四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ learning … p.2 [100%] 886 fig. 1....

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885 新潟薬科大学薬学部(〒956 8603 新潟市東島 265 1現住所:〒950 2045 新潟市五十嵐東 2 3 6 本総説は,平成 17 年度退官にあたり在職中の業績を中 心に記述されたものである. 885 YAKUGAKU ZASSHI 126(10) 885899 (2006) 2006 The Pharmaceutical Society of Japan Reviews四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ 増田康輔 Learning Toxicology from Carbon Tetrachloride-induced Hepatotoxicity Yasusuke MASUDA Faculty of Pharmacy, Niigata University of Pharmacy and Applied Life Sciences, 265 1 Higashi-jima, Niigata City 956 8603, Japan (Received June 5, 2006) The mechanism of carbon tetrachloride (CCl 4 )-induced hepatotoxicity, especially necrosis and fatty liver, has long been a challenging subject of many researchers from various ˆelds over the past 50 years. Even though the mechanisms of tissue damages are diŠerent among chemicals and aŠected tissues, CCl 4 has played a role as a key substance of tissue injury. A number of studies have been conducted and various hypotheses have been raised. As a result, several im- portant basic mechanisms of tissue damages have emerged, involving metabolic activation, reactive free radical metabo- lites, lipid peroxidation, covalent binding and disturbance of calcium homeostasis. Recent studies also revealed in‰am- mation and regeneration as important modiˆcation factors in the tissue injury. The author attempted to summarize the history of CCl 4 research with some emphasis on the experiments done by the author and his colleagues. Their studies with isolated perfused rat liver suggest that covalent binding of CCl 4 metabolites rather than lipid peroxidation has a sig- niˆcant role in the production of centrilobular necrosis following CCl 4 administration. Further studies are necessary to unveil detailed mechanisms of hepatocyte necrosis induced by CCl 4 . Key wordscarbon tetrachloride hepatotoxicity; centrilobular necrosis; fatty liver; lipid peroxidation; covalent bind- ing 1. CCl 4 肝障害とは CCl 4 19 世紀中頃に麻酔薬として用いられたが, CHCl 3 よりも麻酔作用が弱く,肝障害作用が強い ため麻酔薬としての使用は途絶えた.その後,駆虫 薬(鉤虫)として一時経口使用されたことがあり, また工業溶媒中毒などで肝障害毒として再び注目さ れるようになった. 1) CCl 4 は種々の動物で肝臓に激しい障害を起こ す.ラットにおける急性肝障害では,通常 24 時間 後には中心静脈周辺の肝細胞壊死,白血球の浸潤, 脂肪沈着とともに血漿トランスアミナーゼ活性が著 しく上昇する.肝臓は膨れて変色する.48 時間後 には細胞分裂が盛んになり,72 時間後にはほぼ正 常の組織像に回復する.一方,週 23 回,2 ヵ月 ほどの連続投与により,肝線維化を経て肝硬変に至 る(Figs. 1, 2).したがって,CCl 4 は急性肝障害, 肝硬変,肝再生のメカニズムの研究や,病態モデル として新薬開発に広く利用されている. CCl 4 肝障害メカニズムの動物での研究は 1920 代から始まり, 2) 現在も続いている.その報告は膨 大な数に上り,いくつかの仮説が現れて議論されて きた. 以下,筆者らの実験を織り交ぜながら,CCl 4 性肝障害メカニズムの研究の歴史を辿ってみたい. 2. CCl 4 肝毒性の作用機序に関する仮説 2-1. 脂質過酸化説以前 1950 年代から 1960 年代半ばまでは,細胞生物学の発展とともに CCl 4 の細胞内器官に及ぼす影響が明らかにされてきた. Recknagel (1967) 1) は,ラットに CCl 4 (通常 1.252.5 ml /kg)経口投与後の肝の生化学的・形態学的 変化を経時的に次のようにまとめている(Fig. 2)30 分後には既に肝脂質代謝の異常がみられ,続い て小胞体構造の乱れ,薬物代謝酵素活性の低下,タ ンパク合成の抑制が 1 時間以内に現れる.24 間以内に肝ミトコンドリアのカルシウム含量が 2 に上昇し(40 時間後には正常の 15 倍にも達する),

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Page 1: 四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ Learning … p.2 [100%] 886 Fig. 1. Histopathology of the Liver after Administration of CCl4 in Rats Stained with hematoxylin-eosin(HE),oilredO,ortrichrome

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885

新潟薬科大学薬学部(〒9568603 新潟市東島 2651)現住所:〒9502045 新潟市五十嵐東 236本総説は,平成 17 年度退官にあたり在職中の業績を中

心に記述されたものである.

885YAKUGAKU ZASSHI 126(10) 885―899 (2006) 2006 The Pharmaceutical Society of Japan

―Reviews―

四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ

増 田 康 輔

Learning Toxicology from Carbon Tetrachloride-induced Hepatotoxicity

Yasusuke MASUDA

Faculty of Pharmacy, Niigata University of Pharmacy and Applied Life Sciences,2651 Higashi-jima, Niigata City 9568603, Japan

(Received June 5, 2006)

The mechanism of carbon tetrachloride (CCl4)-induced hepatotoxicity, especially necrosis and fatty liver, has longbeen a challenging subject of many researchers from various ˆelds over the past 50 years. Even though the mechanismsof tissue damages are diŠerent among chemicals and aŠected tissues, CCl4 has played a role as a key substance of tissueinjury. A number of studies have been conducted and various hypotheses have been raised. As a result, several im-portant basic mechanisms of tissue damages have emerged, involving metabolic activation, reactive free radical metabo-lites, lipid peroxidation, covalent binding and disturbance of calcium homeostasis. Recent studies also revealed in‰am-mation and regeneration as important modiˆcation factors in the tissue injury. The author attempted to summarize thehistory of CCl4 research with some emphasis on the experiments done by the author and his colleagues. Their studieswith isolated perfused rat liver suggest that covalent binding of CCl4 metabolites rather than lipid peroxidation has a sig-niˆcant role in the production of centrilobular necrosis following CCl4 administration. Further studies are necessary tounveil detailed mechanisms of hepatocyte necrosis induced by CCl4.

Key words―carbon tetrachloride hepatotoxicity; centrilobular necrosis; fatty liver; lipid peroxidation; covalent bind-ing

1. CCl4 肝障害とは

CCl4 は 19 世紀中頃に麻酔薬として用いられたが,

CHCl3 よりも麻酔作用が弱く,肝障害作用が強い

ため麻酔薬としての使用は途絶えた.その後,駆虫

薬(鉤虫)として一時経口使用されたことがあり,

また工業溶媒中毒などで肝障害毒として再び注目さ

れるようになった.1)

CCl4 は種々の動物で肝臓に激しい障害を起こ

す.ラットにおける急性肝障害では,通常 24 時間

後には中心静脈周辺の肝細胞壊死,白血球の浸潤,

脂肪沈着とともに血漿トランスアミナーゼ活性が著

しく上昇する.肝臓は膨れて変色する.48 時間後

には細胞分裂が盛んになり,72 時間後にはほぼ正

常の組織像に回復する.一方,週 2―3 回,2 ヵ月

ほどの連続投与により,肝線維化を経て肝硬変に至

る(Figs. 1, 2).したがって,CCl4 は急性肝障害,

肝硬変,肝再生のメカニズムの研究や,病態モデル

として新薬開発に広く利用されている.

