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2014年11月29日   白楽サークル@神奈川大学  小島 順 物質量,分率と濃度 1 物質量 1 1.1 物質量とは 化学を学ぶ上で大変重要な“物質量”の概念について,とくに算数や数学の立場から考察する。 物質量(英語で amount of substance, フランス語で quantité de matière, ドイツ語で Stoffmenge)とは何か? 物質量という日本語は,それほど的確には本質を表現できていない、と思う。それに対応する 英語は amount of substance である。 英語では material でなく substance が選ばれている。 substance は 日本語の “物質” の一般的な語感からはずれていて,「物質を構成する成分」とい うニュアンスで使われている。 それはまず,元素や化合物のような純物質であり、 一つの種類の substance の カタマリ (あるいは サンプル)について,原子,分子,イオン,電子 などの粒子 を要素とする離散集合と捉え,この 集合のサイズ に着目する。サイズとは集合の要素(ここでは 粒子)の個数、すなわち数学用語の “集合の濃度”(cardinality)のことである。このような状況 が物理量の概念の背後にある。 目の前にあるカップ一杯の水という存在,それは H 2 O という化合物である。正確には各種の微 量の成分(substances)を含む混合物質であるが,ここでは 純粋な H 2 O として扱う。 それはい くつかの物理量を定める。質量 m ,体積 V ,そして「これだけの個数の H 2 O の分子で構成され ている」という“物質量”が定まる。 物質量を変量(variable)として表す記号は n が推奨され ている 2 。我々は水の分子を識別できないから、分子を数えることができない。 n は(遠山啓の言 う)未測量であるが,客観的には既に確定している。 それとは別に水の分子数を示す変数を N とする 3 。その値は(整数ではなく)近似数すなわち実 数である。 m, V , n, N という4つの変量は互いに関連していて,その一つを定めれば残りが決ま る。 m = 180g であったとしよう。このとき 近似的に V = 180 mL = 0.18 L である(正確には気 圧や温度というパラメータに依存する)。 H 2 O の1個の分子 の質量を m f とする。 1 1 2014/09/20 東数協・月例研での “物質量について” の改定版です。後半10ページ以後の 「2 濃度と分 率」は,2014/12/13 の月例研レポートを(後から)流用・追加したものです。 2 SI(国際単位系)の基本文書である [1], [2] などで文字 n を推奨している。この論稿10ページの参考文献 のところを見て下さい。 3 n N の対比は “5個のリンゴ” と “5” のような感じである。

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  •              2014年11月29日   白楽サークル@神奈川大学                                        小島 順          物質量,分率と濃度 1 物質量11.1 物質量とは 化学を学ぶ上で大変重要な“物質量”の概念について,とくに算数や数学の立場から考察する。 物質量(英語で amount of substance, フランス語で quantité de matière, ドイツ語でStoffmenge)とは何か? 物質量という日本語は,それほど的確には本質を表現できていない、と思う。それに対応する英語は amount of substance である。 英語では material でなく substance が選ばれている。 substance は 日本語の “物質” の一般的な語感からはずれていて,「物質を構成する成分」というニュアンスで使われている。 それはまず,元素や化合物のような純物質であり、 一つの種類の substance の カタマリ (あるいは サンプル)について,原子,分子,イオン,電子 などの粒子を要素とする離散集合と捉え,この 集合のサイズ に着目する。サイズとは集合の要素(ここでは粒子)の個数、すなわち数学用語の “集合の濃度”(cardinality)のことである。このような状況が物理量の概念の背後にある。 目の前にあるカップ一杯の水という存在,それは H2O という化合物である。正確には各種の微

    量の成分(substances)を含む混合物質であるが,ここでは 純粋な H2O として扱う。 それはい

    くつかの物理量を定める。質量 m ,体積 V ,そして「これだけの個数の H2O の分子で構成され

    ている」という“物質量”が定まる。 物質量を変量(variable)として表す記号は n が推奨されている2。我々は水の分子を識別できないから、分子を数えることができない。 n は(遠山啓の言う)未測量であるが,客観的には既に確定している。 それとは別に水の分子数を示す変数を N とする3。その値は(整数ではなく)近似数すなわち実数である。m,V , n, N という4つの変量は互いに関連していて,その一つを定めれば残りが決ま

    る。m = 180gであったとしよう。このとき 近似的に V = 180mL = 0.18L である(正確には気

    圧や温度というパラメータに依存する)。

     水 H2O の1個の分子の質量を mf とする。

            1

    1 2014/09/20 東数協・月例研での “物質量について” の改定版です。後半10ページ以後の 「2 濃度と分率」は,2014/12/13 の月例研レポートを(後から)流用・追加したものです。

    2 SI(国際単位系)の基本文書である [1], [2] などで文字 n を推奨している。この論稿10ページの参考文献のところを見て下さい。3 n とN の対比は “5個のリンゴ” と “5” のような感じである。

  • mf = 2.9915 × 10−23 g である4。

    N = mmf= 180g2.9915 ×10−23g

    = 6.017 ×1024 , m = 6.017 ×1024 mf = 180g (1)

    である。分子個数 N に質量 m が比例するが,1個分の質量 mf はその比例定数として機能する。

    この状況での単位 g は g/1 として機能している。比例定数は比例の作用(線型作用)そのものと同一視され、矢線で表現される:

