小 11 肥大性骨症を伴った顆粒膜細胞腫のツナギトゲオイグア …小 11...

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11 肥大性骨症を伴った顆粒膜細胞腫のツナギトゲオイグアナの 1 例 ○毛利 1)2) 1) もうり動物病院・島根県 2) 鳥取大学医学部分子病理学 12 乳腺癌の雄ウサギの 1 例 ○秋田征豪 1) 秋田咲樹子 1) 1)はちペットクリニック(広島県) 1.はじめに:肥大性骨症 (HO) はヒト、イヌ、ウマ、ウシで報告されており、主に肺の腫瘍に随伴し、四肢の長管 骨における疼痛を伴った骨増生を主徴とする。トカゲ類では様々な代謝性骨疾患が認められるが、栄養性あるいは腎 性の二次性上皮小体機能亢進症が一般的であり HO は非常に稀である。今回演者はツナギトゲオイグアナにおいて顆 粒膜細胞腫に随伴する HO の症例に遭遇し治療する機会を得たためにここにその概要を報告する。 2.症例:症例は,ツナギトゲオイグアナ (Saimiri sciureus),雌,9歳齢,2 年前に当院で膀胱結石摘出手術を受け た既往歴があり、草食爬虫類専用ペレットと野菜を給餌され、紫外線ランプ照射を適切に受けていた。活動性の低下 と食欲不振を主訴に来院した。来院時身体一般検査において大腿部の顕著な腫脹が認められた。X 線検査において大 腿骨、脛骨、橈骨などの長骨の骨幹部においてほぼ左右対称性に骨増生が認められた。関節には病変は認められなかっ た。特徴的な所見から HO と診断した。口腔内の検査では咽頭部を占拠する腫瘤が認められた。 3.治療および経過:第 3 病日に血液検査および咽頭部腫瘤の精査を鎮静下で実施した。血液検査には軽度の貧血の 他に著変は認められなかった。咽頭部の腫瘤は穿刺吸引によって漿液が抜去され劇的に縮小した。しかしながら、食 欲の改善は認められず、咽頭部腫瘤が再度腫脹してきたために第 19 病日に咽頭部腫瘤の造窓術および食道瘻チュー ブの設置を行った。食道瘻チューブからの強制給餌を継続したが第 21 病日に入院下で死亡が確認された。剖検を実 施したところ、胸腹部には腹水が貯留し壊死融解の進んだ腫瘍と思われる組織片が多数遊離していた。消化管や肝臓、 腎臓等に肉眼的な異常は認められなかった。壊死組織の病理組織検査においては異形性の強いシート構造の上皮細胞 集塊が認められ、一部に卵殻と思われる構造も認められることから顆粒膜細胞腫と診断された。 4.考察:HO は主に胸部の悪性腫瘍と関連する随伴症であり強い疼痛を伴う状態である。爬虫類において疼痛の有 無の判断は困難であるが、本症例においても鎮痛剤の積極的な使用を検討するべきであったと考えられた。Mader が 著書の中で頚部膿瘍と関連した HO の症例について言及しているものの、悪性腫瘍と関連した HO については演者の 調べる限り報告は認められず、本症例は非常に稀な症例と思われた。 1.はじめに:ウサギの乳腺癌は、雌ウサギにおいて体表の腫瘍の中で好発するひとつであるが、雄ウサギでの報告 症例は 1 例のみである。今回、雄ウサギの腹部体表に発生し肺転移が疑われた乳腺癌の症例に遭遇したのでその概要 を報告する。 2.症例:ライオンラビット、4 歳齢、未去勢雄、体重 1.7kg、左側臀部体表に自壊した腫瘤(2.8 × 1.9cm)がある との主訴で来院、腹部体表正中にも腫瘤(6.7 × 5cm)が認められた。 3.治療および経過:第 0 病日より自壊した腫瘤の治療としてエンロフロキサシンおよびクエン酸モサプリドの内服 を行った。第 4 病日、左側臀部の腫瘤から大量に出血したため、腫瘤の摘出を実施することになった。術前のレント ゲン検査において肺野に腫瘍の転移が疑われる所見が認められた。第 7 病日、左側臀部および腹部正中の腫瘤を摘出 した。術後は元気食欲とも異常なく良好に経過したが、第 87 病日呼吸の悪化により死亡したとの連絡を受けた。 4.病理検査所見:臀部の腫瘤は腺癌で、腫瘤内には大小の管腔構造の増殖が見られた。腫瘍の一部は筋層へ浸潤す る境界不明瞭な部分が存在した。腹部の腫瘤は乳腺癌で、腫瘍は皮下直下より皮下組織内にかけ、周囲を線維性被膜 に覆われず、筋膜への浸潤し境界不明瞭であった。また付属リンパ節への転移が認められた。 5.考察:雄の乳腺癌は犬,猫,マウス,ラット,モルモットおよびヒトで報告があるが,一般的に非常に稀である. 雄ウサギの乳腺癌の報告症例は筆者が知る限り 2014 年にカナダでの 1 例のみである.術後は来院がなく詳細は不明 だが,病理組織学的検査でリンパ節転移が認められたことや,術前の胸部レントゲン所見 および呼吸状態の悪化に より死亡したとの報告から腫瘍の転移が死亡原因と考えられた。本症例では臨床データが少ないことやおよび死後の 病理検査が実施できなかったことが悔やまれたが,貴重な症例であると思われた。 64

