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2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMF が2011年4月に発表した世界経済見通しによ ると、世界経済の成長率は、2009年に前年比マイナ ス0.5% を記録した後、2010年は同5.0% まで回復し、 「懸念された景気の二番底は生じなかった」としてい る。もっとも、世界経済全体の成長が再び加速した中 で、先進国と新興国の回復速度には依然として大きな 開きがある。多くの先進国ではいまだに回復が遅れて いる一方、新興国は景気過熱が懸念されるほど力強い 経済成長を示していることが指摘されている。  IMF によれば、米国やユーロ圏、英国等を含む先 進国経済は、2009年の前年比マイナス3.4% から2010 年には同3.0% に回復した一方、新興国経済は2009年 の同 2.7% から 2010 年は同 7.3% と、先進国の回復状況 に比べて高い成長を示している(第1-1-1-1表)。世 界の名目 GDP に占める新興国の割合も高まってお り、特に中国は2010年に名目 GDP で我が国を抜いた。 2011年以降も、主要先進国を大きく上回るものと見 込まれている(第1-1-1-2図)。 一方、今後の見通しについては、IMF は、引き続き 回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済 1 1 世界経済の現状と課題 世界経済は緩やかに回復しつつも、先進国と新興国 の回復速度は不均衡な状況にある。先進国のディスイ ンフレ(物価上昇率が低下する現象)・デフレ(物価 が持続的に下落する現象)傾向や財政赤字の拡大、一 部新興国における景気の過熱感、資源価格の高騰、グ ローバル・インバランスの再拡大等の構造的な要因を 抱えており、その回復振りはいまだ不安定なものと なっている。 世界経済危機発生から間もない2009年、グローバル規模で低迷した世界経済は、2010年の春以降、緩や かな回復が続いている。ただし、国あるいは地域によって、危機からの回復力に明暗が生じた。2011年に かけて、先進国と新興国の経済成長の格差は一層鮮明化し、様々な形で不均衡(インバランス)が生じてい る。 第 1 章では、先の世界経済危機から約 3 年を経た世界経済の状況を概観する。具体的には、 1 )世界経済は、緩やかに回復しつつも格差とインバランスが存在し、いまだ不安定であること。 2 )世界経済は、より力強くかつ自律的な回復を遂げる上でのリスク要因を抱えていること。 3 )格差とインバランスの拡大に伴い、国・地域間の摩擦が高まっており、G20、 APEC、 WTO 等において 問題解決に向けた取組がなされていること。 4 )東日本大震災の発生後、各国のとった協調的な動きにより、世界経済はおおむね安定した動きを見せた こと(震災による影響に関しては、第4章、第5章にて詳述する)。 等を示す。

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Page 1: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

2 2011 White Paper on International Economy and Trade

1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国

(1)存在感が増す新興国経済IMF が2011年4月に発表した世界経済見通しによると、世界経済の成長率は、2009年に前年比マイナス0.5% を記録した後、2010年は同5.0% まで回復し、「懸念された景気の二番底は生じなかった」としている。もっとも、世界経済全体の成長が再び加速した中で、先進国と新興国の回復速度には依然として大きな開きがある。多くの先進国ではいまだに回復が遅れている一方、新興国は景気過熱が懸念されるほど力強い経済成長を示していることが指摘されている。 

IMFによれば、米国やユーロ圏、英国等を含む先進国経済は、2009年の前年比マイナス3.4% から2010年には同3.0% に回復した一方、新興国経済は2009年の同2.7% から2010年は同7.3% と、先進国の回復状況に比べて高い成長を示している(第1-1-1-1表)。世界の名目 GDP に占める新興国の割合も高まっており、特に中国は2010年に名目 GDPで我が国を抜いた。2011年以降も、主要先進国を大きく上回るものと見込まれている(第1-1-1-2図)。一方、今後の見通しについては、IMFは、引き続き

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済第1節

第1章世界経済の現状と課題

世界経済は緩やかに回復しつつも、先進国と新興国の回復速度は不均衡な状況にある。先進国のディスインフレ(物価上昇率が低下する現象)・デフレ(物価が持続的に下落する現象)傾向や財政赤字の拡大、一

部新興国における景気の過熱感、資源価格の高騰、グローバル・インバランスの再拡大等の構造的な要因を抱えており、その回復振りはいまだ不安定なものとなっている。

世界経済危機発生から間もない2009年、グローバル規模で低迷した世界経済は、2010年の春以降、緩やかな回復が続いている。ただし、国あるいは地域によって、危機からの回復力に明暗が生じた。2011年にかけて、先進国と新興国の経済成長の格差は一層鮮明化し、様々な形で不均衡(インバランス)が生じてい る。第1章では、先の世界経済危機から約3年を経た世界経済の状況を概観する。具体的には、 1 )世界経済は、緩やかに回復しつつも格差とインバランスが存在し、いまだ不安定であること。 2 )世界経済は、より力強くかつ自律的な回復を遂げる上でのリスク要因を抱えていること。 3 )格差とインバランスの拡大に伴い、国・地域間の摩擦が高まっており、G20、 APEC、 WTO等において問題解決に向けた取組がなされていること。 4 )東日本大震災の発生後、各国のとった協調的な動きにより、世界経済はおおむね安定した動きを見せたこと(震災による影響に関しては、第4章、第5章にて詳述する)。等を示す。

Page 2: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

3通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

1 IMFは、下振れリスクとして、先進国についてはEUの財政問題をはじめ脆弱なバランスシートの状況、不動産市場の低迷を指摘している。新興国については、地政学上の不安定さ、不動産市場の過熱と並んで、商品価格、特に原油の価格高騰を新たな下振れリスクと見ている。

2 <参考> IMFは2011年6月17日、改訂見通しを公表。 ・ 世界経済について、「引き続き成長基調にあるものの緩やかに減速、下振れリスクは拡大」との認識。2011年は4月の見通しから下方

修正(4.4→4.3)、2012年は据え置き。 ・ 先進国について、2011年は4月の見通しから下方修正(2.4→2.2)、2012年は据え置き。  -米国は、2011年は成長鈍化の見込み(2.8→2.5)。  -日本は、大震災の影響によりマイナス2.1% の下方修正(1.4→ -0.7)。2012年には回復見込み。  -ユーロ圏は、2011年は上方修正(1.6→2.0)。一方、2012年は減速が見込まれる。 ・ 新興国について、大半は引き続き力強く成長している、との認識。2011年は4月の見通しから上方修正(6.5→6.6)、2012年は下方修正。  -中国、インド、ASEAN5は、2011年、2012年ともに据え置き。一方、中南米は2011年、2012年ともにマイナス0.1%の下方修正。  -中東欧は、2011年は1.6% の上方修正(3.7→5.3)。2012年はマイナス0.8% の下方修正。 ・ 世界経済の下振れのリスク要因として、米国の経済活動の想定以上の弱さ、ユーロ圏債務危機による金融市場の不安定化、新興国にお

ける景気過熱の兆候の鮮明化、先進国における財政・金融部門の不均衡の長期化等を指摘。

景気の下振れリスクが上振れリスクを上回るとし 1、 世界経済の成長率は2010年の5.0% から2011年には4.4%、2012年には4.5% へと緩やかに推移すると予測している。先進国と新興国の各々についてみると、先進国は2010年の3.0% から2011年には2.4%、2012年には2.6% へ、新興国は2010年の7.3% から2011年、2012年ともに6.5% へと、いずれも2011-12年は2010年に比べて回復速度が緩やかになるものと見込まれている。とはいえ、引き続き、新興国が先進国の2倍強の高い成長を示す見通しであり、かつ、2010年は新

興国の成長率が先進国の2.4倍、2011年には2.7倍と更に勢いが増す見込みである(第1-1-1-3図)。同図の世界の GDPに占める構成比も、新興国は2010年には34.0%、2011年には35.4% と拡大する見通しである。更に、2015年には世界経済の39.9% を占めることが予想されている(第1-1-1-4図)2。このように、中国をはじめとする新興国は、成長率、規模ともに、その存在感が一層高まる見込みである。一方、これら新興国では、先進国の金融緩和により大量の資金が流入し、インフレや自国通貨の増価進行への懸念が拡大している。対応措置として、新興国では、政策金利や預金準備率の引上げ、資本流入規制等を強化している。こうした「金融緩和」から「金融引締め」への政策転換によって、新興国経済が、今後、予想以上に大きく減速すれば、新興国に依存する世界経済の回復プロセスの遅れをも招きかねない。

第1-1-1-1表 世界経済の見通し(実質)

2009年 2010年 2011年 2012年世界経済 -0.5 5.0 4.4 4.5先進国 -3.4 3.0 2.4 2.6米国 -2.6 2.8 2.8 2.9ユーロ圏 -4.1 1.7 1.6 1.8日本 -6.3 3.9 1.4 2.1英国 -4.9 1.3 1.7 2.3カナダ -2.5 3.1 2.8 2.6新興国 2.7 7.3 6.5 6.5中東欧 -3.6 4.2 3.7 4.0ロシア -7.8 4.0 4.8 4.5新興国アジア 7.2 9.5 8.4 8.4中国 9.2 10.3 9.6 9.5インド 6.8 10.4 8.2 7.8ASEAN5 1.7 6.9 5.4 5.7中南米 -1.7 6.1 4.7 4.2中東・北アフリカ 1.8 3.8 4.1 4.2サブサハラアフリカ 2.8 5.0 5.5 5.9備考:ASEAN5は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム。資料:IMF “WEO April 2011”から作成。

第1-1-1-2図 主要国の名目GDPの推移

(兆ドル)予測

備考:2011年以降は予測値。資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

198019811982198319841985198619871988198919901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015

(年)

0

5

10

15

20

25

EU

ドイツフランス英国

米国

中国

日本

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4 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

第1-1-1-3図 世界各国・地域別のGDP構成比及び成長率

5%

0%

10%

20% 40% 60% 80%

20% 40% 60% 80%

5%

0%

10%

世界平均5.0%

新興国 31.2%先進国 68.8% EU 28.3%

EU 25.9%

先進国平均3.0%

新興国平均7.3%

世界平均4.4%先進国平均2.4%

新興国平均6.5%

新興国 34.0%先進国 66.0%

6.0%

5.9%

他先進国

24.4%

2.8%

米国

8.7%

3.9%

日本

5.8%

3.5%

ドイツ

3.8%

1.3%

英国

3.7%

1.3%

イタリア

10.6%1.2%

他EU先進国

2.2%2.2%

10.4%

インド

8.6%8.6%

10.3%10.3%10.3%

中国

16.2%

5.8%

他新興国

6.6%

4%

他先進国

23.3%

2.8%

米国

8.7%

1.4%

日本

5.3%

2.5%

ドイツ

3.3%1.1%

イタリア

2.4%2.4%

8.2%

インド

9.3%

9.6%9.6%

中国

17.5%

5.4%

他新興国

新興国の構成比が拡大

GDP構成比:新興国が拡大(2010年31.2% → 2011年34.0%)GDP成長率:平均で新興国は先進国の2倍強(2010年2.4倍 → 2011年2.7倍)

2010年

2011年

縦軸:2010年の実質GDP成長率(黒字)横軸:世界各国の2009年名目GDP構成比(赤字)

縦軸:2011年の実質GDP成長率見通し(黒字)横軸:世界各国の2010年名目GDP構成比(赤字)

備考:「その他先進国」及び「他新興国」についてのデータはなく、IMFのデータより経済産業省が推計。資料:IMF「Economic Outlook, April 2011」から作成。備考:「その他先進国」及び「他新興国」についてのデータはなく、IMFのデータより経済産業省が推計。資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

備考:「その他先進国」及び「その他新興国」についてのデータはなく、IMFのデータより経済産業省が推計。資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

EU1.8%

EU1.8%

1.4%1.4%

2.1%2.1%

他EU新興国

他EU新興国

2.8%2.8%

7.5%7.5%

ブラジル

4.6%

1.5%1.5%

フランス

4.1%

1.6%1.6%

フランス

9.7%

1.5%

他EU先進国

1.4%1.4%

3.3%3.3%

他EU新興国

他EU新興国

3.3%3.3%

4.5%4.5%

ブラジル

1.6%1.6%

4.5%4.5%

韓国

1.4%1.4%

6.1%

韓国

3.6%

1.7%1.7%

英国

第1-1-1-4図 世界の名目GDPの推移

90,000.0(10億ドル)

70,000.0

80,000.0

50,000.0

60,000.0

30,000.0

40,000.0

20,000.0

0.0

10,000.0

1992年1993年1994年1995年1996年1997年1998年1999年2000年2001年2002年2003年2004年2005年2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年2014年2015年2016年

備考:2011年以降は推測値。資料:IMF「World Economic Outlook, April 2011」から作成。

他先進国米国日本英国ドイツ韓国他新興国ブラジルロシアインド中国新興国18.4% 20.3%

新興国比率

18.4% 20.3%23.8%

34.0%35.4%

39.9%

新興国比率

予測

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5通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

(2)先進国と新興国の景気動向以下、先進国と新興国の景気動向を中心に、世界経

済の1年間の動きを概観する。2010年、先進国では、ようやく金融危機前の水準近くまで経済が持ち直した。米国、EU、韓国では、株高などを背景とした個人消費の伸びや、設備投資の回復を背景に、実質 GDPは、金融危機前の2008年第1四半期の水準を超えて回復した。我が国と英国についてもピーク時の98.7% 程度まで回復した(第1-1-1-5図)。OECD の景気先行指数も、2010年末にかけて米国を中心に改善傾向となった(第1-1-1-6図)。このように、2010年末に向けて回復ペースを維持ないし強めつつあった先進国も、なお多くの課題を抱えている。他方、中国、インド、ブラジルといった新興国の多

くは力強い経済成長を続け、金融危機前の2008年第1四半期の水準を超える回復をみせた(第1-1-1-5図)。もっとも、景気の過熱感の高まりやインフレ上昇などを背景に2010年後半には金融引締めが進められたこ

ともあり、中国やインドなど一部の新興国では景気先行指数の低下がみられる(第1-1-1-7図)。

第1-1-1-5図主要な先進国と新興国における金融危機前水準への回復状況の比較

130% 先進国 新興国

101.8% 98.7% 98.7% 100.7%

113.0%

119.5%115.0% 114.6%

120%

110%

100%

90%

80%ブラジル

インド

南アフリカ

トルコ

中国

ロシア

日本

韓国

英国

米国

EU

注 :2008年第1四半期の実質GDPを金融危機前の水準とした場合の、各国の2010年第4四半期(韓国と米国は2011年第1 四半期)時点における実質GDPの回復率を示した。

資料:総務省、米国商務省、Eurostat、韓国中央銀行、アフリカ統計庁、トルコ統計局、IMF、ブラジル地理統計院、ロシア連邦国家統計局、インド中央統計局、南アフリカ統計庁、トルコ統計局。

117.5%

108.7%

118.3%

第1-1-1-6図 先進国のOECD景気先行指数 第1-1-1-7図 新興国のOECD景気先行指数

9293949596979899100101102103

1999年1月

2000年1月

2001年1月

2002年1月

2003年1月

2004年1月

2005年1月

2006年1月

2007年1月

2008年1月

2009年1月

2010年1月

2011年1月

ユーロ圏 米国OECD 日本

備考:長期移動平均=100資料:OECD「Composite Leading Indicators(MEI)」から作成。

9092949698100102104106

ブラジル 中国インド ロシア

1999年1月

2000年1月

2001年1月

2002年1月

2003年1月

2004年1月

2005年1月

2006年1月

2007年1月

2008年1月

2009年1月

2010年1月

2011年1月

備考:長期移動平均=100資料:OECD「Composite Leading Indicators(MEI)」から作成。

自動車販売台数の推移をみると、先進国では、景気が回復しつつある米国において、自動車販売台数が2009年の1,060万台から2010年には1,177万台に拡大したのに対し、ユーロ圏では景気回復の弱さを反映して販売台数が2009年の1,112万台から2010年には1,022万台に縮小した。日本でも、2010年の販売台数の伸びは前年比7.5% 増の496万台にとどまり、2年連続の500万台割れとなった(第1-1-1-8図)。他方、高成長を続けている新興国では、自動車販売台数が拡大した。特に中国は、2009年の1,362万台から2010年には前年比32.5% 増の1,804万台と大幅に増加した。また、ブラジルは、2010年通年で前年比11.9% 増の351

万台と、過去最高を記録した。更に、インドやロシアでは中間所得層の旺盛な消費意欲を背景に自動車販売台数が急増し、2010年の販売台数が、インドでは前年比28.7% 増の320万台と過去最高となり、また、ロシアでは同29.6% 増の190万台を記録した。

家計部門をみると、雇用市場の回復状況は地域あるいは国によって大きく異なる。失業率は、主な先進国において2010年を通じて高止まりが続いた(第1-1-1-9図)。米国では、企業の業況の改善を背景に2010年末に失業率は低下したが、景気回復の先行き不透明感等を背景に、雇用の拡大ペースは緩慢であり、失業

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6 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

率は9%台の高止まりで推移した。ユーロ圏の失業率は、国によって一様ではない。景気回復が続くドイツでは、2010年の失業率は6.9% と、歴史的な低水準に改善した。一方、フランス(9.7%)やイタリア(8.5%)は回復が遅れている。また、ユーロ圏内で財政危機が懸念されるギリシャ(14.8%)や、スペイン(19.4%)、ポルトガル(11.9%)等の失業率の高さが目立つ。新興国については、中国(4.1%)、韓国(3.7%)などは、好調な景気回復を背景に失業率が低位で安定的に推移している。また、ブラジル(6.7%)、インドネシア(7.1%)をはじめ、他の新興国においても、2010年には失業率が改善傾向に向かった(第1-1-1-10図)。なお、IMFでは、先進国についても2011年の失業率が2010年から改善することを見込んでいる。ただし、ポルトガル、ギリシャについては財政問題を背景に2011年も引き続き悪化が懸念されている。

第1-1-1-9図 先進国の失業率の推移

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0

20.0

2007 2008 2009 2010 2011 (年)

(%)

オーストラリア

イタリアドイツフランスカナダ

日本

英国米国

ポルトガルスペインギリシャ

備考:フランス、イタリア、英国、ブラジルは2010年以降について、それ以外の国は2011年以降について、IMF推計による。

資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

第1-1-1-10図 新興国の失業率の推移

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

2007 2008 2009 2010 2011 (年)

(%)

アルゼンチン

ロシアインドネシア中国ブラジル

韓国

トルコメキシコ

備考:フランス、イタリア、英国、ブラジルは2010年以降について、それ以外の国は2011年以降について、IMF推計による。

資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

第1-1-1-8図先進国と新興国の自動車販売台数の推移

インドネシア

米国

ユーロ圏

日本

ドイツ

韓国

中国

ロシア

インド

ブラジル

メキシコ

南アフリカ

2,000

1,177万台1,022万台

496万台292万台147万台

1,804万台

320万台

77万台

351万台

43万台85万台

190万台

1,800

1,6001,400

1,200

1,000800

600400

2000

(万台)

備考:ロシアのデータは2008年以降。資料:米商務省、欧州自動車工業協会、欧州ビジネス協会、メキシコ国家統

計地理情報局、各国自動車工業協会から作成。

2007年

2009年2008年

2010年

なお、消費者信頼感指数をみると、先進国における厳しい雇用環境を反映して、G7全体では足元で改善しつつあるものの、長期平均100を下回る水準となっている(第1-1-1-11図)。

住宅価格については、国・地域により状況が異なる。米国や英国、スペイン等、不動産市場のバブル崩壊を

きっかけに金融危機に陥った国々では、雇用・所得環境の厳しさ等を背景に、住宅価格はいまだに世界経済危機前のピーク時を下回る水準で低迷している。住宅価格の下落に伴う資産価値の目減りは、家計部門のバランスシート調整を更に長期化させる要因である(第1-1-1-12図)。一方、オーストラリアのような資源国、中国や香港、台湾、シンガポールといった新興国・地

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7通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

域では、人口増加と住宅不足、好景気、海外からの資金流入の活発化等を背景に不動産価格が高騰し、住宅市場の過熱感を政策当局が警戒する状況となっている(第1-1-1-13図、第1-1-1-14図)。なお、中国では、不動産の価格高騰に対応するため、2010年に入って価格抑制策を強化した。その結果、不動産市場はやや落ち着きを取り戻し、第1-1-1-14図にみられるように、主要70都市では2010年末以降、不動産価格の伸びがやや鈍化した。ただし、依然として前月同月比を上回って推移しており、中国政府は、今後も引き続き価格抑制策を継続するとの姿勢である。

第1-1-1-11図 先進国の消費者信頼感指数の推移

85

90

95

100

105

110(長期平均 =100)

資料:OECD Statから作成。

オーストラリア

カナダ

デンマーク

フランス

ドイツ

日本

韓国

ニュージーランド

スペイン

スウェーデン

スイス

英国

米国

G72007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

2011年4月

第1-1-1-12図 主要先進国の住宅価格の推移(四半期)

(2008Q1=100)

資料:CEIC Data Baseから作成。

404550556065707580859095100105110115

スペイン英国米国

2006Q1

2005Q1

2004Q1

2003Q1

2007Q1

2008Q1

2009Q1

2010Q1

2011Q1

第1-1-1-13図新興国(地域)・資源国の住宅価格の推移(四半期)

(2008 年 Q1=100)

資料:CEIC Data Baseから作成。

405060708090100110120130140

2006Q1

2005Q1

2004Q1

2003Q1

2007Q1

2008Q1

2009Q1

2010Q1

2011Q1

豪州 8都市平均香港シンガポール

韓国台湾

第1-1-1-14図 中国の住宅価格の推移

(%)

資料:CEIC Data Baseから作成。2009年1月

2009年3月

2008年9月

2008年11月

2008年5月

2008年7月

2008年1月

2008年3月

2007年9月

2007年11月

2007年5月

2007年7月

2007年1月

2007年3月

2009年5月

2009年7月

2009年9月

2009年11月

2010年1月

2010年3月

2010年5月

2010年7月

2010年9月

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

70 都市全体北京上海広州深圳

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8 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

物価動向については、2010年、多くの先進国では、不動産価格の低迷等を背景に家計のバランスシート調整が続いた。また、雇用・所得環境の改善も顕著でないといった国内経済の弱さもあり、消費者物価指数の上昇率が低く(第1-1-1-17図)、デフレないしディスインフレ傾向がみられた。一方、新興国では、中国やブラジル等の一部の国を中心に、海外からの資金流入が拡大したこと等を背景に景気が過熱気味となり、消費者物価指数が上昇し、インフレ懸念が高まった(第1-1-1-18図)。2010年夏場以降は、資源・食料価格が高騰し、多くの新興国において消費者物価の上昇率が加

速した他、先進国の一部でもインフレ圧力が高まった。

金融政策については、2008年9月のリーマン・ショック以降、各国中銀は政策金利を引下げ(第1-1-1-19図、第1-1-1-20図)、また、資産買入れなどの金融緩和を通じて景気を下支えしてきた。しかしながら、最近の資源・食料価格の高騰の影響もあり、景気回復が顕著であった新興国を中心に、金融引締めへと政策スタンスへの転換が加速している(第1-1-1-21図、第1-1-1-22表)。

企業部門について、鉱工業生産指数の推移をみると、全体としては改善傾向にあるものの、先進国では回復が遅れている。2010年末に米国がようやく世界経済危機前の水準に回復したが、我が国やユーロ圏は2011年に入っても同水準に戻っていない(第1-1-1-

