一一一例数)2002/05/01  ·...

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ゴマダラカミキリの性フェロモンをめぐる最近のトピックス 181 ゴマダラ カ ミ キ リの性フ ェ ロモ ン をめぐる 最近の ト ピッ ク ス 農業生物資源研究所昆虫行動制御物質研究チーム ふか (科学技術振興事業団重点研究支援協力員) は じ め にー 「ゴマダラJ問題 ゴマダラ カ ミ キ リ An lophora ma siaca はカ ンキ ツ類, リ ン ゴ, ナシなどの果樹やヤナギ, プラタナス, シラ カ パ, カ エデな ど多数の樹種を寄主植物 と してい る (小島 ・ 中村, 1986)。 成虫は初夏に羽化脱出 し, 寄主植 物上で多回数の交尾を行い樹皮下に産卵する。 幼虫は寄 主植物の形成層や幹部を喰い荒ら す こ と に よ っ て樹勢を 弱らせ, 時には枯死に至ら しめる。 幼虫に直接殺虫剤が 作用 し に く い こ と や成虫の移動分散能力が高い こ と , ら に被害許容密度が低い こ と か ら , 経済的に重要な難防 除害虫 と さ れてい る 。 東ア ジ ア の Anoρlo Phora 属カ ミ キ リ ム シ類に は外見 も生態も互いによく似た種が多く含まれているために, 分類上の混乱を招いてきている。 本種はかつて台湾や中 国本土な ど に も 分布す る と さ れていたが, それは類似種 と 同一視 さ れてい た こ と に よ る 混乱であ り , 現在の分布 は 日 本 と 朝鮮半 島 と 考 え て よ い こ と が最近明 ら か に さ れ (模原, 2000)。 同属 の 類似 種で あ る ツ ヤ ハ ダ ゴ マ ダ ラカ ミ キ リ A. glabpennnis は, 中国西部で防砂林で あるポプラに大発生するなどの被害を与えている (遠 田 ・ 山崎, 1995) ほか, 北米に も移入し最近大き な問題 となっている (CARVEY et al., 1998; 填原, 2002)。 現在 この種が生息していないと考えられる日本についても, 90 年前の採集記録か ら 分布範囲と さ れ, さ ら に は 警戒 地域に指定されかけた こ と も ある (CARVEY et al., 1998; 様原, 2000, 2002 ; 桐谷, 2000)。 一方, ゴマダラカミ キ リ はツヤハダゴマダラ カ ミ キ リ と 同様に地中海沿岸諸 国では最も侵入を警戒すべき昆虫のーっとされている (EPPO, 2001)。 他種と の混同例を含む可能性 も あ る と はいえ, 盆栽 に 入 っ て移入 し た ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ が欧州 や北米で発見されたという事例報告がある ( JAAR0EK, 1986, 1988; Bugwood Network, 2000)。 ゴマダラカ ミ キ リ は文献に記載さ れた寄主植物が非常に多い (小島 ・ 中村, 1986) ため, 日本から「コ'マダラjの侵入が必要 Sex pheromone studies on Anoplophora malasiaca (Thom. son) . By Midori FUKAYA (キーワ ー ド : 性フヱロ モ ン, 配偶行動, カミキリムシ) 以上に警戒さ れ, 梱包材な ど ま でが幼虫の潜伏場所 と し て疑わ れ る こ と に な れ ば, 貿易上の問題に も な り かねな (模原, 2002)。 本種の行動制御や防除法の研究が重 要である背景にはこのような状況も加わっている。 I ゴマダラカ ミ キ リ の配偶行動 一般 に カ ミ キ リ ム シの配偶行動 に おい て フ ェ ロ モ ン は 重要な機能を担っている と考え られている。 特に雌の性 フェロモンは, こ れ ま で配偶行動が調 べ ら れ た 種の す べ てで存在が示唆さ れてい る (岩淵, 1999)。 雌フェロモ ンの作用距離は種に よ っ て異な り , 直接的な接触に よ っ て受容される接触刺激性の も の, 数 1 0 cm 以 内 の 近 距 離で作用する もの, さ ら に 遠距離 か ら 雄 を 誘引す る も の な ど が知 ら れ てい る 。 ゴマダラ カ ミ キりでは雄が寄主樹木聞を大き く 飛淘移 動し, 雌雄 と も 寄主樹木内 を歩行移動す る こ と に よ り に樹上で出会う (A OAC, 1990 ; 足立 ら , 1992)。 室内観 察においては, 雌雄の俳個中, 特に雄の移動中に雌に接 触して配偶行動が始まる事例が多い (FUKAYA et al., 1999)。 雄は触角 あ る い は脚先 (ふ節) で雌に触れる と, 直ちに雌に向かつて駆け寄り 雌 を 捕捉す る 。 続 い て雌 の 背面を口ひげでなめる よ う に触れ, 背に乗りかかり, 軸を合わせて腹部末端を下方に曲げ, 交尾器 を 結合 さ せ る と い う 一連の 交尾行動が起 こ る (図 1)。 このような 行動連鎖は, 接触性 フ ェ ロ モ ン を も っキ ボ シカ ミ キ リ の 図ー1 ゴマダラカ ミ キ リ に お いて雄を中心に見た雌雄遭 週後の 配偶行動連鎖 {N=39. 図中の数値は観察 例数) 1