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Page 1: 小 11 肥大性骨症を伴った顆粒膜細胞腫のツナギトゲオイグア …小 11 肥大性骨症を伴った顆粒膜細胞腫のツナギトゲオイグアナの1例 毛利

小 11

肥大性骨症を伴った顆粒膜細胞腫のツナギトゲオイグアナの 1 例○毛利 崇 1 ) 2 )  

1) もうり動物病院・島根県 2) 鳥取大学医学部分子病理学

小 12

乳腺癌の雄ウサギの 1 例○秋田征豪 1 )   秋田咲樹子 1 )  

1)はちペットクリニック(広島県)

1.はじめに:肥大性骨症 (HO) はヒト、イヌ、ウマ、ウシで報告されており、主に肺の腫瘍に随伴し、四肢の長管骨における疼痛を伴った骨増生を主徴とする。トカゲ類では様々な代謝性骨疾患が認められるが、栄養性あるいは腎性の二次性上皮小体機能亢進症が一般的であり HO は非常に稀である。今回演者はツナギトゲオイグアナにおいて顆粒膜細胞腫に随伴する HO の症例に遭遇し治療する機会を得たためにここにその概要を報告する。2.症例:症例は,ツナギトゲオイグアナ (Saimiri sciureus),雌,9歳齢,2 年前に当院で膀胱結石摘出手術を受けた既往歴があり、草食爬虫類専用ペレットと野菜を給餌され、紫外線ランプ照射を適切に受けていた。活動性の低下と食欲不振を主訴に来院した。来院時身体一般検査において大腿部の顕著な腫脹が認められた。X 線検査において大腿骨、脛骨、橈骨などの長骨の骨幹部においてほぼ左右対称性に骨増生が認められた。関節には病変は認められなかった。特徴的な所見から HO と診断した。口腔内の検査では咽頭部を占拠する腫瘤が認められた。3.治療および経過:第 3 病日に血液検査および咽頭部腫瘤の精査を鎮静下で実施した。血液検査には軽度の貧血の他に著変は認められなかった。咽頭部の腫瘤は穿刺吸引によって漿液が抜去され劇的に縮小した。しかしながら、食欲の改善は認められず、咽頭部腫瘤が再度腫脹してきたために第 19 病日に咽頭部腫瘤の造窓術および食道瘻チューブの設置を行った。食道瘻チューブからの強制給餌を継続したが第 21 病日に入院下で死亡が確認された。剖検を実施したところ、胸腹部には腹水が貯留し壊死融解の進んだ腫瘍と思われる組織片が多数遊離していた。消化管や肝臓、腎臓等に肉眼的な異常は認められなかった。壊死組織の病理組織検査においては異形性の強いシート構造の上皮細胞集塊が認められ、一部に卵殻と思われる構造も認められることから顆粒膜細胞腫と診断された。4.考察:HO は主に胸部の悪性腫瘍と関連する随伴症であり強い疼痛を伴う状態である。爬虫類において疼痛の有無の判断は困難であるが、本症例においても鎮痛剤の積極的な使用を検討するべきであったと考えられた。Mader が著書の中で頚部膿瘍と関連した HO の症例について言及しているものの、悪性腫瘍と関連した HO については演者の調べる限り報告は認められず、本症例は非常に稀な症例と思われた。

1.はじめに:ウサギの乳腺癌は、雌ウサギにおいて体表の腫瘍の中で好発するひとつであるが、雄ウサギでの報告症例は 1 例のみである。今回、雄ウサギの腹部体表に発生し肺転移が疑われた乳腺癌の症例に遭遇したのでその概要を報告する。2.症例:ライオンラビット、4 歳齢、未去勢雄、体重 1.7kg、左側臀部体表に自壊した腫瘤(2.8 × 1.9cm)があるとの主訴で来院、腹部体表正中にも腫瘤(6.7 × 5cm)が認められた。3.治療および経過:第 0 病日より自壊した腫瘤の治療としてエンロフロキサシンおよびクエン酸モサプリドの内服を行った。第 4 病日、左側臀部の腫瘤から大量に出血したため、腫瘤の摘出を実施することになった。術前のレントゲン検査において肺野に腫瘍の転移が疑われる所見が認められた。第 7 病日、左側臀部および腹部正中の腫瘤を摘出した。術後は元気食欲とも異常なく良好に経過したが、第 87 病日呼吸の悪化により死亡したとの連絡を受けた。4.病理検査所見:臀部の腫瘤は腺癌で、腫瘤内には大小の管腔構造の増殖が見られた。腫瘍の一部は筋層へ浸潤する境界不明瞭な部分が存在した。腹部の腫瘤は乳腺癌で、腫瘍は皮下直下より皮下組織内にかけ、周囲を線維性被膜に覆われず、筋膜への浸潤し境界不明瞭であった。また付属リンパ節への転移が認められた。5.考察:雄の乳腺癌は犬,猫,マウス,ラット,モルモットおよびヒトで報告があるが,一般的に非常に稀である.雄ウサギの乳腺癌の報告症例は筆者が知る限り 2014 年にカナダでの 1 例のみである.術後は来院がなく詳細は不明だが,病理組織学的検査でリンパ節転移が認められたことや,術前の胸部レントゲン所見 および呼吸状態の悪化により死亡したとの報告から腫瘍の転移が死亡原因と考えられた。本症例では臨床データが少ないことやおよび死後の病理検査が実施できなかったことが悔やまれたが,貴重な症例であると思われた。

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