スピンコート法による ito/pet alq3/coumarin6 お...

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スピンコート法による ITO/PET 基板上への Alq 3 /coumarin6 および PEDOT/PSS 2 層有機薄膜の作製と評価 Preparation and Evaluation of Organic Bilayer Thin Films with Alq 3 /coumarin6 and PEDOT/PSS on ITO/PET Substrates Using Spin Coating Technique 日本大学大学院理工学研究科 電子工学専攻(山本研究室) M0031、中條妃奈 Electronic Engineering, (Yamamoto lab.) Graduate School of Science and Technology, Nihon University, M2, Hina Chujo Abstract:長寿命・高輝度な有機 EL 素子を簡易な方法で作製するため、低分子材料である Alq 3 を用いてスピンコ ート法によって作製した。Alq 3 をクロロホルムに溶解し成膜を行ったが、粘性が強く放射状の斑ができた。そこで アセトンによる希釈を行った。アセトンを 50 vol%加えることで粘性が弱くなり、放射状の斑をなくすことができた。 蛍光量子収率を向上させるため、Alq 3 coumarin6 をドープした。これによって PL 発光強度がドープ前に比べ、1.7 倍となった。これより蛍光量子収率が向上したと考えた。低電圧駆動にするため、正孔注入層として PEDOT/PSS 成膜した。PEDOT/PSS には固形物が含まれているため、ろ過をしなければならない。そこで、ろ過回数を 1, 2, 3 と条件を変えて成膜した。光学顕微鏡像より、固形物残留率を算出した。2, 3 回ろ過を行うことで固形物残留率が小 さくなり、 3 回ろ過を行うことで標準偏差も小さくなった。 Alq 3 /coumarin6 および PEDOT/PSS の積層膜を作製した。 J-V 測定を基板 3 箇所で行った。滴下部付近の最大電流密度が一番低く、0.005 mA/cm 2 10 V であった。滴下部から 一番離れた箇所での最大電流密度が最も高く、0.1 mA/cm 2 10 V であった。これは膜厚が原因であると考える。滴 下部では膜厚が厚くなり、離れるほど薄くなる。よって膜厚が薄い離れた箇所で、高い最大電流密度が得られた。 また、J-V 測定の結果より、電流の評価を行ったところ、滴下部から離れた場所では有機 EL の有機層内での電子の 伝導であるホッピング伝導が起こった。他の 2 箇所では、金属-有機層においてトンネル電流が流れた。 1. 背景 有機 EL(Electro Luminescence)は携帯電話の背面ディス プレイや携帯音楽プレイヤーのディスプレイなどに使用 されている [1] 。しかし有機 EL 素子の低寿命、作製プロセ スから大画面化が困難であることが問題点であった。現 在では材料開発の進展と素子構造の検討を行うことで、 低寿命の欠点を解決しつつあり、ディスプレイの最低要 求条件である初期輝度 300 cd/m 2 で半減寿命が 10,000 間以上を満足できるレベルにまで達している。 また新たな利用の試みも多数行われている。面発光で あることを利用し、白色を生み出すことにより、現在の 照明器具である蛍光灯、白熱灯、発光ダイオードに変わ る新しいタイプの光源として期待されている。点や線で の発光ではなく、面での発光を得ることにより、これま でにない照明として、日常生活や、ショーウィンドウを 飾るものとしての利用が考えられている。 有機 EL の素子自体が非常に薄型であることを利用し フレキシブルデバイスとしての応用も考えられている。 日常では欠かすことの出来ない紙の代替として電子ペー パーとして利用することが期待されている。紙にはない 優れた点として再度書き換えが可能であることや、フル カラー表示、動画表示をすること可能であることなどが 挙げられる。この点から大量の紙を使用せずに一つのデ バイスを手軽に持ち歩くことができる。 多くの利点がある有機 EL ではあるが、量産のための 製造プロセスの開発、発光効率の改善、より長寿命化が 求められている。 有機 EL 薄膜の材料には大きく分けて、低分子材料と 高分子材料の 2 種類がある。低分子材料を用いた有機 EL 薄膜は、一般的に真空蒸着法で作製する [2] 。低分子材料 は成膜性が高い [3] 、発光輝度 [3] ・効率が高い [3] 、長寿命 [3] といった特徴がある。しかし、真空蒸着法を用いること で材料の使用効率が低くなり、装置コストが高くなる。 高分子材料を用いた有機 EL 薄膜は、一般的にウェット プロセスで作製する [4] 。高分子材料は低分子材料に比べ 輝度・寿命が比較的低い材料である [5] 。ウェットプロセ スは、低コスト、基板の大型化が容易、簡易な製造プロ セス、材料の使用効率が高いといった特徴がある。ウェ ットプロセスにはディップコート法やスピンコート法等 がある。ディップコート法とは、基板を垂直あるいは一 定の角度を持たせて溶液に浸漬し、任意の一定速度で上 方に引き上げ、基板付着の塗膜を乾燥させ成膜する方法 である。スピンコート法は、高速回転する基板に塗布液 を垂らし、遠心力で塗布液を基板全体に広げて均一な膜 を形成する方法である [6] 。長時間浸漬させないため積層 膜の成膜も可能である。 また、ホスト系材料にゲスト系材料である蛍光色素を ドープすることで、蛍光量子収率を向上させることがで きる [7] [8] [9] 。ホスト材料に蛍光色素を微量添加すると、蛍 光色素間の分子間相互作用が抑制され希薄溶液中と類似 した分子状態を実現できる。このとき、ホスト‐ゲスト 系材料の組み合わせを適切に行えば、ホスト分子の励起 エネルギーがゲスト分子へ無放射的に移動しゲスト分子 に起因した発光と蛍光量子収率の飛躍的な向上が観測さ れる。また、正孔注入層を設けることで、陽極界面での 注入障壁の低減による低電圧駆動が可能となる。 2. 目的 本研究では、成膜性が高い、発光輝度・効率が高い、 長寿命といった特徴がある低分子材料を用いた有機 EL 薄膜の作製を行った。しかし、一般的である真空蒸着法 では、使用効率が低くなり、装置コストが高くなってし まう。そこで、ウェットプロセスによる成膜を行うこと にした。ウェットプロセスにはディップコート法やスピ ンコート法があるが、積層膜を成膜するにはスピンコー トでなければならないため、スピンコート法による成膜 を行った。また、ホスト材料に蛍光色素を微量添加する と、蛍光色素間の分子間相互作用が抑制するとともに、 蛍光量子収率を向上させるため、ゲスト材料を用いた膜 の成膜も行った。 3. 実験方法・条件 本研究で作製した素子の構造を図 1 に示す。また、作 製した素子のバンド構造を図 2 に示す。発光層に低分子