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Page 1: 一一一例数)2002/05/01  · ゴマダラカミキリの性フェロモンをめぐる最近のトピックス 181 ゴマダラカミキリの性フェロモンをめぐる 最近のトピックス

ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ の性 フ ェ ロ モ ン を め ぐる最近の ト ピ ッ ク ス 181

ゴマダラカ ミ キ リの性フ ェ ロモ ン をめぐる最近の ト ピッ ク ス

農業生物資源研究所昆虫行動制御物質研究チ ー ム ふか や谷

(科学技術振興事業団重点研究支援協力員) 架 緑

は じ め にー 「ゴマダラ J問題

ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ An olぅlophora ma lasiaca は カ ン キ

ツ類, リ ン ゴ, ナ シな ど の果樹や ヤ ナ ギ, プ ラ タ ナ ス ,

シラ カ パ, カ エ デな ど多数の樹種を寄主植物 と し てい る

(小島 ・ 中村, 1986)。 成虫 は初夏 に 羽化脱出 し , 寄主植

物上で多 回数の 交尾を行い樹皮下 に産卵す る 。 幼虫 は寄

主植物の形成層や幹部 を 喰い 荒 ら す こ と に よ っ て樹勢を

弱 ら せ, 時 に は枯死 に至 ら し め る 。 幼虫 に 直接殺虫剤が

作用 し に く い こ と や成虫 の移動分散能力 が高い こ と , さ

ら に被害許容密度が低 い こ と か ら , 経済的 に 重要な難防

除害虫 と さ れてい る 。

東 ア ジ ア の Anoρlo Phora 属 カ ミ キ リ ム シ類 に は外見

も 生態 も 互い に よ く 似た 種が多 く 含 ま れてい る た め に ,

分類上の混乱 を 招い て き てい る 。 本種は か つ て台湾や 中

国本土な ど に も 分布す る と さ れてい た が, そ れ は類似種

と 同一視 さ れてい た こ と に よ る 混乱であ り , 現在の分布

は 日 本 と 朝鮮半島 と 考 え てよ い こ と が最近明 ら か に さ れ

た (模原, 2000)。 同属 の 類似種で あ る ツ ヤ ハ ダ ゴ マ ダ

ラ カ ミ キ リ A. glabripennnis は , 中 国 西 部 で 防砂林 で

あ る ポ プ ラ に 大発生す る な ど の 被害 を 与 え てい る (遠

田 ・ 山崎, 1995) ほ か, 北米 に も 移入 し最近大 き な問題

と な っ てい る (CARVEY et al., 1998; 填原, 2002)。 現在

こ の 種が生息 し てい な い と 考 え ら れ る 日 本 に つ い て も ,

90 年前 の採集記録か ら 分布範囲 と さ れ, さ ら に は 警戒

地域 に指定 さ れか け た こ と も あ る (CARVEY et al., 1998;

