(一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢...

9
6 5 滋 賀=米國に 於ける 急性 傳 五〇四 米國に 於ける急性傳染病豫防 東京市保健館 米國に於て清化器傳染病の減少は注目す。 へきものがある。例へ ば 腸チフスを見るに、一九一〇年、米國七十八都市に於ける死亡率 は人口十萬に就き二〇・ 五四であつたのが、年九ご充年には○. 六 四となつてゐる 。 一 般に傳染病豫防事業には蓼考とすべきもの がある 。筆者は最近 米國に於ける公衆衛生の現歌を覗察する機會を得たので藪種の急 性傳染病封策を紹介して見よう。 先づ初めに総論的に衛生行政上の問題を取上げ、然る後、各種傳 染病に就き述べることふする。 (一) 届出制度 讐師は傳染病患者を診察した時、一定時間内に管轄保 健課に届出づべき義務がある。患者が讐師の診療を受けすして診 断が明らかとなれば、家入より届出つること なつてゐる。讐師 は一々書面を以て届出づべきものと決めると、手績の煩墳の爲、 届出が後れ勝ちとなろので、電話による口頭届出も承認されてゐ る。報告には氏名、 佳所、年齢、診断、讐師名、月日を記載するC 届出づべき疾病の種類は地方により異り、叉、時々攣更もある。 一例を示せば次法 の如し。 ( 一 ) 脾脱疽、脚氣、肉中毒、コクシデイオイデス肉芽腫、デング 熱、肝臓ヂストマ、食品中毒、馬鼻疸、十二指腸贔症、傳染性黄 疸、マラリア、ペラグラ、大葉性肺炎、再蹄熱、ロッキー山熱、 壊死性咽頭炎、破傷風、野兎病、口峡炎。 ( 二) 水痘。ア 訴 メーバ赤痢、細菌性赤痢、丹虫 母 、風疹、淋病、イン フルエンザ、麻疹、流行性耳下腺炎、初生克膿漏眼、鵬鵡病、狂 犬病( 動物拉びに人類) 、徽毒、トラコーマ、結核、百日咳. ( 三)コレラ、ヂフテリァ、流行性謄炎、癩、流行性購膜炎、流行 性小見麻癖、ペスト、狸紅熱、天然痘、腸チフス及パラチフス、 登疹チフス、黄熱。

Upload: others

Post on 18-Jul-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

65

滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業

五〇四

米國

に於ける急性傳染病豫防事業

東京市保健館

米國に於て清化器傳染病

の減少は注目す。へきものがある。例

へば

腸チフスを見るに、

一九

一〇年、米國七十八都市に於ける死亡率

は人口十萬に就き二〇・五四であつたのが、

年九ご充

年には○.六

四となつてゐる。

一般に傳染病豫防事業には蓼考とすべきものがある。

筆者は最近

米國に於ける公衆衛生の現歌を覗察する機會を得たので藪種の急

性傳染病封策を紹介して見よう。

先づ初めに総論的に衛生行政上の問題を取上げ、然る後、各種傳

染病に就き述べることふする。

(一)