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Page 1: スピンコート法による ITO/PET Alq3/coumarin6 お …yamanoya.ecs.cst.nihon-u.ac.jp/Thesis/中條.pdfOxide/Polyethylene Terephthalate)基板(シート膜厚125 m、 ITO 膜厚25

スピンコート法による ITO/PET 基板上への

Alq3/coumarin6 および PEDOT/PSS 2 層有機薄膜の作製と評価

Preparation and Evaluation of Organic Bilayer Thin Films

with Alq3/coumarin6 and PEDOT/PSS on ITO/PET Substrates Using Spin Coating Technique

日本大学大学院理工学研究科 電子工学専攻(山本研究室)

M0031、中條妃奈

Electronic Engineering, (Yamamoto lab.)

Graduate School of Science and Technology, Nihon University,

M2, Hina Chujo

Abstract:長寿命・高輝度な有機 EL 素子を簡易な方法で作製するため、低分子材料である Alq3を用いてスピンコート法によって作製した。Alq3 をクロロホルムに溶解し成膜を行ったが、粘性が強く放射状の斑ができた。そこでアセトンによる希釈を行った。アセトンを 50 vol%加えることで粘性が弱くなり、放射状の斑をなくすことができた。蛍光量子収率を向上させるため、Alq3に coumarin6 をドープした。これによって PL 発光強度がドープ前に比べ、1.7

倍となった。これより蛍光量子収率が向上したと考えた。低電圧駆動にするため、正孔注入層として PEDOT/PSS を成膜した。PEDOT/PSS には固形物が含まれているため、ろ過をしなければならない。そこで、ろ過回数を 1, 2, 3 回と条件を変えて成膜した。光学顕微鏡像より、固形物残留率を算出した。2, 3 回ろ過を行うことで固形物残留率が小さくなり、3 回ろ過を行うことで標準偏差も小さくなった。Alq3/coumarin6 および PEDOT/PSS の積層膜を作製した。J-V 測定を基板 3 箇所で行った。滴下部付近の最大電流密度が一番低く、0.005 mA/cm

2@10 V であった。滴下部から一番離れた箇所での最大電流密度が最も高く、0.1 mA/cm

2@10 V であった。これは膜厚が原因であると考える。滴下部では膜厚が厚くなり、離れるほど薄くなる。よって膜厚が薄い離れた箇所で、高い最大電流密度が得られた。また、J-V 測定の結果より、電流の評価を行ったところ、滴下部から離れた場所では有機 EL の有機層内での電子の伝導であるホッピング伝導が起こった。他の 2 箇所では、金属-有機層においてトンネル電流が流れた。