    質量 n = 180 g に対応する分子個数が N = 6.017 ×1024 であり,さらにそれに対応する 物質量 n

    が “ 6.017 × 1024個の水分子”である。 “水の分子が 6.017 × 10

    24個あること”という,述語をを

    含む“名詞節” が裏にある。 “ 6.017 × 1024個の水分子の集まり”と集合的に捉えることもでき

    る。

    1.2 これからの方針

    質量 m, 粒子個数 N, 物質量 n という3つの変量について,可換図式 1

         可換図式 1

            2

    4 あとの項目 7 で水の分子1個の質量を計算している。 組成単位(formula unit)の f を添えて mf と記

    す。しかし,f はいわゆる添数 (suffix)ではなく,mf で一つの記号である。対象である H2O の物質名を

    明示するためには mf (H2O)と書くことになる。 molecule の m を添えて mm と書くのが順当だが紛らわ

    しいのでそれを避けて mf とした。

  • を手がかりに考察をすすめる。3本の矢線は比例の作用であり,比例定数(比例係数とも)で表現されている。上側の水平な矢線である粒子質量 ma = m(a)については,a = H2Oの場合に限って

    ではあるが,すでに説明を開始している。残りの二つの矢線であるアボガドロ定数 NA とモル質

    量定数 M (a) はこれからの目標となる。

    1.3 粒子の質量, 単位 Da ,相対原子質量

    一般物質の構成成分となる,素材(substance)としての純物質の種類 B の粒子1個の質量 ma = ma (B)は B ごとに定まる定数(constant)である。炭素の同位体(isotope)の一つ

    12C の

    元素1個の質量 ma (12C) は

    ma (12C) = 1.99265 × 10−23 g

    であり,水素の同位体の一つ 1H の原子1個の質量は

    ma (1H) = 1.67353269 × 10−24 g

    である。 質量の単位として統一原子質量単位(unified atomic mass unit), あるいはドルトン

    (dalton)と呼ばれる単位を使う。それは m(12C) の1/12 の質量と定義されている。この単位の

    記号は u あるいは Da である5。

               1u = 1Da = 112 ma (12C) = 1.66053892 × 10−24 g (2)

    となる。 この質量の原子が実在するわけではなく,Da は仮想の原子質量である。 定義により ma (

    12C) = 12Daであり,さらに ma (1H) = 1.0078 Da ≒ 1Dである。

     12C の核は陽子(proton)6個,中性子(neutron)6個よりなり,外側に電子(electron)6個

    がある。1H の核は陽子1個であり,外側に電子1個がある。これらの質量は,陽子,中性子,電子の記号を p, n, e として

    mp = 1.672621777 × 10

    −24 g, mn = 1.674927351× 10−24 g,

    me = 9.10938291× 10−28 = 0.000910938 × 10−24 g

    である。 mp /me ≒ 1836 で陽子質量は電子質量の 1836倍である。

     12C の核子(nucleon)すなわち陽子と中性子の質量の和は

    6mp + 6mn = 2.008529 × 10−23 g

            3

    5John Dalton(1766年 - 1844年)による。 しかし,単位の呼び名 dalton は小文字で始まる。日本語表記はダルトンが多いようだが,本来の発音はドルトンやドールトンに近い。単位記号の Da は大文字で始まる。もう一つの記号 u は unified の u であり,unit の u ではない。

    http://ja.wikipedia.org/wiki/1766%E5%B9%B4http://ja.wikipedia.org/wiki/1766%E5%B9%B4http://ja.wikipedia.org/wiki/1844%E5%B9%B4http://ja.wikipedia.org/wiki/1844%E5%B9%B4

  • で,すでに(6個の電子の質量を加える前に)12C の質量を超えている。質量の加法性はもう破れ

    ている6。 原子の質量は近似的に核子の個数で定まる。上で見たように ma (

    1H) :ma (12C) ≒ 1:12 である。

    このとき,

        ma (12C) = 12.0107Da, ma (H) = 1.00794Da

    となる。 Da を単位としたときの原子質量の数値を相対原子質量(relative atomic mass) と呼ぶ。周期律表などでは原子量と書かれている。記号 Ar を使う。基本粒子( elementary entities, 原子や

    分子のこと)の種類を示す記号 B を括弧内に添えて Ar (B) と書く。定義により

    Ar (B) := ma (B) / Da, ma (B) = Ar (B)Da (3)

    である。上の4つの原子質量に対応して,相対原子質量(原子量)は

         Ar (

    12C) = 12, Ar (1H) = 1.007825032,

    Ar (C) = 12.0107, Ar (H) = 1.00794

    となる。 地球上では炭素の3種類の同位体 12C, 13C, 14C が一定の比率で存在する( 12Cは 98.93 %, 13C

    は 1.07 %,13Cは微量)。これらの原子質量の加重平均が m(C) であり,この質量を実現する炭

    素原子が存在するわけではない。同様に,水素については 1H の他にごく僅かの重水素 2H が自然

    状態で安定して存在しており( ma (2H) = 2.01410178Da ) ,この2種類の同位体の原子質量

    の平均が ma (H)である。質量 ma (H)を実現する水素原子が存在するわけではない。

     酸素 O については, Ar (

    16O) = 15.994914620, Ar (O) = 15.9994

    である。O は 16O が 97.76 %,他に安定同位体として 17O, 18O があり,それらも合わせた原子質

    量の加重平均として ma (O) = Ar (O)Da が存在する。

    1.4 物質量とその単位 mol,アボガドロ定数

    一つの純物質(元素や化合物)のカタマリ(サンプル)に対して,variable としての物質量 n ,

    粒子数 N , 質量 m , そして constant としての 粒子質量 ma , mf を考察してきた。 ma , mf は 原

    子や分子の種類 B によって ma (B)や mf (B) の形に定まる定数であった。すでに (1) で使ったよ

    うに,

    N = mma (B), m = N ma (B) (4)

