fuji xerox technical report no.25 07-t2 · 2017. 11. 30. · 技術論文...

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技術論文 富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016 63 高信頼ロングライフドラムユニット Highly Reliable Long-life Drum Unit 地球温暖化防止、低炭素社会の実現に向けて、複合 機には「省エネ性」と「利便性」の両立が強く求めら れている。この要求にこたえるべく、富士ゼロックス ではドラムユニットの高信頼化、長寿命化のため、感 光体の摩耗のメカニズムを可視化計測や数値シミュ レーション、材料分析により解明し、トナーから遊離 した外添剤量が感光体の摩耗の主要因であることを 明らかにした。さらに、クリーニングブレードから感 光体へ作用する垂直荷重の変動抑制、感光体表面の低 摩擦化、外添剤堆積量の抑制など、関連する重要なパ ラメーターを最適化することで、従来のドラムユニッ トに対して2倍の長寿命化を実現した。本ドラムユ ニットは、カラー複合機「ApeosPort/ DocuCentre- Ⅳ C2270/C3370/C4470/C5570」シリーズに 搭載し、全世界で100万台以上が販売され、CO 2 排出 量の削減とお客様の利便性向上に貢献している。 Abstract For the purpose of preventing global warming and creating a low-carbon society, multifunction printers must now be able to ensure both energy efficiency and user-friendliness. In response to these requirements, Fuji Xerox introduced its color multifunctional printer series—ApeosPort-IV C2270/C3370/C4470/C5570 and DocuCentre-IV C2270/C3370/C4470/C5570. In this article, we explain the technology adopted in these series products to make xerographic drum units more reliable and longer lasting. In developing this technology, we investigated the wear mechanism of drum units through visualization of the photoreceptor cleaning process, numerical simulation, and material analysis. This investigation led to optimization of the parameters affecting the service life of a drum unit, consequently doubling the current service life. We have sold more than one million products of the above series worldwide, thus contributing to both lower CO 2 emissions and improved customer convenience. 執筆者 中山 信行(Nobuyuki Nakayama*1 新井 和彦(Kazuhiko Arai*2 *1 研究技術開発本部 基盤技術研究所 Key Technology Laboratory, Research & Technology Group*2 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム 開発部 Advanced Marking Platform Development, Device Development Group【キーワード】 ロングライフ、摩耗、感光体、クリーニングブ レード、外添剤、可視化、個別要素法 Keywordslong life, wear, photoreceptor, cleaning blade, additive, visualization, distinct element method

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  • 技術論文

    富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016 63

    高信頼ロングライフドラムユニット Highly Reliable Long-life Drum Unit

    要 旨 地球温暖化防止、低炭素社会の実現に向けて、複合

    機には「省エネ性」と「利便性」の両立が強く求めら

    れている。この要求にこたえるべく、富士ゼロックス

    ではドラムユニットの高信頼化、長寿命化のため、感

    光体の摩耗のメカニズムを可視化計測や数値シミュ

    レーション、材料分析により解明し、トナーから遊離

    した外添剤量が感光体の摩耗の主要因であることを

    明らかにした。さらに、クリーニングブレードから感

    光体へ作用する垂直荷重の変動抑制、感光体表面の低

    摩擦化、外添剤堆積量の抑制など、関連する重要なパ

    ラメーターを最適化することで、従来のドラムユニッ

    トに対して2倍の長寿命化を実現した。本ドラムユ

    ニットは、カラー複合機「ApeosPort/ DocuCentre-

    Ⅳ C2270/C3370/C4470/C5570」シリーズに

    搭載し、全世界で100万台以上が販売され、CO2排出

    量の削減とお客様の利便性向上に貢献している。

    Abstract

    For the purpose of preventing global warming andcreating a low-carbon society, multifunction printersmust now be able to ensure both energy efficiencyand user-friendliness. In response to theserequirements, Fuji Xerox introduced its colormultifunctional printer series—ApeosPort-IVC2270/C3370/C4470/C5570 and DocuCentre-IVC2270/C3370/C4470/C5570. In this article, we explainthe technology adopted in these series products tomake xerographic drum units more reliable and longerlasting. In developing this technology, we investigatedthe wear mechanism of drum units throughvisualization of the photoreceptor cleaning process,numerical simulation, and material analysis. Thisinvestigation led to optimization of the parametersaffecting the service life of a drum unit, consequentlydoubling the current service life. We have sold morethan one million products of the above seriesworldwide, thus contributing to both lower CO2emissions and improved customer convenience.