1. 背景

有機 EL(Electro Luminescence)は携帯電話の背面ディスプレイや携帯音楽プレイヤーのディスプレイなどに使用されている[1]。しかし有機 EL 素子の低寿命、作製プロセスから大画面化が困難であることが問題点であった。現在では材料開発の進展と素子構造の検討を行うことで、低寿命の欠点を解決しつつあり、ディスプレイの最低要求条件である初期輝度 300 cd/m

2で半減寿命が 10,000 時間以上を満足できるレベルにまで達している。

また新たな利用の試みも多数行われている。面発光であることを利用し、白色を生み出すことにより、現在の照明器具である蛍光灯、白熱灯、発光ダイオードに変わる新しいタイプの光源として期待されている。点や線での発光ではなく、面での発光を得ることにより、これまでにない照明として、日常生活や、ショーウィンドウを飾るものとしての利用が考えられている。

有機 EL の素子自体が非常に薄型であることを利用しフレキシブルデバイスとしての応用も考えられている。日常では欠かすことの出来ない紙の代替として電子ペーパーとして利用することが期待されている。紙にはない優れた点として再度書き換えが可能であることや、フルカラー表示、動画表示をすること可能であることなどが挙げられる。この点から大量の紙を使用せずに一つのデバイスを手軽に持ち歩くことができる。

多くの利点がある有機 EL ではあるが、量産のための製造プロセスの開発、発光効率の改善、より長寿命化が求められている。

有機 EL 薄膜の材料には大きく分けて、低分子材料と高分子材料の 2 種類がある。低分子材料を用いた有機 EL

薄膜は、一般的に真空蒸着法で作製する[2]。低分子材料は成膜性が高い[3]、発光輝度[3]・効率が高い[3]、長寿命[3]

といった特徴がある。しかし、真空蒸着法を用いることで材料の使用効率が低くなり、装置コストが高くなる。高分子材料を用いた有機 EL 薄膜は、一般的にウェットプロセスで作製する[4]。高分子材料は低分子材料に比べ輝度・寿命が比較的低い材料である[5]。ウェットプロセスは、低コスト、基板の大型化が容易、簡易な製造プロ

セス、材料の使用効率が高いといった特徴がある。ウェットプロセスにはディップコート法やスピンコート法等がある。ディップコート法とは、基板を垂直あるいは一定の角度を持たせて溶液に浸漬し、任意の一定速度で上方に引き上げ、基板付着の塗膜を乾燥させ成膜する方法である。スピンコート法は、高速回転する基板に塗布液を垂らし、遠心力で塗布液を基板全体に広げて均一な膜を形成する方法である[6]。長時間浸漬させないため積層膜の成膜も可能である。

また、ホスト系材料にゲスト系材料である蛍光色素をドープすることで、蛍光量子収率を向上させることができる[7] [8] [9]。ホスト材料に蛍光色素を微量添加すると、蛍光色素間の分子間相互作用が抑制され希薄溶液中と類似した分子状態を実現できる。このとき、ホスト‐ゲスト系材料の組み合わせを適切に行えば、ホスト分子の励起エネルギーがゲスト分子へ無放射的に移動しゲスト分子に起因した発光と蛍光量子収率の飛躍的な向上が観測される。また、正孔注入層を設けることで、陽極界面での注入障壁の低減による低電圧駆動が可能となる。

2. 目的

本研究では、成膜性が高い、発光輝度・効率が高い、長寿命といった特徴がある低分子材料を用いた有機 EL

薄膜の作製を行った。しかし、一般的である真空蒸着法では、使用効率が低くなり、装置コストが高くなってしまう。そこで、ウェットプロセスによる成膜を行うことにした。ウェットプロセスにはディップコート法やスピンコート法があるが、積層膜を成膜するにはスピンコートでなければならないため、スピンコート法による成膜を行った。また、ホスト材料に蛍光色素を微量添加すると、蛍光色素間の分子間相互作用が抑制するとともに、蛍光量子収率を向上させるため、ゲスト材料を用いた膜の成膜も行った。

3. 実験方法・条件

本研究で作製した素子の構造を図 1 に示す。また、作製した素子のバンド構造を図 2 に示す。発光層に低分子

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材料である Alq3を用いた。Alq3は電子輸送性が高いため、ホスト材料にもなる。蛍光量子収率を向上させるため、Alq3のゲスト材料の 1つである coumarin6をドープした。coumarin6 のバンドギャップが Alq3のバンドギャップよりも小さいため、coumarin6 にキャリアが留まりやすくなり、蛍光量子収率が向上する。また、低電圧駆動のため、正孔注入層である PEDOT/PSS を積層した。陰極には Ag

