クウェートとの新たな...

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クウェートとの新たな 二国間関係の構築に向けて 40回中東協力現地会議 2015828丸紅株式会社 クウェート出張所長 森田 茂 1

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クウェートとの新たな 二国間関係の構築に向けて

第40回中東協力現地会議

2015年8月28日

丸紅株式会社 クウェート出張所長

森田 茂

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クウェートの歴史①

18世紀初頭 当時のクウェートは、イスタンブールを首都とするオスマン帝国の支配下にあり、

オスマン帝国領土の最南端としての位置づけ。アラビア半島中央部より、サバーハ家

含む幾つかのファミリー (エスタブリッシュメント・ファミリー)がクウェートに移住し、

この地域の統治を開始。

その後、 多数の商人(イラン系、イラク系、新興ファミリー)もクウェートに移住し、

貿易商人を中心として、インドとの海上交易、 「シルクロードの玄関口」として発展。

1756年 オスマントルコとの交渉役として、サバーハを初代クウェート首長に互選。

サバーハ家が政務・外交を担当、エスタブリッシュメント・ファミリーが交易を担当し、

サバーハ家を政治的・財政的に支援する権力の分業体制が出来た。

1899年 その後もオスマントルコはクウェートに干渉を行った為、第7代首長ムバラクが英国の

助けを求め、英国の保護国となる。

1938年 クウェート南部にあるブルガン油田発見(世界第2位規模の油田)

1946年 最初のタンカーが出航

1958年 アラビア石油、カフジ油田の利権協定を締結

(2003年利権失効し、技術サービス契約に移行)

1961年 英国から独立。日・クウェート外交関係樹立

1962年 憲法制定

1970-74年 クウェート航空女性乗務員の制服はミニスカート。(Al Othman Museum)

1978年 丹下健三デザインによるクウェート空港完成。世界トップクラス

1982年 シドニー、オペラハウスデザイナーによる国会議事堂完成

1983年 アルコール禁止令

1990年8月 イラク進攻。イラク侵攻後、日本航空はクウェートまでの南回り路線を廃止

1991年2月 イラクから開放

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クウェートの歴史②

2008年 アラビア石油、カフジ油田の技術サービス契約終了

2011年 クウェート建国50周年。日・クウェート外交関係樹立50周年

東日本大震災に際して500万バレルの原油(約400億円相当)の無償供与は突出

イラク侵攻時の日本からの支援130億ドルを決して忘れず

2012年 サバーハ首長の国賓訪日 (当時小溝大使談:天皇陛下と3回面談。内2回は面談時間30分以上

天皇陛下の格別のご配慮がサバーハ首長に強い印象を残した。モメンタムとしてこの機会を最大限活用)

2013年 安倍総理大臣のクウェート来訪

租税協定発効

最初のIWPP案件となるAZN 1期の契約(住友商事)

2014年 投資協定発効

CFP(既設製油所の改質、増産)の契約 (日揮)

オフセットプログラム義務の暫定的停止 (2014年7月1日以降の契約分については、暫定的に停止)

計画大臣が訪日し協力覚書を締結

2015年 経済産業副大臣がクウェートを来訪し協力覚書を締結

協力覚書:電力、造水、下水、メトロ案件に関し、 日本から専門家を派遣し、政策対話を通して国家計画を支援。

日本企業参画を日本政府が後押しする環境が整いつつある。

新外国投資法の成立。(石油等の10分野を除いて、100%外資が認められる。銀行以外でIBMが100%外資第1号取得)

GCC域内の危機管理センター拠点がクウェートに配置される模様

ISに対するGCC域内の司令部はクウェートに配置される模様

クウェートにて徴兵制が再開される模様

NRP(第4製油所)が近々契約の模様(韓国勢が引き続き攻勢。KNPC向けに始めて中国Sinopecが受注)