様原, 2000, 2002 ; 桐谷, 2000)。 一 方, ゴ マ ダ ラ カ ミ

キ リ は ツ ヤ ハ ダ ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ と 同様 に 地中海沿岸諸

国 で は 最 も 侵入 を 警戒す べ き 昆 虫 の ーっ と さ れてい る

(EPPO, 2001)。 他種 と の混同例を含 む可能性 も あ る と

は い え , 盆栽 に 入 っ て移入 し た ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ が欧州

や北米で発見されたという事例報告がある ( JAARI30EK,

1986, 1988; Bugwood Network, 2000)。 ゴ マ ダ ラ カ ミ

キ リ は文献 に 記載さ れた 寄主植物が非常 に 多 い (小島 ・

中村, 1986) た め , 日 本 か ら 「コ 'マ ダ ラ jの侵入が必要

Sex pheromone studies on Anoplophora malasiaca (Thom. son) . By Midori FUKAYA

( キ ー ワ ー ド : 性フ ヱロ モ ン, 配偶行動, カ ミ キ リ ム シ )

以上 に 警戒さ れ, 梱包材 な ど ま でが幼虫 の 潜伏場所 と し

て疑わ れ る こ と に な れ ば, 貿易上の問題に も な り かね な

い (模原, 2002)。 本 種の 行動制御 や 防 除法の 研究が重

要で あ る 背景に は こ の よ う な状況 も 加わ っ てい る 。

I ゴマダラ カ ミ キ リ の配偶行動

一般 に カ ミ キ リ ム シの配偶行動 に おい て フ ェ ロ モ ン は

重要な機能 を担 っ てい る と 考 え ら れてい る 。 特 に雌の性

フ ェ ロ モ ン は , こ れ ま で配偶行動が調べ ら れた 種の す べ

てで存在が示唆 さ れてい る (岩淵, 1999)。 雌 フ ェ ロ モ

ン の作用 距離 は 種に よ っ て異 な り , 直接的 な接触に よ っ

て受容 さ れ る 接触刺 激 性 の も の , 数 10 cm 以 内 の 近 距

離で作用 す る も の , さ ら に 遠距離か ら 雄 を 誘引す る も の

な どが知 ら れてい る 。

ゴマ ダ ラ カ ミ キ りで は雄が寄主樹木聞 を 大 き く 飛淘移

動 し , 雌雄 と も 寄主樹木 内 を歩行移動す る こ と に よ り 主

に樹上で出会 う (A OACHl, 1990 ; 足立 ら , 1992)。 室 内 観

察 に おいては, 雌雄の 俳個中, 特 に 雄 の 移動 中 に 雌 に 接

触 し て配偶行 動 が 始 ま る 事 例 が 多 い (FUKAYA et al.,

1999)。 雄 は触角 あ る い は脚先 (ふ節) で雌 に 触れ る と ,

直 ち に 雌に 向 か つ て駆け寄 り 雌 を 捕捉す る 。 続 い て雌の

背面を 口 ひ げでな め る よ う に触れ, 背 に 乗 り か か り , 体

軸を合わ せ て腹部末端 を下方 に 曲 げ, 交尾器を結合 さ せ

る と い う 一連 の 交尾行動が起 こ る ( 図 1)。 こ の よ う な

行動連鎖は, 接触性 フ ェ ロ モ ン を も っキ ボ シカ ミ キ リ の

図ー1 ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ に お いて雄 を中心 に見た雌雄遭週後の 配偶行動連鎖 {N=39. 図中の 数 値 は 観 察例数)

一一一 1 一一一

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182 植 物 |妨 疫 第 56 巻 第 5 号 (2002 年)