CCl4 肝障害メカニズムの動物での研究は 1920 年

代から始まり,2)現在も続いている.その報告は膨

大な数に上り,いくつかの仮説が現れて議論されて

きた.

以下,筆者らの実験を織り交ぜながら,CCl4 急

性肝障害メカニズムの研究の歴史を辿ってみたい.

2. CCl4 肝毒性の作用機序に関する仮説

2-1. 脂質過酸化説以前 1950 年代から 1960

年代半ばまでは,細胞生物学の発展とともに CCl4の細胞内器官に及ぼす影響が明らかにされてきた.

Recknagel (1967)1)は,ラットに CCl4(通常 1.25―

2.5 ml/kg)経口投与後の肝の生化学的・形態学的

変化を経時的に次のようにまとめている(Fig. 2).

30 分後には既に肝脂質代謝の異常がみられ,続い

て小胞体構造の乱れ,薬物代謝酵素活性の低下,タ

ンパク合成の抑制が 1 時間以内に現れる.2―4 時

間以内に肝ミトコンドリアのカルシウム含量が 2 倍

に上昇し(40 時間後には正常の 15 倍にも達する),

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886

Fig. 1. Histopathology of the Liver after Administration of CCl4 in RatsStained with hematoxylin-eosin (HE), oil red O, or trichrome.

Fig. 2. Time-course Events in CCl4 Hepatotoxicity

886 Vol. 126 (2006)

同時にナトリウムやカリウムの電解質含量にも変化

が起こり,肝細胞の膨化が起こる.肝グリコーゲン

含量は低下する.リソソームは 5―10 時間で破壊さ

れる.細胞内酵素の血中への逸脱が起こる.ミトコ

ンドリア傷害はほぼ 10 時間後に起こる.組織学的

な肝細胞の壊死は,6 時間後には最初小葉中間部に

限局してみられ,12 時間後には中心静脈周辺に壊

死前変化として現れ,24 時間後には小葉の半分の

肝細胞が壊死に至る.

CCl4 肝毒性の作用機序に関する仮説は,脂肪

肝,壊死,あるいはその両者を同時に説明しようと

するもので,このような病理像を起こす初発部位は

どこか,初発反応は何かが問題になっていた.以下,

Recknagel,1) Drill,2) Yamazoe,3) Slater,4) Magee,5)

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887887No. 10

Murano6)の総説を参考に,1966―1967 年の脂質過

酸化説1,4)の出現以前の仮説についてまとめてみる.

(1) 血行障害説:最も古い仮説である.当初,

肝小葉の中心静脈域の壊死はジヌソイドの血行障害

による虚血が原因と考えられたが,2)のちに他の研

究者らによって循環障害は起こらないことが判明し

た.5)

(2) 中性脂肪蓄積に関する仮説:当初から食餌

性脂肪肝との関連で研究者の興味を惹いた.脂肪酸

がリン脂質の形で肝から輸送されると考えられてい

た時期には,CCl4 はリン脂質の合成を抑制すると

されていた.Christie and Judah7) と Dianzani8) は

ミトコンドリアの脂肪酸の酸化障害が脂肪蓄積の原

因であると唱えた.しかし,ミトコンドリア障害は

脂肪の蓄積に比べて時間的にはるかに遅れることか

ら,この説も受け入れられなかった.その後,

Recknagel ら9)によりリポタンパクの分泌阻害が起

こることが示され,さらに CCl4 投与初期にリボ

ソームの離脱や肝のタンパク合成の抑制が起こるこ

とから,肝のリポタンパク合成抑制が脂肪蓄積の原

因と考えられた.10―12)しかし,タンパク合成阻害

が壊死の主因であるとする根拠はなかった.

(3) 壊死とミトコンドリア障害説:ミトコンド

リアヘのカルシウム蓄積による膨化,電子伝達系阻

害,ATPase 活性の上昇などが細胞死の原因として

考えられたが,7)これらの変化は時間的に遅いこと

や,カルシウムの流入は膜の傷害に伴う 2 次的なも

のであることから,細胞死の初発原因とは考えられ

なくなった.一方,抗ヒスタミン薬プロメタジンは

壊死を抑制するが脂肪蓄積は抑制しないことか

ら,13)壊死は脂肪の蓄積とは異なった機序で起こる

と考えられた.

(4) リソソーム説:リソソーム傷害について

も,細胞の変性像が融解壊死の状態を取らないこ

と14)や時間的に遅いことなどから主な細胞死の原因

とは考えられなかった.

(5) カテコラミン説:Brody ら15,16)は脊髄切断

ラットでは CCl4 肝毒性が抑制されることから,交

感神経系の興奮が肝毒性の原因であるとする CCl4の間接作用説を出した.血管収縮による酸素不足が

肝細胞壊死を,またアドレナリン遊離を介する末梢

組織からの脂肪酸遊離の促進が脂肪蓄積を誘発する

というものである.しかし,このようなラットでは

異常な低体温を伴い,これが壊死抑制の原因である

ことが判明し(Larson and Plaa),17)また血中脂肪

酸濃度と肝臓への脂肪蓄積の時間経過が対応しない

ことなどから,このカテコラミン説は以後消滅し

た.さらに,摘出灌流肝でも中性脂肪の遊離が阻害

されることも,18) CCl4 の間接作用説には不利であ

った.しかし,化学物質のストレス誘発作用を考え

るきっかけを作った.

(6) 小胞体障害:ミクロソーム酵素であるアミ

ノピリン解毒酵素活性の低下,19)グルコース -6- 燐

酸加水分解酵素(G-6-Pase)活性の低下,20)タンパ

ク合成系酵素の活性の低下11)が起こることなどか

ら,小胞体を含む膜系が毒性反応の場として以後重

要視されるようになる(以下 2-2 の項で述べる).

(7) 毒物の作用部位としての細胞膜:CCl4 投与

により細胞内の可溶性タンパクの血中への漏出のみ

ならず,肝組織内カリウム含量の減少やナトリウ

ム,塩素,カルシウム含量の増加が知られており

(Thiers, 1960),21)カルシウム含量の増加が壊死に

関与していると考えられた(Reynolds, 1963).22)こ

れらの報告は CCl4 が細胞膜の透過性を変化させる

ことを示唆しているが,その実態は不明である.