かつてのクウェートは現在のイメージとは反して飲酒可能、JAL便あり、クウェート航空女性乗務員の制服はミニスカートというお国柄。

1990年のイラク侵攻までは、他の湾岸諸国に先駆けてインフラを整備し、GCC諸国のリーダーとされていたが、気が付いたら取り残されている危機感がある。

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基礎情報①

面積 : 17,818平方キロ (四国とほぼ同面積) イラク、サウジとの国境までは、各々車で1時間半程度 各々国境の前に財閥所有の農園あり サウジまでの海岸線には、サバーハ家、財閥所有の別宅(シャレー)が続く 人口 : 420万人 (2014年6月クウェートPACI発表。2025年には500万人超を予想) クウェート人全体の約半分が21歳未満 ≪総人口における出身地の割合≫ ―クウェート人 1/3 ―その他外国人 2/3 (インド70万人、以下エジプト、バングラ、フィリピン、シリア、パキスタン)

人口増加率: 年率3%超 宗教: 国教はイスラム教。スンニ派7割 シーア派3割。 (シーア派≠貧困層。親政府の現状擁護派) 政治体制: 首長制(首長の任命する内閣と民選による議会 注①⇒7ページ) 議会: 一院制、定員50名、任期4年 格付け: S&P格付けはAA 2011年にS&Pは、強固な財務基盤を反映しAAに格上げとした カタールと同等。サウジより格上 経済: 名目GDP: 1,853億ドル 実質GDP成長率: 2.6% 一人当たりGDP: 46,342ドル 経常収支: 694億ドル 消費者物価上昇率: 3.4% 経済:2014年IMFより引用 石油生産コスト: 52.3ドル (財政均衡ベース 2014年 IMF GCC域内最安値。生産コストは10数㌦程度と推測)

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石油埋蔵量: 102(十億バレル) 世界7位。可採年数約90年 ガス埋蔵量: 2 (兆立方メートル) 石油生産量: 3.123 (百万バレル/日) 2020年4百万バレルをターゲット 日本は、韓国、インドに次いで3位の原油輸出先 ガス生産量: 16 (十億立方メートル) 注② ⇒7ページ

日本の原油輸入: 1,470 (万キロリットル) サウジ、UAE、カタールに次いで4位。7% 電力供給: 15,472MW 2014年ピーク需要(12,410MW)需給逼迫 水供給: 526MIGPD 2014年需要(450MIGPD)需給逼迫 クウェート投資庁(KIA)残高: 5,500億ドル 第2次国家開発5カ年計画: 2015年4月から2020年3月の5カ年 開発プロジェクト費用として341.5億クウェート・ディナール(KD)(約13兆7千億円)を予定 第1次国家開発5カ年計画は、行政及び法制度上の問題で実施が遅れ、達成率は56% 2015年度政府予算: (2015年4月~2016年3月) 歳入は120.52億クウェート・ディナール(約4.8兆円)。その内、石油収入額が105.98億KD(約4.2兆円)の見込。 (石油収入額は想定油価を1バレル=45米ドル、石油生産量を270万バレル/日と設定し算出)。 歳入の10%にあたる12.05億KD(約4.8千億円)が次世代基金に割り当てられる。 歳出は次世代基金積立金を含め、202.78億KD(約8.1兆円)。 トータルの収支は82.26億KD(約3兆円)の欠損。

基礎情報②

石油埋蔵量/生産量、ガス埋蔵量/生産量: 2014年 BP/Staticsより引用 日本の原油輸入: 2013年石油統計より引用 電力供給、水供給:2015年2月日ク民間合同委員会MEW資料より引用