    執筆者 中山 信行(Nobuyuki Nakayama)*1 新井 和彦(Kazuhiko Arai)*2 *1 研究技術開発本部 基盤技術研究所

    (Key Technology Laboratory, Research & TechnologyGroup)

    *2 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム開発部 (Advanced Marking Platform Development, Device

    Development Group)

    【キーワード】

    ロングライフ、摩耗、感光体、クリーニングブ

    レード、外添剤、可視化、個別要素法

    【Keywords】

    long life, wear, photoreceptor, cleaning blade,

    additive, visualization, distinct element method

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    64 富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016

    1. はじめに

    地球温暖化防止、低炭素社会の実現に向けて、

    複合機メーカー各社がCO2排出量の削減へ取り

    組んでいる中で、「省エネ性」だけでなく、「利

    便性」との両立が強く求められている。この要

    請に対する取り組みとして、画像形成のための

    ドラムユニットの長寿命化がある。従来のドラ

    ムユニットの標準的なライフは、数万枚程度で

    あった。ドラムユニットの長寿命化を実現でき

    れば、廃棄ユニットの削減によって、廃棄する

    ためのCO2排出量の削減に大きく貢献できる。

    また同時に、修理、メンテナンスによるダウン

    タイムが短縮され、お客様の利便性も高めるこ

    とができる。

    この狙いに対して、富士ゼロックスは「高信

    頼ロングライフドラムユニット」を開発した。

    本ドラムユニットを開発するにあたって獲得し

    た技術や性能の特長を以下に示す。

    ① 感光体の摩耗メカニズム解析技術

    ライフを決定する主因であるクリーニングプ

    ロセスでの感光体の摩耗現象に着目し、可視

    化計測/数値シミュレーション/材料分析の

    総合的な解析により感光体の摩耗メカニズム

    を明らかにした1)-4)。

    ② ドラムユニットの実装技術

    感光体の磨耗メカニズムから得た設計指針を

    もとに、感光体、クリーニングブレード、帯

    電ロールなどのドラムユニット構成部材とパ

    ラメーターを体系的/総合的に最適化して実

    装した5)。

    ③ 感光体の摩耗ばらつき、ライフ性能

    ドラムユニットの信頼性を向上させ、高い利

    便性と省エネ効果を達成した。

    本ドラムユニットは、従来のドラムユニット

    に対して2倍の長寿命化と信頼性の向上を実現

    し 、 2009 年 に 上 市 し た カ ラ ー 複 合 機

    「 ApeosPort/DocuCentre- Ⅳ C2270/

    C3370/C4470/C5570」シリーズ(図1)