届出制度

讐師は傳染病患者を診察した時、

一定時間内に管轄保

健課に届出づべき義務が

ある。患者が讐師の診療を受

けすして診

断が明らかとなれば、家入より届出つ

ること

なつてゐる。讐師

一々書面を以て届出づ

べきものと決めると、手績

の煩墳の爲、

れ勝

とな

ので、

る口

頭届

され

る。

には

名、佳

所、

記載

るC

べき

の種類

は地

より

り、

、時

々攣

もあ

る。

一例

を示

せば

次法の如

し。

(一)脾

、肉

コク

シデ

イデ

ス肉

ング

スト

マ、

品中

二指

マラ

ア、

ペラグ

ラ、

ッキ

ー山

風、

口峡

炎。

(二

)水痘

ア訴メー

バ赤

細菌

丹虫母、

エンザ、

下腺

、初

生克

眼、

犬病

(動

に人

類)、

コー

マ、

結核

日咳

.、

(三

)コレ

ラ、ヂ

フテ

ァ、

性謄

、流

行性

スト、

紅熱

然痘

ス及

ス、

ス、

Page 2: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

57

右三群

の中、

(一)は届出

のみ、

(二)は患者及び保菌者の隔離が實

行され、

(三)は患者は勿論、患者

との接鯛者

の停留まで實施され

ることがあろ。

傳染病として届出の義務があつても保健課に於て患者蚊びに其の

周園に封し、何等の封策

も講ぜぬ様な疾病は、

一般に讐師よりの

届出がよくない状況であ

る。

現在、

この地方でも腸チフス及びパラチフスと流行性小見麻癖

届出はよいが、麻疹

と百

日咳では悪いと云はれてゐる。

防疫調査

保健課に於ては、報告された傳染病に就て防疫の爲

調査をなす。特に病氣により初叢患者の感染経路及び地塵内當該

傳染病

の有無を調べ、傳染源よりの傳訴播を防止

し、他方、患者の

塵置を講す

る。

保健課では容疑者登見の爲に、又、同時に開業署の診断に便宜を

ふる爲、無料で病的材料の検査をなす。

調査

の目的を以て患家を訪問した時は、同所居往の全員

の氏名、

年齢、職業、通學者の學校名、使用牛乳の供給元、

當該疾患に就

き既患の有無、傳染源との接鯛關係等を洩れなく調査する。

傳染

源を早期に叢見すれば傳播を防止し得

るから、調査は迅速且愼重

になされてゐる。

患者隔離

病氣により異

るが、衛生技師はか詰りつけ署師及び家

電相談して、家庭内にて隔離すべきか、病院に隔離

すべきかを

決定

する。

入院せしむれば

治療に便

なると同時に、家庭内の傳

播を防ぎ得らる。殊にヂフテリア及び狸紅熱に就ては幼見が家庭

内にある場合、患者の入院を漿む。

入院患者の爲

の用意

として、急性傳染病の病床は人口十萬に封し

少くとも二〇乃至三〇を要すとせらる。

接觸者側留

特定

の傳染病に接觸

せるものを隔離

してゐる。即ち

潜伏期を経て幾病するか否かを観察するのである。

その期間は勿

論病氣に依つて異るが、個入的事情も大

いに考慮されてゐるので

ある。例へば患者の家庭内に罹患の恐

れあるものが

存在

する場

合、叉、職業的に見て重大な影響ある場合がそれである。後者の

例としては飲食店從業員で腸チフスに感染の恐

れあるもの、學校

教師で狸紅熱に感染

の機會ありしもの等である。

傳染病豫防活動劉

次の五項は不可鋏

る防疫封策

とせら

る。イ

,專門家に依る診断及び傳染病に關する相談

の便宜

ロ、疫學的調査

ハ、患家訪問指導

二、届出及び報告類受理、整頓、集計、分析に關する專門的事務

ホ、充分なる傳染病院病床敷及び設備

保健課に於て傳染病豫防部は獨立せる部である。部長は書師にし

て疫學の教育を受け、傳染病

の診断及び治療に経験ある入である

滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業

五〇五

Page 3: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

58

五〇六

滋賀11米國に於ける急性傳染病豫防事業

ことが普通である。保健婦は豫防事業に鋏くべからざ

る役目を果

してゐる。即ち讐師其他

の届出でたる傳染病患家を訪問し、指導

をなす。最初

の訪問

の時、必要に慮じて入口に貼紙

をなし、訪問

者に癖染病患者の存在を知らしめ、不測の傳染を防ぐ。

傳染病患

への訪問は、診断及疫

學的調査を除けば蓋く保健婦によつてな

されてゐる。

結核及び性病は性質上當部訴で取扱はれる筈であるが、

その事業は

彪大で、入員も多数を要

する爲、大都市保健課では夫々掲立の部

を有してゐる。

急性傳染病豫防に要する豫算は、保健課事業絡豫算中二割五分を

超過せぬを適當とせらる。

(二)