を用いた。

3.1 Alq3溶液の成膜

Alq3(ALDRICH,MKBD4383V, C27H18AlN3O3, 99.995%)溶液作製条件を表 1 に示す。表 1 に示した条件で Alq3を秤量した。Alq3をクロロホルム(関東化学株式会社,

07278-00,CHCl3, 99.0%)に溶解し、超音波分散を 20 分間行った[10]。

表 1 Alq3溶液の作製条件

Alq3 1 wt%

クロロホルム 99 wt%

作製した溶液をパーソナルコンピュータのファンを用いて成膜した。基板には ITO /PET(Indium Tin

Oxide/Polyethylene Terephthalate)基板(シート膜厚 125 m、ITO 膜厚 25 nm、シート抵抗 250 Ω/sq、東洋紡株式会社製)

を用いた。基板を紙で挟み、ITO 面を下にした状態でペーパーカッターにセットし、25×25 mm

2にカットした。成膜時の回転数および溶液の滴下量を表 2 に示す。基板をファンの中心に両面テープで固定し、回転させた。回転している基板に溶液を滴下し、10 秒後に停止した。

表 2 Alq3溶液の成膜条件

回転数 (rpm) 滴下量 (l)

3000 20

3000 30

2500 30

3.2 Alq3溶液の希釈

溶液希釈の条件を表 3 に示す。表 1 の通りに作製した溶液をアセトンで希釈することで、粘性を弱くし、基板全体により均等に成膜できるようにした。

表 3 Alq3溶液の希釈条件

Alq3溶液 (vol%) アセトン (vol%)

90 10

50 50

10 90

表 1 に示した条件で Alq3を秤量した後、クロロホルム(関東化学株式会社, 07278-00,CHCl3, 99.0%)に溶解し、超音波分散を 20 分間行った。この溶液に対して、表 3 に示した条件で、それぞれアセトンを加え希釈し、さらに 20 分間超音波分散を行った。基板をファンの中心に両面テープで固定し、回転させた。回転している基板に溶液を滴下し、10 秒後に停止した。回転数と滴下量については 3.1

において、凝集体が少なかった条件を用いて成膜を行った。

3.3 coumarin6 のドープ

Alq3のドープ材料の 1 つである coumarin6 を用いた。溶液作製条件を表 4, 5 に示す。

表 4 Alq3/coumarin6 溶液の作製条件-1

Alq3 99.5 mol%

coumarin6 0.5 mol%

表 5 Alq3/coumarin6 溶液の作製条件-2

Alq3/coumarin6 1 wt%

クロロホルム 99 wt%

表 4 に示した条件で、Alq3および coumarin6 を秤量した。表 5 に示した条件で、Alq3/coumarin6 をクロロホルムに溶解し、超音波分散を 20 分間行った。3.2 において希釈量が適当だった条件を用いて希釈し、さらに 20 分間超音波分散を行った。基板をファンの中心に両面テープで固定し、回転した。回転している基板に溶液を滴下し、10 秒後に停止した。回転数と滴下量については 3.1 において、凝集体がより少なかった条件を用いて成膜を行った。

3.4 PEDOT/PSS 溶液の成膜

正孔注入層として、PEDOT/PSS (ALDRICH,

Lot#MKBB0290, C20H18N2O2S, 98%)を用いた。PEDOT/PSS

溶液の作製条件を表 6 に示す。

表 6 PEDOT/PSS 溶液の作製条件

PEDOT/PSS 90 wt%

IPA 10 wt%

表 6 に示した条件で PEDOT/PSS に IPA(関東化学株式会社, Lot#108N1015, (CH3)2CHOH)を加え、20 分間攪拌した[11]。固形物を除去するため、フィルターユニット(フィルター材質:親水性 PVDF、孔径 0.45 m、Millipore 社製)とシリンジを用いてろ過した。このとき、ろ過回数を 1, 2, 3 回とした。基板をファンの中心に両面テープで固定し、3000 rpm で回転させた。回転している基板に溶液を 50 l 滴下し、60 秒後に停止した。100˚C のホットプレートで 10 分間乾燥した。

3.5 2 層有機薄膜の作製

作製した素子の構造を図 3 に示す。図中の陽極である

図 1 有機 ELの構造。基板には ITO/PET 基板を用い

た。2 層構造にするため、正孔注入層として、

PEDOT/PSS を用いた。発光層および電子輸送層とし

て、Alq3に coumarin6 をドープした溶液を用いて、正

孔注入層に上に積層した。陰極には Ag を用いた。

図 2 素子のバンド構造。Alq3にドープした coumarin6の

LUMOがAlq3とのLUMOより高いため、電子は coumarin6

に留まる。Alq3のHOMOと coumarin6のHOMOが非常に

近いため、正孔は簡単に coumarin6に供給される。

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ITO と陰極である Ag が交わっている部分に電流が流れる。