われわれの仕事を紹介する.1960 年代に入ると,

Skou による Na+, K+-ATPase の発見(1957)や

Sutherland らによる cyclic AMP 及び adenylate cy-

clase の発見(1960)を契機に,日本でも超遠心機

が普及し始め膜系の研究がスタートした.薬物の受

容体はまだ実体のないものであったが,和歌山県立

医科大学薬理学教室の村野教授は肝細胞膜を毒物

(CCl4)の作用点として実験的な証明を試みていた.

筆者は当時研究生として同教室に在籍したが,1964

年から研究室を挙げての仕事となった.Neville23)

及び Emmelot ら24)の蔗糖密度勾配超遠心法により

透明チューブの比重 1.17 の位置に肝細胞膜が浮上

してきたときの感激が忘れられない.同研究室では,

CCl4 投与 3―6 時間後に,トランスアミナーゼの上

昇に先駆けて,血漿中の NADH-cytochrome (cyt.)

c reductase 活性が上昇することを見出し,25)そのメ

カニズムを調べることになった.その結果,1) 細

胞膜分画の NADH-cyt. c reductase 活性及び本酵素

の成分である NADH-cyt. b5 reductase 活性も早期

に上昇すること,26) 2) 細胞膜のマーカー酵素 AT-

Pase, 5′-nucleotidase 活性が低下し,26)また電子顕

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888888 Vol. 126 (2006)

微鏡により毛細胆管部における基本粒子の脱落,

tight junction 部分のヘキサゴナルパターンの消失

などの形態変化が観察されること,27) 3) 細胞膜分

画にもミクロソームよりかなり少ないが cyt. b5 及

び P450 が存在し,CCl4 処置によりこれらヘムタン

パク含量が増加し,ミクロソームでは逆に減少する

こと,28) 4) 本酵素の細胞膜及び小胞体への結合の

強さの検討などから,小胞体膜に結合している cyt.

b5 及び NADH-cyt. b5 reductase が CCl4 により遊離

して細胞膜に移動し,さらに細胞膜から血漿中に遊

離しその活性が上昇すると結論した.29,30)これら一

連の研究は,細胞膜が小胞体膜系と極めて密な連携

を保ちながら CCl4 の毒性発現の初期の場となって

いる可能性を示している.多くの別刷り請求が,研

究の励みになった.

2-2. ラジカル化と脂質過酸化説 Slater (1966)4)

及び Recknagel (1967)1)の総説は,CCl4 の肝毒性の

初発原因を,溶媒としての作用ではなく,小胞体膜

系における CCl4 のラジカルへの活性化及びそれに

続く脂質の過酸化に求めたもので,画期的なもので

ある.

CCl4 脂質過酸化説の出現の背景には次のような

ことがある.まず 1) 食品工業の分野では脂肪の腐

敗が不飽和脂肪酸の過酸化的分解に原因し,これが

ラジカル反応であることが知られていたが,1960

年前後から,生体膜構成脂質の過酸化的分解が急に

注目され始めた.小胞体膜脂質は特に過酸化的分解

を受け易くその研究が進んだ.31)また,脂質過酸化

に伴って赤血球の溶血,ミトコンドリアの膨化,小

胞体酵素の失活,リソソームの崩壊などが起こるこ

とが報告された.32)(以後,脂質過酸化が種々の病

態に関与することが次々と報告され,活性酸素種の

生成との関連が注目された.)2) ビタミン E,ジフ

ェニル -p- フェニレンジアミン(DPPD)などの抗

酸化剤33)やプロメタジン13)が CCl4 肝障害を軽減な

いし防御することが知られていた. 3 ) Butler

(1961)34)が,CCl4 は in vivo 及び in vitro で CHCl3に還元されることを示し,炭素―塩素間のホモ開裂

を 示 唆 し た . ま た 4 ) Wirtschafter and Cronyn

(1964)35)が,各種有機溶媒による毒性は一般にそれ

らから生成したフリーラジカルの活性の強さによる

という仮説を出した.

これらの報告に基づき,Recknagel and Ghoshal

(1966)36)は, in vitro の実験系で,CCl4 がミクロ

ソームの脂質過酸化(チオバルビツール酸反応性物

質 TBARS 量で表す)を促進し,同時にミクロソー

ム酵素の活性を低下させること,脳や腎組織では脂

質過酸化を促進しないこと,また in vivo でも CCl4投与 2 時間後に肝ミクロソーム脂質のジエン共役吸

収が 2倍に増加することを示した.これらの実験は,

CCl4 が小胞体膜に溶け込み,生成したトリクロル

メチルラジカル(・CCl3)がイニシエーターとなっ

て,酸素存在下でリン脂質の不飽和脂肪酸の過酸化

を誘発することを示唆しており,CCl4 脂質過酸化

説の重要な根拠となった.

これらの 1967 年以前の総説には「P450」の語は

まだ現れず,P450 が CCl4 の代謝に関与しているこ

とが証明されるのはこれよりのちである.

3. 小胞体で何が起こるか

3-1. 脂質過酸化と小胞体障害 前述の CCl4の脂質過酸化説が発表されて以後,数年間はこれを

裏付ける報告が相次いだ.CCl4 は,in vitro37,38) 及

び in vivo39,40) でミクロソーム脂質の過酸化を促進

すること,また CCl4 投与後,G-6-Pase や薬物代謝

酵素の活性,P450 含量が低下すること40,41)などが

確認された.

われわれは CCl4 によるミクロソーム酵素の失活

が脂質過酸化と実際に共役しているかどうかを確か

めたかった.当時はミクロソーム分画あるいは

9000 g 上清分画に NADPH を添加した in vitro 実

験系が使われていたが,内因性(NADPH 依存性)

脂質過酸化の割合が高く CCl4 の添加効果は際立っ

たものではなかった(Glende ら,1969; Slater ら,

1971).37,38)そのため,CCl4 依存性の脂質過酸化に

よってミクロソーム酵素が失活するかどうかが不明

確であった.

そこでわれわれは,ヘモグロビンや鉄の混入が内

因性の NADPH 依存性脂質過酸化を促進する可能

性があると考え,灌流により肝組織中の血液を十分

除去したあとに,さらに EDTA を含む KCl 溶液を

使ってミクロソームを分画し,これをリン酸緩衝液

中で反応させた.このように,内因性過酸化が低く,

CCl4 による促進が極めて高い条件下で,膜結合酵

素の失活と CCl4 依存性脂質過酸化との関連を再度

調べた.脂質過酸化は,TBARS 値として測定し

た.その結果,1) ホモ開裂し易い CBrCl3 は CCl4

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889889No. 10

よりはるかに強い過酸化促進作用を持ち,CHCl3の作用は極めて弱いこと,また 2) CCl4 による脂

質過酸化の促進とミクロソーム酵素の G-6-Pase 活

性,P450 量,アミノピリン脱メチル化活性の低下

が相関することを確認した.42)これらの結果は

Recknagel らの仮説1)とよく一致するもので,しば

しば引用された.

