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技 術 ノ ー ト (No.36特集:東京の斜面と災害 平成 16 年 2 月 社団法人 東京都地質調査業協会 〒 101 - 0047 東京都千代田区内神田 2 - 6 - 8 TEL (03)3252 - 2963 FAX (03)3252 - 2971 ホームページアドレス http://www.tokyo-geo.or.jp/

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技 術 ノ ー ト

(No.36)特集:東京の斜面と災害

平成 16年 2月

社団法人 東京都地質調査業協会〒 101-0047 東京都千代田区内神田 2-6-8TEL (03)3252-2963 FAX (03)3252-2971

ホームページアドレス http://www.tokyo-geo.or.jp/

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目   次

発刊にあたって

1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

  1-1 斜面災害の種類と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

2.斜面災害危険箇所の分布と地形地質との関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

  2-1 斜面災害危険箇所の分布と地形の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

  2-2 斜面災害と地質の関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

3.斜面の調査方法と対策工 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

  3-1 調査方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

  3-2 対策工法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

4.対策事業の紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

  4-1 土砂災害対策事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

   (1)地すべり対策の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

   (2)急傾斜地対策の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

   (3)土石流対策の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

  4-2 治山対策事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

   (1)山地災害対策の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

   (2)落石防止対策の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25

  4-3 道路斜面対策事業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

   (1)道路における斜面管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

   (2)道路災害防除の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

   (3)道路災害復旧の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28

5.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

  5-1 ソフト面の斜面対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

  5-2 斜面災害の事前予知・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

  5-3 斜面災害に対する心構え ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

技術ノートのあゆみ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

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発 刊 に あ た っ て

 社団法人東京都地質調査業協会は、防災講演会や防災展示会などを開催し、

都民の人々に安全で、安心して生活できる地盤環境の整備・普及を図り、また

地質調査技術の向上に努め、社会に貢献することを目的として活動しておりま

す。

「技術ノート」は、一般の方々に地質とその調査の重要性及び社会生活との

関わりを知っていただくために昭和62年12月より発刊しており、今回は36号と

なります。

 今回は「東京の斜面と災害」をテーマとして、斜面災害の種類とメカニズム

や調査方法、対策工法を紹介し、後半では多摩地区での災害と対策事例を紹介

しております。

地球温暖化の影響で東京でも季節の変わり目には50mm/時を越す集中豪雨

が頻発しており、毎年都内の何処かで水害が起きております。

特に多摩地区においては山麓部での開発工事が進み、降雨や地震による斜

面災害の起こる危険箇所が増加する危険性があります。

また斜面災害防止の為の対策工事も重要ですが、災害に遭わないためにはソ

フト面で斜面の危険性を察知する知識、応急対策の知識、避難体制の整備など

も重要な対策の一つとなります。

今回の特集を読んでいただき、東京は都市化が進んでいるのに対し、意外と

危険箇所が多いことにお気づきになると思います。

是非この機会に近隣のがけ地などを見ていただき、斜面災害危険性の把握や

避難体制の整備・確保のための一助としていただければ幸いに思います。

平成16年 1 月

社団法人東京都地質調査業協会

 会 長  大 越 良 裕

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1.はじめに

 日本列島は、幅300km、南北に2000kmの細長い列島で、人口の集中する可住平坦地

が2~3割程度、残りの約7割は山岳地などの急峻な地形が占める。

 山岳地(傾斜地)と平坦地との境界付近は、地形の変換点として、主に降雨や地震に

起因する様々な斜面災害が発生する危険区域であり、被害は我々の主な生活域である住

宅地や道路にも及ぶ。

 斜面災害は、傾斜地の多い地形的素因に加え、次に示す日本列島独特の気象条件、地

震活動などの誘因によって発生することが多い。

①大陸性と海洋性の気流の境界にあるため、低気圧(台風)の経路となりやすく、長

雨や集中豪雨が起こり易い(図1)。

②河川勾配が急である(図2)。

③4つのプレートが集中するため、地震活動が顕著。プレート運動によって山地の成

長が見られる(図3)。

 大雨や地震の影響で崩壊を繰り返す斜面災害は、山岳地が支配的である日本列島の特

有な現象でもある。

図1 世界の降水量図1)

図2 河川の勾配表1)

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 一方、都市部では人口密度の緩和策とした近郊斜面の平坦化が現在も進められ、多く

の人工地形を生み出している。

 急崖を切り崩す平坦化、あるいは盛土という可住地拡大の土地造成は、それまでの自

然地形をさらに安全にする場合もある。しかし、実際には自然斜面以上に不安定な地形

を生み出しているケースも多く見られる。それらの大半は、人工的に表面水や地下水の

流れを変化させたために、それまでにない降雨などの影響を受け、斜面崩壊に至る。

 このような人工斜面や先の自然斜面の崩壊が、今回のテーマである広義の斜面災害

(山崩れ、崖崩れ、崩壊、地すべり、土石流、泥流など)である。

 なお、災害の種類、さらには関係する分野によって、斜面災害の呼び方は若干異なる

が、ここでは我々の分野である地盤工学会に準じ、「斜面災害」として用語を統一する。

表1 斜面災害の呼び方の一例

分野 総称 詳細呼称

国土交通省(砂防) 土砂災害 ①地すべり、②土石流、③急傾斜地崩壊

農林水産省(林野) 山地災害 ①地すべり、②崩壊土砂流出、③山腹崩壊

地盤工学会 斜面災害 ①地すべり、②土石流、③斜面崩壊、岩盤崩壊注)地盤工学会:斜面(自然地形である丘陵、山地、人工的な法面)を対象。

  以下では、このような広義の斜面災害を細分し、その破壊形態あるいはメカニズム

を考えてみるが、繰り返し発生する斜面災害の対応は、山岳地の多い我国国土との共

存を果たす上で真剣に取り組まなければならない永遠のテーマといえる。

    図3 プレート移動の図1)

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1-1 斜面災害の種類と特徴

 重力の作用で常に下方へ移動しようとする不安定な斜面構成物質は、誘因とされる地

下水や地震動が加わると下方への移動を開始し、災害を引き起こす場合がある。

 下方への斜面構成物質の移動形態には、山崩れ、崖崩れ、崩壊、地すべり、土石流、

泥流などがあり、特に崩壊(崩れ)と地すべりの明確な区別は難しいとされている。

 斜面災害には、次に示すような様々な形態があるが、大きく次の3つに分類できる。

表2 斜面災害の分類表1)