図 3 のような構造にするため、ITO のエッチングを行った。ITO/PET 基板を ITO 面が上になるようにビーカーに入れ、アセトン、アセトン、エタノールで、5 分、15 分、5 分、超音波洗浄を行った。スピンコーターのヘッドに基板を乗せた。1st を 500 rpm, 5 s、2nd を 5000 rpm, 30 s

に回転数を設定した。レジスト液(OFPR-800:エチルセロソルブアセテート)を 6 滴、基板上に滴下し、Start を押して成膜した。基板をシャーレに入れ、90°C に設定した恒温槽で 20 分間乾燥した。マスクを図 4 に示す。紫外線フォトリソグラフィ装置(ミカサ株式会社製:マニプレーターMA-1s 型)にマスクと基板を接地した。紫外線を

2.5 s 照射することで、図 4 の黒色部分のレジスト膜が現像時に残る。ビーカーに現像液を入れ、1 分間浸した。図 4 中の灰色部分のレジスト膜を除去した。純水で約 1

分間リンスした。100°C に設定した恒温槽で 15 分間乾燥した。塩酸(関東化学株式会社, 18078-00,HCl, 35.0%)1N(1L

中に 1 mol の酸)に基板を 2 分間浸し、ITO をエッチングした[12]。純水で 2 回リンスした。剥離液に基板を入れ、2

分間超音波洗浄することで、レジスト膜を剥離した。純水でリンスした。

エッチングした ITO 基板に、3.4 の通りに PEDOT/PSS 溶液を作製し、成膜した。乾燥後、3.5 の通りにAlq3/coumarin6 溶液を作製し、成膜した。

蒸着に用いたマスクを図 5 に示す。正孔注入層および発光層を成膜した後、マスクを用いて Ag を真空蒸着し、陰極を形成した。マスクの白い部分が空いており、この部分に Ag が蒸着される。

4. 評価方法・条件

4.1 Alq3溶液の成膜

光学顕微鏡(カイザー社製の HoloLab5000R)を用いて、有機 EL 薄膜の凝集体の有無を確認した。対物レンズは10 倍のレンズを用いた。

フォトルミネセンス(Photo Luminescence:PL)(KIMMON

社製,He-Cd レーザー325 nm)装置の全体像を図 6 に示す。PL による発光の確認を行った。

4.2 Alq3溶液の希釈

PL 装置を用いて、発光部に斑がないか観察した。

4.3 coumarin6 のドープ

光学顕微鏡を用いて、有機 EL 薄膜の凝集体の有無を確認した。対物レンズは 10 倍のレンズを用いた。

また、PL 装置およびファイバマルチチャンネル分光器(Ocean Photonics 社製, USB4000)を用いて発光および発光波長・発光強度を測定した。

4.4 PEDOT/PSS 溶液の成膜

固形物残留率の算出に用いた式を式(1)に示す。素子1 つにつき 25 箇所の光学顕微鏡像を観察し、固形物残留率を算出した。

4.5 2 層有機薄膜の作製

作製した素子の 3 箇所において、J-V 測定を行った。測定には KEITHLEY6430 を用いた。

J-V 測定の結果を用いて電流の評価を行った。行った評価は、ショットキー機構・トンネル電流・ホッピング伝導の 3 種類である。

ショットキー機構は、熱励起された電子が金属から有機物に注入されるときに起こる[13]。ショットキー機構のモデルを図 7 に示す。

(1) 100の面積観察した光学顕微鏡像

固形物の面積固形物残留率

図 6 PL装置

(a)

(b)

図 3 (a) 作製した素子の表面の構造図。ITO と

Ag が交差している箇所の電流が流れる。(b) (a)

の破線部分の断面図。

図 4 フォトリソグラフィ法で用いたマスク。 マスクの灰色の部分の ITO がエッチングされる。

図 5 Ag 蒸着時に用いたマスク。白い部分が開いている マスク。このマスクを基板に設置することで、この部分にAg が蒸着される。

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ショットキー放出の式を式(2)に示す。

(2)

J は電流密度、E は電界である。今回、E の代わりに電圧V を用いて評価を行った。 *m は有効質量、q は電荷、

B

はエネルギー障壁、 はプランク定数である。lnJ-V1/2

をプロットし、右上がりの直線になった場合、ショットキー放出が起こっているといえる。

トンネル電流は、金属と有機層の障壁が十分小さいときに流れる電流である[13][14]。トンネル電流のモデルを図8 に示す。

トンネル電流の式を式(3)に示す。

(3)

ln(J/V2)-1/V をプロットし、右下がりの直線になった場合、

トンネル電流が流れているといえる。

有機 EL では、有機層内の電子の伝導はホッピング伝導である[15]。ホッピング伝導のモデルを図 9 に示す。

ホッピング伝導は Pool-Frenkel の式を用いることで評価できる。Pool-Frenkel の式を式(4)に示す。

(4)

lnJ/V-V1/2をプロットし、右上がりの直線になった場合、

ホッピング伝導が起こっているといえる。

5. 結果

5.1 Alq3溶液の成膜

Alq3溶液を成膜した素子の光学顕微鏡像を観察した。観察した基板の位置を図 10 に示す。20 l-3000 rpm で成膜した素子の光学顕微鏡像を図 11, 12 に示す。どちらからも、10 m 程の凝集体を多数確認した。