3-2. トリクロルメチルラジカル(・CCl3)の生

成 CCl4 肝毒性の引き金が 1 電子還元を受けた

フリーラジカル代謝産物であることは想定されてい

たが,その直接的な証明はなかった.

P450 の発見(1964 年)とその薬物代謝酵素とし

ての役割が明らかになると,CCl4 の活性化の系と

してミクロソームの電子伝達系が注目されるように

なった.しかし,CCl4 の 1 電子還元がフラビンタ

ンパクである NADPH-P450 reductase の段階で起

こるのか( Slater ら, 1971),43) P450 の段階か

(Recknagel ら,1973)44)推定の域を出ず,決定的な

データはなかった.これを証明するために,われわ

れはミクロソームの電子伝達系酵素を精製し,これ

をミクロソーム脂質膜に結合させる再構成系を利用

した.CCl4 の活性化は脂質過酸化促進を指標とし

た.大阪大学蛋白質研究所で当時開発された方法を

使って,ミクロソームの P450 その他の電子伝達系

酵素を精製した.その結果,精製した P450 のミク

ロソームへの添加実験と再構成系の実験から,

CCl4 や CBrCl3 による脂質過酸化は NADPH-P450

reductase だけでは起こらず P450 の存在が必要なこ

と,すなわち CCl4 の活性化は P450 レベルで起こ

ることを証明した.45) 1977 年この論文を執筆中に,

Sipes ら46)が,抗 NADPH-P450 reductase 抗体と

P450 誘導剤を利用して P450 による活性化を報告

した.酵素の精製が大変だっただけに残念であった

が,速報への投稿を断念し,彼らの論文を引用する

ことになった.同じことを考えて,違う方法で,同

じ結論を得ることは重要なことであると,満足せざ

るを得なかった.

P450 の分離・精製技術が進むと,3- メチルコラ

ントレン( 3-MC)によって誘導される P448

(3-MC)は,分離過程における変性産物ではなく,

フェノバルビタール(PB)により誘導される P450

(PB)とは異なった分子量・性質を持つアイソザイ

ムであることが分かってきた.この発見は以後,多

数の P450 の分子種の発見につながる.一方,CCl4の肝毒性は PB 前処置ラットでは増強され,3-MC

処置では逆にむしろ抑制されることが知られていた

が,その理由は,P450 (PB)は CCl4 を活性化する

が,P448 (3-MC)は CCl4 を活性化しないためで

あることを,同じく再構成系で証明した(Masuda

ら,1987).47)現在では,CCl4 を活性化する分子種

は CYP2E1 が主で,CYP2B1 や CYP2B2 によって

も活性化されることが分かっている.48,49)

・CCl3 がミクロソームにおける NADPH 酸化過

程で生成することは,スピン捕捉試薬 phenyl-t-

butyl nitrone (PBN)を用いて ESR スペクトルで

初めて証明された(Poyer, 1978).50)以後,P450 モ

ノオキシゲナーゼ再構成系,分離肝細胞,CCl4 投

与ラット,灌流肝でもラジカル生成が確認されてい

る.また,酸素の存在下では,・CCl3 はより反応性

の高いペルオキシラジカル(・OOCCl3)に変わり,

脂質過酸化を促進し易くなることも明らかとなった

(Fig. 3).51,52)

3-3. ミクロソーム酵素失活の原因―脂質過酸化

か,共有結合か 細胞成分の不可逆的な変性のも

う 1 つの重要なメカニズム―反応性の高い代謝産物

と細胞成分との共有結合―に関しても CCl4 は重要

なキー物質となった.53) 1970 年前後から,14CCl4 を

用いた in vivo 及び in vitro の実験によって,・CCl3がミクロソームのタンパクや脂質へ共有結合するこ

とが確認された.54―56)

こうなると,in vivo 及び in vitro 実験で観察され

てきた CCl4 によるミクロソーム酵素の失活が,脂

質過酸化の結果なのか,共有結合の結果なのかが問

題となる.例えば P450 の失活に関しては,Reiner

ら57)や Glende ら58)は脂質過酸化を重要視したが,

Castro ら59)や Yamazoe ら60)はラジカルの直接的な

攻撃によると考えていた.G-6-Pase の失活につい

ても,脂質過酸化説に疑問を持つ研究者もい

た.61,62)

このような状況下で,われわれも P450 と G-6-

Pase の活性低下のメカニズムを再検討した.まず

リノレイン酸ヒドロぺルオキシドを調製し,これを

ミクロソームに加えると脂質過酸化が誘発されると

同時に P450 含量や G-6-Pase 活性が低下した.ま

た,これを精製 P450 に加えるとスペクトルの変化

とともに分解した.すなわち,脂質過酸化により両

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Fig. 3. Metabolism of CCl4 to Reactive Free Radical Metabolites that Covalently Bind to Cellular Macromolecules and Initiate LipidPeroxidation

890 Vol. 126 (2006)

酵素とも失活することを確認した.63)

次に,前述の方法42)を使って NADPH 存在下で

CCl4 のミクロソームの両酵素に対する影響を再度

詳細に調べたところ,1) 好気的条件下(空気下)

では脂質過酸化の促進とともに両酵素とも失活する

が,DPPD などの抗酸化剤は G-6-Pase の活性低下

を防御するにもかかわらず P450 の減少を完全には

防御しないこと,2) 嫌気的条件下(窒素気下)で

は,脂質過酸化が抑制され,G-6-Pase 活性は低下

しないが,P450 は相変わらず減少することが分か

った.3) またこの際,CCl4 の代謝を調べると,窒

素気下では CHCl3 への代謝が非常に進み,添加し

た CCl4 の 70%が消失し,そのうち 1/3 が CHCl3として回収され,残りは恐らくミクロソーム成分に

共有結合しているものと推定された.このような結

果は,P450 及び G-6-Pase はともに脂質過酸化によ

る分解を受けるが,共有結合による失活は P450 の

みに起こる,すなわち P450 自身が・CCl3 の攻撃を

受け分解することを示しており,CCl4 の自殺基質

説を裏付ける証拠の 1 つとなった.64)この実験は新

潟薬科大学に赴任して初めての仕事で,研究室には

ガスクロもなく,藤原クロモーゲン法を工夫して

CCl4 及び CHCl3 の同時比色定量をした思い出深い

ものでもあり,よく引用された.