15図)。一方、新興国・地域では、中国を含むアジアが、2009年春から年央には同水準に回復し、2010年には同水準を大幅に超えるまでに生産活動が拡大した。その他、中南米は2010年春頃、また、中東欧は2010年の秋頃、同水準に回復した(第1-1-1-16図)。

(2008 年 9月 =100、季節調整済指数)

備考:先進国は、トルコ、メキシコ、韓国、中東欧諸国を除くOECD加盟国。資料:CPB 「Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis」   から作成。

2008年 2009年 2010年 2011年65

70

75

80

85

90

95

100

105

先進国米国日本ユーロ圏

第1-1-1-15図 先進国の鉱工業生産指数の推移 第1-1-1-16図 新興国(地域)の鉱工業生産指数の推移

(2008 年 9月 =100、季節調整済指数)

資料:CPB 「Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis」   から作成。

2008年 2009年 2010年 2011年859095100105110115120125130135140

新興国アジア中東欧中南米中東・アフリカ

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9通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

第1-1-1-17図 先進国の消費者物価指数

(前年同月比、%)

2009年10月

2009年11月

2009年12月

2010年1月

2010年2月

2010年3月

2010年4月

2010年5月

2010年6月

2010年7月

2010年8月

2010年9月

2010年10月

2010年11月

2010年12月

2011年1月

2011年2月

2011年3月

2011年4月

日本 0.0

英国 4.5

ドイツ 2.4フランス 2.1

米国 3.2

韓国 4.2

イタリア 2.6

カナダ 3.3

-4.0-3.0-2.0-1.00.01.02.03.04.05.06.07.08.09.010.011.012.013.014.015.016.017.0

日本

英国ドイツフランス米国

韓国イタリア

カナダ

資料:DATASTREAMから作成。

(年月)

先進国

第1-1-1-18図 新興国の消費者物価指数

(前年同月比、%)

2009年11月

2009年10月

2009年12月

2010年1月

2010年2月

2010年3月

2010年4月

2010年5月

2010年6月

2010年7月

2010年8月

2010年9月

2010年10月

2010年11月

2010年12月

2011年1月

2011年2月

2011年3月

2011年4月

ロシア 9.6

南アフリカ 4.2

インドネシア 6.2

インド 9.0

中国 5.3

ブラジル 6.5

資料:DATASTREAMから作成。

中国

南アフリカインドロシアブラジル

インドネシア

(年月)-4.0-3.0-2.0-1.00.0

2.03.04.05.06.07.08.09.010.011.012.013.014.015.016.017.0

1.0

新興国

第1-1-1-19図 先進国の政策金利

日本0.1米国0.3

ユーロ圏1.3イタリア1.3

英国0.5

豪州4.8

カナダ1.0

韓国3.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

18.0(%)

資料:DATASTREAMから作成。

(年月)

日本 米国 ユーロ圏 フランスドイツ イタリア 英国 豪州カナダ 韓国

2008年1月

2008年3月

2008年5月

2008年7月

2008年9月

2008年11月

2009年1月

2009年3月

2009年5月

2009年7月

2009年9月

2009年11月

2010年1月

2010年3月

2010年5月

2010年7月

2010年9月

2010年11月

2011年1月

2011年3月

2011年5月

第1-1-1-20図 新興国の政策金利

ブラジル12.0アルゼンチン11.5ロシア8.25インド7.25インドネシア6.75中国6.31南アフリカ5.50メキシコ4.5サウジアラビア2.0トルコ1.5

0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.0(%)

資料:DATASTREAMから作成。

(年月)

中国 ブラジル ロシア インド南アフリカ インドネシア トルコ メキシコアルゼンチン サウジアラビア

2008年1月

2008年3月

2008年5月

2008年7月

2008年9月

2008年11月

2009年1月

2009年3月

2009年5月

2009年7月

2009年9月

2009年11月

2010年1月

2010年3月

2010年5月

2010年7月

2010年9月

2010年11月

2011年1月

2011年3月

2011年5月

Page 9: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

10 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

3 一般にQE2(Quantitative Easing 2)とも呼ばれる。 4 2011年4月28日、米連邦準備委員会(FRB)のバーナンキ議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見において、2010年11月から続けてきた6,000億ドルの中長期米国債購入による資金供給プログラムを予定どおり6月末で完了すること、ただし、異例に低水準の政策金利が更に長期間継続される公算が高いこと、7月以降もMBS等の満期償還金を中長期米国債に再投資することで、FRBのバランスシートはほぼ現状で一定に保たれるであろうことを示し、緩和的な金融政策を維持するスタンスを明示した。

第1-1-1-21図 各国・地域の政策金利並びに非伝統的金融政策の動向

EU中国ブラジルインド韓国ベトナムフィリピンタイマレーシアインドネシア台湾トルコロシアデンマークノルウェーカナダ豪州ペルーハンガリールーマニアアイスランド日本米国英国

 …   …      …   …… ……◎◎ 

…………  …     …… …  … …◎…◎

 …

……

……

……

…◎◎

 …

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……

………

 ……………

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◎…

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………◎

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…………

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……◎

……………

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◎……

…………………………………

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………

◎……

……

……………………

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……………

◎…………………

……

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……

………

……

……

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………………

………

………

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……

◎◎…

………

……………………………

……

………

……………………

…………………………◎……

………

…………………………

…◎…

……………

……

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………

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………

……………

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……

………

……

………………………

………◎……

……

……

……

………

………………

………

………

……

………………

政策金利引き上げ

2009年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

2010年 2011年1月 2月 3月 4月 5月 6月 1月 2月 3月 4月 5月7月 8月 9月 10月 11月12月

政策金利引き下げ … 前月を維持 ◎非伝統的政策(量的緩和、資産買い入れ等)

資料:各国政府公表資料より作成。

第1-1-1-21図、第1-1-1-22表にみられるように、日本、米国、欧州、英国といった主要先進国では、景気回復の遅れから、各国中央銀行は、量的緩和、資産買入れといった非伝統的金融政策や、低金利政策を維持してきた。そうした中で、2011年に入り、欧州では資源高の影響によるインフレ圧力の高まりを警戒する姿勢が強まった。4月7日には、欧州中央銀行(ECB)は、金融危機発生以降で初めての利上げに踏み切った。もっとも、ユーロ圏域内では各国間で経済成長の速度にばらつきが目立っており、財政危機に揺れる南欧諸国はマイナス成長に陥っている。今後、ECBは、原油高のもたらすインフレ懸念への対応をにらみつつ、難しいかじ取りを続けることになる。米国では、いまだに高い失業率や不動産市場の低迷を抱えている。こうした中、米連邦準備理事会(FRB)は6月末で追加金融緩和策3を当初予定どおり終了する一方、金融引締め策への早期転換は見込まれていな い4。英国では、インフレ率が英国中央銀行(BOE)の目標値を上回る状況が続いているものの、利上げによって足取りの弱い景気回復を更に下押しする懸念があるため、金融引締めへの転換に慎重である。なお、我が国については、東日本大震災による国内経済への甚大な影響にかんがみて、引き続き、強力な金融緩和の推進等、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていくこととしている。これに対し、豪州やカナダ・ノルウェーなど、景気が堅調な資源国では、インフレ懸念への対応から2009年秋口には利上げが行われた。また、多くの新興国は、2009年後半以降、力強い回復を通じて一部の国では景気が過熱傾向を示し、インフレ懸念が台頭した。そうした中で、資源・食料価格の世界的な高騰を背景に物価上昇圧力が高まった。このため、2010年中盤以降、アジアを中心とする新興国において政策金利の引上げが加速化した。

第1-1-1-22表 主要先進国の非伝統的金融政策の概要

英国(英国中央銀行:BOE)・2009年 2月 資産買取りファシリティ実施(社債、コマーシャルペーパーの

買取り) 3月 同ファシリティの対象を中長期国債に拡大(買取枠上限1,500

億ポンド) 8月 同ファシリティの中長期国債買取枠を拡大(上限1,750億ポンド) 11月 同ファシリティの中長期国債買取枠を拡大(上限2,000億ポンド)欧州(欧州中央銀行:ECB)・2009年 7月 カバードボンド買取り実施(最大600億ユーロ)・2010年 5月 機能不全に陥った国債及び社債の流通市場への介入を行うこと

を決定米国(米連邦準備理事会:FRB)・2009年 1月 エージェンシー債、MBSの買取り(最大1兆4,250億ドル)・2009年 3月 国債の買取り(最大3,000億ドル)

資産担保証券(ABS)保有者向け貸出(TALF)・2010年 8月 MBS等の元本償還分を中長期米国債に再投資 11月 中長期米国債の買取り(6,000億ドル規模)(QE2)日本(日本銀行:BOJ)・2009年 1月 コマーシャルペーパー等買い入れオペ実施 ・2009年 2月 社債買い入れオペ実施・2009年 12月 新しい資金供給手段として、政策金利と同水準の0.1%でターム

物(3か月)の資金供給オペ導入(規模は10兆円)。・2010年 3月 3か月物の資金供給オペの規模を10兆円から20兆円に拡大。・2010年 8月 政策金利と同水準の0.1%でターム物(6か月)の資金供給オペ

導入。資金規模も20兆円から30兆円に拡大。 ・2010年 10月 「包括的な金融緩和政策」の実施を決定。・2011年 3月 震災対応のための金融緩和の強化

 →資産買入れ基金を5兆円拡大し、40兆円へ

資料:各国公表資料、各種報道資料より作成。

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11通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

次に、貿易動向を金額ベースでみると、先進国は2009年第2四半期に輸出、輸入とも前年同期比マイナス30% 台まで落ち込んだ。しかし、その後は回復に転じ、2010年前半は輸出入ともに20% 台の伸びを記録した。2010年後半にかけては、世界経済の減速等を背景に前年同期比で10% 台半ばまで伸び率が低下した。新興国については、2010年後半は輸出入ともに20%台の高い伸びとなった(第1-1-1-26図)。2000年代を通して、新興国の貿易額は輸出入ともに先進国の伸びをおおむね上回っており、世界の貿易総額(輸出額+輸入額)に占める新興国の割合は、2000年第1四半期の22.9% から2010年第4四半期には37.5% にまで上昇した(第1-1-1-27図)。

為替相場の動向は、景気動向について公表される統計や金融政策等を受けて変動しやすいことに留意する必要があるが、2010年を通してみると、主要通貨に対する円相場は全て円高方向で推移した(第1-1-1-

28図)。まず、円・ドル相場については、米国景気の先行きの不透明感や FRBの追加的金融緩和期待、日米金利差の縮小等を背景に円高ドル安が進み、2010年9月15日には82円92銭と、円・ドル相場は1995年5月以来約15年3か月ぶりに円高水準を更新した。これを受けて、日銀・政府は2004年以来6年ぶりの円売り介入を実施した。介入実施後は一時的に円安ドル高が進行したものの、介入の効果は継続せず、その後は1ドル80円台前半で推移した。円・ユーロ相場については、2009年末より、ギリシャを始めとする欧州のソブリンリスク懸念からユーロ安傾向にあったが、ギリシャの債務懸念の高まりを背景に2010年4月下旬から5月にかけて1ユーロ=112円台と急激に円高ユーロ安が進んだ。円・人民元相場については、2010年6月に人民銀行が、事実上米ドル・ペッグとなっていた為替レートの弾力化を強化すると発表して以降、人民元の対ドル

貿易動向について、数量ベースでみると、世界貿易は2011年2月までに、金融危機前のピークであった2008年4月の水準をやや上回るまでに回復した(第1-1-1-23図)。通年でも、2010年は前年比15.1% と高い伸びとなった。国・地域別にみると、アジアと中南米の伸びが高く、輸入がそれぞれ前年比20.7%、25.9%、輸出では同23.1%、14.1% となった。先進国では米国が輸出入ともに世界の輸出入の伸びとほぼ同水準に、また、ユーロ圏は輸出入ともに低い伸びとなった(第1-1-1-24図、第 1-1-1-25図)。

第1-1-1-23図 世界の貿易数量の推移

120.0

130.0

140.0

150.0

160.0

170.0

180.0

2006年1月

2006年4月

2006年7月

2006年10月

2007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年4月163.8

2008年4月163.8

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

(2000=100)

2011年2月166.5

2011年2月166.5

資料:CPB「Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis」   から作成。

第1-1-1-25図国・地域別の輸出数量の推移

(2000=100)

資料:CPB「Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis」   から作成。

世界輸出先進国米国日本ユーロ圏新興国アジア中東欧中南米中東アフリカ

2006年1月

2006年4月

2006年7月

2006年10月

2007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

300.0

166.9

第1-1-1-24図国・地域別の輸入数量の推移

(2000=100)

資料:CPB「Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis」   から作成。

世界輸入先進国米国日本ユーロ圏新興国アジア中東欧中南米中東アフリカ

2006年1月

2006年4月

2006年7月

2006年10月

2007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

300.0

Page 11: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

12 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

レートは徐々に切り上がったものの、円・人民元レートでは1元 = 13円台から12円台と円高元安で推移した。2011年に入ってからは、3月11日に我が国で東日本大震災が発生して以降、円が急騰し、3月17日には対ドルで一時76.25円と、1995年4月の79.75円以来の最高値を記録した。円は対ユーロでも上昇し、独歩高の展開となった。円急騰の背景には、地震発生を受けた株価の急落や中東情勢不安からリスク回避的な動きにより円が買われたこと、機関投資家である我が国の保険会社が大震災被害に関連した保険金支払の備えとして海外資産を日本に引き戻すとの思惑があったこと 5

等の点が指摘されている。こうした円の急騰を受けて、

3月18日には G7が過度の円高を阻止するための協調介入に合意し、10年半ぶり 6に協調介入が実施された。その後は、市場では協調介入が意識され、また、4月に利上げに踏み切った欧州や景気が底堅く推移する米国と我が国との間における金融政策のスタンスの差から、円相場は円安方向に進んだ。

株価の動向をみると、先進国では景気の回復を受け、2010年末時点で米国、英国、ドイツが世界経済危機前の水準を上回った他、フランスや日本でも2011年初に株価が同水準に回復し、米国の景気対策などを受けた回復期待から堅調な展開をみせた(第1-1-1-29図)。先進国と比較して、新興国での株価の回復ぶりは著

しい。国別にみると、サウジアラビアとUAEを除いた国で2009年央には世界経済危機前の水準にまで回復し、一部の国では2010年末までに同水準の1.5倍超の株価を記録した。新興国の国内経済が好調であることに加え、先進国の景気回復スピードが緩慢な中、より高いリターンを求めて先進国から新興国に投資資金が流入していることが、そうした株高進行の背景になっていると考えられる(第1-1-1-30図)。

第1-1-1-26図先進国・新興国の輸出入金額の推移(前年同期比)

-40-30-20-10010203040

2006年03月

2006年06月

2006年09月

2006年12月

2007年03月

2007年06月

2007年09月

2007年12月

2008年03月

2008年06月

2008年09月

2008年12月

2009年03月

2009年06月

2009年09月

2009年12月

2010年03月

2010年06月

2010年09月

2010年12月

先進国輸出 先進国輸入新興国輸出 新興国輸入

(%)

備考:先進国及び新興国は、IMFの定義による。資料:IMF「IFS」から作成。

第1-1-1-27図世界の貿易に占める先進国・新興国のシェア

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2001年

2000年

2002年

2003年2004年

2005年

(%)

先進国 新興国

資料:IMF「IFS」から作成。

先進国,62.5先進国2010年12月,62.5

新興国2010年12月,37.5

第1-1-1-28図円相場の推移(対ドル、対ユーロ、対元)

70

80

90

100

対ドル対ユーロ対元

110

120

130

140

150

160

170

180

11

12

13

14

15

16

17

(円 / ドル、ユーロ) (円/元)

資料:ロイター3000Xtraから作成。2008/02/01

2008/04/01

2008/06/01

2008/08/01

2008/10/01

2008/12/01

2009/02/01

2009/04/01

2009/06/01

2009/08/01

2009/10/01

2009/12/01

2010/02/01

2010/04/01

2010/06/01

2010/08/01

2010/10/01

2010/12/01

2011/02/01

2011/04/01

2011/06/01

3月11日東日本大震災

対元 , 2011/5/19, 12.6対元 , 2011/5/19, 12.6

対ドル , 2011/5/19, 81.7対ドル , 2011/5/19, 81.7

対ユーロ , 2011/5/19, 116.5対ユーロ , 2011/5/19, 116.5

5 但し、実際には、我が国の保険会社が大震災被害に関連した保険金支払の備えとして海外資産を売却しているとの事実はなかった。 6 前回のG7による協調介入は、2000年9月22日に実施。1999年のユーロ誕生時、金融要因(ユーロ圏投資家による域外他通貨への投資割

合の分散化)からユーロが急落したことが背景。

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13通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

2009年から2010年へと世界経済の回復が進んだことを背景に、不良債権問題についても改善が見られる。IMFによれば、世界の金融機関が計上する2007~2010年の損失予測額は、2009年秋時点では約2.8兆ドルであったのが、2010年春時点で2.3兆ドル、同年秋時点では2.2兆ドルに縮小してきたとしている 7。2010年春と秋時点での推計を国・地域別にみると、米国、ユーロ圏、英国では引当・償却額が拡大しており、不良債権処理の進展が見られる(第1-1-1-31図)。ただし、米国やユーロ圏では不良資産の増加見込額は依然として規模が大きく、家計のバランスシート調整や不動産市場の低迷等が銀行セクターの回復に向けたリスクとなっている 8。

財政状況については、世界経済危機後、各国は、減税(自動車購入、住宅取得等)、公共事業(交通インフラ、

エネルギー・環境関連等)、給付金(失業・休職手当等)といった各種景気対策を講じることにより、景気を下支えしてきた。2010年春以降、世界的に景気が回復

第1-1-1-29図 先進国の株価の推移

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180(2008年9月=100) 日経225 ユーロストックス

仏CAC40 独DAX英FTSE100 米NYSEコンポジット

資料:CEIC Data baseから作成。

2008年9月

2007年3月

2007年7月

2007年11月

2008年3月

2008年7月

2008年11月

2009年3月

2009年7月

2009年11月

2010年3月

2010年7月

2010年11月

2011年3月

第1-1-1-31図 主要国の不良債権処理の推移

1,000

800

600

400

200

0

(10 億ドル)

備考:「その他欧州」はデンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス。「アジア」はオーストラリア、香港、日本、ニュージーランド、シンガポール。

資料:IMF「Global Financial Stability Report , Oct 2010」から作成。

2010年春

2010年秋

2010年春

2010年秋

2010年春

2010年秋

2010年春

2010年秋

2010年春

2010年秋

米国 英国 ユーロ圏 その他欧州 アジア

205

680

169

100

375

250 158

472

82 827474

5656

7474 9292 92922323 2323

415355

709

不良資産の増加見込み額2010 年春推計:2010Q1 - 2010Q42010 年秋推計:2010Q3 - 2010Q4引当・償却額2010 年春推計:2007Q2 - 2009Q42010 年秋推計:2007Q2 - 2010Q2

7 IMF, Global Financial Stability Report, Octber 2010。 8 ただし、IMFは、こうした処理額や見込額に関する推計値は、データ制約や対象国による会計基準の相違など多くの不確実性に基づいている点に留意すべきとしている。

第1-1-1-30図 新興国の株価の推移

(2008 年 9月=100)

資料:CEIC Data baseから作成。

2007年3月

2007年7月

2007年11月

2008年3月

2008年7月

2008年11月

2009年3月

2009年7月

2009年11月

2010年3月

2010年7月

2010年11月

2011年3月

上海シンセン 300

香港ハンセン

ムンバイ SENSEX30

ジャカルタ総合指数

韓国 KOSPI

FTSE ブルサマレーシア

フィリピン PSEi

シンガポール ST 指数

タイ SET

ベトナムHCMC

ロシア RTS

トルコ ISE ナショナル 100

サウジアラビア全株指数 TASI

南ア全株指数

ドバイ金融市場総合指数

アルゼンチンメルバル指数

ブラジルボベスパ指数

メキシコ IPC 指数

0

50

100

150

200

250

300

2008年9月

Page 13: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

14 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

(3)先進国による金融緩和と国際的な資金の流れ景気減速の懸念の高まりを背景に、2010年は、先

進国の多くで、金融政策のスタンスは緩和基調が続いた。例えば米国では、米連邦準備理事会(FRB)が2008年12月にフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を0~0.25% まで引き下げ、その後も同水準に

据え置いた他、信用緩和と量的緩和が進められた 11。また、欧州でも、欧州中央銀行(ECB)は、リファイナンスレートを、2009年のユーロ導入以来最低の水準である1.00% に維持した 12。我が国もまた、ゼロ金利政策を維持するとともに、量的緩和が進められた 13

(第1-1-1-34図)。

に向かう一方、欧州では債務問題が深刻化し、それまで危機対応のために財政拡大路線をとってきた国々では、財政健全化への転換の必要性が認識されるようになった。まず、先進国をみると、日本、米国、英国を中心に財政赤字の増加が目立つ 9。IMFによれば、2010年、米国では追加景気対策の実施によって、財政赤字は対GDP 比10.6% に達した。また、欧州では、南欧諸国を中心に、債務問題を抱え財政緊縮の傾向が強まっている多くの国で同7%を超える水準となった他、我が国は長引く景気の低迷による税収の落ち込み、経済対策による財政支出の拡大等により、財政赤字は同9.5%となった。G20先進国全体では、財政赤字は2010年で8.2% に上っている10(第1-1-1-32図)。主要先進国政 府・中央銀行は、個人消費や設備投資等の民需が回復するにつれて、危機後に講じてきた景気刺激策を順次

終了あるいは縮小している。しかし、景気刺激策によって積み上がった膨大な債務残高の返済、巨額の財政赤字の正常化には時間がかかると考えられている。財政赤字の拡大が金利の上昇につながれば、政府の資金調達コストは増大する。例えば我が国やギリシャ、アイルランドなど巨額の政府債務残高を抱えた国は、将来の債務返済に向けて、中長期的な財政健全化へのコミットメントが不可欠となっている。これに対し、新興国では、2010年には多くの国で財政赤字の対 GDP 比は3~5%程度の範囲に収まり、G20新興国全体でも同3.6% にとどまった。過去の高成長時に財政収支の改善を進めていたことや、資源国にとっては近年の資源価格の高騰で収入が拡大したことが新興国の財政余力を高め、景気対策実施後も収支の悪化を一定範囲内に収めることが可能となった(第1-1-1-33図)。

第1-1-1-32図 先進国の財政赤字の推移 第1-1-1-33図 新興国の財政赤字の推移

(年)2008 2009 2010 2011

G20 先進国2010 年、 -8.2%

2012

-6

-4

-2

0

2(%)

-14

-12

-10

-8

-6

-

資料:IMF「Fiscal Monitor, April 2011」から作成。

米国カナダG20 先進国

ユーロ圏ドイツ

イタリア日本英国

フランス246(%)

(年)