            46エネルギーを統合する形に質量概念を拡大しなければならない 。

  • が基本的な等式である。(4)において m = 1g, ma = 1Da を代入すると

    N = 1g1Da

    = 1g1.66053892 × 10−24 g

    = 6.02214129 ×1023 (5)

    となる。分数の定義そのものから,等式連鎖 (4) に追加して

                  1gDa

    = 12g12Da

    = 12gma (

    12C)(5a)

    を入れることができるし,さらに一般の(純物質の)種類 B について

    Ar (B)gma (B)= Ar (B)gAr (B)Da

    = 1g1Da = 6.02214129 × 1023 (5b)

    を追加することもできる。(5), (5a), (5b) を合わせた拡張された (5) により,実数(近似数)

    α := 6.02214129 × 1023 ∈!

    は物質の種類 B によらない普遍定数である。

            α = 「12gの12C のサンプルに含まれる 12C の原子の数」

             =「質量 Ar (B)g の 物質 B のサンプルに含まれる B の基本粒子の数」 

    である。これを(一時的に)アボガドロ数(Avogadro number)と呼ぶ(これは 279 = 6.045 ×1023と同じオーダーの数である。) そして,個数N =α に対応する 物質量 n, すな

    わち “α個の B の基本粒子の集まり” あるいは “α個の B の基本粒子がそこにあること” を物質量の単位に選び,mole ( 音声記号は məʊl/moʊl ) と名付ける.これは 分子(molecule, Moleküle ) からきている。記号は mol である。

    一つの種類の物質について,粒子数 N は物質量 n に比例する.量分数 Nn は比例定数であり,

    この比例定数を NA と記し,Avogadro constant (アボガドロ定数)と呼ぶ。

    NA =Nn =

    α1mol = 6.02214129 ×10

    23mol−1 (6)

    「物質量 1mol 当りの 粒子数は 6.022 ×1023 である」という正比例の表現が アボガドロ定数 NAであり,作用素としての NA の 1mol に対する値

              NA ⋅mol = α = 6.022 ×1023 (7)

    が「1mol当りの粒子数」である。アボガドロ数 αは(比例係数であり,比例作用素であるとこ

    ろの)アボガドロ定数 が 1 mol に作用した結果の値である: NA ⋅mol =α = 6.022 ×1023

    (5) により (NA ⋅mol)Da = 1g (8)

    であり,統一原子質量単位(ドルトン)Da とアボガドロ数 NA ⋅mol の積が 1g である。

    (8) が Da と NAを結びつける。

    1.5 モル質量 M =M (B)

            5

  • 可換図式 2

     可換図式 1 で n = 1mol とおいた図式を 可換図式 2 とする。二つの矢線 NA とma (B)の合成は

    (5b) により, NA ma (B) = Ar (B) g /mol (9)

    となる。 この式を 物質量の単位 mol に適用すると (NA ⋅mol)ma (B) = Ar (B)g (9a)

    である。 可換図式 1 に戻る。下から左上に向かう矢線 アボガドロ定数 NA は既に説明した。下から右上

    に向かう矢線は物質量 n から質量 m への比例作用素(比例係数)であり,それには “モル質量M (a) ” として,名前と記号がすでに与えられている。量分数の形で

    M (B) = mn(B)

    =Ar (B) g1mol

    = Ar (B) g/mol (10)

    となる。  モル質量(molar mass, masse molaire )という呼び方が定着している。 アボガドロ定数が物質の種類に独立な普遍定数であるのと対照的に,モル質量 M (B) は物質の種類 B ごとに決ま

    る定数(比例係数)である。 M (B)は「1mol当りの質量が Ar (B)g である(こと)」という,述語を含む文(あるいは名詞

    節)に相当する比例作用素である。1mol に対するその値 であるところの M (B) ⋅mol = Ar (B)g

    は「1mol当りの質量」で,それを単位 g で測った数値が原子量(相対原子質量)の Ar (B)であ

    る。例をあげると

    M (12C) = Ar (12C)g/mol = 12g/mol, M (C) = Ar (C)g/mol = 12.0107g/mol,

    M (1H) = 1.007825g/mol, M (H) = 1.00794g/mol,M (16O) = 15.9949146g/mol, M (O) = 15.9994g/mol,M (Na) = M (23Na) = 22.989769g/mol, M (Cl) = 35.453g/mol

            6

  • 単位 g/mol に掛かる数値はすべて原子量(相対原子質量)である。炭素の同位体 12Cの場合の可換図式 3 が下にある。

     粒子の個数を明示的に示すことなく物質量は定義できる。物質 a のサンプルが「12 g の 12C

    の集まりにおける12C原子の個数」と同じ個数の a の粒子(原子,分子,イオンなど)からなるとき,この a のサンプルの物質量は 1mol である、と定める。この個数は実験結果によれば 6.022141…という 近似数 = 実数 であるが,それを知らなくても mol は定義できる。SI の文書での定義は以下のようである。

       可換図式 3

    The International System of Units (SI)  8th edition! 2006における amount of substance の定義 [2]

    1. The mole is the amount of substance of a system which contains as many elementary entities as there are atoms in 0.012 kilogram of carbon 12; its symbol is “mol”.2. When the mole is used, the elementary entities must be specified and may be atoms,

    molecules, ions, electrons, other particles, or specified groups of such particles.