    に搭載された。本ドラムユニットの採用により、

    お客様の利便性を高めるとともにCO2排出量を

    削減し、省エネの向上に大きく寄与した6)。本

    稿では、本ドラムユニット向けに開発した技術

    と得られた性能について説明する7)。

    2. 感光体の摩耗メカニズム解析技術

    2.1 解析の着目点

    ドラムユニットの断面構成を図2に示す6)。ド

    ラムユニットのライフは、クリーニングブレー

    ドと感光体表面との摩擦による感光体の摩耗現

    象が最大の要因であると推定されていたが、こ

    のような現象を直接計測したり定量化したりす

    ることが困難であるため、そのメカニズムの詳

    細は未解明であった。我々は、クリーニングプ

    ロセスにおける感光体の摩耗に寄与する因子や、

    画像形成条件との関係などのメカニズムを詳細

    に解明するため、クリーニングブレードと、ブ

    レード近傍のトナーの挙動に着目して、新たに

    可視化計測技術と個別要素法による数値シミュ

    レーション技術を開発した1)-3)。

    帯電ロール

    クリーニングブレード

    感光体

    帯電ロールクリーナー

    図1 ApeosPort-Ⅳ C5570

    図2 ドラムユニット Drum unit

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016 65

    2.2 可視化計測による解析結果

    クリーニングプロセスは、トナーがドラムの

    回転に伴って、クリーニングブレード方向に搬

    送され、ブレード先端部でトナーをせき止める

    ことでドラム表面をクリーニングする。ブレー

    ド先端部にはトナーや、トナー表面から遊離し

    た外添剤が堆積した状態(以降、ダム)が形成

    される。図3は、クリーニングプロセスをモデ

    ル化したブレード部の可視化計測装置構成を示

    す。ガラス製ドラム上にクリーニングブレード

    および現像ユニットを配置し、高速度カメラを

    用いてドラムに当接させたクリーニングブレー

    ドにトナーと外添剤の粒子群が堆積する様子を

    観測した。その結果を図4に示す。下方の黒い

    領域がブレードであり、ブレード上端に白い筋

    として見えているのが外添剤、さらにその上方

    がトナーである。定常状態では、トナーと外添

    剤の粒子群が連続的に搬送されながらも、ク

    リーニングブレード先端部に堆積する量は大き

    く変化していないことから、ブレード先端部で

    せき止められたトナーと外添剤の粒子群が循環、

    対流している状態にあると考えられる。

    図5は、図4に示されているブレード近傍のド

    ラム表面の堆積物を拡大撮影した結果である。

    上述した観測結果のとおり、プレニップ領域(ブ

    レードとドラム表面とが接触するニップ部の直

    前の領域)のブレード最近接部に外添剤のみが

    筋状に堆積し、そのさらに上流側(図の上側)

    に外添剤を含むトナーが堆積していることがわ

    かった。外添剤がブレード端部に筋状に偏在し

    ていることから、ブレードはこの堆積した外添

    剤を介してドラムに当接しており、外添剤が感

    光体を損傷させて摩耗させることが推定できる。

    2.3 個別要素法シミュレーションによる

    解析結果

    前節で述べた観測結果を検証し、さらに、ト

    ナーと外添剤の運動状態を定量的に検討するた

    め、個別要素法による数値シミュレーションモ

    デルを構築した1), 2)。

    数値シミュレーションモデルを図6に示す。

    本シミュレーションでは、赤色で示したトナー

    と、青色および緑色で示した2種類の外添剤を

    計算対象とした。トナーに外添剤を付着させた

    状態で感光体上に配置し、感光体を一定速度で

    外添剤トナー

    20 μm ガラス製ドラム

    図4

    駆動モーター

    高速度カメラ

    現像ユニット

    クリーニングブレード

    長焦点マイクロスコープ

    高速度カメラシステム

    ガラス製

    ドラム

    照明

    トナー

    クリーニング

    ブレード

    ガラス製

    ドラム

    ブレード

    外添剤トナー

    図3 ブレード部可視化計測装置 Visualization measurement apparatus

    図5 堆積したトナーと外添剤の拡大図 Enlarged view of deposited toner and additives

    図4 観測したブレード部近傍のトナーと外添剤

    Toner and additives deposited around blade

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    66 富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016

    移動させた。変形したブレード表面は剛体壁と

    して扱い、所定の周期数、振幅で正弦的に変位さ

    せた。

    シミュレーションから算出したトナーと外添

    剤の分布状態を図7に、速度分布を図8に示す。

    図7では、トナーと外添剤が感光体によって搬

    送され、ブレード壁によってせき止められて堆

    積した状態が示されており、トナーから遊離し

    た外添剤が、ブレード最近接部に偏在して堆積

    していることがわかる。また、図8に示す速度

    分布から、ブレードの先端部でトナーと外添剤

    が堆積しダムを形成するが、それらは常に流動

    し、反時計方向に循環対流していることがわか

    る。一方で、ブレード最近接部に偏在して堆積

    している外添剤の速度は小さく、ほとんど静止

    していることが確認できた。

    2.4 外添剤堆積量と感光体摩耗レートの

    解析結果

    ブレード近傍に堆積した外添剤量を分析し、

    外添剤堆積量と感光体摩耗レート(相対値)の

    関係を求めた結果を図9に示す。外添剤堆積量

    と感光体摩耗レートは、ほぼ線形の相関があり、

    ブレード近傍に堆積した外添剤が摩耗を促進す

    る主要因であり、外添剤の堆積量により、摩耗

    レートを制御できることがわかった。

    外添剤の堆積は、いわゆる粒度偏析の一種と

    考えられ、この偏析にはトナーと外添剤の粒子

    群の流動状態、すなわち速度の大小が影響する

    と考えられる。

    2.3節で述べた数値シミュレーション技術に

    より、トナーと外添剤の速度と外添剤堆積速度

    の関係を求めた結果を図10に示す。横軸は、ト

    ナーと外添剤が対流しているときのトナーと外

    添剤の粒子群の平均速度であり、縦軸はブレー

    ド最近接部に堆積する外添剤の増加個数割合を

    示す。トナーと外添剤の粒子群の平均速度増加

    により外添剤堆積の増加速度は低下しており、

    外添剤堆積量が減少する傾向にあった。これら

    から外添剤の堆積量は、トナーと外添剤の粒子

    クリーニングブレード

    トナー

    外添剤A

    外添剤B

    感光体 →

    堆積外添剤

    クリーニングブレードトナー

    外添剤A

    外添剤B

    感光体

    速度ベクトルクリーニング

    ブレード

    感光体 →

    堆積外添剤

    0.6

    0.7

    0.8

    0.9

    1.0

    1.1

    1.2

    1.3

    0 50 100 150

    感光

    体摩

    耗レ

    ート

    [-]