場合 (FUKAYA and HONDA, 1992) とよ く 似て い る。 雄の触角や口ひげ, )拘|に よ る接触が, 雌への定位行動と配偶者認識に重要な意味をもつことから , 接触刺激性フェロモンすなわち雄が直接雌に触って受容さ れるフェロモンの存在の可能性が示唆さ れた。 そこで雌iの鞘麹抽出物を俵型ガラス片に塗布 して雄に触らせると, 維は生 き た雌に対する場合と同じよ う に乗りかかつて腹曲げ反応を示した (口絵- 3) ことから , 雌体表に存在す る性フェロモンに よって雄の配偶行動が解発さ れることが証明さ れた(FUKAYA et al., 1999) 。 筆者 ら は, この知見に基づいて接触刺激性の性フェロモン成分の解明研究を開始した。

E ゴマダラカミキリ の体表炭化水素

ゴマダラカ ミ キ リ の雌鞠遡抽出物をシリ カゲルカラムで分画 し, それぞれの函分について腹曲げ行動を指標にして性フェロモン活性を調べたところ, ヘ キサンで浴出さ れる炭化水素画分に弱い活性が認め ら れたが他の画分に はほとんど活性はなかった (図- 2) 。 し か し炭化水素画分にあとで溶出する高極性の画分を混合す ると強いフェロモン活性が認め ら れた。 したがって, 本種の接触刺激性性フェロモンは複数の物質によって構成さ れることが明らかになった (FUI{AYA巴t al., 1999)。

そこで, ゴマダラカ ミ キ リ の雌i由来の炭化水素を含む画分をGC-MS分析 したところ40 を超える多数の炭化水素が含まれて いた (FUKAYA et al., 2000 ) 。 この炭化水素を, 不飽和度に応じて さ ら に分画 したところ, 飽和炭化水素成分のフェロモン活性が最も高かった。 抽出物仁IJの量が多い飽和炭化水素8 成分 (合成また は購入) を天然比に混合 し さ ら に高極性画分を添加してガラス片に塗布す ると, 雌抽出物と同等のフェロモン活性を示 し た(図 3) 。 さ ら に炭化水素成分別に活性を調べてみると,9位にメチlレ側鎖をもっ炭化水紫 (以下 9-メチjレアjレカン) 2 種の混合物 (図- 3, C) に8 種の混合物と同等の活性が認め られたことから , この物質が活性主成分と思われた。 ところが, 8穫の混合物から 9 メチルアルカ ンを除いても活性が著 し く 低下す る ことは なかった。 一方, 単用では活性が認め ら れな い15ーメチルアルカ ン2種 (図 3, D) を混合物から除くと活性は顕著に低下 した (図- 3) (FUKi\YA et al., 2000 ) 。

したがって, ゴマダラカ ミ キ リ 性フェロモンの炭化水素8 成分はどれか特定の成分が活性発現に不可欠な「活性主成分」だとい う よ う な性質のものではない。 雌の体表炭化水素の 60%を占め る 特定の炭化水素成分が単独で雄 の腹曲げを引き起こ す キ ボシカ ミ キ リ の 場合(FUKi\YA et al., 1996) とは様相が異なる 。 どうやらゴマ

溶媒のみ(対照)ヘキサン薗分(炭化水素画分)

596エーテル画分15%エーテル画分

エーテル画分極性画分

ヘキサン画分+596エーテル圏分ヘキサン函分+ 15%エーテル画分

ヘキサン函分+エーテル画分ヘキサン画分+極性画分

o 10 20 30 40 50

Mv.のJJU曲げ(%)図 2 雌翰麹柑li:l:l物 を シ リ カ ゲjレ カ ラ ム ク ロ マ ト グラ フ

ィ ーで分画した ときの各画分の活性 (各 l 雌当iù:,N= 18)

極性画分:ヘキ サ ン函分以外の画分混合物.

nC27 + nC29 (A) 4MeC26 + 4MeC28 (B) 9MeC27 + 9MeC29 (C)