あとになって,cyt. c を消化分解することによっ

て得られた octa-heme peptide (CHP,三共製薬か

ら供与)を使って,ハロゲン化メタンの自殺活性化

機構を調べた.65) CHP は,ヘム鉄の第 5 配位が

P450 と同様に酸素が配位し易く,非常に自己酸化

され易くペルオキシダーゼ活性が高い.また,CHP

は NADPH-P450 reductase の存在下で NADPH の

酸化を促進し,アニリンの水酸化を促進することが

知られていた.66,67)われわれの実験では,嫌気的条

件下で NADPH により CHP を還元状態に保ち,

ここに CBrCl3 を加えると CHP のスペクトルが変

化しヘムの分解が起こった.スピン捕捉剤 PBN は

CHP のヘムの分解を阻害し,・CCl3 付加体を形成

することが ESR で見事に観察された.CHP の分解

産物にはヘム部分に 10 個の・CCl3 が結合している

ことが推定された.65)ミクロソームの場合でも,

・CCl3 は反応性が強く,生成部位で P450 のヘムに

結合し, P450 を分解すると考えられている

(Manno ら,1988).68) CHP は P450 の代替物質と

して興味深い性質を持っている.

4. 壊死に関与する因子

Recknagel1)や Slater4)の脂質過酸化説が発表され

て以来,十数年で CCl4 活性化とそれに伴う脂質過

酸化,共有結合など基本的なメカニズムが明らかに

なってきたが(Fig. 3)(総説参照:Recknagel

(1983)69,70); Slater (1984)71)),これが CCl4 による

細胞死にどのように関与してくるのかが次の問題で

ある.P450 の分解,G-6-Pase の失活,タンパク合

Page 7: 四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ Learning … p.2 [100%] 886 Fig. 1. Histopathology of the Liver after Administration of CCl4 in Rats Stained with hematoxylin-eosin(HE),oilredO,ortrichrome

hon p.7 [100%]

891891No. 10

成の阻害などだけでは,細胞は即刻死なない.

4-1. カルシウムイオン 肝カルシウム含量が

CCl4 投与初期から増加し始めることが知られてお

り,これが壊死の原因の 1 つと考えられてい

た.21,22)特にカルシウムの蓄積によるミトコンドリ

アの障害が問題となったが,発現時間が遅いため,

壊死の初発原因とは考えられなくなった.その後,

1) CCl4 投与後早期にミクロソームの Ca2+ 取り込

み系72,73)や細胞膜の Ca2+ 排出ポンプ74)が抑制され

ることが報告され,2) 培養肝細胞を用いた実験で

も,CCl4 による細胞死には Ca2+ の存在が必須

で75,76)浮遊肝細胞では細胞内の Ca2+ 濃度が上昇す

ること77,78)が示され,細胞内 Ca2+ 濃度の上昇が細

胞死の初発原因の 1 つとして再び注目されるように

なった.

細胞内 Ca2+ 濃度は,細胞膜・小胞体膜・ミトコ

ンドリアに存在する Ca2+ ポンプ機能を持つタンパ

クによって,10-7M 程度の低濃度に保たれており,

その変動が種々の生理機能を調節している.細胞内

Ca2+ 濃度が異常に上昇すると,1) プロテアーゼ,

ホスホリパーゼ,ヌクレアーゼなどの消化酵素の活

性化,2) 細胞骨格の障害―例えば,アクチンの重

合による細胞膜のブレッブ形成,3) ミトコンドリ

ア変性に伴う ATP の低下,などを起こし細胞は死

に至る.これが,大まかな細胞死のカルシウム原因

説である(総説:Recknagel ら(1989)79); Boobis ら

(1989)80); Orreniusら(1989)81); Nicoteraら(1992)82)).

この説では,Ca2+ が second toxicological messen-

ger として働き,初発反応とは切り離された存在で

あって,CCl4 に限らず他の原因による壊死にも適

用されるものである.

4-2. 酸素 Drill の総説(1952)2)に,低酸素

が動物の CCl4 肝毒性を増強し,高酸素がこれを防

御すると言う論文が紹介されており,CCl4 による

中心静脈域の壊死は循環障害による酸素欠乏が原因

であると言う説の根拠ともなっていた.この説は受

け入れられていないが,この実験結果自体は間違っ

ていない.のちに同様な報告があり,高圧酸素療法

が CCl4 中毒に有効であるとも言われている.83)

ミクロソーム酵素の失活の項で述べたように,酸

素濃度はラジカル生成とそれに続く脂質過酸化と共

有結合の割合に大きな影響を与える.高濃度酸素下

では,P450 による CCl4 のラジカル化は阻害される

が,一方,脂質過酸化は促進される.低酸素下で

は,逆にラジカル化が進み共有結合が優位になると

考えられる(Fig. 3).

実際,低酸素分圧下では,動物,84,85)灌流肝,86)

分離肝細胞87)における CCl4 の毒性が増強される.

しかし,この増強が共有結合によるのか,脂質過酸

化によるのか議論がある.De Groot ら(1988)87)

は,浮遊肝細胞を一定の酸素濃度下に保つ実験系を

開発し,低酸素分圧下(3―35 mmHg)で起こる初

期の脂質過酸化が CCl4 細胞死の引き金になると考

えている.

生体肝では,ジヌソイドに沿って門脈周辺の肝細

胞と中心静脈周辺細胞では血液環境が異なり,機能

的な違いもある(Fig. 5,上).例えば,中心静脈

周辺域では酸素分圧が低くなり,NADPH-P450

reductase 活性が高く P450 含量も多い.88)このよう

なことが,CCl4 の暴露濃度は門脈周辺域の方が高

いにもかかわらず,壊死が中心静脈域に起こること

と関連していると考えられる.それでは脂質過酸化

と共有結合のいずれが壊死の原因として働いている

のか.分離肝細胞でこの点を調べるのは容易なこと

ではない.

4-3. 灌流肝での実験―壊死の原因は脂質過酸化

か,共有結合か そこでわれわれは,小葉構造や

微小循環系が維持されているラット摘出灌流肝を使

用した(Fig. 4).灌流肝では,通常の正方向灌流

(門脈から肝静脈へ)だけでなく逆方向灌流(肝静

脈から門脈へ)も可能である.灌流方向を変えるこ

とにより,門脈周辺細胞と中心静脈周辺細胞が暴露

される酸素濃度を逆転させることができる.Figure

5(右上)に,95%酸素飽和緩衝液及び 20%酸素飽

和緩衝液を正常肝に正方向あるいは逆方向に流した

ときのジヌソイド内の酸素濃度勾配を示した.前者

は明らかに高酸素で,後者の方が生理的条件に近

い.このようにして,小葉内領域を異なった濃度の

酸素に暴露することができる.以下,このような手

法を用いて酸素濃度と脂質過酸化・壊死部位との関

連を調べた.少し詳しく述べてみたい.