-8-6-4-2024

-12-14

-10-8-

2008 2009 2010 2011 2012資料:IMF「Fiscal Monitor April 2011」から作成。

G20 先進国2010 年、 -3.6%

中国インドロシアブラジルメキシコG20 新興国

9 IMF, Fiscal Monitor April 2011のデータより。財政赤字の対象は「General government」であり、地方政府も含む。 10 IMF, Fiscal Monitor, April 2011。 11 信用緩和としては、住宅ローン担保証券(MBS)等の比較的リスクの高い資産の買い取り等が、又、量的緩和としては、6,000億ドル規模の中長期米国債の購入等が挙げられる。なお、2011年4月28日には、米国連邦準備委員会(FRB)のバーナンキ議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見において、現状の緩和的な金融政策を維持するとのスタンスを明示した。

12 なお、欧州中央銀行は、2011年4月7日、他の先進国の先陣を切って、金融危機発生後で初めての利上げに踏み切った。 13 日銀は、2010年10月5日、以下の「包括的金融緩和措置」を打ち出した。 1) 政策金利の引き下げ(実質ゼロ金利政策の容認)。 ‒ 無担保コール翌日物金利の誘導目標を「0.1% 程度」から「0-0.1% 程度」へ。 2) 超低金利政策の「時間軸」の明確化。 ‒ 物価安定が展望できる情勢になったと判断するまで実質ゼロ金利政策を継続。 3) 国債等の金融資産買い入れのための35兆円規模の基金創設。 ‒  国債、社債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(Jリート)など多様な金融資産買入れによる資金供給枠(5兆円程度)と、固定金利0.1%

の共通担保資金供給オペによる資金供給枠(30兆円程度)から成る基金を新たに創設。

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15通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

これに対し、多くの新興国では、インフレ率が上昇基調にあること等を背景に、断続的に金融引締めを行った(第1-1-1-35図)。先進国によるこうした金融緩和は、世界的な資金の

流れに影響を与えている。具体的には、先進国では、金融緩和によりマネーサプライが増加している(第1-1-1-36図)。これらの資金は、貸出・借入が増加し企業活動が活発化して景気が浮揚するという効果が十分に現れないまま、拡大したマネーが金融市場から流れ込む資金として、高利回りを目指すリスク資産に向かうという形で顕在化しつつある(第1-1-1-37図)。国際商品市況は、2010年央以降、急速に上昇した。農産物市況の上昇には、干ばつ等の世界的な天候不順の影響があるが、新興国を中心とした需要の拡大によ

る需給ひっ迫を観測する動きから、金融市場から資金が流入していると指摘されている。資源・エネルギー価格の上昇は輸入物価の上昇要因となり、先進国では企業活動のコストを高めることから景気回復に水を差す可能性がある。また、新興国では、食料・エネルギー価格の上昇が物価高につながり、国内経済の好調さも相まってインフレ圧力を強めていると考えられる。また、新興国への資本流入も拡大している。民間資本の新興国への流入額(ネットベース)の推移を

第1-1-1-34図 先進国の政策金利(短期) 第1-1-1-35図 新興国の政策金利(短期)

資料:DATASTREAMから作成。

(年月)

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0(%) 日本 米国 ユーロ圏 英国

豪州 カナダ 韓国

豪州4.75

韓国3.0

ユーロ圏 1.25カナダ1.0

英国0.50米国0.25日本0.1

2010年1月

2010年2月

2010年3月

2010年4月

2010年5月

2010年6月

2010年7月

2010年8月

2010年9月

2010年10月

2010年11月

2010年12月

2011年1月

2011年2月

2011年3月

2011年4月

2011年5月

ブラジル12.0

資料:DATASTREAMから作成。

(年月)

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

(%)中国 ブラジル ロシア インド南アフリカ インドネシア トルコ メキシコアルゼンチン サウジアラビア

アルゼンチン11.5

ロシア8.25

インドネシア6.75中国6.31

インド7.25

南アフリカ5.5メキシコ4.5

サウジアラビア2.0トルコ1.5

2010年1月

2010年2月

2010年3月

2010年4月

2010年5月

2010年6月

2010年7月

2010年8月

2010年9月

2010年10月

2010年11月

2010年12月

2011年1月

2011年2月

2011年3月

2011年4月

2011年5月

第1-1-1-36図主要先進国のマネーサプライ(M1)の推移

60708090100110120130140150(2008 年 9月=100)

2008年9月

オーストラリアカナダEU日本韓国ニュージーランド英国米国

2005 1月

2005 4月

2005 7月

2005 10月

2006 1月

2006 4月

2006 7月

2006 10月

2007 1月

2007 4月

2007 7月

2007 10月

2008 1月

2008 4月

2008 7月

2008 10月

2009 1月

2009 4月

2009 7月

2009 10月

2010 1月

2010 4月

2010 7月

2010 10月

2011 1月

資料:CEIC Databaseから作成。

第1-1-1-37図 国際商品市況の推移

80

90

100

110

120

130

140

150

10/1 10/4 10/7 10/10 11/1 11/4

(年月、日次)

(2010 年初=100)

備考:1.CRB(Commodity Research Bureau)商品指数の構成品目は、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、原油、ヒーティングオイル、無鉛ガソリン、天然ガス、とうもろこし、大豆、小麦、綿花、牛、豚、ココア、コーヒー、オレンジジュース、砂糖の19種。

   2.NYM(New York Mercantile Exchange)原油は、WTI先物価格。   3.LME(London Metal Exchange)金属指数の構成品目は、アル

ミニウム、銅、ニッケル、鉛、スズ、亜鉛の6種。資料:Bloombergから作成。

CRB 商品指数

NYM原油

CRB 非エネルギー指数

LME金属指数

Page 15: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

16 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

14 IIF による見込み。“Capital Flows to Emerging Market Economies”。

みると、2007年に約1兆ドルを記録した後、世界経済危機の影響を受けて激減し、2009年には3,444億ドルと2007年の3分の1の水準となった。しかしながら、2010年は資本流入額が再び拡大し、6,000億ドルを超える水準に達したと目されている(第1-1-1-38図)14。新興国に流入している民間資本の内訳をみると、民間投資が継続的に流入している一方、商業銀行やノンバンク等の融資は変動が激しくなっている。さらに、民間投資の内訳をみると、2010年は対内直接投資の額が約3,500億ドルと大きいが、対内証券投資も約2,000億ドルに上っている。特に、対内証券投資は2008年にはマイナス860億ドルであったことを踏まえると、2009年以降は対内証券投資額が急速に拡大している(第1-1-1-39図)。新興国への資本流入を地域別にみると、2010年に

は、アジア向けが中心となっている他、中南米諸国向けの割合も高い(第1-1-1-40図)。中国やインド、ブラジル等、高成長を続けている新興国への資本流入が活発化していると考えられる(第1-1-1-41図、 第1-1-1-42図)。

第1-1-1-38図 新興国への民間資本流入(全体)

備考:新興国は、アジア(7か国)、欧州(8か国)、中南米(8か国)、   中東アフリカ(7か国)の計30か国。資料:IIF「Capital Flows to Emerging Market Economies」から作成。

1995

1997

1996

199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012

ノンバンク等融資商業銀行融資民間投資民間資本流入合計

-200

0

200

400

600

800

1,000

1,200(10億ドル)

第1-1-1-41図 新興国への資本流入(ブラジル、インド)

(10億ドル)

2000年3月

2000年9月

2001年3月

2001年9月

2002年3月

2002年9月

2003年3月

2003年9月

2004年3月

2004年9月

2005年3月

2005年9月

2006年3月

2006年9月

2007年3月

2007年9月

2008年3月

2008年9月

2009年3月

2009年9月

2010年3月

2010年9月

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60

ブラジルインド

資料:CEIC Data Base から作成。第1-1-1-39図 新興国への民間資本流入(民間投資内訳)

備考:新興国は、アジア(7か国)、欧州(8か国)、中南米(8か国)、   中東アフリカ(7か国)の計30か国。資料:IIF「Capital Flows to Emerging Market Economies」から作成。

1995

1997

1996

199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012

対内直接投資対外直接投資対外証券投資対内証券投資直接投資(ネット)証券投資(ネット)

7006005004003002001000

-100-200-300-400

(10億ドル)

第1-1-1-42図 新興国への資本流入(中国)

0

20

40

60

80

100 (10億ドル)

2000年6月

2000年12月

2001年6月

2001年12月

2002年6月

2002年12月

2003年6月

2003年12月

2004年6月

2004年12月

2005年6月

2005年12月

2006年6月

2006年12月

2007年6月

2007年12月

2008年6月

2008年12月

2009年6月

2009年12月

2010年6月

2010年12月

中国

資料:CEIC Data Baseから作成。

第1-1-1-40図 新興国への資本流入(地域別)

(10億ドル)

1990

1994

1992

19961998200020022004200620082010

300

400

500

600

-100

0

100

200

300

400

サブサハラアフリカ中東北アフリカ中南米新興国アジア中・東欧

資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

Page 16: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

17通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

15 小林俊、吉野功一「新興国への資本流入と米国への資金還流について」(『日銀レビュー』2010年12月)。

こうした民間資本の流入の拡大は、新興国経済の成長を後押し、株価については外国人投資家による新興国市場での買い越しにより2010年央以降の株価上昇に寄与している面がある。一方 15、前述のように、不動産価格の高騰等、新興国における景気の過熱、資産バブルの一因になることが懸念されている(第1-1-1-13図再掲、第 1-1-1-14図再掲)。国際商品市場や新興国への資本流入の拡大により、新興国は金融・為替政策の面でも難しい局面に立たされた。具体的には、新興国では、国内への大量の資本流入により、高成長を背景とした金利の上昇期待と相まって自国通貨の上昇圧力に直面した。こうした背景

から、新興国は、金融危機で縮小した外貨準備高を、2010年には急速に再拡大させており(第1-1-1-43図)、為替市場に積極的に介入することで、自国通貨の上昇圧力に対応したことがうかがえる。他方、新興国では、海外からの資金流入も含めた国

内経済の高成長、商品市況の高騰もあり、インフレ圧力が高まった。このため、自国通貨の上昇圧力の緩和を目指す一方で、金融政策としては引締めの方向をとらざるを得ない状況に直面した。こうした新興国通貨の上昇圧力の高まりは、先進国の金融緩和と通貨安の進展がもたらすものとして、2010年中頃には「通貨安競争」を巡る懸念が世界的に強まった。

第1-1-1-13図新興国(地域)・資源国の住宅価格の推移(四半期)(再掲)

第1-1-1-14図 中国の住宅価格の推移(再掲)

(2008 年 Q1=100)

資料:CEIC Data Baseから作成。

405060708090100110120130140

2006Q1

2005Q1

2004Q1

2003Q1

2007Q1

2008Q1

2009Q1

2010Q1

2011Q1

豪州 8都市平均香港シンガポール

韓国台湾

(%)

資料:CEIC Data Baseから作成。2009年1月

2009年3月

2008年9月

2008年11月

2008年5月

2008年7月

2008年1月

2008年3月

2007年9月

2007年11月

2007年5月

2007年7月

2007年1月

2007年3月

2009年5月

2009年7月

2009年9月

2009年11月

2010年1月

2010年3月

2010年5月

2010年7月

2010年9月

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

70 都市全体北京上海広州深圳

第1-1-1-43図 新興国の外貨準備高

1,000

1,200(10億ドル)

0

200

400

600

800

199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012

備考:新興国は、アジア(7か国)、欧州(8か国)、中南米(8か国)、中東アフリカ(7か国)の計30か国。

資料:IIF「Capital Flows to Emerging Market Economies」から作成。

(年)

Page 17: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

18 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

(4)再び拡大するグローバル・インバランス① グローバル・インバランスの重層的な広がり。先進国と新興国に景気回復の速度の差がみられる中で、グローバル・インバランスが再び拡大しつつある。世界経済危機の発生により貿易額が世界的に縮小したこと等を背景に、グローバル・インバランスは2009年に一時的に縮小した。それまでの「米国への消費の一極集中」から「消費の多極化」への変化が期待されたが、2010年には再び拡大に転じた(第1-1-1-44図)。IMFの見通しによれば、今後、2010年から2016年の間で、米国の経常収支赤字は1.4倍に拡大、一方、中国の経常収支黒字は2.9倍に拡大し、中期的な縮小は見込めない。

ここで、グローバル・インバランスの赤字側と黒字側を代表する米国と中国を中心に、経済活動の対外的側面を確認する。< 米国 >米国の経常収支の推移をみると、近年では経常収支赤字のGDP比は低下してきた。その一方、四半期ベースでは、財貿易収支の悪化を背景に、2009年第3四半期から再び赤字が拡大し、年間ベースでも2010年はマイナス3.2% と、前年(2009年)のマイナス2.7% から拡大した(第1-1-1-45図)。貿易収支の動向をみると、特に対中貿易赤字は、その規模及び足下での拡大幅共に大きい(第1-1-1-46図)。

第1-1-1-44図 主要国・地域の経常収支不均衡の推移

(10億ドル)

(年)資料:IMF「WEO, April 2011」から作成。

2,000

1,500

1,000

500

0

-500

-1,000

-1,500

-2,000

199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010201120122013201420152016

他新興国

ロシア

他先進国

韓国

ドイツ

日本

中国

米国

英国

他先進国

ブラジル

インド

他新興国

予測

予測

第1-1-1-45図 米国の経常収支赤字の推移

(%)

(年)

資料:米国商務省から作成。

12

10

8

4

2

0

-2

-4

-6

-8

米国の経常収支赤字(対名目GDP比) 危機前:最大-6.0%程度 2010年:-3.2% ←前年(-2.7%)から拡大

1980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010

貿易収支   サービス収支   所得収支   経常移転収支   経常収支

-6.0%-6.0%

-5.1%-5.1%

-4.7%-4.7%

-2.7%-3.2%

0 (100万ドル)

-20,000 -10,000

-50,000 -40,000 -30,000

-70,000 -60,000

-90,000 -80,000

2005年3月

2005年6月

2005年9月

2005年12月

2006年3月

2006年6月

2006年9月

2006年12月

2007年3月

2007年6月

2007年9月

2007年12月

2008年3月

2008年6月

2008年9月

2008年12月

2009年3月

2009年6月

2009年9月

2009年12月

2010年3月

2010年6月

2010年9月

2010年12月

2011年3月

資料:米国商務省、CEIC Data Baseから作成。

第1-1-1-46図米国の財貿易収支の推移(対中国、四半期ベース)

Page 18: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

19通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

オバマ大統領は、2010年1月の一般教書演説で、今後5年間で輸出を倍増させるとの方向性を示したが、現時点では上述のように、貿易収支の顕著な改善には至っていない(詳細は第1章第1節2.「米国経済の現状と課題」参照)。

< 中国 >中国の経常収支の推移をみると、2000年代に入っ

てから経常収支黒字が急速に拡大し、2007年には対名目 GDP 比10.1% にまで拡大した。その後は縮小傾向にあるが、2010年は5.2% と、前年(2009年)から横ばいとなった。経常収支の内訳をみると、1990年代中盤以降、サービス収支は一貫して赤字である一方、貿易収支が大幅な黒字となっている(第1-1-1-47図)。

中国の経常収支を IS バランスの面から見てみると、2003~2007年にかけて、中国の貯蓄・投資率、中でも企業部門と政府部門の貯蓄・投資率が急上昇しており、家計部門の消費を圧迫していることが推察される 16(第1-1-1-48表)。中国の貯蓄水準は、全ての部門において、OECDを上回る貯蓄性向となっており、特に、家計部門の貯蓄の対名目 GDP比は、OECDを大きく上回っている(第1-1-1-49図)。IS バランスの観点からは、中国が消費を中心とした内需拡大による成長へと経済発展モデルの転換を図り、家計部門の貯蓄超過の水準が低下していくことが、経常収支の黒字の縮小につながっていくと考えられる。ここまで米国と中国の間の不均衡を中心に見てきたが、世界に目を転じると、経常収支不均衡は米中2国

間のみでなく、世界中に存在していることがわかる。主な先進国と新興国・地域の経常収支の対 GDP比

率をみると、1990年から2006年もしくは2010年に向けて、いずれの場合も、NIEs、中東諸国をはじめ経常収支黒字幅を拡大させた国・地域、あるいはユーロ圏の南欧諸国をはじめ赤字幅を拡大させた国が多い(第1-1-1-50図、第1-1-1-51図)。このように、米中2国間のみならずその他の国々に

おいても、経常収支の黒字幅あるいは赤字幅が拡大し

16 大橋英夫(2011)「経済教室 過剰貯蓄の解消カギに」(日本経済新聞2011年2月24日付)。

第1-1-1-47図 中国の経常収支黒字の推移

(%)

(年)

12.0

10.0

8.0

4.0

6.0

2.0

0.0

-2.0

-4.0

-6.0

中国の経常収支黒字(対名目GDP比) 危機前:最大10%程度 2010年5.2% ←前年(5.2%)から横ばい

資料:中国国家外為管理局、IMF、CEIC Databaseから作成。

10.1%

9.1%

5.2%

1980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010

貿易収支   サービス収支   所得収支   経常移転収支   経常収支

(%、%ポイント)

1993-1997年

1998-2002年

2003-2007年

(1998年 -2002年)から(2003-2007年)にかけての変化(%ポイント)

経済全体 貯蓄 37.0 37.3 46.9 9.6投資 36.1 36.0 42.3 6.3ISバランス 0.9 1.3 4.6 3.3

家計部門 貯蓄 19.6 18.6 20.0 1.4投資 7.6 7.7 8.4 0.7ISバランス 12.0 10.9 11.6 0.7

企業部門 貯蓄 14.1 15.3 19.6 4.3投資 25.5 25.3 29.1 3.8ISバランス ▲11.4 ▲10.0 ▲9.5 0.5

政府部門 貯蓄 3.2 3.3 7.4 4.1投資 3.0 3.0 4.8 1.8ISバランス 0.3 0.3 2.6 2.3

海外部門(参考) ▲2.6 ▲1.9 ▲6.7 ▲4.8

備考:企業部門には、金融機関部門が加算されている。資料: OECD(2010),“OECD Economic Surveys:China2010”から作成。

第1-1-1-48表中国の部門別 IS バランス(対名目GDP比)の推移

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

家計部門 企業部門 政府部門

(名目GDP比、%)

備考:中国は2003 - 2007年、OECDは2003 - 2008年の数値。OECD(2010), “OECD Economic Surveys:China2010”から作成。

資料:

中国

OECD単純平均20.0 19.6

13.713.7

7.4

2.8

6.7

第1-1-1-49図中国とOECD諸国の貯蓄対名目GDP比

Page 19: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

20 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

つつ積み重なってきた結果、グローバル・インバランスの拡大につながったことが改めてわかる。

② グローバル・インバランスの持続性について<中期的な見通し >既に見たように、米国では経常収支赤字の対 GDP比は、2008年のマイナス4.7% から2009年のマイナス2.7% へと、危機後にいったん縮小したものの、2010年は同マイナス3.2% へと再拡大した。他方、中国では経常収支黒字の対名目GDP比は2010年はマイナス5.2% と、2009年から横ばいで推移しており、2011年以降の動向が注視されている。一般に、経常収支の黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるもので、歴史的にも常に存在している。経常収支の赤字はその存在自体が悪い訳ではなく、それが持続困難なものとなった場合に初めて問題を引き起こすと考えられている 17, 18。果たして、現在のグローバル・インバランスは持続可能な状況にあるのだろうか。ここで、新興国の国際収支の動向をみると、経常収

支と資本収支が黒字となる一方で、外貨準備高が大きく積み上がっている(第1-1-1-52図)。こうした外貨準備は、米国債を始めとする流動性の高い安全資産で運用されていると考えられる。米国を中心に先進国で金融緩和が進められ、潤沢となったマネーが高成長を維持する新興国に流入する一方、新興国では外貨準備が拡大し、その運用先として米国を始めとする先進国の国債への投資が進むと、先進国に資金が還流し、長期金利の押し下げ圧力が働く。それとともに、先進国(米国)の経常収支の赤字がファイナンスされることになる 19(第1-1-1-53図)。こうした国際資本フローの循環が続けば、グローバル・インバランスの再拡大が「維持」されていく可能性がある。また、IMFの見通しにおいても、グローバル・インバランスの中期的な縮小は見込めないとされ 20、それによる持続不可能な財政赤字によるデフォルト、金融機関の不安定化、新興国への資金流入の増加による一層のインフレ等が世界経済を下押しする懸念材料になっていると考えられる。

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

30

ギリシャ

ポルトガル

キプロス

スペイン

イタリア

イタリア

フランス

フランス

アイルランド

ベルギー

フィンランド

オーストラリア

ドイツ

ドイツ

オランダ

米国

英国

韓国

カナダ

日本

香港台湾シンガポール

(%)

資料:IMF「WEO Database, April 2011」から作成。

ユーロ圏 G7 NIEs

1990 年2006 年2010 年

-25-20-15-10-5051015202530354045

トルコ

ルーマニア

ポーランド

ブルガリア

ハンガリー

ブラジル

ペルー

メキシコ

アルゼンチン

チリラオス

カンボジア

ベトナム

インド

ミャンマー

インドネシア

フィリピン

タイ中国マレーシア

モンゴル

ウクライナ

ロシア

ウズベキスタン

アゼルバイジャン

エジプト

バーレーン

イラン

アラブ首長国連邦

サウジアラビア

アルジェリア

オマーン

カタール

クウェート

中東欧 中南米 アジア新興国 CIS 中東

(%)

備考:CSIについては、1990年のデータがなく、1992年のデータを用いた。資料:IMF「WEO Database, April 2011」から作成。

1990 年2006 年2010 年

第1-1-1-50図主な先進国・地域の経常収支の対GDP比が示す不均衡の拡大

第1-1-1-51図主な新興国の経常収支の対GDP比が示す不均衡の拡大

17 平成22年版通商白書。 18 白川方明日銀総裁は「グローバル・インバランスと経常収支不均衡」(フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベントにおけ

る講演の邦訳、日本銀行、2011年2月18日)において「経常収支のトレンドは、貯蓄・投資バランスの長期トレンドを反映したものであり、経済の発展段階や人口動態に強く左右されます。こうしたトレンドの中で、経常黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるものであるため、その存在自体が問題であるとはみなすべきではありません。経常収支不均衡は、それが持続困難なものとなった場合にはじめて問題を引き起こすものです。」と指摘している。

19 小林俊、吉野功一「新興国への資本流入と米国への資金還流について」(『日銀レビュー』2010年12月)。 20 IMF,World Economic Outlook,April 2011。

Page 20: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

21通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

< 長期的な見通し >(a) リバランスの可能性このように、グローバル・インバランスは中期的には維持され、縮小は見込めない、との見方がある一方、長期的には以下の要因によりグローバル ・インバランスは縮小に向かう、との見方も示されている。まず、世界全体の投資需要に占める新興国の割合が

上昇し、貯蓄・投資バランスでみて特に新興国での「投資不足」の状況が改善していく、との見方である。世界経済危機の発生後、先進国に比して新興国は高成長を遂げており、今後も新興国経済が先進国経済を上回るペースで成長していけば、新興国の投資もますます拡大していくと予測されている。また、長期的には新興国における予備的な貯蓄が減少するとの見方もある。新興国では、今後の経済の発展を背景に、社会福祉や医療保険等のセーフティネット機能の向上、外国為替市場の整備など金融市場の発展、人口動態の変化(人口増加)による消費拡大の下支え等が予想される。

こうした背景により、家計における従来の予備的な貯蓄が減少し、消費へ回す分が増えることで、「貯蓄超過」が改善されると考えられている 21。グローバル・インバランスが縮小に向かう可能性を、