1 5MeC31 + 15MeC33(D) 8 JilI:分混合物

Aを除く6成分Bを除く6成分Cを除く6成分Dを除く6成分

対!!日

。 20 40

般の腹1111げ(%)図 - 3 合成炭化水紫 (8 成分) を組み合わせた 場合の フ

エ ロ モ ン活性それぞれ極性画分 を添加して検定 し た (各 4 雌当iù,N =301. 物質 は 略称で示 す ; n は直鎖の 炭化水量三,

60

4 Meや9 Me, 1 5 Me は メ チ ノレ側鎖 をそれぞれ 4 位と 9 位, 15位にもつ炭化水紫, Cに続く数字 は 主鎖の炭紫数 を示す. 対照 極性画分のみ.

ダラカ ミ キ リ の炭化水素成分は全体として活性発現に不可欠であ る が, 個々の成分について は「い く つかあればよ い」と い っ た, か なり の「い い かげん さ J (r巴dun­dancy) をもち合わせてもしっかり機能す る よ う な性質のもの ら しい。 後述す る よ う に雌の炭化水素成分を雄のものに置き換えても活性はやや低下す るものの, 決定的に消失することはなかった。

皿 コ.マダラカミキリ の高極性フェロ モ ン

成分群ゴマダラカ ミ キ リ の雌の性フェロモンにおいては, 体

表炭化水素に加えより高極性の成分が存在 し, 両者が同一一一 2 一一一

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ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ の性 フ ェ ロ モ ン を め ぐる最近の ト ピ ッ ク ス 183

時に 作用 す る こ と で雄の腹曲 げ行動が引き 起 こ さ れ る 。

キ ボ シカ ミ キ リ で は, 炭化水素の ほ か高極性成分 も 腹曲

げ活性 を 呈す る (FUKAYA et al., 1996)。 し か し, ゴマ ダ

ラ カ ミ キ リ の よ う に , 体表炭化水素成分 と , 炭化水素 と

は全 く 異 な る 成分が協力 し ては じ め てフ ェ ロ モ ン活性 を

呈す る と い う 報告 は ほ か に な い ( そ も そ も カ ミ キ リ ム シ

類の接触 フ ェ ロ モ ン成分の詳細 な解明研究 は本種以外 に

見 当 た ら な い)。 こ れ ま で に ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ の 高極性

活性成分 と し て, 少 な く と も 二 つ の物質群が存在 し, 一

方の物質群 に つ いては成分解明 と 活性評価が完了 し, 他

方 に つ い て も 成分解明が進行中である 。 原著論文が未公

表 な の で, 詳細 な 内容 を本文で述べ る わ け に は い か な い

が, ど ち ら に も 複数の成分が含 ま れてい る こ と が判明 し

てい る 。

W ゴマダラカ ミ キ リ の体表成分の性的ニ型

と 配偶者認識

雄の抽出物を雌ダ ミ ー に 塗布 し て雄 に 提示 し て も 雄が

1--- C27

C26 V合成品で活性確認に

使用した成分

6 8 10 12 14 16 Retention Time (min)

図 - 4 雌雄の炭化水素画分の ガ ス ク ロ マ ト グ ラ ム

80 携60腹曲40げ% 2 0

0

図 - 5

画自画己 口画己ロ亘己涯圃固圃圃圃嗣:ij

日召HC:炭化水素画分 )p 極性画分

雌雄抽出物由来の炭化水素画分 と 極性画分 を組み合わせた 場 合の 性フ ェ ロ モ ン 活 性 (1雌当量 :Nニ30)