    外添剤堆積量[μm3]

    図6 トナー/外添剤挙動シミュレーションモデル Model for motion simulation of toner and additives

    図8 トナー/外添剤挙動の速度分布 Distribution of velocities of toner particles and additives

    図7 トナー・外添剤挙動シミュレーション結果 Simulated results of motion of toner particles and additives

    図9 摩耗レートと堆積した外添剤体積の関係

    Relation between wear rate and volumeof deposited additives

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016 67

    群の流動性により制御できることがわかった。

    さらに、トナーと外添剤からなる粒子群の流

    動性は、外添剤の種類に依存すると考えられる。

    外添剤の種類の違いによる、トナーと外添剤の

    流動性変化を評価した結果を図11に示す。外添

    剤には、潤滑剤を含有しないAタイプと、潤滑

    剤を含有するBタイプ、Bとは異なる潤滑剤を含

    有するCタイプの3種類を用いた。それぞれの外

    添剤とトナーとの流動状態を観察してグレード

    づけした。図11のとおり、外添剤の種類により

    流動性が変化することが検証できた。

    以上より、外添剤の種類を適切に選択するこ

    とで、トナーと外添剤の流動性と速度が制御で

    きるようになった。それによって、ブレード近

    傍の外添剤堆積量と、さらには感光体の摩耗

    レートを制御できることが示された。

    3. ドラムユニットの実装

    前章に示したメカニズムをもとに、「高信頼ロ

    ングライフドラムユニット」を開発した。ドラ

    ムユニットの長寿命化、高信頼化のため、感光

    体、クリーニングブレード、帯電ロールのそれ

    ぞれを長寿命化する必要があった。これらに関

    する主要因子を特定して、体系的、総合的に最

    適化した技術について本章で説明する。

    3.1 感光体の長寿命化

    感光体の長寿命化のため、感光体の摩擦を抑

    制する主要施策として、次の技術を導入した。

    ① 感光体表面へのブレード垂直荷重変化抑制

    クリーニングブレード剛性を小さくすること

    で、他の因子のばらつきによる感光体表面へ

    の垂直荷重の変化を小さくする。

    ② 感光体表面の低摩擦化

    感光体表面に表面エネルギーの小さい材料を

    用いたり、感光体表面に潤滑材料を配置した

    りすることで、感光体表面を低摩擦化する。

    ③ 外添剤堆積量の変動抑制

    外添剤の処方を最適化することにより、ブ

    レードプレニップ領域に堆積する外添剤量を

    減らし、画像形成条件による堆積量の変動を

    抑制する。

    主要施策②から、感光体は図12に示すような

    層構造とした。アルミニウム基材上に下引層、

    電荷発生層を形成する。さらに、電荷輸送材料

    とバインダにポリテトラフルオロエチレン微粒

    子を添加し分散した電荷輸送層を形成した構造

    となっている。

    3.2 クリーニングブレードの長寿命化

    クリーニング性能を長期間維持するためには、

    次の要件を満たす必要がある。

    電荷輸送層

    電荷発生槽

    下引層

    アルミニウム基材

    -0.06

    -0.04

    -0.02

    0.00

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.10

    2.0 4.0 6.0 8.0

    外添

    剤堆

    積速

    度[m

    m/s]

    トナーと外添剤の速度[/s]

    0

    1

    2

    3

    4

    5

    A B C

    流動

    性グ

    レー

    外添剤/トナーの処方

    図10 トナー/外添剤の速度と外添剤堆積速度の関係 Relation between deposition rate of additives and average velocity of toner particles and additives

    図11 外添剤処方によるトナー/外添剤の流動性変化

    Difference in fluidity of toner and additivesamong different types of additives

    図12 感光体の層構造 Layer structure of photoreceptor

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    68 富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016