これまで概観してきた世界経済の動向の中に見い出すとすれば、①「米国への消費の一極集中」から「消費の多極化」への変化が進むこと、また、「消費の多極化」については特に、②中国において輸出主導から個人消費を中心とする内需主導の成長へと経済発展モデルの転換が図られること、③中国の消費の高まりにより東アジア域内の自律的な消費の活発化が進み、欧米向け輸出の比率が相対的に低下すること、といった点が挙げられよう。こうした構造的変化が生じることによりグローバル・インバランスのリバランスが進む可能性がある。なお、経常収支とグローバル・インバランスの関係

について、「経常収支は、経済の状況について有益な情報を提供する。しかし、同時に、今次金融危機や過去の危機の経験は、持続困難なグローバル・インバランスの存在を判断する指標として経常収支をそのまま単純に利用することの潜在的なリスクを示している」との指摘もある 22。

21 Alan Taylor、 Manoj Pradhan「世界経済の大いなるリバランス」(Morgan Stanley Research“The Global Monetary Analyst”2011年2月18日)。同ペーパーでは、この他、新興国では外貨準備の拡大が進んできており、今後は外貨準備の積み増しのペースが低下すると考えられること等も、グローバル・インバランスが長期的に縮小に向かう要因の一つとして指摘されている。

22 白川方明日銀総裁は「グローバル・インバランスと経常収支不均衡」(フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベントにおける講演の邦訳、日本銀行、2011年2月18日)において、「グローバル・インバランスの評価」として、「経常収支は、経済の状況について有益な情報を提供する。しかし、同時に、今次金融危機や過去の危機の経験は、持続困難なグローバル・インバランスの存在を判断する指標として経常収支をそのまま単純に利用することの潜在的なリスクを示している」と指摘。

1,000

1,200

-400

-200

0

200

400

600

800

-1,200

-1,000

-800

-600

199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012

(年)

(10億ドル)

備考:新興国は、アジア(7か国)、欧州(8か国)、中南米(8か国)、   中東アフリカ(7か国)の計30か国。資料:IIF「Capital Flows to Emerging Market Economies」から作成。

外貨準備 資本収支

経常収支誤差脱漏

第1-1-1-52図 新興国の国際収支

新興諸国先進諸国

新興諸国先進諸国

資料:小林俊、吉野功一「新興国への資本流入と米国への資金還流について」(『日銀レビュー』2010年12月)。

金融緩和環境の強まり

米長期金利への押し下げ圧力

自国通貨の増加圧力減殺のための大規模為替介入

米国長期債投資の形での還流

外貨準備の積み上がり

金融緩和環境下の利回り追及動機に基づく資本流入

特に米国

第1-1-1-53図 国際資本フローの循環

Page 21: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

22 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

(b) 米国の経常収支赤字の持続性に対する懸念米国が抱える巨額の経常収支赤字を新興国が長期的にファイナンスし続けることは可能なのかどうか、議論が分かれるところであるが、今後も長期にわたって経常収支の赤字が拡大し続けることには、幾つかの点で懸念があると指摘されている。まず、米国の対外資産と負債の構成に起因する懸念である。米国は対外純負債国であるにもかかわらず、所得収支は黒字(インカムゲイン)であり、さらに、先行研究によれば、資産価値の上昇による巨額の利益(キャピタルゲイン)を得ている。対外総資産と総負債が1990年代以降急速に拡大してきた中で、米国の対外総資産の多くが直接投資や株式などの形態で保有されている一方、対外総負債は財務省証券や債券、銀行融資の割合が高く、負債と資産のリスク・収益率の差によりキャピタルゲインを得ている構図となっている。しかも、対外負債の大半がドル建てで為替変動の影響を受けない一方、対外資産の多くは外貨建てであることから、ドル安が進展する局面では、対外資産はドル表示で増価することになる。こうして得られたキャピタルゲインが、米国の対外ポジションの悪化を緩和ないし改善してきたとされている 23。こうした対外資産運用の「成功」は必ずしも継続可能とは言えない。例えば、2008年の世界経済危機時には大きなキャピタルロスを計上したように、ボラティリティーが高く脆弱な面がある。また、為替がドル高に進む局面では、対外債務の拡大にもつながる。こうした相対的にリスクの高い資産運用にかんがみれば、将来的には米国が巨額の経常収支赤字を出し続けることへの修正を迫られる可能性がある 24。更に、海外による米国債保有比率の推移をみると、2000年以降は上昇傾向で推移していたが、2008年第4四半期(51.3%)をピークに低下傾向に転じ、2010年第2四半期には46.6% まで減少した(第1-1-1-54図)。

翌第3四半期にはいったん持ち直したが、第4四半期には、再び低下して46.9% となった。これは、米国内の貯蓄率の上昇を背景に米国内での国債保有比率が高まるとともに、金融危機を経てドルの基軸通貨としての地位の揺らぎが深まったとの認識等を背景に、諸外国において、従来のドル建て中心の外貨準備の運用を多様化させる動きがあることを示唆しているとも考えられる 25。そうした動きを国内の貯蓄率の高まりによりカバーできている場合は良いが、今後、諸外国において外貨準備の運用の多様化がより一層進むと、従来のように、日本、ドイツ、ユーロ圏、中東産油国や中国をはじめとするアジア新興国が米国債を購入し、それによって米国の財政赤字(経常収支赤字)がファイナンスされる、という在り方が持続可能かどうか、懸念が生じる 26。

23 岩本武和『金融危機とグローバルインバランス-米国の高レバレッジ型対外ポジションの脆弱性を中心にして-』(国際調査室報、2009年11月第3号)。

24 岩本武和『金融危機とグローバルインバランス-米国の高レバレッジ型対外ポジションの脆弱性を中心にして-』(国際調査室報、2009年11月第3号)は、「キャピタルゲインに依存してきた米国の対外不均衡の持続可能性は、金融危機後に巨額のキャピタルロスを計上したことからも明らかなように、米国が一国全体のバランスシートで抱えている脆弱性でもある」「もしも「金融立国」という国家目標があり、それが個別の金融機関のみならず、一国全体の対外ポジションに高いレバレッジをかけ、所得収支(インカムゲイン)のみならず、キャピタルゲインに依存した対外ポジションを目指すこと通じるのであれば、対外バランスシートの健全性という観点から疑問なしとしない」と指摘している。

25 平成22年度版通商白書。 26 新興国の中央銀行が「適切な水準にまで外貨準備を積みますことができた」と判断すれば、新興国の外貨準備の伸びが鈍化するとの見方もある(Alan Taylor、 Manoj Pradhan「世界経済の大いなるリバランス」Morgan Stanley Research“The Global Monetary Analyst”2011年2月18日)。

第1-1-1-54図 米国債の海外保有比率の推移

2008 Q4,51.3

2010 Q2, 46.6

30.0

35.0

40.0

45.0

50.0

55.0

資料:FRB「Flow of Funds Accounts of the United States」から作成。

25.0

Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3Q1Q3

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

(%)

2010 Q446.9

2010 Q446.9

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23通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

27 なお、経常収支の不均衡が調整されるとした場合、その過程における米ドル為替レートの調整については、先行研究では主に、①経常収支不均衡はいずれゼロ均衡に向かい、ドルレートの大幅な調整が伴う、②経常収支不均衡はある程度の期間持続し、ドルレートの調整は緩やかにとどまる、との2つの分析に分類されると指摘されている(萩原景子『経常収支不均衡の調整過程 : 近年の理論的分析の展望』(日本銀行金融研究所「金融研究」、2008年12月))。

28 平成22年度版通商白書。

金融の国際化が進展した現在、グローバル・インバランスは、単に米国の経常収支赤字とそれをファイナンスしている一部の先進国及び新興国との関係が持続するかどうか、という局所的な問題にとどまらない。他の先進国はもとより、新興国を含む他の開発途上国に対する影響を含めた世界経済の問題であり、それゆえに、グローバル・インバランスの再拡大は、今後の世界経済の持続的な成長にとっての懸念材料となっている。先の「国際資金フローの循環」がひとたび崩れれば、世界経済は大きく不安定化しかねない 27。

③ リバランスに向けたアジア新興国への期待これまで見てきたように、グローバル・インバランスの拡大に伴うリスクを踏まえると、今後は従来のように、米国の消費に過度に依存する形での各国・地域の経済成長は期待できない。したがって、今後の世界経済の成長を牽引するエンジン(消費市場)として、中国やインドをはじめとす

るアジアの新興国への期待がますます高まっている。ただし、世界の GDP に占める経済規模において、

先進国は66%、新興国は34% と、その差は大きい。国の経済規模で見ても、世界の GDPに占める米国の割合は23.3% であるのに対して、中国は9.3%、インドは2.4%にとどまっている(前出第1-1-1-3図)。従って、米国をはじめとする先進国の景気回復は世界経済全体の復調の前提であり、今後、世界経済が均衡のとれた力強い持続的成長を遂げるためには、先進国、新興国ともに経済成長してゆく姿が期待される。中国をはじめとする新興国においては、消費中心の

高い経済発展によって、中間層、富裕層が急速に拡大している 28。それに伴い、今後は内需中心のより自律的かつ持続的な経済成長の実現が期待されるとともに、新興国による輸入が促進され、ひいては再拡大しつつあるグローバル・インバランスの是正に寄与することが望まれる。

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24 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

29 2010年9月20日、米国経済の景気サイクルを判定する全米経済研究所(NBER)は「米国経済は2009年6月にリセッションを脱却した」との判断を下した。2007年12月に始まった景気後退の期間は18か月と、第2次世界大戦後、最長の景気後退となった。

30 IMF は2011年4月11日に発表した世界経済見通しで、「先進国では、需要の官から民への移行が進んでおり、財政支援策の解消に伴う景気の「二番底」の危険性は薄れている。」と指摘した。

31 IMF は4月の世界経済見通し(前掲)で、米国経済の2011年成長率見通しを1月時点の3.0%から2.8%に下方修正した。また、FRBは2011年4月26、27日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)にて2011年成長率見通しを1月時点の3.4~3.9%から3.1~3.3%に下方修正した。

2.米国経済の現状と課題

2010年の米国経済は、世界的な景気回復を背景に、政府の財政刺激策や連邦準備制度理事会(以下「FRB」という。)の金融緩和策を下支えとして、緩やかに成長した。しかし雇用市場や住宅市場の回復には遅れがみられ、今後の持続的な成長には課題も残した。以下では、米国経済の現状と今後の課題を、(1)実体経済及び(2)金融政策の観点から整理する。

(1)二番底懸念を切り抜けた米国経済① 成長が低迷した前半と回復した後半2010年前半の実質 GDP成長率は、実質GDPの約7

割を占める個人消費の回復などにより、第1四半期に前期比年率3.7%、第2四半期に同1.7%とプラス成長ではあったが、その伸びは鈍化していった(第1-1-2-1図)。このような中、雇用の回復の遅れや失業率の高止まり、住宅・不動産市場の低迷などを理由に、2008年世界経済危機後の景気の底 29から回復しつつあった米国経済が再び後退するのではないかという、二番底懸念が指摘されていた。しかし、第3四半期か

らは同2.6%、同3.1%と、年の後半に米国経済の回復が緩やかに加速したことが示された。年ベースでも2010年は前年比2.9%と、2005年(同3.1%)以来の高さを記録しており、2010年の米国経済は二番底懸念を切り抜けたと言えよう 30。ただし、足下では2011年第1四半期(改訂値)が前

期比年率1.8%と、7四半期連続のプラス成長となったものの再び回復ペースが鈍化しており 31、依然として先行きの不透明感は残る。GDP を構成する需要項目別寄与度をみると(前掲第1-1-2-1図)、2010年は個人消費が四半期ごとに寄与度を増す一方で、住宅投資は第2、4四半期がプラス寄与、第1、3四半期がマイナス寄与となった。また、純輸出は第1から第3四半期までマイナス寄与で推移し、第4四半期にプラス寄与に大きく転換した。このように、2010年は米国経済が全体として緩やかに回復する中、成長が一律ではない項目もあった。以下では、各項目について整理する。

第1-1-2-1図 米国の実質GDP成長率及び需要項目別寄与度の推移

(%、%ポイント)

2005 2006 2007 2008 2009 2010 Ⅰ Ⅲ

(年、四半期)2007 2008 2009 2010 2011Ⅱ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ

(年ベース) (四半期ベース)

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8個人消費 設備投資 住宅投資

実質GDP成長率在庫増減

純輸出 政府支出

3.13.1

1.81.8

-4.0-4.0-4.9-4.9

1.61.6

5.05.0

3.73.7

1.71.72.62.6

3.13.12.72.7

1.91.9

0.00.0

-2.6-2.6

2.92.9

0.90.9

2.32.3

-0.7-0.7

3.23.2 2.92.9

0.60.6

-6.8-6.8

-0.7-0.7

備考:季節調整値。前期比年率。2011年第1四半期は改訂値。 資料:米国商務省から作成。

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25通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

32 年ベースでの雇用者報酬は、2004年から2007年は前年比5%台で推移していたが、2008年同2.6%、2009年同マイナス3.2%の後、2010年は同2.3%であった。

33 前述のブッシュ減税や失業保険延長給付プログラムも追加景気対策により延長された。 34 2011年1月には社会保障税(社会保険料)の軽減が所得押し上げの要因となった。

(a)1年間を支えた個人消費個人消費は、株価の上昇などを背景に2010年を通

じて持ち直し、成長率の伸びに寄与した。実質個人消費は、2010年後半から2008年の世界経済危機前の水準を上回って推移している(第1-1-2-2図)。2011年第1四半期はガソリン価格の上昇(第1-1-2-3図)や悪天候などを背景に前期から伸びが減速し、成長率鈍化の要因となったが、緩やかな伸びは続いている(第1-1-2-4図)。また、小売売上高も2010年7月以降、前月比プラスで推移しており、2010年後半からの堅調な消費活動を示している(第1-1-2-5図)。

消費を支える可処分所得は年間を通じて緩やかに増加したが、その内訳をみると、減税や失業給付金などの移転所得が下支えしたことが示されている(第1-1-2-6図)。雇用者報酬の伸びが大きく改善しない中で 32、ブッシュ政権下で導入された所得税減税などの大型減税(ブッシュ減税)、2008年7月から実施の失業保険延長給付プログラムによる失業給付金などが個人消費を支えてきた側面があると考えられる。このような政策による下支えは、2010年末に成立した大規模な追加景気対策 33(「(f)2010年前半の成長率を押し上げた政府支出」参照)により2011年も継続している 34。

第1-1-2-2図 米国の実質個人消費及び貯蓄率の推移

9.0

8.9

9.1

9.2

9.3

9.4

9.5

9.6 9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0.0

(兆ドル) (%)

資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。(年月)

2007 2008 2009 2010 20111 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

実質個人消費(左軸)家計貯蓄率(右軸)

第1-1-2-3図米国のレギュラーガソリン小売価格の推移

1

0.5

0

1.5

22.5

3.53

44.5(ドル/ガロン)

資料:米国エネルギー省から作成。(年月)

2005 2006 2007 2008 20102009 2011

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

第1-1-2-4図米国の実質個人消費及び支出項目別寄与度の推移

(%、%ポイント)

(年期)備考:季節調整値。前期比年率。2011年第1四半期は改訂値。資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

2005Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2006Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2007Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2008Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2009Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2010 2011Ⅰ ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ-5

-4-3-2-1012345

耐久財非耐久消費財

サービス個人消費伸び率

3.03.02.22.2

-0.8-0.8

-0.5-0.5

2.02.0

0.90.91.91.9 2.22.2 2.42.4

4.04.03.93.92.92.9

1.01.0

4.54.5

2.22.2 2.52.5 2.42.4 1.41.4

4.14.1

1.51.5 1.71.7

0.10.1

-1.6-1.6

-3.5-3.5 -3.3-3.3

第1-1-2-5図 米国の小売売上高の推移

330340350360370380390400(10 億ドル) (%)

300310320330

(年月)

小売売上高(左軸)前月比(右軸)

2.00.0▲2.0▲4.0▲6.0▲8.0▲10.0▲12.0▲14.0▲16.0

備考:季節調整値。資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

2008/01

2008/03

2008/05

2008/07

2008/09

2008/11

2009/03

2009/05

2009/07

2009/09

2009/11

2010/01

2010/03

2010/05

2010/07

2009/01

2010/09

2010/11

2011/01

2011/03

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26 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

35 失業率は2010年11月に9.8%と2010年4月以来の高水準を記録した後、12月からは改善傾向となり、2011年3月には8.8%まで低下したが、4月には9.0%に再び上昇した。

36 2010年の名目額は、輸出 1兆8,376億ドル(前年比 16.7%増)、輸入 2兆3,376億ドル(同 19.5%増)。同実質額は、輸出 1兆6,655億ドル(前年比 11.7%増)、輸入 2兆880億ドル(同 12.6%増)。

2010年の消費者マインドは景気後退局面以降の低迷状態から脱していないものの、2010年10月以降にはやや持ち直しをみせつつある(第1-1-2-7図)。しかし一方で雇用環境は依然として厳しい状況にある。雇用者報酬の伸びが小さいものにとどまる中、失業率も2010年は10%近傍の高水準で推移し、足下でも高止まりしている(「(2)②雇用」参照)35。今後の個人消費の本格的な回復には、企業活動の活性化による雇用環境の更なる改善と、それに伴う雇用者報酬の拡大を待つ必要があると考えられる。

(b)2010 年前半の経済を下押しした外需2008年の世界経済危機以降落ち込んでいた世界の貿易量が2010年の世界経済の回復に伴い増加したことにより(「第1章第1節1.(2)先進国と新興国の景気動向」参照)、米国の年間輸出・輸入額は共に増加した 36。実質ベースでは、2010年第1から第3四半期にかけて輸入額の伸びが輸出額の伸びを上回った結果、純輸出(外需)のマイナス額が拡大し、成長率を押し下げる要因となった(第1-1-2-8図)。第4四半期は引き続き輸出額が増加した一方、輸入額が減少した。その結果純輸出のマイナス額が縮小したことから、成長率に対してプラスに寄与した。2011年第1四半期は輸入額が再び増加に転じたことから、純輸出が成長率に対して若干のマイナスに寄与した。

第1-1-2-6図 米国の可処分所得と要因別寄与度の推移

(%)

(年月)備考:1. 季節調整値。前月比。   2. 社会保障税(社会保険料)及び税金は符号を逆にしており、プ

ラスは家計負担軽減を示す。   3. 「その他」は、「自営所得」及び「賃貸所得」。資料:米国商務省、CEICDatabaseから作成。

20071 4 7 10

20081 4 7 10

20091 4 7 10

2010 20111 4 1 47 10

-3-2-10123456

雇用者報酬 資産所得移転所得社会保障税税金その他可処分所得

第1-1-2-7図米国のカンファレンスボード消費者信頼感指数及びミシガン大学消費者センチメント指数の推移

20

0

40

60

80

100

120(1985 年=100:カンファレンスボード 1966 年=100:ミシガン大学)

資料:カンファレンスボード、ミシガン大学、CEIC Databaseから作成。(年月)

2007 2008 2009 2010 2011

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

カンファレンスボード消費者信頼感指数

ミシガン大学消費者センチメント指数

第1-1-2-8図米国の実質輸出入額及び実質GDP成長率への純輸出寄与度の推移

(10億ドル)

(年期)備考:季節調整値、年率。2011年第1四半期は改訂値。 資料:米国商務省から作成。

(%ポイント)

2008Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2009Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2010 2011Ⅰ ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ

-4

-2

0

2

4

6

8

10

-1,000

-500

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500 輸出(左軸) 輸入(左軸) 純輸出(左軸) 純輸出寄与度(右軸)

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27通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

37 FRBは2011年4月13日公表の地区連銀経済報告書(ベージュブック)で、住宅不動産市場について「全ての地区で、低水準に止まっている、あるいは弱まった。」と指摘した。

38 新規の住宅購入者向けに最大8,000ドルの税額控除を行う制度。当初は2009年6月までが適用期限であったが、2月中旬に適用期限が11月に延長された。さらに、11月上旬には「2010年4月までに契約を締結し、6月末(後に9月末に延長)までに住宅の引渡しを完了したもの」に延長され、同時に初回購入者以外(居住年数5年以上)の住宅購入者にも最大6,500ドルの税控除が認められた。

39 2010年7月の中古住宅販売件数は年率386万戸、前月比26.2%減と過去最大の落ち込みとなった。また、2010年通年の中古住宅販売件数は490.7万戸、前年比4.8%減と2年ぶりのマイナスとなった。

40 2010年通年の新築住宅販売件数は32.3万戸と、1963年以降の現統計の最低値となった。また、2011年5月に発表された4月の新築住宅件数の在庫は17.5万戸と過去最低値となり、住宅建設が減少していることが示された。

41 その時点で住宅の追加供給がなかった場合に、現在の住宅販売に対し何か月分の住宅在庫が存在するかを示す指標。 42 過去10年(2001年1月~2010年12月)の中古住宅在庫率の平均は6.7か月である。 43 新築住宅の在庫は2007年より緩やかに減少しているが、販売の落ち込みにより在庫率が上昇することがある。

(c)極端に低迷した住宅市場住宅投資は、2010年第2四半期に前期比年率25.7%

と3四半期ぶりにプラスに転じたが、第3四半期からは同マイナス27.3%、同3.3%と弱い動きとなった。そして2011年第1四半期(改訂値)は同マイナス3.3%と、米国住宅市場がなお厳しい状況にあることを示した 37。2010年の住宅販売件数は歴史的低水準で推移した

(第1-1-2-9図)。販売件数の約9割を占める中古住宅販売は、2009~2010年の住宅減税制度 38によって駆け込み需要があった後、7月に反動減が発生した 39。その後2010年後半から2011年1月にかけて回復傾向がみられたが、足下では再び弱い動きとなっている。また新築住宅販売も中古住宅や大量の差押え物件による競争激化のため2010年5月以降底ばいが続いており 40、その低迷を反映して住宅着工件数も弱い動きとなっている(第1-1-2-10図)。着工許可件数はカリフォルニアなど3州の建築基準法改正による駆け込み申請で12月に大幅に増加したが、その後は反動減が発生した。

また、在庫販売比率 41(以下「在庫率」という。)も依然として高水準である(第1-1-2-11図)。中古住宅の在庫率は2010年末に向けて低下してきたものの2011年には再び上昇しており、足下では8 - 9か月の水準となっている 42。新築住宅の在庫率は2010年後半に7- 9か月で推移した後、足下では低下傾向にある43。

第1-1-2-9図米国の住宅販売件数(新築・中古)の推移

第1-1-2-10図米国の住宅着工件数及び住宅着工許可件数の推移

500

600

700

800

900(万戸)

300

400

中古住宅販売件数新築住宅販売件数

備考:季節調整値。年率換算値。資料:米国商務省、全米不動産業者協会(NAR)、CEIC Databaseから作成。

(年月)

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 20111 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

(年月)

100

150

200

250(万戸)

0

50

住宅着工件数住宅着工許可件数

備考:季節調整値。年率換算値。資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

2004/01

2004/04

2004/07

2004/10

2005/01

2005/04

2005/10

2006/01

2006/04

2006/07

2006/10

2007/01

2007/04

2007/07

2007/10

2005/07

2008/01

2008/04

2008/07

2008/10

2009/01

2009/04

2009/07

2009/10

2010/01

2010/04

2010/07

2010/10

2011/01

2011/04

第1-1-2-11図米国の住宅販売在庫比率(新築・中古)の推移

7

6

8

9

10

11

12

13(か月)