腹曲 げ反応 を す る こ と は ほ と ん ど な い。 雌雄の配偶者認

知に体表成分 は ど の よ う に 関わ っ てい る の だ ろ う か。 そ

こ で, 体表炭化水素成分の組成 を 比較 し た と こ ろ , 雌雄

間で大 き な違 い が あ る こ と が わ か っ た ( 図-4)。 雄 の 場

合に比べ る と , 雌の ほ う が鎖の 長 い炭化水素の比率が高

い。 ま た , 雌雄 に そ れぞれ特異的 な成分 も 存在す る が共

通成分 も 多 い。 そ こ で, 雌雄の炭化水素成分 と 極性成分

を相互 に 入れ替え て雄の反応 を調べた 。 雌 の炭化水素成

分 を雄の も の に 入れ替え る と , 雄の腹曲 げ率 は やや低下

し た が, 活性が消失す る こ と は な か っ た 。 し か し , 極性

成分 を入れ替え る と , 活性 は顕著に低下 し てほ と ん ど消

失 し て し ま っ た ( 図-5)。 し た が っ て, 雄反応 の 決定 的

な 差 を も た ら す の は 「極性成分」で あ る と 考 え ら れ る

(AKINO et al., 2001)。 現在, r極性成分」の 分離 と 化学構

造解明が進行中であ る 。

V ゴマダラカ ミ キ リ の複雑な情報利用

体表炭化水素 は一般 に 節足動物の体表面を 覆 う ワ ッ ク

ス 成分で, 水分の蒸散 を 防 ぐ な ど の 機能 を も っ てい る 。

こ の炭化水素成分が情報化学物質 と し て機能 し てい る 事

例が社会性昆虫や ハ エ, ハ ネ カク シな ど で知 ら れてい る

( HOWORD, 1993)。 そ の場合, 炭化水素の 「組成比J が情

報である 種 と , 特定 の成分が活性主体である 種 と がある

よ う だが, 炭化水素群 な ど複数の物質群が活性発現 に 不

可欠で, し か も そ れぞれの物質群 を構成す る 複数成分が

補完的 に働いてい る ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ 性 フ ェ ロ モ ン の よ

う な 関係は知 ら れてい な い。 カ ミ キ リ ム シに おい て体表

成分が種認知や配偶者認知物質 と し て機能 す る に 至 る 過

程や, そ れ と は別 に 雌雄 の 誘引性 フ ェ ロ モ ン が進化 す る

過程 に つ い て も 考 え た く な る が, あ ま り に も 関連す る 知

見が少 な い。 実 は , ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ で は , 接触化学刺

激以外の 要因, す な わ ち 視覚や揮発性物質 も 雄の配偶行

動制御 に 介在 し てい る こ と も 判明 し つ つ あ る 。 接触刺激

性性 フ ェ ロ モ ン以外 に さ ら に 多 く の情報要因が本種の配

偶行動 に 関わ っ てい る こ と は 疑い な い。

日 他 のAnoplophor,α属 の配偶行動 と

フェロ モ ン

多 数 の 害虫種 を 含 む 東 ア ジ ア の Ano Plo Phora 属 に お

いて, ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ 以外の種 に つ い て行動制御物質

の解析は端緒に つ い た ばか り の よ う である 。 A. chinen­

S lS で は 雌 の 性 フ ェ ロ モ ン の 存 在 が 示 さ れ て い る

(WANG, 1998) が, 化学成分の分離や化学構造の 解明 は

な さ れてい な い。 ツ ヤ ハ ダ ゴ マ ダ ラ カ ミ キ リ に つ いては

中国 と ア メ リ カ で防除や行動制御物質の研究が進め ら れ

一一 3 一一

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184 植 物 防 疫 第56巻 第5号(2002年)

てき てい る (HE and HUANG. 1993; CARVEY et al.. 1998)。

本種の雄 は, ゴマ ダ ラ カ ミ キ リ の場合 と 同様 に触角 で接

触す る こ と に よ り 雌を認識す る が, 雄が な わ ば り を も っ

と さ れ る 点 は や や 異 な る よ う で あ る 。 最近 こ の ツ ヤ ハ ダ

ゴマ ダ ラ カ ミ キ リ の雄特異的 な揮発性の 2 成分が誘引物

質 と し て同定 さ れた 。 こ れ ら は 雌雄 と も に EA G活性 を

も ち , 1 : 1 の混合比で雌雄 の 両 方 を 誘引す る こ と が Y

字の オ ル フ ァ ク ト メ ー タ ー で確認 さ れた と い う o USDA

関 係者 ら に よ っ て情報 の 一部 が 公 開 さ れ て い る (ex.