30 l- 3000 rpm で成膜した素子の光学顕微鏡像を図 13,

14 に示す。図 11, 12 で確認したような凝集体は図 13, 14

のどちらにもなかった。30 l- 2500 rpm で成膜した素子の光学顕微鏡像を図 15, 16 に示す。図 11, 12 で多数確認したような凝集体を図 16 で確認した。

kT

qEqATJ

iB)4(

exp2

Eq

qmEJ B

3

)(24exp

23*

2

kT

qEqEJ

iB )4(exp

図 10 光学顕微鏡像を観察した基板中の位置。それぞれの素子について a, b の 2 箇所の観察結果を示す。

図 7 ショットキー機構のモデル

図 8 トンネル電流のモデル

図 9 ホッピング伝導のモデル

図 11 20 l-3000 rpm で成膜した素子の a 点の光学顕微鏡像観察結果。10 m 程の凝集体を多数観察した。

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30l-3000rpm で成膜した素子の PL 発光の結果を図 17

に示す。Alq3の発光色である緑色に発光した。しかし、基板の端部分で放射状の斑を確認した。

5.2 Alq3溶液の希釈

アセトン(10 vol%)で希釈した素子の PL 発光の結果を図 18 に示す。Alq3の発光色である緑色に発光した。しかし、基板の端部分で放射状の斑を確認した。アセトン(50

vol%)で希釈した素子の PL 発光の結果を図 19 に示す。Alq3の発光色である緑色に発光した。また、基板端部分に放射状の斑ができなかった。アセトン(90 vol%)で希釈した素子の PL 発光の結果を図 20 に示す。Alq3の発光色である緑色に発光しなかった。

図 12 20 l-3000 rpmで成膜した素子の b点の光学顕微鏡像観察結果。10 m 程の凝集体を多数観察した。

図 15 30 l-2500 rpmで成膜した素子の a点の光学顕微鏡像観察結果。図 11, 12 で観察したような凝集体はなかった。

図 16 30 l-2500 rpm で成膜した素子の a 点の光学顕微鏡像観察結果。図 11, 12 で観察したような凝集体を観察した。

図 17 3000 rpm-30 l で成膜した素子の PL 発光の結果。基板端部分に放射状の斑を確認した。

図 18 アセトン(10 vol%)で希釈した素子の PL 発光の結果。基板端部分に放射状の斑を確認した。

図 13 30 l-3000 rpm で成膜した素子の a 点の光学顕微鏡像観察結果。図 11, 12 で観察したような凝集体はなかった。

図 14 30 l-3000 rpm で成膜した素子の b 点の光学顕微鏡像観察結果。図 11, 12 で観察したような凝集体はなかった。

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5.3 coumarin6 のドープ

coumarin6 をドープした溶液を成膜した素子の PL 発光を図 21 に示す。coumarin6 の発光色である緑色に発光した。図 22 に発光波長測定の結果を示す。ドープ前では493.33 nm、ドープ後では 506.93 nm でピークを確認した。ドープ後では、ドープ前に比べ 1.7 倍となった。

5.4 PEDOT/PSS 溶液の成膜

PEDOT/PSS 溶液を成膜した素子の光学顕微鏡像観察箇所を図 20に示す。基板中の 25箇所において観察した。そのうちの 1 枚を図 21 に示す。中央右寄りにある黒い塊が固形物である。この固形物の面積を用いて式(1)により算出を行った結果を図 22 に示す。1 回のろ過に比べ、2, 3

回ろ過を行うことで、固形物残留率が大きく減っている。また、3 回ろ過した方が、2 回ろ過した場合に比べ、標準偏差が小さくなっている。

図 19 アセトン(50 vol%)で希釈した素子の PL 発光の結果。基板端部分に放射状の斑ができなかった。

図 20 アセトン(90 vol%)で希釈した素子の PL 発光の結果。Alq3の発光色である緑色に発光しなかった。

図 21 coumarin6 をドープした素子の PL 発光の結果。coumarin6 の発光色である緑色に発光した。

図 22 PL 発光波長測定結果。ドープ前では 493.33 nmにピークを確認した。ドープ後では 506.93 nm にピークを確認した。また、ドープ後の発光強度がドープ前の 1.7 倍となった。