資料:米国商務省、全米不動産業者協会(NAR)、CEIC Databaseから作成。(年月)

2007 2008 2009 2010 2011

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

新築住宅販売在庫比率中古住宅販売在庫比率

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28 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

44 安価な住宅不動産の差押え物件や差押え手続に入る前の早い段階で債務者と債権者が協議して住宅を任意売却する物件の購入比率が上昇(4月は37%、全米不動産業者協会(NAR)発表)していることも背景にある。

こうした状況を反映し、住宅価格も伸び悩んでいる。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のケース・シラー20都市住宅価格指数は、2010年6月にかけてやや上昇したが、その後は再び低下している(第1-1-2-12図)。

中古住宅販売価格中央値は2011年2月には15.6万ドルと、2002年2月以来の最低水準となった 44。また、新築住宅も中古住宅、特に、差押え物件などとの競争に直面しているため、対抗上値段を引き下げざるを得なくなるという厳しい状況にあるとみられる。

こうした住宅市場の厳しい状況は、家計のバランスシート調整にも影響を及ぼす。すなわち、家計部門は、減税や失業給付金などの移転所得に下支えされつつ債務削減を進めているが、住宅市場の低迷などによる資産価格の低下、失業率の高止まりによるフロー所得の回復の遅れなどによって、家計の債務負担感は高まっており、住宅ローンの延滞率や貸倒率も依然として高い水準にある(第1-1-2-13図)。このため、当面の間は、家計のバランスシート調整が続くと考えられる(第1-1-2-14表)。

第1-1-2-12図米国のケース・シラー20都市住宅価格指数の推移

2005

120

140

160

180

200

220

100

2006 2007 2008 2009 2010 2011(年月)

(2000 年 1月=100)

備考:季節調整値。資料:Standard & Poor'sから作成。

第1-1-2-13図米国の住宅ローン延滞率及び貸倒率の推移

6

8

10

12(%)

0

2

4

住宅ローン延滞率住宅ローン貸倒率

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ2007 2008 2009 2010

備考:季節調整値。資料:FRB、CEIC Databaseから作成。

2011(年期)

第1-1-2-14表 米国の家計部門のバランス ・シート(主要項目)の推移

(単位:10億ドル)

2006年末 2007年末 2008年末 2009年末 2010年第1四半期末

2010年第2四半期末

2010年第3四半期末

2010年第4四半期末

2011年第1四半期末

総資産 77,605.1 78,538.9 65,635.7 68,161.5 69,253.8 67,954.3 68,645.9 71,062.7 71,932.4実物資産 29,523.2 27,972.4 24,397.3 23,678.6 23,850.7 23,973.8 23,381.1 23,379.8 23,085.3

不動産 25,031.0 23,297.4 19,601.3 18,844.0 19,004.7 19,105.6 18,495.4 18,465.8 18,117.0金融資産 48,081.9 50,566.5 41,238.3 44,482.9 45,403.1 43,980.5 45,264.8 47,682.9 48,847.1

株式 9,643.7 9,627.0 5,738.8 7,429.3 7,676.2 6,955.9 7,500.8 8,239.9 8,791.9総負債 13,458.1 14,369.6 14,265.8 14,077.4 13,963.3 13,930.8 13,916.0 13,948.4 13,874.7

住宅ローン総負債に占める割合(%)

9,866.5 10,540.2 10,495.7 10,342.1 10,221.9 10,173.7 10,106.1 10,055.4 9,987.973.3% 73.4% 73.6% 73.5% 73.2% 73.0% 72.6% 72.1% 72.0%

消費者ローン 2,416.0 2,555.3 2,594.1 2,478.9 2,406.1 2,387.5 2,407.8 2,434.7 2,404.0純資産 64,147.1 64,169.3 51,369.8 54,084.1 55,290.4 54,023.5 54,729.8 57,114.3 58,057.7

可処分所得比 6.5 6.2 4.7 4.9 4.9 4.8 4.8 5.0 5.0 資料:FRBから作成。

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29通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

45 2011年1‒ 3月期(速報値)の建設投資は前期比年率21.7%減と、10期ぶりにプラスに転じた前期から大幅減となった。大雪などの天候要因が影響したとみられる。

(d)回復傾向を維持する企業生産活動個人消費の持ち直しや新興国を中心とした外需の伸

びを反映し、企業生産活動は回復傾向にある。2009年後半から在庫余剰が解消に向かい、鉱工業生産、鉱工業部門設備稼働率は回復傾向を維持している(第1-1-2-15図)。ただし、製造業の在庫は増加基調が続いており、今後、在庫調整局面を迎えて増産のペースが鈍化する可能性がある点には留意が必要である(第1-1-2-16図)。

なお、良好な生産活動が持続していることは、マーケットにも反映されている。株価はギリシャ財政危機を受けて下落した後に反転し、8月末以降は上昇基調を維持している。2011年に入ってからは、景気拡大や企業の業績改善の期待を背景に、ダウ平均が世界経済危機前の2008年6月以来となる12,000ドル台への回復をみせた(第1-1-2-17図)。

(e)回復のペースが低下しつつある民間設備投資民間設備投資は2010年前半に緩やかに増加してきた。しかしながら、同年後半以降は回復ペースが低下し続けている。内訳をみると、IT投資が堅調に増加し、他の部門でも回復が広がったものの、建設投資の低迷が続いている(第1-1-2-18図)45。機器投資の先行指標である資本財出荷は2011年に入って以降、回復の動きが一服しており、資源・エネルギー価格の高騰などによりコスト高が続けば、設備投資が下振れする可能性があることが懸念材料となっている(第1-1-2-19図)。

第1-1-2-15図米国の鉱工業生産指数及び設備稼働率の推移

70

75

80

90

95

100

105(%)(2007年=100)

60

65

80

85

1 42007

7 10 1 420087 10 1 4

20097 10 1 4 1 4

2010 20117 10

(年月)備考:季節調整値。資料:FRB、CEIC Databaseから作成。

鉱工業生産指数(左軸)設備稼働率(右軸)

第1-1-2-16図 米国の在庫循環図

第1-1-2-17図 米国の株価の推移

資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

-15-15 -10 -5 55

5

-5-10

-20-25-30-30

-15-15

101015202525

出荷前年同月比(%)

在庫前年同月比(%)

11年3月

08年8月

10 15150

2,500

2,000

1,500

1,000

500

16,000

14,000

12,000

10,000

8,000

6,000

4,000

(ポイント) (ドル)

資料:The NASDAQ Stock Market、Standard & Poor's、Dow Jones、CEIC Databaseから作成。

(年月)2007 2008 2009 2010 2011

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

NASDAQ100(左軸) ダウ平均(右軸)S&P500(左軸)

第1-1-2-18図米国の実質民間設備投資及び主要項目別寄与度の推移

2008 2009 2010(年期)

備考:季節調整値。前期比。2011年第1四半期は速報値。 資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

2011Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ ⅠⅡ Ⅲ Ⅳ

(%、%ポイント)

-12.0-10.0-8.0-6.0-4.0-2.00.02.04.06.0

IT設備 輸送機器 建設投資民間設備投資産業機械

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30 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

46 「経済産業省(2010)『通商白書2010』 第1章第2節1.米国経済(2)」参照。

もっとも、先行きの設備投資に対する企業マインドは高水準を維持している。ニューヨーク連銀とフィラデルフィア連銀による企業の6か月後の投資動向に関する指数をみると、2010年末に小幅な減少もみられるが、依然として高い水準にあり、設備投資が底堅く推移する可能性を示唆している(第1-1-2-20図)。2010年末に成立した追加景気対策の設備投資減

税(「(f)2010年前半の成長率を押し上げた政府支出」参照)も、設備投資マインドに好影響を与えていると考えられる。ただし、全米供給管理協会(ISM)による生産、新規受注、在庫、雇用などの現状と1か月前を比較した指数は2010年末に向けて改善してきたものの、足下では製造業は高水準ながら横ばい、非製造業では低下がみられており、企業活動の先行きについて楽観はできない状況にあることには留意が必要である(第1-1-2-21図)。

(f)2010年前半の成長率を押し上げた政府支出政府支出は、2009年2月に成立した米国再生・再投資法(ARRA)46に基づく財政刺激策により伸びをみせ、成長率に寄与した。総額7,872億ドルに及ぶ財政刺激策は、2010年前半にかけて支出額が最大となっており、2010年の実質 GDPを押し上げたと考えられる(第1-1-2-22表)。実際、議会予算局(CBO)の推計によると、ARRAによる財政刺激策は、2010年前半の実質GDPを最大で4.6%押し上げる効果があったとされている(第1-1-2-23表)。もっとも、既に財政支出のピークは過ぎていることから、2011年には押し上げ効果が減速していくことが推計されている。

第1-1-2-19図米国の非国防資本財(航空関連を除く)出荷及び新規受注の推移(3か月移動平均)

45

50

55

60

65

70

75(10億ドル)

資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。(年月)

2007 2008 2009 2010 2011

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 17 10

出荷新規受注

第1-1-2-20図米国のニューヨーク連銀景況指数及びフィラデルフィア連銀景況指数の推移(設備投資、3か月移動平均)

-20

-10

0

10

20

30

40

(年月)2007 2008 2009 2010 2011

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

ニューヨークフィラデルフィア

備考:1.ニューヨーク連銀指数はニューヨーク州、フィラデルフィア連  銀はペンシルバニア州、ニュージャージー州、デラウエア州が  対象。

   2.企業に対して6か月後の設備投資の見通しについてアンケート  調査。ゼロが拡大・縮小の分岐点。

資料:ニューヨーク連邦準備銀行、フィラデルフィア連邦準備銀行、CEIC database から作成。

第1-1-2-21図米国の ISM製造業景況指数及び ISM非製造業景況指数の推移

30

35

40

45

50

60

55

65(%)

(年月)2008 2009 2010 2011

1 4 7 10

備考:1.企業の購買担当者に対して、生産、新規受注、雇用などの調査  項目について1か月前との比較をアンケート調査。

   2.50が拡大・縮小の分岐点。資料:全米供給管理協会(Institute for Supply Management)、CEIC

Databaseから作成。

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

製造業非製造業

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31通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

47 2010年末に期限切れを迎えることになっていた2001、2003年ブッシュ減税の2年間延長、2010年11月末に失効した失業保険延長給付プログラムの13か月延長、社会保障税の軽減、設備投資の即時償却措置などが盛り込まれた。

48 2011年4月に成立した2011年度予算は、当初歳出予算案比で約785億ドル削減している。

オバマ政権はプライマリーバランスの均衡達成を公約とし、超党派委員会を設置して具体策を検討してきたが、2010年春以降に景気回復が鈍化したことから、2010年9月にはインフラ投資や企業向け減税を柱とする追加景気対策を提案した。さらに2010年12月には「減税、失業保険及び雇用創出法 47」が成立し、総額8,578億ドルに及ぶ大規模な追加景気対策となった(第1-1-2-24表)。こうした景気対策が進む中、財政赤字が拡大して

いる。2010年度の連邦財政赤字は1兆2,390億ドルと、過去最大となった2009年度の赤字額を下回ったものの、引き続き1兆ドルを超える大幅な赤字を記録している(第1-1-2-25図)。オバマ大統領は財政赤字の抑制・縮小を目指し、2011年2月14日に提出した2012年度の予算教書では緊縮財政の方針を打ち出している。この中で2011年度(2010年10月~)が1兆6,450億ドルと過去最悪の財政赤字となると推定されており、今後歳入構造の変更や義務的支出の削減、裁量的支出額の5年間凍結などにより、2012年度から2021

年度の累積赤字額を7.2兆ドルに押さえることを目指すとしている 48。

第1-1-2-22表 米国再生・再投資法(ARRA)による累積支出額の推移

第1-1-2-23表 米国再生・再投資法(ARRA)による実質GDP押し上げ効果

(単位:10億ドル)2009年 2010年

第 1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期個人減税 2.3 28.6 42.8 58.5 101.4 123.9 133.7 142.4AMT(代替ミニマム税)減税 0.0 7.8 13.8 17.3 28.7 76.2 83.4 83.4企業支援 0.1 10.4 19.0 26.6 32.5 36.6 34.4 33.4州財政支援 8.5 28.2 43.8 59.3 75.5 92.1 107.1 121.7個人向け支援(失業給付拡充など) 0.0 9.6 31.8 55.2 71.4 76.6 81.3 86.0公共投資 0.0 7.4 25.1 41.6 59.3 86.3 119.2 141.6累積支出額 11.0 92.1 176.3 258.6 368.7 491.6 559.1 608.5各期支出額 11.0 81.1 84.2 82.3 110.1 122.9 67.4 49.5資料:  Council of Economic Advisers(2011), “The Economic Impact of the American Recovery and Reinvestment Act of 2009 Sixth

Quarterly Report” から作成。

(単位:%)2009年 2010年 2011年

第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期 第1四半期 第2四半期 第3四半期 第4四半期上限 0.1 1.4 2.5 3.4 4.3 4.6 4.2 3.5 3.3 2.5 2.0 1.2下限 0.1 0.8 1.2 1.5 1.8 1.6 1.4 1.1 1.2 0.8 0.6 0.3資料:  Congressional Budget Office(2011),“Estimated Impact of the American Recovery and Reinvestment Act on Employment and

Economic Output from October 2010 Through December 2010” から作成。

第1-1-2-24表 米国の追加景気対策の概要

(単位:億ドル)内 容 金 額

ブッシュ減税などの延長 5,443所得税率の据置き 2,075軽減措置の継続 1,561オバマ減税関連 441その他 1,367

遺産税の減税など 681社会保障税(社会保険料)の軽減 1,117設備投資即時償却の実施 218失業保険給付特別措置の延長 565その他 554合計 8,578備考: 1.オバマ減税は2009年の対策に盛り込まれた減税措置。   2.金額は2011~20年度累計。資料:両院合同租税委員会資料から作成。

Page 31: z・ {タ2 2011 White Paper on International Economy and Trade 1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国 (1)存在感が増す新興国経済 IMFが2011年4月に発表した世界経済見通しによ

32 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

49 米国のシンクタンクCBPP(Center on Budget and Policy Priorities)の試算によると、2012年度に全米50州のうち44州が歳入不足を見込んでいる。州政府の歳入不足額は2010年をピークとして徐々に縮小する見込みだが、米国再生・再投資法(ARRA)に基づき州財政を支えてきた連邦政府による財政支援が2011年度にはほぼ終了する見込みであり、州政府が穴埋めすべき実質的な州歳入不足額は増加する公算である。これを受けて2011年2月の時点で、既に46州で住民サービス縮小、30州以上で増税が実施されている。

50 2011年4月の貿易赤字は437億ドルと、前月比6.7%縮小した。

また、連邦政府だけでなく、州・地方政府の財政難も続いている49。2011年第1四半期(改訂値)の政府支出は前期比年率マイナス5.1%と、1983年第4四半期以来の減少幅を記録し、成長率を押し下げる要因となっており、今後も財政制約が米国経済の回復の足取りを重くする可能性がある。

② 輸出倍増計画の進捗と再び拡大する経常赤字(a)輸出倍増計画の進捗オバマ大統領は、2010年1月27日の一般教書演説において、「国家輸出戦略」を打ち出した(第1-1-2-26表)。同戦略では、今後5年間で輸出を倍増させるとともに、200万人の新規雇用を創出することを目指している。2010年9月には、輸出促進閣議(Export Promotion Cabinet)により、国家輸出戦略開始以来6か月の取組と進捗状況の発表が行われ、貿易使節団の派遣、中小企業への貿易拡大支援、輸出入銀行を通じての輸出信用の拡大などの実績が提示された。米国の年間輸出額は2009年時点で約1.6兆ドルであ

る。これを5年間で倍増させるとすれば、2014年の輸出額は3兆ドル超となり、年率15%の高い伸びを維持していく必要がある。同閣議の報告書では、輸出額が2010年1~4月期に前年同期比で17%増となっており、目標達成ペースで伸びているとされている。なお、2010年の年間輸出額も1.8兆ドルと前年比で17%増加しており、2010年の実績では、米国の輸出額はほぼ

目標達成に見合ったペースで伸びたと言える。足下でも輸出は増加傾向にあり、2011年4月には月ベースで過去最高の1,756億ドルに達した(第1-1-2-27図)。堅調な新興国需要に加え、政府が「国家輸出戦略」に基づいて輸出倍増計画を推進していることも背景となって、輸出の回復は持続し、企業活動を支えていくことが期待されている。なお2010年は輸入も回復基調が続いた。個人消費

や企業部門の持ち直しによる内需の回復により輸入額も伸び、2010年6月の貿易赤字は469億ドルと、2008年10月以来の高水準となった。その後貿易赤字は縮小傾向にあったものの、12月から2011年1月にかけて再び拡大した 50(第1-1-2-27図)。

(b)  再び拡大する経常赤字とその主因となる 財貿易赤字

オバマ大統領は前述のように、2010年1月の一般教書演説で、今後5年間で輸出を倍増させるとの方向性を示した。しかし現時点では貿易収支の顕著な改善が

第1-1-2-25図 米国の連邦財政収支の推移

1

2

3

4

5 (兆ドル)

-2

-1

0

歳入歳出収支

備考:2011年度は予測値(2012年度予算教書)。資料:米国行政管理予算局(OMB)、CEIC Databaseから作成。

1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011(会計年度)

第1-1-2-26表 米国の国家輸出戦略の概要

目 標 今後5年間で輸出を倍増、国内雇用200万人創出

具体策

1.ハイレベルの輸出促進政策調整・輸出促進閣議(Export Promotion Cabinet)の創設・大統領輸出評議会(President's Export Council, PEC)の再開2.輸出企業に対する金融支援・輸出入銀行の資金枠を5年間で倍増(現行210億ドル)・中小企業の貿易金融支援制度(年間20億ドル)新設3. 政府横断の輸出支援:米政府高官レベルによる  輸出促進への参画・貿易使節団派遣・新市場輸出戦略(商務省主管)・国際ビジネス・パートナーシップ・プログラム (USTDA主管)・在外公館における商業外交強化4.将来的な輸出候補企業に対するリソース提供・輸出促進のためのワン・ストップ・サービス提供5.自由で公正な市場アクセスの確保・通商法の執行強化・新市場の開放・堅固で持続可能なバランスのとれた成長の基盤づくり6.輸出管理制度改革:  国家安全保障と主要産業の競争力強化・暗号化製品の輸出審査迅速化・輸出相手国との規制調和

資料:  The White House, “President Obama Details Administration Efforts to Support Two Million New Jobs by Promoting New Exports”(March 11, 2010)から作成。

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33通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

みられるまでには至っておらず、これが2009年第3四半期以降の経常赤字拡大の主因となっている。米国の経常収支の推移をみると、1980年代中頃に

経常赤字が一時拡大した後に縮小に転じ、1991年には黒字を計上するに至った。しかしながら、その後は再び収支が悪化し、2000年代中頃まではほぼ一貫して経常赤字が拡大した。そして2006年には GDP比でマイナス6.0%を記録した(第1-1-2-28図)。近年では経常赤字の GDP比は低下してきたが、四

半期ベースでは、2009年第3四半期から再び赤字が拡大し、年間ベースでも2010年はマイナス3.2%に拡大した。この間、サービス収支と所得収支は一貫して黒

字であった一方、財貿易収支と移転収支が赤字であった。移転収支の赤字はほぼ変動がないため、2009年第3四半期以降の経常赤字の拡大は、財貿易収支の悪化に起因している。貿易収支の動向を主な国・地域別にみると、対アルゼンチン、ブラジルでは黒字を計上している一方、対中国、日本、英仏独、ASEAN5、インド、ロシアなどでは赤字となっており、特に、対中貿易赤字は大規模な水準で推移している(第1-1-2-29図)。

第1-1-2-27図 米国の貿易収支の推移

30

40

50

60

70

100

150

200

250(10 億ドル) (10 億ドル)

10

20

0

50

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

(年月)

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

輸出(左軸)輸入(左軸)貿易赤字(右軸)

備考:国際収支ベース、季節調整済。資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

第1-1-2-28図米国の実質GDP成長率及び貯蓄・投資・経常収支のGDP比の推移

(年)備考:2011年は予測値。 資料:IMF「 World Economic Outlook Apill 2011」から作成。

(%)

-10

-5

0

5

10

15

20

25経常収支   実質GDP成長率国内投資   国内貯蓄  

1981198219831984198519861987198819891990199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011

第1-1-2-29図 米国の財貿易収支の推移(四半期ベース、国・地域別)51

-15,000

-10,000

-5,000

0

5,000

10,000 (100 万ドル)

-30,000

(年期)

-25,000

-20,000

ⅠⅡⅢⅣ2005

ⅠⅡⅢⅣ2006

ⅠⅡⅢⅣ2007

ⅠⅡⅢⅣ2008

ⅠⅡⅢⅣ2009

Ⅰ ⅠⅡⅢⅣ2010 20112011

備考:1.通関ベース。   2.ASEAN5は、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム。資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

アルゼンチン・ブラジル

カナダ

日本英仏独インド

ロシア

ASEAN5

0

中国(100 万ドル)

-20,000 -10,000

-40,000 -30,000

-60,000 -50,000

-80,000 -70,000

-90,000

(年期)

ⅠⅡⅢⅣ2005

ⅠⅡⅢⅣ2006

ⅠⅡⅢⅣ2007

ⅠⅡⅢⅣ2008

ⅠⅡⅢⅣ2009

Ⅰ ⅠⅡⅢⅣ2010 20112011

備考:通関ベース。資料:米国商務省、CEIC Databaseから作成。

51 中国は、第1-1-1-46図再掲。

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34 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

(2) FRB の金融政策を左右する雇用と物価① FRBの金融緩和策FRB は、インフレ率が歴史的低水準を続ける中、2008年12月にフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%まで引き下げて以来、同水準を据え置き、超低金利政策を維持し続けてきた(第1-1-2-30表)。

またFRBは、2009年のエージェンシー債、MBS(住宅ローン担保証券)の買取りや長期国債の買取りを始め、様々な非伝統的金融政策を実施してきたが、それらを2010年6月までにいったん終了させるなど、出口戦略にとりかかっていた(第1-1-2-31表)。ところが、2010年春以降の政策効果の剝落などによる景気回復の鈍化、ギリシャ財政危機を発端とした市場マインドの低下などにより、2010年5月以降、民間部門雇用者数の増加幅の減少、コア物価上昇率の低下傾向の持続、期待インフレ率の低下などがみられた。FRBは、「最大限の雇用と物価の安定」という二つの使命(デュアルマンデート)を負っていることから、再度の金融緩和に踏み切った。2010年11月の連邦公開市場委員会(以下「FOMC」という。)では、追加金融緩和のため2011年6月末までに総額6,000億ドル(月間約750億ドル)にのぼる長期国債の追加購入 52

が決定された。(第1-1-2-32図、第1-1-2-33表)。 購入のペース・総額は毎回の FOMCで見直される

こととなっており、12月以降も購入額の規模縮小に関して議論が行われ、その結果として追加金融緩和策

は継続された。そして2010年10~12月期の成長率が持ち直すなど景気の回復色が強まる中、2011年4月のFOMCにて予定通り6月末に長期国債の購入を完了することが決定された 53。