①地すべり:主として比較的緩い斜

面の一部あるいは全部

が地下水や地質構造・

岩質等要因によってや

や広い範囲にわたって

緩慢な速度で滑動する

ものをいう。

②土石流 :水を含んだ大量の土砂

が急速に渓流を流下す

る現象。流下速度は一

般に時速20 ~ 40kmと極めて速い。山津波、土砂流などの同義語とし

て使われることもある。火山灰土は泥流とも呼ばれる。

③崩壊(急傾斜):斜面の比較的狭い領域の土砂が安定を失って突発的に速い速度で

落下する現象(山崩れ、急傾斜地崩壊、落石、人工斜面の崩壊)

 この中で、①地すべり、③崩壊の区分は明瞭でないが、一例とすれば次表のような相

違が示されている。

 これらは斜面構成物質が重力の作

用によって、低地へ向かって移動す

るという概念においては同一のもの

である。

 しかし、地質特性の強い大規模な

「地すべり」は、突発的に狭い範囲

で発生する崩壊(急傾斜)とは別の

現象として扱われている。

表3 地すべりと崖崩れの差異2)

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(1)地すべり

1)地すべり発生の誘因

 ・長雨、集中豪雨や

融雪

 ・地震

・末端部の切土や頭

部の盛土などの人

為的な要因

2)地すべりの一般的形態

 図5に「地すべり地

形の模式図」を示した。

 地すべりは、降雨や

融雪水の増加に伴う間

隙水圧の上昇や地震動

の影響、あるいは人為

的地形改変によって釣

り合いを崩した斜面上

の土塊が、主に粘性土

をすべり面として滑動

することで生じる。

 比較的緩傾斜の斜面で発生し、移動速度は崩壊に比べて緩慢である。

 地すべりは、地質的に起こりやすい構造、または岩質を持った地域に起こり、その条

件を持たない地域では起こらない。そのため、同一の地質構造を持った広い地域で、繰

り返し活動する場合が多い。

 代表的な地すべり事例には、1985年7月26日、長野県長野市の北西部、地附山地すべ

り(土量約350万㎥、幅約350m、厚さ40 ~ 60m)が挙げられる。

図4 地すべり地形の模式図3)

図5 地すべり地形の模式図 4)

■地滑り ※土地の一部が地下水等に起因して滑る自然現象又はこれに伴って移動する自然現象

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図6 土石流の概念図3)

扇状地堆積物

平面図

断面図

(2)土石流

1)土石流発生の誘因

・長雨・集中豪雨や

融雪

 ・地震

2)土石流の一般的形態

 図7に「模式的な土

石流の形態区分図」を

示した。

図7 模式的な土石流の形態区分図(一部加筆)5)

 土石流の発生域は、勾配15度以上の斜面か渓床であることが一般的である。

 崩壊や地すべりなどを原因として発生域に堆積した未固結堆積物が、地表水と混じ

って粥状の流体(参考例:火山泥流で約1.9t/㎥)となり、渓流を流下することで生じ

る。流下の速度は時速20 ~ 40kmに達する。流体が勾配10度を下回る低地に到達すると、

土石流中の土砂は堆積を始めるが、その際、扇状に流域を広げ、広い範囲にわたって災

害をもたらす。

 土石流には、大規模な崩土が、渓岸の洗掘+渓床堆積物を伴い流下するもの、山ヒダ

で表層崩壊が樹木状に発生し、渓床堆積物を巻き込んで土石流になるもの、また、活火

山の山肌にあるルーズな火山噴出物が豪雨時に土石流となるものなど、さらに細分でき

る。土石流の主な被害例は、1999年広島豪雨水害での土石流、最近では三宅島や雲仙

普賢岳にみられる火砕流堆積物の2次的な発生や、前兆を察知して自主避難が成功した

2001年6月の熊本県阿蘇郡阿蘇町徳仏川で発生した土石流の例もあり、斜面災害のソ

フト対策の重要性も指摘されている。

■土石流 ※山腹が崩壊して生じた土石等又は渓流の土石等が水と一体となって流下する自然現象

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(3)崩壊(急傾斜)

1)崩壊発生の誘因

 ・長雨・集中豪雨や

融雪

 ・地震、強風、地震

活動

 ・凍結融解の繰り返し

による物理的風化

 ・切土や盛土などの

人為的要因

2)崩壊の一般的形態

 図9に「崩壊地形の模式図」を示した。

図9 崩壊地形の模式図 2)

 崩壊は、傾斜角20 ~ 30度以上(急傾斜地崩壊対策法では30度以上)の斜面地が集中

豪雨や地震などの要因で地塊の釣り合いを崩し、不安定な土塊が突発的に崩れ落ちるこ

とで発生する。崩壊の形態は、発生箇所や地質条件から様々に分類されている。一般に、

面積的規模は小さく、再発性は少ないが、雪崩式に足元をすくう形にもなるため、民家

や集落、道路などに面した部分の斜面災害には注意が必要である。

 崩壊(急傾斜)の範囲は広く、山岳地では岩盤崩壊から落石(剥離)、平野部では地

形面の変化部(台地と低地、低地では河川部)、また宅地造成での斜面下の切土など、様々

な範囲が対象になる。

 以上、斜面災害の種類やそのメカニズムなどを紹介したが、次章からは、東京での斜

面災害の被害実態や斜面対策事業などについて、対策事例をまじえ紹介する。

図8 崩壊現象の概念図3)

■急傾斜地の崩壊 ※傾斜度が30度以上である土地が崩壊する自然現象

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2.斜面災害危険箇所の分布と地形地質との関係

 斜面による災害(地すべり・斜面崩壊・土石流等)は基本的に斜面が急な地形の箇所

で発生する。しかし、斜面が何度以上の勾配なら危険かというと、一概に言うことはで

きない。なぜなら、斜面による災害は地形・地質と重要な関わりを持っているからであ

る。例えば、地層の傾きと滑りやすさの関係を図 10 に示す。左図の様に斜面に対して

地層の傾きが上がっている場合は、落ちそうな土塊の重さを地層の中の硬い部分が支え

てくれることが多いため崩れないのに対し、右図の様な斜面に対して地層が下がってい

る場合は、地層の中の硬い部分の上を滑って災害が発生してしまうことがある。しかし、

これも綿密な調査(3章参照)を行わなければ、危険度の判定はできない。しかし、日

本中の全斜面について調査を行い危険度の判定を行うには、膨大な時間と人力が必要と

なる。そこで行政機関は急傾斜地について、ある角度以上急な斜面は危険と見なして、

そのような急斜面の存在する場所を表示した地図を作製して注意を呼びかけている。

 では、東京にはそのような危険が潜む斜面がどの様に分布しているのかを見ていきな

がら、斜面と共存するための手段を考えてみよう。

受け盤(滑りにくい)         流れ盤(滑りやすい)