次に最も普通なる急性傳染病に就て衛生行政の立場より、その豫

防封策を紹介しよう。

腸チフス、パラチフス及、闘赤痢

既述の如く腸チフスの減少は米

國に於ける公衆衛生の偉業の

一である。

現在では腸チフスは「残

渣チフス」と稽せられ、保菌者に依る傳播か、海外より患者入國に

より畿見される程度である。腸

チフス、パラチフスの封策として

保健課に於ては次の様なことを行つてゐる。

診断の便宜の爲、

二般入拉びに開業署に封し検査物の無料検査を

なす。本病は屈出の義務があるが、その報告に基き傳染系統の探

索をなし、他方、保健婦は患家の訪問をなす。

保健課は患者を入

院治療せしむるに充分な設備を用意をしてゐる。

此種疾患

の豫防に最も重要なるは衛生状態

の改善

であり、繕封必

要條件

として、尿尿に依る汚染を防ぐ様努めてゐる。

之は圭

とし

て衛生工學、還境衛生の分野

の仕事に属するが、之を箇條書きに

してみると次の様になる。

}、尿尿の適當なる庭置

(下水庭分、腐敗槽、衛生的糞池等)

二、飲料水の清毒

イ、水源流域

の汚染防止

ロ、集水及び貯水の際の注意

ハ、濾過、盤素虎分の完壁

二、井戸、泉等の水源汚染防止

(製氷用の水も飲料水

ざ同様

の注意を要す)

三、牛乳及乳製品の低温滅菌

(華氏

一四三度三十分)