② 雇用2010年の雇用市場は厳しい状況が続いた。非農業部門雇用者は通年で94万人増加したものの、2008年から2009年の減少数(合計で866万人)と比較すると、回復幅としては小さいものであった。月ベースでは 54、国勢調査に伴う政府の臨時雇用に

第1-1-2-30表米国の公定歩合及び FF金利誘導目標の推移

公定歩合 FF金利誘導目標2007年 8/17 9/18 10/31 12/11

5.755.255.004.75

4.754.754.504.25

2008年 1/22 1/30 3/16 3/18 4/30 10/8 10/29 12/16

4.003.503.252.502.251.751.250.50

3.503.003.002.252.001.501.00

0.00~0.252010年 2/19 0.75 0.00~0.25資料:FRBから作成。

第1-1-2-31表米国 FRBの非伝統的金融政策の推移

・入札方式による預金金融機関向け貸出制度(TAF) :07年12月~10年3月・入札方式によるプライマリー・ディーラー向けターム物国債貸出制度(TSLF) :08年3月~10年2月・プライマリー・ディーラー向け貸出制度(PDCF) :08年3月~10年2月・ABCP買取者への貸出制度(AMLF) :08年9月~10年2月・CPファンディング制度(CPFF) :08年9月~10年2月・MMFなどからCD,CPなどを買い取る特別目的会社への貸出制度(MMIFF) :08年10月~09年10月・資産担保証券(ABS)保有者向け貸出制度(TALF) :09年3月~10年6月・エージェンシー債、MBSの買取り :09年1月~10年3月・長期国債の買取り :09年3月~09年10月・長期国債買取り再開 :10年8月~     MBSなどの元本償還分の買取り :10年11月~11年6月 6,000億ドル規模の買取り(QE2)資料:FRB、各種報道資料から作成。

第1-1-2-32図米国 FRBのバランスシートの推移(資産サイド)

1

1.5

2

2.5

3(兆ドル)

0

0.5

2007 2008 2009 2010 2011(年月、週次)

資料:FRBから作成。

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4

信用市場への流動性供給金融機関への融資長期国債エージェンシー債・MBS伝統的な証券保有

52 一般にQE2(Quantitative Easing 2)とも呼ばれる。 53 2010年8月に決定した保有証券の元本償還資金を再投資する政策は維持するため、FRBのバランスシートは縮小されない。 54 雇用統計は金融市場が最も注目する指標の一つであるため、月によっては市場予測値と労働省の発表値のかい離が市場を動かすこともあった。

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35通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

55 2010年通年で雇用者数が減少した業種は、建設業(14.9万人減)及び政府(23.3万人減)であった。 56 労働参加率=労働力人口(就業者+失業者)/生産年齢人口(16歳以上の、施設に入っておらず、軍人でもない一般市民)。2010年12月~ 2011年1月は就業者の増加分を大幅に上回るペースで失業者が減少し、労働参加率が低下した。このため「失業者の減少分の多くは求職活動を諦めるなどの理由により労働市場から退出したことによるものであり、これが失業率低下の主因」だとみられた。

57 2011年3月の失業率は8.8%と、2009年3月以来の低水準であった。 58 バーナンキFRB議長は、2011年4月27日の FOMC後記者会見にて「いまだ雇用の改善ペースは緩やかであり、更なる雇用創出が継続する必要がある。」と述べた。

59 雇用創出・減少の分岐点の目安とされる人数。

より5月の雇用者数が急増した後、4か月連続で減少した(第1-1-2-34図)。10月以降は景気の回復を反映して前月比増で推移し、2011年に入ってからも足下では改善の兆しがみられる。業種別では、民間財生産部門(主に建設業)や政府部門の雇用減が全体の伸びを抑制 55する中で、民間サービス部門に支えられて雇用者数が緩やかに増加していることが示されている。失業率は10%近傍で推移した。労働参加率が低下傾向にある中 56、2010年末からは失業率も低下傾向にあったが57、2011年4月の失業率は9.0%に上昇した(第1-1-2-35図)。今後も、雇用環境の顕著な改善がみられなければ失業率は高止まりする可能性がある58。雇用統計の先行指標とされる新規失業保険申請件数は、2010年8月から減少傾向となり、2011年2月には約2年半ぶりに40万人 59を下回った(第1-1-2-36図)。しかし2011年4月初旬から再び連続して40万人を上

回って推移しており、雇用市場の回復にはなお時間がかかることを示唆している。

第1-1-2-33表 米国の追加金融緩和策発動までの主な FOMC声明、FRB高官発言及び市場の見方

2010年8月10日 FOMC• FRBは米国の景気判断について「生産と雇用の回復のペースはこの数か月で減速した。」と、前回(6月)時点の「経済回復が進み、労働市場が段階的に改善している。」から一段と慎重な見方を示した。また、先行き見通しも「経済の回復のペースは当面、これまで予想されていたよりも緩やかなものになる可能性が高い。」と下方修正し、「エージェンシー債やMBS(住宅ローン担保証券)の償還資金を長期の米国債に再投資することにより、証券保有を現在の水準に維持する。」と決定した。• この決定は、自然減による資産縮小などを通じ金融政策を平時に戻す出口戦略を一時停止するもので、「事実上の追加緩和政策」と言われた。8月27日 バーナンキFRB議長講演(カンザスシティー連銀主催シンポジウム)• バーナンキ議長は「ここ数か月、生産と雇用の回復速度が予想よりもやや弱く、消費の停滞と労働市場の改善の遅れが背景にある。」と指摘し、「必要とあらば、FOMCは、物価安定と景気回復を維持するために、追加的な金融緩和を行う用意がある。」と発言した。• この発言をきっかけに、市場では追加緩和観測が急速に強まった。9月21日 FOMC• FRBは物価について「基調インフレを示す指標は現在、雇用最大化と物価安定を促進する責務に長期的に最も一致するとFOMCがみなす水準を幾らか下回っている。」と、初めて声明の中で低いインフレ率に懸念を示した。そして「今後も経済見通しや金融市場の動向を注視し、景気回復の支援や、インフレ率を責務と一致する水準に徐々に戻すため、必要に応じて追加の緩和措置を実施する用意がある。」と、今後の追加金融緩和の可能性を表明した。• その後、10月8日に労働省が発表した9月の雇用統計において、雇用者数が事前予想を下回ったこと(※1)や、バーナンキ議長を含め複数のFRB高官が講演などにおいて追加緩和に前向きな発言を繰り返したこと(※2)から、市場では、FRBが景気浮揚に向けて、11月のFOMCにて追加緩和に踏み切るとの観測が一段と強まった。

※1  9月の非農業部門雇用者数は、前月比9.5万人減、失業率は9.6%(前月比同)であった。雇用者数は4か月連続マイナスで、市場予想(0.5万人減)を大幅に下回った(その後の改定値では前月比2.9万人減に縮小)。

※2  例えば、バーナンキ議長「必要なら追加緩和に踏み切る用意がある。」(10月15日)、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁「雇用の最大化と物価の安定化というFRBが担う2つの責務の観点からすると、現在の状況は全く満足できるものではない。」(10月19日)。

11月2、3日 FOMC• FRBは「現時点で失業率は高水準にあり、基調インフレを示す指標は、FOMCが長期にわたり2つの責務に整合的であるとみなす水準と比べて、幾分低い水準にある。物価安定に関連して資源の利用が徐々に高水準に戻ると予想しているが、目標に向けた進展は失望するほど遅い。」と判断、より強いペースでの景気回復を促進し、インフレが時間の経過と共にFOMCの責務と整合的な水準に一致することを確実にするために、追加金融緩和(2011年6月末までの総額6,000億ドル(月間約750億ドル)の長期国債購入)を決定した。• この追加緩和の内容は市場の予想の範囲内と受け止められ、為替・株価は小幅な動きとなった。

資料:FRB、各種報道資料から作成。

第1-1-2-34図米国の非農業部門雇用者数の増減及び失業率の推移

(千人)

備考:季節調整値、前月比(雇用者数増減)。資料:米国労働省、CEIC Databaseから作成。

20051 4 7 10

(%)

20061 4 7 10

20071 4 7 10

20081 4 7 10

20091 4 7 10

2010 20111 4 1 47 10

(年月)

▲1,000▲800▲600▲400▲200

0200400600

-10

-5

0

5

10

政府(左軸) 民間(サービス部門、左軸)民間(財生産部門、左軸)雇用者数増減(左軸)失業率(右軸)

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36 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

60 ディスインフレーションの略。物価上昇率が低下していく状況を指しており、物価が持続的に下落するデフレーションとは異なるものとされる。

61 バーナンキFRB議長は、2011年3月1日、米国上院銀行委員会にて「多くの予測者は、昨年8月の我々の行動以降に経済見通しが改善し、デフレのリスクも大きなものではないと、考えている。」と証言した。

③ 物価2010年の物価上昇率は低い水準にあった。食品、エネルギーを除くコア消費者物価は低インフレの状況にあり、一部の構成品目の異常な変動の影響を排除した刈り込み平均指数をみても低水準が続き、2008年半ばからのディスインフレ 60基調が続いていた(第1-1-2-37図)。一方、足下では2010年夏場からの世界的な資源・食料価格上昇の影響(「第1章第2節1. 資源 ・ 食料価格の高騰の要因とその影響」参照)を受け、消費者物価総合指数の上昇率が加速している(第1-1-2-38図)。

コア消費者物価指数も低位ながらも持ち直しが続いており、これまで懸念されていたデフレリスクは後退しているとみられる 61。

第1-1-2-35図米国の失業率及び労働参加率の推移

5

4

6

7

8

9

10

11 67.0

66.5

66.0

65.5

65.0

64.5

64.0

63.5

(%) (%)

資料:米国労働省、CEIC Databaseから作成。

(年月)

2007 2008 2009 2010 20111 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 1 47 10

失業率(左軸)労働参加率(右軸)

第1-1-2-37図米国のインフレ指標の推移

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

3.0

2.5

3.5(%)

(年月)2007 2008 2009 2010 2011

1 4 7 10

備考:1.前年同月比。   2.コア消費者物価指数は、食料品及びエネルギーを除く物価指数。

刈り込み平均PCEデフレーター(Trimmed-mean Personal Consumption Expenditure Inflation Rate)は、個人消費支出を構成する各財・サービスの物価指数から、毎月、支出の上昇率の変動が著しい支出項目を一定割合除いた上で、残った支出項目の上昇率と相対ウェイトを用いて算出されるもの。

資料:米国労働省、ダラス連邦準備銀行、CEIC Databaseから作成。

1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1

コア消費者物価指数刈り込み平均PCEデフレーター

第1-1-2-36図米国の新規失業保険申請件数の推移

200

300

400

500

600

700(千件)

0

100

(終了週)

新規失業保険申請件数新規失業保険申請件数(後方4週移動平均)

備考:季節調整値。40万件が雇用創出・減少の分岐点の目安とされている。資料:米国労働省、CEIC Databaseから作成。

2007/07/21

09/01

10/13

11/24

2008/01/05

02/16

03/29

05/10

06/21

08/02

09/13

10/25

12/06

2009/01/17

02/28

04/11

05/23

07/04

08/15

09/26

11/07

12/19

2010/01/30

03/13

04/24

06/05

07/17

08/28

10/09

11/20

2011/01/01

02/12

03/26

05/07

第1-1-2-38図米国の消費者物価指数の推移

(年月)備考:コア消費者物価指数は、食料品及びエネルギーを除く物価指数。資料:米国労働省、CEIC databaseから作成。

(%)

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

2010/07 2010/08 2010/09 2010/10 2010/11 2010/12 2011/01 2011/02 2011/03 2011/04

総合前年比    コア前年比   総合前月比   コア前月比

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37通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

62 中国国家統計局による。都市部固定資産投資は、県以上のレベルの政府機関、企業等によって実施される投資プロジェクトで、中国全体における固定資産投資の86.8%(2010年)を占める。

63 世界経済危機後に中国政府が打ち出したインフラ投資を中心とする景気刺激策。

② 2010 年の中国経済(a)GDPと各需要項目関連指標の動向2008年末~2009年初にかけて世界経済危機の影響

を受けて減速した中国経済は、2009年第1四半期を谷として回復傾向を強め、2010年の実質 GDP成長率は、前年比10.3%と、2007年以来、3年ぶりとなる2桁成長を達成した(第1-1-3-3図)。需要項目別寄与度は、「最終消費」が3.9%ポイント、「資本形成」(投資)が5.6%ポイント、「純輸出」が0.8%ポイントであり、引

き続き「資本形成」(投資)主導型の成長となった。各需要項目の動向を関連指標から見ると、投資に関しては、全社会固定資産投資の約9割を占める都市部固定資産投資が前年比24.5%増加した 62。「4兆元」内需拡大策 63の実施により大きく伸びた2009年の伸び(同30.4%)は下回ったものの、引き続き高い水準を維持した。産業別にみると、「4兆元」内需拡大策が2年目に入ったこともあり、公共投資との関連が強い「インフラ建設」が減速した一方、「不動産」は高い伸び

3.中国経済の現状と課題

(1)世界経済をけん引する中国経済の現状① 世界経済における中国の存在感の高まり世界経済危機後、多くの先進国が深刻な不況に陥った中で、中国経済はその影響からいち早く脱し急回復を遂げ、世界経済回復のけん引役となった。2010年、中国の名目 GDP は5兆9,000億ドルと我が国(5兆5,000億ドル)を上回り、米国に次ぐ世界第2位となった(第1-1-3-1図)。中国の名目 GDPは、改革開放の始まった1978年にはわずか3,645億元にすぎなかったが、その後30年間に渡る高成長を経て、「世界の工場」へ、さらには巨大かつ成長率の高い「世界の市場」へと大きくその姿を変容させており、2010年は実にその110倍の39兆8,000億元(5兆9,000億ドル)と世界全体の9.5%を占めるに至っている。貿易面においても、1978年にはわずか約200億ドルだった貿易総額が、2010年には約150倍の約3兆ドルにまで拡大し、輸出

額では世界第1位、輸入額では世界第2位となっており(第1-1-3-2表)、世界経済における中国の存在感は急速に高まっている。

第1-1-3-1図 名目GDPの世界上位3か国の推移

備考:2011年以降はIMF予測値。資料:IMF「World Economic Outlook, April 2011」から作成。

(年)

20181614121086420

(兆ドル)

198019811982198319841985198619871988198919901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015

中国

中国

日本

日本

米国

米国

予測

第1-1-3-2表 世界の輸出額・輸入額ランキング(2010年)

順位 輸出国・地域 金額(億ドル) シェア(%) 順位 輸入国・地域 金額(億ドル) シェア(%)世界合計 148,533 100.0% 世界合計 153,847 100.0%

1 中国 15,804 10.6% 1 米国 19,681 12.8%2 米国 12,776 8.6% 2 中国 13,939 9.1%3 ドイツ 12,061 8.1% 3 ドイツ 10,543 6.9%4 日本 7,717 5.2% 4 日本 6,940 4.5%5 オランダ 5,671 3.8% 5 フランス 5,947 3.9%6 フランス 5,104 3.4% 6 英国 5,366 3.5%7 韓国 4,422 3.0% 7 オランダ 5,130 3.3%8 イタリア 4,412 3.0% 8 イタリア 4,759 3.1%9 ロシア 4,038 2.7% 9 香港 4,335 2.8%10 ベルギー 4,027 2.7% 10 韓国 4,303 2.8%

資料:IMF「DOT」から作成。

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38 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

を続けた(第1-1-3-4図)。消費に関しては、社会消費品小売総額(小売売上高)が前年比18.4%増加した 64。品目別に見ると、消費刺

激策 65の影響により、小売販売額 66の約3割を占める「自動車」の伸びが全体をけん引した(第1-1-3-5図)。また、自動車と同様に消費刺激策の対象である「家電」についても高い伸びを示した 67。2010年は消費刺激策の効果が極めて大きく現れた年であった。第1節1. で見たとおり、自動車販売台数は、前年比32.5%増加の1,804万台と2年連続で世界第1位となった。また、「家電下郷(農村部の家電販売補助)」の対象製品の販売台数は7,718万台と前年から2.3倍、販売額は1,732億3千万元と同2.7倍増加した 68。消費は、雇用の改善及び所得の増加によっても下支えされたと考えられる。雇用に関しては、都市部登録失業率が4.1%と前年比0.2%ポイント改善した 69。所得に関しては、都市部の一人当たり可処分所得と農村部の一人当たり純収入が共に増加したが、農村の所得の伸び率が、賃金性収入と農業純収入の大幅増により、1997年以降、初めて都市部を上回った 70(第1-1-3-6図)。

4.06.08.010.012.014.016.018.0(%、%ポイント)

(四半期ベース)(年ベース)

-4.0-2.00.02.04.0

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 20102008Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2009Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ

2010Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ(年、四半期)

純輸出 資本形成(投資) 最終消費 実質GDP成長率

備考:四半期ベースの需要項目別内訳は発表されていない。 資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

8.48.4 8.38.39.19.19.110.010.010.110.1

11.311.312.712.714.214.2

9.69.6 10.310.3 10.610.610.110.19.09.09.0

6.86.86.86.56.58.18.19.69.611.311.311.911.9

10.310.3

9.69.6

9.89.89.29.2

第1-1-3-3図 中国の実質GDP成長率及び需要項目別寄与度の推移

70.0

60.050.040.030.020.010.00.0

(折れ線:前年同期比、%) (縦棒:寄与度、%)

(期 /年)

40.035.030.025.020.015.010.05.00.0ⅣⅢⅡⅠ ⅣⅢⅡⅠ ⅣⅢⅡⅠ ⅣⅢⅡⅠ

その他その他サービス不動産

不動産 電力・ガス・水道インフラ建設

インフラ建設

製造業製造業

不動産インフラ建設

その他その他サービス

電力・ガス・水道

20102008 20092007

備考: ①「その他サービス」には、水利・環境・公共設備などを含む。②「不動産」については、2009年11月に土地購入費に関する統計の変更が行われた。

    ③統計が累計値として公表されるため、例えば第Ⅱ四半期の数値は1~6月までの期間の前年同期比となっている。第Ⅲ、Ⅳ四半期も同様。

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

第1-1-3-4図 中国の都市部固定資産投資(産業別)の伸び率及び寄与度の推移

第1-1-3-5図 中国の小売販売額(品目別)伸び率の推移

自動車

食品等

全体

(%)

備考:①年間売上高500万元以上の企業対象。   ②春節の影響を除くため、1~2月は各月の伸び率を平均。   ③2010年におけるシェアは、自動車28.7%、食品等12.6%、家電    等7.0%。資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

70.0

50.0 60.0

30.0 40.0

10.0 20.0

-10.0 0.0

1-2

1-2

1-2

1-2

(年/月)2007

3 4 5 6 7 8 9 101112 3 4 5 6 7 8 9 101112 3 4 5 6 7 8 9 101112 3 4 5 6 7 8 9 10 1112

2008 2009 2010

家電等

全体 食品等 家電等 自動車

64 中国国家統計局による。 65 政府は「4兆元」内需拡大策とは別に、消費刺激策として、農村部の消費者が家電を購入した際に13%の補助金を支払う「家電下郷」の全国展開(2009年2月~2013年1月)、家電を買い換えると補助金を支給する「以旧換新」(2009年6月~2011年末)、農村部の住民がオート三輪や旧式トラックを廃車にして、軽トラックやマイクロトラックに買い換える際や商用車・オートバイを購入する際に補助金を支給する「汽車下郷」(商用車:2009年3月~2010年末、オートバイ:2009年3月~2013年1月)、小型の低燃費車購入に対する補助金支給2010年6月~)等を実施している。なお、排気量1.6L 以下の乗用車に対する車両取得税の減税(通常10%の税率を2009年中は5%、2010年中は7.5% に引下げ)、自動車の買換促進策である「以旧換新」については、2010年末に終了したため、期限切れ前の駆け込み購入もあったものと思われる。

66 年間売上高500万元以上の企業の小売販売額。 67 2010年の小売販売額に占める「家電」の比率は7.0%。 68 中国商務部による。なお、販売額を品目別で見ると、第1位は冷蔵庫、第2位はカラーテレビであり、上位2品目で全体の61%を占めた。 69 中国人力資源・社会保障部による。なお、都市部登録失業者数は、2009年の921万人から2010年は908万人に減少した。 70 中国国家統計局によれば、2010年の農村部の賃金性収入は17.9% 増えて増加幅は前年より6.7ポイント拡大し、増収への寄与度は48.3%に達した。また、農民1人当たりの農業純収入は、穀物、野菜、綿花など主要農産物価格の急騰を受けて15.1% 増えて増加幅は前年より10.1ポイント拡大した。農民の低所得層、中低所得層、中所得層、中高所得層、高所得層の1人当たり純収入はそれぞれ20.7%、16.4%、16.0%、15.0%、14.0% 増え、高・低所得層の比率は前年の8.0:1から7.5:1に縮小した。都市住民の1人当たり可処分所得はそれぞれ13.1%、13.0%、11.8%、10.3%、9.9% 増え、高・低所得層の比率は前年の5.6:1から5.4:1に縮小した(新華網ニュース2011年2月9日付)。

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39通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

外需に関しては、輸出額の約6割、輸入額の約5割を占める「機械・電気」、輸入額の約1割を占める「原油」が増加したこと等により、輸出入額ともに過去最高額となった 71(第1-1-3-7図)。なお、輸入額の伸びが輸出額の伸びを上回ったために、貿易黒字額は減少した。

貿易動向を相手国・地域別にみると、EUと米国に対しては大幅な貿易黒字、日本、韓国、台湾に対しては大幅な貿易赤字となっており、東アジアから部品・中間財を調達し、完成品を先進国へ輸出する加工貿易基地としての役割は続いているとみられる(第

1-1-3-8図)。2010年は、アジアや新興国との貿易総額が大幅に増加したのが特徴的であり、日米欧との貿易総額が前年比で3割前後の増加であったのに対して、ASEAN、台湾、インド、豪州、ブラジルとの貿易総額は同4~5割増加した(第1-1-3-9図)。このような背景として、ASEAN とは、2010年1月に FTAが本格発効したことや台湾との「経済協力枠組み協定(ECFA)」により2011年1月から双方の関税が引き下げられたことなどが挙げられ、中国は積極的に成長力のあるアジアや新興国との関係強化を図っているとみられる(第1-1-3-10図)。

第1-1-3-6図 中国の農村部、都市部の所得伸び率の推移

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

10.9

7.88.0

10.0

12.0

14.0

16.0(%)

都市部一人当たり可処分所得伸び率

0.0

2.0

4.0

6.0

199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010(年)

農村部一人当たり純収入伸び率

第1-1-3-7図 中国の貿易収支の推移

0.81.01.21.41.61.82.0

2,0002,5003,0003,5004,0004,5005,000(億ドル) (兆ドル)

貿易黒字(左軸)輸入額(右軸)

輸出額(右軸)

0.00.20.40.6

05001,0001,500

(年)200020012002200320042005200620072008

2010

2009

資料:中国海関総署、CEIC Databaseから作成。

2010年輸出 1兆5,779億ドル(前年比+31.3%)輸入 1兆3,948億ドル(同+38.7%)貿易収支 1,831億ドル(同▲6.4%)