斜面方向に地層が上がっていると、   斜面方向に地層が下がっていると、下に固い

下の固い岩盤に支えられて落ちにくい。 岩盤があっても、その上を滑って落ちやすい。

また、滑る際は水 ( 地下水 ) の存在が大きな要因となる。

図 10 地層の傾きと滑りやすさの関係

2-1 斜面災害危険箇所の分布と地形の関係

 では、どの様な所に危険な斜面はあるのか、東京都内の斜面災害危険箇所の分布と地

形の関係を示したものが図 11 である。

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- 8 -図11 斜面災害危険箇所と地形の関係

地すべり

準ずる

土石流危険渓流区域

自 然

人 工

急傾斜危険箇所

凡     例

山  地丘 陵 地

台地・段丘

下末吉面(S)武蔵野Ⅰ面(M )1武蔵野Ⅱ面(M )2武蔵野Ⅲ面(M )3立川面(Tc ,)青柳面(Tc )3

1 2

拝島面以下(H)

低  地

谷 底 低 地

扇状地・後背湿地・三角州性低地埋 立 地河川・河川敷

山腹崩壊危険地区

崩壊土砂流出危険地区

N

EW

S

「山地災害危険地区マップ」(東京都産業労働局農林水産部林務課作成)            を参考に作成

「東京の土砂災害危険箇所の分布」6)   (東京都建設局河川部作成)         を参考に作成

7)0 10 20km

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 図を見ると、東京都内にも、非常に多くの危険と判定された斜面があることが判る。

危険な斜面は山地の川沿い及び台地の端及び台地を浸食した川沿いに集中している。図

は上側が東京都建設局河川部(治水事業)のデータを参考にして作成したもので、下側

が東京都産業労働局農林水産部林務課(治山事業)のデータを参考に作成したものであ

る。

 両図とも山地では概ね同じ分布を示している。しかし、上図が山地以外の丘陵地及び

台地端にも危険箇所があるのに対し、下図は山地に危険箇所が集中している。これは、

治水事業と治山事業での整備区域が異なるために生じた違いである。治水事業では主に

河川流域を対象に危険箇所を選定しているのに対し、治山事業は森林のある山地を対象

に危険箇所を選定している。この他、道路に関しても道路に被害を及ぼす可能性のある

斜面を危険個所に選定している。

 選定されている危険箇所は、それぞれの斜面を管轄する行政機関が崩壊機構の種類に

応じて、それぞれを管理される法律に基づき選定されている。法律ごとに、何が違うの

かと言えば、治水事業では、「河川に係わる斜面災害の発生を防止することにより、国

民の生命を守る。」ことを目的としているのに対して、治山事業では、「森林を復元す

ることにより水源池を確保し、国民に安定した生活水を供給するとともに、斜面災害の

発生を防ぐ。」ことを目的とする法律である。どちらの法律も、国民の生命あるいは財

産を守ることを基本としているが、その守る対象の違いにより、対象区域も異なっている。

 これらの法律はどれも我々の生活に欠かすことの出来ないものであり、各行政機関は

この法律に則り我々の生活を守っている。

例として表 4 に、その法律名称と目的の概要を示す。

表4 斜面災害に関する法律とその目的

法 律 名 称(略称) 目   的

地すべり等防止法砂 防 法急 傾 斜 地 法土砂災害防止法

斜面災害(斜面崩壊、地すべり、土石流)を防止することにより、国民の生命と財産を守る。

森 林 法

森林を復元することにより、水源池を確保し、安定した生活を確保するとともに、斜面災害発生に対して国民の生命と財産を守る。

道 路 法 ライフラインの一つである道路の安全を確保し、居住の基盤を作る。

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 図 11 を見ると、東京 23 区内で斜面危険箇所は、北区、台東区、千代田区、港区、大

田区に集中している。これは、京浜東北線の西側沿いに見られる急崖に相当し、台地東

縁に形成された崖部に該当する。しかし、都心区部での斜面危険箇所は、これらの台地

端の崖を宅地造成、道路・鉄道建設のために、さらに人工改変した箇所が多く、人工斜

面(=切土、盛土、構造物の設置等人工の手が加わっている斜面)の方が自然斜面(=

自然の力により形成された斜面)より多い。

 この他、地形と関係すると思われる危険箇所の特徴的分布は、台地が河川により浸食

され形成された川沿いの崖に危険箇所が分布しているが、概して下流部分(台地東側)

に集中している。これは河川上流部では、浸食による削り込みが少なく、河川標高と削

り残された台地上面標高との比高差が少ないためと考えられる。

2-2 斜面災害と地質の関係

 斜面災害の発生は、一般的に斜面の地形、地質構造、風化土の厚さ、植生などに制

約される他、降雨量や地震動の強さに直接影響される。また地質との関係も大きく、特

に地すべりは、粘土含有量の高い第だいさんきそう

三紀層(氷河期以前の 6500 万年~ 160 万年前に作

られた地層)地帯と古期堆積岩類の破砕帯及び温泉変質帯を持つ火山などで多発してい

る。このような特定の地質が分布する箇所に、地すべりが発生しやすい理由は、その強

度の低さおよび風化のしやすさにある。

 細粒岩(泥でいがん

岩等)は粗粒岩(礫れきがん

岩等)に比べ強度が小さいことが多く、新鮮岩より風

化岩(地表付近にさらされた岩が、物理的〈差別膨脹や凍結融解〉及び化学的〈酸化や

加水分解〉な風化作用により脆くなった岩)の方が強度が小さく、このような強度的に

弱い箇所を活動面として地すべり等が発生することが多い。しかし、地すべりの発生は

地質だけではなく、地質構造(受け盤・流れ盤)や地下水等と密接な関係を持っている。

 危険箇所が多数存在する奥多摩地区の地質は、主に秩ちちぶたい

父帯と四し ま ん と た い

万十帯と呼ばれる中生

代の古い地層から成り、概ね地層面が北東へ急角度で傾いている。中生代とは、今から

約2億 4500 万年~ 6500 万年前の約2億年間の期間を指し、恐竜が栄えた時代で、現

在の奥多摩を形成している地層は、その頃、数千mの深さの海底に堆積した砂や泥やプ

ランクトンの死骸などから出来ている。これらの堆積物を載せたプレート(海洋プレー

ト)と呼ばれる岩盤は、太平洋中央部の中ちゅうおうかいれい

央海嶺と呼ばれる海底に連なる山脈部分で地

底から湧き出し、東西に分かれて年間数 cm ずつ移動して、日本海溝付近で日本列島や

アジア大陸を載せたプレート(大陸プレート)の下に潜り込んでいる。この潜り込む際、

プレート上部の堆積物が引き剥がされ、皺を押し集めるように固められたものを付ふ か た い

加帯

と言い、奥多摩はこの付加帯により形作られている。奥多摩の地質を調べると、北西-

南東方向を軸として縞状に地層が重なり、多摩地域北部(秩父帯)より南部(四万十帯)