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基礎情報③

トップの高齢化: サバーハ首長 86歳 (生年:1929年 6月) ナッワーフ皇太子 78歳 (生年:1937年 6月) ジャービル首相 72歳 (生年:1942年 11月) 首長位継承システム:首長の後継者となる皇太子の承認プロセス 首長が後継者(皇太子)を指名、その後、議会において過半数の承認が必要。 憲法第4条にて「故ムバーラク・アル・サバーハの子孫が継承する世襲制首長国」と制定。(注③ ⇒7ページ) 在留邦人数: 178人(2015年6月26日) 最大勢力は日揮の16人。来年2016年半ば以降の約1年間は約80人程度が駐在予定 2014年4月より伊藤忠商事が日本人駐在員1名を復活 2015年6月より住友商事が日本人駐在員1名を復活 自爆テロ: 6月26日、クウェイト市の中心部にあるイマーム・サーディク・モスクが金曜礼拝中に自爆テロ攻撃を受け、 少なくとも27人死亡、227人が負傷。クウェートで自爆テロが発生したのは今回が初めて。ISに参戦した クウェート人は帰国後すぐに捕まっており(200名程度)、治安は保たれている。ISに対しクウェートは直接敵対 していない。(米・カナダ軍がクウェート基地を利用。クウェートは後方支援を行っているだけ)。テロリストの 目論見は、モスクを攻撃し、スンニ派とシーア派の分裂を狙っているが、クウェートでは、けっしてこの2派閥は 対立していない。(クウェートにシーア派は約3割存在するが、虐げられた存在ではなく親政府の立場である。) 爆破後20分後に首長が「The victims are not just my people but my son.」と声明を発表。 直ちに、首長、皇太子、国会議長が現場を訪問。 クウェート政府を上げて、社会のUnity, 統一を掲げている。今回の事件後、クウェートでの治安対策は強化 されており、クウェートの治安はゆるがないと思われる。今回の自爆テロ(サウジ人)の協力者とされるビィドゥン (無国籍者の意で、約10万人クウェートに存在。)に対し、出国禁止等のより一層の管理体制を敷いた模様。

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(基礎情報 注釈)

(注① ) 政治体制 親政府の議会が継続している。不正投票を回避するために選挙法を改正し、 2012年12月の議会選挙より投票数を4票から1票に変更したことが背景。

立法権と行政監督権を憲法で付保されている国会議員が、自らの政治的意図を達成するために(プロジェクトの透明性、公平性、国家財産保護を楯にして)大型プロジェクトに介入する構図は根深いものがあり、クウェート政治の公正性の確立には引き続き時間がかかると見られる。

政府内外の勢力争い、利害調整に時間がかかっているものの、サバーハ家の首長体制に大きな変化はないと見られる。但し、反体制派とほぼ均衡しており、議会と政府の緊張関係は続くと見られる。周辺国との大きな違いはトップダウンで決まらないこと。 (注② ) ガス クウェートは、LNGを輸入している。Shell, BP, QGとターム契約締結済み。IPP、肥料、石化プラント向けフィードとして、ガスの確保がクウェート政府の最優先課題の一つ。 (注③ ) 首長位継承システム

継承ルールは憲法で比較的明確。皇太子の任命に議会の承認が必要であることはクウェートの民主制の成果として評価される一面があるものの、サバーハ家が一枚岩でなく、皇太子後継の動向を注視する必要あり。

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自己紹介

森田茂 丸紅クウェート出張所 所長 クウェート8年目 (マレーシア→ケニア→ガーナ→クウェート)

通信機械プラント出身

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丸紅クウェート出張所紹介

1960年 クウェート事務所 開設 (英国より独立前) 1990年 イラク侵攻 1998年 クウェート事務所 閉鎖 2008年 クウェート事務所 再開 森田が7年半前(2008年)に駐在し、一から事務所を立ち上げ。 ≪立ち上げ時の取組一例≫ ・ローカルパートナー探し(数多くの財閥と面談) ・事務所登録(登録の為の法規制の確認からスタート) ・事務所設営(事務所レイアウトの図面引きからスタート) ・現地従業員雇用 ・銀行口座開設