71 中国海関総署によれば、2010年の「機械・電気」の輸出額は前年比30.9% 増加、輸入額は同34.4% 増加した。「原油」の輸入額は同51.4%増加した。

第1-1-3-8図 中国の相手国・地域別貿易収支の推移

資料:中国海関総署「中国海関統計」から作成。

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000

-4,000 -3,000 -2,000 -1,000

(年)

(億ドル)

米国香港EUその他

台湾韓国ASEAN日本

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

香港

米国

EU

ASEAN日本

その他

韓国台湾

第1-1-3-9図 中国の相手国・地域別貿易総額(上位10か国・地域)の推移

資料:中国海関総署から作成。

6,000

5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 20100

(億ドル)

(年)

EU米国日本ASEAN香港

韓国台湾豪州ブラジルインド

EU

米国日本ASEAN香港韓国台湾豪州ブラジルインド

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40 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

香港・マカオ (発効)03年6月、香港とCEPA(経済連携緊密化取決め)署名。03年10月、マカオとCEPA署名。

韓国 (産官学共同研究終了)07年3月、産官学共同研究を開始。10年5月、共同研究報告書をとりまとめる

日中韓 (産官学で共同研究中) 10年5月、産官学共同研究を開始。(07年3月~ 投資協定交渉)

チリ (発効)05年11月署名、06年10月発効。

アイスランド(交渉中)07年4月、交渉開始。

ノルウェー (交渉中)08年9月、交渉開始。

パキスタン (発効)06年11月署名。 07年7月発効。

シンガポール (発効)08年10月署名。09年1月発効。

スイス (交渉中)11年4月、交渉開始。

インド (共同研究終了)08年1月、交渉開始の可能性を検討することに合意。

GCC (湾岸協力会議)(交渉中)05年4月、交渉開始。

SACU(交渉中)04年6月、交渉開始に合意。(南部アフリカ関税同盟:南ア、ボツワナ、ナミビア、レソト、スワジランド)

ペルー (発効)09年4月署名、10年3月発効。

ニュージランド (発効) 08年4月署名。08年10月発効。

コスタリカ (調印)09年1月、交渉開始。10年4月調印。

ASEAN (発効・合意済み)05年7月、物品貿易協定発効。07年7月、サービス貿易協定発効。10年1月 投資分野発効。なお、04年1月~タイ等とアーリーハーベストを実施。

オーストラリア (交渉中)05年5月、交渉開始。

台湾(ECFA)10年6月、調印(枠組合意)10年9月、発効(11年1月から関税引き下げ)

第1-1-3-10図 中国の経済連携取組状況

72 加工貿易額は、委託加工組立貿易額と輸入加工貿易額の合計値。中国では、海外から調達した部品・中間財を使用して国内で加工・組立を行い、完成品を海外に出荷するという「加工貿易」が貿易構造の基軸をなしている。加工貿易の輸出額は総輸出額の約5割、加工貿易の輸入額は総輸入額の約3割を占めている(2010年ベース)。

73 エネルギー消費量の多い製品や技術水準の低い製品の輸出を抑えるために、中国政府は2006年9月以降、加工貿易を抑制してきた。世界経済危機後は、政府がその影響を考慮し、加工貿易規制を一時的に停止する等の措置を行ってきたが、2010年11月、政府は省エネルギー・汚染ガス排出削減の要求に基づき、熱延鋼板など44品目を新たに加工貿易禁止品目に追加した(2010年11月時点の加工貿易禁止品目数は計1,803品目)。なお、2010年3月の国務院政府活動報告では「外資の利用構造の最適化に取り組み、外資が先端製造業、ハイテク産業、現代サービス業、新エネルギー、省エネ・環境保護産業に投下されるように奨励する」とされている。

また、貿易動向を「加工貿易」72と「一般貿易」に分けて見てみると、 2010年は「加工貿易」の貿易黒字が拡大した一方、「一般貿易」の貿易赤字が拡大した(第1-1-3-11図、第1-1-3-12図)。「一般貿易」の輸入増加には、資源等の価格上昇の影響もあるものの、国内需要の拡大が背景にあると考えられる。中国の輸出入額に占める加工貿易比率を見ると、2010年は、輸出額と輸入額ともに前年と比べて低下しており(第1-1-3-13図)、中国の加工貿易の主な担い手である外資系企業の輸出入額比率も2006年をピークに低下傾向にある 73(第1-1-3-14図)。

第1-1-3-11図 中国の加工貿易収支の推移

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000(億ドル)

加工貿易輸出額

加工貿易輸入額

加工貿易収支

0

1,000

20002001200220032004200520062007200820092010(年)

加工貿易収支加工貿易輸出額加工貿易輸入額

備考:1.加工貿易額は、委託加工組立貿易額と輸入加工貿易額の合計値。2.加工貿易輸出額の輸出総額に占める割合は46.9%。加工貿易輸入 額の輸入総額に占める割合は29.9%。いずれも2010年ベース。

資料:中国海関総署、CEIC Databaseから作成。

資料:経済産業省作成。

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41通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

(b)労働市場の変化2010年は、沿海部の外資系企業工場を中心に、賃上げや待遇改善を求めるストライキが中国各地で発生した。背景には、労働力不足、管理職等と農民工74間の報酬格差、2008年に施行された労働契約法等による労働者の権利意識の向上、「新世代農民工」の登場による意識の変化、住宅費等生活価格の上昇等が挙げられる。「新世代農民工」とは、主に「80後(1980年代生まれ)」以降の農民工を指す。現在国内で出稼ぎに出ている農民工1億5千万人のうち、新世代農民工は約1億人と、全体の約7割弱を占めており、従来の農民工に比べて学歴が高い75。農民工になる目的も「お金を稼ぐ」から、「自己を鍛えるため」、「技術を身につけたい」等、経済的要因から非経済的な要因に重要性が移行している76。中国では、戸籍制度や土地制度によって都市と農村が分断されていることにより、都市と農村の格差が大きい。農村では物価が極めて安く、都市の水準では低賃金であっても、それを農村で使えば十分高賃金となるため、農民工には働くインセンティブが存在した。こうした中国独特の都市農村分断制度の存在が、極めて低賃金で無尽蔵の「農民工」という中国独特の存在を生み出し、低賃金労働集約型輸出産業を支え、中国経済の初期の発展を支えたのである。しかしながら、こうした構造はもはや継続困難となってきている。中国の名目 GDPに占める総賃金の割合は改革開放以来大きく低下してきたが、最近になり上昇傾向に転じており、こうした労働構造が現在、大きな転換点に来ていることをうかがわせる(第1-1-3-15図)。

第1-1-3-12図 中国の一般貿易収支の推移

2,0003,0004,0005,0006,0007,0008,000(億ドル)

一般貿易輸出額

一般貿易輸入額

-1,0000

1,000

20002001200220032004200520062007200820092010(年)

一般貿易収支

一般貿易収支一般貿易輸出額一般貿易輸入額

備考:一般貿易の輸出額の輸出総額に占める割合は45.7%。一般貿易の輸入額の輸入総額に占める割合は54.9%。いずれも2010年ベース。

資料:中国海関総署、CEIC Databaseから作成。

第1-1-3-13図 中国の総輸出入額に占める加工貿易比率の推移

第1-1-3-14図 中国の総輸出入額に占める外資系企業比率の推移

資料:中国海関総署、CEIC Databaseから作成。

199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010(年)

40.0

45.0

50.0

55.0

60.0

65.0

54 7

(%)

30.0

35.0

52.9

輸入に占める比率輸出に占める比率

資料:中国海関総署、CEIC Databaseから作成。

29.9

199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010

(年)

40.0

45.0

50.0

55.0 60.0

20.0

(%)

25.0

30.0

35.0

46.9

総輸出額に占める加工貿易比率総輸入額に占める加工貿易比率

74 農村戸籍のまま、工業や建設業、販売業等の非農業分野で働く労働者。中国国家統計局によれば、2009年の農民工の総数は2.3億人(全就業者数の約3割)、うち出稼ぎ労働者は1.5億人。

75 出稼ぎに出ている農民工の中で、高卒以上の学歴を持つ者の比率をみると、全体では23.5% であるのに対して、30歳以下では26%以上、その中でも21から25歳の年齢層では31.1% と高くなっている(中国国家統計局(2010)「2009年農民工観測調査」)。

76 鈴木貴元(2010)「中国で強まる工場労働者の賃上げ圧力」(『みずほアジア・オセアニアインサイト』2010年8月6日号、みずほ総合研究所)。

第1-1-3-15図 中国の名目GDPに占める総賃金の割合の推移

10.0

11.0

12.0

13.0

14.0

15.0

16.0

17.0

18.0(%)

資料:中国国家統計局、中国人力資源・社会保障部、CEIC Databaseから作成。

(年)19781979198019811982198319841985198619871988198919901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009

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42 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

第1-1-3-16図 中国の平均賃金の推移

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

前年同期比(右軸)

平均賃金25 12,000 (元) (%)

20 10,000

15 8,000

10

6,000

5 2,000

4,000

0 0 Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ Ⅰ Ⅱ Ⅲ

(期 /年)2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

実際、2010年は、平均賃金、最低賃金ともに大きく上昇した。平均賃金の伸び率は、2009年第4四半期の前年同期比9.9%から、2010年第3四半期には同15.7%に上昇した(第1-1-3-16図)。最低賃金は、中国本土に31ある省・直轄市・自治区のうち30か所が法定最低賃金を引き上げ、2010年の平均引上げ率は約24%となった。「第12次5か年計画(2011~2015年)」

(以下、「十二五」)では、所得拡大について、年平均伸び率を前5か年計画期の5%から7%以上に引き上げている(「本項⑵②量的拡大より質的充実を目指す「第12次5か年計画」」参照)。最低賃金についても、年平均13%引き上げることが目標に掲げられており、中国における賃金上昇はトレンドとして定着する可能性が高い。

労働需給もひっ迫している。2010年第1四半期の求人倍率は1.04倍となり、2001年以降、初めて求人数が求職者数を上回った(第1-1-3-17図)。求人倍率の動向を職種別に見ると、労働需給のひっ迫は、工業労働者の多い「生産運輸設備作業者」で特に顕著であったが、背景には、政府の「4兆元」内需拡大策や再開発事業により、沿海部・都市部だけではなく地方でも工場労働者の需要が高まったことがあると考えられる。求人倍率の推移を地域別に見ると、2010年は、東部(沿海部)だけではなく、中部や西部など内陸部でも求人倍率が上昇した(第1-1-3-18図)。

中国では、1979年から一人っ子政策が実施された影響もあり、総人口に占める「15~24歳」及び「25~34歳」人口の割合が低下する一方、「45~64歳」及び「65歳以上」人口の割合は上昇している(第1-1-3-19図)。労働需給は景気の動向にも影響を受けるものの、こうした少子高齢化の進展により、今後も労働需給のひっ迫が続く可能性がある。こうした中で、中国は、労働集約型産業から、高付加価値産業、技術集約型産業に資源を移行する形で、産業の高度化を加速させていくものと思われる。

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43通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

第1-1-3-17図 中国の求人倍率(職種別)の推移

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

(倍)

資料:中国人力資源・社会保障部、CEIC Databaseから作成。

(期/年)

ⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠ

2007 2008 2009 20102001 2002 2003 2004 2005 2006

求人倍率(全体)うち専門技術者うち販売・サービス従業者

うち管理責任者うち事務職うち生産運輸設備作業者

生産運輸設備作業者

販売・サービス従業者

専門技術者

管理責任者

求人倍率(全体)

事務職

0.75

0.80

0.85

0.90

0.95

1.00

1.05

1.10(倍)

資料:中国人力資源・社会保障部、CEIC Databaseから作成。(期/年)

ⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠ

2008 2009 2010

東部  中部  西部

東部

中部

西部

第1-1-3-18図 中国の求人倍率(地域別)の推移

0102030405060708090100(%)

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

(年)45~64 歳 35~44 歳

25~34 歳 15~24 歳 0~14 歳

65 歳以上

19901991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009

③ 2011 年の最優先課題はインフレ抑制中国経済は、政府による大規模な経済対策や金融緩

和策の実施もあり、世界経済危機後に急速な回復をみた。しかしながら、こうした政策を長期に継続するこ

とはできず、景気の過熱感の高まりや、不動産バブル懸念(第1-1-3-20図)、地方政府関連企業の債務拡大 77、過剰生産能力等、様々な問題をもたらした。このため、2010年は、政府は景気過熱の抑制やこれら

第1-1-3-19図 中国の総人口に占める各年齢層(シェア)の推移

77 中国政府は「4兆元」内需拡大政策を打ち出し、地方政府にインフラ投資の拡大を促した。地方政府は相互競争して投資プロジェクトを積み上げたが、中央政府の地方政府に対する財源的裏付けは乏しく、1994年の分税制導入以降、慢性的な財政難に苦しむ地方政府は、土地払下げ収入(農民等から土地を取得し、不動産ディベロッパー等に高額で売却する際の収益)等で財源不足を補い、「地方政府融資平台」(地方政府がインフラ事業目的で設立した資金調達プラットフォーム)への依存を高めていった。地方政府は、土地払下げ収入等を資本金として「地方政府融資平台」に注入し、「地方政府融資平台」は債券発行や銀行からの借入れにより事業を何倍にも拡大し、都市事業開発を実施している。銀行業監督管理委員会は、「地方政府融資平台」への銀行貸出残高7.66兆元(2010年6月末時点)のうち、23%に当たる1.76兆元は返済に重大なリスクがあるとした。

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44 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

諸問題に対する政策対応に追われることとなった。中国人民銀行は、2010年以降、金融引締めを実施している(第1-1-3-21図)。政府は不動産取引抑制策を打ち出し 78、地方政府関連企業に対する管理強化を図り 79、一部業種の生産能力過剰に対する指導を強めている 80。こうした政策の効果等もあり、中国の景気の拡大テンポは、2010年半ば頃から緩やかな低下傾向を見せた。しかしながら、2010年秋頃から、インフレ率が上昇し、不動産価格が再上昇に転じたことから、景気過熱に対する警戒感は再び高まっている。こうした景気過熱の背景には、過剰流動性の存在がある。2010年の新規貸出純増額は7.95兆元と、前年(9.59兆元)よりは減少したものの、2010年の政府目標額7.5兆元を上回った(第1-1-3-22図)。マネーサプライ(M2)も72.6兆元と、前年末比19.7%増加した。マーシャルのK(M2/名目 GDP)は傾向線を上回る水準で推移しており、経済規模に比して資金供給量が過剰であることを示唆している(第1-1-3-23図)。また、経常収支黒字の拡大と資本・金融収支の拡大によ

り、2010年末の外貨準備高は、世界最高の2.85兆ドルに達した(第1-1-3-24図)81。外貨準備高は、その後も増加を続け、2011年3月末には3兆ドルを突破している。このように外貨流入が大幅に増大する中で、人民銀行は、人民元相場水準をコントロールするために為替介入を実施しており、金融市場には大量の流動性が供給されている。

78 中国政府は、2010年の4月と9月、住宅ローンの頭金比率や銀行貸付金利の引上げ等を内容とする不動産取引抑制策を打ち出した。しかしながら、その後も不動産価格が再上昇したため、政府は、2011年1月、不動産価格抑制に対する地方政府の責任を明確にする等の抑制策を打ち出した。また、上海、重慶の2都市では1月28日から不動産税(房産税(我が国の固定資産税に相当))が試験的に導入される等、不動産取引抑制策が相次いで打ち出されている。

79 財政省、改革発展委員会、人民銀行、銀行業管理監督委員会は、2010年8月、地方政府に対して、融資プラットフォーム企業の債務を全面的に整理するよう要求した。各省(自治区、直轄市)は2010年12月10日までに債務整理のデータを報告しているが、財政部ら関連部門は、関連データの確認を進める一方、融資プラットフォーム企業の債務統計報告制度の確立と、地方政府の債務規模抑制とリスク警報制度の確立を検討している(『人民網』(日本語版)2011年3月1日付)。

80 生産能力過剰については、世界経済危機後の金融緩和と公共事業の活発化によって、以前から構造改革の必要性が認識されていた一部産業に対する調整が急務となった。このため、中国政府は2010年4月に通達を発し、鉄鋼、セメント、石炭、電力等の産業に対して小規模・非効率な設備の統廃合を進め、業界全体の生産効率の向上を図るよう指示を行った。また、工業情報化部は同年5月、鉄鋼やセメント、ガラス、製紙など生産設備の淘汰を進める18業種についての淘汰目標を提示し、同年8月には、老朽化した過剰生産設備の廃棄等を進めるべき2,087社の企業リストを発表した。

81 海外からの資金流入について、中国国家外貨管理局は2011年2月17日、2010年に海外から中国国内に流れ込んだ短期の投機資金の純流入額が355億ドルだったという試算を明らかにした。中国国家外貨管理局は、2010年の外貨準備高の増加額に占める短期の投機資金の割合は7.6% にとどまるとしている(『日本経済新聞』(電子版)2011年2月17日付)。

第1-1-3-20図 中国の主要70都市不動産価格指数の伸び率の推移

第1-1-3-21図 中国の金融政策の推移

第1-1-3-22図 中国の新規貸出純増額の推移

-1.0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0(前月比、季節調整済、%)

備考:中国政府は、2011年1月から、主要70都市の不動産価格指数を公表していない。

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

(年月)

121110987654321121110987654321121110987654321

2008 2009 2010

21.0%

6.31%

3.25%

21.0%24.0(%)

20.022.0

19.0%14.016.018.0

10.012.0

6.31%6.08.0

3.25%2.04.0

0.0 (年)2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

預金準備率(大手行)預金準備率(中小行)1年物貸出基準金利1年物預金基準金利

資料:中国人民銀行、CEIC Databaseから作成。

資料:中国人民銀行、CEIC Databaseから作成。

12.0(兆元)

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

0.0

(年)

9.59

7.95

4.91

2.35

2005 2006 2007 2008 2009 2010

3.183.63

3.18

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45通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

インフレ率に関しては、消費者物価上昇率(前年同月比)が、2010年後半に政府目標(3%)を上回るようになり、特に、「食品」については10%を超える上昇率となった(第1-1-3-25図)。食品価格の上昇の原因としては天候不順の他、資金供給の潤沢化に伴う金融市場からの資金流入等も指摘され、2010年11月20日には農産物の増産や流通コストの低下に加え、将来的な価格統制も含めた全16項目からなる「消費者物価の総水準を安定させ、大衆の基本的な生活を保障することに関する国務院の通達」が発せられることとなった。また、2010年末以降は、原油など国際商品価格の高騰により、輸入インフレ圧力が著しく高まっている。こうした中、2010年12月に開催された中央経済工作会議では、金融政策の姿勢を従来の「適度な金融緩和」から「穏健(中立的)」に転換することを宣言し、金融引締めの方向へと転換する方針を明確化した。また、2011年3月の第11期全国人民代表大会第4回会議における「政府活動報告」において、温家宝首相は、今年1年間はインフレ抑制が最優先課題であることを強調した。中国経済の目下の課題は、経済成長を巡航速度に徐々に減速させながら安定した成長軌道に乗せることであり、政府・人民銀行が、過熱経済からの「出口戦略」をいかに実施していくのかが注目される。また、2010

第1-1-3-23図 中国のマーシャルのKの推移

第1-1-3-24図 中国の国際収支の推移

(年)

(倍)

199920002001200220032004200520062007200820092010

備考:マーシャルのK=マネーサプライ(M2)/名目GDP。資料:中国国家統計局、中国人民銀行、CEIC Databaseから作成。

1.9

1.8

1.7

1.6

1.5

1.4

1.3

1.2

資料:中国国家外貨管理局、CEIC Databaseから作成。

30,000 (億ドル)

25,000

15,000

20,000

10,000

5,000

-5,000

0

20002001200220032004200520062007200820092010

(年)

経常収支資本・金融収支誤差脱漏外貨準備高

誤差脱漏

資本・金融収支

経常収支

外貨準備高

第1-1-3-25図 中国の消費者物価指数の推移

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

2006年1月

2006年3月

2006年5月

2006年7月

2006年9月

2006年11月

2007年1月

2007年3月

2007年5月

2007年7月

2007年9月

2007年11月

2008年1月

2008年3月

2008年5月

2008年7月

2008年9月

2008年11月

2009年1月

2009年3月

2009年5月

2009年7月

2009年9月

2009年11月

2010年1月

2010年3月

2010年5月

2010年7月

2010年9月

2010年11月

2010年1月

2010年3月

25.0

20.0

15.0

10.0

5.0

0.0

-5.0

(前年比、%)

(年/月)

消費者物価 /コア(食品とエネルギーを除く)

コア(食品とエネルギーを除く)

消費者物価 /総合

総合

消費者物価 /食品

食品

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46 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

第1-1-3-26図 中国の人民元対ドルレートの推移

82 中国人民銀行は、2010年6月に、人民元為替レート形成メカニズムの改革を更に進め、人民元の為替レートの弾力性を高めるとする声明を発表した。中国人民銀行は、人民元の弾力化について、2005年の人民元改革を踏襲して、通貨バスケットを参照し、1日あたりの変動幅は基準値(中間値)の上下0.5% として人民元レートを調整すること、また現時点では大幅な切上げを行う基礎は存在しない旨を表明。2005年の人民元改革時には、当初に2.1% の切上げを実施後、3年間かけて対ドルで約20%上昇したが、今回は、当初の一定程度の切上げを見送った。

83 2010年の人民元対ドルレートの上昇率は3.5% となった。なお、人民元の年間上昇率の過去最高は、2008年の6.6% である。 84 中国の従来の社会保障制度基盤は、国有企業改革によって崩壊したため、1997年に政府による全国的な社会保障制度が制定されたが、社会保険加入者の割合は低く、なお移行期にあること等が挙げられる。

年6月の人民元為替レート弾力化以降 82、人民元相場は緩やかな上昇を続けているが 83、原油など国際商品価格の高騰等による輸入インフレ圧力が続く中で、人

民元相場の上昇加速にいかに踏み出すかが注目される(第1-1-3-26図)。

6.400

6.900

7.400

7.900

(1ドル=元)

元高

元安

8.400

2005/01/05

2005/03/05

2005/05/05

2005/07/05

2005/09/05

2005/11/05

2006/01/05

2006/03/05

2006/05/05

2006/07/05

2006/09/05

2006/11/05

2007/01/05

2007/03/05

2007/05/05

2007/07/05

2007/09/05

2007/11/05

2008/01/05

2008/03/05

2008/05/05

2008/07/05

2008/09/05

2008/11/05

2009/01/05

2009/03/05

2009/05/05

2009/07/05

2009/09/05

2009/11/05

2010/01/05

2010/03/05

2010/05/05

2010/07/05

2010/09/05

2010/11/05

2011/01/05

2011/03/05

2011/05/05

資料:China Foreign Exchange Trading Center、CEIC Databaseから作成。 (年月日)

2008年7月~世界金融危機を受け、自国経済を防護する狙いで、管理フロート制を停止、事実上、ドルペッグに戻る。

2005年7月21日~為替制度の変更および元の対ドル相場を2.1%引き上げ。為替制度は固定相場から「通貨バスケットを参考にした、市場の需給に基づく管理フロート制」に移行。

2010年6月21日~人民元相場弾力化。

(2)中国経済の課題「消費主導型経済成長への転換」

① 求められる投資・輸出主導から消費主導型経済成長への転換近年の中国は「投資」を主なけん引役として高い経済成長を遂げてきた(前掲 第1-1-3-3図)。また、2003年から2007年にかけては、「輸出」がけん引役として加わり2桁の成長を続けてきた。第1節1. で見たとおり、世界経済危機以前の中国の「投資」と「輸出」に依存した高成長の裏には、米国が過剰消費により世界経済をけん引していたことがあった。