CAIBL. 2002 年 2 月 現在) が, 科学論文 に よ る 詳細 の

開示が待た れ る 。

最後 にー

ゴマダラカ ミ キ リ 研究 プロジェク ト の経緯

筆者の グルー プに よ る ゴマ ダ ラ カ ミ キ リ の研究 は 旧蚕

糸 ・ 見虫農業技術研究所行動調節研究室に おい て 1995

年 ご ろ に 開始 し , 独立行政法人化 に 伴 う 組織再編 を経て

現在 は農業生物資源研究所昆虫行動制御物質研究チ ー ム

に おい て継続 し てい る 。 当初 は筆者が主体 と な っ て行動

観察を 開始 し研究の端緒を 聞 い た が, 行動 観察 と 化学分

析が本 格化す る こ と に よ り , 同研究室 ( チ ー ム ) メ ンバ

ーとの 共同研究 に移行 し , 現在共同研究 の 輸は研究所 を

越えて広がっ てい る 。 カ ミ キ リ ム シの行動研究で は供試

虫 の 確保が大 き な 問題 で あ る 。 当初累代 飼 育 を 試 み た

が, 1 世代の期聞が長〈飼 育効率が非常 に 悪い た め 早々

に 断念す る こ と と な っ た 。 以来, 大分県 柑橘試験場, 果

樹試験場興津支場 ( の ち カ ン キ ツ 部, 現農業研究機構果

樹研究 所), 熊本 県 果樹研究所, 沖 縄 県 農業試験場 の

方々 の 協力 を得て採集 し た 野外成虫 を 用 い てき た 。 特に

大分県 柑橘試験場の皆様の 援助協力 な く し てゴマ ダ ラ カ

ミ キ リ 研究 は あ り え な か っ た し, 今後 も あ り え な い だ ろ

う 。 生物検定 を野外成虫 に 依存す る た め , 必然的 に 7 月

と 8 月 上旬 に 実験が「過集 中j す る こ と に な る 。 こ の

間, 500�1 .000 頭 の 成虫 を 個体飼 育 し, 多 い 日 は 延べ

250 頭以上の雄を生物検定 に使用 し た 。 活性成分 の分離

や生物検定 は, 研究 チ ー ム の メ ンパー に よ り 交代で土 日

も 休 む こ と な く 継続 さ れ, 物質の分離や精製, 合成作業

が深夜に 及ぶ こ と も 珍 し く な か っ た 。 生物検定 の一部 を

任せ る こ と がで き る ほ ど優秀 な ア ルバ イ ト 学生 に 恵 ま れ

た こ と は と て も 幸運で あ っ た 。

こ の よ う に様々 な力 の結集 に よ り , 何度 も プ レ イ ク ス

ルー を経験 し た 。 そ の結果ゴマ ダ ラ カ ミ キ り と い う 1 種

の昆虫では あ る が, 当 初 は 予想、 も し な か っ た 複雑 な情報

利用 シス テ ム が少 し ず つ 明 ら か に な り つ つ あ る 。 今後の

展開 を お待ち い た だ け れ ば幸 い で あ る 。

引 用 文 献1) 足立 礎 ら (1992) : 果樹試験 場 報告 23 : 179�191 2) ADACHI. 1. ( 1990) : Res. Popul. Ecol. 32 : 15�32 3) AKINO. T. et al. (2001 ) : Entomol. Sci. 4 : 271�277. 4) CARVEY. J. F. et al. ( 1998) : Proc. Entomol. Soc. Wash. 100:

373�381 . 5) 遠田暢男 ・ 山崎三郎 (1995) : 林業 と 薬剤tl NO. 131 別 冊.6) FUKA Y A. M. and H. HONDA. ( 1992) : Appl. Entomol. 2001.

2 7: 89�97. 7) 一一一一-et al. ( 1996) : J. Chem. Ecol. 22 : 259�270. 8) 一一一一-et al. ( 1999) : Entomol. Sci. 2 : 183�187. 9) 一一一-et al. (2000) : ibid. 3 : 2 1l�218.

10) HE and HUANG ( 1993) : Acta Entomol. Sin. 3 6: 51�55. 1 1 ) HOWORD. R. W. ( 1993) : Insect Lipids. Stanley-Samelson &

Nelson eds.. University of Nebraska Press. pp. 179�226. 12) 岩淵喜久男 (1999) 環 境昆虫 学 ( 日 高敏隆 ・ 松 本義明監修, 本

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