    経時による垂直荷重の変化量が少ない。

    感光体表面と接触するクリーニングブレー

    ドのエッジ部の摩耗量、劣化が少ない。

    この2つの要件は、ブレードゴム材料の特性

    として相反する傾向があるため、機能分離して

    2種類のゴムを積層したブレードを新規開発し

    た(図13)8)。ブレードの表面層は、裏面層に

    比較して、ヤング率が高く、高硬度かつ低反発

    の素材で形成されている。このような2層ブ

    レードの採用により、垂直荷重の変化量、エッ

    ジ部の摩耗量共に従来の半分以下を達成した。

    同時に、垂直荷重を低めに設定することと、長

    期にわたりトナーや外添剤のすり抜けを抑制す

    ることが可能となり、感光体、帯電ロールの長

    寿命化に対しても寄与している。

    3.3 帯電ロールの長寿命化

    帯電ロールは、経時・履歴による部材自体の

    抵抗変化や、帯電部材表面へのトナーや外添剤

    の付着による帯電特性の不均一化によって、画

    像欠陥が発生して寿命となる。新規に開発した

    帯電ロールは、すべての構成材料を見直し、材

    料の経時による物性の変化を緩和した。また、

    帯電ロールの表面形状を制御することにより、

    トナーや外添剤などによる耐汚染性を改善した。

    同時に帯電時の低放電ストレス化を実現してお

    り、感光体摩耗改善に対しても寄与している。

    4. 感光体の摩耗量ばらつき・ドラムユ

    ニットライフ性能

    採用した技術における感光体の摩耗量ばらつ

    き、高信頼ロングライフドラムニットのライフ

    性能を本章で説明する。

    4.1 感光体の摩耗量ばらつき

    図14は、感光体の軸方向における摩耗量の分

    布を示す。従来のドラムユニットでは、感光体

    表面の軸方向両端部が中央部よりも大きく摩耗

    感光体トナー

    板金

    HSG

    表面層

    裏面層

    ホルダー

    表面層裏面層

    図13 2層クリーニングブレードの層構造(上)とレイアウト(下)

    Structure of two-layered cleaning blade (above) and itslocation in a drum unit (below)

    図14 従来技術における摩耗量分布(上)と本改善技術におけ

    る摩耗量分布(下) Wear depth distribution of a conventional drum unit(above) and that of an improved drum unit (below)

    従来技術の感光体磨耗量

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    3.5

    4.0

    0 50 100 150 200 250 300

    感光体軸方向位置(mm)

    感光

    体摩

    耗量

    (μ

    m)

    (1

    00

    kcyc

    時点

    軸両端部が磨耗

    本技術の感光体磨耗量

    0.0

    0.5

    1.0

    1.5

    2.0

    2.5

    3.0

    3.5

    4.0

    0 50 100 150 200 250 300

    感光体軸方向位置(mm)

    感光

    体摩

    耗量

    (μ

    m)