    その日本語訳 [1]

    1. モルは,0.012キログラムの炭素12の中に存在する原子の数に等しい数の要素粒子を含む系の物質量であり,単位の記号は mol である.2. モルを用いるとき,要素粒子 ( 訳注 : elementary entities ) が指定さ れなければならないが,それは原子,分子,イオン,電子,その他 の粒子又はこの種の粒子の特定の集合体であってよい.

    1.6 質量 mから粒子の個数 N へ

            7

  •  物質量 n = 1mol に質量 m = Ar (B) g が対応し,粒子数 N = NA ⋅molが対応する。mに N を対

    応させる比例作用素は ma (B)−1 = NA ⋅mol

    Ar (B)g であり,

    N = m ÷ma (B) = m ×ma (B)−1 = m × NA ⋅mol

    Ar (B)g= NA ⋅mol ×

    mAr (B)g

    (11)

    実は (4) によれば

    N = mma (B)

    = mAr (B) Da

    (4a)

    となる。Da とNAを結びつける (8) により,(11) と (4a) は両立する。

    炭素 C の場合,m = 100 g として,原子数N を,これまでのデータを使い, (11) と (4a) の双方

    でで計算すると,ともに N = 5.01398 × 1024 となる。100g の炭素は 5.01×1024 個の炭素原子よ

    りなる。実際,

    6.02214 ×1023 × 100g12.0107g

    = 5.01398, 100g12.0107 ×1.66054 ×1024 g

    = 5.01398

    である。m1.7 水 H2Oに戻り補足を

    Ar (H2O) = 18.01528, M (H2O) = Ar (H2O)g/mol = 18.01528g/mol (12)

    というデータがある。念のために構成式 H2O から計算すると

     M (H2O) = 2M (H)+M (O) = 2 ×1.00794g/mol+15.9994g/mol = 18.0153g/mol

    となる。m = 180gに対しては, (11) により

    N = 6.022141×1023 × 180g18.01528g

    = 6.01703×1024

    となり,(1) の結果と一致する(アボガドロ数のほぼ 10倍)。

    (1) の直前に mf = 2.9915 × 10−23 g と書いた。これは (3) と (12), (2) を使って

    mf (H2O) = Ar (H2O)Da = 18.01528 × 1.66053892 × 10−24 g = 2.9915 ×10−23 g

    と求められるが,別に (2) と (9) をもとに mH2O = Ar (H2O)g /(NA ⋅mol) = 18.01528g /6.02214 ×10

    23 = 2.9915 ×10−23 g

    でも求められる。背後には NA ⋅molと Da が 1g に関してペアになるという式 (8) がある。

    1.8 歴史

            8

  • 国際的組織として IUPAP(International Union of Pure and Applied Physics),IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)があり,それぞれの中で、また相互間で,量の定義,単位,記号法などについて、協議している。その提案にもとづき,SI(国際単位系,Le Système International d'Unités)の変更が CIPM(Comité International des Poids et Mesures,国際度量衡委員会)の討議を経て,CGPM (Conférence générale des poids et mesures, 国際度量衡総会)で決議される。物質量の単位 mole (記号は mol)は,物理学者は

    16 g の 16Oを使い,化学者は3種の安定同位体の平均としての O の16 g を使っていた。最終的

    1971 年の CGPM において, 上に引用した「 12 g の 12C の個数」と同一個数による mol が採

    択された。このとき,mol が 7番目の基本単位として認知された7。 統一原子質量 u = Da は SI においては, 2006年にはじめて CGPM によって認知された。ア

    ボガドロ定数が単位 1 (無次元ともいう)ではなくて 単位 mol−1 をもつという決定もCGPM が行っている。 私のこの論稿は現行の SI に沿っているつもり,である。

    1.9 メタンの燃焼

    50L のメタンを燃焼させたときに発生する 二酸化炭素と水の質量を計算する。

    CH4 + 2O2 → 2H2O + CO2M (CH4 ) = 16.042 g/mol

    M (H2O) = 18.0153g/mol

    M (CO2 ) = 44.01g/mol

    M (O2 ) = 15.9994 g/mol× 2 = 31.999 g/mol

    気体体積 V (CH4 ) = 50 L

    密度 0.717 kg/m3

    メタン 質量 50L × 0.717 kg/m3 = 50 L × 0.717 ×1000 g1000 L

    = 35.85 g

    メタン 物質量 35.85g ÷16.042 g/mol = 2.2348 mol = 二酸化炭素 物質量

    酸素質量 2.2348 mol× 2 × 31.999 g/mol=143.004 g

    水 物質量 2 × 2.2348 mol = 4.4695 mol

    水 質量 4.4695 mol ×18.0153 g/mol = 80.52 g

            9

    7 七つの量と基本単位とは  長さ:メートル,質量:キログラム,時間:秒,電流:アンペア,温度:ケルビン,物質量:モル,光度:カンデラ

  • 二酸化炭素 質量 2.2348 mol× 44.01g/mol=98.35 g

                         2014年12月13日 東数協月例研・中高部会

    混合物の分率と濃度について

    これは2014年9月20日の月例研で報告した「“物質量”について」の続きです。

    参考文献[1] Le Système international d’unités / The International System of Units SI,8e édition 2006,Bureau international des poids et mesuresLe Système international d'unités/The International System of Units