しかしながら、世界経済危機の発生により、その構図は大きく変化しており、世界景気はいまだ不安定な状況が続いている。人民元の上昇圧力が高まり、労働コストが上昇を続ける中で、中国の持続可能な発展のためには、内需依存型経済成長、消費主導型経済成長に向けての経済構造変化が必要とされている。中国では、「投資」や「輸出」に対する経済成長依存度が高まる一方で、「消費」の比率は低下している。家計の消費対名目 GDP比が低下する一方で、社会保障不安等 84を背景に、家計の貯蓄対名目 GDP比は上昇している(第1-1-3-27図)。また、中国の都市化率

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47通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

は、改革開放が始まった1978年の17.9%から2010年には49.7%に上昇しているが(第1-1-3-28図)、都市化が進展する中で、地域間格差(第1-1-3-29図)や都市・農村部の格差等(第1-1-3-30図)が拡大している。近年の中国は、社会の仕組みや制度が経済発展のスピードに追いつかず、都市と農村の経済格差拡大、社会保障や医療、住環境などの福利厚生制度の未整備、環境問題の深刻化など、人々の身近に多くの社会的な矛盾が噴出している状況にある。

第1-1-3-27図 中国の家計の消費性向の推移

(名目GDP比、%)

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

(年)

5791113151719212325

3032343638404244464850

(名目 GDP比、%)

消費対名目GDP比(左軸)貯蓄対名目GDP比(右軸)

1999

1998

1997

1996

1995

1994

1993

1992

2000200120022003200420052006200720082009

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

100.01,600(百万人)

(年)

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

0

90.0

80.0

70.0

60.0

50.0

40.0

30.0

20.0

10.0

0.0

197819791980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010

農村部人口(左軸) 都市部人口(左軸) 都市化率(右軸)

17.9%

49.7%

(%)

備考: ◇は東部、●は中部、◆は西部、■は東北部。資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

(万元/人)9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0

上海市: 貴州省7.7 倍

◇上海

◇天津

◇北京

◇江蘇

◇浙江

◇広東

◆内蒙古

■遼寧

◇山東

◇福建

■吉林

全国平均

◆重慶

◇河北

●湖北

■黒竜江

◆寧夏

◆陝西

●山西

●河南

●湖南

◆新疆

◇海南

◆青海

◆四川

●江西

●安徽

◆広西

◆チベット

◆雲南

◆甘粛

◆貴州

第1-1-3-28図 中国の都市化率の推移

第1-1-3-29図 中国の地域別一人当たり名目GDP(2009年)

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48 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

第1-1-3-30図 中国の都市部と農村部の所得格差の推移

胡錦濤・温家宝政権では、経済発展方式の転換による「和諧社会(調和のとれた社会)」の実現という経済政策の基本方針を掲げ、①投資・輸出・消費のバランスのとれた成長、②第一次、第二次、第三次産業のバランスのとれた成長、さらに③量的拡大に頼る「粗放型」から生産性の上昇に頼る「集約型」への転換を目指すとともに、農民負担の軽減や社会福祉の拡充等が図られてきた(第1-1-3-31表)。しかしながら、こうした取組はなお途上であり、今後の中国の持続的な成長の観点から、特に、今後急速に少子高齢化が見込まれる中では、経済発展方式の転換を加速させ、国内の経済格差を縮小させつつ内需主導型の成長を進めていくことが急務となっている(第1-1-3-32図)。

② 量的拡大より質的充実を目指す「第12次5か年計画」2011年3月5日から14日にかけて、第11期全国人民代表大会(全人代)第4回会議が開催され、「第12次5か年計画(2011~2015年)」(以下、「十二五」)が採択された。「十二五」でも、先述の経済政策基本方針(第1-1-3-31表)に沿った形で、①経済発展方式の転換の加速化を主軸に、②各領域における改革を進め、③民生を改善することに重点が置かれている。今後5年間の実質 GDP 成長率の目標は年平均7%とされているが、これは、「第11次5か年計画(2006~2010年)」の当初目標である7.5%と実績である11.2%のいずれをも下回る水準であり、経済成長の量的拡大より質的充実を目指すという中国政府の姿勢が鮮明になっている(第1-1-3-33表)。

「十二五」では、今後5年間の「都市住民一人当たり所得」と「農村一人当たり純収入」の伸び率を両者とも「年平均7%以上」と実質GDP成長率の伸び率「年平均7%」以上に増加させる目標を採用し、消費拡大

4.5

5.0 20,000(倍)(元)

4.0 16,000

18,000都市部一人当たり可処分所得農村部一人当たり純収入都市部一人当たり可処分所得/農村部一人当たり純収入(倍、右軸)

3.0

3.5

12,000

14,000

2.0

2.5

8,000

10,000

1.0

1.5

4,000

6,000

0.5 2,0000.00

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010(年)

3.1 3.2 3.2 3.2 3.3 3.3 3.3 3.3 3.3 3.3 3.3 3.3 3.3 3.2 3.2

2.2 2.4

2.6 2.8 2.9 2.7

2.5 2.5 2.5 2.6 2.8

2.9

資料:中国国家統計局、CEIC Databaseから作成。

第1-1-3-31表 中国の経済政策の基本方針

①需要構造の転換主として投資、輸出によってけん引される成長から、消費がけん引役に加わった成長へ転換させる。

②産業構造の転換主として第二次産業(工業)によってけん引される成長から、第一次産業(農業)、第二次産業、第三次産業(サービス業)の間でよりバランスの取れた成長へ転換させる。

③生産様式の転換主として労働、資本、資源といった「投入の量的拡大」に頼る「粗放型」から、科学技術の進歩や労働者の資質の向上及び管理のイノベーションといった「生産性の上昇」に頼る「集約型」へ転換させる。

第1-1-3-32図 中国の人口構成の推移

資料:国連 “World Population Prospects” から作成。

75.016.0 (億人)

70.012.0 14.0

65.010.0

60.06.0 8.0

55.04.0

50.00.0 2.0

1950

19551960196519701975198019851990199520002005201020152020202520302035204020452050

(年)

(%)

年少人口(0~ 14 歳)

生産年齢人口(15 ~ 64 歳)

生産年齢人口比率(右目盛)

老齢人口(65 歳以上)

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49通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

のために必要である所得の向上に向けた政策方針を明確にしている。また、国民所得の分配における住民所得のウエイトを高めることに加えて、社会保障強化の目標も掲げている。一方、省エネと資源・環境保護についても、経済発

展方式の転換の一環として重要課題と位置づけられている。重要な鉱物資源の保護や採掘管理を強化する方針を表明するとともに、2011年から2015年までの5年間で単位 GDP当たりのエネルギー消費量を16%削減し、二酸化炭素排出量を17%削減すること等を目標として示している。また、産業の高度化を図るため、戦略的産業として、

7つの分野(①省エネルギー・環境保護、②次世代情報技術、③バイオテクノロジー、④ハイエンドの製造設備、⑤新エネルギー、⑥新素材、⑦新エネルギー自動車)を掲げ、これら産業の GDPに占める割合を2010年の3%から2015年までに8%引き上げるとしている。

③ 産業の高度化、消費主導型経済成長に向けて「十二五」では、個人消費拡大のため、民生の保障と改善を前面に押し出し、合理的な所得分配を加速することを打ち出すとともに、第一次・第二次・第三次産業のバランス、科学技術の振興など産業の高度化を目指しているが、これまでの中国経済の発展経緯を鑑みると、こうした政策の実現には困難も予想される。社会保障制度改革は進みつつあるものの前途多難であり、中国経済の根源問題である都市・農村二元経済については、現段階では十分解消される見通しがたっていない。また、「十二五」では、各領域の改革を進めるとされているが、国有企業による独占・利益擁護の問題や、基礎的研究の弱さ等、克服すべき課題も多い。中国が、こうした課題を克服しつつ、民生を改善し、省エネ・環境保護を進め、産業の高度化を図ることができるのか、投資・輸出依存型成長から消費主導型成長へと転換を果たすことができるのかが今後の注目点である。

第1-1-3-33表 中国の第12次5か年計画の主要目標

分類 指標 2010年実績 2015年目標 年平均成長率等(青色の箇所は5年間の累計値)

経済成長 国内総生産(GDP)(兆元) 39.8 55.8 7.0%

経済構造GDPに占めるサービス業付加価値の比率(%)GDPに占めるR&D支出の比率(%)都市化率(%)

43.01.847.5

47.02.251.5

4%ポイント0.4%ポイント4%ポイント

人口・資源・環境

全国総人口(万人)一次エネルギー消費に占める非化石燃料の比率(%)単位GDP当たりのエネルギー消費量(%)単位GDP当たりの二酸化炭素排出量(%)主要汚染物排出総量(%)森林面積の比率(%)

134,1008.3

20.36

139,000以下11.4

21.66

7.2‰以下3.1%▲16%▲17%

▲8~10%1.3%ポイント

人民生活

都市部家計一人当たり可処分所得(元)農村部家計一人当たり純収入(元)都市部登録失業率(%)

都市部新規就業者数(万人)都市部基本養老保険者数(億人)都市・農村基本医療保険(3項目)参加率(%)都市部保障性住居建設(万件)

19,1095,9194.1

5,771(5年累計)2.57

26,800以上8,300以上5.0以下

4,500(5年累計)3.57

7%以上7%以上

4,500万人1億人3.0%

3,600万件

備考:①国内総生産(GDP)と都市部家計一人当たり可処分所得は名目値、年平均成長率は実質値。   ②都市・農村基本医療保険(3項目)参加率は、年末時点での都市部職工基本医療保険、都市部家庭基本医療保険及び新型農村合作医療に参加する

人口の年末時点における全国総人口に占める比率。資料:各種Webサイト等から作成。

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50 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

4.欧州経済の現状と課題

2010年の欧州経済は、全体としては世界金融危機による景気後退からの持ち直しが見られたものの、景気の回復状況は国により大きな格差が生じた。ユーロ圏 85の実質 GDP成長率は、2009年に前年比マイナス4.1%と大幅な落ち込みとなった後、2010年は同1.8%にまで回復した。欧州主要国では、ドイツが2010年に同3.6%と高い成長を遂げた他、フランスや英国もそれぞれ同1.6%、同1.3%と回復を見せた(第1-1-4-1図)。一方、欧州財政危機(「第1章第2節2. 欧州財政危機の拡大」参照)に揺れたアイルランドや南欧諸国の一部は、2010年も依然としてマイナス成長が続くなど厳しい状況となった(第1-1-4-2図)。以下では、ユーロ圏全体の経済動向を見た上で、欧州諸国の中でも高い成長を遂げたドイツ経済の動向を概観する。

(1)ユーロ圏経済の動向① 外需にけん引され景気が持ち直しユーロ圏経済は、世界金融危機の影響を受けて急激に落ち込んだ後、2010年には回復が見られた。実質GDP 成長率の推移は、2009年第1四半期に前年同期比マイナス5.2%と大きく後退した後、成長率のマイナス幅が徐々に縮小し、2010年第1四半期には同0.8%とプラス成長に転じた。その後は前年同期比で2.0%の成長を維持した。ユーロ圏経済の動向を需要項目別にみると、2010年第1四半期は、外需の寄与度が1.4%ポイントと、世界経済の回復を背景に外需が成長率を押し上げた。輸出の回復に伴い生産活動も加速し、マイナスの寄与度となっていた在庫投資も、在庫復元の動きが拡大したことで成長率を押し上げたほか、個人消費も景気回復を下支えした(第1-1-4-3図)。

② 企業部門は輸出にけん引され生産が回復ユーロ圏の製造業の域外輸出受注は、2010年第1四半期以降に回復が顕著となった。2010年前半では化学、後半では特に機械・機器や自動車・輸送機器の受注の回復・拡大が顕著となった。米国や新興アジア諸国、特に中国向けの輸出が回復した中で、こうした品目の輸出受注が拡大したと考えられる(第1-1-4-4図)。

第1-1-4-1図ユーロ圏及び欧州主要国の実質GDP成長率の推移

第1-1-4-2図 南欧諸国等の実質GDP成長率の推移

第1-1-4-3図 ユーロ圏の需要項目別実質GDP成長率の推移

-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 (前年比、%)

予測

資料:Eurostatから作成。

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

ユーロ圏(16カ国)ドイツフランス英国

(年)

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8 (前年比、%)

資料:Eurostatから作成。

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

予測

アイルランドギリシャスペインイタリアポルトガル

(年)

85 本節では「ユーロ圏」はEU加盟国中、2010年時点でユーロを導入している16か国(ベルギー、ドイツ、ギリシャ、スペイン、フランス、アイルランド、イタリア、キプロス、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、オーストリア、ポルトガル、スロベニア、フィンランド、スロバキア)を指す。

-8

-6

2006 2007 2008 2009 2010

-4

-2

0

2

民間消費 政府消費 総固定資本形成

在庫投資

4

6 (前年同期比、%)

資料:Eurostatから作成。

実質GDP純輸出

(年)

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51通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

輸出受注の拡大を受け、生産活動にも回復が見られた。ユーロ圏の鉱工業生産は、2009年は前年同月比でマイナスの伸びが続いていたが、2010年1月には拡大に転じ、同年3月以降は前年同月比でおおむね8~9%前後の伸びとなった(第1-1-4-5図)。

③ 個人消費は緩やかに回復家計部門では、個人消費が緩やかなペースで回復

を続けた。ユーロ圏の小売売上高は、2008年11月に前年同月比でマイナス0.6%と縮小に転じた後、2009年央には同マイナス5~6%の落ち込みとなったが、2010年2月以降はプラスの伸びとなった(第1-1-4-6図)。個人消費の緩やかな回復の背景には、雇用・所得環

境の緩やかな改善があると考えられる。雇用情勢については、失業率がおよそ10%と高水準で推移しているものの、失業者数の増加には歯止めがかかる兆しが見られている。失業者数は、2009年1~3月に前年同月比で40~50万人の増加が続いたが、その後は増加

幅が縮小した。2010年11月には前年同月比で12.8万人減少し、その後2011年3月まで5か月連続で減少した。この間、雇用者報酬も緩やかに改善しており 86、個人消費の回復に寄与したと考えられる(第1-1-4-7図:失業者&失業率)。

④ インフレ懸念と ECB(欧州中央銀行)の金融政策ユーロ圏経済が緩やかな回復を遂げる中、2010年は物価の動向も安定的に推移してきたが、2010年末以降は物価上昇圧力が徐々に高まりを見せた。消費者物価(HICP)上昇率の推移をみると、2010年12月に前年比2.2%と ECB のインフレターゲットである2%を超え、その後も加速して2011年3月には同2.6%となった。背景には、資源・食料価格の高騰がある。中国を始めとする新興国経済の高成長による需給逼迫や金融市場からの資金の流入、中東・北アフリカの政情不安などを背景に、原油や食料品価格の高騰が進んで

第1-1-4-4図 ユーロ圏の製造業域外輸出受注

第1-1-4-5図 ユーロ圏の鉱工業生産の推移

86 2009~2010年のユーロ圏の雇用者報酬は、四半期ベースで前年比平均2.1%のペースで増加を続けた(Eurostat)。

(2005=100)

資料:Eurostatから作成。

2005年3月

2005年6月

2005年9月

2005年12月

2006年3月

2006年6月

2006年9月

2006年12月

2007年3月

2007年6月

2007年9月

2007年12月

2008年3月

2008年6月

2008年9月

2008年12月

2009年3月

2009年6月

2009年9月

2009年12月

2010年3月

2010年6月

2010年9月

2010年12月60

80

100

120

140

160ユーロ圏域外受注コンピューター・電子・電気              自動車・輸送機器

化学・医薬機械・機器

75

80

8590

95

100

105

110

115(%)

資料:Eurostatから作成。

-25

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15(2005=100)

前年同月比(左軸)鉱工業生産指数(右軸)

1月

11月

9月

7月

5月

3月

1月

11月

9月

7月

5月

3月

1月

11月

9月

7月

2008 2009 2010 2011(年)

第1-1-4-6図 ユーロ圏の小売売上高の推移

2006年1月

2006年4月

2006年7月

2006年10月

2007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

8.0

6.0

4.0

2.0

0.0

-2.0

-4.0

-6.0

0

(%)1101081061041021009896949290

(2005=100)

資料:Eurostatから作成。

前年同月比(左軸)指数(右軸)

第1-1-4-7図 ユーロ圏の失業者数及び失業率の推移

2007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

資料:Eurostatから作成。(年/月)

600500

400300200

1000

-100

-200

(千人)12.0

11.0

10.0

9.08.07.06.0

5.0

4.0

(%)

失業者数前月差(左軸)失業率(右軸)

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52 2011 White Paper on International Economy and Trade

第1章  世界経済の現状と課題

おり(「第1章第2節1. 資源・食料価格の高騰の要因とその影響」参照)、ユーロ安の進展も相まって輸入物価や生産者物価など川上部門の物価上昇圧力につながっている。このため、エネルギー・食品を除いたコア・インフレも、2010年9月に前年比1.1%と1%台になった後、2011年3月には同1.4%まで上昇した(第1-1-4-8図)。こうした中で、インフレを警戒していた ECB は、2011年4月7日、主要政策金利を0.25%引上げ1.25%にすることを決定した。もっとも、ユーロ圏経済全体としては緩やかに回復しつつあるとはいえ、先述の通り域内の景気動向には大きな格差があり、アイルランドや、ギリシャなど南欧諸国の一部は、マイナス成長が続く中でデフレが懸念材料となっている他、金利が上昇すれば変動金利を中心とする住宅ローン 87が金融機関の不良債権問題の深刻化につながる可能性もある。出口を急ぎ過ぎれば景気回復の腰折れや金融市場の新たな混乱を生じされる恐れがあり、ECB は金融政策において難しい舵取りを迫られている。

(2)ドイツ経済の動向2010年のドイツの実質GDP成長率は前年比3.6%とユーロ圏諸国の中で顕著な成長を遂げた。ドイツの実質 GDPを需要項目別にみると、外需と在庫投資、設備投資が景気回復をけん引し、2010年後半からは個人消費が景気を下支えしたことが分かる。企業部門については、2009年の大幅な景気後退時に生産、設備

投資が縮小し、2010年は特に前半にその反動として在庫の積み増しや設備投資の拡大がみられたと考えられる(第1-1-4-9図)。

また、欧州主要国の中でドイツは輸出依存度が比較的高く 88、世界経済の回復に伴う輸出の拡大が景気回復をけん引した(第1-1-4-10図)。特に、中国向け輸出の拡大による影響が大きかったと考えられる。ドイツの輸出額全体の伸びが2010年は前年比で13.2%であった中、中国向け輸出額は35.7%と高い伸びとなった。2009年には、先進国も含めドイツの国別輸出は軒並みマイナスの伸びとなった中で、中国向け輸出は前年比4.3%のプラスの伸びとなった 89。ドイツの輸

87 スペインやギリシャ、アイルランド等では住宅ローンは変動金利型が主流となっている(European Mortgage Federation(2006)「Study on Interest Rate Variability in Europe - July 2006」)。

88 2009年のドイツの輸出依存度は40.9% と、EU加盟国の平均(35.6%)を上回っている。89 World Trade Atlas。

第1-1-4-8図 ユーロ圏の消費者物価の推移

第1-1-4-9図 ドイツの実質GDP成長率の推移

2006年1月

2006年4月

2006年7月

2006年10月

2007年1月

2007年4月

2007年7月

2007年10月

2008年1月

2008年4月

2008年7月

2008年10月

2009年1月

2009年4月

2009年7月

2009年10月

2010年1月

2010年4月

2010年7月

2010年10月

2011年1月

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0.0

-1.0

(%)

資料:Eurostatから作成。

消費者物価指数

消費者物価指数(コア)

民間消費 総固定資本形成政府消費

在庫投資

資料:ドイツ連邦統計局から作成。

純輸出 実質GDP

-8 -10

-6 -4 -2 0 2 4 6 8 (前年同期比、%)

1Q 2Q 3Q4Q1Q 2Q 3Q4Q1Q 2Q 3Q4Q1Q 2Q 3Q4Q1Q 2Q 3Q4Q

2006 2007 2008 2009 2010

第1-1-4-10図 ユーロ圏主要国の輸出依存度(2009年)

(%)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

備考:輸出総額のGDP比。資料:World Bankから作成。

ベルギー

オランダ

オーストリア

ドイツ

ポルトガル

イタリア

スペイン

フランス

ギリシャ

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53通商白書 2011

回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済  第1節

第1章

出先の約6割が EU域内向け輸出であるが、ここ数年における対中輸出の伸びを受けて、EU域外向け輸出額に占める中国の割合は2005年の7.3%から2010年には13.9%となり、米国(16.8%)に並ぶ水準にまで上昇した(第1-1-4-11図、第1-1-4-12図)。ドイツの中国向け輸出の約7割は機械・輸送機器といった資本財が占めており 90、これらの輸出の拡大 91が製造業の生産の回復に寄与したと考えられる。生産の拡大は、所得の増加を通して家計部門にも好影響を及ぼした。ドイツでは、2009年の景気後退時に大幅な雇用調整が行われなかったことが特筆される。景気変動に応じて企業が労働者の労働時間を短縮した場合、一定の要件を満たした労働者に対して政府が減少した賃金を補填する制度 92が設けられており、これが雇用調整の回避につながった。その後、生産が回復する中で企業の雇用意欲も高まったことから、ドイツにおける失業率は7%台前半と歴史的な低水準に

まで改善している(第1-1-4-13図)。雇用・所得環境の改善が、2010年後半の個人消費の拡大につながったと考えられる。

第1-1-4-11図 ドイツの輸出先(2010年)

資料:World Trade Atlasから作成。

EU2759.8%

スイス4.2%

ロシア2.7%

中国5.6%

米国6.8%

その他20.9%

第1-1-4-12図 ドイツの中国向け輸出額とシェアの推移

0

100

200

300

400

500

600

700

800(億ドル)

資料:World Trade Atlasから作成。

0

2

4

6

8

10

12

14

16

4.3 5.05.05.9

7.5 7.7 7.3 8.1 8.48.49.3

12.213.9中国向け輸出額(左軸)

EU域外輸出額に占める中国向け輸出 シェア(右軸)

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

(%)

(年)

90 Deutsch Bank Research, “German growth remains robust" February 14, 2011 91 例えばドイツの対中輸出の約16%(2010年)を占める自動車・自動車部品は、2010年には前年比97.2%の伸びを記録した。 92 内閣府「今週の指標No. 936 ドイツ:労働市場と操業短縮手当」。http : //www5. cao. go. jp/keizai3/shihyo/2009/1019/936. html

第1-1-4-13図 ドイツの失業率の推移

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

11.0

12.0

13.0 (%)

資料:Deutsche Bundesbank、CEIC Databaseから作成。

7.1%(2011年3月)

2000/01

2000/06

2000/11

2001/04

2001/09

2005/01

2005/06

2005/11

2010/01

2010/06

2010/11

2006/04

2006/09

2004/03

2004/08

2009/03

2009/08

2002/02

2002/07

2002/12

2003/05

2003/10

2007/02

2007/07

2007/12

2008/05

2008/10

(年/月)