図 20 光学顕微鏡像観察箇所。基板中の 25 箇所において観察を行った。

図 21 光学顕微鏡像のうちの 1 枚。光学顕微鏡像の中央右寄りにある黒いものが残留した固形物である。

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4.5 2 層有機薄膜の作製

作製した 2 層有機薄膜の 3 箇所で J-V 測定を行った。測定箇所を図 23 に示す。全ての箇所の面積は等しく、

1 mm2である。“A”の測定結果を図 24 に示す。“A”では、

1 V から電流が流れ始め、10 V で最大電流密度は

0.1 mA/cm2となった。“B”の測定結果を図 25 に示す。“B”

では、5 V から電流が流れ始め、10 V で最大電流密度は0.035 mA/cm

2となった。“C”の測定結果を図 26 に示す。“C”では、2 V から電流が流れ始め、10 V で最大電流密度は 0.005 mA/cm

2となった。

J-V 測定の結果から、電流の評価を行った。まず、“A”

の電流の評価を行う。ショットキー機構の評価結果を図27 に示す。右上がりとなり、さらに直線となった。つまり、金属から有機層への電子の注入がショットキー機構によるものであった。トンネル電流の評価結果を図 28 に示す。右下がりにはなっているが、直線とはならなかった。つまり、金属から有機層へ電子はトンネルしなかった。ホッピング伝導の評価結果を図 29 に示す。右上がりとなり、さらに直線となった。つまり、有機層内において、電子はホッピング伝導していた。

図 22 ろ過回数による固形物残留率の算出結果。2, 3 回ろ過を行うことで、固形物残留率が大きく減っている。また、3 回ろ過した方が、2 回ろ過した場合に比べ、標準偏差が小さくなっている。

図 23 測定箇所。基板 3 箇所で J-V 測定を行った。全ての箇所の面積は等しく、1 mm2である。

図 24 “A”の J-V 測定結果。1 V から電流が流れ始め、10 V で最大電流密度は 0.1 mA/cm2となった。

図 25 “B”の J-V 測定結果。5 V から電流が流れ始め、10 V で最大電流密度は 0.035 mA/cm2となった。

図 26 “C”の J-V 測定結果。2 V から電流が流れ始め、10 V で最大電流密度は 0.005 mA/cm2となった。

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“B”の電流の評価を行う。ショットキー機構の評価結果を図 30 に示す。右上がりではあるが、直線とはならなかった。つまり、金属から有機層への電子の注入がショットキー機構によるものではなかった。トンネル電流の評価結果を図 31 に示す。高電圧側で右下がりの直線となった。つまり、金属から有機層へ電子がトンネルした。ホッピング伝導の評価結果を図 32 に示す。右上がりではあったが、直線とはならなかった。つまり、有機層内において、電子はホッピング伝導しなかった。

“C”の電流の評価を行う。ショットキー機構の評価結果を図 33 に示す。右上がりではあるが、直線とはならなかった。つまり、金属から有機層への電子の注入がショットキー機構によるものではなかった。トンネル電流の評価結果を図 34 に示す。高電圧側で右下がりの直線となった。つまり、金属から有機層へ電子がトンネルした。ホッピング伝導の評価結果を図 35 に示す。右上がりではあったが、直線とはならなかった。つまり、有機層内において、電子はホッピング伝導しなかった。