    [2] 国際文書第 8 版 (2006),国際単位系(SI) 日本語版  訳・監修 (独)産業技術総合研究所 計量標準総合センターhttps://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8J.pdf

    [1] は一つの pdf ファイルで,その前半がフランス語の公式文書,後半がその英語訳という構成になっている。[2] は日本語訳。

    [3] Quantities, Units and Symbols in Physical Chemistry, Third Edition, IUPAC 2007 ( RSC Publishing ) (Green Book) http://media.iupac.org/publications/books/gbook/IUPAC-GB3-2ndPrinting-Online-22apr2011.pdf

    {4} Symbols, Units, Nomenclature and Fundamental Constants in Physics, 1987 Revision (2010 Reprint), International Union of Pure and Applied Physics (IUPAP) , Commission C2 - SUNAMCO http://iupap.org/wp-content/uploads/2014/05/A4.pdf

    {5] IUPAC Gold Book ({3] の第2版の用語を編集した辞書の on-line 版。 [3] は Green Book と呼ばれている。) http://goldbook.iupac.org/src_G.B..html

    2 濃度と分率2.1 質量分率と物質量分率海水を乾燥させた固体の塩分の混合物

            10

    http://www.google.co.jp/url?q=http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8.pdf&sa=U&ei=vpEyVNqqCdbh8AXQmIGACg&ved=0CBQQFjAA&sig2=9eETRd7Ioj2-35plr6uzAg&usg=AFQjCNH2w_I8FQEdkTOzcfQpNWoaQtmz3Ahttp://www.google.co.jp/url?q=http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8.pdf&sa=U&ei=vpEyVNqqCdbh8AXQmIGACg&ved=0CBQQFjAA&sig2=9eETRd7Ioj2-35plr6uzAg&usg=AFQjCNH2w_I8FQEdkTOzcfQpNWoaQtmz3Ahttps://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8J.pdfhttps://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8J.pdfhttp://media.iupac.org/publications/books/gbook/IUPAC-GB3-2ndPrinting-Online-22apr2011.pdfhttp://media.iupac.org/publications/books/gbook/IUPAC-GB3-2ndPrinting-Online-22apr2011.pdfhttp://media.iupac.org/publications/books/gbook/IUPAC-GB3-2ndPrinting-Online-22apr2011.pdfhttp://media.iupac.org/publications/books/gbook/IUPAC-GB3-2ndPrinting-Online-22apr2011.pdfhttp://iupap.org/wp-content/uploads/2014/05/A4.pdfhttp://iupap.org/wp-content/uploads/2014/05/A4.pdfhttp://goldbook.iupac.org/src_G.B..htmlhttp://goldbook.iupac.org/src_G.B..html

  • 表1  海水の固形物 質量と質量分率表1  海水の固形物 質量と質量分率表1  海水の固形物 質量と質量分率表1  海水の固形物 質量と質量分率

    番号 質量/g

    m / g質量分率/%w /%

    1 塩化ナトリウム NaCl 54.7 78.14

    2 塩化マグネシウム MgCl2 6.7 9.57

    3 硫酸マグネシウム MgSO4

    4.3 6.14

    4 硫酸カルシウム CaSO4 2.8 4.00

    5 塩化カリウム KCl 1.5 2.14

    混合物 70 99.99

    5種類の純物質を成分(constituent, entity, material, substance)とする混合物を考察する。ここで言う純物質は今の場合は化合物である。 物質の質量を表す変数を m とする。それがたとえば成分 NaCl の質量を指すときは, NaCl を下付き添数(suffix)として mNaCl と書く。H2O に対しては mH2O と書く。括弧を使う

    m(NaCl), m(H2O)という記法も許されている。H2O のようにそれ自身に下付きの数字を含むとい

    う複雑な場合にはとくに,mH2Oよりは m{H2O)のほうが書きやすく読みやすい。括弧に入れる記

    法は許されるというよりはその方が望ましい,あるいはそうすべきとも言える。 上の実例の表のように,各成分に番号が与えられている場合は番号を添数として使う。 番号 iの成分の質量が mi である。m1 = m(NaCl), m2 = m(MgCl2 ) のようになる。

    質量分率(mass fraction)を wi :=mim で定義する。ここで m := mii

    ∑ としている。

    である。表1では m1 = 54.7g, m = 70g, w1 = 78.14%, w = 100%などとなっている。

    物質量についても同様で

            11

  • となる。物質量分率(amount fraction)はモル分率と(mole fraction あるいは molar fraction)呼ばれることが多い。“モル分率”は量(amount of substance)とその単位(mole)と混同に基づく不幸な術語であるが,しっかりと定着している。物質量は英語で amount of substance であるが,“of substance” 考察対象の物質名に置き換えられる。たとえば,“amount of oxygen atoms” とか“amount of dioxygen O2 ” のように。その流れで,たとえば,“amount

    fraction of O2 ” のように, “of substance” の部分は物質名 O2 に置き換えられている。

    表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する表2 水溶液中のイオンに変換する

    質量分率/% Na+ Mg2+ Ca2+ K+ Cl− SO42− 計

    NaCl 30.738 47.402 78.14

    MgCl2 2.443 7.127 9.57

    MgSO4 1.2398 4.89996 6.13976

    CaSO4 1.1776 2.8224 4.0

    KCl 1.1223 1.0177 2.14

    計 30.738 3.6828 1.1776 1.1223 55.5467 7.72236 99.99

    塩分3.5%の海水 w /%

    1.0757 0.1289 0.0412 0.0393 1.9441 0.2703 3.4995

    NaCl からの Na+ の質量分率については

    w(Na+) = w(NaCl)× M (Na

    +)M (NaCl)