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 このように、地質と地質構造を把握することは、斜面災害の危険を予測する上で重要

なことである。また、自分が住んでいる地域の地形・地質を知り、どの様な斜面災害が

発生する危険性があるか把握しておくことは、斜面災害に対しての普段からの準備と心

構えをする上で、欠かせない物のひとつと言える。  奥多摩地域の地質層序表

地 層 名 主な地質

秩父帯

成 木 層 砂岩優勢

雷電山層 礫岩を狭在する砂岩

水 口 層 砂岩・黒色泥岩

高水山層 黒色泥岩・チャートの岩塊

深 沢 層 黒色泥岩・チャートの岩塊

三ツ沢層 含礫塊状砂岩・砂岩頁岩互層

海 沢 層 チャート・凝灰岩

氷 川 層 黒色頁岩・砂岩

御前山層 黒色頁岩・石灰岩の岩塊

小 沢 層 黒色頁岩

四万十帯

中 山 層 砂岩・砂岩頁岩互層

水 根 層 千枚岩質頁岩・砂岩

小 袖 層 黒色頁岩・砂岩

倉 掛 層 砂岩・黒色頁岩・砂岩頁岩互層

大 成 層 砂岩・砂岩頁岩互層・黒色頁岩

船久保層 黒色頁岩・砂岩

盆堀川層 砂岩・砂岩頁岩互層

笛 吹 層 砂岩・凝灰岩・千枚岩質頁岩

小 菅 層 砂岩・砂岩頁岩互層

小 伏 層 頁岩・頁岩砂岩互層

- 11 -

の方が新しい地層が分布するのが判明している。以上のことから、多摩地域の地層は複

雑な構造となっている(図 12 参照)。

 奥多摩地区南部に広く分布する四万十帯は頁けつがん

岩または頁岩・砂さ が ん

岩互層から成り、片へ ん り

構こうぞう

造や破砕構造が発達しているため、斜面の向きによっては大規模な斜面崩壊や流れ盤す

べりが発生しやすい。また、地層面に沿って剥離しやすいため、受け盤斜面においても転

倒崩壊(亀裂より下側の岩盤がドミノ倒しのように崩壊する現象)も発生しやすくなって

いる。これに対して奥多摩地区北部に分布する秩父帯は、チャートや石灰岩が多く含まれ、

これらの岩石の風化抵抗力により急崖や大規模な露ろが ん

岩地形(岩が地表に露出している地形)

が形成され、大雨や地震などを引き金として岩盤崩落や落石が発生しやすくなっている。

 また土石流は、急峻な地形からなる奥多摩の河川や渓流沿いでは、大雨時にどこにで

も発生する可能性がある。

図 12 奥多摩地域の地質区分 8)

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- 12 -

3.斜面の調査方法と対策工

 毎年梅雨期や台風の時期になると、日本のどこかで斜面による土砂災害や山地災害が

発生し、人的及び家屋等に多数の被害が起こっている。そのため、このような災害によ

り国民の生命に危険を及ぼさないように、行政を中心にして斜面の危険度に対する調査

を行い、それらの内、災害の可能性が高い場合には、適切な対策工の計画・施工を逐次

行っている。しかし、自然斜面での災害は、対象箇所数が多く、全国すべての斜面につ

いて危険度評価と災害規模の予測を的確に行うことは、膨大な時間と人力が必要となる

ため、現状では極めて困難な状況にある。

 以下では、斜面に関する一般的な調査手法と斜面災害を防止するための対策工につい

て紹介する。

3-1 調査方法

 斜面の調査は、一般的に図13に示す調査手順に従い実施される。

図 13 斜面に関する調査・検討手順

 通常、調査は①予備調査、②詳細調査の2段階で実施される。

 予備調査は、既存資料に基づき斜面の高さや勾配、周辺状況等の概略の把握(過去の

災害調査、環境調査、気象調査)、地質図、地形図、土地利用図及び空中写真の判読を

行う。この既存資料による概略検討結果に基づき、危険度が高いと判断された斜面につ

いて、現地踏査を行い、斜面の高さ、勾配、地表地質踏査、変状状況、湧水、周辺環境、

予備調査①概略調査②現地踏査

詳細調査の必要性の検討

防災点検(監視の継続)

防災点検

崩壊・変状発見

詳細調査

対策工の必要性の検討

カルテ等による管理計測による監視

対策工の検討・施工(監視の継続もありうる)

予備調査の結果、防災点検箇所に指定される場合がある

あり

なし

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景観、近隣施設の状況等を現地にて確認する。概略検討及び現地踏査結果より、危険度

が高いと判断された斜面に対しては、重要度等を考慮した上で、詳細調査を実施する。

 斜面の災害は、その斜面を構成する地層の傾斜や土の強さ、地下水の位置等が大きく

影響するため、それらを把握するための調査を行う。

 詳細調査では、ボーリング等による地質調査を行い、地質状況を詳細に把握するとと

もに、現場で試料採取した土の室内試験を行い、土の強さ等を調べる。また、現地での

地下水調査、湧水量調査を行い、斜面の安定性に関する検討を行う。その結果、災害の

危険度が高いと判断された斜面については、適切な対策工を選定し、崩壊防止対策の計

画・設計・施工を行う。

 さらに、崩壊の予知を行うために、斜面の変状計測や地下水観測のモニタリングを行

い、定期的に監視を行う場合もある。

 なお、現地踏査の留意点は以下に示される内容で実施される。

 ・斜面の傾斜度を確認する

 ・斜面の高低差を確認する

 ・地形を確認する(地形判読、空中写真判読、目視)

 ・斜面の上部・下部に住宅地・観光地等の施設の有無を確認する

 ・近隣の環境状況を確認(水質汚染状況等)

 ・表層の地質を確認する(風化しやすい、軟岩が多く見られる等)