4-3-1. 生化学的検索 まず,酸素濃度と Ca2+

の影響をみることから始めた.実験では,CCl4 や

CBrCl3 を門脈側から灌流液中に注入し,静脈側流

出液中の酸素濃度,Na+, K+, Ca2+ 濃度,及び

TBARS 量,乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定す

Page 8: 四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ Learning … p.2 [100%] 886 Fig. 1. Histopathology of the Liver after Administration of CCl4 in Rats Stained with hematoxylin-eosin(HE),oilredO,ortrichrome

hon p.8 [100%]

892

Fig. 4. Perfusion System of Isolated Rat LiversThe liver was perfused with Krebs Henseleit bicarbonate buŠer (KHB) containing 1.3 mM CaCl2, saturated with 95%O25%CO2, 20%O275%N25%CO2 or

95%N25%CO2 gas mixtures at 37°C. The liver was freely suspended in KHB and placed in a hand-made box warmed at 37°C by circulating water with a cover on thetop.

Fig. 5. Schematic Presentation of the Areas of Necrosis and Lipid Peroxidation Following Infusion of CBrCl3 into the Isolated Per-fused Rat Liver, under DiŠerent Conditions

Top left panel: Liver lobules and blood ‰ow. Top right panel: Oxygen concentration gradient in the sinusoids under anterograde and retrograde perfusion.

892 Vol. 126 (2006)

ることにより(Fig. 4),相互の関連を総合的に調

べた.

その結果,1) 95%酸素飽和緩衝液で灌流した場

合には,CCl4 の注入により TBARS 値は速やかに

上昇したが,LDH 活性はほとんど上昇しなかった.

Ca2+ の有無は影響しなかった.CBrCl3 注入により

過酸化を 3 倍以上亢進させても LDH の逸脱は極め

て少なかった.これに対し,2) 20%酸素飽和灌流

液(静脈側排出液の酸素分圧は 24 mmHg と計算さ

れ,ラット肝静脈の酸素分圧と近い値)では,

Page 9: 四塩化炭素からトキシコロジーを学ぶ Learning … p.2 [100%] 886 Fig. 1. Histopathology of the Liver after Administration of CCl4 in Rats Stained with hematoxylin-eosin(HE),oilredO,ortrichrome

hon p.9 [100%]

893893No. 10

CCl4 注入初期に K+ の流出,Na+ の流入に共役し

て Ca2+ のわずかな流入と TBARS 値の上昇が起こ

った(壊死前相).これに続いて,LDH の逸脱が

始まり,Ca2+ の急激な流入(壊死相)と TBARS

値の一層の上昇が起こった.Ca2+ を加えない灌流

液では,TBARS 値は上昇したが,K+ や LDH の

逸脱は著しく抑制された.DPPD やプロメタジン

により TBARS 値の上昇を抑制しても K+ や LDH

の逸脱は抑制されなかった.トリパンブルー注入に

より,中心静脈周辺域の壊死が確認された.89) 3)

95%窒素下でも灌流液にフルクトースを添加すると

酸素欠乏による細胞死を防御できる.このような条

件下では,CCl4 注入により 2 相性の Ca2+ の流入が

一層顕著に現れた.また,壊死前相において肝

P450 含量は著しく減少し,LDH 逸脱前に CCl4 の

ラジカル化が進んでいることを示している.90)

以上の実験結果は,CCl4 による壊死には脂質過

酸化よりも低酸素状態が大きく関与し,Ca2+ が必

須の因子であることを示している.また壊死

(LDH の逸脱)に先行して起こる細胞膜のイオン

透過性の変化が CCl4 の活性化と密接に関係してい

ることを示唆している.細胞膜の障害が限界を超え

ると,Ca2+ の流入が亢進し細胞は非可逆的な壊死

過程に突入すると考えられる.90)

4-3-2. 組織学的検索 灌流実験をしながら,

どうしても知りたいことがあった.脂質過酸化が小

葉内のどこで起こっているのか,壊死部分と一致す

るのかしないのか,それらを組織学的に証明できな

いか.壊死部分はトリパンブルーの生体染色により

調べることができるが,脂質過酸化の特異的な染色

法はない.ちょうどこの時期,Taper ら(1988)91)

は,細胞内のアルデヒド類をフクシンとシッフ塩基

を形成させることにより染め出すフクシン染色法を

使って,CCl4 投与ラット肝でシッフ陽性域が広が

ることを報告した.われわれはまず,この方法を生

化学的・組織学的に評価することから始めた.92)

フクシン染色法の検討:1) 脂質過酸化促進物質

として tert-butyl hydroperoxide (BHP)を灌流肝に

注入すると,直ちに流出液中の TBARS 値が上昇し

始め,このとき肝臓を装置から外しフクシン染色す

ると,門脈周辺が選択的に染色された.時間の経過

とともに流出液中の LDH 活性が上昇し,門脈周辺

がトリパンブルーで染色されフクシン染色域と重な

っていた.この結果は,脂溶性の BHP が門脈周辺

の肝細胞に抽出され,その部分に脂質過酸化が誘発

され,続いて壊死が起こると解釈される.2) 水溶

性の脂質過酸化誘発剤 ADP-Fe3+ を注入すると,

TBARS はまず肝組織中で上昇し,遅れて流出液中

に漏出した.しかし,LDH は逸脱しなかった.灌

流方向のいかんを問わず中心静脈周辺がフクシン染

色 陽 性 を 示 し た . ADP-Fe3+ は NADPH-P450

reductase による鉄イオンの還元により,ヒドロキ

シラジカルを産生し脂質過酸化を誘発する.この酵

素は小葉内では中心静脈周辺細胞に活性が高く,染

色部位と一致する.以上の結果から,フクシン染色

を脂質過酸化の組織化学的検索に利用できると考え

た.

CBrCl3 注入実験:そこで,CBrCl3 を P450 (PB)

誘導肝に注入し,脂質過酸化域をフクシン染色で,

壊死域をトリパンブルーで調べた.93)その結果を

Fig. 5 に模式的に示す.1) 95%酸素飽和灌流液で

は,正方向灌流の場合は流出液中の TBARS 値の著

しい上昇とともに中心静脈周辺域にフクシン陽性反

応がみられた.逆灌流では中心静脈周辺域はフクシ

ン反応陰性で,小葉中間部が陽性であった.このこ

とは,灌流方向の上流部では(例え代謝活性の高い

中心静脈周辺域であっても),酸素濃度が高すぎて

CBrCl3 の活性化が起こらず,一方下流部では酸素

濃度の低下に伴って・CCl3 への活性化が始まり,

酸素濃度がいまだ高いために・OOCCl3 を介して脂

質過酸化が促進されたためと考えられる.また,い

ずれの灌流方向でもトリパンブルーで染色されず,

脂質過酸化だけでは壊死は起こり難いことを示唆し

ている.2) 20%酸素下の場合には,正方向灌流で

は中心静脈周辺部がフクシン陽性となり時間経過と

ともにトリパンブルー陽性となった.この領域では

酸素濃度がかなり低下するため・CCl3 生成の増加

により,脂質過酸化と壊死の両者が進行すると考え

られる.一方,逆灌流では,フクシン陽性反応は中

心静脈周辺に起こるのに対して,トリパンブルー染

色陽性域は小葉中心部から門脈周辺域にかけて現れ

た.すなわち,脂質過酸化領域と壊死領域の明らか

な乖離がみられた.これは,20%酸素では中心静脈

周辺における・CCl3 生成が起こり,・OOCCl3 の生

成を介して脂質過酸化が進み,一方中間域から門脈

域にかけては酸素濃度がさらに低下するため,

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hon p.10 [100%]

894894 Vol. 126 (2006)

・CCl3 生成の急増とその共有結合が促進するため

と考えられる.