四、流行地に於ては野菜果實その他、生のま

食ふ食品を二千

倍盤化石灰にて充分洗醗すること

五、牡蠣そ

の他魚介の汚染を防ぐこざ

―久、プール、海水浴場、飲食店

の看覗}、検一査崩飲食店從血兼員の検

便を鋤行してゐる。

チフス流行地

の住民及び、斯る地方を族行する入には豫防接種を

渤めてゐる。現在米國ではチフス封策

としては保菌者封策が主要

Page 4: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

59

なる問題

となつてゐる。

それに就て少し述べて見よう。

保菌者が獲見された時は蓋く記録され、少くとも

一同は保健課

職員の訪問を受け

る。そして保菌者は飲食店從業員、食料品關係

の職業には就けぬ。

コツク其他飲食店從業員で轄業せざるを得

ぬ場合、保健課から若千の賠償金を交附してゐる庭があるが、之

は保健課ざ保菌者

言の接醐を保つ爲に良

い方法

とせらる。膿嚢保

菌者

の場合、外科的手術

をすれば菌排出が止

むこεが屡

ζあるの

で、保健課では手術を漿

めてゐる。或る庭では貧困なる保菌者が

手術を希望した際無料で之を受ける便宜を與

へてゐる。手術後

錐も引綾き監視をなし、

手術の三乃至五ヶ月後、

膿汁の培養検査

をなし、少くミも二度陰性であれば初めて開放される。

保菌者が五十歳以上の場

合は手術

の危瞼を虞り、

渤めないことに

なつてゐる。

扱、保菌者の嚢見には二

つの途

がある。即ち

(イ)チフス患者が登

生した時、疫學的調査を試みて傳染源

として保菌者を追跡し得た

場合、

(ロ)チフス患者恢復後退院時細菌検査

の場合。が之である。

飲食店の從業員の糞便検査を定期的に實行してゐる保健課がある

が、その襲見率は寧ろ少

く、その努力ミ経費に値せぬと考

へられ

てゐる。然し病院、族館、寄宿舎等

の賄方は必す検

べねばならぬ

とされてゐる。

細菌性赤痢に就ても同様

の取締り及び塵置が取

られてゐるが、症

歌が輕くて見逃され易く。從て保菌者もチフスの場合の様に比較

的完全には捉

へられぬ實情にある。嘗ては猛威を逞うした。赤痢

も衛生歌態の改善により著しく減少した。現在見られる赤痢菌型

は多くはソン、不株等の如きもので、症歌も輕症である。

衛生工學、環境衛生的封策はチフスの場合と共通

であり、之は清

化器傳染病全部法に亙つて同様である。

米國の大部分の地方で小見

の疫痢は影を

漕め、夏は

小見に取つ

て、最も健康な月の

年となつたざいはれてゐる。

米國公衆衛生の現在の駄態では、多くの地方に於て沿旧化器傳染病

封策は衛生工學、環境衛生を除けば衛生教育が主要な問題

霊なつ

てゐる。帥ち保健婦に依る家族

への教育、保健課からの

二般民衆

教育、飲食店從業員

の特別教育法等々が之である。

天然痘

米國に於ては宗教其他

の關法係により、何庭でも強制種痘

を施行し得るといふわけに行かぬ爲、天然痘は其の跡を絶たす、

種痘の鋤行されぬ地方に、時

ざして小流行

があるが、症歌は概し

て輕症なりといはれてゐる。

天然痘は何れの他方でも届出の義務があり、患者の隔離、接鰯者

の停留がなされてゐる。或る保健課では診断

の便宜の爲天然痘專

問讐を囑法托してゐる。

開業讐に依る種痘を受けぬものは保健課に於て種痘す。種痘時期

は満

一歳

の頃及び就墨前の二同で、接種方法で最も屡く用ひられ

滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業

五〇七

Page 5: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

60

滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業

五〇入

るのはMultiople puneture method

である。

その方法は上臆

皮膚を清毒蒸嚢後

一滴

の痘苗を滴し、滅菌せる針

にてその部分に

一糎

の長さに擦過を與

へ、更

に十数度出血せざる程度に皮膚を穿

刺す。蒸登後そのま

に放置す。

痘苗は州立血清

ワクチン製造所或は製造會肚にて製作販費せる精

製張力なるものを用ふ。或る保健課では痘苗を開業馨に無料にて

供給してゐる。