 ・湧水、沢水の状況を確認する

 ・斜面の変状及びその履歴を確認する

 表5に斜面災害の種類とその代表的な調査項目を示す。

表5 斜面災害の種類と主な調査項目

災害の種類 災害の主要因 崩壊現象 主な調査項目

急傾斜地崩壊山腹崩壊 降雨、地震 斜面表層地盤の崩壊

斜面の勾配、高さ湧水の有無斜面上部の亀裂

落石 降雨、地震 斜面上部表層部の崩壊 斜面の勾配、高さ転石の有無

土石流崩壊土砂流出

降雨河川水の上昇

河川上流部の斜面及び山腹の崩壊

上流部の地形、勾配湧水、斜面上部の亀裂

地すべり 降雨、降雪地下水の上昇

地下水位の上昇により緩やかに斜面が移動

地下水位地形、地盤の強さの把握斜面上部の滑落

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3-2 対策工法

 斜面災害を防止する対策として、人家や道路に隣接した箇所については、①落石対策、

②急傾斜地崩壊または山腹崩壊防止対策が多く実施されている。また、河川、沢及び渓

流等については、③土石流、崩壊土砂流出対策が中心となり、地すべり地については、

④地すべり対策が行われている。さらに、山地部については⑤治山事業として森林の機

能を発揮させ、災害を防止する対策がとられている。

 対策工の主な目的としては、以下に示される機能を期待するもので、斜面災害の種類

ごとに防止する対策工の一般的な例を示す。

 ・崩壊しないように土層の抵抗を増加させる

 ・崩壊を誘因させる地表水あるいは地下水を斜面外に排水させる

 ・崩落しようとする土塊を力で抑止する

 ・植生による木材の根系で地盤の表層部の抵抗を増大させる

 ・根系により、フェンスの代用として働き、崩壊土塊の移動を抑止する

 ・柵やネットにより落石が人家等におよぶのを防止する

(1)急傾斜地崩壊、山腹崩壊対策

 ・斜面の上部・下部にある住宅地等の保護を最優先する

 ・景観に配慮した緑地等を用いた構造とする

 ・周辺環境と調和した対策工とし、法のりわくこう

枠工の枠内には植生を行う等の緑化工法の導入

を積極的に行う

表6 対策工の代表例(急傾斜地崩壊、山腹崩壊)

目的 一般的な適用工種 効果

侵食・風化防止・植生工(厚

こうそう

層基き ざ い

材吹ふきつけこう

付工)・コンクリート、モルタル吹付工・排水工(地表水排水工)

法面侵食防止

落石防護

・コンクリート、モルタル吹付工・ロックボルト工・落石防止網

あみこう

工、落石防止柵さくこう

工・ロープネット工

剥はくりほうかいぼうし

離崩壊防止

表層崩壊防止・法枠工(吹

ふきつけのりわくこう

付法枠工、コンクリート枠工)・ロックボルト工、アンカー工・擁

ようへきこう

壁工剥離崩壊防止

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図 14 急傾斜地崩壊、山腹崩壊対策例(表層改良、植生工)9)

図 15 急傾斜地崩壊、山腹崩壊対策例(法枠工、アンカー工)10)

図 16 急傾斜地崩壊、山腹崩壊対策例(防護擁壁、落石防護柵工)10)

不安定な表土層

硬い基盤土層

不安定な表土層を切り取る 緑化工

表土層

硬い基盤土層

基礎となる擁壁

表土層

硬い基盤土層

緑化工併用の格子枠工

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(2)地すべり対策

 地すべりには、地下水位の上昇が大きく影響することから、地下水排除により、地す

べり土塊の移動を抑制することを目的とした抑制工と地すべり力に対する抵抗力を増大

または地すべり土塊の移動を直接抑止することを目的とした抑止工とに分類される。

表7 対策工の代表例(地すべり)

目的 一般的な適用工種 効果

抑制工

・地表水排除工(水路工、浸透防止工)・浅層地下水排除工(暗

あんきょこう

渠工、横ボーリング工、地下水遮断工)

・深層地下水排除工(横ボーリング工、集水井、排水パイプ)

地下水低下対策

・排土工 すべり力低減

・押え盛土工 抵抗力増大対策

抑止工・杭工(抑止杭、深

しんそぐい

礎杭)・シャフト工・グランドアンカー工

抵抗力増大対策

図 17 地すべり対策例(集水井による排水工、横ボーリングによる排水工)11)

図 18 地すべり対策例(杭工、グランドアンカー工)11)

杭工

推定すべり面

グランドアンカー工

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(3)土石流、崩壊土砂流出対策

 土石流や崩壊土砂流出は、谷や山腹斜面から崩れた土や石などが、梅雨期の長雨や台

風の大雨などによる水といっしょになって、沢や河川などを一気に流れ出でくる現象の

ため、土や石の勢いを河川内で抑止する対策工が一般的である。

 その他に、崩壊土砂が流出する付近に、植林等を実施して森林の機能を発揮させ、土

石流の発生を防止する対策がとられている。

表8 対策工の代表例(土石流、崩壊土砂流出対策)

目的 一般的な適用工種 効果

捕捉工 ・砂防ダム 土砂流下対策

発生源対策工・山腹工(植林)・そだ・柵

土砂発生対策

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4.対策事業の紹介

4-1 土砂災害対策事業

 東京都建設局河川部関連の対策事業は、砂防3法(地すべり等防止法、急傾斜地の崩

壊による災害の防止に関する法律、砂防法)に従い「地すべり」「急傾斜地」「土石流」

に分類して調査、対策を行っている。対策としては、法律に従い災害危険箇所を指定し、

一定の開発を制限するとともに対策工事を行っている。また、災害危険箇所は概ね5年

に一度の調査を実施している。ここでは、それぞれの対策事例を紹介する。

(1)地すべり対策の事例

 平成 13 年9月 10 日に台風 15 号による連続雨

量 584mm の集中豪雨により、西多摩郡檜原村上

元郷において地すべり災害が発生した。この斜面

は、以前より地すべりがみられ、平成元年に地す

べり防止区域に指定後、対策工事を実施していた

が、台風 15 号により災害が発生し、さらに現地

調査により今後被害が予想される箇所がみられた

(写真1参照)。

写真1 斜面全景と被害想定図

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 対象となる斜面は、臼杵山を山頂とする北側斜面で、斜面最下部には秋川が西~東へ

流下している。斜面下には、43 軒の家屋と診療所、公共施設などが分布しており、被

害の拡大が予想されることから早急に対策を施す必要があった。

図 19 地すべり対策工断面と地下水状況概念図

 現地調査により、表層に風化岩が分布しており、集中豪雨時の地下水位の上昇により

表層の風化岩の崩壊が発生したことが判明した(図 19 参照)。

 そこで、地下水位の上昇を抑える目的と土砂の崩壊防止を目的とした「災害関連緊急

地すべり対策事業」が以下とおり実施された。

<対策内容>

 ①既設の対策事業の実施内容         鋼管杭

                       排水トンネル

                       集水ボーリング

 ②災害関連緊急地すべり対策事業の実施内容  法のりわくこう

枠工+ロックボルト工

                       集水ボーリング

                       排水工

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排水工

写真2 地すべり対策後の斜面

(植生工が施され、景観に配慮されている)