クウェートにおける丸紅事業内容

8年前、ゼロからの出発。 プロジェクトは時間を要する為、コモディティの積み上げと両輪で築いてきた。

≪主な事業内容≫ ―コモディティ ・エネルギー(ナフサ引き取り) ・化学品(PIC) 民間向けでは、 ・ペプシの空缶製造プラントを完成させ、日本からアルミコイルの納入、スクラップの引取 ・フィリピンから鶏肉の輸入 (興味深い点は、ペプシ空缶、鶏肉共に、半分近くの数量がクウェートからイラクに流れている 後述するが、クウェートはイラクへのGatewayとしての役割が増すと予想される) ―プロジェクト ・ IWPP ・下水BOT事業 <CSR活動> ・クウェート人のご子息を丸紅ロンドン店にてインターンシップとして受入 その後2013年3月より正式採用。(ロンドン有名大学を優秀な成績で卒業) ・クウェート人の結婚式に、森田の家内が着物で参加 ・クウェート人のご令嬢(12歳)が、学校のインターナショナルデーで日本について発表されることとなり、 浴衣の着付けを指導 ⇒ 昔は域内のリーダーであったクウェート人にSnobbish, 鼻持ちならないというイメージを持つ人も多かったが、 現在はクウェート人の意識・性格も変わってきている。

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新たな二国間関係の構築に向けて① ≪メリット≫

ベースは、親日であり日本に対する絶大な信頼

クウェートは潤沢な資金があり、強固な財務基盤をベースに、石油生産コストも湾岸域内で最も安価である

石油価格下落による影響も限定的とされる

法的整備が充実し、IWPP1号案件(AZN1期)の順調な進捗

≪デメリット、課題≫

・事業決定はトップダウンで決まらない。へそ(全ての話しがつくキーマン)がない

よって案件獲得までに時間を要する

・ローカルコンテンツが高く、有力財閥との取組は必須

≪取組一例、ポイント≫

・UAH下水BOT: 2012年9月 PQ事前資格審査結果通知

2015年5月 PQやり直し発表 (3年間本入札を待ち続けた結果、PQやり直し)

2015年7月 PQ締切

クウェートでの商売は予想外の連続。バッターボックスに入る(本番)前の素振りで筋肉痛になってしまう

⇒ クウェートのプロジェクトに対して継続的に情熱を維持する事が極めて困難

・太陽熱IPP: 日本JETRO資金でFSを実施したが、結局案件を形成してもAdvantageが、認められない

・メトロ案件: 実施機関がPPP(官民パートナーシップ)→EPC→PPPと変更が相次ぎ、その都度コンサルからやり直し

日本政府は、上述のような電力、造水、下水、メトロ案件をターゲットとして協力覚書を締結している。 日本から専門家を派遣し、

政策対話を通して国家計画を支援し、日本企業参画を日本政府が後押しする環境の整備が整いつつある。

⇒ 客先からの情報入手が益々重要となる

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新たな二国間関係の構築に向けて②

≪まとめ≫

①パイプ作り

5月に死海で開催された中東ダボス会議では、ゴードン・ブラウン元英国首相とのCo-Chairmanとして、

クウェートから大手財閥CEOが出席。

また財閥出身ではないが、政府顧問として、クウェート国を憂うハーバードMBA卒業生も存在。

官民力を合わせ、将来のクウェートと日本の架け橋となるキーパーソンとのパイプ作りを行う良いタイミング。

②クウェートはイラクへのGatewayとしての役割が増す

クウェート市内から、イラクへの通路となるSubiyahまでのCauseway36キロの半分がほぼ完成。

先述の通り、当社が納入しているペプシ空缶や鶏肉も約4割がイラクへ流れており、

今後、クウェートはイラクへのGatewayとしての役割を益々担うと予想。

③イラク発電フィードとしてのガス開発を支援することで、クウェートへのガス供給の可能性あり

一方、IPP、肥料、石化プラント向けフィードとしてガスの確保がクウェート政府の最優先課題の一つであり、

イラクからクウェートへのガス供給の可能性を具体化したい。

イラクと石油・ガス供給に関する覚書を今年3月締結。

イラクは、侵攻した国ではなく、戦略的互恵関係への転換。

④石油開発への技術支援

石油生産コストが安い故に、苦労なし。外人部隊を頼らないDNA。クウェート航空の衰退。

クウェートは石油生産を、現在の3.123(百万バーレル/日)から2020年までに4百万バーレルをターゲットとしている。

一方、2014年IEAレポートによると2019年に2.47百万バーレルまで下回るとの見通しあり。また、メジャーとクウェートとの関係が、うまく回っていないとの情報もあり、オールジャパンとしての具体的支援策を検討したい。

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