痘苗製造には普通檀に接種して得る法を用ひてゐるが、組織培養

による法もある。後者は純樺なれ,こも強力ならざ

る爲、

一般には

用ひられす。

麻疹

乳見及び幼弱なる幼見が麻疹に罹

る時は生命を脅かす様な

績嚢症を起し、死亡率を高める爲、公衆衛生上看過

すべからざる

問題ミされてゐる。

本病は届出を要し、隔離及び停留を要求

されてゐる。患見が隔離

されるのは

一には自己の二次感染を防ぎ、他方、家族内の幼若小

への感染を防ぐ爲であ

る。三年以下の乳幼見では患見

との接鰯

を極力警戒されてゐる。隔離は通常家庭内で行はれる℃

保健婦は隔離豫防の知識を當該家庭に與

へ、同時に附近

の家庭

感染豫防

の注意を與

へてゐる。

小學校に於て、患者嚢生

により麻疹未患見童に感染の恐れありし

場合、潜伏期間中、家庭内に停留せしめるが

銑患見痙は登校を許

してゐる。上記未患見童に就て感染の恐れありし機會後

一週間登

校を許し、その後家庭内に停留せしめるのが進んだ方法とされて

ゐる。

尚、學校に於ては毎朝登校時睨診を行ひ初期症歌を嚢見す

-れば直ちに露宅せしめる。

小見科病室、孤見院等に麻疹が起つた時は、乳幼見に感染せぬ様

極力努めてゐる。

麻疹の潜伏期は約十日であるが接種後第

一日乃至第四日に恢復期

血情を四乃至六琵轡部筋肉内に注射すれば被働性発疫を得、四ー

六週持綾す。此の方法は、三乃至十二ヶ月の乳見以外には渤めら

れぬといふ。更に完全なる方法は第五日乃至第八日に同様のもの

を與ふる法である。然る時は小見は輕く罹患し終生冤疫を受く、

第五日-第九日では数果は前者よりも減退し、それ以後

では数果

著しからす、獲病後與

へられたる血清は無数

なりといはる。かく

の如くにして不慮の接燭ありし場合、麻疹を豫防

せしむ。抜復期

血清は保健課にて貯藏して居る塵もあり、又容易に入手し得らる。

俣健課では必要に鷹じ分與もしてゐる。恢復期血清に代

るものと

して

胎盤

エキストラクト(ニー六耗)庶疹既患

の健康成入血清

(年

五-二〇)及び全血液(三〇1四〇琵)が用ひらる。特に胎盤エキス

トラクトを推賞する入あり。最近麻疹に封する発疫法として、健

康なる就學前の年齢期を選び、夏季

の候

(症状輕く、績登症少し

といふ)最盛期麻疹に接鯛せしめ、或は綿棒にて鼻粘膜より取材し

Page 6: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

61

たるものを以て罹患せしめ、その後五-六日目に候復期血清を注

射する法を推賞する入もある。

ヂフテリア

ヂフテリァの罹患及死亡數は近年著しく減少した。

米國大都市八十八市につき調査し、

年九二三年ヂ

フテリアに因る

死亡者は入口十萬には、一三・一三であつたが

一九三九年には、○・

八三に減じてゐる。之は豫防接種其他

の封策の徹底の他に、ヂ

テリアの症状自身が輕くなつたこざも看過出來ぬといはる。

保健課に於ける傳染病豫防事業として、種痘

とヂ

フテリァ豫防接

種は不可訣の業事さされ

てゐる。

ヂフテリアは届出を必要

言されてゐるが、保健課に於ては細菌検

査部に於て細菌診断

の便

宜を與

へてゐる。即ち凝風血清培養器を

無料にて、配布し之に培養せしむ。最も簡軍なる材料囁取方法は

滅菌試験管に播入せる有柄無菌綿球にて咽喉より材料を取る法で

ある。或

る都市に於ては市内各所例

へば保健課、病院の外

に藥種

商の店内等

に培養器を設備しこ

へ培養物を届けしめ、叉は保健

課に於て時間を定めて材料を集めて培養し検鏡し報告を與

へてゐ

る。

患者

の隔離、接觸者

への注意、保健婦の患家訪問指導等は大約前

述に同じ。保健課では傳

染病院にヂ

フテリァの病抹を用意してゐ

るが、少くざも人口十萬

につき二〇病休あるべきことを目標とし

てゐちが、この必要

は漸

次減少しつああり。

保健課では必要なる場合、無料にてトキソイド接種をなす。

一般

に抗毒素、冤疫元等は州立の血清ワクチン製造所

(現在州立のもの

はニユー

ヨーク、

マサチユセヅヅ、ミシガ

ンの三州

のみ)或

は血

清ワクチン製造會肚にて製造さる。

豫防接種の方法はトキソイドの三同注射

(○山五、

一・○竓、

一.○

竓、二ー三週の間隔)或はアラムトキソイドの二回注射

(第二同○.