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(2)急傾斜地(がけ崩れ)対策

 東京都あきる野市伊奈地内の秋川に沿う急傾斜地において、「がけ崩れ」が懸念され

た。この斜面は、高低差 25 m程度の急傾斜地で、斜面上部には住宅地が近接している。

 現地調査により風化しやすい軟岩が多く見られ、40°~ 80°以上の急傾斜地である

ことから、斜面上部の住宅の保護が必要となり、対策工が施された(図 20 参照)。

図 20 急傾斜地の平面図

 対策工は、現地調査の結果より①侵食・風化防止、②落石防護、③表層崩壊防止、④

浅層崩壊防止を目的とする対策が必要であり、以下の対策が施された。

<対策内容>

  ①侵食風化防止:植生工(厚こうそう

層基き ざ い

材吹ふきつけこう

付工)

          モルタル吹付工

          排水工

  ②落 石 防 護:モルタル吹付工

          ロックボトル工

  ③表層崩壊防止:法のりわくこう

枠工 + ロックボルト工

          排水工

  ④浅層崩壊防止:ロックボルト工

          排水工

 本対策工は、景観の保全や周辺環境との調和を考慮して、既存の樹木は極力残すよう

に実施された。そこで、法面勾配が比較的ゆるく既存の植生(高木類)が成育している

法面については、厚層基材を吹付けて緑化を図る工法が適用され、民家直下の急崖部・

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法面勾配の急な箇所・垂直壁部等については法枠内にモルタルを吹付けて安定を図る工

法が採用されている。

写真3 対策前の斜面全景

写真4 法面対策後の斜面全景

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(3)土石流対策

 青梅市長淵付近を流下する鳶巣川流域にて土石流が発生する可能性があったため、砂

防事業による対策が実施された。

 対策としては、効果

量 2000 ㎥の重力式コン

クリートダムを設置し、

下流に流路工が施工され

ている。ダムの表面には

間伐材を貼り景観に配慮

し、地域の自然環境との

調和を目指している。

写真5 土石流対策後(コンクリートダム)

写真6 土石流対策後(流路工)

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4-2 治山対策事業

 林業事務所では、山を守り森林を保全するために、森林法等に基づきさまざまな森林

保全対策を行っており、治山事業は、そのひとつとして林業的手法により斜面対策を行

うものである。治山事業の特色としては、以下のものが挙げられる。

 ・山地災害などによって失われた森林の持つ機能を補い回復させるために、コンクリ

ート等を用いた従来の工法に加えて、復旧治山事業として“自然にやさしい”木材

や間伐材等を組合わせることにより、環境負荷を低減させて、可能な限り森林に戻

す手法を積極的に採用している。

 ・予防治山事業による森林の維持管理を積極的に行うことにより、土石流や落石等の

災害も防ぐ役割も併せて果たしている。

 ・森林法の特色として、山地災害防止の他に、治山ダムのような水源涵養機能や共生

保安林整備事業(環境保全)に配慮した事業が挙げられる。

 山地災害危険地区の選定には、保安林台帳、保安施設台帳、治山台帳、森林計画台帳、

空中写真、地形図、地質図等の既存資料および聞き取り調査等により行う。選定した危

険対象地区については、自然条件調査、公共施設等の実態調査、保安林指定状況の調査、

治山事業実施状況調査及び災害履歴調査を実施する。奥多摩町、檜原村などは特に急傾

斜地が多く、これらの地区の山腹斜面については山地災害防止のための森林回復を行っ

ている現場が数多くある。

(1)山地災害対策の事例

 平成 14 年 10 月1日 21 時 30 分頃に台風 21 号による連続雨量 154mmの集中豪雨により、

青梅市黒沢3丁目の裏山で高さ 25 m、幅 10 mの山腹斜面崩壊が発生し、人家(風呂場全壊)

及び倉庫の一部が破損した。崩壊箇所は、人家に隣接した崩壊であるため早急に復旧する

必要があり、緊急に治山事業として対策工事が実施された。当斜面の崩壊について被害調

査を行った結果、湧水の発生はなく、崩壊原因としては斜面の表土が幅 10m、長さ約 20 m、

平均深さ 1.2 m、崩壊土量約 250 ㎥の山腹斜面崩壊であることが確認された。

 そこで、すべり面より深部を抑えることによる対策が有効であると判断され、斜面崩

壊対策として土どどめこう

留工が設置された。また、表土の流出防止対策として、木もくさくこう

柵工及び伏ふせこう

が設置された。土留工には、奥多摩町の治山復旧工事で発生した岩石を使用し、発生材

の有効利用を図っている。

 対策工の種類と仕様は、以下の通りである。

  ・No.1 土留工 雑石土留工   H= 1.5 m

  ・No.2 土留工 雑石土留工   H= 2.0 m

  ・柵工 木柵工     H= 0.45 m

  ・伏ふせこう

工 植生ネット工

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(2)落石防止対策の事例

 日の出町大久野字細尾地内では、人家に隣接した斜面において平成 9 年ごろより巨石

の落石が頻繁に発生したことから、早急な対策が必要であると判断され、治山工事とし

て、平成 12 年度、14 年度に対策事業が実施された。

 当斜面の崩壊について調査を行ったところ、崩壊原因としては落石が主要因であると

判断されたため、落石防止対策が有効であると判断され、落石防護柵が設置された。ま

た、緩衝材及び型枠工に間伐材を使用し、自然景観に考慮した対策工が実施された。

 対策工の種類と仕様は、以下の通りである。

  ・落石防止壁工     鋼製防止壁     H= 3.0m  L= 15.0 m

  ・落石防止壁工     間伐材による緩衝材 H= 3.0m  V= 3.9 ㎥

  ・木製型枠工(基礎部) 間伐材       H= 1.0m  V= 1.0 ㎥

写真7 災害直後の状況 写真8 対策後の土留工及び柵工

写真9 土留工及び柵工の詳細

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写真 10 落石防護工の全景

写真 11 落石防護柵の側面

写真 12 落石防護工の背面

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4-3 道路斜面対策事業

(1)道路における斜面管理

 道路における斜面管理は、主に①道路斜面災害予防対策②道路斜面災害時対策の2種

類に区分される。

 ① 道路斜面災害予防対策

   災害を未然に防ぐため、斜面管理を実施している中で特に危険度の高い地点を選

定し災害の発生を抑止する事業(道路災害防除)である。

   通常、道路の斜面災害予防対策で斜面台帳の整備、日常管理(点検)の実施により危

険箇所の抽出、安定度のランク付けを行い、災害予防対策を実施している。また、異常

気象時(一般に都道は連続降雨量が 140mmを越えた時:奥多摩周遊道路は 80mm)な

どは災害を未然に防止する観点から、道路通行規制を行い安全確保に努めている。

 ② 道路斜面災害時対策

   予期せぬ道路斜面災害時に通行規制、応急処置、復旧対策の検討(応急復旧工事、

災害時復旧工事)を行う。速やかに現状復旧に努め、2次災害防止、再発防止対策

を行う事業(道路災害復旧)である。

(2)道路災害防除の事例

 道路管理における斜面災害を落石、崩壊、岩石崩壊、地すべり、土石流、擁壁に区分

し、対策が実施されている。

 1)東京都あきる野市入野地区における道路災害防除工事(高さ約 20 mの斜面崩壊防止)