    (1

    00

    kcyc

    時点

    ばらつきを抑制

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016 69

    している。これに対して、新しく開発したドラ

    ムユニットの感光体では軸方向の摩耗ばらつき

    が抑制される。

    このような感光体摩耗ばらつき抑制効果を総

    合的に評価した結果を図15に示す。新しく開発

    したドラムユニットの感光体の摩耗ばらつきは、

    従来に対し40%程度まで抑制した。

    4.2 ライフ性能と貢献

    クリーニングブレードや帯電ロールのライフ

    も含めたドラムユニットのライフ性能を図16

    に示す。本ドラムユニットは従来のドラムユ

    ニットから、約2倍にライフを延長することが

    できた。新しく開発したドラムユニットは、カ

    ラ ー 複 合 機 「 ApeosPort/DocuCentre-Ⅳ

    C2270/ C3370/C4470/C5570」シリー

    ズに搭載され、上市した2009年以降、すでに

    全世界で100万台以上が市場に出荷されてい

    る。本ドラムユニットの長寿命化により、複合

    機の故障/メンテナンスの頻度を従来機の半分

    以下に抑え、「お客様の利便性」に大きく寄与し

    ている。さらに、長寿命化により廃棄ユニット

    を削減することができ、上市からの5年間で、

    約1.2万トン相当のCO2排出量削減を達成し、

    低炭素社会の実現に向けて貢献している。

    5. おわりに

    本ドラムユニットの長寿命化・高信頼化を達

    成するため、感光体の摩耗メカニズム解明に取

    り組んだ。その中ではクリーニングプロセスで

    の、トナーと外添剤の挙動の可視化計測技術と

    数値シミュレーション技術を構築することによ

    り、プレニップ部でのトナーと外添剤の対流、

    および外添剤がブレード最近接部に偏在して堆

    積する状態を明らかにした。さらに、トナーと

    外添剤の対流速度がクリーニングブレード最近

    接部の外添剤堆積量に影響することと、外添剤

    の堆積量に依存して摩耗速度が変化することを

    明らかにした。このようにして堆積した外添剤量

    が摩耗量を決定するメカニズムを示した。

    本メカニズムをもとに、クリーニングブレー

    ドの感光体への垂直荷重変動抑制、感光体表面

    の低摩擦化、外添剤による堆積量抑制を施策と

    して行い、感光体の摩耗ばらつきを従来の半分

    以下に抑制できることを示した。さらに感光体、

    ブレード、帯電ロールの材料、パラメーター、

    構成を総合的に最適化し実装することで、ドラ

    ムユニットの寿命を従来比で2倍を達成した。

    6. 商標について

    本論文の一部のコンテンツは、日本画像学会

    が著作権を保持します。

    7. 参考文献

    1) 新井和彦, 中山信行, 小笠原正, 織田康弘, 勅使川原亨: “ゴムブレードクリーニングにおける感光体摩耗ばらつきの抑制”, 日本画像学会年次大会(通算105回) “Imaging Conference JAPAN 2010” 論 文 集 , pp.247-250, (2010).

    2) N. Nakayama, K. Arai, M. Ogasawara, Y. Oda, and T. Teshigawara: “Analysis of a

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    対策前 対策後

    摩耗

    レー

    トば

    らつ

    き[-

    ]悪

    40%減

    0

    1

    2

    従来技術 施策導入後

    摩耗ばらつき改善とブレード

    低荷重化

    帯電ロール長寿命化と

    放電ストレス低減

    感光層厚膜化

    ドラ

    ムユ

    ニッ

    トラ

    イフ

    (相

    対値

    図16 ドラムユニットライフ改善結果と内訳

    Improved life of drum units

    図15 改善前後の摩耗ばらつきの比較 Comparison of variations in wear rate before and after improvement

  • 技術論文

    高信頼ロングライフドラムユニット

    70 富士ゼロックス テクニカルレポート No.25 2016

    blade cleaning system for reduction in wear rate variation of the photoreceptor”, Proceedings of IS&T NIP26, International Conference on Digital Printing Technologies, (Austin, Texas, USA), pp.234-237, (2010).

    3) 小笠原正, 長尾太介: “可視化技術を用いたクリーニングブレード挙動解析”, 日本画像学会年次大会(通算105回) “Imaging Conference JAPAN 2010” 論 文 集 , pp.251-254, (2010).

    4) 小笠原正: “可視化技術を用いたクリーニングブレードの挙動解析”, 日本画像学会誌, Vol.50, No.4, pp.280-286, (2011).

    5) 新井和彦, 織田康弘, 中山信行, 高橋良輔,

    長尾太介, 湯浅宏一郎: “画像形成機構および 画 像 形 成 装 置 ”, 特 許 5487632 号 , (2014).

    6) 安藤良, 田村一夫, 岩井清, 矢野敏行, 黒石

    健 児 , 野 田 聡 , 織 田 康 弘 , 中 山 豊 :

    “ApeosPort/DocuCentre-ⅣC2270/C3370/C4470/C5570省エネ大賞受賞”, 富 士 ゼ ロ ッ ク ス テ ク ニ カ ル レ ポ ー ト ,

    No.20, pp.124-132, (2011).

    http://www.fujixerox.co.jp/company/

    technical/tr/2011/p_02.html (参照日:

    2016.03.01)

    7) 新井和彦, 中山信行, 小笠原正, 織田康弘,

    勅使川原亨: “高信頼ロングライフゼログラフィドラムユニットの開発”, 第116回日本画像学会研究討論会(京都), pp.75-78,

    (2015).

    8) 小島紀章, 重崎聡: “二層構成を有する高信頼クリーニングブレードの開発”, 日本画像学会年次大会(通算109回) “Imaging Conference JAPAN 2012” 論 文 集 , pp.177-180, (2012).

    筆者紹介

    中山 信行 研究技術開発本部 基盤技術研究所に所属

    専門分野:物理、機械工学、電子写真プロセス

    新井 和彦 デバイス開発本部 次世代マーキングプラットフォーム開発部に所属

    専門分野:物理、電子写真プロセス

    http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2011/p_02.html