以上の組織学的検討からも,われわれは壊死の原

因には脂質過酸化よりはむしろ共有結合の役割が大

きいという立場を採っている.脂質過酸化の障害へ

の関与は現在では当初考えられていたほどでもない

が,脂質過酸化の影響を無視する訳にはいかない.

灌流肝を用いた実験は生体肝への橋渡しとしても

極めて重要である.また,ミクロソームや肝細胞を

使った実験に比べるとはるかに複雑な系であり,違

った観点からの実験ができる.1 日に 1―2 例の

データしか得られず根気の要る実験であるが,実験

をよくみて考える時間ができる.これらの報告は,

今も総説や専門書に引用されている.この後,われ

われは灌流肝を肝内微小循環系の研究に使うことに

なった.94)

5. 細胞膜障害と細胞死

これまでの要約をすると,CCl4 は肝 P450 によっ

て代謝的活性化を受けて反応性フリーラジカル

・CCl3 に変わり,脂質過酸化を誘発しまた細胞内

成分と共有結合する.活性化反応は,P450 を含む

薬物代謝系酵素の活性が高く,酸素濃度が低いゾー

ン 3 の領域,すなわち小葉の中心静脈周辺部で起こ

る.壊死にはラジカル化による共有結合が大きく関

与している可能性がある.初期障害反応として,小

胞体酵素の失活が現れる.脂質過酸化に原因する

G-6-Pase 活性の低下,脂質過酸化・共有結合によ

る P450 の分解がその典型であるが,これが直接壊

死の原因とは考えられない.さらに大きなダメージ

は細胞内のイオン環境を変える細胞膜のポンプ機能

の障害であろう.細胞内 Na+ 濃度の上昇,K+ 濃

度の低下に伴い細胞は膨化する.また細胞内 Ca2+

濃度の異常な上昇が壊死に関与していることは既に

述べた.

細胞膜の生化学的・形態学的変化が CCl4 投与後

早期に現れることからも,細胞膜の初期変化の探求

は極めて興味深い.細胞膜は小胞体に近縁の膜系で

あり,われわれの実験でも正常の肝細胞膜分画にも

量的には少ないが P450 系酵素が含まれており,28)

細胞膜における活性化反応も無視できないと考えら

れる.膜酵素の活性低下や構造の変化も報告し

た.26,27)この細胞膜に初期障害を誘発する原因は脂

質過酸化か共有結合かあるいは他の原因によるの

か,イオン透過性の変化の分子レベルでの実体はど

のようなものか.これが分かれば,細胞死のメカニ

ズムの解明はまた一歩進むと考えられる.

細胞死へのステップは複雑で,いくつかの因子が

相互に関連しながら同時にまた段階的に進行するの

であろう(Fig. 6).この過程に脂質過酸化あるい

は共有結合がどのように関与するのか,まだ具体的

には分かっていない.49)

6. In vivo における炎症反応と再生

In vivo では,肝細胞が障害を受けるとジヌソイ

ドの定着型マクロファージであるクッパー細胞が活

性化され,TNFa や IL-1 などのサイトカインを産

生する.これらは内皮細胞を刺激し血中の単球や好

中球を局所に遊走させ炎症反応を拡大させる.マク

ロファージからは活性酸素種・活性窒素種などの,

また好中球からは活性酸素やリソソーム酵素などの

細胞障害性物質が放出される.例えば,ラットの

GdCl3 処置によってクッパー細胞の活性を低下させ

ると CCl4 肝障害が軽減される.また,TNFa ある

いはその受容体をノックアウトしたマウスでは

CCl4 肝障害が軽減されると言われている.反面,

TNFa は肝再生も促進させることが知られており,

メカニズムは単純ではない.病理像では,壊死細胞

だけでなくアポトーシスを起こしている細胞が門脈

域側にみつかっており,過剰な炎症反応を避けて,

再生を促しているかのようである.49,95)

一方,細胞死と細胞分裂は表裏一体をなすもの

で,組織の最終的な生死に係わる重要な問題であ

る.肝再生能の違いが CCl4 肝毒性の程度の差,例

えば動物の種差に影響を与えると考えている研究者

がいる.Calabrese and Mehendale96) は,肝細胞の

再生は,初期相(G2 期の細胞が分裂に入る相)と

第 2 相(初期相が引き金になり G0/G1 期細胞が分

裂に入る相)からなり,G2 期細胞の数や第 2 相の

活性化が再生能を左右すると考えている.

7. 臓器障害の防御

CCl4 肝毒性の発現に対しては,ビタミン E が抗

酸化剤,ラジカル捕捉剤として働いており,プロメ

タジンがビタミン E と類似した作用を有してい

る.また,SKF525A やピペロニルブトキシドのよ

うな薬物代謝酵素阻害剤がメカニズムの研究に用い

られてきた.

種々のジチオカルバメート誘導体が経口投与でラ

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hon p.11 [100%]

895

Fig. 6. Some Steps Leading to Necrosis and Fatty Liver in Relation to Cellular Organelles in CCl4 HepatotoxicityThe critical events in endoplasmic reticulum and plasma membranes evoked by covalent binding and/or lipid peroxidation may induce cellular ionic changes,

which further damages cellular organelles that lead to ˆnal damages. In‰ammation and hepatocyte regeneration modify the degree of necrosis. The details of thechain events are complex and still unclear.

895No. 10

ットの CCl4 肝障害を防御することが報告され

(Sakaguchi ら,1966),97)その原因は胃の酸性下で

生成する二硫化炭素が CCl4 の活性化を阻害するの

ではないかと推定されていた.1982―1988 年にか

けて,われわれはジエチルジチオカルバメート

(DDTC)を使って一連の研究を行った.その結果,

この化合物は CCl4 肝障害だけでなく,アセトアミ

ノフェン,チオアセタミド,ブロモベンゼン,フロ

セミド,ジメチルニトロサミンなど異なったタイプ

の肝障害性物質に対して防御作用を示すことが分か

った.98)さらに,肝臓に留まらず,腎障害(クロロ

ホルム, 1,1- ジクロロエチレン,フランによ

る),99,100)肺障害(ブチル化ヒドロキシトルエン

2,6-di-tert-butyl-p-cresol),101)メトヘモグロビン形

成(フェナセチン)102)も防御した.