一10・二竓、第二同○・四ー○・五竓、四週間の間隔)が推賞されて

ゐる。注射

の間隔は長

い方が

発疫数果大なり

ざせらる。乳見発疫

の最適年齢は八乃至トケ月とさる。之は六、七ヶ月までは先天性

発疫を有してゐるからである。

トキソイド或はアラムトキソイド使用の注意

として、當該地方に

フテリァ流行が縄えてゐるときは十乃至十二歳

の見童まで過敏

症の恐れなく使用出來るが、若しヂフテリァが存在すれば六歳位

までに限らる。又、

シツクテストに備陽性を呈

し弛ものには用ひ

い。併しトキソイドの百倍稀繹液○・一竓を皮内に

注射し反鷹

なければ使用し得といふ。

アラムトキソイドは結節を作り、時に

膿瘍を形成することは認めらる

が廣く用ひられてゐる。

十二歳以上のシツク陽性者には発疫元として毒素抗毒素混和標準

液の三同注射

(皮下、各同

一・○竓)を使用す。何

となればトキソ

イドにはヂフテリァ菌

の自家融解に因つて生じた蛋白質あり、之

が爲、反慮が強いことが屡

㌃ある。併し此の免疫元のシヅク陰轄

滋賀=来國に於けろ急性傳染病豫防事業

五〇九

Page 7: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

62

滋賀樋米國に於ける急姓傳染病豫防事業

二〇

率は七.五乃至八・○割であるから、発疫後三ヶ月で

シツクテスト

を試み、陽性者には同様

の操作を再び實施してゐる。

乳見及び未就學見童では

シツク陰性率が少いから発疫する前にシ

ヅクテストを試みる要はないが、此の年齢期以後は

シツクテスト

を試みた後に注射を試みてゐる。

免疫後、念の爲.、シックテストをなす、その理由は陰轄せぬもの

があるからである。然し多入藪同時に発疫する時、例

へば小學校

生徒に實施する場合等は接種後

のシックテストも略されてゐ

る。

何となればトキソイドニ回訴接種

の二ー三ヶ月後

にはシック陽性者

の九.五割が陰轄し、全龍

のうち

斯くの如く大多数のものが冤疫

され

ムばヂ

フテリァの流

行は起らないからであると考

へられてゐ

る。

嘗てはヂ

フテリァ発法疫は小學校生徒に實施

されたが、ヂフテリア

の罹患は十二歳以下に多

く、死亡者は六歳以下に多いので発疫は

就學前及び第

年、二年級

に集中される様

になつたのである。最近

では上述の加く乳見期の六乃至十二ヶ月に発疫を濟

ませ、出生謹

明書に晃疫終了の謹明をなす庭もある。

一地方の全小見の三・五乃至五・○割が右の方法で冤疫

され

あばヂ

フテリァ流行は其の地方に於て豫防し得る,こいはれてゐる。

狸紅熱

狸紅熱の罹患率

は以前と違ひないが、症状が

著しく輕く

なわつ

ありといふ。本病は届出を要するが輕微なるものでは届

出が悪い歌況である。

疑はしき患者は衛生技師或は囑托讐により診断さる。

必要に慮じ

てSchultz Charlton

反應を用ふるこ霊もある(狸紅熱抗毒素或は

恢復期血清○・一○

・五竓の紅疹部皮

内注射、龍色現象を六ー三

六時間に観察す)。

家庭内に乳幼見

のある時は患者を病院に隔離することを勧む。家

庭内に患者を置く時は入口に貼紙をなし來訪者に警戒を與ふ。看

護に當

る人は家人との接鯛を極力少くする。

隔離期間は小見では夏期三週間、冬期四週間、

十五歳以上には

年を通じて三週間で充分なりとせらる。

溶血性連鎖状球菌に因る化膿性病竈ある時は治癒する迄隔離する

接鰯者の停留期間は最後の接鯛…機會

の後

年週間

とせらる。毒素に

封する感受性はデ

ィツクテストで或程度観察し得る。即ちデイヅ

ク毒素○。一蝿の皮内注射後二四時間にて検査し陽性者は紅疹を

生じ、その宜脛少くとも

年○粍あることを要

すとせらる。此の反

癒は三六時間で清失するから二四時間頃検

べてゐる。狸紅熱毒素

による発疫嚢生は逞く.反鷹強く、且つこの発疫により中毒症歌

を輕減し得ても溶血性連球菌の感染を防禦し得

ないといふ。叉或

る學者は溶血牲連球菌の

一つの菌型より得た毒素を以て発疫すれ

ば、それに因る叢疹に封する発疫性を得

るも、他型による咽頭炎は

豫防出來すと説く。

Page 8: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

63

因に溶血性連球菌の嚢病機轉に二要因あり、

一は侵略性であり、

他は毒性なりとせられ、毒素を以てする発疫は後者のみに封する

発疫を得ると考

へられてゐ

る。

近年狸紅熱は症歌が輕くなつ弛こと及び傳染性が著しい繹でない

ので、発疫は

一般には行はれす。只庭により傳染病院の看護婦に

實施せるのを認めた。その注射量は第二週五〇〇S・T・D、第二

週二・五〇〇S・T・D、第

三週二・○○OS・T・D、第四週四〇山○

○OS・T・n、第五週八〇・○○OS・T・D

(間隔

年週間)である。

狸紅熱トキソイドに就ては、反慮は毒素より

いが、ディツク陰

韓牽が高からす、而も発疫持綾期間短く、―免疫元

として不満足な

りとの見解である。

被働発疫は

一般には行はれ

ないが、必要なる場合、帳復期血清の

注射が行はれることがある。帥ち