 <路線名>主要地方道八王子五日市線(第 32 号)秋川街道

 <対策工>①転落防止柵(ネットフェンス)

      ②場所打ち吹付法のりわくこう

枠工(F-300)

      ③厚こうそう

層基き ざ い

材吹ふきつけこう

付工(枠内 厚さ 7cm)

写真 13 転落防止柵(ネットフェンス):場所打ち吹付法枠工(F-300):

厚層基材吹付工(枠内 厚さ 7cm)対策後

左の写真1次工事中:右の写真2次工事中

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2)東京都あきる野市養沢地区における道路災害防除工事(高さ約 13.3 mの斜面落石

崩壊防止)

<路線名>一般都道十里木御嶽停車場線(第 201 号)

<対策工>①モルタル吹付

     ②ポケット式落石防護網

(3)道路災害復旧の事例

 1)東京都西多摩郡奥多摩町戸沢橋付近

<路線名>一般都道第 206 号(奥多摩周遊道路)

 平成 15 年7月 21 日から通行止めが続いている一般都道第 206 号(奥多摩周遊道路)

は、平成 15 年 11 月 25 日現在復旧作業中である。

写真 14 モルタル吹付:ポケット式落石防護網対策後

写真 15 戸沢橋付近の斜面崩壊

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5.まとめ

5-1 ソフト面の斜面対策

 全国の治水関連の土砂災害の件数は、過去 10 年では平成5年の 1,897 件を最高に、

年平均で 924 件発生している。斜面災害の種類としては、急傾斜地崩壊が最も多く、土

石流、地すべりの順になっている。平成 14 年には全国で 539 件の土砂災害(急傾斜地

崩壊 275 件、土石流 46 件、地すべり 218 件)が発生しており、災害の多くは、主に降

雨が引き金になり生じている。

2,0001,8001,6001,4001,2001,0008006004002000

土石流地すべりがけ崩れ

災害件数

年次

H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14

図 21 全国の治水関連の災害件数(平成 4 年~平成 14 年)12)

 行政では、これらの斜面災害に対してハード的な対策工(3章参照)を、優先度をつ

けて逐次実施している。しかし、斜面災害が発生する可能性がある箇所数は膨大である

ため、対策工をすべて行うことは現状では困難な状況にある。

 そのため、ハード的な対策工だけでなく、災害時に住民が安全に避難できるようなソ

フト的な対策も積極的に推進している。ソフト的な対策としては、住民に対して事前に

災害に関する情報を正確に伝える活動や地域の防災活動を積極的に行うとともに、住民

自らが災害を察知できるような情報活動の推進をはかっている。

 東京都建設局では、斜面災害の危険性が高い斜面(土砂災害危険箇所)に対して、概

ね5年サイクルで再調査をし、その結果を台帳として更新している。また、東京の斜面

災害に関する危険箇所マップは、東京都の土砂災害危険箇所を有する 57 区市町村を対

象として平成 15 年度末に発行される予定である。

 図 22 に斜面災害のソフト対策の事例を示す。

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<東京都の土砂災害情報相互通報システム整備事業例※>

 ここに示される事業例は、斜面防災に対するソフト対策のひとつとして①防災意識の

向上による土砂災害の低減、②危険を知り安全を確保する、③適切な避難体制の確立の

3つの基本方針からなるものである。

※東京都建設局 河川部計画課 作成資料の引用

図 22 斜面災害に対するソフト対策の一例

東  京  都

防災意識の向上による土砂災害の低減

□ 土砂災害講習会に関する支援  ・ 講習会資料(案)の作成

危険を知り安全を確保する

□ 危険箇所の把握と周知  ・ 危険箇所マップの作成  ・ 危険箇所看板の設置

適切な避難体制の確立

□ 行政・住民との連絡体制  ・ 連絡マニュアルなどの作成  ・ 水防災システム等の見直し  ・ 警戒避難基準雨量の検討

区 市 町 村

□ 土砂災害講習会の開催  ・講習会の実施

□ 避難場所・経路の選定  ・防災マップの作成・配布  ・危険箇所の周知

□ 住民との連絡体制の確立  ・連絡マニュアルの配布、運用  ・防災訓練への土砂災害の取込み  ・警戒避難基準雨量を基にした   体制確保

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5-2 斜面災害の事前予知 12)

 斜面災害の種類により違いがあるものの、災害の前兆現象は以下に示すようなことが

現れる可能性があります。このような状況が現れたら、いち早く避難しましょう。

○土石流、崩壊土砂流出

・山鳴りがする

・急に川の水が濁り流木が混ざってくる

・雨が降り続いているのに川の水位が下がる

・腐った土の臭いがする

○がけ崩れ(急傾斜地崩壊、山腹崩壊、落石)