図 27 “A”のショットキー機構の評価結果。右上がりで、直線となった。

図 28 “A”のトンネル電流の評価結果。右下がりにはなっているが、直線とはならなかった。

図 29 “A”のホッピング伝導の評価結果。右上がりとなり、さらに直線となった。

図 30 “B”のショットキー機構の評価結果。右上がりであるが、直線とならなかった。

図 31 “B”のトンネル電流の評価結果。高電界側で右下がりの直線とはなった。

図 32 “B”のホッピング伝導の評価結果。右上がりであるが、直線ではなかった。

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6. 考察

6.1 Alq3溶液の成膜

図 8, 9, 10 より、3000 rpm-30 l で成膜した素子において、凝集体がなかったことから、この条件を用いて成膜を行うことにした。

6.2 Alq3溶液の希釈

図 12 より、アセトン(10 vol%)で希釈した素子では、放射状の斑を確認した。これは、希釈量が足りていないためと考える。

図 13 より、アセトン(50 vol%)で希釈した素子では、放射状の斑はなく、Alq3の発光色である緑色に発光していたので、希釈量が適当であると考える。

図 14 より、アセトン(90 vol%)で希釈した素子では、Alq3の発光色である緑色に発光しなかったことから、希釈量が多かったと考える。

これらの結果から、希釈量は 50 vol%が適当であると考える。

6.3 coumarin6 のドープ

ドープをすることで、ドープ前に比べ発光強度が 1.7

倍になったことから、coumarin6 をドープすることで、蛍光量子収率が向上したと考える。

6.4 PEDOT/PSS 溶液の成膜

2, 3 回ろ過を行うことで、固形物残留率の平均が小さくなったが、3回では標準偏差が小さくなったことから、ろ過回数は 3 回行うことにした。

6.5 2 層有機薄膜の作製

J-V 測定の結果を表 7 にまとめる。“C”が一番低い電流密度となり、“A”が一番高い電流密度となった。C 付近に溶液を滴下したことで、滴下部の膜厚が一番厚くなり、滴下部から離れた“A”では薄くなったためと考える。

表 7 J-V 測定結果

測定箇所 しきい電圧 最大電流密度 C からの距離

A 1 V 0.1 mA/cm2@10 V 12 mm

B 5 V 0.035 mA/cm2@10 V 6 mm

C 2 V 0.005 mA/cm2@10 V ‐

また、電流の評価を行った結果より、高い電流密度を得た“A”では、金属から有機層への電子の注入はショットキー機構によるものであることが分かった。また、有機層内での電子の伝導はホッピング伝導であることが分かった。有機 EL において、有機層内での電子の伝導はホッピング伝導であると言われている。“A”においては、有機EL の電子の伝導と同じ電子の伝導を確認できた。“B”,

“C”では、ホッピング伝導は確認できなかったが、金属から有機層への電子の注入がトンネル電流であることがわかった。

作製した素子において、EL 発光は確認できなかった。表 7 に示した通り、素子の測定箇所によってしきい電圧が異なった。同じ溶液を成膜しているため、図 2 のバンド構造に示す通り、しきい電圧はどの箇所でも一致するはずである。しかし、測定箇所によって異なったことから、作製過程あるいは測定過程で膜質に影響が与えられ、膜質が変化したと考える。また、一般的に有機 EL は数十 mA/cm

2で発光するが、測定結果より、最大電流密度は 0.1 mA/cm

2であった。さらに電圧を印加する必要があるが、膜質がすでに変化しているため、その原因を突き止めることが必要である。

7.まとめ

長寿命・高輝度な有機 EL 素子を簡易な方法で作製するため、低分子材料である Alq3を用いてスピンコート法によって作製した。Alq3をクロロホルムに溶解し成膜を行ったが、粘性が強く放射状の斑ができてしまった。そこでアセトンによる希釈を行った。アセトンを 50 vol%加える事で粘性が弱くなり、放射状の斑をなくすことができた。

蛍光量子収率を向上させるため、Alq3に coumarin6 をドープした。ドープすることで、ドープ前に比べ PL 発光強度が 1.7 倍となった。これより蛍光量子収率が向上したと考える。

低電圧駆動にするため、正孔注入層として PEDOT/PSS

を成膜した。PEDOT/PSS には固形物が含まれているため、ろ過をしなければならない。そこで、ろ過回数を 1, 2, 3

回と条件を変えて成膜した。光学顕微鏡像より、固形物残留率を算出した。2, 3 回ろ過を行うことで固形物残留率が小さくなり、3 回ろ過を行うことで標準偏差も小さくなった。

Alq3/coumarin6 および PEDOT/PSS の積層膜を作製した。J-V 測定を基板 3 箇所で行った。Ag を真空蒸着することで、陰極を形成した。滴下部付近の最大電流密度が一番低く、0.005 mA/cm

2@10 V であった。滴下部から一番離

図 33 “C”のショットキー機構の評価結果。右上がりであるが、直線とならなかった。

図 34 “C”のトンネル電流の評価結果。高電界側で右下がりの直線とはなった。

図 35 “C”のホッピング伝導の評価結果。右上がりであるが、直線ではなかった。

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れた箇所での最大電流密度が最も高く、0.1 mA/cm2@

10 V であった。これは膜厚が原因であると考える。滴下部では膜厚が厚くなり、離れるほど薄くなる。よって滴下部から離れた箇所、つまり膜厚が薄い箇所で、高い最大電流密度が得られた。また、J-V 測定の結果より、電流の評価を行った。滴下部から離れた箇所では金属から有機層への電子の注入がショットキー機構であることが分かった。また有機層内での電子の伝導はホッピング伝導であった。他の 2 箇所では、金属から有機層への電子の注入はトンネル電流であった。

作製した素子において、EL 発光は確認できなかった。素子の測定箇所によってしきい電圧が異なっており、膜質が異なっているためと考える。しかし、本実験で、滴下部から離れた箇所において、有機 EL の電子の伝導であるホッピング伝導を確認することができた。

8. 参考文献

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