二歳乃至五止威の小見が狸紅熱患

者に接鯛した時、三乃至五竓

の恢復期血清を注射

する。この方法

は家庭内の年長小見が罹患

した場合、6その弟妹

に封する豫防法と

して適當なものとせらる。

傳染病院

で十二歳以上の

狸紅熱患者の退院前に

五百耗

の血液を

得、之を州或は市立細菌血清検査所に途り、適當なる庭置を施し

て保存し治療用或は必要に鷹じて小見

の被働免疫用に用ひてゐる

庭もある。

前記の血液量に封して提供者に五乃至十弗支彿

つてゐる。狸紅熱

愚者が家庭内に登生し、そこに臥床し居

る時、同家庭内

の十五以

下の小見、食料を取扱ふ職業の人、學校教帥及び患者との接燭密

なりしもの等は當該家庭以外に住むか、或は患者の居る間、停留

腿分を受けるのが常であるが、二

の支

へ主は例外

であり。患者

と接鯛

なければ普通の仕事に出勤出來ることになつてゐる。

本病に於て必要な事は、毎朝小學校で行はれる學童覗診で、之は

現在擔任教師、出來得べくんば

保健婦

(學校衛生婦として

學校に

派遣されてゐる)之をなし、疑はしき場合馨師の診断を受く。

保健課の狸紅熱封策として、診断擔當

の專門署を用意し疑はしき

場合診断をつけ、開業讐の相談にも慮す。狸紅熱患者入院の準備

として、普通入口十萬に封し三十の病床を用意す。

工業都市では

この倍敷に當る病床の用意が必要といはる。

倫、狸紅熱豫防の重要封策として牛乳及乳製品の滅菌

の完壁が要

求されてゐる。

百日咳

百日咳は乳見及び幼若幼見に於て死亡率高い爲、保健豫

防事業

で盈看過出來ぬ問題と考

へられてゐる。例

へば六歳より十

六歳までの年齢期では百日咳で死亡するものは殆

曹ないが、乳見

で百日咳にか}るものの

一割は死亡する。

年歳乃至二歳

では致死

率は約五分である。

百日咳は傳染率が甚だしく高いわけでないので、

爆發的には起ら

ないが、

一年中流行がある。然し此の病氣による死亡率は春に高

滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業

五一一

Page 9: (一) 米國に於ける急性傳染病豫防事業 叢 談journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/15/...5 6 滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業 五〇四

64

滋賀=米國に於ける急性傳染病豫防事業

一二

く、罹病及び死亡率の高いのは入口稠密なる場所である霊せらる。

百日咳の豫防には、大なる難難がある。

それは傳染の恐れ最も大

なる初期に、診断に便なる方法がないことである。

所謂「咳漱李板培養」は次第

に用ひられてゐる。その方法は、新鮮

なる血液寒天卒板を用意し、患者咳漱の際、口の直前に保ち、百

日咳菌を培養證明するのである。或る學者は次の様な成績を出し

てゐる.、嚢病第二週には謹

明率十割、第二及び第三週に於ても略

同様の成績を得るが、第四週に到り急

に陽性率を感じた四割四分

となり、第五週には咳漱猫持績するも陽性率僅かに二分

となると

いふ。以上の成績は此の方法の實際的償値を示唆す

ると同時に病

期による傳染の危瞼に差あることをも看取し得しむ。

百日咳の封策は他の小見傳染病に於けると違

つてゐる。傳染の危

瞼ある期聞は約四週の長きに亙るとせられ、かく長期間、患見を

健康見から完全に隔離するこミは殆

さ不可能

であり、他方、早期

診断が困難で百日咳

の診断確定する前に健康見が患見と接鯛する

こと屡

ヒである。從つて罹患を絶封に防ぐといふことは不可能で

あるから、保健課に於ける封策

の眼目は、本病罹患を出來得る限

り學齢頃まで延期しようといふ方針である。

多くの地方で本病は届出を要求されてゐる。届出

のあつた時、保

健課では保健婦に各事例を訪問指導せしめてゐる。

此の際、五歳

以下の小見特に二歳以下の乳幼見

は百日咳患者との接鯛を避くる

様特に注意をする。本病の傳染率が甚だしく高くはない爲、患者

が家庭内に在つてもこのことは可能であるといふ。患者は百日咳

の徴ある咳漱が始まつてより四週、或は初期症状開始後五週間登

校を禁止される。前記の咳噺培養成績

によれば此の停留期間は

丸一週間短縮し得るであらうといふ。

小學校に於て百日咳の初期症歌を呈する見童を登見

した場合、未

患見童をしらべ、學校衛生當局は之等を精細に観察し、若し加答

見性症歌を呈すれば登校を禁止し診断の確定を待つ。

保健婦は擔當匿域の傳染病の現勢に精通し、何庭に百日咳患者が

居るかを熟知し、その附近

の家庭

の乳幼見に罹らせね様に家入に

注意する。

豫防接種に就ては贅否相牛ばするも、所謂百日咳第

年期症状の患

者より新鮮に分離せる菌を以て作つたフクチンは豫防的数果あり

となす入多く、臨休讐家により屡

く用ひらる〉も保健課に於て豫

防活動に廣く使用されては居らぬ現状である。

附記

米國に於ける公衆衛生敏育、保健所活動等に就ては讐事公論及び

日本署事新報に登表するこどになつてゐる。興味た持れる

諸賢は御参

照下さらば幸甚である。