B2

0 .01608 Z20 0

第1 色盲

第2 色盲

Lp 0 2.02344 -2.52581 LMp = 0 1 0 MSp 0 0 1 S

図13 修正版Mollonモデル Modified Mollon’s conversion logic

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 13

日本では男性の約20人に1人、女性の約500人

に1人の割合でいるとされている9)。

ヒュー&トーン解析のために読みこんだオリ

ジナル画像を、「P型色覚」および「D型色覚」

の人にとっての見え方にシミュレーション(擬

似変換)した画像が図14となる。

5. 嗜好モデルで人の持つイメージと

制作物の持つイメージのギャップ

を知る

嗜好モデルを使って、消費者が対象に対して

好感を持つイメージを知り、あわせてその消費

者に好感を持ってもらうために作られた制作物

のイメージを知ることにより、双方を同一のイ

メージスケール上にマッピングすることで、そ

の間のギャップを知ることが可能になる。

制作物のよい悪いは消費者(受け手)が決め

るものであり、本来、制作物自体に善し悪しは

ない。あくまでも受け手の好みや対象に対して

期待しているイメージに合致しているかどうか、

がポイントであるから、この両者を常に対比しな

がら制作物のデザインを進めていく必要がある。

たとえば、図15のように、対象者の好みが『陽

気』であった場合、制作物Bよりも制作物Aのほ

うが『陽気』を感じさせる制作物としては適し

ており(制作物Aおよび制作物Bの位置は前述

ヒュー&トーン解析によって抽出された座標)、

もし制作物Bのレイアウトで『陽気』を感じさ

せる制作物を作ろうとするならば、配色等のデ

ザイン要素を修正する必要がある、ということ

になるだろう。

また、イメージの“ギャップ”は、受け手が

好感を持つイメージと制作物が感じさせる可能

図14 CUDシミュレータによる擬似変換イメージ Converted image using color universal design simulator

制作物A

制作物B

図15 GAP分析のイメージ GAP analysis between customer’s PreferenceModels and visual image

一般色覚(C型) 1型色覚(P型色覚) 2型色覚(D型色覚)

← ヒュー(色相) → ← ヒュー(色相) → ← ヒュー(色相) →

トーン

トーン

トーン

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嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

14 富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014

性のあるイメージとの間以外にも、発注者と受

注者の間の対象に対するイメージのギャップ、

制作指示をする人(ディレクター)とデザイナー

の間のイメージのギャップ、オーナーが作りた

いお店のイメージと来店者が期待するイメージ

の間のギャップ、企業が想定するブランドイ

メージと消費者の感じているイメージの間の

ギャップ等、人と人とのコミュニケーションが

あるところには必ず発生する可能性がある。

嗜好モデルの考え方とMIGFによって、さまざ

まな場面で発生しているイメージのギャップを

数量的・視覚的に把握することで、ギャップを

生んでいる制作物の実装しているデザイン要素

を変更しデザイン自体を改善することはもちろ

ん、消費者理解を前提とするデザイン依頼者と

デザイナーの間のコミュニケーションを活性化

する切り口が見えてくる可能性が生まれてくる

ことに大きな価値がある。

6. おわりに

私たちコミュニケーション・デザイン・オフィ

スでは、現在、嗜好モデルの考え方とMIGFをさ

まざまな業種のさまざまなお客様との商談の中

で、消費者を理解するための切り口として活用

し、その有用性の検証を進めている。

住宅設備・ファッション・保険業等において

販売促進支援を目的に嗜好モデルを単独で使用

した事例や、消費者をより多層的に知るために、

嗜好モデルにその消費者の持つ価値観や消費傾

向を組み合わせた、大学・製造・小売業等にお

けるプロモーション全体を支援するに至った事

例、大日本印刷の「価値観データベース」に嗜

好モデルを組み合わせた協業事例10)等、ビジネ

ス現場への教育や支援も並行して実施すること

で、着実に展開されつつある。

ただし、MIGFは現在進行形のシステムである

ので改善の余地はまだたくさんある。たとえば、

現在制作物のイメージ判定は、カラーイメージ

のみに基づいて行っているが、より正確な判定

には、レイアウト、文字種(フォント)、モチー

フ画像などについての感性評価結果をイメージ

判定に加味する必要があり、現在その研究を進

めている。また、現在のMIGFは、大きく3つの

機能で構成されているが、各機能を独立して切

り離せるようにはできていない。他システムと

の連動や組み込みを想定した機能モジュール化

も並行して進めている。

MIGFは、すでに多くのビジネス現場で活用し

つつあるが、同時に研究を推進するためのプ

ラットフォームとも位置づけており、本稿冒頭

で述べたドキュメントやメディアに関するコ

ミュニケーション・デザイン・オフィスの4つ

のテーマの研究成果を順次組み込んでいく予定

である。現在のMIGFは、主にドキュメント診断

(第1のテーマ)とユーザモデリング(第2の

テーマ)を支援するツールであるが、今後「紙

の材質感のシミュレーション表示」「紙と電子の

クロスメディアトータルデザイン」(第3のテー

マ)、感性要求によるクリエイティブのデザイン

合成やバリエーション生成技術(第4のテーマ)

などを、ビジネス現場で活用しながら組み込ん

でいくことで、制作物のデザインを支援するた

めの本当に有効なシステムに進化させていきた

いと考えている。

7. 商標について

Media Image GAP Findingは、富士ゼロッ

クスの登録商標です。

その他、掲載されている会社名、製品名は、

各社の登録商標または商標です。

8. 参考文献

1) http://www.ncd-ri.co.jp/

2) 小林重順, “カラーシステム”. 講談社,

(1999).

3) R.P. Pretty, and J.T. Cacioppo, “The

Elaboration LikeLihood Model of

Persuasion”, In L. Berkowitz(Ed.)

Advances in Experimental Social

Psychology, Vol.19, pp. 123-205.,

Academic Press. (1986).

4) 広瀬吉嗣, 田中徹, 三平寿江, 澁田一夫, 大

山努, 酒井桂, 潟澤秀人 (富士ゼロックス),

特許3562516号.

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嗜好モデルを活用した消費者理解とデザイン支援

富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014 15

5) http://www.ncd-ri.co.jp/about/

image_system/huetonesystem.html

[カラーシステムとは (日本カラーデザイ

ン研究所)]

6) F. Viénot, H. Brettel, and J. Mollon,

“Digital Video Colourmaps for

Checking the Legibility of Displays by

Dichromats”, Color Research and

Application Vol. 24, No 4, pp.243-252

(1999).

7) IEC 61966-2.1標準規格

8) V.C. Smith, & J. Pokorny, “Spectral

Sensitivity of the Foveal Cone

Photopigments Between 400 and

500 nm”, Vision Research, Vol.15,

pp.161-171 (1975).

9) NPO法人・カラーユニバーサルデザイン機

構, “Color Universal Design カラーユニ

バーサルデザイン”, ハート出版, (2009).

10) http://www.dnp.co.jp/news/

10029856_2482.html

[最適なプロモーションを提案する「カスタ

マーフォーカスマーケティング」サービス

に顧客の価値観と嗜好を分析するメニュー

を追加 (大日本印刷株式会社)]

筆者紹介

小澤 一志 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィスに所属

専門分野:ユーザーモデリングおよびメディア評価に関する研究を

活用したコンサルティング

岸本 康成 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィスに所属

専門分野:カラーマネジメント技術

大村 賢悟 研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィスに所属

専門分野:認知科学