    = 78.14%× 22.99g/mol58.44g/mol

    = 30.74 %

    MgCl2 からの Cl− の質量分率については

       w(Cl− ) = w(MgCl2 ) ×2M (Cl− )M (MgCl2 )

    = 9.57% × 35.453g/moll × 295.211g/mol

    = 7.127%

     最終行では考察対象が変わっている。全塩分の質量分率が 3.5% で水 H2O の質量分率が

    96.5%という水溶液(海水)に変わっている。そこでのイオン Na+の質量分率は

    w1 = 30.74% × 3.5% = 1.076%, w1 /% = 1.076

    である。最終行では H2O についての質量分率

    w7 = 96.5%, w7 /% = 96.5

            12

  • が追加されるべきで,

    wjj=1

    7

    ∑ = 100% , wjj=1

    6

    ∑ = 3.5%

    が成立している。

    物質量分率と質量分率の関連については

    物質量分率 xi がわかっているときの質量分率 wi ,逆に 質量分率 wi がわかっているときの 物質

    量分率 xi は次の二式で求められる。

              

    次の例 経口補水液(脱水症状の対策用)

           

    表3 水 1L に溶かす成分  表3 水 1L に溶かす成分  表3 水 1L に溶かす成分 

    質量/g

    塩化ナトリウム NaCl 2.6

    塩化カリウム KCl 1.5

    クエン酸三ナトリウム二水和物

    C6H5O7Na3 ⋅2H2O 2.9

    グルコース C6H12O6 13.5

    和 20.5

            13

  • 表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)表4  イオン等の物質量への変換(計算用)

    モル質量/(g/mol)

    質量/g

    物質量/mmol

    Na+ K+ Cl− C6 H5 O73− C6H12O6 H2O

    NaCl 58.44 2.6 44.49 44.49 44.49

    KCl 74.55 1.5 20.12 20.12 20.12

    C6H5O7Na3⋅2H2O

    294.10 2.9 9.8606 29.58 9.861 19.72

    C6H12O6 180.17 13.5 10.065 74.93

    Na+ 22.99

    K+ 39.098

    Cl− 35.453

    C6 H5 O73− 189.09

    H2O 18.015

    合計の物質量/mmol

    74.07 20.12 64.61 9.861 74.93 19.72

    NaCl のモル質量は n(NaCl) = m(NaCl) ÷ M (NaCl) = 2.6g ÷ 58.44g/mol = 0.0449mol = 44.9mmol

    表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)表5 物質量分率と質量分率(まとめの表)

    物質量n /mmol

    物質量分率x / %

    モル質量M /

    (g/mol)

    xM /(g/mol)

    質量分率w / %

    質量m /g

    Na+ 74.073 30.41 22.99 6.991 8.4539 1.703

    K+ 20.12 8.260 39.098 3.2295 3.9053 0.7867

    Cl− 64.61 26.524 35.453 9.404 11.372 2.291

    C6 H5 O7− 9.861 4.048 189.09 7.6544 9.2561 1.8646

    C6H12O6 74.93 30.760 180.16 55.417 67.013 13.499

    total 243.594 100.00 82.696 6.991 100.00 20.145

            14

  •  もとの 20.5 グラムから20.145 グラムに減っているのは,クエン酸ナトリウム水和物の水を計算から外したためである。 19.722 mol × 18.015 g/mol = 0.3553 g, 0.3553 g + 20.145 g = 20.5 g

    表4の第1行のナトリウムイオンの部分について,計算と可換ダイアグラムがどう対応しているかを見る。物質名 NaCl の指示のために添数としての 1 を使っている。第1行の他に全体(total)に当たる第6行のデータをすべて使っている。

    2.2 濃度について

    濃度(concentration)という言葉は分母が体積の場合だけに使う。ここでは質量濃度と物質量濃度をまず扱う。溶質(solute), 溶媒(solvent), 溶液(solution)のような視点(枠組み)も必要となる。しかし,まず 2.1 の分率とのつながりから入っていくことにする。 (分子も体積の場合は難しい。これは全く別の課題。熱力学)

    表1の塩分混合物 70g の1/2 である35gに水 を加えて,水溶液を作り、その際,体積が

    1L = 1000mLとなるようにする。これは海水の一つのモデルである(下の表6では“海水塩分の質

    量濃度”と書いている)。表6の最終行 は質量濃度(mass concentration)ρを単位 g /100mL で割った数値部分である

    ρ / (g/100mL)を記している。イオン Na+を第1成分としている。

    ρ1 / (g/100mL) = 1.076, ρ1 = 1.076g/100mL,ρ / (g/100mL) = 3.5, ρ = 3.5g/100mL,

    j=1

    6

    ∑ρ j = 3.5g/100mL = ρ

    が成り立っている。        15

  • 表6   海水塩分の質量濃度

    イオン種類

    表6   海水塩分の質量濃度表6   海水塩分の質量濃度表6   海水塩分の質量濃度表6   海水塩分の質量濃度表6   海水塩分の質量濃度表6   海水塩分の質量濃度表6   海水塩分の質量濃度