このように種々の薬物・毒物が臓器障害を幅広く

抑制することの原因は,DDTC 及び二硫化炭素の

経口投与がこれらの物質の P450 による代謝的活性

化を阻害し97―104)あるいはタンパクへの共有結合を

抑制するため101)であることを証明した.さらに,

灌流肝における薬物代謝(p- ニトロアニソールの

脱メチル化)の阻害が二硫化炭素の方が DDTC よ

りもはるかに強力であることから,DDTC の経口

投与の作用は二硫化炭素を介している可能性が極め

て強い.105)

このような結果から,ジチオカルバメート誘導体

は,SKF525A などと同様に,薬物・毒物の薬理作

用や毒性に薬物代謝が関与しているか否かを調べる

道具として使うことができる.肝障害その他の臓器

障害の解毒薬としての使用は,薬効・副作用の増強

や他臓器への毒性の増強なども考えられるので複雑

であるが,標的臓器の障害が致命的である場合に

は,薬物・毒物摂取後早い時期であれば,効果を現

わす可能性がある.DDTC は金属とのキレート形

成が知られておりニッケル急性中毒の治療に使われ

るが,抗酸化作用なども有しており,さらに解毒剤

としての研究が期待される.

8. おわりに

化学物質による組織障害のメカニズムは,化合物

によって,また障害臓器によって異なっている.

CCl4 は毒性発現メカニズム探求のまさにモデル物

質としての働きをしてきた.CCl4 肝障害の研究を

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hon p.12 [100%]

896896 Vol. 126 (2006)

通じて,現在知られている化学物質の基本的な毒性

発現メカニズムのいくつかが明らかになったと言っ

ても過言ではないだろう.P450 による代謝的活性

化,反応性ラジカルの生成,脂質過酸化,細胞巨大

分子との共有結合,膜のイオン透過性の変化と

Ca2+ の蓄積,炎症反応や再生能の関与などであ

る.同時に,これらの障害に対する細胞の防御機構

も明らかになってきた.

50 年以上にも及ぶ CCl4 肝毒性の研究の歴史を振

り返ると,多くの研究者によって類似した,また全

く異なった観点から,実験が繰り返されている.1

つの仮説が証明されるまでどれだけの時間を要する

か.その長期間の積み重ねには歴史の厚みを感じ

る.われわれの研究は,通過点のほんの一部に過ぎ

ず,総説としては我田引水になっている点はお許し

願いたい.

CCl4 による肝細胞壊死のメカニズムのシナリオ

はまだ不完全である.近年,分子生物学的手法―ゲ

ノミクス,プロテオミクス,メタボノミクス―がト

キシコロジーへ応用されるようになり新しい時代に

入った.106―108)タンパク・核酸の付加体の分析も進

み,医薬品の毒性試験への応用などの実益面もさる

ことながら,壊死のメカニズムなどの解明にも大き

な力を発揮するかも知れない.とにかく息の長い研

究が今後も必要である.

一方,トキシコロジーの果たしてきた重要な成果

を再認識する必要があるのではないだろうか.生物

は進化の過程で,種々の化学物質に順応すべく,障

害に対する防御の機構を,あるいは死に対する生の

機構を備えてきた.109)例えば,P450 分子種は生物

の進化の過程を物語ると言われている.しかし,こ

の分子種の進化は膨大な数の人工の化学物質の解毒

に万能ではなかった.代謝的活性化がそれである.

生物の進化の 1 時点において人類はあまりにも多く

の化学物質を作り出してしまったことにはならない

だろうか.タンパク質の化学物質付加体は細胞の機

能障害や新抗原生成の原因に,また DNA 付加体は

変異を誘発し発がん・生殖発生毒性のみならず隠れ

た遺伝病の原因になる可能性がある.高次機能を持

つ大脳の神経細胞は担保されているのであろうか.

テクノロジーの進歩がこれまでのトキシコロジーの

成果をどれだけ生かせるかが課題であると思う.

最後に,CCl4 肝毒性のような地味な基礎研究を

進めてきた原動力は何だろうか.Recknagel1) が

Claude Bernard の言を引用して述べているよう

に,研究者は多くの毒を生命の仕組みを追求する道

具として使ってきた.矢毒の研究により神経筋接合

部のメカニズムが,また一酸化炭素の研究から赤血

球の酸素結合能が明らかになるなど,その例は枚挙

に暇がない.すなわち,毒は生命科学の研究になく

てはならないものだった.CCl4 は,まさに細胞の

障害と防御機構,細胞死と生を研究する 1 つのキー

物質として多くの研究者を魅了してきた.この魅力

こそが目先の実学にとらわれぬ持続を生んできたの

ではないか.

筆者の研究生活を振り返ってみて,トキシコロ

ジーという分野で細胞死を勉強しながら過せたこと

は非常に幸せであった.サイエンスは重複と積み重

ねの上になり立っている.自分がやってみたいと思

っていることは世界のどこかで誰かが同じようなこ

と(同じではない)を考え,やっている.これに怯

まない.人が考えること,することは,それぞれの

個人により,また時代により変わり,限界もある.

例え既に使われている実験系でも,自分のものにす

るには時間が掛かる.これを我慢することである.

新しい方法が新しい知見を生み出す.実験をしてい

ると思わぬものがみえてくる,とに角実験を楽しも

う,という気持ちで続けてこれたと思う.

謝辞 退職にあたり,この総説を寄稿する機会

を与えて頂いた本誌編集部に感謝致します.立派な

業績をあげられている先生方が多くおられる中,書

き始めるのに勇気が要りました.

筆者の 40 年余の教育・研究生活を通じて,多く

の方々にご指導を頂いて参りました.恩師和歌山県

立医科大学元学長・名誉教授村野 匡先生には教

育・研究の基盤を作って頂き,かけがえのないご指

導・ご鞭撻を頂きました.また,同学在職中は元学

長・名誉教授山本博之先生,元学長・名誉教授松村

勇一先生はじめ薬理学教室でともに研究した皆様に

貴重なご指導を頂きました.東京大学薬学部名誉教

授福田英臣先生には,長年に亘り貴重なご指導を頂

きました.ニューヨーク州立大学(DMC)の 2 年

間では李 光秀先生にご指導頂きました.大日本製

薬中央研究所では清水當尚博士,坂口 孝博士に,

大阪大学薬学部生化学研究室配属時代にも多くの先

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生方,先輩にご指導頂きました.心から感謝申し上

げます.最後に,新潟薬科大学毒物学研究室で研究

をともにしたスタッフ,大学院生,学部学生諸君に

感謝の意を表します.なお,本研究の一部は,科学

技術庁特別研究及び文部省科学研究特別研究として

行いました.

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