・がけに割れ目が見える

・がけから水が湧き出てくる

・がけから小石がばらばら落ちてくる

・がけから木の根が切れる等の音がする

・沢や井戸の水が濁る

・地面にひび割れができる

・斜面から水がふきだしてくる

・家や擁壁に亀裂がはいる

・家や擁壁、樹木が傾く

 ○地すべり

土石流、崩壊土砂流出の前兆

地すべりの前兆

急傾斜地崩壊、山腹崩壊、落石の前兆

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5-3 斜面災害に対する心構え

 地すべりや崖崩れは、人間が誕生するずっと以前から地球上に存在していた。おそら

く、恐竜達も土砂災害に遭っていたはずである。

 これから先も、土砂災害外が無くなることはないと考えられる。では、我々はどの様

にして、この土砂災害と向き合って行かなければならないのだろう。

 図 11 でも明らかなように、土砂災害が発生する可能性のある場所はある程度限定さ

れる。従って、土砂災害の発生する可能性のある場所から離れて生活し、土砂災害が発

生しそうな箇所はなるべく人工的な手を入れなければ、我々は影響を受ける確率は低い

はずである。しかし、国土の狭い我が国では、困難な問題である。さらに現在も山麓部

の開発は進められており、危険箇所は増大する可能性が大きい。

 地すべり地の中には、農耕地として使用されている場所もある。これは、山地部にお

いて地すべりによって形成された地形は周囲の山地地形よりも斜面の傾斜が緩く、湧水

も豊富なためである。このように、地すべりと共存している例も認められるが、多くの

場合、土砂災害は尊い人命や財産を奪うことがあり、対策が必要である。

 地すべりや斜面崩壊の対策工は、明治以降、山麓の開発とともに発達した。その後、

戦後までは鉄道建設を中心に対策工法は進歩した。これは、鉄道を建設する際、路線は

なるべく直線にする必要があり、ある程度土砂災害の危険がある場所でもやむを得ず建

設する必要があったからである。近年は道路建設や住宅・団地建設を中心として、防護

工を施工して災害を防ぎ、人間の生活空間を拡大することに目的が変化している。

 しかし、対策工には多額の費用が必要で、図 11 に示す危険箇所全てに対して対策工

を行うのは、膨大な時間がかかる。従って、土砂災害の危険地域に住む人は、自分の住

んでいる地域の危険度を正確に認識し、危険が迫れば避難する体制を整えることが必要

である。各行政機関は、このようなソフト面の整備を行っている。また、自分の住んで

いる地域の土砂災害の履歴を知っておくことや、自分自身の目で前兆現象に注意、観察、

判断が出来るようにしておくことも必要であろう。

 私達は、普段から自分の住んでいる地域の斜面と向かい合い、図 23 に示すような自

分で出来る小さな対策から始め、斜面からの声(=注意信号)が聞こえる態勢を整えて

おけば、斜面と共存していくことも難しくはない。

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図 23 崖に対する対策事例 13)

謝 辞

 以下の方々には取材のご協力を頂き、貴重なご意見や資料等をご提供いただきまし

た。心から感謝いたします。

・東京都 建設局河川部      計画課計画調査係 係長 村山  眞 様

  主任 向山 公人 様

・東京都 西多摩建設事務所 工事第二課   河川設計係長 根津 和近 様

・東京都 産業労働局農林水産部 林務課治山係    係長 金子 義行 様

・東京都 林業事務所 森林保全課治山係       係長 酒井  繁 様

  主任 中山 隆文 様

・東京都 建設局道路管理部 保全課       課長補佐 高木 千太郎 様

・東京都 西多摩建設事務所 補修課     施設設計係長 早船 秀一 様

     田中 孝行 様

・東京都 土木技術研究所 地象部       主任研究員 中山 俊雄 様

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参考文献

1)全国地質調査業協会連合会:日本の地形・地質 安全な国土のマネジメントのために、

2001、鹿島出版会

2)古谷尊彦:ランドスライド-地すべり災害の諸相-、1996、古今書院

3)国土交通省砂防部:土砂災害防止法パンフレット、全国地すべりがけ崩れ対策協議会

4)藤田崇:地学ワンポイント3 地すべり-山地災害の地質学、1990、共立出版

5) 日本応用地質学会:山地の地形工学、2000、古今書院

6)東京都建設局河川課:東京の土砂災害危険箇所の分布、2003

7)東京都産業労働局農林水産部:山と人との安心ライフ、2000

8)東京都土木技術研究所:東京都奥多摩地域地質図、2003

9)日本河川協会:建設省河川砂防技術基準(案)同解説(調査編、計画編、設計編Ⅰ、Ⅱ)、

1997、山海堂

10)産業技術サービスセンター:斜面・土留め技術便覧、1991

11)小橋澄治:地すべり・斜面災害を防ぐために、1990、山海堂

12)国土交通省:あなたの周辺に潜む土砂災害の危険パンフレット、2002

13)東京都台東区役所:がけくずれによる災害を防ぎましょう

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技術ノートのあゆみ 技術ノートは、当協会技術委員会が技術情報誌として昭和62年12月に創刊号を発行して以来、平成14年10月までで第35号に達しています。 創刊号から第35号までの内容は、既刊リスト表の様になっています。トピックスの内容は、東京を舞台とする様々な話題の中に地形、地質との関連または基礎工学的な話を織り込みながらその歴史や現在を伝える内容となっています。各号とも写真や図にカラーをふんだんに使い、明るい紙面となっています。 技術ノートは、一般の方々に地質調査業を理解していただこうと始めた行事であります。今後も、たくさんの人たちに読んでもらえるよう、内容を充実させて地域社会に貢献していきたいと思います。 バックナンバー №26から最新号までは、(社)東京都地質調査業協会のホームページ(http://www.tokyo-geo.or.jp/)で読むことができます。

■技術ノート既刊リスト表(バックナンバー)

36 東京の斜面と災害H.16. 2

34 大江戸線H.14. 335 東京の野菜H.14. 10

No.123456789101112131415161718192021222324252627282930313233

技術トピックス東京都の地形区分図・地質断面図超高層ビルの地質の基礎形式

江戸城なりたち、その地形・地質との関係東京湾の埋立、その歴史

東京の川と水建築基礎工法の変遷、その地質との関係隅田川の橋、その地質と基礎形式

東京の地下鉄東京の石新東京都庁舎東京の遺跡東京の高速道路東京の温泉都内の庭園山手線

東京のベイエリア東京の下水道東京のエネルギー東京の山東京の上水道東京の低地東京の運河東京のトンネル東京の防災

東京の川 神田川東京の台地東京の道東京の水辺

東京のまちなみ首都圏を支える鉄道網

東京の公園東京のお酒

三宅島 -2000年噴火と火山災害-

発行年月S.62. 12S.63. 3S.63. 7S.63. 10H. 1. 3H. 1. 8H. 1. 12H. 2. 5H. 2. 11H. 3. 3H. 3. 7H. 3. 12H. 4. 3H. 4. 9H. 5. 3H. 5. 10H. 6. 3H. 6. 9H. 7. 3H. 7. 9H. 8. 3H. 8.10H. 9. 3H. 9. 9H.10. 3H.10. 10H.10. 12H.11. 3H.11. 10H.12. 3H.12. 9H.13. 3H.13. 9

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 今回は「東京の斜面と災害」をご紹介しました。

 「災害は忘れた頃にやってくる。」と言われるように、自然災害は身近に存在す

る割には、私達はその存在を忘れがちです。自然災害は、自然界の膨大なエネル

ギーを持って襲い掛かってきます。その巨大な力を制御することは困難です。し

かし、大昔から人々は自然の声に耳を傾け、その声を謙虚に聞くことにより自然

災害から逃れる知恵を身につけてきました。最近、我々はその知恵を忘れかけて

いるようです。

 もう一度、自然と謙虚に向かい合うことで、斜面災害とも共存できるかもしれ

ません。

 では、次回の技術ノートも、ご期待下さい。

技術委員会(向山、安冨、西原、木村、菊地、細根)

編 集 後 記