    Na+ Mg2+ Ca2+ K+ Cl− SO42− 計

    質量分率 w /%

    質量 m / g

    質量濃度 ρ / (g/L)

    質量濃度ρ / (g/100mL)

    30.76 3.6828 1.1776 1.1223 55.5467 7.7224 100

    10.759 1.2890 0.41216 0.3928 19.4413 2.7028 35

    10.759 1.2890 0.41216 0.3928 19.4413 2.7028 35

    1.076 0.129 0.0412 0.0393 1.944 0.270 3.5

    基本となる可換図式

    ni 物質量(amount of substance), 単位 mole 記号は mol

    n 混合物の物質量xi 物質量分率(amount fraction, mole fraction)

    mi質量(mass)

    m混合物の質量

    wi 質量分率(mass fraction)

    V 混合物の体積ρi構成成分の質量濃度(mass concentration)

    ρ 混合物の質量濃度,この場合はむしろ質量密度(mass density)である。

            16

  • ci 構成成分の物質量濃度(amount concentration, substance concentration, molar

                 concentration)c 混合物の物質量濃度(物質量密度,molar density)Mi 構成成分のモル質量(molar mass)

    M 混合物のモル質量(混合物全体については密度,構成成分については濃度と一応分けて書いたが,密度と濃度は今の文脈では同義語である)

    基本的な式

    注意: 表2の最終行と表6の最終行は数値が一致している。表2の最終行は,塩分の質量分率が 3.5% (水が 96.5%)の海水(のモデル)における

    各イオンの質量分率であった。たとえばナトリウム・イオンについて w1 = 1.076% = 1.076 ×10

    −2

    表6の最終行は塩分濃度が3.5g/100mL の海水における各イオンの濃度であった。ナトリウム・イ

    オンについては ρ1 = 1.076g/100mL

    他のイオン成分についても状況は同じで数値は一致している。これは質量分率と質量濃度が(単位 % とg/100mL の使用で)数値的に一致することを意味するのでは全然ない。表2と表6が考察

    している対象の海水は別物である。

    2.3 食塩水の濃度例題:食塩(ここでは塩化ナトリウム NaCl を食塩と呼ぶ)11.6gを100gの水に溶かす。

    その質量分率は

    w1 =11.6g

    11.6g +100g= 0.104g/g = 10.4%

    である。塩化ナトリウム(固体)の密度は 2.18g/mL である(この密度は 濃度の ρ1 と区別して

    別の記号を与えるべきであった。γ 1とするか,あるいはそれらを交換して使うか)。したがっ

    て,成分(食塩と水)の体積の和は 11.6g ÷ 2.18g/mL +100mL = 105.3mL

    となる。しかし水溶液(食塩水)の体積は成分の体積の和ではない。実際の体積はさらに小さい。それは実際の測定によって知ることができる。 ここでは取りあえず

            17

  • V = 104.3mL (1)

    であったとしよう8。それを用いると食塩濃度は

    ρ1 =m1V

    = 11.6g104.3mL

    = 11.1g100mL

    = 11.12g/100mL

    である。 食塩濃度 ρ1は食塩密度と呼んでもよい。 なお,この食塩水の密度は

      ρ = mV

    = 111.6g104.3mL

    = 1.070g/mL=107.0g/100mL

    である。(実際は 食塩の質量分率 10.4 % の食塩水の密度をインターネット上のどこかのサイトの表から 107.0 g/100mL と読み取り,それから 111.6 g ÷ 107.0 g/100mL = 104.3 mL と計算した。それが(1)であり,体積を測定したのではなかった。)

     これまでの計算結果を表7にまとめる。質量濃度も密度の一つだが,分母が溶液全体の体積であるときに濃度という用語を使う。質量濃度を,たとえば 11.12 g/(100mL) でなく 11.12 % のように,% で書くことが教育界で一般化しているが(理科を含めて),これは明白な,原理的な誤りである。 「質量分率 10.4 %」と書くことには問題はないが,単に「食塩 10.4 %」と書くのは時として危険で,「食塩 10.4 g/(100 g)」の方がはっきりする。

    表7 食塩水の質量分率と質量濃度表7 食塩水の質量分率と質量濃度表7 食塩水の質量分率と質量濃度表7 食塩水の質量分率と質量濃度表7 食塩水の質量分率と質量濃度表7 食塩水の質量分率と質量濃度

    質量/g 密度/(g/mL)γ / (g/mL)

    体積/mL 質量分率/% 質量濃度/(g/100mL)ρ / (g/100mL)

    NaCl

    H2O

    溶液

    1,2 行の和

    11.6 2.18 5.32 10.4 11.12

    100 1.00 100 89.6 95.88

    111.6 1.07 104.3 100 107.00

    111.6 105.32 100 107.00

      質量分率 w1 = m1 /m は下可換図式では 質量 m, m1 という二つの点 (外延量)が定める矢線

    であるが,それは 濃度 ρ, ρ1という二つの矢線(内包量)が定める矢線でもある:w1 = ρ1 / ρ

            18

    8 固体の NaCl はもともと分子ではなくイオン Na+とCl− が規則的に並ぶ結晶体である。水溶液中ではイ

    オンNa+ とCl− に分離している。それぞれが H2O 分子を電気的に引き寄せるので,体積の加法性は壊れている。

  •         

    2.4 超過体積「混合物の実際の体積」と「成分の純物質の体積の和」との差を超過体積という(excess volume)。

                  VE =V (total)− ∑V (component)

    超過モル体積は

    VmE =Vm −VM, j =

    Vn

    −Vjnj

    で定義される。モル体積 (molar volume)はモル濃度(amount concentration)c の逆作用素

    である: Vm = c−1 = V

    n

     超過が正の場合の例 「ジプロピルエーテルとヘプタン」 と負の場合の例 「エタノールと水」をグラフで示す。Wikipedia の Exzessvolumen(ドイツ語版),    

            19

  •   横軸にジプロピルエーテルのモル分率をとり、縦軸に超過モル体積 VmE をとっている。モル

    分率 が x = 0.5のとき,VmE  は混合物 1モル当り 0.26cm3 である。

    エタノール水溶液では,エタノールのモル分率が x = 0.4 のとき,超過モル体積 VmE は「1モル当

    り,−1.17cm3」である。これだけ体積和から減る。これらの計算は 物質量から質量に変換でき

    る。

    表8

    成分

    表8表8表8表8表8

    物質量分率/%x /%

    モル質量/(g/mol)M / (g/mol)

    質量分率/%w /%

    密度/(g/mL)ρ /%

    モル体積/(mL/mol)Vm / (mL/mol)

    エタノールC2H5OH

    水H2O

    溶液

    1,2行の和

    40 46.07 63.030 0.789 58.39

    60 18.015 36.97 1 18.015

    100 29.237 100 32.00 (超過 −1.17 を加える)

    100 20.237(物質量分率による加重平均)

    100 34.165(物質量分率による加重平均)

            20

  • 2.5 体積分率と体積濃度

    2.5.1 理想気体体積 V , 圧力 P, 温度(絶対温度)T , 物質量 n として,理想気体の状態方程式

    V = nRTP, R = 0.0821 atm L mol-1 K-1

    から出発する。標準大気圧 1atm = 1013.25 hPa だから

    R = 83.2 hPa L mol-1 K-1 = 8.32 × 105 Pa mol-1 K-1

    複数個の成分よりなる混合物について,上記の変数に成分番号 i を付けて Vi , Pi ,Ti , ni のように記

    す。 ここで,Pi は V と T を固定した上での,物質量 ni の成分だけが体積 V を占めるときの圧力

    (分圧,partial pressure)である。Viは P とT を固定した上での,物質量 ni の成分だけで占め

    る(混合前の)体積である。

    Pi =niRTV

    , P = nRTV

    より,

    PiP =nin (1)

    である。これからさらに

    Pii∑ = niPni∑ = ( nii∑ )

    Pn = P (2)

    となり,各成分の分圧の和が混合物そのものの圧力(全圧力)P に一致する(ドルトンの法則,

    Dalton’s law)。したがって,Pip は圧力分率と呼ぶことができて,(1)は圧力分率と物質量分

    率(amount fraction)が一致することを示す。 同様に,混合前の体積を Vi として

    Vi =niRTP

    , V = nRTP

    より

    ViV =nIn

    である。これより,

    Vii∑ = niVn = ( nii∑ )

    Vni

    ∑ = V

            21

  • となり,混合前の各成分の体積の和は混合物の体積に一致する。したがって,成分の体積濃度で

    ある ViV は(この理想気体の場合に限ってだが)同時に体積分率でもある。(体積分率で基準に

    とるのは,混合物の体積ではなくて,各成分の体積の和であった)。一つ前に戻って,体積分率は物質量分率に一致する。  T = 20°C = 293K, P = 1atm = 1013.25 hPa

    のとき,

    Vn =RTP =

    0.0821 atm L mol-1 K-1 293K1atm = 24.6 L mol

    -1

    である。理想気体では 「1 mol 当りの体積は 24.6 L」である。

     2.5.2 大気の組成空気を完全に乾燥させた場合の各成分の体積分率の表から出発する。大気は理想気体として扱うことが許されている。上記によりそれは物質量分率に等しく,分圧分率にも等しい。海水面(海抜 0メートル)での分圧を hPa と atm という二つの単位で記載した。

    成分 体積分率(物質量分率,分圧分率)/% 分圧/hPa 分圧/atm

    空気 100.00 1013.25 1.00000

    窒素 N2 78.09 791.25 0.78090

    酸素 O2 20.95 212.28 0.20950

    アルゴンAr 0.927 9.39 0.00927

    二酸化炭素CO2

    0.039 0.40 0.00039

    質量分率を計算しよう。密度は 0°C, 1atm における値である

    成分番号 成分 体積分率/%φi /%

    密度/(g/L) γ i /(g/L)

    質量分率/%wi /%

    空気 100.00 1.293 100.02

    1 窒素 N2 78.09 1.251 75.55

    2 酸素 O2 20.95 1.429 23.15

    3 アルゴンAr 0.927 1.784 1.279

    4 二酸化炭素CO2 0.039 1.977 0.0459

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